総合的な学習の時間の学びを支えるポートフォリオ …...64 (2) 調査結果...

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63 F1-07 学びを えるポートフォリオ 学びを えるポートフォリオ 学びを えるポートフォリオ 学びを えるポートフォリオ されているポートフォリオを「 援」に かす ため らえ,多 みた。そ における 学びに じた学 し, りを して学びを していくこ づいて 学びを 確に 握す るこ が, 学びを えるこ あるこ らかに った。 キーワード キーワード キーワード キーワード ,ポートフォリオ, り, ,学び じめに じめに じめに じめに 12 12 から「 について )」が され, を多 し, 援に かすこ められている。しかし, における について まだ 確にされてい が多い。 して った。 そこ されてきているポートフォリオに し,ポートフォリオを る学 めるこ く, かした り, 確に 握し, 援に かしたりするため らかにしたい え, 題を した。 援に かす ため ポートフォリオ る。 題にかかわる 題にかかわる 題にかかわる 題にかかわる (1) によ り, されている( 1)。 について ,「 感じたこ ,学んだこ り,そ ようにかかわっていく きかを えるこ あり,活 体を り, るた する がある。」(学 より られている。 これら から,学 における ように し,活 する かが, 学びを える える ある。 (2)ポートフォリオ 浦(2000) ,ポートフォリオを「一 する が, にわたり, された ある」 している。しかし,学 をつくり げていくため して位 けた から について げられている ある。また, するか いう されて いる。 (1) に活 する らかにする ため, において され ているノート プリント につい て,「 」「 による から った。 69 13 6 にかかわる 「児童のよい点や進歩の状況などを積極的に評価する とともに,指導の過程や成果を評価し,指導の改善を行 い学習意欲の向上に生かすようにすること。」 (小学校学習指導要領,第 1 章総則より) 「学習活動の特質に応じ,学習過程における児童生徒 のレポートや作品など具体的な事例を保存し,学習の進 め方などの指導に役立てる評価も有効である。」 (「児童生徒の学習と教育課程の実施状況の評価の在り方に ついて(答申)」,教育課程審議会より) ――

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Page 1: 総合的な学習の時間の学びを支えるポートフォリオ …...64 (2) 調査結果 「どのような力が付いたかを見る」「つまずきを 発見する」の項目では,総合的な学習の時間が教科

F1-07 総合的な学習の時間

総合的な学習の時間の学びを支えるポートフォリオの活用総合的な学習の時間の学びを支えるポートフォリオの活用総合的な学習の時間の学びを支えるポートフォリオの活用総合的な学習の時間の学びを支えるポートフォリオの活用

