第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9...

44
第2章 過疎地の課題に対する解決策

Upload: others

Post on 06-Oct-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章

過疎地の課題に対する解決策

Page 2: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 21 -

第2章 過疎地の課題に対する解決策

ここでは、第1章-2で挙げられた過疎地における移送サービスを構築する上での課題に対する解決

策を、先進事例などを踏まえて検討する。

先進事例の詳細は参考資料1を参照。

1 課題解決策一覧

課題分類毎の解決策の一覧を以下に示す。

1)地域特性に関する課題

課題1 交通空白地帯の散在

解決策 参考事例

・バスなど、一度に多人数を移送するのではな

く、乗合タクシーなど定員の少ない移送サー

ビスを行う。

・運行方式の検討(デマンド型の導入など)。

・「コミュニティカー」の導入。

・いすみ市…デマンド型乗合タクシー「夷隅乗

合タクシー」の運行

・江南市…定時定路線型乗合タクシー「いこま

い CAR」の運行

・米原市…デマンド型乗合タクシー「らくらくタク

シーまいちゃん号」の運行

※解決策案「コミュニティカー」

課題2 交通空白地帯の散在

解決策 参考事例 ・自宅から目的地までのドアツードアの移送サ

ービスを行う。路線型の場合も、停留所をでき

るだけ細かく設置し、ドアツードアに近づけ

る。

・車両の小型化(ジャンボタクシー車両など)。

・東秩父村…山間部でのドアツードア移送サー

ビスの実施

・米原市…細かい停留所の設定

Page 3: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 22 -

2)外出需要、及び需要への対応に関する課題

課題3 利用ニーズの的確な把握

解決策 参考事例

・利用者のニーズを把握するための移動実態

調査やアンケート調査などを行う。

・住民と行政、事業者も交えた集会や検討会な

どを設けることも有効である。

・中川村…住民参加による計画策定

・米原市…らくらく夢交通実現のつどい

・世田谷区・目黒区(自由が丘)…住民有志の

集まりからスタートした「サンクスネイチャー

バス」

課題4 利用ニーズに応じた路線と時刻表設定

解決策 参考事例

・路線の統合や見直し、新しい路線の追加、時

刻表の改正。

・循環型とピストン型の特徴・注意点を十分に

踏まえた路線の設定。

・行き先を分かりやすくする工夫。

・試験運行などを踏まえた路線や時刻表の設

定。

・中川村…複雑になったバス路線の見直し・行

き先表示ステッカーの工夫

・江南市…路線表示ステッカーの工夫

課題5 交通弱者の重要な利用ニーズへの対応

解決策 参考事例

●高齢者や障害者の通院手段の確保

・同一の車両による多目的運行(通院やその他

の生活支援など、複数の目的を兼ねた運行)

・運行管理の形態として、交通事業者への通院

サービスを委託することも考えられる。

●小中学生の通学

・「スクールバス」専用の路線を設けると、運営

コストが増加してしまうため、自治体運営のバ

スや乗合タクシーでの通学用途を兼ねること

を検討する。

・千代田タクシー…人工透析患者の送迎サー

ビスの運行受託・支援費事業の実施

・中川村…村営巡回バス・NPO過疎地有償運

送のスクールバス利用

・米原市…乗合タクシーのスクールバス利用

・豊後大野市(旧緒方町)…町営バス・スクール

バス・集患バスの共同運行

課題6 利用目的を限定することによるコストの増加・効率の低下

解決策 参考事例 ・乗合タクシーや自治体運営のバスで、複数の

用途を兼ねられないか検討する。

・病院やゴルフ場、自動車教習所の送迎バスと

の相乗りを行う。

・豊後大野市(旧緒方町)…町営バス・スクール

バス・集患バスの共同運行

・豊田市…自動車教習所の送迎バスの高齢

者・障害者の利用

Page 4: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 23 -

3)移送サービスの運行にあたっての課題

課題7 民間バス路線の廃止・減便

解決策 参考事例

・民間バス路線の乗合タクシーによる代替。

・民間路線バスの撤退にあわせて、地域交通

システム全体の再検討を行う。

・民間バス路線を残すだけでなく、乗合タクシ

ーや過疎地有償運送の可能性を検討する。

・江南市…廃止バス路線の乗合タクシーでの

代替

・中川村…民間路線バスの撤退にあわせた村

営巡回バスの計画

課題8 車両・運転者の確保、維持管理、マネジメント

解決策 参考事例

・バス事業者(路線バス・観光バス)やタクシー

事業者に余剰車両が無いか確認する。また、

自家用車による過疎地有償運送を行う。

・車両を小型化し、維持費を削減する。

・補助金を活用する。

・バス事業者やタクシー事業者以外にも、地域

内に活用できる商工会やボランティア団体が

無いか、主婦やニートなど活用できる人材が

居ないか、確認する。

・病院やゴルフ場の送迎バスとの相乗りを行

う。

・東秩父村…補助金を活用した車両購入・主婦

の活用

・中川村…NPO 過疎地有償運送での自家用車

の利用・建築会社の人員の活用

・いすみ市…タクシー車両の活用

・米原市…タクシー車両の活用

・江南市…余剰タクシー車両の活用

・自由が丘…余剰の車両の活用・バス事業者

への働きかけ

課題9 待合い場所が少ない(停留所問題)

解決策 参考事例

・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

の敷地内、建物内にベンチ等、待合い場所を

設置できないか検討する。

・乗合タクシーやバスが近づいたら、店内や待

合所内にアナウンスするロケーションシステ

ムを導入することも考えられる。

・寄付金を募る、学校の工作で待合所用の椅

子を作るなど、工夫を行う。

・浜松市…聖隷浜松病院 敷地内での停留所

の設置、コミュニティバス「く・る・る」 施設敷

地内への乗り入れ、遠州鉄道株式会社 バス

ロケーションシステム

・品川区…しながわお休み石

課題10 移送サービスの予約方法、予約可能期間

解決策 参考事例 ・氏名・電話番号・主な行き先・注意事項などを

まとめた会員リストを作成・管理し、CTIなどに

よるシステムと連動させる。

・病院に予約センター直通の受話器を設置す

るなど、利用しやすい工夫を採り入れる。

・利用者のニーズに可能な限りマッチした予約

可能期間の設定を行う。

・中川村…Excel のマクロによる運行管理、予

約可能期間の設定(2 日前予約)

・いすみ市…会員データの整理、予約可能期

間の設定(30 分前予約)

・米原市…予約可能期間の設定(30 分前予約)

Page 5: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 24 -

課題11 路線維持、移送サービス実施のための費用負担

解決策 参考事例

・支出を減らす方法、収入を増やす方法の2つ

を考える。

・外部への運行委託を検討する。運行委託の

際は、車両から運転まで全て委託する場合

や、車両は市町村で用意し、運転だけ委託す

る場合など、様々なパターンが考えられる。

・委託の際は、入札制度を採り入れるなど、競

争原理が働く様にする。

・商工会や建設会社、ボランティア団体など、

地域の中で活用できる人材や団体が無いか

確認し、安価な運行委託ができないか検討す

る。

・安価な運行管理用のソフトウェア(CTI など)を

探す、地元のシステム関連企業を活用するな

ど、システム関連の費用削減を行う。

・利便性を高め、利用者を増やす。

・利用料金を適切に設定する。

・商店街から会費を募る等、収入の多角化を図

る。近隣市町村の商店街などとの連携も検討

する。

・広報などを積極的に行い、関心を集める。

・補助金の活用も考えられる。ただし、補助金

に頼るのではなく、できる限り自立した運営が

行える様努める必要がある。

・東秩父村…主婦の活用による人件費削減、

「生活サポート」の補助金・農協からの助成金

の活用

・中川村…建設会社の活用による人件費削

減、中山間地等生活交通確保支援事業の補

助金の活用

・いすみ市…商工会への運行業務の委託、商

工会からタクシー事業者への運行委託(借り

上げ方式)、主婦の活用、市庁舎のオペレー

ター室としての利用

・米原市…タクシー事業者への乗合タクシーの

運行委託(メーター料金との差分補填方式)

・江南市…タクシー事業者への乗合タクシーの

運行委託(距離あたり運行費用の入札方式)

・自由が丘…会費による無料バス運行、植物

性廃食用油のリサイクル燃料 V.D.F.の利用に

よる広報効果

・四日市市…協賛金・補助金による「生活バス

四日市」の運行

課題12 タクシー事業者、バス事業者の経営状況の悪化

解決策 参考事例 ・これまでの事業以外に、運ぶことを軸とした

様々な取組みを行う。例えば、介護関連事業

や病院や塾の送迎サービスの請負、物流と

の組み合わせ、徘徊の監視、違法駐車の監

視、支援費事業などが考えられる。

・千代田タクシー…人口透析患者・学習塾生徒

の送迎サービスの運行受託、介護タクシー・

支援費事業の実施

・近畿タクシー…子供だけで利用できる送迎タ

クシー「安心かえる号」、地域の警備ビジネ

ス・マンション生活者のサポート

Page 6: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 25 -

4)その他の課題(制度的な課題など)

課題13 移送サービス提供圏域の変化

解決策 参考事例

・複数の圏域を跨る場合は、制度面の問題(タ

クシー営業圏外なので運行ができない、複数

の運輸支局に申請が必要、など)が生じない

か確認する。

・同一の医療圏、商圏内の市町村等と連携し

て、移送サービスを運行できないか検討す

る。

(市町村合併)

