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AACE Japan Section Cost Engineering Journal Number 28 September 2020 AACE 日本支部

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AACE Japan Section

Cost Engineering Journal

Number 28

September 2020

AACE 日本支部

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目 次

Page

設備投資に影響する景気循環と経済・産業の構造変化 笹野 賢次

1. はじめに 12. 景気循環 13. 経済・産業の構造変化要因 24. 我が国の姿 25. 国際機関と大国の行動 46. PCI と各種建設費指数 47. 我が国の民間企業設備投資 78. 建設業の実態 109. 関連資料 1410.我が国の業種別営業利益の推移 15

我が国の設備投資額の回帰分析による考察 笹野 賢次

1. はじめに 172. 本書の目的 183. 我が国の主要業種設備投資指数と ENN-PCI 184. 我が国の代表的な建設費指数 195. 主要業種設備投資回帰分析の結果 216. 我が国の主要業種別営業利益の推移 277. 終わりに 29

PCI の変動と将来予測 笹野 賢次

1. はじめに 302. ENN-PCI 313. ENN-PCI の活用 324. PCI の変動要因 325. PCI の将来予測法 326. ENN-PCI の将来予測 347. 経済の構造変化による経済指標の変動幅、タイムラグ、 35

スパーンの考察

8. 主要指標の考察 369. ENN-PCI の将来予測結果 3910.終わりに(長期循環) 40

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設備投資に影響する景気循環と経済・産業の構造変化

笹野 賢次

1 はじめに

設備投資は、景気循環と経済・産業の構造変化の影響を受ける。経済が構造変化する

と産業も並行して変化する。更に、生活環境、働き方も変わる。官・民とも変化に対応は

必然。

本書は、産業構造の変化について記述する。

経済の構造変化は、別紙「PCIの将来予測」参照。

2018 年度我が国の名目GDP内訳では、重複しているが民間企業設備投資:83 兆

円、総固定資本形成:134 兆円。いずれも多額でバブルの状況。

設備投資は個々の企業の判断で行っているが国レベルのマクロ経済レベルで評価する

と多額の資金を投入したが費用対効果は悪く、その上、第三次産業革命には致命的に遅れ

ている。そして多くの企業は高コスト体質になった。

この結果産業の技術革新の遅れ、労働分配率の低迷による個人消費の停滞、労働慣行

改善の遅れ、格差・差別社会の是正停滞等産業の構造改革が停滞し我が国全般の国際競争

力低下要因となった。

2012 年 12 月からアベノミクスにより好況、官民とも浮かれて将来の大局観も見過ご

した。そして。国・企業・個人も将来布石を怠った。

経済・産業の構造変化要因は世界的なクラッシュを引き起こす。

我が国は、高度成長期は終焉している、クラッシュの後に単に経済の回復を指向して

も復元はない。産業構造の改革なしに我が国の健全な成長はしない。

現況は、1990 年から始まったIT・情報化が先導し第三次産業革命の真っただ中、

国・企業・個人も対応に遅れている。

2.景気循環

我が国の景気循環は、短期循環(3~7 年)、中期循環(~20 年程度)、長期循環(~

50 年程度)に区分している。

1) 短期景気循環は、主に鉱工業生産・個人消費・輸出入で判断する。

2) 中期景気循環は、建設投資・設備投資循環を形成しピーク時は建設費指数・P

CI(Plant Cost Index)ともオーバ-シュートし高騰・バブルとなる。

3) 長期景気循環は、行財政改革、産業革命で評価。明治維新に廃藩置県して以

来、行政改革は進ます、小さい国に多くの都道府県、市町村がひしめき合ってい

る。財政改革も一向に進まず一般政府の負債は他国と比較して突出して多額、正

味資産は底をついている。

政府の予算配分は、保護主体で前向きの改革資金は少ない。戦後の高度成長期

は重化学工業分野で欧米の先進技術を投入しキャッチアップ型で成功、多くの分

野で世界のフロントランナ-になった。

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1973 年第一次オイルショックにより高度成長は終焉。我が国独自の軽薄短小

