卒業研究報告書 不登校問題の現状と課題 ―発達課 …卒業研究報告書...

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卒業研究報告書 不登校問題の現状と課題 ―発達課題の視点からの考察― 学籍番号: 07118048 名:田 口 善 弘 指導教員:藤 城 有 美 子 提出年月: 2009 9

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Page 1: 卒業研究報告書 不登校問題の現状と課題 ―発達課 …卒業研究報告書 不登校問題の現状と課題 ―発達課題の視点からの考察― 学籍番号:07118048

卒業研究報告書

不 登 校 問 題 の現 状 と課 題

―発達課題の視点からの考察―

学籍番号:0 7 1 1 8 0 4 8

氏 名:田 口 善 弘

指導教員:藤城有美子

提出年月:2009 年 9 月

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要約

【目的】本研究は、今日の日本における「不登校問題の現状と課題」を発達課題の視点から明ら

かにすることを目的として実施した。

【方法】文献研究を行った。収集した情報を用いて、不登校の現状と定義、現時点での対応を整

理したうえで、不登校の問題を発達課題の視点から論じた。

【結果】現状については、不登校児童生徒数は依然として上昇傾向にあり、学年があがるにつ

れて増加、中学 1 年生で急増していることが明らかとなった。きっかけとしては本人に関わる問

題が多く、不登校の継続理由も本人の内面的な要因が大きかった。学校側の取組によって約 3

割の児童生徒が再登校をしているが、登校を絶対視した管理的な取組を危惧する声もあった。

不登校児童生徒にみられる複雑な心身の変調には、周囲からの登校への働きかけや子ども自

身の罪悪感により二次的に発生したストレス被害の側面もあると指摘している研究者もいる。不

登校の発生は現代社会の競争主義、管理主義などの価値観により家庭や学校、地域社会の環

境が歪められたことに起因する、と考えるならば、不登校はその環境変化の中で発達課題を乗

り越えられずに発生した自然な自己防衛的な反応である、と捉えることもできる。

【考察】前段階の発達課題の未達成が後の発達課題に影響し最終的に発達課題を乗り越えら

れなくなった時点で、子どもたちは不登校という自己防衛の反応をとり、未解決な発達課題の問

題に取り組もうとするのではないかと考えられる。その意味で、エリクソンによる乳児期から青年

期までの一連の発達課題が不登校には関係するが、特に、子どもたちの人間関係の重点が親

子関係などのタテ関係から友人関係などのヨコ関係へ移行できないこと、能力主義の環境下で

劣等感にさらされ自己肯定感が得られないこと、画一化された生き方を強いられるなかで本当

の自分が分からなくなるというアイデンティティの喪失との関係が注目される。

【結論】不登校は、乳児期から青年期までの未達成の発達課題を乗り越えるための自己防衛的

な反応として起こっている可能性があり、不登校を発達課題の視点から捉えなおすことには意

義がある。そして、不登校には、不登校の子どもたちの心身の不調を軽減するための対応や発

達課題を乗り越えるために必要な対人関係や生活体験を見出し、さらには環境としての家庭や

学校、地域社会の望ましいあり方を考えていく契機になるという積極的な意味があることが明ら

かになった。

キーワード

不登校,登校拒否,発達課題,思春期,社会の変化

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目次

第1章 序論 1

1. 研究の背景 1

(1) 不登校児童生徒への登校の強制 1

(2) 不登校児童生徒との必要な関わり 2

2. 問題提起 3

第2章 目的および方法 4

1. 目的 4

2. 方法 4

第3章 不登校とその問題 5

1. 不登校の定義と現状 5

(1) 不登校の定義 5

(2) 不登校の現状 6

a.不登校児童生徒数 6

b.不登校のきっかけ 7

c.不登校状態が続いている理由 9

2. 不登校への対応 9

(1) 不登校への対応策 9

a.学校の取り組み 9

b.専門家の取り組み 11

(2) 不登校対応における課題 13

a.文部科学省の対応とその課題 13

b.学校・地域・社会の変革と児童生徒の発達課題 14

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第4章 こころ・からだ・文化からみた不登校 16

1. 不登校児童生徒の心理的側面 16

2. 不登校児童生徒の身体的側面 20

(1) 不登校児童生徒の身体的症状 20

a. 心身症的愁訴としての理解 21

b. 心身症的愁訴の治療プロセス 22

3. 不登校児童・生徒を取り巻く社会と文化 23

第5章 児童・青年期の発達課題 26

1. 発達課題とは 26

2. 児童期の発達課題 29

3. 青年期の発達課題 32

第6章 考察:発達課題から見た不登校 34

1. 不登校児童生徒の発達課題 34

(1) 不登校の積極的意味としての発達課題と社会環境 34

(2) 不登校の心身症的症状と発達課題 35

(3) 不登校児童生徒の発達課題 36

2. 不登校問題への提言 40

第7章 結論 43

謝辞 44

引用文献 45

人間総合科学の理解―卒業研究を振り返って― 49

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第1章 序論

1. 研究の背景

(1) 不登校児童生徒への登校の強制

私は、ここ 10 年間、ストレスを専門に扱うカウンセラーとして仕事をしてきたが、その中で多く

の不登校の小中学生や高校生、そしてその親や家族、学校関係者に関わってきた。これらの不

登校に関する相談件数は、年を追うごとに増えている現状であり、「なぜ、不登校が増えている

のか」、「不登校にはどのような意味があるのか」という問いに対する答えを自分なりに得たいと

考えてきた。

河合は、1986年に出版した本の中で、「校長を始めとする多くの現場教師は、『登校拒否』児

達を(中略)仮病か詐病のようなもの、あるいは家庭のしつけが不十分・不適切であったための

結果としてのワガママ病のようなもの、という本音に近い見解を持っている」1)と述べている。ここ

でいわれている「登校拒否」は、その後、「不登校」と言い換えられ、時代の変遷の中で、不登校

がワガママ病であるという見方はしないようになったはずである。しかし、その見方は本当にな

くなり、不登校に対する別の捉え方が定着してきているのだろうか。私自身、仕事の中で子ども

の親や家族、そして周囲の大人たちの中に、そのような「詐病、仮病、怠け」という見方が依然と

して残っており子どもたちに登校を強制し続けている実態を見てきた。親や学校側にとっては、

詐病や怠けは「不登校」ではないのだから、まずは「怠けではない」ということを確認するために

厳しく接して、それでも学校に行けないようであれば援助をしようということかもしれない。しかし、

その過程で子どもたちが心に傷を負い、状況を悪化させ回復を遅らせている可能性はないの

だろうか。

ジャーナリストの江川紹子は、2001年に出版した本の中で、「本書で取り上げたケースには、

子どもを登校させるためにいわゆる登校刺激を繰り返す学校や教育委員会、強硬策をアドバイ

スする専門家も登場する。現在では、ここまでやる人は、少ないだろうと思う。とはいえ、(中略)

学校に行かない子どもはわがままな落伍者であるかのようなイメージは依然として根強い」2)と

述べている。そのうえで、江川は、「学校の外で、自分の力で自分のやりたいことを見つけ、成

長している子どもたちがたくさんいることも忘れたくない。インタビューに応じてくれた不登校経

験者のこれまでの生き方に耳を傾けていると、私たち大人は、子どもが学校に行くか行かない

かだけに目を奪われていて、もっと大事な問題を忘れてはいないか、という気になってくる。彼

らが『やりたいこと=夢』を見つけてきた経緯、彼らの生きる力が育まれていった過程の中に、そ

の大事な問題を考えるヒントがあるのではないだろうか」3)と言っている。

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(2) 不登校児童生徒との必要な関わり

「登校の強制」とは、逆の問題も指摘されている。不登校については,国として、1992(平成

4)年に「登校拒否(不登校)問題について(報告)」が出されたが、さらに不登校が増加し続けて

いるという状況を受け、2002年9月に「不登校問題に関する調査研究協力者会議」が設置され、

2003年3月、「今後の不登校への対応の在り方について(報告)」が取りまとめられた。その2003

年の報告でも、「児童生徒を全人的に受け止めることなく、また状況への配慮や理解し共感しよ

うとする姿勢なしに、強引な登校への促しを行うことが不適切であることは当然であり、そのよう

な機械的な働きかけにより児童生徒やその保護者等を追い詰めるようなことがあってはならな

い」4)と指摘している。しかし、その一方で、「なお一部では、『平成4年報告』における『登校拒否

(不登校)はどの子どもにも起こりうるもの』、『登校への促しは状況を悪化させてしまうこともある』

という趣旨に関して誤った理解をし、働きかけを一切しない場合や、必要な関わりを持つことま

でも控えて時機を失してしまう場合があるということも指摘されており、そのような対応について

は、見直すことが必要である」4)と注意を促している。つまり、「登校への働きかけの在り方を短絡

的にとらえ、画一的に『する』とか『しない』といったように対処するべきではない。」4)と主張して

いるのである。私の体験では、それは学校側だけでの問題ではない。親の場合にも「学校に無

理には行かせない」ということを納得した場合、今度は、家庭でどのように子どもに働きかけたら

よいのか困惑して、必要な関わりを持つことまで控えてしまうという実態があるように思われるの

である。

この問題について、同報告書では、「登校への働きかけの適否を考える上で大切なのは、不

登校児童の状態や不登校となった要因・背景等を把握した上で、適時・適切に、かつ個々の状

況に応じて対応するといった視点である。」4)と述べている。しかし、現実の個々のケースを考え

た場合には、「不登校」という一つの言葉ではとらえることの出来ない多様性があり、時間の経過

の中で状況も変化していく。そのような中で、それぞれの不登校の子どもにとって「必要な関わ

り」が何であるかをその都度見出していくことは簡単なことではないだろう。

すでに紹介したように、江川は、「学校に行くか、行かないか」を超えた、子どもの「成長を促

進し、生きる力を育む」という視点、すなわち発達課題の視点に立つことの重要性を示唆してい

る。その視点が不登校の子どもを囲むすべての関係者の中に共有されれば、その子どもの心

をもっと理解しようと努めるようになり、「必要な関わり」を見出して援助を深めていくことにつなが

らないだろうか。その意味で、不登校の現状と課題を発達課題の視点から考察することには大

きな意義があり、その研究内容は私自身の今後の不登校の児童生徒や高校生に対する援助の

指針となり、さらには、不登校の子どもたちに関係する多くの大人たちへの有益な情報となるこ

とが期待されるのである。

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2. 問題提起

不登校は義務教育である小中学校において、児童生徒が必要な発達課題を段階的に達成し

ながら成長していくプロセスの中で起きている。その意味では不登校の問題はそこで終わるも

のではなく、中学卒業後の生活、高校や大学へ進学した後の問題、さらには生涯にわたる発達

の視点で捉えなおさざるを得ない。そして、発達とは本人と環境との関係性の中で進むもので

あり、不登校問題を考察することは人間の健全な発達に向けての、家庭や学校ひいては社会・

文化の望ましい方向性を見出すことにもつながっていく。本研究では不登校問題の現状と課題

を様々な角度から整理したうえで、最終的には、発達課題の視点から不登校について考察しよ

うとするものである。つまり、不登校問題とは、どのような発達段階を乗り越えていないために起

こっていると考えればよいのか、そして、そのような観点から不登校を積極的に捉えなおした場

合に、どのような心理的、身体的、社会的文化的成長が期待されるのか。また、これらの不登校

問題が社会に投げかけている課題とは何なのかについて考察を深めていきたい。

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第 2章 目的および方法

1. 目的

本研究は、今日の日本における「不登校問題の現状と課題」を発達課題の視点から明らかに

することを目的として実施した。

2. 方法

文献研究を行った。まず、不登校の定義と現状、現時点での対応について述べた。定義に

ついては、不登校に関する先行研究を収集し、文部科学省の視点から選択した定義を記述し

た。不登校の現状については、『平成 19 年度児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に

関する調査』の報告によった。用いた論文は、NII 情報ナビゲーターCiNii において、「不登校」

および「発達」を検索語として用い、収集した。その他、不登校、発達課題に関する参考図書等

を収集した。

最後に、これらの情報を用いて、不登校の問題を発達課題の視点から論じた。

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第 3章 不登校とその問題

1. 不登校の定義と現状

(1) 不登校の定義

まず、辞典で述べられている「不登校」の定義を紹介する。『心理学辞典』(有斐閣)での「不

登校」は、「広義には、学校に登校しないすべての状態をさす。通常は、諸種疾患のための就

学不能、親の無理解や経済的困窮による不就学、物理的困難や意図的拒否の場合を除き、登

校ができない正当な理由が存在しないにもかかわらず登校をしない、もしくは登校ができない

状態をさす」5)とされている。また、『カウンセリング辞典』(ミネルヴァ書房)では、「不登校とは狭

義の登校拒否(school refusal; 怠学、非行、身体的精神的疾患、経済的事情などの環境的圧

迫などによって登校できないものを除いた登校する意思を持ちながら不登校状態になるもの)

をさし、本人の心理的葛藤状態によって登校しないことをいう。登校拒否という名称は『拒否』の

印象が強いため不登校が広く用いられているが、いずれも病名ではない」6)とされている。前者

が、病気や環境条件などの理由がないのに、登校しない、登校できないという「現象」で定義さ

れているのに対し、後者は、現象だけでなくその背後にある「心理的葛藤状態」を想定して定義

されている。

次に、行政上の定義を見ると、文部科学省の『学校基本調査』における「不登校児童生徒」と

は、「何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しないあるいはし

たくともできない状況にあるため年間 30 日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による

者を除いたもの」7)と定義されている。なお、文部科学省の『これまでの不登校への対応につい

て』8)によれば、1991年度から、従来の年間 50日以上欠席者から 30日以上欠席者への対象

変更があり、1998 年度の調査からは「学校ぎらい」から「不登校」への名称変更が行われ、現在

の定義に至ったという経緯がある。この文部科学省の定義では「心理的葛藤」に限定せずに、

その背景となる部分にまで視野を広げ、「何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要

因・背景により」と、原因を広くとらえている。つまり、病気や経済的理由以外の「登校できない、

登校しない」という現象をそのまま捉えるという姿勢である。

本研究では、文部科学省の不登校の定義をもとに、進めていくこととする。なお、辞典で述べ

られている不登校の定義の中にもあるように、「登校拒否」という名称で言われてきたものが、

「拒否」という印象が強いため「不登校」という名称に変わってきたという経過がある。本研究で使

用する文献によっては「不登校」と同じ意味で「登校拒否」という名称を用いているものがあるの

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で、その場合には、「登校拒否」という表現を「不登校」と同じ意味で扱っていくこととする。

