世界の海運―日本とのかかわりを中心にしてー...1...

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1 現代日本にとっての海運 日本は資源に乏しく,エネルギーをはじめ主要な資源 を海外に依存している。しかしながら,その輸送手段と なるとあまり知られていない。輸出品も含めた貿易物資 の輸送を重量ベースでみると,実に99%以上が海上輸送 に拠っており(図1),これをなくして,日本の産業と 暮らしは成り立たない。 また,日本の海運企業(以 下,「船社」)は,日本企 業の生産拠点の海外シフ トに対応して,生産拠点 と消費地および生産拠点 間を結ぶ海上輸送を通じ て,企業活動を支えてい る。 2 世界の海上荷動き 世界の海上輸送量は,2015年推計値で年間約107億ト ン(重量ベース)である(図2)。輸送される主要な品 目は,石油(原油および石油製品)が27.0%,鉄鉱石, 石炭,穀物の3品目が27.5%を占めている。これら貨物 の主要トレードのうち鉄鉱石については,とくにオース トラリア・ブラジルから中国への輸入の規模が大きく, 世界の粗鋼生産量のおよそ半分を占めていることから, 同国の景気・鉄鋼需要の動向は世界の海上輸送量に影響 してくる。 雑貨などを運ぶコンテナ貨物の取扱量の推移を港別に 比較する(表1)と,2015年の取扱量は,シャンハイが 世界で最も多く,シンガポールがそれに次ぎ,いずれも 中国をはじめアジア各国の諸港が上位を占めている。 1980年は神戸港が世界第4位であったが,製造業のシ フトにより,アジア諸国では大規模なコンテナ港湾施設 が相次いで整備され,ハブ港(国際海運の拠点となる積 替港)として取扱量を増やした。日本の主要港も取扱量 自体は増加しているが,世界的にみると相対的な地位は 低下した。2015年では東京港が日本の最上位で30位であ る。日本の場合,地方の港湾整備により60以上の港が国 際コンテナ貨物を取り扱っており,中国や極東地域のハ ブ港のひとつであるプサンとの航路が多く開設されてい るため,取扱量が分散する傾向にある。 3 重要な海上交通路をめぐる諸問題 (1)海賊問題 現在は,マラッカ海峡やギニア湾などで多く発生して いる。一方,乗組員等を長期間拘留して身代金を要求す るなどして猛威を振るっていたソマリア沖・アデン湾で の発生件数は,近年低い水準で推移しているが,これに は日本の自衛隊を含む各国部隊による海賊対処活動等が 大きく寄与している。 取扱量はコンテナリゼーション・インターナショナル推定値。取扱量単位は千TEU。1TEUは20フィートコンテナ1個分。 図1  日本の貿易量における 海上輸送の割合 表1 世界主要港コンテナ取扱量の推移(1980,2001,2015年経年比較) 図2 世界の海上輸送量と船腹量 海上輸送 99.6% 航空輸送 0.4% 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1 0 0 2 0 8 9 1 ニューヨーク/ ニュージャージー ロッテルダム ホンコン 神戸 カオシュン シンガポール サン・ファン ロングビーチ ハンブルク オークランド アメリカ合衆国 オランダ ホンコン 日本 台湾 シンガポール アメリカ合衆国 アメリカ合衆国 ドイツ ニュージーランド 1,947 1,901 1,465 1,456 979 917 852 825 783 782 ホンコン シンガポール プサン カオシュン シャンハイ ロッテルダム ロサンゼルス シェンチェン ハンブルク ロングビーチ 中国 シンガポール 韓国 台湾 中国 オランダ アメリカ合衆国 中国 ドイツ アメリカ合衆国 18,000 15,520 7,906 7,540 6,334 5,944 5,183 5,076 4,689 4,462 取扱量 国・地域 国・地域 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 2015年 シャンハイ シンガポール シェンチェン ニンポー ホンコン プサン チンタオ コワンチョウ ドバイ テンチン 中国 シンガポール 中国 中国 中国 韓国 中国 中国 UAE 中国 36,540 30,922 24,200 20,620 20,114 19,450 17,510 16,970 15,592 14,100 国・地域 ©SHIPPING NOW 2016-2017 ©SHIPPING NOW 2016-2017 (百万重量トン) 10,000 11,000 1,000 5,000 4,000 3,000 2,000 6,000 7,000 8,000 9,000 0 1,800 1,600 1,400 1,200 1,000 800 600 400 200 0 1985 90 95 05 10 13 14 15 2000 (年) 船腹量 海上輸送量 (百万トン) 3 地理・地図資料 2016年度3学期号 一般社団法人 日本船主協会 総務部 知りたい! 世界の今 世界の海運―日本とのかかわりを中心にしてー

