環境保全型農業と自然再生 - maff.go.jp...rachel carson 原著(1962)，訳書（2001）...
TRANSCRIPT
講演内容
背景
農地の自然再生
水田生態系の環境劣化要因
自然再生手法としての環境保全型農業
事例紹介：佐渡
I. 生物共生農法への取り組み効果
II. 生物共生栽培米に対する消費者評価
2
自然再生とは
自然再生 Ecological restoration
過去のいつかの時点に存在した、劣化・損傷した、または
破壊された種と生態系を再生する行為(www.ser.org)
写真：Primack (2014), http://www.usbr.gov/
河川
湿原
湖沼 森林
3
農地の自然再生に関わる重要概念
棲み分け 共生 中間
集約農業 生物共生農業 伝統農業
中間型
Fischer et al (2008), Front Ecol Environ
棲み分け (Land sparing) vs. 共生 (Land sharing)
4
植物 ハチ 直翅目 （バッタ等）
クモ 鳥
植物 クモ 鳥 ハチ
スペイン
スイス
ドイツ
イギリス
オランダ
• 効果は国によって異なる • 動物の多様性向上には，
生息場所の構造に配慮した取組みも必要
Kleijn et al (2006), Ecol Lett
直翅目 （バッタ）
ＥＵにおける生物共生農法の取組み効果
5
ヨーロッパと日本における農地面積率
EU 28 日本
面積
（万ha）
比率
（％）
面積
（万ha）
比率
（％）
国土全体 43,860 100.0 3,780 100.0
農用地 18,788 42.8 456 12.1
(水田6.5)
耕地 10,835 24.7 425 11.2
永年作物地 1,195 2.7 31 0.8
永年採草・放牧地 6,758 15.4 - -
http://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kaigai_nogyo/k_gaikyo/eu.html
資料：FAO統計 ※クロアチア分も含む。
農地の状況（2011年）
湿地環境の再生 陸域環境の再生 6
日本の湿原面積の減少率
呉地（2007），地球環境
1886-2000年の間に1,290km2 喪失
7
農地の多面的機能と経済価値
日本の国土の12%が農地 (水田6.5% ；247万ha)
機能の種類 評価額
玄米販売量（H24） 2兆286億円/年
洪水防止 3兆4988億円／年
河川流況安定 1兆4633億円／年
地下水涵養 537億円／年
土壌侵食（流出）防止 3318億円／年
土砂崩壊防止 4782億円／年
有機性廃棄物処理 123億円／年
気候緩和 87億円／年
保健休養・やすらぎ 2兆3758億円／年
生物多様性保全 ？
図表：内閣府一部改変 http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/special/vision/life/06/item1_2.pdf 玄米販売量：政府統計の総合窓口HP http://www.e-stat.go.jp
8
代替湿地としての水田、ため池
ラムサール条約登録湿地
宮城県株栗沼・周辺水田
石川県片野鴨池・周辺水田 呉地（2007）
天然湿原と異なる生物相，
絶滅危惧種の避難場所
動物プランクトン：Leon et al. (2010)
水生植物，トンボ類：Takamura (2012)
魚類：Casas et al. (2011)
撮影：西澤誠弘
9
水田の絶滅危惧種
写真 古谷愛子
トウキョウダルマガエル Rana porosa porosa NT
モートンイトトンボ Mortonagrion selenion
NT
ヒメシロアサザ Nymphoides coreana
VU
NT マガン Anser albifrons frontalis
10
水田生態系の環境劣化要因
農業の集約化
農薬・化学肥料の過剰使用
大型機械の導入
圃場の管理法の変化
圃場整備
手入れ不足
耕作放棄地・管理放棄地の増加
在来種の減少
外来種の侵入 K. Nakai 11
200
250
300
350
1956 1960 1964 1968 1972 1976 1980 1984 1988 1992 1996 2000 2004 2008 2012
国内の水稲耕作面積と耕作放棄地
万 ha
a) 水田の耕作面積
0
10
20
30
40
50
1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010
b) 耕作放棄面積
万 ha
年
1969～2012年 耕作面積28%減
