いもち病に強く、しかもおいしい米を作る - maff.go.jp...1...

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いもち病に強く、しかもおいしい米を作る いもち病に強く、しかもおいしい米を作る 1.解決すべき課題 1.解決すべき課題 ”いもち病”は我が国の稲作において最も深刻な病害で、収量や品質を低下させます。抵抗性品種 の開発によって、その被害を回避でき、農薬の使用を控えた「食の安全」重視の栽培にも役立ちます。 本研究では、いもち病に強い陸稲からpi21遺伝子を発見し、これまで実現が難しかった”おいしく病気 に強い”品種を開発しました。 2.研究成果の概要 2.研究成果の概要 新しいいもち病抵抗性遺伝子pi21の発見 陸稲 水稲 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 BR12 1 イネの染色体 抵抗性品種 (陸稲) 実用品種 (水稲) 交配 × 病気に強い 病気に弱い ゲノム育種によるpi21の水稲品種への導入 pi21 qBR4-2 qBR12-1 遺伝子詳細位置情報いた選抜 pi21遺伝子くする遺伝子約4000個体を用いた 精密な遺伝分析 pi21遺伝子の位置をピンポイントで特定 まずい おいしい 選抜 病気に強い おいしい 6000個体以上のDNA分析 遺伝子詳細位置情報いた選抜 陸稲 影響しない 病気に強い まずい 病気に強い まずい 病気に強い まずい 従来育種の限界 pi21遺伝子くする遺伝子発見、影響のない遺伝子に置き換える 陸稲 水稲 罹病性型 水稲と陸稲のpi21遺伝子の比較 pi21遺伝子(陸稲) pi21遺伝子(水稲) 味を悪くする遺伝子 病気に強い 中部125ともほなみ)」はコシヒカリれた 3.成果の活用場面(出口のイメージ) 3.成果の活用場面(出口のイメージ) いもち病が激発する環境での栽培 中部125号(ともほなみ) 拡大 影響しない 遺伝子 陸稲 抵抗性型 おいしい 中部125ともほなみ)」はコシヒカリれた 食味といもち病抵抗性をもっています。コシヒカリ(写 真左)では、いもち病によって穂が全く出ていない状 況でも、pi21遺伝子を持つ「ともほなみ」 (右)は良く育 ちます。平坦地で無農薬、山間地では農薬を減らした 栽培が可能です。また、この品種をもとに、さらにいも 病抵抗性強化したり病気にも品種病抵抗性強化したり病気にも品種開発を進めています。 課題担当者 福岡修一 (農業生物資源研究所:[email protected])、坂紀邦 (愛知農業総合試験場: [email protected])、水上優子(愛知県農業総合試験場: [email protected])、眞部徹(茨城県農業総合センター: manabe- [email protected])、岡本和之(茨城県農業総合センター: [email protected]) コシヒカリ ともほなみ

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Page 1: いもち病に強く、しかもおいしい米を作る - maff.go.jp...1 いもち病に強く、しかもおいしい米を作る 1.解決すべき課題 ”いもち病”は我が国の稲作において最も深刻な病害で、収量や品質を低下させます。抵抗性品種

いもち病に強く、しかもおいしい米を作るいもち病に強く、しかもおいしい米を作る11

1.解決すべき課題1.解決すべき課題

”いもち病”は我が国の稲作において最も深刻な病害で、収量や品質を低下させます。抵抗性品種

の開発によって、その被害を回避でき、農薬の使用を控えた「食の安全」重視の栽培にも役立ちます。

本研究では、いもち病に強い陸稲からpi21遺伝子を発見し、これまで実現が難しかった”おいしく病気

に強い”品種を開発しました。

2.研究成果の概要2.研究成果の概要

新しいいもち病抵抗性遺伝子pi21の発見

陸稲 水稲1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112

BR12 1

イネの染色体抵抗性品種(陸稲)

実用品種(水稲)

交配

×病気に強い 病気に弱い

ゲノム育種によるpi21の水稲品種への導入

pi21qBR4-2

qBR12-1

遺伝子の詳細な位置情報を用いた選抜 pi21遺伝子の隣に味を悪くする遺伝子を

約4000個体を用いた精密な遺伝分析

pi21遺伝子の位置をピンポイントで特定

まずい おいしい

選抜病気に強いおいしい

6000個体以上のDNA分析

遺伝子の詳細な位置情報を用いた選抜

陸稲

味に影響しない

病気に強いまずい

病気に強いまずい

病気に強いまずい従来育種の限界

pi21遺伝子の隣に味を悪くする遺伝子を発見、影響のない遺伝子に置き換える

欠失陸稲

水稲

罹病性型

水稲と陸稲のpi21遺伝子の比較

pi21遺伝子(陸稲) pi21遺伝子(水稲)

味を悪くする遺伝子

病気に強い

「中部125号(ともほなみ)」はコシヒカリ並の優れた

3.成果の活用場面(出口のイメージ)3.成果の活用場面(出口のイメージ)いもち病が激発する環境での栽培

中部125号(ともほなみ)拡大

味に影響しない遺伝子

失陸稲

抵抗性型おいしい

「中部125号(ともほなみ)」はコシヒカリ並の優れた

食味といもち病抵抗性をもっています。コシヒカリ(写

真左)では、いもち病によって穂が全く出ていない状

況でも、pi21遺伝子を持つ「ともほなみ」 (右)は良く育

ちます。平坦地で無農薬、山間地では農薬を減らした

栽培が可能です。また、この品種をもとに、さらにいも

ち病抵抗性を強化したり、他の病気にも強い品種のち病抵抗性を強化したり、他の病気にも強い品種の

開発を進めています。

課題担当者 福岡修一 (農業生物資源研究所:[email protected])、坂紀邦 (愛知農業総合試験場:[email protected])、水上優子(愛知県農業総合試験場:[email protected])、眞部徹(茨城県農業総合センター: [email protected])、岡本和之(茨城県農業総合センター: [email protected])

コシヒカリ ともほなみ

Page 2: いもち病に強く、しかもおいしい米を作る - maff.go.jp...1 いもち病に強く、しかもおいしい米を作る 1.解決すべき課題 ”いもち病”は我が国の稲作において最も深刻な病害で、収量や品質を低下させます。抵抗性品種

イネイネでカドミウムを吸収して農地をきれいにするでカドミウムを吸収して農地をきれいにする22

1.解決すべき課題1.解決すべき課題

カドミウムは四大公害病の一つであるイタイイタイ病の原因物質であり、お米に含まれるカドミウム量には国内基準値(0.4mgkg-1)が定められています。日本の場合、この基準値を超えるお米は未だ産出されている現状であり、生産現場では農地からカドミウムを取り除く技術が求められています。本研究では、カドミウムをたくさん吸収・蓄積できるイネ品種(インディカタイプ)を見つけ、それら品種が持つカドミウム高集積遺伝子情報を基に、日本でも栽培しやすい品種を育成中です。この実用性の高いカドミウム高集積イネ品種をカドミウムで汚染された農地に植えて、土壌をきれいする技術開発(ファイトレメディエーションという)に取り組んでいます。

Cd

CdCd

Cd Cd

鉱山

①脱粒しにくい高カドミウム集積系統の育成

2.研究成果の概要2.研究成果の概要

カドミウム高集積イネ品種のJarjanとAnjana

②高バイオマス、耐倒伏性等の形質を付与した高カドミウム集積系統の育成

茎葉型の高バイオマス品種「たちすがた」に、Jarjanが持つ高カドミDhanにガンマ線照射し、脱粒をなくして実用性を高めた系統を育成しました。

稈長:80cm

稈長:120cm

ウムQTL「qcdp7」をマーカー選抜で導入し、栽培特性をさらに向上させた系統を育成中です。

高バイオマス極強稈、耐倒伏性難脱粒性

高カドミウム赤米特定除草剤感受性

たちすがた Jarjanタカナリ

たちすがた

Jarjanの難脱粒変異体MJ3

Anjana Dhanの難脱粒変異体MA22

400

500

600

g /ha)

現地圃場(土壌カドミウム濃度:1.4mg k ‐1)で栽培した場

F1 たちすがた

BCnFn

戻し交雑を行い、たちすがたに草姿が似たカドミウム高集積系統(TJTT系統)を育成中。

たちすがた

TJTT1

TJTT2

2

2.5

plant)

3 成果の活用場面(出口のイメージ)3 成果の活用場面(出口のイメージ)

0

100

200

300

400

コシヒカリ MJ3 MA22

カド

ミウ

ム収

奪量

(g kg‐1)で栽培した場合、MJ3とMA22は、コシヒカリの15

倍以上高いカドミウム吸収量でした。

育成中のTJTT1とTJTT2(BC2F2)はた

ちすがた同様耐倒伏性に優れ、高いカドミウム集積量を示しています。

0

0.5

1

1.5

コシヒカリ たちすがた Jarjan TJTT1 TJTT2

カド

ミウ

ム集

積量(m

g/p

3.成果の活用場面(出口のイメ ジ)3.成果の活用場面(出口のイメ ジ)

開発したカドミウム高集積イネ系統をカドミウム汚染水田で栽培し、稲わらごと既存の機械で収穫することで、土壌からカドミウムを取り除くことが可能です。カドミウムを含む稲わらは焼却処分するか、カドミウムを回収後、バイオエタノール等のバイオマスの有効利用にも使え、環境を浄化しながら、バイオエネルギーも作る一石二鳥の技術と言えます。

課題担当者 石川 覚 (農業環境技術研究所:[email protected])安部 匡 (農業環境技術研究所:[email protected]

(参考資料:カドミウム高吸収イネ品種によるカドミウム汚染水田の浄化技術 (ファイトレメディエーション) を開発―新たな低コスト土壌浄化対策技術として期待―http://www.niaes.affrc.go.jp/techdoc/press/090821/press090821.html)

Page 3: いもち病に強く、しかもおいしい米を作る - maff.go.jp...1 いもち病に強く、しかもおいしい米を作る 1.解決すべき課題 ”いもち病”は我が国の稲作において最も深刻な病害で、収量や品質を低下させます。抵抗性品種

タネを沢山付けても倒れないイネを作るタネを沢山付けても倒れないイネを作る33

1 解決すべき課題1 解決すべき課題 施肥量と収量の関係コシヒカリにsd1変異を導入すると 111

89 0120

140

草丈

1.解決す き課題1.解決す き課題

窒素肥料

施肥量と収量の関係

N施肥量(kg/ha)収

量(

t/ha)

0

2

4

6

8

10

0 50 100 150

wild

IR8(sd1)耐倒伏性は収量増加に必須な形質

コシヒカリ-sd1コシヒカリ89.0

0

20

40

60

80

100

コシ

ヒカリ

NIL

-sd1cm

156.00138.00

100

150

200

sd1

一穂粒数バイオマス収量14.9

13.0

8.0

12.0

16.0

/ h

a

-sd1半矮性変異sd1を導入したコシヒカリを作成

2.研究成果の概要2.研究成果の概要

野生型 IR8 野生型 IR8

N施肥量(kg/ha)

I半矮性変異sd1の導入により、収量が2倍に増加した。一方、野生型のイネは肥料を多くしても倒伏の為増加しない。半矮性変異sd1を利用した収量増加は後に「イネの緑の革命」と呼ばれる。

