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アポトーシスの検出は抗がん剤の開発や発生・再生分野など幅広い領域で行われています。放射線や薬 剤によるDNA損傷、増殖因子の枯渇などの様々な要因によりアポトーシスは誘導されます。アポトーシス が誘導されると、初期ステージでは細胞膜の変化、中~後期ステージでは細胞質や核の凝縮、タンパク質 の切断、DNAヌクレオソーム間の切断、最終ステージではアポトーシス小体への断片化、食細胞による除 去が起こります。フローサイトメーターを用いて、細胞膜の変化、ミトコンドリアの変化、TUNEL法による DNA断片化、DNA染色によるsubG1期を測定することにより、アポトーシスを検出することができます。 ここでは図1に示すようなアポトーシス初期で起こる細胞膜の変化をフローサイトメトリーにより検出する 例をご紹介します。また、後期にみられる核の断片化を、HCAといわれるイメージングサイトメーターによ り測定・画像定量を行う例もあわせてご紹介します。 ① 生細胞(正常細胞) 細胞膜内層にPSが局在 ② アポトーシス初期の細胞 細胞表面にPSが露出 ③ アポトーシス後期の細胞 細胞膜の構造が壊れる 図1. Annexin VとPIによりアポトーシスを検出する原理 生細胞では膜の内側にホスファチジルセリン(PS)が局在するが、アポトーシスが起こるとPSは細胞表面に露出する。そのため、カルシ ウムイオン存在下でPSに結合するAnnexin Vにより初期のアポトーシス細胞が検出される。アポトーシスが後期まで進行し細胞膜の 構造が壊れると、PIの細胞内流入が起こり、核が染色される。 試薬・装置 ・ ApoFlowEx ® FITC Kit (EXBIO: cat# ED7044) ・ スタウロスポリン(和光純薬工業: cat# 197-10251) ・ 4%パラホルムアルデヒド・りん酸緩衝液(和光純薬工業: cat# 163-20145) ・ -Cellstain- DAPI solution(同仁化学研究所: cat# D523) ・ フローサイトメーター(対応可能機種):CyFlow Cube 6/Cube 8, Space ・ 共焦点定量イメージサイトメーター:CQ1(横河電機) サンプル準備・測定 Jurkat細胞(ヒト急性T細胞性白血病細胞由来細胞株) を10% FBS含有RPMI1640に播種し、スタウロスポリン (プロテインキナーゼC阻害剤)を最終濃度1 μMとなる ように添 加し、2,6,18時 間 培 養した。その後アポトー シスの検出を行なった。 CyFlow Cube 8 CQ1 アポトーシスの検出 アネキシンVによる細胞膜変化の検出とDNA断片化の解析 アプリケーションレポート Vol.12 Application Note vol. 12 The detection of apoptosis

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アポトーシスの検出は抗がん剤の開発や発生・再生分野など幅広い領域で行われています。放射線や薬剤によるDNA損傷、増殖因子の枯渇などの様々な要因によりアポトーシスは誘導されます。アポトーシスが誘導されると、初期ステージでは細胞膜の変化、中~後期ステージでは細胞質や核の凝縮、タンパク質の切断、DNAヌクレオソーム間の切断、最終ステージではアポトーシス小体への断片化、食細胞による除去が起こります。フローサイトメーターを用いて、細胞膜の変化、ミトコンドリアの変化、TUNEL法によるDNA断片化、DNA染色によるsubG1期を測定することにより、アポトーシスを検出することができます。ここでは図1に示すようなアポトーシス初期で起こる細胞膜の変化をフローサイトメトリーにより検出する例をご紹介します。また、後期にみられる核の断片化を、HCAといわれるイメージングサイトメーターにより測定・画像定量を行う例もあわせてご紹介します。