・合併する市町村の移送サービスを的確に把

握する。

・合併後の移送サービスの存続の可能性など

を検討する。

・いすみ市…市町村界を越えた生活圏でのシ

ャトルバス運行

課題14 自治体内の担当課の連携不足

解決策 参考事例

・複数分野が連携して、移送サービス構築に取

り組む。

・予算面でも、交通分野と福祉分野の予算や補

助金を組み合わせるなど、効率的なマネジメ

ントを行う。

・豊後大野市(旧緒方町)…補助金を組み合わ

せて活用したコミュニティバス

課題15 運営協議会の設置、過疎地/福祉有償運送許可の申請

解決策 参考事例 ・特に過疎地有償運送に関しては、地域のタク

シー事業者やバス事業者の理解を得ることが

重要になる。そのために、タクシー事業者や

バス事業者と共存できる仕組み(運行はタク

シー事業者やバス事業者に委託する、利用

範囲を制限する等)を考案することが有効で

ある。

・近隣市町村と共同や都道府県全体による運

営協議会の設置の可能性を検討する。

・中川村…運営協議会の設置

・神奈川県…県全体での福祉有償運送運営協

議会の設置促進

Page 7: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 26 -

2 課題解決策の詳細

各課題に対する解決策の詳細は以下の通りである。

1)地域特性に関する課題

課題1 交通空白地帯の散在

・ 山間部などでは地形的要因などから、集落が点在し、交通空白地帯が広範囲に渡り散在して

いる。そのため、まとまった移送サービスの需要が得られず、路線バスなどの採算性確保が困

難となっている。

解決策

まとまった需要が得られない場合は、路線バスなどの大型車両によって一度に多人数を移送

する仕組みではなく、乗合タクシーなど乗車定員の少ない仕組みの方が、効率的に運行できる場

合が多い。乗車定員の少ない小型・中型車両を用いることで、車両購入費・維持費や燃料費を削

減することができ、その分運行頻度を増やす等、利便性を高めることができる。

乗合タクシーを運行する際は、需要の大小に応じて、デマンド型か定時定路線型か、運行方式

を検討する。

定時定路線型は、通常の路線バスのように、時刻表に従い、決まった路線を運行する。

デマンド型は、事前予約などで利用者が居る場合に運行する。大まかな時刻表で定めたタイプ

(例:米原市「らくらくタクシーまいちゃん号」、いすみ市「夷隅乗合タクシー」)や、時刻表は設けず

随時予約を受け付けるタイプ(例:中川村「NPO 過疎地有償運送」)などがある。また、路線や停留

所は定まっているが、予約のあった停留所のみを運行し、予約のなかった停留所は回らずショー

トカットするタイプも考えられる。

過疎地域における乗合タクシーは、デマンド型が多い。ただし、ある程度の交通需要も見込め

る場合は、定時定路線型も考えられる。

表-1 乗合タクシーの種別

デマンド型 定時定路線型

長所 ・ 予約があった場合のみ運行するので、効

率的な運行ができる。

・ 予約の煩わしさがない。

短所 ・ 予約が必要である。 ・ 利用の有無に関わらず運行するた

め、空車での運行といった無駄が生

じる場合がある。

主 な 事

(時刻表のあるタイプ)

・ 米原市「らくらくタクシーまいちゃん号」

・ いすみ市「夷隅乗合タクシー」

(時刻表のないタイプ)

・ 東秩父村「NPO 移送サービス」

・ 中川村「NPO 過疎地有償運送」

・ 江南市「いこまい CAR」

Page 8: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 27 -

写真-2 いこまいCAR

写真-1 夷隅乗合タクシー

参考事例:千葉県いすみ市 デマンド型乗合タクシー「夷隅乗合タクシー」の運行

→詳細は P115 参照 ・ いすみ市の夷隅地域(旧夷隅町)で、デマンド型の乗合タクシー「夷隅乗合タクシー」が運行し

ている。

・ 以前は循環バスを運行していたが、乗車

率が低かったため、バス以外の移送サー

ビスを検討した結果、デマンド型の乗合タ

クシーが最適であるという結論に達した。

・ 予約のあった箇所のみタクシーが運行す

る。運行地域を南北エリアと共通エリアに

分け、各エリアに 40 分~1 時間間隔で時

刻表が設定されており、同一エリア内の

利用について乗合を行っている。

・ 車両は、セダン型の通常のタクシー車両

を用いている。

・ 停留所は設けず、ドアツードア方式となっている。

参考事例:愛知県江南市 定時定路線型乗合タクシー「いこまいCAR」の運行

→詳細は P134 参照 ・ 江南市では、定時定路線型の乗合タクシー「いこまいCAR」が、主にバス路線が廃止された

地域を運行している。

・ 車両は、セダン型の通常のタクシー車両を用いている。

・ 巡回バスの導入も検討されたが、1台あ

たりの年間の運行経費が約 2,000 万円と

想定され、全4台の運行経費と収入見込

の差額として、約 6,800 万円が年間の市

負担額として試算された。対して、乗合タ

クシーの場合は、運行経費が約 2,800 万

円、収入見込が約 300 万円、年間の市負

担額が約 2,500 万円と試算され、大幅な

負担減が見込まれた。現在は、年間約

2,370 万円の費用で運行している。

・ 米原市やいすみ市の乗合タクシーとは異

なり、定時定路線型の乗合タクシーとなっており、利用者の有無に関わらず、運行している。

運行エリアが、ある程度市街化が進んでいる地域のため、定時定路線型でも乗車率が 1(人/

便)以上となっている。ただし、区間毎の利用人数別は、0 人(空車):46%、1 人:26%。2 人:

15%3 人:6%、5 人(満車):3%と、やはり、空車の割合が最も大きい(2005 年の利用状況)。

Page 9: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 28 -

参考事例:滋賀県米原市 デマンド型乗合タクシー「らくらくタクシーまいちゃん号」の運行

→詳細は P127 参照 ・ 米原市の旧米原町地域で、路線バスの廃止をきっかけに、デマンド型の乗合タクシー「らくらく

タクシーまいちゃん号」が運行している。

・ 当初は、現在の運行エリア全体を3つに分け、それぞれにバスを運行することが検討されて

いた。しかし、バスを1台運行するには人件費込みで年間約 1,000 万円(車両購入費を除く)

が必要と試算され、3 路線合計で年間約 3,000 万円が必要となるため、乗合タクシーを導入し

た。乗合タクシーは現在、市の負担が年間約 375 万円となっている。

・ 乗客を乗せておらず、米原駅に待機しているタクシー車両が、予約のあった停留所にのみ運

行する。運行地域を4つのエリアに分け、それぞれに時刻表を定めており(時刻表は米原駅を

出発する時間を定めている)、同一エリア内の利用について乗合を行っている。

・ 車両は、セダン型の通常のタクシー車両を用いている(通学用途のみジャンボタクシー車両を

利用)。

乗合タクシーといった仕組み以外にも、集落のコミュニティごとに車両を用意し、各集落の運営

によって移動手段を確保する「コミュニティカー」の解決策案を活用することも考えられる。

解決策案 「コミュニティカー」

※本調査研究委員会の中で議論された以下の解決策案を「コミュニティカー」と呼ぶ。

実際にこのような移送サービスを構築するにあたっては、法律や条例などの整備が必要

となる可能性がある。

・ 「コミュニティカー」とは、町の中心から外れた小規模な集落の単位で、移動手段を確保する

仕組みである。

・ 車両…自治体が 5 人乗りなどの小型の車両を購入し、その車両を各集落に無償提供する。

車両は自動車保険に加入する。自治体が購入する際は、リースを活用することも考えられ

る。車両の保管場所としては、消防団や集会所が活用できる。

・ 運営管理…それぞれの集落が独自に、運行範囲や運行時間帯を決定し、運営管理を行う。

・ 利用用途…通学や通院の移動手段を確保する仕組みを集落内で作り上げることを、車両を

提供する条件とする。条件を満たしていれば、他の送迎(例:買物やサークル活動など)にも

用いても良い。

・ 運転者…集落の住民が交互に運転を担当する。集落内の主婦や、退職者などをうまく活用

することが有効だと考えられる。集落内で運転者を確保することが難しい場合は、他の地域

のボランティアや、タクシー事業者を活用することも考えられる。

Page 10: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 29 -

写真-3 山間部の様子

課題2 地形的要因(坂が多い、道が狭いなど)