背の高いイネ(野生型)は、収量を上げる為に肥料を増やすと、収穫期に倒れてしまう。背の低いイネ(IR8)は肥料を増やしても倒れず種籾を収穫できる。

0

50

NIL

-s

0.0

4.0

t

NIL

-

し、草丈・バイオマス収量・一穂粒数について比較した。その結果、背丈が低くなった分、同じ施肥条件だと草丈・バイオマス収量・一穂粒数も低下した。

さらなる多収を目指すなら半矮性ではなく別の方法で耐倒伏性を目指すべき

収量減を伴わない新しい耐倒伏性遺伝子を探す必要

ハバタキの強稈に貢献するQTL遺伝子(SCM2)は6番染色体に座乗し

1000 2000

多収品種ハバタキは太くて強い茎(稈)を持つ

コシヒカリ ハバタキV IV III II I

コシヒカリ

ハバタキ

イネの稈の強さは2つの要素で決定される。一つは稈の太さ・厚さであり もう つは稈材質の強度で

ハバタキの強稈に貢献するQTL遺伝子(SCM2)は6番染色体に座乗し穂の形態を制御するAPO1をコードしていた

6

コシヒカリ (7.6mm3) コシヒカリ-QTLSCM2

ヘテロ個体コシヒカリ-QTLSCM2

ホモ個体

15.8cM

124.4cM

QTLSCM2

BC5F3の分離世代を使用した形質評価

6S 10

セントロメア

9 12 13106LSCM2

RM

627

4

SCM2

SCM2

RM

2056

4

2 2 3 4 3

InD

el09

5 6 5 6 8

InD

el12

9 10

0 5 10 15 20 25

稈材質

の強さ

(g/mm2)

稈の太さ (mm3)

5001000

15002000

500

1000

1500

2000

0

コシヒカリ

ハバタキ

ハバタキの太稈QTL遺伝子SCM2 を導入したコシヒカリ(NIL-SCM2)は稈が強くなった

強い

弱い

あり、もう一つは稈材質の強度である。ハバタキとコシヒカリの稈を比較すると、稈の太さはハバタキの方がかなり太く(上・左図)、材質はコシヒカリの方が強い(左図)。これらを総合的判断すると、ハバタキの稈の方がコシヒカリより1.5〜2倍程度(コシヒカリ=1000g・cmに対してハバタキ=1800g・cm)強い。

個体

0

2

4

5〜

66〜

77〜

88〜

99〜

10

10〜

11

11〜

12

12〜

13

13〜

14

14〜

15

15〜

16

16〜

17

17〜

18

18〜

19

19〜

20

20〜

21

21〜

22

22〜

23

23〜

24

24〜

25

稈の太さ (mm3)

ハバタキ(24.1mm3)

QTL解析の結果QTLSCM2は6番染色体長腕に座乗し、QTLSCM2導入の効果は半優性的に遺伝した。

9.5kb挿入配列

Os06g0665400 (APO1)-5kb +1

Ty3-gypsy型レトロトランスポゾン

-0.5kb-1kb-2kb-2.6kb

1bpdeletio

n

-3kb

V17IG203R2bp

deletion12bpinsertion 9bp

deletion

V IV III II Iコシヒカリ

NIL-SCM2 2 mm

稈材

質の

強さ

(g/mm2)

0

500

1000

1500

2000

0 5 10 15 20 25

コシヒカリ

NIL-SCM2

ハバタキ

500

1000

1500

2000

稈の

強さ

(g cm)

1 1 21 11 098765432

484kbSCM2

ハバタキの太稈QTL遺伝子SCM2 を導入したコシヒカリ(NIL-SCM2)のゲノム(ハバタキの484kb配列を持つ)

ハバタキは稈がコシヒカリよりも太いために稈が強い(倒れにくい)。一方、コシヒカリは稈の材質はハバタキよりも強い。今回、ハバタキの稈を強くする遺伝子SCM2をコシヒカリに導入したところ、稈の太さが3割程度強化された(ハバタキの半分程度)。その結果、コシヒカリの本来持つ稈材質の強さと相まって、ハバタキとほぼ同程度の強さが得られた。

SCM2導入により強化された部分

3.成果の活用場面(出口のイメージ)3.成果の活用場面(出口のイメージ)

NIL-SCM2 はコシヒカリより強い耐倒伏性を示す

NIL-SCM2コシヒカリ NIL-sd1

穂の付け根

鎖をつるして

cLr値は圃場でのイネの倒れやすさの指標

NIL-SCM2 はコシヒカリより収量が高くなる

コシヒカリ NIL-SCM2NIL-sd1NIL-SCM2コシヒカリ NIL-sd1

稈の太さ (mm3)

コシヒカリの耐倒伏性を向上させるために、緑の革命に用いられたsd1変異を導入した系統(NIL-sd1)と

コシヒカリコシヒカリ

NILNIL--SCM2SCM2

0.04

0.06

0.08

0.10

0.12

0.14

0.16

シヒ

カリ

L-sd

1

NIL-SC

M2

0.1053

0.1299 0.1350

鎖をつるして鎖の数を数えてたわみぐあいを測定

2009年秋の台風によりコシヒカリは全て倒伏しが、NIL-SCM2は倒伏しなかった。

156.00

138.00

188.20

50

100

150

200

NIL-sd

1

NIL-SC

M2

穂当たりのタネの数

14.9

13.0

15.0

NIL-sd

1

NIL-SC

M2

4.0

8.0

12.0

16.0

バイオマス収量

t / ha

10

20

30

40

30.40

26.40

38.20

IL-sd

1

NIL-SC

M2

穂当たりの枝の数

統(NIL sd1)とハバタキの強稈遺伝子を導入した系統(NIL-SCM2)を作った。NIL-sd1は半矮性のため、収量が減少したが、NIL-SCM2は稈が強くなると同時にタネの数も増加するため、耐倒伏性が向上するとともに、収量も増加した。

課題担当者 松岡 信 (名古屋大学生物機能開発利用研究センター:[email protected])大川泰一郎 (東京農工大学、大学院農学府:[email protected])蛯谷武志他 (富山県農林水産総合技術センター:[email protected]

0.00

0.02 コ NI N N N N

Page 4: いもち病に強く、しかもおいしい米を作る - maff.go.jp...1 いもち病に強く、しかもおいしい米を作る 1.解決すべき課題 ”いもち病”は我が国の稲作において最も深刻な病害で、収量や品質を低下させます。抵抗性品種

一塩基多型一塩基多型(SNP)(SNP)情報が明らかにする情報が明らかにするイネ品種のゲノム変化イネ品種のゲノム変化

44

1.解決すべき課題1.解決すべき課題500

600

交配による初の育成品種

90年以上のイネ育種選抜の歴史が品種の

ゲノム構造に及ぼした影響を一塩基多型情報(SNP)で明らかにする

“温故知新”今後の品種育成の方向性を見いだす

品種数

登録年

0

100

200

300

400

500

1920 1940 1960 1980 2000 2020

イネ品種数(農林登録)の推移

441品種 (2012年現在)が登録

0

100

200

300

400

500

1880 1890 1900 1910 1920 1930 1940 1950 1960 1970 1980 1990 2000 2010

収量

kg/1

0a

農林水産省/作物統計

単位面積収量は育種改良が始まってから約1 8倍増加

交配による初の育成品種“陸羽132号”

2.研究成果の概要2.研究成果の概要

始まってから約1.8倍増加

品種数;177

グループ1; 在来 – 63品種(在来 1922年以前の育成品種)

品種A

品種B

GAAATGGAGACCATTGGCAAGATCAAACACCGCAAC

GAAATGGAGACCATTGGCAAGATCAAACGCCGCAAC

SNP

各品種の一塩基多型(SNP)の調査

0

10

Mb

高速遺伝子型診断システム

(在来、1922年以前の育成品種)

グループ 2; 近代育種期 – 51 品種(1931~1974年の育成品種 )

グループ3;現代育種期 – 63 品種(1975~2005年の育成品種)

20

30

40

50

3259 SNPs

SNP

A G C T T C AC

連続した5つのSNP情報で定義

遺伝子組みあわせ

グループ 1 → グループ 211

2) グループ 2 >グループ 1 3) グループ 3 > グループ 2P<0.05 P<0.05

遺伝子組みあわせの多様性が大きく減少

グループ 2→ グループ 3

遺伝子組みあわせの多様性はやや減少。その一方で、新規の組みあわせがゲノムの組換えなどによって

0

0.2

0.4

0.6

0.8

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

0

0.2

0.4

0.6

0.8

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

多様指数 (グループ1)

多様

指数

(グル

ープ2 グル プ 2   グル プ 1

1046

多様

指数

(グル

ープ3

多様指数 (グループ2)

グループ 2 < グループ 1

2162

1274

グループ 3 < グループ 2

1934

過去の研究

新型シーケンサーによる

「コシヒカリ」および他品種のゲノム解読

y = 3.0x ‐ 5715R² = 0.36**

0

100

200

300

400

500

600

700

800

新しい遺

伝子

組み

あわ

せ数

出現

近代育種によって、ゲノムの多様度は大きく失われたが、その一方で長年行われた選抜によって、新たな遺伝子組みあわせの作出

既に解読済みの「日本晴」DNA配列との照合

3.成果の活用場面(出口のイメージ)3.成果の活用場面(出口のイメージ)

1925 1935 1945 1955 1965 1975 1985 1995 2005

登録年

新 遺伝子組みあわせの作出に貢献

<成果の活用>

・イネ育種のための育種母本の選定

<技術の活用>

・ゲノミックセレクションなどの

次世代育種 ため 高密度 カ

「日本晴」とのSNPを検出

課題担当者 矢野昌裕(農業生物資源研究所 農業生物先端ゲノム研究センター長:[email protected])山本敏央・米丸淳一(農業生物資源研究所 同センター イネゲノム育種研究ユニット)江花薫子(農業生物資源研究所 遺伝資源センター 多様性活用研究ユニット)

次世代育種のための高密度マーカー

Page 5: いもち病に強く、しかもおいしい米を作る - maff.go.jp...1 いもち病に強く、しかもおいしい米を作る 1.解決すべき課題 ”いもち病”は我が国の稲作において最も深刻な病害で、収量や品質を低下させます。抵抗性品種

収穫時の降雨による品質低下を防ぐ収穫時の降雨による品質低下を防ぐ穂発芽耐性遺伝子穂発芽耐性遺伝子

55

1.解決すべき課題1.解決すべき課題

穂発芽は収穫前に穂に稔った状態で種子が発芽してしまう現象で、これにより穀物の品質が大きく損なわれます。さらにコムギでは、穂発芽は深刻な問題であり、平成7年には北海道を中心に100億円以上の損害を与えたとされています。また、平成21年のコムギ生産高は前年比で23%も減少し、その要因とし

ての一つとして穂発芽の多発が上げられています。このように穂発芽耐性は農業上重要な形質であることから、遺伝子の特定と機能解析に取り組みました。

2.研究成果の概要2.研究成果の概要

図1:日本晴に比べ、インド稲のカサラスは吸水させても発芽せず、強い穂発芽耐性を示します。

日本晴カサラス

図2:第7染色体長腕○に位置するSdr4がカサラスに強い穂発芽耐性をず、強 穂発芽耐性を す。

日本晴 組換体Sugimoto K, Takeuchi Y, Ebana K, Miyao A,Hi hik H H N I hi K K b hi M

ラ 強 穂発芽耐性を

付与していました。そこで私たちはSdr4の特定に取り組むことにしました。

Sdr4の特定に加えて、Sdr4制御する

遺伝子、栽培化への関与を明らかにし、米国アカデミー紀要に報告しました。

3.成果の活用場面(出口のイメージ)3.成果の活用場面(出口のイメージ)

図3:日本晴に3千3百塩基対のカサラス由来のDNAを遺伝子

導入すると右の写真の様に組換体は発芽しにくくなりました。これによりSdr4がこの部分にあることが証明されました。

Hirochika H, Hara N, Ishiyama K, Kobayashi M,Ban Y, Hattori T, Yano M. Molecular cloning ofSdr4, a regulator involved in seed dormancyand domestication of rice. Proc Natl Acad Sci US A. 2010 Mar 30;107(13):5792-7.