型に転換は機能不十分。

1990 年以降の第三次産業革命は、当初IT・情報産業(PC・インターネッ

チ)、つついて、AI・Iot・5G・脱HC・EV・宇宙開発が主体となり、

多くの関連産業を包含し雁形飛行で産業革命は進行している。現況は 30 年経

過、今後 20 年続く。

第三次産業革命の成果は、あらゆる情報の大容量化とスピート化、働き方の改

革、生産性の向上、製品・サービスの利便性・機能向上、安全性の向上、デザイン

の劇的向上、快適な生活様式、スピート重視である。

3.経済・産業の構造変化要因

景気循環以外に突発的に経済・産業の構造変化要因が発生し、景気循環のイレギュ

ラ-要因となる。

近年の経済・産業の構造変化要因(大きな要因のみ記載)。

1)1973 年第一次オイルショック。

2)1985 年プラザ合意による急激・大幅な円高/ドル安。

3)1990 年我が国のバブル経済崩壊。

4)1997 年アジア通貨危機。

5)2001 年米国ITバブル崩壊。

6)2008 年 9 月リーマンショック。

7)2015 年 8 月中国人民元切り下げ。

8)2019 年 12 月中国武漢で新型コロナウイルス発症。

新型コロナウイルスの世界的な蔓延は、リーンショツク以上のインパクトがあ

り、影響するスパーンが長い。

これらの要因は、経済の構造変化に留まらず産業構造の変化にも波及し設備投資に多大

な変動要因となる。

そして、わが国・企業・個人の潜在的な課題か顕在化する。

4.我が国の姿

1)明治維新

廃藩置県で行政改革を断行し 47 都道府県に集約したが多くの市町村を残した。そ

の後抜本的な行政改革は行わなかった。小さな国に多くの地方自治体かひしめいて効

率が悪い、このままでは多くの市町村が消滅する。

明治政府のスローガンの殖産振興、富国強兵では。軍部の台頭で失敗したが、その

他はキャッチアップ型で成功した。

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2)第二次大戦後、

農地改革により小規模農業で農地を区分、その後米価を維持・継続して保護。農業

の集約は致命的に遅れた。

重化学工業は、欧米の先進的な技術を導入しキャッチアップ型で成功した。多くの

分野でフロントランナ-になったが、安い賃金を武器に多くの分野で後進国に追い上

げられた。

労働慣行は、終身雇用で優秀な人材を集め成功した。しかし、産業の構造変化に対

応できず、企業・個人の新陳代謝が致命的に遅れた。

建設業は、戦後の荒廃した国土の復興の担い手で、不況になっても財政出動、財政

投融資で支えた。そして、大型工事は分割し更に1件毎にジョイントベンチャに中小

企業を組ませて発注した。地方公共団体は地方の業者を優先した。その結果、地場産

業の中小零細企業は合従連衡せずに生き残れた。

建設業は重層構造の下請け(多い時は 7 次)で施工する、1社あたりの付加価値率

は 22%程度で低く、元請から下請け孫請けにシフトする。中小零細企業に仕事をシフ

トするサプライチェ-ン。

建設業の現地工事の職種は多く約 50 種、ある程度は集約できても分割発注せざる

を得ない。

我が国は多くの産業分野で中小・零細企業を保護する目的で規制を張り巡らし

た。そして、規制解除が致命的に遅れた。典型的な分野は大店法の改正が遅れ。小

売業の集約が遅れた。

3)1973 年オイルショック以降

重工長大型から軽薄短小型の産業構造に転換が必然となった。多くの重工長大型の設

備が過剰になり多くの過剰設備を破棄した。

造船業は、2 度にわたり国費を投入し過剰設備を破棄した。そとて、大手は破棄率を

大きく、中小零細企業は比率を下げ保護した。この結果、後年度に韓国・中国に追い上

げられる要因となった。

雇用では、戦後の高度成長を支えた多くの就業者は過剰になったが労働慣行の抜本的

な改革をしなかった、労使ともサバイバル戦略に終始し産業の構造改革が遅れ企業の新

陳代謝が致命的に遅れる要因となった。

この時期から設備投資は原則自由化し、各企業の判断に委ねられているが、利益が上

がってから雨後の筍の様に一斉に設備投資する。中期景気循環のピーク時に建設費指

数・PCIはバブルとなりマクロ経済の視点で多額の損失となっている。

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4)1990 年以降

IT・情報化が先導し、2000 年以降はAI、Iot、5G、脱HC等が雁系飛行の第

三次産業革命の時代となった、官・民・個人とも対応が遅れている。

2012 年 12 月から始まった景気回復で企業は多額の利益余剰金を積み上げた。そし

て、各企業は雨後の筍の様に設備投資を実行し建設費・PCIは高騰しバブル。後年度

高コスト体質となる。

5.国際機関と大国の行動

国連、WTO、WHOも大国のエゴにより十分機能していない。第二次世界大戦後

の東西の冷戦も一時的に緩和されたが、米・中の冷戦が深刻化している。発展途上国

の民主化も進展していない。

国連機関と大国の行動も新型コロナウイルス対策に寄与していない。そして、国際

世界的なクラッシュに悪影響を及ぼす。

6.PCIと各種建設費指数

1)ENN-PCI

ENN-PCIは我が国を代表するPCIである。

ENN-PCI(コスト要因)とENN-PCI(コスト+需給要因)の推移を下記グ

ラフに示す。

ENN-PCIは短期景気循環、及び、中期景気循環の影響を受け大幅に変動している。

2019 年は中期景気循環のピークで高騰しバブルの状況。

2019 年 1 月新型コロナウイルス発症、経済・産業の構造変化により急激・大幅に下落す

る。

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ENN-PCI(コスト)要因は、材料費+減価償却費+付加価値額(賃金コスト+利

息等+賃貸料+租税公課+利益)で計算。財務省方式に準拠。エンジニアリング会社の立

ち位置でプラントを建設する場合のコストとして設定。

ENN-PCI(コスト+需給要因)は、プラント関連業界の需給要因を加味して算定、

プラント特有の重層構造で建設。サプライチェ-ン間の需給変動に伴う実勢価格変動を考

慮し、有効求人倍率とロケーションフアクタ-を加味して算定している。

2)各種建設費指数

各種建設費指数を下記グラフに示す。

デフレ-タ(S):建築工事費デフレータ(鉄骨構造):国交省算定

物価指数、サービス料金、賃金指数で計算、利益は算定していない。

建築着工統計(製造業):建築着工予定価格/延べ面積を指数化

建築着工統計は、着工ベース、ENN-PCI(コスト+需給要因)は実勢価格で進捗

ベース。

2012 年 12 月安倍内閣発足、景気は回復し、建築工事費デフレ-タで上昇率の大きい

鉄骨構造でも上昇率は緩やか。政府・国交省は問題視しない。

ENN-PCI(コスト要因)建築工事費は、物価+減価償却費+付加価値(賃金+租税公

課・賃貸料、利益、支払金利等)を加味して計算、デフレータより高くなる。

建築着工統計(製造業)、ENN-PCI建築工事(コスト+需給要因)は実勢価格の

建築費指数で高騰しバブルの状況。

各種建築費指数は大幅に乖離し官民の共通認識はない。したがって、業界・国レベルで

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設備投資のプログラムマネージメントは機能しない。

3)建築着工統計構造別建設費指数と ENN-PCI(コスト+需給要因)

建築工事構造別建築費指数と ENN-PCI(コスト+需給要因)建築工事を下記グラフに

示す。

注.TOTAL:全建築物。W:木造・主に個人住宅。SRC:鉄骨鉄筋コンクリー

ト・主に高層建築物。RC:鉄筋コンクリート・主に中層建築物・マンション。S:鉄

骨・工場建物・倉庫。

構造別では、SRC、RC、S構造の変動幅が大きい。中期循環でピーク時は高騰しバ

ブルとなる。

W(木造)個人住宅業界は、発注形態、サプライチェ-ンも異なり、価格変動は小幅に

安定。構造も鉄筋は加工・組み立てして現地に搬入、構造物もプレハブ化している。仕様

も格段に向上しているが生産性向上で価格を抑えている。

住宅産業は、需要は経年で若干減少しているが変動は小幅。業者は絶えず新モデルを

開発し技術革新が進んでいる。プレハブ比率を上げ現場工事を少なくしている。水平分業

主体で工事を行いサプライチェ-ンも確立している。

建設業界健全化のノウハウが詰まっている。

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4) 建築着工統計用途別建築費指とENN-PCI(コスト+需給要因)建設工事

