素粒子・宇宙と物質とをつなぐ...

79
素粒子・宇宙と物質とをつなぐ 普遍法則の解明 東京大学 工学系研究科 物理工学専攻 渡辺 悠樹 名古屋大学物理学教室憲章記念日講演会 「階層を貫く物理」

Upload: others

Post on 06-Feb-2021

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

  • 素粒子・宇宙と物質とをつなぐ 普遍法則の解明

    東京大学 工学系研究科 物理工学専攻 渡辺 悠樹

    名古屋大学物理学教室憲章記念日講演会 「階層を貫く物理」

  • 略歴• 1986年生まれ(30歳)。東京育ち・大学まで海外経験なし

    • 2006-2010 東大 理科I類→理学部物理学科

    • 2010-2012 東大 物理 修士

    • 2011-2015 University of California, Berkeley PhD

    • 2015-2016 MIT ポスドクフェロー研究員

    • 2016- 東大 物理工学専攻 講師(渡辺研発足…)

  • 物理学とはなんだろう? 物理学の面白さってなんだろう?

  • そもそもなんで物理学科に 進学したんだっけ…

  • 高校の物理…• 投げたボールの放物線運動

    • 天体のケプラー運動

    • 実は同じNewtonの運動法則に従っている!

    • 気体の分子運動論、ドルーデ模型による電気抵抗理論…

    • 最速降下曲線・風船・電磁誘導・…

  • 高校の物理…• 投げたボールの放物線運動

    • 天体のケプラー運動

    • 実は同じNewtonの運動法則に従っている!

    • 気体の分子運動論、ドルーデ模型による電気抵抗理論…

    • 最速降下曲線・風船・電磁誘導・…

  • 高校の物理…• 投げたボールの放物線運動

    • 天体のケプラー運動

    • 実は同じNewtonの運動法則に従っている!

    • 気体の分子運動論、ドルーデ模型による電気抵抗理論…

    • 最速降下曲線・風船・電磁誘導・…

  • 高校の頃の私• 色々な現象が統一的に理解できてかっこいい!

    • 物理学はすでに完成された理論体系

    • 結局、ニュートンの運動方程式にどのような項を付け加えるか、どう微分方程式を解くか、だけの問題…

  • 高校の頃の私• 色々な現象が統一的に理解できてかっこいい!

    • 物理学はすでに完成された理論体系

    • 結局、ニュートンの運動方程式にどのような項を付け加えるか、どう微分方程式を解くか、だけの問題…

  • 大学での物理…• 力学、解析力学、電磁気学、流体力学 • 熱力学、統計力学 • 特殊・一般相対性理論 • 量子力学(I, II, III,…) • 場の量子論(I, II, …) • 物性、固体物理 • 物理実験 • 物理数学(複素関数論、フーリエ解析、特殊関数)

  • 研究分野の細分化• 素粒子・原子核 • 宇宙・天文 • 固体物性・統計物理学・原子物理 • プラズマ・流体 • 生物物理・経済物理・… • 実験 vs 理論(数理物理 vs 解析計算 vs 数値計算)

    …物理全体を見渡すことが難しい…

  • これまでの主な研究

    • 南部ゴールドストーン定理の一般化

    • 「時間結晶」は存在するか?

    • Lieb-Schultz-Mattis定理の拡張

  • 南部ゴールドストーン定理 の一般化

    南部陽一郎先生と大阪大学にて (2012年) Jeffrey Goldstone教授とMITにて (2014年)

  • 「南部・ゴールドストーンの定理」とは?

  • 有名な「定理」といえば… ピタゴラスの定理

    直角三角形であれば、常に a2 + b2 = c2

    (仮定を満たせば、詳細によらず常に成り立つ主張)

    a

    b

    c

    c

    c

    b

    b

    a

    a

  • 南部・ゴールドストーンの定理(1960, 1961年)

    物理系の対称性が自発的に破れると、

    破れた対称性の数だけ質量ゼロの粒子が現れる。

  • 南部陽一郎(2008年ノーベル物理学賞)

    2008年4月 東大理学部物理学科に進学。当時、学科で話題に → 勉強した

    南部・ゴールドストーンの定理(1960, 1961年)