(2) 不登校の現状

a. 不登校児童生徒数

2007 年度の文部科学省初等中等教育局の報告 9)によれば、全国の小学校で 30 日以上の

欠席者は 23,926 人で、これは全小学生の 0.34%を占める。中学校では 105,328 人で、全中

学生の 2.91%となっている。小学校児童では 298人に 1人、中学校生徒では 34人に 1人の

割合で不登校となっているのが現状である。その数値を平成 3 年度の小学校 12,645 人(同

0.14%)、中学校 54,172人(同 1.04%)と比較すると、小学校では実数で 89%の増、割合では

2.42倍、中学校では実数で 94%の増、割合では 2.73倍に増加している。図 1 は不登校児童

生徒数の推移を示したものであるが、特徴をみると、平成 13 年度に、小学校で 26,511 人(同

0.36%)、中学校で 112,211人(同 2.81%)というピークを迎え、その後緩やかな低下傾向を見

せていたが、現状では、横ばいとなっている。しかし、少子化による児童・生徒の全数の減少を

踏まえて、割合でみると中学校では 2007(平成19)年度が最大となっており増加に歯止めがか

かっていないことが伺える。

図1 不登校児童生徒数の推移

注) 文部科学省:『平成 19 年度児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』の「不登校児童

生徒数の推移」10)より転載した。

図 2は不登校児童生徒数を学年別に示したものである。2007(平成 19)年度の数値を学年

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別にみると、学年が上がるにつれて増加している。特に、中学 1 年で急増していることが特徴

である。また、不登校の状態が前年度から継続している児童生徒数も学年が上がるにつれて

増加しており、小学 6 年生では 43.1%が、中学 3 年生では 62.9%が前年度からの継続とな

っている。

図2 学年別不登校児童生徒数

注) 文部科学省:『平成 19 年度児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』の「学年別不登

校児童生徒数のグラフ」11)より転載した。

さらに、『児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』の都道府県別不登校

児童生徒数(国・公・私立)(2007年度速報値)12)を見ると、1,000人あたりの不登校児童生徒数

の全国平均が 11.8人であるが、最低の秋田県・愛媛県の 8.9人から、最高の山梨県の 15.1ま

で、ばらつきは見られるものの、各県に見られる全国的な現象であることが伺える。

b. 不登校のきっかけ

『児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』13)では、不登校となったきっか

けについても複数回答可で尋ねており、その結果が報告されている。主なものを抜粋して表 1

に紹介する。「その他本人に関わる問題」がきっかけとされていること、つまり、その理由が外部

の原因だけでは説明できない場合が約 4 割と他に比べて高率であることが特徴である。また、

それに続くものとして、小学生では 2位の「親子関係」、3位の「友人関係」、中学生では 2位の

「友人関係」といった人間関係の問題があげられている。

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表1 不登校となったきっかけ

小学生 中学生

1位 その他本人に関わる問題 (39.5%) その他本人に関わる問題 (38.6%)

2位 親子関係をめぐる問題 (18.8%) いじめを除く友人関係をめぐる問題(19.8%)

3位 いじめを除く友人関係をめぐる問題 (12.0%) 学業の不振(10.4%)

4位 家庭の生活環境の急激な変化 (9.8%) 親子関係をめぐる問題(9.3%)

5位 病気による欠席 (9.0%) 病気による欠席(7.2%)

注 1) 文部科学省:『平成 19年度児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』の「不登校とな

ったきっかけと考えられる状況」13)の値をもとに田口が作成した。

注2) 選択肢「その他」の回答結果については省略した。

また、平井は「不登校の背景要因としてはこれまでは本人の性格や環境、家族関係に起因す

るもの」14)と考えられてきたとして、夏野の論じている「登校拒否のきっかけと関連要因」14)を紹

介しているが、表2はそれらをまとめて提示したものである。

表2 登校拒否のきっかけと関連要因

きっかけ 背景要因

クラス・班替え

進学

転校

交友関係のトラブル

いじめ

学習・クラブなどの活動成績の急変

家庭崩壊

親の離婚

肉親の死 など

①本人の要因

自主性・自発性の乏しさ、仲間とのつきあいの未熟さ、情動コントロール

の弱さ、生活技術、体験の狭さ、心理的独立の挫折など

②家庭環境の要因

親の過干渉・過保護的な養育態度、偏った育児観、硬い価値観、強い期

待など

③学校・指導上の要因

個性的な成長・発達をする子どもへの個別的指導力と指導体制の弱さ

④社会的な要因

マクロな社会・文化的な背景(技術革新・産業構造の変化、高学歴社会、

マスメディアの発達、知育偏重、受験競争、コミュニティーの弱体化、核

家族化など)

注) 夏野良司:「登校拒否発生に関する要因」,1994 14)の記載をもとに田口が作成した。

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C.不登校状態が続いている理由

次に、『平成 19 年度児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』15)では、不

登校状態が継続している理由について複数回答で尋ねており、その結果が報告されている。

主なものを抜粋して表 3 に紹介する。特に、「不安など情緒的混乱」、「無気力」といった本人の

内面的な要因が理由とされており、その 2つを合わせると、小学生では約 7割、中学生では約

6割を占め、他の理由よりも高率であるのが特徴である。

表3 不登校状態が継続している理由

小学生 中学生

1位 不安など情緒的混乱 (42.0%) 不安など情緒的混乱 (33.4%)

2位 無気力 (28.1%) 無気力 (28.6%)

3位 いじめを除く他の児童との関係 (8.7%) いじめを除く他の生徒との関係 (14.1%)

4位 意図的な拒否 (9.8%) あそび・非行 (10.9%)

5位 その他学校生活上の影響 (5.2%) その他学校生活上の影響 (7.4%)

注 1) 文部科学省:『平成 19 年度児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』の「不登校が

継続している理由」15)の値をもとに田口が作成した。

注2) 選択肢「その他」の回答結果については省略した。

2. 不登校への対応

(1) 不登校への対応策

a. 学校の取り組み

2003 年 3 月に出された文部省(現.文部科学省)の『今後の不登校への対応の在り方につ

いて(報告)』16)は、「不登校問題に関する調査研究協力者会議」が不登校の現状、不登校に対

する基本的な考え方、学校の取組、関係機関との連携による取組、中学校卒業後の課題、教育

委員会に求められる役割、国に求められる役割の視点から審議した成果を取りまとめた報告書

である。その中で、不登校となった児童生徒に対し、きめ細かく柔軟な対応を事後的に行うため

の学校における取組について述べられた内容を要約して表 4 に紹介する。これらの事項への

取組を日常的に充実することは、同時に、すべての児童生徒や、不登校の傾向はあっても完全

な不登校状態にはない児童生徒に対する取組としても重要である、としている。

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表4 学校の取組(きめ細かく柔軟な個別・具体的な取組)

区 分 具 体 的 内 容

校内の指導体制及び

教職員等の役割

学校全体の指導体制

の充実

校長のリーダーシップ、校長・教頭・学級担任・生徒指導主事・

教務主任・学年主任・養護教諭・スクールカウンセラー・相談員

等の連携協力と情報共有・定期的会合、援助が必要な児童生

徒の早期発見とサポートチームの設立、外部機関との協力、

組織の一元化と柔軟な運営。

コーディネーター的

な不登校対応担当の

役割の明確化

学校の内外の連絡調整の役割を果たす中心的かつコーディ

ネーター的な教員を明確に位置づける。事後的な対応だけで

なく不登校傾向がある児童生徒への早期対応も行う。

教員の資質の向上

児童生徒に対する共感的理解の基本姿勢と指導力、児童生徒

の存在感と自己実現の喜びを育てるような集団の育成能力、

不登校児童生徒に関する複数教員での事例研究、初期の対

応に必要な基礎的な精神医学等の知識の習得(専門的判断

はしない)。

養護教諭の役割と保

健室・相談室等、教室

以外の「居場所」の環

境・条件整備

養護教諭の持つ児童・生徒に関する情報を学校内で共有、対

象となる児童・生徒の「居場所」の確保、保健室や相談室と空き

教室等の活用、配置の工夫やスペースの確保による居場所の

充実、外部との通信機器、養護教諭の複数配置。

スクールカウンセラー

や心の教室相談員等

の外部人材との連携

協力

スクールカウンセラーと学校側の連携の強化、情報共有、専門

的援助(児童生徒への対応・保護者との相談・教員への対応と

助言・教員の研修・専門機関への紹介・訪問型の支援)、スー

パーバイザー的な者の配置。

情報共有のための個

別指導記録の作成

不登校児童生徒の個別の「指導記録」づくり、主観を排した客観的事実の記述、保護者

の見解も踏まえて作成、使用についての保護者の理解、個人情報保護に配慮して保

有・引継ぎ・活用する。

家庭への訪問等を通

じた児童生徒や家庭

への適切な働きかけ

登校への働きかけについては時期・態様に応じた適切な配慮をする。家庭訪問などを

通じて、児童生徒と関わりを持ち続け、生活や学習の状況把握をし、児童生徒や保護者

が必要としている支援を行う。

不登校児童の学習状

況の把握と学習の評

価の工夫

学校外の施設(適応指導教室・民間施設等)における児童生徒の学習状況等を把握す

る。その学習計画・内容が適切な場合には評価・記録して通知表・その他の方法で、児

童生徒・保護者・施設に伝えることでその学習意欲に応える。

児童生徒の再登校に

当たっての受入体制

再登校の際には、温かい雰囲気、自然な形での受入、徐々に学校生活へ適応できるよ

うな指導上の工夫が必要。教職員間での再登校児童生徒に関する情報共有、教室以外

の「居場所」の積極的な活用。

児童生徒の立場に立

った学級替えや転校

等の措置

いじめ、教員の体罰・暴言などが原因で不登校になっている場合には、問題解決に適

切に対処するとともに、不登校児童生徒の学級替えや転校の措置を柔軟に活用する。

進級・卒業認定の弾力的取り扱いに加え、保護者の意向を踏まえて、補充指導や原級

留置の要望にも対応する。

注1) 文部科学省:『今後の不登校のあり方について(報告)』16)の記述をもとに田口が作成した。

文部科学省の『平成 19 年度児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』17)

によれば、不登校児童生徒への指導結果状況として、小学校で 7,795 人(32.6%)、中学校で

31,671 人(30.1%)の子どもが学校の指導によって登校するようになった。また、小学校で

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4,974 人(20.8%)、中学校で 21,611 人(20.5%)が登校しないまでも、好ましい変化を示した。

全体でも 30.5%が指導の結果、登校できるようになり、20.6%が好ましい変化を示している。

同調査において、登校に至るような効果があったとされる指導の内訳は、対象人数の多い順

に以下のとおりである。

1. 家庭訪問を行い、学業や生活面での相談に乗るなど様々な指導・援助を行った。

2. 登校を促すため、電話をかけたり迎えにいくなどした。

3. 保護者の協力を求めて、家族関係や家庭生活の改善を図った。

4. スクールカウンセラーが専門的に指導にあたった。

5. 保健室等特別の場所に登校させて指導にあたった。

6. 不登校の問題について、研修会や事例研究会を通じて、全教師の共通理解を図った。

7. 教師との触れ合いを多くするなど、教師との関係を改善した。

8. 友人関係を改善するための指導を行った。

9. 全ての教師が当該児童生徒に触れ合いを多くするなどして学校全体で指導にあたった。

10. 様々な活動の場面において本人が意欲を持って活動できる場を用意した。

11. 養護教諭が専門的に指導にあたった。

12. 教育相談センター等の相談機関と連携して指導にあたった。

13. 教育相談担当の教師が専門的に指導にあたった。

14. 授業方法の改善、個別の指導など授業がわかるようにする工夫を行った。

15. 病院等の医療機関と連携して指導にあたった。

注) 『平成 19 年度児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』の「『指導の結果登校する又

はできるようになった児童生徒』に特に効果のあった学校の措置」18) を元に田口が作成した。

b. 専門家の取り組み

次に、カウンセラーなどの専門的な立場では、どのように「不登校」に対応してきたのかを整

理してみたい。小泉は 1981 年に出版された『心理学辞典』(平凡社)の中で、「学校恐怖症」と

して「全国の教育相談所、児童相談所、病院、少年センターなどの相談機関で、外来治療として、

遊戯療法やカウンセリングが行われ、ごく一部で収容治療、訪問指導などが試みられているが、

治療法が確立している段階にはいたっていない。思春期の登校拒否は、回復までに 1 年から

2、3 年かかる場合が少なくなく、相談の需要に応じきれず、将来、社会問題となる危惧もないと

はいえない」19)と述べている。1981年当時、小泉は「登校拒否」を「学校恐怖症」の「治療」という

枠組みで捉え、「その治療法が確立される段階には至っていない」と考えた。また、不登校相談

の需要増加という今日の様相も予測していた。

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小林は、1999 年に出版された『心理学辞典』(有斐閣)で、「不登校児本人に対しては、遊戯

療法、カウンセリング、行動療法などの専門的な心理的援助を行う一方で、保護者をカウンセリ

ングによって専門的に支え、家族側の要因がある場合にはそれを改善する必要がある。また、

必要に応じて、学校側に対して、本人、保護者への対応の仕方や、再登校に備えて学級集団

の受け入れ体制の確立などについて、コンサルテーションを行う必要がある」20)としている。ま

た、1999 年に出版された『カウンセリング辞典』(ミネルヴァ書房)で丸島は「臨床的援助あるい

は治療としては、不登校の善悪を論じて登校を強制することなく、本人の意思や自己決定を尊

重し、心理状況、発達過程を把握し不登校の積極的意味の洞察を試み、関係者が援助目標を

模索しつつ本人とかかわり合う努力が重要である」21)と述べている。

さらに、2001 年に出版された『現代カウンセリング辞典』(金子書房)で、田上は不登校児に

対する問題解決的カウンセリングとして「チームによる支援が重要である。まず、いじめや精神

的障害などの不登校以外の問題がないことを確認する。そして子どもの特徴と学校環境の特徴

を明らかにし、子どもと学校環境の相性に注目して援助をすすめていく。まず、子どもがどこに

いるのかみる。①家庭、②適応指導教室や教育センターなどの学校以外の施設、③保健室や

特殊学級などの学校内、④教室、の 4 つの場がある。それぞれの場で子どもの状態をみる。①

よい人間関係があるか、②意味あることがやれているという実感があるか、③楽しいという思い

をもてているか、という 3 つの側面をみる。この 3 側面が実現されると子どもはいきいきしてくる。

よい人間関係ができ、精神的に元気になると次の場に移るエネルギーと勇気が湧いてくる。そ

のとき、次の場に移るための橋渡しをする援助者が必要になる。子どもがクラスに来たときが援

助のチャンスであり、人間関係づくりが援助のポイントとなる。」22)と述べている。

2004 年発行の『心理臨床大辞典〔改定版〕』で、河原は「不登校の成因論としては、本人のパ

ーソナリティー、発達課題、家族力動、学校状況、社会状況などさまざまなレベルでの議論があ

り、援助のあり方もその立場によっていずれかのレベルに重点を置いたものとなっている」23)と

して、専門的な見方としても様々な議論があることを紹介している。そのうえで、河原は「学校不

適応とみられている不登校に意味を見いだそうとする立場に注目すべきである。不登校を示す

子どもに学校を勧めるのは望ましくないとするのは、広く見られる見解であり、例えば平井信義

は自主性の発達を重視し、待つことに徹した援助法を提唱している(中略)。また、不登校を『内

閉』としての積極的意味をも有するものとしてとらえた山中康裕の観点は注目すべきである。」23)

