-
1
大規模な数値シミュレーションを使った宇宙機開発の革新
~ロケット開発で直面している大きな音の制御について~
2011.11.24-25
JEDI シンポジウム2011
清水 太郎
シミュレーション技術展開チーム
注)一部の内容は配布資料には含まれておりません。ご了承ください。
-
シミュレーション技術展開チームについて
2
神奈川県相模原市(宇宙科学研究所内)(10名程)
最先端・実践的な数値解析技術を研究・開発し、 ロケットや人工衛星の設計を効率化・高信頼化する
-
3
相模原の主な研究テーマ
・単なる基礎研究ではなく、実践的に開発に適用できるテーマ ・JAXAのニーズと研究動向を踏まえ、最前線部を狙う
設計 運用 …
プラズマ
軌道
流体
熱・構造
②宇宙プラズマ解析
実用化済み
取り組み中
取り組み中
解析
④軌道最適化
①次期基盤CFD
衛星等の組み立て構造ではデータ同化等によるパラメータ
推定なしでは無意味
最適化
③データ同化
データ同化 リアルタイムシミュレーション
開発の高度化/必要とする計算能力
分野の拡大
-
4
次期基盤CFD
実際の設計開発で使える汎用性の高い流体解析ツール(圧縮流れ・燃焼流など) 格子生成時間の短縮、高精度な特性予測、安定した解析実行、移動格子法
約3,200万セル
約1日で作成 (cf. 従来法では約2週間かかる)
B2 and B1 Cable Ducts SMSJ Nozzle
再使用観測ロケット転回解析(移動格子)
M=1.5
SMSJ
B1 Cable Duct 実験結果と一致
イプシロンロケット空力解析
-
放電室プラズマ
Ion Electron
5
プラズマ解析
イオンエンジンの寿命予測 人工衛星の帯電予測
はやぶさ2等に適用中
イオンエンジンの寿命:1〜2万時間
イオンビームの軌跡と電位
電位
イオン軌道
ディセルグリッド
アクセルグリッド
スクリーングリッド
損耗強度分布
wake ram
静電力の最大値:10-8,Nオーダ 帯電飽和時間:463sまで解析
MUSCATによる静電力解析
分離カメラによるセイル展開後のIKAROS
full-PICコードによる電界強度詳細解析
wake ram
-
6
設計探査(最適化)技術を用いた軌道の探索
イオンエンジンを用いた新衛星で、 太陽極域の観測を計画しており, 従来の軌道設計と大きく異なる
-
7
データ同化による宇宙機熱解析 宇宙機熱モデルの熱定数
熱伝導係数 接触熱抵抗 放射係数
接触圧や接触面積に依存.実験データから値を決定.
実データ
•測定点の情報 •過去から現在までの情報
数値解析
•モデル誤差を含む情報 •過去から未来までの情報
データ同化
• 解析モデルをより良いものにする
• 良い解析モデルを使って精度良く予測する
測定点の実データを使って
0 0.5 1 1.5 2 2.5
x 104
12
14
16
18
20
22
24
26
時間 [秒]
温度 [℃
]
データ同化をした温度現実の温度シミュレーションの温度
接触熱抵抗:大
接触熱抵抗:小
-
8
研究を支える3つの柱
・理論 :10年20年で極少しずつ進む ・実験 :10年で精度が10-100倍? ・数値計算 :10年で計算能力が1000倍
実験検証
理論 ノウハウ
数値 シミュレーション
(数十年前の論文も参照する事がある)
-
9
数値シミュレーションで何ができるか?
・実際にモノを作る前に設計が良いかどうか確認できる ・そもそも実験ができない・実験で得られないデータを調べられる (宇宙空間、重力なし、空気なし;燃焼器内などの超高圧高温条件) ・実験を減らせる -数値的に実験をすることで、理論の実証ができる
実験と同じで、 何度も繰り返すことだけが目的ではなく 設計に対する重要な知見・指針をみつけることができると価値が高い
音についての典型的な事例を2つ紹介
-
10
大きな音の制御の話
・ロケット音響 (大きなスケール)
共振器(レゾネータ)
どちらも大きな音の影響を減らしたい
flame duct
・燃焼器の共振器設計 (小さなスケール)
q q q
-
11
音とは? ・圧力・速度・温度・密度の揺らぎが固有の速度(音速)で伝わる現象
・音の発生要因:固体や流体(渦や火炎)の非定常な動き → 非定常解析が必要
音の進行方向
圧力(±900Pa)
温度(±0.8K)
速度(±2.2m/s)
密度(±0.01kg/m3)
大気中の音の伝播例
-
12
音の大きさ(圧力)
音の大きさ (デジベル)
実効圧力 [Pa]
生活の中の例
160~ 2,000 ロケットエンジンのごく近く。燃焼器振動時(換算値)
140 200
120 20 ジェット機@空港、F1@サーキット
100 2 地下鉄内の大きな音、パチンコ店
80 0.2 騒がしい道路、工場
60 0.02 学校、銀行、普通の会話
40 0.002 住宅街、ささやき声
大気圧:100,000[Pa]
510 102log20][ −×
′=
pdB
-
13
数値シミュレーションで何を解くか?