・ 山間部などでは急傾斜の坂が多く、自転車や車いすの利用や徒歩による移動が困難となって

いる。また歩道や広い路肩がある道路が少なく、徒歩などによる移動に危険を伴う。

・ 傾斜や道幅の問題、降雪時の路面凍結などから、利用できる車両が限定される。

解決策

急傾斜の斜面が多いことや歩道が無いことは、高齢者にとって、特に大きな問題となる。

徒歩や自転車、車いすによる移動が困難な地域では、自宅から目的地までのドアツードアの移

送サービスを行うことが望ましい。路線型の運行を行う場合でも、できるだけ停留所を細かく設置

し、自宅や目的地から停留所までの距離を短くすることで、利便性を高めることができる。

車両に関しては、傾斜や道幅の問題などから、バスなどの大型車両よりも、セダンやワンボック

ス、ジャンボタクシーなどの小型車両が適することが考えられる。

傾斜や道幅の問題が生じる地域では、まとまった交通需要が得られない場合が多く、小型車両

の利用は、その点においても大型車両より適している場合が多い(課題2参照)。

降雪時の路面凍結など、路面状況が問題となる地域では、四輪駆動車の利用なども検討する

必要がある。

参考事例:埼玉県東秩父村 山間部でのドアツードア移送サービスの実施

→詳細は P92~94 参照

・ 東秩父村の道路網は、幹線となる県道から

山間部の集落に村道が入っていく形であ

る。村道は急傾斜で、道幅も狭い道路も多

く、自動車でないと移動が困難。そのような

山間部に、全世帯の7割程度が居住してい

る。

・ 県道にはバスが運行しているが、自宅から

バス停まで 2km など離れており「バス停まで

の移動が大変」という声は高齢者を中心に

挙がっている。

・ そこで、デマンド型のドアツードアの移送サービスを実施している。

・ 車両はセダン型2台、車いす対応のワンボックス型3台を利用している。

・ 毎日利用する、といった使い方は見られないので、停留所を設けた路線型の運行は難しいと

考えられている。

Page 11: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 30 -

図-1 停留所マップ 写真-6 路面上の乗り場表記

参考事例:滋賀県米原市 細かい停留所の設定

→詳細は P131 参照

・ 米原市「らくらくタクシーまいちゃん号」では、停留所を細かく設置し(91 箇所、運行範囲全体

平均で約 150m間隔)、家から出て約 75m歩けば停留所があるように設置している。

・ 停留所を設置する際、路面に停留所マークを書くことで費用を削減している。路上に置くタイ

プの停留所場合、1つあたり3万円程度の費用がかかる。

写真-5 車いす対応車両 写真-4 セダン型車両

Page 12: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 31 -

2)外出需要、及び需要への対応に関する課題

課題3 利用ニーズの的確な把握

・ 地域における利用者の移動実態や、交通手段の利用状況が的確に把握されていない。その

ため、運行ルートや時間帯、停留所の設定などがニーズに合致しておらず、不便が生じてい

る。

解決策

利用者のニーズを的確に把握するために、移動実態調査やアンケート調査などを行う。アンケ

ート調査などを行う際は、利用者の居住地や年齢といった属性別にニーズを把握することが重要

である。

調査の際は、交通手段の利用にのみ着目するのではなく、普段通院している病院や、買物を行

う店舗など主な目的地が地域のどこにあるか、それらの施設の営業時間、「病院に行った後、買

物をして帰る」といった生活パターンについても把握する必要がある。

意見を集める場として、住民と行政、バス事業者やタクシー事業者も交えた集会や検討会など

を設けることも有効である。

参考事例:長野県中川村 住民参加による計画策定

→詳細は P103~104 参照

・ 長野県中川村では、地域生活交通システム見直し(2003 年度)を行い、村営巡回バス・NPO

過疎地有償運送・福祉有償運送による新交通システムを構築する際、住民の意見も積極的

に取り入れるため、地区や各種団体への説明会や交通計画策定委員会、アンケート調査な

どを数多く行った。

表-2 2003 年度 地域生活交通システム見直しの中での説明会などの実施回数

地区・各種団体説明会 49 回開催

交通計画策定委員会 5 回開催

アンケート調査 2 回実施

・ 地域住民や事業者からの意見も取り入れるため、交通計画策定委員会には、商工会や老人

クラブ連合会、小中学校PTA、社会福祉協議会の関係者や住民代表、バス事業者も参加し

ている。

Page 13: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 32 -

参考事例:滋賀県米原市 らくらく夢交通実現のつどい

→詳細は P128~130 参照

・ 米原市「らくらくタクシーまいちゃん号」は、旧米原町民有志のメンバーが集まった「らくらく夢

交通実現のつどい」での3年間の協議・検討から生まれた。当初約 20 名からスタートし、行政

も協議・検討に参加した。

・ 協議・検討の中では、アンケート調査や地域別ヒアリング、先進事例視察に加え、ワークショ

ップによるアイデア交換、住民によるルート試案の作成などを行った。

写真-7 「らくらく夢交通実現のつどい」の様子

出典:米原市ホームページ(http://www.city.maibara.shiga.jp/index.php?oid=66&dtype=1008&pid=288)

参考事例:東京都世田谷区・目黒区(自由が丘)

住民有志の集まりからスタートした「サンクスネイチャーバス」

→詳細は P148~149 参照

・ 東京都自由が丘で運行している「サンク

スネイチャーバス」は、八雲3丁目交差点

周辺の店舗の人々が集まり、運行を開始

した。

・ 八雲3丁目近辺は、自由が丘駅まで若干

距離があり、また、坂があるという、やや

交通が不便な地域であった。有志同士の

話し合いなどで、近隣住民のニーズを汲

み取り、駅と八雲3丁目近辺を結ぶ無料

送迎バスを運行した。

・ 利用者のニーズを的確に把握した上で、ルートの設定や時刻表の設定(買物が主用途のた

め、12:00~21:00 としている)を行っているため、利便性の高いものとなっている。

・ 2004 年 9 月から運行開始した駒沢公園ルートは、マンションの利便性向上やPR、宣伝のた

めにバスを運行して欲しいという声が上がったことであった。

写真-8 サンクスネイチャーバス

Page 14: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 33 -

課題4 利用ニーズに応じた路線と時刻表設定

・ 利用ニーズと路線・時刻表設定のミスマッチにより、「利用者が極端に少ない停留所がある」

「路線の周長が長いため運行時間の間隔が長くなってしまっている」「目的地によっては長距

離の迂回が発生している」といった不便が生じている。

・ 病院の診療時間や、通院後に買物を行う、といった利用のパターンと時刻表が合っていない

ことも不便の原因となっている。

・ 「路線が複雑で分かりにくい」「目的地に行く乗合タクシーやバスがどれか分からない」といっ

た不便が生じている。

解決策

課題3の解決策で述べた通り、アンケート調査などで利用ニーズを的確に把握した上で、無駄

なくニーズに対応できる様、路線の統合や見直し、新しい路線の追加、時刻表の改正などを行う。

路線を設定する際には、1周の所要時間が長時間(1時間など)にならない様に留意することが

重要である。また、公共施設をあれもこれもと過剰に結ぶような路線設定を行うと、1周の時間が

長くなり、目的地まで長距離の迂回が発生する恐れがあるので、なるべく避ける必要がある。

路線設定の際には、循環型とピストン型の特徴・注意点を十分に踏まえて検討することが重要

である(表-3参照)。循環型とピストン型、両方の長所を活かし、時間帯によって循環型とピスト

ン型を使い分けることも考えられる。

また、路線が複雑で分かりにくい、といったことにならない様、利用者の視点に立って考えること

が重要である。バスに行き先を示すステッカーを貼るなどの工夫を行うことも有効である。

一旦路線や時刻表を設定すると、変更が難しい場合がある。特に、一度設置した停留所を変更

する際は、住民から大きな抵抗が生じる場合がある。そのため、期間を限定した試験運行を行い、

実際の利用状況を調査した上で、路線や時刻表を設定することも有効である。

Page 15: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 34 -

写真-9 車体側面に貼る行き先表示ステッカー

参考事例:長野県中川村 複雑になったバス路線の見直し、行き先表示ステッカーの工夫

→詳細は P105 参照

・ 2003 年にそれまで9路線あり複雑になっていたバス路線を3路線に集約した。

・ ひとつの路線に複数の機能を持たせることで効率化している。例えば、一周の途中で、スクー

ルバス用途から、通院や買物など一般の用途に切り替えるといったことを行っている。

・ 町の中心部の商業施設「チャオ」で、3路線

それぞれに乗り換えられる様にルートを設定

している。時刻表も乗換を考慮して設定して

いる。

・ 路線の変更の際には、地域を知っている人

がアイデアを出し、まちづくりの専門家(松本

市のコンサルタント)がアドバイザーとして形

にしていった。アイデアはやはり、地域を知

っている人が出すことが重要である。

・ 機能を集約したことで、路線がやや複雑

になったため、車体に行き先が一目で分かるステッカーを貼り、利便性を向上している。

図-2 村営巡回バス路線図

出典:中川村ホームページ(http://www.vill.nakagawa.nagano.jp/life/guide/bus_timetable/rosenzu.pdf)

Page 16: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 35 -

写真-10 路線表示ステッカー

参考事例:愛知県江南市 路線表示ステッカーの工夫

→詳細は P140 参照

・ 江南市「いこまいCAR」では、行き先

が一目で分かる様、車両の後部座席

ドアに路線表示ステッカーを貼付して

いる。

Page 17: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 36 -

表-3 循環型とピストン型の特徴と注意点

路線設定

の型 循環型 ピストン型

路線設定

の例

特徴 ・ 必要な車両台数が少ない。

・ 適切なルート設定ができると、効率的

な運行ができる。

・ ルートが長くなり、目的地によっては

長距離の迂回が発生してしまい、所

要時間がかかる場合がある(運賃が

一律制でなければ利用者の費用負担

も大きくなる)。

・ 公共施設を結ぶ場合などに向く。

・ ルート数が増えるため、多くの車両が

必要となる。

・ ルートが短く、目的地までの所要時間

は短い。

・ 通勤利用などに向く。

注意点 ・ 1周の所要時間が 1 時間を超えるよう

な設定では不便となる場合が多い。

・ あれもこれもと公共施設などを結ぶと

利用者のニーズにそぐわないルート

設定になってしまう。

・ 両回り運行を行う場合は、多大な設

備投資が必要となるため、利用者数

の予測などを入念に行う必要がある。

・ 行き先によって乗り換えの必要が生じ

るので、乗り換えを意識したバス停づ

くりや時刻表の設定が必要である。

参考:「要介護高齢者等に対する新たな移送サービスシステム構築のためのケーススタディに

関する調査研究事業」(社団法人シルバーサービス振興会)