として、不登校に積極的意味を見出そうとする立場に注目している。さらに、河原は「不登校を

示すのが成長途上の児童・青年であることから、不登校は本人の成長過程における何らかの課

題の存在を示していると考えることは意味をもつ。原因探索に終始するのではなく、どんな課題

を示しているのかと考えるのである。遊戯療法やカウンセリングによる本人との言語的・非言語

的交流によって、また、親とのカウンセリングによって、あるいはその他の方法(キャンプ、治療

的家庭教師、家庭訪問、適応学級など)によって、課題が深められていく」23)と述べており、発達

課題の視点から取組の方向性を整理することの重要性を指摘している。

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(2) 不登校対応における課題

a. 文部科学省の対応とその課題

文部省(現.文部科学省)の 『今後の不登校への対応の在り方について(報告)』の中では

「不登校の要因や背景としては(中略)、家庭、学校、本人に関わる様々な要因が複雑に絡み合

っている場合が多く、さらに、その背後には、個人の生きがいや関心の『公』から『私』への私事

化、社会における『学びの場』としての学校の相対的な位置づけの変化、学校に対する保護者・

子ども自身の意識の変化等、社会全体の変化の影響力が少なからず存在している。そのため、

この課題を教育の課題としてのみとらえて対応することには限界があるのも事実」24)であり、「不

登校は、その要因・背景が多様であることから、学校のみでは解決することが困難な場合も多い

課題である」24)と述べ学校を中心にした教育の課題としての「不登校」への取組の限界を認めて

いる。本報告書では、それを踏まえて「学校の取組の強化のみならず、そのために必要な学校

への支援体制や関係機関との連携協力等のネットワークによる支援、家庭の協力を得るための

方策等についても検討を行った」24)と述べている。つまり、不登校は大きな変化をとげた「社会

的状況」との関係性の中で起こった問題であるので、教育の課題として「不登校」を扱うことには

限界があるが、それを承知で、「まずは公教育としての責務を果たそうと考え」24)て、学校の取組

を充実させ、さらには学校外の関係機関や家庭との協力体制を築いていくことを課題としている

のである。

しかし、そのような文部科学省の考え方による不登校対応には大きな問題があるという指摘も

ある。久保らは「不登校とは社会的現象ならびにそれに付随する個人現象であり、個人精神病

理として理解されるものではない。」25)という立場から、「再登校こそ問題の解決と誤って、表面

的現象にこだわった対策でいたずらに子どもたちをふりまわすようなことがあってはならない。

『自立する力』『成長発達』ということと再登校ということは、直接的にも間接的にも関連のある事

象ではない」26)という。そして、「登校拒否対策に奔走し、生徒指導部などの指導力が発揮でき

る指導体制をつくっていくことが、かえって子どもたち全体を息苦しくさせはしないか。こういっ

た指導体制がつくられることによって、『情報交換』はやがて情報チェックに姿を変え、校則同様

それに縛られて、さらには保健室をもまき込みながら管理化の構造がいちだんと進んでいって

しまうということになりはしないだろうか。そうなると子どもたちは、いよいよ一息つく暇さえなくな

ってしまうであろう。もっと、『ゆるさ』『余裕』『潤い』などが必要なのである」27)と述べ、「学校」が

指導力を発揮して不登校児童生徒の「登校」を促進する対策を講じること自体の弊害を指摘し

ている。つまり、「『登校拒否問題の解決』を『自立、成長』という軸で見る以上、『登校』という証だ

けにこだわってはならない」28)というのである。つまり、「『3 割の再登校をする』子どもたちにとっ

ても、逆に 7 割の再登校しない子どもたちにとっても、これからの生き方こそが組み立てられて

いかなければならないのであり、そういった角度からの支援体制と社会的認識が必要なのであ

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る」28)と主張している。そして、「発達課題をこなさなくとも、社会に順応してとり込まれていさえす

れば、問題として浮きあがってくることもない(中略)。つまり、その子どもが、極端な場合発達し

ていなくても社会に順応していさえすればなんの問題も浮上してこない」29)と指摘したうえで、

「かならずしも登校している者はすべて学校に適応しているとはかぎらない(中略)。不登校とい

う現象を起こしている者だけが『学校不適応』として認識されるものではない」30)として、「登校」と

いう証にこだわることで、逆に「登校している者」の発達の問題を見逃してしまうことの危険性も

指摘している。

b. 学校・地域・社会の変革と児童生徒の発達課題

久保らは、真に検討すべき課題として「学校は子どもたちの『成長』『自立』にとってふさわし

い環境となりえているのかどうかの検討」31)をあげている。そして、「子どもたちの多様さに比べ

れば、現実にはまだまだそれに対応するほど選択肢が多いとは言えません。(中略)社会全体

がいろいろなかたちで支援の体系化をめざしていかなければなりません」32)と述べて、「学校自

体の見直し」と「学校以外の選択肢を増やすこと」の重要性を指摘している。さらには、「不登校

問題の本質は、不登校をネガティブなものとして見る地域文化の問題です。私たちは、不登校

をネガティブに見る社会によって心を傷つけられた不登校の子ども・親としばしば出会います。

多くの場合、その傷つきが二次的『症状』を生じさせていました」33)と述べ、社会全体が「不登

校」に対して持っている見方を変革する必要性を強調している。久保らは「基本的に学校に戻る

ことを否定するものではないが、ただその子どもたちの個別的な在り方が問われる」34)といって

いる。つまり、登校を絶対視する立場や考え方こそが問題で、子どもたちを個別に見ていくこと

の重要性を主張しているのである。

高垣は、「登校拒否が不安や緊張から生じる防衛反応だとしても、では何が原因で不安や緊

張が高まるのか」35)について、「登校拒否が生じる直接のきっかけは学校にあるが、それはあく

まで誘因であって、根本的な原因(真因)は、本人の性格特徴や親の養育態度、親子関係にあ

る」35)という立場と「登校拒否はゆがんだ学校の状況にたいする自己防衛的な回避反応であっ

て、原因はあくまでも、競争主義・管理主義・体罰やいじめ、差別的な扱いや侮辱、裏切りなど

のはびこる学校の状況にある」35)という二つの立場があるとしている。しかし、「登校拒否の増加

を現代社会の社会病理のレベルで考えれば(中略)学校も子ども(家庭)も登校拒否を生じさせ

るきっかけでしかなく、真の原因は学校や家庭を企業戦士養成レースにまきこむ企業社会にあ

り、その意を受けた政治にある」36)と述べ、「子どもたちの示す問題の背景には、学校のみなら

ず家庭や地域のかかえる問題、またはそれを規定する社会的矛盾があり、それらの問題や矛

盾を棚上げにして根本的な解決をはかることはむずかしい。ゆえに、そのことは国民的な課題

として位置づけられなければならない」37)と述べている。

しかし、同時に高垣は登校拒否・不登校をめぐる発達の危機に注目して、「そのような社会的

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矛盾のなかに置かれながらも、日々教育実践は行われているのであり、(中略)そこには、日々

直接子どもとかかわりながら、子どもの人格発達を援助するという独自の責任と課題がある」38)と

指摘し、「まず、第一に、噴出する子どものさまざまな『問題現象』が、子どもの人格発達上のど

のような問題や可能性をあらわしているのか、そのことを明らかにしなければならない。今日の

子どもたちの示すさまざまな『問題現象』は、子どもの『発達のゆがみ』や『発達の危機』のあらわ

れとしてとらえられている。しかし、その『ゆがみ』や『危機』の中身は、必ずしも明確に把握され

ているとはいえない。第二に、そのような『ゆがみ』や『危機』を生きる子どもたちに、どのように

働きかければ子どもの人格発達を援助しうるのか、そのことを明らかにしなければならない」38)

と主張している。

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第 4章 こころ・からだ・文化からみた不登校

1. 不登校児童生徒の心理的側面

河原は「不登校の多くは神経症的な葛藤を有するが、葛藤の有無があいまいな者も増えてい

る。(中略)ほかに心気的訴え、強迫症状、家庭内暴力等を呈するケースもあるし、とくに他の症

状はなく、家庭でのんびり過ごしているようにみえるケースもある」39)と述べている。また、小泉

は登校拒否の多彩な特徴について、「神経症的症状形成であるとしても、さまざまな立場からの

意見があるので、登校拒否のすべての症例を一括して扱わないことが大切」40)だと断ったうえ

で、ひとつの見方として「梅垣弘は登校拒否を(中略)心理的理由によって学校を欠席する児

童・生徒のうち、登校刺激に対して特異的に“すくみ反応”を呈するもの」40)と考えて、「朝の登校

時刻の前後に急激な心身変調をきたしやすい」40)こと、「気分や行動の変動が見られる」40)こと、

「学校状況に敏感に反応する」40)こと、「欠席が長期化すると、生活態度や行動が変化する」40)こ

と、「対人緊張が著しい」40)といった特徴があるとしたことを紹介している。

これに対して高垣は、そのような神経症的な症状や行動化は最初からあったものではなくて、

周囲からの影響で二次的に発生したものだとして、「登校拒否は『学校に行けなくなる病気』で

はない。一般に登校拒否は、学校にいるのがつらくなり、不安や緊張を感じて学校に行きづらく

なり、やがて登校しようとしてもできない状態に陥ってゆく。しかしそのこと自体は、胃をこわすと

食欲がなくなるのと同様、いわばあたりまえの現象である。胃をこわすと食欲がなくなるのは、そ

のことによって胃にそれ以上の負担をかけまいとする生体の自然な自己防衛の反応だ。同様に

何か心に不安や緊張が高まり、学校に行けなくなるのも、それ以上に、心に負担をかけまいと

する自己防衛の反応である。その限りにおいて、それはなんら異常な反応ではない。むろん、

胃をこわすと食欲がなくなること、不安や緊張が昂ずると登校できなくなることはあたりまえの現

象だとしても、なぜ胃をこわすのか、なぜ登校できないほどに不安や緊張が高まってしまうのか

という問題は、それはそれとして子どもの成長・発達にかかわる重大な問題として受け止められ

ねばならない。(中略)実はこのあたりまえの自己防衛の反応として生じる登校拒否を現実に現

在のように深刻な問題にしてしまう大きな要因は、いまだに存在する登校拒否を『さぼり』と見て

の対応であり、もうひとつが登校拒否を『深刻な病』扱いにする対応である。それらの対応が子

どもを追いつめ、二次的三次的に『神経症的な症状』『行動化』『とじこもり』等を発現させ、問題

をこじらせ深刻化させている。むろんはじめから重い神経症を疑わせる例もあることはあるが、

私の経験の範囲ではそうした例は少数である」41)と述べているのである。

高垣は「なぜ登校できないほどに不安や緊張が高まってしまうのか」という問題について詳し

く論じているが、その内容を田口が整理して示すと、以下のようになる。

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・ 学校生活のなかで子どもが出会う抵抗、つまずきは、本来それを乗り越えることによって成

長の契機となりうるものである。もしそれが成長の契機となりえず、登校拒否のきっかけとな

るならば、そこではつぎのことが問われねばならない。つまり、その抵抗やつまずき体験が

そもそも成長の契機になりえないほどの質の悪い、過酷な性質のものか、それともむしろ子

どもの側の主体的な力の弱さゆえに、それを成長の契機となしえないのか。

・ 近年、教師からの体罰、侮辱、差別的な扱い、仲間からの暴力、いじめ、裏切り等によって

深く傷つき、人間不信に陥り、登校拒否に追い込まれる子どもが増えている。成長の契機と

なりえぬ・過酷で質の悪いつまずき体験から生じる登校拒否だ。こうした子どもたちのなかに

は、しっかりした自我、批判力・自己主張の力を備えた子どももいる。彼らが学校のゆがんだ

状況に反発し、異議を申したて、孤立させられ、人間不信や絶望感によって登校拒否に追

い込まれてゆく。

・ 抑圧的・管理主義的な学校や指導のあり方に対する反発を「ツッパリ」という形で主張する子

どもたちがいる。彼らが追いつめられ、孤立させられ、学校に居場所を失っていく結果、登

校拒否に追い込まれる例もある。

・ こうした子どもたちとちがって、私が出会ってきた登校拒否の子どもたちは、外向きに自己主

張や攻撃性を発揮できない子どもが多い。彼らはしばしば、完全主義的で失敗を恐れる傾

向、傷つきやすい自己評価、何かあるとすぐに自分が悪いと思ってしまう独特の「感受性」を

持つ。彼らのその独特の「感受性」は、その背後に自分を受け入れ、「自分が自分であって

大丈夫なのだ」と感じる、自己受容や自己肯定感の希薄さを感じさせる。自分を受容し、肯

定できる子どもの心には、自分を受け入れ共感してくれる他者がしっかりと住んでいる。そ

れがゆらいでいるのが彼らなのである。それゆえ、この子どもたちは、その生育の過程にお

いてそうした他者への信頼を十分に体験しえていないか、あるいは過去においていじめら

れたり、他者に対する信頼を裏切られて傷ついた体験を持っているのではないかと推測さ

れる。

・ 臨床場面では、それまでききわけがよく、親思いで、すなおで手のかからなかった、いわゆ

る「よい子」といわれる子どもたちが、思春期になって登校拒否をおこしたり、荒れはじめたり

する事例によく出会う。彼らは、親や周囲の思わくにたいする感受性の鋭さを身につけてい

る。言外のちょっとしたそぶりや表情、まなざし等から他人の思わくや期待を鋭く察知してし

まう傾向があり、その思わくや期待に自らをあわせる能力にもすぐれている。それゆえ、彼ら

の活動は彼ら自身の内発的な動機にもとづく自発的・主体的な活動であるように見えて、そ

の実、いつの間にか周囲の思わくや期待を先どりして、それに自らをあわせているというパ

ターンの活動にすりかわっている場合が多い。親の意にそわぬ欲求や感情は、たとえそれ

が自分のなまの感情であっても、そうでないかのように排除して生きる習性を身につけてし

まうことがある。このような「よい子」の登校拒否は、表むき学校生活におけるごくささいなつ

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まづきをきっかけにして生じる。客観的にはごくささいなつまづきにみえようと、彼らの主観