・キヌヒカリやモチ品種など穂キヌヒカリやモチ品種など穂

発芽耐性の弱い品種の改良

が可能です。

・穂発芽耐性がより重要なイネ

科作物であるコムギの改良に

取り組んでいます。コシヒカリ [Sdr4]コシヒカリ

コシヒカリにSd 4を交配により導入した結果 台風による倒伏で水没しても穂発芽し

コムギの穂発芽

課題担当者 杉本和彦(農業生物資源研究所:kazuhiko@affrc.go.jp)

・コシヒカリにSdr4を交配により導入した結果、台風による倒伏で水没しても穂発芽し

ないほどの強い穂発芽耐性を付与できました(矢印は穂発芽を示す)。

Page 6: いもち病に強く、しかもおいしい米を作る - maff.go.jp...1 いもち病に強く、しかもおいしい米を作る 1.解決すべき課題 ”いもち病”は我が国の稲作において最も深刻な病害で、収量や品質を低下させます。抵抗性品種

地球規模での温暖化においても、植物ホルモン地球規模での温暖化においても、植物ホルモンを利を利活用することで、作物の安定供給を目指す活用することで、作物の安定供給を目指す

66

1.解決すべき課題1.解決すべき課題

植物の生殖成長の過程は、高温や低温、乾燥など様々な環境ストレスに対して弱い。特に、花粉形成の過程が最も感受性が高く、様々な作物で雄性不稔が生じることが知られている。イネでは、東北地方における冷害(低温障害)が有名で、コムギやオオムギでは、逆に、高温障害が、世界各地で頻発している。近年の地球規模での温暖化に伴い、世界全体として、コムギやオオムギ、トウモロコシなどの収量は明らかに低下し、毎年、これら主要3穀物の生産量は約40Mt、金額にし

て50億ドルの減少がみられる。本研究では、植物の高温や低温障害による花粉形成不全のメカニズムについて解明を行い、植物ホルモンをはじめとする植物成長調製剤の処理等により、これら障害を克服し、地球規模での温暖化においても、作物の安定供給に資する研究を展開する。

2.研究成果の概要2.研究成果の概要

オオムギならびにシロイヌナズナの花粉形成時には、高温によりオーキシン量ならびにそのシグナル伝達系が低下すること、その要因としてオーキシンの生合成に関わるYUCCA遺伝子の発現が高温で抑制されることを見出した。そこで、これ

らの高温処理時に、オーキシンを散布したところ、高温障害を完全に回復させ、正常な花粉が形成されること、その結果、種子を結実させることに世界ではじめて成功させた。

これら高温障害とその回復は、単子葉(オオムギ)と双子葉植物(アブラナ科植物シロイヌナズナ)の両方で確認され、広く植物全般に保存された事象であり、様々な作物にも応用できる技術と考えられます。

ズオオムギの葯発生時の高温はオーキシンの低下をまねく

オ キシ 散布により 高温 も花粉形成(左) ならびに種子

シロイヌナズナの高温障害にもオーキシン散布が有効

3.成果の活用場面(出口のイメージ)3.成果の活用場面(出口のイメージ)

オーキシンの散布により、高温下でも花粉形成(左)、ならびに種子の稔性(右)が完全に回復

発表論文 Sakata T. et al., Proc Natl Acad Sci. USA特願2009‐002354, PCT/JP2010/50101

高温によるオーキシン生合成酵素(YUCCA)の発現抑制(A) シロイヌナズナ (B) オオムギ

将来的には、この実験成果を応用することにより、非遺伝子組換えによる簡便な方法、「高温が続く天候が予測された際に、高温に弱いコムギやオオムギ、ナタネなどでは、植物ホルモンの1つであるオーキシンを散布する」、また、現在、イネの低温障害時における植物ホルモンの変動を調べて、それらの利活用により低温障害の緩和・克服技術もIPG0003, 

植物生理活性物質(ホルモンなど)を利活用することで、イネ、コムギ、オオムギ、ナタネなど、主要作物の高温や低温に対するストレス障害の緩和・克服を目指す。

の低温障害時における植物ホル ンの変動を調 て、それらの利活用により低温障害の緩和 克服技術も G0003,IPG0018との共同研究により開発中である。これらの技術を通して、地球規模の温暖化に伴う異常気象においても、様々な作物を安定的に供給することにつなげる。

課題担当者 東谷篤志 (東北大学大学院生命科学研究科:[email protected])阪田 忠 (東北大学大学院生命科学研究科:[email protected])渡辺正夫 (東北大学大学院生命科学研究科:[email protected]

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イネの高温登熟障害が発生するメカニズムを解明イネの高温登熟障害が発生するメカニズムを解明77

1.解決すべき課題1.解決すべき課題高温被害粒(乳白粒)整粒

・イネの登熟(受粉後、実が大きくなって熟す過程)適温は25℃程度ですが、

近年の温暖化によって登熟時期の気温が適温よりかなり高くなっています。

・通常のお米は透明感がありますが、高温下で登熟したお米は、澱粉の蓄

積不足や粒形成不全が起こり、乳白粒(不透明な白いお米)になります。乳

白粒は精米効率や食味・食感がわるく市場価値が低下するため、温暖化に

よる乳白粒の多発は米生産現場で問題とな ています

高温被害粒(乳白粒)整粒

澱粉の蓄積異常澱粉粒形

2.研究成果の概要2.研究成果の概要

よる乳白粒の多発は米生産現場で問題となっています。 澱粉の蓄積異常澱粉粒形

乳白粒発生

澱粉蓄積に関わる代謝経路の調査

↓澱粉合成系-減少澱粉分解系-増加

これを実験的に確認するために澱粉を分解す

高温登熟性の異なる品種の調査

高温でも乳白粒になりにくい品種では、Mn型

スーパーオキシドジスムターゼ(MSD1)遺伝子が

恒常的に多量に発現しているという特徴を見出

図1 登熟期胚乳細胞においてα-アミラーゼ(Amy3D)遺伝子を多量に発現させると、通常の温度でも米品質が低下した

日本晴 アミラーゼ強発現体 (Pro::Amy3D)

るために澱粉を分解する酵素遺伝子を多量に発現させた

予想通り、米品質が低下した(図1)

ているという特徴を見出した

↓MSD1を恒常的に強発現

させると、高温による澱粉分解酵素の増加が抑えられた(図2)

1

2

3

完熟種子におけるAmyII‐3タンパク質

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

高温登熟(中期)におけるAmyII‐3タンパク質

増加

抑制

相対

相対

3.成果の活用場面(出口のイメージ)3.成果の活用場面(出口のイメージ)

高温登熟障害の発生メカニズムの理解

図2 MSD1強発現体では高温登熟によるAmyII-3タンパク質の増加が抑制され、高温による品質低下が軽減された

0対照部位 乳白部位

0野生型 MSD1強発現体

高温登熟耐性イネの開発戦略“澱粉分解酵素遺伝子を抑制する”

図3 澱粉分解酵素の働きを弱める

20

40

60

図3 澱粉分解酵素の働きを弱めると高温登熟性が改善される

整粒

割合

(%

登熟期における澱粉分解酵素の異常な働きによって乳白米が発生

澱粉分解酵素の働きを弱めることによって高温登熟性が改善

培養変異等によって高温登熟に強いイネ(コシヒカリ)を開発

課題担当者 三ツ井敏明(新潟大学農学部応用生物化学科:[email protected])山川博幹(中央農業総合研究センター北陸研究センター:[email protected]

0

1A-S13 1A-S14 V4 V8Amyの働きを弱めたイネ 野生型

培養変異等によって高温登熟に強いイネ(コシヒカリ)を開発“温暖化に負けない高品質・良食味米”の生産に貢献

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イネの開花期(出穂期)を自在に変える!イネの開花期(出穂期)を自在に変える!88

1.解決すべき課題1.解決すべき課題

イネの開花期(出穂期)を決めているしくみは、品種の地域適応性を決めている重要な農業形質であるだけでなく、品質や収量性との密接な関連も報告されている。

昨今、西日本や九州で大きな問題となっている高温障害も、開花後の高温や日射量が原因であると考えられており、他の農業形質に関わる遺伝背景を変えずに、出穂期だけを変える技術の開発は、問題解決に貢献できる。

また、広い地域で、コムギ等との二毛作を実現するにも、出穂期の自在なコントロールは必要な技術開発である。

開花を人為的に自在に変えられれば、品種の持つ遺伝背景のパフォーマンスを最大限に引き出す栽培が可能になる。

○ 多くのイネ開花期をコントロ ル遺伝子を単離 特許取得

2.研究成果の概要2.研究成果の概要

○ 正確な日長を認識できるしくみを○ 多くのイネ開花期をコントロール遺伝子を単離・特許取得ーなかには、フロリゲン遺伝子Hd3aもー

○ 遺伝子発現を調査し、どの遺伝子が、どの遺伝子を制御しているかを示す遺伝子ネットワークを作成

○ 正確な日長を認識できるしくみをあきらかにした

(Izawa et al. Plant J. 2000)

SE5

OsGI Ehd2Hd6

(Takahashi et al. PNAS 2001)Ehd3

(Takano et al. Plant Cell. 2005)

短日条件 長日条件

Ghd7

Ghd7 mRNA

Ghd7

短日条件 光中断

○ フロリゲン(花成ホルモン)Hd3aの遺伝子の働きが

○ ゲノム育種への応用開始(Izawa et al. Genes &Dev. 2002)

(Yano et al. Plant Cell 2000 )

(Kojima et al. PCP 2002)

Hd3a,RFT1

出穂(開花)

短日で早める。長日でおさえる。

Hd1Ehd1

Ghd7OsGI

(Doi et al. Genes & Dev 2004)Hd5

Ehd2OsMADS51,OsMADS50

(Lee et al. Plant J 2004; Kim et al., 2007)

Ehd3

長日でもちょっと早める。

Ghd7

フロリゲンが働く!

Ehd1 mRNA

一日目 二日目

Hd5 Ehd1

ゲート現象:一日の特定の時間だけ、光刺激に対する反応がよくなる現象。図の点線は、ゲートの開け閉めを模式的に表示。

長日条件

(Itoh et al. Nat Genet. 2010)

○ フロリゲン(花成ホルモン)Hd3aの遺伝子の働きが、一日の日長の30分の違いを識別できることを発見!