施設

団地

商店街

病院

集落駅

施設

団地

病院

商店街

施設

集落

病院

集落

Page 18: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 37 -

課題5 交通弱者の重要な利用ニーズへの対応

・ 過疎地における交通弱者の重要な利用ニーズとして「高齢者や障害者の通院」と「小中学生

の通学」が挙げられる。

・ これらのニーズへ対応する交通手段は、最低限確保しなければならないものとなっている。

解決策

○高齢者や障害者の通院手段の確保

高齢化が進む過疎地では、通院のニーズは大きく、通院手段の確保は最低限の課題となる。こ

れまでは、家族や隣近所での送迎などで確保ができていたが、高齢者世帯の増加や、地域コミュ

ニティの変化などにより通院手段の確保が難しくなっている。

そのような状況の中で、効率的に通院手段を確保するためには、同一の車両による多目的運行

(通院やその他の生活支援など、複数の目的を兼ねた運行)が有効だと考えられる。

また、運行管理の形態として、交通事業者へ通院サービスを委託することも考えられる。近年、

病院の経営も厳しり競争が激しくなる中で、病院が患者を集めるためにも、送迎サービスを実施

することが有効となる場合がある。病院が送迎サービスを実施する際には、独自に車両を購入し

たり、運転者を雇用するのではなく、タクシー事業者等へ運行を委託することが考えられる。

参考事例:静岡県千代田タクシー 人工透析患者の送迎サービスの運行受託、

障害者支援費事業の実施

・ 静岡県千代田タクシーでは、病院から人工透析患者の送迎サービスを運行受託している。

・ 車両は病院が用意し、千代田タクシーが専任のドライバーを雇用している。

・ ドライバーは時間制、短時間の雇用とし、コストを削減している。

・ タクシー会社の正社員のドライバーが全体の管理、監督を行っている。ドライバーが欠席した

場合の運転や、万一トラブルが起こった際の対応を担っている。

・ 千代田タクシーでは、介護事業なども行っており、そこで用いているマニュアル等(例:透析患

者は飲料の制限があるので、飲みたくならないよう、ドライバーが車内に飲料を持ち込まな

い)があり、高い評価を得ている。

・ 千代田タクシーでは障害者支援費事業も行っている。通常の支援費事業者は、大抵の場合2

~3週間先まで予定が決まっており、突然の依頼を受けられない。しかし、タクシー事業者

は、ひとつひとつの移送・送迎の時間単位も短いため、突然の依頼にも運転手のシフトや割り

当てを変更することで、容易に対処できる。そのため利用者にとっては、利便性が高い。

Page 19: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 38 -

○小中学生の通学手段の確保

過疎地では、今後、学校の統廃合によって通学距離が長くなることも考えられるため、小中学

校への通学手段の確保は、より重要性の大きな課題となる。通学手段を確保することは、小中学

生や保護者の安全・安心にも繋がる。

スクールバス専用の路線を設けると、運営コストが増加してしまう。そのため、自治体運営のバ

スや乗合タクシーを通学目的の利用でも用いるといった形で、複数の利用目的を兼ねた共同運行

や相乗りの可能性を検討する。

また、民間路線バスの減便などの際、小中学生の登下校の時間帯の運行ばかりを優先すると、

高齢者等の通院や買い物に用いる便が減便され、不便が生じる可能性がある。そのため、総合

的な視点で、地域交通計画を検討する様、留意する必要がある。

参考事例:長野県中川村 村営巡回バス・NPO過疎地有償運送のスクールバス利用

→詳細は P102 参照

・ 中川村の村営巡回バスは朝から、高校生の送迎ための運行→小中学生のスクールバスとし

て運行→一般の買物・通院などの利用のための運行、と大きく流れる。1台のバスが複数の

利用用途を兼ね、効率的に利用目的を切り替えられるルート・時刻表設定が為されている。

なお、高校生の送迎や、スクールバスとして運行している際も、一般の利用者も乗車すること

ができる。

・ また、児童数が少なく、奥に入った集落からの通学では、バスの運行は非効率になるため、N

PO過疎地有償運送を利用している。

参考事例:滋賀県米原市 乗合タクシーのスクールバス利用

→詳細は P132 参照

・ 米原市「らくらくタクシーまいちゃん号」はスクールバス用途にも利用されており、約 1,400 人/

月の利用者のうち、約 1,000 人/月はスクールバス利用となっている。

・ 通常はセダン型車両で運行しているが、スクールバス利用にはジャンボタクシー型車両(運

行を委託しているタクシー事業者が所持)を用いている。

Page 20: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 39 -

参考事例:大分県豊後大野市(旧緒方町) 町営バス・スクールバス・集患バスの共同運行

・ 大分県豊後大野市(旧緒方町)では、以前は単独でスクールバスを運行していたが、町営バ

スと集患バスとあわせ「おがたコミュニティバス」として共同運行に移行し、効率化を図ってい

る。

参考:「要介護高齢者等に対する新たな移送サービスシステム構築のためのケーススタディに関する

調査研究事業」(社団法人シルバーサービス振興会)

Page 21: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 40 -

写真-11 おがたコミュニティバス

課題6 利用目的を限定することによるコストの増加・効率の低下

・ 「スクールバス」「病院送迎バス」などと利用目的を限定することによって、路線が増え、全体と

して運営コストの増加、効率の低下が生じている。

解決策

「スクールバス」「病院送迎バス」等と、完全に用途を分ける方式は、利用者が多い場合は効率

が良いが、利用者が少なくなり、運営が厳しくなった状態では、コストの増加、効率の低下に繋が

ってしまう。

そこで、乗合タクシーや自治体運営のバスで、「早朝は主に児童を運び、その後、午前中は主

に病院へ高齢者を運ぶ」といった形で、複数の用途を兼ねられないか検討する。

また地域内の病院やゴルフ場、自動車教習所などが送迎バスを運行している場合、それらの

バスに児童や高齢者等が同乗できないか、共同運行や相乗りの可能性について検討する。

参考事例:大分県豊後大野市(旧緒方町) 町営バス・スクールバス・集患バスの共同運行

・ 大分県豊後大野市(旧緒方町)では、それ

ぞれ個別に運営されていた町営バス、スク

ールバス、集患バスを「おがたコミュニティ

バス」として共同運行に移行したことによ

り、限られた予算内で、効率的な移送サー

ビスの提供を行っている。

参考:「要介護高齢者等に対する新たな移送サービスシステム構築のためのケーススタディに関する

調査研究事業」(社団法人シルバーサービス振興会)

Page 22: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 41 -

参考事例:愛知県豊田市 自動車教習所の送迎バスの高齢者・障害者の利用

・ 愛知県豊田市では、2003 年 7 月よりトヨタ中

央自動車学校と豊田自動車学校の2校の教

習生用の送迎バスを、市内の 65 歳以上の高

齢者と障害者が無料で利用できる取組みが

行われている。

・ 教習生と同じ地点から乗車でき、路線内のど

こでも下車することができる。

・ 利用希望者は、豊田市に申請し乗車カードの

交付を受ける。

参考:全国市長会ホームページ 都市トピックス(市政 10 月号:2004 年)

(http://www.mayors.or.jp/shisei/shisei04.10/topics.htm)

トヨタ中央自動車学校ホームページ

(http://www.tcds.co.jp/k-now/bus_op/bus_op.htm)

写真-12 トヨタ中央自動車学校 送迎バス

出典:トヨタ中央自動車学校ホームページ

(http://www.tcds.co.jp/k-now/bus_op/bus_op.htm)