① 生細胞(正常細胞)  細胞膜内層にPSが局在

② アポトーシス初期の細胞  細胞表面にPSが露出

③ アポトーシス後期の細胞  細胞膜の構造が壊れる

図1. Annexin VとPIによりアポトーシスを検出する原理生細胞では膜の内側にホスファチジルセリン(PS)が局在するが、アポトーシスが起こるとPSは細胞表面に露出する。そのため、カルシウムイオン存在下でPSに結合するAnnexin Vにより初期のアポトーシス細胞が検出される。アポトーシスが後期まで進行し細胞膜の構造が壊れると、PIの細胞内流入が起こり、核が染色される。

試薬・装置・ ApoFlowEx® FITC Kit(EXBIO: cat# ED7044)・ スタウロスポリン(和光純薬工業: cat# 197-10251)・ 4%パラホルムアルデヒド・りん酸緩衝液(和光純薬工業: cat# 163-20145)・ -Cellstain- DAPI solution(同仁化学研究所: cat# D523)・ フローサイトメーター(対応可能機種):CyFlow Cube 6/Cube 8, Space・ 共焦点定量イメージサイトメーター:CQ1(横河電機)

サンプル準備・測定Jurkat細胞(ヒト急性T細胞性白血病細胞由来細胞株)を10% FBS含有RPMI1640に播種し、スタウロスポリン(プロテインキナーゼC阻害剤)を最終濃度1 μMとなるように添加し、2,6,18時間培養した。その後アポトーシスの検出を行なった。

CyFlow Cube 8 CQ1

アポトーシスの検出アネキシンVによる細胞膜変化の検出とDNA断片化の解析

アプリケーションレポート Vol.12

Application Note vol. 12 The detection of apoptosis

発行 :

http://www.sysmex-fcm.jp

本誌の内容を無断で複写・複製・転写すると、著作権・出版権の侵害となることがありますのでご注意ください。 G1611002Ⅰ

フローサイトメーターによる検出各時間刺激後、PBS(-)にて細胞の洗浄を行い、Annexin V Binding Buffer に再懸濁した。Annexin V-FITCを添加し、暗所、室温において15分間のインキュベーションを行った。Propidium Iodide(PI)を添加し、CyFlow Cube 8により測定した。刺激時間の経過とともに、Annexin Vが結合する細胞の割合、さらにPIに染色される細胞の割合が増加することを確認できた(図2)。

図3. イメージサイトメーターCQ1による核断片化の検出Jurkat細胞をスタウロスポリン存在下または非存在下で6時間培養した後、細胞を4%パラホルムアルデヒドにより固定しDAPIによる核染色を行った。イメージサイトメーターCQ1の画像解析ソフトウェアにより、核およびその断片を定量解析した。

イメージングサイトメーターによる検出各条件下で培養を行った後、4%パラホルムアルデヒドによる固定を行った。固定した細胞にDAPI solutionを添加して核染色を行い、イメージングサイトメーターにて測定した。スタウロスポリン刺激により核の断片化が進行していることが確認できた(図3)。

FSC

SSC

PI PI PI PI

Annexin V

刺激なし 2 hr 6 hr 18 hr

Annexin V Annexin V Annexin V

細胞数(個)

1細胞あたりの核断片数(個)

1000

800

600

400

200

01 2 3 4 5 6 7 8 9

1細胞あたりの核断片数(個)

細胞数(個)

200

150

100

50

01 2 3 4 5 6 7 8 9

図2. フローサイトメーターによるアポトーシス細胞の検出Jurkat細胞をスタウロスポリンで刺激し、2、6、18時間培養した。回収した培養細胞をAnnexin V-FITCおよびPIで染色し、フローサイトメーターで解析した。a) 刺激なしにおけるFSC-SSCスキャッタグラムと、各時間における  Annexin V -PIスキャッタグラムb) Annexin V+PI-の分画(アポトーシス初期)、Annexin V+PI+の  分画(アポトーシス後期、ネクローシス)の割合

100

80

60

40

20

0- 2 hr 6 hr 18 hr

(%)

Annexin V+/ PI+

Annexin V+/ PI -

a)

b)

スタウロスポリン

核を認識

核断片を認識

定量化

核を認識

核断片を認識

定量化

スタウロスポリン1μM刺激

刺激なし

アポトーシスの検出 アネキシンVによる細胞膜変化の検出とDNA断片化の解析