災害事例 リスクアセスメント ·...
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建設労務安全 25・330
災害事例とリスクアセスメント
崩壊・倒壊災害(その2)
労働安全コンサルタント
浮田 義明
今月は、鉄骨建方作業中の崩壊・倒壊災害の事例をもとに、作業に潜んで
いるリスクを考えてみたいと思います。
鉄骨建方に関連する災害は高所作業の連続となるため、墜落災害防止に重
点を置いて管理が進められますが、その一方で、作業中における鉄骨の崩壊・
倒壊による事故・災害も数多く報告されています。
鉄骨建方作業中の崩壊・倒壊災害発生の背景には、無理な作業工程、不適
切な作業方法、実態に合わない作業手順、余裕のない地組ヤード(荷捌きス
ペース)等の間接的な要因に加え、クレーンの操作や玉掛け作業の誤り、合
図者・指揮者の不在等の直接的な要因が潜んでいます。
さまざまな要因が作用して発生する鉄骨建方作業時の崩壊・倒壊災害を防
止するためには、現場の条件を十分に配慮した綿密な作業計画の立案と、詳
細な事前打合せの実施がポイントとなります。
鉄骨建方の作業計画を作成する際には、今回取り上げた災害事例を参考
に、作業の背景に潜んでいる危険な要因を洗い出し、災害防止対策の立案、
あるいは現場の作業に対する指導に活かして頂きたいと思います。
本コーナーでは、不幸にして最悪の事態となってしまった事例を取り上げ、同様の作業を行った場合に、①まだほかにも考えられる危険性(ハザード)があるか、②どのような危害を受ける可能性があるか――などについて検討してみる。
Ⅰ.同種災害の防止策、Ⅱ.その他の危険性に基づくリスクアセスメント(例)に分けて、多様なリスクアセスメントの情報が収集できるように構成した。災害発生の防止を目的に実施しているリスクアセスメントの見直し、改善、あるいは安全衛生教育の資料として役立てていただきたい。� (編集部)
第12回
31 建設労務安全 25・3
被災者の状況 災害発生状況
同種の作業で予測されるその他の危険性
職種:とび工
年齢:53歳
経験年数:30年
請負次数:5次
仮置きした鉄骨をタワークレーンでつり上げようとし
たところ、玉掛ワイヤーが梁に溶接された鉄板の角に
引っ掛かって倒壊し、片付け作業を行っていた作業員
が下敷きになった。
① 玉掛けワイヤーが破断し、鉄骨が落下する
② 玉掛け者が移動中、鉄骨が倒れて挟まれる
③ 仮置きヤードを移動中、りん木(枕木)につまずき、転倒する
④ 玉掛け作業中、鉄骨がぶれて激突する
崩壊・倒壊事例 ① 鉄骨梁を玉掛け中、梁が倒壊
建設労務安全 25・332
被災者の状況 災害発生状況
同種の作業で予測されるその他の危険性
職種:とび工
年齢:19歳
経験年数:3年
請負次数:3次
鉄骨建方作業を行っていた作業員が、大梁を取り付け
るために控えワイヤーを締めたところ、後方のワイ
ヤーが外されていたため、柱が倒壊し、作業員が挟ま
れた。
① 梁を取り付ける作業中、バランスを崩して墜落する
② 柱を昇降中、足を踏み外して墜落する
③ 玉掛け作業中、荷がぶれて激突する
崩壊・倒壊事例 ② 梁取付け作業中、鉄骨柱が倒壊
33 建設労務安全 25・3
被災者の状況 災害発生状況
同種の作業で予測されるその他の危険性
職種:とび工
年齢:19歳
経験年数:2年
請負次数:4次
SRC造の鉄骨建方中、最上階の鉄骨が傾き始め、下
層の鉄骨がゆっくりと弓なりになった後、道路に覆い
被さるように倒壊し、作業員が下敷きとなった。
① 梁取付け作業中に墜落する
② 柱・梁上を移動中に墜落する
③ 部材、工具を落下させ、作業員に激突する
崩壊・倒壊事例 ③ 鉄骨建方中、上部から鉄骨が崩壊
建設労務安全 25・334
■鉄骨の崩壊・倒壊災害防止の要点
労働安全衛生規則第517条の2には次のように規定されています。
1 5m以上の鉄骨の組立て、解体の作業を行うときは、あらかじめ、作業計画を定
め、かつ、当該作業計画により作業を行わなければならない。
2 前項の作業計画は、次の事項が示されているものでなければならない。