(米の収穫量 50%減)
1975～2010年 耕作放棄面積×3
データ：農林業センサス http://www.e-stat.go.jp/
12
1) 慣行栽培（集約農法） 月
月
水深
(cm
)
2) 従来農法
集約農法の普及と栽培法の変化
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
0
5
田植え 中干し 間断灌水 収穫 耕起 代掻き
10
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
0
5
田植え 収穫 耕起 代掻き
10
水深
(cm
) 農薬・化学肥料使用
農薬・化学肥料不使用（有機肥料使用）
13
集約農法の普及に伴う農薬の生態影響
有機塩素、有機リン系殺虫剤
（ＤＤＴ，パラチオン） “Silent Spring”
Rachel Carson
原著(1962)，訳書（2001）
ネオニコチノイド系殺虫剤
（スタークル，ダントツ） “Fruitless Fall”
Rowan Jacobson
原著（2008），訳書（2009）
14
集約農法の普及に伴う中干しの生態影響
慣行栽培田 （中干し実施）
有機栽培田 （中干し不実施）
15
Yan et al (2009), Global Biogeochem Cycles
水田がもたらす地球環境の劣化：メタン放出
16
農地の自然再生
自然生態系
劣化した生物多様性・生態系の再生
農地
劣化した生物多様性・生態系の再生
衰退した地域社会経済の再生
17
1. 生物共生農法
• 農薬・化学肥料の低減、削減
• 水管理（冬期湛水、早期湛水等）
• 生息場所創出（江、ビオトープ設置等）
2. 人間に配慮した農法
• 直播農法
• 水田養魚（稲田養鯉、魚のゆりかご米）
3. 災害緩和農法
• 田んぼダム
• 温室効果ガス放出緩和農法
• 水質汚染緩和農法
国内の主な環境配慮型農法
Usio et al (2015), “Social-ecological restoration in paddy-dominated landscapes”
18
『農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律』 （平成26年6月20日公布、平成27年4月1日より施行）
日本型直接支払制度
多面的機能直接支払
− 農地維持支払 (創設)
− 資源向上支払 (旧 農地・水保全管理支払)
中山間地域等直接支払
環境保全型農業直接支援
農業の多面的機能発揮への支援対策
農林水産省HP http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/kakyou_chokubarai/mainp.html
700
750
800
850
900
950
平成23年度 平成24年度 平成25年度
実施市町村数
0
10,000
20,000
30,000
40,000
50,000
60,000
平成23年度 平成24年度 平成25年度
実施面積（ha）
水稲 68%
麦・豆類 10%
いも･野菜
類 9%
果樹･茶 3%
花き・その
他 10%
51,114 41,439
17,009
918 885
773
ha
19
0
500
1,000
1,500
2,000
2,500
3,000
0
3,000
6,000
9,000
12,000
15,000
18,000
環境保全型農業直接支援の取組状況(H25)
農林水産省HP http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/kakyou_chokubarai/mainp.html
全国
北陸4県 (新潟、富山、石川、福井)
ha
20
事例紹介：佐渡
Ⅰ．生物共生農法への取り組み効果
21
生きものマークに基づく環境保全型農林水産業実施地
全42地域(稲作22地域)
佐渡市「朱鷺と暮らす郷づくり」認証米制度
再導入種（トキ）を象徴種とした、農地の
生物多様性再生の取組み
農林水産省大臣官房環境バイオマス政策課（2010），“生きものガイドブック”
水田農業、畑作農業 林業 水産業
22
主な必須事項 佐渡で栽培されたお米 エコファーマーの認定を受けた生産者 農薬・化学肥料を5割以上低減（2013年産米からJA出荷米標準）
生きものを育む農法により栽培（いずれか）
6月と8月に生きもの調査を実施（2010年から必須；¥4,000/経営体）
江 (¥3,000/10a) 冬期湛水 (¥2,000/10a)
「朱鷺と暮らす郷づくり」認証米制度
魚道 (¥4,000/1基) ビオトープ (¥0/10a)
※補助金単価は2013年度 に基づく
