Download - 第2回:”科学的”ってどういうこと?ー疑似科学との境界を追うー
東大科学哲学ゼミ第2回
”科学的”ってどういうこと?
ー疑似科学との境界を追うー
“科学的”ってどういうこと?
科学 Science
擬似科学 Psuedoscience
境界設定問題 demarcation problem
非科学的なものは何かを知って、 科学的なものとはなにか知る。
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 2
素朴帰納主義
科学知識は証明された知識
科学は客観的である
科学理論は実験や観察で得た経験事実から、ある厳格な方法で導かれる
科学には個人的な意見や好み、思弁的想像の
入る余地はない
科学知識は客観的で、信頼できる
科学は見たり聞いたりするものに基づいてい
る
17c科学革命(ガリレオ・ニュートンetc..)を経て一般化した科学観
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 3
素朴帰納主義
• 科学は観察で始まる。観察者は欠陥のない正常な感覚器官をもち、状況を忠実に記録
• 2012,10,1の真夜中十二時に金星が空のどこそこに現れた
• スミス氏は妻を殴った
• 観察言明は法則/理論のもと
• 「いくつかの」から「すべての」へと進む推論を行う帰納的推論
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 4
素朴帰納主義
観察から得られた事実
法則・理論
予言・説明
帰納
演繹
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 5
素朴帰納主義
a 一般化の基礎をなす観察言明の数が多くなければならない
b観察は多様な条件下で繰り返さねばならない
c受け入れられた観察言明のどの一つもそこから導き出された普遍的法則と矛盾してはならない
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 6
帰納主義の限界
• 帰納の原理はどのように正当化されるのか
• 論理に訴えることはできない – カラスX1は時刻t1に黒かった
– カラスX2は時刻t2に黒かった
• … すべてのカラスは黒い
• 次に観察するカラスが黒いことは「論理的に」あり得てしまう!
• 経験に訴える(今までうまくいったからこれからも)? – 帰納の原理はX1の場合うまく働いた
– 帰納の原理はX2の場合うまく働いた • … ゆえに帰納の原理はいつもうまく働く
• 自然はいつも同じ(斉一性原理)?
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 7
反証主義
理論は人間知性によって恣意的に形成された思弁的/仮説的推測
観察や実験の厳密で容赦ないテストに耐えられない理論はとりのぞかれ、もっと冒険的な理論に置き換えられる
理論が真であるということは決して正当化されえず、最適な理論とはもっとも有効な理論であり、以前のどれよりもましといえるだけ
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 8
K.Popper(1902-1994)
反証主義
• 反証可能な言明の例(反証となりうる命題)
– すべての物体は熱したとき膨張する
– レンガのような重い物体は地平面の近くで手を離すと妨害がなければまっすぐ下に落ちる
• 反証可能でない言明の例
– 雨が降るか降らないかのどちらかである
– ユークリッド幾何学において円周上のすべての点は中心から等距離である
– 賭け事はうまくいくこともある
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 9
反証主義の限界
• 例:天王星の動きと海王星
– 仮説:ニュートン力学の四法則
– 初期条件:時刻tにおける太陽系の天体の質量・位置・運動の向きと大きさ
– 観察予測tの少しあとの時点t’における天王星の観察予測
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 10
仮説と初期条件のみから演繹はできない。 補助仮説によって演繹は成り立っている。 「太陽系に、天王星の動きに影響するような未知の大きな惑星はない」
反証主義の限界
• 天王星の動きと海王星
– 仮説:ニュートン力学の四法則
– 初期条件:時刻tにおける太陽系の天体の質量・位置・運動の向きと大きさ
– 補助仮説群:望遠鏡の働きに関する光学理論、未知の大きな惑星はないと言う仮説etc..
– 観察予測tの少しあとの時点t’における天王星の観察予測
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 11
反証主義の限界
• 過小決定(underdetermination)
• 補助仮説の一つを後付け(アドホック)で変更
• 補助仮説を変更し続ければ仮説を救い続けられる…?