倉敷市立中島小学校 教諭

根 岸 正 治

研究の概要研究の概要研究の概要研究の概要

本研究では,近年注目されているポートフォリオを「児童の主体的な学習」と「教師の適切な支援」に生かす

ための学習物ととらえ,多面的な活用を試みた。その結果,総合的な学習の時間における児童の学びに応じた学

習情報を蓄積し,振り返りを通して学びを再構成していくことや評価規準に基づいて児童の学びを的確に把握す

ることが,総合的な学習の時間の学びを支えることに有効であることが明らかになった。

キーワードキーワードキーワードキーワード 総合的な学習の時間,ポートフォリオ,振り返り,自己評価,学びの再構成

ⅠⅠⅠⅠ はじめにはじめにはじめにはじめに

平成 12 年 12 月に教育課程審議会から「児童生徒の

学習と教育課程の実施状況の評価の在り方について

(答申)」が示され,児童の学習を多面的に評価し,

評価を支援に生かすことが求められている。しかし,

総合的な学習の時間における評価の在り方については,

まだ明確にされていない点が多い。本校でも,昨年度,

評価や支援の在り方が課題として残った。

そこで,近年注目されてきているポートフォリオに

着目し,ポートフォリオを単なる学習の記録や作品集

にとどめることなく,児童の主体的な学習に生かした

り,教師が児童の学習状況を的確に把握し,支援に生

かしたりするための活用方法を明らかにしたいと考え,

本主題を設定した。

ⅡⅡⅡⅡ 研究の目的研究の目的研究の目的研究の目的

児童の主体的な学習及び教師の適切な支援に生かす

ためのポートフォリオの活用の在り方を探る。

ⅢⅢⅢⅢ 研究の内容研究の内容研究の内容研究の内容

1111 研究主題にかかわる基本的な考え方研究主題にかかわる基本的な考え方研究主題にかかわる基本的な考え方研究主題にかかわる基本的な考え方

(1) 評価の在り方

学習指導要領の改訂や教育課程審議会の答申によ

り,評価の在り方が問い直されている(図1)。

総合的な学習に時間の評価については,「課題追

究で感じたこと,学んだことを振り返り,その課題

にどのようにかかわっていくべきかを考えることが

大切であり,活動全体を振り返り,生き方を探るた

めの評価を工夫する必要がある。」(学習指導要領

解説総則編より抜粋)と述べられている。

これらのことから,学習過程における児童の学習

の記録となる作品等をどのように蓄積し,活用する

かが,総合的な学習の時間の学びを支える評価を考

える上で大切である。

(2) ポートフォリオの課題

高浦(2000)は,ポートフォリオを「一人一人の

子どもの学習の過程及び成果に関する情報・資料が,

長期にわたり,目的的・計画的に蓄積された集積物

である」と定義している。しかし,学習をつくり上

げていくための支援や評価の資料として位置付けた

視点からの効果的な活用方法についての研究は,実

践事例が積み上げられている段階である。また,何

を蓄積するかという選択規準の設定も課題とされて

いる。

2222 実態調査実態調査実態調査実態調査

(1) 調査の目的と方法

作品を評価に活用する際の留意点を明らかにする

ため,教科や総合的な学習の時間において使用され

ているノートや学習プリントなどの利用状況につい

て,「作品の利用目的」「作品による観点別評価」

の二点から調査を行った。

・調査対象:倉敷市立中島小学校,倉敷市内小学校

2校,計3校 教諭 計 69 名

・調査方法:質問紙法 (平成 13 年 6 月実施)

図1 評価の在り方にかかわる記述

◇ 「児童のよい点や進歩の状況などを積極的に評価する

とともに,指導の過程や成果を評価し,指導の改善を行

い学習意欲の向上に生かすようにすること。」

(小学校学習指導要領,第 1 章総則より)

◇ 「学習活動の特質に応じ,学習過程における児童生徒

のレポートや作品など具体的な事例を保存し,学習の進

め方などの指導に役立てる評価も有効である。」

(「児童生徒の学習と教育課程の実施状況の評価の在り方に

ついて(答申)」,教育課程審議会より)

63 ―
Page 2: 総合的な学習の時間の学びを支えるポートフォリオ …...64 (2) 調査結果 「どのような力が付いたかを見る」「つまずきを 発見する」の項目では,総合的な学習の時間が教科

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(2) 調査結果

「どのような力が付いたかを見る」「つまずきを

発見する」の項目では,総合的な学習の時間が教科

に比べて低く,学習状況の把握という点で作品が十

分には生かされていないと思われる。また,総合的

な学習の時間では,「考えや感想,思いを見る」が

多く,それに比べ,「課題作り」「発表」「話し合

い」など,主体的な学習活動のための利用は十分と

は言えない状況が見られる(図2)。

「指導要録の改善通知」で例示された評価の観点

に基づき,作品からとらえることができる児童の育

ちを調査した。その結果,作品からは総合的な学習

の時間のねらいの一つである「自己の生き方を考え

ることができる」が他の観点に比べてとらえにくい

という傾向が見られる(図3)。

以上の結果から,作品を活用する際には,学習状

況を的確に把握し,児童の主体的な学習活動に生か

したり,「自己の生き方」を考えることができるよ

うにしたりするなど,活用の工夫が必要であると思

われる。

3333 ポートフォリオ活用の重点ポートフォリオ活用の重点ポートフォリオ活用の重点ポートフォリオ活用の重点

これまでのポートフォリオの課題や調査結果から,

ポートフォリオの多面的な活用を児童と教師の両面

から試みる。

(1) 自己の学びに生かすポートフォリオの活用

① 学習過程に応じた情報の蓄積

本研究では,学習過程を,思いや考えを蓄積する

「ふれる・つかむ」,課題解決に取り組む「追究す

る」及び「まとめる・伝える」,自己の学びを振り

返る「振り返る・広げる」の四つの過程でとらえる

こととする。ポートフォリオを自己の学びに生かす

ことができるようにするために,各学習過程に応じ

た情報を蓄積し,利用する(図4)。

② 自己の生き方につなぐ学びの再構成

学習過程に自己評価や相互評価など,児童が主体

となって行う評価の場を設定するとともに,教師や

保護者,地域の方などによる他者評価も取り入れる。

また,短期,中期,長期の学習の振り返り(図5)