1

10

Hd3aフロリゲンの働く量

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

Hd5

OsGI

○ 登熟期間を変えて 高温障害の起きにくいイネ品種を開発

3.成果の活用場面(出口のイメージ)3.成果の活用場面(出口のイメージ)1 2 3 4 5 6 7 8 9101112

Hd5コシヒカリ関東HD1号 コシヒカリ 関東HD2号

10日早生 10日晩生

具体例具体例

(hr 日長)0.1

農林8号

Hd6Ghd7Hd1

(Itoh et al. Nat Genet. 2010)

○ 登熟期間を変えて、高温障害の起きにくいイネ品種を開発

○ コムギとの二毛作をしやすい作期のイネ品種開発

○ 早生で、かつ、多収なイネ品種開発

○ 人工刺激をするまで、花芽形成しないイネGMO系統の作出

「コシヒカリ」にインド型品種のもつ早生あるいは晩生遺伝子をマーカー選抜で導入

導入した近縁野生種のゲノムは約600kb(ゲノム全体の約0.15%)

Hd6Hd4Hd1

10日早生 10日晩生

Hd1 Hd5

課題担当者 井澤 毅 (農業生物資源研究所:[email protected])矢野 昌裕(農業生物資源研究所:[email protected]

関東HD1号 コシヒカリ

コシヒカリ関東HD1号:品種登録済み関東HD2号:登録出願済み

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病原性カビが植物の免疫系を逃れる機構の解析病原性カビが植物の免疫系を逃れる機構の解析99

1 解決すべき課題1 解決すべき課題

植物には侵入してきた菌を認識し、攻撃する免疫システムがあります。例えば、植物にカビが侵入すると、カビが共通して持っている細胞壁成分(キチンやβ-1,3-グルカンなど)などを植物のセンサーが認識し、次いで、カビの細胞壁を分解する酵素などを作り出してカビを攻撃します。ところが、病原性のカビはこのような免疫システムをかいくぐって植物細胞内に侵入し、病気を引き起こします。農業分野では作物に対するカビの被害を抑えるため、病原性のカビに強い品種などの育成が行われています。また、植物の免

疫力を高める薬剤の使用や抗カビ剤なども使用されています。しかし、より効果的に病原性のカビの防除を行うためには、病原性

1.解決すべき課題1.解決すべき課題

のカビがどのように植物の免疫機構を回避して植物細胞内に侵入するのかを明らかにする必要がありました。そこでイネの病原性カビであるイネいもち病菌を用いて、「カビの感染戦略」について研究を行いました。

2.研究成果の概要2.研究成果の概要α-1,3-グルカン β-1,3-グルカン キチン明視野

菌糸細胞壁キチン、 感染

無処理

細胞壁がα-1,3-グルカンにより隠覆

菌糸細胞壁キチン、β-グルカンが露出

感染失敗

感染成功

図1 α-1 3-グルカンによるいもち病菌細胞壁表層の被覆

α-1,3-グルカン除去後

図2 いもち病菌のα-1,3-グルカンによるステルス戦略植物はα-1,3-グルカンを分解できない。α-1,3-グルカンで

表面が覆われたいもち病菌はイネの免疫に対してステルス化することができ、その結果、感染が成立する。

図1 α 1,3 グルカンによるいもち病菌細胞壁表層の被覆蛍光試薬を用いてイネ細胞内でのいもち病菌細胞壁の各構

成成分を染色し、顕微鏡で観察した。侵入菌糸細胞壁ではα-1,3-グルカンのみが検出されるが、

分解酵素によるα-1,3-グルカン除去処理後にはβ-1,3-グルカンやキチンが検出されることから、細胞壁表層がα-1,3-グルカンで覆われていたことがわかる。

図3 α-1,3-グルカン分解によるいもち病防除いもち病菌を覆うα-1,3-グルカンを酵素で分解すると、

イネの免疫が活性化し、いもち病菌の感染が抑制される。

3.成果の活用場面(出口のイメージ)3.成果の活用場面(出口のイメージ)

植物感染α-1 3-グルカンの分解・除去による植物免疫の活性化病原菌

イネ病原性カビはα-1,3-グルカンを利用してイネに感染する

α 1,3 グルカンの分解 除去による植物免疫の活性化

α-1,3-グルカンの合成を阻害する薬剤α-1,3-グルカン分解酵素の利用α-1,3-グルカン分解ができる植物の作出等

α-1,3-グルカン除去

植物の免疫を最大限利用した新規病害防除法( 本 米 台湾特許出願)

植物免疫による攻撃

課題担当者 西村麻里江 (農業生物資源研究所:[email protected])南 栄一 (農業生物資源研究所:[email protected]

(日本、米国、台湾特許出願)

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洪水時には10mも伸びる浮きイネの秘密洪水時には10mも伸びる浮きイネの秘密1010

1.解決すべき課題1.解決すべき課題

東南アジア、西アフリカ、南米アマゾン川流域では雨季に河川が氾濫し毎年大規模かつ長期間に渡る大洪水が発生します。ほとんどの作物はこの洪水環境下で生存することができませんが、「浮きイネ」と呼ばれるイネはこの洪水環境を克服することに成功しました。通常のイネ(1m程度)は水没すると呼吸が出来ず水没し溺死します。一方、浮きイネは一般的なイネの栽培条件である浅水の環境では、通常のイネと変わらず1m程度の草丈を示しますが、洪水などの急激な水位の上昇が起こると、草丈の伸長(節間伸長)を行い、葉を水面に出すことで呼吸を確保し水没することなく生存できます。

毎年、定期的に洪水が発生する地域では、浮きイネを食糧として利用していますが、収量が低く、多収の浮きイネ品種の育成が望まれています。本プロジェクトでは、浮きイネの洪水耐性の分子メカニズムを解明し、将来、東南アジアの洪水多洪水耐性の分子メカニズムを解明し、将来、東南アジアの洪水多発地域に適した浮きイネ品種の育成を目指しています。発地域に適した浮きイネ品種の育成を目指しています。

2.研究成果の概要2.研究成果の概要

3.成果の活用場面(出口のイメージ)3.成果の活用場面(出口のイメージ)

浮きイネは収量が低いという問題に対し、浮きイネを制御する遺伝子が同定できれば、収量を向上させる遺伝子とマーカー選抜を用いて集積することで収量が高い浮きイネの育成が可能になるか

課題担当者 芦苅基行 (名古屋大学・生物機能開発利用研究センター: [email protected])

もしれない。これらの系統をアジアの洪水多発地帯に普及すれば、現地の食糧問題軽減につながる可能性がある。

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オオムギの花を閉じたまま受粉させるオオムギの花を閉じたまま受粉させる1111

1 解決すべき課題1 解決すべき課題

イネ、コムギ、オオムギなどの世界の重要穀物の多くはその種子を食用とする作物であり、同一の花に雄しべ、雌しべ

を生じ、それが自家受粉することにより種子を生成します(自家受粉性作物)。これらの作物は花の内部で自家受粉が可

能であるため結実のためには開花を必要としませんが、受粉時に開花し葯を外部に抽出して花粉を空中へ放出するのが

一般的です。

オオムギには遺伝的に開花しないで受粉する品種がわずかに存在しますが、このオオムギの閉花受粉性は、赤かび病

に対する抵抗性向上に有効であることが示されてきており 閉花受粉性の導入はオオムギの赤かび病の感染防止にきわ

1.解決す き課題1.解決す き課題

に対する抵抗性向上に有効であることが示されてきており、閉花受粉性の導入はオオムギの赤かび病の感染防止にきわ

めて有効な手段であることが明らかとなってきました。赤かび病はコムギを含めた麦類に於ける最も重要な病害であり、そ

の抵抗性の強化が求められています。

2.研究成果の概要2.研究成果の概要

開花性オオムギと閉花性オオムギには鱗被の大きさや構造に顕著な違いがあります。

・ 開花性オオムギの鱗被には通道組織が存在し、受粉時の急速な吸水によって膨潤し、外頴を外へ押し広げ、そのた

め花が開きます。

・ 一方、閉花性オオムギの鱗被は発達不十分で膨潤せず、開花を促す機能がありません。

本プロジェクトでは、オオムギの開花に必須な遺伝子Cly1がAP2タンパク質をコードすることを世界で初めて明らかにし

ました。AP2は鱗被の発達を抑制するタンパク質です。開花する品種ではCly1のmRNAがマイクロRNAの一つmiR172の

介在によって切断されるためAP2が合成されず、鱗被は発達膨潤します。開花しない品種ではmiR172によって認識される

特定の21塩基の配列のなかの1塩基の変化が原因でmRNAが切断を受けない事が明らかになりました。この場合、AP2

が合成蓄積されるため、鱗被の発達は抑制され、開花はおこりません。

Cly1遺伝子

の発見

鱗被(☆)が膨潤する

鱗被(☆)が発達していない

正常なCly1遺伝子では

変異したCly1遺伝子では 1

3.成果の活用場面(出口のイメージ)3.成果の活用場面(出口のイメージ)

膨潤する 達していない遺伝子では、mRNAが切

断される 閉花開花

DNAマーカーでCly1 の遺伝子型を調べることによって 閉花性遺伝子を有する品種を迅速かつ効率的に選抜するこ

遺伝子では、1塩基の違いによりmRNAが

切断されない

DNAマ カ でCly1 の遺伝子型を調べることによって、閉花性遺伝子を有する品種を迅速かつ効率的に選抜するこ

とが可能となります。また今回の発見が、これまで完全な閉花性品種が存在しないコムギやイネにおいてもオオムギと同

様の完全な閉花性品種を作成するために役立ちます。

さらにCly1遺伝子を改変することによって、開花をより大きな角度でより長時間持続する系統を作成することができれ

ば、麦類におけるF1 ハイブリッドの採種技術を向上させることが出来、多収性への貢献が期待されます。このような応用

研究も世界から注目されています。

課題担当者 小松田隆夫(農業生物資源研究所:[email protected]

研究も世界 ら注目され ます。

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甘くて倒れない、甘くて倒れない、バイオエタノール用バイオエタノール用

ソルガム育種にソルガム育種に向けた研究開発向けた研究開発1212

1 解決すべき課題1 解決すべき課題高糖性ソルガムは大型のイネ科植物で、サトウキビと同じように糖を稈に蓄積する性質があり、かつサトウキビに比べ、はる

かに生育が早い。バイオエタノール(BE)生産では、セルロースを糖化してから発酵させるよりも、糖を直接発酵させる方が技術的効率がよく、コストも安価である。このため、ソルガムの高糖性搾汁液はBE生産への利用が期待されている。しかし、高糖性ソルガムは草丈が高いため、台風等による倒伏が深刻な被害を与えている。子実型(種子を食用とする)ソルガムの育種では、これまで4つの矮性遺伝子(dw1-dw4)が短稈化育種に利用され、結果として耐倒伏性が付与された。しかし、これまでに高糖性ソルガムの耐倒伏性品種は報告されていない。つまり、矮性遺伝子を利用した高糖性ソルガムの耐倒伏性付与が、現在の解決すべき重要な課題である しかし ソルガムの矮性遺伝子はd 3遺伝子が唯 単離されているだけで 他の遺伝子は単離

1.解決すべき課題1.解決すべき課題

解決すべき重要な課題である。しかし、ソルガムの矮性遺伝子はdw3遺伝子が唯一単離されているだけで、他の遺伝子は単離されていない。また、高糖性の遺伝子も明らかではない。これらの解析はDNAマーカー育種に役立つと考えられる。そこで我々は、ソルガムの耐倒伏性に重要な形質である矮性(節間伸長性)と、BE生産に重要な高糖性について分子遺伝学的解析を行い、甘くて倒れない、BE用ソルガム育種に向けた研究の基盤作成と開発を進めている。

2.研究成果の概要2.研究成果の概要

ソルガムは次の点でエネルギー① なぜソルガムか? この節間伸長性や④稈長・糖度の遺伝子は何処?作物の重要な候補と考えられる。

・イネ科・全ゲノム配列決定・公開・2倍体→イネゲノム研究の成果を活用可・成長が早い(3ヶ月)・高糖性、高バイオマス

?

