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現地情勢レポート(ジンバブエ) 2010 12 日本貿易振興機構(ジェトロ) 海外調査部

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現地情勢レポート(ジンバブエ)

2010 年 12月

日本貿易振興機構(ジェトロ)

海外調査部

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目次

次回大統領選実施時期は不透明-現地情勢レポート(1) ..........................................................3

プラス成長に転じるも、回復ペースは緩慢-現地情勢レポート(2) ..............................................5

安定した政策と対外債務削減が成長持続のカギ-現地情勢レポート(3) ....................................8

依然として高い投資リスク-現地情勢レポート(4) .................................................................... 10

リスク承知で投資する企業も-現地情勢レポート(5) ............................................................... 12

【免責条項】ジェトロは本レポートの記載内容に関して生じた直接的、間接的損害及び利益の喪失

について一切の責任を負いません。

これは、たとえジェトロがかかる損害の可能性を知らされていても同様とします。© JETRO 2010

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次回大統領選実施時期は不透明-現地情勢レポート(1)

2010 年 08 月 26 日 ヨハネスブルク発

2008 年の大統領選挙での混乱を受け、09 年 2 月に次回選挙までの移行体制として連立政

権が発足してから 1 年半が過ぎた。現在の状況と今後の見通しについて、国内の有識者、

政府・ビジネス関係者、同国に進出する外国企業にインタビューした。

<選挙準備に大幅な遅れ>

現在は移行体制として、ジンバブエ・アフリカ民族同盟・愛国戦線(Zanu-PF)、民主

改革運動(MDC)が分裂してできた MDC チャンギライ派(MDC-T)と MDC ムタンバラ

派(MDC-M)が連立政権を形成している。

今後の政治動向で注目すべき点は、次回の大統領選挙の実施時期だ。当初は 11 年 2 月ま

での実施が見込まれていたが、選挙の実施に必要な憲法改正の手続きが大幅に遅れており、

不透明な情勢だ。

08 年 9 月に連立政権の発足に向けて旧与野党が合意したグローバル政治協定(GPA)は、

選挙は新憲法の下で連立政権発足から 18~24 ヵ月以内に実施すると定めている。選挙の準

備プロセスとして連立政権発足から 2 ヵ月以内に憲法改正特別委員会を設置し、その後 17

ヵ月以内に公聴会、草案提出、官報公示などを経て議会に諮るとされていた。

これに対して政府は 10 年 6 月にようやく公聴会に当たる「憲法アウトリーチプログラム

(65 日間)」を開始した。草案提出や国民投票など一連のプロセスが完了するのは早くて

も 11 年前半の見込みだ。

<選挙実施の見方は分かれる>

次回選挙に向け各党の思惑は交錯しており、先行きに対する見方は分かれる。エコノミ

ストのジョン・ロバートソン氏は「ムガベ大統領率いる Zanu-PF の最大の関心事は政権の

維持にある」とみる。「Zanu-PF が政権を失えば、党員の多くは新政権の下で人権侵害の

罪に問われる可能性が高い。その危機感から政権の座を維持することに固執する」と指摘

する。その一方、同党が過去に選挙対策として実施した現地化法(外国投資の資本 51%現

地化義務)や土地改革(白人からの農地収用)は失策だと国民が気付き始めており、同党

の支持率は低下している。

同氏は最悪のケースとして、「公正な選挙をすれば勝ち目のない同党は、暴力に訴える

か、ムガベ大統領の権限で国家非常事態を宣言し監視体制が整う前に選挙を強行する」こ

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とも想定できるとする。既にアウトリーチプログラムでも暴力による妨害が報告されてい