    物理系の対称性が自発的に破れると、

    破れた対称性の数だけ質量ゼロの粒子が現れる。

  • 南部陽一郎(2008年ノーベル物理学賞)

    2008年4月 東大理学部物理学科に進学。当時、学科で話題に → 勉強した

    南部・ゴールドストーンの定理(1960, 1961年)

    物理系の対称性が自発的に破れると、

    破れた対称性の数だけ質量ゼロの粒子が現れる。①

  • 南部陽一郎(2008年ノーベル物理学賞)

    2008年4月 東大理学部物理学科に進学。当時、学科で話題に → 勉強した

    南部・ゴールドストーンの定理(1960, 1961年)

    物理系の対称性が自発的に破れると、

    破れた対称性の数だけ質量ゼロの粒子が現れる。①

  • キーワード① 対称性が自発的に破れる?

    ワインボトルにビー玉を落とすと…

    中心軸周りの 回転対称性

  • キーワード① 対称性が自発的に破れる?

    ワインボトルにビー玉を落とすと…

    中心軸周りの 回転対称性

    中心軸に回りに 回転させても なにも変わらない

    Before

  • キーワード① 対称性が自発的に破れる?

    ワインボトルにビー玉を落とすと…

    中心軸周りの 回転対称性

    中心軸に回りに 回転させても なにも変わらない

    Before

    一つの方向に 勝手に(ひとりでに)落ちて 回転対称性を破る

    After

  • キーワード① 対称性が自発的に破れる?

    中心軸周りの 回転対称性 ワインボトルの底

    が凹んでいないと…

    ビー玉が落とした後も 回転対称性が保たれる

    ワインボトルにビー玉を落とすと…

  • キーワード① 対称性が自発的に破れる?