Page 23: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 42 -

図-3 バス路線図 図-4 「いこまいCAR」路線図

3)移送サービスの運行にあたっての課題

課題7 民間路線バスの廃止・減便

・ 過疎地では需要が少ないことなどから、赤字路線が多く、バス路線の廃止・減便が多く見られ

る。

・ また減便の場合は、同一路線内に道路運送法 80 条許可による路線バスや過疎地有償運送

が参入できず、利便性を向上する手段が講じられない事態が生じる可能性もある。

解決策

民間路線バスが赤字路線となる大きな理由は、まとまった需要が得られず、大型車両による定

時運行では乗車率が低く、車両維持費などのコストがかかってしまうことである。そこで、廃止路

線を乗合タクシーで代替することが考えられる。

参考事例:愛知県江南市 廃止バス路線の乗合タクシーでの代替

→詳細は P137~139 参照

・ 江南市「いこまい CAR」は、民間バス路線が廃止となった地域を主に運行している。

休廃止となった地

域を運行

休廃止路線

Page 24: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 43 -

写真-13 中川村村営バス

また、民間路線バスの撤退にあわせ道路運送法 80 条許可による路線バスなどを自治体が運

営し、地域全体の交通計画システムを再検討することも考えられる。

参考事例:長野県中川村 民間路線バスの撤退にあわせた村営巡回バスの計画

→詳細は P103~104 参照

・ 中川村では 1970 年に民間バス路線が撤

退した際に、80 条許可による路線バスとし

て、村営バスの運行を開始した。

・ 1994 年には、民間路線バスが完全に撤退

した。民間路線バスが村内に全くないた

め、村営バス・NPO過疎地有償運送・福祉

有償運送によって効率の良い村内全体の

地域交通システムを構築している。

民間路線バスが1日2往復など極端に減便した場合でも、路線が廃止していなければ、同一路

線内に 80 条許可による路線バスや乗合タクシー、過疎地有償運送などが参入できなくなる可能

性がある。そのため、利便性は非常に低いが、他の移送サービスによる解決手段が講じられない

事態が生じてしまう。民間路線バスを維持することだけを考えるのではなく、利用者の視点に立ち、

80 条許可による路線バスや乗合タクシー、過疎地有償運送の導入も検討する必要がある。

Page 25: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 44 -

課題8 車両・運転者の確保、維持管理、マネジメント

・ 車両購入費用、維持管理費用を確保することが大きな負担になっている。

・ 地域内に、運転の担い手となる様な事業者・団体が少ない。

・ 地域内で利用可能な車両、ボランティアなどで運転ができる人が把握されていない。

解決策

車両に関しては、地域や周辺のバス事業者(路線バス・観光バス)やタクシー事業者に余剰車

両が無いか確認し、活用できないか検討する。また、また、過疎地有償運送などでは、自家用車

を活用できないか検討する。

また、国や県、各団体などの補助金により、車両を確保できないか検討する。特に車いす対応

型車両の購入においては、補助金が活用できる場合が多い。

車両の維持費については、小型車両の方が費用負担が小さいので、利用ニーズを的確に把握

した上で、車両の小型化ができないか検討する。

また車両には万が一の事故に備え、保険をかけておくことが必要になる。特に過疎地有償運送

などで、自家用車を利用し、一般の住民が運転する場合は、対物・対人ともに十分な額の保険に

加入し(理想的には、対物・対人ともに無制限な、責任の範囲を明確にすることが重要である。例

えば、「事故に関しては、運転者は責任を負わないが、スピード違反については運転者の責任と

する」といった取り決めが考えられる。運転者を限定とするか、不特定とするかで、保険の金額が

異なるため、実情にあわせ検討する必要がある。

運転者については、バス事業者やタクシー事業者以外にも、地域内に活用できる商工会やボラ

ンティア団体が無いか、主婦や退職者など活用できる人材が居ないか等を確認し、運転を担う

NPO を立ち上げる等、積極的な活用を進める。

運転者を雇用する際は、正職員ではなく、嘱託職員や非常勤職員(時間給)といった形で雇用

することで、人件費を削減することができる。

課題6で述べた様な、病院やゴルフ場の送迎バスとの相乗りを行うことにより、車両・運転者の

課題を解決できないか検討する。

表-4 車両購入費用の比較

車両の種類 おおよその価格

バス車両 路線バス…2000 万円程度

※ノンステップバス…2500 万円程度

観光バス・貸切バス…3000~5000 万円程度

マイクロバス車両 700~1000 万円程度

※車いす対応車両…1500 万円程度

タクシー車両 150~300 万円程度

※車いす対応車両…250~400 万円程度

Page 26: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 45 -

写真-15 車いす積載スペース

参考事例:埼玉県東秩父村 補助金を活用した車両購入、主婦の活用

→詳細は P96 参照

・ 東秩父村の NPO 移送サービスでは、日本財団の補助を受け、1割負担で車いす対応の福祉

車両を購入している。

・ また当初は、村からの助成金でセダン型車両を1台購入し、農協職員から中古セダン型車両

1台の寄付を受けている。

・ NPO の財源によっても、福祉車両1台を購入し、セダン型車両2台を買い換えている。

・ 車両は NPO で管理している(農協の敷地内)。

・ 償却費を5年とし、費用を積み立てておくことが重要である。

・ 自動車保険は対物・対人ともに無制限、運転者は不特定多数としている。万が一事故が起き

た際は、自損事故でも保険や NPO で負担する。ただし、スピード違反などの反則金について

は運転者の負担としている。

・ 東秩父村の NPO 移送サービスの運転手は 9 名中 8 名が女性であり、主に主婦が務めてい

る。子育て中で、長時間のパートなどに出られない主婦が、朝 10 時~14 時といった勤務形態

で勤務している。賃金は待機時間も含め、NPO へ出勤している時間について支払っている。

写真-14 日本財団の補助で購入した福祉車両

写真-16 回転式、リフトアップ式の助手席

Page 27: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 46 -

写真-17 オペレーターの様子

参考事例:長野県中川村 NPO 過疎地有償運送での自家用車の利用、建築会社の人員の活用

→詳細は P107~108 参照

・ 中川村の NPO 過疎地有償運送では、主に村から貸与された車両1台(エスティマハイブリッ

ド)を用いているが、自家用車も予備として7台登録している。実際に利用するケースは少な

いが、普段、個人宅や建設会社にある車両を緊急時に利用する。

・ 過疎地有償運送を行っている NPO 法人「ふるさとづくり・やらまいか」は村内の建設会社7社

が中心となり、立ち上げられた。村内では以前は建設業が盛んであったが、現在では余剰と

なる人員もあり、空き時間に過疎地有償運送の運転や運行管理を行っている。また、村営巡

回バスの運行も、NPO が担っている。

参考事例:千葉県いすみ市 タクシー車両の活用

→詳細は P121~122 参照

・ いすみ市「夷隅乗合タクシー」は、乗合タクシー

運行業務の委託を受けている大原自動車のタ

クシー車両を用いている。

・ 小型タクシー車両2台と、運転手を借り上げるこ

とで、車両と運転手を同時に確保している。

・ また、予約受付や配車を行うオペレーターは、

主に主婦のパートが務めている。

参考事例:滋賀県米原市 タクシー車両の活用

→詳細は P131~132 参照

・ 米原市「らくらくタクシーまいちゃん号」は、乗合タクシー運行業務の委託を受けている近江タ

クシー湖北のタクシー車両を用いている。

・ 通常のタクシー業務と平行して、乗合タクシー業務を行っているため、タクシー会社にとって

は、回転率の増加に繋がっている。

Page 28: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 47 -

参考事例:愛知県江南市 余剰タクシー車両の活用

→詳細は P140 参照

・ 江南市「いこまい CAR」では、乗合タクシー運行業務の委託を受けている名鉄タクシーの余剰

タクシー車両を用いている。

・ 人口減少などで、タクシー会社に余剰車両が生じており、タクシー事業者から市へ話が寄せ

られた。乗合タクシーの運行を検討していた市のニーズと合致したため、余剰車両の活用に

至った。

・ 名鉄タクシーは33台の車両を保有しており、そのうち3台を「いこまい CAR」に専属で用いて

いる(臨時便を除く)。

・ また、運転者についても嘱託社員を活用することにより、費用を削減している。

参考事例:東京都自由が丘 余剰の車両の活用、バス事業者への働きかけ

→詳細は P151 参照

・ 自由が丘の「サンクスネイチャーバス」では運行開始当時、新規に車両を購入する資金は無

かった。バス事業者(観光バスや送迎バス)に尋ねたところ、不景気でもあり、観光用に購入

したが利用されていないバス車両があるとの話を聞いた。そこで運転手も含め、運行委託を

行った。

・ バス車両はバス事業者の車庫で管理している。

・ 運転手は各ルート1名、バス事業者の職員が務めている(※嘱託による費用削減について要

確認)。

・ 運転手の人柄や、運転手と乗客のコミュニケーションは重要である。ほぼ最初から同じ運転

手が担当しており、自然に「お願いします」「ありがとうございます」といった挨拶や、「今日は

赤ちゃんがあまり泣かないね」といったコミュニケーションが行われている。乗客が運転手へ、

お弁当の差し入れをすることもある。

Page 29: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 48 -

課題9 待合い場所が少ない(停留所問題)

・ 「課題2 地形的要因」とも関連するが、高齢者等が乗合タクシーやバスを安全に待つことがで

きる場所が地域内に少ない。

解決策

病院や市役所、スーパーやコンビニエンスストアなどの敷地内、建物内にベンチ等、待合い場

所を設置できないか検討する。病院や市役所の場合は、既存の待合所を活用することも考えられ

る。併せて、乗合タクシーやバスが近づいたら、店内や待合所内にアナウンスするロケーションシ

ステムを導入すると利便性は大きく向上する。

待合い場所の設置費用に関しては、寄付金を募る、学校の工作で待合所用の椅子を作るとい

った工夫を行うことも考えられる。

参考事例:静岡県浜松市 聖隷浜松病院 敷地内での停留所の設置、

コミュニティバス「く・る・る」 施設敷地内への乗り入れ、

遠州鉄道株式会社 バスロケーションシステム

・ 浜松市の聖隷浜松病院では、敷地に接した道路沿いに停留所を設けるのではなく、敷地内

に停留所を設け、高齢者等が安全にバスを待てるようにしている。

・ 浜松市コミュニティバス「く・る・る」では、可能な限り施設敷地内に乗り入れた停留所設定とな

っている。

・ 遠州鉄道の浜松市役所の停留所では、バスは敷地内まで乗り入れないが、市役所内の待合

所にバスが近づいたことを知らせるロケーションシステムを導入している。

参考事例:東京都品川区 しながわお休み石

・ 東京都品川区では高齢者や障害者の方

にやさしいまちづくりの一環として、まちの

中を歩いている途中で、ちょっと一休みし

たい時に腰をおろして休憩できる「しなが

わお休み石」事業を進めている。きっかけ

は区民の提案からであり、メーカーなどの

協力を得て、使いやすいデザインを検討

した。費用の一部は寄付金により賄って

いる。

参考:品川区ホームページ(http://www2.city.shinagawa.tokyo.jp/jigyo/02/06/04/d0466.html)