全建設物計は木造・個人住宅の影響で上昇率は低く抑えられている。

製造業、化学工業/石油製品、工場及び作業場は 1 棟毎に仕様が異なり構造が複雑、

その上、耐震構造、安全対策、機能の自動化、IT・情報化等の仕様アップも価格に影響

する。

これらの業界は、発注側は需要の平準化。受注側は企業の合従連衡、中小・零細企業の

労働条件改善、業務の電子化、作業のプレハブ化、外国人就業者の活用、水平分業、合理

的なサプライチェ-ンの確立等課題は多いが実行力が問われている。

7.我が国の民間企業設備投資、

我が国の民間企業設備投資額と資金面(内部資金:減価償却費+利益)の関係につい

て、法人企業統計季報:金融を除く全規模を活用し、回帰分析を行った。

設備投資額は、投資資金面からみると減価償却費+利益(営業利益、経常利益)と相

関関係は極めて良い。

設備投資額(進捗ベース)。営業利益、経常利益は季節変動が大きいので市販ソフトで

季節調整した。

減価償却費は、期毎の変動は小幅で推移する。一方、営業利益、経常利益は短期・中

期景気循環の影響を受け民間企業設備投資額は大幅に変動し、供給面の建設関係就業者と

需給のミスマッチとなる。この結果、実勢価格の建設費及びPCIは大幅に変動する。

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1) 全産業(金融・保険を除く)設備投資

全産業設備投資額と減価償却費、営業利益、経常利益を下記グラフに示す。

設備投資額、減価償却費はリーマンショック前の水準を下回る。

営業利益、経常利益は、リーマンショック以前を上回り、特に、経常利益は大幅に好転し

ている。企業収益から見ると空前の好況といえる。

全産業設備投資額を回帰分析した結果を下記グラフに示す。

回帰分析結果は、

設備投資資金は、減価償却費 83%、営業利益 28%。設備投資は、減価償却費を上回り

主に営業利益で補填する。

設備投資額は、収益によって大幅に変動する。需要と供給の最大のミスマッチ要因と

なる。

2008 年 9 月リーマンショック以前の設備投資は、オーバーシュートしていた。そし

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て、リーマンショックによる世界的なクラッシュ要因により設備投資額は大幅に減少し

た。

その後の主要国は、積極的な財政・金融政策により世界経済はV字型で回復した。し

かし、設備を発注しても設備投資進捗ベース(大型工事は 1~2 年)のタイムラグがあり

回復は遅れる。

2) 製造業における目的別設備投資の構成

(株)日本政策投資銀行調査によると、製造業の設備投資構成は、

2007 年度 2019 年度

・能力増強 42.8% 23.4% ・新製品・製品高度化 12.3% 17.3% ・合理化・省力化 10.0% 11.1% ・研究開発 6.2% 7.8% ・維持補修 16.6% 25.9%

・その他 12.1% 14.5%上記を評価すると,2007 年度リ-マンショック前と比較し 2019 年度は、

能力増強:半減。大型の設備投資は皆無。

新製品・製品高度化:40%増

研究開発:25%増

維持補修:60%主力の能力増強は半減、設備を Scrap and Build すると我が国製造業の生産能力は横ば

い。国際競争で優位な大型の設備投資は皆無。新製品・高度化製品にシフト。研究開発は

漸増。維持補修は大幅に増加、設備は老朽化し新陳代謝を妨げている。

3) 化学 3 社の業績と設備投資・研究開発費

我が国を代表する化学 3 社(三菱ケミカル、住友化学、三井化学)の業績と設備投資比

率、研究開発費比率を下記グラフに示す。

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化学 3 社の業績は持続的に良い、設備投資比率は減価償却費比率を大幅に上回ってい

る。研究開発費比率も高水準。

企業は持続的に安定経営するには、設備投資比率、投資CF比率、研究開発費比率を適

切な水準に維持する必要があるが、業績の安定しない企業の比率は低い。

また、収益が良くても設備投資比率、研究開発費比率が低い企業は中長期的に業績は悪

化する。

化学 3 社は多額の設備投資と研究開発費を計上している。しかし、世界的に大企業とは

言えない。3 社は更に合従連衡し規模を拡大すれば設備投資、研究開発費、ランニングコ

ストの低減できる。

8..建設業の実態

建設業は、設備投資、固定資本形成で主役である。しかし、国内の限られた競争で、

その上、不況になると政府は多額の公共投資で業界を過剰に保護した。この結果、わが国

産業の中で最も遅れた業態である。

建設業の実態は、法人企業統計データを分析すると鮮明になる。

1)建築着工床面積指数

設備投資数量と相関関係が良好な建築着工床面積指数を下記グラフに示す。

2007 年サブプライム顕在化、2008 年 9 月リーマンショックにより大幅に減少した。

その後景気はV字型回復し 2014 年年初まで増加した。それ以降は、建設費指数、PC

Iは大幅に高騰し更に深刻な人手不足により建築着工床面積は減少に転じた。

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2) 生コンクリート月別出荷量(季節調整値)

生コン出荷量は、出荷して 2 時間以内に打設する。在庫・輸出もない。建設工事進捗ベ

ースの実態を正確に捉えている。

建築着工床面積指数と相関関係は良い。

生コンクリート出荷量は、2020 年年初から新型コロナウイルス感染の影響で減少に転

じた。

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3)建設業就業者と雇用者数を考察する。

建設業は 1997 年から右肩下がりで就業者、雇用者数が減少した。

雇用者に対し就業者は 100 万人程度多い。主に1人親方と思われる。

建設業は、典型的な労働集約産業、物的労働生産性向上は殆ど無いに等しい。したが

って、供給側のフレキシビリテ-は限られている。そして、需要(資金面)の大幅変動に

対応できず、景気の中期循環(~20 年程度、建設投資・設備投資循環)のピークにはバブ

ルとなる。

雇用者の年齢構成は、55 歳以上が 33%、29 歳以下が 10%、10 年後は多量リタイヤに

より更に減少する。

4)建設業の規模別役員+従業員(人)

建設業は大型工事では、元請、下請、孫請等 7 次程度で施工する。各段階の付加価値

は 22%程度で、残りは下請けにシフトする。

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建設業の規模別(資本金)では 5 千万円以下の中小・零細企業が主体。

5)建設業の規模別従業員一人当たりの付加価値額(万円/人/年)

建設業の従業員一人当たりの付加価値額は規模によって大幅に格差がある。規模 1 千

万円以下の企業は、労働分配率 50%程度であり、平均年収は 330 万円程度。労働条件の

改善なしに人材は確保できない。

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6)建設業販売費及び一般管理費比率(%)