一 作業の方法及び順序
二 部材の落下又は部材により構成されているものの倒壊を防止するための方法
三 作業に従事する労働者の墜落による危険を防止するための設備の設置の方法
3 事業者は、第1項の作業計画を定めたときは、前項各号の事項について関係労働
者に周知させなければならない。
【事例①】鉄骨組立て作業を行う際は、工場から運び込まれた鉄骨部材を一旦ヤードに
仮置きしますが、事前に組立ての手順に応じた部材の配置を十分検討する必要があ
ります。必要な部材を順序よく玉掛けできるように仮置き部材をレイアウトし、高さ
のある梁等は、転倒を防止するための支柱を設置します。また、イラストのように
つり上げる時にワイヤーの一端が突起に引っ掛かることがよくあるため、合図者を
必ず配置して、周辺の人払いの徹底を図ることも肝要です。
【事例②】鉄骨建方作業で危険度が最も高まるのが柱の設置作業です。鉄骨柱は、傾き
始めると根元のアンカーで倒壊を防ぐことはできません。柱の四方に固定用ロープ
を張り、確実に自立を確保しながら梁の設置作業を進める必要がありますが、梁の
固定作業中にワイヤーを緩めすぎることによって柱が倒壊に至る事故・災害が数多
く報告されています。
【事例③】下層階から順に本締めせず、一気に最上階まで建方を進めた結果倒壊したも
のと思われます。SRC造の鉄骨は部材の断面が小さいため、補強を確実に行いな
がら作業を進めないと組立て中に倒壊するおそれがあります。綿密な建方計画に基
づき、作業主任者の指揮の下、ワイヤーによる筋かいを設置する等の仮補強を行い
ながら慎重に作業を進める必要があります。
■リスクアセスメントの実施例
今回の災害事例で紹介した現場には、その他の災害をもたらす可能性のある危険源は数
多く潜んでいます。考えられる主な危険性がもたらす災害の発生の可能性、災害の重篤度
の見積りを例示してみましたので、参考にしてください。
Ⅰ.同種災害の防止策
Ⅱ.その他の危険性に基づくリスクアセスメント
*可能性、重篤度の点数は、リスクアセスメントを担当する人によって異なりますので、あくまでも参考見積りです。
35 建設労務安全 25・3
危険性又は有害性 可能性 重篤度 評価 優先度 リスクの低減措置
事例①鉄骨梁を玉掛け中、梁が倒壊
玉掛けワイヤーが破断し、鉄骨が落下する
4 10 14 ⑤つり荷直下への立入禁止措置を行う。
玉掛け者が移動中、鉄骨が倒れて挟まれる
4 6 10 ④鉄骨の転倒を防止するため、転移防止用の方杖を設置する。
仮置きヤードを移動中、りん木(枕木)につまずき、転倒する
2 3 5 ②りん木(枕木)は寸法を揃え、作業用通路を確保する。
つり上げ作業中、鉄骨がぶれて激突する
8 3 11 ④つり荷の地切りを行い、介しゃくロープを取り付けて荷ぶれを防ぐ。
事例②梁取付け作業中、鉄骨柱が倒壊
梁を取り付ける作業中、バランスを崩して墜落する
8 10 18 ⑤柱に安全帯取付設備を設置する。
柱を昇降中、足を踏み外して落する
8 10 18 ⑤柱に昇降用タラップ、安全ブロックを取り付ける。
玉掛け作業中、荷がぶれて激突する
8 3 11 ④鉄骨に介しゃくロープを取り付け、合図者を配置する。
事例③鉄骨建方中、上部から鉄骨が崩壊
梁取付け作業中に墜落する 8 10 18 ⑤柱、梁の鉄骨に、安全帯取付設備及び親綱を先行設置する。
柱・梁上を移動中に墜落する
8 10 18 ⑤柱には昇降用タラップ、梁には親綱を先行設置する。
部材、工具を落下させ、作業員に激突する
8 3 11 ④ボルト等はつり袋に入れた上で固定し、工具類は落下防止紐を取り付ける。
*可能性の判断基準の例災害発生の可能性の度合 評価基準
可能性が極めて高い 8
可能性が高い 4
可能性がある 2
ほとんどない 1
*重篤度の判断基準の例災害の重篤度 評価基準
死亡 10
重症(休業 1 ヵ月以上) 6
休業災害(4日以上) 3
軽傷(休業3〜0日) 1
*優先度の決定の例判定基準
見積り 18 〜 14 13 〜 10 9 〜 8 7 〜 5 4 〜 2
優先度 ⑤ ④ ③ ② ①