写真-18 しながわお休み石(バス停お休み石)

Page 30: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 49 -

課題10 移送サービスの予約方法、予約可能期間

・ デマンド方式の移送サービスを予約する際の方法が煩雑であったり、数日前までに予約が必

要であるため、利便性が低い。

解決策

予約を円滑に行うため、氏名・電話番号・主な行き先・注意事項などをまとめた会員リストを作

成・管理し、CTI※などによるシステムと連動させる。

また、帰りの予約については、自宅からではなく外出先の公衆電話からになることもあり、発信

者電話番号から利用者を特定できない場合がある。病院に予約センター直通の電話機の設置や、

更に電話機にカードを差し込むと自動的に利用者情報も伝えられる仕組みといった工夫を行うこ

とで、利用者の特定ができるようになり、利用者の安心に繋がることも考えられる。

CTIなどは現在、様々な民間企業が開発・販売しているので、安価なソフトウェアを探し、カスタ

マイズや保守については地域内のシステム関連企業を活用することで、システム関連の費用を削

減することができる。

利用者のデータベースを作成する際には、自宅の電話番号だけでなく、携帯電話の電話番号

も登録しておくことが望ましい。

また、ドライバーによる利用情報などの報告も徹底することが望まれる。利用者の傾向を知るこ

とで、オペレーターも対応しやすくなり、更に地域の交通システムを見直す際などの貴重な基礎デ

ータにもなる。

予約可能期間については、利用者のニーズに可能な限りマッチした設定を行う。一般的に、30

分前といった設定にすると利便性が高くなるが、他のタクシー事業者への影響なども考慮する必

要がある。

※ CTI…電話やFAX等とコンピュータシステムを連携させる技術であり、発信電話番号によって

顧客データベースを照合し、必要な情報を表示するといった利用がされている。主に、サポー

トセンターなどで用いられている。

参考事例:長野県中川村 Excel のマクロによる運行管理、予約可能期間の設定(2 日前予約)

→詳細は P109 参照

・ 中川村の NPO 過疎地有償運送では、村の職員が作成した Excel のマクロによって、運行管

理を行っている。予約登録情報や利用状況、利用者の属性情報などを管理できる。

・ 予約可能期間は2日前までとしている。前日、当日予約を可能とすることの要望は挙げられ

ているが、タクシー事業者の業務を圧迫しないことも勘案し、設定している。

Page 31: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 50 -

参考事例:千葉県いすみ市 会員データの整理、予約可能期間の設定(30 分前予約)

→詳細は P122 参照

・ いすみ市「夷隅乗合タクシー」では、受付・配車システムとして、民間企業のデマンド交通シス

テムを導入している。予約電話がかかってきた際には、電話番号によりデータベースから利

用者を特定する。ドライバーへ連絡する際には、携帯電話の電波を利用して、利用者の情報

を指示することができ、ドライバーは迷うことなく利用者を乗降させることができる。

・ 利用者のデータベース登録を進めている。入力はオペレーターが行っている。

・ 予約可能期間は 30 分前を実現している。受付・配車システムも導入しているため、オペレー

ターの業務量としても、30 分前予約は特に大きな負担とはなっていない。

参考事例:滋賀県米原市 予約可能期間の設定(30 分前予約)

→詳細は P132 参照

・ 米原市「らくらくタクシーまいちゃん号」では、予約可能期間を 30 分前と設定している。

・ 受付、配車システムは導入せず、タクシー事業者の無線を利用している。

・ タクシー事業者は、利用者の登録、タクシーの受付、配車等の運行管理を行っている。専任

のオペレーターを置かず、一般タクシー業務と平行して運行管理を行っていることから、事業

者への負担が大きい。

Page 32: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 51 -

課題11 路線維持、移送サービス実施のための費用負担

・ 赤字路線維持のため、事業者への赤字補填などの自治体の費用負担が増加している。

・ 自治体が移送サービスを運営する場合の運営費用負担が大きくなっている。特に人件費が大

きな負担となっている。

・ 予約システムやロケーションシステムの導入・維持や予約センター運営などの費用が大きな負

担となっている。

・ 自治体の財源や補助金だけでは、収入源が乏しい。

・ 利用料金の設定が過剰に安いため、運賃収入が少ない。

解決策

移送サービス実施の費用負担の問題を解決する方法として、表-5の通り、大きく分けて、支

出を減らす方法と、収入を増やす方法の2種類が考えられる。

表-5 移送サービス実施のための費用負担に対する解決策(代表例)

解決策の種類 具体例

支出を減らす方法 ・地域の現状や需要に応じた適切な規模での移送サービス提供

・外部への運行委託

・地域内の人材活用による人件費の効率化

・予約システムなどシステム導入費・維持費の削減

収入を増やす方法 ・利用者を増やすための利便性の向上

・利用料金の適切な設定

・商店街からの会費など、収入の多角化

・広報など、利用者を増やすための工夫

・補助金の活用

支出を減らすための第一の方法としては、課題1、2、6などの解決策で述べた通り、地域の現

状や需要にあわせ、車両を小型化するなど、無駄のない適切な規模で移送サービスを提供する

ことが挙げられる。

外部への運行委託を行うことも有効である。運行委託の際は、車両から運転まで全て委託する

場合や、車両は市町村で用意し、運転だけ委託する場合など、様々なパターンが考えられる。ま

た、入札制度を採り入れるなど、競争原理が働く様にすることが望ましい。

次に人件費を効率化する方法として、商工会や建設会社、ボランティア団体など地域の中で活

用できる人材や団体が無いか確認し、安価な運行委託ができないか検討することが挙げられる。

予約システムやロケーションシステムを導入する際は、安価なソフトウェアを探すことが重要で

ある。また、地元のシステム関連企業を活用するなど、システム関連の費用削減を行う(課題10

参照)。予約センターなどの運営にも、主婦やボランティアにオペレーターを依頼するなど、地域の

人材が活用できないか検討する。

Page 33: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 52 -

収入を増やす方法としては、利用者のニーズに応じて運行ルートや時刻表などを適切に設定

することで、利便性を高めることが挙げられる。利便性を高めることは、利用者増に繋がり、収入

が増加する。

利用料金を適切に設定することも重要である。利用料金の設定においては「ワンコイン(100

円)運賃」や「高齢者無料パス」といったものばかりに注目するのではなく、自己負担のあり方につ

いて検討する必要がある。ワンコイン運賃や高齢者無料運賃などにより、運賃収入が減少すれば、

自治体の負担額や補助金額が増大し、結果的に税金負担が大きくなる。収支状況を公開し、運

賃で負担するか、税金で負担するか、住民が決定する仕組みを採り入れることも考えられる。

表-6 各先進事例の利用運賃と収支の概要

事例 利用運賃 利用者数 収支の概要

埼玉県東秩父村

NPO 移送サービス

30 円/km+250 円/15 分

役場から小川町駅までの場

合、タクシーの 1/6 程度

6,285 人

(2004 年度)

収入・支出ともに年間 500 万円

程度

(2004 年度)

村 営 巡 回

バス

1乗車 200 円。

年間定期券 1 万円

年間約 23,000 人

(月あたり平均より計

算。2005 年度)

利用料収入…年間約 220 万円

運行経費…年間約 1,500 万円

(2004 年度)

NPO 過疎

地 有 償 運

エリア別料金制。

タクシーの 1/2 程度

年間約 2,900 人。うち

2,000 人がスクール

バス用途。

(2004 年度)

利用料収入…年間約 80 万円

(2004 年度)

長野県

中川村

福 祉 有 償

運送

200 円+100 円/2km 年間約 930 人

(2004 年度)

利用料収入…年間約 30 万円

(2004 年度)

千葉県いすみ市

「夷隅乗合タクシー」

1乗車 300 円

年間約 6,700 人

(月当たり平均より計

算。2005 年度)

滋賀県米原市

「らくらくタクシーまい

ちゃん号」

大人 300 円(こども 150 円)

回数券 10 枚つづり 2,000 円

※2006 年 4 月 1 日に回数

券を 11 枚つづり 3,000 円に

料金改訂する予定

年間約 16,800 人

(月当たり平均より計

算。

利用料収入…年間約 245 万円

運行経費…年間約 620 万円

(2004 年 10 月~2005 年 9 月の

1 年間)

愛知県江南市

「いこまい CAR」

1 ルート 100 円

年間約 52,000 人

(2004 年度)