るとのことだ。また、「所属する党にかかわらず、閣僚の中には現在の待遇に満足して、

現政権内で安住したいと考える政治家もいる」とし、現連立政権下で、選挙の早期実施を

図る動きが限定的なことも指摘している。

チャンギライ首相と親交のある別の研究者は「首相は人格者だが指導力に欠ける。

Zanu-PF の圧力に対抗することができず、暴力が広がることを恐れ、Zanu-PF が望まない

かたちでの選挙の実施は避けるのではないか」とコメントしている。

一方、ジンバブエ大学経済学部のトニー・ホーキンス教授の見方は対照的だ。同氏は「今

回の選挙準備プロセスには MDC も参画しており、自由で公正な選挙に向けた体制を整えて

いる。ドナー国も監視体制の強化に努めている」という。米国や EU からの援助は現在停

止されているが、選挙の実施は、援助が再開される契機になることも期待できる。同氏は

「次回選挙では MDC が勝利することで国際社会からの援助や外国投資が回復し、経済は改

善すると期待している」と語る。ただし、選挙の実施時期については手続きの遅れから 11

年中に行われる可能性は低いとみる。

ジンバブエ全国商工会議所のアンドリュー・マティザ最高経営責任者(CEO)は「ビジ

ネス界は政府に対して選挙の実施を働き掛けている。選挙によって与党が決まれば政権内

の混乱がなくなり、政策立案に集中でき、ビジネス環境の改善につながる。選挙実施に対

する南部アフリカ開発共同体(SADC)からの圧力が高まる中、必要以上に時期を遅らせる

ことはないだろう」と期待する。

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プラス成長に転じるも、回復ペースは緩慢-現地情勢レポート(2)

2010 年 08 月 27 日 ヨハネスブルク発

現在の連立政権が発足した 2009 年の実質 GDP 成長率は 5.7%(推計値)で、前年のマ

イナス成長からプラスに転じた。しかし、10 年は国際社会からの援助が見込み額を下回り、

財政状況は厳しい。2 回目は財政状況を中心に経済情勢を報告する。

財務省は実質 GDP 成長率が 09 年に 5.7%となり、10 年も 5.4%の見込みだと発表してい

る(表 1 参照)。99 年以降はマイナス成長が続き、急激なインフレの進行で経済は崩壊状

態にあったが、09 年 1 月の複数外貨併用制の導入を機に落ち着きをみせている。主要通貨

として米ドルと南アフリカ共和国のランドが流通し、価格統制が撤廃されたことから、貨

幣や物資の流動性が確保されている。小売店の陳列棚にも商品が戻り、買い物客もみられ

る。また、学校や病院などの公共施設も再開した。

政府は 12 年までは複数外貨併用制を続けるとし、経済成長が安定すればジンバブエ・ド

ルの流通再開を検討するとしている。

<国際社会からの財政援助額を下方修正>

テンダイ・ビティ財務相が 7 月 14 日発表した 10 年の経済予測および 10 年度(10 年 4

月~11 年 3 月)の財政政策中間見直しによると、経済の回復ペースが緩慢なことから、10

年の GDP 成長率の予測は当初の 7.0%増から 5.4%増に下方修正された。産業別では、ほ

ぼすべての部門で下方修正したものの、GDP の 16.1%を占める農業だけは 18.8%増へと上

方修正した。一方、電力不足のため、鉱業は当初見込みの 40%増から 31%増に下方修正し

た。

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物価は 09 年 12 月には前年同月比マイナス 7.7%程度まで下落していたが、10 年に入っ