    中心軸周りの 回転対称性 ワインボトルの底

    が凹んでいないと…

    ビー玉が落とした後も 回転対称性が保たれる

    もともと傾いていると…

    自発的に対称性を破った ことにならない

    ワインボトルにビー玉を落とすと…

  • キーワード② 質量ゼロの粒子が現れる?場の量子論では…  粒子 = 小さな振幅の振動  質量 = その振動に要するエネルギー

  • キーワード② 質量ゼロの粒子が現れる?場の量子論では…  粒子 = 小さな振幅の振動  質量 = その振動に要するエネルギー

    つまり「質量ゼロの粒子が現れる」= 「エネルギーが必要ない微小振動が可能!」

  • キーワード② 質量ゼロの粒子が現れる?場の量子論では…  粒子 = 小さな振幅の振動  質量 = その振動に要するエネルギー

    つまり「質量ゼロの粒子が現れる」= 「エネルギーが必要ない微小振動が可能!」

  • キーワード② 質量ゼロの粒子が現れる?場の量子論では…  粒子 = 小さな振幅の振動  質量 = その振動に要するエネルギー

    つまり「質量ゼロの粒子が現れる」= 「エネルギーが必要ない微小振動が可能!」

  • キーワード② 質量ゼロの粒子が現れる?場の量子論では…  粒子 = 小さな振幅の振動  質量 = その振動に要するエネルギー

    つまり「質量ゼロの粒子が現れる」= 「エネルギーが必要ない微小振動が可能!」

  • キーワード② 質量ゼロの粒子が現れる?場の量子論では…  粒子 = 小さな振幅の振動  質量 = その振動に要するエネルギー

    つまり「質量ゼロの粒子が現れる」= 「エネルギーが必要ない微小振動が可能!」

    南部ゴールドストーン粒子

  • 南部・ゴールドストーンの定理物理系の対称性が自発的に破れると、

    破れた対称性の数だけ質量ゼロの粒子が現れる。

  • 南部・ゴールドストーンの定理物理系の対称性が自発的に破れると、

    破れた対称性の数だけ質量ゼロの粒子が現れる。

    破れた対称性の数だけの独立な 「エネルギーが必要ない微小振動」が可能になる。

  • 南部・ゴールドストーンの定理物理系の対称性が自発的に破れると、

    破れた対称性の数だけ質量ゼロの粒子が現れる。

    破れた対称性の数だけの独立な 「エネルギーが必要ない微小振動」が可能になる。

    x : 南部ゴールドストーン粒子の数 y : 破れた対称性の数

    x = y この例では x = y = 1

  • 南部・ゴールドストーンの定理物理系の対称性が自発的に破れると、

    破れた対称性の数だけ質量ゼロの粒子が現れる。

    破れた対称性の数だけの独立な 「エネルギーが必要ない微小振動」が可能になる。

    x : 南部ゴールドストーン粒子の数 y : 破れた対称性の数

    x = y この例では x = y = 1

    系の詳細や相互作用の強さによらずに使える

  • 身の回りの 自発的対称性の破れ

  • 身の回りの 自発的対称性の破れ

    結晶 並進対称性を破る (空間位置の等価性)

  • 身の回りの 自発的対称性の破れ

    結晶 並進対称性を破る (空間位置の等価性)

    磁石 回転対称性を破る (空間方向の等価性)

  • 身の回りの 自発的対称性の破れ

    結晶 並進対称性を破る (空間位置の等価性)

    磁石 回転対称性を破る (空間方向の等価性)

    結晶の「比熱」の温度依存性 C(T) ∝ T3 (デバイの法則)

    磁石の強さの温度依存性 M(T)−M(0) ∝ T3/2 (ブロッホの法則)

    どちらも南部・ゴールドストーン粒子の存在によって説明できる。

  • ところが!

  • 結晶

    破れている 対称性

    並進対称性

    回転対称性磁石

    回転対称性

    並進対称性

    実は数が合ってない!破れている 対称性の数

    3232

    スピナー BEC

    スカーミオン 結晶

    南部ゴールドス トーン粒子の数

    3121

    =

    ≠≠≠

    x y

  • 結晶

    破れている 対称性

    並進対称性

    回転対称性磁石

    回転対称性

    並進対称性

    実は数が合ってない!破れている 対称性の数

    3232

    スピナー BEC

    スカーミオン 結晶

    南部ゴールドス トーン粒子の数

    3121

    =

    ≠≠≠

    x y

  • 結晶

    破れている 対称性

    並進対称性

    回転対称性磁石

    回転対称性

    並進対称性

    実は数が合ってない!破れている 対称性の数

    3232

    スピナー BEC

    スカーミオン 結晶

    南部ゴールドス トーン粒子の数

    3121

    =

    ≠≠≠

    x y

  • 結晶

    破れている 対称性

    並進対称性

    回転対称性磁石

    回転対称性

    並進対称性

    実は数が合ってない!破れている 対称性の数

    3232

    スピナー BEC

    スカーミオン 結晶

    南部ゴールドス トーン粒子の数

    3121

    =

    ≠≠≠

    x y

  • x : 南部ゴールドストーン粒子の数 y : 破れた対称性の数x = y

    実は、この関係式が常に成立するのは、 素粒子物理学が対象とする「真空中」の場合のみ!

    南部・ゴールドストーンの定理

    「物質中」でも常に成立する より一般的な関係式を見つけたい!! 東大修士1年目に知った未解決問題

  • Tomas Braunerと予想

    x = y − (1/2) rank実は、一般にこうなのではないか?

  • Tomas Braunerと予想

    x = y − (1/2) rank実は、一般にこうなのではないか?

    真空中では0になる

  • Tomas Braunerと予想

    x = y − (1/2) rank

    当時、ドイツ Bielefeld大学研究員

    様々な具体例を通して予想し、論文を書いた(2011年、東大修士2年)

    実は、一般にこうなのではないか?

    真空中では0になる

  • 結晶

    破れている 対称性

    並進対称性

    回転対称性磁石

    回転対称性

    並進対称性

    破れている 対称性の数

    3232

    スピナー BEC

    スカーミオン 結晶

    南部ゴールドス トーン粒子の数

    3121

    x y

    0111

    (1/2) rank

    Tomas Braunerと予想x = y − (1/2) rank

  • 結晶

    破れている 対称性

    並進対称性

    回転対称性磁石

    回転対称性

    並進対称性

    破れている 対称性の数

    3232

    スピナー BEC

    スカーミオン 結晶

    南部ゴールドス トーン粒子の数

    3121

    x y

    0111

    (1/2) rank

    Tomas Braunerと予想

    ====

    −−−−

    x = y − (1/2) rank

  • 具体例で成り立っているだけでは、 間違っているかもしれない。

    いつか例外が見つかるかもしれない。

  • 具体例で成り立っているだけでは、 間違っているかもしれない。

    いつか例外が見つかるかもしれない。

    常にこうなんだという「証明」が必要!