23
特別栽培米の県認証基準
節減対象農薬使用回数 （成分回数）
化学肥料使用量 （窒素成分kg/10a）
慣行栽培 基準（回）
県認証 基準（回以下）
慣行栽培 基準（回）
県認証 基準（回以下）
佐渡地域 18 (耕起前除草剤2成分含む)
9 6 3
佐渡の代表的な減減栽培
3割減減栽培（2012年度まで）
5割減減栽培－上記特別栽培基準
8割減減栽培－除草剤のみ
無無栽培 －農薬・化学肥料なし（食酢，有機肥料使用）
新潟県HP http://www.niigata-ninshou.jp/nousan/nousanlist.html
24
認証水田
非認証水田
認証米栽培の取り組み
佐渡：主食用水稲作付 5,485 ha
特別栽培米(JA出荷米) 100%
認証米栽培面積(2013年度) 24%
農家の取り組みインセンティブ
収入増加
生物多様性向上 データ：佐渡市提供
5 km
年度 認証農家数 取組面積
2008 256人 426ha
2009 510人 862ha
2010 651人 1,188ha
2011 685人 1,307ha
2012 684人 1,367ha
2013 622人 1,334ha
25
生きものを育む農法の取り組み
冬期湛水、江の設置の取り組み面積大 ha
データ：佐渡市提供
年度
0
200
400
600
800
1000
2008 2009 2010 2011 2012 2013
冬期湛水
江
魚道
ビオトープ
26
Ⅱ. 推進費ﾌﾟﾛｼﾞｪｸﾄ (2007-2009)
九大，東大，新潟大
トキを象徴種とした里山の環境再生
目標 • 2015年までに 60羽定着
I. 環境省再導入事業 (2008-)
Ⅲ. 自然再生学講座 (2011-2013)
代表：西川潮 新潟大，金沢大， 甲南大，筑波大， 国環研
目標： • 水田の生物多様性再生 • 地域社会経済の活性化 • 支援社会の構築
27
目的
• 現行の生物共生農法の取り組み効果を明らかにする。
• 新たな生物共生農法を検討する。
水田の生物多様性 農業者 消費者
28
野外調査
2012年夏
16 水田
江
2011年夏
18 水田
減農薬
冬水
5割減減+江なし（非認証）
5割減減+江あり
8割減減 + 冬水
5割減減 + 冬水
無無 + 冬水
5割減減 + 冬水なし（非認証）
平野
平野 中山間
29
生物多様性指標
畦植物 水生植物 畦クモ
稲株クモ 動物プランクトン 底生動物
30
-4
-2
0
2
4
6
8
10 無農薬+冬水
-4
-2
0
2
4
6
8
10 ８割減+冬水
-4
-2
0
2
4
6
8
10 冬水
** *
*
分類群多様度
*
**P < 0.01 * P < 0.05
† P < 0.10
畦植物
水生植物
クモ (
畦)
クモ (
稲株）
動物プランクトン
底生動物
† †
-4
-2
0
2
4
6
8
10 江（平野）
-4
-2
0
2
4
6
8
10 江（中山間）
*
*
†
*
畦植物
水生植物
クモ (
畦)
クモ (稲株）
動物プランクトン
底生動物
畦植物
水生植物
クモ (
畦)
クモ (
稲株）
動物プランクトン
底生動物
畦植物
水生植物
クモ (
畦)
クモ (
稲株）
動物プランクトン
底生動物
畦植物
水生植物
クモ (
畦)
クモ (
稲株）
動物プランクトン
底生動物
31
-100
-50
0
50
100
150 無農薬+冬水 +6 ，-4分類群 6月 7月
-100
-50
0
50
100
150 ８割減+冬水 +5 ，-1分類群 6月 7月
-100
-50
0
50
100
150 冬水 +3 ，-3分類群
6月 7月
底生動物個体数(45-60群)
-100
-50
0
50
100
150 江（中山間） +1 , - 4分類群 5月 6月
*
* * *
* * * †
*
* *
* * * * * * † †
* *
* *
* *
*
*
* *
* *
* * * *
**P < 0.01 * P < 0.05
† P < 0.10
-100
-50
0
50
100
150 江（平野） +5分類群 5月 6月
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rosu
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センチュウ綱
腹足綱
二枚貝綱
イトミミズ目
ヒル綱
トンボ目
ハエ目
カメムシ目
コウチュウ目
-400.5 -135.1
-135.4
-131.4
-266.5 -354.5
/-3042.5 -109.8 -143.3
