特別講義 相対性理論 - 長崎県立大学sun.ac.jp/prof/hnagano/specialrecture.pdf · 1...
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講義内容
特殊相対性理論の解説とその他
1日目
1 A. アインシュタインの紹介
2 ニュートン力学における相対運動(ガリレイ変換)
3 19世紀末期の実験事実
4 特殊相対性理論の原理
5 ローレンツ変換
6 同時刻の相対性(因果関係の崩壊)
2日目
7 動く時計の遅れ(双子のパラドックス)
8 長さの縮小(ローレンツ収縮)
9 質量の増大
10 静止エネルギー(エネルギーと質量の等価原理)
11 その他(空間認識、一般相対性理論、ブラックホール)
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1 アインシュタインの紹介
アルバート・アインシュタイン Albert Einstein
図 1: Yahoo! 画像検索
1879年3月14日 - 1955年4月18日ドイツ-アメリカ1905年 特殊相対性理論1916年 一般相対性理論1921年 ノーベル物理学賞を受賞 (光量子仮説により光電効果を理論的に解明した(1905年)ことに対して)1879年 ドイツのウルム市生まれ1900年 チューリッヒ連邦工科大学を卒業1902年 スイスの特許局に 3級技術専門職として就職
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2 ニュートン力学における相対運動(ガリレイ(Galilei)変換)○ 座標系 原点と座標軸の組 座標系S : O − xyz 座標系S ′ : O′ − x′y′z′
図 2: 座標系 Sと座標系 S’
○ 一つの事件E
S上では E(x, y, z, t), S ′上では E(x′, y′, z′, t′)
今後の設定S と S ′ は、t = 0 のとき重なっている。x方向に速度V で動き出す。あるとき、事件Eが起こる。
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図 3: 相対運動
○ ガリレイ変換E(x, y, z, t) と E(x′, y′, z′, t′) の間には次の関係がある。
図 4: ガリレイ変換
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3 19世紀末期の実験事実○ 光速は有限 c = 299792 km/s
1 1670年頃 ニュートン 無限大2 1676年頃 O.レーマー 214300km/s... ... ...
5 1875年頃 A.コルニュ 299918km/s
6 1926年頃 A.マイケルソン 299798km/s
(p.65[2])
○ 光速はどの慣性系(=座標系)から観測しても同じである!?(←地球の絶対速度はいくらか?)ニュートン力学(古典力学)から演繹される結論は、ガリレイ変換が示す
ように、静止している観測者から見る光の速さと動いている観測者から見
る光の速さは違っているはずだ!
図 5: ガリレイ変換的解釈
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光速はどの慣性系(=座標系)から観測しても同じであるという実験事実は、つぎの事が成り立つことを意味する。S から見た光の波面の方程式
x2 + y2 + z2 = (ct)2
S ′ から見た光の波面の方程式
(x′)2 + (y′)2 + (z′)2 = (ct′)2
○ ローレンツ不変量 座標系S(静止座標)とS ′(動座標)の間に成り立つ関係 (光速不変からの帰結)。それぞれの光波面の内側で観測された事件E がそれぞれの座標系で次のような座標をもった (とする)。S上でE(x, y, z, t) S ′上でE(x′, y′, z′, t′)
このとき、次の関係が成り立つ。
(ct)2 − x2 − y2 − z2 = (ct′)2 − (x′)2 − (y′)2 − (z′)2
(ローレンツ不変量)
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4 特殊相対性理論の原理
○ 相対性原理一般の物理法則はすべての慣性系に対して同じである
○ 光速不変の原理光の伝播はどの慣性系から観測しても同じ一定値を持つ
これらの原理だけでは新たな物理法則 (ローレンツ変換)を導き出すには
不十分。物理学という学問としての価値感 (人間の悟性からの導き)が必要。
図 6: ローレンツ変換の前提
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5 ローレンツ変換要請1 S と S ′ は1次変換2 y′ = y z′ = z
3 O′ の S に対する運動 x = V t
4 O の S ′ に対する運動 x′ = −V t′
S上でE(x, y, z, t) S ′上でE(x′, y′, z′, t′)
このとき、x′ = γ(x− V t) y′ = y z′ = z t′ = µx+
γt β = Vc (γ, µ : 定数) とおけて、ローレンツ不
変量に代入・整理するとローレンツ変換と今日呼ばれる次の関係が得られる。
図 7: ローレンツ変換
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〇 ローレンツ不変量の幾何学的意味
図 8: ローレンツ不変量の幾何学的意味
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図 9: ローレンツ不変量の幾何学的意味
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6 同時刻の相対性(因果関係の崩壊)事件E1と事件E2が座標系Sから見て同時に起こったとする(等しい t)。
E1(x1, y1, z1, t), E2(x2, y2, z2, t)
S ′からこれらの事件を見るとE1(x
′1, y
′1, z
′1, t
′1), E2(x
′2, y
′2, z
′2, t
′2)
E1 のSとS ′における関係
E1
x′1 =
x1 − V t√1− β2
t′1 =t− V
c2x1√
1− β2
y′1 = y1 z′1 = z1
E2 のSとS ′における関係
E2
x′2 =
x2 − V t√1− β2
t′2 =t− V
c2x2√
1− β2
y′2 = y2 z′2 = z2
E1 と E2 の座標系S ′における発生時間 t′1 と t′2 の差
t′2− t′1 =V (x1 − x2)
c2√1− β2
位置が同じでない限り時間差
が生ずることが分かる!
