2021.2.20極子資料

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乳房⽂化研究会 重⼒と乳房

◼ 重⼒と太極拳 〜 重⼒と戯れる からだ 〜 極⼦ muneco 東京⼤学・慶應義塾⼤学 ⾮常勤講師 / 楊式伝統太極拳師範・正弟⼦第七代

光⾵霽⽉会主宰

はじめまして

「重力と太極拳」というテーマで，お話と太極拳の体験をご一緒させていただきます極子

と申します．どうぞよろしくお願いいたします．

自己紹介を兼ねて，太極拳に出会った経緯などを少しお話しさせていただきます．

なぜ，サブタイトルを 〜重力と戯れるからだ〜 にしたのか，その意図を汲み取っていただ

けましたら幸いです．

１．太極拳との出合い

幼少期から「律動運動や舞踊」に夢中になって楽しんでおりましたが，青年期を迎え「人

はなぜ踊るのか？」その心理を解明したいと思うようになり，様々な舞踊のジャンルに幅を

広げ経験すると共に大学院での舞踊学研究にその糸口を求めました．日本舞踊や能の仕舞な

ど東洋の身体操作の舞台も鑑賞し，その素晴らしさに感銘いたしました．しかし，西洋化さ

れた生活様式で暮らし西洋の舞踊身体技法を得意としている身体では，見様見真似では全く

様にならないもどかしさや受け容れ難さを体験し，衝撃を受けました．それまで新たな身体

技法を見て理解し体現できる能力があると自己過信していたことに気づかされました．

その体験から，東洋人としての自分を意識するようになり，西洋と東洋の身体技法の本質

的相違点を体験からも東西の哲学思想書からも模索するに至りました．ある身体論を読み耽

っている中，ふと過去に見た映像が浮かびました．その動きは不思議で，何を表現している

のか，又身体をどう動かしているのか分析できず，目を外せず，美しさをつよく感じさせる

もの・・・それが太極拳だったのです．

この「不思議な動き」の身体操作法を解明すれば，東洋の本質に接近できるのではと思い，

太極拳を始めるに至りました．そこから，最終的に目指すところは，東洋と西洋の共通点を

見つけ，その点を大事にしていればどんな種類の身体技法をもバリエーションとして受け入

れられるそんな気持ちの包容力と身体の器用さを獲得できるのではと思った次第です．

この時期の私の研究の着眼は，身体芸術における東洋と西洋の共通点と相違点であり，芸

術における身体でした．

そのような経緯で太極拳の稽古を始めましたが，そこに集う人々の動きを観察しますと，

無理なくスムースに適合して動いていらっしゃる方は少なく，動きづらそうな方が多く見受

けられました．スポーツにおいてもよく言われる「運動神経が良い」とか，「運動センスが

ある」とかで垣根を作ってしまいがちです．その垣根を無くすことは出来ないのかと課題を

感じていた頃，伝統太極拳の師を紹介され，そこでの修行（考えることは一旦保留して，ひ

たすら打ち込むこと）に集中しました．そこで得た答えは，重力線の意識が太極拳の動きを

良い方向へ導くということです．

伝統太極拳の身体術は『重力線との対話である』という結論の解釈を得た思いがいたしま

した．その対話の精度を上げることが身体術のレベルを引き上げることとなります．その方

法は，自他の身体重心を知り，そこから全身を有機的に繋いで動かすこと．護身術としては，

双方の重心の位置を知り，その崩しと再合成の変化で対応することで技と成ります． 激し

さを持って変化させるのではなく，かなり辛抱強く，ゆっくり等速に制御する，という制限

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が課せられます．その効果は，自他共に生命機能の変化をなるべく最小限に留めようとし，