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センチュウ綱
腹足綱
二枚貝綱
イトミミズ目
ヒル綱
トンボ目
ハエ目
カメムシ目
コウチュウ目
32
-10
0
10
20
30
40
50
+2分類群 6月 7月
-10
0
10
20
30
40
50 ８割減+冬水 6月 7月
-10
0
10
20
30
40
50 冬水 6月 7月
クモ個体数-畦(2-13群)
*
†
*
† † † †
**P < 0.01 * P < 0.05
† P < 0.10
-10
0
10
20
30
40
50 江（平野） 5月 6月
† †
-10
0
10
20
30
40
50 江（中山間） 5月 6月
* *
† * †
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アゴブトグモ属
カニグモ属
ハシリグモ属
ミズコモリグモ属
カイゾクコモリグモ属
オオアシコモリグモ属
アカムネグモ属
-1分類群 +2分類群
無農薬+冬水
Pa
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アゴブトグモ属
カニグモ属
ハシリグモ属
ミズコモリグモ属
カイゾクコモリグモ属
オオアシコモリグモ属
アカムネグモ属
33
-5
0
5
10
江（平野） 8月 9月
-5
0
5
10
江（中山間） 8月 9月
アシナガグモ科
カニグモ科
キシダグモ科
コガネグモ科
Tetr
agn
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p.
Xysticu
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p.
26.8 23.0
-11.8 *
†
クモ個体数–稲株(2-15群)
**P < 0.01 * P < 0.05
† P < 0.10
- 1分類群
-5
0
5
10 無農薬+冬水 9月
-5
0
5
10 ８割減+冬水 9月
-5
0
5
10 冬水 9月
*
アシナガグモ科
カニグモ科
キシダグモ科
コガネグモ科
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ヒメグモ科
Ch
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ta
エビグモ科
Philo
dro
mus s
p.
+1分類群
34
アンケート調査
35
調査期間：2011年８月から10月
調査対象：JA出荷全農家5010戸
回収数：2231戸（回収率：44.5%）
0.1% 0.9%
6.9%
21.5%
37.2%
25.7%
7.0%
0.2%
30代 20代 90代
40代
50代
60代
70代
80代
平均
65歳
男性 2028, 女性 193
認証農家 589, 非認証農家 1642
柘植隆宏 (甲南大・経済)
各農法の難しさ
難しい
0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
3.5
易しい
36
費用対効果
分類群多様度
底生動物 個体数
クモ (畦) 個体数
クモ (稲株) 個体数
-315.7 -1159.4
-202468
1012
-100
-50
0
50
100
-10
0
10
20
-1
0
1
2
3
37
生物共生栽培米の品質
74.0
74.5
75.0
75.5
76.0
76.5
77.0
非認証 5割減 8割減 無無 自然 5.0
5.2
5.4
5.6
5.8
6.0
6.2
6.4
非認証 5割減 8割減 無無 自然
15.0
16.0
17.0
18.0
19.0
20.0
非認証 5割減 8割減 無無 自然
8.0
10.0
12.0
14.0
16.0
非認証 5割減 8割減 無無 自然
a) 品質評価値 b) 精米タンパク含量
c) アミロース含量 d) グルコース含量 % %
% %
軟らかく 粘りがある
硬く 粘りがない
(4) (1) (1) (3) (1) (4) (1) (1) (3) (1)
甘みが ある
大坪（2014）「トキを象徴種とした里地の社会生態システムの再生」に基づき作図
38
ため池
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
6.5
ｍ
10.0ｍ
冬水・早水有＋中干し無
冬水・早水有＋中干し有
冬水・早水無＋中干し無
冬水・早水無＋中干し有
【目的】冬期湛水・早期湛水の取組みと中干し有無が水田の 生物多様性に与える影響を明らかにする
新たな生物共生農法の検討－操作実験