の節間伸長性や高糖性が、どの遺伝子座によって決まるのかを明らかにするために、短稈・低糖性品種bmr-6と長稈・高糖性品種SIL-05 の 雑 種 集 団 を用いてQTL解析を行っ

④稈長 糖度の遺伝子は何処?

?

SD1

BRI1楕円内の数字:F2集団(上段)、F3集団(下段)のLOD値※2つの解析で共にLOD >4.0 のQTLのみ示した。

qCl6SIL-05

6.24.1

qCl7SIL-05

7.27.7

qCl9SIL-05

4.24 3

qBrx6SIL-05

12.24.0

稈長QTL高糖性QTLソルガムの関連遺伝子座イネ科半矮性遺伝子のオルソログ

Dw2

?

→バイオエタノール、飼料へ・C4 植物→CO2高吸収・多回刈が可能→多収量・疎放的栽培可→耕作放棄地対策・広い栽培地域(北海道~沖縄)・F1ハイブリッド育種可能

②高糖性ソルガムは草丈が ③高糖性ソルガムは節間伸長⑤qCl9のファインマッピング

た(④)。その結果、桿長はqCl6、qCl7、qCl9、また糖度はqBrx6にLOD値が4以上のQTLが検出され、これらの遺伝子座が重要であることが明らかとなった。座乗位置からqCl7はdw3,qCl6はdw2の可能性が考えられた。

4.3

?Dw3/PGP1

残るqCl9については ファインマッピ

沖縄県大宜味村

②高糖性ソルガムは草丈が高いため倒れやすい

しかし、高糖性 ソ ル ガ ム は倒れ易い(②)。その理由は、草

丈が高いためである。そこでな

③高糖性ソルガムは節間伸長が盛んなため高い草丈になる

A

I

IIIIIIV

V

VI

VII

VIII

IX

X

XI

XII

XVI

I

IIIII

B

10cm

III

IV

V

VI

VII

VIII

IX

XI

X

XIIXIII

C IIXI

XII

XIII

XIV1m

bmr-6

1m1m

SIL-05

1m低糖性 高糖性

D bmr-6

第9染色体130cM近傍は、ファインマッピングの結果、候補領域を約18kbの範囲に絞り込み、候補遺伝子を明らかにした(⑤のA遺伝子)。また、高糖性遺伝子についても

様 解析を

伸びている

19A 9B9C 9D

1 69E

RIRE2

bmr-6

SIL-05

BTx623

表現型 後代検定数

18 kb

A B C D E

3

イネのQTL解析の成果は、DNAマーカー育種に活用する とでとても役立 ている ル

このBE用ソルガムの開発は、耕作放棄地などを活用した地域 ネル

ぜ草丈が高いのか調べた(③)。その理由は、高糖性ソルガムの節間伸長性にあった。

3.成果の活用場面(出口のイメージ)3.成果の活用場面(出口のイメージ)

XII

XIVXV

III

IV-XIII XV

SIL-05bmr-6SIL-05bmr-6

XIII

基部の拡大図節全体の

パターン構造

D

04

8

12

16

bmr-6 SIL-05

Brix

5.9

16.6 bmr-6SIL-05

⑦ソルガムのカスケード利用

同様にQTL解析を行い、効果の高い候補領域を同定した。

耕・畜・エネ地域エネルギー

短表現型

bmr-6型ホモSIL-05型ホモ

後代検定数13

13

上段;遺伝学的地図とDNAマーカー。 ( )は組換え個体数。中三段;候補領域の物理地図。矢印はゲノムから推定された遺伝子。下段;組換え個体の遺伝型。矢印は候補領域を示す。

種に活用することでとても役立っている。ソルガムも同様に、この成果をDNAマーカー育種に活用することで、甘くて倒れにくいソルガム品種の育成が現実的になった。本プロジェクトでは、この他にも多回刈に重要な再生性、耐病性、乾汁性についても卓越した研究成果が得られた。これらの新規QTL/遺伝子を1品種へ集積することで これまでにないエネルギ

放棄地などを活用した地域エネルギーの地産地消システムを実現するために重要である(⑦)。

矮性

再生性

耐病性

高糖性

⑥甘くて倒れないソルガム

バイオエタノール

発酵飼料化

バガス

セルロースを活用

バイオエタノール

発酵残渣堆肥化

エリア内エネルギー源

牛用飼料

堆肥

搾汁液を活用

耕 畜 エネルギー連携

CO2

地域エネルギシステムの構築

へ集積することで、これまでにないエネルギー品種育成が期待される(⑥)。

課題担当者 佐塚 隆志 (名古屋大学生物機能開発利用研究センター:[email protected]

高糖性汁性

糖とセルロースの二段活用

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DNADNAマーカー選抜により育成されたマーカー選抜により育成された根根こぶこぶ病強度抵抗性病強度抵抗性FF11品種「あきめき」品種「あきめき」

1313

1.解決すべき課題1.解決すべき課題

根こぶ病(図1)は、土壌微生物Plasmodiophora brassicaeによって引き起こされるアブラ

ナ科野菜に共通する土壌病害の一つです。被害株は文字通り根がこぶ状に肥大し養水分の吸収の阻害により生育ができなくなります。現在、様々な防除方法がなされていますが、化学合成農薬の使用に頼らなくても栽培可能な品種が望まれています。しかしこれまでの抵抗性品種は、抵抗性程度やハクサイとしての形質が不十分であり普及上の問題がありました。そこでDNAマーカー選抜育種に取り組むことで、強い抵抗性と優秀な形質を併せ持つ必要品種を効率的に育成します。

図1 根こぶ病に感染した根部病徴併せ持 必要品種を効率的に育成します。

2.研究成果の概要2.研究成果の概要

表1 「あきめき」の根こぶ病抵抗性

品種名根こぶ病菌グループ

1 2 3 4

ハクサイF1品種「秋理想」の両親系統に2つの根こぶ病抵抗性遺伝子Crr1とCrr2を有する「はくさい中間母本農9号」を交雑しました。その後代に両親系統を4回連続戻し交雑を行いました。幼苗時に

カ (図 )を と を必ず持 る個体を

染した根部病徴

あきめき R R R R

SCRひろ黄 S R S R

CR隆徳 S S R R

無双 S S S S

Hatakeyama et al (2004) のグループ分けに従った.R:抵抗性、S:罹病性、無双は罹病性品種

DNAマーカー(図2)を用いてCrr1とCrr2を必ず持っている個体を

選抜しました。抵抗性遺伝子を有する親系統どうしを交雑して得られた試交F1系統の中から最も形質に優れる形質を持つハクサイを「あきめき」と命名しました(図4)。根こぶ病菌は2つの抵抗性品種「SCRひろ黄」と「CR隆徳」が有

する反応性の違いから4種類の菌系に分かれています。「あきめき」は4種類の菌系すべてに抵抗性の初めてのF1品種です(表1)。

Crr1

Crr2

3.成果の活用場面(出口のイメージ)3.成果の活用場面(出口のイメージ)

図3 根こぶ病多発圃場でも旺盛

な生育の「あきめき」(左)と生育できない一般品種(右)

図2 Crr1とCrr2に連鎖するDNAマーカー緑色の矢印で示すDNAが抵抗性遺伝子に連鎖

図4 「あきめき」の出荷荷姿(左)と縦断面

(右).均整のとれた球形と内部葉は鮮やかな黄色が特徴.

1.平成23年6月品種登録出願を行い、平成24年6月から一般販売を開始します。

2.周年供給されているハクサイは、出荷時期や栽培場所に合わせて様々な品種が用いられています。育成した1系統だけですべての作型に対応することはできませんが、「あきめき」は実質3年間で育成まで目途がつ

きました。そのため、今後はこの方法を用いることで強度抵抗性の付与が他の品種や根こぶ病に悩まされているナバナ、コマツナ、カブ等のアブラナ科野菜へと広がります。

3.根こぶ病防除のために日本国内で数十憶円の化学合成農薬が散布されています。育成した系統を用いることで農薬の使用量を減らせることができると期待されています 生産者と消費者の双方に大きなメリットがあり

課題担当者 松元 哲 (農研機構 野菜茶業研究所:[email protected])畠山勝徳 (農研機構 野菜茶業研究所:[email protected])高下新二 (株式会社日本農林社:[email protected])近藤友宏 (株式会社日本農林社:[email protected]

とで農薬の使用量を減らせることができると期待されています。生産者と消費者の双方に大きなメリットがあります。

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いもち病・白葉枯病など複数の病気に強いイネを作るいもち病・白葉枯病など複数の病気に強いイネを作る1414

1.解決すべき課題1.解決すべき課題

飼料作物は食料自給率を向上させるための農政上の重要な戦略的作物であり、その生産の低コスト化および生産性向上

が重要な課題です。イネは飼料作物としても重要ですが、いもち病(糸状菌病)、白葉枯病(細菌病)などによって大きな被害

を受けます。したがって、これらの病気に対して耐性をもたせることは、飼料イネ生産の低コスト化および生産性向上、さらに

は環境負荷低減のために重要です。本研究ではこれまで、いもち病およびごま葉枯病(糸状菌病)、白葉枯病に極めて強い

抵抗性を与える遺伝子WRKY45(ワーキー45)をイネから見出しました。この遺伝子を飼料イネの耐病性向上に用いることが

期待されています。しかしながら、WRKY45遺伝子を常に高レベルで発現させるとイネの生育が影響を与えるので、WRKY45

遺伝子の発現を改良することにより生育への影響を低減することが課題です。

2.研究成果の概要2.研究成果の概要

WRKY45高発現イネはいもち病や白葉枯病などの病気に強い抵抗性を示す

いもち病抵抗性 白葉枯病抵抗性

生育環境の影響でWRKY45高発現イネの生育が悪化する

温室(GH) 人工気象室(人工気象室(GCGC))ごま葉枯病抵抗性

WRKY45WRKY45高発現高発現イネイネ

日本晴日本晴 WRKY45WRKY45高発現高発現イネイネ

日本晴日本晴

日本晴日本晴 WRKY45高発現イネ

菌液に浸したはさみで先端を切る

2週間後

WRKY45高発現イネは、温室(左)では比較的良好に生育したが、

WRKY45

WRKY45高発現イネWT

WRKY45高発現イネ

いもち病菌をスプレーする

1週間後

いもち病菌 白葉枯病菌

WRKY45WRKY45高発現高発現イネイネ

日本晴日本晴ごま葉枯病菌をスプレーする

3日後

ごま葉枯病菌

WRKY45

PR-1b

PR-2

PR-1b

PR-2

WT

日本晴日本晴 WRKY45高発現イネ

イネの遺伝子WRKY45を再導入して強く発現させたイネは、糸状菌(カビ)が原因のいもち病・ごま葉枯病と細菌が原因の白葉枯病に強い耐性が表れた。

WRKY45高発現イネはなぜそんなに病気に強いのか?