建設業の販売費及び一般管理費比率は非常に高い。特に、中小・零細企業は役員比率が

高く高コスト体質。この状態で重層構造の下請けで施工することが最大の高コスト体質の

要因。

建設業界の販売費及び一般管理費比率は非常に大きい高コスト体質の要因。

建設業界は、

(1)企業の合従連衡が致命的に遅れている、合従連衡は不可避。

(2)重層構造の下請けで、業者間の多くの業務が重複している。

(3)サプライチェーンは重層構造の垂直分業から合理的な水平分業にシフト。

(4)一社当たりの付加価値比率が低く労働生産性が上がらない。

(5)中小・零細企業の労働条件は劣悪で優秀な人材が育たない。

(6)工事現場の労務者の移動はコスト(交通費・宿泊費・経費等)がかかり建設地

の限られた業者が優位になり競争原理が働かない。

(7)業務の電子化が遅れている。

9.関連資料

1) 2020 年度JSCE Journal:ENN-PCIの将来予測。

2) 2020 年度JSCE Journal:我が国の設備投資の回帰分析による考察。

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10.我が国の業種別営業利益の推移

1)非製造業、製造業、全産業の営業利益の推移を下記に示す。

主要業種の設備投資額は、営業利益の増減が影響する。

製造業は、戦後の高度成長期の主翼であったが近年は停滞している。最大の要因はこ

の分野の構造改革の遅れとグローバル化による国際競争力の低下である。

非製造業は、国内の規制緩和とIT・情報化、AI・Lot・4G・5G、4Kの波及効

果で今後も上昇し、わが国の主翼産業となる。

製造業は、2008 年 9 月リーマンショックにより営業利益は大幅に減益、その後、主要

国の協調による積極財政、金融緩和によりV字型回復したが、それ以降は停滞している。

最大の要因は、製品・サービスのコモディテー化の影響でデフレ状態が長引き企業の付加

価値が上がらない。一方、戦後のストック経済の積み増しにより個人・企業・一般政府は

物が充足している。高度成長期のような新規需要は期待できない。

11.終わりに

1) 我が国の総固定資本形成は、重複しているが 2018 年度 134 兆円、民間企業設備

投資は約 88 兆円で多額である。関連業界は、建設材料は製造業、建機等はリー

ス業界、その他のサービスはサービス業界が担い、巨大な集合体である。

しかし、投資を費用対効果で評価すると効果が悪く、投資の目的も長期循環を

見据えた産業革命に対応できていない。

2) 我が国の企業は、世界的に見て中小・零細企業が主体。企業の合従連衡が致命

的に遅れている。設備投資しても小型になり建設費・ランニングコストが割高

になり高コスト体質、研究開発は業者間で重複している。

3) 国内の大企業も各セグメントで評価するとシエアの大きいものは少ない。セグ

メント毎の中長期の展望を評価し厳格な取捨選択し見込みのないセグメントは

新陳代謝を早める必要がある。

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4) 2012 年 12 月安倍内閣発足、多額の財政出頭、積極的な金融緩和により全産業

設備投資額は上昇し、2019 年 7~9 月期にピーク(ターニングポイント)とな

った。2019 年 10 月消費税増税の影響を受け減少し,更に、2020 年 1 月以降は

新型コロナウイルスの蔓延によりPCIバブルは消滅し設備投資は大幅に減少

する。

5) 我が国の中期景気循環(建設投資・設備投資循環)のピークは建設費、PCI

はバブルとなり我が国レベルで 20~30 兆円の高コストで建設している。

6) 我が国の建設業界は、重層構造で施工し、合従連衡が遅れ、業者関で費用が重

複し高コスト体質。

7) 建設業界の契約は、一般競争見積で行うが、地域で限られた競争、その上、バ

ブル期は競争原理が働かない。

8) 建設業界は、体力のあるうちに構造改革が必然。その方向は、業務の電子化、

垂直分業(7 次程度の下請け)から合理的な水平分業によるサプライチェ-ンの

確立。外国人従業員の育成と活用。

9) 建設業界は、労働条件の改善に積極的でない、3K、4Kからいまだ脱却できな

い。

10)設備投資発注側は、利益が上がれば雨後の筍の様に設備投資を行う、地域・広

域の労働需給を全く考慮しない。

11)企業・業界・政府は、建設費指数、PCI実勢価格の共通の指針を設定し、活

用によりマクロ経済レベルで設備投資の最適化を図る必要がある。

12)我が国の建設業は、製造業とともに二次産業の双璧で健全な発展なしに我が国

の隆盛はない。

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我が国の設備投資額の回帰分析による考察

笹野 賢次

1 はじめに

2018 年度我が国の名目GDP内訳では、重複するが民間企業設備投資:88 兆円、総

固定資本形成:134 兆円、いずれも多額でバブルの状況。

建設費・PCIの高騰は、ステークホルダーに多大な損失となり、経営責任を問われ

る。そして、業界・政府も分析・評価せず傍観し無責任状態。

設備投資と固定資本形成は不可分の関係で、建設業界とプラント業界も不可分であ

る。

政府はGDP設備投資額が増加すると景気上昇として自画自賛する。設備投資額高騰

による弊害の分析を全くしない。

結果としてわが国は後年度高コスト体質となり国際競争力の低下と個人の生活水準停

滞から抜け出せず景気後退期となる。

我が国の景気循環は、短期循環(3~7 年)、中期循環(~20 年程度)、長期循環(~

50 年程度)に区分し、中期循環は、建設投資・設備投資循環を形成しピーク時はオーバ

-シュートし高騰・バブルとなる。

活用したデータは主に「法人企業統計:季報」

建設費指数・PCI(Plant Cost Index)バブルの要因は、

(1)需要と供給のミスマッチに起因するが官民とも的確な認識と対策はない。

(2)設備投資は、原則自由化し各民間企業の判断に委ねられているが、わが国のマ

クロ経済レベルで考察すると、短期的に乱高下し、中期的にオーバーシュート

しバブルとなる。結果として多大な損失となっている。国レベルで評価すると

マクロ経済レベルで調整機能がない。

(3)設備投資する側の投資判断は、利益が上がってから雨後の筍の様に投資する、

大型の設備投資判断は 1~2 年遅く、設備完成時期には景気後退となる。

(4)官民は、建築費指数・PCIを共有して活用できていない。

(5)供給側の建設業界は、地域の地場産業の業態、構造改革が致命的に遅れ、物的

生産性上昇が皆無。

関連資料別紙 「2020 年 JSCE Journal」設備投資変動に影響する景気循環と経済・産業の構造変化

ENN-PCIの将来予測

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Page 20: Cost EngineeringJournal...AACE Japan Section Cost EngineeringJournal Number 28 September2020 AACE日本支部

2.本書の目的

本書は、主要業種の設備投資資金面を主眼に回帰分析を行い、わが国主要業種の設備

投資の問題点を評価・分析し、解決策を提示することにより我が国の建設投資、設備投資

の健全化に寄与することを目的とする。

3、我が国の主要業種設備投資指数とENN-PCI

1)我が国の主要業種設備投資指数とENN-PCIを下記グラフに示す。

設備投資は、2008 年 9 月リーマンショックより若干タイムラグがあるが 2009 年に設

備投資額は底となった、その後景気は回復して 2019 年度がピークとなった。

プラント建設費の実勢価格を表すENN-PCI(コスト+需給要因)も大幅に連動し

変動した。

2)化学機械機種別生産量

化学機械機種別生産量(重量)の推移を下記グラフに示す。

機械生産(出荷)は設備投資の先行指標で化学機械生産量(重量ベースの工場出荷)