冬水・早水 （一般的な冬水）
非冬水・早水 （佐渡式冬水）
中干し実施 中干し不実施
39
捕食者への影響
中干し中止、アシナガグモの生息個体数が増加
中干し*
早期湛水、ヤマアカガエルの卵塊数が増加
冬水早水無，中干し無
冬水早水無，中干し有
冬水早水有，中干し無
冬水早水有，中干し有
平均個体数／水田
冬期・早期湛水
卵塊数／水田
2012 2013
アシナガグモ科
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I．要点
無無栽培は取組負担が大きいが、様々な生物の分類群数や個体数向上の面において費用対効果が高い。
江の設置は取組負担が小さく、底生動物の多様性を向上させるうえで効果的。
各農法に対して生物の反応が異なるため、農地の生物多様性を向上させるためには、生物共生農法の多様性を維持・向上させるべきである。
生物共生栽培米は高品質・良食味の安全・安心米として、高付加価値化やブランド化の推進が期待できる。
41
事例紹介：佐渡
Ⅱ．生物共生栽培米に対する消費者評価
42
0
1000
2000
3000
新潟コシヒカリ 朱鷺と暮らす郷
生態系サービスへの支払い Payment for ecosystem services
(PES)
¥2,293
¥2,850
（認証米） （慣行栽培米）
農林水産省(2014) 「米に関するマンスリーレポート」, 朱鷺米の価格はイトーヨーカドーの販売価格
yen / 5 kg
生態系サービスへの支払い (PES)
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目的
• 生物共生栽培米を選好する消費者の特性を明らかにし、認証米購買を促進させるために必要な取り組みを検討する。
氏家清和 (筑波大)
水田の生物多様性 農業者 消費者
44
選択実験
対象：20-60代の主婦 2631人
45
一般層（52.3%） 全消費者の50％が該当（Base）。
食味・生態系重視層（30%）
まず食味で購入可否を判断。減減特性、圃場の生物量についても重視している。全消費者の30％が該当。
減減無関心層（9.3%）
減農薬・減化学肥料に対する評価が他層より低い。全消費者の9％が該当。
新潟米ロイヤル層（8.3%）
新潟米に対する評価が高く、ほぼ新潟米のみ選択。圃場の生物量への関心も比較的高い。全消費者の約8％が該当。
4タイプの消費者層
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• 最も認知度が高いコメはトキひかり。コウノトリ関連のコメが続く。
• 朱鷺と暮らす郷米の認知度は必ずしも高くない。しかし、購入者/認知者比率が比較的高く、認知が購入につながりやすいと解釈できる。
購入したことがある（A）
購入したことはないが知っている（B）
知らない 購入者（A）/認知者（A+B）
フクロウ米（栃木県） 0.19% 1.67% 98.1% 10.2%
トキひかり（新潟県） 0.99% 8.78% 90.2% 10.1%
ハッチョウトンボ米（新潟県） 0.27% 1.44% 98.3% 15.6%
朱鷺と暮らす郷米（新潟県） 1.10% 3.00% 95.9% 26.9% 雁音米（宮城県） 0.38% 1.98% 97.6% 16.1% めだかのお米（山形県） 0.38% 2.40% 97.2% 13.7%
コウノトリ育むお米（兵庫県） 0.95% 7.19% 91.9% 11.7%
コウノトリの舞（兵庫県） 0.68% 7.49% 91.8% 8.4%
生物共生型栽培米の認知度
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• 食味・生態系重視層において、購入者/認知者比率が4割強とかな
り高い。
• 食味・生態系重視層については、特に認知が購入につながりやす
い可能性が強い。
新潟産米ロイヤル層
食味・生態系重視層
減減無関心層
一般層 総計
購入したことがある（A） 0.7% 1.6% 0.5% 1.1% 1.1% 購入したことはないが知っている（B）
3.4% 2.3% 2.7% 3.4% 3.0%
知らない 95.9% 96.2% 96.7% 95.4% 95.9%
購入者（A）/認知者（A+B） 16.7% 40.9% 16.7% 25.0% 26.9%
消費者層別のトキ認証米認知度
48
• 全購入数量のうち、スーパーマーケットが4割、それに生協、イン
ターネットショップ、直接購入が続く。
• 消費者層間で顕著な差異はないが、食味・生態系重視層について
はインターネットショップでの購入が比較的多い。
新潟産米ロイヤル
層
