質点の力学...1 質点の力学 目次 速度・加速度の定義 2...
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1
質点の力学
目次
速度・加速度の定義 2
微分・積分を用いた、位置・速度・加速度 5
慣性の法則、運動の法則、作用反作用の法則 8
力のつりあいの基本 10
水平面での物体のつりあい・運動 16
複数の物体が関与する、静止・運動状態 24
斜面での物体の運動 34
速度に比例する抵抗を受ける物体の運動 45
滑車のある運動 47
2次元の運動 50
運動量と力積 55
力学的エネルギー 67
微積分を使った力学的エネルギーの簡単な扱い 91
力学的エネルギーの、ベクトルと微積分を使った説明 95
水平面での回転運動 103
円錐振り子 109
2次元の極座標表示での、速度と加速度の求め方 110
単振動・ばねにつながった物体の運動 114
連成振動 145
単振り子・重力下での円運動 152
質点系の力学の総合問題 165
注意:このファイルの著作権は、室蘭工業大学 矢野隆治にあります。ファイルの内容を紙に印刷した
後、鉛筆・ボールペンなどで書き込みしてもかまいません。しかし、著者の許諾なく、ファイルの内容
そのものに対して勝手に書き換え・改変する事は、しないでください。また、間違い・ミスプリントな
どが見つかった場合は、著者(矢野隆治)まで連絡をお願いします。
2
計算での注意:文字式で計算し、数値計算は最後にする。文字にはそれぞれ意味がある。質量(mass)、
力(force)、加速度(acceleration)、速度(velocity)など。
質点:大きさの無視できる物体。質量をもつ。自身の周りの回転運動は考えない。(例えばコマは、そ
の位置を変える事なく回転運動し、その運動エネルギーを持つが、この事を無視する。)
ベクトルの説明:向きと大きさを持つ。位置(変位)、速度、加速度、力は、ベクトル量。
スカラ―の説明:向き(方向)は持たないが、大きさをもつ。 速さや長さなど。
速度と速さの違い:速さは大きさ(例 10m/s)であり、速度は大きさと向き(例:東向き)を持つベクトル。
速度・加速度の定義
時間間隔 t∆ での物体の移動距離(位置の変化) )()( txttxx −+= ∆∆ で、平均の速度 vを定義する。
t
xv
∆∆
=
時刻 tでの速度vは、 t∆ を十分短くした時の値で定義する:
t
xtv
t ∆∆
∆ 0lim)(
→= 。
時間間隔 t∆ での物体の速度変化(速度変化) )()( tvttvv −+= ∆∆ で、平均の加速度a を定義する:
t
va
∆∆
= 。
時刻 tでの加速度 )(ta は、 t∆ を十分短くした時の値で定義する:
t
vta
t ∆∆
∆ 0lim)(
→= 。
直線上の運動:加速度aと速度v、および位置 xとの関係
簡単な、直線上の運動を考えます。
等加速度運動 :v 速度、 :a 加速度(高校物理では、a =一定の簡単な場合のみを扱う。例外:振動)
atvtvat
vtv=−→==
−−
)0()(0
)0()(一定 ⇒ )0(),( 0 vvtvv == の置き換えで atvv += 0
を得る。
等速運動は 0=a なので、 0vv = である。一般には、ある時刻 tにおける速度、加速度の定義は、
t
tvttvta
t
txttxtv
tt ∆∆
∆∆
∆∆
)()(lim)(,
)()(lim)(
00
rrr
rrr −+
=−+
=→→
等速度運動の時の位置の変化は、速度×時間=移動距離 である。
0vv = =一定なら、 tvxtxx 00)( +==
v
t
面積=移動距離
3
等加速度運動での位置の変化
加速度 0>a の時は、下左図の四角形+三角形の面積が、移動距離になる。
2
00002
1
2
1attvxtattvxx ++=⋅++=
0<a の時は、四角形から三角部分を取り去ると考えよう(下右の図)。その面積が移動距離になる。
2
00002
1||
2
1attvxttatvxx ++=⋅−+=
例題 1 等加速度運動
電車が A駅を出発し、 )m/s(30.0 2の加速度で速さを増し、 )s(50 経過した時加速をやめて、その時の速
さで )s(60 だけ進んだ。その後一定の割合で時間 )s(30 だけ減速し、B駅で停止した。
(1) A駅から B駅に着くまでの時間と速さの関係をグラフに書け。
(2) 初めの 50秒間に進んだ距離を求めよ。
(3) 最後の 30秒間の加速度はいくらか?
(4) 出発してちょうど 60秒経った時の、電車と A駅との距離を求めよ。
(5) A駅と B駅との距離を求めよ。
解説と解答
電車の運動では、0~50 秒までは、等加速度運動で速さが増加する。50~50+60 秒では、一定の速さで
進む。50+60~50+60+30秒では、一定の加速度で速さが遅くなり、速さ=ゼロで B駅に到着している
事を理解しよう。
(1) 出発時の加速度2
1 m/s30.0=a 、B駅到着時の加速度 2a とする。
0~50sでは、最初の速度=ゼロでの等加速度運動である。よって速度vは、 )m(30.00 1 ttav ×=+= 。
50秒後の速度は、 )m/s(155030.050 =×=v になる。
50~50+60秒では、等速度運動で )m/s(15 2=v である。
50+60~50+60+30秒では、30秒掛けて減速し、速度がゼロになる。よって
)m/s(50.030/15030 2
2250 −=−=→=⋅+ aav 。
速度は )m/s()110(50.015)110(250 −×−=−⋅+= ttavv で与えられる。
(2) 0~50秒で、距離 )m(15.02/ 22
1 ttax == となる。よって 50秒での距離は、
)m/s(108.3)m(1075.35015.0 2222 ×=×=×=x
である。
(3) (1)で説明したように、減速時の加速度 2a は、30秒で停止したので、
v
v0
at
t
面積=移動距離
面積=移動距離
v
v0
|a|t
t
取り除く
4
)m/s(50.015300 2
22 −=→+×= aa
となる。
(4) 出発して 60秒後の距離は、 m103.51015)(108.3 22 ×=×+×= mx となる。
(5) それぞれの区間での移動距離を求める。
0~50秒で、距離 )m(15.02/ 22
1 ttax ==
よって、50秒での距離 )m(108.3)(1075.35015.0 222 ×=×=×= mx
50~50+60秒では、等速運動なので、移動距離 )m(100.9601560 2×=×=×= vx
50+60~50+60+30秒での移動距離は、等加速度運動(減速)なので、
)m(1025.21025.2105.4
2/30)50.0(30152/3030
222
22
2
×=×−×=
×−+×=×+×=
avx
よって A-Bの距離は、 )m(1005.151025.2100.9108.3 2222 ×=×+×+×=ABx
例題 2 等加速度直線運動の列車
一定の加速度で、一得戦場を走る長さ Lの列車の先端部
分が在る点Q(踏み切り)を通過する時の速度は 1v 、
最後部が点Qを通過する時の速度は 2v であった。列車
の真ん中が点Qを通過するときの速度を求めよ。
解説と解答
等速直線運動と解釈して、問題を解く。列車の先端と最後部での速度に違いがあった。これは、列車が
等加速度運動を行い、距離 L進む間に速度が変わったという事を意味する。加速度をa、距離 L進むの
にかかる時間を Lt とすると、 0≠a として次の式が成り立つ。
+=
−=
+−=→
=+−=−+−
→
=
−+
−⋅
−=
→
=+
+=
12
12
1212
1212
2
12121
2
12121
12
2
1
12
2
))((2
1
))((2
1])()(2[
2
1
2
12
1
vv
L
a
vvt
vvvvL
a
Lvvvva
vvvvva
La
vva
a
vvv
a
vvt
Lattv
atvv
L
L
LL
L
加速度aと時間 Lt を用いて、 2/2/2
2/2/1 Lattv LL =+ となる時間 2/Lt ( LL tt << 2/0 )を求める。
a
vaLvt
a
v
a
L
a
vt
a
v
a
L
a
vt
a
Lt
a
vtLattvLattv
LL
LLLLLLL
2
11
2/
2
112/
2
1212/2/
12
2/
2
2/2/1
2
2/2/1 )()2(22/2
1
++−=→
+±−=→
+=+→=+→=+→=+
これより、電車の真ん中での速度を 2/Lv とすれば、以下のように求まる。
2))((
2
1 2
1
2
22
11212
2
1
2
11
12/12/
vvvLvvvv
LvaL
a
vaLvavatvv LL
+=+⋅+−=+=
++−⋅+=+= 。
注意: 0<a の場合、電車の真ん中が点Qを最初に通過する時間と、電車が逆戻りして再び通過する時
間が得られる。
v1 v2
5
微分・積分を用いた、位置・速度・加速度
単純な、1次元の直線運動を考える。時刻 tにおける位置が )(tx で与えられるとする。すると時刻 tか
ら時刻 tt ∆+ の間での、位置 )(tx からの位置の移動(変位) )(tx∆ は、
)()()( txttxtx −+= ∆∆
で与えられる。一方、速度 )(tv から考えれば、時刻 tから時刻 tt ∆+ の間で物体の速度の変化が十分無
視できるなら、変位 )(tx∆ は、
ttvtx ∆∆ ⋅= )()(
で与えられる。両者は等しく、
t
txttxtvttvtxttx
∆∆
∆∆)()(
)()()()(−+
=→⋅=−+
が成り立つ。 0→t∆ の極限を考えると、
dt
tdx
t
txttxtv
t
)()()(lim)(
0=
−+=
→ ∆∆
∆。
つまり、 になる。の時間微分が速度位置の移動 )()( tvtx
加速度 )(ta についても、同様の考えをしよう。時刻 tにおける速度が )(tv で与えられるとする。する
と時刻 tから時刻 tt ∆+ の間の速度変化 )(tv∆ は、
)()()( tvttvtv −+= ∆∆
で与えられる。一方、速度 )(ta から考えれば、時刻 tから時刻 tt ∆+ の間で物体の加速度の変化が十分
無視できるなら、速度の変化 )(tv∆ は、
ttatv ∆∆ ⋅= )()(
で与えられる。両者は等しく、
t
tvttvtattatvttv
∆∆
∆∆)()(
)()()()(−+
=→⋅=−+
が成り立つ。 0→t∆ の極限を考えると、
dt
tdv
t
tvttvta
t
)()()(lim)(
0=
∆−∆+
=→∆
。
つまり、 になる。の時間微分が加速度速度 )()( tatv
これらの結果に対して、微分の逆(積分)を考えれば、次の式が成り立つ。
∫∫ +=+=tt
dttavtvdttvxtx00
')'()0()(,')'()0()(
加速度が一定の値aを持つ場合で計算してみよう。
初速度 0v で時間 t経過後の速度を vとすると、
atvtavadtvtvt
+=−+=+= ∫ 000
0 )0(')(
位置(変位) xは、初期値を 0x として、
t t+∆t
x+∆x
x
6
2
000
000
02
1')'(')'()( attvxdtatvxdttvxtx
tt
++=++=+= ∫∫
をえる。一定の加速度での、速度と変位に関する公式が得られた。
微分・積分による考え方-2
1次元の直線運動を考える。位置の移動(変位)が )(tx で与えられるとする。すると時刻 tから時刻
tt ∆+ の間に移動した距離 )(tx∆ は、
)()()( txttxtx −+= ∆∆
で与えられる。一方、速度 )(tv から考えれば、時刻 tから時刻 tt ∆+ の間での、速度の最小値と最大値
を )(),(min tvtv Maxとすれば、位置 )(tx からの変位 )(tx∆ は、
ttvtxttv Max ∆∆∆ ⋅<<⋅ )()()(min
で与えられる。この不等式を t∆ で割ると
)()()(
)(min tvt
txttxtv Max<
−+<
∆∆
が成り立つ。 0→t∆ の極限を考えると、 )()(min tvtv Max= となるはずなので、
dt
tdx
t
txttxtv
t
)()()(lim)(
0=
−+=
→ ∆∆
∆。
つまり、 になる。の時間微分が速度変位 )()( tvtx の関係も同様である。と加速度速度 )()( tatv
微分の逆を考えれば、加速度 )(ta も含め、次の式が成り立つ。
∫∫ +=+=tt
dttavtvdttvxtx00
')'()0()(,')'()0()(
速度、加速度などの定義
t
tvttv
ttt
tvttvta
t
txttx
ttt
txttxtv
∆−∆+
=−∆+
−∆+=
∆−∆+
=−∆+
−∆+=
→→→→→
→→→→→
)()(
)(
)()()(
)()(
)(
)()()(
加速度:
速度:
移動距離(位置の変位)と速度の関係
=−
≈∆⋅∆+=−∆+
=+∆=
→
∆⋅∆−+=∆−+−∆+
⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅
∆⋅∆+=∆+−∆+
∆⋅=−∆+
∆⋅=−∆+→∆
−∆+=
∫
∫∑→→→
→−
=
→→→
→→→
→→→
→→→
→→→→→
→
1
0
1
0
)()()(
)()()()(
,
))1(())1(()(
)()()2(
)()()(
)()()()()(
)(
01
1
0
01
t
t
t
t
n
k
dttvtxtx
dttvttktvtxtntx
ttttnt
ttntvtntxtntx
tttvttxttx
ttvtxttx
ttvtxttxt
txttxtv
注意: ))(),(()( 21 tvtvtv =→
とすれば、 )(tv→
の時間積分は、
7
== ∫∫∫∫
→ 1
0
1
0
1
0
1
0
)(,)(())(),(()( 2121
t
t
t
t
t
t
t
t
dttvdttvdttvtvdttv
のようになる。
加速度と速度の関係
ttatvttvt
tvttva ∆∆
∆∆
⋅=−+→−+
=→→→
→→→
)()()()()(
速度の変化量も同様にして求まる。
=−
≈∆⋅∆+=−∆+
=+∆=
⇒
∆⋅∆−+=∆−+−∆+
⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅
∆⋅∆+=∆+−∆+
∆⋅=−∆+
∫
∫∑→→
−
=
→→→
→→→
→→→
→→→
1
0
1
0
)()()(
)()()()(
,
))1(())1(()(
)()()2(
)()()(
01
1
0
01
t
t
t
t
n
k
dttatvtv
dttattktatvtntv
ttttnt
ttntatntvtntv
tttattvttv
ttatvttv
r
r
横軸を時刻 t、縦軸を速度 )(tv にとり、速度 )(tv の時間依存のグラフを書く。 0=t の軸、 )(tv と t軸、
および tt = とで囲まれた部分の面積を )(tS とする。時刻 tと
tt ∆+ の垂線および t軸、速度 )(tv の曲線で囲まれた部分の
面積を )(tS∆ とすると、 )(tS∆ は黄色の長方形の部分に相当
するので、
ttvtSttStS ∆⋅≈−∆+=∆ )()()()(
が成り立つ。よって、囲まれた部分の面積は、移動距離をあ
らわす。また、
)()()(
lim)()()()(
0tv
t
tSttStv
t
tSttS
t
tS
t=
∆−∆+
→≈∆
−∆+=
∆∆
→∆
となるので、移動距離(正確には、変位)の単位時間当たりの変化量は、速度を表す。
0 t t+∆t
S(t)
∆S(t) v(t)
8
物体の運動を考えるにあたり、次の 3つの法則を認める。
慣性の法則:
物体に力が働かない時、物体は一定速度で動き続ける(向きや速さの変化なし)か、静止し続ける。も
し物体がこのような状態(等速運動か静止状態)から変化したなら、物体に対して何らかの力が加わっ
たと解釈する。このような物体の運動を式で表したものが、次の運動の法則である。
運動の法則:
物体に力が働く時、物体には、加速度が生じる。加速度の大きさは、物体の質量mに反比例し、力の大
きさに比例する。また、加速度の向きは、力の向きと同じ方向である。→
F:物体に加わる力(ベクトル)、→
a :物体の加速度(ベクトル)とすれば、→→
= amF の関係が成り立つ。力の単位は[N(ニュート
ン)]=[kg][m/s2]。質量は[kg]、加速度は[m/s2]で表す。この単位系を、MKS単位系という。
物体 A について、具体的に→→
= amF の関係式を導くことを、物体 A の運動方程式を立てるという。
物体 Aの運動方程式を立てる際、物体 Aに働く力(の和)を考え、その力で、物体 Aに加速度が生じ
る事に注意しよう。物体 Aが物体 Bを押す力は、物体 Aの運動方程式では、考慮する必要は無い。
運動方程式はベクトルで表わされるので、適当な成分に分けて運動を考えることが出来る。
作用・反作用の法則:
物体 Aが物体 Bに力を及ぼす時、Bから同じ大きさで向きが反対の力が Aに加わる。物体 A,Bが静止
しても動いていても、成り立つ。この法則は、重要である。物体どうしが接する場所には、一般に力(大
きさがゼロの場合を含め)が働くからである。物体同士が接触している場合、互いに押し合う場合や、
互いに引っ張り合う場合がある。
例えば、ビルの壁を素手で殴る場合を考えよう。軽く素手で殴るなら、手は痛くない。しかし、力い
っぱいに殴ろうとすれば、誰でも躊躇してしまう。なぜなら、経験から、力いっぱいに壁を殴ろうもの
なら、手がすごく痛い事を知っているから。小さな力を加えれば、小さな力で壁から押し返され、大き
な力を壁に加えると、大きな力で壁から押し返される。これは、作用・反作用に他ならない。
<運動方程式を立てるときの注意点>
ある物体の運動方程式を記述する時には、その物体に働く力をすべて数え上げ、力の向きを考慮して運
動方程式を立てます。その際、以下のような事柄に注意してください。1~6の手順は、物体がどのよう
な運動をしていようと、運動方程式を立てる時、考えなくてはならない、重要な手順である。
1 全ての物体(物体が接している床、斜面も含む)に働く力を数え上げる。
物体 A の運動方程式を立てるとしよう。物体 A は周囲から力を受けるだけでなく、周りの物体に対
して力を加えているかもしれない。また、複数の物体が関係する運動では、お互いに及ぼしあう力を
見逃す可能性がある。1 つの物体の運動を知りたい場合でも、すべての物体に働く力を、図に書いて
みよう。
2 物体 Aが周囲から受ける力と、まわりの物体に対して加える力を区別する。
物体 A の運動方程式を立てるに当たり、考慮すべき力は、物体 A に働く力だけです。それ以外の力
は考慮しない。
9
3 力の方向を考える。
力の向きが図に正しく書けないと、物体の運動(加速度、速度、力の大きさなど)を正しく求める
事ができない。
4 力の方向は、どちらが正方向でどちらが負方向なのか決める。
物体が動く方向(予め、加速度が正の値を持つと予想した向き)を力の正の向きとするのが、考え
やすい。
5 1つの物体ごとに運動方程式を立てる。
全ての物体の加速度が同じわけではない。一般に、物体ごとに運動方程式を立てる必要がある。こ
れにより、物体の数だけ運動方程式が出る。
6 力を 2つの方向に分け、運動方程式を立てるのが便利な場合がある。
力はベクトルであるから、複数の方向に分ける事が出来る。力の方向を 2つに分ける事が出来る場
合、それぞれの方向で運動方程式を立てる。斜面を滑る物体の問題では、斜面と水平・垂直の 2つ
の方向に分ける。重力のある場合のボール投げでは、重力の働く方向と、それに対して垂直方向の
2つに分ける。このように分ける事で、運動方程式を解く事が簡単になる。
2,3 次元の物体の運動(直線運動でない)の場合、運動方程式→→
= amF のベクトルの性質を利用す
る。ベクトルは分解できる。そこで、たとえば 2次元の物体の運動の場合、力および加速度のベク
トルを次のように水平方向と鉛直方向の 2つの方向に分けよう。
),(),,( yxyx aaaFFF ==→ r
こうすれば、運動方程式→→
= amF は、以下の 2つの式に分解される。
yy
xx
maF
maF
=
=。
運動方程式はベクトルで記述されている。よって、物体が水平面上を動く場合や斜面を滑る場合な
どでは、物体が動く方向とそれに対して垂直方向の、2つ方向に分けて考えてよい。
今、下の図において、赤色が着目している物体から周りの物体に加える力で、青色が着目してい
る物体が周囲の物体などから受ける力としよう。着目している物体の運動方程式では、青色の力だ
けを考えればよい。
物体で働く力をすべて書く 物体に加わる力だけを考える
10
1)力のつりあいの基本
(1)床の上の、静止している物体 -力のつりあい-
質量m (kg)の物体には、重力による力mg(物体中央、赤い矢印)が下向きに働
く。物体mは、大きさF の力(物体下からの下向きの緑矢印)で床を押す(作用)。
その反作用として、床は、大きさN で物体を押し返す(床から上向きの青矢印)。
この力N を垂直抗力という。
N (垂直抗力)は、物体が床を押す力F (作用)に対する反作用として生じる。作用・反作用の関
係にあるので、 FN = の関係が成り立つ(向きが逆で大きさが等しい)。力の作用・反作用の関係は、
物体の運動の如何(静止・移動)にかかわらず、成り立つ。
垂直方向の物体の力のつりあいは、運動方程式を用いると、上向きを+にとり、加速度aとして
mamgN =−
となる。物体が静止しているので、加速度 0=a であり、 mgN = が求まる。また、 FN , は作用・反作
用の関係にあるので、 FN = である。これより、物体が床を押す力F は、
mgNF ==
と求まる。
(2)2つの物体が重なった状態での力のつりあい
では、複数の物体が重なっている時、物体同士に働く力の大きさ、物体
と床との力はどのようになっているのだろうか?
2 つ重なっている場合(右図)を考える。質量 21,mm の物体が、水平な
平面上に重なっている。その時の力関係を求める。
2つの物体には、重力によりそれぞれ gmgm 21 , の大きさの力(赤い矢印)
が、図の下向きに働く。物体 1m が物体 2m を押す力(作用)を 1F とすると、物体 2m が物体 1m を大きさ
1N で押し返す(反作用)。 1N を垂直抗力という。
物体 2m も同様に、床を押す。物体 2m が床を押す力(作用)を 2F とすると、床が物体 2m を大きさ 2N
で押し返す(反作用)。この力は、床から物体 2m に加わる垂直抗力である。
運動方程式は、上向きを+にとり、 21,mm の加速度をそれぞれ 21,aa とすると、
222122
11111
:
:
amgmFNm
amgmNm
=−−
=−
となる。また、作用・反作用の関係で、 2211 , FNFN == が成り立つ。物体は、重なったままで動かな
いなら、 021 == aa であるので、
+=+=
==→
=−−
=−
gmmgmFN
gmFN
gmFN
gmN
)(
)(
0
0
21212
111
212
11
となる。
ここで、重要な点。質量 2m の物体に働く垂直抗力 gmN 22 ≠ 、物体 2m が床を押す力 gmN 22 ≠ であ
る。幾つかの物体が重なっていると、複数の物体の質量に対応した力(重力による力)で床を押す。す
なわち、床と接する物体の質量だけではなく、重なった全ての物体の質量に対応した重力で床を押す。
また、その反作用で床が物体を押し返す力の大きさは、重なった全ての物体の質量に相当した力として
の垂直抗力になる。
mg
N
F
m1
N1
F1
N2
F2
m2
m1g
m2g
11
例題 1 物体に力を加える場合のつりあい
質量mの物体が、水平な床の上にある。質量mの物体を大きさ 0F の力で鉛直上向きに引く場合、下
向きに押す場合の2つの場合で、物体mが水平面から押される垂直抗力の大きさを求めよ。
解説と解答
鉛直方向の力だけを考える。物体mには重力による力mgが働く。物体mが床を押す(作用)力F に
対する反作用として、床が物体を押す力(垂直抗力)N が生じ、物体mを押し返す。また物体には、 0F
の大きさの力が加わっている。鉛直方向上向き
を(+)にとれば、符号を含めてその力は、上
向きに引くときは 0F+ 、下向きに押すときは、
0F− となる。
鉛直方向の運動方程式は、物体mの加速度
を aとして、垂直上方向を正(+)にとり、
mamgFN =−±+ )( 2 。
となる。ここで± の符号は、先ほど説明したとおり。また、作用・反作用の関係から、 FN = が成り立
つ。さて、物体mが動かないので、 0=a から、
)( 0FmgN ±+=
を得る。物体を上に引く場合、物体mが床を押す
力 0FmgNF −== であり、物体mに掛かる重力
による力mgよりも小さな値になっている。一方、
物体を押す場合、 0FmgNF +== となり、物体
mだけの場合と較べて大きな力で床を押す。
例題 2
質量 21,mm の物体が、水平な平面上に重なっている。また、質量 1m の
物体は、大きさ 0F の力で鉛直下方向に押されている。その時、床が質量 2m
の物体をおす垂直抗力、および質量 21,mm の物体が互いに押し合う力の大
きさを求めよ。
解説と解答
最初に、質量 1m の物体に働く力を考えよう。質量 1m の物体には、重力
による力 gm1 が鉛直下方向に働く。また問題設定から、質量 1m の物体に
は鉛直下向きに 0F の力が働く。さらに、質量 21,mm の物体同士が接して
いるので、質量 1m の物体が質量 2m の物体を押す。その力を 1F とする。
力 1F に対する反作用として、質量 2m の物体が質量 1m の物体を押し返す。
その大きさを 1N とする。作用・反作用の関係から、 11 NF = である。
続いて、質量 2m の物体に働く力を考えよう。まず質量 2m の物体には、重力による力 gm2 が鉛直下方
向に働く。また、質量 1m の物体から鉛直下向きに 1F の力で押され、その反作用として、質量 2m の物体
F0
床
N
mg F
F0
床
N
mg
物体に加わる力だけ
F0
床
N
mg F
F0
床
N
mg
物体に加わる力だけ
m1
N1
F1
N2
m2
m1g
m2g
F0
F2
m1
m2
F0
12
は、質量 1m の物体を大きさ 1N の力で鉛直上向きに押し返す。さらに、質量 2m の物体は水平面と接して
いるので、質量 2m の物体が水平面を鉛直下方向に押し(その力の大きさを 2F とする)、水平面から大き
さ 2N の力で鉛直上方向に押し返される。 2N は、物体 2m に対する垂直抗力である。作用・反作用の関
係から、 22 NF = である。
以上で、2つの物体に働く力が分かった。そこで、運動方程式を立てる。運動方程式は、上向きを+
にとり、 21,mm の加速度をそれぞれ 21,aa とすると、
222122
110111
:
:
amgmFNm
amFgmNm
=−−
=−−
となる。また、作用・反作用の関係で、 2211 , FNFN == が成り立つ。物体が、互いに重なったままで
動かないなら、 021 == aa であるので、
++=+=
+==→
=−−
=−−
021212
0111
212
011
)(
)(
0
0
FgmmgmFN
FgmFN
gmFN
FgmN
となる。質量 1m の物体を力 0F で押す影響は、物体 2m に対する垂直抗力の大きさに跳ね返っている。
例題 3 エレベーターでの運動
エレベーターにばね式体重計をのせ、その上に質量 )kg(m の人が乗る。エレベーターが上向きに大き
さ )m/s( 2a の加速度で上昇している時、体重計はいくらの体重(見かけの重さ)を示すか?なお、重力
加速度を )m/s( 2g として、質量 )kg(M の人が動かない平面にある体重計に乗った時、体重計には
)m/skg( 2⋅Mg の大きさの力が加わるので、体重計は )kg( 重M を示す。
解説と解答
人が体重計を押す力をF とし、体重計が人を押しかえす力をN とすれば、
作用・反作用の関係で、 NF = が成り立つ。エレベーターの加速度をaと
すれば、上向きを(+)にとり、人の運動方程式は、
)( agmNmamgN +=→=−
見かけの重さは、力 N を gで割った値なので、g
agm
+)kg( 重 である。
例題 4 自分をロープで引き上げる
図のように、質量 )kg(m の人が、質量 )kg(M の台の上に載っている。
台は水平な床の上にある。台につけられた質量の無視できるロープは、
滑車を介して人が手で持っている。滑車とロープとの摩擦を無視する。
重力加速度を )m/s( 2g として、以下の問いに答えよ。
(1) 人がロープを下向きに大きさ )N(T の力で引くとき、台が人を押す
力を求めよ。
(2) (1)の時、水平面が台を押す力を求めよ。
mg N
F
13
(3) 人が台ごと水平面から浮き上がるためには、人がロープをある大きさの力( 0T とする)よりも大
きな力で引く必要がある。その大きさ 0T を求めよ。
(4) 人が台ごと水平面から浮き上がるためには、人と台の質量の間に、ある関係式が成立しなければな
らない。その関係式を求めよ。ただし、人は台の上に乗っている
だけで、乗っている人の靴が台に固定されていない(人が上にジ
ャンプすると、人と台が離れる)とする。
解説と解答
人、台、水平面に加わる力は、問題の絵を簡略化して書くと、右図
のようになる。ここで 11,NF は、それぞれ、人が台を押す力、その反
作用として台が人を押し返す垂直抗力である。また 22 ,NF は、それぞ
れ、台が水平面を押す力、その反作用として水平面が台を押し返す垂
直抗力である。ここでは、人がロープを引く力、台がロープを引く力
は書いていない。
人がロープを引くと、その反作用としてロープが人を同じ大きさの力で引く。ロープが台を引くと、
その反作用で台がロープを引く。ロープの質量が無視できるなら、ロープの両端の張力は同じになる。
よって、図のような力と向きになる。ロープの力は、人も上向きに引くし、台に対しても上向きに引く。
さて、それぞれの運動方程式は、上向きを(+)にとり、人、台の加速度を Mm aa , とすれば、以下の
ようになる。また、作用反作用の関係で 2211 , NFNF == が成り立つ。
=+−−
=+−
M
m
MaNMgFT
maNmgT
21
1
人、台の加速度 0, =Mm aa として、 11 NF = の関係も使用して、
−+=+−+−=++−=
−=→
==+−−
==+−
TgmMMgTmgTMgFTN
TmgN
MaNMgFT
maNmgT
M
m
2)()(0
0
12
1
21
1 。
これより、(1)の答えは TmgN −=1 。(2)の答えは、 TgmMN 2)(2 −+= 。
(3) 台が人ごと上がるためには、「水平面が台を押す垂直抗力 02 =N となる時のロープを引く力」より
も大きな力でロープをひけばよい。台が水平面から離れる直前( 02 =N )でのロープを引く力が 0T で
ある。
gmMTTTgmMFNN )(2
102)(0 0222 +==→=−+==→= 。
よって、 gmM )(2
1+ よりも大きな力でロープを引けばよい。
(4) 人がロープを引く場合、その力の最大値は、ロープに人が宙吊りにぶら下がった時にロープを引く
力である、自身の体重mgである。よって、仮に人が台を押す力 01 =F (人と台が接触するだけで、力
を互いに及ぼさない状態)としても、台ごと人が上がるためには、少なくとも
MmgmMmg >→+> )(2
1
を満足しなければならない。この式は、人が台よりも軽ければ、人がロープにぶら下がったとしても、
mg
N1
F1 N2
F2
T
T
Mg
14
台が上に上がらないという、当たり前の事を言っている。
補足:もし人の履いている靴が台に固定されてあり、かつ人の腕力が十分あれば、仮に Mm < でも人
は台ごと上向きに上がる事が出来る。 mgT ≤ の場合はすでに考察したので、人と台が互いに固定され
た状態で、 Mm < かつ mgT > の場合を考察しよう。先の解説の図で、文字 11 NF ↔ の入れ替えをし、
力の釣り合いを議論(右図)しよう。 1F は人が台を上向きに引く力、 1N は台
が人を下向きに引く力とする。なお、図で人・台がロープを引く力の矢印は少
略した。
運動方程式から、人、台の加速度 0, =Mm aa とし、 11 NF = の関係も用い、
−+=
+−−−=+−−=
−=
→
==+−+
==−−
TgmM
MgmgTTMgFTN
mgTN
MaNMgFT
maNmgT
M
m
2)(
)(0
012
1
21
1
となる。台が水平面から離れる直前の条件 02 =N から、
gmMTTgmMN )(2
102)(2 +=→=−+=
をえる。T をいくらでも大きく出来るなら、 2/)( gmMT += にする事は可能。
(3) ばねの伸縮による力
ばねを伸ばしたり縮めたりすると、力がいる。ばねを伸ばせば伸ばすほど、力が必要だ。また、長さ
を短くしようとして、ばねがどこかに飛んでいったりすることもある。このように、ばねの長さを変え
ようとすると、それに応じて、ばねに力を加えなくてはいけない。
ばねを、摩擦のない滑らかな水平面上に力を加えずに置く。そ
の時のばねの長さを、自然長という。ばねを自然長から長さ )m(x
伸ばす(縮める)のに必要な力の大きさ )N(f は、ばね定数を
)N/m(k として、 kxf = で与えられる。ばねには、このような性
質があると考えよう。もしばねをあまり長く伸ばすと、伸びきってしまい、元に戻らなくなる場合もあ
るが、そのような事が起こらないとして、ここでは考える。また、ばねには質量があるが、質量=ゼロ
として問題を扱うことが、よくある。
例題 重力とばねによる力の釣り合い
天井と床の距離を、 21 ll + とする。自然長での長さ 1l ばね定数 1k のばね、
および自然長での長さ 2l ばね定数 2k の 2つのばねを、質量mの大きさの無
視できる質点を介してつなぐ。なお、ばねは横方向にたるんだり傾いたり
せず、垂直方向にだけ伸び縮みするものとする。また、ばねの質量は無視
する。この時、ばねの伸びを求めよ。
解説と解答
質量mの質点は、長さ 1l のばねを伸ばし、長さ 2l のばねを縮める。長さ 1l のばねの伸び(長さ 2l のば
mg
F1
N1 N2
F2
T
T
Mg
x
fx
m
k1 l1+x
l2 - x k2
l1+12
15
ねの縮み)を xとする。この時、長さ 1l のばねは縮もうとし、長さ 2l のばねは伸びようとする。いずれ
も、自然長の長さになろうと、ばねの長さが変化しようとする。
さて、長さ 1l のばねが x伸びると、ばねは天井および質点を、
xkf 1= の力で引く(青色の矢印)。一方長さ 2l のばねは x縮むので、
質点および床を、 xkf 2= の力で押す(青色の矢印)。緑色の矢印は、
質点がばねに加える力である。右図には、ばねと天井、ばねと床の
間に働く力も記入してある。それぞれ、作用・反作用の関係で、同
じ大きさとなる。ばねの位置と力の位置は、わざとずらしてある。
さて、質量mの物体の運動(実際は、静止状態)を考えよう。質
点の上方向を(+)方向にとり、物体の加速度をaとすれば、質点の
運動方程式は右の拡大図を参照して、
maxkmgxkxkfxkf
mafmgf=+−→
==
=+−21
21 ',
'
と な る 。 質 点 は 静 止 し て い る の で 、 加 速 度 0=a 。 よ っ て 、
021 ==+− maxkmgxk より、 xとして、以下の値を得る。
21 kk
mgx
+= 。
l1+x
l2 - x
f’=k2x
mg
f=k1x
mg
16
2)水平面での物体のつりあい・運動
(1)摩擦のない水平面での運動
水平方向/ 右向きに力 Fがかかる(例えば、糸で引っ張る)場合
右向きを正に取り、力F が働くので、水平方向の運動方程式は
m
FamaF xx =→=
となる。
垂直方向/ 重力mgが働く。また、物体mが床を押す(作用)力 f に対する反作用として、床が物体
を押す力(垂直抗力)N が物体mに働く。もし物体が床の上に載ったまま(上下運動なし)なら、物
体に働く重力による力mgと垂直抗力N はつりあう: mgN = 。
力の釣り合いの関係式( mgN = )を運動方程式から導びこう。上向きを力の正の方向にすると、
運動方程式: ymamgN =−
物体は上下方向には移動しない⇒速度=ゼロ(速度の時間変化なし)⇒加速度 ya =ゼロとなり、 Nmg =
が導かれる。物体に働く力の和(符号を含めての足し算)はゼロとなる。
さて、物体の 0=t での速度(初速度) 0)0( vv = 、位置 )0(x とする。微積分を用いると、時刻 tでの
速度 )(tv および変位 )(tx は、以下の式で与えられる。
2
0
0
0
000
02
''')'()0()(,'')'()( tm
Ftvdtt
m
Fvdttvxtxt
m
Fdt
m
Fdttavtv
tttt
x +=
+==−===− ∫∫∫∫
(2)摩擦のある水平面での力のつりあい・運動
物体mと水平面の間に摩擦力が働く場合 摩擦力の考え方
i)物体が静止している場合
垂直方向では、物体mが床を押す(作用)力 'F に対する反作用として、床が物体を押す力(垂直抗
力)N が生じ、物体mを押す。
水平方向では、物体mを引く力F に対抗して、物体と床の間で摩擦力 f が生じる。静止摩擦力 f は、
力 F の方向と逆向き(邪魔する向き)に働く(より正確には、物体が動こうとする方向と反対方向に静
止摩擦力が加わる)。なお、床にも、物体mに働く摩擦力 f と同じ大きさの力が逆向き(図の紫色の矢
印)に働く。
さて、静止摩擦力 f には、
Nf µ≤ (µ :静止摩擦係数、定数と見なす)
の関係が成り立つ。 Nf µ= の時の力 f を、最大静止摩擦力という。
この関係式は、実験的に得られたものであり、これ以降では、摩擦が
生じる物体同士では、常にこの関係式が成り立つとして、静止摩擦力を扱う事にする。
注意)物体mが押されたり、引っ張られたりしない( 0=F )と、 0=f である。また、物体mが動き
出すためには、 NF µ> (最大摩擦力)が必要である。もし、力の大きさがある大きさ 0F より少しで
f
F m
N
F’ mg
F
N
mg f
17
も大きい時に物体mが動き出すなら、 NF µ=0 が成り立つ。すなわち、 0F は最大静止摩擦力である。
物体は上下方向に運動しないので、運動方程式: 0==− ymamgN から、 mgN = となる。
ii)物体が運動(移動)している場合
物体mが床を押す(作用)力 'F に対する反作用として、床が物体mを押す力(垂直抗力)N が生じ
る。水平方向に物体mを引く力F に対抗する形で、物体と床の間で動摩擦力 'f が生じる。(図示してい
ないが、床は、物体との動摩擦により、逆向き(右方向:紫の矢印)
物体に働く力と同じ大きさ 'f の動摩擦力が働く。)物体mに働く動摩
擦力 'f は、力F と逆向き(邪魔する向き)に働く。
動摩擦力 'f は常に、
Nf '' µ= ( 'µ :動摩擦係数)
で与えられ、 Nf µ<' =最大静止摩擦力)が成り立つ。
物体mの運動方程式は、
水平方向に働く力(右側を正) xmafF =− '
垂直方向に働く力(上向きを正) ymamgN =− 。
また、作用・反作用の関係で、 'FN = が成り立つ。
物体が床に接して上下方向に運動しないなら、上下方向の速度=ゼロ⇒加速度 ya =ゼロ。よって
mgN = となる。上下方向での力の釣り合いを考えると、 mgN = を得る。
水平方向の運動の加速度は、
gmFamamgFfF xx '/'' µµ −=→=−=−
となる。これより、物体の 0=t での速度 0)0( vv = 、位置 )0(x とすると、時刻 tでの速度 )(tv および変
位 )(tx は、
2
0
0
0
0
0 '2
1''')0()(,'')( tg
m
Ftvdttg
m
Fvxtxtg
m
Fdtavtv
tt
x
−+=
−+=−
−==− ∫∫ µµµ 。
で与えられる。
f ’
F m
N
mg
物体に働く力のみを書くと
f ’
F m
N
F’ mg
18
3)物体に、水平方向および、垂直ないしは斜め方向の力が加わる場合の問題
物体と床との間に摩擦がある
A)物体に、上向きに力が加わる場合
垂直方向では、物体mには、重力によ
る力mgが働く。そのほか、物体mが床を
押す(作用)力 'F に対する反作用として、
床が物体を押す力(垂直抗力)N が生じ、
物体mを押し返す。さらに、垂直・上方向に 2F の大きさの力が加わる。
水平方向では、物体mを引く力F に対抗して、物体と床の間で摩擦力 f が生じる。静止摩擦力 f は、
力 F の方向と逆向き(邪魔する向き)に働く。動摩擦力 'f の場合も、向きは静止摩擦力の向きと同じ
である。なお、床にも、物体mに働く摩擦力 f と同じ大きさの力が逆向き(図の灰色の矢印)に働く。
注意:力の大きさの関係は、 'FN = ではあるが、必ずしも mgF =' ではない。
A-1) 物体が動かない場合
運動方程式を書くと、 f を静止摩擦力として、
水平方向(右側を正) xmafF =−
垂直方向(上向きを正) ymamgFN =−+ 2 。
となる。物体が動かないので、 0== yx aa から、 2, FmgNfF −== を得る。物体mが床を押す力 'F
は、 2' FmgNF −== であり、物体に掛かる重力による力mgよりも小さな値になっている。
さて、物体が動かないためには、 )( 2FmgNf −=≤ µµ が成り立たなくてはいけない。これは、物体
を上に引っ張っているため、見かけの物体の質量がmよりも軽くなり、 mgµ よりも小さな力で物体が
水平方向に動く事を意味する。
A-2) 物体が動く場合
静止した場合の運動方程式で、 'ff → の入れ替えにより、動摩擦力 'f を運動方程式の中に入れる。
水平方向(右側を正) xmafF =− '
垂直方向(上向きを正) ymamgFN =−+ 2 。
物体は、垂直方向に動かないので、 0=ya 。よって、 2FmgN −= を得る。動摩擦力 'f は、 Nf '' µ=
である。これを水平方向の運動方程式に代入し、
gmFFamaFmgFfF xx '/)'()('' 22 µµµ −+=→=−−=−
となる。これは、力 2F で物体が身軽になった分、加速度が大きくなることを意味する。また、物体が
移動するので
0'/)'( 2 >−+= gmFFa x µµ
が成り立っている。
B)物体に、下向きに力が加わる場合
注意:(A)で、力を 22 FF −→ の置き換えをしても求まる。
垂直方向では、物体mには、重力による力mgが働く。そのほか、物体mが床を押す力(作用) 'F に
F2
F
床
f
N
mg F’
F2
F
床
f N
mg F’
F2
F
床
f
N
mg
物体に加わる力だけ
19
対する反作用として、床が物体を押す力(垂直抗力)N が生じ、物体mを押し返す。さらに、垂直・
下方向に 2F の大きさの力が加わる。
水平方向では、物体mを引く力 F に対抗して、物体と床の間で摩擦力 f が生じる。静止摩擦力・動
摩擦力にかかわらず、力F の方向と逆向き(邪魔する向き)に働く、床には、物体mに働く摩擦力 f と
同じ大きさの力が逆向き(図の灰色の矢印)に働く。
B-1) 物体が動かない場合
運動方程式を書くと、 f を静止摩擦力として、
水平方向に働く力(右側を正) xmafF =−
垂直方向に働く力(上向きを正) ymamgFN =−− 2 。
となる。物体が動かないので、 0== yx aa から、 2, FmgNfF +== を得る。物体mが床を押す力 'F
は、 2' FmgNF +== であり、物体に掛かる重力による力mgよりも大きな値になっている。
さて、物体が動かないためには、静止摩擦力 f が最大静止摩擦力よりも小さくなくてはならない、す
なわち )( 2FmgNf +=≤ µµ が成り立たなくてはいけない。 02 =F の時と比較すると、物体を水平方
向に移動させるためには、水平方向に 2Fµ だけ余分に力を加えなくてはならない。
B-2) 物体が動く場合
静止した場合の運動方程式で、 'ff → の入れ替えにより、動摩擦力 'f を運動方程式の中に入れる。
水平方向に働く力(右側を正) xmafF =− '
垂直方向に働く力(上向きを正) ymamgFN =−− 2 。
物体は垂直方向に動かないので、 0=ya 。よって、 2FmgN += を得る。動摩擦力 'f は、 Nf '' µ= で
ある。これを水平方向の運動方程式に代入し、
gmFFamaFmgFfF xx '/)'()('' 22 µµµ −−=→=+−=−
となる。これは、力 2F で物体が見かけ重くなった分、加速度が小さくなることを意味する。また、物
体が移動するので
)('0,0''
22 mgFFag
m
F
m
Fa xx +>→>>−−= µµ
µ
が成り立っている。
C) 物体に斜めの力が加わる場合 床との摩擦あり
物体は床と接触しているとする。物体は、水平方
向は、動くか止まっているかのいずれかとする。
質量mの物体に対して、次の図のように、角度θ
)2/2/( πθπ <<− で大きさF の力が働いている場
合の運動を考える。力はベクトルなので、力F を水
平 方 向 と 垂 直 方 向 の 2 つ の 成 分 に わ け 、
)sin,cos( θθ FFF −=r
とする。F の水平成分は、θ の定義から、常に右向きである。
物体に関連する力は、垂直方向では、物体に働く重力mg、外部から物体を押す力 θsinF 、物体が床
F2
F
床
f
N
mg
物体に加わる力だけ
F
θ
f
θ
F’
mg N
Fcosθ
Fsinθ
20
を押す力 'F 、そして、床が物体を押す垂直抗力N である。水平方向は、外部から物体を押す力 θcosF 、
摩擦力 f である。 f は、静止摩擦力ないしは動摩擦力である。床にも、反作用で逆向きに大きさ f の
力(摩擦力:灰色)が加わる。それぞれの方向に対して、運動方程式を立てると、次式を得る。
)('
cos:
sin:
作用・反作用 FN
mafFx
mamgFNy
x
y
=
=−→
=−−↑
θ
θ
垂直方向では、物体と床は接したままなので、 0=ya 。よって、
mgFNmgFN +=→=−− θθ sin0sin
となる。
物体が床と接するための条件を求めよう。物体が床と接するためには、少なくとも垂直抗力 0>N で
ある。この条件は、F が一定の値とすれば、 0>F として、
FmgmgFN /sin0sin −>→>+= θθ
である。この条件式について、考えよう。
(i) 1/ <Fmg の場合には、 Fmg /sin 0 =θ となる 0θ がある。すると、 0>N の条件は 0sinsin θθ −> と
書き換えられる。これは 02/ θθπ −>> であれば成り立ち、その時、物体は床に接したままである。し
かしFrの向きが上を向くようになる(
0θθ −< )と、
00)sinsin()sin(sin)/(sin 000 <→=+−<+=+= NFFFmgFN θθθθθ
となり、物体は、物体が床から押される力が(-)となる。これは、物体が床から離れる事を意味する。
(ii) 1/ >Fmg なら、どのような角度θ に対しても、常に Fmg /sin −>θ が成り立つので、θ がどん
な値をとろうとも、物体は床と接する。実際 1/ >Fmg は mgF < なので、F の大きさの力で物体を真
上に持ち上げようとしても、物体の質量mが大きいため、物体を引き上げる事ができない。
水平方向は、物体が動くか静止するかによって、次のように場合わけをする。そのような場合わけを
する理由は、物体の動静により働く摩擦力が異なるからである。
C-1) 物体は静止
f は静止摩擦力であり、 0=xa である。よって、
fFfF =→=− θθ cos0cos 。
ところで、静止摩擦力 f は最大静止摩擦力 Nµ を越えてはいけない。よって
mgFmgFNfF µθµθθµµθ ≤−→+=≤= )sin(cos)sin(cos
を満足しなければならない。もしも 0sincos >− θµθ なら、正の値 θµθ sincos − で割る事で、
θµθµ
sincos −≤
mgF
を得る。逆に言えば、F が上式の右辺の値よりも大きければ、物体は動く。一方、 0sincos ≤− θµθ の
時は、 0>F なので、不等式
mgF µθµθ ≤− )sin(cos
21
は、常に満足されている。よって、物体は動く事はない。
さて、図でθ が負の角度( 2/0 πθ −>> )の場合は、物体を持ち上げる方向の力が働く( 0sin <θF )
ので、物体は身軽になり、垂直抗力も小さくなる。よって、同じ大きさF でもθが正の場合と負の場合
では、物体が動かないために満足すべきF の範囲が異なる。
C-2) 物体が水平方向に移動する場合
物体に関連する力は、垂直方向では、物体に働く重力mg、外部から物体を押す力 θsinF 、物体が床
を押す力 'F 、 'F に対して床が物体を押し返す垂直抗力N
である。水平方向では、外部から物体を押す力 θcosF 、
(動いているとして)動摩擦力 Nf '' µ= である。それぞれ
の方向に対して、運動方程式を立てると、次式を得る。
Nf
FN
mafFx
mamgFNy
x
y
''
)('
'cos:
sin:
µ
θ
θ
=
=
=−→
=−−↑
作用・反作用
垂直方向では、物体と床は接したまま静止しているので、 0=ya 。よって、垂直抗力は、
mgFNmgFN +=→=−− θθ sin0sin
である。水平方向では、 Nf '' µ= を用いて、加速度は、
gFm
amamgFFNFfF xx 'sin'cos
)sin('cos'cos'cos µθµθ
θµθµθθ −−
=→=+−=−=−
で与えられる。
例題 1 摩擦のある面での運動
質量mの質点が、摩擦のある水平面上を運動する。質点と平面との動摩擦係数
は 'µ である。質点に時刻 0=t で初速度 0v を与えた。この質点が静止するまでの時間と距離を求めよ。
解説と解答
質点には、重力mg、平面を押す力 F 、 F に対する水平面の反作用としての垂直抗力 N 、および平
面との間に動摩擦力 mgNf ''' µµ == が生じる。動摩擦力は、水平面に対しても働く(紫の矢印)。質