  • 「有効場の理論」による証明UC Berkeleyの大学院に留学

    村山斉教授の授業に南部・ゴールドストーン粒子の話が。  → 質問したことがきっかけで共同研究 → 証明できた!

    (同じ時期に日高さんによる独立な証明)

  • 時間結晶の 非存在性の証明

  • 時間結晶とは?

    (漸近的自由性の発見)

    F. Wilczekに2012に提案された、新しい相

    z

    x

  • 時間結晶とは?

    (漸近的自由性の発見)

    F. Wilczekに2012に提案された、新しい相

    z

    x

  • 時間結晶とは?

    (漸近的自由性の発見)

    F. Wilczekに2012に提案された、新しい相

    z

    x

  • 時間結晶とは?

    (漸近的自由性の発見)

    F. Wilczekに2012に提案された、新しい相

    t

    jsc

    z

    x

  • 時間結晶とは?

    (漸近的自由性の発見)

    F. Wilczekに2012に提案された、新しい相

    t

    jsc

    z

    x

    時間並進対称性の自発的破れ? エネルギー保存??

  • 時間結晶とは?

  • 時間結晶とは?

  • 時間結晶とは?

  • 時間結晶とは?

  • 時間結晶とは?

  • 時間結晶とは?

    多くの科学記事での ニュース・解説記事

  • 時間結晶とは?

    多くの科学記事での ニュース・解説記事

    私が研究を始めた時には すでに100回近い引用 • 具体的な模型の提案 • 実験のセットアップ提案

  • そもそもどう定義するのか…

    • 惑星のケプラー運動、単振り子

    • ジョセフソン効果

    • 化学反応(BZ反応…)

  • そもそもどう定義するのか…

    • 惑星のケプラー運動、単振り子

    • ジョセフソン効果

    • 化学反応(BZ反応…)

    非平衡状態と平衡状態・基底状態の区別が必要!

  • そもそもどう定義するのか…

    • 惑星のケプラー運動、単振り子

    • ジョセフソン効果

    • 化学反応(BZ反応…)

    非平衡状態と平衡状態・基底状態の区別が必要!

    平衡状態・基底状態では無理そう…「証明」が必要!

  • 私たちの結論• 長距離秩序という観点から定義・定式化

    • 量子統計力学の枠内の平衡状態としては無理 • ハミルトニアンの局所性 • 時間相関関数の長距離での振る舞い

  • その後の進展…Discrete time crystal Floquet time crystal

    c.f. discrete translation breaking

  • 最近の研究: Lieb-Schultz-Mattis定理の一般化

  • LSM定理: 「Haldane予想」の拡張

    • S = 1/2 AFスピン鎖 → 縮退 or gapless励起• S = 1 AFスピン鎖 → Haldane相

    E

    Δ

    E

  • LSM定理: 「Haldane予想」の拡張

    • S = 1/2 AFスピン鎖 → 縮退 or gapless励起• S = 1 AFスピン鎖 → Haldane相

    より一般に、時間反転対称性をもつ電子系では ユニットセルあたりの電子数が

    奇数 → 縮退 or gapless励起 偶数 → 縮退なしかつギャップが許される

    E

    Δ

    E

  • スピン液体や反金属の探索へ

    Dirac SM

    Fu-Kane-Mele PRL (2007), Young et al PRL (2012)

    β-cristobalite BiO2 (ab initio)TB model on diamond lattice • Fd3m (No. 227) • ν = 2

    カゴメ格子

    三角格子

  • 日本物理学会誌 2017年1月号

  • まとめ

    • 物理の面白さ(主に理論の側面…)

    • これからも分野を横断する物理法則の探求・「普遍的な問い」に取り組んでいきたい

    • アイディアを思いつく・研究を始めるのは簡単。実際に研究をやりきるのは大変。