は化学工業設備投資の先行指標である。

化学工業は我が国製造業業種別では最も業績が良い。しかし、化学機械機種別生産で

評価すると右肩下がり。大型のエチレン製造設備、誘導品のPP、HDPE、LDPP、

フェノール等の大型設備投資も一巡し、中型の高機能製品にシフトしている。

我が国の重化学工業の設備投資も劇的に構造変化している。化学工業は代表例であ

る。そして、経営環境の変化に対応できた業種といえる。

設備投資を総括すると、高度化しているが数量・重量ベースで減少している。

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4.我が国の代表的な建設費指数

1)我が国のGDPデフレ-タ

我が国のGDPデフレ-タを下記グラフに示す。

民間企業設備投資デフレーターでは設定したウエイトに物価、サービス料金、賃金を

かけて算定する。しかし、重層構造の下請けでどのレベルでコストが発生しているのか、

業者間の経費+利益が算定されていない、完成した設備の実勢価格とトレンドは大幅に乖

離している。

我が国政府・日銀は、GDPレベルでインフレの懸念は微塵もなく、日銀の判断は物

価上昇目標年率 2.0%が達成できない。

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2)各種建設費指数

各種建設費指数を下記グラフに示す。

デフレ-タ(S):建築工事費デフレーター(鉄骨構造):国交省算定

物価指数、サービス料金、賃金指数で計算、利益は算定していない。

建築着工統計(製造業):建築着工予定価格/延べ面積を指数化

建築着工統計は、着工ベース、ENN-PCI(コスト+需給要因)は実勢価格で進捗

ベース。

2012 年 12 月安倍内閣発足、景気は回復し、建築工事費デフレ-タで上昇率の大きい

鉄骨構造でも上昇率は緩やか。政府・国交省は問題視しない。

ENN-PCI(コスト要因)建築工事費は、物価+減価償却費+付加価値(賃金+租税公

課・賃貸料、利益、支払金利等)を加味して計算、デフレーターより高くなる。

建築着工統計(製造業)、ENN-PCI建築工事(コスト+需給要因)は実勢価格の

建築費指数で高騰しバブルの状況。

各種建築費指数は大幅に乖離し官民の共通認識はない。したがって、業界・国レベルで

建設工事の調整機能はない。

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5.主要業種設備投資回帰分析の結果

主要業種設備投資額回帰分析の結果を下記表に示す。

回帰分析結果の考察

主要業種を回帰分析した結果、重相関 Rは極めて良い。

設備投資額は、資金面から考察すると内部資金の減価償却費+利益(営業利益、経常

利益)で説明できる。外部資金の影響もあると思われるが影響は少ない。

1) 全産業(金融・保険を除く)の設備投資、減価償却費、利益

全産業設備投資額と減価償却費、営業利益、経常利益を下記グラフに示す。

設備投資額、減価償却費はリーマンショック前の水準を下回る。

営業利益、経常利益は、リーマンショック以前を上回り、特に、経常利益は大幅に好転し

ている。企業収益から見ると 2019 年は空前の好況といえる。

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2)全産業(金融・保険を除く)の回帰分析

全産業設備投資額を回帰分析した結果を下記グラフに示す。

回帰分析結果は、

設備投資資金は、減価償却費 83%、営業利益 28%。設備投資は、減価償却費を上回り

主に営業利益で補填する。

設備投資額は、収益によって大幅に変動し、需要と供給の最大のミスマッチ要因とな

る。

2008 年 9 月リーマンショック以前の設備投資は、オーバーシュートしていた。そし

て、リーマンショックによる世界的なクラッシュ要因により設備投資額は大幅に減少し

た。

その後の主要国は、積極的な財政・金融政策により世界経済はV字型で回復した。し

かし、設備を発注しても設備投資進捗ベース(大型工事は 1~2 年)のタイムラグがあり

回復は遅れる。

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3) 製造業の回帰分析

製造業設備投資額と減価償却費、営業利益を回帰分析した結果を下記に示す。

回帰分析結果は、設備投資資金は、減価償却費 80%、営業利益 29%。設備投資は、減

価償却費を上回り主に営業利益で補填する。

設備投資額は、全産業と同じ傾向であるが変動幅が更に大きい。

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4)化学工業の回帰分析

化学業設備投資額と減価償却費、経常利益の関係を下記グラフに示す。

回帰分析結果は、

減価償却費 67%、営業利益 22%。設備投資はリーマンショック後停滞していたが

2017 年以降増加した。この要因は、石油化学の大型設備が一巡していたが、近年中型の

高機能製品の投資に転換して成長産業である。。

我が国の化学工業は、産業構造の転換も進展し製造業では最も健全な業種である。

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5) 自動車・同付属品業界の回帰分析

自動車・同付属品業界の設備投資額は、減価償却費、経常利益の関係を下記グラフに示

す。

回帰分析結果は、減価償却費 97%、営業利益 17 日%。設備投は減価償却費を大幅に

上回る。

自動車・同付属品は、典型的な耐久消費財で世界的なクラッシュ要因の影響が大きく、

利益・設備投資とも他の業界より早く変動し変動幅が大きい。

自動車・同付属品業界は、世界経済がクラッシュ状態になった時期の設備投資額の先

行指標である。

近年、自動車業界は 100 年に一度の産業革命の時代、EV化・自動運転に多額の研究

費・設備投資が必要。しかし、これらの投資は中期的に変動を少なくし、平準化が必要で

ある。

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6)非製造業界の回帰分析

非製造業設備投資額と減価償却費、経常利益の関係を下記グラフに示す。

回帰分析結果は、減価償却費 97%、経常利益 17%設備投資額は減価償却費を大幅に上回り、変動幅は緩やかであるが今後着実に増加す

る。

20 世紀後半から始まった第三次産業革命は、当初はIT・情報化が先導し、21 世紀は

AI・Iot、5G、4Kの時代となり、わが国産業の主体は製造業から非製造業に移

行。非製造業設備投資は更に上積みする必要がある。

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7)建設業界の回帰分析

建設業設備投資額と減価償却費、経常利益の関係を下記グラフに示す。

回帰分析結果は、減価償却費 94%、経常利益 10%。

建設業界は、2000 年当初より不況、更に公共投資抑制もあり設備投資は停滞した。

2008 年リーマンショックの影響は受けなかった。

2012 年 12 月、安倍内閣発足、アベノミクスによる景気回復により右肩上がりで増加