生命の恒常性維持に貢献します．

さて，太極拳が求める良い動きは，護身のエネルギーを発揮するだけでなく，その見た目

の姿かたちを美しく整え，さらに身体内部の循環も良くすることも実感しました．

芸術と武術の融合の着眼点を得ると同時に，生命体へも良い影響があることを修行で感じ

とったのです．

伝統太極拳は護身術であり，命の守り方であり，生命の認識を得ることができます．ここ

に身体の，芸術の，生命の教育にも応用の可能性があると思っております．

さて， 振り返りますと，私の模索した舞踊，伝統太極拳，生きることの哲学，全てを貫

いているのは「重力との対話」であります。

2．太極拳を実習するにあたって 〜 重力と戯れる からだ〜

一般に，「太極拳は円運動」「太極拳は護身術」などと表現されますが，この表現ですと，

例えば「両手で円を描こう」としてしまいます．それでは意識が手にいってしまい，肝心の

護身術としてのエネルギーの源を醸成する姿勢の安定を維持できなくなります．そういった

ことから，手先のことを考えるより，重心の安定に意識を向けることや，姿勢が重力線との

適切な関係を（変化しつつも）維持しているかどうかを模索し続けることが，結果として，

型を体得するに至ると感得いたしております．

どうぞ重心線との対話を試みてください．

◇ 太極拳修行で感得したもの

・太極拳は護身術であることの実感．

・一つの技の中で，全身を有機的に繋ぐには，どのように部分（体節）を使えば良いのか．

左右の重心移動により促される左半身と右半身の連動連結の方法（筋活動）．上半身とそれ

を支える下半身の役目．

・「身体技法の根幹をなす “型＝姿勢制御” のエッセンス」は，重力との関わり方にある．

・重力線を自分のからだの中に取り込むことが，もっとも姿勢が安定する．その重力線を常

に意識し続けて動き続けられることが，太極拳の働き（動きの合理性，経済性）を産み，美

しさをも醸し出す．

・その能力を伸ばしていくことが，太極拳の修練の意義であり，動きの中での「重力線と自

分との対話」こそが，対人との護身術というコミュニケーションの最良の技の選択を気高い

和解へと導くのではあるまいか．（戦わずして相手の能力を知り，和解を悟る．）そういっ

た具体的な身体操作が意識の志向性を産み，さらに真善美へと昇華される心持ちを誘うであ

ろう．太極拳は奥深い．

◇ 辿り着いた師範としての境地

・伝統太極拳は，[＝重力を意識した身体技法]である．

・護身術である．先手を取らず和解を求める間合いを持つことが肝要である．相手の気勢を

良く見極めてかわし対処する．その相手に軽い浮力と螺旋のエネルギーを伝えておいて収束

させるのだが，肝要なことは，その技を「自分を傷つけず相手をも傷つけないで成立させる」

という意識である．自分が傷つくと，相手は罪に問われるので，相手に罪を作らせない意識

を持ち，修養を積むことが第一である．太極拳は「外柔内剛」．思いやりの心を発揮する具

体的なからだの使い方でもあると説明したい．

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3．大学教育に伝統太極拳が採択された経緯

この度，「重力と健康と細胞」というテーマでご講演される跡見順子先生は，東大教授時

代から，細胞の研究を基に運動が健康にいかに寄与できるかを提唱なさっていらっしゃり，

ご功績を多く残していらっしゃいますが，ミクロからマクロに繋げる人間の生命システムの

理解さらにそこから提案できる健康法として，伝統太極拳にも興味を持ってくださり，東大

での教養学部全学ゼミナール「太極拳を科学するゼミ」共同研究チームの一員に私を採用し

てくださいました．先生は，細胞が重力にどのように応答し振る舞うかのご研究の視点から，

私の主張である[太極拳は重力を意識した身体技法] を本質的に受け入れてくださり，太極拳

の科学的研究を促してくださいました．そのおかげで，教養学部での身体運動健康科学実習

の新たな一種目として正式に採択されるに至りました．先生の先見の明と行動力で身体教育

に新しい風が巻き起こったのです．

このように跡見先生の大学教育へのご勇断をいただきまして，諸学の専門分野（解剖学，

生理学，運動学，バイオメカニックスなど）の先生方とも交流させていただくに至り，新た

な知見を得させていただいております．跡見先生にいただいた教育と研究の道のりに感謝し

つつ今後も「身体の動きの原理と可能性」の問い，そして学びを未来へと引き継いでゆきた

いと思います．

３．授業や様々な場面での実践

型を伝授していただいたのは太極拳の師であり感謝と敬意を持ち続けておりますが，大学

授業や一般の方々に教授させていただく際には，もう一人の師として『地球の重力線が私の

師です』とお伝えしています．地球に適合したからだの使い方を身に付けることによって，

より健康になり，人生の夢の実現にも生かしてくださった方も多くいます．ぜひ生命の母な

る地球への思いを育みながら，伝統太極拳の身体術を健康の秘訣として，ユニークな動きを

楽しむコミュニケーションツールとして，さらに，からだのリラックス法，こころの集中法

として受け入れていただければと思います．

※ 続いて，伝統的太極拳の大学教育での実践報告を掲載いたしました．ご参照ください．

尚，当日の実習内容のひとつに大学授業初めどこでも好評のからだほぐし“胎児ポーズ

m-ai 式 [重力からの解放] ”（極子考案）も予定しております．

参考；6 ページ，写真 2 「大の字ポーズ」，写真 3 「胎児のポーズ」

今回の皆様との出会いに感謝しつつ,新たな重力との出合いを楽しんでいただけましたら

幸いです．

どうぞよろしくお願いいたします．

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こころとからだの調和を求めて 〜 伝統的⾝体技法の⼤学教育での授業実践 〜 ⽯⽔極⼦ いしみず むねこ