を通して自己の学びや考え方を再構成していくこと

で,自分のよさや成長を認めたり,考え方を深めた

りするなどして,自己の生き方を考えることができ

るようにする。

(2) 評価を支援に生かすポートフォリオの活用

① 学習活動の修正や改善に生かす学習状況の把握

指導計画に評価の観点,評価規準及び評価方法を

明確に位置付けるとともに,評価の観点に基づいた

自己評価カードにより,児童の学習状況を把握し,

学習活動の修正や改善に生かす。

② ポートフォリオを介した児童との対話(カンファ

レンス)

ポートフォリオから把握した児童のよさや学習の

つまずきなどは,文字による評価や支援でも可能で

あるが,直接児童との対話(カンファレンス)を行

うことで支援をより確かなものにできると考える。

4444 指導計画と評価計画指導計画と評価計画指導計画と評価計画指導計画と評価計画

本研究における総合的な学習の時間の指導計画を

図6に示す。

図5 短期,中期,長期の振り返り

① 短期的な振り返り 1単位時間ごとの振り返り。本時の目当

ての達成度を振り返る。

② 中期的な振り返り 学習過程のまとまりごとの振り返り。例え

ば,「ふれる・つかむ」の終了後に「ふれる・つかむ」を通して振り返る。課題達成

度を確認する。

③ 長期的な振り返り 学習過程「振り返る・広げ

る」における学習全体の振り返り。課題の達成度や自己の成長を確認する。

図4 学習過程に応じた情報を蓄積するポートフォリオ

思いや考えを蓄積

し ,課題作りに生

かすポートフォリオ

学 習 過 程

ふれる・つかむ 追究する まとめる・伝える 振り返る・広げる

課題追究や課題へ

の振り返りに生か

すポートフォリオ

交流イベントや発表

などの表現活動に生

かすポートフォリオ

学習全体を振り返り,

自己の生き方に生か

すポートフォリオ

◇感想文 ◇体験新聞 ◇イメージマップ ◇企画書

など

◇学習計画,活動計画 ◇話し合いの記録 ◇自己評価 ◇教師,友達のコメント

など

◇イベント,発表計画 ◇原稿 ◇スケジュール表 ◇話し合いの記録

など

◇自己評価 ◇作文構想メモ ◇教師,友達のコメント ◇保護者のコメント

など

図3 作品による 観点別評価

図2 作品の利用目的

その他 1% 自己の生き方

4%

0 20 40 60

考えや感想,思いを見る

どのような力が付いたかを見る

つまずきを発見する

学習の振り返りに活用する

課題作りの素材にする

通知表,指導要録の参考にする

発表の素材にする

話し合いの素材にする

計画通り行われているかを見る 児童との話し合いの資料にする

(人)

教 科

総 合

― ―

Page 3: 総合的な学習の時間の学びを支えるポートフォリオ …...64 (2) 調査結果 「どのような力が付いたかを見る」「つまずきを 発見する」の項目では,総合的な学習の時間が教科

○ 「ふれあいの町づくり」の活動の中で出会った人との触れ合いを通して,人の思いや考えを理解したり,進んで人とのかかわりを持ったり,かかわりを広げたりできるようになる。 <人間関係力>

○ 地域の人や出会った人,周りの友達の立場や考えを受け入れながら,自分の思いや考えを相手に伝えることができる。 <自己表現力>

○ 学習過程の中で自分の思いや考えを振り返り,自分のよさを発見したり,課題を見付けたりすることができる。 <自己評価力> ○ 「ふれあいの町づくり」のテーマを基に自分で課題をつくり,解決の見通しを持って,解決の方法を工夫しながら「ふれあいの町づくり」を