しているが、業界の設備投資の水準は低く、労働集約産業から脱却できていない。

6.我が国の主要業種別営業利益の推移

1)非製造業、製造業、全産業の営業利益の推移を下記に示す。

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主要業種の設備投資額は、営業利益の増減が影響する。

製造業は、戦後の高度成長期の主翼であったが近年は停滞している。最大の要因はこ

の分野の構造改革・産業革命の遅れによる停滞とグローバル化による国際競争力の低下で

ある。

非製造業は、国内の規制緩和とIT・情報化、AI・Lot・4G・5G、4Kの波及効

果で今後も上昇し、わが国の主翼産業となる。

製造業は、2008 年 9 月リーマンショックにより営業利益は大幅に減益、その後、主要

国の協調による積極財政、金融緩和によりV字型回復したが、それ以降は停滞している。

最大の要因は、自由化の進展、製品・サービスのコモディテー化の影響でデフレ状態が長

引き企業の付加価値が上がらない。一方、戦後我が国は国民の努力により多額のストック

経済の規模となった。この結果、社会資本も家計部門も物は充足し高度成長期の様な需要

は期待できない。

2) 建設業、自動車・同部品業、化学工業の営業利益の推移を下記に示す。

建設業界は、2013 年以降大幅に利益は向上した。しかし、業界の構造改革、労働条件

改善は未達、企業収益は何に活用すべきでしょうか。

自動車・同部品業界は世界的に競争力があるが世界経済がクラッシュ状態(リーマン

ショック、新型コロナ蔓延等)になると先行して収益が悪化する。現況は 100 年に一度の

自動車産業の産業革命時代に突入、研究開発、設備投資は経営の根幹となる。その原資は

企業収益の安定した確保である。

化学工業は、高度成長期のエチレン主体のコンビナートが一巡し、高機能製品にシフ

トしている。我が国の化学工業は、製造業の中で最も構造改革が進んでいる。今後は更に

進展を期待する。

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7.終わりに

1) 我が国の総固定資本形成は、重複するが 2018 年度 134 兆円、民間企業設備投資

は約 88 兆円で多額である。関連業界は、建設材料は製造業、建機等はリース業

界、その他のサービスはサービス業界が担い、巨大な集合体である。

2) 2012 年 12 月安倍内閣発足、多額の財政出頭、積極的な金融緩和により全産業

設備投資額は上昇し、2019 年 7~9 月期にピーク(ターニングポイント)とな

り、2019 年 10~12 月消費税増税の影響を受け減少し,更に、2020 年 1 月以降

は新型コロナウイルスの蔓延により設備投資は大幅に減少する。

3) 我が国の中期景気循環(建設投資・設備投資循環)のピークは建設費、PCI

はバブルとなり我が国レベルで 20~30 兆円の高コストで建設している。

4) 我が国の建設業界は、重層構造で施工し、合従連衡が遅れ、業者関で費用が重

複し高コスト体質。外資は参入障壁があり業界自身で構造改革ができない。

5) 建設業界の契約は、一般競争見積で行うが、地域で限られた競争、その上、バ

ブル期は競争原理が働かない。

6) 建設業界は、合理的なサプライチェ-ンの確立した業者が生き残れる。木造建

築(個人住宅)のサプライチェ-ンは確立している。

7) 業界は、労働条件の改善に積極的でない、3K、4Kからいまだ脱却できない。

8) 設備投資発注側は、利益が上がれば雨後の筍の様に設備投資を行う、地域・広

域の労働需給を全く考慮しない。

9) 企業・業界・政府は、建設費指数、PCI実勢価格の共通の指針を示し、活用

によるはマクロ経済の民間企業設備投資の最適化を図る必要がある。

10)我が国の建設業は、製造業とともに二次産業の双璧で健全な発展なしに我が国

の発展はない。

11)我が国は全産業ベースで巨額の設備投資をしているが、1990 年代から始まった

IT・情報化。21 世紀初頭のAI、Iot、5G、4K等第三次産業革命に遅

れている。

12)我が国は、自由化・クローバル化は進展したが、小さな国で企業の合従連衡が

進ます,国際的に見て中小・零細企業がひしめいている。

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ENN-PCIの将来予測

笹野 賢次

1.はじめに

企業は決算期が終了すると前期決算と今期業績予測をステクホ-ルダ-に報告義務が

ある。会社四季報では来季の予測も掲載されている。的確な業績予測には企業を取り巻く

経営環境の予測が前提であり、PCI将来予測は企業の中期経営計画で最も重要な経営判

断情報である。

現状では、プラントを発注する側も受注する側も活用できていない。

PCIは、短期・中期・長期景気循環と経済・産業の構造変化により大幅に変動する。

そして、PCIは過去の実態と将来予測をセットして機能する。

コストエンジニアの使命は管理会計(未来会計)業務の健全化であり、的確なPCI

将来予測と活用が前提である。

過去は、ENN誌に四半期ごとに掲載している。2019 年 7 月号より将来予測も掲載。

現役の担当者はPCIに影響する大幅変動要因が発生した時期は、大幅変動を怖がり

躊躇する。その結果、企業として対応が致命的に遅れる。

最も権威のあるIMF世界のGDP予測、会社四季報の業績予測も変動幅は小幅にし、

四半期ごとに小出しして修正を繰り返す。しかし、企業では繰り返し業績修正することは

業績悪化要因となり今期・来期の業績予測は的確に予測することが経営健全化の前提条件

である。

PCIを直接将来予測すると、十人十色となり、過去には、Too-Late、Too-Littleの予

測となり、プラントを受発注する業界は多額の損失を計上した。

発注する側は利益が上がってから雨後の筍の様に設備投資しPCIが最も高い時期に

ピークとなり、完成時には景気後退期になる。

受注する側は、PCIが最も安い時期に受注残が減少して受注確保に奔走する。

各社は数百億円、業界では数千億円、国レベルでは数兆円の損失が発生する。

現状のPCIは 1~2 期遅れて公表されていのる。現在ベ-ス及び工事進捗過程の機

材・工事費の価格変動の将来予測は収益確保には必須の情報である。

ENN-PCI委員会は、PCIの将来予測を長年の研究により公表できる段階にな

った。

本書は、ENN-PCIの将来予測について説明する。

ENN-PCIは四半期ごとにENN誌に掲載している。しかし、ENN-PCIの

将来予測は紙面の制約があり十分な説明は割愛している。

本書は、ENN-PCIの予測法についての説明資料であり、読者に理解を深めてい

ただき活用することにより経営の安定に寄与できれば幸甚です。

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2.ENN-PCI

ENN-PCIは、ENN誌の 1月 25日号、4月 25日号、7月 25日号、11月 25号

掲載している。本書では概要のみ記載します。詳細はENN誌を参照してください。

ENN-PCI(コスト要因)とENN-PCI(コスト+需給要因)

