特別支援教育における情報教育 ·...

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194───第34実践研究助成 研究課題 特別支援教育における情報教育 副題 ~情報モラル教育・授業での活用の視点から~ 学校名 北海道特別支援教育ICT活用PJ 所在地 047-0261 北海道小樽市銭函1-5-1 北海道高等聾学校内 職員数/会員数 77研究代表者 新谷 洋介 ホームページ アドレス http://hokkaido.tokubetsushien.com/ 1.はじめに 特別支援教育に転換し、障害種が多様化している今、各 学校で開発されてきたノウハウを交流する機会が必要であ ると考えられる。北海道での研修会は障害種ごとにそれぞ れの学校で行っており、特別支援学校同士を横断的に対象 とした情報研究グループは現状では存在せず、情報収集が されていない。また、障害者に向けられた詐欺行為や、ネ ットワークの利用に関する危険性も無視ができない。この ことから、本実践研究では北海道において特別支援教育に おける情報教育を交流する場として研究会を立ち上げ実践 を行い、各学校での情報教育や、情報モラル教育などの実 践報告や、教材の共有化、研修会の実施、メーリングリス トの運用などを行ってきた経過について報告する。 2.研究の目的 特別支援学校における授業での活用・情報モラル教育の 両視点からICTを活用したカリキュラムや授業などの事例を 集め、まとめ、発信する。また、障害に配慮した情報モラ ル教材を開発する。同時に、特別支援教育での情報教育の 面で横のつながりを作っていく。 3.研究の方法 ・特別支援教育を中心とした研究組織を立ち上げ、深まっ た成果を既存のグループと交流を図る。 ・研究組織内の特別支援学校を中心に授業実践、カリキュ ラムの作成・教材開発をし、実践・評価を行う。 ・北海道を中心とした特別支援学校から授業実践やカリキ ュラム事例を収集する。 ・まとまった事例・教材を、各研究会で発表するとともに、 インターネット等を活用し、広く公開する。 ・事例検討会を開催し、各校での実践やカリキュラムを交 流する。 4.教育実践 (1)携帯電話に関する情報モラル教育 ①対象と実態 聾学校高等部生徒を対象とした。 授業中の使用を除き、携帯電話の持ち込み、利用を許可 している。また、聾学校生徒にとってインターネット機能 は重要なコミュニケーションツールとなっている。 ②内容 6月12日より、毎週1 テーマずつ、各担任に4 コマ画像付き教材を配布 し、学級に掲示してもら うよう依頼した。掲示ま での流れは次のとおりで ある。 ・担当教員が資料を印刷して配布 ・朝の打ち合わせで資料についての簡単な説明 ・学級への提示 実践研究助成 特別支援学校

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Page 1: 特別支援教育における情報教育 · 特別支援学校における授業での活用・情報モラル教育の 両視点からICTを活用したカリキュラムや授業などの事例を