目指して活動することができる。 < 課 題

解決力> ○ 「ふれあいの町づくり」に必要な情報を収集・選択・活用し,伝え方を工夫しながら活動成果を発信していくことができる。

追究する

ふれる・つかむ

まとめる・

伝える

振り返る・広げる

思いや考えを蓄積する段階

課題解決に取り組む段階

自己の学びを振り返る段階

程 活 れ 評 >

○課題別にグループを作り課題の解決方法や活動の計画を立てる。

○計画に沿って活動を行う。(体験活動

及び課題解決学習の展開) ○中間発表会①を行い,新たな課題発見や

課題追究の見直しや修正を行う。(全体) ◇中間発表会①までの活動を振り返る。

・新たな課題や課題追究のための活動を行う。

○中間発表会②を行い,追究活動のまとめをする。(学級)

◇ポートフォリオを利用した「付せん新聞」作

りを通して活動を振り返る。 (再構成②)

<事前体験>

・○○君とともに(留学生との交流) ・なかよし遠足(1年生との交流)

<体験活動>

・○○さんとともに(体の不自由な方との交流) ・○○荘・□□荘訪問(高齢者の方との交流) ・幼稚園に行こう(幼児との交流) など

○体験活動を振り返り,触れ合いについての思いや考えを膨らませる。(共通の課題づくり)

◇「ふれあい新聞」作りを通して活動を振り返る。 (再構成①)

私たちの町中島を心と心がふれあうあたたかい町にしよう。

(人)自分から進んで人とかかわろうとしてい

る。 <観察,自己評価> (表)自分の思いや考えを積極的に表現しよ

うとしている。 <観察,作品評価> (表)課題づくりに必要な自分の思いを表現

しようとしている。 <観察,作品評価>

(人)触れ合い活動の感想を出し合う中で友達と進んで話し合いができる。

<観察,自己評価>

(課)追究する価値のある課題を見付けることができる。 <自己評価,相互評価>

(課)課題追究への見通しを持って,追究方法を考えることができる。 <観察,作品評価>

(人)自分の役割を意識しながら,友達と協力して課題追究ができる。 <観察,自己評価>

(人)自分から進んで人とかかわろうとしてい

る。 <観察,自己評価> (情)課題解決に必要な情報を進んで,選択,

収集して活用している。 <作品評価>

(表)触れ合う人々やまわりの友達の考えを受け入れながら,自分の思いを相手に伝えることができる。 <観察,自己評価>

(表)調べたり,活動したりしたことを分かりやすく書き表したり,人に伝えたりすることができる。 <観察,自己評価,作品評価>

(表)今までの自分の学習で得た思いや考え

を地域や周りの人に伝えようとしている。 <観察,自己評価>

(課)ふれあいフェスタへ向けて,課題を持っ

て計画や準備などの活動ができる。 <観察,作品評価>

(人)ふれあいフェスタに参加した人と進んで

話をしたり,一緒に活動したりして,人とのかかわりを持とうとしている。

<観察,自己評価>

(情)「ふれあいの町づくり」でまとめた情報を発信の方法を工夫しながら進んで伝えようとしている。 <作品評価>

(表)振り返りの中で感じたことや考えたこと

をまとめ,言葉にまとめたり,人に伝えたりしていこうとしている。

<観察,作品評価>

(評)ポートフォリオを使って自己の活動や学びを振り返り,自分の成長や考えのよさを見付け,これからの生活や生き

方について考えを持とうとしている。 <自己評価,作品評価>

○グループごとに発表や催しの形態を工夫

し,出会った人や地域の人を招い て,参加型発表会,「中島ふれあい フェスタ」を開く。

○自分たちの取り組んできたことをまとめたり発表,発信したりする方法を考える。 ・地域の人々とともに触れ合いを深める

フェスティバルの部 ・地域に触れ合いの町づくりを発信するフォーラムの部

◇ 「中島ふれあいフェスタ」を振り返る。

「ふれあいの町づくり」を中島から発信しよう。

○活動を振り返って,課題が達成でき たか話し合う。

○活動を通して自分自身を振り返り,自己の

新しい発見や成長したところを見付ける。 ◇自分の考えを整理しながら,ポートフォリ

オを再構成すること(作文に書き表すこと)

を通して,これからの生活や生き方についての考えをまとめる。 (再構成③)