人工気象室(右)の人工光下で生育したイネには生育遅延が見られた。これは、非感染時に抵抗性反応(PR遺伝子発現)が誘導されているためとわかった(下)。

プロモーターの改変により:① 適切なレベルで発現させる

② 病原体が感染しようとする時のみ発現させる

WRKY45 DNAプロモーターターミネー

タターミネー

ター

改良によりWRKY45高発現による生育への悪影響を低減した

抵抗性誘導剤(BTH)O SCH3

SN

WRKY45は抵抗性誘導剤の作用を媒介する

改良が必要

白葉枯病抵抗性いもち病抵抗性

抵抗性反応を実行する遺伝子

抵抗性反応

WRKY45

A B C D ….E F G (〜300個)

抵抗性誘導剤BTHは作物自身の病害抵抗性を引き出す。イネではオリゼメートが長年使われている。

改良型WRKY45

日本晴 日本晴 改良型WRKY45

日本晴日本晴 WRKY45発現イネ(改良前)

WRKY45発現イネ(改良後)

・無農薬・減農薬で飼料イネを栽培できるため、低コスト化・省力化が可能に → 飼料イネの低価格化により、競争力を高

3.成果の活用場面(出口のイメージ)3.成果の活用場面(出口のイメージ)

WRKY45は抵抗性反応の実行に関わる遺伝子を約300個

制御しており、それらの働きの総和により強い抵抗性が

発揮される。

発現イネ 発現イネ(改良前) (改良後)

改良により、病害抵抗性と良好な生育・収量を両立した(表示データは①の方法による)

飼料イネ品種に導入し、隔離ほ場栽培実施中

めて自給率向上に貢献するとともに、環境負荷低減にも貢献する。

・イネだけでなく、トウモロコシやコムギなど他の(イネ科)作物へ応用できる可能性がある。

課題担当者 高辻博志 (農業生物資源研究所:[email protected])土岐精一 (農業生物資源研究所:[email protected]

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稲の細胞壁の成分を変えて稲の細胞壁の成分を変えてバイオエタノールを効率よく生産バイオエタノールを効率よく生産するする

1515

1.解決すべき課題1.解決すべき課題

研究目標前処理効率が飛躍的に向上したイネの作出

解決すべき問題強固な細胞壁構造が原因のため高コストな前処理が必要

基本的戦略細胞壁多糖の量的・質的制御による易分解性細胞壁を有するイネの開発

2.研究成果の概要2.研究成果の概要

するイネの開発

食べない部分(細胞壁)を使ってバイオ燃料生産 (問題点→解決策)

ヘミセルロース成分(アラビノース、キシロースなど)の改変ヘミセルロース成分(アラビノース、キシロースなど)の改変

・燃料に変え易いブドウ糖が少ない→セルロースを増やす。

・燃料に変え難い糖が多い→ヘミセルロースを減らす。

・多量に必要(よく育って欲しい)→病気に強い。→折れにくい。

ヘミセルロースを減らすことで

・有用なセルロースが増加

・使用し難いヘミセルロースが減少

・糖化効率が上昇

・耐病性が上昇

3.成果の活用場面(出口のイメージ)3.成果の活用場面(出口のイメージ)

・耐病性が上昇

・植物が折れ難い

イネの生産 前処理

細胞壁間架橋の減少による 高セルロ ス含量による

細胞壁成分制御による高い成長性

酵素糖化 酵母発酵

高効率化

発酵しやすい糖(C6)が多く発酵しにくい糖(C5)が少ない

バイオエタノール稲の細胞壁改変によるバイオエタノール生産効率の向上

課題担当者 佐藤 忍 (筑波大学:[email protected])西谷和彦 (東北大学:[email protected]

細胞壁間架橋の減少によるセルロース糖化効率の上昇

高セルロース含量による利用しやすいC6糖の増加

高い成長性高い倒伏抵抗性耐病性の獲得

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残留性有機汚染物質(残留性有機汚染物質(POPPOPs)であるドリン類をs)であるドリン類を強力に分解する微生物を世界で初めて単離強力に分解する微生物を世界で初めて単離

1616

1.解決すべき課題1.解決すべき課題

農耕地の汚染は農産物の汚染を介した経口暴露の危険性をはらんでおり、農耕地面積が限られている我が国では、生産力の維持・向上のために農耕地を汚染から守るとともに汚染農耕地を修復することは国是とも言える喫緊の課題である。

農耕地でよく見られる比較的低濃度・広範囲の汚染には、物理化学的修復手法はコスト的に適用不能なため、生物(特に微生物)を用いた環境修復(バイオレメディエーション)技術が期待されている。しかし、疎水性の高い有機塩素系化合物による汚染の場合、土壌鉱物や有機物への吸着のために、実験室レベルでは強力な分解力を発揮する分解菌が環境中では十分に働かないことが多いことも知られている。この問題の解決のためは、ウリ科植物の疎水性有機物の可溶化(抽出)・吸収能力と分解微生物の高い分解力を融合させたハイブリッド汚染除去系が有効と考えられる。

本研究では、農耕地での汚染が問題となっているドリン類(下図参照)のハイブリッド汚染除去系の開発を目指しており、そ

2.研究成果の概要2.研究成果の概要

の第一歩としてドリン類分解菌の単離と解析を行った。ドリン類は、1970年代初頭に使用禁止となったが、使用から40年程度

経過した現在でも環境中から検出されており、キュウリ等から基準値を超える濃度で検出されることもある物質である。ドリン類は、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)の対象物質でもあり、使用・製造が禁止されると共に、既に環境中に拡散してしまったドリン類の除去法の開発が国際的に求められている物質でもある。

DIL-1株とGeobacillus sp. WCH70 との比較

生物名 Geobacillus sp. WCH70 Geobacillus sp. DIL‐1

配列解読状況 完成 ドラフト(進行中)

解析機構DOE Joint Genome Institute (アメリカ)

NITE、東京農大(日本)

コンティグ数 1 578

総塩基数 3,508,804 3,325,042

GC含量 42.80% 42.40%

タンパク質コード遺伝子 3477 3704

DIL懸濁3倍希釈栄養寒天培地を用いて単離

クリアゾーン形成領域のDIL量を

【微生物の単離に成功】

DIL汚染化模擬堆肥からドリン類を強力に分解できる微生物DIL-1株を単離

Cl Cl

ClCl

ClCl

O

Dieldrin(DIL)

DIL-1株のゲノム解読(進行中)及び

DIL-1株との相同性

100%

タンパク質配列の相同性(%)指標

タンパク質コ ド遺伝子 3477 3704

機能推測可能遺伝子数 2349 2263

機能推測不可遺伝子数 1128 1441

RNA 遺伝子 120 79

GC-MS, LCにて定量 (進行中)及びゲノム既知近縁種との比較

0 2

0.4

0.6

0.8

1

DIL相対残存量

非形成領域 クリアーゾーン形成領域

約75%のDILが減少

【DIL-1株の特徴】・ドリン類(DIL)をコロニー状の生育下で分解する・Endrinでもクリアゾーンを形成する・ドリン類では生育しない(C源にはできない)・液体培養では生育が悪く、分解も認められない・16S rRNA遺伝子比較ではGeobacillus toebii (ゲノム未解析)に近縁

G. sp. WCH70

DIL 1株との相同性

G. thermoglucosidasius C56-YS93B. subtilis subsp. subtilis str. 168G. kaustophilus HTA426

10%ゲノム解析ソフトxBASE bacterial genome annotation service and

0

0.2

N1

N3

N5

N7

N9

N11

N13

N15

N17

N19

S1 S3 S5 S7 S9 S11

S13

S15

S17

S19

3.成果の活用場面(出口のイメージ)3.成果の活用場面(出口のイメージ)

・ドリン分解遺伝子の単離・ウリ科植物への遺伝子導入 ドリン分解

酵素遺伝

16S rRNA遺伝子比較ではGeobacillus toebii (ゲノム未解析)に近縁・全ゲノム比較ではGeobacillus sp. WCH70 (ゲノム解析済)に類似

xBASE bacterial genome annotation service and Rapid Annotation using Subsystem Technology (RAST ver. 4.0)

課題担当者 野尻秀昭 (東京大学生物生産工学研究センター:[email protected]

物 導・ウリ科植物にDIL‐1株由来の分解力を付与

酵素遺伝子の単離

ドリン汚染農地の浄化ドリン分解ウリ科

植物の作出

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ジーンターゲッティングによるジーンターゲッティングによる有用形質導入システムの開発有用形質導入システムの開発

1717

1.解決すべき課題1.解決すべき課題

相同組換え(HR)を用いたジーンターゲッティング(GT)は、計画的・効率的なゲノム改変技術として注目されているが、GTが生じる頻度が極めて低いため、GTが生じた細胞・植物体を効率的に選抜する手法が必要となる。この点、ベクターの両端に配したネガティブマーカーを用いて、ベクターがランダムに挿入された細胞を取り除き、ポジティブマーカーを用いてGT細

胞候補を選抜するポジ・ネガ選抜法は大変有効な手法である。また最近、人工制限酵素を用いて標的遺伝子のみを切断することによって、GTの頻度自体も顕著に向上できることが報告された。一方、ベクターがランダム挿入された細胞はネガティブ選抜により完全には除去できない(図1)。また、人工制限酵素による切断後DNA末端が直ちに結合してしまう事が、GTの頻度向上を阻害してする(図3)。そこでベクターのランダムな挿入と、DNA末端結合に関与する非相同末端結合(NHEJ)の経路を抑制することによって、GT細胞の選抜効率と、GTが生じる頻度自体を改善できないか、イネを材料に検討を行った。

2.研究成果の概要2.研究成果の概要

図1.ベクターがランダム挿入した細胞をネガティブ選抜で完全に除去することは出来ない

図3.NHEJ経路は人工制限酵素による切断部位がHR経路で修復されることを阻害する

図2.NHEJ因子であるKu70の発現抑制により

本研究により、NHEJ経路の抑制により、ベクターのランダム挿入が抑えられ、HRの頻度も向上できることが示された。今後ポジ・ネガ選抜と人工制限酵素の利用を併用したGT実験において、GTの頻度の向上と選抜の効率化の相乗効果について評価を行うが、NHEJの抑制による効果はイネ以外においても普遍的に見られると考えられる。現在のところ再現性の高いGT系の報告は イネ トウモロ シ タバ シロイヌナズナに限られているが GTの頻度と選

3.成果の活用場面(出口のイメージ)3.成果の活用場面(出口のイメージ)

ベクターのランダム挿入を抑えることができる 図4.Ku70の発現抑制はHRの頻度を向上させる

現在のところ再現性の高いGT系の報告は、イネ・トウモロコシ・タバコ・シロイヌナズナに限られているが、GTの頻度と選抜効率の両方が向上することにより、形質転換効率の低い作物においても、GTの手法が適用できる様になると考えられる。またその結果、効率的・計画的なゲノム改変が多くの作物で行える様になると期待される。

課題担当者 土岐 精一 (農業生物資源研究所:[email protected])

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遺伝子組換え(遺伝子組換え(GMGM)生物のリスクを知る)生物のリスクを知る~生物多様性への影響や非~生物多様性への影響や非GMGM生物との共存~生物との共存~

1818

1 解決すべき課題1 解決すべき課題

【植物】•生産:海外で右肩上がり[29ヶ国、1.6億 ha(2011)](右図)⇒輸入種子への混入•導入形質:適応度の向上(環境ストレス耐性、病害虫抵抗性)⇒生物多様性への影響【動物】•生産:商業化開始⇒魚(メダカ、ゼブラフィッシュ、大西洋サケ)、昆虫(カイコ)•生物多様性影響評価:未だ確立されていない

1.解決す き課題1.解決す き課題

2000

3000

4000

5000

6000

7000

8000

9000

栽培

面積(万ha)

遺伝子組換え作物の栽培面積

先進国

途上国

【アジア】インド、中国、パキスタン、フィリピン、ミャンマー等

•生物多様性影響評価:未だ確立されていない•導入形質:適応度の向上(サイズの増大:競合力の向上)⇒生物多様性への影響

2.研究成果の概要2.研究成果の概要

①生物多様性影響評価手法の開発

0

1000

1996

1998

2000

2002

2004

2006

2008

2010

途上国

10 0 遺伝子の効果がない場合ツルマメ自生地で推定した遺伝子の効果をもとに計算

%)