点と水平面に働く動摩擦力は、作用・反作用の関係にあり、大きさは同じで、力の向きが異なる。
水平方向の運動では、動摩擦力により、質点が等加速度運動をする。運動方程式は、質点が進む方向
を(+)方向にとり、
gamamgNf '''' µµµ −=→=−=−=− 。
初速度 0v で加速度 ga 'µ−= のとき、質点が静止するまでの時間を
0t とすれば、
g
vttgvatv
'0)'( 0
00000 µµ =→=−+=+ 。
Fcosθ
Fsinθ F
θ
f’
θ
F’
mg
N
m
v0
f’
m N
F mg
22
移動距離を Lとすると、
g
v
g
v
g
vgvattvL
'2'''
2
1
2
1 2
0000
2
000 µµµµ =
⋅−=+= 。
例題 2 ベルトコンベヤー(動く水平面)上での質点の運動
図のような、水平面の長さが 0L のベルトコンベアーがある。ベル
トは時計回りの方向に回転(上部が右方向へ移動)している。質量
mの質点をベルトの左端に速度ゼロでベルトに載せたとしよう。
簡単のため、回転部分の大きさを無視(ゼロ)とする。質点とベル
トとの動摩擦係数を 'µ 、重力加速度を gとして、以下の問いに答
えよ。なお、以下で出る文字の値は、すべて正の値とする。
A:ベルトが一定の速さ 0v で動く場合
(1) ベルトが一定の速さ 0v で動くとしよう。質点がベルト上で静止するまでの時間を求めよ。またこの
時、質点がベルトの左端から見ての移動距離を求めよ。なお、ベルトの長さは十分い長く、質点はベル
トから落ちないとする。
(2) (1)の条件(ベルトが一定の速さ 0v で動く)の場合、質点がベルトの右端から落ちるまでにベルト
上で静止する為には、ベルトの速さは、ある値以下にならなくてはならない。その値を求めよ。
B:ベルトが一定の加速度 00 >a で動く場合
(1) ベルトが加速度 0a で回転する。質点がベルトの左端部分に載った時のベルトの速さは 0v であった。
この時、質点がベルト上で静止するまでの時間を求めよ。またこの時、質点がベルトの左端から移動し
た距離を求めよ。
(2) ある条件のもとでは、仮にベルトの水平部分の長さが無限大であっても、質点がベルト上で静止で
きない。ベルトの長さとして無限大の長さを許し、ベルト上で質点が静止するための条件を求めよ。
解説と解答
A:ベルトが一定の速さ 0v で動く場合
(1) 質点をベルトに置いたとき、質点とベルトとは、互いに動いている。よって、質点とベルトには、
動摩擦力が働く。質点がベルトを押す力F の大きさはmgである。ベルトが質点を押す力(垂直抗力N )
は質点がベルトを押す力と釣り合う(質点の上下方向の運動がないので、鉛直方向の速度は常にゼロ→
加速度=ゼロである。)ので、 mgN = である。質点に働く動摩擦力 'f は、右方向を正にとると、
mgN '' µµ = である。質点の水平方向の運動方程式は、右向きを正にとり、質点の加速度をaとすれば、
gamamgNf '''' µµµ =→===
となる。質点がベルト上で静止すると、質点の速度とベルトの速度が等
しくなるので、その時間を 0t とすれば、
g
v
a
vtvat
'0 00
000 µ==→=+
となる。求める移動距離を Lとすれば、 Lは、以下の式で与えられる。
g
v
g
vgatL
'2''
2
1
2
12
0
2
02
0 µµµ =
== 。
L0
v
f’
m
N
F
mg
23
(2) LL ≥0 なら、質点がベルトの右端から落ちるまでにベルト上で静止する。よって、以下のとおり。
00
2
00
2
00 '2'2
'2gLvvgL
g
vL µµ
µ≤→≥→≥ 。
B:ベルトが一定の加速度 0a で動く場合
(1) Aの場合と同様に考える。質点の加速度は ga 'µ= である。質点がベルト上で静止すると、質点の速
度とベルトの速度が等しくなるので、その時間を 0t とすれば、
0
0
0
000000000
')(0
ag
v
aa
vtvtaatavat
−=
−=→=−→+=+
µ。
質点がベルトの左端から移動した距離を 0L とすれば、以下のとおり。
2
0
2
0
2
0
02
0)'(2
'
''
2
1
2
1
ag
gv
ag
vgatL
−=
−==
µµ
µµ 。
(2) 点の速度とベルトの速度が等しくなる時間 0t は、正の値でなければならない。よって、
00
0
00 '0'0
'agag
ag
vt >→>−→>
−= µµ
µ
の条件を得る。質点の加速度がベルトの加速度よりも小さいと、いつまでたっても質点とベルトの速度
が同じにならず、質点がベルト上で静止しない。上の条件式は、その事を示す。
24
4)複数の物体が関与する、静止・運動状態
物体が複数の場合の静止状態・運動状態について考える。このときは、物体同士の作用・反作用によ
る力を考慮しなければならない。
A)水平面、2つの物体が互いに接しながら水平方向に運動(移動)
動摩擦力がゼロ(働かない)とする。作用・反作用により、 1m
と 2m が押しあう力は、大きさが等しく反対向きである。その大
きさをfとする。物体に働く力は、右向きを正にとり、
物体 1m に働く力 fF −
物体 2m に働く力 f
運動方程式は、物体 1m と 2m が一体になって動く時は、2 つの物体の加速度が等しくなる。その時の 2
つの物体の加速度をaとすると、
amfm
amfFm
22
11
:
:
=
=−
となる。ここでは、物体と床との摩擦がないので、静
止摩擦力・動摩擦力は考えなくてよい。
さて、運動方程式 maF = の形から、同じ加速度を持つ複数の物体に加わる力(合力)は、物体の質
量に比例するはずである。上の問題で、これが成立しているか、確認しよう。
21
1
21
22
21
22
21
21
22
11)(
:
:
mm
Fm
mm
FmFamFfF
mm
Fmamf
mm
FaammF
amfm
amfFm
+=
+−=−=−
+==→
+=→+=→
=
=−
よって、
21
21
2
21
1 ::: mmmm
Fm
mm
FmffF =
++=−
となり、それぞれの物体に加わる力は、物体の質量に比例する。
さて、ここまでは、2 つの物体間に働く力(作用・反作用の力)は、互いに押し合う力を考えてきた。
しかし、物体に働く力は、押す力だけではなく、引く力の場合もある。たとえば、人が手提げバッグを
手に持っている場合を考えよう。人は手提げバッグを上方向に引き(手提げバッグに対して、上方向に
力を加える)、手提げバッグは、人(の手)を下方向に引く。この 2 つの力も、作用・反作用の関係に
ある。しかし、力の向きは、互いに引き合う向きである。
続いて、荷物を間に 2人の人間が、荷物に力を及ぼしている
場合(右図)を考えよう。荷物と床の間には摩擦がなく、まっ
たく動かないとしよう。この時、2 人の人間は、どんな力を荷
物に与えているのだろうか?互いに荷物を押し合っているかも
しれないし、荷物に手を引っ掛ける場所があって、荷物を引っ
張り合っているかもしれない。物体が受ける力は、押される力
とは限らず、引く力が加わっているかもしれない。
次の、糸でつながった物体の問題も、そのような例である。
F f m1
m2
f
F f f
m1 m2
押し合う 引っ張り合う
25
B) 糸でつながった 2つの物体の水平方向の運動
注意:物体 21 ,mm は同じ加速度で動くと仮定する。糸が
たるむ事は考えない。質量の無視できる曲がらない棒により
1m と 2m がつながっていると考えてもよい。
動摩擦力がゼロ(働かない)とする。上下方向の運動がな
いとすれば、垂直方向の力のつりあいを考えなくて良い。よって、重力、作用・反作用としての物体が
床を押す力、および垂直抗力は考えない。簡単のため、糸は伸び縮みせず(または、糸の代わりに棒を
考えよ)、糸(棒)の質量はmとする。
2つの物体 21,mm 、および糸に働く力を考える。物体 1m が糸を引っ張り(作用)、糸が物体 1m を引き
返す(反作用)。その力の大きさを 1T とする。糸が物体 2m
を引っ張り(作用)、物体 2m が糸を引き返す(反作用)。
その力の大きさを 2T とする。
糸の質量をmとして、運動方程式をたてる。糸は、伸
び縮みなく、たるむ事もないとする。2つの物体と糸が同じ加速度で
動くとして右向きを正にとれば
maTTamTmamTFm =−==− 21222111 ::: 糸
となる。
もし糸の質量が無視できるほど軽いなら、糸の運動方程式において、
0→m とすれば、
2121 0: TTamaTT =→×==−糸
となる。多くの問題では、糸の質量が無視できるとして、 21 TT = と
して問題を解いている。 TTT == 21 とした場合の、加速度と糸(質
量 0=m )の張力を求める。
Fmm
mamT
mm
FaammF
amTm
amTFm
21
22
21
21
22
11,)(
:
:
+==
+=→+=→
=
=−
C) 水平面上で重なった物体の運動-その 1
水平面と物体との摩擦なし、物体間の摩擦あり
摩擦のない水平な面に、質量M の物体があり、M の水平な面上に質
量mの物体がある。物体同士には摩擦が働く。
右図一番上は、物体に働く力、物体から働く力の全てである。緑色の矢
印は、物体mが物体M を押す力、物体M が水平面を押す力である。
2つの物体 Mm, が互いに「滑る・滑らない」で、2つの場合わけ(C-i, C-ii)が生じる。また、物体
M と床の間に摩擦力が働く場合は、(D)で考える。なお、(D)では、物体M に外力 F が働くとした。
C-i) 物体間で、滑らない場合
個々の物体に働く力を考えよう。
m:外から加わる力F 、重力による力mg、物体M を押す力に対する反作用としての垂直抗力 1N 、お
よび物体同士の間の静止摩擦力 f (F と反対方向)である。
F T2 T1 m2
m1
m2
F T1
T2 T1
T2
m1
m
F m1 m2
m
M
mg
Mg
F
26
M :物体mから、下向きに押される力 'F 、重力による力Mg 、水平
面から押される力 2N 、および物体同士による静止摩擦力 f(物体mに
働く力とは、作用・反作用の関係で、互いに逆向き)となる。
右向き(→)、上向き(↑)を正の方向にとり、運動方程式を立てる。
=→
=−−↑
=
=−→
=−↑
x
y
x
y
Maf
MaFMgNM
FN
mafF
mamgN
m,2
,22
1
,1
,11
:
'::
)('
:
:
:
作用・反作用
最初に垂直方向の運動を考える。上下方向の移動がないとすると、
0,2,1 == yy aa となる。よって、mの垂直方向の運動方程式から mgN =1 である。
水平面と物体M の間には摩擦がない。また、2つの物体は、一緒になって動く。(もしもF が十分大
きいなら、物体mは、物体M の上を滑って動くようになる。この場合は、後ほど(C-ii)考える。)す
ると、水平方向の加速度は aaa xx == ,2,1 と置く事が出来る。よって、水平方向の運動方程式から、
FMm
Mf
Mm
FaaMmF
Maf
mafF
+=
+=→+=→
=
=−,)(
ただし、物体同士が滑らない事から、 f は最大静止摩擦力よりも大きくなってはいけない。すなわち、
M
mgMmFmgNF
Mm
Mf
)(1
+≤→=≤
+= µµµ
の条件を満足する必要がある。
C-ii) 物体同士の間で滑る場合(物体mが物体M に乗っている間の運動)
力 F の大きさが大きくなり、 MmgMmF /)( +> µ になると、物体どうしは滑り始める。その時の
運動を考える。この時は、物体同士には、動摩擦力が働く。
(i)の解釈で、 f を動摩擦力に解釈しなおし、 'ff → の文字の置き換えをする。それ以外は、運動
方程式には、変更がない。また、 F の大きさには、制限がない。「上下方向の移動がないとすると、
0,2,1 == yy aa となる」は変更しないが、「水平方向の加速度は、 xx aa ,2,1 ≠ 」に変わる。動摩擦力
1'' Nf µ= とすると、運動方程式から、 2,21,1 , aaaa xx == と書き換え、
MmgaMaf
gmFamamgFmafFm
/''
0'/'':
22
111
µ
µµ
=→=
>−=→=−→=−
0'/1 >−= gmFa µ は、物体mを引く力の大きさが動摩擦力よりも大きくなければならない事から、
要求される条件である。また、物体mの加速度よりも物体M の加速度が小さいので、 21 aa > を満足す
べきである。以下は、それを満足すべき関係式である。
gM
m
m
F
M
mgg
m
F
M
mgag
m
Fa
+>→>−→=>−= 1''
')'
()'( 21 µµ
µµ
µ
mg
N1 F f
f
Mg
N2 F’
27
D) 水平面上で重なった物体の運動-その 2
床と接する物体M に外力 F が加わる。また、摩擦力が、物体
同士、物体と床の間で働く。物体M は、右方向へ動くとする。
右図は、物体に働く力、物体から働く力の全てである。緑色の
矢印は、物体mが物体M を押す力( 'F )、物体M が水平面を押
す力である。物体同士の摩擦による力は、ピンク(物体mに加わ
る摩擦力( mf ))、紫(物体M に加わる摩擦力( mf ))となって
いる。オレンジ色は、床との接触で、物体M に加わる動摩擦力
( Mf )である。灰色の矢印は、物体M との摩擦で、床が押される摩擦力である。
物体に働く力はそれぞれ、右下の図の通り。運動方程式を立てると、次のようになる。
=−−→
=−−↑
=
=→
=−↑
xMm
y
xm
y
MaffF
MaFMgNM
mgF
maf
mamgN
m,2
,22
,1
,11
:
'::
'
:
:
:
2つの物体 Mm, が互いに滑る・滑らないにかかわらず、垂直方向には物体は動かない(と仮定した)
ので、速度=ゼロ→加速度=ゼロ、すなわち加速度
0,2,1 == yy aa の静止状態である。これから、次の関係
が求まる。なお、物体m が物体 M を押す力は、
mgF =' である。
+=+=
=→
=−−
=−
gMmFMgN
mgN
FMgN
mgN
)('0'
0
2
1
2
1
(D-i) 物体 Mm, が滑ることなく、一緒に動く場合
水平方向には一緒に動くので、 aaa xx == ,2,1 と置くことが出来る。物体M と床との間の摩擦力 Mf は
動摩擦力なので、物体M と床との動摩擦係数を M'µ と置けば、 2' Nf MM µ= により、
−+
==
−+
=→
+==
+=−→
=−−
=
mgMm
mFmaf
gMm
Fa
gMmNf
aMmfF
MaffF
maf
Mm
M
MMM
M
Mm
m
'
'
)(''
)(
2 µ
µ
µµ
を得る。当然加速度 0>a となるべきである。また、物体 Mm, 間の静止摩擦係数を Mm,µ とすれば、 mf
は最大静止摩擦力を越えないので、次の大小関係を満足しなければならない。
gMmFmgMm
mFmgNf MmMMmMMmMmm ))('()'( ,,,1, ++≤→+≤
+→=≤ µµµµµµ 。
(D-ii) 物体 Mm, 間で滑る場合
この場合、xx aa ,2,1 ≠ である。また、 mf を動摩擦力と解釈しなおして、 1,'' Nff Mmmm µ=→ の置き換
え(記号をかえる)を行う。ここで Mm,'µ は、物体 Mm, 間の動摩擦係数である。すると、運動方程式
は、次のようになる。
摩擦あり
M mg
Mg
F
m
m
M
Mg
F
N1
F’
物体毎に力をわける fm
N2
fM
fm
mg
28
gM
Mmm
M
Fa
MagMmmgF
ga
MaNNFffF
maNf
MMm
x
xMMm
Mmx
xMMmMm
xMmm
)(''
)(''
'
'''
''
,
,2
,2,
,,1
,221,
,11,
++−=→
=+−−
=→
=−−=−−
==
µµ
µµ
µ
µµ
µ
また、物体 Mm, どうしは互いに滑るので、 xx aa ,2,1 < となる。この加速度の大小の条件から、
gMmF
M
Fg
M
Mmg
M
Mmm
M
Fgaa
MMm
MMmMMm
Mmxx
))(''(
))(''()('''
,
,,
,,2,1
++>→
<++
→++
−<→<
µµ
µµµµµ
を得る。
例題 1 動く台に乗る物体、台と床との摩擦の有無
図のように、なめらかな(摩擦のない)水平面 AB お
よび CDが、鉛直面 BCを介してつながっており、その
面 BCに接するように質量M の物体Qが置かれている。
水平面 ABはなめらか(摩擦がない)である。水平面 CD
は、以下の問題設定により、なめらか、またはあらい水
平面となる。一方物体 Qの上面はあらい(摩擦がある)
水平面である。
いま、大きさの無視できる質量mの物体 Pが図の左から速さ 0v で右に移動し、点Bで物体Qに移り、
物体 P、Q間に摩擦が働き、最後に物体 Pと Qは一体となって運動する。物体 Pと Qとの間の動摩擦
係数を '1µ とし、重力加速度を gとする。(A)(B)それぞれにつき、以下の問題に答えよ。
(A)物体 Qと水平面 CDの間には、摩擦が無いとする。
(1) 物体 Pと物体 Qが一体化した瞬間の速度、および一体化するまでの時間を求めよ。
(2) 一体化するまでに、物体 Pおよび物体 Qが点 Bから移動した水平距離を求めよ。ただし、物体 Q
は十分長く、物体 Pが物体 Qから落ちることはない。 (B)物体 Qと水平面 CDの間には、摩擦があり、その静止摩擦係数および動摩擦係数をそれぞれ ', 22 µµ
とする。ただし '22 µµ > である。
(1) 物体 Qが動き出すため、 21 /' µµ が満足すべき条件を求めよ。(2)(3)は、その条件を満足し、物体 Q
が動き出すとして答えよ。
(2) 物体 Pと物体 Qが一体化した瞬間の速度、および一体化するまでの時間を求めよ。
(3) 一体化するまでに、物体 Pおよび物体 Qが点 Bから移動した水平距離を求めよ。ただし、物体 Q
は十分長く、物体 Pが物体 Qから落ちることはない。
解説と解答
物体に働く力を全て書くこと。これが出来ないと、運動方程式を立てることも出来ない。物体および
水平面 CDに働く力を全て書くと、次ページ右図のようになる。記号の意味は、以下のとおり。
mg:物体 Pに働く、重力、Mg:物体 Qに働く、重力
A B
C D
Q
P
29
1F :物体 Pが物体 Qを押す力、 2F :物体 Qが水平面 CDを押す力
1N :物体 Pに働く、垂直抗力、 2N :物体 Qに働く、垂直抗力
1f :物体 Pと物体 Qとの間の動摩擦力、
2f :物体 Qと水平面 CDの間の静止または動摩擦力
このままでは、矢印がたくさんで解かりにくいので、物体毎に分
けて図示する。物体 P、Q の加速度を水平、垂直方向でそれぞれ
yx aa ,1,1 , および yx aa ,2,2 , とする。
物体 Pの運動方程式
垂直方向: ymamgN ,11 =−
水平方向: xmaf ,11 =−
物体 Qの運動方程式
垂直方向: yMaMgNF ,221 =−+−
水平方向: xMaff ,221 =−
となる。動摩擦力の大きさ 1f は、 mgf '11 µ= で与えら
れる。一方摩擦力 2f は、静止摩擦力か動摩擦力になる
かは、条件(A)(B)に依存し、現時点では決まらない。
さらに、作用・反作用の関係で
2211 , FNFN ==
が成り立つ。
さて、垂直方向には、物体 P、Qが動かないとすると、対応する加速度=ゼロとなるので、
gMmMgmgMgFNMgNFMMaMgNF
mgNmmamgN
y
y
)(00
0
1221,221
1,11
+=+=+=→=−+−→⋅==−+−
=→⋅==−
となる。
水平方向の運動は、物体 Pについてはこの段階で確定し、物体 Pが物体 Q上を滑る間の加速度は
gamamgf xx 1,1,111 ' µµ −=→=−=−
となる。
(A)物体 Qと水平面との摩擦なし ( 02 =f )
(1) この場合、物体 Qと水平面との摩擦がない( 02 =f )ので、物体 Qの水平方向の運動方程式は、
gM
maMamgfMaff xxx ''0 1,2,211,221 µµ =→==−→=−
となる。物体 Pと Qが一体化するという事は 2つの物体が同じ速度 vになる事なので、一体化までの時
間を 0t とすれば、
g
v
Mm
Mt
vtM
Mmgtgg
M
mvtaavtatavv xxxx
'
''')(0
1
00
00101100,1,200,20,10
µ
µµµ
⋅+
=→
=+
→⋅
+=→−=→+=+=
P
Q
mg
f1
Mg
N2
F2
N1
F1
f2
f1
f2
P
mg
f1 N1 Q
Mg N2
F1
f2
f1
30
であり、一体化した時の速度 vは、
0
1
0101
''' v
Mm
m
g
v
Mm
M
M
mgtg
M
mv
+=⋅
+⋅→⋅=
µµµ
である。
(2) 求める物体 Pの移動距離 PL は、初速度 0v 、加速度 xa ,1 の等加速度運動なので、
g
v
Mm
MmM
vMm
Mm
g
v
Mm
M
g
v
Mm
Mgv
g
v
Mm
MtavttatvL xxP
')(2
)2(
)(2
2
''2
'
'2
1
2
1
1
2
0
2
0
1
0
1
010
1
00,100
2
0,100
µ
µµµ
µ
⋅+
+=
++
⋅⋅+
=
⋅
+−⋅
+=
+=+=
一方物体 Qの移動距離 QL は、初速度 0= 、加速度 xa ,2 の等加速度運動なので、
g
v
Mm
mM
g
v
Mm
Mg
M
mtaL xQ
')(2
1
''
2
1
2
1
1
2
0
2
2
1
01
2
0,2 µµµ ⋅
+=
+⋅== 。
物体 Pと Qは、一体化するまでは異なる速度で移動しているので、移動距離も、当然異なる。
(B)物体 Qと水平面との摩擦あり
(1) 物体 Qの水平方向の運動方程式から、物体 Qの動静を確認する。
水平方向: xMafmgff ,22121 ' =−=− µ
物体 P と Q との間の動摩擦力 mgf '11 µ= が右向きに加わり、それに抗する抵抗する形(左向きの力)で
摩擦力 2f が物体 Qに働く。最初 Qは静止しているので、Qが動き出すためには、 2f を最大静止摩擦力
と考え、 021 >− ff となることが必要。 gMmNf )(2222 +== µµ なので、
1'
)('0'2
1212121 >
+>→+>→>−=−
m
MmgMmmgfmgff
µµ
µµµ
が満足すべき条件である。
(2) 物体 Qが動く時、物体 Qの水平方向には、物体 Pと Qとの間に生じる動摩擦力と、物体 Qと水
平面 CDの間に生じる動摩擦力が働く。物体 P、Qの水平方向の運動方程式から、水平方向の加速度を
求める。
物体 Pの水平方向の運動方程式:
gamamgf xx '' 1,1,111 µµ −=→=−=−
物体 Qの水平方向の運動方程式:
gM
MmmaMagMmmgff xx
)('')('' 21
,2,22121
+−=→=+−=−
µµµµ
と、加速度が求まる。2つの物体が一体化する時に 2つの物体の速度は等しくなる。その速度をu、一
体化する時間を 1t とすれば、
gMm
Mvt
gtM
Mmtgg
M
Mmmvtaavtatavu xxxx
))(''(
))(''('
)('')(0
21
01
121
1121
01,1,201,21,10
+−=→
+−=⋅
++−
=→−=→+=+=
µµ
µµµ
µµ
31
)''',')1B)(( 212221 µµµµµµ >→>>より:注意(
よって、uとして、以下の値を得る。
0
21
21
21
0211,2
))(''(
)(''
))(''(
)(''0 v
Mm
Mmm
gMm
Mvg
M
Mmmtau x +−
+−=
+−⋅
+−=+=
µµµµ
µµµµ
。
さて、 10 tt < である。物体 P の加速度は、物体 Q と水平面 CD の間の摩擦の有無に関係なく、同じ
値である。(動摩擦力は、垂直抗力と動摩擦係数との積で与えられ、その大きさは、物体の動く速度に
関係ないとして扱っている。)一方物体 Qの加速度は、(B)の場合、物体 Qと水平面 CDの間の摩擦の
ため、(A)の場合よりも小さくなる。よって、2つの物体が同じ速度になるまでの時間は、(B)の場合
のほうが大きくなる: 10 tt < 。注意: '' 21 µµ > である。
{ }0
)(')''(
'
)(')''(
)''('
'))(''( 121
02
121
0211
1
0
21
001 >
+−=
+−−−
=⋅+
−+−
=−gMm
Mv
gMm
Mv
g
v
Mm
M
gMm
Mvtt
µµµµ
µµµµµµ
µµµ
(3) 求める物体 Pの移動距離 'PL は
2
022
21
21
2
022
21
1210
21
121
21
0
21
010
21
01,101
)()''(2
)('2)2('
)()''(2
'))(''(2
))(''(2
'))(''(2
))(''(
))(''(2
'
))(''(2
1'
MvgMm
MmMm
MvgMm
MMmv
gMm
MggMm
gMm
Mv
gMm
Mvgv
gMm
MvtavtL xP
⋅+−
+−+=
⋅+−
−+−=⋅
+−⋅−+−
⋅+−
=
+−⋅−
+−=
+=
µµµµ
µµµµµ
µµµµµ
µµ
µµµ
µµ
一方、物体 Qの移動距離 'QL は
2
022
21
21
2
21
0212
1,2
)()''(
)(''
2
1
))(''(
)(''
2
1
2
1'
MvgMm
Mmm
gMm
Mvg
M
MmmtaL xQ
+−+−
=
+−⋅
+−==
µµµµ
µµµµ
ここでも、(A)の場合と同様、物体 P と Qは、一体化するまでは異なる速度で移動しているので、移
動距離も当然異なる。なお、 0'2 =µ とすれば、 ',' QP LL は(A)の QP LL , にそれぞれ一致する。
例題 1の、微積分を用いた解法
ここでは、運動方程式が既に得られているものとして、話を進める。物体mおよび物体M の位置座標をそれ
ぞれ ))(),(( tytx および ))(),(( tYtX とする。運動方程式は、次のように書き換えられる。
=−
=−+−
=−
=−→
=−
=−+−
=−
=−
2
2
21
2
2
21
2
2
1
2
2
1
,221
,221
,11
,11
)(
)(
,)(
)(
dt
tXdMff
dt
tYdMMgNF
dt
txdmf
dt
tydmmgN
Maff
MaMgNF
maf
mamgN
x
y
x
y
ここで、物体の水平方向および鉛直方向の運動に分けて考える。
まず鉛直方向では、 )(),( tYty が変化しない事、作用・反作用の関係で 11 FN = が成り立つ事から、
32
+=+=
=→
=
=−+−
=−
→
=−+−
=−
gmMMgFN
mgN
FN
MgNF
mgN
dt
tYdMMgNF
dt
tydmmgN
)(0
0
)(
)(
12
1
11
21
1
2
2
21
2
2
1
となる。水平方向の運動は、物体 Qと床との摩擦の有無に分けて考える必要がある。
(A)物体 Qと水平面との間に摩擦力が働かない場合
(1)動摩擦力 02 =f である。物体 Pの運動方程式から、物体 Pの速度に関する式をえる。ただし、こ
の段階では、時間 tは求まっていない。(なお、物体 P の運動方程式は、物体 Q と床との摩擦の有無に
は影響されない。)
01
001
0
1
12
2
1
')(
)(,')(
)0(
')(
0')()(
'
vgtdt
tdx
vCvgtdt
tdx
vdt
dx
Cgtdt
tdx
gtdt
tdx
dt
d
dt
txdmmg
+−=→
==+→
=
=+→=
+→=−
µ
µµ
µµ
同様にして、物体 Qに関する運動方程式から、物体 Qの速度が求まる。ただし、 02 =f 。
)0(,')(
0)0(
,')(
0')()(
0'
1
112
2
121
==→
==−→=
−→=−=−
DtM
mg
dt
tdX
dt
dXDmgt
dt
tdXMmgt
dt
tdXM
dt
d
dt
tXdMmgff
µ
µµµ
物体 Pと物体 Qが一体化する時間 0t では、2つの物体の速度が等しくなるので、
g
v
mM
M
gmM
Mvtvt
M
gmM
tM
mggvt
M
mgvgtt
M
mg
dt
tdXvgt
dt
tdx
')('
)('
''
''
')('
)(
1
0
1
0000
1
01
1001
00101
001
µµµ
µµ
µµ
µµ
+=
+=→=
+→
+=→=+−→==+−=
をえる。物体 Pと物体 Qが一体化した時刻 0t での速度は、次式のとおりである。
mM
mv
g
v
mM
M
M
mgt
M
mg
dt
tdX
+=
+== 0
1
010
10
'
'')(
µµµ
。
(2)点 Bから見た、物体 Pの移動距離 )( 0tx は、
g
v
mM
MMm
mMg
Mvv
mM
MmM
mMg
Mvv
mMg
Mvg
tvgttvgtdtdt
tdxxtx
t
')(2
)2(
)('
)(2
2
1
)(')2
)(''(
2
1
)2'(2
1'
2
10'
)'()0()(
1
2
0
2
1
00
1
00
1
01
00100
2
010
0
0
µµµµµ
µµ
⋅+
+=
+⋅
+−+
⋅=+
++
−=
+−=+−=+= ∫
となる。一方、点 Bから見た、物体 Qの移動距離 )( 0tX は
g
v
mM
Mm
mMg
Mv
M
mg
mMg
Mv
M
mgt
M
mgdt
dt
tdXXtX
t
')(2
)('
'
2
1
)('
'
2
1'
2
10'
)'()0()(
1
2
0
2
1
01
2
1
012
01
00
0
µ
µµ
µµµ
+=
+=
+=+=+= ∫
である。
33
(B)物体 Qと水平面との摩擦がある場合
(1) 物体 Qの水平方向の運動方程式から、物体 Qの動静を確認する。
物体 Pと物体 Qとの間の動摩擦力の 1f が、物体 Qと床との間の静止摩擦力 2f と釣合っていれば、物体
Q に働く水平方向の力はゼロとなり、物体 Q は、静止したままである。しかし 2f の大きさは最大静止
摩擦力 gmMN )(222 += µµ を越える事はない。よって、 1f が最大静止摩擦力 gmMN )(222 += µµ よ
りも大きければ、物体 Qは動く。以上の考察より、
m
mMmMmgmMNmgf
+>→+>→+=>=
2
12122211
')(')('
µµ
µµµµµ
の条件が、物体 Qが動くためには、必要である。
(2)動摩擦力 21, ff をそれぞれ gmMfmgf )(',' 2211 +== µµ として、物体 Pおよび物体 Qの水平方向
の運動方程式から、それぞれの物体の加速度が求まる。
+−=
−=→
=+−=−
=−=−
gM
mMm
dt
tXd
gdt
txd
dt
tXdMgmMmgff
dt
txdmmgf
)('')(
')(
)()(''
)('
21
2
2
12
2
2
2
2121
2
2
11
µµ
µ
µµ
µ
物体 Pの初速度(物体 P点 Bにいた時を、時間の原点にとる)は 0v 、物体 Qの初速度はゼロで与えら
れるので、それぞれの物体の速度は、上の加速度の式を時間積分することで、
+−+=
+−+=
−=−=
gtM
mMmgt
M
mMm
dt
dX
dt
tdX
gtvgtdt
dx
dt
tdx
)(''0
)('')0()(
'')0()(
2121
101
µµµµ
µµ
となる。物体 Pと物体 Qが一体化する時間 0t で、2つの物体の速度が等しくなるので、時間 0t は次のよ
うに求まる。 )''',')1B)(( 212221 µµµµµµ >→>>より:注意(
))(''(
))(''(
)('''
)('''
)()(
21
0000
21
021
10021
01000
mM
Mvtvgt
M
mM
gtM
mMmvgt
M
mMmgtv
dt
tdX
dt
tdx
+−=→=
+−→
+−+=→
+−=−→=
µµµµ
µµµ
µµµ
(3) 求める物体 Pの移動距離 )( 0tx は
2
022
21
2101000
2
010
0)()''(2
)('2)2(')'
2
1('
2
10'
)'()0()(
0
MvgMm
MmMmvgtvttvgtdt
dt
tdxxtx
t
⋅+−
+−+=+−=+−=+= ∫ µµ
µµµµ
一方、物体 Qの移動距離 )( 0tX は
2
022
21
212
021
00
)()''(
)(''
2
1)(''
2
10'
)'()0()(
0
MvgMm
Mmmgt
M
Mmmdt
dt
tdXXtX
t
+−+−
=+−
+=+= ∫ µµµµµµ
である。
以上の計算過程を見れば分かるように、単純な直線運動において微積分を用いても、用いない場合と
代わり映えせず、その有用性があまりない。物体がより複雑な運動を行う場合、または運動量、力学的
エネルギー(後ほど学ぶ)に関する計算を行う場合には、その有用性を感じるだろう。
34
5)斜面上での物体の運動
斜面が動かないとして、考察する。斜面が動く場合
は、総合問題(最後)で考察する。
最初は、物体が斜面上を動く場合を考える。
A-1)斜面を降りる物体の運動、斜面での摩擦なし
物体mのは大きさmgの重力が加わる。その力を斜
面に対して垂直方向、水平方向の 2つの方向に分ける。
物体mが斜面を垂直に押す力(大きさF とする)に
対して、斜面が反作用として同じ大きさで物体を押し返す。それが垂直抗力 N である。また物体mは、
斜面の下がる方向に、重力により θsinmg の力を受ける。
運動方程式は、力の向きを、斜面に対して、水平・垂直方向に分けて立てる。
斜面に対して平行// 下向きの力を(+)にとり、
xmamg =θsin
を得る。一方、斜面と垂直方向(上向きを正にとる)は、
物体mには、重力による力 θcosmg と垂直抗力N が働く。
ymamgN =−+ )cos( θ
物体が斜面にくっついたままだと、斜面に対して垂直方向
の速度=ゼロ⇒加速度 0=ya 。よって、垂直抗力 N と重
力による力は釣り合う: θcosmgN = 。
注意:物体は、斜面に対して、角度θ で力を加えているようにも見える。斜面に対して働く(斜面を押
す)力は、本当に斜面の面に対して垂直なのだろうか?
物体mに加わる重力のうち、斜面に沿った力は θsinmg である。よって物体mに対して、斜面上向
きに θsinmg の大きさの力を加えると、斜面に沿った方向の力の総和はゼロとなり、物体は斜面上で静
止する。この時、物体mに加わる力として残るのは、斜面に対して垂直方向の力 θcosmg のみである。
この力 θcosmg が物体mに働くため、物体mは、斜面の面に対して垂直な方向に斜面を押す。
A-2)斜面を降りる物体の運動、斜面での摩擦あり
物体mには、大きさmgの力が加わる。その力を斜面に
対して垂直方向、水平方向の 2つの方向に分ける。
斜面を垂直に押す力 F に対して、斜面が反作用として
同じ大きさで物体を押し返す。その力が垂直抗力 N であ
る。また物体m は、斜面の下がる方向に、重力により
θsinmg の力を受ける。斜面も物体との摩擦による摩擦
力(大きさ 'f )を受ける。ここでは、斜面が受ける摩擦
力の矢印を省略した。
力を斜面に対して、水平・垂直方向に分ける。運動方程
θθθθ
θθθθ
mg
F
mgsinθ
斜面からの垂直抗力
N
θθθθ
θ
mg
mgcosθ
mgsinθ f’:動摩擦力
斜面からの垂直抗力
N = mgcosθ
θθθθ
θθθθ
mg
mgsinθ
N = mgcosθ
mgcosθ
mに働く力のみ
を書くと、・・・
35
式は、力の向きを考慮して書く。
・斜面と垂直方向(上向きを正にとり)の運動
物体mには、重力による力 θcosmg と垂直抗力N が働く。
ymamgN =−+ )cos( θ
さて物体が斜面に沿って運動すると、斜面に対して垂直方
向の速度=ゼロ⇒加速度 0=ya 。よって、垂直抗力N と重
力による力は釣り合う: θcosmgN = 。
・斜面に対して平行の運動
下向きの力を(+)にとり、動摩擦力を 'f とすれば、
xmafmg =− 'sinθ
をえる。 また、動摩擦力 'f は、 θµµ cos''' mgNf == で
与えられる。 物体の斜面に沿っての加速度 xa は 、
)cos'(sincos'sin'
sin'sin θµθθµθθθ −=−=−=→=− gggm
fgamafmg xx
で与えられる。
A-3)斜面上での物体の上向き運動、斜面での摩擦あり
物体mに対して、斜面に沿って上向きに力F がかかり、
物体mが上向きに移動する場合を考える。
物体mに加わる重力mgは、斜面に対して垂直方向、水
平方向の 2つの方向に分ける。
物体mが斜面を垂直に押す力 'F に対して、斜面が反作
用として同じ大きさで物体を押し返す。それが垂直抗力
N である。また物体mは、斜面の下がる方向に、重力に
より θsinmg の力を受ける。さらに物体が斜面上向きに移動する場合、動摩擦力 'f は斜面に沿って下
向きである。
物体mの運動方程式を書く。なお、 Nf '' µ= である。
斜面に対して垂直方向(斜面を外向き+): ymamgN =− θcos
斜面に対して水平方向(斜面を上向き+):xmafmgF =−− 'sinθ
物体mが斜面に沿った運動をすれば、 0=ya から、 θcosmgN = を得る。
注意:斜面との摩擦がない場合は、 0'=f とおけばよい。
続いて、物体が斜面上で静止している場合を考察する。
B-1)斜面上で静止している物体 mの、力の釣り合い
物体mが斜面上で静止している時、斜面に対して垂直方向には、物体は動かない。その時の力の釣り
合いは、類似の考察を既に 3-2)で行った(物体mの動静によらず、同じ結果を得る)。
ここでは斜面上を静止する時の、水平方向の力の釣り合いを考える。(角度 0=θ では、物体mは斜
面を滑らないが、θ がある角度よりも大きくなると、物体は滑り始める。)
θθθθ
θθθθ
mg
mgcosθ
mgsinθ
斜面からの垂直抗力
N = mgcosθ
f’:動摩擦力
F
θθθθ
θ
mg
mgcosθ
mgsinθ
斜面からの垂直抗力
N = mgcosθ
f’:動摩擦力
mに働く力のみ
を書くと、・・・
36
下方向を(+)にとり、静止摩擦力を f とする。斜面と平行な方向の運動方程式は
xmafmg =−θsin
となる。また、最大静止摩擦力を MAXf とすると、
θµµ cosmgNfMAX == が成り立つ。
さて、物体mが静止していれば、斜面に対して水平方
向の速度=ゼロ⇒加速度 0=xa 。よって、物体mにかか
る重力による力の、斜面に対して水平方向の成分
( θsinmg )は、静止摩擦力 f と釣り合う: θsinmgf =である。もしも斜面の角度θ が大きく(静止摩擦係数μ
が小さく)、 MAXfmg >θsin であれば、物体は、斜面を
滑り始める。
B-2)斜面上で物体が静止している場合(外部から力を加えた場合)
斜面と物体mとの間に摩擦がある。外部から物体に力
F を斜面に沿って上向きに加えなければ、物体は斜面を滑
り落ちる。また、斜面に沿って上向きに力F を加えている
ため、物体は静止していると、仮定する。注意するが、あ
くまでも、この箇所での、考察にあたっての前提条件であ
る。
最初に、力F は小さく、物体が下に向かって滑り落ちる
直前の状態(少しでも力F が小さくなれば、物体が滑り降
りる状態)と仮定する。すると、静止摩擦力は滑り降りよ
うとする向きと逆向き(上向き)に働く。
力の釣合いは、斜面に対して水平方向は、上向きを+にとり、
0,sin ==−+ xx amamgfF θ
となる。すなわち、力の釣り合いは、
θsinmgfF =+
滑り出す直前では、静止摩擦力は最大(最大静止摩擦力): θµµ cosmgNf == となる。これから、
)()cos(sinsin 0 とおくFmgfmgF ≡−=−= θµθθ
を得る。
さて、 )cos(sin0 θµθ −== mgFF からさらに力 F が大きくなると、静止摩擦力は最大静止摩擦力:
θµ cosmgf = から小さくなっていく。そして f の大きさがゼロになる場合がある。それは、
θθθθ
θ
mg
mgcosθ
mgsinθ
斜面からの垂直抗力
N = mgcosθ
f:静止摩擦力
θθθθ
θ
mg
mgcosθ
mgsinθ
斜面からの垂直抗力
N = mgcosθ
f:静止摩擦力
F
F mgsinθ
f
37
θsinmgfF =+
において、 0=f と代入すれば分かるように、 θsin1 mgFF == の
大きさになる時である。これは、摩擦のない斜面で、物体を静止さ
せるために必要な力の大きさに等しい。
さらに力が大きくなり 1FF > となると、今度は、静止摩擦力は、斜面に沿って下向きの力となる。(そ
の理由: θsin1 mgFF => であるのに、 0=f または f が上向きのままだと、力の釣り合いが成り立た
ない。)このときの斜面に沿った方向の運動方程式は(物体は静止しているので、加速度 xa =0の場合)、
斜面右上向きを+にとり、運動方程式は、
0,sin ==−− xx amamgfF θ
となる。すなわち、力のつりあいは、
fmgF += θsin
である。さらに F が大きくなると、物体は斜面を上り始
める。その動き出す直前の状態では、静止摩擦力は最大で
あり、 θµµ cosmgNf == になる。この時の力 F は、
(とする)
2
)cos(sincossin
sinsin
F
mgmgmg
NmgfmgF
≡
+=+=
+=+=
θµθθµθ
µθθ
である。F の大きさが 2F を越えると、物体は、斜面を上に向かって動き出す。
以上の結果をまとめる。斜面と物体との間に摩擦があるが、外部から力F を加えない時、物体が斜面
を下る、このような状況を考える。加える力F が次の範囲の時、
物体は、斜面上で静止する。
)cos(sin)cos(sin θµθθµθ +≤≤− mgFmg
例題 1 摩擦のない斜面での物体のつりあい
傾きθ の滑らかな(摩擦のない)斜面に質量mの物体を置き、
物体に水平方向に図のような大きさ f の力を加えて、物体を静止
させた。
(1) f の大きさを求めよ( θ,, gm を用いて表せ)。
(2) 物体が斜面から受ける垂直抗力の大きさを求めよ。
解説&解答
力 f は、斜面に対して水平方向および垂直方向の成分の力を持つ。力 f を斜面に対して平行・垂直方
向に分解して考えよう。力の分け方は、これ以外にもある。しかし、力 f を斜面に対して平行・垂直方
向に分解して考えると、これまでに勉強してきた考え方が利用できる。力 f が加わらないなら、物体は
斜面に対して平行方向の移動(斜面を滑る)をする。それを阻止するように力 f が加わっている。
θθθθ
θθθθ
mg
mgcosθ
mgsinθ
斜面からの垂直抗力
N = mgcosθ
f:静止摩擦力
F
mgsinθ F
f=0
F mgsinθ
f
f
θ
38
(1) なめらかな斜面での力のつりあいは、垂直抗力をN 、加える力を f として、運動方程式を立て、力
の釣り合いを考える。
運動方程式は、斜面外向きおよび、斜面と平行下向きを+にとり、mの加速度をそれぞれ )0(, 21 =aa と
すると、
斜面に垂直方向: 0sincos 1 ⋅==−− mmafmgN θθ
平行: 0sincos 2 ⋅==− mmamgf θθ
水平方向の釣合から、 θtanmgf =
(2) 垂直抗力N は、
θθθθθθ
cossintancossincos
mgmgmgfmgN =+=+=
で与えられる。
注意:垂直抗力N を、床と水平・垂直方向に分解して考えても良い。この方が計算はすぐに終わる。
水平方向(右向き+): θθ sin0sin NfmaNf x =→==− 、
垂直方向(上向き+): θθ cos/0cos mgNmamgN y =→==− 。 あとは、省略
例題 1の追加
例題 1と同じく、物体に対して、水平面と水平方向の向きに力 f を加えて、角度θ の斜面に物体を静
止させる。物体と斜面と間に摩擦があれば、力 f の大きさがある範囲内であれば、物体は斜面上で静止
する。その範囲を求めよ。ただし、物体を斜面上に静かに置いた時、物体は斜面上を滑り落ちるとする。
また、µ を物体と斜面との静止摩擦係数として、 µθµ >< tan/1 を満足する。
解説と解答
物体に加える力 f の大きさにより、斜面に沿って物体に加わる摩擦力方向が変わる。この事を念頭に、
問題を解く。斜面での物体の釣り合いは、力が十分大きく、あと少しで物体が斜面を登りそうになる場
合と、力が小さく、あと少しで物体場斜面を滑り降りそうになる場合(いずれも、最大静止摩擦力が働
く場合)を考える。
斜面での力の釣り合いは、物体に外部から加える力 f 、物体が斜面を押す作用に対する反作用として
の斜面からの垂直効力 N 、静止摩擦力 'f 、および重力により物体に加わる力mgである。これらの力
による運動方程式を立て、力の釣り合いを考える。力 f は、斜面に対して平行な方向と垂直方向に分解
して考える。先の例題 1では、重力に対して平行・垂直方向に分けて考えると、簡単に答えが出た。し
かし今回は、静止摩擦力を考慮する必要があるので、斜面に対
して並行方向と垂直方向のに力をわける。
最初は、物体に加える力 f が十分大きく、あと少しで斜面を
登っていく(最大静止摩擦力が働く)場合を考える。運動方程
式は、斜面外向きおよび、斜面と平行下向きを+にとり、mの
加速度をそれぞれ )0(, 21 =aa とすると、
斜面に垂直方向: 0sincos 1 ⋅==−− mmafmgN θθ
平行: 0'sincos 2 ⋅==−− mmafmgf θθ
mg mgcosθ
N
fsinθ
f
θ
mgsinθ
F
fcosθ
mg mgcosθ
N
fsinθ
f
θ
F
fcosθ
f’ mgsinθ
39
斜面に対して垂直方向の釣り合いから、
θθ sincos fmgN +=
をえる。この式を斜面水平方向の式に代入する。静止摩擦力は、最大静止摩擦力とする。すなわち、
Nf µ= である。
θµµθ
θµθθµθ
θµθθµθθθµθθµθθθθ
tan1
tan
sincos
cossin
0)cos(sin)sin(cos
0)sincos(sincos
0sincos'sincos
−+
=−+
=→
=+−−→
=+−−→
=−−=−−
mgmgf
mgf
fmgmgf
Nmgffmgf
これが、物体に加える力 f の最大値である。この時、垂直抗力N は、
θµθθµθθθ
θµθθθµθθµθθ
θθµθθµθ
θθθ
sincossincos
sincos
sincos
sin)cos(sin)sin(coscos
sinsincos
cossincossincos
22
−=
−+
=−
++−=
−+
+=+=
mgmgmg
mgmgfmgN
となる。
(補足)垂直抗力 0>N でなければ、物体は斜面と接していない。そのためには、 0sincos >− θµθ
が必要である。この条件が何故出るのか、考えよう。物体の質量はmであり、物体に働く重力のため、
物体に力を加えなければ、(問題の設定条件より)物体は斜面を滑り落ちる。そのため、斜面に沿って
上方向に力を加える必要がある。
この問題設定では、水平面と平行な方向に、力 f を加える。よって、斜面に沿って物体が上る方向に
加わる力の大きさは、 θcosf である。一方、斜面に沿って物体が下がる方向に働く力は、「垂直抗力
θθ sincos fmgN += に起因した静止摩擦力」と、「物体に働く重力の斜面に沿った成分 θcosmg 」の 2
つの力である。
物体が斜面に沿って登りだす直前の釣り合いを考えると、 "f として最大静止摩擦力を考え、
0sincossin"cos =−−=−− θµθθθ mgNfmgff 。
が成り立つ。この式を次式のように変形すると、
θµθµθθθµθµθθθθµθ
tan10)sin(cos
0sincossincos0sin)sincos(cos
>→>−→
>+=−→=−+−
f
mgmgffmgfmgf
の条件を得る。(補足終わり)
続いて、物体に加える力 f が十分小さく、もう少しで物体が斜
面を滑り落ちる直前での力の釣り合いの場合を考える。先ほどと同
等に考えると、物体の運動方程式は、
斜面に垂直方向: 0sincos 1 ⋅==−− mmafmgN θθ
平行: 0'sincos 2 ⋅==+− mmafmgf θθ
斜面に対して垂直方向の釣り合いから、
θθ sincos fmgN +=
をえる。この式を斜面水平方向の式に代入する。静止摩擦力は、最大静止摩擦力とする。
mg mgcosθ
N
fsinθ
f
θ
mgsinθ
F
fcosθ
f’
40
θµµθ
θµθθµθ
θµθθµθ
θθµθθµθθθθ
tan1
tan
sincos
cossin0)cos(sin)sin(cos
0)sincos(sincos0sincos'sincos
+−
=→
+−
=→=−−+→
=++−→=+−=+−
mgf
mgfmgf
fmgmgfNmgffmgf
これが、物体に加える力 f の最小値である。なおこの時、垂直抗力N は、
θµθθµθθθ
θµθθθµθθµθθ
θθµθθµθ
θθθ
sincossincos
sincos
sincos
sin)cos(sin)sin(coscossin
sincos
cossincossincos
22
+=
++
=
+−++
=+−
+=+=
mgmg
mgmgmgfmgN
となる。
以上から、求める f の大きさの範囲は、以下のとおり。(注意: 0=µ では、 θtanmgf = になる。)
θµµθ
θµµθ
tan1
tan
tan1
tan
−+
≤≤+
−mgfmg 。
(補足)斜面上に物体を静かに置いた時に斜面上で物体が静止しない条件は、重力による斜面に沿った
力の大きさが、最大静止摩擦力よりも大きい事である。すなわち、
θµθµθ tancossin <→> mgmg
の条件を得る。(補足終わり)
例題 2 摩擦の有無による斜面の運動の違い
角度θ の雪の斜面を、スキーに乗った人が自然に滑り出した(初速度=ゼロということ)。スキー板
と雪面との間に摩擦がない場合は時間 0t かかって滑る所を、実際には動摩擦力が働くため、時間 Rt かか
って滑った。重力加速度を gとし、空気の抵抗を無視できるとして、次の問に答えよ。
(1) スキー板と雪面との間の動摩擦係数 'µ を求めよ。
(2) 斜面を滑りきった時の速さ vはいくらか?