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t′2 − t′1 =V (x1 − x2)
c2√
1− β2
1 t′2 − t′1 = 0 となるときが、座標系S ′ でも事件E1 と E2 が同時に発生したと認識される場合。しかしこの場合は、x1 = x2 のときで、すなわち、E1 = E2 であり、発生した事件は1つである。
2 t′2− t′1 > 0となるときが、座標系S ′ で事件E1
の後に E2 が発生したと認識される場合。一方、S ′と反対方向(−V)に動く座標系S ′′ を考えると、t′′2− t′′1 < 0となり、S ′′ では事件E2 の後に E1
が発生したと認識される。このことは、事件 E1(or E2) を原因としてその結果事件 E2(or E1)が発生したとする因果関係が座標系によって異なることを意味する(因果関係の崩壊)。
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7 動く時計の遅れ(双子のパラドックス)動座標系S ′に対して静止している時計がある(S ′と伴に動いている)。その位置を (x′1, y
′1, z
′1) とする。
位置 (x′1, y′1, z
′1)で2つの事件E1, E2がS ′の時計でそ
れぞれ時刻 t′1, t′2 で起こる。
τ ′ = t′2 − t′1 : S ′における時間間隔E1(x
′1, y
′1, z
′1, t
′1), E2(x
′2, y
′2, z
′2, t
′2)
(ただし、x′1 = x′2, y′1 = y′2, z
′1 = z′2)
静止座標系S における事件E1, E2
E1
x1 =
x′1 + V t′1√1− β2
y1 = y′1 = y′2, z1 = z′1 = z′2
t1 =t′1 +
Vc2x′1√
1− β2
E2
x2 =
x′2 + V t′2√1− β2
y2 = y′2 = y′1, z2 = z′2 = z′1
t2 =t′2 +
Vc2x′2√
1− β2
Sにおける時間間隔 τ
τ = t2 − t1 =t′2 − t′1√1− β2
=τ ′√1− β2
(∵ x′1 = x′2)
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Sにおける時間間隔 と S ′における時間間隔の比較
τ = t2 − t1 =t′2 − t′1√1− β2
=τ ′√1− β2
> τ ′
(∵ 0 <√1− β2 < 1)
∴ τ > τ ′
このことは静止座標系Sから見ると動座標系S ′の時計の方がゆっくり動く!
静止している側から動いている側の時計の針の動きを計測する。動いている側で丁度1秒の動きは、静止している側では、1秒より長く(例えば、2秒)かかったように見える。これを極論すると、地球で生まれた双子が一人はすぐに光速度に近いロケットで宇宙を旅行し、一人はそのまま地球で生活したとする。ロケット内の時間で宇宙旅行を30年して地球に戻ってくると、宇宙旅行をした双子の一人は、年齢30歳だが、地球で生活した双子のもう一方は60歳になっていることを意味する(双子のパラドックス)。
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8 長さの縮小(ローレンツ収縮)
S ′系のx′軸上に1本の棒ABが静止して横になっている。A,Bの座標をx′A, x
′Bとする。
L0 := x′B − x′A
を棒の固有の長さと呼ぶ。S系に静止している観測者からみるとこの棒の長さはどうみえるだろうか?