て上昇傾向にある。1 月の 0.7%から 5 月には 6.1%となり、さらに公務員給与の引き上げ

や公共料金の値上げがインフレ圧力をもたらしている。

10 年度の予算については、歳入は税収増加により当初の 14 億 4,000 万ドルから 17 億

5,000万ドルへと増収を見込んだ一方、歳出は当初見込みの 22億 5,000万ドルを維持した。

このため財政赤字は当初見込みの GDP 比 14.6%から 9.1%に改善する。ただし、この赤字

幅は 09 年の 1.8%と比べれば依然として大きい。背景にはドナー国からの援助額が減って

いることがある。財政援助は年度当初 8 億 1,000 万ドルを見込んでいたものの、6 月末まで

に 2 億 700 万ドルしか集まっていない。これを受け、政府は援助見込み額を 5 億ドルに下

方修正した。

株式資本は流出している。ジンバブエ証券取引所の時価総額は、10 年 1 月の 39 億 7,000

万ドルから 6 月には 31 億 9,000 万ドルまで縮小した。政府が 2 月の官報で外国企業が持つ

資本の 51%を 5 年以内に現地化すると通知したことを受け、投資家の間に不安が広がって

いることが大きく影響しているとみられる。

経常収支は悪化している。輸出の回復の遅さ、海外資本の流入の減尐、国内生産の減尐

による輸入依存度の高まりが原因だ。10 年 1~4 月の貿易は輸出 8 億 7,000 万ドルに対し

て輸入は 15 億 4,450 万ドルで、6 億 7,450 万ドルの貿易赤字となった。

<ダイヤモンド輸出に期待>

このような中、政府はダイヤモンドによる輸出収益の増加に期待する。政府によると国

家保有のダイヤモンドは、ドル換算すると 17 億ドルに上り、10 年度国家予算とほぼ同額だ。

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ジンバブエは紛争ダイヤモンドの取引を防止するためのキンバリー・プロセス認証制度

(KPCS)に加盟しているが、08 年からマランゲ・ダイヤモンド鉱山で軍・公安当局によ

る強制徴用が行われ、これに伴い一般市民の殺害や虐待があったとして、09 年末に取引停

止命令を受けた(注)。その後、10 年 7 月のキンバリー・プロセス年次総会で、ダイヤモ

ンドを 2 回にわたり限定的に取引することが許可され、8 月 11 日にハラレ国際空港で 90

万カラット、7,200 万ドル相当の原石が競売にかけられた。キンバリー・プロセスは 9 月第

2 週に再度現地調査を行い、その後の方針を決めるとしている。これに関連しビティ財務相

は中間財政見直しの発表で、ダイヤモンドの販売プロセスが透明化されるべきだとの見解

を示している。

(注)06 年に発見された南部アフリカ最大のダイヤモンド鉱山。近隣村民とダイヤモンド

シンジゲートが採掘していたが、所有権が明確でなかったことから、軍・公安当局に占拠

された。その過程で 200 人以上が殺されたとされる。また占拠した軍・公安当局は、採掘

のために子どもを含む近隣住民を強制徴用したとされる。財務省と歳入庁の許可を取るこ

となく、尐なくとも 3,000 万ドル相当のダイヤモンドがマランゲ鉱山から採掘されて市場

に出回ったことが、キンバリー・プロセスの調査で明らかになっている。

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安定した政策と対外債務削減が成長持続のカギ-現地情勢レポート(3)

2010 年 08 月 30 日 ヨハネスブルク発

経済は緩やかなペースで回復に向かっているが、専門家からはその脆弱(ぜいじゃく)