ENN-PCIの推移を下記グラフに示す。

ENN-PCI(コスト)要因は、材料費+減価償却費+付加価値額(賃金コスト+利

息等+賃貸料+租税公課+利益)で計算。財務省方式に準拠。エンジニアリング会社の立

ち位置でプラントを建設する場合のコストとして設定。

ENN-PCI(コスト+需給要因)は、プラント関連業界の需給要因を加味して算定、

プラント特有の重層構造で建設。サプライチェ-ン間の需給変動に伴う実勢価格変動を考

慮し、有効求人倍率とロケーションフアクタ-を加味して算定している。

ENN-PCI(コスト要因)は小型工事、構内専属業者の査定に活用する。

ENN-PCI(コスト+需給要因)は大型プラントの建設費を想定して構築した。

大型工事の機器・機械類は大型・特殊機器の価格が約 75%程度。一品毎に製作しベンタ

ーも限られており競争原理は働かない。工事は重層構造の下請け(多いときは7次程度)。

業者間取引に伴う経費・利益がプラントの需給により大幅に変動する。

ENN-PCI(コスト+需給要因)はターニングポイント(山・谷)及びバブルの予

知も示せるようになった。プラント発注側は投資判断に活用すべきである。

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3.ENN-PCIの活用

1)PCIの過去の活用は、

過去に建設したプラント建設費を時系列で経年変化を示す。

2)PCIの現況の活用は、

a)コンピュ-タで積算した基準年の価格を現在ベースに算定する。

b)プラント建設時期の最適化の判断資料。

4.PCIの変動要因

PCIは、短期景気循環(3~7年)、中期景気循環(~20年程度)、長期景気循環(~

50 年程度)及び経済の構造変化要因の影響を受ける。経済の構造変化は産業の構造変化

も波及し、経済の構造変化要因による実体経済の変動幅、タイムラグ、スパーンの予測は

最も難しい。

2000年以降の経済の構造変化要因は、2001年米国のITバブル崩壊、2008年 9月リ

ーマンショツク、2020年 1月新型コロナウイルスの世界的な感染拡大である。

これらの経済の構造変化は産業構造の変化も誘発する。

5.PCIの将来予測法

ENN-PCIをベ-スにフアンダメンタルズ分析とテクニカル分析を併用して行う。

フアンダメンタルズ分析は Excel内臓の重回帰分析を活用した。

1) 目的変数、説明変数の整理。

・目的変数は、

ENN-PCI合計(コスト要因)、ENN-PCI合計(コスト+需給要因)。

・説明変数は、

ENN-PCI計算に使用した経済指標を選択し採用。ENN-PCIは 30 の

経済指標で算定しているが、各説明変数は相関関係があり単独では変動しない。回帰

分析の結果、7つの説明変数に集約して問題はない。

‘00/1期~17/4期は割愛。

材料費は日銀企業物価指数を四半期平均値、賃金は法人企業統計でEPA法季節調

整値、利益指数は法人企業統計季報 4×四半期移動平均値、有効求人倍率は四半期平

均値を指数化した。

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ENN-PCI将来予測には、7 つの経済指標を的確に予想すればよい。しかし、

個々の経済指標は単独で変動はしない多くの指標と相関関係がある。

詳細は、別紙(2020年度JSCE Journal)「設備投資に影響する景気循環と経済・産業の構造変化」

「我が国の設備投資額の回帰分瀬による考察」を参照

2) 回帰分析の結果

(ア) ENN-PCI合計(コスト要因)

ENN-PCI合計(コスト要因)の回帰分析結果は極めて相関関係は良い。

4つの説明変数でENN-PCI合計(コスト要因)は算定できる。

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(イ)ENN-PCI(コスト+需給要因)

ENN-PCI合計(コスト+需給要因)の回帰分析結果は極めて相関関係は良い。

5つの説明変数でENN-PCI合計(コスト+需給要因)は算定できる。

有効求人倍率指数の係数:0.32872 は、PCIの約 32.9%労働需給の影響を受け残り

がコスト要因である。有効求人倍率は、機材費、工事費に直接・間接的に影響する。

特に、現地工事はその地域で建設労務者が不足すると、宿泊費・交通費込みで他地域か

ら引き抜く。その結果、1.5~2.0倍の工数単価となるが、賃金統計には反映されていない

ので有効求人倍率で補正している。

米国南部湾岸地域、中東のガス関連の大型設備建設時は、他産業から多くの労務者を引

き抜いて工事した、工数単価ははね上がり生産性は著しく低下し多額の赤字を計上した、

公的資料の人件費は全く反映しなかった。

6.ENN-PCIの将来予測

将来予測する期間は、四半期ベースとし、今期と来期。説明変数の予想はテクニカル分

析で過去のトレンドと関連指標を参考に自分の頭脳で判断する。この場合公刊されている

関連指標の選択が重要で、複数の人が納得できる公刊指標で協議する必要がある。

今回の先行指標は、コロナウイルスの世界的な感染、世界経済の状況、主要国の財政・

金融政策、マネーマーケット(株価、債券相場、商品相場等)。

一致指標は、鉱工業生産指数、消費支出、物価指数(中間財)、建築着工統計、生コン

クリート出荷量、及び、個人消費として新車登録台数。

遅行指標は、企業収益、有効求人倍率等。

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説明変数の将来予測した結果を下記に示す。

現況の材料費のステンレス熱延鋼板、普通鋼鋼管は世界的に需要が停滞し小幅な変動。

賃金コスト指数は、製造業は所定時間労働の減少、賞与の下振れで 2020年は 2ポイン

ト程度減少、建設業も 1ポイント程度減少する。

有効求人倍率指数、利益率指数は、7項で説明する。

7.経済の構造変化による経済指標の変動幅、タイムラグ、スパーンの考察

説明変数の予測で変動幅の大きい営業利益指数と有効求人倍率指数を下記グラフに示

す。

2012 年第4四半期から始まった今回短期景気回復は、2019 年 3 四半期がターニング

ポイント(山)となった。

2019年第3四半期:短期景気循環のピーク.