利用料収入…年間約 510 万円

運行経費…年間約 2,370 万円

(2004 年度)

東京都自由が丘

「サンクスネイチャー

バス」

無料。

頻繁に利用する人は個人

サポーター(6,000 円/年)に

加入

年間約 84,000 人

(2 路線合計。月当た

り 平 均 よ り 計 算 。

2005 年度)

収入(会費)…年間約 1,800 万

運行経費…年間約 1,740 万円

(2路線合計。月当たり平均より

計算。2005 年度)

Page 34: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 53 -

自治体の財源だけでは限界があるため、商店街から会費・協賛金を募るなど、収入の多角化を

図ることも有効である。その際、近隣市町村の商店街などとの連携も検討する。

また、各世帯へのチラシの配布や、老人クラブや町内会での説明など、積極的な広報を行うこ

とで利用者の増加を図ることも有効である。廃食用油(てんぷら油)を使ったバスの運行(参考:東

京都自由が丘「サンクスネイチャーバス」)といった環境問題への取組みなどを行うことで、関心を

集めることも収入の増加に繋がる。

国や県、各団体の補助金の活用も考えられる。しかし補助金も、元は地域住民や別の地域の

住民が負担した税金等であるため、補助金に頼るのではなく、できる限り自立した運営が行える

様努める必要がある。

参考事例:埼玉県東秩父村 主婦の活用による人件費削減、

「生活サポート事業」の補助金、農協からの助成金の活用

→詳細は P96~97 参照

・ 東秩父村 NPO 移送サービスでは、運転手に主婦を活用することで人件費を削減している(課

題8参照)。

・ 国からの「生活サポート事業」の補助金、農協からの助成金を活用している。

・ 「生活サポート事業」は、障害者手帳の所有者について、移送サービス利用時に1時間あたり

2,550 円が支給される。本人負担は1時間 300 円である。

・ NPO 法人「ふれあいやまびこ会」は農協が在宅介護を取り上げ、送迎サービスへの要望が住

民から生じたことを契機に設立されている。そのような経緯もあり、農協から年間約 70 万円の

助成金が支給されている。助成金は運営費に充てられている。

・ NPO を立ち上げたことで、県から各種の補助金の申請要領などが送られて来るようになり、

情報入手が容易になった。しかし、補助金の多くは「スタートダッシュ補助」など一時的なもの

であり、長期的な運営費用として頼ることはできない。

参考事例:長野県中川村 建設会社の活用による人件費削減、

中山間地等生活交通確保支援事業の補助金の活用

→詳細は P104、107 参照

・ 中川村では村営巡回バスの運行、NPO 過疎地有償運送の運行業務に建設会社の人員を用

いて、人件費を削減している(課題7参照)。

・ 村営巡回バスの路線見直しなど、新交通システムを検討する際、長野県の「中山間地等生活

交通確保支援事業」の補助金を活用した。バス路線の変更案などは、アドバイザーを中心に

アイデアを出し合い、それを形にする最初の費用の部分に補助金を充てた。

Page 35: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 54 -

写真-19 オペレーター室

参考事例:千葉県いすみ市 商工会への運行業務の委託、

商工会からタクシー事業者への運行委託(借り上げ方式)、

主婦の活用、市庁舎のオペレーター室としての利用

→詳細は P118、P122~123 参照

・ いすみ市「夷隅乗合タクシー」は、市から商工会へと乗合タクシー運行業務全体が委託され、

商工会から大原自動車へ運行委託されている。

・ 商工会への委託は、商店街の活性化を図ることや、行政が運営するよりも柔軟な運営が可

能となることが主な理由である。

・ 大原自動車へは、車両と運転者を借り上げる方式で委託している。予約がなく乗合タクシー

が運行しなかった場合でも料金が発生する。そのため、市にとっては借り上げ料が負担となっ

ている。

・ 予約受付や配車を行うオペレーター

は、商工会が雇っている。主婦を活用

することで、人件費を削減している。

・ またオペレーター室は、商店街の空き

店舗を使うことも考えられたが、コスト

を押さえるために庁舎を利用してい

る。

参考事例:滋賀県米原市 タクシー事業者への乗合タクシーの運行委託

(メーター料金との差分補填方式)

→詳細は P132 参照

・ 米原市「らくらくタクシーまいちゃん号」は、米原市から近江タクシー湖北へ運行委託されてい

る。

・ 乗合タクシーとして運行した際、料金メーターで測った通常の利用料金と、乗合タクシーの利

用料金の差額を補填する形で、市から委託費用が支払われている。そのため、タクシー会社

としては、通常のタクシー業務と同じ収入があるため、タクシーの利用機会が増加するという

メリットがある。米原市にとっても、乗合タクシーとして運行しない時間(予約が無かった場合

の待機時間など)については、費用を支払う必要がないため、運行費用の削減に繋がってい

る。

Page 36: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 55 -

参考事例:愛知県江南市 タクシー事業者への乗合タクシーの運行委託

(距離あたり運行費用の入札方式)

→詳細は P136~137、P141 参照

・ 江南市「いこまい CAR」は、江南市から名鉄タクシーへ運行委託されている。

・ 1km あたりの運行費用の入札を行い、運行委託先を決定している。運行費用には、運行管理

や車両管理の費用も含んでいる。本格運行開始の際は、2社が入札し、名鉄タクシーが 1km

あたり 140 円で落札した。

・ 入札制のため、タクシー事業者同士の競争原理が働き、市にとっては運行費用の削減に繋

がる。タクシー事業者としては、最低収入を確保できるというメリットがある。

参考事例:東京都自由が丘 会費による無料バス運行、

植物性廃食用油のリサイクル燃料(V.D.F.)の利用による広報効果

→詳細は P150~154 参照

・ 自由が丘「サンクスネイチャーバス」は、商店や個人からの会費によって運行している。

・ 会費の額によって、チラシ内の店舗紹介欄の大きさなどが異なる。

・ 個人に関しては、会費を払わなくても利用することはできるが、頻繁に利用する人には個人

サポーターになって頂き、会費を支払って頂いている。利用者の側から「利用料は払いたい」

という声が挙がり個人サポーターを設けた。また、企業ばかりに頼るのも良くないという主旨も

あった。

表-7 サポーターの種類と会費、会員数

種類 会費月額 個人サポータ

ーは年額

件数 (2005 年 11

月現在)

特徴

メジャーエリアサ

ポーター

157,500 円 4 件 ・ チラシ、ポスター等に掲載できる(キーエリアサ

ポーターよりもスペースが大きい)。

・ 車内ラックにチラシを入れることができる。

・ バス停を設置することが可能。

・ 理事会の理事として運営に参加する。

キーエリアサポ

ーター

52,500 円 6 件 ・ チラシ、ポスター等に掲載できる(エリアサポー

ターよりもスペースが大きい)。

・ 車内ラックにチラシを入れることができる。

エリアサポータ

10,500 円 33 件 ・ チラシ、ポスター等に掲載できる。

・ 車内ラックにチラシを入れることができる。

個人サポーター 6,000 円/年 20 名 ・ チラシ・ポスターの掲載はなし。

Page 37: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 56 -

・ 個人サポーターの募集活動は、それ程積極的には行っていない。パンフレットをインフォメー

ションセンターに置くなどしている。

・ 企業の経営も厳しい状況だが、企業サポーターの脱退者が殆どいない。サンクスネイチャー

バスの理念に理解を示してくれる人が多く、「行っていることが正しい方向を向いて入れば、

必ず人はついてきてもらえる」と感じている。

・ サンクスネイチャーバスではてんぷら油などの植物性廃食用油のリサイクル燃料 V.D.F.

(Vegetable Diesel Fuel)を利用している。

・ 地域内の商店が、家庭や飲食店で生じたてんぷら油などの廃食用油を集め、V.D.F を精製し

ている。

・ V.D.F は、特に車両の改造などはせずに従来のディーゼルエンジンにそのまま使用すること

ができる。燃費や引火力、発熱量は軽油とほぼ同一である。価格は 80 円/リットルで V.D.F を

精製している商店から購入している。ガソリンよりも安価で走行できる。

・ 「リサイクル運動」という位置づけで行っている。リサイクルフェアなどへの参加も行っており、

各種の取材を受けるなど人々の関心を集めている。

写真-20 車内ラック 写真-21 チラシ

Page 38: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 57 -

写真-22 生活バス四日市

参考事例:三重県四日市市 協賛金・補助金による「生活バス四日市」の運行

・ 四日市市では、買い物や通院などの生活

を支える交通システムとして「生活バス四

日市」を地域住民が主体となり、運行して

いる(運行主体は NPO 法人生活バス四日

市)。

・ 日常生活に不可欠なスーパーや病院を結

び路線を設定し、それらのスーパーや病院

から協賛金を募った。協賛金を支払ってい

る事業者の前にはバス停を設置し、名前

をつけている。

・ 市も住民や NPO の熱意を理解し、「四日市市・市民自主運行バス事業補助金交付要綱」を制

定し、補助金による支援を行っている。

・ バス事業者の既存車両を利用することで、費用削減に努めている。

・ 現在は、運賃収入・協賛金収入・補助金収入により運営している。

参考:「生活バスよっかいち」ホームページ(http://www.rosenzu.com/sbus/index.html)