性が指摘されている。複数外貨併用制の導入によって貨幣や物資の流動性が確保されたた

め、ビジネス環境は改善したが、根本的な経済回復にはつながっていない。

<IMF は不安要素の多さを指摘>

ジンバブエ経済の成長持続性について IMF は、安定した政策と対外債務返済がカギだと

する。IMF の試算によると、対外債務残高は 2015 年までに GDP の 2.51 倍に達する見込

み(表参照)。持続的な経済発展のためには、債務の帳消しが不可欠だとしている。

また、IMF が 7 月に発表した報告書では課題として、a.公務員の大幅な賃上げによる財

政圧迫(給与支出は予算全体の 6 割に上る)、b.国営企業の運営能力低下、c.金融システム

の脆弱性、d.対外債務の拡大、の 4 点が挙げられている。

さらに短期的なリスクとして、干ばつや公共インフラの崩壊があると述べ、中期的な見

通しも政策の大幅な改善がなければ明るくないとしている。国際援助が限られ、外国投資

家からの資本流入が減尐していることも課題だ。

IMF は、今後の経済発展のためには、a.政府支出を成長志向型・社会開発型の事業に振

り向けること、b.ビジネス環境の改善、c.給与支出の抑制、d.財政強化、e.財産権の保護、

f.労働市場の柔軟性の確保、g.銀行部門の改革、などが必要だと提言している。

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<経済政策の改善が不可欠>

エコノミストのジョン・ロバートソン氏は「IMF は中期的な実質 GDP 成長率を、経済政

策が改善されれば 5%台、改善されなければ 2%以下と予測している。これは現在の経済政

策では高い成長は望めないことを示唆する。現在の経済政策は政治的な要素が強すぎる。

経済的に非合理な政策を残している以上、2%程度の成長しか達成できないということだろ

う」と話している。

ジンバブエ大学経済学部のトニー・ホーキンス教授は、自らも財務省の政策ミーティン

グなどに関与する立場にあるとして、「ビティ財務相は IMF と協調して成長路線を模索し、

健全で現実的な財政計画に熱心に取り組んでいる」と評価した。それでも経済の持続的な

成長は困難だとし、製造業は電力不足や国内市場が小さいことから将来性は見込めず、鉱

業や観光業で 5%台の経済成長をどうにか維持していくしかない、との見方を示した。

一方、ビジネス関係者は「複数外貨併用制の導入で貨幣や物資の流動性が確保され、新

たに小売店が開店するなど表面的には経済が回復しているようにみえる。しかし、半耐久

消費財や耐久消費財への支出は激減している。金融システムが機能しておらず、長期融資

を得られないからだ。複数外貨併用性は、経済回復の抜本的な解決法にはならない」と指

摘した。

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依然として高い投資リスク-現地情勢レポート(4)

2010 年 09 月 01 日 ヨハネスブルク発

投資環境は必ずしも改善しているとはいえない。資本の 51%をジンバブエ人に譲渡する

ことが義務付けられるなど外資規制強化の動きがあり、投資リスクは高い。

<現地化・エンパワーメント法の見通しは不透明>

投資判断の焦点となるのは、現地法人の現地化を義務付ける現地化・エンパワーメント

法(現地化法)の行方だ。2008 年 4 月に施行された同法は、ジンバブエの現地法人の株式

のうち、51%をジンバブエ人が所有しなければならないと規定している。10 年 2 月には同

法に基づいて、50 万ドル以上の資産を国内に保有する外国企業は、5 年以内に資本 51%を

現地化するよう官報で通知された。既に進出している企業については、10 年 3 月末までに

エンパワーメント計画を提出することが義務付けられた。

現地化法が施行されて以降、外国企業は投資を控え始め、経済の悪化に拍車が掛かった。

当初はジンバブエ人に有益だと歓迎していた地元のビジネス団体も、経済への悪影響を受

け、内容の緩和を求めるようになった。2 月の官報に対しては、外国企業の投資を妨げかね

ないとして、鉱業会議所などから修正を求める声が上がった。

これを受け、政府は 6 月、a.鉱業、運輸、エネルギーなどの産業別に委員会を設置して、

それぞれ現地化する資本の目標値を定めること、b.資本の現地化は無償譲渡ではなく商取引

に基づくこと、c.社会貢献活動などをエンパワーメントクレジットとしてカウントし現地資

本と相殺できること、などについて修正した。

ジンバブエ全国商工会議所のアンドリュー・マティザ最高経営責任者(CEO)は、「現

地化法の制定後、撤退した企業や投資を留保するケースをいくつもみてきた。投資による

利益が現地に還元されるべきという概念自体は正しいが、法律は外国投資家にマイナスの

イメージを与えている。他方、国内で活動する企業の多くは現地企業で外国企業は尐数派。

同法を施行するメリットは必ずしも大きくないという点を政府に訴えている」と語る。

ジンバブエ大学経済学部のトニー・ホーキンス教授は「現地化法を脅威と感じる必要は

ない。ほかの国でも一定の外資規制はみられる。ただし、51%が現地資本というのは現実

的ではない。また、法律には意図的にあいまいな部分が含まれており、政府との交渉の余

地が残っている。このリスクを負うことをいとわない中国やナイジェリア、アンゴラ企業

の投資が最近は増えており、これまでの欧米諸国に代わる投資家になるかもしれない」と

指摘した。

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また、同教授は「連立政権を構成するジンバブエ・アフリカ民族同盟・愛国戦線(Zanu