Sからみた棒の長さL:=Sに対して同時刻に測ったA,B両点の座標の差 L := xB − xA
EA(xA, y, z, tA):S における時刻tAで棒の端Aが観測されるEB(xB, y, z, tB):S における時刻 tBで棒の端Bが観測される (ただし、t = tA = tB)
x′A =xA − V t√1− β2
, x′B =xB − V t√1− β2
∴ L0 = x′B − x′A =xB − xA√1− β2
=L√1− β2
つまり、静止時の長さL0 運動しているときの長さL
L = L0
√1− β2
(運動する物体は縮む)
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9 質量の増大S上にAという観測者、Sに対してx方向にV という速度で動くS ′上にBという観測者がいる。2つのまったく等しい球P,Qがあって、PはS上Oに静止し、QはS ′上O′に静止している。O′がOに一致した瞬間2つの球は、QはS ′のBからみてUの速度でy′方向に、PはAからみて−y方向にUの速度で動き出したとする。このとき、AからQの運動を見ると、Qは速さ √
1− β2U, (β = V/c)
で動いている。ここで、
“運動量(質量×速度)の保存則が成り立つ”
と仮定する。また、質量mについて、
m = f (v) (v :速度)
と仮定する (運動量保存の仮定からの要請である)。すると、y方向の運動量保存則がSに対して成り立つ(という仮定)から、
f (√
(1− β2)U 2 + V 2)√1− β2U = f (U)U
が成り立つ。
∴ f (√
(1− β2)U 2 + V 2)√1− β2 = f (U)
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ここで、U → 0とすると
f (V )√1− β2 = f (0)
となる。今、m0 = f (0)(静止質量)とおくと、
m = f (V ) =m0√1− β2
つまり、静止質量m0 運動しているときの質量m
m =m0√1− β2
(運動する物体の質量は増加する)
例(物体を温めて、持つエネルギーを増加させると、質量が
増加する)
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10 静止エネルギー(質量とエネルギーの等価原理)前節の結果より、静止質量m0の物質が速度V で運動しているときの運動量pは
p = mV =m0V√1− β2
と書ける。ここで、力Fと運動量pには、ニュートン力学と同様の関係
dp
dt= F
が成り立つことを仮定する。そして、力Fがした仕事Wも同様に
dW = Fds (ds :距離の変化量)
と仮定する。すると、以下のような計算が実行できる。
dW = Fds = FV dt = V dp = V d(m0V√1− β2
)
=m0V
(1− β2)3/2dV (β = V/c)
一方
d(m0c
2√1− β2
) =m0V
(1− β2)3/2dV
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∴ dW = d(m0c
2√1− β2
)
つまり
E :=
∫dW =
∫Fds =
m0c2√
1− β2= mc2
として、Eをエネルギーと呼ぶ。すると、V = 0のときは
E = E0 = m0c2
(エネルギーと質量の等価原理)
となり、これを静止エネルギーという。
例
質量 1gの物質がすべてエネルギーに変わると、9 × 1013(J :
ジュール) = 2.14 × 1013(cal : カロリー) のエネルギーを解
放する=2.14× 105(t :トン)の水(浦上貯水池の水量並み)の
温度を 100℃上昇させるエネルギーに相当する。
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11 その他(空間認識、一般相対性理論、ブラックホール)○ 空間認識
4次元時空=3次元 (x, y, z)+1次元 (ct)
この世界の事件Eは、4次元時空の1点E(ct, x, y, z)
としてみる。ここでは、ベクトルOEの長さを
OE =√(ct)2 − x2 − y2 − z2
で測る。上記のような測り方をローレンツ内積といい、上記のローレンツ内積の入ったベクトル空間を(4次元)ミンコフスキー空間という。
○ 一般相対性理論1916年にアインシュタインは、数学者グロスマンの協力を得て、リーマン幾何学(曲がった空間の微分幾何学)を応用して加速度系にも理論を拡張した。それが一般相対性理論。 一般相対性理論では、空間を4次元の滑らかな多様体と考える。滑らかな多様体とは、各点で、4次元ベクトル空間が対応する、座標をもつ集合である。各点での4次元ベクトル空間は接空間と呼ばれ、そこにはローレンツ内積が定められている。つまり、各点で4次元ミンコフスキー空間が対応する滑らか
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な空間である。微分積分(微分幾何学)をフルに使って空間の解析をおこない、空間の曲がり(曲率)を詳しく調べて、その空間を特徴づける。アインシュタインが注目したのは、リッチ曲率と呼ばれるテンソルである。アインシュタインは重力場しか存在しない空間ではリッチテンソルRijが
Rij = 0
を満たすと仮定した。この方程式を重力方程式、これが成り立つことを重力の法則といった。現在では、重力方程式が成り立つ空間をアインシュタイン空間という。Rijを座標を使って書くと4変数x, y, z, tの非線形の偏微分方程式である。この重力方程式を一般に解くことは困難であるが、ある特殊な条件のもとに解いたのが、シュヴァルツシルトである(1916)。その解がブラックホールを予言した。
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参考文献
[1]江沢 洋訳 : “ディラック 一般相対性理論”, 東京図書,1977.
[2]大宮信光著 : “面白いほどよくわかる 相対性理論”, 第8刷, 日本文芸社, 2004.
[3]数理科学社編 : “別冊数理科学 アインシュタイン”, サイエンス社, 1978.
[4]原島 鮮著 : “力学(改訂版)”, 第38版, 裳華房,
1982.
[5]矢野健太郎訳 : “Riemann 幾何とその応用”,現代数学の系譜10, 共立出版, 1971.
[6]その他(ネット上に多数)
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