「ふれあいの町づくり」を振り返って,これからの自分の生活や生き方について考えよう。

中期的な振り返り2

自己の生き方 へ

学習全体を振

り 返 る 長 期 的な振り返り

保護者の

評価④

地域の方

の評価

保護者の

評価③

保護者の

評価②

保護者の

評価①

* ◇は,評価のための時間 * 太字は,評価にかかわる活動や評価対象

思いや考えを蓄積し,課題作りに生かすポートフォリオ

課題追究や課題への振り返りに生かすポートフォリオ

交流イベントや発表などの表現活動に生かすポートフォリオ

学習全体を振り返り,自己の生き方に生かすポートフォリオ

日々の学習で行う,短期的な振り返り

* ( )は,評価の観点 * 太字は,ポートフォリオを重視した評価

付《再構成②》

* は,学習過程に応じたポートフォリオ

中期的な振り返り1

中期的

中期的な振り返り4

長期的な振り返り

タを振り返って

図6 指導計画

6

学習過

動の流

5 ―

価規準<方法

中間発表①まで

を振り返って

れあい

新聞作り

《再構成①

せん

新聞作り

な振り返り3

まとめの作文

活動を振り返って

《再構成③》

ふれあいフェス

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5555 授業の実践と考察授業の実践と考察授業の実践と考察授業の実践と考察

指導計画に基づいて行った実践の概要及び考察を

次に述べる。

・対象:倉敷市立中島小学校第6学年児童 138 名

(調査対象は,抽出学級児童 35 名)

・実施時期:平成 13 年6月~平成 13 年 12 月

(1) 自己の学びに生かすポートフォリオの活用

① 学習過程に応じた情報の蓄積

単元の導入では,触れ合いの町づくりへの課題把

握のために,体の不自由な人や高齢者,幼稚園児な

ど,様々な立場や年齢の人と交流する体験活動の場

を設定した。活動ごとに,その日の交流で感じたこ

とや思ったことを振り返りながら,触れ合いに対す

る自分の思いや考えをポートフォリオに蓄積してい

った(図7)。人との触れ合いのすばらしさを体験

した児童は,ポートフォリオに蓄積した自己の思い

を振り返ることを通して,「私たちの町を触れ合い

のあふれる町にしたい。」という願いを持った。自

分の思いや考えを記録し,蓄積していたことが課題

把握に役立ったように思われる。

同様に,課題追究においても,個々の追究活動の

ための計画や実践の記録,反省等が蓄積され,活動

の修正や改善のために役立てられた。

ポートフォリオに蓄積した情報量とその活用度の

関係を調査した結果を図8に示す。課題把握につな

がる思いや考えが多く蓄積された児童ほど,課題把

握へ向けての話し合いや課題作りに役立ったとする

意識が高い傾向がうかがわれる。「追究する」「ま

とめる・伝える」の課題解決に取り組む段階におい

ても同様の傾向が見られる。

次に,四つの学習過程においてポートフォリオに

蓄積された情報が,何に役立てられたかを調査した

結果を図9に示す。全体的には「振り返りや反省」

が多く,ポートフォリオを主に自己評価の手だてと

して活用している傾向が見られる。また,「話し合

い」「計画立案」「発表」での活用も多く,主体的

な学習活動のために活用されている。

学習過程別での活用の特徴を見ると,学習の成果

発表に向けての活動「まとめる・伝える」では,

「調べること」「発表」,学習全体を振り返り自己

の学びを再構成する「振り返る・広げる」では「考

えの整理」が他の学習過程に比べて多いことが分か

った。

ポートフォリオの活用内容を抽出児の学習過程に

沿って分析した(図 10)。追究からまとめにかけ

ての課題解決の段階では,活動の目当てを設定した

り,課題修正をしたりすることに,まとめから振り

返りにかけては,発表したり,自己の考えを整理し

たりするなど,自己の学びに必要な情報が学習に生

かされている。

図8 必要な情報の蓄積量と活用度

情報量・・・ポートフォリオに学

習のための情報が多

く蓄積されたかどうか。

活用度・・・学習のためにポー

トフォリオが役立った

かどうか。

③まとめる・伝える

活用度

情報量

①ふれる・つかむ

活用度

情報量

②追究する

活用度

情報量

(人) (人)

(人)

・ 耳が不自由な人やしゃべりにくい人といっしょに楽しく会話ができたのがうれしかったです。また行って,話がしたいと思いました。

・ ○○さんみたいな(体の不自由な)人を大切にできるようにがんばりたい。

・ いじめや差別がなくて,明るくてあいさつがひびく町になったらいいという意見がよかったなあと思いました。

図7 課題把握へつなぐ思いや考え

ふれる・ つかむ

追究する

まとめる・ 伝える

振り返る・ 広げる

図 10 学習過程における活用内容と学びの関係

計画立案

目当ての設定

話し合い 課

題解決

振り返りや反省

考えの

整理

課題修正

学習過程 ポートフォリオ活用内容(抽出児)