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Page 1: 世界の海運―日本とのかかわりを中心にしてー...1 現代日本にとっての海運 日本は資源に乏しく,エネルギーをはじめ主要な資源 を海外に依存している。しかしながら,その輸送手段と

1 現代日本にとっての海運

 日本は資源に乏しく,エネルギーをはじめ主要な資源を海外に依存している。しかしながら,その輸送手段となるとあまり知られていない。輸出品も含めた貿易物資の輸送を重量ベースでみると,実に99%以上が海上輸送に拠っており(図1),これをなくして,日本の産業と暮らしは成り立たない。また,日本の海運企業(以下,「船社」)は,日本企業の生産拠点の海外シフトに対応して,生産拠点と消費地および生産拠点間を結ぶ海上輸送を通じて,企業活動を支えている。

2 世界の海上荷動き

 世界の海上輸送量は,2015年推計値で年間約107億トン(重量ベース)である(図2)。輸送される主要な品目は,石油(原油および石油製品)が27.0%,鉄鉱石,石炭,穀物の3品目が27.5%を占めている。これら貨物の主要トレードのうち鉄鉱石については,とくにオーストラリア・ブラジルから中国への輸入の規模が大きく,世界の粗鋼生産量のおよそ半分を占めていることから,同国の景気・鉄鋼需要の動向は世界の海上輸送量に影響してくる。 雑貨などを運ぶコンテナ貨物の取扱量の推移を港別に比較する(表1)と,2015年の取扱量は,シャンハイが世界で最も多く,シンガポールがそれに次ぎ,いずれも

中国をはじめアジア各国の諸港が上位を占めている。 1980年は神戸港が世界第4位であったが,製造業のシフトにより,アジア諸国では大規模なコンテナ港湾施設が相次いで整備され,ハブ港(国際海運の拠点となる積替港)として取扱量を増やした。日本の主要港も取扱量自体は増加しているが,世界的にみると相対的な地位は低下した。2015年では東京港が日本の最上位で30位である。日本の場合,地方の港湾整備により60以上の港が国際コンテナ貨物を取り扱っており,中国や極東地域のハブ港のひとつであるプサンとの航路が多く開設されているため,取扱量が分散する傾向にある。

3 重要な海上交通路をめぐる諸問題

(1)海賊問題 現在は,マラッカ海峡やギニア湾などで多く発生している。一方,乗組員等を長期間拘留して身代金を要求するなどして猛威を振るっていたソマリア沖・アデン湾での発生件数は,近年低い水準で推移しているが,これには日本の自衛隊を含む各国部隊による海賊対処活動等が大きく寄与している。

*取扱量はコンテナリゼーション・インターナショナル推定値。取扱量単位は千TEU。1TEUは20フィートコンテナ1個分。

図1 �日本の貿易量における海上輸送の割合

表1 世界主要港コンテナ取扱量の推移(1980,2001,2015年経年比較)