• どんな仮説でも、どんな観察からも支持される
• 「デュエム=クワインテーゼ」
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 12
観察の理論依存性
• 『科学的発見のパターン』,1953
• シュレーダーの錯視、アヒルウサギ
• レントゲン写真
• 金星の大きさ
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 13
Norwood Russell Hanson(1924-1967)
共役不可能性 incommensurbility
• ある観点からのノイズが別の観点からは重要になる
• 対立する理論の提示するデータは意味不明
• e.g.ケプラーの神秘主義とニュートン
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 14
ケプラーとニュートン
ケプラーの三法則(ニュートンが抽出・整理) – ケプラーの第一法則
すべての惑星は太陽を一つの焦点とする楕円軌道を描く
– ケプラーの第二法則 ある惑星と太陽を結ぶ線が一定の時間に掃く面積は一定
– ケプラーの第三法則 惑星の公転周期の二乗と公転半径の三乗の比はすべての惑星にわたって一定
ニュートンの四法則
– ニュートンの第一法則 物体は外から力が加わらない限りじっと止まったままか等速直線運動を続ける
– ニュートンの第二法則 物体にかかる力はその物体の重量とその物体が得る加速度の積
– ニュートンの第三法則 ある物体が他の物体に力をくわえる際はそれと同じ逆方向の力が元の物体に加わる
– 万有引力の法則 二つの物体間には両者の重量に比例し距離の二乗に反比例する引力が働く
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 15
還元
蓄積的進歩からパラダイム論へ
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 16
Thomas Samuel Kuhn (1922-1996)
• 『科学革命の構造』,1962
アリストテレスの言ってることも首尾一貫し
てるぞ…?? 当時の現象をうまく説
明してる…
パラダイム論
観察の理論依存性
共役不可能性
パラダイム論
パラダイム成立
(科学革命)
通常科学
解けないアノマリ蓄積
(危機)
異常科学
(新たなパラダイムの提案)
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 17
一冊の本がその分野のその後の研究を方向付ける。科学者共同体に共有される基礎理論・問題設定・解き方・模範的解
答・世界観・科学観
そのパラダイムの観点からみて重要な問題を確定し、事実と理論をつきあわせ、理論を整備する。そのパラダイムから説明のつかない現象(anomaly)を回答
例を参考に解決するパズル解き(puzzle-solving)
「このパラダイムじゃ解けないんじゃないか…」
全く新しいパラダイムの提案。パズル解きのルールをひっくり
返す。
パラダイム転換の例
• ファブリカ(アンドレアス・ヴェサリウス) – 人体の構造
• ケプラーの法則(ケプラー) – 惑星の運動
• 万有引力の法則(ニュートン) – 古典力学
• 地動説(コペルニクス&ガリレオ) • 相対性理論(アインシュタイン) • 量子力学(プランク、アインシュタイン、ボーア、ド・
ブロイ、シュレーディンガー、ハイゼンベルク、ディラック、フェルミ、ボース、フォン・ノイマン)
• 進化論(ダーウィン) • DNAの二重螺旋構造(ワトソン&クリック)
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 18
パラダイム間の優劣
• パラダイムの選択は不合理?
• クーン「実験や観察との一致」「内部の無矛盾性、確立された他の理論との整合性」「応用範囲の広さ」「単純性」「豊穣性」
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 19
パラダイムと疑似科学
• たんに「ものの見方の違い」?
• 占星術は通常科学をしない(精度改善など)
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 20
リサーチプログラム論
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 21
Imre Lakatos (1922-1974)
保護帯
固い核
固い核
固い核
保護帯修正
保護帯修正
新たな予言
天動説「地球が宇宙の中心」 進化論「すべての生物は少数の
先祖から進化してきた」
初期条件、補助仮説群、テストする仮説のうち、譲れなくもない部
分
リサーチプログラム間の優劣
• 保護帯の変更が新奇な予言(novel prediction)につながるか
• 前進的プログラム
– 保護帯変更⇒新たな予言につながる
• 後退的プログラムはその逆。
• 前進的プログラムを選ばない⇒疑似科学
• 共役不可能性の問題:
– 他のプログラムと比較せず、そのプログラムだけで前進性を判断できる
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 22
相対主義の加速
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 23
Paul Karl Feyerabend(1924-1994)
• 『方法への挑戦』,1975
• 『理性よ、さらば』,1987
• 科学や知識そのものの否定
• 社会的力関係を除いて、その立場
を越える客観性はない
ファイヤーアーベントの主張
• 進歩を妨げない唯一の原理はAnything goes!
