時系列データの分析② 非定常時系列、単位根過程とその検...
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時系列データの分析②
非定常時系列、単位根過程とその検定
講師: 長倉大輔 (慶應義塾大学経済学部)
今日の予定
1. トレンド定常過程について
2. EViews (トレンド定常過程の推定、予
測)
3. 単位根過程、単位根検定について
4. EViews (単位根検定)
5. 拡張ディッキーフラー(ADF) 検定につ
いて
6. EViews (ADF検定)
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トレンド定常過程
非定常時系列
定常性を満たさない時系列を非定常時系列という。
代表的なものに、トレンド定常過程と単位根過程がある。
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トレンド定常過程
トレンド定常過程
ut を定常平均 0 の定常過程として、
yt = c + δ t + ut , t = 1, ….,
と定義される過程をトレンド定常過程と呼ぶ。
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トレンド定常過程
トレンド定常過程
トレンド定常過程はその過程から “トレンド”
に相当する部分である δt を除くと:
yt – δt = c + ut
残るのは定常な部分だけになるので、トレンド定常過程と呼ばれる。
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トレンド定常過程
トレンド定常過程の平均と分散
トレンド定常過程の時点 t における平均は
E( yt ) = c + δ t,
自己共分散は
cov(yt , yt – k) = cov (ut , ut – k), k ≥ 0
となる。
平均が時点 t に依存しているので、これは定常過程ではない。
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トレンド定常過程
トレンド定常過程からのサンプル
以下はトレンド定常過程:
yt = 10 + 0.8t + ut , t = 1, ….,50
ut = 0.9 ut –1 + εt, εt ~ i.i.d. N(0, 1)
からのサンプルをプロットしたものである。
この場合 上方へのトレンド(趨勢)がある事がわかる。
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8
10 +0.8t yt
トレンド定常過程
トレンド定常過程の予測
以下は先ほどのトレンド定常過程のサンプルにおいてt = 15 からの yt の h 期先予測とその95%予測区間をプロットしたものである
(εt には正規分布を仮定した)。
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10 +0.8t yt 予測値
トレンド定常過程
トレンド定常過程の予測の性質
(1) 最適予測は予測期間が長くなるにつれてトレンド線に収束する。
(2) 予測区間は定常部分の予測区間と等
しく、予測期間が長くなるにつれて一定の幅へ収束する。
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EViews による分析
鉱工業生産指数の対数値に対して、トレンド定常過程でモデル化し、推定、予測をしてみる。
データは data4.xlsx のデータを使用。
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データの読み込み
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対数値の計算
→
⇒
「Quick」→「Generate Series」
「lnindprod=log(indprod)」と入力 14
EViews による分析
トレンド線からの乖離が AR(2) モデルに従うトレンド定常過程:
yt = c + δ t + ut ,
ut = ut –1 + ut –2 + εt ,
を(最小二乗法で)推定。
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EViews による分析
yt は対数値なので、対数階差変化率は
rt = yt – yt–1
= c + δ t + ut – (c + δ (t –1) + ut–1 )
= δ + ut – ut–1 ,
となる。 E(ut ) – E(ut –1 ) = 0 に注意すると
E (rt ) = E (δ + Δut) = δ
なので δ は変化率の期待値 (期待変化率)
であることがわかる。
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トレンド項の作成
→
⇒
「Quick」→「Generate Series」
「trend=@trend」と入力 17
トレンド項 が作成される
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トレンド定常モデルの推定
「Quick」→「Estimate Equation」
→ 「 lnindprod c trend ar(1) ar(2) 」と入力 19
以下の推定結果を得る
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EViews による分析
推定したトレンド定常モデルを用いて予測をすることもできる。
ここでは鉱工業指数の対数値の 2005年5
月から2005年12月までの値を、先ほどの
トレンド定常モデルを用いて予測をしてみる。
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「Range」をダブルクリックする。