(3) 度30),s(4.8),s(0.80 === θRtt として、 v,'µ を計算せよ。
解説&解答
斜面の長さを Lとして、計算しよう。ただし、答えに Lが含まれないようにする事。
(1) 斜面を滑る物体の加速度は、動摩擦力がない場合とある場合でそれぞれ、 )cos'(sin,sin θµθθ −gg で
与えられる。いずれの場合も距離 L滑るので、以下のようになる。
−=
−=→
−=
→−=→
=−=
2
0
2
0
2
022
0
22
0
1tan1cos
sin'
cos'sinsin)}cos'(sin{)sin(
2/)}cos'(sin{,2/)sin(
RR
R
R
R
t
t
t
t
t
ttgtg
LtgLtg
θθθ
µ
θµθθθµθθ
θµθθ
(2) 上の結果を用いると、速度 v(摩擦のある場合の速さを求める)は、次式で与えられる。
41
θθθθθθµθ sin11sincos1tansin)cos'(sin
2
0
2
0
2
0
R
R
R
R
R
Rt
tgt
t
tgt
t
tgtgv =
−−=
−−=−=
(3) 具体的な数値を代入すると、
)m/s(37)m/s(33.37)m/s(1.2
0.88.9)m/s(5.0
4.8
)0.8(8.9sin
054.005367.0])4.8/8(1[3
1])/(1[tan'
22
0
22
0
≈=×
=××==
≈=−=−⋅=
θ
θµ
R
R
t
tgv
tt
例題 3 摩擦のある斜面&平面を滑る物体の運動
右図のような角度θの斜面(A-B)の点 A から、物体
を滑らせた。物体は点 Bで速さは変えることなく、滑ら
かに方向を変え、B-C間をすべり、点 Cで止まった。A-C
間では一様な摩擦が働く(動摩擦係数 'µ が同じ値)とし
て、動摩擦係数 'µ を θ,, 21 LL を用いて書け。ただし、A-B、
B-C の長さはそれぞれ 21, LL とし、重力加速度の大きさ
を gとする。また、 6/),(0.1),(60.0 21 πθ === mLmL のとき、 'µ の値を計算せよ。ただし、点 Bで物
体は滑らかに速度の方向を変えるものとする。
解説および解答:
質量m、斜面の長さ 1L 、水平面の長さ 2L とする。A-B間の運動、および B-C間の物体の運動におい
て、点 Bでの速度は共通である。A-B間では速さが増加する運動であり、B-C間では、速さが減少する
運動である。この事を式で表す。
斜面での運動方程式は、加速度 1a として、
)cos'(sin)cos'(sin 11 θµθθµθ −=→=− gamamg 。
時間 Bt かかって A-B間を滑ったとすると、B点での速度 vは、
111
1
1111
2
1 )cos'(sin222
2/ LgLaa
LatavLta BB θµθ −====→=
となる。一方、点 Cで停止するので、水平面での加速度を ga '2 µ−= とし、時間 Ct かかって B-C間を
滑ったとすると、
222
22
22
222
2
2
2
2
2
2
'2)(2
)2/(2/)/()/(2/0
2/
gLLav
Lavavaavvtavttav
LtavtCC
C
CC
µ=−=→
=−=−+−⋅=−→
=+
=−
このようにして求まった 2つの vが等しいので、
21
1
1212121
222111
cos
sin'
sin)cos('')cos'(sin'2)cos'(sin2
'22)cos'(sin22
LL
L
LLLLLLgLg
LgLaLgLa
+=→
=+→=−→=−
==−=
θθ
µ
θθµµθµθµθµθ
µθµθ
θ
L1
L2
C
B
A
42
となる。 6/),(0.1),(60.0 21 πθ === mLmL の値を代入して、以下の値を得る。
20.0197.033.00.1
3.0
0.12/360.0
5.060.0
cos
sin'
21
1 ≈=+
=+×
×=
+=
LL
L
θθ
µ
例題 4 斜面に 2個まとめて押し上げられる物体の運動
斜面にある質量 mM , の 2 つの物体が側面で接触する。また図
のように、物体mが斜面に対して平行に上向きに、大きさF の力
で押されている。斜面と 2つの物体との間に摩擦は無い。この時、
それぞれの物体に生じる加速度、および 2つの物体間で働く力の大きさを求めよ。
解説と解答
2つの物体 mM , がそれぞれ斜面を押す力 mM FF ',' に対して、その反作用として斜面が 2つの物体を
おす垂直抗力が生じる。その力をそれぞれ mM NN , とする。また、質量 mM , の 2つの物体が押し合う
力の大きさを f とする(作用・反作用から、同じ大きさの力)。
物体 mM , に生じる加速度を斜面方向(斜面に沿って上向きを
正)および斜面に対して垂直方向(斜面から外向きを正)にと
りそれぞれ ymyMxmxM aaaa ,,,, ,,, とする。斜面と 2 つの物体との
間には摩擦力が働かないので、重力による力は、重力の斜面に
沿った成分のみを考慮すればよい。物体に働く力を図示すると、
次のようになる。よって運動方程式は、
水平方向 :xm
xM
mamgfFm
MaMgfM
,
,
sin:
sin:
=−−
=−
θ
θ 垂直方向:
ymm
yMM
mamgNm
MaMgNM
,
,
cos:
cos:
=−
=−
θ
θ
となる。物体の運動は斜面に沿った運動なので y成分: 0,, == ymyM aa である。また 2つの物体が接触
して一緒の運動をしていれば、 aaa xmxM == ,, とできる。斜面に沿った運動方程式を足し算すると、
+=−
++=
−+
=→
+=
+=+−→
=−−
=−
FMm
Mg
Mm
FgMf
gMm
Fa
agMf
aMmgMmF
mamgfFm
MaMgfM
xm
xM
)sinsin(
sin
)sin(
)(sin)(
sin:
sin:
,
,
θθ
θ
θθ
θ
θ
例題 5 摩擦のある面での運動
質量mの質点が、摩擦のある斜面上を運動する。質点と平面と
の静止摩擦係数はµ であり、動摩擦係数は 'µ である。以下の問い
に答えよ。
(1) 図 1のように水平面に対し角度θ 傾けた平面上で、質点に初
速度初速度 0v を与えて斜面を上らせる。質点が一番高くなるまで
F
m
M
θ
F Nm
F’M
Mg F’m
f NM
mg
f
θθθθ
v0 図1
m
43
に、斜面を移動する距離を求めよ。また、質点が一番高くなった
ところで静止するための条件を求めよ。
(2) 図 2のように、水平面に対し角度θ 傾けた平面上で、質点に
初速度 0v を与えて斜面上を下らせる。斜面の角度がある角度 0θ を
とる時、質点は等速運動で斜面を下る。 0θ の満足する式を求めよ。
解説と解答
(1) 物体mはmgの力で斜面を押す。その力を斜面に対して垂直方向、水平方向の2つの方向に分ける。
物体mが斜面を垂直に押す力 θcosmgF = に対して、
斜面が反作用として同じ大きの垂直抗力 θcosmgN =
で物体を押し返す。(この関係式は、後で見るように、質
点の斜面に対して垂直方向の運動方程式からも、導くこ
とが出来る。)また物体mは、斜面に沿って下がる方向
に、重力により θsinmg の力を受ける。さらに物体が斜
面上向きに移動する場合、動摩擦力 Nf '' µ= は斜面に沿
って下向きである。
これらの力を用いて物体mの運動方程式を書く。物体
の加速度の向きは、斜面にそった方向と垂直方向に分け、
加速度をそれぞれ yaax, とする。
斜面に対して垂直方向(斜面を外向き+): ymaFN =−
斜面に対して水平方向(斜面を上向き+):xmafmg =−− 'sinθ
斜面垂直方向には質点が動かないので、 0=ya となる。これから、 θcosmgFN == 。この値を水平
方向の運動方程式に代入すると、
)cos'(sincos'sin'sin θµθθµθθ +−=→=−−=−− gamamgmgfmg xx
となる。初速度 0v で、時間 0t で質点が最高点に達するとすると、その時質点の速度=ゼロである。斜面
を移動する距離を Sとすると、
)cos'(sin22
1
)cos'(sin0
2
02
0000
00 θµθθµθ +=+=→
+=→=+
g
vtatvS
g
vtav xx
をえる。
質点が一番高くなったところで静止するためには、少なくとも「質点に働く最大静止摩擦力」が「質
点に働く重力の斜面に沿って働く力」と等しいか、大きくなくてはならない。これを式に書くと、
θµθµθ tancossin ≥→≤ mgmg
が求まる。
(3) 質点に働く力の総和がゼロになれば、質点は等速度運動を行う。(2)での議論を利用すると、質点
の働く重力による力の斜面でに沿った成分が、動摩擦力と等しければよい。すなわち、
000 tan'cos'sin θµθµθ =→= mgmg
を得る。
θθθθ
mg
mgcosθ
mgsinθ
N = mgcosθ
f’:動摩擦力
θ0
v0
図2
m
44
例題 6 滑らかな斜面上で静止する物体
図のように、摩擦のない水平面上に質量M 、角度θ の斜面
がある。斜面のある位置に質量mの物体をそっと置き、斜面
に対して水平左方向の向きに一定の大きさの力を加える。
斜面と質量mの物体との摩擦がないとして、物体を斜面上
の同じ位置に静止させる時の力の大きさを求めよ。またその時、
物体が斜面から受ける垂直抗力の大きさと斜面が水平面から受ける力の大きさを求めよ。
解説と解答
求める力の大きさを F とする。まず、質量mの物体と斜面
に働く力を書こう。質量mの物体には、重力加速度による力
mgが働く。物体mは斜面を力 1F で押し、その反作用で斜面
から大きさ 1N (垂直抗力)の力で押し返さされる。斜面と物
体mの間に働く力は上で考えたので、残りの力を考える。斜
面には重力加速度による力Mgが働く。その他の力では、斜面が水平面を押す力 2F 、反作用として水平
面から押される力(垂直抗力) 2N が働く。
続いて物体mと斜面の運動方程式を立てる。その際、力をどのように分解して運動方程式を立てるか
が、計算が楽かどうかという意味で重要である。問題から、物体mは水平方向の加速度運動をすると考
えられる。また、水平方向ないしは垂直方向に向いた力が大多数なので、力の分解は、水平(右向きを
+)・鉛直方向(上向きを+)に分ける。物体mの加速度を水平・鉛直方向に yx aa , とし、斜面の加速度
を水平・鉛直方向に yx AA , とすると(力 11,NF の分解の図参照)、
)(,
cos
sin:,
cos
sin:
2211
12
1
1
1
作用・反作用 FNFN
MAMgFN
MAFFM
mamgN
maNm
y
x
y
x
==
=−−
=−
=−
=−
θ
θθ
θ
となる。また、物体mが斜面上で静止している事(物体mと斜面の加
速度が同じ)、斜面が水平面上で上下方向に移動しない事から、
0, === yyxx AaAa
の条件が出る。これらの条件を運動方程式に代入すれば、以下のようにF と 1N の大きさが求まる。
θθθθ
θθ
θ
θθθ
θθ
θ
tan)()tan(sincos
sintan
sin
tansincos
1sin
cos0
cos
1
11
1
11
1
gMmgMmg
MAFF
FN
Aa
ga
MAFF
gmg
mamaN
mgN
a
mamgN
x
xx
x
x
xx
y
y
+=−−=−=→
=
=
−=
=−
−=−=→=−→=→
=
=−
なお、 2N の大きさは、 11 FN = の関係と斜面M の運動方程式から、以下のように求まる。
gmMMgmg
MgFNMMAMgFN y )(coscos
cos0cos 1212 +=+=+=→⋅==−− θθ
θθ 。
θθθθ
m
M
θθθθ
N1
F M
mg
F2
N2
F1
Mg
N1
F1
N1cosθ
F1sinθ
F1cosθ
N1sinθ
45
6)速度に比例する抵抗を受ける物体の運動(空気抵抗などを受ける場合)
水平面上を、大きさのある物体が運動するとしよう。物体には、常に一定の力F が働くとする。その
一方で、kを定数として速度 vに比例した大きさ kvの力を、速度方向と逆に受けるとしよう。運動方程
式は、物体の質量をmとすれば、
dt
dvmkvF =−
となる。この微分方程式を解けば、
−=−→+−=
−→−=−
→
−−=→=− tm
kC
k
Ftvct
m
k
k
Fvdt
m
k
k
Fv
dv
k
Fv
m
k
dt
dv
dt
dvmkvF exp)(ln
ここでCは定数である。時刻 0=t で初速度 0)0( =v とすれば、 kFC /−= となり、
−−= tm
k
k
Ftv exp1)(
を得る。この式は、時間が十分たてば( +∞→t )、速度は一定の値 kFv /= になることを示す。
さて、以上の結果を、運動方程式を具体的に解くことなく、導びこう。運動方程式
dt
dvmkvF =−
において、初速度=ゼロの場合、運動の開始直後では速度 0~v なので、速度 vは、
tm
Fv
dt
dvmF +=→= 0
で増加すると見なせる。しかし、速度が大きくなると空気抵抗が無視できなくなり、
dt
dvmkvF =−
の形の運動方程式を考えなくてはならない。ここで、 0>− kvF なら加速度 0/ >dtdv となり、速度は
増加する。しかし、速度が増加し 0=− kvF になれば、加速度 0/ =dtdv となり、もはや速度の増加は
望めない。すなわち、一定の速度 kFv /= の等速運動になる。
これらの結果を比較すれば解かるように、運動方程式を微積分の手法を使って解けば、極端な条件(こ
の場合は、時刻 0=t と +∞=t )以外の、途中の場合の、物体の運動の様子を知る事ができる。
例題 1 斜面のそり
図 1 に示すように、水平と角度θ をなす斜面上に、帆の付いた
そりを置き、その運動を調べる。そりの質量m、斜面に沿って下
向きの速度 v、加速度をa、動摩擦係数 'µ 、重力加速度を gとす
る。また、帆には、そりの速さに比例する力 kvが速度と逆向きに
働く。 (1) そりが斜面に沿って滑り落ちる時の加速度aを、 gvm ,',, µ , θ,k などを用いて表せ。また、そり
が等速度運動する時の速度を求めよ。
v
θ
図1
46
(2) θ =30度の斜面で実験を行った。その結果、そりを静かに離して(初速度=ゼロ)からの時間 tと
速度 vの関係が図 2のように得られた。なお、図の破線は、曲線に対する 0=t での接線である。この図
から ',µk の値を求めよ。ただし、 )kg(0.2=m 、 )m/s(8.9 2=g として、有効数字 2桁で求めよ。
解説と解答
(1) 斜面を滑る物体にかかる力を思い出そう。斜面に沿って
の重力の力は θsinmg である。一方動摩擦力は物体が滑る方
向と逆向きに θµ cos'mg である。さらに速度に比例した抵抗
kvを考慮すると、運動方程式は、以下のとおり。
m
kvgamakvmg −−=→=−− )cos'(sin)cos'(sin θµθθµθ
そりが等速度運動をする時は、加速度 0=a 。よって、
k
mgvkvmg
)cos'(sin0)cos'(sin
θµθθµθ
−=→=−−
(2) 時刻 0=t での破線は、時刻 0=t での速度が増加する程度を示す。すなわち、時刻 0=t における
加速度を表す。また、速度一定の部分は、そりの速さに比例する力(空気の抵抗だろう)と重力に起因
する力が釣り合った状態を表す。
破線は、時間 1 秒で速度が 2.5(m/s)増加する事を示す。すなわち時刻 0=t での加速度は、
)m/s(5.2 2=a である。またこの時刻では、速度 0=v である。時刻 0=t での運動方程式は、速度 0=v
を考慮し、
28.0~2827.08.9
51
3
3
2/3
)8.9/5.2(2/1
cos
sin
'cos'sin
)cos'(sin0)cos'(sin)cos'(sin
=
−=−
=−
=→=−
=−=⋅−−=−−
θ
θµθµθ
θµθθµθθµθ
g
a
g
a
mamgkmgkvmg
一方、時刻 0=t での結果 )m/s(5.2)cos'(sin 2=− θµθg 、(1)で求めた等速運動の答えを利用し、
)kg/s(5.2)m/s(0.2
)m/s(5.2)kg(0.2)cos'(sin 2
=×
=−⋅
=v
gmk
θµθ
を得る。
微分方程式による解法:
−
−−=→==−−k
mgvk
dt
dvm
dt
dvmmakvmg
)cos'(sin)cos'(sin
θµθθµθ
ここで、k
mgvu
)cos'(sin θµθ −−= とおけば、上の方程式は、
−=→+−=→−=→−= tm
kCtuct
m
kudt
m
k
u
duku
dt
dum exp)()ln(
元の変数に戻して、初期条件: 0=t で 0)0( =v を代入すると、次の答えを得る。
−−⋅
−= t
m
k
k
mgtv exp1
)cos'(sin)(
θµθ。
0 1 2 3 4 5
t(s)
v(m/s)
3
2
1
0
図2
47
7)滑車のある運動(ただし、滑車の質量=ゼロ)
{「質量ゼロで、なめらかに回転する滑車」により「質量ゼロの糸が動く」}、ないしは{質量ゼロの
糸が滑車を滑る}と仮定して議論を進める。なお滑車の運動を考える場合、厳密に扱おうとすれば、滑
車を大きさ・質量を持つ物体(剛体)として扱う必要があり、その際に滑車の質量をゼロにすることで、
ここで記述する運動方程式が求まる。しかしここでは、上で述べた仮定を証明することなく用いるので、
ひとまず納得して欲しい。
以下では、典型的な問題を説明する。なお、床に加わる摩擦力は、図では省略した。
例題 1 滑車にぶら下がった2つの物体の運動
{「質量ゼロで、なめらかに回転する滑車」により「質量ゼロの糸が動く」}、
ないしは{質量ゼロの糸が滑車を滑る}と仮定する。
物体 mM , に働く力は、重力による力としてそれぞれ mgMg, がある。
物体が糸を引っ張る反作用として糸が物体を引っ張る。上の仮定を認めれば、
2 つの物体 mM , において、物体が糸を引っ張る力をF とすれば、糸が物体
を引っ張る力T とは、 FT = の関係にある。
質量は、 mM > なら、物体M が下がり、物体mが上に移動する。この場
合を想定し、物体M が下がる方向を+にとり、運動方程式を書く。物体m、
および物体M の加速度をそれぞれ ma 、 Ma とすると、
物体M : MMaTMg =−
物体m: mmamgT =−
となる。さらに、糸が伸び縮みしないと仮定すれば、加速度は aaa mM == となる。よって、2つの運
動方程式を加えると、
+=−=
+−
=→+=−→+=−+−
gmM
MmMaMgT
gmM
mMa
amMgmMmaMamgTTMg2
)()()()(
となり、等加速度運動をする事が分かる。なお mM < なら、加速度の大きさは a− で与えられる。
例題 2 水平面上の物体を、滑車を介して別の物体で引っ張る
滑車にぶら下がっている物体の質量をM (左図)とし、
摩擦のない水平面で、物体M を力 MgF =' の大きさで引
っ張るのと同じ問題設定になる。引っ張られる物体mには、
摩擦の有無の場合わけがある。なお、床が物体から受ける
摩擦力の図示は、省略している。
質量mの物体には、物体mが水平面を押す力 mgF = に
対する反作用として、垂直抗力N が働く。
T T
Mg mg
F F
T
T mg
µ’N
N
Mg
F
48
糸の張力は、物体 mM , それぞれで同じで、T である。質量mの物体と水平面との間に動摩擦力が働
くとすると、運
動方程式は、物体mに働く垂直抗力をN として、
mM maNTmMaTMgM =−=− ':,: µ
となる。また。動摩擦力 mgN '' µµ = を代入し、糸が伸び縮みしない条件 aaa mM == から、加速度a、
糸の張力T が、以下のように求まる。
gmM
mMg
mM
mMmmMmg
mM
mMmmgmamgT
T
gmM
mMmamgT
gmM
mMa
amMgmM
amMmgTTMg
maNTm
MaTMgM
m
M
++
=+
−++=
+−
+=+⋅=
++
=+=
+−
=→
+=−
+=−+−→
=−
=−
)'1()'()(')'(''
)'1('
)'(
)()'(
)()'()(
':
:
µµµµµµ
µµ
µ
µµ
µ
の計算
なおこの問題は、右図のように、水平面上の
2 つの物体の運動と同等である。ただし、物体
M を引く力 MgF = であり、物体M と水平面
の間には摩擦がない。このような問題設定にす
れば、上と同じ運動方程式が導かれる。実際に
同じになることを確かめてみよう。
例題 3 場所(位置)の変化する滑車がある場合
全ての滑車の質量=ゼロとする。また、斜面は動か
ないとする。摩擦のない斜面にある質量mの物体、質
量=ゼロの動く滑車(大滑車)にぶら下がっている質
量M の物体の運動を考える。図で見るように、大滑車
は、物体 Mm, の運動に従い、高さが変化する。
動く滑車(大滑車)の質量をゼロとし、滑車を上に
持ち上げようとする糸の張力をT 、質量M の物体によ
って下向きに引っ張られる糸の張力を 'T とすると、大
滑車の質量=ゼロの糸の張力のつりあいの為、 '2 TT =
である。(運動方程式を立てた時、物体の質量=ゼロの
時、物体に加わる力の足し算=ゼロになったことを思
いだそう。)なお、物体mに斜面から働く垂直抗力は、
図示していません。
質量mの物体、および質量M の物体の加速度をそれぞれ Mm αα , とすると、運動方程式は、
M
m
MTMgM
mmgTm
α
αθ
=−
=−
':
sin:
T T
mg
µ’N
N F=Mg
F Mg
N’
F’
摩擦無し
mg
Mg
T
T’
T T
T’ θ
49
となる。また、物体mが距離 x移動すると、物体M はその半分だけ位置が変わるので、Mm αα , の間に
はMm ααα 2== の関係がある。これに、先ほど得られた関係式: TT 2'= を代入して、糸の張力および
物体の加速度を求める。
αθα
αθααθ
2
4sin2
)2/()2(
2sin22
)2/()2(:
sin: MmmgMg
MTMg
mmgT
MTMgM
mmgTm +=−→
=−
=−→
=−
=−
よって、物体mの加速度 mαα = は
gMm
mMm +
−==
4
)sin2(2 θαα
であり、物体mをひっぱる糸の張力T として
gMm
Mm
Mm
MmmMmggg
Mm
mMmgmT
++
=
+++−
=
++
−=+=
4
)sin2(
4
sin)4()sin2(2sin
4
)sin2(2)sin(
θ
θθθ
θθα
を得る。なお、ここでは、物体mが斜面を上るとして解いたが、下がる場合は加速度の大きさは、-を
つければよい。
念のため、物体M の加速度Mα を運動方程式から求めると、
24
)sin2(
4
)sin2(
4
sin2
4
)sin2(2)4(
4
)sin2(2'
mM
M
gMm
mM
gMm
mMMg
Mm
MmMM
gMm
MmmMMg
Mm
MmMgTMgM
αθα
θθ
θθα
=+
−→
+−
=+
−⋅=
++−+
=++
⋅−=−=
=
問題// 質量mの物体と斜面との間に摩擦がある場合を考える。動摩擦力を 'µ として、それぞれの物体
の加速度と糸の張力を求めよ。
50
8)2次元の運動:ボール投げ、重力のみが働く
質量mのボールには、重力が地面に向かう方向に、垂直方向に働く(空気の抵抗が無視
できる場合)。どのような向きの速度を持っていても、地面向きの重力による力が働く。
運動方程式は、
amFrr
=
で与えられる。この式を、重力が働く方向とそれに対して垂直(地面に対して平行)方向の、2 つの成
分に分ける。すると、地面から上向きを y軸の+方向にとると、 ),(),,0( yx aaamggmF =−==rrr
となり、
運動方程式はベクトル表示で
amgmFrrr
==
である。具体的に書くと、
00:
:
=→=
−=→=−
xx
yy
ama
gamamg
水平方向
垂直方向
上の式は、水平方向の運動と垂直方向(重力による力が加わる方向)の運動が、お互いに影響を及ぼさ
ないことを示す。よって、垂直方向、水平方向の運動は、それぞれ独立に考える事ができる。
速さV は、それぞれの速度( x (水平)成分 xV 、 y (垂直)成分 yV )の合成で求まる; 22
yx VVV += 。
さて、ボールの速度 ))(),(( tvtvv yx=v
および位置 ))(),(()( tytxtx =r
は、初期条件 )0,()0( 0vv =r
、
),()0( HLx =r
の時、
)2/,(),()2/,())(),(()(),())(),(( 2
0
2
000 gttvHLgttvxtytxtxgtvtvtvv yx −+=−+==→−==rrv
これより、以下に示すように、物体の運動は、放物線を描く。
( )22
0
2
02
0)(
2
)(
2)(
2/)(
)(Ltx
v
g
v
LtxgHty
gtHty
tvLtx−−=
−−=−→
−=−
=−
ここで学んだ事
物体の速度ベクトルの向き(物体の動く方向)と物体に加わる力ベクトルの向きは、必ずしも同じでは
ない。力の向きが一方向でも、物体の運動方向は、直線、放物線など、いろいろありうる。
例題 1 ボールを遠くへ飛ばす最適角度の問題
水平面上で、角度θ でボールを投げる時、角度を幾らにすれば、
ボールをもっとも遠くへ投げる事が出来るか?ただし、角度
によらずボールの初速度は一定の値とし、空気抵抗は無視で
きるとする。さらに、ボールを投げる人の背の高さは無視(背
の高さ=ゼロ)とする。
mg
θ
v0
h
51
解説と解答
パラメーターが与えられていない場合は、自分で決める。初速度を 0v とする。垂直方向、および水平
方向の初速度 xy vv , はそれぞれ θθ cos,sin 00 vvvv xy == で与えられる。物体に掛かる力は重力なので、
運動方程式は加速度をそれぞれ xy aa , とすれば、
0:: =−= xy maxmgmay
となる。ボールが地面に落ちるまでの時間、および飛んだ距離を ht ,0 とすると、
( )htvtvtax
vgtt
tvtgtvtay
xx
yy
==+
=+−→=+−=+
000
2
0
000
00
2
00
2
0
)cos(2/:
0sin22
0)sin(2/)(2/:
θ
θθ
00 ≠t なので、
g
vt
θsin2 00 =
を得る。よって
g
v
g
v
g
vvtvh
)2sin(cossin2sin2)cos()cos(
2
0
2
00000
θθθθθθ ===⋅=
を得る。 1)2sin(,1)2sin( =≤ θθ から o45=θ を得る。角度 45度で投げると、最も遠くへ飛ぶ事がわかる。
例題 2 ボール投げの結果からの、初速度と投げる角度の逆算
水平面から斜め上にボールを投げた時、ボールを投げた地点と落下した地点との距離は )m(x であり、
ボールを投げて落下するまでの時間は )s(0t であった。このことから、ボールの初速度および投げ上げる
角度の tanを求めよ。(ボール投げは、地面の高さで行われると考えよ。人の高さは無視する。)
解説と解答
初速度 0V 、投げる角度をθ とすると、水平、垂直方向の初速度は θθ cos,sin 00 VVVV xy == となる。
時間 0t で水平面にボールが距離 x離れて落下したので(例題 1参照)、
( )xtVtVtax
Vgtt
tVtgtVtay
xx
yy
==+
=+−→=+−=+
000
2
0
000
00
2
00
2
0
)cos(2/:
0sin22
0)sin(2/)(2/:
θ
θθ
さて、 00 ≠t なので、
xtVVgt == 0000 )cos(,sin2 θθ
をえる。ここで、 1cossin 22 =+ θθ を利用し、
x
gt
t
x
gt
tV
x
V
gt
gt
t
xV
gt
t
xV
V
gt
tV
x
2
22
cos
sintan
221
2
2
0
0
0
00
0
0
2
0
2
0
0
2
0
2
0
2
0
2
0
0
2
00
====
+
=→
+
=→=
+
θθ
θ
となる。
θ
V0
x
52
例題 3 崖からのボール投げ
高さH の崖から初速度 00 >v 、水平面に対する角度θ で、
ボールを投げた。図の水平到達距離 Lを、重力加速度 gお
よび θ,, 0vH を用いて表せ。
解説と解答
ボールが水平面に到達する時間を tとして計算しよう。垂
直方向の運動方程式は、上方向を正にとり、加速度をaと
すれば、
mamgF =−=
これより加速度 ga −= となる。垂直方向の初速度は θsin0v 、かつ水平方向の物体に働く力=ゼロな
ので、水平方向には等速運動となる。よって時間 t後のボールの速度は
gtvtv y −= θsin)( 0
で表される。時間 t経過後のボールの位置(高さ) yは、水平面の高さをゼロとすると、
g
vgH
g
vt
g
v
g
H
g
vtHtvgt
gttvHdttvHyt
y
2
00
2
0
2
00
2
2
00
)sin(2sin
sin2sin02)sin(2
02
1)sin(')'(
θθ
θθθ
θ
+±=
+=
−→=−−
=−+=+= ∫
ここで 0>t より、
g
vgHvt
2
00 )sin(2sin θθ ++=
よって、水平方向の速度は一定の値 θcos0v なので、
g
vgHvvtvL
2
00
00
)sin(2sincos)cos(
θθθθ
++⋅== 。
この問題で分かるように、物体に対して働く力(この場合は重力による力mg)は、物体の運動する方
向と同じとは限らない。
例題 4 モンキーハンティング
地表上の点 Oの前方に、距離 aだけ離れて鉛直な壁がある。x軸を壁に垂直に、y軸を鉛直にして、
座標系 O-xy を図のようにとる。物体に対する空気の抵抗や壁面摩擦
を無視し、重力の加速度を gとする。次の問に答えよ。
(1) (図 1)原点 Oから物体 Aを初速度 0ur(ベクトル)で xy-面内に
投げる。点 O を始点とした 0ur(ベクトル)の延長線と ax = の壁面
との交点を点 Pとする。物体 Aを投げたのと同時に、点 Pから物体 B
を速度ゼロで落下させる。物体Aが壁面上のある点Qに衝突すれば、
物体 Bは点 Qで必ず物体 Aと衝突する事を示せ。
H
L
θ v0
θ u0
0 x=a
Q
P 図1
53
(2) (図 2)原点 Oから初速度 0v 、仰角α で物体を xy-面内に投げ
て壁面に垂直に衝突させたい。そのために 0v とα が満足すべき関係
式を導け。また、 0v の下限の値を求めよ。
解説と解答
物体に加わる力は重力による力だけである。よって運動方程式を
書けば、垂直方向の加速度のみがゼロでなく ga y −= (鉛直方向上向きを正にとる)である事がわかる。
これを前提にして、問題を解く。
(1) 物体 Aの速度の、垂直および水平方向の成分はそれぞれ
θθ cos,sin 00 uuuu xy ==
である。物体 Aが時間 0t かかって水平方向に距離a移動したとして、その時の物体 Aの垂直方向の高さ
Ah を求めると、次の式が得られる。
θθθ
θθθ
θ
θ
tan)cos
(2cos
)sin()cos
(2
)(
cos
)cos(2/:
)sin(2/)(2/:
2
00
0
2
00
0
000
2
0
00
2
00
2
0
au
ag
u
au
u
agh
u
at
atututax
htutgtutay
A
xx
Ayy
+−=+−
=→=
==+
=+−=+
一方物体 Bの最初の高さを 0h とすると、
θθ tantan 0
0ah
a
h=→=
となり、その位置からの自由落下で、時間 )cos/( 00 θuat = 経過後の高さ Bh を求めると、
θθ
tan)cos
(2
12/)( 2
0
0
2
0 au
aghtghB +−=+−= 。
よって BA hh = となり、2つの物体は必ず衝突する。
(2) (1)の計算を利用する。物体が ax = の壁に垂直に衝突する時刻 0t では、垂直方向の速度=ゼロであ
り、物体の水平移動距離はaである。よって、以下の式が成り立つ。
αα
αα
cos)cos(2/:
sin0sin:
0
0000
2
0
00000
u
atatvtvtax
g
vtgtvtavv
xx
yyy
=→==+
=→=−=+
これより、
gavgavgavv
a
g
v2)2sin(2cossin2cossin
cos
sin 2
0
2
0
2
0
0
0 =→=⋅→=→= αααααα
α。
物体を投げる角度 2/0 πα << から、 )2sin( α のとる値の範囲は、
1)2sin(020 ≤<→<< απα 。
よって下限は、次のように求まる。
gavgaga
v 22)2sin(
20
2
0 ≥→≥=α
。
α v0
0 x=a
図2
54
例題 5 異なる角度でのボール投げ
水平面上の A点からボールをある仰角で投げ上げたところ、時間 1t 秒後に A点と同じ平面上の B 点
にボールが落下した。次に A点から仰角を先の角度の 2倍の角度でボールを投げ上げたら(初速度は同
じとはかぎらない)、時間 2t 秒後に A点と同じ平面上の B点にボールが落下した。ボールの大きさおよ
び空気の抵抗が無視できるとして、2点 AB間の距離を 21,, ttg を用いて表せ。
解説と解答
AB間の距離を s、ボールの初速度を角度によって異なるとし、 21,VV として、式を立てる。
初速度 1V 、時間 1t でボールが水平面に落下した時の、ボールを投げる角度をθ とすると、水平、垂直
方向の初速度は θθ cos,sin 11 VVVV xy == となる。時間 1t で水平面にボールが距離 s離れて落下したの
で(例題 1参照)、
( )stVtVtax
Vgtt
tVtgtVtay
xx
yy
==+
=+−→=+−=+
111
2
1
111
11
2
11
2
1
)cos(2/:
0sin22
0)sin(2/)(2/:
θ
θθ
の式をえる。さて、 01 ≠t なので、
stVVgt == 1111 )cos(,sin2 θθ
となる。
同様に、初速度 2V 、投げる角度 θ2 の時、時間 2t で水平面にボールが距離 s離れて落下したとすれば、
( )stVx
Vgtt
tVtgy
=
=+−→=+−
22
222
12
2
2
)2cos(:
0)2sin(22
0))2sin((2/)(:
θ
θθ
となる。ここでも 02 ≠t なので、
stVVgt == 2222 )2cos(),2sin(2 θθ
をえる。
さて、以上のようにして得られた 4つの式から、次のような関係式を得る。
s
gtgttVs
stV
Vgt
s
gtgtt
gttVs
stV
Vgt
2)2tan(
)2tan(
1
2
1)2cos(
))2cos((
)2sin(2
2tan
tan
1
2
1cos
sin2cos
)cos(
sin2
2
22
222
22
22
2
12
111
11
11
11
=→==→
=
=
=→===→
=
=
θθ
θθ
θ
θθ
θθ
θθ
θ
さて、 θtan に関して、一般に次の等式が成立する:
θθ
θθθθ
θθ
θ222 tan1
tan2
sincos
cossin2
)2cos(
)2sin()2tan(
−=
−== 。
この θtan の等式に、上で求まった値を代入する。
2
1
2
2
2
2
1
2
1
2
2
2
2
22
122
2
22
1
22
1
2
2
2
1
22
2
22
1
2
22
1
2
2
1
22
222
1
2
2
1
22
1
2
1
2
2
2
22
)2(4
)()()84(8])()2[(
)()2(
82:
)()2(
4
)2/(1
)2/(2
2tan1
tan2)2tan(
tt
tgts
tt
tgtstgtstttstgts
gts
tst
g
s
gts
sgt
sgt
sgt
s
gt
−=→
−=→=−→=−→
−=→×
−=
−=→
−=
θθ
θ
θ
V0
s
55
運動量と力積
はねかえり係数eの定義
i) 一番簡単な定義
静止している壁に物体が垂直に入射するとしよう。壁との衝突直前の物体の速度がvであり、衝突し
た質点の衝突直後の速度が 'v の時、はねかえり係数は次式で定義される。
v
ve
'−= 。
ii) 直線運動する物体同士では、相対的な速度の比で定義する:
直線上での衝突を考える。衝突前の速度 BA vBvA :,: ,衝突後の速度 BA vBvA ':,': とする時
BA
BA
vv
vve
−−
−=''
。
1=e の場合を完全弾性衝突といい、 0=e の場合を完全非弾性衝突という。
質点の壁への斜方衝突
定義// 運動量:質量×速度 vmr、力積:力×時間 tF∆
rと呼ぶ。
運動方程式を次のように変形する。物体が壁と衝突する直前直後の速度をそれぞれ ',vvrrとする。物体
が壁に衝突している時間を t∆ とする。運動方程式を変形する事で、以下の式を得る。
vmvmtFt
vmvmmF
dt
tvdmtF
rrrrr
rr
r−=∆→
∆−
=→= '')(
)(
),( yx FFF =r
および ),(),','(' yxyx vvvvvv ==rr
とすると、ベクトルの各 yx, 成分を比較し、
−=∆
−=∆→−=∆∆→−=∆
yyy
xxx
yxyxyx mvmvtF
mvmvtFvvmvvmtFtFvmvmtF
'
'),()','(),('
rrr
となる。
さて、壁面に対して垂直に物体が衝突した場合、物体は、物体の速度ベクトルの向きが反対になるよ
うな大きな力(正確には力積)を受ける。この事は、壁に対する物体の斜方衝突の場合にもあてはまる
だろう。
そこで、水平面上で物体が壁に対して斜めから衝突する場合を考える。
壁面に対して垂直な方向( y 方向とする)では物体が跳ね返ることから、
物体は大きな力を壁面から受けると考える。しかし壁面に対して平行な
方向( x 方向とする)では、物体の持つ速度成分は変化していないよう
に見える。つまり、物体はあまり大きな力(力積)を壁面から受けない
と考えられる。物体が壁面から受ける x 方向の力は、壁と物体との摩擦
によって生じる静止摩擦力ないしは動摩擦力であるが、特に壁面がなめ
らかな場合、摩擦力の大きさ=ゼロと見なせるだろう。斜方衝突に際してこの考えを徹底(極端化)す
ると、物体と壁との衝突では、壁面に対して平行な方向には、物体は力を受けない( 0=xF )となる。
この考え方が、斜方衝突ではもっぱら用いられる。
'vvrr
y
x
v
v’
56
では、衝突後の物体の速度は、どのように求まるのだろうか。壁面と垂直方向( y 方向)の物体の速
度成分は衝突により変化する。衝突後の速度 yv' は、はね返り係数eの定義式から与えられる。一方壁面
と平行方向( x 方向)の速度成分は、運動量と力積の式において、 0=xF とおくと、変化しない( xx vv =' )
事が分かる。
y
y
xxxxxv
vevvmvmvttF
',''00 −==→−==∆⋅=∆ 。
2つの物体の衝突での運動量保存
定義// 運動量:質量×速度 vmr、力積:力×時間 tF∆
r
作用・反作用の法則によると、2 つの物体が接している時、2 つの物体はお互い逆方向に力を及ぼし
あう。A,および B にそれぞれ(一定の、時間的に変化しないベクトル)力 FFrr
−, が時間 t∆ 作用すると
しよう。衝突前後のA,Bの速度をそれぞれ ',,', BBAA vvvv とすれば、運動方程式は、
A:t
vvmF AA
A ∆
rrr −
='
、B: t
vvmF BB
B ∆
rrr −
=−'
これより、次式を得る:
0)'()'(
)'(),'(
=−+−
−=−−=
BBBAAA
BBBAAA
vvmvvm
vvmtFvvmtFrrrr
rrrrrr∆∆
よって、
0)'()'(,'' =−+−+=+ BBBAAABBAABBAA vvmvvmvmvmvmvmrrrrrrrr
となる。すなわち、衝突の前後で、運動量の総和は保存される:
(Aの物体の運動量変化量)+(Bの物体の運動量の変化量)= 0
注意:運動量保存の関係式の導出で、2 つの物体の間に生じる作用・反作用以外の力は入っていないこ
とに注意する。このような力を、内力(ないりょく)という。上のように考えている物体全体の中での
み働く力の場合(外部から力が加わっていない場合)は、物体全体の運動量が保存される。
なお、物体の大きさを無視する質点としての扱いをしているので、物体同士の衝突後、物体 A、Bが
どのような角度で散乱されるかについては、議論することが出来ない。
時間的に一定でない力を互いに及ぼしあう時の、運動量保存
2つの物体 A,Bが互いに作用反作用で力を及ぼしあう時、次の運動方程式が成り立つ。ここで )(tFr
は、
物体 Bが物体 Aに及ぼす力であり、 )(tFr
− は物体 Aが物体 Bに及ぼす力である。
dt
tvdmtF
dt
tvdmtF
t
vvmtF B
BA
AAA
A
)()(,
)()(
')(
rr
rr
rrr
=−=→∆−
=
これら 2つの運動方程式を足し算すれば、
( ) 0)()()()(
0)}({)()(
)(
)()(
=+→+==−+→
=−
=tvmtvm
dt
d
dt
tvdm
dt
tvdmtFtF
dt
tvdmtF
dt
tvdmtF
BBAAB
BA
A
BB
AA
rrrr
rr
rr
rr
。
A
B A
vA‘ vB‘
B
vA vB
衝突前
衝突後
57
作用・反作用の力 )(tFr
が時刻 0=t から t まで働いたとし、その区間で上の式を積分すれば、
( ) ( ) ( )
)0()0()()(
0)}0()({)}0()({
0)'()'(')'()'('
0)()(00
BBAABBAA
BBBBAAAA
t
BBAA
t
BBAABBAA
vmvmtvmtvm
vmtvmvmtvm
tvmtvmddttvmtvmdt
dtvmtvm
dt
d
rrrr
rrrr
rrrrrr
+=+→
=−+−
=+=+→=+ ∫∫
となる。物体同士が作用・反作用の力 )(tFr
を及ぼす場合は、作用・反作用の力に時間依存性があっても、
初めと最後での運動量の総和は変化しない。このように、2 つの物体間に作用・反作用以外の力がなけ
れば、運動量は保存される。そのため、運動量保存の式は、衝突問題などで頻繁に用いられる。
さて、式を注意して見れば、
( ) 一定=+→=+ )()(0)()( tvmtvmtvmtvmdt
dBBAABBAA
rrrr
をえる。よって、作用・反作用の力 )(tFr
が物体に加わっている時間内であれば、いつ何時であっても、
運動量は保存される事もわかる。運動量保存の適用される場合は、時間の初めと終わりだけではない。
なお、力が複数の物体間で働く場合は、それら力をまとめて内力(ないりょく)と言う。複数の物体
に働く力が内力のみの場合、複数の物体全体の運動量は保存される。例えば、例題 8を参照せよ。
例題 1 一直線上での、2つの物体の衝突 (水平面と物体との摩擦はないとする)
この問題の実験は 10円玉、100円玉などを用いてできるので、確認してみよう。質量 M の静止して
いる物体に、速度 0v で質量m の物体が衝突した。2つの物体の運動は、直線方向に限られるとする。衝
突後の 2つの物体の速度を求めよ。はね返り係数を e( 10 ≤≤ e )とする。
解説と解答
衝突直後の物体m 、および物体 M の速度をそれぞれ Vv, とすると、運動量保存で
MVmvMmv +=⋅+ 00
が成り立つ。また、はねかえり係数をeとすると、
0
00evvV
v
vVe =−→
−−
−=
が成り立つ。これらの式から、
Mm
veMmv
veMmvMmevvMmvMmvMVmvMmv
+−
=→
−=+→++=⋅+→+=⋅+
0
0000
)(
)()()(00
0000
0
)1()()()(v
Mm
mev
Mm
MmeeMmev
Mm
veMmevvV
++
=+
++−=+
+−
=+=
を得る。
例えば Mme == ,1 の場合、 0,0 vVv == となる。これは、衝突後、物体m は、衝突した場所に止ま
った状態でいる事を示す。この実験は、すべりの良い机などで硬貨を使って実験する(完全弾性衝突
1=e と見なす)ことが出来る。正しいかどうか、実験しよう。
v0
58
例題 2 スケートでの押し合い
スケートで大人(質量 M )と子ども(質量m )が互いに一定の大きさの力で押し合う。その時大人と
子どもに生じる速度の比を求めよ。ただし、スケート靴とスケートリンク(氷)との摩擦=ゼロとする。
解説&解答
互いに一定の力で押し合うとする。(図のように、摩擦のない水平面上で、2つの物体が互いに同じ大
きさの力で押し合っている(作用・反作用の力)問題と同等である。)大人 M 、子どもm の質量とし、
加速度を mM aa , とする。子供(m )が大人(M )を押す力は右方向で F+ であり、大人は子供を左方向に
押す(符号を含め力 F− で子供を押す)。
運動方程式は次のように書かれる。
m
M
MF
mF
a
amaFmMaFM
M
mmM −=
−=→=−=
/
/:,: 。
よって、時刻 t 後の速さの比は、m
M
ta
ta
V
v
M
m == 。
この関係式を、運動量保存を使って解くと次のようになる。最初は、大人・子ども共に静止している
とする。子供と大人が互いに押し合う力以外の力は、2人に働かない。よって、押し合った後の大人 M 、
子どもm の速度を vV , とすると、水平方向には、2人の運動量の和が保存されるので、
m
M
m
M
V
vMmMVmv =
−=→=⋅+⋅=+ 000 。
例題 3 氷とスケート靴との間に摩擦がある事を除いて、後は例題 2と同じ問題設定。大人と子供の速
度の比を求めよ。ただし、静止摩擦係数、動摩擦係数を大人と子供共通で、それぞれ ',µµ とする。
解説と解答
この例題では、運動量保存の式を用いる事ができない。理由は、以下の説明と例題 2の説明を較べて
もわかる。2つの物体の間で働く力(作用・反作用の力)以外の力が働いているのが原因である。
さて、大人は右方向(+方向)、子どもは左方向(-方向)に動くとする。動摩擦力は、変位する方向
と逆向きに働く。子供と大人の氷との間の静止摩擦係数をµ として、力 F が静止摩擦力よりも大きい場
合( mgMgF µµ ,> )をまず考える。この場合運動方程式は、
mM mamgFmMaMgFM =+−=− ':,': µµ
となる。これより、 0',0' >−>− MgFmgF µµ として、
MgF
mgF
m
M
gMF
gmF
a
a
M
m
'
'
'/
'/
µµ
µµ
−−
⋅=−+−
=
をえる。押し合う力の大きさによって、生じる加速度の大きさが異なる事がわかる。速度は atv = で与
えられるので、速さの比も押し合う力の大きさにより異なる事がわかる。
もし MgF µ> (子供と大人 Mm, が共に動く事が出来る条件。)、かつ 0'' >−>>− MgFmgF µµ で
あれば、加速度の比は、質量の比以上に大きくなり、大人(物体 M )がほとんど動かず、子ども(物
-F F
m M
59
体m )のみが動いているように見える。
一方、 MgF µ< の場合、物体 M はまったく動かない(最大静止摩擦力よりも大きな力が加わらない
と、物体は動かない。)。しかし、物体m に加わる力の大きさ mgF µ> (物体m の最大静止摩擦力)を満
足すれば、物体m は動く。すなわち、力 F が MgFmg µµ << を満足すれば、物体 M は動かず、物体m
のみが動く状況になる。この状況では、本当に子ども(物体m )のみが動く。
例題 4 滑らかに動く台の上での、人の移動
図のように、滑らかな水平面上に、質量 M の台車があり、台車の左の側に質量m の人が乗っている。
台車の車は抵抗無く、床の上をスムーズに動く。
(1)人が台車の上を、台車に対して一様な速さu で右方向へ移動する時、
水平面に対する人、および台車の速さを求めよ。ただし、水平面に
対して人も台車も静止していた状態から、人が台車に対して一様な
速さu で右方向へ移動するようになったとして、その直後の運動に
ついて考察せよ。
(2) (1)の条件で、人が台車に対して右方向に距離a だけ移動した。水平面から見れば、人および台車は
どちら方向にどれだけ距離移動しているか?
解説と解答
(1) 水平面に対しての速度を人、台車それぞれ Vv, とする(右向きを正にとる)。人が台車を左方向に押
せば(作用)、その反作用として台車が人を右方向に押し返す。これにより、最初静止していた台車に
力が加わり、台車が動き出す。人と台車には、外部から力が働かない。せいぜい、人と台車が互いに力
を及ぼすだけと考えられる。この場合、人と台車全体で見ると、運動量が保存される。また、台車に対
して一様な速さu で右方向へ移動するので、相対速度u と速度 Vv, には、 Vvu −= の関係がある。
最初、人が静止している時からスタートして、瞬時に一定の速度u になったとする。すると、スター
ト直前の運動量の総和がゼロであり、外部からは力が働かないため人と台車の運動量の和が保存される。
((1)の設問の後半部分文章「ただし、・・・考察せよ。」は、運動量の総和がゼロになる事を示す文章で
ある。なお、後半部分の文章は、次のような表現でもかまわない。「最初人と台車が静止していたとす
る。人の台車に対する移動速度が瞬時にu になり、その間の人および台車の移動距離は無視できるとす
る。」)よって、以下のように Vv, が求まる。
uMm
MVuvu
Mm
mVVMmmuMVVumMVmv
+=+=
+−=→+−=→=++→=+ ,)(0)(0
一方、運動方程式から考えると次のようになる。人が台車上で静止していた時から一定の速さu にな
って移動するまでの時間 t で、人と台車との作用・反作用による力の大きさを 0≠F (人に加わる力を F
とする)とする。人および台車の速度 Vv, の間の関係式として、等加速度直線運動での速度と加速度の
関係式を用いる事で、
m
M
ta
ta
V
v
m
M
a
aMaFmaF
M
m
M
mMm −
++
=→−=→=−=0
0,
を得る。この関係式は、人および台車の初速度=ゼロの条件を入れて導いた。この結果と Vvu −= の
関係から、 Vv, が求まる。以下省略。
m
M
60
(2) 台車に対する相対的な速さが u で、台車上での移動距離が a なので、移動にかかる時間 0t は、
uat /0 = である。よって、台車および人の移動距離はそれぞれ
Mm
Ma
u
au
Mm
Mvt
Mm
ma
u
au
Mm
mVt
+=⋅
+=
+−=⋅
+−= 00 ,
となる。台車は左方向(右向きを+にとったので、-符号は左方向になる)、人は右方向に移動する。
例題 4の類題:時間時依存する速度 )(tu での移動(微積分の考えを多少必要とする)
図のように質量 M の台車が滑らかな水平面上にがあり、台車の左の側に質量m の人が乗っている。
人は右向きに、台車に対して速度 )(tu で右方向へ移動( 0)( >tu は右方向への移動)する。台車の車は
抵抗無く、床の上をスムーズに動くとしよう。その時、以下の問いに答えよ。
(1)人が台車の上を、台車に対して速度 )(tu で右方向へ移動する時、水
平面に対する人、および台車の速さを求めよ。ただし、人は台車の上
で静止し、台車も水平面に対して静止していたとする。
(2)人が台車に対して右方向に距離a だけ移動した。水平面で見れば、
人、および台車はどちら方向にどれだけの距離移動した事になるか?
解説と解答
(1) 水平面に対しての速度を人、台車それぞれ )(),( tVtv とする(右向きを正にとる)。人が台車を左
方向に押し(作用)、その反作用として台車が人を右方向に押す。台車に対して速度 )(tu で右方向へ移
動するので、相対速度 )()()( tVtvtu −= である。最初は人と台車が静止していたので、運動量保存から、
)(),( tVtv は、以下のようになる。
)()()()(),()(
)()()(0)())()((0)()(
tuMm
MtVtutvtu
Mm
mtV
tVMmtmutMVtVtumtMVtmv
+=+=
+−=→
+−=→=++→=+
上の結果は、運動方程式から導くことが出来る。作用・反作用の力の大きさを )(tF (人に加わる力を
)(tF )すれば、運動方程式から、
0)}()({)()(
0)(
)(,)(
)( =+→+=→=−= tMVtmvdt
d
dt
tdVM
dt
tdvm
dt
tdVMtF
dt
tdvmtF
を得る。最初、人と台車は静止しているので、 0)0()0( == Vv である。よって、任意の時間で、台車と
人とを合わせた全体での運動量が保存(運動量の和は、時間によらず一定)され、その和はゼロになる。
すなわち、
0)0()0()()( =+=+ MVmvtMVtmv 。
これと、相対速度 )()()( tVtvtu −= より、 )(),( tVtv は、以下のように求まる。
)()()()(),()( tuMm
MtVtutvtu
Mm
mtV
+=+=
+−= 。
(2) 台車上での人の移動距離がa なので、移動にかかる時間を 0t とすれば、
∫=0
0)(
t
dttua
である。よって、台車および人の移動距離をそれぞれ Mm LL , とすれば、
m
u(t)
M
61
aMm
mdttu
Mm
mdttVLa
Mm
Mdttu
Mm
MdttvL
tt
M
tt
m +−=
+−==
+=
+== ∫∫∫∫
0000
0000)()(,)()(
となる。台車は左方向、人は右方向に移動する。人の移動速度u が時間的に一定でなくても、得られる
結果は例題 4と同じである。
例題 5 2つの物体の衝突と落下
床から高さh の水平で滑らかな台の端に、質量m の大きさの無視
できる物体 Aを置き、質量 M の物体 Bを滑らせて物体 Aに衝突さ
せると、A、Bは一体となって、距離 L 離れた床の上に落ちた。
(1) A、Bが一体となった直後の速度はいくらか?
(2) Bの初速度(Aと衝突する前の速度)はいくらか?