-PF)、民主改革運動(MDC)も外国投資は地元にも発展をもたらすべきだという根本的

な思想は共有しており、片方の単独政権になったとしても、現地化法はかたちを変えて残

る可能性が高い」と語っている。

一方で、エコノミストのジョン・ロバートソン氏は「市場志向型の政策を目指す MDC は、

政権をとれば現地化法を撤廃するのではないか」と話し、ホーキンス教授とは見方が分か

れた。

<南アとの投資保護協定の批准時期も不明>

09 年 11 月に署名されたものの、ジンバブエが未批准の南アフリカ共和国との投資保護協

定の行方も注目される。国内での所有権に対する政府の方針を示す指標になるからだ。00

年に政府は土地改革として、白人農場主からの土地強制収用を断行したが、その際の収用

対象地に南アの農場主が投資した農地も含まれていた。外国企業の間では、投資した資産

の強制収用に対する強い懸念がある。

南アとの投資保護協定は、農業以外の分野で外国投資家が財産を収用された場合には、

現地政府がそれを補償することが義務付けられている。政府が補償を拒否すれば国際裁判

所での調停を求めることができる。ただし、農地や土地改革のための収用は保護対象とは

ならない。

投資保護協定は 6 月上旬に南ア議会で批准されたが、ジンバブエ議会ではまだ批准され

ていない。南ア側で同協定を担当する貿易産業省(DTI)国際貿易経済開発局は、批准の予

定時期を過ぎてもジンバブエから連絡がないとコメントしている。

投資保護協定は締結後に収用された土地が保護対象になる。協定が締結されれば、農業

以外の分野に投資する南ア企業にとってジンバブエでの投資リスクが軽減されることにな

るが、先行きは不透明だ。

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リスク承知で投資する企業も-現地情勢レポート(5)