図2 世界の海上輸送量と船腹量

海上輸送99.6%

航空輸送0.4%

12345678910

12345678910

年1002年0891

ニューヨーク/ニュージャージー

ロッテルダムホンコン神戸カオシュンシンガポールサン・ファンロングビーチハンブルクオークランド

アメリカ合衆国オランダホンコン日本台湾シンガポールアメリカ合衆国アメリカ合衆国ドイツニュージーランド

1,9471,9011,4651,456

979917852825783782

港ホンコンシンガポールプサンカオシュンシャンハイロッテルダム ロサンゼルスシェンチェンハンブルクロングビーチ

中国シンガポール韓国台湾中国オランダアメリカ合衆国中国ドイツアメリカ合衆国

18,00015,5207,9067,5406,3345,9445,1835,0764,6894,462

取扱量国・地域 量扱取港 国・地域12345678910

2015年

シャンハイシンガポールシェンチェンニンポーホンコンプサンチンタオコワンチョウドバイテンチン

中国シンガポール中国中国中国韓国中国中国UAE中国

36,54030,92224,20020,62020,11419,45017,51016,97015,59214,100

量扱取港 国・地域

©SHIPPING NOW 2016-2017

©SHIPPING NOW 2016-2017

(百万重量トン)

10,00011,000

1,000

5,0004,0003,0002,000

6,0007,0008,0009,000

0

1,800

1,600

1,400

1,200

1,000

800

600

400

200

01985 90 95 05 10 13 14 152000 (年)

量送輸上海

船腹量海上輸送量

船腹量

(百万トン)

3地理・地図資料◦2016年度3学期号

一般社団法人 日本船主協会 総務部

知りたい! 世界の今

世界の海運―日本とのかかわりを中心にしてー

Page 2: 世界の海運―日本とのかかわりを中心にしてー...1 現代日本にとっての海運 日本は資源に乏しく,エネルギーをはじめ主要な資源 を海外に依存している。しかしながら,その輸送手段と

(2)主要な海峡における航行安全問題

❶マラッカ海峡  世界の石油供給量の約1/3,世界の貿易量の約半分,1日200隻以上の船舶が通過する世界の海上交通の要衝。長さ1000km,最狭部の航路幅は600mであり,岩礁や小さな島,浅瀬が多い難所を,満載喫水(荷物満載時の船体が水に沈む深さ)が20mをこえるVLCC(大型原油タンカー)が通航している。日本/ペルシア湾の原油輸送を,ロンボク海峡経由に迂回する場合は航海日数が片道3日,往復6日余分にかかり,コストが増大する。 日本は約40年にわたり同海峡の航行援助施設維持管理事業を支援しており,2007年9月にはIMO(国際海事機関)の関与のもと,航行安全および環境保全に関する国際的な協力メカニズムが沿岸国および海峡利用国の間で合意されている。

❷ホルムズ海峡  日本が輸入する原油の85%が通過する。最狭部は幅33kmしかなく,容易に封鎖されるおそれがある。かつても,イラン・イラク戦争時にはタンカーへの攻撃,湾岸戦争では機雷敷設による海峡封鎖があった。こうした事態になると,運河などと違い,ホルムズ海峡は迂回できないため,日本は原油枯渇の危機に直面することになる。 イランは核合意形成によりアメリカ合衆国の制裁解除を受け,貿易を増やす段階であることからすぐにホルムズ海峡封鎖となるような状況にはないが,サウジアラビアとイランとの国交断絶などが懸念材料としてある。

(3)運河の拡張と通航料問題 パナマ,スエズの両運河は国際海上交通の要衝であり,他ルートと比較して航海日数を大きく短縮できる。一方,独占の状態であるため,近年はその優位性を背景とした料金設定により通航料金がひじょうに高額化(1回の通航に数千万円単位)しており,船社の経営に少なからず影響を与えている。

❶パナマ運河  1914年8月に開通。大西洋と太平洋を結ぶ全長約80kmの閘門式運河。運河中央の海抜が26m

と高く,閘門により3段階にわたり水面の高さを調整することで船舶を通過させている。 航行する船舶は1日約38隻(年間13,874隻,2015年)。年間約2億トンの貨物が経由して輸送されている。通航する貨物の最大の貿易ルートはアジア・アメリカ東岸間航路で,同運河通航貨物全体の約35%を占める。 パナマ運河を通過できない大型船舶が主流化してきたことなどを踏まえ,2007年に運河拡張工事が始まり,2016年6月に完了した。これにより,通航可能な最大船型は全長(294.1→)366m,幅(32.3→)49m,喫水(12→)15.2mとなり,従来の約3倍の積載量のコンテナ船やLNG船の運航が可能となった。それまで運河を通航できなかった大型船舶のアメリカ東海岸から日本への航海日数に関し,運河拡張前では約40日(スエズ運河経由)〜46日(マゼラン海峡経由)とされていたものが,運河拡張後は約25日での輸送が可能となった。