「End date」 を2005M04 から 2005M12 にする。 「OK」をクリック。
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2005M05 から 2005M12 までの
トレンド項がないのでもう一度作成
→
⇒
「Quick」→「Generate Series」
「trend=@trend」と入力 23
先程のモデルの推定結果の画面で
「Proc」→ 「Forecast」をクリック
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「Forecast name」 と 「S.E. (optional)」 をそれぞれ lnindprodf と sef とする。「Forecast sample」を 2005m05 2005m12 とする。「Insert actuals…」 はオフにしておく。「Dynamic forecast」をオンにする。 「OK]をクリック 25
予測値 (青実線) が計算される。上下の線 (赤点線) は 95%予測区間と呼ばれるもので、実際の値がこの線の間に含まれる確率は95%である。
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実際の値と並べてプロットしてみる。
95% 予測区間の上限と下限を作る
「Genr」をクリックし
upf = lnindprodf + 1.96*sef
と入力 (これが上限)。「OK」をクリック。 同様に 「Genr」をクリックし
lowf = lnindprodf – 1.96*sef
と入力。「OK」をクリック。
(Sample は共に 2005M05 2005M12としておく)
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「Sample」をダブルクリックし
2004m10 2005m12
と入力。「OK」をクリック
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「lowf」、「lnindprod」、「lnindprodf」、
「upf」 を選んで、右クリックをし 「as Group」をクリック (グループとして開く)
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LNINDPRODF の 2005M05 の値を LNINDPROD の 2005M05 のところに貼り付けておく。
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「View」 → 「Graph」をクリック。
次の画面で「OK」をクリック。
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直前までの実際の値(青線)および予測値(赤線)と95%予測区間(緑線と茶色線)がプロットされる。
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単位根過程
単位根過程
1 変量のAR(1)モデル:
yt = δ + yt –1 + εt, εt ~ W.N.(σ2),
が(弱)定常であるための条件は
< 1
であった。
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1
|| 1
単位根過程
単位根過程
もし = 1 の場合、このような過程を
単位根過程という。
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1
単位根過程
単位根過程の期待値と分散
(便宜上) y0 = c は既知である(確率変数ではない)とすると =1 より yt は
yt = δ + yt –1 + εt
である。 yt –1 = δ + yt–2 + εt–1 を代入すると
yt = δ + δ + yt–2 + εt–1 + εt
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1
単位根過程
以下同様に代入していくと
yt = t δ + y0 + ε1 + … + εt
= t δ + c + ε1 + … + εt
(y0 = c なので)
よって E(yt) = c + t δ となる。
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単位根過程
単位根過程の平均と分散
分散は
var( yt )= var (t δ + c + ε1 + … + εt )
= σ2 + σ2 + …. + σ2
= t σ2
となる。
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単位根過程
単位根過程の平均と分散
まとめると、単位根過程の平均は
E(yt ) = c + δ t
分散は
var(yt) = t σ2
である。平均も分散も時点 t に依存している。よって単位根過程は定常ではない。
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単位根過程
単位根過程の性質
単位根過程は δ = 0 の時と δ ≠ 0 の時とで性質がかなり違う。以下は
(δ = 0 の場合) yt = yt–1 + εt,
(δ = 0.8 の場合) yt = 0.8 + yt–1 + εt,
εt ~ N(0, 1)
について t = 1,..,50 まで発生させたもののグラフである (y0 = 10としてある)。
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10 yt (δ = 0)
1
10 +0.8t yt (δ = 0.8)
単位根過程
単位根過程の性質
δ = 0 の場合は トレンドの無い定常過程 に一見するとよく似ている。
またδ ≠ 0 (δ = 0.8) の場合はトレンド定常過程に一見するとよく似ている。
これら単位根過程と定常過程(トレンド定常過程)との違いは何であろうか?