図9 ポートフォリオ活用内容

ふれる・つかむ

追究する

まとめる・伝える

振り返る・広げる

(人)

― ―

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67

以上のことから,児童はポートフォリオに蓄積し

た情報を必要に応じて活用していることが分かる。

② 自己の生き方につなぐ学びの再構成

自己の生き方につながるポートフォリオにするた

めの手だてとして,振り返りを中心とした児童の自

己評価や相互評価,他者評価を意図的,計画的に学

習に位置付けた。

自己評価は,評価規準に基づいた項目による自己

評価カードを用いて,1単位時間ごとに行った(写

真1)。相互評価は,友達のポートフォリオを見て

気付いたことを付せん紙に記入し,ファイルにはる

という方法で行った。

また,中間発表会やふれあいフェスタなど,保護

者や地域の方による児童への評価の場を設定した

(図 11)。このような他者評価は,児童にとって

大きな励みになったとともに,自己評価をより客観

的に行うための参考資料の一つになったと思われる。

中期的な振り返りや長期的な振り返りの活動とし

て,新聞作りや作文による学びの再構成を行った。

学習のまとまりを振り返る中期的な振り返りの一

つとして,「付せん新聞」作りを行った(写真2)。

ポートフォリオの中で自分の努力や成長が認められ

る所に自己評価を記入した付せん紙をはり,その付

せん紙を整理し,新聞としてまとめながら自己の学

びを再構成した。

新聞の社説には,「付けたい力が着実についてき

ている。」「失敗したことやがんばらないといけな

いことをこれからに生かせるようにがんばりた

い。」など,中期的な振り返りによる自己評価の意

識の高まりを示す記述が見られた。

学習全体を振り返る長期的な振り返りとして,作

文にまとめる活動を行った。新聞作りによる再構成

の経験から,児童は「自己の成長」や「心に残った

触れ合い」など,振り返りの基準を自ら設定し,ポ

ートフォリオを見直しながら,主体的に学びを再構

成していくことができた。また,作文の見直しや作

文発表は,学びのよさを認め合う相互評価につなが

った。

作文内容を分析した結果を図 12,13 に示す。

これらの中には,「自分の成長」「これからの生

活で生かしたいこと」などが多く,自己の成長や自

分の意見や考えのよさへの気付きが見られる。

これまでの取り組みを通して「自己の生き方」に

かかわる意識の変容を調査した結果を図 14 に示す。

このように,自己評価と相互評価を組み合わせた

評価活動や中期的,長期的な振り返りによる学びの

再構成を意図的,計画的に行うことによって,自分

の考えや意見を持ったり,自分のよさに気付き,自

分に自信を持ったりするなど,「自己の生き方」に

ついて考えることができるようになっている。

図 11 保護者による評価(中間発表会②)

○ 声の大小はありましたが,一生懸命さがよく伝わってきました。

○ 人に優しくするとか,ありがとうの気持ちを言うことが少なくなって

いる時代に,そういうことに目を向けて活動していることにすごく感動しました。 (評価の一部)

◇ 「自分で少し話せる力が付いたな」と思い,どんどんいろんな人に話しかけたりしました。近所の人にちらし配りをした時には,初

めて話をした人とでも,恥ずかしがらずに大きな声でしゃべれたので,「ずいぶん成長したな。この調子でもっといろんな人と話していけそう。」と,自分に少し自信がつきました。

(「自己の成長」に触れた記述)

◇ この学習を通して,いろんなことができるようになったのは,あい

さつはふれあいの第一歩だということ,目標を立てた方がやる気が出ること,自分がしてきた活動の振り返りをすることはいいことだと知ったからです。 (「自分の考えや意見」に触れた記述)