(3) )m(60.0),m(90.0),kg(10.0),kg(20.0 ==== LhMm の時、
(1)(2)の値を求めよ。
解説と解答
(1) A と B との衝突は、水平方向での衝突なので、一体化した直後は、水平方向の速度しか持ってい
ない。その速度の大きさをu としよう。物体の落下では、垂直方向の速度=ゼロなので、物体が床に落
ちるのに掛かる時間を t とすれば、速度u は、以下のように求まる。
h
gL
t
Lu
g
ht
Lut
hgt
2
22
1 2
==→=→
=
=
(2) Aと Bとの衝突前後で、運動量は保存される。衝突前の Bの速度をvとすれば、
h
gL
M
Mmu
M
MmvuMmMv
2)(
+=
+=→+=
となる。
(3) 具体的に数値を代入しよう。
)m/s(2.440.110.0
20.010.0
)m/s(40.13
760.0
32
7260.0
90.02
80.960.0
2 2
2
=×+
=+
=
=×=××
×=×
×==
uM
Mmv
h
gLu
L
h
62
例題 6 ボールの、壁 および床との衝突
図に示すように、水平な床のある点 Aから、距離
l 離れた鉛直な壁に向かって、ある速さで大きさの
無視できるボールを投げた。その時のボールの水平
面に対する角度は )2/0(, πθθ << であった。ボール
は壁のある点 Bに垂直に衝突し、その後壁からはね
返って、床の上のある点 Cに落ちた。ボールは点 C
ではねた後、再び床の上の点 Dに落ちた。
ボールと壁および床とのはね返り係数を等しくe
( 10 << e )とし、重力加速度を g として、次の問
いに答えよ。ただし、ボールが壁や床に衝突する時、その壁や床の面に平行な速度成分は、衝突前後で
変化しないとする。
(1) ボールを床から投げたときの速さを、 gl ,,θ を用いて表わせ。
(2) 点 Bの床からの高さを、 θ,l を用いて表わせ。
(3) 点 Bと点 Cとの水平方向の距離を、 el, を用いて表わせ。
(4) 距離 CDを、 el ,,θ を用いて表わせ。
(5) 点 Aと点 Dが一致するとき、はね返り係数eの値を求めよ。
解説と解答
ボールが壁に垂直に衝突するのなら、壁に対して平行な方向のボールの速度成分はゼロである。
(1) ボールが壁に対して垂直に衝突したと言う事は、壁と水平な方向(この問題では、床に対して鉛直
方向)の速度成分がゼロということである。ボールの初速度の大きさを 0v とし、ボールを投げて時間 BAt −
でボールが壁に衝突したとしよう。そうすると、時間 BAt − にボールが点 Bに到着し、その時ボールの鉛
直方向の速度成分がゼロである。よって、点 Bの床からの高さを Bh として、以下の式が成り立つ。
)2sin(
2
cossincossin
sin
cos
2
1sin
0sin
cos
0
2
00
0
2
0
0
0
θθθθθ
θθ
θ
θ
θglgl
vglvg
v
v
lt
hgttv
gtv
ltv
BA
BBABA
BA
BA
==→=→==→
=−
=−
=⋅
−
−−
−
−
また、水平方向では、質点の運動は等速運動である事から、
g
l
g
gl
g
v
v
lt BA
θθθθ
θθ
tansin
cossin
sin
cos
0
0
====−
である。
(2) 点 Bの床からの高さは、以下のようになる。
θθ
θ tan2
1tan
2
1
2
1
2
1
2
1sin 222
0 lg
lggtgttgtgttvh BABABABABABAB =⋅==−⋅=−= −−−−−−
(3) 点 Bとの衝突直後は、ボールの鉛直方向の速度はゼロである。また、衝突により、ボールの水平方
向の速度は θθ coscos 00 evve =× となる。この後のボールの運動は、鉛直方向の速度=ゼロである事か
ら、鉛直方向には自由落下の問題と同じになる。ボールが点 B と衝突後点 C に達するまでにかかる時
θ
l
C D A
B
63
間を CBt − とすれば、点 Bと点 Cとの水平方向の距離を CBl − として、以下の式が成り立つ。
elg
l
glelt
t
letevl
g
l
g
l
g
ht
gth
ltev
CB
BA
CBCB
BCB
CBB
CBCB
==⋅=⋅=→
===→
=−
=⋅
−−
−−
−−
−−
θθ
θ
θθθ
tan
/tan
1cos
tantan
2
12
2
02
1
cos
0
2
0
CBl − を求めるため、ここでは正直な計算を行ったが、次のように考える事もできる。鉛直方向の重力
がかかる運動では、ある点から鉛直方向にボールを投げ上げた時、ボールが最高点(速度=ゼロ)に届
くまでの時間と、最高点から元に戻るまでの時間は等しい。よって CBBA tt −− = と考えてよい。これは、
「ボールが点 Bに衝突する時、鉛直方向の速度成分=ゼロ」から導かれる結果である。
水平方向の運動で考えれば、 CBBA tt −− = は、ボールが点 Aから点 Bに移動する時間も、点 Bから点
Cまで移動する時間も同じである事を示す。水平方向の速さは、Aから点 Bに移動する時は θcos0v で
あり、点 Bから点 Cへ移動する時は θcos0ev である。よって BAtvl −⋅= θcos0 、 BACB tevl −− ⋅= θcos0 か
ら、 CBl − は l のe倍、すなわち ell CB =− が求まる。
(4) ボールと床との衝突の前後で、ボールの持つ速度の床と垂直方向の成分は、その大きさがe倍にな
る。ボールの水平方向の速度成分は変わらない。点Cに衝突する直前のボールの鉛直方向の速度成分 +Cv
を求めると、鉛直上方向を(+)にとり、
θθ
θθθ
tantan
sin,tantan
0 glg
lggtvvgl
g
lggtv BACCBC −=−=−=−=−=−=−= −+−+ または
となる。(鉛直方向へのボール投げ上げでは、同じ高さにおけるボールの鉛直方向の速度成分の大きさ
は、同じになる。それが右側の式の意味である。)これから、衝突後のボールの鉛直方向の速度 −Cv は、
θtangle となる。ボールはこの後鉛直方向の速度=ゼロになるまで、上方向に向かって運動(移動)
する。その後再び落下し、水平方向の速度成分がゼロでないため、点 Dに落下する。
点 Cで跳ねて点 Dに落下するまでの時間を DCt − とする。鉛直方向・上向きの速度が θtangle 、水
平方向の速度が θcos0ev であるから、点 Cと点 Dとの水平距離を DCl − として、以下の式が成り立つ。
le
g
gle
g
ve
g
evevtevl
g
evttgtevgttev
gttev
ltev
DCDC
DCDCDCDCDC
DCDC
DCDC
2
22
02000
00
2
0
2
0
0
2
cossin
cossin2
cossin2
sin2coscos
sin20
2
1sin0
2
1sin
02
1sin
cos
=
==⋅=⋅=
=→=
−→=−⋅
=−⋅
=⋅
−−
−−−−−
−−
−−
θθθθ
θθθθθ
θθθ
θ
θ
(5) 点 Aと点 Dが一致する時、次の式が成り立つ。よって 10 << e から、はね返り係数 5.0=e である。
0,5.02/10)1)(12(0122 22 >==→=+−→=−+→+= eeeeeeleell 。
注意:この問題は小問(1)~(5)に分かれているが、いきなり「点 A と点 D が一致するとき、はね返り
係数 eの値を求めよ。」のような出題の場合、上のようにボールの運動を順番に考えていけばよい。なお、
この問題では、微積分を積極的に用いる必然性はない。
64
例題 7 なめらかに動く台に乗る物体
図のように、なめらかな(摩擦のない)水平面 ABお
よび CDが、鉛直面 BCを介してつながっており、その
面 BCに接するように質量 M の物体Qが置かれている。
水平面ABおよびCDはなめらか(摩擦のない)である。
いま、大きさの無視できる質量m の物体 P が図の左
から速さ 0v で近づき、点 Bで物体 Qに移り、最後に物
体 Pと Qは一体となって運動する。物体 Pと Qとの間
の動摩擦係数を '1µ とし、重力加速度を g とする。以下
の問題に答えよ。
(1) 物体 Pと物体 Qが一体化した瞬間の速度、および一体化するまでの時間を求めよ。
(2) 一体化するまでに、物体 Pおよび物体 Qが点 Bから移動した水平距離を求めよ。
解説と解答
(1) 物体 Pおよび Qの 2つの物体の間に生じる 2つの動摩擦力は、作用・反作用の関係になっている。
よって、大きさが等しく互いに反対向きである。この 2つの摩擦力は、2つの物体から見ると内力であ
るので、2つの物体の運動量は保存される。そこで 2つの物体が一体となった後の速度を vとすると、
00 )( vMm
mvvMmmv
+=→+=
となる。
物体 P には、物体 Q との間に動摩擦力が働き、その大きさは、 mgf '11 µ= で運動方向と逆向きであ
る。(物体 Pに働く力は、 1N :物体 Pに働く、垂直抗力、 1f :物体 Pと物体 Qとの間の動摩擦力、mg :
物体 Pに働く重力である。)運動方程式を立てると、
gamamgf xx 1,1,111 ' µµ −=→=−=− 。
2つの物体が一体化するまでの時間を 0t とすると、次のようにして求まる。
g
v
Mm
M
g
vvMm
m
a
vvttavv
x
x'' 1
0
1
00
,1
000,10 µµ
⋅+
=−
−+=
−=→+=
(2) (1)の結果を用いると、物体Qと一体化するまでに物体Pが移動した距離 PL は、次のように求まる。
g
v
Mm
MmM
vMm
Mm
g
v
Mm
M
g
v
Mm
Mgv
g
v
Mm
MtavttatvL xxP
')(2
)2(
)(2
2
''2
'
'2
1
2
1
1
2
0
2
0
1
0
1
010
1
00,100
2
0,100
µ
µµµ
µ
⋅+
+=
++
⋅⋅+
=
⋅
+−⋅
+=
+=+=
物体 Qの移動距離 QL を求めるため、物体 Qの加速度を、まず求める。
gM
m
g
v
Mm
M
vMm
m
t
vavta xx '
'
0 1
1
0
0
0
,20,2 µ
µ
=⋅
+
+==→=+
よって物体 Qの距離 QL は、以下のとおり:
A B
C D
P
Q
P
mg
f1
N1
65
g
v
Mm
mM
g
v
Mm
Mg
M
mtaL xQ
')(2
1
''
2
1
2
1
1
2
0
2
2
1
01
2
0,2 µµµ ⋅
+=
+⋅== 。
補足:(1)では、きちんと運動方程式を書くと、“作用・反作用と同等の関係”の意味が理解しやすい。
2つの物体および水平面 CDに働く力を全て書くと、右図のようになる。記号の意味は、以下のとお
り。(この問題での力のベクトル表示は以前行った。)
mg :物体 Pに働く、重力、 Mg :物体 Qに働く、重力
1F :物体 Pが物体 Qを押す力、 2F :物体 Qが水平面 CDを押す力
1N :物体 Pに働く、垂直抗力、 2N :物体 Qに働く、垂直抗力
1f :物体 Pと物体 Qとの間の動摩擦力
物体 P、Q の水平方向の加速度をそれぞれ yx aa ,2,2 , とすると、物体 P
および Q の運動方程式は、次のようになる。動摩擦力の大きさ 1f は、
mgf '11 µ= で与えられる。
xx
x
xMamaff
Maf
maf,2,111
,21
,11)(0 +=+−=→
=
=−
2つの物体に加わる力のベクトルとしての足し算=ゼロになることが重要である。この時、物体 Pおよ
び物体 Qの水平方向の座標をそれぞれ )(),( tXtx とすれば、運動方程式の和は次のように式変形される。
一定
=+→
=
+→
+=+=
dt
tdXM
dt
tdxm
dt
tdXM
dt
tdxm
dt
d
dt
tXdM
dt
txdmMama xx
)()(
0)()(
)()(0
2
2
2
2
,2,1
すなわち、運動量保存の式が導かれた。
例題 8 3つの物体の間で、作用・反作用の力を及ぼす
質量がそれぞれ CBA mmm ,, の物体 A、B、Cがあり、一直
線上で、図のように互いに力を及ぼしあっている。3つの物体
と水平面との摩擦はない。その時、運動量は保存されるか?
解説・説明
図のように、作用・反作用の力をきめる。すると、それぞれの物体の運動方程式は次のようになる。
dt
tdvmtFm
dt
tdvmtFtFm
dt
tdvmtFm C
CBCCB
BBCABBA
AABA
)()(:,
)()()(:,
)()(: ==−=−
3つの式を積分し、運動量、力積を出す。その際、作用・反作用の力のみが働いている事に着目する。
dt
tdvmtFm
dt
tdvmtFtFm
dt
tdvmtFm C
CBCCB
BBCABBA
AABA
)()(:,
)()()(:,
)()(: ==−=−
において、3つの運動方程式全部を足せば、見通しよく運動量保存の式を導く事ができる。
A B C
-FAB FAB -FBC FBC
P
Q
mg
f1
Mg
N2
F2
N1
F1
f1
P
mg
f1
N1
Q
Mg N2
F1
f1
66
( ) 0)()()(
)()()()()}()({)(
=++→
++=+−+−
tvmtvmtvmdt
d
dt
tdvm
dt
tdvm
dt
tdvmtFtFtFtF
CCBBAA
CC
BB
AABCBCABAB
積分すると、
( )
)0()()0()()0()(
')'()'()'('
00
CCCCBBBBAAAA
t
CCBBAA
vmtvmvmtvmvmtvm
dttvmtvmtvmdt
d
−+−+−=
++= ∫
よって、運動量保存の式:
)()()()0()0()0( tvmtvmtvmvmvmvm CCBBAACCBBAA ++=++
を得る。作用・反作用の力のみが物体(の集合体)に加わっている時は、物体の数に関係なく、運動量
保存が成り立っている。逆に言えば、作用・反作用の力だけが働いている事が、運動量を保存するため
に重要である。
なお、次の式:
( ) 0)()()( =++ tvmtvmtvmdt
dCCBBAA
は、時間によらず運動量は一定である事を示している。つまり互いに力を及ぼしあっているまさにその
最中でも、運動量が保存される。運動量保存は、物体どうしが互いに力を及ぼしあう(作用・反作用の力
を互いに与える)最初と最後の時刻だけでなく、その途中の時刻でも成り立つ。
67
力学的エネルギー力学的エネルギー力学的エネルギー力学的エネルギー
質量m の物体の、初速度ゼロでの自由落下を考える。水平面から h の高さから、物体を、初速度ゼロ
で離す。その時の運動方程式は、上向きを正(+)にとれば、
gamamg −=→=−
となる。この運動は等加速度運動なので、物体を離して時刻 t だけたった時の速度を )(tv とすれば、
gttgtv −=⋅−+= )(0)(
時間 t で、水平面に到達するとすれば、
g
hthgt
2
2
1 2 =→=
となる。よって、水平面に到達した時の物体の速度は、
ghg
hggttv 2
2)()( −=−=−= 。
この結果を次のように変形しよう。
mghtvm
ghtv =→= 22)(
22)(
ここで、物体に加わる力の大きさ(重力による力の大きさ)はmg であり、物体の力の向きに沿った移
動距離は h である事に注意しよう。ここで出た 2つの量
mghtvm
,)(2
2
はそれぞれ物体m の、運動エネルギー、位置エネルギーと呼ばれる。これらエネルギーは、まとめて力
学的エネルギーと呼ばれる。なぜ上のような量が出るのか、次の計算で理解しよう。
確認事項:ある時刻 t における速度、加速度の定義は、
t
tvttvta
t
txttxtv
tt ∆∆
∆∆
∆∆
)()(lim)(,
)()(lim)(
00
rrr
rrr −+
=−+
=→→
である。運動方程式の積分を考えると、力学的エネルギーなどの式が出てくる。
i) 力学的エネルギー保存の、高校の範囲での、天下り的な導出
直線上での運動、かつ等加速度運動を仮定する。時刻 t での速度 vを、 atvv += 0 とする。
2
0
200
000
0
2
0
0
222
)(
2/)(2
)()2/(2/
vm
vmvvt
t
vvmxmaFx
vvtatvv
tatvtattvx
t
vvmmaF
−=+
⋅−
=⋅=→
+=++
⋅=+=+=
−==
すなわち、
Fxvm
vm
+= 2
0
2
22
を得る。これは、物理量 2/20mv (物体の運動エネルギーという)が、外から加えられた力 F (移動方
68
向と同じ力の向きなら、 0>F とし、逆方向なら 0<F である。)に移動量 x を掛けた値: Fx (この量
を、物理では仕事という。)だけ増加し、 2/2mv になる事を示す。もし F が負の値をとる(例えば、動
摩擦力)なら、物体の運動エネルギーが減少する事を示す。
この式・概念は、持つ物体が、外部から仕事をされた時に持つ速度を求める際などに、使う。
物理における仕事の定義:物体の移動距離と移動方向の力の大きさ(同じ向きなら+、逆向きなら-
とする)をかけたもので与えられる。よって、移動方向と力の方向が直交(90度の角度をなす)してい
れば、仕事はゼロである。
例 1 自由落下
0h の高さで、速度 0v で自由落下する質量m の物体の、重力下での運動を考えよう。
高さ h での時の速度を v とすれば、重力による力mg の向きと物体の移動方向は同
じで移動距離 hh −0 なので、
)(2222
0
2
0
22
0
2 hhmgvm
vm
Fxvm
vm
−+=→+=
これから、
一定=+=+ 0
2
0
2
22mghv
mmghv
m
を得る。よって、物体の高さが低くなればなるほど、物体の速度は大きくなる。 0,mghmgh を、物体の
持つ位置エネルギーという。この運動では、運動エネルギーと位置エネルギーを合せた、力学的エネル
ギーが保存する(一定の値をとる)。この関係を用いる事で、運動方程式を解かなくても、物体の速度
を求める事ができる。物体の速度、重力に関連した高さ、ばねの伸びに関連したそれぞれの量は、力学
的エネルギーとして保存される(一定の値を取る)。なお、ばねの伸びに関連した力学的エネルギー(ば
ねの持つ弾性エネルギー)については、後ほど説明する。
なお、ここでは簡単のため、1 次元の運動を考えたが、3 次元の運動でも、この関係は成り立つ。重
力による力と垂直な向き(地面と平行方向)の運動では、力は加わらない(空気抵抗を無視する)ので、
地面と平行な方向の、重力による仕事はゼロである。位置エネルギーは上下方向の位置関係に注目する
のでよい。つまり、速度を ),,( zyx vvvv =r
というように成分に分けて書いて、水平方向の運動が加わっ
ても、
( ) ( ) 一定=+++=+++ 0
2
0
2
0
2
0
222
22mghvvv
mmghvvv
mzyxzyx
または、
一定=+=+ 0
2
0
2
22mghv
mmghv
m
となる。ここで、初速度 ),,( 0000 zyx vvvv =r
である。
例 2 水平面での摩擦のある運動
右図のように、質量m の物体が右方向にある速度で移動し、物体に動摩擦力 'f
が加わる場合を考える。動摩擦力の大きさは mgf '' µ= であるが、常に移動する
質量mの物体
f’
h h0
69
方向と逆方向に働く。そこで移動方向を+にとると、距離 x だけ移動した時、動摩擦力が物体にする仕
事は、 mgxxf ')'( µ−=⋅− となる。
物体の初速度を 0v とし、物体の位置が 0x から x 、ただし 0xx > に変わった時の物体の速度 v を求め
る。時間 t かかって距離 )0(0 >− xx だけ移動するとすれば、右方向を+にとり、運動方程式: mamg =− 'µ
から、加速度は ga 'µ−= となる。よって、
2/)'(
)'(
2
00
0
tgtvxx
tgvv
µ
µ
−++=
−+=
が成り立つ。これから、位置 x に移動する時間 t を求めると
g
xxvvt
g
xxgvvt
tg
xxgvv
g
xx
g
v
g
vt
g
xx
g
v
g
vt
g
xxt
g
vtxxtvtgtgtvxx
'
)('2,
'
)('2
'
)('2
'
)(2
'''
)(2
''
0'
)(2
'
20)(22)'(2/)'(
0
2
000
2
00
0
2
000
2
000
2
0
2
0
002
00
22
00
µµ
µµ
µµ
µµµµµµ
µµµµ
−−−=
−−+=
≡−−±
=−
−
±=→
−−
=
−
=−
+−→=−+−→−+=−
−+
±
となる。速度を求めると、
)('2)'(,)('2)'( 0
2
000
2
00 xxgvtgvvxxvtgvv −−+=−+=−−−=−+= −−++ µµµµ
となる。ところが、 +v は常に力が左方向に働くとした場合の速度(物体の運動は減速運動であり、最終
的には速度はゼロになるべきだが、 +v は左方向の速度成分を持つ)であり、この場合は不適当。よって、
)('2 0
2
0 xxgvv −−=− µ
が求める速度(右辺の符号+は、右向きの速度成分を意味する)である。
この問題を、仕事とエネルギーの関係から求めよう。動摩擦力によってなされる仕事は、動摩擦力の
向きが運動方向と逆向きなので、仕事は
)(' 0xxmg −− µ
である。(-)符号は、物体の運動と逆方向に摩擦力が働くために付いた。この仕事の分だけ、運動エ
ネルギーに変化(減少)が起こる。これから速度が求まる。
)('2)('2)}('{22
0
2
00
2
0
2
0
2
0
2 xxgvvxxgvvxxmgvm
vm
−−=→−−=→−−+= µµµ 。
ここで速度 )('2 0
2
0 xxgv −−− µ は不適当なので、捨てた。-符号は、摩擦による力が、物体の運動
方向に関係なく常に左向きという仮定(こんな事はありえない。物体が左方向に移動している状態では、
摩擦力は右向きに働く)で得られた値である。重力の場合は、質量m の物体に対して常に上から下方向
へ、力mg が働く。これと同様に、摩擦力が常に右から左へ mg'µ の大きさが働くと仮定(この仮定は
正しくない)した場合の値である。しかし、摩擦の無い斜面での物体の運動では、このような事は起こ
る。重力による紙面に沿った力の大きさ θsinmg が、常に斜面を下がる向きに物体に加わる。
70
さて、例 2の摩擦力の問題において、
0
2
0
2
0
2
0
2 '2
'2
)}('{22
mgxvm
mgxvm
xxmgvm
vm
µµµ +=+→−−+=
となり、位置エネルギーに相当するものとして mgx'µ を考
えれば、一見して例 1の重力下での物体の運動と同様に見え
る。すなわち、動摩擦力の場合でも、力学的エネルギー保存
の関係式に類似の関係式が成り立ち、物体の速度が求まるよ
うに見える。それをさらに一般化すると、次の関係式(位置
のみに関する関数として摩擦力による仕事を扱ってもよ
い?)が成り立つように思われる。
00
2
0
2 '2
'2
mgxmghvm
mgxmghvm
µµ ++=++
ここで、 0,hh は物体のある基準面からの高さであり、 0, xx は物体と水平面・斜面などが接する場所の
位置座標である。動摩擦力が働くような場合でも、力学的エネルギー保存の法則(のようなもの)が成
り立つのか、以下の計算で確認しよう。ここでは、斜面上の質点の運動を例に取り、斜面と質点との摩
擦がない場合とある場合で考える。
混乱を避けるため、結果を先に述べると、質点に働く力が質点の在る場所(位置)のみで決まる場合、
力学的エネルギーは保存される。一方、質点に働く力が質点の位置だけでは決まらない場合、力学的エ
ネルギーは保存されない。本当にそうなっているか、確認しよう。
斜面上での物体の運動
ある角度θ の(動かない)斜面での質量m の物体の運動を考えよう。2つの斜面があり、その違いは、
摩擦の有無である。斜面に沿って上向きに、初速度 0v で斜面の一番下から物体が運動するとしよう。
まず、摩擦がない斜面での運動を考える。斜面に沿って物体に働く力は重力による θsinmg である。
運動方程式は、上向きを+にとると、
θθ sinsin gamamg −=→=−
となる。斜面の一番下から計って、時間 t かかって斜面の最下点から距離 L 移動するときの物体の速度v
を求める。
tvtgL
tgvv
0
2
0
)sin(2
1
)sin(
+−=
−+=
θ
θ
まず、斜面の最下点から距離 L 離れた場所に移動する時間を求める。
θθ
θθθ
θθθθ
sin
sin2
sin
2
sinsin
0sin
2
sin
2022sin)sin(
2
1
2
00
2
0
2
0
02
0
2
0
2
g
gLvvt
g
L
g
v
g
vt
g
Lt
g
vtLtvtgtvtgL
−±=⇒−
=
−
=+−→=+−→+−=
よって速度 vは、
θθ
θθθ sin2
sin
sin2)sin()sin( 2
0
2
00
00 gLvg
gLvvgvtgvv −±=
−±⋅−+=−+=
θ
θ
mgsinθ
N (= mgcosθ)
mgcosθ
mg
71
これより、
02
sin2
sin22
2
0
22
0
2 ⋅+=⋅+→−= mgvm
Lmgvm
mgLvm
vm
θθ
となる。ここで θsinL は、物体が斜面を距離 L 上った所の高さである。ところで、
θsin22
0 gLvv −±=
は、物体が斜面を上る時、降りる時のそれぞれの速度を表しており、+符号は物体が斜面を上る時、-
符号は物体が斜面を下る時に対応する。さて、 θsinL は物体の高さの変位(斜面の一番下から計った位
置)を表すので、 θsinmgL は位置エネルギーを表す。すなわち力学的エネルギーは保存されている。
なお、物体が斜面をあがりきった後で下がる場合も、計算により、物体は同じ位置では同じ速さになる。
ここで注意すべき事は、物体が斜面を上る・降りるに関係なく、重力による力は、常に下向きである
事である。
次に、摩擦がある斜面での運動考える。
まず、物体が斜面を上り、斜面の最下点から見て距離 L の
地点に移動する場合を考える。運動方程式は、上向きを+に
とると、動摩擦力 θµµ cos''' mgNf == なので、
)cos'(sincos'sin θµθθµθ +−=→=−− gamamgmg
斜面の一番下から計って、時間 t かかって斜面の最下点から
距離 L 移動するときの物体の速度 vを求める。
0)cos'(sin
2
)cos'(sin
2
022)cos'(sin)}cos'(sin{2
1
)}cos'(sin{2
1
)}cos'(sin{
02
0
22
0
2
0
0
=+
++
−
=+−+→+−+=
+−+=
+−+=
θµθθµθ
θµθθµθ
θµθ
θµθ
g
Lt
g
vt
LtvtgtgtvL
tgtvL
tgvv
)cos'(sin
)cos'(sin2
)cos'(sin
2
)cos'(sin)cos'(sin
2
00
2
0
2
0
θµθθµθ
θµθθµθθµθ +
+−±=→
+−
+=
+−
g
gLvvt
g
L
g
v
g
vt
ここで、物体が斜面を上に上る事から、 0>v になるので、その解を求めると
)cos'(sin2)cos'(sin
)cos'(sin2)}cos'(sin{ 2
0
2
00
0 θµθθµθ
θµθθµθ +−±=
+
+−±⋅+−+= gLv
g
gLvvgvv
から、 vとして、以下の答えをえる。
)cos'(sin22
0 θµθ +−= gLvv 。
この時、
2
0
22
0
2 cos'2sin2)cos'(sin2 vgLgLvgLvv =++→+−= θµθθµθ
両辺に 2/m を掛けると、
2
0
2
2cos'sin
2v
mLmgmgLv
m=⋅++ θµθ
θ
θ
mg
mgcosθ
mgsinθ
N = mgcosθ
f’:動摩擦力
物体が上る時
L
72
を得る。ここで左辺の第 1 項は物体の運動エネルギー、第 2 項は物体の高さ θsinL による位置エネル
ギー、そして第 3項は摩擦力による仕事である。また、
Lmgvm
mgLvm
vm
LmgmgLvm
⋅−=+→=⋅++ θµθθµθ cos'2
sin22
cos'sin2
2
0
22
0
2
と変形すれば分かるように、物体の力学的エネルギー(運動エネルギー+位置エネルギー)は一定では
なく、動摩擦による仕事の分( Lmg ⋅− θµ cos' )だけ減少する。
続いて、斜面を登った物体が斜面を降りる際に、斜面の最下
点から見て距離 L の地点に移動する場合を考える。斜面に沿っ
た方向で物体に働く力は、図のようになる。
まず物体が斜面で停止する時刻 't および距離 S を求める。こ
れは、物体が斜面を上る時の運動方程式から求まる。
)cos'(sin2
1
)cos'(sin)}cos'(sin
2
1
)cos'(sin
')}cos'(sin{2
1'
')}cos'(sin{0
2
0
22
2
000
2
0
0
θµθ
θµθθµθ
θµθ
θµθ
θµθ
+=
++−
+=
+−+=
+−+=
g
v
g
vg
g
vv
tgtvS
tgv
このようにして得られた LS > とする。物体が速度ゼロになってもそのまま静止する事なく、斜面を降
りるとしよう。すると、静止後の移動距離は、下方向に LS − (変位は SL − )である。運動方程式は、
)cos'(sincos'sin θµθθµθ −−=→=+− gamamgmg
よって、静止後、時間 "t で位置 L に移動するとし、その時の速度を vとすれば、
)cos'(sin
)(2"
)cos'(sin
)(2")(2")cos'(sin")}cos'(sin{
2
1
")}cos'(sin{2
10
")}cos'(sin{0
222
2
θµθ
θµθθµθθµθ
θµθ
θµθ
−−
±=→
−−
=→−=−→−−=−
−−+=−
−−+=
g
LSt
g
LStLStgtgSL
tgSL
tgv
ここで 0">t (-の符号は、加速度が同じで、斜面上方向に移動する場合の答え:ここでは不適当)な
ので、
)cos'(sin
)(2"
θµθ −−
=g
LSt
となる。その時の速度の 2乗2v は
)(2)cos'(sin")}cos'(sin{ 222 LSgtgv −⋅−=−−= θµθθµθ
である。
さて、物体の力学的エネルギーを求めると、「基準となる斜面の最下点」からの高さは θsinL なので、
θ
θ
mg
mgcosθ mgsinθ
N = mgcosθ f’:動摩擦力
物体が下がる時
L
73
θµθµθθµθ
θθµθθµθ
θµθ
θθµθ
θµθ
θθµθθ
cos')cos'(sin
)cos'(sin
2
sin)cos'(sin)cos'(sin
)cos'(sin2
sin2)cos'(sin
)cos'(sin2
sin)(2)cos'(sin2
sin2
2
0
2
0
2
0
2
mgLvm
mgLmgLg
vg
m
mgLLg
vg
m
mgLLSgm
Lmgvm
+⋅+−
⋅=
+−−+
⋅−⋅=
+
−
+−⋅=
+−⋅−⋅=⋅+
となる。この値は、物体が斜面を上る際の、高さ θsinL での力学的エネルギーにも一致しない。この結
果は、動摩擦力が働く時は、力学的エネルギーは保存されない事を示す。よって、位置の関数として力
学的エネルギーを表す事もできない。
さて、物体が斜面を下っている場合を考える。位置のみに関係する次の“エネルギー保存式”:
00
2
0
2 '2
'2
mgxmghvm
mgxmghvm
µµ ++=++
が仮に正しいと考え、位置のみの関数と仮定して値を代入する。斜面での長さ L のとき、 θsinLh → 、
摩擦力として θµµ cos'' mgmg → 、そして Lx → が対応する値なので、計算すると、
θµθµθθµθ
θµθθµθθµθ
θµθ
θµθθµθ
θµθ
θµθθµθµ
cos'2)cos'(sin
)cos'(sin
2
cos'sin)cos'(sin)cos'(sin
)cos'(sin2
cos'sin2)cos'(sin
)cos'(sin2
cos'sin)(2)cos'(sin2
'2
2
0
2
0
2
0
2
mgLvm
mgLmgLmgLg
vg
m
mgLmgLLg
vg
m
LmgLmgLSgm
mgxmghvm
+⋅+−
⋅=
++−−+
⋅−⋅=
++
−
+−⋅=
⋅+⋅+−⋅−⋅⇒++
となり、物体が斜面を距離 L だけ上った時の、「力学的エネルギー+摩擦力による仕事」の量(下の式)
にはならない。
2
0
2
2cos'sin
2v
mLmgmgLv
m=⋅++ θµθ 。
正しくは、距離 )( LSS −+ の移動に対応する摩擦力による仕事を、運動エネルギー、位置エネルギーに
足さなければならない。すると、次の計算のように、「全力学的エネルギー+摩擦による仕事」が、物体
が最初持っていた力学的エネルギー(今の場合は、位置エネルギーゼロの場所を出発点にとっているの
で、運動エネルギーのみの値になる)と等しくなる。
2
0
2
0
2
2
)cos'(sin2)cos'(sin)cos'(sin
}cos'sin)cos'(sin{}cos'2)cos'{(sin
cos)2('sin)()cos'(sin
cos)2('sin)(2)cos'(sin2
'2
vm
g
vmgSmg
LmgSmg
LSmgmgLLSmg
LSmgmgLLSgm
mgxmghvm
=
+⋅+=⋅+=
−+−−+⋅+−=
−++−⋅−=
−++−⋅−⋅⇒++
θµθθµθθµθ
θµθθµθθµθµθθµθθµθ
θµθθµθµ
74
このように、摩擦力が入ると、単に位置の関数としてエネルギー・仕事を扱うことが出来ない。すなわ
ち、動摩擦力が加わると、動摩擦力が行った仕事を正しく取り入れないと、「力学的エネルギー+仕事」
の量は保存されない。
では、上の 2つの例(重力での物体の運動と摩擦のある斜面)は何が異な
り、何が原因で力学的エネルギーの保存の成否が決まるのだろうか?
動摩擦力による力の向きは、物体の運動方向によらず、常に運動方向と逆
向きである。これは、物体が同じ場所に居ても、動摩擦力による力の向きが
常に同じ向きに働く事を保障しない(右図参照。青色は物体の速度ベクトル。
緑色は、動摩擦力)。
一方重力の場合、物体の運動の状態によらず、同じ位置では常に同じ向き
で同じ大きさの力が働く(重力の場合は、どの場所でも、向きと大きさが同じである力が働く。)。この
違いが、力学的エネルギーが保存されるかどうかを決める。一般には、物体に働く力が物体の位置のみ
で決まれば、力学的エネルギーが保存される。この事は、微積分を用いた計算を行えば、明瞭に分かる。
上で計算した摩擦のある斜面での運動の例のように、物体が持つ「運動エネルギー+位置エネルギー」
以外に、物体が持つ熱エネルギーや水平面・斜面などの台が持つエネルギーを加えた場合、それら全体
のエネルギーは保存される。物体の「運動エネルギー+位置エネルギー」の和は、他の所にエネルギー
が奪われる(例えば、摩擦による熱発生)と、減少せざるを得ない。
例題 1 物体は元の高さまであがる?
(A) 断面が右図(a)のような滑らかな滑り台(摩擦力によるエネルギ
ーの損失が無いという事)がある。点 A から初速度ゼロで滑り出した
小さな物体は、Aと同じ高さまであがるか?
(B)(b)のような滑らかな滑り台を考える。ここで、点 Aおよび
B の、滑り台のもっとも低い位置からの高さをそれぞれ
)(, hHhH > とし、点 B での滑り台の接線が水平面となす角度
をθ ( 2/0 πθ << )とする。点 Aから初速度ゼロで滑り出した小
さな物体は、A と同じ高さまであがるか?まず、直感的な説明を
せよ。そして、きちんとした計算によって説明せよ。
解説と解答
(A)滑り台の面が物体を押す力(垂直抗力)は、常に物体に対して垂直方向であり、物体の移動方向
とは、垂直である。よって、垂直抗力は、物体に対して仕事をしない。また、摩擦力も無い。よって、
エネルギーの損失を考えなくて良い。
物体が持つ力学的エネルギー(この場合、運動エネルギー+位置エネルギー)が保存される。物体が
一番下にいる時が、運動エネルギーが一番大きい。その後物体は、滑り台に沿って上に上がる。その際、
運動エネルギーが小さくなり、位置エネルギーが次第に大きくなる。さて、物体は滑り台に沿って運動
しているので、物体は斜面上である瞬間だけ止まる(静止する)。力学的エネルギーは保存されている
ので、そのエネルギーがすべて位置エネルギーに変わる。よって物体は点 Aと同じ高さまで上がる。よ
v
f’
v
f’
H
A (a)
θ
h H
(b) A
B
75
り正確には、点 Aと同じ高さでわずかな時間止まり、それより上の高さには行かない。
(B)直感的な説明:
滑り台の右端では、物体は斜めに滑り台から飛び出す。すなわち、水平方向の速度成分がある。この
物体の水平方向の速度成分は、物体の高さに関係なく同じである。力学的エネルギーから考えると、物
体が一番高い所まで行っても、「水平方向の速度≠ゼロ」のためゼロで無い運動エネルギーを持つ。つ
まり物体が一番高いところに行った時でも、力学的エネルギーの全てが位置エネルギーに代わるのでは
ない。ところで、点 Aでは力学的エネルギーの全てが位置エネルギーであった。よって滑り台から飛び
出した物体は、点 Aと同じ高さにはなれない(最高点の高さは、点 Aの高さよりも低くなる。)。
計算による説明:点 Bでの速度を求める。
力学的エネルギー保存から、滑り台での最下点を位置エネルギーの基準に取る。質量m の物体の点 B
での速度を vとし、点 A(高さ H )と点 B(高さh )での力学的エネルギーを比較すると、
)(2)(22
22 hHgvhHgvvm
mghmgH −=→−=→+=
の速度の大きさを持つ。水平方向の大きさ xv は、 θθ cos)(2cos hHgvvx −== なので、点 B を飛び出
した物体の最高点(点 A’とする)での高さを 'H とすれば、力学的エネルギー保存を再び用いて、
( )
θθ
θθ
θθ
22
22
22
22
cossin
cos)cos1(
cos2
)(2cos)(2
2
1
2
1'
2'
hH
hH
g
hHgHhHg
gHv
gHHv
mmgHmgH xx
+=
+−=
−−=−−=−=→+=
よって点 A’から見た点 Aの高さは
θθθθθ 22222 cos)(coscos}cossin{' hHhHhHHHH −=−=+−=− 。
で与えられる。 hH > なので、 2/πθ = にならない限り、物体は点Aと同じ高さになる事はない。 2/πθ =
は、水平方向の速度成分=ゼロとなるので、垂直投げ上げを意味する。垂直投げ上げなら、運動エネル
ギーは、すべて位置エネルギーに変わる。
例題 2 2つの物体の衝突 エネルギーの損失
滑らかな水平面上に静止している質量 M の物体 Bに、速度 0v 、質量
m の物体 Aが一直線直線上で衝突する。衝突後の 2つの運動エネルギ
ーの和は、初めの物体 A の運動エネルギーからどれだけ減少している
か?ただし、2つの物体の跳ね返り係数を eとする。
解説&解答
物体 A、Bの衝突後の速度を求め、衝突後の運動エネルギーを求めます。
衝突後の A、Bの速度をそれぞれ Vv, とする。運動量保存および、はねかえり係数の定義から、
0
00
,v
vVeMVmvmv
−−
−=+= 。
これより、速度 Vv, は、
v0 M m
76
++
=+
++−=+=
+−
=→
+=−
++=
=−
000
0
0
00
0
)1()()()()(
)(
vMm
mev
Mm
MmeeMmevvV
vMm
eMmv
vMmveMm
evvMmvmv
evvV
である。よって失われる運動エネルギー E∆ は、
{ }222
2
2
0
22
2
0
2
0
2
0
2
0
222
0
])1[()()()(2
)1(
222
)1(
222222
meMeMmmMmmMm
v
Mm
meM
Mm
eMmmmv
vMm
meMv
Mm
eMmmv
mV
Mv
mv
mE
+−−−++
=
+
+−
+−
−=
+
++
+−
−=
+−=
∆
{{{{ }}}}の部分の計算
( ){ } ( )
))(1(
)1()1()1()1()1(2)1(
)1(])1(2[)1()1(])1(2[)1(
])1[()}())}{((){(
])1[()()(
2
22
2
222
MmemM
meMeemMmeMememM
emMememMmeMMemMem
meMeMmMmeMmMmm
meMeMmmMmm
+−=
−+−⋅+=+−−++=
+−−++=+−−++=
+−−++−−+=
+−−−+
2
0
22
2
2
0
)(2
)1())(1(
)(2v
Mm
emMMmemM
Mm
vE
+
−=+−⋅
+=∆
をえる。 1=e では 0=E∆ となり、運動エネルギーは保存される。
例題 3 角度が一定の滑らかな斜面と摩擦のある粗い水平面
が、点 Aでなめらかにつながっている。水平面から見て高さ h
の斜面上の点 P から初速度=ゼロで物体を滑らせると、水平
面上の点 Qで静止した。AQ間の距離を L とし、動摩擦係数を
'µ 、重力加速度は g とする。 h を gL ,',µ を用いて表わせ。
解説と解答
物体が点 Aで持つ速度は高さ h に依存し、点 A~点 Q間では動摩擦力が物体に働く事を利用する。
1)等速加速度運動での解法
点 Pから点 Aまで物体が移動するのにかかかる時間を t とする。斜面の角度が場所によらず一定の角
度であるとを仮定し、その角度をθ とすれば、物体の運動方程式は、物体の加速度をa として、
mamg =θsin
となり、加速度 θsingaa = が求まる。物体は初速度=ゼロの等加速度運動を行う。時間 t 経過して点 P
から点 Aに移動するとすれば、点 Pから点 Aまでの距離は θsin/h で与えられるので、
θθθθ
22
222
sin
2
sin
2
sinsin
2
1
2
10
g
ht
g
ht
htgatt =→=→=⋅⋅=+⋅
h
A Q
P
L
77
が成り立つ。よって、点 Aでの物体の速度 vは、次のようになる。
ghg
hgtgv 2
sin
2sinsin
2===
θθθ
点 A~点 Qの物体の運動では、運動方向(水平方向)に対して物体に働く力は、動摩擦力 mgf 'µ−=
だけである。よて、水平方向の物体の運動方程式から、物体の加速度 'a として、
gamamgf '''' µµ −=→=−=
が求まる。物体は水平面上を等加速度運動する事が分かる。点Aから点Qまでの移動時間を 't とすると、
点 Qで物体は静止するので、
gvgvttav '/)'/('0'' µµ =−−=→=+
を得る。点 Aから点 Qまでの距離を L とすれば、移動にかかる時間は 't で与えられるので、
''2
2
'2)'/)('(
2
1)'/('
2
1'
222
µµµµµµ
h
g
gh
g
vgvggvvatvtL ===−+=+=
である。よって、h は次式で与えられる:
Lh 'µ= 。
2)力学的エネルギー&仕事による解法
点 Aでの物体の速度の大きさを vとすると、斜面と物体とには動摩擦力が働かない。また、斜面からの
垂直抗力は、物体の移動方向に対して垂直であるため、物体に対して仕事をしない。よって、物体の力
学的エネルギーは保存されるため、速度 vは、
ghvmghvm
22
2 =→=
となる。この場合、斜面の角度が高さにより変わっても、物体が斜面から離れる事なく滑るなら、求め
た速度の大きさは、正しい。力学的エネルギーを用いた場合、運動方程式の詳細(物体に加わる力の詳
細)に関係なく速度の大きさが求まるため、簡単である。
点 Aから点 Qの間では、物体が点 Aで持っていた運動エネルギーが、動摩擦力による仕事で全て失
われるので、次のような関係式を得る。
0)(2
2 =−+ Lfvm
これから、
Lhh
mg
mgh
f
mvL '
''
2/2µ
µµ=→===
を得る。この問題では、力学的エネルギーの関係式を用いたほうが、簡単に解ける。
例題 4 2つの物体の完全弾性衝突
同じ質量の 2 つの物体 A、B が摩擦のない水平面上にある。静止している物体 B に物体 A がある速
度で完全弾性衝突(力学的エネルギーが保存される)する。衝突後の 2つの物体の移動方向は互いに 90
度の角度を成すことを示せ。
78
解説と解答
この問題では、質量などの文字定数がない。その場合は、自分で決める。物体の質量をm とする。静
止している物体 Bに物体 Aがある速度 0vrで衝突する。衝突前の物体 Aと Bを結ぶ直線を基準に取り、
図のように、衝突後物体 A、Bがそれぞれ角度 θφ, をなして速度の大きさ Vu, で移動するとしよう。角
度の定義ですが、ABを通る直線から反時計回りを符号(+)とする。
運動量の保存、力学的エネルギーの保存(完全弾性衝突)を用いる。
衝突前の AB方向に平行方向および垂直方向で運動量
保存の式を書く。
θφ
θφ
sinsin0
coscos0
mVmu
mVmumv
+=
+=
力学的エネルギー保存(摩擦の無い水平面上での運動な
ので、位置エネルギー=ゼロとする。)は、
222
0
222
0222
VuvVm
um
vm
+=→+=
となる。
ここで、運動量保存の 2つの式の 2乗を計算する。これは、力学的エネルギー保存の式が222
0 ,, Vuv の
項を含んでいるためと、 、1cossin 22 =+ φφ の関係を利用するためである。
)cos(2
)sinsincos(cos2)sin(cos)sin(cos0
sinsin2sinsin0
coscos2coscos)coscos(
sinsin0
coscos
222
0
2222222
0
2222
222222
00
θφ
θφθφθθφφ
θφθφ
θφθφθφ
θφ
θφ
−++=→
+++++=+→
++=
++=+=→
+=
+=
uVVuv
uVVuv
uVVu
uVVuVuv
mVmu
mVmumv
力学的エネルギー保存から222
0 Vuv += が出た。それを上の式に代入すると、 0≠uV として
2/0)cos(2)cos(2222
0 πθφθφθφ ±=−→=−→−++= uVuVVuv
となり、物体 A、Bは、互いに直交した方向に移動する事がわかる。Aが Bに真正面から衝突せず、少
し正面からずれて衝突すれば、この様な結果になる。硬貨で実験してみよう。
では、 0=uV となるのは、どのような場合か考えよう。まず 0=u は、例題 2で考察したような、物
体 Bのみが動く場合である。Aは Bに真正面から衝突する。一方 0=V は、物体 Aが物体 Bを通り抜
ける場合である。これは考えなくて良いだろう。
(別解)ベクトルを用いた解法
先ほどの解と較べると、計算が幾分簡単になっていることがわかる。数学的手法を利用すると、便利
な例です。質量、速度などの文字定数は、次のように決めた。静止している物体 B に物体 A がある速
度 0vrで衝突する。衝突後の物体 A,B の速度をそれぞれ Vu
rr, とする。次の、運動量の保存と力学的エネ
ルギーの保存の式を用いて議論しよう。
VVVVM
um
vm
VMumvmrrrrrrrrr
⋅≡+=+= 2222
00 ,222
,
さて、運動量保存の式で得られた速度ベクトル間の等式を用いて、ベクトルの内積を次のようにとる。
A B
A
B
θ
φ
79
( ) ( )222
0
222222
0
2
00
2
2
VVuuv
VmVumumvmVmumVmumvmvmrrrrr
rrrrrrrrrrr
+⋅+=→
+⋅+=→+⋅+=⋅
力学的エネルギー保存(この場合は、位置エネルギーは関係無く、運動エネルギー保存のみ)から、
222
0
222
0222
VuvVm
um
vm rrrrrr
+=→+= 。
を得る。この式と、運動量保存の式から得られた式から、
02
222
0
222
0 =⋅→
+=
+⋅+=Vu
Vuv
VVuuv rrrrr
rrrrr
を得る。よって 2 つの物体の速度ベクトル(2 つの物体の移動方向)は互いに直交する(2 つのベクト
ル Vurr
, が 90度の角度をなせば、内積 0=⋅Vurr
)事がわかる。
例題 5 物体 A、Bの質量がそれぞれ Mm, の場合で、その他は例題 4と同じ問題
物体同士は完全弾性衝突をする(エネルギー保存が成り立つ)として、衝突後 2つの物体が互いに 90
度の角度( 2/πθφ ±=− :前の図参照)をなして移動するために、満足すべき条件を求めよ。
解説と解答(ベクトルの内積を利用した解答)
静止している物体 Bに物体 Aがある速度 0vrで衝突する。衝突後の物体 A,Bの速度をそれぞれ Vu
rr, と
する。運動量の保存の式、力学的エネルギーの保存の式を用いる。
222
00222
, VM
um
vm
VMumvmrrrrrr
+=+=
さて、運動量保存の式でベクトルの内積を次のように取る。
( ) ( ) 22222
0
2
00 2 VMVumMumvmVMumVMumvmvmrrrrrrrrrrr
+⋅+=→+⋅+=⋅
2つの式から、次のような関係式を得る。
{ }
⋅−=→
⋅=
−→⋅=−
−=⋅→
−=⋅→−=⋅
→
+⋅+=+→
+=
+⋅+=
22
2
22222
222222
222
0
22222
0
2
21
22)(
22
)(2
2
222
2
V
Vu
m
M
V
Vu
m
MmVumMVMmM
Vm
MmVuV
Mm
MMmVuVMVmMVumM
VMVumMumVMummV
Mu
mv
m
VMVumMumvm
r
rr
r
rrrrr
rrrrrrrrrr
rrrrrrrrr
rrrrr
衝突後の物体 Bの速度は、 0≠Vr
の有限の大きさを持つと考えよう。すると上の式から、 0=⋅Vurr
と
なるのは Mm = の時である事がわかる。( 0=ur
は無いとして考える。 0=ur
となるは、 Mm = かつ、
正面衝突(例題 3で 0== φθ )の場合である。)
なお、2つの物体の質量比 Mm / は、 Vurr, を用いると、 0≠V
rとして、
2
21
V
Vu
m
Mr
rr⋅
−=
80
で与えられる。では、この式から質量比を求めるためには、どのような物理量を測定すればよいのか?