においてはそれは大きな意味を持っている。周囲の思わくや期待にあわせて、あるべき自

己像を形成してきた彼らにとって、周囲の期待にはずれ、自己像を傷つけることへの潜在的

な不安は人並み以上に大きい。その彼らにとって、ささいなつまずきも周囲の期待にこたえ

る自己像を維持しつづけられないのではないかという、不安や恐れを喚起するに十分なの

である。また、そうした不安や恐れの高まりは、それをもたらす彼ら自身の生き方そのもの、

すなわち周囲の思わくや期待にあわせて際限もなく自己を追い込んでゆく生き方そのもの

にたいする自信喪失や拒否反応をもたらすことになる。これまで何の疑問ももたずになじん

でいた「優等生」あるいは「よい子」としての自己のあり方に、違和感や抵抗感をおぼえるよう

になる。彼らの登校拒否は、まさにこうした「よい子」としての生き方に行きづまったことの表

現と言ってよい。

注) 高垣忠一郎「登校拒否・不登校をめぐって」42)の記述を元に田口が抜粋、要約してまとめた。

甲斐は、登校拒否児が自分自身をどのように規定しているかという側面を、投影法の心理テ

ストであるSCTの記述から探り出そうとした。その結果、登校拒否児の特徴として次のことが明ら

かになったと述べている。

家庭に安らぎを見い出しつつも、家庭に対しては、“暗い”、“けんかばかりしている”、“ばら

ばら”、“あまやかしすぎる”などネガティヴな反応を示している例が多い。

学校では、ばかにされたり、いじめられやすい傾向にあり、いつもまわりの目を気にして積

極的な態度をとることができない。

完全欲求が強く、小さな失敗で挫折してしまう。

また、傷つきやすく脆い自我を持ち、受け入れ難い状況に対する耐性がない。

学力に対する強いコンプレックスをもち、“大人は頭の良い子供しかかまわない”といった記

述から、学力という一つのものさしで子供を評価してしまう社会の学歴偏重のひずみの大き

いことがうかがわれる。

“人の気持ちがわかる”、“思いやりの気持ちや心をもっている”、ことを自分の長所としてとら

え、“思ったことをはっきりいえない”、“ちょっとしたことですぐ悩む”、“人前で話すことができ

ない”などのことから、自分にもどかしさを感じているように思われる。

注) 甲斐裕子「登校拒否児の自己認知」43)の記述を元に田口が要約してまとめた。

甲斐は不登校児の自己認知に関する実証研究を通じて、「われわれは、登校拒否児の不登

校という現象のみにとらわれることなく、自己実現を目ざして成長している発達過程でのつまず

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きに対する自然な防衛反応としてとらえ、真の意味での子供の内面的成長とは何かということを

常に考えて対応していく必要があると思われる」43)と言っている。

河合は、「『登校拒否』現象が、単に医療的問題としてではなく、家族、社会に対して、最も深

刻なかたちで展開されてくるのは 14 歳前後である。この事実から、本格的な『登校拒否』が、

“思春期”と深い関係を持っているように感じられる。(中略)この時期に、本来の自我を発見して

いくはずであり、(中略)思春期という時期が、乳幼児期からのさまざまな生活体験を、いわば主

体的に総括する、といった課題を与えられているとすれば『登校拒否』が、現代的な意味での、

一つの『青春期反抗』である、とする見方はそれなりの説得力を持つようである」44)と述べている。

平石は「思春期危機は幼児期や児童期における未解決な発達課題を継続的に抱えつつ、新

たに困難な課題に直面したことによって生じているのである。もちろん、児童期までにさほど問

題が見いだせず思春期に入って直面した課題にのみ取り組んでいると理解できるケースも多

い。(中略)要するに、思春期危機の問題を議論する際には児童期以前の未解決な問題を引き

ずった形で思春期を迎えた際に起こる危機と、児童期までは特に問題は認められないが思春

期において経験した困難な課題によって引き起こされた危機とは区別し、両者の相違点につい

て検討することが重要であろう」45)と述べている。

笠井は「不登校を理解する視点の 1つとして、発達課題の視点がある。(中略)それぞれの発

達課題は容易に達成できるものではなく、課題への取組の困難さや達成の失敗をきっかけに

不登校になることも少なくない。(中略)ところが筆者が出会った不登校児の中には、実年齢以

前の発達課題でつまずき、その課題は達成されないままの状態になっている子どもも少なくな

い。既に中学生の年齢になっているのに、対人関係の技術が実年齢の子ども達に比べ、著しく

未熟だったり、興味・関心が小学校低学年の生徒は、とても同年代の仲間集団には適応できな

いだろう。ある時期の発達課題の未達成が、後の発達段階で問題を生じさせるものと考えられる。

故に、実年齢の発達段階についての視点、すなわち横断的に発達をとらえる視点だけでなく、

それまでの発達課題で達成できていないものは何か、不登校になったために本来なら体験す

べき教育経験や対人関係が限定されてしまい、本人の実年齢に即した発達が阻害されてしまっ

たのではないか等を考慮して不登校児に対する理解・援助を行う必要がある」46)と述べている。

また、平石は「子どもにとっての重要な対人関係は、タテの関係(親や教師などの大人との関

係)とヨコの関係(友だちとの関係)に大きく分類することができる。不登校の子どもたちと関わっ

ていると、この 2 つの対人関係の両方において問題を抱えており、2 つの対人関係の『バラン

ス』が悪いと感じることが多い。(中略)健康な発達の過程においては、児童期から思春期・青年

期にかけて徐々に親(タテ関係)から自立していき、同性の友人、異性の友人へと重要な関係を

ヨコ関係へと移行させていくとされている。(中略)親子関係に縛られるあまりに主たる対人関係

の領域を友人関係へと移行させていくことに失敗する現象を『タテ関係からヨコ関係への発達に

おける挫折』と呼んでいる(中略)。思春期は親子関係に相互調整的な変化が生じる時期であり、

同時に友人関係においても困難な状況(学業、運動能力、身体魅力などについての比較・競争

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が激化するなど)が生じやすい。家庭外の空間で困難な状況に陥り、家庭に退却してきた子ど

もは、まず始めに親子関係の葛藤などの未解決課題に取り組むことが多い。この作業は自分自

身の心の基盤を再構築しようとする試みに思えることがある。学校臨床の経験から不登校児童・

生徒が成長していくプロセスを振り返ると、彼らの対人関係の改善の歩みには一定の道筋があ

るように思われる。それは大人(教師やカウンセラー)との二者関係から始まり、複数の大人との

関係、ごく少数の友人との関係、多数の友人との関係へと親密な関係の範囲を広げていく順序

性である。(中略)友人関係(ヨコ関係)に入っていくためには心の支えとなる安全基地(タテ関

係、特に大人との二者関係)が必要であり、基地からのエネルギー備給が十分であると次には

友人関係やその他の関係において第 2、第 3 の安全基地を築いていくことが出来るように思わ

れる」45)と述べている。

2. 不登校児童生徒の身体的側面

(1) 不登校児童生徒の身体的症状

稲村によれば、不登校における全般的症状としては、「前駆症状からみると、イライラ、孤立な

どのほか、吐き気、頭痛、腹痛など」47)があり、不登校がはっきりし始めてからの症状について

は上述症状のほか、「恐怖、動悸、発汗、目まい、発熱、筋肉痛など恐怖ないしショック症状」48)

があげられるとする。さらに小児科分野で確認された不登校の身体症状としては「腹痛、頭痛、

吐き気、嘔吐、発熱、などが多く、起立性障害(O.D.)、自律神経失調症、心身症など」49)の診断

を受けることがしばしばであると、その症状の多彩さを紹介している。

平井は、「最近では不登校は成人の慢性疲労症候群と同じであるとの見方が種々のデータを

基に医学サイドから出されている」50)として、不登校状態に共通に見られる身体症状は、「三池

らによると、(中略)神経系における代謝異常あるいは変化」50)であり、「それによって前頭前野

などの皮質連合野、大脳辺縁系、視床下部―下垂体―副腎経路の機能低下あるいは疲労が起

こり、体内時計の故障と記銘・記憶回路の機能障害を引き起こしている」50)と紹介している。そし

て、平井は、「不登校状態というのは、『生体リズムをつかさどる中枢脳機能の低下により引き起

こされた日常の学校生活が困難な状態』である」50)と述べている。

河原は、「不登校に伴う症状としては、登校時間に頭痛、腹痛、嘔気等の身体症状を示すが、

これは周囲が登校を勧めなければ消失することが多い。(中略)とくに他の症状はなく、家庭で

のんびりと過ごしているようにみえるケースもある」51)と述べ、必ずしも症状があるとは限らないこ

とを示している。

久保らは、二次的ストレスによっても、「腹痛・下痢・頭痛・昼夜逆転・家庭内暴力などさまざま

な『症状』」52)が出現すると述べ、さらにそのような二次的ストレスのストレッサーは、「不登校で

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の子ども自身の罪悪感、そして親・教師などの周囲の登校刺激」52)であり、「多くの場合、ストレッ

サーが消失することで『症状』も消退」52)すると言っている。ただし、最近では、「『元気な登校拒

否』などと呼ばれ、二次的ストレッサー状況下にいない子どもが増えつつある」52)ことについても

言及している。すなわち、不登校児童生徒への登校刺激や周囲の無理解がなければ症状が起

きなかったものが、そのストレッサーによって二次的なストレス状態となって症状が発生している

ケースがあるとの考え方であり、周囲の変化によって二次的ストレスによる部分の身体症状は消

失しうるというものである。

a. 心身症的愁訴としての理解

心身医学からの立場として、梶原は「心身症的愁訴を有する不登校は、多彩な身体症状(頭痛、

腹痛、倦怠感、嘔気、めまい・たちくらみなど)を有する。それらの中で一般身体疾患(気管支喘

息や過敏性腸症候群、過換気症候群、緊張性頭痛、偏頭痛、起立性調節障害など)が存在し、

その発現や増悪などの経過に学校場面や家庭などでの心理社会的要因が影響を与えていて、

その心理社会的要因が一般身体疾患の治療を妨げ不登校状態が継続している病態(狭義の心

身症)と、特に身体症状を説明しうるだけの身体機能障害はみられない不定愁訴の発現や増悪

などに心理社会的要因が影響を与えて不登校状態が継続し、カウンセリングなどの心身医学的

治療や環境調整が身体症状の改善に有用であると考えられる病態(広義の心身症)をあわせて

『心身症的愁訴を有する不登校』とする」53)としている。

以下に、心身医学界で用いられている「心身症的愁訴を有する不登校の診断基準」を示す。

1. 月7日以上登校できないような身体愁訴が認められるが、その症状は理学的所見や臨床検

査においても特に有意な所見を認めないか、所見が認められて既存の治療を行っても改善

せず、不登校状態が持続する。

2. その身体症状は、患者にとって登校できないなど学業上や友達関係などにおいて、活動の

障害を引き起こしている。

3. 心理社会的要因が、身体症状の発症、悪化または持続に重要な役割を果たしている。

4. その身体症状は、虚偽性障害または詐病のように意図的に作り出されたり捏造されたりした

ものではない。

5. 臨床経過をみていく中で、精神病性障害に伴う不登校、不安障害や気分障害、身体表現性

障害が病態の主たる部分を占め、不登校状態が引き起こされている場合は除外する。しか

し、身体症状を伴う不登校の経過中に二次的にあるいは引き続く形で、不安障害や気分障

害、身体表現性障害が発症する場合もあり、これらについては以下の参考項目を検討して

判断を行う。

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〔参考事項〕

問診表において、心身相関で家庭や学校での心理的ストレスが改善されると身体症状の改善

が認められる、かつ、以下の 6 つの身体症状の特徴のうち、4 つ以上の身体症状の特徴が

「時々ある」以上認められる。

・ 学校を休むと症状が軽減する

・ 身体症状が再発・再燃を繰り返す

・ 気にかかっていることをいわれたりすると症状が増悪する

・ 1日のうちでも身体症状の程度が変化する

・ 身体的訴えが 2つ以上にわたる

・ 日によって身体症状が次から次へと変化する。

以上が見られた場合「心身症的側面を強く有する不登校」である可能性が高い。

注) 日本心身医学会:「心身症診断・治療ガイドライン 2006」54)より転載した。

b. 心身症的愁訴の治療プロセス

梶原によれば、「心身症的愁訴を有する不登校」の治療プロセスとしては、1番目に「不登校に

伴って出現し、その継続に重大な影響を与えていると考えられる身体症状に対して、対症療法

的に対応する。(中略)重要なのは、身体症状を受容し身体症状に焦点を当てた対応を行うこと

である。」53)という。

2 番目に「現病歴や生育歴、家族歴を聴取し、心理社会的因子の把握を行うことにより、治療

開始時の病態仮説(家庭や学校場面での心理的ストレス、抑うつや不安のあらわれ、対人場面

などでのとらえ方の問題)をたてる。その病態仮説に基づき治療法の選択を行う」53)という。

3 番目には「患者や保護者の訴えを傾聴し、共感、受容的態度で接することにより、患者及び

保護者との信頼関係の確立を図る。そのうえで言語化を援助し気づきの場を設定するとともに、

どのように考えてどのように対処していけばいいのかをともに考えていく。」53)という。

そして、4 番目には「治療を継続しても身体症状や不登校の改善が認められない場合、持

続・増悪因子の検討を行い、病態仮説の再考を行う。家庭内の葛藤や保護者の不安が強い場

合には保護者ガイダンスや家族調整などを行い、患者自身の不安や抑うつ、葛藤が強い場合

にはカウンセリングや箱庭療法、自律訓練法などを抗不安薬などの薬物療法と併用して行う。ま

た、学校場面での行動面の問題やとらえ方に問題があるときには、認知行動療法やソーシャル

スキルトレーニング、環境調整などを組み合わせながら治療を行っていく」53)としている。

これらの一連の不登校の治療フローは図 3のように表現される。

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図3 不登校の治療フローチャート

注) 日本心身医学会:心身症診断・治療ガイドライン 2006「心身症的愁訴を有する不登校」53)より転載した。

3. 不登校児童・生徒を取り巻く社会と文化

佐々木は、「不登校の原因は、1 つとか 2 つとかに特定できるような問題じゃなくて、様々な

要因があるし、なにより現代の私たちの文化が持っている、大きな問題であると思っています」

55)と述べている。佐々木はその社会文化的側面について、次のようにまとめている。

① 現代人は、他者を思いやる気持ちをなくして、自分だけを大切にするという生き方が非常

に強くなった。

② 家族や親類の人々や、近所の人々との人間関係の経験が極端に減って、地域社会をはじ

めとした人間関係のなかで「やすらぎ」「くつろぎの場」がなくなった。

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③ 自分だけを大切にしたいという風潮の中で、家庭の中にも、くつろぎの場がつくれなくなっ