図 13 作文に見る「自己の生き方」にかかわる記述

写真1 自己評価の様子 写真2 付せん新聞

図 12 振り返り(再構成)の作文内容

0

5

10

15

20

25

これからの生活で

生かしたいこと

自分の成長

がんばったこと

グループ別活動について

ふれあいフェスタ当日のこと

地域の人のこと

友達のこと

△△園の方とのふれあい

留学生とのふれあい

体の不自由な方とのふれあい

○○荘の方とのふれあい

□□会の方とのふれあい

ふれあいフェスタの計画や準備

自分のよさや新しい自分の発見

幼稚園児とのふれあい

今後の課題

先生のこと

家族のこと

その他

(人)

図 14 「自己の生き方」にかかわる意識

まとめる・ 伝える

振り返る・ 広げる

単元 終了後

「自己の生き方」 にかかわる意識

○自己の成長を見付ける。

○自分のよさを見付ける。

○自分の考えや意見を持つ。

― ―

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(2) 評価を支援に生かすポートフォリオの活用

① 学習活動の修正や改善に生かす学習状況の把握

「ふれる・つかむ」では,「自分の思いや考えを

積極的に表現しようとする。」という評価規準に基

づいた振り返りの項目を設定した自己評価カードに

より,児童の学習状況を把握した(図 15)。

体の不自由な方との交流後の自己評価カードでは,

「自分の思いが表せた。」という自己表現に関する

項目と「進んで参加できた。」という主体的な人と

のかかわりに関する項目が他の項目に比べ低い傾向

が見られた。そこで,その後の高齢者との交流では,

個室訪問という,一人一人の児童が高齢者とのかか

わりが持てるような場を設定した結果,児童の自己

表現と主体的なかかわりに関する評価の項目での意

識の高まりが見られた(図 16)。

このように学習活動の改善や支援に生かすために

は,評価規準に基づく意図的な振り返りから児童の

学びを把握することが有効であることが分かる。

② ポートフォリオを介した児童との対話(カンファ

レンス)

学習状況や実態に応じて指導するため,ポートフ

ォリオを介した児童との対話「カンファレンス」を

試みた(写真3)。

「ふれる・つかむ」で,自分のめあてが明確にで

きなかったA児に対し,自分の目指す姿を問い直し,

共に考えることにより,A児は「自分の考えや思い

を発表できるようにする。」という明確な目標を設

定することができた。また,追究活動においても,

児童が自己評価や相互評価によって自ら解決ができ

にくい学習のつまずきに対しては,教師がポートフ

ォリオを介して,個々の児童との対話を通して支援

を行った(図 17)。

教師の観察によって児童のつまずきを発見した場

合,すぐに支援を行うことが大切であるが,ポート

フォリオに残った児童の記述から課題が発見された

場合には,個別に話し合うなど,ポートフォリオを

支援に生かすことが可能であると思われる。

ⅣⅣⅣⅣ おわりにおわりにおわりにおわりに

実践の結果,ポートフォリオの活用の在り方として,

児童の学びに応じた学習情報を蓄積し,振り返りを通

して学びを再構成していくことや評価規準に基づいて

児童の学びを的確に把握することが大切であると言え

る。

一方,ポートフォリオを活用する上での留意点とし

て次のことが明らかになった。

○ 教科の学習におけるノートの活用と同様に,カー

ド等に書く時間や,書く力が低い児童への支援を考

慮しておく必要があること。

○ ポートフォリオによる評価を支援に活用するため

客観的データの効率的な蓄積方法(教師用ポートフ

ォリオ)を開発する必要があること。

また,教科の学習におけるノートや学習プリントな

どの活用と総合的な学習の時間におけるポートフォリ

オの活用を関連付けることで,ノートやポートフォリ

オが学びや支援の手段として,より一層生かされるの

ではないかと考える。

今後は,教科と関連させたポートフォリオの活用方

法や支援に活用できる客観的な評価データの蓄積の方

法について研究を進めていきたいと考えている。

○主な参考文献 1)水越敏行,北尾倫彦:学習評価の改善,国立教育会館,1995

2)高浦勝義:ポートフォリオ評価法入門,明治図書,2000

写真3 カンファレンス 図 17 個別の支援の例

「フォーラムのプレゼン

テーションがパソコンで思うようにできないけれど,どうしよう…。」

「初めからパソコンではなくて,まず手書き

で紙芝居のようなものを作ったらどう?」

図 15 評価基準に基づいた自己評価(一部)

0 10 20 30

体験活動A (体の不自由な方との交流)体験活動B (高齢者との 交流)

(人)

自己表現

主体的な かかわり

図 16 活動修正による意識の高まり

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