2つの速度 Vurr, の大きさ、および 2つの速度ベクトルのなす角 φθ − ( )cos(|||| φθ −=⋅ VuVu
rrrr)であ
る。
例題 6 糸につながれた物体と別の物体との衝突
質量m の小さな物体 A に長さ L の伸び縮みしない糸をつけ、なめ
らかな台上に置かれた質量 M の小さな物体 Bの真上、高さ L のとこ
ろに、糸の他端を固定する。糸がたるまないよう水平になるまで物体
A を持ち上げ、静かに離す(初速度=ゼロ)。(計算が苦手な人は、
Mm = で計算してみよう。多少楽です。)
(1) Aと B とが完全弾性衝突をする時、衝突後 Aはどれくらいの高さまで上がるか?(B があった場
所から、どれ位の高さまで上がるかということ)
(2) Aと Bが衝突後一体化したとき、ABはどれ位の高さまで上がるか?なお、糸の張力は物体の移動
方向と垂直(解説を参照)なので、糸の張力は物体 Aに対して仕事をしない。
解説と解答
右図のように糸の張力T は、常に物体 Aないしは衝突後一体となった物体 ABの移動方向に対して、
垂直方向である。(糸がピンと張っているという事は、糸の張力の向きは、
糸が張っている方向と平行と言うこと。)よって、糸の張力は、物体に対し
て仕事をしない。また、重力により物体に加わる力は、常に糸をピンと張
るような方向に働くため、糸がたるむ事はない。よって、図の点線で示し
たような経路を通り、物体 Aは、物体 Bと衝突する事になる。
物体 A にする仕事は、重力による仕事(のみ)なので、重力による仕事が物体 A の運動エネルギー
に変わる。(糸の張力T の向きと物体の移動方向とは、常に垂直なので、糸の張力は物体に対して仕事
をしない。すなわち糸の張力は、物体に対して力学的エネルギーを増加・減少させない。)物体 B と衝
突する直前の物体 Aの速度(速さ)を 0v とすると、力学的エネルギー保存から、
gLvgLvmgLvm
222
0
2
0
2
0 =→=→=
となる。
衝突後の物体の速度は、運動量保存から求める。先ほどと同様、衝突後の物体 A,ないしは一体化した
A,Bの移動方向は常に糸の張力と垂直方向であるため、糸の張力は物体に対して仕事をしない。このこ
とから、物体の持つ運動エネルギーが物体の位置エネルギーに変化すると考え、力学的エネルギー保存
から、衝突後の物体の高さを求めればよい。
衝突後の A、Bの速度をそれぞれ Vu, とし、以下の問に答える。
(1) ここでは、(i)(ii)の 2つの方法で、衝突後の物体の速度を求める。
(i) 完全弾性衝突の定義、および運動量保存(衝突直前・直後の運動では、水平方向に外部から力が加
わっていないため、運動量の和が保存される)により計算する。
L
m
M
A
B
mg
T
81
+=
+−
=→
−=+
+=→
++=
+=→
+=
−−
−=
0
0
0
0
00
0
0
02)()()(
01
vMm
mV
vMm
Mmu
vMmuMm
vuV
vuMmumv
vuV
MVmumv
v
uV
(ii)力学的エネルギーの保存( 1=e から、保存される)と運動量保存からは、次のようになる。
222
00222
, VM
um
vm
MVmumv +=+=
これから、 Vu, の値を求める。まず、u の値を求める。
( )
0
)()(
)(
)(
0
02
02
)(
)(
2
)(
2
02
)(
2
)(
222222
2
0
22
0
2
2
2
222
2
2
2
0
2
0
22
0
2
00
22
00
22
2
00
222
0
222
0
222
0
=
+
−
+
−→
+=
+−−
=+−
−+
=+−
+
+
−
+
−→
=+−
++
−→=−
++
+−→
=−
+−+
→−+=→+=
vMm
Mv
Mm
mu
Mm
M
Mm
Mmm
Mm
Mm
Mm
m
vMm
Mmv
Mm
mv
Mm
mu
vMm
Mmuv
Mm
muv
M
Mmm
Mmm
Muv
M
m
Mmm
Mu
vM
Mmmuv
M
mu
M
Mmmuv
M
mu
mv
mV
Mu
mv
m
これより、
0000 , vMm
Mmvuv
Mm
Mv
Mm
mu
+−
=→+
±+
=
をえる。u のそれぞれの値に対して、V は次のような値をとる。
00000
000
221)(
0)11()(
vMm
mv
Mm
M
M
mv
Mm
Mm
M
muv
M
mVv
Mm
Mmu
vM
muv
M
mVvu
+=
+=
+−
−=−=→+−
=
=−=−=→=
・
・
すなわち、
000
2,:0, v
Mm
mVv
Mm
MmuVvu
+=
+−
===
を得る。 0,0 == Vvu は、物体 Aが物体 Bを素通りする場合である。これは無視しよう。すると、物体
Aの速度は
0vMm
Mmu
+−
=
である事が分かる。(i)(ii)の解法の比較から、エネルギー保存則が万能(簡単に答えが求まる)ではない
ことが判る。
衝突後の A の高さを 'L とすれば、力学的エネルギー保存(運動エネルギーが位置エネルギーに変化
する)を用いて、
LMm
MmgL
Mm
Mm
gv
Mm
Mm
gg
uLu
mmgL ⋅
+−
=⋅+−
=
+−
==→=2
2
2
22
0
22
)(
)('2
)(
)(
2
1
2
1
2'
2'
となる。
82
(2) 物体 A、Bは衝突後一体化するので、その衝突後の物体の速度をu とすれば、運動量保存から
00 )( vMm
muuMmmv
+=→+=
となる。衝突後の A と Bの高さを 'L とすれば、力学的エネルギー保存(運動エネルギーが位置エネル
ギーに変化する)を用いて、
LMm
mgL
Mm
m
gv
Mm
m
gLu
MmgLMm ⋅
+=⋅
+=
+
=→+
=+2
2
2
22
0
2
)(2
)(2
1
2
1'
2
)(')(
となる。計算から見れば、2つの物体が一体化するほうが楽。
例題 7 固定された斜面のある台の上での物体の運動
図のような形をした台が、水平面に固定されている。台
の上面 ABCはなめらかな曲面で、点 C で水平となり、鉛
直に立っている壁とつながっている。左端の点 Aは点 Cよ
りもh だけ高い。点 Aから質量m の大きさの無視できる物
体を曲面 ABC に沿って静かに滑らせると、物体m は壁と
衝突する。重力加速度の大きさを g として、以下の問いに答えよ。
(1) 物体m が壁と衝突する直前の物体m の速度の大きさを、 hg, を用いて表わせ。
(2) 物体m と壁とのはね返り係数を eとする。物体m は壁と衝突後、曲面 ABC に沿って台をのぼる。
点 Cから見た衝突後の物体m の最高点の高さを、 ehg ,, を用いて表わせ。
解説と解答
(1) 物体m は、重力による力を受け、斜面 ABC 上をすべる。物体m は斜面 ABC を押し、その反作用
として物体m は斜面から垂直抗力を受ける。物体m の運動は斜面に沿っての運動であり、物体m の移
動する方向(速度ベクトルの向き)と垂直抗力の向きは互いに直角なので、垂直抗力は物体に対して仕
事をしない。物体m が斜面 ABCを滑る際に、物体m に加わる力による仕事は、重力による仕事のみで
ある。物体m が点 C に到達したとき、その鉛直方向の高さは点 A から見てh だけ低い。よって、この
高さの差に相当する位置エネルギーが物体m の運動エネルギーに変わる。点 Cでの速度の大きさを vと
すれば、以下のような力学的エネルギー保存の式が成り立つ。点 Cでの速度の大きさは、 ghv 2= で
ある。
ghvmghvm
22
2 =→=
これより、物体m が壁と衝突する直前の速度の大きさは、 gh2 である。
(2) (1)と同様に考える。斜面はなめらかであるので、物体m が斜面に沿って運動するとき、力学的エネ
ルギーは失われない。そこで、物体m がもつ運動エネルギーがすべて位置エネルギーに変わるとする。
壁との衝突直後の物体m の速度は、左方向への運動になるので、 gheev 2−=− である。よって、求
める高さを 'h とすれば、以下の力学的エネルギー保存の式が成り立つ。この式から、 heh 2'= を得る。
hegheg
evg
hmghevm 2222 )2(
2
1)(
2
1'')(
2===→=−
A
B C
h
83
例題 8 なめらかな水平面上に置かれた、斜面のある台の上での物体の運動
図のような形をした質量M の台が、滑らかな水平面上にある。台の上面 ABC はなめらかな曲面で、
点Cで水平となり、鉛直に立っている壁とつながっている。
左端の点 Aは点 Cよりもh だけ高い。点 Aから質量m の
大きさの無視できる物体を曲面 ABC に沿って静かに滑ら
せると、物体m は壁と衝突する。重力加速度の大きさを g
として、以下の問いに答えよ。ただし、右方向を速度の正
の方向にとるものとする。
(1) 物体m が壁と衝突する直前の物体m および台M の速度を、 hMmg ,,, を用いて表わせ。
(2) 物体m と壁とのはね返り係数を eとする。衝突直前の物体m の速度を vとして、衝突直後の物体m
および台M の速度を、 vおよび eMm ,, 用いて表わせ。
(3) 物体m は壁と衝突後、曲面 ABCに沿って台をのぼる。点 Cから見た衝突後の物体m の最高点の高
さを、 ehMmg ,,,, を用いて表わせ。
解説と解答
(1) 物体m は、重力による力を受け、斜面 ABC 上をすべる。物体m は斜面 ABC を押し、その反作用
として物体m は斜面から垂直抗力を受ける。よって、物体m および台M は、静止するのではなく、あ
る大きさの速度を持って移動することがわかる。
そこで、物体m が点 Cに到着した時の、物体m および台 M の速度をそれぞれ Vv, とする。最初物体
m および台M は静止しており、物体m の持つ位置エネルギーが物体m および台M の運動エネルギー
に変わる。また、物体m が斜面 ABCに沿って運動する際、水平方向には外部から力が加わらない。よ
って、物体m および台M の水平方向の運動量は変化せず、保存される。これらの事柄は、以下のよう
な力学的エネルギー保存および運動量保存の式で表わされる。
ghMm
Mvmgh
Mmm
Mv
mghvM
mMmmghv
M
mMv
m
MVmvMm
mghVM
vm
+±=→
+=→
=+
→=
−+→
+=⋅+⋅
=+
2
)(
2
22200
22
2
222
2
22
ここで、物体m は右方向へ移動するので(正確には、点 C で物体m が左方向の速度成分を持っている
と、物体m は斜面を上ろうとしている事になる。これはありえない。)、
ghMm
Mv
++=
2
を選ぶ。これより、
)(
22
MmM
ghmgh
Mm
M
M
mv
M
mV
+−=
+−=−=
となる。符合(-)は、台M が左方向に移動する事を示す。
(2) 物体m と壁とのはね返り係数を e とする。衝突直後の物体m および台 M の速度を ',' Vv とすれば、
運動量保存の式と、はね返り係数 eの定義から、以下の式が成り立つ。
A
B C
h
84
>+=−=
<−=++
−=−−+
=+
−=→+=−+
→
−−+=
−−=−→
−−
−=
+=+=
0''
0)(
)()(
'')()(0
))('('0
)(''''
''0
vM
mev
M
mV
evvMm
Mmevv
M
m
Mm
eM
Mm
vVeMvvMmvVeM
vVevMmv
vVevV
vV
vVe
MVmvMVmv
よって、衝突直後の物体m および台M の速度はそれぞれ vM
meev,− となる。
(3) 物体m は壁と衝突後、曲面 ABCに沿って台をのぼる。点 Cから見た衝突後の物体m が最高点にな
る時の高さを 'h とすると、その時、物体m および台M の速度は等しい。その速度を "v としよう。この
事に注意して運動量保存および力学的エネルギー保存の式を書き下すと、以下のようになる。
heh
mgheghMm
M
M
Mmmeev
M
Mmmev
M
mMmV
Mv
mmgh
vM
me
Mev
mV
Mv
mmgh
v
MvmvMVmvMm
VM
vm
mghvM
vm
2
2222
2
222
2
222
2222
'
2
2
)()(
2
)()(
22'
2'
2'
2)(
2'
2'
2'0
0"
""''00
'2
'2
'"2
"2
=→
=+
+=
+=
+=+=→
+−=+=+
=
→
+=+=⋅+⋅
+=++
よって、求める高さは he2 である。
注意:物体m が上下の移動をするときは、常に台M の斜面 ABCに沿って移動する。つまり、物体m
の台M に対する相対速度は、台M の斜面 ABCに沿った運動であり、物体m が台M を押す力や台 M
が物体m を押す垂直抗力(作用・反作用の関係にある 2つの力)とは、常に直交する。よって、これら
2つの力が行う仕事の量は、いずれにせよゼロである。
実はこの説明には不正確なところがあり、力のベクトルおよび物体と台の速度のベクトルを正しく取
り扱えば、動摩擦力が働かない場合には、「物体m が台 M を押す力や台M が物体m を押す垂直抗力」
による仕事はゼロになる事が示される。すなわち、力学的エネルギーが保存される事が示される。詳し
くは、「質点系の力学の総合問題」の例題 3 および 4 での、微積分とベクトルを用いた説明の箇所を参
照。互いに動く 2つの物体間に力が働く場合に、その力による仕事がゼロになる事を示すのは、ベクト
ルを用いなければ、容易ではない。
例題 9 水平面ではねる質点(ボール)
図のように、水平で滑らかな(質点と床とで摩擦
が働かない)床から高さ 0h の点 0Q から、質量m の
質点を初速度 0v で水平右方向に投げる。質点の受け
る空気抵抗を無視し、重力加速度を g として、以下
の[ ア ]~[ カ ]に入れる適当な文字式を書け。
質点が最初に床と衝突する地点を 1P とすると、質
点が 0Q から 1P に衝突するのに要する時間は[ ア ]
2Q
1Q
nPPP 21
0Q
0h
0v
nQ
85
である。また、点 1P に衝突する直前の質点の速度の大きさは、[ イ ]である。質点と床とのはね返り係
数を )10( << ee とすれば、点 1P で衝突直後の質点の速度の大きさは、[ ウ ]である。
質点は、床と何度も衝突を繰り返しながら、右方向に移動する。床との衝突がn 回起こった後、質点
が到達する最高点 nQ の高さは、[ エ ]である。また、 n 回の衝突直後に質点が持つ運動エネルギーは、
[ オ ]である。n 回の衝突直後の質点は、点 0Q から距離[ カ ]だけ、水平方向に移動している。
解説と解答
この質点の運動では、重力が働く方向(鉛直方向)での運動方程式と、重力が働かない方向(水平方
向)での運動方程式を立て、それぞれの方向での質点の運動を考える。
点 0Q にいた質点が床に最初に衝突するまでの時間を 1t とすると、質点は、点 0Q において水平方向の
速度成分のみを持つので、垂直方向では、重力下での初速度ゼロでの自由落下の問題になる。よって、
時間 1t で質点が距離 0h だけ落下するとすれば、
g
hthgt 010
2
1
2
2
1=→= ・・・[ア]
となる。点 1P に衝突直前では、水平方向の速度 0v 、鉛直方向の速度を 0u として、000 2/2 ghghgu ==
となる。よって点 1P に衝突する直前での質点の速度の大きさは、
0
2
0
2
0
2
0 2ghvuv +=+ ・・・[イ]
さて、床が水平で滑らかなため、質点と床との衝突時、摩擦が働かないので、衝突による速度の変化
は、鉛直方向のみである。点 1P に衝突直後の鉛直方向の速度成分の大きさを 1u とすれば質点のはね返り
の定義より、
01
0
1 euueu
u=→= 。
これより、点 1P に衝突直後の速度の大きさ 1V は
0
22
0
2
1
2
01 2 ghevuvV +=+= ・・・[ウ]
先にも述べたように、質点と床との衝突では、質点の鉛直方向の速度のみが変化する。床とn 回衝突
直後の、質点の鉛直方向の速度の大きさを nu とすれば、
001 2gheueeuu nn
nn ==⋅⋅⋅== −
となる。(注意:質点の速度の鉛直成分について考える。点 kP での衝突直後の速度の鉛直成分は、点 1+kP
での衝突直前の速度の鉛直成分と、その大きさが等しい。)
床からの点 nQ までの質点の運動は、鉛直方向には、初速度02gheu n
n = の質点の垂直方向投げ上げ
運動になる。よって、床から点 nQ までかかる時間を nt とすると、
g
he
g
ghetgtghegtu n
n
nn
n
nn00
0
2202 ==→=−=− 。
点 nQ の高さを nh とすると、 nh は以下の式で与えられる。
0
2
2
000
2 2
2
122
2
1he
g
heg
g
heghegttuh
nnnn
nnnn =
−⋅=−= ・・・[エ]
86
床とn 回衝突直後の質点の運動エネルギーは、水平方向の速度 0v 、鉛直方向の速度02gheu n
n = から、
以下のようになる。
)2(2
)(2
0
22
0
22
0 ghevm
uvm n
n +=+ 。・・・[オ]
点 1−kP から点 kP までかかる時間が kt2 (ここでは、そのように定義した。)であり、点 0Q から点 1P ま
でかかる時間が 1t である。よって、点 0Q から点 nP まで移動するのにかかる時間をT として、
e
ee
g
h
e
eee
g
h
e
ee
g
h
eeeg
h
g
he
g
he
g
he
g
ghttttT
nnn
nn
n
−−+
=−
−+−=
−−
+=
+⋅⋅+++=
+⋅⋅⋅+++=⋅⋅⋅+++=
−−
−−−
1
212
1
)1(2)1(2}
1
121{
2
)}(21{2222
22
)(2
0
1
0
1
0
120010200
1321
よって移動距離は、
e
ee
g
hvTv
n
−−+
=1
212 000
・・・[カ]
である。
例題 10 [ ア ] ~[ ス ] に適当な式を記入せよ。重力加速度を g とする。
図で、曲線 AB は滑らかな曲面(摩擦のない曲面)で、水平な床面から点 B までの高さは H である。
曲面 AB 上には、点 B から見て高さh の場所に、質量m の質点がある。また、点 B から右方向に距離 L
離れた場所には、点 B と同じ高さに質量M の質点がある。
質点m が初速度ゼロで斜面に沿って動く(重力により、斜
面に沿って滑り降りる)時、点 B における質点 m の速度は
[ ア ]である。
質点m は、点 B からはなれる直前には、水平方向の速度成
分のみを持っているとする。質点m が点 B を離れたと同時に
質点 M が初速度ゼロの自由落下をする。質点m が点 B を離
れて時間[ イ ]経過すると、質点 Mm, は衝突をする。衝突時
の質点 Mm, の水平面からの高さは[ ウ ]である。なお、水平
面よりも上で質点 Mm, の衝突が起こるためには、 >h [ エ ]の条件が満足されなければならない。
衝突直前の質点m の速度は、水平方向に[ オ ]であり(右向きを+とする)、鉛直方向には[ カ ](上
向きを+とする)である。一方、衝突直前の質点 M の速度は、水平方向に[ キ ]であり(右向きを+と
する)、鉛直方向には[ ク ](上向きを+とする)である。
さて、衝突により、質点 Mm, が一体になったとする。衝突直後の質点の速度は、水平方向に[ ケ ]
であり(右向きを+とする)、鉛直方向には[ コ ](上向きを+とする)である。この衝突により質点 Mm,
から失われた力学的エネルギーは、[ サ ]である。
一体となった質点は、衝突後直後から時間[ シ ]かけて水平面に到達する。その位置を X とすると、
BX 間の水平方向の距離は[ ス ]である。
解説と解答
平曲面 AB は滑らかなため、質点m と平曲面との間には、摩擦がない。また、平曲面は質点m を面に
h
L
H
m
M
A
B
X
87
対して垂直に押すだけなので、平曲面が質点m を押す垂直抗力による仕事量はゼロである。よって質点
m が高さh だけ低くなれば、質点の持つ位置エネルギーが運動エネルギーに変わる。質点は初速度ゼロ
で平曲面を滑るので、点 B で質点が持つ速度を vとすれば、次の力学的エネルギー保存の式が成り立つ。
ghvmghvm
22
2 =→= ・・・[ア]
点 B からはなれる直前では、質点m は水平方向の速度成分 ghvB 2= のみを持っているので、鉛直
方向には初速度ゼロの運動になる。質点 Mm, の衝突にかかる時間を ct とすれば、衝突時の Mm, の高
さを ch として、以下の式が成り立つ。
−=−=+−+⋅=
=
→
=+−+⋅
=⋅
][422
)(2
10
2
)(2
10
2
222
2
ウ・・・h
LH
gh
LgHHtgth
gh
Lt
hHtgt
Ltgh
ccc
c
ccc
c
水平面より上で質点同士の衝突が起こるためには、 0>ch が必要である。よって、以下の条件式を得る。
][44
04
222
エ・・・H
Lh
h
LH
h
LHhc >→>→>−=
さて、質点m の衝突直前の速度水平方向および鉛直方向の速度をそれぞれ mm uv , とする。同様に、質
点 M の衝突直前の速度水平方向および鉛直方向の速度をそれぞれ MM uv , とする。質点m が点 B にいた
時、質点m が水平方向に速度成分 ghvB 2= を持つ。それ以外の速度成分は、質点 Mm, ともにゼロで
ある。よって、衝突直前の 2つの質点の速度は、以下のように与えられる。
−=−=−=
=
−=−=−=
==
][22
)(
][0
][22
)(
][2
ク・・・
キ・・・
カ・・・
オ・・・
h
gL
gh
Lgtgu
v
h
gL
gh
Lgtgu
ghvv
cM
M
cm
Bm
この衝突で質点 Mm, が一体になる(完全非弾性衝突)ので、衝突により力学的エネルギーは失われる。
衝突後の質点の速度を、水平方向・鉛直方向でそれぞれ cc UV , とおくと、運動量保存の式を用いて、以
下のように求まる。
−=++
=
+=
+
⋅+⋅=
++
=→
+=+
+=+
][2
][202
)(
)(
コ・・・
ヶ・・・
h
gL
Mm
MumuU
ghMm
m
Mm
Mghm
Mm
MvmvV
UMmMumu
VMmMvmv
Mmc
Mmc
cMm
cMm
ここまで計算して気づいたと思うが、表現自体は奇妙に感じるかもしれないが、鉛直方向には質点同士
は衝突していない。質点同士が互いに力を及ぼす(作用・反作用)のは、水平方向のみである。よって、
鉛直方向には、速度の変化は生じない。水平方向にのみ、速度の変化が生じる。
衝突前後での力学的エネルギーの差を計算する。計算は、運動エネルギーに限定しよう。なぜなら、
衝突の直前・直後で、質点の高さに変化はないとみなせるため、位置エネルギーの差はないからである。
失われる力学的エネルギーは、以下のようになる。
( ) ghMm
mMmmgh
Mm
mmgh
Mm
mMmMgh
m
VMm
vM
vm
UVMm
uvM
uvm
cMmccMMmm
2)(2
}){(2
)(222
20
22
2
222)(
2)(
2)(
222
22
222222222
⋅+
−+=⋅
+−=
+
+−⋅+=
+−+=+
+−+++
88
][
2)(2
}){()(
2)(
2)(
2
222222
サ・・・ ghMm
mM
ghMm
mMmmUV
Mmuv
Muv
mccMMmm
+=
⋅+
−+=+
+−+++
さて、質点同士が衝突後、水平面に衝突するまでの時間で、水平方向に移動する。よって、質点同士
が衝突後、水平面に衝突するまでの時間を求める必要がある。この時間を dt と置く。質点の運動を、鉛
直方向の初速度 cU 、加速度 g− の等加速度運動と見なせば、時間 dt で質点の高さがゼロとおき、
][2
2)
4(2
2
1
2
2)0(
22)(
02)2(02202
1
22
22
2
22
222
シ・・・
g
H
gh
L
h
LHg
h
gL
gh
g
g
Lt
g
ghU
g
Ut
g
ghU
g
Ut
g
h
g
U
g
Ut
htg
UtghgttUhgttU
d
cccd
cccd
cccd
cdc
dcddccddc
+−=−++−=→
++=>→
+±=→+=−→
=−−→=−+−→=+−
よって、水平方向には速度 cV の等速度運動なので、求める距離を 'L とすれば、
( )
][2
)2()(4
2
2
2
4
22
2
22'
ス・・・
Mm
HhmML
Mm
HhLmLMmHhL
gh
gh
Mm
mL
gh
Hh
gh
Lgh
Mm
mL
g
H
gh
Lgh
Mm
mLtVLL dc
++
=
++−++
=+−+
+=
+−
++=
+−⋅
++=+=
時間 dt の別の考えによる求め方。質点は、鉛直方向には初速度 00 =v の自由落下の扱いが出来る。そし
て時間 dc tt + 経過すると水平面に届くので、
g
H
gh
L
g
Htt
g
HttttgH cddcdc
2
2
220)(
2
1 2 +−=→+−=→=+→=+−
となる。後の計算は同じ。
例題 11 滑らかな斜面上で静止する物体(微積分を用いた解法を示す)
図のように、摩擦のない水平面上に質量M 、角度θ の斜
面(斜面M )がある。斜面のある位置に質量m (物体m )
の物体をそっと置き、斜面に対して水平左方向の向きに一定
の大きさの力 F を加える。物体m と斜面M との摩擦はない。
また、物体m は斜面M 上に載っているとする。力 F の大きさは時間によらず一定ではあるが、いろい
ろな大きさを取り得るとする。
ここからが問題:その時、「力 F によって斜面M に加えられた単位時間当たりの仕事量」が「物体m
と斜面M の運動エネルギーの単位時間当たりの変化量」と「物体m の位置エネルギーの単位時間当た
りの変化量」の和に等しい事を、運動方程式の式変形を行う事で示せ。(運動方程式から、微積分を用
いて、力学的エネルギーに関する式を導け。)ただし、物体m と斜面M は、最初静止していたとし、ま
た運動中に互いに離れないとする。さらに、斜面M と水平面とも離れないとする。
θ
m
M
89
解説と解答
この問題では、運動方程式をきちんと立てる所から始まる。
物体m と斜面に働く力を書こう。質量m の物体には、重力
加速度による力mg が働く。物体m は斜面を力 1F で押し、そ
の反作用で斜面から大きさ 1N (垂直抗力)の力で押し返され
る。斜面と物体m の間に働く力は上で考えたので、残りの力
を考える。斜面には重力加速度による力Mg が働く。その他の
力では、斜面が水平面を押す力 2F 、反作用として水平面から押される力(垂直抗力) 2N が働く。
続いて物体m と斜面M の運動方程式を立てる。その際、力をどのように分解して運動方程式を立て
るかが、計算が楽かどうかという意味で重要である。問題から、物体m は水平方向の加速度運動をする
と考えられる。また、水平方向ないしは垂直方向に向いた力が大多数なので、力の分解は、水平(右向
きを+)・鉛直方向(上向きを+)に分ける。物体m の加速度を水平・鉛直方向に yx aa , とし、斜面の加
速度を水平・鉛直方向に yx AA , とすると、
)(,
cos
sin:,
cos
sin:
2211
12
1
1
1
作用・反作用 FNFN
MAMgFN
MAFFM
mamgN
maNm
y
x
y
x
==
=−−
=−
=−
=−
θ
θ
θ
θ
となる。
ここで、物体m と斜面M の座標および速度をそれぞれ ),(),,( YXyx 、 ),(),,( yxyx VVvv とすれば、
dt
dVA
dt
dVA
dt
dYV
dt
dXV
dt
dva
dt
dva
dt
dyv
dt
dxv
y
yx
xyx
y
yx
xyx ======== ,,,,,,,
である。これらを用いれば、運動方程式は次のように変形される。
×=−−
×=−→
=−−
=−
×=−
×=−→
=−
=−
yx
xx
y
x
y
y
xx
y
x
Vdt
dVMMgNN
VMAFN
MAMgNN
MAFNM
vdt
dvmmgN
vdt
dvmN
mamgN
maNm
)cos(
)sin(
cos
sin:
)cos(
)sin(
cos
sin:
12
1
12
1
1
1
1
1
θ
θ
θ
θ
θ
θ
θ
θ
さて、斜面M が水平面上で上下方向に移動しない事から、時間によらず
0== yy VA
が成り立つ。この結果を用いて運動方程式をさらに変形すると、
++=−+−++−→
++=−+×−+−→
×=−×=−×=−
222
1
111
111
2)(
2)()sincossin(
)sin()cos()sin(
)sin(,)cos(,)sin(
xyxxyx
xx
y
y
xx
xyx
xx
y
y
xx
VM
vvm
dt
d
dt
dXF
dt
dymgVvvN
Vdt
dVMv
dt
dvmv
dt
dvmVFNvmgNvN
Vdt
dVMFNv
dt
dvmmgNv
dt
dvmN
θθθ
θθθ
θθθ
となる。ここで、物体m と斜面 M が運動中に離れない事から、斜面 M に対する物体m の相対的な速
度は、斜面方向に平行である。この事は、以下のような式で表わす事ができる。
θ
N1
F M
mg
F2
N2
F1
Mg
N1
F1
N1cosθ
F1sinθ N1sinθ
F1cosθ
90
θθθθθ sin)(costan0
)sin,cos(),(),( xxy
xx
y
xx
yy
yxyx VvvVv
v
Vv
VvVVvv −=→+=
−
−=
−
−→−−∝− 。
この関係式を、変形した運動方程式に代入すると、
+++=−→
++=−+−→
++=−+−⋅
222
222222
1
2)(
2)(
2)(
2)()(
2)(
2)(0
xyx
xyxxyx
VM
mgyvvm
dt
d
dt
dXF
VM
vvm
dt
d
dt
dXFmgy
dt
dV
Mvv
m
dt
d
dt
dXF
dt
dymgN
この式変形の結果から次のことがわかる。「斜面M に加えられた単位時間当たりの仕事量」が「物体m
と斜面M の力学的エネルギーの単位時間当たりの変化」になる事がわかる。
さらにこの一連の式変形の過程から分かるように、外部から加える力 F に時間依存性があっても最後
の式は成立する。( F を含んだ項の微積分を行なう際に F を定数とする扱いは、一切行っていない。)
例えば、 F に時間振動する成分があっても、物体m と斜面M が離れないなら、この式は成立する。
注意:上の計算を見れば分かるように、力 F が時間的に変化する場合でも、物体と斜面が離れる事が
ないなら、微積分を用いる事で、力学的エネルギーに関連した式を簡単に示す事ができた。力 F の大き
さを一定と仮定し、微積分を用いないで上と同等の結果を得るためには、まず物体m と斜面M の加速
度を求める必要がある。そうして斜面M を押し始めて時間 t 経過後の物体や斜面の運動エネルギーと位
置エネルギーの計算を行えば、上の結果が得られるのだが、その計算は大変だろう。
91
ii) 微積分を使った力学的エネルギーの簡単な扱い(1次元での説明)
2
2 )()(
dt
txdmtF = =(両辺に
'
)'(
dt
tdxをかけて積分)⇒ ∫∫ =
t
t
t
tdt
dt
tdx
dt
txdmdt
dt
tdxtF
00
''
)'(
'
)'('
'
)'()'(
2
2
。
dt
tdx
dt
txdm
dt
tdxm
dt
d )()()(
2 2
22
=
の関係を用いると、
2
0
22)(
)( '
)(
2'
)(
2'
'
)'(
'2)'())'(('
'
)'()'(
000
−
=
== ∫∫∫ dt
tdxm
dt
tdxmdt
dt
tdx
dt
dmtdxtxFdt
dt
tdxtF
t
t
tx
tx
t
t
(注意:ここで、 '/)'( dttdx は時刻 't での速度なので、 ''/)'( dtdttdx ⋅ は、時刻 't から '' dtt + までの間に
物体が行った微小変位(移動距離) )'(tdx である。また、左辺の積分 ∫ )'())'(( tdxtxF では、位置 )( 0tx
から位置 )(tx までの移動で、実際に通った道どおりの積分を行う。)
')'( dxxF ⋅ を、力 )(xF が物体に対して変位 'dx の間に行った仕事という。上式は、物体の運動方向と力
F の向きが同じ向き(反対向き)ならば、次の物理量(物体の運動エネルギーと、一般には言う) 2
)(
2
dt
tdxm
が増加(減少)することを示す。
∫)(
)( 0
)'())'((tx
txtdxtxF の意味を、以下の例で示す。
例 1 水平面での摩擦がある運動の場合:
質量m の物体にくわわる力(動摩擦力)は、物体の運動方向とは逆向きに mgNf '' µµ == の大きさが、
絶えず加わる。符号を考える(物体が運動する向きを+にとる。よって 0xx > である。)と、
0)(')'()'( 0
)(
)( 0
<−−=∫ xxmgtdxtFtx
txµ
である。運動方程式を積分して得られた式を変形すると、
)(''
)(
2'
)(
2)('
'
)(
2'
)(
20
2
0
2
0
2
0
2
xxmgdt
tdxm
dt
tdxmxxmg
dt
tdxm
dt
tdxm−−
=
→−−=
−
µµ
この式の意味するところは、次のようである。位置 )( 0tx で持っていた運動エネルギーは、摩擦による
仕事のため、物体が位置 )(tx にいる時には、位置 )( 0tx にいた時よりも )(' 0xxmg −µ だけ減少している。
または、別の解釈:物体は床に対し絶えず mg'µ の力を加えている(床から加わる摩擦力とは、作用・
反作用の関係にある。)。移動距離が 0xx − なので、床に対して )(' 0xxmg −µ の仕事をすることになる。
よって、物体の持つ運動エネルギーは )(' 0xxmg −µ だけ減少する。
例 2 重力下での運動
地面に対して垂直方向のみに、運動を制限する。
自由落下で時刻 0t の時の速度を 0v とする。下方向を+の向きにとると、重力加速度による、物体に加わ
る力はmg なので、
92
y0
a
b
y
2
0
2
2
0
2
0
)(
)( 2)(
2'
)(
2'
)(
2))()(()'())'((
0
vm
tvm
dt
tdym
dt
tdymtytymgtdxtxF
ty
ty−=
−
=−=∫
この場合、仮に物体の移動が、途中上下に何度も行われても、上の結果は変わらない。例えば右下図。
(現実には考えにくいが)高さ ba, の間で上下運動したとし、その経路をC とする。なお、上下方向に
重なるとわかりづらいので、図では少し横方向に線をずらした。
)(
)()()()()()'()'(
0
0
yymg
aymgabmgbamgabmgbymgtdxtFC
−=
−+−+−+−+−=∫
となり、仕事の量は始点 0y と終点 y にのみ依存し、物体の運動する道(経路)に
はよらない。このように、始点と終点にのみ依存し、経路に因らない仕事をする
力を、保存力という。この結果は、次の関係式に書き換えられる。ここで )(yv は
高さ y での物体の速度、 0v は高さ 0y での物体の速度である。
0
2
0
2
0
2
0
2
2)(
2)(
2)(
2mgyv
mmgyyv
myymgv
myv
m+=+→−+=
ここで、 0,mgymgy を、物体の持つ位置エネルギーという。物体と外界(床、斜面など)との間に、摩
擦などがなければ、物体の持つエネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの和:力学的エネルギー
という。)は時間によらず一定である。これを「力学的エネルギーが保存される」という。物体の高さ
が決まれば、その速度は、力学的エネルギーの保存の式から求まる。
例題 1 テーブルから滑り落ちる鎖(くさり)
長さ )m(L 、単位長さあたりの質量 )Kg/m(ρ の一様な鎖が、水平な
テーブルの一端に取り付けられた「滑らかで(摩擦が無く)、十分短い
(長さが無視できる)1/4円弧形の細管」の中を通り、その一部が鉛直
に垂れ下がっている。鎖とテーブルの間の静止摩擦係数、動摩擦係数を
それぞれ ',µµ とし、重力加速度を g とする。また、テーブルの高さは
鎖の長さよりも十分に高いとする。
(1) 鎖の鉛直部分(テーブルから垂れ下がった部分)の長さが )m(0x よりも長くなると、鎖は滑り出す。
長さ )m(0x を求めよ。
(2) 鎖の鉛直部分の長さが )( 0xx > の時の鎖の加速度を求めよ。また、鎖の先頭(一番下)からの距離
)m)(( xyy < の点における、鎖の張力T を求めよ。
(3)「鎖の垂れ下がった部分の長さが )( 01 xx > で、初速度ゼロ」の状態から、鎖が滑り出した。鎖がテ
ーブルを離れるまでに動摩擦力によって失われたエネルギーを求めよ。(微小な仕事量の寄せ集め
=積分の考えが必要。)
解説と解答
(1) テーブルの上にある鎖の長さは )m(0xL − である。これに最大静止摩擦力が働く。その大きさは、
テーブルの上の鎖の質量が )Kg)(( 0xL −ρ なので、 gxL ×− )( 0µρ である。一方、テーブルから垂れ下が
っている部分の長さは )m(0x であり、その鎖にかかる重力による力は gx0ρ である。この 2つの力が等
しいので、
x
y
93
µµ
µµµρµρ+
=→=+→=−→=×−1
)1()()( 000000
LxLxxxLgxgxL
となる。
(2) 鎖が動いているとして、運動方程式を立てる。鎖には、テーブルにある鎖の部分に生じる動摩擦力、
および垂れ下がっている部分に掛かる重力による力、この 2つの力を考えればよい。鎖のテーブルにあ
る部分の長さは )m(xL − であり、それにより生じる動摩擦力の大きさは、鎖の重さが gxL )( −ρ なの
で、 gxL ρµ )(' − である。一方、垂れ下がった長さ x の部分の鎖に掛かる重力の大きさは、 xgρ である。
運動方程式は、加速度をa として、
gxL
gaLggxgxLxgaLLagxLxg '
)'1(')'1()(')(' µ
µµµµρρµρ −
+=→−+=−−=→=−−
である。
鎖の張力T の求め方。
鎖の垂れ下がっている部分の長さが x とする。「先頭から計って長さ y の所までの鎖
の部分」を 1つの物体と考えて、この物体に掛かる力を考えよう。この物体はテーブ
ルの横で垂れ下がっているので、テーブルとの動摩擦力は働かない。重力による力が
働く。さらに残りの鎖の部分との境界面で、互いに引っ張り合う作用・反作用の力が
働く。その力が張力T である。これら 2つの力が、この物体に働く。
さて、先頭から計って長さ y の所までの鎖の質量は yρ である。よって重力による力は ygρ である。
よって、長さ y の部分での鎖の張力をT とすると、次のような運動方程式が成り立つ。
ayTyg ⋅=− ρρ
これを式変形してゆく。既に加速度a は求まっているので、次のようにして張力T が求まる。
−+=
−+
−=
−+
−=
−+
−=−=→⋅=−
L
xgyx
Lgy
xL
gygygxL
gygyyagyTayTyg
1)'1(')'1(
1
')'1(
')'1(
µρµµ
ρ
µµ
ρρµµ
ρρρρρρ
(3) 鎖の垂れ下がった部分の長さ x の時、動摩擦力の大きさは gxL ρµ )(' − である。鎖が少しの距離dx
動く時、動摩擦力の仕事の量は dxgxL ⋅− ρµ )(' である。鎖の運動を妨げようとする方向に力が働くので、
鎖の運動から見れば、エネルギーの損失になる。 Lxx →1: までの仕事の量を集めるので、次のような
積分になる。
2
1
2
1
22
)(2
'
})(){(2
'}'){(
2
1')(')('
111
xLg
LxLLg
dxLxgdxxLggdxxLL
x
L
x
L
x
−=
−−−−=−−=−=− ∫∫∫ρµ
ρµρµρµρµ
例題 1の補足 微積分を用いた、力学的エネルギーに関する式の導出
鎖の運動方程式の両辺に dtdx / を掛け、式変形を行うと、次のようになる。
0)('2
)('
2
2
2
=−+⋅−
→×
=−−
dt
dxxLg
dt
dxgx
dt
dxL
dt
d
dt
dx
dt
xdLxLggx ρµρ
ρρρµρ
y
(ρy)g
T
94
右辺の第 1項は鎖の運動エネルギーである。質量 Lρ の鎖の速度が dtdx / であるので、鎖の運動エネル
ギーの単位時間当たりの変化量は、
2
2 dt
dxL
dt
d ρ で与えられる。
右辺第 2項 )/( dtdxgx ρ⋅− は、単位時間当たりの位置エネルギーの変化量を示す。鎖が長さ x だけ垂
れ下がった時刻を基準に取り、その時刻から時間dt だけ後の時刻では、鎖の長さは dtdxx /+ となって
いる。よって、時間がdt 経過してさらに伸びた鎖の部分の質量 )/( dtdxρ がテーブルの端から高さ x だ
け下にあるので、位置エネルギーの変化量は、 )/( dtdxgx ρ⋅− である。 x が増えるほど、位置エネルギ
ーは減少する。
最後の項 )/)((' dtdxxLg −ρµ は、大きさ )(' xLg −ρµ の動摩擦力による仕事(単位時間 dt での移動
距離は dx )の時間変化の割合である。鎖が長さ x だけ垂れ下がった時、テーブル上にある鎖の長さは
xL − である。よってテーブルとの動摩擦力の大きさは、 )(' xLg −ρµ である。微少な時間dt での微小
な移動距離が dx であるので、動摩擦力による仕事の大きさは dxxLg )(' −ρµ となる。よって、動摩擦
力による仕事の時間変化の割合は、 )/)((' dtdxxLg −ρµ で与えられる。
以上の 3つの和は、計算結果が示すように、時間によらず一定の値を持つ。
さて、先ほどの力学的エネルギーに関する結果を、さらに式変形すると、以下のようになる。
一定
=−−−
→
=
−−−
→=
−−
−
→
=−
−−⋅−
→=−+⋅−
22
2
22
2
22
2
22
)(2
'
22
0)(2
'
220)(
2
'
22
0)(
)('2
0)('2
xLg
xg
dt
dxL
xLg
xg
dt
dxL
dt
dxL
g
dt
dx
g
dt
d
dt
dxL
dt
d
dt
xdxLg
dt
dxgx
dt
dxL
dt
d
dt
dxxLg
dt
dxgx
dt
dxL
dt
d
ρµρρ
ρµρρρµρρ
ρµρρ
ρµρρ
初期条件: 0)0(,;0 0 === xxxt & を代入し、 Lx = (その時の時刻を仮に t とする)での速度を求める。
})('){(2
)(2
'
22
)(
2
1,0
2
)(
2)(
2
'
20
2
0
2
0
22
0
2
0
2
2
0
2
2
2
0
2
0
xLxLg
xLg
xg
Lg
dt
tdxL
LxL
g
dt
tdxLxL
gx
g
−−−=−−−=
→
+=−−
=−−−
µρρµρρρ
µµρρρµρ
左側の等式で、右辺 1 項および 2 項は、鎖の長さ L および 0x の時の鎖の位置エネルギー(テーブルの
高さから見た位置エネルギーに(-)が掛かる。)であり、第 3 項は、動摩擦力による仕事である。鎖
の速度は、次のように求まる。
µµµ
µµµ
µµ
µµ
µµ
ρρ
+
−+==→
+−+
=+
−−+
−=−−−=
1
)'21()(
)1(
'21})
11('))
1(1{(})('){(
2
2)(2
222
2
0
2
0
2
2
gLLxv
gLL
gLxLxL
g
Ldt
tdx
なお、運動方程式から )(tx を具体的に求めれば運動の詳細は分かるが、計算が煩雑で大変。運動の詳細
が分かる分、手間がかかる。物体の運動の詳細を知る必要がないなら、力学的エネルギーに関する式を
用いる事で、簡単に答えが求まる場合が多い。
95
iii) 力学的エネルギーの、ベクトルと微積分を使った説明 その 1
物体に働く力および位置 )(),( txtFrr
に関して、次の内積を考える。
=⋅=⋅→
===2
2
2
2
2 )(
2
)()()()(
)()()()(
dt
txdm
dt
d
dt
txd
dt
txdm
dt
txdtF
dt
txd
dt
dm
dt
txdmtamtF
rrrrr
rrrr
注意: ))(),(()( tytxtx =r
と書くと、
[ ] [ ] ])([2
1))(),(())(),((
2
1)()(
2
1
])([])([
2
1)(
)()(
)())(),((
))(),(()(
)(,)()()(
222
222
txdt
dtytxtytx
dt
dtytx
dt
d
dt
tyd
dt
txdty
dt
tdytx
dt
tdxtytx
dt
tytxdtx
dt
txd
dt
txd
dt
txd
dt
txd
r
rrrrr
=⋅=+=
+=+=⋅=⋅⋅=
両辺を時間で積分すると、左辺から、
''
)'()'(
0
tddt
txdtF
t
t∫ ⋅r
r
の物理量が出てくる。 '/)'( dttxdr
は時刻 't での速度なので、 ']'/)'([ dtdttxd ⋅r
は時刻 't から '' dtt + までに物
体が行った微小変位(移動距離) )'(txdr
である。よって、次のように変形(積分変数の変換)できる。
∫
∫
∫∫∫
⋅=
+=
+=⋅=⋅
t
t
t
tyx
t
tyx
t
tyx
t
t
txdtF
tdytFtdxtF
dtdt
tdytF
dt
tdxtFdt
dt
tytxdtFtFtd
dt
txdtF
0
0
000
)'()'(
)]'()'()'()'([
']'
)'()'(
'
)'()'(['
'
))'(),'(())'(),'(('
'
)'()'(
rr
rr
')'( xdxFrr
⋅ を、力 )(xFr
が物体に対して変位 'xdrの間に行った仕事という。ベクトル同士の内積なので、
)(xFr
と 'xdrのなす角度が 90度の場合、ゼロになる。すなわち、仕事量はゼロである。糸につながった
質点が振動・回転運動をする時、糸の張力や回転面の垂直抗力が質点に対して仕事をしない理由は、こ
れである。
次の量
'
)'()'(
dt
txdtF
rr
⋅
は、単位時間当たりの仕事量なので、仕事率という。
さて、 )()(' tFtFrr
−= とおけば、 )(' tFr
は、物体が周囲(床や、斜面など)に対して及ぼす力(作用・
反作用を考えよ)であり、
∫∫∫ ⋅−=⋅=⋅x
x
x
x
t
txdxFxdxFdt
dt
txdtF
r
r
r
r
rrrrrr
r
000
'))'(()('''
)'()'('
は、物体が外力に対して行った仕事である。例えば、重力に抗して質量m の物体を、上向きにh だけ移
動させたとしよう。
mghxxhmgdxmgxdFxh
x
hx
x=−+=⋅=⋅ ∫∫
++])[(' 00
0
0
0
0
rr
を得る。これが重力による位置エネルギーである。これだけの大きさのエネルギーに相当する仕事、を
物体が外界に対して行っている。すると、次の関係式・計算結果:
96
dt
txdtxFdt
dt
txdtxF
dt
dxdxFdt
dt
txdtxF
dt
txdm
dt
d
dt
txd
dt
txdm
dt
txdtxF
dt
txd
dt
dm
dt
txdmtamtxF
t
t
x
x
t
t
)())(('
'
)'())'((,')'('
'
)'())'((
)(
2
)()()())((
)()()())((
000
2
2
2
2
2
rr
rrrr
rr
rrrrr
rrrr
r
r ⋅=⋅⋅=⋅
=⋅=⋅→
===
∫∫∫
を利用して、以下の関係式を得る:
0)'())'((')(
2
)(
)('
2
0
=
⋅+
∫
tx
txtxdtxF
dt
txdm
dt
dr
v
rvrr
2)(
2
dt
txdmr
は仕事と同等の次元を持ち、運動エネルギーという。さて、時間微分がゼロなので、
)()'(')(
2 0
2
一定=⋅+
∫
x
xxdxF
dt
txdm rrrr
すなわち、物体が外力に抗して行った仕事量の分だけ、物体の運動エネルギーが減少する。
例として、重力下の物体の自由落下運動(1 次元の運動)を考える。上向きを+に取り、運動方程式
に dttdy /)( を掛け、式変形をする。
=⋅=→
==−=2
2
2
2
2 )(
2
)()()())((
)()())((
dt
tdym
dt
d
dt
tdy
dt
tydm
dt
tdytyF
dt
tdy
dt
dm
dt
tydmmgtyF
)()(' tFtF −= とおけば、 )(' tF は、物体が周囲に及ぼす力であり、その仕事を計算すると、
2
00
2
0
2)(
2
)()(''
)'())'((')'('
000
=−+
−=+=−= ∫∫∫
dt
dymyymg
dt
dym
yymgdymgdtdt
tdyyFdyyF
y
y
t
t
y
y
を得る。この式を変形すれば、
一定=+
=+
0
2
0
2
22mgy
dt
dymmgy
dt
dym
は、y の値によらず定数である事がわかる。mgy を重力による位置エネルギーという。物体の運動エネ
ルギーと位置エネルギーの和は、一定である。高さ y が低くなると mgy の値は小さくなり、
2/)/( 2dtdym の値は大きくなる。また、物体が重力に逆らって上に上がると、mgy の値は増加するが、
その一方で運動エネルギーは減少し、物体の速度は小さくなる。
確認:重力加速度を ),0( gg −=r
とし、微小変位を ),( dydxxd =r
とおく(上向きを正にとる)。仕事は、
)(])(0[)( 0000
yymgdymgdymgdxxdgmy
y
y
y
y
y−==++⋅=⋅− ∫∫∫
rr
となり、上下方向の積分にのみ依存する(mgdy の項の積分のみが寄与。上下移動しても、相殺してゼ
ロになる。)ため、物体がどのような移動経路をとっても、この結果はかわらない。このような力を保
存力という。なお、位置エネルギーの値は、どの高さを高さの基準に取るかで、物体の高さは同じでも、
見かけ上異なる値になる。
97
力学的エネルギーの、ベクトルと微積分を使った説明 その 2
重力下での 2次元空間での物体の運動(ボール投げ)
質量m の物体には、重力による力 gmrのみが働くとする。物体の位置を )(tx
rとすれば、その速度は
dttxdtv /)()(rr
= であり、運動方程式は、次の式で与えられる。
dt
tvdmgm
)(r
r=
運動方程式の両辺それぞれに対して )(tvr
との内積をとり、式変形を行うと、
定数 =⋅−→=
⋅−→
=⋅→⋅=⋅→⋅
=
)()(2
0)()(2
)(2
)()(
)()()(
)(
22
2
txgmtvm
txgmtvm
dt
d
tvm
dt
d
dt
txdgmtv
dt
tvdmtvgmtv
dt
tvdmgm
rrrrrr
rr
rrr
rrrr
r
となる。これが、この問題での力学的エネルギー保存の式である。
簡単な計算をしよう。物体の運動を 2 次元での運動に制限し、座標軸の向きは、水平右向きを(+)
方向、鉛直上向きを(+)方向にとる。すると、力や速度などのベクトルを ),( 座標成分座標成分 yx の
成分表示で書けば、物体の速度 ))(),(()( tvtvtv yx=r
であり、 ),0( gmgm −=r
となる。時刻 0=t において、
基準面の高さ(高さ=ゼロ) )0,()0( 0dx =r
に物体があり、その時の物体の速度の大きさを 0v とする。時
刻 t では物体が位置 ),()( 1 hdtx =r
にありその時の物体の速度の大きさが vであるとして、 vを求めよう。
なお、 gmrは水平方向の成分がゼロであるため、内積 )(txg
rr⋅ の値は、物体の位置 )(tx
rの水平成分の値
に関係がない。さて、先ほど導出した力学的エネルギー保存の式を利用すると、
ghvvvm
mghvm
dgmvm
hdgmvm
222
)0,(),0(2
),(),0(2
2
0
22
0
2
0
2
01
2 −=→=+→⋅−−=⋅−−
となり、水平方向の位置に関係なく、物体の鉛直方向の高さの変化に応じて、速度の大きさ vが求まる。
重力下での、斜面上を移動する物体の運動
斜面と物体との摩擦はないとする。質量m の物体の運動方程式は、次の式で
与えられる。
dt
tvdmgmtN
)()(
rrr
=+
座標軸の向きは、水平右向きを(+)方向、鉛直上向きを(+)方向にとる。ここで、 ),0( gmgm −=r
は
質量 m の物体にかかる重力による力、 )(tNr
は斜面から物体に加わる垂直抗力であり、物体の位置を
)(txr
として dttxdtv /)()(rr
= と直交( 0)()( =⋅ tvtNrr
)する。(物体が斜面を押す力のベクトルは省略。)
運動方程式の両辺それぞれに対して )(tvr
との内積をとり、式変形を行う。
=⋅=⋅+⋅→⋅
=+ 2)(2
)()(
)()()()()(
)( tvm
dt
dtv
dt
tvdmtvgmtvtNtv
dt
tvdmgmtN
rrr
rrrrrr
rr
ここで 0)()( =⋅ tvtNrr
を利用すると、
Nr
gmr
gmr
98
定数=⋅−→
=
⋅−→
=⋅+→
=⋅+⋅
)()(2
0)()(2
)(2
)(0)(
2
)()()(
2
222
txgmtvm
txgmtvm
dt
dtv
m
dt
d
dt
txdgmtv
m
dt
d
dt
txdgmtvtN
rrr
rrrrr
rrr
rrr
となる。これが、この問題での力学的エネルギー保存の式である。
斜面上の物体の運動でも、自由空間でのボール投げと全く同じ力学的エネルギー保存の式が得られた。
これは偶然ではない。物体が斜面や糸、円筒などで拘束された運動(斜面に沿った運動、糸にぶら下が
った円運動(後で扱う)など)の場合、斜面・円筒から受ける垂直抗力や糸の張力 )(tNr
は物体の速度
ベクトル )(tvr
と直交( 0)()( =⋅ tvtNrr
)する。そのため、力ベクトル )(tNr
は物体に対して何の仕事もし
ない。よって、自由空間での運動と同じ力学的エネルギー保存の式が得られる。
簡単な計算をしよう。物体が斜面に沿って上向きに速さ 0v を持っているとしよう。力学的エネルギー
保存の式には斜面の角度はあらわに出てこない。位置に関係する量は、ベクトルの内積 )(txgrr
⋅ である。
物体の位置ベクトルをそれぞれ )0),0(()0( dx =r
、 )),(()( hhdtx =r
とする。grは鉛直方向の成分のみを持
つベクトルなので、物体の位置 )(txr
の水平方向の成分の値は、内積 )(txgrr
⋅ の値には関係しない。時刻
0=t において )0,()0( 0dx =r
に物体があり、その時の物体の速度の大きさを 0v とする。時刻 t では物体
が位置 ),()( 1 hdtx =r
にありその時の物体の速度の大きさが vであるとして v を求めると、力学的エネル
ギー保存から、
ghvvvm
mghvm
dgmvm
hhdgmvm
222
)0),0((),0(2
)),((),0(2
2
0
22
0
22
0
2 −=→=+→⋅−−=⋅−−
となり、物体の高さの変化に応じて速度 vの大きさが求まる。ボール投げの場合と全く同じある。
物体と斜面との間に動摩擦力が働く場合の、斜面上を移動する物体の運動
次に動摩擦力が働く場合の、斜面上での物体の運動、とくに力学的エネルギーを考えよう。
物体の速度 0)(rr
≠tv および 0)(rr
=tv の時、 )(tvr
と同じ向きの単位ベクトルを
=
≠=
)0)((0
)0)(()(/)()( rrr
rrrrr
tv
tvtvtvtev
で定義する。運動方程式は、以下のように書かれる。
dt
tvdmteNgmN v
)()('
rrrr
=−+ µ
座標軸の向きは、2次元の運動を想定し、水平右向きを(+)方向、鉛直上向きを(+)方向にとる。(注
意:3次元空間の運動を想定しても、ここで行われる議論は成り立つ。ベクトルを 3次元ベクトルと解
釈しなおせばよい。)ここで、 ),0( gmgm −=r
は質量m の物体にかかる重力による力、 )(tNr
は斜面から
物体に加わる垂直抗力であり、物体の位置を )(txr
として dttxdtv /)()(rr
= と直交( 0)()( =⋅ tvtNrr
)する。
NNr
= ( Nrは N
rの大きさの事)である。動摩擦力(動摩擦係数 'µ )は速度の向きと反対向きなので、
)(tev
rを用いて、 )(' teN v
rµ− と書ける。運動方程式の両辺それぞれに対して )(tv
rとの内積をとる。
)()(
)()(')()()()(
)(' tvdt
tvdmtvteNtvgmtvNtv
dt
tvdmteNgmN vv
rr
rrrrrrrr
rrr⋅=⋅−⋅+⋅→⋅
=−+ µµ 。
Nr
gmr
)(' teN v
rµ−
)(tvr
99
ここで、dt
txdtvtvtetvN v
)()()()(,0)(
rrrrrr
==⋅=⋅ に注意すると、上の式は次のように変形される。
⋅−=−→=−⋅+ )()(2
)(')()('
)(0 22 txgmtv
m
dt
d
dt
txdNtv
dt
dmtvN
dt
txdgm
rrrr
rrr
rµµ
最後の式の右辺は、「物体の運動エネルギーおよび位置エネルギーの和」の単位時間当たりの変化量で
ある。左辺は、動摩擦力による単位時間当たりの仕事(単位時間dt で距離 )(txdr
移動する)である。(問
題では、斜面の角度をθ とすれば、 0cos >== θmgN 定数 である。)
ここで ))(),(()( tytxtx =r
(水平方向および鉛直方向の 2次元ベクトルで )(txr
を表わす。)とおけば、
=='
)'(,
'
)'())(),(()(
dt
tdy
dt
tdxtytx
dt
dtx
r
となる。そこで左辺の動摩擦力の項を時間 t→0 まで積分すると、 N は定数なので、
∫ ∫∫
+
−=−=−t tt
dtdt
tdy
dt
tdxNdt
dt
txdNdt
dt
txdN
0 0
22
0
''
)'(
'
)'(''
'
)'(''
'
)'()'( µµµ
rr
を得る。この積分(仕事)では、物体の位置 )'(txr
が時間によってどのような位置を取るか、すなわち
物体が移動する道順が重要になる。この積分値は、「斜面を上ってある場所に到着する場合」と、「斜面
を上ってその場所を行きすぎ、上のほうから降りてきてある場所に再び到着する場合」では、当然なが
ら値が異なる。物体の運動方向に依存する力が加わる場合は、力学的エネルギーは保存せず、その値も、
物体がとる道順により大きく変わる。しかしいずれの場合でも、また垂直抗力に時間依存性がある場合
( )(tNN = なら、定数でなくなるので、積分の中に入れたままにする。)でも、垂直抗力 0>N である