た。

注) 佐々木正美:『続こどもへのまなざし』「やすらぎの場の経験が不足している子どもたち」56)の記述を要約

して田口が作成した。

秋山は不登校についての考察をする中で、「戦後社会は、個性化を求めた社会であったは

ずだが、いつのまにか、没個性化し、自分と周りの人の寄り添いが重要な社会になっている。ま

た、もう一方では、豊かな社会を目指したが、豊かさを生きる時代の難しさも、そこに存在する。

社会の拡大によって、私らしさも変化し、他との比較がないかぎりは、私らしさが感じられない。

学校教育も相対評価から絶対評価になり、決まりごとや学校の方向性に向かないものは、評価

が悪くなる。そのため、みんな金太郎飴のように同一化していく。現実社会は、自分らしさを出し

て生きてゆくのは、悪であるといわんばかりの状況である。(中略)生活や規則の中で使われる

『普通』という言葉に、適応しない者は、問題のある子どもといわれる。」57)と述べている。

高垣は「競争主義、管理主義の支配する学校でつくりだされる集団の人間関係は、表と裏、

たてまえとほんねの使いわけがはびこる。うわべは適当に相手にあわせながら裏では相手をだ

しぬき、利用する。たてまえでは規則に従いながら、ほんねではそれをバカにする。こわい教

師の前では静かにし、こわくない教師の前では手のひらを返したように騒がしくする。そういう集

団の人間関係は、人間への信頼を損ない、潜在的な疑心暗鬼がお互いの心を支配し、うっかり

自己を素直に出せない恐ろしさを感じさせる」58)と述べている。

久保らは「戦後、高度経済成長下の日本で管理下社会の形成とともに強力な能率指向へと全

体が動いていくなかで、その社会の構造的要請にとり込まれ、巨大化してきた学校はやがてこ

の社会の変容に伴って硬直化してしまい、その教育哲学は個性を育む視点から徐々に大きく

逸脱し、ただ画一的にそして機械的に社会の要請に従った優秀な人材を育成すべく学業の高

度化が図られ、偏差値教育の推進とともに子どもたちの評価の軸を一律にこれで計るということ

に変貌してきた。一方、地域社会においてもこの社会全体の変容に伴って家父長制度が崩壊し、

経済社会の動きにとり込まれてその生活様式も変化をきたし、また、子どもの数の減少、さらに

は遊び空間の狭小化やマスメディアの拡大化などがいちだんと進むなかでおのずと家庭生活

の形態もさま変わりし、子どもの社会全体の価値観も大きく変貌してきている。(中略)この社会

構造全体の変容の中で、その社会経済を主核とした構造的要請に縛られた学校文化といまの

時代に置かれている子どもたちの文化が著しくかけ離れてきており、相互の要請が遊離状態を

起こしているとも捉えることができる。その結果、結局多くの子どもたちにとっては学校はストレス

要因となりえ、息苦しい状況にさらされているということになる。」59)と述べている。

高垣は「学校が企業戦士の養成レースの場としての様相を強めていけばいくほど、学校生活

はまるで高速道路を走るような生活となり、それになんとかついていける子どもたちには息づま

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るような不断の緊張感を与え、それについていけず脱落した子どもたちには無力感を与え、学

校生活に対する意欲を失わせる。かくして、緊張の強い登校拒否型の不登校と無気力・無意欲

なドロップアウト型の不登校が増えていく。とすれば、こうした不登校・登校拒否を根本的に解決

していくためには、学校を企業戦士養成レースにしていく流れと立ち向かい、学校を真に子ども

たちの発達と自立を援助する教育の場にしてゆかねばならず、それが学校・教師の最大の課

題になることは言うまでもない」60)と述べている。

稲村は、不登校発生の誘因としてさまざまな内容があげられるとして、佐藤が作成した「登校

拒否発症の主な原因」61)を紹介しているが、それを図 4として示す。

図4 登校拒否発症の主な背景因

注) 佐藤修策「登校拒否発症の主な背景因」,1968 61)より転載した。

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第 5章 児童・青年期の発達課題

1. 発達課題とは

人間の心身の発達に関する基本的な考え方として、平井は「人間の発達の過程は、一人ひと

りその発達のようすが異なっているようにみえるが、その多様性のなかにも生命体が共通にも

つ発達の一般的原理が介在している」62)として次の表 5 に示したような「発達の原理」があると

述べている。表5に、「発達の原理」について示す。

表5 発達の原理

発達の原理 説 明

1. 個体と環境の

相互作用

発達は、遺伝的素質などの個体的要因と子どもの経験としての環境的要因の相互作

用によってなされる。

2. 分化と統合 発達は構造や機能が、一様で未分化な状態から、多様で分化した状態に変化し、ま

た、分化したものが統合する過程である。統合化は、中心的な構造や機能に他が従

属する階層化をも含む。

3. 発達の連続性 発達は、断続的・突発的な過程ではなく、連続的・漸進的過程である。前の段階の発

達の遅速は、後の段階に影響する。

4. 発達の順序性 歯や骨の発生の順序、移動運動など運動の発達・言語や思考の発達にも一定の順

序がみられる。

5. 発達の方向性 たとえば、運動の発達では、「頭部から脚部へ」「中心から末梢部へ」というように、発

達は一定の方向性を持つ。

6. 発達のリズム 体重が著しく増加する充実期があれば、急速に身長が伸びる伸長期がそれに続くよ

うに発達の速度は、時期によって異なり、一定のリズムを伴って進む。

7. 発達の相互関

連性

身長・運動機能が発達すると、それに伴って精神発達や社会性も促進されるように、

それぞれの領域の発達は、相互に関連して進む。

8. 発達の個人差 発達には一定の順所、一定の方向があるが、発達する速度、可能性の発現する時

期、達成の程度などには個人差がみられる。

9. 発達の臨界期 ローレンツ(Lorentz,K.)の「刻印づけ」の研究にみられるように、ある学習が生後の

極めて早い時期になされ、いったん形成されると、後で消失したり、変容することが

困難な場合がある。人間の発達においても感覚遮断や母子分離などの影響が考え

られている。

注) 平井誠也:「発達心理学要論」63)より転載した。

このような発達の原理を踏まえたうえで、子どもの心身の発達の様子を観察した場合、平井

は「短い期間でみれば、発達は連続的・継続的に進行しているかにみえるが、数年という長い

期間でみれば、それ以前の段階とは量的にも質的にも明らかに異なる特徴が認められ、これら

の特徴によって発達段階を設定することが可能になる。しかし、どのような機能によって発達段

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階を設定するかによってその区分は異なる」もので、しかも「発達区分は文化や国による学校制

度の相違によっても異なってくる」64)のだという。

胎児のときから青年までを対象としたときに、平井は次のような発達段階を設定している。

胎児期 卵体期〈0~2週〉 胎芽期〈2~8週〉 胎児期〈8週~出生〉

新生児期・・・・・・・〈0~4週〉 乳児期・・・・・・・・・〈0~1歳〉 幼児期・・・・・・・・・〈1~6歳〉

児童期・・・・・・・・・〈6~12歳〉 青年期・・・・・・・・・〈12歳~22歳〉

注) 平井誠也:「発達心理学要論」64)より転載した。

平井は「子どもの自然な発達が段階的に進行するとすれば、それぞれの発達段階において、

社会から学習することが期待され、また子ども自らが果たさなければならない一連の課題がある

と考えられる」64)としてハヴィガーストが設定した発達課題を紹介しているが、それを表 6に示し

ておく。

表6 発達課題

時期 発達の具体的な課題

乳幼児期

(出生~6歳)

・ 歩行の学習

・ 固形の食物をとることの学習

・ 話すことの学習

・ 排泄の仕方を学ぶこと

・ 性の相違を知り性に対する慎みを学ぶこと

・ 生理的安定を得ること

・ 社会や事物についての単純な概念を形成すること

・ 両親や兄弟姉妹や他人と情緒的に結びつくこと

・ 善悪を区別することの学習と良心を発達させること

児童期

(6歳~12歳)

・ 日常のゲームに必要な身体的技能の学習

・ 成長していく生活体としての自己に対する健全な態度を形成すること

・ 仲間とうまくやっていくことの学習

・ 男性と女性としての適切な役割の学習

・ 読み・書き・計算の基本的技能の学習

・ 良心・道徳性・価値判断の基礎を発達させること

・ 個人的独立を達成すること

・ 社会的集団や制度に対する態度を発達させること

青年期

(12歳~18歳)

・ 同年輩の男女両性との新たな、より成熟した関係をつくりあげること

・ 男性または女性としての、それぞれの社会的役割を遂行すること

・ 自分の身体的特徴を受け入れ、身体を効果的に使用すること

・ 両親や他の成人からの情緒的な独立を達成すること

・ 経済的な独立の自信を確立すること

・ 職業を選択し、それの準備をすること

・ 結婚と家庭生活の準備をすること

・ 市民(公民)としての資質に必要な知的技能と概念を発達させること

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・ 社会的に責任のある行動を望む、それを達成すること

・ 行動の指針としての一連の価値や倫理体系を獲得すること

注) 平井誠也:「発達心理学要論」65)より転載した。

しかし、平井は「これらの課題は生物学的基準、文化的基準、心理学的基準に基づいて設定

されたもので、1930 年代の米国の中流家庭を基準として作成されたものであり、今日のわが国

の子どもの発達の程度と比較すると、課題達成の時期がかなり早い時期に設定されている。特

に青年期の発達課題の達成時期に関してそれが顕著にみられるようである」64)として、それぞ

れの時代や文化において、発達課題を設定することの難しさも指摘している。

エリクソンの漸成発達について表 7にまとめた。

表7 漸成発達の各発達段階

発達段階 心理・社会的危機 重要な関係の範囲 基本的

強さ

基本的な

不協和傾向

乳児期

幼児期初期

遊戯期

学童期

「基本的信頼」対「基本的不信」

「自律性」対「恥・疑惑」

「自主性」対「罪悪感」

「勤勉性」対「劣等感」

母親的人物

親的人間

基本家族

「近隣」、学校

希望

意思

目的

適格

引きこもり

強迫

制止

不活発

青年期 「同一性」対「同一性の混乱」 仲間集団と外集団;リーダーシ

ップの諸モデル 忠誠 役割拒否

前成人期 「親密」対「孤立」 友情、性愛、競争、協力の

関係におけるパートナー 愛 排他性

成人期 「生殖性」対「停滞性」 (分担する)労働と(共有する)

家庭 世話 拒否性

老年期 「統合」対「絶望」 「人類」「私の種族」 英知 侮蔑

注) 川畑直人の「エリクソンの人格発達論」66)の表の一部を田口が抜粋して作成した。

続いて、川畑によるエリクソンの漸成発達の解説を、田口が要約し、以下に示す。

・ 漸成発達は器官の形成があらかじめ運命づけられているのではなく、段階ごとに次々と形

づくられていくという生物学上の発生観であるが、エリクソンは胎児の漸成的発生と同じよう

に、子どもが文化ユニットの成員となっていく道筋において、個人の社会的潜在能力が開

花するプロセスも引き続き「漸成原理」によって支配されると主張する。

・ エリクソンの提唱する漸成発達は、人間の生から死にいたる一生を通じての発達として描き

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だされ、同時に人間の実存を規定する生物的・心理的・社会的次元をすべて視野におさめ

ようとする包括的な理論である。

・ エリクソンは、人間の一生を人生周期(ライフサイクル)と呼び、その中に 8 つの時期を区別

している。人生周期の各段階は、その段階で解決せねばならない段階特異的な発達課題

によって特徴づけられる。

・ 乳児期が、「基本的信頼」対「基本的不信」、幼児期初期が「自律性」対「恥と疑惑」、遊戯期

が「自主性」対「罪悪感」、学童期が「勤勉性」対「劣等感」、青年期が「同一性」対「同一性混

乱」、前成人期が「親密」対「孤立」、成人期が「生殖性」対「停滞性」、老年期が「統合」対「絶

望」という「調和的なポテンシャル」と「失調的なポテンシャル」との対立によって論じられて

いる。

・ 対極的な言葉で表されているこの一連の葛藤を、エリクソンは「心理・社会的危機」とよんで

いる。この危機とは全発達を連続して覆うわけではなく、次のステップに進むときに解決を

余儀なくされる分岐的な状態を表している。

・ 各危機の解決とは常に相対的なものであり、「全か無か」という性質のものではない。つまり、

危機の解決とは、各段階で同調的なポテンシャルの全体量が、失調的ポテンシャルの全体

量を凌駕することを指し、失調的ポテンシャルが皆無になることを意味するわけではない。

・ これらの危機に加え、エリクソンは発達に伴って拡大していく「社会的範囲」を各段階に示し、

さらに各危機の解決によって出現する協和的な自我の特質である「基本的な強さ」とそれと

対をなす「不協和な特質」を各発達段階に対応させている。

・ 漸成発達の特徴として、全体の統一と調和の必要性が強調されるが、危機を含む人生周期

全体の発達においても、この統一と調和が不可欠である。各危機は固有の発達時期が到来

する以前にもその先駆状態を有すると同時に、発達時期を過ぎて以後も、さらに発達を続け

るのである。各段階での危機の解決は、その段階なりの解決と全体とのバランスを伴ってい

なければならない。例えば、生物・心理・社会という三つの次元で解体の危機を向かえる老

年期においては、「統合」はもっとも重要な課題として浮かび上がってくるが、その解決は人

生最初期に得られる「希望」の最後の形態である「祖父母的な生殖機能」を前提としている。

注) 川畑直人の「エリクソンの人格発達論」66)の記述を元に田口が抜粋、要約してまとめた。

2. 児童期の発達課題

平井によれば「『児童期』は学童期ともよばれ、年齢的には 6,7歳~12,3歳までの小学生時

代である。児童期は前期と後期ではその様相が異なり、前期では幼児期的特徴が残存しており、

後期になると発達の早い女子では思春期的特徴を帯びてくる。中期が最も児童期の特徴を示

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す。そして、中期から後期にかけての徒党時代(ギャング・エイジ)では、交友関係が活発となり

社会性が学習される。また、児童期は学習期ともよばれ、読み、書き、計算などの教科の基礎が

学習される重要な時期である。学習が他の子どもより確実に進めばその子は有能感を持つが、

学習が他の子どもより困難で遅れたりすると劣等感や無力感が形成される。一般に児童期は活

発で恐れを知らぬ時期といえる。性的にはフロイトが潜伏期とよんだように、幼児期に一度芽生

えた性的関心や興味が潜伏する時期である。」67)と述べている。

また、高垣は児童期から思春期への移行がなされる時期、つまり、小学校中学年から中学生

にかけての時期を「少年期」と呼び、発達の節目における危機と、そこにおける人格的自立の問

題を次のように論じている。次の青年期の発達課題への橋渡しとしての位置づけで整理してみ

たい。

・ これまでの発達心理学の知見に基づくならば、この時期には具体的なものを手がかりにし

ながら、具体的な事象の背後にかくされた関連や法則性を理解できるようになり、やがてそ

れは具体的な事象を離れて、より一般化され、抽象化された関連や法則性を理解する能力、

すなわちピアジェのいう「形式的操作」の能力へと発展していく。すなわち、10 歳頃を境に

して、具体的経験の世界から、抽象的・観念的世界への離陸が開始しはじめるといえる。

・ こうした能力の発達は、いわゆるギャング・エイジとよばれるこの時期の子どもたちの集団活

動を高め活発にする重要な要因となる。バラバラにみえる具体的現象とのあいだに、目に

みえぬつながりやまとまりがあることを発見しはじめた子どもたちは、子ども同士の関係にお

いても、集団としてのつながりやまとまりがあることを意識しはじめる。ものごとの関連や法則

性を、論理的・客観的に認識する能力の発達は、一定のルールにもとづいて集団のメンバ

ーの役割や活動を関連づけ、組織し、集団の目的を達成する活動を可能にする。

・ 一定のルールと役割分担をもつ集団活動のなかで、役割を担うことによって、集団や社会の

なかにおける自己の位置や立場を客観視する力や、自覚が芽生えるとともに、他者の立場

をも理解できるようになる。また、自分と仲間の行動を比較したり、その背後にかくされた法

則性や因果関係を分析することを通じて、表面にあらわれた行動のうらにある内面的な動機

を理解したり、その人をその人たらしめている一貫した傾向や性格・能力を理解することも可

能になる。

・ こうして、少年期における変化を特徴づけるもっとも主要な新しい資質として、子どもの人格

のなかに、自己客観視にもとづく自己評価や自己自身への関心が誕生するのである。

・ そして、そのことは、それ以後の子どもが、即自的な動機によってよりも、むしろ自己評価や

自己自身への関心を媒介にした動機によって決定されるようになることを意味するし、自分

で自律的に自己形成を行うことが可能になることを意味するのである。

注) 高垣忠一郎の「少年期の発達と自立の課題」68)の記述を元に田口が抜粋、要約してまとめた。

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そして、高垣はその時期における課題と危機として次のことを指摘している。