食味・生態系重視
層
減減無関心層
一般層 全体
スーパーマーケット 51.0% 42.2% 42.8% 41.2% 42.6% ドラッグストア 5.6% 4.3% 6.1% 5.2% 6.2% ディスカウントストア 4.7% 4.1% 4.1% 4.4% 4.9% 生協 15.4% 13.2% 12.3% 14.9% 13.4% 米穀専門店 5.1% 5.1% 8.9% 8.0% 6.8%
生産者から直接購入 7.3% 12.9% 11.7% 11.6% 11.6%
産地直売所 0.6% 2.8% 5.5% 1.5% 1.9%
インターネットショップ 10.4% 15.5% 8.7% 13.2% 12.6%
各消費者層の利用販路（推定購入重量シェア）
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調査方法
• 消費者に選択問題を10回考えてもらう。
• 新潟県産コシヒカリと朱鷺と暮らす郷米のどちらを購入するか。
• 消費者が朱鷺と暮らす郷米に追加的に払ってもよい価格差（WTP）を測定
• 回答者を2群に分け、（１）現行の簡単な情報と（２）詳細な情報を提供し、回答の差異を見る。
50
• 朱鷺と暮らす郷米に対するWTPが比較的高い。
• 佐渡米に対しては、価格差がなければ、「新潟県産」と表示されているコメを買うとの消費者が40%以上存在している。
• 佐渡米に関しては、消費者の認知が極めて低いとみられる。 0% 10% 20% 30% 40% 50%
0円でも買わない
0円
60円
120円
180円
240円
300円
360円
420円
480円
540円以上
新潟
県産
米と
の価
格差
（W
TP
）
佐渡産米 朱鷺と暮らす郷米
佐渡米・認証米に対する支払意志額の分布 (現行の情報)
51
• 現行の情報のもとでは、新潟産米ロイヤル層、食味・生態系重視層の支払意志額が高い。特に食味・生態系重視層については、一般層よりも有意にWTPが高い。
• 一般層において、詳細情報の提供により支払意志額が有意に高くなっている。
¥183
¥180
¥154
¥144
¥0 ¥50 ¥100 ¥150 ¥200 ¥250
新潟産米ロイヤル層
食味・生態系重視層
減減無関心層
一般層 推定値 s.d. p値 現行情報でのWTP
新潟産米ロイヤル層 182.8 29.6 0.000
食味・生態系重視層 180.3 14.8 0.000
減減無関心層 153.8 28.2 0.000 一般層 143.5 10.5 0.000 詳細情報の提供によるWTP増加分 新潟産米ロイヤル層 26.4 41.3 0.522 食味・生態系重視層 -1.2 21.0 0.954 減減無関心層 23.5 37.6 0.531
一般層 50.5 14.9 0.001
消費者層別 認証米への評価と情報の影響 （WTP関数推定結果①）
52
佐渡市でとれる「朱鷺と暮らす郷」米 人とトキが共生する島づくり 佐渡市では、トキの野生復帰を実現するために、トキと共生できる農業の実現を目指しています。 環境に特に配慮して作られたコメについては、「朱鷺と暮らす郷」米として認証しています。 朱鷺と暮らす郷米と生きものをはぐくむ農法 「朱鷺と暮らす郷」米は、農薬・化学肥料の使用を通常の半分以下に抑えるとともに、トキのえさとなる生き物が暮らしやすい水田環境を作り出すよう、冬でも田んぼに水を張ったり、魚の通り道をつくったりなどの工夫をした田んぼで作られています。 このような工夫をした農法は生きものをはぐくむ農法と呼ばれています。
評価の高い情報
農薬・化学肥料の削減の取り組み 佐渡市では、現在、生物多様性を増進するため、全島の99％の水田で一般的な農法と比較して農薬・化学肥料を3割以上削減しています。さらに平成24年には、すべての水田で5割以上削減することを予定しています。 販売金額からの寄付 トキ保護基金には、「朱鷺と暮らす郷米」1kgあたり約2円寄付されています。 このお金はトキの営巣地となる里山の保全や餌場の整備に利用されています。 農家の手間 生きものをはぐくむ農法では、一般的な農法と比較して、農作業時間が1.2～1.6倍増加します。 生物多様性に与える効果 生きものをはぐくむ農法では、一般的な田んぼと比較して、田んぼにすむ生物が多様になるうえ、生息数も増加します。 ＜具体的な効果＞ ・田んぼに生息する生きものの種類数が1.4倍に増加します。 ・イトミミズの生息個体数が200倍に増加します。 ・水田に生息する生きものの量が3倍に増加します。 ・一般的な農法ではほとんど見られない魚類が見られるようになります。
1.9%
25.6%
5.6%
19.5%
9.7%
3.7%
12.3%
6.9%