ので、積分値(動摩擦力による仕事)は負の値になる。よって、動摩擦力が働く場合、力学的エネルギ
ーは、下の式が示すように、減少する。注意:一番左の式は負の値をとる。
0)}0()0(2{)}()(
2{'
'
)'(' 22
0
<⋅−−⋅−=− ∫ xgmvm
txgmtvm
dtdt
txdN
trrrrrr
r
µ
摩擦のある水平面での物体の運動
摩擦のある斜面上の物体の運動での結論は、摩擦のある水平面での運動にも当てはまる。水平面上で
の物体の運動では、高さが変化しない。よって、斜面の問題で得られた力学的エネルギーに関する式に
おいて 0)( =⋅ txgmrv
と置く(物体の高さの変化なし)事で、力学的エネルギーに関する次の式を得る。
0)0(2
)(2
''
)'(' 22
0
<−=− ∫ vm
tvm
dtdt
txdN
trr
r
µ
この式は、動摩擦力による仕事により、運動エネルギーが減少する事を示す。動摩擦力や空気の抵抗な
ど、動いている物体の動きを妨げようとする力が働けば、それらの力による仕事の量だけ、物体の持つ
力学的エネルギーは減少する。
なお、ここでは、斜面が固定されている場合を考えた。斜面が固定されず移動可能な場合は、多少複
雑になる。しかし、ベクトルと微積分を用いれば、力学的エネルギーに関係する式(動摩擦力がない場
合は力学的エネルギーが保存され、動摩擦力がある場合は摩擦力による仕事の量だけ力学的エネルギー
が小さくなる事)を導く事ができる。詳しくは、「質点系の力学の総合問題」の、例題 3,5を参照。
100
これまでのまとめ 運動量と力学的エネルギー
・力学的エネルギーの保存
質量m の物体に力 F が働くとき、物体の位置、速度、加速度をそれぞれ avx ,, として、運動方程式は、
2
2
dt
xdm
dt
dvmmaF ===
で与えられる。この式の両辺に速度 vを掛けると、
=→=→
==
=2
2
2 22,2
vm
dt
d
dt
dxF
dt
dvm
dt
dxF
dt
dxvv
dt
dv
dt
dv
vdt
dvmFv
両辺を時間で積分する。左辺は、 0)0(,)( xxxtx t == とすれば、
∫∫ =xt
x
t
dxxFdtdt
dxtxF
00
')'(''
))'((
これは、物体に対して 0)0( xx = から txtx =)( まで行った仕事である。一方右辺は、
22
0
2 )0(2
)(2
'2'
vm
tvm
dtvm
dt
dt
−=
∫
となり、運動エネルギーの差になる。よって、
∫∫ +=→−=xt
x
xt
x
dxxFvm
tvm
vm
tvm
dxxF0
2222
0
')'()0(2
)(2
)0(2
)(2
')'(
が成り立つ。これは、物体が受けた仕事の量だけ、運動エネルギーが増加する事を示す。
もし力 F が、dx
xdVF
)(−= (このような時、力は保存量という)で与えられていれば、
)()(''
)'(')'( 0
00
xVxVdxdx
xdVdxxF t
xt
x
xt
x
+−=−= ∫∫
となり、物体にする仕事は、 0x から tx までの物体のたどる経路に関係なく、始点と終点との、位置だ
けの関数である。また、仕事量と運動エネルギーの変化量が等しいので、
)()0(2
)()(2
)()()0(2
)(2
0
22
0
22 xVvm
xVtvm
xVxVvm
tvm
tt +=+→+−=−
が成り立つ。すなわち、
)()(2
2
txVtvm
+
は一定の値である。第 1項は運動エネルギーであり、第 2項は、位置エネルギーである。これらをまと
めて、力学的エネルギーという。このように、外部から物体に働く力が、物体の位置のみの関数で与え
られる場合、物体の力学的エネルギーは保存する。
101
・運動量の保存
質量 21,mm の物体の速度および物体 21,mm に働く力ををそれぞれ )(),( 21 tvtv 、 )(),( 21 tFtF とする。そ
の時、運動方程式は、
dt
tdvmtF
dt
tdvmtF
)()(,
)()( 2
221
11 ==
で与えられる。ここで 2つの運動方程式を左辺同士、右辺同士を足し合わせると、以下の式を得る。
dt
tdvm
dt
tdvmtFtF
)()()()( 2
21
121 +=+
さて、物体 21,mm が互いに力を及ぼしあい、それ以外の力は物体に働かないとする。すると、力
)(),( 21 tFtF は互いに作用・反作用の関係にある力なので、
0)()()()( 2121 =+→−= tFtFtFtF
の関係が成り立つ。よって
dt
tdvm
dt
tdvmtFtF
)()()()(0 2
21
121 +=+= 。
この式を時間積分すると、
)0()0()()(
)}0()0({)}()({0')'()'(
'00
22112211
22112211
0
22
11
0
vmvmtvmtvm
vmvmtvmtvmdtdt
tdvm
dt
tdvmdt
tt
+=+→
+−+=→
+=⋅= ∫∫
となる。 iivm は運動量なので、上の式は、内力が働く(作用・反作用の関係にある力が 2つの物体に働
く)場合、2 つの物体の運動量の和が保存される事を示す。この式で重要なのは、作用・反作用の関係
にある力にたとえ時間変化がある( )(),( 21 tFtF )場合でも、運動量保存の式が成り立つ事である。
上の積分では、時間領域を t~0 にとったが、2 つの物体が互いに力を及ぼしあっている時間内なら、
例えば tt << 10 となるような時刻 1t を t の換わりに用いて、
)0()0()()(')'()'(
'00 2211122111
0
22
11
0
11
vmvmtvmtvmdtdt
tdvm
dt
tdvmdt
tt
+=+→
+=⋅= ∫∫
をえる。互いに力を及ぼしあっている最中でも、運動量の保存が成り立っている。
ポテンシャルエネルギー(位置エネルギー、ばねの弾性エネルギーなどの総称)の話
仕事の定義からの、ポテンシャルと力との関係の考察
簡単のため、直線上の物体の運動で考えよう。運動方程式の両辺に'
)'(
dt
tdxをかけて時間積分すれば、
∫∫ =→=t
t
t
tdt
dt
tdx
dt
txdmdt
dt
tdxtxF
dt
txdmtxF
00
''
)'(
'
)'('
'
)'())'((
)())((
2
2
2
2
が得られる。力の積分は、
∫∫∫ ==x
x
tx
tx
t
tdxxFtdxtxFdt
dt
tdxtxF
000
')'()'())'((''
)'())'((
)(
)(
102
となり、もはや時間によらず、位置のみの関数である。物体が外に対してどれ位の仕事をするかが、物
体の持つ位置エネルギーなので、外部からされた仕事に-符号を掛けることで、 )(xF に起因した物体
のエネルギーの大きさが与えられる。そこで次の量が位置 0, xx のみの関数と仮定し、
∫−=x
xdxxFxU
0
')'()(
と定義すれば、
dx
xdUxF
xxFdxxFxdx
xdU
dxxFdxxFxUxxU
xx
x
x
x
xx
x
)()(
)(')'()(
')'(')'()()(00
−=
∆−=−=∆
+−=−∆+
∫
∫∫∆+
∆+
の関係が得られる。 )(xU をポテンシャルエネルギーと言う。これは、位置エネルギーやばねの弾性エ
ネルギーから、力が得られる事を示す。さらに、力がその位置だけで決まれば、力学的エネルギーの 1
つとみなせる事を示す。この場合、力学的エネルギーの保存式を用いて、物体の運動を議論する事が可
能である。
例 1 ポテンシャルの話 斜面上の物体の運動
摩擦のない角度θ の斜面の質量m の物体の運動を考える。斜面の一番下の位置からの変位を z とすれ
ば、水平、垂直方向の位置は )sin,(cos θθz で表せる。物体が斜面上で、まっすぐな運動をするとすれ
ば、物体の速度は dtdzv /= で与えられる。
重力による物体に働く力は ),0( mggm −=r
で与えられ、位置のみの
関数(定ベクトル)なので、この力は保存力になる。重力に逆らっ
て物体がする仕事(位置エネルギー)は、力が一定なので、
θθθ sin)sin,cos(),0()( mgzzzmgzgmzV =⋅−−=⋅−=rr
。
または、微小移動距離ベクトルが )sin,cos( θθ dzdzzd =r
で与えられるので
θθθθ sinsin)sin,cos(),0()(00
mgzdzmgdzdzmgzVzz
==⋅−−= ∫∫
で与えられる。運動方程式は、
θsin)(
2
2
mgdt
zdm
dz
zdV
dt
dvm −=→−=
となり、摩擦のない斜面での物体の運動方程式を得る。
例 2 ポテンシャルの話 重力下での物体の運動
水平方向を x 、垂直方向を z に座標を取る。水平の基準面から計って、垂直方向に高さ z での物体の
持つ位置エネルギーは、 mgzzV =)( である。物体の運動方程式は
mgz
zV
dt
zdm
x
zV
dt
xdm −=
∂∂
−==∂
∂−=
)(,0
)(2
2
2
2
となり、重力下での物体の運動方程式を得る。
z
θ
103
9) 水平面上での回転運動
等速円運動 半径 rの平面上での回転運動
糸でつながれた質量mの物体が、半径 rで、一定の速さ vで回転する運動を考えよう。
まず、速度の向きは、物体の位置での、円に接する方向になる。右図で矢印のスタート地点 P(時刻
0=t での物体の位置としよう)と、矢印の先 P’(時刻 tt ∆= での物体の位置としよう)との 2 点を結
ぶ直線を考えると、その矢印の向き(Pから P’の向き)(ベクトル )( ts ∆r
と
しよう)が、矢印のスタート地点から矢印の先までの、物体の変位と考え
られる。 t∆ の値が小さくなるにつれ、図で左方向に傾いていた矢印は、
だんだん上を向くようになる。
矢印の向きは、 0→t∆ になる極限では、赤い矢印のような、曲線に接
した向き(接線の向き)になる。すなわち、等速円運動(半径が一定の円
周上を移動する物体の回転する速さが、時間によらず常に一定の値を取る
運動)では、物体の速度は、物体の位置で円に接する方向になる。
速度の向きが分かったので、次に速度の大きさを考える。時間 t∆ の経過で、半径 rの円周上で角度
θ∆ (radian)だけ回転し、点 Pから点 P’へ移動したとしよう。すると、変位の量(移動距離)は θ∆∆ rx =
である。よって速さvは
ωθθ
rt
rt
r
t
xv
ttt=
∆∆
=∆∆
=∆∆
=→∆→∆→∆ 000
limlimlim
で与えられる。ここで
tt ∆∆
=→∆
θω
0lim
を角速度という。
続いて、加速度の向きを考える。図の 5つの速度の向きを考え、
それら速度で与えられる平均的な加速度を最初に考えよう。
赤-緑の速度ベクトルの組では、加速度の向きは、左方向から
少し上向きの方向となる。緑-紫の速度ベクトルの組では、加速
度の向きは左方向から少し下向きの方向となる。オレンジ-青の
速度ベクトルの組では、加速度の向きは、左方向を向かう。こ
のように考えると、緑の速度ベクトルを持つ物体の位置での加
速度は左方向、すなわち円の中心を向かう事がわかる。これら
の考察から、経過時間が十分小さい極限を考えると、物体がも
つ加速度は、常に円の中心を向かう事がわかる。力は加速度と同じ
方向を向くので、物体に働く力も中心方向に向かう。この力を、向
心力という。
加速度の大きさは、速度の大きさを求めた場合と同じにすれば、
求まる。半径vの円周上で、時間 t∆ 経過で、角度 θ∆ (radian)だけ
回転し、点 P から点 P’へ移動したとしよう。すると、変位の量は
θ∆∆ vv = である。よって加速度aは
1
2
3
4 5
1-3 2-4 3-5
P
P’
o
θ
r
P
P’
o
θ
v
104
r
vv
tv
t
v
t
va
ttt
2
000limlimlim ==
∆∆
=∆∆
=∆∆
=→∆→∆→∆
ωθθ
で与えられる。
物体が円の外に出ようとして、糸を力 f で引っ張る。その力
に対する反作用として糸の張力T が生じる。この張力T が物体
を円運動させる力(向心力)になる。よって、
r
vmmaT
2
==
の関係が成り立つ。
等速円運動の時、物体に働く力が常に円の中心を向く理由
等速円運動の場合、物体に加わる力は常に物体の運動方向に対して垂直方向、回転の中心方向を常に
向く。なぜか、次のような考察で納得しよう。
仮に物体の速度ベクトル方向と平行な力の成分があればどうなるか?物体が円運動しているとして、
物体の速度ベクトルと平行な方向(//)、および垂直な方向(⊥)の 2つに運動を分解して考える。
////://
:
maF
maF
=
=⊥ ⊥⊥
物体の速度ベクトルと垂直方向では、
m
FamaF ⊥
⊥⊥⊥ =→=
の関係により、円運動において、その中心方向の速度成分を持つような、絶えず物体が円の中心に引っ
張られる運動をする。一方、接線方向の運動方程式から、
m
FamaF //////// =→= 。
すると、微小時間 t∆ の後、円に対して接線方向の速度は、
tm
Ftvtatvttv ∆∆∆ //
//// )()()( +=⋅+≈+
となる。よって、もし 0// ≠F であれば、 //F の符号に応じて、接線方向の速度が増加、ないしは減少す
る。これは、物体が円周上を回転する速さすなわち角速度が変化する事を意味する。物体の運動は、等
速円運動ではなくなる。よって、物体が等速円運動をする場合、物体に働く力(物体に働く全ての力の
和)は、常に円の中心に向かっていなければならない。
中心軸周りの、等速とは限らない場合の、回転半径が一定の円運動(まとめ)
さて、ここまで来て、回転半径が一定な物体の運動の全体を理解出来る所まで来た。等速回転運動お
よび単振動の力学をおさらいし、回転半径 r=一定での運動(角速度の時間変化を許容する)について、
考えよう。
半径 rの円周上での運動を考える。単振動での話を回想する。大きさゼロの物体は、半径 rの円周上
を動く。速度ベクトルは、常に接線方向である。図を描いて考えてみよう。物体の円周上の質点の位置
T f
F⊥
F//
105
を適当な基準点(上下運動なら、例えば、最下点)を決めて )(ts とする。物体の位置と角度 )(tθ との間
には、 )()( trts θ⋅= の関係がある。さて、物体がある角度 θ∆ 回転した場合の移動距離は θ∆∆ ⋅rs ~ で
ある。回転する前と後の2点間を結ぶ方向が、速度の向きである。 θ∆ が十分小さければ、速度の向き
は、質点の弧に接する接線の方向になる。よって速度の大きさを )(tv とすれば、
ω∆θ∆
∆∆
∆θ∆∆∆∆∆
rt
tr
t
tstvtrtstv
tt===→=
→→
)(lim
)(lim)(//~)(
00
となり、速度の向きは、接線方向になる。ここで、
tt ∆θ∆
ω∆ 0lim
→=
を、回転の角速度と言う。
続いて加速度を求める。まず、接線方向の加速度成分 )(// ta を求める。速度の接線方向の変化量(加
速度の接線方向の大きさ)は、位置 )(ts の時間的変化を評価すればよく、半径 rの円周上での運動なら、
2
2
//
)(~
)(~)(
dt
dr
dt
dr
dt
d
dt
ds
dt
d
t
ts
tt
tvta
θθ=
=
=
∆
∆∆∆
∆∆
となる。ここで、θ の変化は、反時計回りを(+)にとった。
一方、垂線方向の加速度の大きさは、次のようにして求ま
る。速度の大きさ半径 vの円周上で、時間 t∆ 経過で、角度
θ∆ (radian)だけ回転したとしよう。すると、変位の量は
θ∆∆ vv = なので、加速度 ⊥a は
r
vv
tv
t
v
t
vta
ttt
2
000limlimlim)( ==
∆∆
=∆∆
=∆∆
=→∆→∆→∆
⊥ ωθθ
で与えられる。 ⊥a の向きは、回転運動の中心方向である。加速度の向きは図のとおり。
一定の回転半径での円運動で、向心力がする仕事
回転半径が一定の円運動の場合、物体に働く力は、回転中心を向く向心力だけである。一方物体の速
度は向心力と常に垂直の角度をなす。よって、向心力が物体になす仕事の大きさは、常にゼロである。
よって、物体の運動エネルギー 2/2/ 22 ωmrmv = は時間に関係なく一定である。
もし物体の速さが時間的に一定でなければ、物体の速さが変化するため、物体の運動方向に沿った(向
心力と垂直の方向)力の成分を持つ。その場合、物体に働く力は物体に対して仕事をする。しかしこの
場合でも、向心力は物体の速度方向と垂直のため、向心力自体は物体に対して仕事をしない。
等速ではない円運動の問題での、加速度・向心力の大きさ
糸(単振り子の問題)や円筒などに運動方向を束縛され、円運動(正確には円周上のある範囲を移動)
する物体の運動を調べる問題が良く出される。角速度が一定ではない円運動の問題を解く場合に、「あ
る瞬間の運動が、等速円運動で記述できる」と見なす記述(考え方)がよく見られる。この考えを用い
て、面から物体が受ける垂直抗力や糸の張力を求める設問がある。しかし、本当にそのように見なせる
のだろうか?なぜなら、実際の物体の運動は、微少な時間領域であっても、しばしば等速円運動ではな
いからである。はっきり言えば、速度の微分(微少な時間領域での速度の変化の割合)が加速度なので、
∆θ
r
va
dt
dra
2
2
2
//
=
=
⊥
θ
106
微少な時間であっても等速運動とはみなせない。この辺りの疑問をすっきりさせたい。
この答えは、実は既に得られている。すぐ上の議論で、回転半径が一定の円運動での、加速度の大き
さを求めた。それによると、物体の回転中心方向の加速度は、その回転運動が等速であるかどうかに関
係なく、 rv /2で与えられる。よって、物体の質量をmとすれば、回転中心に向かって働く物体に働く
力は rmv /2である。
では、円運動の接線方向の運動は、どのように考えるのか?重力などの力が円の接線方向の成分を持
てば、円運動の接線方向の加速度が生じる、と考えよう。回転半径が一定の場合、この力により、角速
度に時間変化が生じる。
例題 1 長さの変化するばねでの回転運動
図(a)のように、水平に置かれた滑らかなパイプ P がある。P
は(重力の向きと平行である)鉛直軸 R の周りに回転する事が
できる。P の中に、ばね定数 kのばねが、点 O で固定されてい
る。このばねは伸び縮みの無い(自然長)状態で長さ 0r である。
ばねの他端には質量mの物体 A が取り付けられている。P の回
転の角速度ω の時間変化は図(b)に示すとおりである。物体 Aの
回転軸からの距離 OAを rとし、ばねの質量と物体の大きさは無
視できるとして、次の問に答えよ。
(1) 物体 Aを回転運動させる力を何と呼ぶか?
(2) 回転の角速度ω が変化している間の、単位時間当たりの角速
度の変化を求めよ。
(3) 一定の角速度 1ω になった状態でのばねの長さ 1r を求めよ。
解説と解答
(1) 物体 Aが回転運動するため、ばねが物体 Aを引く。この力を向心力という。その反作用として
物体がばねを引き、ばねの長さが変化する。
(2) 角速度の加速度 ',ββ は、図より、 )0( 1tt << では、1
1
1
1
0
0
tt
ωωβ =
−−
= 、 )32( 11 ttt << では、
1
1
11
1
23
0'
ttt
ωωβ −=
−−
= 。
(3) ばねの伸びる方向での、向心力による物体 Aの運動方程式から 1r は、
2
1
0101
2
1
2
1101 )()(ω
ωωmk
krrkrrmkmrrrk
−=→=−→=− 。
例題 2 円運動と摩擦力
ある中心 Oの周りに、水平に回転する円板があり、その上に大きさの無視
できる物体が載っている。円板と物体との摩擦係数はµ である。この円板の
回転の角速度が T/2πω = の時、物体が滑り出さないためには、円板のどの
r
R
A O
(a)
P
0 t1 2t1 3t1
ω1
(b)
107
範囲にいる事が必要か?
解説と解答
物体が円板上で等速回転運動をする時、その向心力は、物体と円板との摩擦力により与えられる。文
字式での計算のため、計算に必要なパラメーター(文字)を決めよう。
質量m物体が円板の中心から距離 rの位置にあり、円板が角速度ω で回転している時、物体が円運動
するために、物体と円板との静止摩擦力が向心力となる。もしも向心力が最大静止摩擦力よりも大きく
なれば、物体は円板上を滑り始める。滑り始める直前の運動方程式は、静止摩擦力の最大値 mgf µ= が
向心力となるので、
22
2
ωµ
ωµ
ωµg
m
mgrmrmgf ==→== 。
この半径よりも内側であれば、物体は滑り出さない。もしもこれよりも外側に物体がいれば、円運動の
ために必要な向心力が最大静止摩擦力よりも大きくなるため、物体は円板上を滑り出す。
例題 3 物体の摩擦のある面内での回転運動
水平な板にあけた小さな穴 O に糸を通し、その一端に質量
mの大きさの無視できる物体 Aをつなぎ、板の上に置く。糸
の他端には質量M のおもり Bをつるす。糸と穴との間には摩
擦はない。重力加速度を gとして、以下の問に答えよ。
(1) 物体 Aと板の間には摩擦が無く、図 1のように物体 Aは
穴を中心とする半径 rの等速円運動をする。その時の物体 A
の速度(速さ)を求めよ。
(2) 物体 Aと板との間に摩擦があり、その静止摩擦係数をµ
とする。板をとめ、Aを静かに離すと、物体 Aは穴に向かっ
て動くとする。さて、図 2のように穴を中心として板を水平
面内で角速度ω で回転させ、Aを板の上に置くと、物体 Aは
板に対して静止した。A と板の穴との距離を rとして、A が
板に対して静止するため、ω がとるべき範囲を求めよ。
解説と解答
(1) 物体 Aの速さを 1v とすると、半径 rの等速回転運動の向心力が、糸の張力T (おもり Bによって
糸が引っ張られるので、糸の張力はおもり B にかかる重力と等しい、)によって与えられる。よって糸
の張力方向の運動方程式から、次のように求まる:
m
Mgrv
m
Mgrv
r
vmMgT =→=→== 1
2
1
2
1)( 。
(2) 物体mの最大静止摩擦力は、おもり B の重力による糸を引っ張る力よ
りも小さいので、 Mgmg <µ
が成り立つ。
さて、板の回転速度が十分遅ければ、物体 Aはおもり Bの糸を引っ張る
A
O
B
図1
A
O
B
ω 図2
Mg
T
T
mg
µmg
108
力T に負け、回転中心 O に近づく(板が静止している、極端な場合を考えよ。)。よって物体をある大
きさの半径で等速回転運動を続けさせる(板から見れば、物体は板の上で静止状態)ためには、物体 A
と板との間の摩擦力が、おもり B が糸を介して物体 A を引っ張る力T と逆方向に加わり、物体が回転
中心 Oに引きこまれないようにする必要がある。「おもり Bが糸を介して物体 Aを引く力」と摩擦力と
の合成された力が、物体の回転運動の向心力になる。
この向心力を生むための角速度の最小値を minω とすれば、静止摩擦力は最大静止摩擦力になっている。
右図より、運動方程式は以下のようになり、
gmr
mMmr
r
vmmgMgMgT
)(, 2
min
2
min
2 µωωµ
−=→==−=
この角速度が、最低の値である。
一方、物体Aの回転半径が一定のままで板の回転速度が大きくなると、
物体Aが等速回転運動をするため、必要な向心力の大きさが大きくなる。
「おもり B が糸を引く力Mg」だけでは向心力の大きさとして十分でな
ければ、不足分を別の力で補う必要がある。物体 A と板との間の摩擦力
で補わなくてはならない。(ところで、物体の運動方向と、物体に加わる
力の向きとは、必ずしも一致しない事は、既に幾つかの例で見てきた(ボ
ール投げとか)。)そこで、静止摩擦力の力の向きは、物体から回転中心の方向を向く。(この時、作用・
反作用の関係で、板には、回転の中心方向と逆方向に、摩擦力による力が加わっています。)
この円運動で、摩擦力が最大静止摩擦力の時の角速度が角速度の最大値である。それを Maxω とすれば、
運動方程式は、次のようになり、角速度の最大値が求まる。
gmr
mMmr
r
vmmgMg MaxMax
)(222 µ
ωωµ+
=→==+
よって、角速度ω の範囲は、以下のとおり。
gmr
mMg
mr
mMMax
µω
µωωω
+≤≤
−→≤≤min
Mg
T
T
mg
µmg
109
円すい振り子
糸の上端を固定し、下端に質量mの物体をつるして、この物体に水平な円を描くように運動させると、
糸は鉛直線と一定の角度θ を保ちながら円運動をする。この運動を円すい振り子の円運動という。円す
い振り子の運動も、円運動なので、向心力が働く。円運動の回転半径は、糸の長さを Lとすれば、図よ
り θsinL である。糸の張力の回転方向と平行な成分(向心力を与える)は θsinT である。よって回転
の中心方向の運動方程式は、
θθ
sinsin
2
TL
vm = 。
また、物体は、その高さを変える事がなければ、糸の張力と重力がつりあ
う様な関係になっている。(もし釣り合いが取れていなければ、垂直方向の、
物体の移動が生じるはず。)これを式で表すと、
mgT =θcos
となる。この円錐回転運動の角速度をω とすると、 ωθ ⋅= sinLv なので、
θω
θω
θθ
θωθ
θ
θθ
coscoscos
sin
sin
)sin(
cos
sinsin
22
2
L
g
L
gmg
L
Lm
mgT
TL
vm
=→=→=⋅
→
=
=
となる。これより回転の周期は
g
L θπ
ωπ cos
22
=
となる。
例題 1 円すい振り子
長さhの糸に、大きさの無視できる質量mの物体をつけて、天井のある点
に吊り下げ、円すい振り子にした。糸は伸び縮みしないが、質量 m2 以上の
おもりを静かに糸に吊り下げると、切れる。重力加速度を gとして、以下の
問に答えよ。
(1) 糸の傾きが円直線から 1θ で、物体mが水平面内で等速円運動をした。こ
の時の物体の角速度 1ω 、周期 1T 、糸の張力 1F を求めよ。
(2) 物体の円運動の速度を非常にゆっくり(速さの時間変化が無視できる程度に)増加させたところ、
糸の張力が強さの限界値になり、糸が切れた。その瞬間(糸が切れる直前)の、糸の傾き 2θ と物体の
角速度 2ω を求めよ。
(3) 糸が切れた瞬間の物体が持つ 3つの速度成分の大きさを求めよ。すはわち、回転運動の接線方向 TV 、
法線方向 NV 、および鉛直下向き VV の 3つの成分の大きさを求めよ。
解説と解答
(1) 物体が等速円運動をするために、回転中心に向かう向心力が物体に働く必要がある。図において、
糸の張力の円運動の回転中心に向かう成分が、物体の運動の向心力を与える。また、運動方向が、水平
方向の円運動(鉛直方向の変位がない)なので、糸の張力と物体に加わる重力による、垂直方向の力の
θ
θ
mg
T
110
つい合いは保たれている。円運動の回転半径 rは 1sinθhr = で与えられる。運動方程式、および力のつ
りあいの式から、
g
hT
h
gmgF
h
g
mh
mg
mh
F
mgF
mgF
mhmrF
1
1
1
1
1
1
1
111
112
1
1
1
11
2
11
2
111
cos2
2,
cos,
cos
coscossin
sin
cos
cos
sinsin
θπ
ωπ
θω
θ
θθθθ
ω
θ
θ
ωθωθ
====→
===
=
→
=
==
を得る。
(2) 糸が切れる瞬間(直前)の糸の張力を mgF 22 = とし、その時の円運動の糸の傾きの角度および角
速度を、 22 ,ωθ とする。(1)と同様に運動方程式と力のつりあいの式を書くと、以下の値を得る。
=→===
==→==
→
=⋅=
=⋅=
h
g
h
g
mh
mg
mh
F
mg
mg
mgmgF
mhmgF
222
sin
sin
603/2
1
2cos
cos2cos
sinsin2sin
2
2
222
2
22
222
2
22222
ωθθ
ω
πθθ
θθωθθθ
度
(3) 糸が切れた直後の速度は、糸が切れる直前の等速円運動を行っている時の速度と同じと見なす。等
速円運動において、速度成分は、円の接線方向のみを持つ。よって、法線方向、および鉛直下向きの速
度成分 NV , VV は、 0== VN VV となる。
一方、回転運動の接線方向の速度 TV は、回転半径と角速度との積で与えられ、
ghh
gh
h
ghhVT
2
32
2
32
3sinsin 22 =⋅=
==π
ωθ
となる。
2次元の極座標表示での、速度と加速度の求め方
次のようなベクトルを用いて、ある点周りの円運動を考えよう。位置ベクトルは、角度θ に依存(よ
って時間が経過すれば、その方向も変わり得る: )(tθθ = )する単位ベクトル )sin,(cos θθ=rer
、 1=⋅ rr eerr
を用い、原点からの距離を rとして、 rrerrr
= と書ける。速度 vrはベクトル r
rの時間微分なので、
dt
dr
dt
dr
dt
rd
dt
d rr
r ee
erv
rr
rrr
+===)(
となる。さて、 1=⋅ rr eerr
の両辺を時間微分すると、
rr
rrr
rrr
dt
d
dt
d
dt
d
dt
de
ee
eeee
e rr
rrr
rrr
⊥→=⋅→=⋅+⋅ 00
となり、2つのベクトル rr
dt
de
e rr
, は、互いに直交する。こ
れを利用し、dt
d rer
を求める。 rerが時間 t∆ 経過して方向を
θ∆ 変えるとすれば、 θ∆θ∆∆ == ||| rr ee|rr
(右上の図を
見る。)である。よって 0=⋅ reerr
θ 、 1=⋅ θθ eerr
となるベクトル θer
を用いて
r = r(cosθ,sinθ)
θ
→
θ
∆θ
rer
θer
rr eerr
∆+
rer
∆
rr
rrrr
∆+vr
θvr
rvr
θ
mg
F1,F2
111
θ
θe
e rr
dt
d
dt
d r =
と書ける。これから、
θθee
ee
erv
rrr
rrr
r
dt
dr
dt
dr
dt
dr
dt
dr
dt
rd
dt
dr
rr
r +=+===)(
となる。ここで、回転半径 rが変化しない円運動を考えよう。
その時の速度ベクトルは、
θθθθeee
eev
rrrr
rr
dt
dr
dt
dr
dt
dr
dt
drr
rr =+⋅=+= 0
となり、速度の向きは、物体のいる点に引かれた接線の向き
になる事がわかる。
続いて、加速度を求める。
dt
d
dt
dr
dt
dr
dt
d
dt
dr
dt
d
dt
dr
dt
rd
dt
dr
dt
d
dt
dr
dt
d
dt
dr
dt
dr
dt
d
dt
d
dt
d
dt
d
rr
r
rr2
2
θθ
θ
θθθ
θ
ee
ee
ee
ee
rra
rr
rr
rr
rr
rrr
+
+++=
+
=
+===
2
2
2
2
また、右下の図が示すように、
rr
dt
d
dt
d
dt
d
dt
de
ee
e rr
rr
θθ θθ −== 、
が成り立つ。以上の関係を用いると、
θ
θ
θθ
θθ
θθ
θθθ
θθθθθ
θθθ
ee
ee
eeee
ee
eea
rr
rr
rrrr
rr
rrr
+
−=
++
−=
−+
+++=
+
+++=
dt
dr
dt
d
rdt
dr
dt
rd
dt
dr
dt
d
dt
dr
dt
dr
dt
rd
dt
d
dt
dr
dt
dr
dt
d
dt
dr
dt
d
dt
dr
dt
rd
dt
d
dt
dr
dt
dr
dt
d
dt
dr
dt
d
dt
dr
dt
rd
r
r
rr
rr
2
2
2
2
2
22
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
1
2
となる。なお、この結果は計算だけでも求まる。次ページを見よう。
さて、円運動では回転半径は一定( 0=dt
dr)なので、
dt
drv
θ= とおくと、
θ
θθθ
θ
θθθθθθ
ee
eeeeeea
rr
rrrrrrr
2
22
2
22
2
22
2
2
2
2 11
dt
dr
r
v
dt
dr
dt
dr
rdt
dr
dt
dr
dt
dr
dt
d
rdt
dr
dt
rd
r
rrr
+
−=
+
−=+
−=
+
−=
θ
∆θ
∆θ
rrrr
∆+
rr
rr eerr
∆+
θθ ∆eerr
+
rer
θer
er
∆θ
er+∆er eθ
ee+∆ee
112
となる。加速度ベクトルの rer成分の符号は(-)である。これは、回転運動の場合、常に回転の中心方
向に向かう力の成分が存在する事を意味する。また、角速度 dtd /θ が時間的に一定の値でなくても、回
転の中心方向に向かう加速度は rv /2で与えられる。くどいようだが、半径 r =一定である円運動では、
角速度が時間的に一定でなくても、回転中心の方向の加速度は、中心を向いて、 rv /2の大きさになる。
加速度を求めるの微分により、速度・))(sin)(),(cos)(( ttrttrr r θθ== errr
まず、 )cos,sin()sin,(cos θθθθ θ −== eerr
、rの時間微分を求める。
( )
( ) r
r
dt
tdtt
dt
td
tdt
tdt
dt
tdtt
dt
d
dt
d
dt
tdtt
dt
td
tdt
tdt
dt
tdtt
dt
d
dt
d
e
e
e
e
r
r
r
r
)()(sin),(cos
)(
)}(sin{)(
),(cos)(
))(cos),(sin(
)()(cos),(sin
)(
)(cos)(
)},(sin{)(
))(sin),((cos
θθθ
θ
θθ
θθ
θθ
θθθ
θ
θθ
θθ
θθ
θ
θ
−=−=
−−=−=
=−=
−==
これらを利用し、速度、加速度を求める。
θθ
eee
eer
vrr
rr
rrr
dt
tdtr
dt
tdr
dt
dtr
dt
tdr
dt
trd
dt
dt r
rr
r )()(
)()(
)())(()( +=+===:速度
θ
θ
θ
θθ
θθ
θθ
θθ
θθθ
θθθ
θθθθ
θθ
θθ
ee
ee
ee
eeee
ee
ee
eeeer
a
rr
rr
rr
rrrr
rr
rr
rrrrr
r
+
−=
++
−=
++
−=
−+
++=
+
++=
+
=
+==
dt
tdr
dt
d
rdt
tdtr
dt
trd
dt
tdtr
dt
td
dt
tdr
dt
tdtr
dt
trd
dt
tdtr
dt
d
dt
td
dt
tdr
dt
tdtr
dt
trd
dt
td
dt
tdtr
dt
tdtr
dt
d
dt
td
dt
tdr
dt
trd
dt
d
dt
tdtr
dt
tdtr
dt
d
dt
d
dt
tdr
dt
trd
dt
tdtr
dt
d
dt
tdr
dt
d
dt
tdtr
dt
tdr
dt
d
dt
dt
r
r
r
rr
rr
rr
)(1)()(
)(
)()(
)()(2
)()(
)(
)()(
)()()()(
)(
]})(
[)(
)()(
)({})()()(
{
})(
)()(
)({})()(
{
)()(
)()()(
)()(
2
2
2
2
2
22
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
:加速度
この式から、物体に働く力が運動の中心方向( rer方向)のみの場合、 0]/)([ 2 =dtdttdrd θ となり、
面積速度 dttdr /)(2 θ =一定が導かれる。これは、万有引力に関するケプラーの法則 IIである。
時間微分は、ある量が時間にどのように依存するか、時間経過に対する変化の割合を示した量を求め
る操作である。よって、幾何学的な考察を行わなくても、正しく計算を行えば、正しい結果が得られる。
しかし、得られた結果がどのような意味をもつのか考えないと、単に計算を行っただけになり、結果か
ら物体の運動がどのようになっているのか、理解する事はできない。特に運動が複雑になればなるほど、
式が何を意味するのか、吟味する事が重要になる。
θ
rr
rer
θer
113
例題 1 長さの変化するばねでの回転運動 速度の大きさ
(この例題は、先の速度 )(tvr
に関する公式を用いての計算であり、微積分を用いる。)
図(a)のように、水平に置かれた滑らかなパイプ Pがある。P
は(重力の向きと平行である)鉛直軸 Rの周りに回転する事が
できる。Pの中に、ばね定数 kのばねが、点 Oで固定されてい
る。このばねは伸び縮みの無い(自然長)状態で長さ 0r である。
ばねの他端には質量mの物体 Aが取り付けられている。Pの回
転の角速度ω の時間変化は図(b)に示すとおりである。物体 A
の回転軸からの距離 OA を rとし、ばねの質量と物体の大きさ
は無視できるとする。
0=t から 1tt = までの間 )0( 1tt << で、物体 Aの速度(速さ)
vを、物体 Aの質量m、ばね定数 k、角速度 1ω 、時間 1t とばね
の長さ 0, rr で表せ。
解説と解答
角速度の時間変化(角加速度) β は、図より、 )0( 1tt << では、1
1
1
1
0
0
tt
ωωβ =
−−
= であり、角速度ω は、
11 / ttt ωβω == で与えられる。
領域 )0( 1tt << では、ばねの長さは変化している。速度ベクトル vrは、次のように表される。
θθee
ee
erv
rrr
rrr
r
dt
dr
dt
dr
dt
dr
dt
dr
dt
rd
dt
dr
rr
r +=+===)(
。
または、次のように考える。 dttt +→ 間の変化で、 rrerrr
= がrr
dt
dr
dt
drr ee
rr θ++ )( だけ変化する。いず
れの考え方からも、速度の大きさvは、
22
+
=dt
dr
dt
drv
θで与えられえる。
さて、ばねの伸びる方向での運動方程式から、
22
0
2
00
22
0 )()(tmk
kr
mk
krrkrrmkmrrrk
βωωω
−=
−=→=−→=− 。
この時間微分を行う: 11 / ttt ωβω == に注意して計算。
ωω
ωω
βββ
ββ
βββ
β
2
10
12
1
1
0
222
2
0
0
222
2
0
11222
0
122
022
0
22
)(
)(2
)(
2
))(2)(1()(
rtkr
mr
tkr
m
tmk
krt
kr
m
tmk
tmkr
dt
dr
tmktmkrdt
tmkdkr
dt
dr
tmk
krr
⋅=⋅⋅⋅=−
⋅⋅⋅=−
=→
−−−=−
=→−
= −−−
。
よって )0( 1tt << における物体 Aの速度(速さ)vは、
2
2
10
1
1
12
2
10
1224
2
10
12
2
2
10
1 21
21)(
2)(
2r
tkr
m
t
trr
tkr
mrrr
tkr
mrr
tkr
mv
+=
+=+
=+
⋅=
ωωωωωω
ωωω
ω
で与えられる。
r
R
A O
(a)
P
0 t1 2t1 3t1
ω1
(b)
114
単振動・ばねにつながった物体の運動
質量mの物体が、図 1のように、ばね定数 kのばねにつながれている。ばねは、ばねの自然長からの
伸び(縮み)xに比例した大きさの力 kxを、物体に加える。
その力の向きは、ばねの伸びた(縮んだ)向きと逆向きであ
る。質点の水平方向の運動は、ばねの自然長からの変位を x
(右方向への変位を正(+)にとる)で表すと、
xdt
xdx
dt
dx&&& ==
2
2
,
の記号を用いて、
m
kxxkxxm =−=→−= 22 , ωω &&&&
となる。天下り的だが、この解は、 )sin()( atAtx += ω で表せる。以下で、その確認をする。
)()sin()cos()]sin([)(
)cos()]sin([)(
22
2
2
2
2
txatAdt
atdA
dt
atAd
dt
txd
atAdt
atAd
dt
tdx
ωωωω
ωω
ωωω
−=+−=+
=+
=
+=+
=
となる。よって、 )sin()( atAtx += ω は、ばねの振動の解である。振動の周期T は、 ωπ /2=T で与え
られる。より一般には、
0),()( 2
2
2
>−= αα tydt
tyd
の方程式の解は、 )sin()( βα += tAty で与えられる。
天下りではない、次の解法もある。
0),()( 2
2
2
>−= αα tydt
tyd
の答えとして、 )exp()( ktAty = を仮定する。方程式に代入すると、
αα ikktAktAkdt
tyd±=→−== )exp()exp(
)( 22
2
2
)exp( tiα± は複素数なので、実数解をとれば、 )cos(),sin( tt αα となる。なお、 xixix sincos)exp( += 。
ばねに限らず、単振動をする物体の運動は、
0, >−= AAxx &&
のような形の運動方程式になる。
ばねの持つ力学的エネルギー(弾性エネルギー)
ばねの力学的エネルギーについて説明する。ばねを、摩擦のない滑らかな水平面上に力を加えずに置
いたときの長さを、自然長という。ばねを自然長から長さ )m(x 伸ばす(縮める)のに必要な力の大き
さ )N(f は、ばね定数を )N/m(k として、 kxf = で与えられる。ばねを自然長から長さ )m(x 伸ばすの
に必要な仕事を計算しよう。
m
x 図1
115
ばねの伸びが )m(x の時、ばねを引く力の大きさが )N(kxf = であり、その長さから微小な量 )m(dx
伸ばすのに必要な仕事の量 )mN( ⋅dW は
dxkxdxfdW ⋅=⋅=
である。よって、ばねを自然長 )0( =x から )m(x まで伸ばした
時の仕事W は
2
000 2
1kxkxdxfdxdWW
xxx
==== ∫∫∫
である。ばねの長さが縮む場合も同じである。
ばねの端に質量mの物体を取り付けているとして、その物体がある速度vで動いている場合を考えよ
う。簡単のため、物体の運動方向が水平面の直線状に限って考えよう。物体が右方向へ移動しようと、
はたまた左方向へ移動しようと、ばねの伸びが )m(x の時、ばねは常に元の状態にもどろうとして、ば
ねの伸びと逆方向に物体を引く。
このように、ばねの力も、ばねの伸び(縮み)による位置が決まれば、力の向きは物体の運動方向に関
係なく、同じ向きになる。よって、ばねの伸び縮みによるエネルギーも、力学的エネルギーに加えてよ
い。ばねの自然長からの伸び(縮み)量を xとすると、ばねの持つ力学的(弾性)エネルギーは、次式
で与えられる。
2
2
1kx 。
物体のばねによる単振動、力学的エネルギーの保存
質量mの物体が、質量の無視できるばね定数 kのばねにつながれている。物体に働く空気抵抗は無視
する。物体の水平方向の運動は、ばねの自然長からの変位
を x(右方向への変位を正(+)にとる)で表す。ばねを
自然長から x伸ばす時に、ばねに対してする仕事は、
kxx
xVxFkxkxdxxV
x
−=∂
∂−=↔== ∫
)()(
2
1)( 2
0
である。ばねの力はばねの伸び xにのみ依存するので、 )(xV は力学的エネルギー(ばねの伸びによる
弾性エネルギー)に含まれる。よって、物体の速度を xdtdx &=/ とおけば、力学的エネルギーが保存さ
れ、以下の式が成り立つ。
Ekxxm
=+ 22
2
1
2&
この力学的エネルギー保存の式を求めるため、運動方程式に x&を掛け、つぎのような式変形をする。
0=+→−=→×−=× xxkxxmxxkxxmxkxxxm &&&&&&&&&&&&
ここで、次の関係式(記号の約束事)を用いる。
xxdt
dxxx
dt
xd&&&&
&2,2
22
== 。
すると、次のような、時間的に一定の関係式が得られる。
m
x
x m
fx
116
Ekxxm
xk
xm
dt
dxxkxxm =+→=
+=+ 2222
2
1
20
22&&&&&&
これが、力学的エネルギー保存の式である。この力学的エネルギー保存式で注目すべき事。エネルギー
保存の式において、2/ ω=mk を満たすω が、単振動の角振動数になる。例えば、
EBxxA =+ 22
2
1
2
1&
の形のエネルギー保存式が得られたなら、その物体の単振動の角振動数ω は、2/ ω=AB で与えられる。
「例題 10逆立ち振り子」でこの考えを用いる。
例題 1 ばね定数の求め方
(A) ばね定数 21,kk の 2 つのばねが、右図のように束ね
られて、一端が壁に固定される。ばねに力を加えない時、
ばねの長さは自然長である。
他端に大きさF 力を加えて引っ張る。その時、ばねの伸
び xを求めよ。また、束ねられたばねのばね定数を求めよ。
(B)ばね定数 21,kk の 2 つのばねが、右図のようにつな
がって、一端が壁に固定される。ばねに力を加えない時、
ばねの長さはそれぞれ自然長 21,ll である。
他端に大きさ F の力を加えて引っ張る。その時、ばね
の伸び xを求めよ。また、このばねのばね定数を求めよ。
解説と解答
(A) ばねの伸びを xとすると、2 つのばねには、それぞれ xk1 および xk2 の力が加わっている。その 2
つの力がF に等しいので、
21
2121 )(kk
FxxkkxkxkF
+=→+=+=
となり、ばねの伸び xが求まる。また、この式から分かるように、2つのばねを束ねた(並列に並べた)
場合のばね定数は、 21 kk + である。
(B) ばね定数 21,kk のばねの伸びをそれぞれ 21, xx とする。全体としてののび xは、 21 xxx += である。
右のばねは、ばねを引く力 F とつりあい(作用・反作用の関係)、ばねの伸び 2x から、 22xkF = が成り
立つ。また右のばねは、左のばねと互いに引き合っている(作用・反作用の関係にある)ため、2 つの
ばね同士の引き合う力の大きさ 2211 , xkxk は等しい。これらの事から、以下の式が成り立つ。
xkk
kkFF
kk
kkF
kkk
F
k
FxxxxkxkF
21
21
21
21
2121
212211
11
+=→
+=
+=+=+=→==
よって、ばねの伸び xは、 Fkk
kkx
21
21 += である。また、ばね定数は
21
21
kk
kk
+である。
注意:この問題では触れていないが、ばねは、当然ながら、伸びた長さを元に戻そう(縮もう)として、
壁を引く。つまり壁に対して、図の右方向に力を加える。(A)(B)ともにその力はF である。
x
F
k1
k2
x l1 l2
l1+x1 l2+x2
F
117
例題 2 2つのばねにより壁につながった物体の運動
質量mの物体が、質量の無視できるばね定数 21, kk の 2つのばねにつながれ、ばねの残りの一端はそ
れぞれ壁に固定されている。物体が運動せず静止している時は、2 つのばねの長さは自然長の長さであ
り、物体に働く空気抵抗は無視する。また、物体、ばねと
床との摩擦も無視する。物体を水平方向へ移動させると、
物体はその後運動を始める。物体が単振動する事、および
その振動の角振動数を求めよ。
解説と解答
図において、物体が右方向に xだけ移動すると、右のばねは縮むので、物体は左方向に xk2 の力を受け
る。同様に左のばねは伸びるので、物体は左方向に xk1 の力を受ける。よって物体に生じる加速度を
2
2 )(
dt
txda = とすると、運動方程式は、
xkkxkxkdt
txdmma )(
)(21212
2
+−=−−==
となる。これは、ばね定数 21 kk + のばねに繋がれた質量mの物体の、単振動の運動方程式と同じである。
よってその振動数は、m
kk 21 +で与えられる。
例題 2の追加問題
図のように、質量の無視できるばね A、B、C と、大きさの無
視できる質量mの物体(物体m )が、水平で滑らかな台の上
で直線的につながれている。ばね A、B、C のばね定数は、
それぞれ CBA kkk ,, である。また、ばね A、C の一端は壁に固定されている。最初は、3 つのばねは自然長の長
さであり、物体mは静止している。また、物体m と台との間の摩擦は無視できるとする。
物体mが静止している時の物体mの位置を原点とし、水平に座標軸をとり、右方向を(+)にとる。この時、以
下の問いに答えよ。
(1) 物体mを右方向に、外部から力を加えて、大きさ 0x だけ移動させた。ばね B、Cが物体mを押す力の大き
さと向きを答えよ。また、ばね A、B、C の、自然長からの伸びた、または縮んだ長さを求めよ。
(2) 物体mが原点から右方向へ 0x だけ移動する間に、ばねに加えられた仕事を求めよ。
(3) 物体mから静かに手を離して、物体mを自由に運動させると、物体mは単振動を行う。その周期を求めよ。
また、物体mが原点の位置にある時の、物体mの速さを求めよ。
解説と解答
2つのばねが自然長の長さでつながっている時、その長さが長くなれば 2つのばねは互いに引き合い、短くな
れば互いに押し合う。また、引き合うないしは押しあう力の大きさは、同じ大きさである。物体の単振動の運動で
は、物体が静止する位置からの変位 xに対し、ばねの力の大きさ f を kxf = で表わしたときのばね定数がいく
らになるのか求める事が必要である。
(1) 物体mが右方向へ距離 0x だけ移動するので、ばねCの長さは、自然長から 0x だけ縮む。そのため、ばね
k1 k2 m
A,kA B,kB m C,kC
118
C は伸びようとして物体mを左方向へ押す。その力は 0xkC である。
ばね A、B はその長さが長くなり、全体として自然長から 0x だけ長くなる。ばね A、B の自然長から伸びる長さ
をそれぞれ BA xx , とおく。全体の伸びる量は 0x であり、ばねA、Bは縮もうとして互いに引き合い、ばねの引き合
う力の大きさは釣合う。よって
0000
0, x
kk
kxx
kk
kxxx
k
kkxx
k
kx
xkxk
xxx
BA
AB
BA
BAA
B
BAA
B
AA
BBAA
BA
+=
+=→=
+→=+→
=
=+
のように、ばねA、Bは伸びる。ばねは縮もうとするので、ばねBは、物体mを引く。すなわち物体mを左方向へ
ひく。また、ばね A、B が互いにひく力の大きさは、
00 xkk
kkx
kk
kkxkxk
BA
BA
BA
BABBAA +
=+
⋅==
であり、この力の大きさで、ばね B は物体m も引く。
まとめると、ばね B、C はともに物体mに対して左方向に力を加える。その大きさは、それぞればね B、C で
00, xkxkk
kkc
BA
BA
+
となる。外部から物体mに力を加えているので、ばね B とばね C の力は、等しくはない。
(2) 物体mが原点から右方向へ 0x だけ移動する間に、ばね A、B は自然長の長さから伸びる。一方ばね C は
縮む。それぞれのばねの持つ弾性エネルギーの差だけ、外部からの力によって、ばねに仕事を加えられた事に
なる。ばね A、B、C が最初持っていた弾性エネルギーは、全てのばねの長さが自然長なので、ゼロである。外
部の力によって行われた仕事によりばね A、B、C が持つ弾性エネルギーは、それぞれ
2
0
2
02
222
02
22
0
2
2
1:,
)(2
1
2
1:,
)(2
1
2
1
2
1: xkCx
kk
kkxkBx
kk
kkx
kk
kkxkA C
BA
ABBB
BA
BA
BA
BAAA +
=+
=
+=
となる。これらを全部足し合わせて、ばねに加えられた仕事は、次式で与えられる。
2
0
2
02
2
02
2
2
02
2222
0
2
02
22
02
2
2
1
)(
])()[(
2
1
)(
)()(
2
1
)(
)(
2
1
2
1
)(2
1
)(2
1
xkk
kkkkkk
xkk
kkkkkkkx
kk
kkkkkkk
xkk
kkkkkkkxkx
kk
kkx
kk
kk
BA
ACCBBA
BA
CBABABA
BA
CBABABA
BA
CBAABBAC
BA
AB
BA
BA
+++
=
++++
=+
+++=
++++
=++
++
(3) まず、物体mに働く力を求め、物体mの運動方程式を求める。物体mが原点から右方向に 0>x 移動し
たとき、物体mに働く力は、ばね B により加わる力とばね C により加えられる力の 2 つの力である(ばね A は、
ばね B を引くか押すのであって、物体mに力を直接加える事はない。)。(1)の計算結果を利用すると、ばね B
により加わる力は、右方向を(+)として、ばね B の伸びを )(xxB とすれば、
xkk
kkx
kk
kkxxk
BA
BA
BA
BABB +
−=+
⋅−=− )(
であり、C により加えられる力も同様にして、
xkC−
である。これより、物体mに生じる加速度をaとすれば、物体mの運動方程式は、次のようになる。
119
xkk
kkkkkkx
kk
kkkkkxkx
kk
kkxkxxkma
BA
ACCBBA
BA
CBABAC
BA
BACBB +
++−=
+++
−=−+
−=−−=)(
)(
これは、単振動を表わす。振動の(角)周波数をω とすれば、運動方程式は以下のように書き直される。
mkk
kkkkkkxax
kk
kkkkkkma
BA
ACCBBA
BA
ACCBBA
)(,2
+++
=−=→+
++−= ωω ただし、
よってその周期T は、
ACCBBA
BA
kkkkkk
mkkT
+++
==)(
22
πωπ
である。この単振動では、ばねのつりあいの位置が振動の中心になる。物体mは、初速度=ゼロ、振幅 0x の単
振動を行う。よって物体mが原点の位置にある時の、物体mの速さvは、次のようになる。
mkk
kkkkkkxxv
BA
ACCBBA
)(00 +
++== ω
微積分を用いた、例題 2 の追加問題の考察
この例題では、微積分を積極的に用いる必然性はない。せいぜい 22 /)( dttxda = と書いて、単振動の一般解
を求め、初期条件を代入して、問題設定に合致した運動を求めるくらいである。そこでここでは、運動量と力学
的エネルギーに関する考察を行う。
dttxkdttxkk
kk
dt
tdxmd
txktxkk
kk
dt
tdxm
dt
dtxktx
kk
kk
td
txdm
C
BA
BA
C
BA
BAC
BA
BA
⋅−⋅+
−=
→
−+
−=
→−+
−=
)()()(
)()()(
)()()(
2
2
よって、2つのばねの持つ力と微少な時間dtによる力積で、物体mの運動量が変化する。
次に、運動方程式の両辺にdt
tdx )( を掛ける。
0)(2
1)(
)(2
)(
2
0)()(
)()()()()(
)()()(
)()()()()(
22
2
2
2
2
2
2
2
=
+
++
→
=−+
+→×
−
+−=
−+
−=−−==
txktxkk
kk
dt
tdxm
dt
d
txdt
tdxktx
dt
tdx
kk
kk
dt
tdx
td
txdm
dt
tdxtxktx
kk
kk
td
txdm
txktxkk
kktxkxxk
td
txdma
C
BA
BA
C
BA
BAC
BA
BA
C
BA
BACBB
これより、次式に示すように、物体mの運動エネルギー、ばね A+B とばね C のもつ弾性エネルギーの和が、
一定=++
+
22
2
)(2
1)(
)(2
)(
2txktx
kk
kk
dt
tdxmC
BA
BA
である、力学的エネルギー保存の式を得る。この式から、単振動の周波数、周期などを求める事ができる。
120
例題 3 水面に浮かぶ物体の運動
まず、アルキメデスの原理を説明する。お風呂でおもちゃや洗面器を浮かべて遊んでいて、それらを
沈めようとしたら、結構な力が必要になったのを覚えているかと思う。このように、物を水の中に沈め
ようとすると、おもちゃを沈める向きと反対方向に水の力が加わる。これをすこし難しく表現すると次
のようになる。液体や気体中の物体は、物体が排除している液体(気体)の重さに等しい大きさの浮力
を、重力の向きと反対方向に受ける。これを認める。
さて、ここからが問題になる。
底面積 )m( 2S 、長さ )m(L 、体積 )m( 3V 、密度 )Kg/m( 3ρ の柱状物体を密度 )Kg/m( 3σ の液体の中
に浮かべる。つりあいの位置は、底から長さ Lhh <),m( であ
る。この物体をつりあいの位置からわずかに持ち上げて静かに
離す。重力加速度は )m/s( 2g である。この物体の単振動の方程
式を導き、振動数を求めよ。ただし、液体、空気などの抵抗や、
空気による浮力も無視する。また、柱状物体は完全に液体の中
に沈む事はないとする。
解説と解答
物体のつりあいの位置での力関係をまず理解しよう。物体に働く重力は、物体の体積がV 、密度
)Kg/m( 3ρ なので、質量 SLVm ρρ == である。よって重力による力は、下向きに SLgVgmg ρρ ==
である。物体が排除している液体の体積は、 Shv =0 であり、液体の密度 )Kg/m(3σ なので、浮力として
上向きに gShF )(0 σ= の力を受ける。この 2つの力がつりあう(0Fmg = )。よって、
gShSLg σρ = 。
鉛直上方向を正にとる。物体がつりあいの位置から )( hx < だけ変位した(図の右側の物体の絵)とし
よう。 0>x として考えよう。( 0<x でも結果は同じである。 xの符号によって力の符号が変わり、結
果として上向きの力が下向きの力になったりする。)すると、液体を排除する体積は、 )( xhSv −= であ
る。よって上向きに gxhSF σ)( −= の力を受ける。これより物体の運動方程式は、上向きを正の方向に
取り、物体の加速度をaとして、
aVVggxhS ⋅=−− ρρσ)(
となる。力のつりあい(0Fmg = )から得られた関係式: gShSLg σρ = 、および SLV = を代入すると、
柱状物体の質量 Vm ρ= なので、
aVgSxgSxgSLgShgSxVggShVggxhS ⋅=−=−−=−−=−− )(0})({}{)( ρσσρσσρσρσ 。
よって、求める単振動の式は、以下のようになる。
aVgSx ⋅=− ρσ または、 xL
gx
SL
gSx
V
gSa
ρσ
ρσ
ρσ
−=−=−= 。
これを単振動の式 xakxma 2ω−=→−= と比較し、振動数ω は
L
g
L
g
ρσ
ωρσ
ω =→=2
で与えられる。なお、この単振動の振幅は、つりあいの位置からの変位で与えられる。初速度=ゼロで
釣り合いの位置からの変位の大きさが lδ なら、振幅は lδ である。
h h-x
x
121
例題 4 ばねの伸び
ばね定数 )N/m(k の質量の無視できるばねに質量 )Kg(m のおもりをつけ、ばねが自
然長の長さになるように板で保持する。空気抵抗などのエネルギーの散逸は無視する。
(1)支えの板をゆっくりおろしていく(物体の速さ~ゼロとみなせるという事)時、
おもりは最初の位置からどれだけ下がった位置になるか?