東京大学教養学部非常勤講師

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東洋の伝統的身体技法（太極拳，気功法，ヨーガなど）は，その起源を古い文明の哲学まで遡る

ことができる。東洋の身体技法は単純にいえば，単に筋力や最大酸素摂取量で測定できるような機

能の測定からうかがえる要素とは別の，こころとからだの調和を目指すことを第一にするということが

ポイントであろう．大学教育においても，こうした東洋的な観点からの身体技法を学ぶことは，近年

徐々にではあるが広まってきている．

筆者は楊式太極拳の指導者であるが，太極拳のみならず，東洋の伝統的な身体技法の基礎を教

育することで，自分の身体を有機的につないで動けること，動きの洗練（調身）・こころの調整（調

心）・呼吸法（調息）が三位一体となり調和していることの大切さの理解を主目的とする，という授業を

行っている．こうした目的と，また学生の親しみやすさなどを考慮し，また，それまでに「フィットネス」

という体力アップを図る授業が行われていたことから，授業のタイトルを「東洋的フィットネス」とし，大

学で 2005 年からこうした授業を行っている．当初は 2 年生の選択授業のひとつとして行っていたが，

受講希望者が毎期定員を超え関心の高さを認められて 1 年の必修の授業の中でも実施に至った．

以下にこの授業のエッセンスを述べる．大学教育における東洋的な技法の教育の可能性をご理解

いただければ幸いである．

１．東洋的技法の基本的考え方

からだの姿勢の調節[調身]と，動いている時の気持ちや気分の調節[調心]と,呼吸の調節[調息]

の３つの調節を同時に行なうのが特徴ともいえる．通常身体内部に意識[エネルギー]のセンター（太

極拳・気功法では三カ所，ヨーガでは七ケ所）を想定し，身体内部でエネルギーのバランスをとりな

がら同時に身体外部との調和を図る（主要なこととしては，地球上に存在するものに共通の負荷であ

る[鉛直方向]の重力＝１G と自重のバランスをとる），という工夫が修行者によってなされ伝承されて

今日まで受け継がれている．それらはその場でポーズをとったり，ゆっくりと動くため，空間の位置移

動はあまり行なわない．太極拳はその中では空間移動も（護身術の観点から）目的にしつつ,全身を

有機的に総合的に調和させて大きく動かす技法である．

２．太極拳

太極拳は，攻防を同時に内包した護身術である．太極拳という名称が最初に書かれた著述は，

民間武術家であった王宗岳の《太極拳論》である．王宗岳は明代後半から清代頃「『周子全書』（宋

代の道学家周敦頤の著作）によって易経の太極陰陽の哲理を解明し，これに基づいて拳法の道理

を釈明して書いた，とされている．「太極拳」は，太極の理論に基づき体系化された武術である．人

体をひとつの宇宙と考え，「丹田」を太極とし，両腰を両義，両手両足を四象，それに両肘両膝を加

えて八卦に当てている．人体の動きの中心は丹田にあり，腰・両手両足・八関節の運動の関わり方

を検証していく作業が，太極拳の習得過程でのひとつの柱になる．

太極のもうひとつの柱は「陰陽」である．太極拳は陰陽の気のバランス運動より成り立っている．

「気」は陰陽のバランスをとりながら，丹田より発し全身へと駆け巡る．出発点があり本流・支流がある

という点では，骨髄でつくられた血液が心臓の動きで全身へ巡りまた心臓に戻ってくる循環システム

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に似ているが，「気」の通り道（経脈・絡脈）は解剖学的には証明されないという点と，循環サイクルが