・ 自立への節としての少年期の危機は、親やおとなへの心理的な依存を絶ち切り、新しい関

係をむすぼうとするさいの矛盾・葛藤を軸に、しばしば親やおとなの目に否定的・消極的に

映るさまざまなあらわれをともなう。

・ 親やおとなに依存することで心理的な安定を得ていた関係に、さけ目を生じさせ、心理的に

分離してゆくことは、この期の自立への途上で不可避のことではあるが、同時にそれは心の

よりどころを喪失する危険をともなうものである。

・ こうした危機を生きる少年期の子どもたちにとって、同年輩の仲間たちと展開する集団活動

や、そこに形成される自分たちの世界や心のきずなは、親やおとなからの心理的な分離を

実現し、自立を達成してゆくうえで、不可欠の媒介者としての意義を担っている。

・ 今日、一方で少年期の仲間関係や集団活動がやせほそり、解体していく状況は、子どもた

ちの自主的・自律的な能力の形成を未熟なものにしているとともに、親やおとなへの依存か

ら心理的に分離してゆくことを可能とする自分たちの世界や新たな心のよりどころをもつこと

を困難にしている。

・ 子どもたちの世界も、暴力文化や嘲笑文化の影響をうけて、暴力やいじめが幅をきかせ、正

義と友情のモラルにかわり、暴力と同調のモラルが支配しがちであるとともに、そこで守られ

る秘密とは、集団の自律的な結束や心のつながりによって守られる秘密ではなく、おどしや

暴力への脅威によって守らされる秘密となる傾向をもっている。

・ 親や大人たちは、子どもたちが、自分の目の届かぬ世界をつくって、分離していくのはよい

けれど、はたしてそれが自立へつながるような、ふさわしい自律的な能力が備わっているの

か、子どもたちが分離していく世界が、万引や暴力、陰湿ないじめの支配する世界になって

はいないかと心配し、不安になる。

・ このような心配や不安にかられた親やおとなは、子どもたちへの干渉や管理主義的な対応

をつよめ、自分たちの干渉や管理に従う、従順ですなおな「よい子」であるかぎりにおいて、

子どもたちを受容するという関係を子どもたちに強いることとなる。

・ 少年たちは二者択一的な岐路に立たされる。心のよりどころを失うことを恐れて、親や大人

の管理に従い、「よい子」として庇護を受けるかわりに、自立への旅立ちをあきらめるか、そ

れとも、自分を失うことを恐れて、親やおとなの管理に反抗し、自律的な能力の未熟なまま

に、自立へと旅立つ危険を犯すか、その二者択一である。

・ こうした二者択一的な状況は、少年たちの内面生活に二律背反的な葛藤と苦悩を生じさせ

る。すなわち、前者をとれば自分を失う「むなしさ」を生きねばならず、その苦悩はしばしば

登校拒否や家庭内暴力という形であらわれようし、後者をとれば心のよりどころを失う「さみし

さ」を生きねばならず、その苦悩はしばしば非行や校内暴力という形であらわれよう。

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注) 高垣忠一郎の「少年期の発達と自立の課題」69)の記述を元に田口が抜粋、要約してまとめた。

3. 青年期の発達課題

平井は青年期について、「女児が男児より成熟が早いが、おおよそ小学校から中学校へ移る

ころ思春期に入り、さまざまな第 2次性徴が現れる。身長は急速に伸び、体重、胸囲なども増大

し、男児は男性らしく、女児は女性らしい体つきに変化する。知的な面では、ピアジェが形式的

操作と呼んだ「もし~ならば~」といった高度の推論や抽象的・形式的思考が可能になる。青年

期における重要な飛躍は、心理的離乳といわれるように、生活全般にわたって依存してきた親

からの脱却であろう。青年が親への依存から脱却するとき、もうすでに大人であると主張する青

年と、まだ子どもであると認識している親とのあいだにトラブルが生じることが多くなる。これがい

わゆる第 2 反抗期の到来である。青年は社会経済的には一人前とは認められず、基本的には

エリクソン(Erikson,E,H,1959)が唱えた心理社会的モラトリアム(支払い猶予期間)といえる。

青年期の最も重要な発達課題は、自我同一性の確立である」70)と述べている。

この自我同一性について、無藤らによれば、「エリクソンは、青年期とは、自分がない、本当

の自分が分からないという同一性の危機と直面しながら、本当の自分を模索し続けていく過程

であり、そのために社会が与えた猶予期間であるとした」71)と延べ、青年期と自我同一性につい

ては「青年期における人格形成や適応の問題は、そのような内面における『危険な』変化だけで

なく、さまざまな次元で急激な変化にみまわれること、それを受けとめ変化に見合った新しい適

応様式(新たな自分)を見いだすことの問題であると考えられる。そしてその課題は自我同一性

の達成という形で統合化されるのである」72)と解説している。

また、福山は「アイデンティティは青年期の特に重要な課題で、この時期の発達を解明する

鍵としてエリクソンによって提唱された概念である。『自我同一性』『真の自分』『主体性』などと訳

されている。それは(中略)社会的に認知された役割と違って『人間としての自分をこれこそ自分

だと確信している自分の本質』であると定義されている。即ち『自分とは何か』という問いに対す

る自己定義である。(中略)アイデンティティの感覚、即ち、自分についての確固とした信念を持

つことは、人間のいまここにあるはかない存在を錨のように定着させるものとして必要なもので

あり、この感覚がなければ人間は生きているのだと感じることすらできないとエリクソンは述べて

いる。したがってアイデンティティの感覚を得ることは社会人になるための心の基盤であり、職

業選択の基礎となるものである。また、青年期は子どもから大人への過渡期にあたる。そのため

身体的、心理的、対人関係、社会的な多くの側面が変わっていく。これらの変化は大人への準

備となるためのものであり必要不可欠なことであるが、一方ではこの変化についていけず情緒

は不安定となり、アイデンティティは危機をむかえる。この危機は青年期に特有なもので、『自ら

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のアイデンティティが失われていくように感じる危機と何とかアイデンティティを確固としたもの

にしたいとする対立の葛藤』がくり広げられることになる。」73)と述べている。

また、福山は、青年期のアイデンティティの問題を次のように論じている。

・ この時期は自我の目覚めにより自分に対してとても敏感になりやすい。身体面をはじめいろ

いろな側面が変化していく。そのため変わりゆく自分を見る他者の目や自分自身に敏感に

なり、自分自身を他者のように感じやすくなる。自分を対象化して観察する自分という意識が

鮮明なものとなる。これが「見る自分」と「見られる自分」の分化と言われるものである。

・ 児童期には内なる「自分」としての「もう一人の自分」にまだ目覚めていない。それに目覚め

るのが青年期で「見る自分」がはっきりその姿を現すことによって「見られる自分」との間に新

しい調和を求める時期である。これまで親や教師などさまざまな人に同一化して多様な特性

を取り入れることによって自分なりのものの考え方、態度、行動様式を身につけてきたのが、

自我の目覚めとともに、その無意識に取り入れてきた自分自身に意識を向けてみると、多様

な特性のどれがほんとうの自分なのか分からないという状況に陥ってしまう。

・ 「自分は何者なのか」「何になったらいいのか」と模索し、自分を定義づけるためのモデルを

探し求めながら最終的には社会の中での居場所、役割を見つける形で本当の自分を選び

取っていくことが課題となる。このような過程を経てアイデンティティが達成されたときには、

肯定的感覚に加えて、他者からも自分が肯定されているという感覚を持つようになる。

・ 反対の「アイデンティティの拡散」状態とは、「自分が将来何になりたいか分からない。自分

が世間から浮いた存在で地に足がつけて生きていない」「自分が好きになれない」など自己

に対して肯定感が得られず自己否定感が強い状態と言われている。

・ 拡散状態を防ぎ、アイデンティティを達成するひとつの方向性としては、エリクソンのいう「社

会的役割実験」がある。それは「社会の中で自分の居場所がどこにあるか探しもとめるため

の試しにさまざまな役割をとってみる活動」のことである。ボランティア活動、キャンプなどの

野外活動、スポーツ、クラブ活動、サークル活動、アルバイト体験などを通じて、拡散状態に

陥ることを防ぎアイデンティティの達成を試みる機会が与えられることになる。さまざまな活

動を行いその目的を達成することで自信をつけ、自らの可能性を信じることもできるようにな

るとともに、自己の適性を知るきっかけにもなり職業意識も高まっていくことが期待される。

注) 福山逸雄の「不登校・登校拒否の理解とその対応―アイデンティティの視点から―」73)の記述を元に田

口が抜粋、要約してまとめた。

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第 6章 考察:発達課題から見た不登校

1. 不登校児童生徒の発達課題

(1) 不登校の積極的意味としての発達課題と社会環境

文部科学省では不登校児童生徒について様々な分析をしたうえで対応策を講じてきたが、

その増加の傾向にはいまだ歯止めがかかっていない。専門家だけでなく、文部科学省自体も

認めているように、不登校の要因や背景としては、家庭、学校、本人に関わる様々な要因が複

雑に絡み合っている場合が多い。つまり、社会全体の影響力が少なからず存在しているために、

不登校は学校のみでは解決することが困難な場合も多いというのである。その限界を知りつつ

も、文部科学省としては「公教育の責務を果たそう」と考えて、学校の取組を充実させ関係機関

や家庭との協力体制を築くように指導してきた。それを受け学校では、校長のリーダーシップの

もとで学級担任や養護教諭をはじめとした関係者の連携や情報共有をすすめ、援助が必要な

児童生徒を早期に発見して組織的にサポートをする体制をつくるとともに、不登校の児童生徒

に対しても時期・態様に応じて「登校への働きかけ」をしてきた。

不登校のきっかけをみると、「その他本人に関わる問題」が他に比べて高い率であり、不登校

状態が続いている理由としても、「不安など情緒的混乱」と「無気力」といった本人の内面的な問

題が他と比べて高い率になっている。対象となる児童・生徒が学校生活で困難を感じている具

体的な問題が発見できれば、それに対して組織的に対処することができるだろうが、このような

子どもたちの内面の問題については管理体制の強化だけでは対応が難しいのではないだろう

か。この問題についてはスクールカウンセラーなどの外部人材との連携協力にゆだねられてい

るのが実情であると思われる。それでも、家庭訪問、電話、迎えなど様々な対応の結果、全体で

約3割の児童生徒が再登校をするようになっているという。

このように不登校の背後に社会文化的要因があると認識していながら、一方では登校こそが

望ましいものだと考えて取組を進めている文部科学省の対応には批判もある。小林は、不登校

の善悪を論じて登校を強制することなく、本人の意思や自己決定を尊重し、心理状況、発達過

程を把握し不登校の積極的意味の洞察を試みることを勧めている。同様に不登校に積極的な

意味を見出そうとする立場として、河原は、不登校を示すのが成長途上の児童・青年であること

から、不登校は本人の成長過程における何らかの課題の存在を示していると考えることが有意

義であると述べている。さらに、久保らは、自立する力、成長発達ということと再登校ということは

直接的にも間接的にも関連のある事象ではなく、むしろ学校は子どもたちの成長、自立にとっ

てふさわしい環境となりえているのかどうかの検討が必要だという。その観点からみると、校長

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がリーダーシップを発揮した、きめ細かな学校の体制は、ますます管理的で緊張感の強いもの

となり、子どもたちはストレスを感じ息苦しくなっていくだろうと主張している。つまり、久保らは、

自立、成長という軸で見る以上、登校という証だけにこだわってはならないのであり、3 割の再

登校をする子どもたちにとっても、逆に 7 割の再登校しない子どもたちにとっても、これからの

生き方こそが組み立てられていかなければならないと主張している。

高垣は不登校について、「きっかけは学校にあるが、それはあくまで誘引であってその根本

原因は本人の性格特徴や親の養育態度、親子関係にある」という立場と、「競争主義・管理主

義・体罰やいじめ、差別的な扱いや侮辱、裏切りなどのはびこる、ゆがんだ学校の状況に対す

る自己防衛的な回避反応である」という二つの立場を紹介している。そのうえで、結局のところ、

社会病理のレベルで考えれば、真の原因は学校や家庭を企業戦士養成レースにまきこむ企業

社会やその意を受けた政治にあるのだと強調している。子どもたちの示す問題の背景には、学

校のみならず家庭や地域のかかえる問題、またはそれを規定する社会的矛盾があり、その問

題や矛盾を棚上げにして根本的な解決をはかることは難しいので国民的な課題として取り組ん

でいくべきだと主張している。このような不登校の児童生徒を取り巻く社会と文化については、

個人主義、希薄な人間関係、地域社会でのやすらぎの場所の喪失、家庭でのくつろぎの喪失、

没個性化、人間の同一化、普通が強調されること、物質的な豊かさ、能率志向、偏差値教育、子

どもの数の減少、遊び空間の狭小化、マスメディアの拡大化などが指摘されている。しかし、同

時に、これらの社会環境がどのように児童生徒の発達に影響しているのかを明らかにする必要

があるのである。

(2) 不登校の心身症的症状と発達課題

不登校が現代社会のゆがみを示す指標となり、学校や家庭の望ましいあり方を知ることにつ

ながるとしても、そのような社会的矛盾の解決には時間がかかるであろう。国民それぞれが、可

能な範囲で社会や、学校・家庭の矛盾の解消に取り組むと同時に、不登校の児童生徒に関わ

る者としては、当の児童生徒がどのような発達課題を乗り越えられずにいるのか、不登校はその

課題を乗り越えるうえでどのような意味があるのか、さらには児童生徒に対してどのような援助

が必要であるかをよく理解したうえで実践に移していかなければならない。そして、その作業を

すすめていくことが、望ましい学校環境、家庭環境、そして社会全体の方向性を示すことにもつ

ながると考えられるのである。

久保らは不登校にともなって、腹痛、下痢、頭痛、昼夜逆転、家庭内暴力などが出現するが、

それらは不登校での子ども自身の罪悪感や、親・教師など周囲からの登校刺激といったストレッ

サーを受けることで二次的に発生しているストレス症状である場合もあるという。河原も、不登校

に伴う症状としては登校時間に頭痛、腹痛、嘔気等の身体症状を示すが、これは周囲が登校を

勧めなければ消失することが多く、とくに他の症状はなく家庭でのんびりと過ごしているように見

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えるケースもあると述べている。また、心身症的な症状が発生した場合の治療プロセスによると、