(2)支えの板を瞬間的に取り除くと、おもりは最初の位置からどれだけの位置まで
下がるか?(おもりは単振動するが、その時、一番下まで下がる位置を考えよ、
ということ。)
解説と解答
(1)右図においておもりに加わる力は、重力による力mg(下向き)、ばねの伸び
による力 kx(上向き)、およびおもりが板を押す力 F に対する反作用としての板
による垂直抗力N である。ばねの伸びによる力が重力による力よりも小さい時は、
板による支えの力がそれを補って、おもりの釣り合いを保つ。
ばねが十分伸びて、ばねがおもりを上に引く力が重力による力とつりあうと、板
がおもりを押す力はゼロになる。その時の力のつりあいは、上向きを正に取り、ば
ねの伸びを xとし、
k
mgxmgkx =→=− 0
となる。
別の考え方:または次のように運動方程式を立てて考える。ただし加速度 0=a である。
k
mgxamamgkx =→==− )0( 。
(2)この場合、板が瞬時に除かれたことによる、おもりが有限の速さを持つ事を考慮しなければなら
ない。一般に運動方程式 maF = において、左辺は物体に加わる力(ないしは力の和)である。この式
は等式なので、質量mの物体に生じる加速度がaのとき、maの力が生じるとも、解釈できる。よって、
ばねの伸びによる力とおもりの重力による力が等しい場合( kmgx /= のばねの伸びの時)でも、おも
りが初速度=ゼロの状態から速度を持って運動しているので、おもりの加速度に見合った力でばねを引
くと考えられる。よって、 kmgx /= のばねの伸びの所では、おもりは止まらない。
ではどう考えるか。急に支えの板をはずすと、おもりは重力による力を受け、ある大きさの速度を持
つ(ばねの伸びが十分小さいとして、ばねの力をとりあえず無視し、運動方程式 mamgF == を考え
る。ばねの伸びが小さいときは、重力による力により物体に加速度が生じ、結果として物体は、ある大
きさの速度を持つ。)。しかしばねが伸びきった所でのおもりの速度はゼロである。
この過程において、力学的エネルギーは保存されている。そこで力学的エネルギー保存を用い、ばね
の伸びを求める。この場合は、ばねの持つ弾性エネルギー+おもりの位置エネルギー+おもりの運動エネ
ルギーが保存される。
ばねの自然長からの伸びを 'x とし、ばねの自然長でのおもりの位置エネルギーをその基準にとる。力
学的エネルギーの保存を書くと、次のようになり、
k
mgxxmgx
kmxmgx
kmmg
k 2'0)'('
20
2)'('
20
200
2
22222 =→=−+⋅→⋅+−+⋅=⋅+⋅+⋅
x
kx
mg
N
F
122
と求まる。(1)の場合の 2倍の伸びになる。
別の考え方:ばねの力 kxと重力mgによる力の釣り合いの位置での物体の単振動として考える。運動
方程式は、ばねの自然長からの伸びを xとすると、ばねが伸びる方向(下向き)を+符号に取り、
2
2
dt
xdmmamgkx ==+−
このままでは、見慣れた単振動の式にならない。そこで合力としての力 00 =−mgkx となる長さ 0x を
位置の基準に取る。これは、変数の置き換え: 0xxX −= を意味する。計算すると、
2
2
02
2
2
0
2
)()(,)(
dt
XdmkXmaxxk
k
mgxkmgkxa
dt
xd
dt
xxd=−→=−−=−−=+−==
−
となり、見慣れた単振動の式になる。さて振幅は、物体の最初の位置がばねの伸び=0であり、つりあ
いの位置 0x と距離 0x だけ離れている。ばねが自然長から 0x だけ伸びた位置が振動の中心点である。ま
た、物体が最初静止していた位置と振動の中心点との差が、振幅にあたる。よって、この単振動では、
振幅の 2倍の、 02x の範囲で物体が単振動する。よって物体は基準点から、
k
mgx
22 0 =
まで下がる。
例題 5 ばねで繋がった物体の振動 ばねの質量=ゼロ
(A) 滑らかな水平面で、ばねの一方が壁に固定され、残りのほうに
質量mの物体が付いている。ばねを自然長から長さaだけ縮めて、
静かに離した。ばねが自然長の長さになった時の、質量mの物体の速さを求めよ。
(B) ばね定数 kのばねの一端に質量M の物体が、他端には質量mの物体が付いている。滑らかな水平
面にそれらを置き、自然長から長さaだけ縮めて、静かに瞬時に離した。ばねが自然長の長さになった
時、質量mの物体の速さを求めよ。(直線方向の、1次元の問題として考えよ。)さらに mM >> の場合
の質量mの物体の速さを求め、(A)の答との比較から、
mM >> で得られた答えが何を意味するか述べよ。
解説と解答
ばねが固定されている時とされていない時での、物体の運動を如何にイメージできるかが重要である。
力学的エネルギー保存を活用する。
(A) 壁に固定されていれば、ばねの伸びが全て、質量mの物体に移動する。力学的エネルギー保存から、
ばねの弾性エネルギー=物体の運動エネルギーを式で書く。物体の速度をvとすると、
m
kava
kv
m=→= 22
22
となる。
(B) ばねの両端に物体が付いている場合、ばねの伸び縮みにしたがって、2 つの物体が移動する。よっ
て、2 つの物体がそれぞれある速さを持つ。ばねの伸びに従い、2 つの物体は、ばねを介して互いに力
を及ぼしあう。つまりばねを介して、力を互いに及ぼしあう(作用・反作用)と考えよう。すると、運
動量保存が成り立つと考えられる。ばねが伸びきって自然長になった時の、2 つの物体 Mm, の速度を
m (A)
m M (B)
123
Vv, とすれば、最初 2つの物体は静止していたので、運動量保存から、
vM
mVMmMVmv −=→=⋅+⋅=+ 000
となる。ばねの弾性エネルギーが全て 2つの物体の運動エネルギーに変わる(ばねの質量=ゼロ)と、
222
222ak
VM
vm
=+
となる。これら 2つの式からvを求めると、
)0()(22222
222
2
2
2 >+
=→=+
→=
−+ vmMm
kMava
kv
M
mmMak
vM
mMv
m
となる。
この問題では、物体 mM , がばねを介して互いに押し合う。その力の大きさは、ばねの伸びないしは
縮みに依存し、ばねの長さの変化量が時間変化するため、時間的に一定ではない。ここでは、その事を
考慮して、運動量保存の式と力学的エネルギー保存の式を導く。
2 つの物体が、ばねを通じて互いに同じ大きさの力を及ぼしあうとする。その力に時間依存性がある
として、m(M )に加わる力を )(tF ( )(tF− )、m(M )の速度を )(tv ( )(tV )とする。すると、
次の運動方程式が成り立つ。(直線上の運動として書く。)
dt
tdVMtF
dt
tdvmtF
)()(,
)()( =−=
時刻 tでばねが自然長になるとし、この式を時間積分し、初期条件 0)0()0( ==Vv を代入すると、
)()0()()(
)}({
)()0()()(
)(
00
00
tMVMVtMVdtdt
tdVMdttF
tmvmvtmvdtdt
tdvmdttF
t
t
t
t
t
t
t
t
=−==−
=−==
∫∫
∫∫
==
==
よって、力の大きさに時間的な変動があっても、運動量の保存
)()()}({)(000
tMVtmvdttFdttFt
t
t
t+=−+= ∫∫ ==
が成り立つ。後の扱いは、力F が時間的に一定とした場合と同じである。
さて、 mM >> の場合、
m
ka
M
mm
ka
mMm
kMav
MMM=
+=
+=
∞→∞→∞→1
lim)(
limlim
を得る。これは、(A)で、壁につながれたばねの問題の結果と同じである。物体M が十分重いと、物
体M の運動は無視でき、ばねの一端が壁につながれた場合と同等の結果が得られる。
例題 4での、微積分を用いた、力学的エネルギー保存の式の導出
0l をばねの自然長とし、物体の位置をそれぞれ )(,:)(, tXMtxm とする。ただし、 )()( tXtx > であ
る。それぞれの物体の運動方程式に、対応する速度 )(),( tVtv をかけると、
124
==−→=−
==→=
2
2
)(2
)()(
)()()(
)(
)(2
)()(
)()()(
)(
tVM
dt
dtV
dt
tdVMtVtF
dt
tdVMtF
tvm
dt
dtv
dt
tdvmtvtF
dt
tdvmtF
となる。また、物体に加わるばねの力は、ばねの自然長からの長さの差で与えられるので、ばね定数を
kとして、
))()(()( 0ltXtxktF −−−=
で与えられる。よって、
dt
tdXltXtxktVtF
dt
tdxltXtxktvtF
)())()(()()(,
)())()(()()( 00 −−+=−−−−=
である。 0/0 =dtdl に注意して足し算をすると、
−−−=
−−−−=− 2
00 ))()((2
)()())()(()()()()( ltXtx
k
dt
d
dt
tdX
dt
tdxltXtxktVtFtvtF
となる。これより、次のような式が得られる。
+
=
−−− 222
0 )(2
)(2
))()((2
tVM
dt
dtv
m
dt
dltXtx
k
dt
d
さらに式変形すると、
0)(2
)(2
))()((2
222
0 =
++−− tVM
tvm
ltXtxk
dt
d
時間微分してゼロになる量は、定数である。よって、時間によらず、物体の運動エネルギーとばねの持
つ弾性エネルギーを足した力学的エネルギーは一定(時刻 0=t での値に等しい)である:
222
0
222
0 )0(2
)0(2
))0()0((2
)(2
)(2
))()((2
VM
vm
lXxk
tVM
tvm
ltXtxk
++−−=++−− 。
例題 5で微積分を用いた運動の詳細を求める方法:
物体 Mm, の位置をそれぞれ )(),( tXtx とする。ばねの自然長を 0l とすれば、ばねの伸び縮みの量(変
化量)は 0lXx −− で与えられる。よって、次のような運動方程式を得る。(右にmの物体があり、左
にM の物体がある( )()( tXtx > )とした。)
2
2
02
2
0
)()()(,
)()()(
dt
tXdM
dt
tdVMlXxk
dt
txdm
dt
tdvmlXxk ==−−+==−−−
ばねの伸び縮みは、 0lXx −− の時間変化で与えられる。 0/ 2
0
2 =dtld を用い、上式を変形すると、
2
0
2
02
0
2
0
2
0
2
2
2
2
2
00
2
2
0
2
2
0
})()({)(
})()({)(
)()()()(
)()(
)()(
dt
ltXtxdlXx
Mm
mM
k
dt
ltXtxdlXx
M
k
m
k
dt
ld
dt
tXd
dt
txdlXx
M
klXx
m
k
dt
tXdlXx
M
k
dt
txdlXx
m
k
−−=−−
+
−→−−
=−−
+−→
−−=−−−−−−→
=−−+
=−−−
125
を得る。これは、ばね定数 k、質量Mm
mM
+の物体の単振動を表し、振動数は
mM
kMmc
)( +=ω である。
さて上記の単振動の一般解は、
( ) ( )tBtAltXtx cc ωω sincos)()( 0 +=−−
で与えられる。
初期条件の1つである初速度 0)0(')0(' == Xx の条件を入れると、
( ) ( ) ( ) 0}0cos0{)0(')0('}cossin{)(')(' =⋅+⋅−=−→+−=− ccccc BAXxtBtAtXtx ωωωωω
から 0=B となり、
( )tAltXtx cωcos)()( 0 =−−
の解が許される。また、もうひとつの初期条件として、ばねが自然長から長さaだけ縮んだ状態から静
かに離されたので、時刻 0=t でのばねの長さに関する条件(ばねの変化量 alXx −=−− 0 )から、
( ) aAaAlXx c −=→−=⋅=−− 0cos)0()0( 0 ω 。
これから、
( )taltXtx cωcos)()( 0 −=−−
が得られる。この式は、物体 Mm, の相対的な位置関係を示す。
物体 Mm, の一体としての運動の様子は、物体 Mm, に働く力が互いに作用・反作用の関係にあるの
で、2つの運動方程式を足しあわせる事で得られる。
0)()(
)()()(
)()()(
2
2
2
2
2
2
0
2
2
0
=+→
==−−+
==−−−
dt
tXdM
dt
txdm
dt
tXdM
dt
tdVMlXxk
dt
txdm
dt
tdvmlXxk
時刻 0=t で 2つの物体 Mm, は静止している。上の式を積分後、 0)0(')0(' == Xx (物体 Mm, の初速
度=ゼロ)の初期条件を代入すると、
0)0()0()()(
0)()(
2
2
2
2
=+=+→=+dt
dXM
dt
dxm
dt
tdXM
dt
tdxm
dt
tXdM
dt
txdm 。
を得る。これは、運動量保存の式である。さらに積分し、座標の原点を適当に選んで、初期条件として
0)0()0()()(0)()(
=+=+→=+ MXmxtMXtmxdt
tdXM
dt
tdxm
となるように決める(これは、便宜上計算を楽にするため)。すると、最終的にそれぞれの位置として、
( )
( )( )
( )
( )
−+
−=
−+
=→
−=+
→
−=−−−
−=→
=+
−=−−
]cos[)(
]cos[)(
cos)(
cos)}({)(
)()(
0)()(
cos)()(
0
0
0
0
0
talMm
mtX
talMm
Mtx
taltxM
Mm
taltxM
mtx
txM
mtX
tMXtmx
taltXtx
c
c
c
c
X
ω
ω
ωω
ω
を得る。2つの物体は、お互いに近づいて遠ざかる事を繰り返す、単振動を行う。
126
例題 6 2つの物体の、ばねを介しての衝突
滑らかな水平面上に、質量M の静止している物体
に、ばね定数 kのばねが取り付けられてあり、ばね
の長さは自然長の長さの状態にある。質量mの物体
が、ばねをクッションとして、物体M に速度 0u で
衝突した。衝突により、ばねに蓄えられる最大の弾性エネルギーを求めよ。またその時の物体 Mm, の
速度を求めよ。ただしばねの長さは十分長く、衝突によって縮みきらないとし、かつ衝突は直線上で起
こる(1次元での衝突)とする。
解説と解答
ばねが最も縮んでいる時、2つの物体の相対速度=ゼロ、すなわち 2つの物体の速度は同じである。
また、摩擦などのエネルギーの損失が無いので、力学的エネルギーは保存する。これらを考慮して問題
を解く。
2 つの物体は、衝突後ばねが最も縮んだ時の速度は同じである。それをvとする。ばねを通じて互い
に力を及ぼす、作用・反作用の力関係にあるので、運動量が保存される。よって、求める速度vは、
00 )( uMm
mvvMmMvmvmu
+=→+=+= 。
この一連の物体の運動では、力学的エネルギーが保存される。ばねに蓄えられる弾性エネルギーをK
としよう。すると、Kは最初に物体mが持っていた運動エネルギーから、衝突後 2 つの物体が持って
いる運動エネルギーを引いたもので与えられ、
2
0
2
0
22
0
2
0
22
0
2222
0
)(2)(2
)(
2222
2222
uMm
mMu
Mm
mMmmu
Mm
mMmu
mv
Mmu
mK
vMm
KvM
vm
Kum
+=
+−+
=
+
+−=
+−=→
++=++=
となる。
運動の詳細:運動量保存の式などの、微積分による導出
ばねを介して 2 つの物体が衝突する。2 つの物体 Mm, の位置をそれぞれ )(),( 21 txtx とする。縮んだば
ねは伸びようとするので、物体mがばねに衝突した後は、物体mは左に、物体M は右に押される。ば
ねの自然長の長さを 0l とすると、ばねの伸びは、 012 )()( ltxtx −− であたえられる。よって、次計算で
示すように、運動量保存の式が導かれる。(運動量の時間微分=ゼロ→運動量は時間的に変化しない。)
00
))()((
))()((21
2
2
2
2
1
2
0122
2
2
0122
1
2
=
+→=+→
−−−=
−−+=
dt
dxM
dt
dxm
dt
d
dt
xdM
dt
xdm
ltxtxkdt
xdM
ltxtxkdt
xdm
時間積分し、物体mのばねに衝突直前の速度が 0u (物体M は静止)である事から、
002121 0
)0()0()()(muMmu
dt
dxM
dt
dxm
dt
tdxM
dt
tdxm =⋅+=+=+ 。
を得る。これが、この問題での運動量保存の式である。この式は、2 つの物体が持つ運動量が時間によ
らず、最初mが持っていた運動量に等しい事(運動量保存)を示す。これから、vが求まる。
M m
127
これをさらに時間積分すれば、
tmuMxmxtMxtmxtmudtdt
tdxM
dt
tdxm
t
021210
0
21 )}0()0({)()(')'()'(
=+−+→=
+∫ 。
ここで、以降の計算を簡単にするため、 0)0()0( 21 =+ Mxmx となるように座標の原点を決めると、
tmutMxtmx 021 )()( =+
となる。この式は、物体の質量×位置の“位置”(正確には 2 つの物体の重心)が、右方向に一定の速
度で移動する事を示す。物体の重心 Gx は、 i番目の物体の質量、位置をそれぞれ ii xm , とした時、
∑∑=
i
ii
Gm
xmx
で与えられる。この定義に従って計算すると、例題 6での重心は、
tMm
mu
Mm
tMxtmxtxG ⋅
+=
++
= 021 )()()(
となる。
以下では、例題 3(B)と同様の手続きをし、物体の位置を求める。ばねの伸び縮みは、 012 )()( ltxtx −−
で与えられるので、2つの運動方程式を変形し、引き算すると、
2
012
2
012
2
012
2
012
2
2
2
012
2
1
2
012
})()({))()((
})()({))()((
)())()((
)())()((
dt
ltxtxdltxtx
Mm
mM
k
dt
ltxtxdltxtx
M
k
m
k
dt
txdltxtx
M
k
dt
txdltxtx
m
k
−−=−−
+
−→
−−=−−
+−→
=−−−
=−−+
これは、ばねが振動数mM
Mmk
+=2
00 :ωω の単振動をする事を示す。ただし、ばねが縮んだ後自然長の
長さになると、ばねと物体mは接着されていないため、ばねと物体mは離れる。ばねが 1度縮んだ後、
自然長の長さになるまでの運動を記述する方程式であると理解しよう。一般解は、次のとおり:
)sin()cos()()( 00012 tBtAltxtx ωω +=−− 。
初期条件は、衝突直前の物体mの速度速度 0u (物体M は静止)とばねの伸び(自然長である)から、
0122
01 )0()0(,0
)0(,
)0(lxx
dt
dxu
dt
dx=−==
である。これから、係数 BA, を求める。
)}cos()sin({)()(
)sin()cos()()( 00012
00012 tBtAdt
tdx
dt
tdxtBtAltxtx ωωωωω +−=−→+=−−
よって、以下のとおり。
=
−=→
=⋅+⋅==−−
=⋅+⋅−=−=−
0)0sin()0cos(0)0()0(
)}0cos()0sin({0)0()0(
0
0
00012
0000012
A
uB
ABAlxx
BBAudt
dx
dt
dx
ωωω
ωωωω
128
これから、
)sin()()( 0
0
0012 t
ultxtx ω
ω−=−− 。
をえる。それぞれの物体の位置は、 0/0 ωπ≤≤ t の範囲で、
++
−
+=
−+
+=
++
−
+−=+
−+
+−=
→
+−=
−=−+−−→
=+
−=−−
tuMm
mt
ul
Mm
mt
utul
Mm
mtx
tuMm
mt
ul
Mm
Mtut
utul
Mm
Mtx
tutxm
Mtx
tu
ltutxm
Mtx
tmutMxtmx
tu
ltxtx
00
0
000
0
0002
00
0
0000
0
0001
021
0
0
00022
021
0
0
0012
)sin()sin()(
)sin()sin()(
)()(
)sin(})({)(
)()(
)sin()()(
ωω
ωω
ωω
ωω
ωωω
ω
となり、等速直線運動と単振動の合成された運動となる事がわかる。
注意:ばねと物体mが衝突後も一体のまま運動し続けるなら、上の解は、 0/ωπ>t でも成り立つ。
例題 6での、微積分を用いた、力学的エネルギー保存の式、および運動量に関する式の導出
運動方程式から出発し、以下のように計算する。
0))()((2
)(
2
)(
2
))()((2
)(
2
)(
2
)()())()((
)(
2
)(
2
)())()((
)())()((
)()()()(
)(])(
))()(([
)(])(
))()(([
2
012
2
2
2
1
2
012
2
2
2
1
012012
2
2
2
1
2012
1012
2
2
2
2
1
2
1
2
2
2
2
2
012
1
2
1
2
012
=
−−+
+
→
−−−=
+
→
−−⋅−−−=
+
→
⋅−−−⋅−−=⋅+⋅→
×=−−−
×=−−+
ltxtxk
dt
tdxM
dt
tdxm
dt
d
ltxtxk
dt
d
dt
tdxM
dt
tdxm
dt
d
dt
dl
dt
tdx
dt
tdxltxtxk
dt
tdxM
dt
tdxm
dt
d
dt
tdxltxtxk
dt
tdxltxtxk
dt
tdx
dt
txdM
dt
tdx
dt
txdm
dt
tdx
dt
txdMltxtxk
dt
tdx
dt
txdmltxtxk
すなわち、2つの物体の運動エネルギーとばねの弾性エネルギーの和は、
2
012
2
2
2
12
012
2
2
2
1 ))0()0((2
)0(
2
)0(
2))()((
2
)(
2
)(
2lxx
k
dt
dxM
dt
dxmltxtx
k
dt
tdxM
dt
tdxm−−+
+
=−−+
+
となり、時間によらず一定の値を持つ。これが、この問題での力学的エネルギー保存の式である。
なお、2つの運動方程式を足し合わせると、
一定=+→=
+→=+dt
tdxM
dt
tdxm
dt
tdxM
dt
tdxm
dt
d
dt
txdM
dt
txdm
)()(0
)()(0
)()( 2121
2
2
2
2
1
2
となり、運動量保存の式を得る。これと力学的エネルギー保存の式を用いて、例題 6が解答できる。
129
例題 7 摩擦のある平面での、ばねと 2つの物体の運動
質量mの物体 A と質量M の物体 B が、水平な粗い(摩擦
のある)平面上にある。物体 Bはばね定数 kのばねによって、
図のように、壁のある点 Cに結び付けられている。また、A、
B、Cは一直線上にある。
はじめ、ばねの長さは自然長の長さにあり、物体 Aと Bは静止し、Aと Bとの距離はd である。水
平面と A、Bの間の動摩擦係数はいずれも 'µ であり、重力加速度は gである。また、ばねの質量は無視
できるとしよう。さらに、物体 A、Bの質量には、 Mm < が成り立つとする。
(1) Aに初速度 0v を与え、Bに向かって移動させる。Bと衝突する直前の Aの速度(速さ)を求めよ。
(2) 衝突後、B が最初に止まるまでに移動する距離を求めよ。ただし A と B との衝突は完全弾性衝突
であり、ばねの長さは十分に長く、また物体 Bは壁に衝突する事が無いとする。
解説と解答
(1) 水平方向の移動において、物体 Aには動摩擦力が掛かる。動摩擦力の大きさは、 mgf 'µ= であり、
移動する方向と逆方向に力が加わるので、運動方程式は、物体 Aの加速度をaとすれば、
gamamgf '' µµ −=→=−=−
となり、加速度aが求まる。物体 B と衝突するまでに、物体 A は距離d 移動するので、衝突までの時
間を t、衝突の直前の速度を vとすれば、
=−+
=−+
dtgtv
vtgv
2/)'(
)'(
2
0
0
µ
µ
衝突までの時間 tを求めると、その時間 tから、衝突の直前の速度vが求まる。
{ } gdvggdvgvgvtgvv
g
gdv
g
d
g
v
g
vt
g
d
g
v
g
vt
g
dtg
vtdtvgtdtgtv
'2'/'2'/)'()'(
'
'2
'2
''0
'2
''
0'
2'
2022'2/)'(
2
0
2
0000
2
0
2
00
2
0
2
0
02
0
22
0
µµµµµµ
µµ
µµµµµµ
µµµµ
−=−±⋅−+=−+=
−±=−
±=−→=+
−
−→
=+−→=+−→=−+
m
物体 Aが右方向に動く場合を考えているので、 0>v でなくてはならない。よって、
gdvv '22
0 µ−=
をえる。
物体 A が物体 B と衝突する直前の速さは、摩擦による仕事と力学的エネルギーとの関連からも求ま
る。運動エネルギーの一部が動摩擦力による仕事で失われるとして、
gdvvgdvvvm
dmgvm
'2'22
)'(2
2
0
2
0
222
0 µµµ −±=→−=→=−+
となる。その後の議論は上に同じ。
注意: gdvv '22
0 µ−−= は、動摩擦力の力の向きが図で常に左向きの方向(物体の速度ベクトルに対
して反対向きなので、そのような事はありえない。)であると仮定して得られた値である。
(2) 衝突直後の物体 Bの速度を求める。ABの衝突は瞬間的であり、動摩擦力の影響が無視できる(力
A B C
130
学的エネルギーの損失が無視できる、または、動摩擦力による仕事の大きさが十分小さく、無視できる
と見なす。)と考える。その場合、衝突後の物体 A、B の速度をそれぞれ Vu, とすると、運動量保存と
衝突係数の定義より
vmM
mVmvVmMvVv
M
mV
vVuvuV
uvM
mV
v
uV
MVmuMmv
+=→=+→−−=→
−=→=−
−=→
−−
−=
+=⋅+2
2)())(()(
01
0
よって、衝突後の物体 Bの速度は
vmM
mV
+=
2
である。
物体 Bが持っていた運動エネルギーが、動摩擦力による仕事とばねの弾性エネルギーに変換した時に
物体 Bが止まる。衝突後の移動距離を xとすると、この関係は、
( )
( )gdvmM
m
k
M
k
Mg
k
Mgx
gdvmM
m
k
M
k
Mg
k
MV
k
Mg
k
Mgx
k
MVx
k
Mgx
MVMgxkxkxM
xMgVM
'22''
'22'''
0'
2
0'22
10
2)'
2
2
0
22
2
0
2222222
22222
µµµ
µµµµµ
µµ
−
+
+
±−=
−
+
+
=+
=
+→=−+→
=−+→+⋅+=
問題の設定条件から、 0>x の値を選び、
( )gdvmM
m
k
M
k
Mg
k
Mgx '2
2'' 2
0
22
µµµ
−
+
+
+−=
を得る。
例題 7での、微積分を用いた解法:
運動方程式をもとに、微積分を用いて解く。物体 A が床から押し返される力 AN は、 mgN A = であ
る。Bと衝突する直前までの物体 Aの運動方程式は、
mgNdt
txdm A ''
)(2
1
2
µµ −=−=
である。衝突直前の物体 Aの速度は、次の 2つの方法(i),(ii)で求める事ができる。
(i) 運動方程式を 2回積分すると、物体 Aの時間と位置に関する関係式が得られる。
2
01
0
011
011
2
1
2
'2
1)0(')''()0()(
'')0()(
'')(
gttvxdtgtvxtx
gtvgtdt
dx
dt
tdxmgN
dt
txdm
t
A
µµ
µµµµ
−+=−+=→
−=−=→−=−=
∫
物体 Aが距離d だけ移動した後、Aと Bが衝突する。衝突するまでの時間は、以下のように求まる。
g
gdvvt
g
d
g
v
g
vt
g
dtg
vt
dtvgtdtvgtgttvxtxd
'
'20
'
2
''0
'
2
'
2
022'0'2
1'
2
1)0()(
2
00
2
0
2
002
0
2
0
22
011
µµ
µµµµµ
µµµ
−±=→=+
−
−→=+−→
=+−→=+−→−=−=
131
衝突直前の物体 Aの速度を vは、次式で与えられる。ただし、 (-負の値)になるvは捨てた。(-)のv
の値は、動摩擦力の力の向きが常に左向きと仮定した場合の、左方向に運動する時の物体の速度である。
gdvvg
gdvvgvgtvv '2
'
'2'' 2
0
2
00
00 µµ
µµµ −=→
−±⋅−=−= 。
(ii) 運動方程式の両辺にdt
tdxtv
)()( 1= をかけ、
2
11
2
1
2)(
2
1)()(
=dt
tdx
dt
d
dt
tdx
dt
txdに注意して時間積分を行う。
( ) 0)(')(
2)('
)(
2
)('
)()(''
)(
1
2
11
2
1
11
2
1
2
2
1
2
=
+
→−=
→
−=→−=−=
tmgxdt
tdxm
dt
dtmgx
dt
d
dt
tdxm
dt
d
dt
tdxmg
dt
tdx
dt
txdmmgN
dt
txdm A
µµ
µµµ
時間微分が常にゼロである量は、時刻 tによらず定数である。時刻 0=t の値を代入して、
2
0
2
01
2
11
2
1
20'
2)0('
)0(
2)('
)(
2v
mmgv
mmgx
dt
dxmtmgx
dt
tdxm=⋅+=+
=+
µµµ
が成り立つ。(なおこの式は、物体 A の運動エネルギーと動摩擦力による仕事の和が、時間によらず一
定である事を示す。)よって、時刻 tの時、 vdt
tdxtvdtx ===
)()(,)( 1
1 とすれば、 0>v を考慮し、
gdvvgdvvgdvvvm
mgdvm
'2'2'22
'2
2
0
2
0
2
0
22
0
2 µµµµ −=→−±=→−=→=+
となり、Bと衝突する直前の物体 Aの速度が求まる。衝突直後の物体 Aと Bの速度は、運動量保存と
はねかえり係数の定義から求める。この部分は省略する。
続いて、Aと Bが衝突した後の、物体 Bの運動を考えよう。物体 Bが床から押し返される力 BN は、
MgN B = なので、物体 Bに働く動摩擦力は Mg'µ− である。さらに、物体 Bは、ばねとつながってい
るので、ばねの自然長からの変化量(この場合、ばねの縮んだ量、ないしは、物体 Bが右方向へ移動し
た量)を )(2 tx とする。物体 Bが右方向に移動して止まるまでの間に限れば、物体 Bの運動方程式は、
)(')(')(
222
2
2
tkxMgtkxNdt
txdM B −−=−−= µµ
で与えられる。(動摩擦力は、物体の運動方向と逆向きなので、任意の時間の運動を考えた場合は、そ
のことを考慮しなければならない。上の式では、その事が考慮されていない。)
物体 B の運動方程式から、物体 B の右方向への、最初に止まるまでの移動量を求める事ができる。そ
の解法は、物体 Aの衝突直前の速度を求めたときと同様に、2つの方法(i),(ii)を説明する。
(i) 運動方程式から、物体 Bの位置の時間依存性を求める方法
+−=−−=−−=k
MgtxktkxMgtkxN
dt
txdM B
')()(')('
)(2222
2
2 µµµ
これは、振動の中心が kMgtx /')(2 µ+ の単振動の式を表す。 Mk /0 =ω とすれば、一般解は
)cos(sin)cos('
)( 002 tBtAk
Mgtx ωω
µ+=+
である。なお、この解は、動摩擦力の向きが変わらない時間(物体 Bが右方向に移動している時)での
解である事に注意。その後は、物体 Bが静止し続けないなら、その運動方向は左方向に変わるため、動
132
摩擦力の向きが変わり、運動方程式も変わる。( BB NN '' µµ +→− に変更する。)
時間を定義しなおし、衝突直後の時刻を 0=t とし、 gdvmM
mV
dt
dxx '2
2)0(,0)0( 2
02
2 µ−+
=== の初期
条件を代入すると、
gdvk
M
mM
mVBBBAV
dt
dx
tBtAdt
tdx
k
Mgtx
dt
d
k
MgAABA
k
Mg
k
Mgx
'2)(
2)}0cos()0sin({
)0(
)}cos()sin({)(
}'
)({
')0sin()0cos(
'')0(
2
0
0
00002
0002
2
002
µω
ωωωω
ωωωµ
µωω
µµ
−+
==→=⋅+⋅−==→
+−==+
=→=⋅+⋅==+
ここで φφ cos,sin2222
=+
=+ BA
B
BA
A とおけば、
( ) )sin()sin(cos)cos(sin
)sin()cos()cos(sin)cos('
)(
0
22
00
22
022022
22
002
φωωφωφ
ωωωωµ
++=++=
++
++=+=+
tBAttBA
tBA
Bt
BA
ABAtBtA
k
Mgtx
となる。物体 B が最初に止まる時が、物体 B の右方向への移動量が最大になる位置である。よって、
移動量の最大値 MAXx2 として、以下の値を得る:
)'2(2''' 2
0
22
22
2 gdvmM
m
k
M
k
Mg
k
MgBA
k
Mgx MAX µ
µµµ−
+
+
+−=++−= 。
(ii) 運動方程式から、「力学的エネルギーおよび摩擦による仕事」に関する関係式の導出と、最初に物
体 Bが止まるまでの移動距離を求る。
運動方程式の両辺に速度ををかけ、式変形する。
0)]([2
)(')(
2
0)(
)()(
')()(
)()(')('
)(
2
22
2
2
22
22
2
2
2
2222
2
2
=
++
→
=++→
×
−−=−−=
txk
tMgxdt
tdxM
dt
d
dt
tdxtkx
dt
tdxMg
dt
tdx
dt
txdM
dt
tdxtkxMgtkxN
dt
txdM B
µ
µ
µµ
すなわち、物体 Bのもつ運動エネルギー、ばねの持つ弾性エネルギーと、摩擦による仕事の和は、時間
によらず一定である事がわかる。なお、この式は、物体 Bが右方向に移動し静止するまでの間で成り立
つ関係式である。
そこで、物体 ABが衝突する時間を時間の原点にとり、物体 Bが水平面との摩擦により静止した時刻
を St とすれば、
2
22
2
22
22
2
2 )]([2
)(')(
2)]0([
2)0('
)0(
2SS
S txk
tMgxdt
tdxMx
kMgx
dt
dxM++
=++
µµ
が成り立つ。引き続いて計算をし、衝突後の物体 Bの最初に止まるまでの移動距離 )(2 Stx を求める。
133
gdvmM
mV
dt
tdxx '2
2)(,0)0( 2
02
2 µ−+
=== を代入すると、 0)(2 >Stx の条件を考慮し、
)'2(2''
'')(
0''
)(0)('2
)]([
02
)(')]([2
02
)]([2
)('
)]([2
)('02
02
0')0(
2
2
0
22
2
2
2
2
22
2
2
2
2
2
2
2
2
2
22
22
2
22
22
2
2
gdvmM
m
k
M
k
Mg
k
Mg
Vk
M
k
Mg
k
Mgtx
Vk
M
k
Mg
k
MgtxV
k
Mtx
k
Mgtx
VM
tMgxtxk
VM
txk
tMgx
txk
tMgxMk
Mgdt
dxM
S
SSS
SSSS
SS
µµµ
µµ
µµµ
µµ
µµ
−
+
+
+−=
+
±−=→
=−
−
+→=−+→
=−+→=−+
++=⋅+⋅+
となる。(i)、(ii)いずれの場合も、同じ結果を得る。
例題 8 物体の単振動
[ ] の中に、適当な式を記入せよ。図 1のように、ばねを鉛直に立て、下端を床に固
定し、上端に質量の無視できる台を固定する。台の上に質量M の物体(物体M )を取り
付けたところ、ばねは d だけ縮んでつりあった。よって、ばね定数は、[ ア ] である。
物体M の上に、質量mのおもり(おもりm )を載せた所、ばねはさらに縮んでつりあった。
この時のばねの縮んだ長さは、[ イ ]である。
おもりmを瞬時に取り去る(おもりmを上方向にすばやく持ち上げ、物体M から離す)。
すると物体M は、ばねの自然長から[ ウ ]だけ縮んだ位置を振動の中心とする振幅
[ エ ]の単振動を行った。物体M の速さが最大になる瞬間の位置は、物体M とおも
りmを載せてつりあった位置から[ オ ]だけ上の位置である。
このような方法で、物体M を単振動させる。この時、物体M の上に載せるおもりmの質量を増加させていくと、
物体M の振幅は増加し、最後には物体M は台から離れる。物体M が台から離れないで単振動する事ができ
る質量mの最大値は[ カ ]である。
解説と解答
単振動では、単振動の運動では、運動の中心になる位置と振幅を求める事が重要である。物体M と
台が一緒になって単振動するなら、物体M は台から絶えず押されている。よって垂直抗力の大きさは
負の値になる事はない。この理解の下に、問題を解こう。
物体M に加わる重力による力Mgが、ばねが長さd 縮んだ事による力 kdとつりあうことから、ばね
定数 kは、次のように求まる。
d
MgkkdMg =→= ---[ア]
さらにおもりmを載せたとき、おもりと物体に加わる重力による力がばねの力とつりあう。ばねの縮ん
だ長さを 'd とすれば、
m
M
134
dM
mM
Mg
dgmM
k
gmMdkdgmM
+=+=
+=→=+ )(
)('')( ---[イ]
となる。
さて、急におもりmを取り除くと、物体M に加わる重力による力よりも、ばねが物体M を押す力の
ほうが上回る:
0)(' >=−+=− mgMGgmMMgkd
よって、物体M は鉛直上方向に押される。
この状態では、ばねは伸びる。ばねが伸びる事によりばねの縮んだ長さが短くなると、ばねが物体M を
押す力(正確には、台を通じて物体M を押す力)は小さくなる。そして、ばねの自然長からの伸びがd
になると、物体M に加わる重力による力Mg とばねが縮んだ事による力 kdが等しくなり、物体M に
加わる力はゼロになる。さらにばねが伸びて自然長に近づくと、ばねが物体M を鉛直上方向に押す力
よりも、物体M に加わる重力による力のほうが大きくなる。
このようにして、ばねの伸び縮みに依存した力が物体M に加わる。さらにその力の向きは、ばねが
大きく縮んでいると鉛直上方向を向き、ばねの縮んでいる長さが短いと鉛直下方向を向く。
この考察から分かるように、物体M は単振動をする。単振動の中心位置は、重力による力Mg とば
ねによる力が等しくなる位置、すなわちばねが自然長からd ---[ウ]だけ縮んだ位置である。この位置は、
物体M とおもりmを載せてつりあった位置 'd からみると、
dM
mdd
M
mMdd =−
+=−'
だけ上の位置になる。この長さが、単振動の振幅の大きさ---[エ]である。
ばねの単振動の運動において、物体M の速度が最大になる位置は、振動の中心の位置である。よって、物
体M とおもりmを載せてつりあった位置から
dM
mdd =−' ---[オ]
だけ上の位置である
物体M の運動を理解するため、運動方程式を立てる。ばねが自然長から縮んだ長さを dx + とする。
物体M がばねに固定された台に載ったまま運動をすると仮定すると、ばねの長さはそのまま物M の位
置と見なす事が出来る。鉛直下方向を(+)方向にとり、物体M の加速度を aとする。物体M には、
ばねから押される垂直抗力(大きさ )( dxkN += )と重力による力Mgが働く。よって運動方程式は、
以下の式で与えられる。
kxMa
kdMgkxdxkMgNMgMa
−=→
−+−=+−+=−+=
)()(
この式は、ばねが長さ d だけ縮んだ位置が振動の中心とする単
振動の式を示す。
さて、この単振動の運動では、おもりmをすばやく取り除く。よっ
て物体M は、ばねの縮んだ長さ 'd 、初速度=ゼロで、単振動を
はじめる。この事から、単振動の振幅は、位置 'd と位置d との差 dd −' で与えられる。物体M が台から離れ
ることなく単振動を行うのなら、物体M は、つりあいの位置 d を中心に上下 dd −' の距離を移動する。
d
d’
135
台が物体M を押す力が一番小さくなるのは、ばねの縮む長さがもっとも短くなる時である。その時、
縮んだ長さは '2)'( ddddd −=−− である。この時の垂直抗力の大きさN は、次式で与えられる。
kdM
mMkd
M
mMMd
M
mMdkddkdddkN
−=
+−=
+−=−=−−=
)(2)2()'2())'(( 。
物体M が台から離れないためには、 0≥N 、すなわち Mm ≤ が必要である。よって、おもりmの最大
値はM ---[カ]である。これよりもおもりが重くなると、物体M は台から離れる。
例題 8 の微積分を用いた解法
物体M の運動を理解するため、運動方程式を立てる。ばねの自然長を 0l とし、ばねの長さを xとす
る。物体M がばねに固定された台に載ったまま運動をすると仮定すると、ばねの長さはそのまま物M
の位置と見なす事が出来る。
物体M が台に載った時、ばねの長さがd だけ縮むとして、ばねの長さが xの時の物体M の運動方程
式を立てる。上向きを(+)にとれば、台の質量を無視
するので、台が物体M を押す力は、ばねが台を押す力(大
きさ ))(( 0 txlk − に等しい。よって、運動方程式は、
( ) ( ))()()()(
)),((
002
2
02
2
dltxktxlkkddt
txdM
kdMgtxlkMgdt
xdMMa
−−−=−+−=→
=−+−==
となる。 )()()( 0 dltxtX −−= とおけは、運動方程式は、
)()(
2
2
tkXdt
tXdM −=
となり、単振動の運動方程式になる。よって、振動の中心は、ばねの長さ dl −0 の位置(ばねの押す力
が物体M に働く重力の大きさとつりあった位置: Mgkd = )である。これは、ばねが自然長からd ---[ウ]
だけ縮んだ位置である。
おもりmを物体M に静かに載せたとき、ばねの縮む長さを求める。おもりmと物体M が台すなわ
ちばねを押す力は、 gmM )( + であり、この力がばねによる力とつりあう。ばねが自然長から 'd 縮むと
すると、力のつりあいから、
dM
mMgmM
Mg
d
k
gmMdkdgmM
+=+⋅=
+=→=+ )(
)('')(
を得る。よって振動の中心は、物体M とおもりmを載せてつりあった位置(ばねが縮んだ長さ 'd )から
dM
mdd =−' ---[オ]
だけ上の位置になる。
これまでの考察で分かるように、この単振動では、振動の中心はばねの長さ dl −0 の位置であり、 Mmd /
が振幅の大きさ---[エ]になる。
さて、物体M が台から離れることなく単振動をするためには、物体が台から受ける垂直抗力が(-)
の値をとってはいけない。垂直抗力の大きさN は、ばねが台を押す力と等しい(台の質量=ゼロとした)
ので、 ( ))(0 txlkN −= である。 0≥N より、
Mg
l0
x
)()( 00 lxkxlk −−=−
Mg
d
136
( ) 00 )(0)( ltxtxlkN ≤→≥−= 。
よって、単振動を続けるためには、 0)( ltx ≤ が必要である。単振動の振動中心は dl −0 であるので、単
振動の振幅が最大値をとるのは、 ddll =−− )( 00 の時である。振幅をd とするためには、おもりを静か
に物体M の上に載せた時、ばねの縮む長さが自然長から d2 にすればよい。これよりmの最大値として、
MmkdMg
dkgmM=→
=
⋅=+ 2)(
すなわちM ---[カ] をえる。
物体M の速さが最大になる瞬間の位置を求めるため、力学的エネルギーに関する式を導く。
( ) ( )
( ) ( ) 0)()(2
)(
2)()(
2
)(
2
)()()(
)(
2
)()()(
)(
2
0
2
2
0
2
0
2
02
2
=
−−+
→
−−−=
→
−−−=
→×
−−−=
dltxk
dt
tdxM
dt
ddltx
k
dt
d
dt
tdxM
dt
d
dt
tdxdltxk
dt
tdxM
dt
d
dt
tdxdltxk
dt
txdM
よって、力学的エネルギーは保存される:
( ) 一定=−−+
2
0
2
)()(2
)(
2dltx
k
dt
tdxM。
これより、物体M が速度の最大値を取る位置は、 dltxdltx −=→=−− 00 )(0)()( となり、物体M に
かかる重力とばねの力が釣り合った位置(既に計算したように、この位置は、振動の中心である)にな
る。
さて、ここで得られた力学的エネルギー保存の式では、物体M の位置エネルギーが消えているよう
に見える。その代わりに、d が紛れ込んでいる。そこで、もともとの運動方程式から、力学的エネルギ
ー保存の式を導出しよう。定数を時間微分すれば、ゼロになる。これを考慮し、次のような計算を行う。
[ ]
( ) ( ) 0)(2
)()(
2)(
2
)()(
2
)())((
)(
2
)())((
2
0
2
2
0
2
0
2
02
2
=
−++
→
−−−=
→
−+−=
→×
−+−=
ltxk
tMgxdt
tdxM
dt
dltx
k
dt
d
dt
tdxMg
dt
tdxM
dt
d
dt
tdxtxlkMg
dt
tdxM
dt
d
dt
tdxtxlkMg
dt
xdM
このように式変形すると、物体M の位置エネルギー )(tMgx がきちんと式の中に入っている。
さて、このように見かけ上異なる 2つの力学的エネルギーに関する式の差をとる。
( ) ( )
( ) ( )
)2(2
0)2(2
)()(
},)(2
)({]}))((2[2
)(2
{
})(2
)()(
2{)()(
2
)(
2
00
2
00
2
0
2
0
2
2
0
2
dldk
dldk
tMgxtkdx
kdMgltxk
tMgxdltxdk
ltxk
ltxk
tMgxdt
tdxMdltx
k
dt
tdxM
++=++−=
=−+−+−+−=
−++
−−−+
よって、2 つの式の差は定数であり、実質的に同じ式(力学的エネルギー保存の式)を表わす。定数は
微分すればゼロになるので、式変形の際、定数が紛れ込んだと考えられる。
最後に、次の式の意味を考えよう。
137
( ) 一定=−−+
2
0
2
)()(2
)(
2dltx
k
dt
tdxM
物体M にかかる重力でばねが縮むが、つりあいの位置を基準点に取り、その時のばねの持つ弾性エネ
ルギー=ゼロと見なせは、重力のない水平面での物体の単振動と同じ扱いができる事がわかる。この扱
いは、十分理解した上で、用いる事。なぜなら、位置エネルギーの項が、見かけ上消えている。
例題 9 台の上のおもりの単振動
質量の無視できるばねの下端を床に固定し、上端に質量M の台を取り付け、その上に質量mのおも
りを載せた所、ばねの長さが台とおもりの無い時に較べ、 sだけ縮んで釣合った。次に、おもりを載せ
たまま、台を釣合いの位置からd だけ押し下げて手を放した。重力加速度を gとして、以下の問に答え
よ。(自分で、問題設定の図を描く事。)
(1) このばねのばね定数 kを求めよ。なお、自然長からのばねの伸びを xにするために必要な力が kxの
時、ばね定数は kである。
(2) おもりが台から離れないための条件が sd < である事を示せ。すなわち、 sd < ならおもりは台か
ら離れず、台と共に振動する。一方 sd > なら、おもりは台から離れる。
(3) sd > として、おもりが台から投げ出されて到達する最高点の高さを求めよ。ただし、おもりを載
せた台の釣合いの位置を基準の高さとせよ。
解説と解答
(1) おもりと台による重力が gMm )( + のとき、ばねの縮みが sなので、
gs
MmkksgMm
+=→=+ )(
と求まる。
(2) おもりが台から離れないためには、常に台がおもりを押す垂直抗力 0>N ならよい。平衡の位置(ば
ねの縮み= s )から、さらに長さ xだけ短くした時、おもりと物体
に働く力は、以下のようになる。おもりの重力による力mg、お
もりが台を押す力 1F 、台がおもりを押す力(垂直抗力)N 、台の
重力による力Mg 、台がばねを押す力 2F 、ばねが台を押す力
)( xskF += である。
台からばねが受ける垂直抗力N とおもりがばねを押す力 1F は、
互いに作用・反作用の関係( 1FN = )にある。また、ばねが台を
押す力 )( xskF += と台がばねを押す力 2F も、互いに作用・反作
用の関係( 2FF = )にある。
ばねの自然長の長さの位置を基準に取り、ばねの縮む方向(下方向)を(+)方向にとる。おもりと台は
接触していると仮定して、おもり、台の加速度をそれぞれ 21,aa とすれば、運動方程式は、
211
1
)(:
:
MaFMgxskFMgFM
mamgNm
=+++−=++−
=+−
s+x mg
Mg
F=k(s+x)
F2
N
F1
138
となる。釣合いの式: ksgMm =+ )( 、作用・反作用により成り立つ式 1FN = を代入すると、
21
21
)(
)(
MaNmgkxFMgkxgMm
MaFMgxsk
=+−−=++−+−→
=+++−
となる。運動方程式 1mamgN =+− を代入し、おもりと台が一体で動くと仮定し aaa == 21 と置けば、
aMmkx
MamamgmgkxNmgkx
)(
)( 21
+=−→
=−+−−=+−−
となり、ばね定数 k、質量 Mm + の物体の単振動の式になる。
さて、ばねの縮めた直後の運動を考えると、ばねが伸びようとしておもりと台を押し上げる。単振動
の運動なので、その振動は、力の釣り合いの位置をを中心として、上下に同じ振り幅で振動する。この
ことを考慮して、以下考える。