2019年第4四半期:2019年 10月消費税 8%->10%に増税。

2020年第1四半期:2020年 1月、国内でも新型コロナウイルス発症。

2020年第2四半期:2020年 3~4月コロナウイルス感染第一波。

2020年 5月鉱工業生産指数当面の底。

2020年 5~6月コロナウイルス感染者減少。

4~6月期、製造業利益率(%)当面の底。

2020年第3四半期:2020年 7月コロナウイルス感染第二波。

経済活動は緩やかな上昇に転じた。

2020 年第 4 四半期:引き続き緩やかなに回復するが本格的な景気回復は見込めない。

2021年第 1四半期:製造業利益率 4×四半期移動平均値が底を予想。

・製造業利益率の 2019 年第 3 四半期の水準まで回復は短期景気循環(3~7 年)

の後半になる。

・建設業利益率は 2021年第1四半期が底と予想。2019年第 3四半期の水準まで

回復は中期景気循環(~17年程度)の後半になる。

・有効求人倍率は、遅行指標で 2021 年第1四半期まで低下する。元の水準は中

期景気循環の後半になる。

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企業収益、有効求人倍率は遅行指標であるがPCI変動のインパクトが大きい。そし

て、経済の構造変化が起きると予想外に変動する。

世界的なコロナウイルス感染収縮のめどが立たない.世界経済後退は予想よりスパー

ンが長くなる懸念がある。

回帰分析計算式は、毎年 7月 25日号で UP-DATEする。

8、主要指標の考察

1).新型コロナウイルスの世界的な蔓延

2019 年 12 月中国・武漢で発症した新型コロナウイルスは、瞬く間に世界に蔓延。我

が国は、2020年 1月に感染確認。

我が国では 3~4月に第一波、5~6月に沈静化し、規制を一部緩和したが、7月は第二

波が発症。

現状では、収束の目途はない。

新型コロナウイルスの世界的な蔓延は、世界経済のクラッシュ要因で先行指標である。

新型コロナウイルス収束なしに世界経済は回復しない。

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2)世界経済

IMFは四半期ごとに、世界、主要地域、主要国の実質成長率対前年比を公表している。

2020年 6月公表の世界の実質成長率対前年比(%)を下記グラフに示す。

IMFの 2020年世界の実質成長率は、リーマンショツクを上回る大幅なマイナスを

予測。2021年はV字型回復を予想。

IMFは世界で最も権威のある予測機関。しかし、主要国の予測を多きく乖離する予

測は許されない。したがってコンサバティブの予測となり毎回修正する、景気後退局面

では数度下方修正する。次回どの程度下方修正するか四囲の経済指標を勘案し自身の頭

脳で判断する必要がある。

筆者の予想は、2021年V字回復は期待出ず 1~2年回復が遅れると予想。

3)我が国の財政・金融政策

2020年度の歳出は 2度の補正予算編成を経て 160兆円に拡張した。新規国債発行は 90兆円、基礎的財政収支の赤字幅は 66兆円、空前絶後の規模といえる。

一方、日銀もCP、貸出金,社債、ETF、REITを大幅に増加。国債の多量購入、

超低金利政策による株価はコロナウイルス発生以前の約 90%程度に回復。大企業は大い

に潤った。しかし、中小・零細企業に恩恵は少ない。家計部門の利子所得の著しい棄損,

誰のための金融政策なのか。

2012年 12月安倍内閣発足、アベノミクスによる積極財政出動・大胆な金融政策も中長

期で評価する必要があり、好況を謳歌したが行財政改革は停滞、国土強靭化の遅れ、格差・

差別社会の改善も行わなかった。

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4)民間企業の対応。

2012 年 12 月安倍内閣発足後、景気回復により民間企業の内部留保は大幅に積み増し

たが世界的な産業革命に遅れた。内部留保の資金も雨後の筍の様に設備投資に奔走した。

結果は後年度高コスト体質となった。

企業の合従連衡が致命的に遅れている、小さな国に中小・零細企業がひしめいている。

今回のコロナウイルス蔓延により民間企業の課題が染み出た。

特に、建設業は業者数が多く、その上、重層構造のサプライチェ-ンで施工し高コスト

体質。外資の参入障壁が高く、地域の地場産業化している。業界だけでは構造改革は絶望

的。

現況のコロナウイル蔓延による困窮している業界もあるが、多くの零細企業は非常に厳

しく多額の財政出動・金融緩和しても根本的な救済は出来ない。業界・企業の構造改革は

喫緊の課題である。

5)雇用状況

我が国の雇用状況は、完全失業率と有効求人倍率が指標として代表的。

有効求人倍率を下記グラフに示す。

有効求人倍率のピークは設備投資のピークとなり、建設投資・設備投資循環と一致する。

2020年 1月我が国はコロナウイルス発症を確認、景気は後退期になった。

有効求人倍率のピーク時は景気は良いが、ピークアウトすると高コスト体質となり不景

気が長引き弊害が大きい。

1973年田中内閣:列島改造は全国で土地、PCI、一部商品も高騰した。

1990 年バブル期は株式相場、土地が高騰した、そして、PCIはバブルとなり。いず

れも後年度に不況が長引く要因となった。

2019年は人手不足によりPCIは高騰した。企業は高コスト体質になった。2020年年

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初より新型コロナウイルスが発症、経済活動が著しく制限された。この結果、先行指標は

コロナウイルス感染者数。実体経済の一致指数は、

月ベースでは、鉱工業生産指数、家計支出は 2020年 5月が底、有効求人倍率は 6か月

程度遅れて底となる。

四半期ベースでは、企業収益は 2020年 4~6月期が底、

月ベース、四半期ベースとも回復は遅く、新型コロナ以前の水準は 2022年になると予想。

我が国は米国の様な素早い雇用調整は行わない、したがって雇用状況は遅行指標となる。

一方、わが国は不況になると国・企業とも過度に雇用を守る、雇用面から見ると流動性

が悪く企業の新陳代謝は致命的に遅れている。

9.ENN-PCIの将来予測結果

回帰分析した計算式に予想した説明変数を代入して算定。

ENN-PCIは、2022年第 1四半期も 2019年第 3四半期の水準に回復しない。

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10.終わりに(長期循環)

戦後の鉱工業生産指数を下記グラフに示す。

鉱工業生産は付加価値で算出する。製品に原材料を差し引いて付加価値を算定する。

高度成長期は短期的に変動したが右肩上がり、そして、1990 年バブル期まで持続し

た。

1990年~2008年は短期的に変動したが中期的に鉱工業生産は低下しなかった。

2008年 9月リーマンショツク以降、鉱工業生産は元通りに回復しない。

2020年 1月新型コロナウイルス発症。経済・産業の構造変化要因となった。近年の歴

史でも 2008年 9月のリーマンショツクを上回る景気後退要因である。

経済・産業の構造変化要因は数年毎に発生する。そして、近年官・民とも合唱して財政・

金融政策を総動員しサバイバルに終始する。しかし、この時期に我が国は産業構造を変え

るリバイバルプランの立案・実行が欠落しは長期停滞要因となっている。

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COST ENGINEERING JOURNAL 第 28 号

2020 年 9 月発行

発行者 AACE 日本支部

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