人体内部で完結するのでなく，天と地という下界とのサイクル形成を考慮するという考え方に特徴が

あるといえる．

太極拳は護身術である．襲われない限りにおいては，先手をとらない．相手の力を判断して，その

最初の攻撃気勢を避け,相手の力を巧みに利用して，その力を自分に有利に転化させる．たとえば，

相手の体の平衡を崩し，その結果相手が慣性の法則により倒れたり,飛び出したりする．あるいは，

相手の攻撃をふいにすることにより,相手に攻撃を諦めさせることができる．このことは,相手に罪をつ

くらせないことにもなるのである．

３．太極拳のキーワードと基礎

「太極拳は，自分のニュートラル（自然）な身体に気がつくことからはじまる」と，筆者は伝統太極拳

の立場から解釈する．すなわち太極拳は，立位で活動する人間の行動・移動の基盤となる動的姿

勢のとり方のエッセンスを含んでいる．

太極拳はまず，自然にまっすぐリラックスして立つことから始まる．この立ち方を伝統の太極拳では

「無極式」という．無極式は一番シンプルな立位での護身術である．立位での護身術は，動きの中心

「丹田」を意識し，そこから腕→手へエネルギーが伝播していく感覚をしっかりイメージすることで，護

身の働きを実現できる．さらに，身体重心の左右への移動，つまり，[左懸かり・右懸かり]が動力を生

み出し，よりダイナミックな護身の働きが生じると考える．そのようにして生まれるエネルギーをひとま

とまりの動作（太極拳におけるひとつの式＝護身術の型）に完結し，ゆっくり緩やかにアクセントをつ

けず等速に連綿と動き続ける（表１）．それが太極拳の練習システムである．太極拳は動きの時々

刻々の変化過程で，護身の動き（エネルギー）を生み出す“意識”が大切である．

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太極拳の主要な技法（テクニック）を心身一体観からの身法として，以下にまとめた．