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単位根過程
単位根過程とトレンド定常過程の違い
これら2つの違いは予測に顕著に現れる。
以下は先ほどの単位根過程のサンプルにおいて t = 15 からの yt の h 期先予測とその95%予測区間をプロットしたものである 。
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10 yt
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10 +0.8t yt
単位根過程
単位根過程の予測の性質
(1) 予測値は予測期間が長くなっても何らかの値 (定常過程の定常平均やトレンド定常仮定のトレンド線のような)に収束するという事はない。
(2) 予測区間の幅は予測期間が長くなるにつれて際限 なく大きくなる(予測精度は際限なく悪くなる)。
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単位根過程
経済学的なインプリケーション
トレンド定常過程では、ショックの影響は長期的には消え、単位根過程であれば、ショックの影響は恒久的に持続する。
伝統的なマクロのケインズ理論や貨幣数量説は前者を、実物的景気循環論では技術進歩率などに後者を想定している。
あるいは効率的市場仮説などは後者を想定している。
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単位根過程
このような理由により、実際のデータが単位根過程か、定常(トレンド定常)過程かどうかは重要な意味を持っている。
しかしながら、これらの過程の動きは非常に似ているため視覚的には区別がつかない。
よって単位根検定と呼ばれる検定方法によって統計的に検定する。
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単位根の検定
単位根検定の帰無仮説と対立仮説
単位根検定の帰無仮説と対立仮説の組み合わせは3つ考えられる。
これらの組はお互い似たような動きをしており、視覚的に区別がつかないので統計的に検定する必要がある。
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単位根の検定
単位根の帰無仮説と対立仮説
ケース ①
帰無仮説: ドリフトのない単位根過程
yt = yt –1 + εt
対立仮説: 定数項のない定常なAR(1)過程
yt = yt–1 + εt, | | < 1
50
1 1
単位根の検定
単位根の帰無仮説と対立仮説
ケース ②
帰無仮説: ドリフトのない単位根過程
yt = yt–1 + εt
対立仮説: 定数項のある定常なAR(1)過程
yt = c + yt–1 + εt, | | < 1
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1 1
単位根の検定
単位根の帰無仮説と対立仮説
ケース ③
帰無仮説: ドリフトのある単位根過程
yt = δ + yt –1 + εt
対立仮説: 以下のようなトレンド定常過程
yt = c + δ t + yt–1 + εt, | | < 1
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1 1
単位根の検定
ディッキーフラー検定
これら 3つのケースに対して帰無仮説であ
る単位根過程をディッキーフラー検定と呼ばれる検定によって検定する事ができる。
ディッキーフラー検定には (1) ディッキーフラー ρ検定 、と呼ばれる検定と (2) ディッキーフラー t 検定、と呼ばれる検定の2つがある。
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単位根の検定
ディッキーフラー ρ 検定
ディッキーフラー ρ 検定では対立仮説のもとでの の最小二乗推定量 を用いて
という検定統計量を定義し、この統計量を用いて検定する。
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)1ˆ( ,1 TT
T,1̂
単位根の検定
ディッキーフラー t 検定
ディッキーフラー t 検定では、通常の t 値、すなわち
という統計量を用いて検定する。ここで は の通常の最小二乗推定量の標準誤差である。
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1ˆ
1ˆ,1
T
1ˆ
T,1̂
EViews による分析
TOPIXの対数値に対して、ディッキーフラー t 検定をしてみる。
データは data4.xlsx のデータを使用。
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Range と Sample の期間を元に戻しておく 57
対数値の計算
→
⇒
「Quick」→「Generate Series」
「lntopix=log(topix)」と入力 58
TOPIXの対数値の動きは上のようになる。
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EViews による分析
TOPIXの対数値には明確なトレンドはなく、また定常平均は 0 ではなさそうなので、この場合、ケース②が妥当である。すなわち
帰無仮説: ドリフトのない単位根過程
yt = yt–1 + εt
対立仮説: 定数項のある定常なAR(1)過程
yt = c + yt–1 + εt, | | < 1
という検定を行う。
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1 1
lntopix を ダブルクリックして開いて
「View」→「Unit Root Test」 を選択し、クリック。
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Test Type より Augmented Dickey-Fuller を選ぶ。Level と Intercept をオン、 User specified: を1にする。 「OK」をクリック。
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検定の結果は以下のようになる。
t-Statistics が ディッキーフラー t 検定統計量の値である。 Prob.* がその P値である。P値によると有意水準 5% でTOPIXの対数値が単位根過程であるという帰無仮説は棄却されない。
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単位根の検定
拡張ディッキーフラー検定
ディッキーフラー検定では単位根過程の対立仮説として定常なAR(1)過程、もしくはトレンドを除去すると定常なAR(1)過程に従うトレンド定常過程を想定していた。
しかしながら、ある過程が単位根過程でなかった場合、単純なAR(1)過程に従うというのは少し制約が強い。
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単位根の検定
拡張ディッキーフラー検定
拡張ディッキーフラー検定 (Augumented
Dickey – Fuller ; 以下 ADF) 検定とは対立仮説として定常なAR(p)過程を想定した単位根検定である。
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単位根の検定
単位根AR(p)過程
AR(1) 過程:
yt = c + yt –1 + εt
は =1の時に単位根過程であると呼ばれた。 では AR(p) 過程: yt = c + yt –1 + … + yt –p + εt
が単位根過程であるとはどういうことであろうか?