194───第34回 実践研究助成

研究課題

特別支援教育における情報教育 副題

~情報モラル教育・授業での活用の視点から~

学校名

北海道特別支援教育ICT活用PJ

所在地 〒047-0261

北海道小樽市銭函1-5-1 北海道高等聾学校内

職員数/会員数 77名

研究代表者 新谷 洋介

ホームページ アドレス http://hokkaido.tokubetsushien.com/ 1.はじめに

特別支援教育に転換し、障害種が多様化している今、各

学校で開発されてきたノウハウを交流する機会が必要であ

ると考えられる。北海道での研修会は障害種ごとにそれぞ

れの学校で行っており、特別支援学校同士を横断的に対象

とした情報研究グループは現状では存在せず、情報収集が

されていない。また、障害者に向けられた詐欺行為や、ネ

ットワークの利用に関する危険性も無視ができない。この

ことから、本実践研究では北海道において特別支援教育に

おける情報教育を交流する場として研究会を立ち上げ実践

を行い、各学校での情報教育や、情報モラル教育などの実

践報告や、教材の共有化、研修会の実施、メーリングリス

トの運用などを行ってきた経過について報告する。

2.研究の目的

特別支援学校における授業での活用・情報モラル教育の

両視点からICTを活用したカリキュラムや授業などの事例を

集め、まとめ、発信する。また、障害に配慮した情報モラ

ル教材を開発する。同時に、特別支援教育での情報教育の

面で横のつながりを作っていく。

3.研究の方法

・特別支援教育を中心とした研究組織を立ち上げ、深まっ

た成果を既存のグループと交流を図る。

・研究組織内の特別支援学校を中心に授業実践、カリキュ

ラムの作成・教材開発をし、実践・評価を行う。

・北海道を中心とした特別支援学校から授業実践やカリキ

ュラム事例を収集する。

・まとまった事例・教材を、各研究会で発表するとともに、

インターネット等を活用し、広く公開する。

・事例検討会を開催し、各校での実践やカリキュラムを交

流する。

4.教育実践

(1)携帯電話に関する情報モラル教育

①対象と実態

聾学校高等部生徒を対象とした。

授業中の使用を除き、携帯電話の持ち込み、利用を許可

している。また、聾学校生徒にとってインターネット機能

は重要なコミュニケーションツールとなっている。

②内容

6月12日より、毎週1

テーマずつ、各担任に4

コマ画像付き教材を配布

し、学級に掲示してもら

うよう依頼した。掲示ま

での流れは次のとおりで

ある。

・担当教員が資料を印刷して配布 ・朝の打ち合わせで資料についての簡単な説明 ・学級への提示

実践研究助成

特別支援学校

Page 2: 特別支援教育における情報教育 · 特別支援学校における授業での活用・情報モラル教育の 両視点からICTを活用したカリキュラムや授業などの事例を

第34回 実践研究助成───195

特別支援学校

③生徒の様子と教師の支援

朝の打ち合わせで定期的に情報モラルについて簡単に説

明することで、教員同士での理解の共通化をすることがで

きていると考える。このことを受け、職員室にも資料を掲

示するようにした。

学級への提示では、表1「教材の利用状況」に示すよう

に、9名の担任全員が教室に教材を掲示し、うち8名の教

員がSHR等の時間を使って、生徒に説明を行った。

生徒からは、文章だけだと読もうとする気持ちが起きな

いが、写真による4コマ風の説明があることで、内容を確

認しようと思った。掲示物の説明を好きな時間に読むこと

ができる。掲示した後に、掲示内容の相談が来ることもあ

った。様々な種類があるため、生徒の間で問題がある際に

似たような題材を掲示することができた。説明を真剣に聞

くことや、自分のことと照らし合わせ質問する生徒もいた。

掲示された内容により、自分のコンテンツを変更する生徒

も出てきた。

表1「教材の利用状況調査」(N=9)