① 虚領頂勁：頭，首を釣鐘が吊るされるようにまっすぐにする．

② 含胸抜背：胸を張らないで，背を広くまっすぐにする．

③ 鬆 腰 ：腰回りを柔らかく使う．

④ 分虚実 ：重心が右・左どちらに懸かっているかはっきりさせる．

⑤ 沈肩墜肘：肩や肘をあげないで緩める．

⑥ 用意不用力：力を入れず意識で動作を導く．

⑦ 上下相随：上肢と下肢をバランスよく動かす．

⑧ 内外相合：意識（精神）とからだの動きをあわせる．

⑨ 相連不断：一連の動作を間断なくつなぐ．

⑩ 動中求静：静かに落ち着きをもって動く．

４．この授業の狙い

この授業では以下のようなことを狙いとしている．太極拳を中心に気功法・ヨーガなどの東洋の伝

統的身体技法の基礎を習得する中で，動きのシステムが丹田を中心にからだ全身を連動させて上

下・左右を有機的に繋げることを学ぶ．また，技法習得において，動きの洗練（調身）・こころの調整

（調心）・呼吸法（調息）が三位一体となり調和していることが大事であることを理解する．ゆっくり動く

ことにより，普段意識されない深部筋を働かせるようにする．また，自分自身の身体の習慣（動かし方

の特徴，癖）に気づき，からだをほぐし，リラックスしたからだ[＝自由にからだを動かせるよう準備され

た状態]にし，そしてニュートラルなからだ[＝地球の重力と自分の重心線が適合した状態]を体感し，

日常生活においてもそれらを活かせるような意識を育てるとしている．したがって，太極拳の指導だ

けではなく，からだの気づき，ほぐし，呼吸法も重要な項目である．

以下は，選択授業である２年生の授業計画の例である．１回目の授業に種目選択で，２回目の授

業から１２回実技を行っている例である．

第１週：種目選択，心構え・準備するものなどの確認

第２週：からだ気づき（二人組），ほぐし１（全身振動），気功法１（採気法），

太極拳１（第一式・立ち方）

第３週：ほぐし２（脊柱），気功法２（一・三段錦），太極拳２（第二式）

第４週：ほぐし３（股関節），気功法３（二段錦），太極拳３（第三式）

第５週：ほぐし４（纏まる体・胎児運動），気功法４（六段錦），太極拳４（第四式前半）

第６週：ほぐし５（二人組による背中対話），気功法５（五段錦），太極拳５（第四式後半）

第７週：ほぐし６（重心の高さの変化と左右の重心懸かり変化），気功法６（四段錦），

太極拳６（第一式～第四式の通し復習）

第８週：ほぐし７（仰向けからうつ伏せに指一本が全身を導く），気功法７（七段錦），

太極拳７（第五式前半）

第９週：呼吸法１（命門 M 式呼吸法），気功法８（八段錦），太極拳８（第五式後半）

第１０週：呼吸法２（神亀服気），気功法復習，推手１，太極拳９（第六式前半）

第１１週：呼吸法３（腹式呼吸・順と逆），気功法復習，推手２，太極拳 10（第六式後半）

第１２週：ほぐし復習，気功法復習，推手復習，太極拳初級前半通し（第一～六式）

第１３週：表演会

各回の授業は出欠確認，道場清掃，からだほぐし，その日の課題練習，内観（動かない動き～呼

吸法・意識・イメージによるコントロール），からだ気づきの記録，という流れになる．毎回の授業では，

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まず太極拳に入る導入段階として，雑巾がけを行う．これは単に清掃という意味以上に，東洋的技

法の基礎としての動きの習得のためである（写真 １）．次にからだほぐしを 30 分程度行なっている．

これは地球の重力から解放され，効率的に動ける状態をつくるためにほぐすという意図で行う．よく

行うのは，大の字のポーズ（ヨーガでいう屍のポーズ），胎児のポーズ（写真 ２，３），正座から立つ，

折り畳まれる最小のからだ，背骨を意識して立ち直す，そして太極拳の実践に入る．

太極拳は簡化二十四式と呼ばれるような型が一般型としてあるが，この授業では筆者が修行した

伝統の楊式太極拳を題材として扱っている（写真 ４，５）．それは，護身術としての型の説明が明瞭

なことと，連綿不断の趣が濃く一見複雑にみえる動きがシンプルないくつかの原則で成り立っている

ことを説明しやすく，人体解剖学にも適合した動きであることを骸骨模型で確認できることによる．１

学期の授業では，この楊式太極拳の第六式まで指導できるのが通常である．これらを受けて，学期

最後には表演会を行っている．最後に学生がレポートを出して，出欠状況とともに評価している

（表 ２）．

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太極拳はゆっくりとした動作の中で，自分のからだの条件で一番小さくまとまろうとするエネルギー

と一番大きく広がろうとするエネルギーを，バランスをとりつつ微調整するといったメソッドを取り入れ

ているといえる．そこで授業最初にからだほぐしを行い，その動きの中でも丹田を意識し，また身体

軸を鉛直線に一致させようと意識するよう指導している．それらを踏まえ自分のからだの認識を高め

ていくことは，重力のある地球上で効率よい動きを導く状態につながっていくのではないか，と考え

ている．それは身体の上部と下部をつなぐパーツであり，東洋的身体技法においては心身や魂・精

神といった哲学的思想の人間認識にいたる包括概念の中心位置である【丹田】，その包括的部位で

ある“腰”を保護することにもなる．なぜなら全体の動きの視点から部分（パーツ＝腰）をとらえること

は，全体である個人がどうあるかという認識からの自分に適合した寄り添った健康法となると期待で

きる．全体の“快”状態を最優先してとらえること自体が，ここの要素を包括していることからこのように

上半身と下半身をいかにしてうまくつなげ，連動させるか，そのための丹田への意識のありよう，さら

に左右のバランス感覚が重要となる．それらは腰痛のみならず，身体各部，全身の調和の乱れから

くる不調への対応につながると考えている．

おわりに

このように筆者は太極拳を中心として，東洋的身体技法を学ぶ「東洋的フィットネス」を大学体育に

て行ってきている．ゆっくりとした動きを主体とし，からだの仕組みを学びながら，呼吸と動作を同期

させていくような考え方と実践は，学生にとってもかなり新鮮な驚きと気づきを与えることのできる身

体の授業として受け止められている．

[文 献]

１）石水極子：東洋的フィットネス．東京大学教養学部身体運動科学研究室編,教養としての身体運

動・健康科学,ｐｐ157-159,東京大学出版会,2011.

２）石水極子：低負荷・無負荷の運動について 太極拳の動きとそれを生み出すもの．

Sportsmedicine,84:18-19,2006.

３）石水極子：腰痛のマネジメント からだのほぐしと立ち方．Sportsmedicine,90:15-19,2007.

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追加資料：表『自分のからだの重さを知る「総体重に対する身体各部位の比率」』について

「からだを緩めるメソッド」や「太極拳は自分の部分質量を上手く活用する護身術」の実

習の理解の参照として，表を作成しました．みなさんご自身の体重からおおよその部分質量

を算出してみてください．

（尚，「総体重に対する身体各部位の比率」は，三つの研究からの比率を掲載しました．そ

のうちどれかに当てはめて計算してみましょう．）