• 中国医療とイデオロギー
– 西洋医学と中医
• ソ連のルイセンコ事件とイデオロギー
– メンデル主義とルイセンコ
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 24
科学知識の社会学(SSK)
• 科学的知識も社会学的分析対象に
– パスツールとブージェの論争 • Farley&Geison,1974
• 「19世紀フランスにおける科学、政治、自然発生」
• 「ストロングプログラム」,ブルア,1976
• 実験室の人類学
– ラトゥール「アクターズネットワーク理論」
• エスノメソドロジー
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 25
サイエンス・ウォーズ
• 90s初頭、アメリカで大型加速器の予算通らず
– 加速器は素粒子物理学の進歩に必須
– 米議会は素粒子物理学の有用性を認めず
– 科学は社会構成されたものに過ぎない???
• 科学者「相対主義ヤバい」
– SSK、ポストモダニズム批判
– ソーカル事件と『「知」の欺瞞』
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 26
合理主義と相対主義
合理主義
•素朴帰納主義 •反証主義 •リサーチプログラム •*パラダイム論
相対主義
•アナーキズム •SSK •*パラダイム論
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 27
境界は設定できるのか
ルースの線引き基準 枚挙的帰納法 仮説演繹法 ヒューム流懐疑
主義 反証可能性
方法論的反証主義(反証された仮説に固執しない)
蓄積的進歩 俗流パラダイム論
クーンの「通常科学」による線引き
クーンの五項目の合理性基準
リサーチプログラム論
制度的基準(学会誌・査読etc.)
機械論的世界観の使用 アナーキズム SSK
統計的検定法 ラングミュアの病的科学の徴候リ
スト ベイズ主義
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 28
『創造の自然史の痕跡』を巡って
19Cスコットランド福音派のエートス
1. 『痕跡』とは何か
• 1884年 匿名進化論書として刊行
• 著者:ジャーナリスト、R・チェンバーズ
• 骨相学・先験的生物学の法則を重視する立場か
ら、宇宙・生物・社会のすべてが「発達の法
則」のもとにあると主張
• 目的:穏健な社会改革を市民に促す
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 30
2.『痕跡』の問題点
• 科学論文の引用から構成→根拠が薄弱
• 進歩の要因を「デザイン論」的解釈で済ませよ
うとする。(“法則”の重視と矛盾)
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 31
3. 19Cイングランドの科学哲学
• (素朴な)帰納主義科学
• ケプラーやニュートンといった古典理論物理学
の牙城
• F.ベーコン『ノヴム・オルガヌム』
• 広教会派(ヒューウェル)
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 32
4.19Cスコットランド福音派
• 科学研究はキリスト教に有益
• チャーマズ・フレミング・ブルースター
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 33
宗教
科学
確証 さらなる信仰
疑似科学からの擁護 受容基盤
まとめ
• ちょっと考え中
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 34
次回予告
近代の見取り図 ―社会と科学のinteractiveな関係―
科学が典型的な「知」の一つに数えられるようになるには、近代西欧の「啓蒙主義」下の社会の承認を通過しなければなりませんでした。科学が自律的な営みであるかどうかは社会条件に依存するのです。この回では近代の確立した科学の進歩史観を反省し、現代の問題を探ってみたいと思います。
K.W. 進歩史観/啓蒙主義/科学知識の社会学(SSK)/科学人類学/科学アカデミー
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 35
• 技術の原語
• Technology/Technique
• Logy:ロゴス、理性、言語
• Technique:身体技法(頭の上にかごのせたり)
• 科学の原語
• Science
2013/1/2 東大科学哲学ゼミ 36