2010 年 09 月 02 日 ヨハネスブルク発

投資環境の先行きがみえない中でも、投資を拡大させている外国企業がある。プラチナ

やダイヤモンド、金などの鉱業分野を中心とする企業だ。各企業はリスクを負いながらも、

投資に怠りない。シリーズ最終回。

<新興国からの投資も>

ジンバブエ投資庁のデータで 2009 年の対内直接投資(認可ベース)を国別にみると、従

来の主要投資国の南アフリカ共和国や英国のほか、中国、インド、アンゴラなど新興国か

らの投資があった(表 1 参照)。

分野別にみると、鉱業分野での投資が多い。ジンバブエはプラチナ鉱石(08 年生産量世

界 4 位)、クロム鉱石(6 位)の主要な生産国であることに加え、ニッケル、金、ダイヤモ

ンドなど豊富な資源に恵まれていることが背景にある(表 2 参照)。

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<リスクへの対応は各社で工夫>

ジンバブエで活動する企業は、リスクへの対応に気を配りながら投資を進めている。

南ア企業インパラ・プラチナは、87%を出資するジムプラッツへの投資を拡張している。

09 年に 3 億 4,900 万ドル、10 年に 5 億ドルを投じて年間 27 万オンス(1 オンス=約 31.1

グラム)までの能力向上を目指す。同社は進出の動機として、「深部化が進み労働集約型

の操業が求められる南アの鉱山と異なり、ジンバブエでは鉱床が地下の浅い所(数百メー

トル以下)にあり、機械化によって操業コストが抑えられる」ことを挙げる。

業界関係者の間には、同社の南ア鉱山では将来的に採算の見込みが低下しているため、

ジンバブエでの拡張が同社に残された唯一の選択肢だとの見方がある。また、同社はジン

バブエでの長い操業の歴史からジンバブエ政府との交渉力があるため、同社の成功は例外

的だとみる向きもある。

同社は 09 年 9 月の投資家向けのリスクレポートで、a.ジンバブエ政府による外資規制の

強化、b.企業資産の所有権の制限、c.採掘した鉱物に対する輸出規制、d.インフレ率の上昇、

e.労働争議、f.基本インフラの悪化、の 6 点が同社の経営や財務状況にマイナスの影響を与

えるリスクがあると発表している。資本 51%の現地化への対応については、06 年に政府と

合意した「株式で 36%を譲渡し、残りの 15%についてはインフラ・社会基盤整備のための

支出をもって相殺する」という内容について、政府との最終合意が得られていないとして

いる。

南アのアングロ・プラチナは、34 億ランド(1 ランド=約 0.14 ドル)をかけて進めてい

るウンキプラチナ鉱山の開発を、予定どおり 10 年第 3 四半期に開始すると発表した。同社

の 09 年の年次報告書には「現在政府が進めているビジネス環境改善への取り組みは前向き

なものだ。09 年 11 月には南ア・ジンバブエ投資保護協定が署名されたほか、鉱業権の安定

(Mineral rights tenure)を保証する特別鉱業権が政府から貸与された」と、ジンバブエ

政府が投資環境の改善に動いているとの見方を示している。

南アの DRD ゴールドは 10 年 2 月、金鉱山探査のため地元企業との合弁設立に 500 万ラ

ンドを投資すると発表した。同社の投資家向け広報担当者ジェームズ・ダンカン氏は「政

治情勢には警戒が必要だが、ジンバブエには高い成長潜在性がある。鉱体はかなり質が高

く、政治不安を理由に無視するにはもったいない」と語る。また、中国、インドが積極的

に鉱山開発を進めており、資源獲得競争が激化していることも動機の 1 つだとし、「状況

が好転したときに乗り遅れないよう、ジンバブエでの足場を築いておく」ことを重視して

いるという。

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現地化法については「合弁の報告で事業計画を検討しているため、大きな問題とはとら

えていない」とのことだが、リスクが高い大規模な投資は避け、投資の規模を抑えること

でリスクバランスをとっていくと語った。

状況が好転した場合に備え、投資を進めるというケースは、鉱業以外の分野でも聞かれ

る。10 年 3 月に現地の小売りチェーンの株式数十パーセントを取得したある南ア投資ファ

ンドは「ジンバブエへの投資は 4~6 年の長期的視野でとらえている。同国経済は数年前に

最低レベルまで落ち込んでおり、これ以上悪化する恐れは尐ないだろう。とはいえ、中短

期的な回復について楽観的な見方はできず、投資規模を縮小させて投資損失のリスクを最

小限に抑えている」とコメントした。

エコノミストのジョン・ロバートソン氏は「小売りや飲食店など情勢が悪化したときに、

すぐに撤退できるビジネスは増加しているが、大型で長期的な投資が求められる製造業な

どへの投資はほとんど見込めない」とみる。ジンバブエ大学のトニー・ホーキンス教授は

「投資へのリスクはかなり高いといわざるを得ない。ジンバブエの資産に投資する動機が

どれほど強いかによる。どこまでリスクを取るかは、それぞれの企業判断による」と指摘

した。

(高崎早和香)

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アンケート返送先 FAX: 03-3582-5309

e-mail:ORA @jetro.go.jp

日本貿易振興機構 海外調査部 調査企画課宛

● ジェトロアンケート ●

調査タイトル:現地情勢レポート(ジンバブエ)

ジェトロでは、ジンバブエの政治・経済情勢を取り纏めました。報告書をお読みいただい

た後、是非アンケートにご協力をお願い致します。今後の調査テーマ選定などの参考にさ

せていただきます。

■質問1:今回、本報告書で提供させていただきました「現地情勢レポート(ジンバブエ)」

について、どのように思われましたでしょうか?(○をひとつ)

4:役に立った 3:まあ役に立った 2:あまり役に立たなかった 1:役に立たなかった

■ 質問2:①使用用途、②上記のように判断された理由、③その他、本報告書に関するご

感想をご記入下さい。

■ 質問3:今後のジェトロの調査テーマについてご希望等がございましたら、ご記入願い

ます。

■お客様の会社名等をご記入ください。(任意記入)

ご所属

□企業・団体

□個人

会社・団体名

部署名

お名前

※ご提供頂いたお客様の個人情報については、ジェトロ個人情報保護方針(http://www.jetro.go.jp/privacy/)に基づき、適正に管理運用させてい

ただきます。また、上記のアンケートにご記載いただいた内容については、ジェトロの事業活動の評価及び業務改善、事業フォローアップのため

に利用いたします。

~ご協力有難うございました~