対症療法的な薬物治療だけでなく、カウンセリングや家庭や学校への働きかけなどが必要な場

合もあり解決が複雑化しているように思われる。子どもたちは発達課題が達成できずに危機を

かかえている場合に、それを何らかの表現として示しているはずだが、周囲の大人はそのサイ

ンに気づかずに援助できないばかりか、むしろ追いつめてしまい、結果としてその子どもたち

は自己防衛のために、やむなく不登校になっているという可能性はないだろうか。そして、その

ような状況になっても周囲が「登校」にこだわって対応してしまい、二次的なストレス被害を生み

出している場合もあるのではないだろうか。不登校児童生徒を囲む環境として、せめて不登校

をあたりまえの自然な自己防衛の反応とみることが大切で、問題視したり無理な登校をさせよう

としたり、不登校を続けている児童生徒を罪悪視するような風土がなくなれば、これらの心身の

変調について防げる部分があるのではないかと考えられる。しかし、それは「不登校について

は何も対応する必要がなく、放置しておけばよい」ということでは決してない。むしろ子どもたち

が当面している発達課題を乗り越えることができるような大人たちの積極的な援助が期待される

のである。

(3) 不登校児童生徒の発達課題

不登校児童生徒数は学年が上がるにつれ増加しているが、顕著になるのは小学校 5、6 年生

であり中学 1 年生で急増している。その時期が発達上重要な時期であることを示しているので

はないだろうか。また、不登校の状態を前年度から継続している児童生徒も、学年があがるに

つれて増加しているが、それは不登校が、学校の中での一過性の問題を解決すれば再登校で

きるという図式ではとらえがたい、連続的な「発達」の問題であることを示しているのではないだ

ろうか。また、不登校が全国的な現象であるのは、既に述べた「全国的」な社会環境としての要

因が児童生徒の発達に影響しているからではないだろうか。さらには、不登校のきっかけとして、

「その他本人に関わる問題」が多いことは指摘したが、小学生では 2 位が「親子関係をめぐる問

題」、3位が「いじめを除く友人関係をめぐる問題」であり、中学生では 2位が「いじめを除く友人

関係をめぐる問題」、3 位が「学業の不振」となっている。小学生での親子関係・友人関係や中

学生での友人関係・学業などが発達課題と関連しているのではないだろうか。しかし、以上のよ

うな仮説の妥当性を明らかにしていくためには、不登校児童生徒に関する実証研究や事例研

究を積み重ねていかなければならないが、本研究ではその前提となる整理をしてみたい。

発達は遺伝的素質などの個体的要因と子どもの経験としての環境的要因の相互作用によって

なされ、しかも連続的・漸進的で前の段階の発達の遅速は後の段階に影響する。エリクソンは

人生を 8 つの段階に分けて発達課題を説明している。乳児期には母親的な人物との間で「基

本的信頼」が「基本的不信」をうわまわることで「希望」という自我の協和的な特質が獲得され、乳

幼児期初期には、親的な人間との間で「自律性」が「恥・疑惑」をうわまわれば「意思」という特質

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が獲得され、遊戯期には基本家族との間で「自主性」が「罪悪感」をうわまわれば「目的」という特

質が獲得される。そして、このような段階を進んできたうえで、学童期には、近隣や学校との間

で、「勤勉性」が「劣等感」をうわまわれば「適格」という特質が獲得され、青年期では仲間集団と

外集団、リーダーシップの諸モデルとの間で、「同一性」が「同一性の混乱」をうわまわれば「忠

誠」という特質を手に入れるとされている。

不登校児童生徒の発達段階を考察するうえで、「児童期」「青年期」の課題だけを調べればよ

いという考え方に対しては平石からの反論がある。それは、思春期危機の問題を議論する際に

は児童期以前の未解決な問題を引きずった形で思春期を迎えた際に起こる危機と、児童期ま

では特に問題は認められないが思春期において経験した困難な課題によって引き起こされた

危機とは区別し両者の相違点について検討することが重要であるというのである。また、笠井も、

ある時期の発達課題の未達成が後の発達課題で問題を生じさせること、そして不登校になった

ために本来なら体験すべき教育経験や対人関係が限定されてしまい、本人の実年齢に即した

発達が阻害されてしまった可能性をも考慮するように述べている。その意味では不登校には、

児童期:青年期の発達課題だけではなく、乳児期の「基本的信頼」、乳幼児期前期の「自律性」、

遊戯期の「自主性」も関係している場合があると考えられる。

不登校の背景要因を論じた夏野は、本人の要因として「自主性・自発性の乏しさ」をあげてお

り、甲斐も実証研究の結果として、不登校児童の自己認知として「いつもまわりの目を気にして

積極的な態度をとることができない」「思ったことをはっきりいえない」「人前で話すことができな

い」という特徴をあげていることから、不登校について遊戯期の「自主性」という発達課題が関係

していることが推測される。それでは、現代社会のどのような傾向が家庭や学校に影響を与え

て、この自主性を阻害したのだろうか。夏野が不登校の家庭環境の要因としてあげている「親の

過干渉、過保護的な養育態度、強い期待」などは、この自主性の阻害と関連がありそうである。

あるいは競争主義・管理主義の学校体制が子どもの自発的なやる気をうばったのではないだろ

うか。甲斐は、不登校児童生徒の自己認知の調査の中に「大人は頭の良い子供しかかまわな

い」といった記述があることから、「学力という一つのものさしで子供を評価してしまう社会の学歴

偏重のひずみの大きいことがうかがわれる」と述べている。高垣は「なぜ、子どものなかにたし

かな欲求―めあてが育たないのか。(中略)学校が人間を育てる場ではなく、人材を開発し、選

別する場へと変質させられてきていることを指摘しなければならない。その背景には、人材開発

政策にもとづく、能力主義、選別主義の教育政策があることは言うまでもない」74)と指摘している。

平井によれば、児童期は学習期とも呼ばれ、学習が他の子どもより確実に進めばその子は有

能感を持つが学習が他の子どもより困難で送れたりすると劣等感や無力感が形成されるとして

いる。学童期の「勤勉性」という課題が不登校と関係している可能はないだろうか。しかし、小学

生の不登校のきっかけとして「学業の不振」は上位の理由ではない。ここでいう「勤勉性」は学業

に限定されるものではなく、自己の能力がうまく発揮できず評価されない状態、つまり「劣等感」

を持ちやすい状態だと広く考えればどうだろうか。夏野は生活技術、体験の狭さを不登校の背

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景要因としてあげているが、これは乳幼児前期の「自律性」の未達成が後の段階で「劣等感」に

つながって「勤勉性」の獲得がうまくいかなくなるのではないだろうか。また、甲斐は、不登校児

童が、「学校ではばかにされたりいじめられやすい傾向にあり、傷つきやすく脆い自我を持ち、

学力に対する強いコンプレックスをもっている」というような自己肯定感が希薄な特徴を指摘して

いるが、それは「勤勉性」という課題が不登校と関係しており、高垣のいう学校の能力主義、選別

主義がこの課題を乗り越えにくくしているからではないだろうか。また、児童期における中期か

ら後期にかけての徒党時代(ギャング・エイジ)では、交友関係が活発となり社会性が学習され

るという。このような対人関係に関するハヴィガーストの発達課題をいくつか抜粋すると、乳幼児

期には「両親や兄弟姉妹や他人と情緒的に結びつくこと」、児童期には、「仲間とうまくやってい

くことの学習」「個人的独立を達成すること」「社会的集団や制度に対する態度を発達させること」

があげられており、青年期では「同年輩の男女両性との新たな、より成熟した関係をつくりあげ

ること」「男性または女性としての、それぞれの社会的役割を遂行すること」、「両親や他の成人

からの情緒的な独立を達成すること」などがあげられている。つまり、乳幼児期に両親や家族と

の間で情緒的な結びつきを構築し、児童期には個人的独立を達成したうえで仲間との関係や

集団との関係に広げていき、そして青年期には両親や他者からの情緒的な独立をはかっていく

というプロセスが発達課題としてあるというのである。

平石は、子どもにとっての重要な対人関係は、親や教師などのタテの関係と友だちとの関係

などヨコの関係に分類することができるが、健全な発達の過程では、児童期から思春期・青年期

にかけて徐々に親などのタテ関係から自立していき、同性の友人、異性の友人へと、重要な関

係をヨコ関係に移行させていくのだと指摘している。平石は、不登校の子どもたちに関わってい

ると、この 2 つの対人関係の両方に問題をかかえており、2 つの対人関係のバランスが悪いと

感じるという。つまり、不登校児童生徒には、親子関係に縛られるあまりに主たる対人関係の領

域を友人関係へと移行させていくことに失敗する「タテ関係からヨコ関係への発達における「挫

折」が起こっているというのである。小学生の不登校のきっかけとして「親子関係」「友人関係」を

めぐる問題が上がっており、中学生に「友人関係」の問題が上がっていることと符合するところが

あると思われる。平石は事例研究を試みているが、このような仮説の実証が期待されるところで

ある。

では、なぜこのような挫折が発生するのだろうか。高垣によれば次のようなプロセスで説明で

きるという。子どもたちは親やおとなに依存することで心理的に安定していたのが、心理的に分

離していくことは自立への途上であり不可避のことではあるが同時にそれは心のよりどころを喪

失する危険をともなっているという。こうした危機を生きる子どもにとって、同年輩の仲間たちと

展開する集団活動や、そこに形成される自分たちの世界やきずなは、親やおとなからの心理的

な分離を実現し自立を達成していくうえで、不可欠の媒介者としての意義を持っている。ところ

がすでに述べたような様々な社会の変化によって、子どもたちの仲間関係や集団活動がやせ

ほそり解体していく状況は子どもたちの自主的・自律的な能力の形成を未熟なものにしていると

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ともに、親やおとなへの依存から心理的に分離していくことを可能とする自分たちの世界や新た

な心のよりどころをもつことを困難にしている。また、子どもたちの世界も暴力文化や嘲笑文化

の影響をうけて、暴力やいじめが幅をきかせ、正義と友情のモラルにかわり暴力と同調のモラル

が支配しがちであり、そこで守られる秘密とは集団の自律的な結束や心のつながりによって守

られる秘密ではなく、おどしや暴力への脅威によって守らされる傾向を持っている。そして、親

や大人は子どもたちが分離していく世界が万引きや暴力、陰湿ないじめの支配する世界になっ

てはいないかと心配して、子どもたちへの干渉や管理主義的な対応を強める。それは、自分た

ちの干渉や管理に従う従順で素直な「よい子」であるかぎりにおいて、子どもたちを受容すると

いう関係を子どもたちに強いることとなる。そうすると、子どもたちは二者択一的な岐路に立たさ

れる。心のよりどころを失うことを恐れて親や大人の管理に従い「よい子」として庇護を受けるか

わりに、自立への旅立ちをあきらめれば自分を失う「むなしさ」を生きねばならず、その苦悩はし

ばしば不登校や家庭内暴力という形であらわれる。逆に、自分を失うことを恐れて親や大人の

管理に反抗し自律的な能力が未熟なままに自立へと旅立つ危険性をおかせば、心のよりどころ

を失う「さみしさ」を生きなければならず、その苦悩はしばしば非行や校内暴力という形であらわ

れるのだと高垣は言っている。この過程について、高垣は 10 歳頃を境として具体的経験の世

界から抽象的・観念的世界への離陸が開始しはじめることが関係していると述べ、平石は、思春

期には親子関係に相互調整的な変化が生じ、学業、運動能力、身体魅力などについての比較

競争が激化することが背景にあると考えている。その意味では不登校児童生徒数について、顕

著になるのが小学校 5、6 年生で、中学 1 年生で急増していることや、中学生の不登校のきっ

かけの第3位が「学業の不振」であることと符合するのではないだろうか。

無藤によれば、エリクソンは青年期とは、自分がない、本当の自分が分からないという同一性

の危機と直面しながら、本当の自分を模索し続けていく過程であるといっている。福山は、自分

は何者なのか、何になったらいいのか、と模索し、自分を定義づけるためのモデルを探し求め

ながら最終的には社会の中での居場所役割を見つける形で本当の自分を選び取っていくこと

が青年期の課題になるといっている。このような過程を経て、同一性、アイデンティティが達成さ

れたときには、自分自身の肯定的感覚に加えて、他者からも自分が肯定されているという感覚

を持つという。反対のアイデンティティ拡散状態とは、自分が将来何になりたいか分からない、

自分が好きになれないなど自己に対して肯定感が得られず、自己否定感が強い状態といわれ

ている。先に述べた親や大人といったタテ関係から友人たちへのヨコ関係への移行を経たのち

に、様々な「社会的役割実験」つまり、「社会の中で自分の居場所がどこにあるか探しもとめるた

めの試しに様々な役割をとってみる活動」を通じて拡散状態に陥ることを防ぎ、アンデンティテ

ィの達成を試みる機会が与えられるという。福山は不登校の背後に「アイデンティティをめぐる葛

藤」がある事例を紹介している。

不登校のきっかけとしての「その他本人に関わる問題」や、不登校状態が継続している理由と

してあげられた「不安など情緒的混乱」「無気力」の背景には、これまで述べたような発達課題が

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達成されていない状況があると考えられるのではないだろうか。また、高垣は不登校の意味とし

て、それが登校ということに対して「『ノー』であるがゆえに、他者の思わくや期待に自らをあわ

せ、他者の欲求や感情をあたかも自分自身の欲求や感情であるかのように生きてきた自己の存

在様式を逆転させる大切な契機となりうるであろう。それゆえまず、その『ノー』が肯定され、受

容されなければならない」75)と述べている。不登校という行動化が、それまでの自分を変えてい

く大切な自己主張の第一歩となるのであれば、援助者や周囲の大人はそれをまず認めてあげ

ることが大切になってくるのである。

また、平石は家庭外の空間で困難な状況に陥り、不登校という形で家庭に退却していきた子

どもたちは、まず始めに親子関係の葛藤などの未解決な課題に取り組むことが多いという。そし

て、そこからの成長のプロセスには、大人(教師やカウンセラー)との二者関係から始まり、複数

との大人との関係、ごく少数の友人との関係、多数の友人との関係へと親密な関係の範囲を広

げていく順序性があるという。友人関係というヨコ関係に入っていくためには心の支えとなるタテ

関係、特に大人との二者関係という安全基地、心の基盤が必要で、そこからのエネルギー備給

が十分であると次には友人関係や他の関係において第 2、第 3の安全基地を築いていくことが

出来るように思われると述べている。それは私には、不登校の子どもたちが母親との間で基本

的信頼という課題を再構築して、その後の発達の過程をやり直して「本当の自分」というアイデン

ティティを達成しようとしているプロセスのようにも思える。不登校にはそのような発達課題の視

点からの積極的な意味があると思われるのである。大切なことはそのための適切な環境を大人

たちが用意することであり、必要としている関わりへの橋渡しをすることであり、社会として様々

な選択肢を構築していくことであると考える。

本研究では文部科学省の定義に基づく不登校として中学生までの子どもを対象に考察をす

すめてきたが、青年期には高校生や大学生も含まれ、実際に高校生や大学生の不登校も大き

な社会問題となっている。高校生以降の青年を対象とした場合に本研究で示した仮説が合致

するのか、本仮説は高校生以降の不登校とどのように関連するのかなどの研究が必要とされる。

また、不登校に対するサポート機関としての適応指導教室や民間のフリースクール、宿泊型不

登校支援施設など子どもたちの発達を促進する意味での選択肢の問題についても扱うことがで

きなかったので、それらは今後の研究課題としたい。

2. 不登校問題への提言

親や学校側、周囲の大人たちが不登校に拒否反応を示し、登校を絶対視して対応しようとす

ることで、子どもたちが傷つき心身症的なストレス被害を二次的に発生させている場合があり、

問題を複雑化させているように思われる。それは無理な登校促進策に限らず、仮に学校に行か

せようとしなくとも、不登校を罪悪視する状況化では同様の被害が起こる可能性があるように思

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われる。そして、登校を絶対視する視点からは、子どもたちが不登校を通じて発達課題を乗り越