学級へ掲示のみしている 1

掲示とSHR等での説明をしている 8

掲示していない 0

④考察

昨年からの取り組みにより本校教員の意識が高まり全ク

ラスで情報モラル教育が行われるようになりつつあること

は大きな前進であると考えている。また、寄宿舎や保護者

と一緒に学んでいく方向性が出てきたことも成果だと考え

る。

(2)知的障害養護学校義務校における情報モラルの

必要性

①対象と実態

総合的な学習の時間における余暇活動(パソコンクラブ生

徒)を対象とした。

・ゲーム機の終了とパソコンの終了が同じと思っている生

徒が複数いる。

・指導を受け入れられず、不適応な行動が見られる。

・長いURLを入力することが難しく、どこでも考えずにア

クセスする。

・コンピュータの先には、良い人や悪い人がいる認識を持

つことが難しい。

②内容

・コンピュータの先に

は、良い人と悪い人

がいることを知る。

・やってはいけないこ

とを知る。

・わからないときには、

指導者を呼ぶことを

身に付ける。

③授業の流れ

・Webカメラを用いたビデオチャットを用い、パソコン上

で表示された教師と会話ができる環境設定を行う。

・費用がかかるところには接続しないように、4コマコン

テンツの説明を見せ、視聴可能なマークのみをクリック

するように促す。

④生徒の様子(変容)と教師の支援

・ビデオチャットを用いたことにより、パソコンの向こう

には人がいることが実感・認識するようになり、良い人

や悪い人がいることがわかるようになった。

・4コマコンテンツを提示し、利用するには決まりを守る

必要があることや約束事を守って活動することにより、

自由に楽しめることを理解した。

・指導を受け入れられないと表現する生徒にとっても、パ

ソコンが介在するビデオチャットによる指導の効果が見

られた。

⑤考察

・知的障害の生徒の情報モラルとは、自分の身を守ること

や他人に迷惑をかけないことであり、指導の必要性を再

認識した。

(3)知的高等養護学校における、効果的な動画の見

せ方について

①対象

高等養護学校に在籍する3年生の生徒38名を対象とした。

生徒の実態は知的発達の遅れが軽度~中度であり、実態

も幅広い。

②テーマ

体育大会など、行事のオリエンテーションなどの学習場

面で、昨年度のビデオなどを手作りで編集して生徒に見せ

る。授業のねらいは、行事の理解、内容の理解、主体的に

参加する態度、の3点である。特に行事、内容への苦手意

識をもつ生徒に興味関心、意欲をもってもらうには、昨年

度の映像を流すだけではプラスの気持ちが生まれてこない

のが課題である。

③教材作りの手法

映画のプロモーションビデオの手法を利用し、使いたい

音楽の一部分を先に動画編集ソフトに組み込み、動画では

なく、デジタルカメラの写真を静止画としてコマ割りし、

スライドショーのように見せた。体育大会の際には曲の小

節、拍数に合わせて写

真を切り替えた。静止

画の下にはテロップを

つけ、「なかまがい

る」「おうえんのちか

らを」などメッセージ

を含め、自分たちが映

画の主人公になるよう

に仕立てた。

④生徒の様子(変容)と教師の支援

実際に映像を提示した結果、生徒たちの関心を高く引き

Page 3: 特別支援教育における情報教育 · 特別支援学校における授業での活用・情報モラル教育の 両視点からICTを活用したカリキュラムや授業などの事例を

196───第34回 実践研究助成

出すことができた。運動が好きで、積極的な生徒たちの感

想も発表させながら、普段は「運動が好きではない」と友

だちや教師に言っている生徒も、教師が「○○さんも去年

良い顔して取り組んでいたね」と映像の様子に触れると、

「勝ちたい、優勝したい」など肯定的な発言をするなど、

行事への期待感を示す発言を引き出すことができた。

⑤考察

視聴覚教材は情報の伝達面で大きな利点を持つが、教師

がねらいを明確にすることで生徒のどの力を引き出すかが

決定される。情報を盛り込みすぎず、ねらいに即したシン

プルな教材作りの視点をもつことが重要であると考える。

(4)視覚障害を持つ児童とパソコン

①対象と実態

点字生(全盲)と墨字生(弱視)が対象。点字生はホー

ムポジションを基点としたフルキー操作の可能な児童と6

点カナ打ちのみ可能な児童。墨字生はユーザー補助でディ

スプレイ表示を見やすい大きさに拡大し、キー操作はひら

がな打ち漢字変換のみ可能な児童。点字生はマウスを使用

しない。

②内容

部活等の時間にインターネットでWebページの閲覧や点

訳ボランティアの方にお礼のメールをする。

③授業の流れ

各自課題に取り組み、質問がある場合や支援が必要な場

合は教師を呼ぶ。教師は机間巡視を行い個々の児童に適し

た指導を行う。

④児童の様子(変容)と教師の支援

フルキー操作が可能な墨字生はピンディスプレイと音声

読み上げソフトの併用で聞き間違いが無くなり、ピンディ

スプレイで内容をじっくり読むことで文章の内容の理解を

深めることができるようになった。6点カナ打ちの点字生

は自分で打ったメールを音声読み上げソフトで確かめるこ

とで打ち間違いや内容の確認ができ、先方に失礼のないメ

ールを打つことができるようになった。墨字生はアイコン

などが大きく表示されるようになり、誤った箇所でのクリ

ックが減少した。

⑤考察

初期の段階で教師がパソコンを個々の児童に適した使用

のしやすさにカスタマイズしておかなければならないが、

周辺機器の充実やアプリケーションソフトのインストール、

設定の変更をすることで視覚に障害のある児童もパソコン

を自分で操作することが可能になる。校内でのフィルタリ

ングの保護のもと以外でインターネットなどを行う場合は

ディスプレイに表示されている内容を正しく理解したり押

し間違いをしたりしないことが重要になってくるため、こ

れらのことを学習して身につけておくことが必要であろう。

5.北海道特別支援教育ICT活用PJの活動

(1)研修会、事例報告

次のように研修会と事例報告を開催した。

・1月15日 テーマ「動

画を使った教材作り」

参加者53名(スタッフ

含む)

・3月28日 テーマ「特

別支援教育における

ICT活用と情報モラル

教育」参加者20名(ス

タッフ含む)

(2)メーリングリスト

9月16日よりメーリングリストを運用し、3月現在約80

名の会員となった。情報教育の交流や、他の団体などで主

催する研究会の案内などの情報を得られる場として運用さ

れてきている。

(3)Webによる情報発信

7月2日にWebページを公開し、3月現在約2,800件のア

クセス数があった。掲示型

情報モラル教材の公開や、

障害ごとのICTを活用した

実践事例が約20件登録され、

情報発信をしている。また、

実施した研修会の資料を会

員限定であるが配布する場

としても活用されている。

6.研究の成果と今後の課題

本助成を頂き、北海道内に特別支援教育における情報教

育の研究会を設立できた意義は大きいと考える。発足当時

は5名であったメンバーが、約80人からの賛同を得られ、

活動できるようになったこと、交流の場として研修会を2

回も開催できたこと、教材や、実践、資料を公開できたこ

とは1つの成果だと考える。課題としては、実践事例など

の資料はまだまだ十分といえない。今後は、今年度の活動

を基盤としコンテンツの充実を図り、子どもに還元できる

ような活動を続けていきたい。尚、次のURLにて本PJ活動

を実施している。http://hokkaido.tokubetsushien.com/