❷スエズ運河  1869年11月に開通。地中海と紅海を結ぶ全長193㎞,水深24mの運河。アフリカ大陸を回りこまずにヨーロッパとアジアを海運で連結できる。通航可能な最大船型(いわゆるスエズマックス)は喫水20m以下または載貨重量トン数24万トン以下,かつ水面からの高さが68m以下,幅77.5m以下の船舶である。 航路が単線で南向き・北向きで船団を組んで航行する方式なので,逆方向から来る船とのすれ違いに時間を要する,先着の船舶は船団が整うまで滞船を余儀なくされるなどの問題点があった。このため2014年に拡張工事を開始し,35kmを掘削による複線化,既存運河37kmの増深を行い,2015年8月から双方向で通航できるようになった。運航に要する時間は18時間から11時間に,滞船時間は11時間から3時間に短縮できるようになった。 航行する船舶は1日約48隻(年間1万7483隻,2015年)。世界の海上貿易量の約7%が利用している。

4 国際海運の特徴

 国際海運の分野は,(条約化されているわけではない

図3 世界のおもな港湾のコンテナ取扱量 写真 コンテナ船(NYK�BLUE�JAY�14,000TEU)

4地理・地図資料◦2016年度3学期号

ロッテルダム

ブレーメルハーフェン

アントウェルペンハンブルク

1224

552

965 885

ドバイ

1559

シンガポール

3092

クラン

1189

タンジュンペラパス910

チンタオテンチン

コワンチョウ

プサン

17511410

ターリエン

945

ロサンゼルス

2062

1026

1697

ニューヨーク/ニュージャージー

マナオスベレン

ニューオーリンズ

サントス

アモイ

918

シドニー

シャ

シェンチェン

ホンコンカオシュン

ニンポー

アデレード

3654

816

2420

2011

1945

シャンハイジブラルタル

海峡

ホルムズ海峡

マラッカ海峡

パナマ運河

スエズ運河

マゼラン海峡

マカッサル海峡

ロンボク海峡 トレス海峡

●❶

●❷

●❷

●❶

おもな港湾のコンテナ取扱量(万TEU)

=100万TEU* おもな港湾

*コンテナ船の積載量を示す単位。 1TEUは20フィートコンテナ1個分。

ー2015年ー

SHIPPING NOW 2016-2017をもとに帝国書院作成

❶❷❶❷は本文に対応

Page 3: 世界の海運―日本とのかかわりを中心にしてー...1 現代日本にとっての海運 日本は資源に乏しく,エネルギーをはじめ主要な資源 を海外に依存している。しかしながら,その輸送手段と

が)主要海運国の間で,早くから 「海運自由の原則」 という考え方が基本にある。これが二国間協定により規制,保護されてきた航空分野と大きく異なる点であった。そのため,新規参入が比較的容易であり,世界単一の市場の中で激しい競争が繰り広げられてきた。 そうした背景から,アジアNIEsといわれた国々の船社が成長し,中国の国有会社が参入していき,1990年代に入るといわゆる定期船会社(コンテナ輸送)は,世界規模でのM&Aを繰り返し,集約・再編が進んだ。

5 日本における国際海運の現状(日本商船隊の構成)

 日本の海運の規模について,「日本商船隊」 という語が用いられる。これは日本の船社(オペレーター)が「運航」 している国際輸送に従事する2000総トン以上の船腹量をさし,日本の海運政策の立案の基礎データとしても用いられる。

 日本商船隊は,船舶の大型化により1980年当時と比べて,トン数では2倍近くになっているが,隻数ではほぼ同じ2500隻程度である。そのうちの日本籍船は,1972年

(1580隻)をピークに減少を続け,2008年には98隻となった。その後,増加に転じたが,全体の1割に満たない。日本籍船が減少し,外国籍船がほとんどを占めることとなった要因は,端的にいえばコストの違いによる国際競争力の差である。