【植物】

•ダイズ遺伝子の働きにより、雑種後代の種子生産量や越冬率が低下し、浸透交雑が約30%起こりにくくなる(右図)。⇒遺伝子浸透モデルの開発や、拡散リスクの定量的評価に役立つ【動物】•自然界でコイとフナの雑種はあるが、カイコとクワコでは見つからない。⇒バイオロジ ドキュメントや マニュアルの作成に役立つ

0

25

5 0

7 5

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

畑で推定した遺伝子の効果をもとに計算ツルマメ自生地で推定した遺伝子の効果をもとに計算

浸透

交雑

の発生

確率

(% 84%

55%

37%

約30%減

・生物多様性:GM選抜ツール(検知技術)、研究推進上の安全性確保、外来生物のわが国における侵入・定着・蔓延のリスク

②GM作物と非GM作物との区分管理技術の開発

⇒バイオロジードキュメントや、マニュアルの作成に役立つ

【植物】•水稲の自然交雑は30m離れると両者はほぼ生じない。•GM水稲を作付けする圃場を集団化すると自然交雑を抑制できる。•閉花受粉性稲の開花は関東・北陸以西で皆無である(右図)。

未調査

開花しない

僅かに/条件によって開花

開花あり

著しく開花

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11世 代

侵入 定着 蔓延のリスク・食の安全:農作物の安全性評価(未知遺伝子やLLPの検知技術)、農作物のLCA(区分管理の経済的コスト)・全般:GM生物のリスクアナリシス研究(DB)

③海外における生物多様性影響評価・区分管理に関する知見の調査解析

閉花受粉性稲の開花は関東 北陸以西で皆無である(右図)。•スタック系統(複数のGMを交配育種)の定量的検知法や、未承認GM作物の網羅的検知手法などを開発した。•コメ流通における品種混入は設備内残留と人為的ミスが主要因である。⇒GMと非GM作物間の交雑・混入防止(共存)に役立つ

【植物】「乾燥耐性トウモロコシは有害な作物ではない」と判断(USA)(図や写真を用いて簡潔に要点をまとめる)

3.成果の活用場面(出口のイメージ)3.成果の活用場面(出口のイメージ)

【植物】「乾燥耐性トウモロコシは有害な作物ではない」と判断(USA)【動物】初期成長が早いGM太平洋サケは商業化直前(USA・カナダ)

研究 行政

Ⅰ.魚類及び昆虫•メダカ•ゼブラフィッシュ•大西洋サケ•コイ•アコヤガイ•ミツバチ

研究

①生物多様性影響評価手法の開発バイオロジードキュメント、遺伝子浸透モデル等

②GM作物と非GM作物との区分管理技術の開発GM遺伝子検知技術、交雑防止技術等

③海外における生物多様性影響評価・区分管理に

生態系保全国内カルタヘナ法

食の安全

非GMとの共存実験栽培指針

マニュアル等の作成

国際的調和

行政

課題担当者 與語靖洋 (農業環境技術研究所:[email protected]

•カイコⅡ.乳酸菌

③ 響関する知見の調査解析 表示問題・混入率

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各種遺伝子の発現を司るスイッチ「転写因子」の役割各種遺伝子の発現を司るスイッチ「転写因子」の役割を調べ、作物育種に役立つ遺伝子スイッチを探るを調べ、作物育種に役立つ遺伝子スイッチを探る

1919

1.解決すべき課題1.解決すべき課題

2 研究成果の概要2 研究成果の概要

転写因子(TF)は特定のDNA配列に結合して遺伝子の転写調節に関わる重要なタンパク質で、イネには二千数百種類あると推定されています。TFは、植物の生長段階や環境条件に応じ、その支配下にある遺伝子群の転写を適切に調節することで、調和した生育状態を維持すると考えられます。しかし、TFの多くは役割がまだよくわかっていません。本研究で実施する多種多様なイネTFの機能解明は、イネの生

育特性や農業形質が分子レベルで理解出来るだけでなく、イネ等の作物の(分子)育種を実施する上で有用な知見や研究素材を提供します。本研究では、多種多様なイネTF遺伝子(cDNA)の機能を正あるいは負に制御することによって引き起こされるイネの生育や形態などの表現型の変化から、そのTFの役割を推定しつつ、有用農業形質を付与すると期待されるTF遺伝子を探索しています。

2.研究成果の概要2.研究成果の概要

1. 転写因子は標的となる遺伝子群の発現を制御するスイッチである

個々の転写因子(TF)の役割標的遺伝子群の発現の ON/OFF を調節

G C

Gene DTF

2. イネ転写因子の包括的機能解明へのアプローチ

TF cDNA過剰発現イネの作出(優性亢進型: OX系)

キメラリプレッサー発現イネの作出

(優性阻害型: CRES-T系)

多くのTFはファミリーを形成しています。同一ファミリーの構成員の機能は重複している場合がしばしばあり、単一TF遺伝子の変異体では異常表現型が出現しないことが懸念されます。CRES-T法*では、転写因子に転写抑制機能を持つペプチド(Repression Domain: RD)を付加したキメラ遺伝子を過剰発現さ

イネTFをイネで異所的に過剰発現させることで、下流の標的遺伝子群の発現を一斉に誘導または抑制することができます。そのため、表現型の変化が生じやすく、効率的に機能獲得型の変異体を作出できると期待されます。

イネTF 完全長cDNAクローン

- 転写因子cDNAのORF解析- Gatewayエントリーベクターへのクローニング

3. 転写因子cDNAを過剰発現する組換えイネ系統の作出、評価、利用

イネTF cDNA エントリークローン

Gene A

Gene B

Gene C

イネ遺伝子座(タンパク質をコード)約 37,544 種類

イネ転写因子:2,400 ~ 2,500 種類

細胞増殖 器官分化発芽・生長 環境応答代謝 光合成種子形成 ・・・

TFあたり平均10 ~ 20種類の支配下遺伝子

TF1

Gene

TF1 TF2

TF2 RDTF1

Gene

TF1 TF2

異常な表現型は生じない

Domain: RD)を付加したキメラ遺伝子を過剰発現させることで、機能が重複する複数の転写因子の機能を一斉に抑えることができます。

# Transposon tagging# T-DNA tagging# Irradiation# Chemical mutagen# Antisense/RNAi

CRES-THiratsu et al. (2003)

異体を作出できると期待されます。

TF X cDNA過剰発現型プロモーター

標的遺伝子 #2

標的遺伝子 #1

Rice TF-OX Expression clones(生物研)

各種TF組換えイネの作出TF OX and TF OR

Rice TF-OR Expression clones(産総研)Chimeric Repressor

過剰発現(OX)ベクターおよびキメラリプレッサー過剰発現(OR)ベクターへのクローニング

Agrobacteriumを介したイネの形質転換(各発現ベクターを1つずつイネに導入)

Gene

TF機能が損なわれた表現型が現れる

( )Plant J. 34(5): 733-739.

*CRES-T: Chimeric REpressor Gene-Silencing Technology

標的遺伝子 #3

本来のTF機能を増強した表現型の出現

TF-OX and TF-ORrice plants

- 各TF組換えイネ系統の解析- 表現型の観察- 後代種子の収穫 ・・・

• 各転写因子の機能と発現ネットワークの解明

• 高収量やバイオマス増など有用形質に関わるTFの探索

• 後代種子の保存、配布

• データベース構築と公開

OX03A04: AK242412 (SLR1-like1, GRAS family)

Promoter: OsAct-1

イネTF過剰発現(TF-OX)

5. 各種TF遺伝子組換えイネ系統の作出状況(2012年3月31日)

4. 機能既知のイネTF cDNAの導入例

7 TF-OXイネとTF-ORイネで相対する矮性

TF発現ベクターの

タイプ

TF発現クローン

アグロバクテリウム

に導入

イネ(日本晴)に導入

再分化個体が得られたcDNA発現

コンストラクト

総再分化個体数

(鉢上げ個体数)

Itoh et al. (2005) Plant J. 44(4): 669-679.

Control OsTB1::RD fusion

イネ由来のリプレッションドメイン(RD)が有効に機能している例(CRES-T/TF-OR系)

OR (CRES-T)OX

Hyg耐性細胞塊

再分化培地移植後

10日

再分化個体

鉢上げ 6週後OROX Control

再分化: 遅い

再分化: 早い

日本晴に導入したイネ転写因子ファミリーのcDNAsABI3/VP1 AP2/ EREBP ARF AUX_IAA bHLH b3 DOF C2H2 bZIP CO-like GARP GRAS Homeodomain HSF MADS Myb PHD SBP SRF-TF TCP WRKY YABBY 他

7. TF-OXイネとTF-ORイネで相対する表現型が観察された事例

事例 #1野生型

矮性

多分げつこれらの系統では、TF OX と ORの異常

* 複数回導入した菌株も含む延べ導入系統数

タイプ に導入 コンストラクト (鉢上げ個体数)

TF-OX 1,148 893 702 (807)* 586 5,183

TF-OR 1,093 1,079 705 (829)* 564 4,888

Total 2,241 1,972 1,407 (1,636)* 1,150 10,071

OsTB1: トウモロコシTEOSINTE BRANCHED 1 (TB1) のホモログ TCP転写因子で 分げつを負に制御#

OsTB1::RD 過剰発現イネでは 分げつが増加

OsTB1-OXイネでは 分げつが減少#

# Takeda et al. (2003) Plant J. 33: 513–520.

疑似病斑

少分げつ垂れ葉 多分げつ

Control

OX Control

長稈葉身、葉鞘の色が薄緑色分げつが開く葉身関節が開く垂れ葉

葉身、葉鞘の色が濃緑分げつが閉じる葉身関節が閉じる巻き葉 + 直立葉

6. イネTF遺伝子組換えイネに生じた様々な変異

野生型OX OR (CRES-T)事例 #2

短粒 長粒

多分げつ TF-OX と -ORの異常表現型が「表と裏」の関係になっており、導入転写因子の機能の推定に有用。OX OXControl

OR

ControlOR

多分げつ

3.成果の活用場面(出口のイメージ)3.成果の活用場面(出口のイメージ)A. TF-OX および -OR系統の作出、生育特性/表現型の観察

B. 各種TF cDNA-OX および -ORイネ系統より後代種子を収獲し、

研究用形質転換リソースとして活用 --> 有用形質の選抜、後代

種子の保管・配布等

C. 上記の表現型情報や種子の在庫状況等のデータベース化

O および O イネ

有用農業形質に係るTFの探索

TF遺伝子組換え

イネのデータベース構築(カタログ化)

有用TFの機能を活用した育種素材のデザインや開発生育特性の

観察・解析公開

課題担当者 市川 裕章1(hichkw@affrc.go.jp)・槌田(間山) 智子1 ・飯田(岡田) 恵子1 ・堀川 明彦1 ・宮尾 安藝雄1・四方 雅仁1・阿部 清美1・宋健瑜・保坂 アエニ1・永田 俊文1・菊池 尚志1・長村 吉晃1 (1. 農業生物資源研究所)

光田 展隆3 (nobutaka.mitsuda@aist.go.jp) ・瀧口 裕子3・石塚 徹3・佐藤 和人3,4・安田 奈保美3・成田 聡子4・松井 恭子3,4・

安本 徹4・高木 優3 [3. 産業技術総合研究所、 4. (株)グリーンソニア]