●支配方程式(質量・運動量・エネルギー保存) 気体・液体の流れ、熱、音の発生を表す微分方程式系 (隣り合った点間の関係を与える)
今回の音の話しは、格子を非常に細かくした大規模解析で初めて知り得た現象
uuuuu ∆+++−=∇⋅+∂∂ µµχρρ divgradpgrad
t)
3()(
ナビエ・ストークス方程式;1820-40年頃
●数値解析では空間を格子に分割して計算する(細かいほど正確) 例)周波数2倍、1/2の細かな渦を見たいとする → 8倍の格子(計算時間も増)が必要 (スパコン性能上昇で3年掛かる)
-
14
ロケット音響の低減 ●課題 ・打ち上げ時にロケットに戻ってくる音の発生原因を突き止め、音の小さい射場を設計する ●背景 ・ロケットの大型化(噴出ガス量の増加)、衛星の高性能化 ・ロケットを大きな音にさらしたくない ・音の発生自体を減らすか、出てしまった音を何とかするか
flame duct
-
each slice
θ
Microphone
15
ロケット音響の低減 ●これまでの設計(NASA-SP-8072による推算方法~40年来の手法) ・実験を基にした経験式 ・音源を仮定している 音響効率(流体のエネルギーが音になる割合~1%程度) 音源分布(ノズル出口からの距離で音源を分布) 指向性モデル
・予測結果の一例
指向性・音の強さともに 予測精度が不十分
-
16
ロケット音響の低減
●CFDで何が分かる様になったか? これまでの手法で最も不確かだった音源を直接解き、目で見る事ができる!
大
小
圧力
解析規模: 768cpuを使って約3日 典型的な格子数:1億点~
-
17
ロケット音響の低減
●CFDで何が分かる様になったか?
大きく分けて3つの音が観察される
小
大
圧力
1. フリージェットから出る音 2. フレームディフレクタに当たったところから出る音 3. フレームディフレクタを流れるジェットから出る音
(地面がある場合)
-
18
ロケット音響の低減
●CFDを用いて初めて分かってきた事 ・ロケット周りの音の分布が高度に予測できるようになった(±5dB程度) ・新たな音の発生を抑え、またロケットに戻らない様にするため、 ディフレクタの角度や高さが非常に重要であること(←定性的だが重要な知見!)
M-V射点
10m
5m
55deg
75deg
新射点へ
●適用先例 ・イプシロンロケット射場設計などを実施
-
19
ちょっと休憩(音を見る実験;クントの実験)
・スピーカの周波数を300-400Hzに徐々に変化させてみる ・ちょうど1波長が含まれる時に、速度の腹位置(2か所)で発泡スチロールが踊る
(堀暖他. 相模原特別公開2011で実演)
スピーカ
ふた
1mのアクリル管 発砲スチロールの球
-
20
共振器(レゾネータ)の設計
●課題 燃焼器で発生する特定の周波数(1000Hz以上)の音を良く吸収する共振器を設計する ●背景 ・燃焼効率を大きくしたい(激しく燃やすことで達成できる) ・乱れが強くなり、火炎の揺らぎも増えるため、ある程度の音の発生は不可避 ・しかし、余りに大きな共振音(燃焼振動)は回避したい(→燃焼器が溶けてしまう)
-
21
圧力振動を減らす機構
・passive device:発生した振動を減衰させる バッフル・ハブ、レゾネータ
baffle, hub resonator
“Rocket Propulsion Elements,” Sutton
ll
S V
ヘルムホルツ型 ¼波長型
-
レゾネータの働き(理論・実験で分かっている事)
22
減衰要因 = (粘性・熱伝導)+ (放射・散乱)+(渦・乱流jetの生成)
非線形(大きな振動時; >0.1% Pc) 線形(小さな振動時)
入射平面波
・設計では定量評価が肝心!
燃焼室
レゾネータ
-
23
レゾネータ設計
●これまでの設計 ・小さな振幅(線形 )の性能で設計 ・大きな振幅(非線形性 )の考慮は経験式で評価 (本当に効いてほしいのは大振幅の時~燃焼圧力の5%)
1000Hzの音の吸収係数
a) QWR
c) HR2 b) HR1 Frequency, 1/s
Abs
orpt
ion
coef
ficie
nt
線形性能による設計結果(最適化結果)
(定常計算で評価可能)
-
レゾネータ設計 ●CFDでどのように変わったか? ・実験が容易にできない大振幅時の評価ができる。
a) QWR
c) HR2
b) HR1
解析規模 :1条件毎に1-2週間(32-64cpu使用) 計算格子数:200万cell (2D形状の時) 24
147[dB]時
-
レゾネータ設計 ●CFDでどのように変わったか? ・計測が困難な細かな渦の発生を目でみる事ができる。
a) QWR
c) HR2
b) HR1
25
-
26
レゾネータ設計
●分かってきた新しい知見 ・線形と非線形で、性能の良い形状が異なる ・渦を作るためには角が重要(← 定性的だが重要!) ・共振周波数は厳密に合わせなくてもよい ●この研究の適用先 ・LNGロケットやLE-Xロケットの共振器設計
周波数, 1/s
吸収係数
周波数, 1/s
吸収係数
大振幅時 小振幅時
a) QWR
c) HR2 b) HR1
-
27
まとめ
・大規模数値シミュレーションがなかったら、原因の究明・解決が困難な事例が多々ある ・実際のロケット開発に、数値解析によって初めて得られた知見が使われ始めている ・実験、理論(経験的なノウハウ)、数値シミュレーションのバランスを取りながら、研究・開発を進めることが重要である。