「要介護高齢者等に対する新たな移送サービスシステムの構築に関する調査研究事業」

(社団法人シルバーサービス振興会)

Page 39: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 58 -

課題12 タクシー事業者、バス事業者の経営状況の悪化

・ 乗合タクシーや自治体運営バス等の、事業主体、運行委託先となる地域のタクシー事業者な

ども経営状況が悪化している。

解決策

利用者が減少している状況では、運ぶことを軸としながらも、従来の事業以外の様々な取組み

を行うことが有効である。例えば、介護関連の事業や、病院や塾の送迎サービスの受託、物流と

の組み合わせ、地域内の徘徊者の監視、違法駐車の監視などが考えられる。

参考事例:静岡県千代田タクシー 人口透析患者・学習塾生徒の送迎サービスの運行受託、

介護タクシー・障害者支援費事業の実施

・ 静岡県千代田タクシーでは、人工透析患者の送迎サービス(課題5の解決策参照)や学習塾

生徒の送迎サービスを行っている。

・ 学習塾の郊外の校舎が廃校となったため、その生徒を中心市外地の校舎までジャンボ車両

を用いて送迎している。

・ 学習塾も少子化で競争が激しくなり、小学校1年、2年といった低学年からの囲い込みが始ま

っている。保護者は、送迎に心配を抱えており、路上駐車の問題も叫ばれている。そこで送迎

サービスが競争の上で、有効な強みになっている。

・ 千代田タクシーでは 1976 年、トランクの上に車

いすを積載できる器具を開発したことから始ま

り、1999 年のユニキャブ(特定大型車)の運行

開始、2002 年の介護サービス事業の開始、

2003 年の障害者支援費事業の開始など、多

様な取組を行っている。

・ タクシードライバーのヘルパー研修などにも積

極的に取り組んでいる。

写真-23 車いす積載タクシー

写真-24 ユニキャブ 写真-25 ヘルパー研修の様子

Page 40: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 59 -

参考事例:兵庫県近畿タクシー 子供だけで利用できる送迎タクシー「安心かえる号」、

地域の警備ビジネス・マンション生活者のサポート

・ 兵庫県近畿タクシーでは、学習塾への行き帰りなどに子供だけで乗車できる送迎タクシー「安

心かえる号」の事業を行っている。警備業の認可を受け、乗務員は警備員としての研修を受

けている。帰宅の際は、子供が保護者と手をつなぐのを見届ける様、乗務員に指導するな

ど、安全・安心の徹底を行っている。

・ また、近畿タクシーでは地域を巡回・監視する警備ビジネスや、マンション管理会社と提携し、

マンション生活者の地域生活全般をサポートするビジネスも考えられている。

参考:近畿タクシーホームページ(http://www.threeweb.ad.jp/ t̃axikobe/)

Page 41: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 60 -

4)その他の課題(制度的な課題など)

課題13 移送サービス提供圏域の変化

・ 病院の医療圏、タクシーの営業圏域、商圏、学校区、運輸支局の圏域などを考慮する必要が

ある。圏域の境界などに位置する場合、申請の手間など、制度面の問題が生じる可能性が

ある。

○市町村合併

・ 市町村合併が行われる場合は、合併する市町村の移送サービスの現状も考慮する必要があ

る。合併後に移送サービスを存続できるか等といった課題が生じる。

解決策

複数の圏域を跨る場合は、制度面の問題(タクシー営業圏外なので運行ができない、複数の運

輸支局に申請が必要、など)が生じないか確認する。

同一の医療圏、商圏内の市町村等と連携して、移送サービスを運行できないか検討する。

表-8 主な圏域の例

圏域の種類 説明

医療圏 二次保健医療圏(市区町村単位)の範囲(送迎バスの運行範囲の

把握に活用)。

タクシー等の営業圏 市区町村内タクシー事業者などの営業区域。(道路運送法施行規

則第5条)

学校区 公立・国立・私立学校の通学範囲(スクールバスの運行範囲の把

握に活用)。

商圏 第一次商圏(市区町村単位、場合によっては第二次商圏まで)の

範囲(送迎バスの運行範囲の把握に活用)

その他、タクシー無線の区域、CATV のサービス地域、町内会の区域など(解決策の検討におい

て通信手段を考える際に活用)。

参考:「要介護高齢者等に対する新たな移送サービスシステム構築のためのケーススタディに関する

調査研究事業」(社団法人シルバーサービス振興会)

○市町村合併

市町村合併の予定がある場合は、合併する他の市町村の移送サービスの内容を的確に把握

し、自らの移送サービスが合併後も存続できるか、他の市町村の移送サービスと連携できないか、

合併後に新交通システムを作成し効率性・利便性を高めることができないか、といったことを検討

する必要がある。

Page 42: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 61 -

参考事例:千葉県いすみ市 市町村界を越えた生活圏でのシャトルバス運行

→詳細は P117 参照

・ 千葉県いすみ市は、高校生の通学やまとまった買物など生活圏は茂原市となっている。そこ

で、2001 年 4 月から、旧夷隅町の地域から市町村界を越え生活圏の中心である茂原駅へ向

かうシャトルバスを運行している。

・ 朝の通学の時間帯では、立ち客も出る程、利用されている。

・ 運行は通年運行。1日あたり4往復。運賃は、旧夷隅町内は大人 100 円、子供 100 円。夷隅

町-茂原駅間は大人 500 円、子供 200 円。定期券や回数券も発行している。収支状況は、収

入と支出がほぼ同程度。町からの委託金額はそれほど大きくない。

Page 43: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 62 -

課題14 自治体内の担当課の連携不足

・ 交通担当と福祉担当など、市町村内の担当課の連携が不足している。

・ 市町村が所有する車両についても、担当する課の違い等により、最適なマネジメントが行われ

ていない。

解決策

コストの面でも効率的な移送サービスを構築するためには「通勤や通学は交通担当、高齢者や

障害者の移動は福祉担当」といった縦割りではなく、複数分野が連携して、地域全体の総合的な

交通計画を作成する必要がある。

予算面でも、交通分野と福祉分野の予算や補助金を組み合わせて活用するといった、効率的

なマネジメントを行う必要がある。

参考事例:大分県豊後大野市(旧緒方町) 補助金を組み合わせて活用したコミュニティバス

・ 大分県豊後大野市(旧緒方町)の「おがたコミュニティバス」では、複数の用途を共同運行に

移行すると同時に、補助金も組み合わせている。スクールバスに対する補助金、過疎地域の

代替バス運行費補助金、患者輸送バスの補助金を組み合わせて効率的に活用している。

・ 補助金の制度について、スクールバスは台数、代替バス運行費補助金は距離、患者輸送バ

スは便数、といった形で基準や管理の方法が異なるので、申請などに苦労を要している。ま

た補助対象となる用途を複合しているため、申請の際の説明も難しく(「スクールバスなのに

一般客も乗せているではないか」といった意見など)、制度的な課題も残っている。

Page 44: 第2章 過疎地の課題に対する解決策 · 課題9 待合い場所が少ない(停留所問題) 解決策 参考事例 ・スーパーや病院、コンビニエンスストアなど

第2章 過疎地の課題に対する解決策

- 63 -

課題15 運営協議会の設置、過疎地/福祉有償運送許可の申請

・ 過疎地有償運送や福祉有償運送の許可が得られない、運営協議会の設置などをどのように

提案・申請すれば効果的か分からないといった課題がある。

解決策

特に過疎地有償運送に関しては、地域のタクシー事業者やバス事業者の理解を得ることが重

要になる。そのために、タクシー事業者やバス事業者と共存できる仕組み(運行はタクシー事業者

やバス事業者に委託する、利用範囲を制限する等)を考案することが有効である。実際に、タクシ

ー事業者の理解が得られず、通常のタクシーによって交通手段が確保されているとされ、過疎地

有償運送運営協議会の設置が認められなかったケースもある。

近隣市町村と共同や都道府県全体による運営協議会の設置の可能性を検討する。特に福祉

有償運送に関しては、都道府県が運営協議会の設置を促進している例や、市町村の広域連携に

よる運営協議会の設置などの例が見られる。

参考事例:長野県中川村 運営協議会の設置

→詳細は P104 参照

・ 長野県中川村では 2004 年の中山間地域等生活交通確保支援事業の開始時に、運営協議

会を設立した。交通計画策定のため、委員会を設けていたので、それを運営協議会へ移行す

る形となった。

・ 過疎地有償運送運営協議会・福祉有償運送協議会は同日に開催している。

・ 交通計画策定のための委員会にはタクシー事業者は加入していなかったが、運営協議会に

は加わった。

・ 特に過疎地有償運送ではタクシー事業者との合意形成が困難な場合が多く、福祉有償運送

でもタクシー事業者が反発することは考えられる。中川村でも県のタクシー協会長と議論する

こともあった。また、過疎地有償運送の運行範囲を狭く限定するなど、近隣タクシー事業者へ

の影響を最小限とする様、努めている。

参考事例:神奈川県 県全体での福祉有償運送運営協議会の設置促進

・ 神奈川県では、県が誘導する形で、福祉有償運営協議会を設置している。

・ 県全体を6つのブロックに分け、それぞれの市町村が連携した形で、福祉有償運送運営協議

会を設置しており、福祉有償運営協議会が存在しない市町村が無い様にしている。