えようとしていることが理解しにくくなるので、発達に必要な関わりや環境を用意できず、必要な

体験への橋渡しができない状況となりやすい。そして、子どもたちは大人の協力のない孤独な

状況で成長しようと、もがいている場合があるのではないだろうか。また、子どもたちが家庭の中

に閉じこもり、長い時間をかけて発達のためのエネルギーを溜めて動き出そうとした場合でも、

そこに用意されている選択肢が学校に登校することだけである場合には、うまく発達の過程を

すすめることができず、それが問題を長期化させることの一因となっていないだろうか。そして、

登校を絶対視するということは、逆に親や学校側も、登校をしている者について安心してしまい、

発達の危機を見落とすことにつながる可能性もあり、そのことが結果的に必要な関わりや援助

の不足となり、学年を追うごとに不登校が発生し続けていることと関係していないだろうか。

もちろん、不登校の背景には様々な要因があり、その責任を家庭や学校に帰すことはできな

いが、せめて二次的被害が起こっている場合にはそれを減らしていく対応が求められる。それ

には不登校が発生した初期の段階で、専門家を交えて、チームとして親や家族、学校関係者が

登校だけを絶対視して対応することがないように、そして、子どもたちの発達に向けて冷静な対

応ができるように協議する場を設けることが求められる。また、その前提として「不登校は誰にで

も起こりうる」という理解から、学校や家庭に対して発達課題からみた不登校に関する考え方を

予備知識として普及する取組も必要である。そこでは、生涯発達としての位置づけから不登校

をとらえてもらうことが重要で、「発達課題」の問題が何か特別な障害のようなものだと誤解され

ないように注意しなければならない。しかし、現在の統計的な処理では、子どもたちの発達の実

態は見えてこないので、この点についての積極的な事例研究や実証研究の積み重ねが必要

だと考える。そして、そのような考え方や知識が普及された後には、不登校の問題を超えて子ど

もたちの発達にとって、どのような家庭環境や学校環境が望ましいのかについて、大人たちが

知恵を出し合い、力を合わせて実践していく協議と情報交換の場に発展させていくことが重要

である。

少子化と情報化によって、子ども社会が細っている状況の中で、親と子・先生と児童生徒とい

ったタテ関係に偏りがちな現状から、それとバランスをとるような子ども同士のヨコ関係をどのよ

うに充実させていけばよいのか。大人たちから離れた健全な子ども同士の出会いと交流の場を

用意するにはどうしたらよいのか。そして、仮にそのような場を用意したとしても、社会の価値観

としての学業優先、競争主義、という大人社会の風土のなかで、果たして子どもたちのヨコの関

係を充実させるような取組を大人たちが応援できるのか。また、自分は何者であるかというアイ

デンティティの獲得のためには、様々な役割実験としての体験が不可欠であるが、競争社会の

中で将来のために必要な体験だけを強い、大人からみて無駄なことには理解を示せないという

状況の中で、子どもたちの主体的な取組に理解を示し応援できるだろうか。つまり、子どもたち

を前にして、「人材」を育てる前に、主体的に生きることができる「人間」を育てるという課題が持

てるのかと、不登校の発生は我々大人に問い続けているのである。その意味では家庭も変わる

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必要があり、学校も、地域社会も変わっていくことが求められている。もちろん、子どもたちの自

立や成長にとって望ましい環境となるように学校にも働きかけていく必要があるが、とくに、急務

の課題としては、家庭や地域に子どもたちの発達を促進するような、体験の場や環境を用意し

て、学校以外の選択肢を増やすことである。さらには、不登校の子ども自身のカウンセリングだ

けでなく、その親や家族が子どもの発達の面からのアドバイスが受けられる体制や親自身の不

安を軽減するためのカウンセリングを受けられる場、同じような体験者の交流の場などを用意す

ることが必要であろう。不登校が発生した段階で、このようなプログラムが提示できる社会的な仕

組みを構築しなければならない。このような体制は学校という枠の中にはとどまらないと考えら

れるので、学校の対応をも組みこんだ、それよりも上位の体制が必要である。しかし既に述べた

ように、不登校の背景として、共同体としてのふれあいや、やすらぎを残していた社会から、管

理主義、競争主義、個人主義へと変貌した社会が、家庭や学校、そして子ども社会にも影響を

与え人間の発達に必要な環境をゆがめてしまっているという背景が少なからずあるように思わ

れる。このような状況下では、学校を取り込んだ上位の体制を構築することは難しいかもしれな

い。当面は、この問題に気づいた者ができる限りの対応をしながら、それらの活動を、時間をか

けて連携させて、大きな国民的な運動にしていくような方向性を模索していくことが重要である。

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第 7章 結論

不登校は、乳児期から青年期までの未達成の発達課題を乗り越えるための自己防衛的な反

応として起こっている可能性があり、不登校を発達課題の視点から捉えなおすことには意義が

ある。そして、不登校には、不登校の子どもたちの心身の不調を軽減するための対応や発達課

題を乗り越えるために必要な対人関係や生活体験を見出し、さらには環境としての家庭や学校、

地域社会の望ましいあり方を考えていく契機になるという積極的な意味があることが明らかにな

った。

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謝 辞

指導にあたっていただいた藤城有美子先生には、ていねいで適格な指導をいただきました

ことを心から感謝したします。

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引用文献

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2) 江川紹子:『私たちも不登校だった』,文芸春秋,東京,p.267,2001

3) 江川紹子:『私たちも不登校だった』,文芸春秋,東京,p.268,2001

4) 不登校問題に関する調査研究協力者会議:『今後の不登校への対応の在り方について(報

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5) 小林正幸:項目「不登校」.中島義明・安藤清志・子安増生ほか編,『心理学辞典』,有斐閣,

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6) 丸島令子:項目「不登校」.氏原寛・小川捷之・近藤邦夫ほか編,『カウンセリング辞典』,ミネ

ルヴァ書房,京都,p.539,1999

7) 不登校問題に関する調査研究協力者会議:『今後の不登校への対応の在り方について(報

告)』,文部科学省,http://www.mext.go.jp/b_menu/public/2003/03041134.htm,2009.4.1

8) 中央教育審議会初等中等教育分科会(第 38回):『これまでの不登校への対応等につい

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10) 文部科学省初等中等教育局児童生徒課:『平成 19年度児童生徒の問題行動等生徒指導

上の諸問題に関する調査』.「不登校児童生徒数の推移」,文部科学省,

http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/20/08/08073006/001.pdf,2009.4.1

11) 文部科学省初等中等教育局児童生徒課:『平成 19年度児童生徒の問題行動等生徒指導

上の諸問題に関する調査』.「学年別不登校児童生徒数のグラフ」,文部科学省,

http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/20/08/08073006/001.pdf,2009.4.1

12) 文部科学省初等中等教育局児童生徒課:『平成 19年度児童生徒の問題行動等生徒指導

上の諸問題に関する調査』.「都道府県別不登校児童生徒数(国・公・私立)」,文部科学省,

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13) 文部科学省初等中等教育局児童生徒課:『平成 19年度児童生徒の問題行動等生徒指導

上の諸問題に関する調査』.「不登校となったきっかけと考えられる状況」,文部科学省,

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14) 平井誠也 編:『発達心理学要論』,北大路書房,京都,p.208,1997

15) 文部科学省初等中等教育局児童生徒課:『平成 19年度児童生徒の問題行動等生徒指導

上の諸問題に関する調査』.「不登校状態が継続している理由」,文部科学省,

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16) 不登校問題に関する調査研究協力者会議:『今後の不登校への対応の在り方について

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17) 文部科学省初等中等教育局児童生徒課:『平成 19年度児童生徒の問題行動等生徒指導

上の諸問題に関する調査』.「不登校児童生徒への指導結果状況」,文部科学省,

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18) 文部科学省初等中等教育局児童生徒課:『平成 19年度児童生徒の問題行動等生徒指導

上の諸問題に関する調査』.「『指導の結果登校する又はできるようになった児童生徒』に

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19) 小泉英二:項目「学校恐怖症」.梅津八三・相良守次・宮城音弥ほか監修,『心理学辞典』,

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20) 小林正幸:項目「不登校」.中島義明・安藤清志・子安増生ほか編,『心理学辞典』,有斐閣,

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21) 丸島令子:項目「不登校」.氏原寛・小川捷之・近藤邦夫ほか編,『カウンセリング辞典』,ミ

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23) 河原省吾:項目「不登校(登校拒否)」.氏原寛・亀口憲治・成田善弘ほか編,『心理臨床大

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25) 久保武・西村秀明:『不登校の再検討』,教育史料出版会,東京,p.261,1993

26) 久保武・西村秀明:『不登校の再検討』,教育史料出版会,東京,pp.262‐263,1993

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31) 久保武・西村秀明:『不登校の再検討』,教育史料出版会,東京,p.263,1993

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33) 久保武・西村秀明:『不登校の再検討』,教育史料出版会,東京,p.69,1993

34) 久保武・西村秀明:『不登校の再検討』,教育史料出版会,東京,p.255,1993

35) 高垣忠一郎:『登校拒否・不登校をめぐって』,青木書店,東京,pp.66‐67,1991

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37) 高垣忠一郎:『登校拒否・不登校をめぐって』,青木書店,東京,p.ⅲ,1991

38) 高垣忠一郎:『登校拒否・不登校をめぐって』,青木書店,東京,pp.ⅲ‐ⅳ,1991

39) 河原省吾:項目「不登校(登校拒否)」.氏原寛・亀口憲治・成田善弘ほか編,『心理臨床大

事典』 改訂版,培風館,東京,pp.948-949,2004

40) 小泉英二:項目「学校恐怖症」.梅津八三・相良守次・宮城音弥ほか監修,『心理学辞典』,

平凡社,東京,pp.105‐106,1981

41) 高垣忠一郎:『登校拒否・不登校をめぐって』,青木書店,東京,pp.65‐66,1991

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43) 甲斐裕子:登校拒否児の自己認知.情緒障害教育研究紀要,第4号,51‐54,1985.

44) 河合洋:『学校に背を向ける子ども なにが登校拒否を生み出すのか』,日本放送出版協

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47) 稲村博:『不登校の研究』,新曜社,東京,p.207,1994

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49) 稲村博:『不登校の研究』,新曜社,東京,p.210,1994

50) 平井誠也 編:『発達心理学要論』,北大路書房,京都,pp.207‐210,1997

51) 河原省吾:項目「不登校(登校拒否)」.氏原寛・亀口憲治・成田善弘ほか編,『心理臨床大

事典』 改訂版,培風館,東京,pp.948,2004

52) 久保武・西村秀明:『不登校の再検討』,教育史料出版会,東京,p.73,1993

53) 梶原荘平:「心身症的愁訴を有する不登校」『心身医学』48,229‐234,2008.

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55) 佐々木正美:『続 子どもへのまなざし』,福音館書店,東京,p.234,2001

56) 佐々木正美:『続 子どもへのまなざし』,福音館書店,東京,pp.234-248,2001

57) 秋山博介:不登校についての一考察その 2―学校教育とひきこもり、フリーター、ニートと

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58) 高垣忠一郎:『登校拒否・不登校をめぐって』,青木書店,東京,pp.76‐77,1991

59) 久保武・西村秀明:『不登校の再検討』,教育史料出版会,東京,pp.250-251,1993

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60) 高垣忠一郎:『登校拒否・不登校をめぐって』,青木書店,東京,p.91,1991

61) 稲村博:『不登校の研究』,新曜社,東京,p.93,1994

62) 平井誠也 編:『発達心理学要論』,北大路書房,京都,p.2,1997

63) 平井誠也 編:『発達心理学要論』,北大路書房,京都,p.3,1997

64) 平井誠也 編:『発達心理学要論』,北大路書房,京都,p.4,1997

65) 平井誠也 編:『発達心理学要論』,北大路書房,京都,p.5,1997

66) 川畑直人:項目「エリクソンの人格発達論」.氏原寛・亀口憲治・成田善弘ほか編,『心理臨

床大事典』 改訂版,培風館,東京,pp.114-118,2004

67) 平井誠也 編:『発達心理学要論』,北大路書房,京都,pp.9-10,1997

68) 高垣忠一郎:『登校拒否・不登校をめぐって』,青木書店,東京,pp.32‐36,1991

69) 高垣忠一郎:『登校拒否・不登校をめぐって』,青木書店,東京,pp.36‐41,1991

70) 平井誠也 編:『発達心理学要論』,北大路書房,京都,p.10,1997

71) 無藤隆・高橋惠子・田島信元 編:『発達心理学入門Ⅱ―青年・成人・老人』,東京大学出

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72) 無藤隆・高橋惠子・田島信元 編 『発達心理学入門Ⅱ―青年・成人・老人』,東京大学出

版会,東京,p.13,1990

73) 福山逸雄:不登校・登校拒否の理解とその対応―アイデンティティの視点から―.沖縄国

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74) 高垣忠一郎:『登校拒否・不登校をめぐって』,青木書店,東京,p.10,1991

75) 高垣忠一郎:『登校拒否・不登校をめぐって』,青木書店,東京,p.87,1991

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人間総合科学の理解―卒業研究を振り返って―

不登校問題の現状と課題について、発達課題の視点から考察を進めていく中で、不登校児

童生徒の心の問題、身体の問題、そして環境としての社会的文化的問題へと関心が広がり、そ

の相互関係を把握していくという方向性で研究が深まっていった。

人間総合科学大学に入学して以来、人間を「こころ」「からだ」「文化」という 3 つの視点から見

つめなおし、既存の学問分野を超えて複合的に考察することの重要性を学ぶとともに、基礎と

なる様々な学問分野の科目習得に励んできた。

そして、今回、その基礎的な学力を総合することを念頭におきながら卒業研究にあたったが、

振り返ってみると、この不登校問題というテーマは、発達心理学だけでなく、臨床心理学、心身

医学、行動科学、脳科学、さらには比較文化的、社会学的な視点までが関係している複雑な問

題であった。それに加えて、「こころ」「からだ」「文化」という 3 つの領域の探求と相互関係の把

握が不可欠であったことから、まさに人間総合科学的な手法でなければ探求することが不可能

なテーマであったと思っている。

今回は、不登校という現代社会の問題としては一断面の探究であったが、今回の卒業研究の

過程で、藤城有美子先生から指導をいただきながら身につけた研究態度や気づきを活かしな

がら、今後も人間総合科学的な視点で現代社会の様々な問題を探求していくことをライフワーク

にしたいと考えている。