6 日本商船隊の国際競争力

(1) 為替の問題 日本の船社は,1ドル360円の固定相場制から変動相場制への移行,さらに1985年のプラザ合意後の円高の進行により,経営に決定的な打撃を被った。これは,国際海運においては収入のほとんどがドル建てであるためである。それまでも,途上国に比べて割高な日本人の船員コストを低減するために,乗組員数を少数化する取り組みを進めていたが,企業努力の限界をこえてしまった。ま

た,為替変動のリスクを避けるうえで,円コストのドル化が必要となった。

(2) 船の国籍と船員の問題 船は一船ごとに国籍を持つ。総トン数ベースで上位に名を連ねるのは,パナマ,リベリアなど「便宜置籍国」とよばれる国々である(図5)。 これらの国々では,条約に基づく国際基準を満たしつつ,外国人船員を乗船させるうえでフレキシブルであったり,登録など初期費用やランニングコストが割安であったりすることなどから,他国に本拠を置く船社であっても自国籍ではなく,これらの船籍を選択することが多い。その後日本の制度でも,日本籍船を全員外国人船員で運航することが可能となったが,国際基準を満たした資格を持っていても,別途,日本の国内法講習などを受けなければならず,その他も含めコスト面,手続面での差が依然としてある。 現在の日本商船隊の船舶に乗り組む船員のうち日本人の割合はごくわずかで,そのほとんどが外国人であり,なかでもフィリピン人が約3/4と群を抜いている。フィリピンは世界一の船員供給国で,多くの船員が諸外国の船舶に乗り組んでいる。世界的に船員が不足するなか,外国人船員の確保は経営上,ひじょうに重要である。

(3) 国際海運にかかわる税金の問題 日本企業は,基本的には日本籍船しか保有できない。外国籍の船舶を保有するためには,海外に子会社を設立

図4 日本商船隊の構成の変化

図5 船籍登録別船腹量

図6 日本人船員数の推移

197480 85 90 95 2007 08 09 10 11 12 13 14 15

1974年約57,000人

1

2

3

4

5

6

0

2015年約2,200人

(万人)

(年)

世界計121,122万総トン

パナマ17.9%

リベリア10.8%

マーシャル諸島10.0%

ホンコン8.4%

シンガポール6.7%

バハマ4.9% マルタ

5.3%

中国 3.7%

ギリシャ3.4%

日本 1.9%

その他27.0%

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000(隻数)

60 65 70 75 80 85 90 95 2000 05 10 15

日本籍船と外国籍船が逆転

日本籍船のピーク

日本籍船が増加に転じる

外国籍船日本籍船

655

1,580

2,555

2,364

98197

©SHIPPING NOW 2016-2017

©SHIPPING NOW 2016-2017

©SHIPPING NOW 2016-2017

5地理・地図資料◦2016年度3学期号

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することになるが,これは租税回避を目的としたものとは明らかに異なる。それらにはタックスヘイブンとよばれる国もあるが,日本の税法において 「船舶の貸付」 を主たる事業としている海外子会社の場合,利益(課税対象留保金額)は,本社の利益と合算して課税されるので,租税回避はできないしくみになっている。しかも,黒字のみの合算課税で,赤字の場合は損益通算ができないなど,かえって不利な面がある。 また,船舶,航空機を国際運輸に使用することから生じた所得については,租税条約における国際運輸業所得として,企業の居住地国においてのみ課税される。これは「恒久的施設課税」という事業所得課税の原則の例外的取り扱いである。このため,自国の税制による税負担の軽重が,経営を大きく左右する問題となる。主要海運国では,自国の海運の国際競争力強化などを目的として

「トン数標準税制」(Tonnage Tax)という外形標準の海運独特の税制(船舶の純トン数に基づくみなし利益に課税)が1990年代後半以降相次いで導入され,今や世界標準となっている。日本にも同様の制度が2009年度より導入され,2013年度に一部拡充されたが,適用範囲においては依然として劣後しており,経営努力の及ばない競争条件を諸外国と同等にしてほしいというのが,日本の海運界の切なる願いである。