6.2%
現行の情報
詳細な情報
53
• 食べた経験や関係者からの情報が参考にされる。
• 店頭POPや商品パッケージが重要な情報媒体となっている。
良く参考にする
やや参考にする
ほとんど参考にしない
全く参考にしない
以前食べた経験 42.2% 40.5% 9.9% 7.4%
友人や知人、親戚、家族からの情報 16.0% 38.2% 26.3% 19.5%
インターネットでの口コミ 4.6% 16.1% 33.1% 46.2%
新聞・雑誌・書籍 1.3% 11.9% 37.4% 49.5%
テレビ番組 1.2% 15.1% 36.4% 47.2%
メーカー・販売店・生産者等のホームページ 3.1% 18.0% 34.4% 44.6%
広告・チラシ・テレビCM 4.7% 21.9% 33.1% 40.2%
店頭POP 9.5% 37.8% 24.3% 28.4%
商品パッケージ 9.4% 37.9% 25.8% 26.9%
コメ購入時に参考にされる情報経路
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朱鷺認証米の認知度は低いが、認知が購入につながりやすい。
なかでも食味・生態系重視層は認証米の有望なターゲット層。
食味・生態系重視層は、生産者直販やインターネットショップでの購入が比較的多い。
情報の提供法としては、パッケージへの印刷・店頭POPが効果的。小売店等での積極的な広報を進める→認知が購入につながる可能性が高い。
II．要点
55
X農園 5割減減 系統出荷
5割減減 直販
8割減無 直販
無無 直販
慣行
（比較対象）
肥料費 8,714 8,714 11,390 11,390 7,231
薬剤費 7,164 7,164 2,943 0 11,814
労働費 21,385 21,385 21,239 27,295 21,460
うち家族労働費 20,993 20,993 20,850 26,795 21,067
支払利子・地代算入生産費 102,122 102,122 100,430 103,543 105,363
全算入生産費 116,498 116,498 114,806 117,919 119,739
収量 420 420 360 300 531.7
販売単価 16,059 17,820 34,200 36,000 15,319
粗収益 112,413 124,740 205,200 180,000 135,752
農業所得 31,284 43,611 125,620 103,252 51,456
家族労働報酬 16,908 29,235 111,244 88,876 37,080
利潤 -4,085 8,242 90,394 62,081 16,013
労働時間 13.92 13.92 13.83 17.77 13.97
労働時間当たり農業所得 2,247 3,133 9,083 5,810 3,683
• 5割減減では収益低下 • 育む農法に対する助成によっても、収益低下分に対する補償は困難 • 8割減無、無無では直販価格（最終消費者向け）が高く、収益性向上 • 無無では労働時間（除草作業時間）が増大
生物共生農業の収益性(試算)
桑原（2014）「トキを象徴種とした里地の社会生態システムの再生」
桑原考史(日本獣医生命科学大)
56
50 100 150 2000.0
0.5
1.0
1.5
0 50 100 150 200
0.0
0.5
1.0
1.5
0時間
生物の個体数
環境保全型農家
認証米の消費者
環境保全型農業の効果を消費者に伝える事が重要
保全努力: 開始 終了
時間
保全努力: 開始 終了
生物の個体数
環境保全型農家
認証米の消費者
生物の個体数の増加により認証米の魅力が高まると….
魅力が増加
理論研究
横溝（2014）「トキを象徴種とした里地の社会生態システムの再生」
横溝裕行 (国環研)
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課題
生態系再生 環境保全型栽培田の規模、配置決め 農業生産の場における生物の働きの解明 土づくりー微生物、ミミズ類等 害虫の多発生抑制ークモ類、カエル類、寄生蜂等
地域再生 農業者のインセンティブ設計 補助金 米の高付加価値化・ブランド化 農作業の省力技術の開発
支援社会の構築 米の販売戦略策定 農業の6次産業化方策の策定（農業ツーリズム等）
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水田の自然再生 日本型自然再生モデルを提示
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