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1
1
1 p
単位根の検定
単位根AR(p)過程
この場合、このAR(p)過程の特性方程式:
1 – z – z2 – … – zp = 0
の解が z = 1 という解を 1つだけ含み、残りの解は全て | z | > 1 を満たす場合に、yt は単位根AR(p) 過程と呼ばれる。
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1 2 p
単位根の検定
単位根AR(p) 過程
このAR(p) 過程が定常であるためには z の全ての解に対して | z | > 1 でなければならなかった。
よって、さきほどの単位根過程の条件が満たされれば、yt は自動的に定常過程ではない、つまり非定常過程になる。
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単位根の検定
単位根AR(p)過程の単位根検定
単位根過程とは特性方程式の解として
z = 1 が含まれる事であった。これを別の言い方をすると z = 1 が特性方程式を満たすという事なので、z = 1 を代入すると
1 – – – … – = 0
⇔ φ1 +φ2 + … + φp = 1
が成り立つという事である。
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1 2 p
単位根の検定
単位根AR(p)過程の単位根検定
よって単位根AR(p)過程に対する単位根検定とは
yt = c + yt –1+ … + yt–p + εt
において
H0: φ1 +φ2 +…+φp = 1
が成り立つかどうかを検定すればよい。
ADF検定はこれが成り立つかどうかを検定する。
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1 p
単位根の検定
単位根AR(p)過程の単位根検定
ADF検定の場合も対立仮説に
ケース① 定数項がない
ケース② 定数項がある
ケース③ トレンドがある
の3つに分けられる。
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EViews による分析
鉱工業生産指数の対数値に対して、拡張ディッキーフラー t 検定をしてみる。
データは data4.xlsx のデータを使用。
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鉱工業生産指数の対数値の動きは上のようになる。
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EViews による分析
この図を見ると、上方トレンドがありそうである。この場合、ケース③が妥当であろう。またここでは、対立仮説の下ではトレンドを除去すると AR(2) 過程に従うと想定しよう。
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EViews による分析
よって、検定問題は
帰無仮説: ドリフトのある単位根過程
yt = δ + yt –1 + yt–1 + εt ,
対立仮説: 以下のようなトレンド定常過程
yt = c + δ t + yt–1 + yt–1 + εt .
となる。
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21
.121
1 2
lnindprod を ダブルクリックして開いて
「View」→「Unit Root Test」 を選択し、クリック。
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Test Type より Augmented Dickey-Fuller を選ぶ。Level と Trend and Intrcept をオン、 User specified: を2にする。「OK」をクリック。 77
検定の結果は以下のようになる。
t- Statistics が ディッキーフラー t 検定統計量の値である。 Prob.* がその P値である。P値によると有意水準 5% で鉱工業生産指数の対数値が単位根過程であるという帰無仮説は棄却されない。 78
Lag Length において Automatic selection を オンにすると、ラグの次数を情報量基準により自動的に選んでくれる(どの情報量基準を使用するか指定が必要)。通常特に前情報がなければこちらを使用する。 79
以下はAIC および BICを使用した場合の結果である。
(AIC)
(BIC)
どちらの場合も帰無仮説は棄却されない。 80
EViews による分析
EViews では ADF 検定の他にも様々な単位根検定を行う事ができる (Test Type のところで選ぶ)。
これらの検定は Kwiatkowski-Phillips-
Schmidt-Shin (KPSS) 検定を除き、全て帰無仮説が単位根過程である (KPSS 検定は帰無仮説が(トレンド)定常過程)。
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本日のまとめ
1. (経済)時系列分析の重要な概念である
単位根過程およびトレンド定常過程に
ついて述べた。
2. EViews を使用し実際のデータに対し
てトレンド定常過程の推定、予測、およ
び単位根過程の検定を行った。
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