7 船社経営と市場環境

 船社の経営は,おもに特定の荷主の大量の貨物を輸送する不定期・専用船分野と不特定の荷主のコンテナ貨物を定期航路で輸送する定期船分野がある。 日本の船社(オペレーター)のうち最大手3社は,さまざまな種類の船舶を運航するポートフォリオ経営である。定期船分野であるコンテナ船のほか,油タンカー,ガスタンカー(LNG,LPG),ばら積み船(鉄鉱石,石炭,穀物),自動車船など,複数の種類の貨物船舶を組み合わせた船隊構成としている。一方,それ以外の船社においては系列の主力荷主の貨物,あるいは自社の得意分野に比重を置いた船隊構成が一般的である。

(1)不定期・専用船分野 安定輸送を望む荷主との長期契約がある船舶は大きな利益はなくとも経営の安定に寄与する性質,それ以外のいわゆるフリー船は激しい市況変動のなかでハイリスク・ハイリターンの性質がある。後者の船舶の割合が多い場合,好況時には大きな利益を上げるが,不況時にはコストとはかけ離れた運賃しか得られず経営の危機に瀕する。また,好況時には船舶の発注が多くなり,数年後に大量に市場に出てきて大きな需給ギャップが生じるこ

とが間々ある。(2)定期船分野 毎週決まった曜日に必ず寄港する(定曜日サービス)など,荷主にとって利便性の高いサービスの提供が求められる。そのために,自社の船隊の規模や互いの補完関係を踏まえたパートナーを選び,複数の船社によるアライアンスを組んで対応することが広く行われている。また,輸送効率を高めるための船舶の大型化により,供給が増える傾向のなか,モノと違って「在庫」が持てないため,多くの参入者がいる市場では,適正な対価を得にくいという状況が続いている。つい最近も韓国の大手船社が破たんした。 そうした厳しい状況のなか,日本で定期船事業を営んでいる3社も事業を統合することが,2016年10月末に発表された。定期船分野は,1964年に官主導で旧財閥系の垣根をもこえた大規模な企業合併が行われた「海運集約」による6社体制から,規制緩和の時代を経て1991年に3社となってからもしのぎを削っていたが,世界の競合相手に伍していくためには一定以上の規模が必要とし,ついに1社へ統合という歴史的な決断に至ったのである。

8 世界の海運界のなかでの日本

 表2のとおり実質保有船腹量において日本はギリシャに次ぐ位置づけにある。また,人口では世界の2%である日本の発着貨物は世界の海上荷動き量の約1割に相当し,海運を支える造船業や港湾関係の産業,さらには船舶にかかわる保険・金融といった関連産業が集積した海事立国である。 海運は相対的に環境にやさしい輸送モードであるが,日本の海事産業界はさらなる負荷の低減に向けて取り組んでいる。環境問題では利害が対立したり,独自の規制が設けられたりすることが少なくないが,国際海運における安定的輸送のためには,統一したルールが不可欠である。日本は海事関係の国際的なルールづくりにあたって,政府ベースでは国連の機関であるIMO,民間ベースでは各国の船主協会を代表する組織である国際海運会議所(ICS)において要職に就くなど,世界の経済活動に欠かせない海運の健全な発展のため注力している。

国・地域 計(百万重量トン)うち外国籍船の割合(%)1 ギリシャ 293.1 77.922 日本 229.0 87.433 中国 158.9 53.364 ドイツ 119.1 90.515 シンガポール 95.3 35.206 ホンコン(中国) 87.3 22.727 韓国 78.8 79.578 アメリカ合衆国 60.3 86.479 イギリス 51.4 89.8010 バミューダ諸島(イギリス) 48.5 98.96

表2 国別の実質保有船腹量*

*出典:UNCTAD「REVIEW OF MARITIME TRANSPORT」2016年1月の数値

*『SHIPPING NOW 2016-2017』は,公益財団法人 日本海事広報協会が編集・発行しているパンフレットです。

6地理・地図資料◦2016年度3学期号