D. 生育促進や多収性等の有用農業形質に関わるTF cDNAの探索と機能解析を行い、活用法を検討・提示

TF-OX および TF-ORイネ(目標: 2012年度末までに各1,000種類)

構築(カタログ化)

後代採種保管・配布・増殖

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イネの遺伝子発現情報データベースの開発と利用イネの遺伝子発現情報データベースの開発と利用2020

1.解決すべき課題1.解決すべき課題約3万2千個あると推定されているイネ遺伝子の約40%は 機能がわかっていません

本研究では、イネの葉、根、茎、穂、種子等の様々な組織や器官、また6月から9月までの葉の連続的な遺伝子発現解析等を通して、約3万2千個の遺伝子がいつ、どこで、どの程度発現しているか?、マイクロアレイ技術やRNA-Seq技術を使って調べています。

約3万2千個あると推定されているイネ遺伝子の約40%は、機能がわかっていません。

これら遺伝子の機能を明らかにするためには、それぞれの遺伝子がイネライフサイクルの、いつ、どこで、どの程度、発現しているか?を詳細に調べ、研究インフラとして蓄積・整備することが重要です。

2.研究成果の概要2.研究成果の概要

イネアレイ4×44K

マイクロアレイ技術による遺伝子発現解析

● 全遺伝子の発現情報獲得

年間を通した圃場サンプリング遺伝子発現部位遺伝子発現部位

次世代シークエンサーによる遺伝子発現解析

■ 約2000件のアレイデータを収集・データベース化した。

● 網羅的トランスクリプトーム解析● 新規遺伝子の発見RNA-Seq 技術

3.成果の活用場面(出口のイメージ)3.成果の活用場面(出口のイメージ)

約 件 集 。■ 新規転写領域、葉身で約1500カ所、根で約1800カ所を見いだした。

1) イネ及びイネ科作物の遺伝子機能解析への利用2) 植物生命科学研究への応用

課題担当者 長村吉晃 (農業生物資源研究所:[email protected])松本 隆 (農業生物資源研究所:[email protected]

2) 植物生命科学研究 の応用3) 新農業展開プロジェクト内での遺伝子発現データベース

の優先的活用

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ゲノムの解読データは、どのように利用されるのか?ゲノムの解読データは、どのように利用されるのか?2121

1.解決すべき課題1.解決すべき課題

現代の生物学では、高精度高速の解析機器を使って大量の「データ」を生産する

研究が主流です。こういったデータは余りにも膨大で、ただ眺めているだけでは専門研究者といえども何もできません。そこで、遺伝子レベルの大規模研究では

「コンピューター」や「データベース」の利用が必須になっているのです!

サンプル採取

データ化

>SeqAGTACAGTATCGTAATGATTTTAA

どうやってナマモノに反映するか?

2.研究成果の概要2.研究成果の概要

2004年、イネのゲノム(全遺伝子)の情報を明らかにした

模式化した遺伝子の様子をグラフィカルに表示します

このCDにデータが…しかしどうやって利用を?

実に実に33億億89008900万文字に相当!万文字に相当!

(イネ遺伝子データベース、2007年農林水産10大トピックスに選定)

ピ 情報が格納 増大するデ タをコンピューターには大量の情報が格納されています。しかしそれはそのままでは利用できません。例えば、塩基配列解読装置というものが産出するのは、AGCTという4種類の文字が延々と連なったデータで

す。ここから何処にどんな有用な遺伝子が含まれているのかをコンピューターで計算して明らかにできます。

また、インターネット情報をウェブで検索するように、遺伝 情報を効率 く検索する を開発する

日々増大するデータを研究者が解析し、データベースを構築しています。

よし、この遺伝子を調べれば品種改良につながるぞ…

3.成果の活用場面(出口のイメージ)3.成果の活用場面(出口のイメージ)

遺伝子の情報を効率よく検索するツールを開発することで、研究は加速されます。私たちのデータベースでは、研究者にとって有用なデータやツールを簡単に使えるように、様々な工夫を凝らしています。

こういったデータベースを活用してはじめて現場でのイネ研究が開始できます

データベースはあらゆる遺伝子研究を下支えする存在です。遺伝子の機能を推定したい…今、自分が調べている遺伝子はゲノムの何処にあるのだろう…他に同じ遺伝子を研究している人は…ひょっとしたら、ムギで同じ遺伝子を調べている人がいるのでは?そんな時、データベースにアクセスすれば、すぐに答えを得ることができます。

さらに、生物学の解析装置は日進月歩、超高速でデータを算出する機械が次々に現れています。本研究では、ギガ(10の9乗)からテラ(10の12乗)クラスといわれるような大規模データに対応して情報を

課題担当者 伊藤 剛 (農業生物資源研究所:[email protected])沼 寿隆 (農業生物資源研究所:[email protected])田中 剛 (農業生物資源研究所:[email protected]

新型の超高速塩基配列解読装置

(10の12乗)クラスといわれるような大規模デ タに対応して情報を有用化できるよう、関連するプログラムやデータベースの開発を続けています。

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ゲノムを解読して日本の大豆を改良するゲノムを解読して日本の大豆を改良する2222

1.解決すべき課題1.解決すべき課題

日本の食用大豆の需要量は約100万トンで、このうち国産大豆は約20万トンで2割のシェアとなっています。国産

大豆は用途別に種類が豊富であり、味や加工適性が優れていますが、気候の変動を受けやすく、供給が不安定で

あることから、実需者からは安定した供給が求められています(搾油用を含む大豆全体では自給率は5%しかなく、

国内で消費されるほとんどを輸入に依存しているのが現状です)。そこで、DNAマーカーを利用した効率的な育種

技術を駆使して、日本で必要とされる形質(耐湿性、病害抵抗性)に関わる遺伝子の同定と、その形質の迅速な導

入を可能にする技術の開発を目的としています。入を可能 する技術 開発を目的 ます。

1)国産ダイズの代表品種としてエンレイを選び、ゲノム解析のためBACライブラリーの作成、末端塩基配列の解

読および、米国が解読したWilliams82のゲノム情報を活用、エンレイゲノムのBAC物理地図の作成(図1)ならびに

高密度連鎖地図の作成(図2)を行ないました。結果としてゲノム上の91%をカバーするBAC物理地図を構築するこ

とができました。これらの情報はDaizuBaseというデータベースで公開をしています。

2.研究成果の概要2.研究成果の概要

とができました。 れらの情報は a u aseと うデ タ スで公開をして ます。

URL:http://daizu.dna.affrc.go.jp

2)次世代型塩基配列解読装置(Next Generation Sequencer)GS‐FLX Titanium(図3)を駆使して、エンレイゲノム

の解読を進めています。この解読装置は1回に5億塩基(500M)の解読が可能であり、精度を高めた塩基配列情

報を得るために、装置を20回稼働し、エンレイゲノムの10倍量のゲノム解読を行ないました。蓄積した塩基配列

データのアセンブル、マッピングを行ない、得られたエンレイゲノムデータを利用することができるようにDaizuBaseへ

のインストールを進めております さらには他品種 特に国産ダイズ品種のゲノム解読もすすめており エンレイとのインストールを進めております。さらには他品種、特に国産ダイズ品種のゲノム解読もすすめており、エンレイと

の比較解析を進めております。

3.成果の活用場面(出口のイメージ)3.成果の活用場面(出口のイメージ)

図1 DaizuBaseのBAC物理地図表示画面 図3 次世代型塩基配列解読装置図2 高密度連鎖地図

(エンレイxPeking)

・国産ダイズ品種であるエンレイのゲノム情報を手にすることにより、国産ダイズを使った育種が進み、我が国での

ダイズゲノム育種研究を一気に加速することが期待できます。

・高密度連鎖地図及びゲノム物理地図情報及びDNAマーカー情報を品種育成に結びつけ、ダイズのゲノム育種手

法を確立し、現在国内で必要とされる耐湿性、病害抵抗性などの形質の早期導入を可能にし、優良系統の育種を

推進します。

ダ ズゲ 情報を す ダ ズ 農業 有 な遺伝 を単離 基礎 究を推進す も 有・ダイズゲノム情報を活用することで、ダイズの農業上有用な遺伝子を単離し、基礎研究を推進するとともに、有用

遺伝子のダイズ育種への応用も進めていきたいと考えています。

課題担当者 片寄 裕一(農業生物資源研究所:[email protected])加賀 秋人(農業生物資源研究所:[email protected])金森 裕之(農業生物資源研究所:[email protected]

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干ばつ等の不良環境に対する耐性を向上した干ばつ等の不良環境に対する耐性を向上したイネ、コムギ品種イネ、コムギ品種の開発の開発

2323

1 解決すべき課題1 解決すべき課題

国連食糧農業機関(FAO、2009年)によると、世界の栄養不足人口が推定10億人

に達し、食料の需給状況はひっ迫すると予想されるため、食料安全保障は国際的に重要な課題であり、特に途上国で問題となっています。このため、乾燥、塩害等の不良環境でも生産がより安定な作物の開発が必要とされています。

1.解決す き課題1.解決す き課題

○ (独)国際農林水産業研究センター(JIRCAS)は、モデル植物であるシロイヌナズナやイネを用いて、環境ストレス耐性に係わる遺伝子群の働きを調節する転写因子の遺伝子(DREB)を同定・単離しました(下図、右上写真)。

2.研究成果の概要2.研究成果の概要

○ DREB遺伝子の他にもストレス耐性機構を制御する遺伝子を複数突き止め、ストレス受

容や応答制御などの解明を行っています。

○ 国際とうもろこし・小麦改良センター(CIMMYT)、国際稲研究所(IRRI)及び国際熱帯農業センター(CIAT)と協力し、これらの遺伝子をコムギやイネの実用品種に導入しています。

○ 導入した遺伝子の効果を評価するため、我が国にない乾燥条件下等で大規模な隔離圃場栽培試験を行っています(右写真)

耐性強化イネ

通常のイネ

大規模な隔離圃場栽培試験を行っています(右写真)。

不良環境(乾燥、塩害、低温)

DREB遺伝子とは?

Dehydration Responsive Element Binding protein遺伝子の略

乾燥、塩害、低温などの劣悪な環境から植物を守るための指令を発する遺伝子

コムギの乾燥耐性評価(CIMMYT隔離圃場)

ストレスから守

ストレスを感じる ストレスを感じる

通常の植物

防衛指令遺伝子(DREB)

の発現量を増やす

防衛指令遺伝子(DREB)

不良環境(乾燥、塩害、低温)

防衛指令遺伝子(DREB) 強力な

DREBを強化した植物

ストレスから守るための指令

しかし・・指令が弱いとストレス耐性が弱い

ストレス耐性遺伝子(100種以上)の働きが強化

ストレス耐性遺伝子が働く

の発現量を増やす

ストレスに対応しようとする

・・・

ストレスに強くなる

・・・

ストレス耐性遺伝子

(DREB) 強力な指令 水稲の乾燥耐性評価(IRRI隔離圃場)

実用性の高いストレス耐性作物を作出し 世界の食料の安定供給に貢献します

3.成果の活用場面(出口のイメージ)3.成果の活用場面(出口のイメージ)

指令が弱いとストレス耐性が弱い

枯れる 枯れない!

雨よけシェルターでの陸稲の評価(CIAT隔離圃場)

実用性の高いストレス耐性作物を作出し、世界の食料の安定供給に貢献します。

課題担当者連絡先

末永 一博(国際農林水産業研究センター:[email protected])松本 隆 (農林水産技術会議事務局:[email protected])近藤 裕樹(農林水産技術会議事務局:[email protected]