これ以降は、 xの(+)の向きやばねの伸縮の向きを正しく把握する必要がある。
おもりが台から離れないためには、おもりを押す垂直抗力 0>N ならよい。おもりの運動方程式から、
+=
+
⋅+
+=+
+=→
−=
+=−
s
xmg
Mm
x
s
gMmgm
Mm
kxgmN
agmN
aMmkx1
)()(
)(
)(
よって 0>N のため、 sx −> である事が必要である。 sx −> という事は、(少なくとも、上方向に限っ
ては)振動の振幅が sよりも小さい事を意味する( xの向きをどのように取ったか考えよ。)。よって、
おもりが台から離れないためには、ばねを押し下げる長さ d は、
sd < でなければならない。
運動方程式の辺りから、もう少し詳細に考える。おもりと台が離れ
ないで運動すると仮定し、おもりと台のつりあいの位置から、さらに
xだけばねを縮めたとして、その時の運動方程式を解く:
2
2
)()(dt
xdMmkxaMmkx +=−→+=− 。
この解は、初期条件 0)0(',)0( == xAx とすれば(下向きが+に注意、
釣り合いの位置からさらに下方向に A下げて、静止させている。)、
+= t
Mm
kAtx cos)(
で与えられる。すなわち、そのつり合の位置を中心としで、上下に同じ振り幅で震動する。よって、つ
りあいの位置からd だけ下げた位置から台を静かに離す(初速度=ゼロ)と、おもりと台は、つりあい
の位置から高さd まで上がる、単振動を行う。その間、台はずっとおもりを押し続ける( 0>N )状態
である。おもりが台によって押される垂直抗力N は、
+=s
xmgN 1
で与えられるので、つりあいの基準の位置から上方向には、距離 sだけ移動した位置( sx −= )で垂直
抗力 0=N となる。よって常に 0>N となる単振動を行ためには、 sx −> である事が必要である。振
x
つりあい
の位置
139
動の上下方向の対称性から考えれば、台を押し下げる長さd は、 sd < を満足しなければならない。
また、N の式で、 xが大きくなればなるほどN が大きくなるが、
これは、ばねが縮んでいるため、伸びようとして台を押し上げようと
して、垂直抗力N が増加する事を示す。 0<x (ばねが伸びる方向)
では、ばねが台を押し上げようとする力がだんだん小さくなるため、
垂直抗力 N の値も小さくなっていく。その事が、垂直抗力の式に表
れている。(以下、省略)
(3) おもりが台から離れた後は、おもりの運動のみを考えればよい。
おもりが台から離れる時のおもりの速度を求め、続いて力学的エネルギー保存からおもりの高さを求め
る。また、おもりが台から離れるので、 sd > の条件が満足されていると考えよう。なお、ここでは、
混乱を避けるため、図では、台の高さ(厚さ)=ゼロとしている。
おもりが台から離れる時のおもりの速度をvとする。おもりが台か
ら離れる瞬間なので、台の速度も vである。また、ばねの伸びは自
然長の長さになっている(ばねの縮みの量が sの位置から、縮む長
さが s小さくなるので、自然長の長さになる)。おもりと台の高さは、
つりあいの位置から sだけ高い。
一方、台から手を静かに離す時は、ばねの縮んだ長さは ds + で
あり、おもりと台の速度=ゼロである。また、高さは基準の位置か
らd だけ低い。
これより、つりあいの位置を基準にとると、力学的エネルギー保
存から、次の式が成り立つ。
)()()(2
10
2)(0
2
1
2
2222 dgMmdskMm
sgMmkvMm
−⋅++++⋅+
=⋅++⋅++
。
この式を変形し、おもりが台を離れる瞬間の速度を求める。
)(
)()}(2){()(2)(
)()()()(
2
1
2
)()()(2
1
2
)()()(2
10
2)(0
2
1
2
222
22222
22
22
2222
sds
gv
sds
gdssds
s
gdsgds
s
gv
dsgMmdss
gMmv
Mm
dsgMmdskvMm
dgMmdskMm
sgMmkvMm
−=
−=+−+=+⋅−+=→
+⋅+−++
=+
→
+⋅+−+=+
→
−⋅++++⋅+
=⋅++⋅++
おもりの運動エネルギーが全て位置エネルギーになるので、求める高さをhとすれば、次のようになる。
s
sd
s
sdssd
s
g
gsv
gshshmgv
m
22)(
2
1
2
1)(
2
22222222 +
=−
+=−⋅+=+=→−=
s つりあい
の位置
N=0
h
140
例題 9の微積分を用いた解法
台からばねが受ける垂直抗力N とおもりがばねを押す力 1F は、互いに作用・反作用の関係( 1FN = )
にある。また、ばねが台を押す力F と台がばねを押す力 2F も、互いに作用・反作用の関係( 2FF = )
にある。よって、おもり、台、ばねにかかる力を分けて描くと、下の図のようになる。
おもりと台の運動方程式を立てるにあたり、鉛直上向きを(+)方向をとし、おもり、台の座標をそ
れぞれ )(),( tytx とする。ばねの長さが自然長の時、大きさの無視できるおもりと台の上側の位置を座標
の原点に取る。
おもりと台が接触したまま運動すると仮定すれば、それぞれの運動方程式は、
−==
==−−
==−
kxFF
dt
tydtMMaFMgFM
dt
txdmmamgNm
2
2
2
21
2
2
1
:
)(:
)(:
ばね
で与えられる。ばねが伸びている時( 0>x )、ばねは台を下向きに引くので、符合も考慮すると、 kxF −=2
となる事に注意する。
(1) ばねが sだけ縮んだ時、力がつりあっておもりと台が静止したので、 stytx −== )()( である。運動
方程式から 1FN = およびばねの長さの変化による力 kxFF −== 2 に注意して、
2
2
2
2
1
2
2
21
2
2
1 )()(}{}{
)(:
)(:
dt
tydtM
dt
txdmFMgFmgN
dt
tydtMMaFMgFM
dt
txdmmamgNm
+=−−+−→
==−−
==−
となる。よって、以下のような全体の運動量の時間変化に対する式が得られる。
2
2
2
2
2
2
2
2 )()()(
)()()(
dt
tydtM
dt
txdmgmMkx
dt
tydtM
dt
txdmMgkxmg +=+−−→+=−−+−
つりあいの時の条件: stytx −== )()( を代入すれば、ばね定数として、以下の値を得る。
s
gmMk
dt
tydtM
dt
txdmgmMxsk
)(00
)()()()(
2
2
2
2 +=→+=+=+−−−
(2) おもりと台が一体となって運動する場合、 )()( txty = とおけば、運動方程式は、以下の式となる。
ばねの伸びx
mg
Mg
F
F2
N
F1
ば ね が 自 然 長の時の高さ
mg
N
Mg
F
F1
F2
141
2
2
1
2
2
)(:
)(:
dt
txdtMNMgkxFMgFM
dt
txdmmgNm
=−−−=−−
=−
これら 2つの式を以下のように足し合わせて式変形する。
( )2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
))(()(
)()(
)()(
)()()()(
)()(
)(:
)(:
dt
stxdmM
dt
txdmMsxk
dt
txdmM
k
gmMxk
dt
txdmMgmMkx
dt
txdtM
dt
txdmMgkxmg
dt
txdtMNMgkxM
dt
txdmmgNm
++=+=+−→
+=
++−→+=+−−→
+=−−−→
=−−−
=−
これより、おもりと台は一体となって、振動の中心が sx −= である単振動の運動を行う。その振動数は
s
g
s
gmM
mMmM
k=
+⋅
+=
+=
)(1ω
である。実際におもりと台が一体となった単振動を行うためには、おもりと台が互いに押し合って力を
及ぼさなくてはならない。すなわち、 01 >= FN でなくてはならない。s
gmMk
)( += に注意し、
( )
s
xmg
s
sxmg
s
sxmgmgN
sxs
gmM
mM
mmgsx
mM
kmmgN
dt
txdmMsxk
dt
txdmmgN
−=
+−=
+⋅−=→
++
⋅+
−=++
−⋅+=→
+=+−
+=
1
)()(
)()(
)(
)(
2
2
2
2
を得る。よって 0>N となるためには、 0<x でなくてはならない。逆に言えば、ばねが自然長の長さ
よりも長くなれば、おもりと台は離れる。
さて、単振動の中心が sx −= で 0>N となる振幅の最大値は、 ss =−− )(0 である。この単振動で、
一体となったおもりと台がもっとも低くなる時の xの座標は、 sssx 2−=−−= の時である。この時、
振動の中心(つりあいの中心)からさらに sだけ低い位置(単振動の振れが最大の所)では速度=ゼロ
である。よって、台をつりあいの位置から引き下げる長さ sd < なら、おもりと台は離れることなく、
単振動を続ける。
(3) ここでは、 sd > として考えよう。運動方程式から、
2
2 )()()(dt
txdmMgmMkx +=+−−
を得た。この式を以下のように変形し、力学的エネルギーに関する式を導く。(途中の運動の詳細につ
いての設問がないので、力学的エネルギー保存の式を用いるのが便利である。)
142
( )
一定
=+++
+→
=
+++
+→
=++
+
+→
+=+−−→×
+=+−−
)()()(2
)(
2
0)()()(2
)(
2
0)()()(2
)(
2
)()()(
)()(
)()()()()(
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
tgxmMtxk
dt
tdxmM
tgxmMtxk
dt
tdxmM
dt
d
tgxmMdt
dtx
k
dt
d
dt
tdxmM
dt
d
dt
tdx
dt
txdmM
dt
tdxgmM
dt
tdxkx
dt
tdx
dt
txdmMgmMkx
時刻 tでおもりと台が離れるとし、その瞬間のおもりと台の速度を 0v とし、 0v を求める。初期条件は、
dsxdtdx −−== )0(,0/)0( であり、おもりと台が離れる時は、 0)(,/)( 0 == txvdttdx であるから、次のよ
うな関係式から、速度 0v が求まる。
s
sdgsd
s
gmMds
mMv
sdss
gmMdsgmMds
kds
dsgmMdsk
dsgmMdskmM
vmM
gmMk
vmM
dsgmMdskmM
tgxmMtxk
dt
tdxmMgxmMx
k
dt
dxmM
)()(
2
)()(
2
]2)[(2
)()(])()(
2)[(
)()()(2
)()()(2
022
0)(022
)()()(2
02
)()()(2
)(
2)0()()0(
2
)0(
2
222
0
2222
0
22
0
22
2
2
2
2
−=−
++
+=
−++
+=+−++=
−−++−−=−−++−−++
=+
⋅++++
=−−++−−++
+++
+=+++
+
あとは、おもりが台から離れた後、位置エネルギーと運動エネルギーが等しくなるとおく事で、おもり
が到達する高さを得る。
例題 10 逆立ち振り子
下端Aを支点として振動する図 1のような、質量mの倒立振り子
の微小振動を考える。この運動では、Aを支点とする棒(棒の質量
=ゼロ)が角度θ だけ傾くと、ばね定数 k の2つのばね(ばねの質
量=ゼロ)に、ばねの伸び縮みによる弾性エネルギーが蓄えられる。
その一方で、棒が傾く事により、質量 m の質点の位置エネルギーが
減少する。また、質点の振動による運動エネルギーを持つ。空気の
抵抗や支点Aでの棒の摩擦など、エネルギーの散逸は無視する。力学的エネルギーの保存(質点の運動
エネルギーと位置エネルギー、およびばねの弾性エネルギーの総和が一定)を利用して、この単振動の
振動数を求めよ。また、安定した振動になるための条件を求めよ。
解説と解答
この問題では、力学的エネルギー保存の式を利用して、振動数や安定条件を求める。
最初にばねの持つ弾性エネルギーを求める。棒の傾く角度θ が十分小さいとして、ばねは水平方向(2
つのばねがつながれている方向)にのみ動き、垂直方向の移動を無視する。ばねは、棒と点 Aら高さa
a
L
θ
m
k k
図1
A
143
の所でつながっているので、ばねの平行位置からのずれ(移動距離)は、図 2より、 θsina である。よっ
てばねの弾性エネルギーは、
22 )sin()sin(2
12 θθ akak =××
である。
続いて、質量mの質点の位置エネルギーを求める。棒の傾きがゼロ( 0=θ )の時の
質点の高さを位置エネルギーの基準点にとる。すると、図 3より、角度θ 傾くと、質
点の高さは )cos1( θ−L だけ低くなる。よって基準点から見れば、質点の位置エネルギ
ーは、重力加速度を gとして、 )1(cos −θmgL となる。
最後に、質点の運動エネルギーを求める。質点の運動は半径 Lの円周上なので、その
速度は、角度θ の時間微分と半径 Lとの積dt
dL
θ⋅ で与えられる。よって、質点の運動
エネルギーは22
2
dt
dmL θである。
以下では、角度θが十分小さいとして、 2/1~cos,~sin 2θθθθ − と近似する。この近似により、ば
ねの弾性エネルギーは22θka 、質点の位置エネルギーは 2/2θmgL− となる。 これらエネルギーに、質
点の運動エネルギーを加えた値は、倒立振り子の持つ力学的エネルギーであり、損失がないと仮定して
いるので、時間によらず一定の値を持ち、
EmgLka
dt
dmLmgLka
dt
dmL=
−+
=−+
22222
22
22
2
2
222θ
θθθ
θ (定数)
となる。
さて、一般論です。ばね定数Kのばね(ばねの質量 = 0)につながれた質量M の質点の単振動にお
いて、力学的エネルギーが保存されるなら、
(一定)'22
2
2
EXK
dt
dXM=+
が成り立つ。ここで X は、ばねの平衡位置からの変位量であり、この質点の(角)振動数は MK / とな
る。倒立振り子において、 X に相当する変数は角度θ なので、倒立振り子の(角)振動数は
2
22
mL
mgLka −
となる。安定した微小振動のためには、 の中は正の実数でなくてはならない。よって
02 2 >−mgLka から、k
mgLa
2> を得る。
θ L
図3
θ a
図2
144
空気抵抗のある水平面での、物体の単振動
質量mの物体が、図のように、ばね定数 kのばねにつ
ながれている。物体には速さに比例した空気抵抗が働く。
物体の水平方向の運動は、ばねの自然長からの変位を x(右方向への変位を正(+)にとる)で表すと、
xdt
xdx
dt
dx&&& ==
2
2
, の記号を用いて、物体の運動方程式は、
xmkxxm &&& γ2−−=
となる。ここでγ は空気抵抗による減衰定数である。この物体の運動を考えよう。
まず mk /2 =ω とおいて上の式を変形すると、
02 2 =++ xxx ωγ &&&
を得る。この方程式の解として )exp( xx µ= を仮定すると、
02 22 =++ ωγµµ
を得る。この 2次式の解を、 022 >−= γωD の場合について考えよう。 22' γωω −= とおけば、
'0)(2 22222 ωγµγωγµωγµµ i±−=→=−++=++
となる。変位 )(tx の一般解は、 BA, を定数として、
)]'cos()'sin()[exp()( tBtAttx ωωγ +−=
で与えられる。初期条件として、時刻 0=t で、位置 0)0( xx = 、速度 0)0( =x& とすれば、
)}'cos()'sin('
){exp()( 00 txtx
ttx ωωωγ
γ +−=
となる。(実際に計算して確認しよう。)
さて、物体の運動方程式は次のように書き換えることが出来る。
xxmxkxxm &&&&& ×−=×+ γ2)( 。
ここで、 xxdt
xdxx
dt
xd&&&&
&2
)(,2
)( 22
== の関係を用いて、上の式を次のように変形する。
02)2(22
222 ≤−=⋅−=
+ xmdt
dxxmx
kx
m
dt
d&&& γγ
左辺は、物体の振動による運動エネルギー、およびばねの弾性エネルギーの和である。一方右辺は、「空
気抵抗による力」と「単位時間当たりの変位(=速度) dtdx / 」との積、すなわち単位時間当たりの空
気抵抗による仕事を表し、常に負(正にならない)の量になる。空気抵抗による仕事の分だけ、物体と
ばねが持つ力学的エネルギーが減少する。
問題: 0,0 <= DD の場合を考えてみよう。(この答えは、大抵の大学の力学の教科書に出ている)
m
x
145
連成振動(2つの物体が、ばねを介してつながっている時の振動)
図のように、質量 Mm, の 2つの物体が、質量の無
視できるばね定数 k、および 'k の 3つのばねでつなが
れている。3つのばねの長さは、全て自然長の長さに
あるとする。この物体がなめらかな平面状でばねにつ
ながった方向と平行な方向(図の左右方向)での運動を考える。この時、2 つの物体は、どのような振
動数を持つ単振動を行うか、考えよう。
物体 Mm, の、ばねの平衡の位置からの変位をそれぞれ 21, xx (右方向の変位を、正の符号にとる)
とする。物体mが平衡状態から 1x だけ変位すれば、一番左のばねは物体mに対して 1kx− の力を加える。
(よって、ばねが自然長から伸びている( 01 >x )場合は、物体mは、左方向に力を受ける。)
一方、物体 Mm, の変位がそれぞれ 21, xx なので、真ん中のばねの長さの変化量は 12 xx − となる。例
えば 012 >− xx の場合は、真ん中のばねは自然長の長さよりも長く、ばねが縮む方向に力が働くため、
物体mに対しては、右方向に力を加える。よって真ん中のばねにより加わる力は、物体mに対して
)(' 12 xxk −+ の力、物体M に対して )(' 12 xxk −− となる。
また、物体M が平衡状態から 2x だけ変位するので、右のばねは物体M に対して 2kx− の力を加える。
これより運動方程式は、次式で与えられる。
2122
2
2
1212
1
2
)('),(' kxxxkdt
xdMxxkkx
dt
xdm −−−=−+−=
以下では、簡単のため Mm = の場合を考察しよう。これら 2つの方程式を見ると、 )(' 12 xxk −± お
よび 21,kxkx のばねによる力がある。そこで、2つの式の足し算および引き算を計算しよう。すると、
))('2()()('2)(
),()(
1212122
12
2
212
21
2
xxkkxxkxxkdt
xxdmxxk
dt
xxdm −+−=−−−−=
−+−=
+
を得る。 212211 , xxQxxQ +−=+= の変数変換を行えば、運動方程式は、次のようになる。
22
2
2
12
1
2 '2, Q
m
kk
dt
QdQ
m
k
dt
Qd +−=−=
よって一般解は、jjA φ, を定数として、 )sin( jjjj tAQ φω += ( 2,1=j )で与えられる。ここで、
mkkmk /)'2(,/ 21 +== ωω である。2つの物体の運動は、 21,QQ を 21, xx について解く事で得られる。
では、 212211 , xxQxxQ +−=+= は、どのような意味を持つのだろうか? 21, xx について解けば、
)sin()sin(2
)sin()sin(2
222111212
222111211
φωφω
φωφω
+++=+=
+−+=−=
tAtAQQx
tAtAQQx
である。小さな振動数( 1ω )の場合、振動の係数が 11, AA と同符号なので、2つの物体の変位が同じ方
向になっている。一方大きな振動数( 2ω )の場合、振動の係数が 22 , AA −+ と異符号なので、2 つの物
体の変位が逆方向になっている。
変数 21,QQ の運動方程式が示すように、2 つの物体の運動は、同じ方向に運動する単振動と、互いに
逆方向に運動する単振動の、2 つの単振動に分けて考える事ができる。 21,QQ の運動(時間発展)は、
互いに独立に進む。よって、もし最初に 21,QQ のいずれかの変数に対応する単振動のみを行っていたの
x1 x2
k k’ k
m M
146
なら、残りの変数に対応する単振動は決して行わないのである。2 つの物体の運動は、このように、互
いに同じ方向へ動く運動(真ん中のばねは伸び縮みせず、自然長の長さのまま)と互いに近づいたり遠
ざかったりする運動の 2つの運動の足し算として与えられる。
別の見方をしよう。 21, xx の値の平行の位置からの変化量をそれぞれ 21, xx δδ とする。 21 xx δδ = なら、
真ん中のばね定数 'k のばねの長さは変化せず、両端のばね定数 kのばねの伸縮のみで 2つの物体の運動
が決まる。その時の運動方程式は、いずれの物体でも、以下の式の形をとる。
)()(
2
2
tkxdt
txdm j
j −=
よって、振動数は mk /1 =ω で与えられる。小さな振動数 1ω の場合である。
一方、 21 xx δδ −= であれば、中央のばねの長さは 212 2 xxx δδδ =− となり、ばね定数 'k のばねの伸びは、
1xδ の 2倍になる。これは、中央のばねのばね定数を '2k とみなしてよい( xkxk δδ ×=× )'2(2' )状態で
ある。これより、2 つの物体の振動数は、 mkk /)'2(2 +=ω となる。これが、大きな振動数 2ω の場合
である。
さて、この連成振動で、微積分を用いて力学的エネルギー保存の式と運動量に関する式の導出を行う。
物体 Mm, を残したままにして、運動方程式は、次のように変形される。
−−−=
−+−=→
×−−−=
×−+−=
dt
dxkxxxk
dt
dx
dt
xdM
dt
dxxxkkx
dt
dx
dt
xdm
dt
dxkxxxk
dt
xdM
dt
dxxxkkx
dt
xdm
2212
2
2
2
2
1121
1
2
1
2
22122
2
2
11212
1
2
])('[
)]('[
])('[
)]('[
2つの式を足し合わせると、以下のようになる。
0)(2
'
2222
0)(2
'
2222
)('22
])('[)]('[
2
12
2
2
2
1
2
2
2
1
2
12
2
2
2
1
2
2
2
1
1212
22
11
2
2
2
1
2212
1121
2
2
2
2
1
2
1
2
=
−+++
+
=
−+
++
+
−−−
+−=
+
−−−+−+−=+
xxk
xk
xk
dt
dxM
dt
dxm
dt
d
xxk
dt
dxk
xk
dt
d
dt
dxM
dt
d
dt
dxm
dt
d
dt
dx
dt
dxxxk
dt
dxx
dt
dxxk
dt
dxM
dt
d
dt
dxm
dt
d
dt
dxkxxxk
dt
dxxxkkx
dt
dx
dt
xdM
dt
dx
dt
xdm
すなわち、時間によらず [ ] の中の量は、一定である。これは、エネルギー保存の式を示す。
一定 =−+++
+
2
12
2
2
2
1
2
2
2
1 )(2
'
2222xx
kxk
xk
dt
dxM
dt
dxm。
一方運動量は、
)()()(
)(
)('
)('
1221
122
2
2
2
1
2
2122
2
2
1212
1
2
xxkdt
tdxM
dt
tdxm
dt
dxxk
dt
xdM
dt
xdm
kxxxkdt
xdM
xxkkxdt
xdm
+−=
+→+−=+→
−−−=
−+−=
となる。2つの物体の運動量の和は、外部からの力(ばねの力)により変化し、時間的に一定ではない。
ばねの力による力積で、常に変化する。
147
例題 1 連結したばねによる複数の物体の運動
図のように、同じ質量mの物体 Pおよび Qが、質
量の無視できるばね定数 k(両端のばね)、および 'k
(真ん中のばね)の 3つのばねでつながれている。3
つのばねの長さは、全て自然長の長さにあるとする。この物体がなめらかな平面状でばねにつながった
方向と平行な方向(図の左右方向)での運動を考える。以下の設問にあるようにばねや物体を移動させ
ても、ばねは伸びきらない、またはこれ以上縮む事ができないような状況にはならないとする。また、
空気抵抗は無視できるものとして、以下の問いに答えよ。
(1) 物体 Qに外部から力を加えて、右方向に 00 >x の大きさだけ移動させて、静止させた。この時、物
体 Q に外部から加えられている力の大きさを求めよ。また、物体 P はどちらの方向にどれだけ変
位(移動)しているか答えよ。
(2) 物体 Qをつりあいの位置(一番右のばねのながさは自然長である)に固定したまま、物体 Pに力を
加え、右方向に 00 >x の大きさだけ移動させて、静かに離すと、物体 Pは単振動を行った。その周
期を求めよ。また、物体 Pがつりあいの位置(全てのばねの長さが自然長の時の位置)にいる時の
物体 Pの速さを求めよ。
(3) 物体 P、Q に力を加え、右方向に同じ変位 00 >x だけ移動させた。その後、静かにかつ同時に物体
P、Qに加えた力を取り去った。すると、物体 P、Qは単振動を行なう。物体 Pおよび物体 Qの単
振動の周期を求めよ。
(4) 物体 P、Qに力を加え、物体 Pは左方向に、物体 Qは右方向に同じ変位 00 >x だけ、非常にゆっく
りと移動させた。この時、物体 P、Qに外部から加えた力が行った仕事の和を求めよ。
その後、静かにかつ同時に物体 P、Qに加えた力を取り去ると、物体 P、Qは単振動を行なう。物
体 Pおよび物体 Qの単振動の周期を求めよ。
(5) 図の右側の壁を、右方向に 00 >x だけ移動させた。この時、物体 Pおよび物体 Qは、どちら方向に
どれだけの距離を移動するか。この状態で、さらに物体 P および物体 Q に力を加え、共に右方向
に 00 >a だけ移動させた後、静かに力を取り去った。この時、物体 P および物体 Q は単振動をす
る。その周期を求めよ。
解説と解答
基本は、力の大きさなどをきちんと図に書いて、力の釣り合いを考える。
(1) 力の大きさを図に書く。
物体 Qに力F を加えて、右方向に 0x 移動し、静止したとする。その時右のばねは 0x だけ縮む。右のば
ねは縮んだので、伸びようとして、物体 Qを左方向に大きさ 0kx の力で押す。
物体 Pは、物体 Qの移動により Px (これから求めるべき値)だけ右方向に移動したとする。その時、
真ん中のばねは、 Pxx −0 だけ伸びる。右のばねは、物体 P を左方向に大きさ Pkx の力でひく。真ん中
のばねは、その長さを縮めようとして、物体 Qを左方向に )(' 0 Pxxk − の力で引く。物体 Pに対しては、
右方向に大きさ )(' 0 Pxxk − の力で、右方向に引く。これらの力が物体 P、Qに加わるので、力のつりあ
いの式は、次のようになる。
=−+−−
=−+−
0)()(':
0)(':
00
0
kxxxkFQ
xxkkxP
P
PP
P Q k k’ k
148
これら 2 つの式から、物体 P の移動距離、および物体 Q に外部から加えられた力の大きさが、以下の
ように求まる。
00
22
0000000
00
'
)'2(
'
')'(
'
'')'(')'()('0)()(':
'
'0')'(:
xkk
kkkx
kk
kkk
xkk
kkxkkxkxkkkxxxkFkxxxkFQ
xkk
kxxkxkkP
PPP
PP
++
=+
−+=
+−+=−+=+−=→=−+−−
+=→=++−
注意:右のばねは、その長さが自然長からから 0x だけ短くなっているので、伸びようとして、右の壁を
大きさ 0kx の力で右方向に押す。ばねに押される反作用として、右の壁は、右のばねを大きさ 0kx の力
で左方向に押す。左のばねについても、同様に大きさ Pkx の力の作用・反作用の関係が成り立つ。
(2) 物体 Q がつりあいの位置に固定されているので、物体 Q は壁
の働きをする。この状態では、2つのばねにつながれた物体 Pの運
動(右図)になる。
物体 P がつりあいの位置(2つのばねは、自然長の長さ)から、
右方向に xだけ移動すると、真ん中のばねは、ばねの長さを伸ばそう(自然長に戻そう)として、物体
P に対して左方向に力 xk ' を加える。一方左のばねは、その長さが長くなるので、ばねの長さを縮めよ
う(自然長に戻そう)として、物体 P に対して左方向に力 kxを加える。これより物体 p の運動方程式
は、加速度をaとすれば、
xm
kkatxkktxktkxma
')()'()(')(
+−=→+−=−−=
となる。これより、物体 Pの運動は、ばね定数 'kk + 、質量mの物体の単振動であり、その(角)振動
数ω は、 mkk /)'( + である。周期は、
'2
/)'(
22
kk
m
mkk +=
+= π
πωπ
で与えられる。
この単振動では、摩擦など、力学的エネルギーの損失は、考えなくて良い。よって、物体 Pの持つ運
動エネルギーとばねの持つ弾性エネルギーの和が時間によらず一定である。そこで、ばねが自然長の時
の物体 P の速さをvとすれば、最初物体 P はばねの伸びが 0x の状態で静止していたので、以下の式が
成り立つ。また、物体 Pの速さは以下のように求まる。
m
kkxvx
m
kkvxkkxv
m '''
2
1
2
1
20
2
0
22
0
2
0
2 +=→
+=→+=
なおこの結果は、連成振動の解説で微積分を用いて導いた力学的エネルギー保存の式において、 mM = 、
02 =x と置いた式からも、適切な条件を代入する事で、求まる。
(3) 物体 P、Qが右方向に同じ変位 0x だけ移動した場合、図のように、真ん中のばねは自然長の長さの
ままであり、物体 P、Qに対して力を及ぼさない(引いたり押したりしない)。この状況は、物体 P、Q
に及ぼす力の観点からは、真ん中のばねが存在しない状態と同等である。
物体 P、Qともに最初右に 0x だけ移動していて、そっと離すのなら、両端のばねのばね定数が等しく、
k k’ x0
149
物体の質量も等しいため、物体 P、Qは同じ振動数で、かつ同じ位相(振動の仕方が同じ。仮に一方の
物体が単振動で右端にいれば、他方の物体も右端に
いる。)で振動を続けるだろう。つまり、直感的には、
2 つの物体の運動は、全く同じ単振動を続けると予
想される。その際、真ん中のばねは、その長さが変
化せず、自然長のため、何れの物体の運動に対して
も、影響を与えない(物体 P,Qに力が加わる事がな
い)。これより、2 つの物体の運動は単振動であり、
その振動の周期も等しく
m
kπ2
となる。
さて、もう少していねいに物体の運動を考えよう。物体 P、Qの変位を等しく xとする。常に「真ん
中のばねが自然長の長さで、物体 P、Q に及ぼすばねの力がゼロ」であるとの仮定のもと、物体 P、Q
の加速度をそれぞれ QP aa , として、運動方程式は、以下のようになる。
xm
kakxmaQ
xm
kakxmaP
PP
−=→−=
−=→−=
:
:
物体 P、Qともに、同じ振動数 mk / の単振動の運動を表わす。よって、物体 P、Qともに最初右に 0x
だけ移動していて、そっと離される(位置 0x で、初速度=ゼロ)のなら、物体 P、Qの運動は同じ運動
方程式に従うので、その後の物体 P、Qの運動は、全く同じになるだろう。実際物体 P、Qの運動が全
く同じなら、真ん中のばねの長さが変化しない(自然長のまま)ため、真ん中のばねの影響は考えなく
て良い。(真ん中のばねは、何れの物体に対しても、力を加えない。)よって、物体 P、Qは、1つのば
ねにつながれた物体の単振動の運動と同じ運動を続け、一方の運動が、他方の運動に影響することはな
い。2つの物体の運動はともに単振動であり、その振動の周期も等しく、 mk /2π で与えられる。
(4) 仕事の定義を再確認する。物体にある大きさ f の力をある向きに加え、力を加えた向きに物体が距
離 x移動した場合、その力のなした仕事は fxである。一方、力の向きと逆方向に物体が距離 x移動した
場合は、仕事は fxxf −=−⋅ )( になる。この事に注意して考える。
最初、3つのばねは自然長であった。これは、弾性エネルギー=ゼロである事を示す。
物体 P、Qが非常にゆっくりと移動したのだから、物体 P、Qに外部から加えられた力の大きさと、
ばねが物体 P、Qを押す力とは、つりあいの状態にあったと考えよう。(注意:本当に釣合っていると、
物体 P、Qは動かない。外部から加える力の大きさは、つりあった時の力の大きさよりも、ほんのわず
かだけ大きいと考えよう。ほんのわずかだけ大きいので、つりあった時の力大きさとほほ同じ、面倒だ
かから全く同じと考える。実際物体 P、Qは非常にゆっくりと移動したのだから、同じ大きさと考えて
よい。)このような条件の下、物体 P、Q に加えられた力で 2 つの物体が移動し、その結果ばねの弾性
エネルギーが変化した(物体 P、Qは非常にゆっくりと移動したのであるから、物体 P、Qの持つ運動
エネルギー=ゼロと考える。)のだから、外部から加えられた力によって物体 P、Qに行った仕事は、3
つのばねに蓄えられた弾性エネルギーに等しいと考える事ができる。
このように考えると、左右のばねに蓄えられる弾性エネルギーは等しく 2/2
0kx 、真ん中のばねの弾性
x0 x0 k k’ k
x0 x0 k k’
P Q
x0 x0
P Q
150
エネルギーは2
0
2
0 22/)2(' kxxk = であるから、仕事の合計は2
0
2
0
2
0 )'2('22/2 xkkxkkx +=+× となる。
補足:仕事の、定義からの計算(微積分を用いた説明)
物体 Qのみが右方向へ 0x 移動し、その後物体 Pが左方向へ 0x 移動する場合の仕事を計算する。
物体 Qに加える力の大きさは、つりあいの位置から右方向に xだけ移動した時、 xkk )'( + である。外
部から加える力の向きと物体 Qの移動方向は同じなので、仕事の定義から
2
00
)'(2
1)'(
0
xkkxdxkkx
+=+∫
をえる。
次にその後物体 Pが左方向へ 0x 移動する場合の仕事の計算を行う。左方向へ x移動すると、左のばね
は xだけ縮む。その時の左のばねの力は、右方向に kxである。一方真ん中のばねは、既に 0x だけ伸び
ていたので、物体 Pが左方向へ x移動すると、ばねの力は右方向に )(' 0xxk + である。この 2つの力に
抗して、物体 Pに左方向に、 00 ')'()(' xkxkkxxkkx ++=++ の力を加える。よって、物体 Pが左方向
へ移動するときの仕事は、外部から物体 Pに加える力の向きと物体 Pの移動方向が同じなので、
2
0
2
00
0 ')'(2
1]')'[(
0
xkxkkdxxkxkkx
++=++∫
これより全体としての仕事は、
2
0
2
0
2
0
2
0 )'2(')'(2
1)'(
2
1xkkxkxkkxkk +=++++
となる。
なお、物体 Pのみが左方向へ 0x 移動し、その後物体 Qが右方向へ 0x 移動する場合も、仕事は同じ結
果になる。計算してみよう。この問題において、どのように計算しても同じ結果になるのは、仕事が物
体の位置やばねの伸縮した長さにのみ依存する量だからである。問題には、摩擦が全く入っていないか
ら、このような結果になった。
(5) 物体 P および物体 Q が、右方向にそれぞれ QP xx , 移動したとしよう。物体 P、Qにおける力の釣
り合いに関して、右方向を正に取り、以下の式を得る。
00
000
000
0
'2
'
'2
'
'
'
'
'
'2
'
'
)'2(
'
'
0)('
'0)(0)()('
'
'0')'(
0)()(':
0)(':
xkk
kx
kk
kk
kk
k
kk
xkx
xkk
kkxkxx
kk
kkkkxxk
kk
kk
xxkkk
xkkxxkkxxxkxxk
kk
xkxxkxkk
xxkxxkQ
xxkkxP
Q
P
QQQ
Q
Q
QPQPQ
Q
PQP
QPQ
PQP
+=
++
+=
+=
++
=→=++
→=
++
→
=−++
−→=−+−→=−+−−
+=→=++−→
=−+−−
=−+−
よって、何れも右方向に移動する。なお、(+)符号は右方向への移動を意味する。
続いて、単振動について考える。
上の状態から、さらに物体 Pおよび物体 Qに力を加え、共に右方向に 0>x だけ移動させた時、それ
ぞれのばねが物体を押すないしは引く力の大きさと向きを考える。なお以下の考えでは、力が釣合った
状態を正直に考察し、運動方程式を導いている。
左のばねの伸びは xxP + である。よって左のばねは物体 Pを左方向に大きさ )( xxk P + の力で引く。
151
物体 Qの位置が最初の自然長の位置から xxQ + だけのび、物体 Pの位置も右方向に xxP + 移動してい
るとすれば、ため、真ん中のばねの伸びは、 0)()( >−=+−+ PQPQ xxxxxx で変化しない。よって真
ん中のばねは物体 Pを右方向に )(' PQ xxk − 力で引き、物体 Qを左方向に )(' PQ xxk − の力で引く。
右のばねの壁側は 0x の位置にあり、物体 Q の位置は最初の自然長の位置から xxQ + だけ右方向に移
動しているので、右のばねの伸びは、 )(0 xxx Q +− である。よって右のばねは、物体 Q を右方向に
)]([ 0 xxxk Q +− の力で引く。
よって、さらに物体 P および物体 Q に力を加え、共に右方向に 00 >a だけ移動させた場合の運動方
程式を考えよう。物体 Pおよび物体Qを共に右方向に 00 >a だけ移動させたときのばねの状態からの、
ばねのさらなる伸びを x、物体 P、Qの加速度を QP aa , とおくと、物体 Pと Qの運動方程式は、以下の
ようになる。なお、この運動方程式の導出でも、(3)と同じように考え、真ん中のばねの伸びは PQ xx − の
ままで、時間的に変化しないと仮定している。
)]([)(':
)(')(:
0 xxxkxxkmaQ
xxkxxkmaP
QPQQ
PQPP
+−+−−=
−++−=
物体 Pおよび物体 Qを右方向に 00 >x だけ移動させた時のつりあいの条件:
0)()(':,0)(': 0 =−+−−=−+− QPQPQP xxkxxkQxxkkxP
を運動方程式に代入すると、
kxxxkxxkkxxxxkxxkmaQ
kxxxkkxkxxxkxxkmaP
QPQQPQQ
PQPPQPP
−=−+−−+−=+−+−−=
−=−+−+−=−++−=
)}()('{)]([)(':
)}('{)(')(:
00
となり、(3)での運動方程式とまったく同じになる。よって、その振動数は(3)と同じで、物体 P、Qとも
に、 mk / である。
運動方程式を一気に導くために、次のような多少横着な考え方もあるだろう。既に変お力が釣合った
状態は計算しており、そのとき物体 P、Qの最初の位置からのずれは、計算した。単振動は、合計とし
ての力がどのように加わっているかで決まる。
真ん中のばねの伸びは PQ xx − のままで変化しないと仮定する。つりあった位置の物体 P、Q の右方
向への変位を xとすれば、物体の運動方程式は、以下のようになる。
kxmaQ
kxmaP
Q
P
−=
−=
:
:
これから、振動数として mk / をえる。
なお、ここまで考えなくとも、直感的には、(3)と(5)の運動は、ともに単振動で同じ振動数と分かる
だろう。重要な事は、力がつりあった場合から、どの方向にいくらの大きさの力が働いたかを理解する
事である。物体がばねによって押されようとも引かれようとも、静止していれば、その位置がつりあい
の位置であり、物体に加わる力の総和の大きさ(向きを含めた力の足し算)は、ゼロである。物体の位
置が静止していた位置からずれるなら、そのずれを取り戻そう(静止していた位置に戻ろう)として、
ずれた位置から静止していた位置の方向に向かって、物体に力が働く。
152
単振り子・重力下での円運動
この運動では、大きさの無視できる(ゼロ)の物体は、糸の長さを Lとして、常に半径 Lの円周上を
動く。速度ベクトルは、常に接線方向である。図を描いて考えてみよう。
単振り子の質点の符号を含めた位置(より正確には、原点(最下点)からの、弧の長さで測った変位)
を )(ts とする。角度 )(tθ との間には、 )()( tLts θ⋅= の関係がある。さて、質点がある角度 θ∆ 回転し
た場合の移動距離は θ∆⋅∆ Ls ~ である。微小回転 θ∆ する前と後の 2点間を結ぶ方向が、速度の向きで
ある。 θ∆ が十分小さければ、速度の向きは、質点の弧に接する接線の方向になる。よって速度の大き
さを )(tv とすれば、
t
tL
t
tstv
tL
t
stv
tt ∆∆
=∆
∆=→
∆∆
=∆∆
→∆→∆
)(lim
)(lim)(~)(
00
θθ
となり、速度の向きは、接線方向になる。
tt ∆θ∆
ω∆ 0lim
→=
を、回転の角速度と言う。
続いて接線方向の加速度成分 )(ta を求める。速度の接線方向の変化量(加速度の接線方向の大きさ)
は、位置 )(ts の時間的変化を評価すればよく、
2
2 )()(~
)(~)(
dt
tsd
t
ts
tt
tvta =
∆
∆∆∆
∆∆
となる。物体の円運動の接線方向の力は θsinmg− で与えられる(最下点から右向きに離れる向きを+に
取ると、重力の接線成分に力は-の符号を持つ)ので、接線方向の運動方程式は、
θsin)(
2
2
mgdt
tsdm −=
となる。 )()( tLts θ= を代入し、 1|)(| <<tθ と仮定すれば、 )(~)(sin tt θθ の近似を用いて、
L
gt
dt
tdt
L
g
dt
tdtmg
dt
tdmL =−=→−=→−= 22
2
2
2
2
2
2
),()(
)()(
)()(
ωθωθ
θθ
θθ
これは、単振動の運動方程式と同じである。なお、糸の張力は、常に回転の中心(糸がぶら下がってい
る点)を向くので、上の振動の考察には、出てこない。
<ベクトル解析を用いた、少し難しい説明の仕方>
向きを含めた弧の長さ(より正確には、原点(最下点)からの、この長さで測った変位) )(ts は
)()( tLts θ= である。速度は、半径 Lの円での、質点の所での、円に接する向きのベクトルである。そ
の方向の単位ベクトルを )(tAr
とすると、速度 )(tvr
は、単位時間 t∆ 当たりの弧の長さの変化量 )(ts∆ に
比例するので
)()(
)()()(
~)( tAdt
tdstvtA
t
tstv
rrrr=→
∆∆
と書ける。質点の加速度 )(tar
は、速度 )(tvr
の時間変化で与えられる:
dt
tAd
dt
tdstA
dt
tsdtA
dt
tds
dt
d
t
tvta
)()()(
)()(
)()(~)(
2
2r
rrr
r+=
=∆
∆。
mg v
T
153
さて、 )(tAr
の大きさは常に 1としたので、自分自身との内積 1)()( =⋅ tAtArr
を時間微分すると、
)()(
0)()(
2)(
)()()()]()([)1(
0 tAdt
tAdtA
dt
tAd
dt
tAdtAtA
dt
tAd
dt
tAtAd
dt
d rr
rrr
rrrrr
⊥→=⋅=⋅+⋅=⋅
==
の直交条件が出てくる。
上の直交条件の、もう少し分かりやすい説明//
))(),(),(()( tAtAtAtA zyx=r
とおくと、
1)()()()()(222 =++=⋅ tAtAtAtAtA zyx
rr
である。両辺を 1階時間微分すると、
( ) 0)(),(),()(
,)(
,)(
)()(
)()(
)()(
0)()(
)()(
)()(
2)()()()()}()({
=⋅
=++
=
++=⋅+⋅=⋅
tAtAtAdt
tdA
dt
tdA
dt
tdAtA
dt
tdAtA
dt
tdAtA
dt
tdA
tAdt
tdAtA
dt
tdAtA
dt
tdAtA
dt
dtAtAtA
dt
dtAtA
dt
d
zyx
zyx
z
z
y
y
x
x
z
z
y
y
x
xrrrrrr
ところで、
=
dt
tdA
dt
tdA
dt
tdAtA
dt
d zyx )(,
)(,
)()(
r
であるから、2つのベクトルの直交関係
)()(
0)()(
tAdt
tAdtA
dt
tAd rr
rr
⊥→=⋅
が導かれる。(終わり)
これより、加速度 )(tar
の接線方向の成分は、
)()(
2
2
tAdt
tsd r
である。( dttAd /)(r
がどのような式で与えられるのか、ここでは考えない事にする。)
さて、単振り子の運動の、接線方向 )(tAr
の力は θsinmg− で与えられる。よって、接線方向の運動方
程式は、
θsin)(
2
2
mgdt
tsdm −=
である。 )()( tLts θ= を代入し、 1|)(| <<tθ と仮定すれば、 )(~)(sin tt θθ の近似を用いて、
L
gt
dt
tdt
L
g
dt
tdtmg
dt
tdmL =−=→−=→−= 22
2
2
2
2
2
2
),()(
)()(
)()(
ωθωθ
θθ
θθ
これは、単振動の運動方程式と同じである。
154
例題 1 単振動での糸の張力
長さ rの伸び縮みの無い糸につながった質量mの物体の単振動で、糸の傾
き角度θ の時の、糸の張力T を求めよ。振動の最下点での物体の速度(速さ)
を 0v とする。
解説と解答
糸の張力と重力による力の 2つの力が、物体の円運動(速さは必ずしも一定で
はない)の向心力として
働いて、物体の中心方向に加速度が生じると考えよう。中心方向の運動方程式は、
r
vmmgT
2
cos =− θ
で与えられる。
ここで、2v を求めるため、力学的エネルギーの保存を用いる。ここで重要な事は、糸の張力は常に物
体の運動方向(移動方向)に対して垂直になっていることである。この事から、糸の張力が物体に対し
て行う仕事=ゼロである。よって、重力による仕事(位置エネルギー)を力学的エネルギーで考慮すれ
ばよい。最下点(物体が一番低い場所にいる時)での速度を 0v とすれば、力学的エネルギーの保存から、
角度θ での速度をvとして、次の式が成り立つ。
)cos1(2)cos1(22
2
0
222
0 θθ −−=→−+= grvvmgrvm
vm
これより糸の張力T は、
)2cos3()cos1(2
coscos2
0
2
0
2
−+=−−
+=+= θθ
θθ mgr
vm
r
grvmmg
r
vmmgT
で与えられる。
0=θ の場合で議論しよう。物体が静止している場合は、糸の張力は、重力により物体が引っ張られ
る力mgに等しい。しかしひとたび円運動を行えば、向心力に相当する力の分 rmv /2
0 だけ、さらに大き
な力で糸が引っ張られる事になる。
例題 2 糸につながった物体の円運動
鉛直に固定された変形しない薄い板の下端から 2/L だけ上
方の点 Oに、長さ Lの細い糸の一端を固定し、他端に小さな(大
きさが無視できる)質量mの物体をつける。板に垂直で Oから
L隔てた Aの位置から物体mを静かに(初速度=ゼロ)で離す。
糸と板のなす角度がθ となる点 Cに物体が到達すると、物体は
その後放物運動を行った。なお、点 Bは最下点である。
(1) 点 Bを物体が通過する直前・直後での、糸の張力を求めよ。
(2) 点 Cにおける物体の速さと θcos の値を求めよ。
解説と解答
点 Bでの物体の速度は、力学的エネルギー保存から求まる。図で点 BC間では、半径 2/L の円運動を
L
L/2 m θ A
O
B
C
mg
T
θ
155
する。点 Cで放物運動を始めるという事は、点 Cで糸の張力=ゼロに(初めて)なる、という事です。
また、円運動において、物体の移動する方向(速度の向き)と糸の張力とは常に直交しているので、糸
の張力は、物体に対して仕事をしない。これらの事柄を理解して問題を解こう。
(1) 点 Aでの物体の速度=ゼロ、点 Bから見た点 Aの高さが Lなので、点 Bでの物体の速度 0v として、
速度の2乗2
0v は、力学的エネルギー保存より、
gLvmgLm
vm
2022
2
0
22
0 =→+⋅=
である。
さて、糸の張力T は、物体の回転運動での、円の半径を rとすれば、糸の張力は上向き、重力による
力は下向きなので、糸に沿った方向の運動方程式
mgTr
vm −=
2
0
が成り立つ。点 B通過直前では、円の半径は Lr = なので、
mgmgmgmgL
gLmmg
r
vmTmgT
r
vm 32
22
0
2
0 =+=+=+=→−= 、
一方点 B通過直後では、円の半径は 2/Lr = なので、
mgmgmgmgL
gLmmg
r
vmTmgT
r
vm 54
2/
22
0
2
0 =+=+=+=→−=
となる。
(2) 点 Cでの物体の速度をvとすれば、点 Aでの物体の速度=ゼロかつ点 Bから見た点 Aの高さが L
である。一方、点 Cの高さは点 Bから見て )cos1)(2/( θ+L なので、力学的エネルギー保存で、
)cos1(2)cos1)(2/(2
22 θθ +−=→++⋅= gLgLvLmgvm
mgL 。
が成り立つ。
BC 間の物体の円運動において、糸の張力T と重力mgの糸に沿った成分の、符号を含めた和が、物
体の円運動の向心力になる。回転中心方向の運動方程式から糸の張力T を求め
ると、
θθ
θ
θθ
cos)2/(
)cos1(2cos
)2/(
cos)2/(
cos)2/(
2
22
mgL
gLgLmmg
L
vmT
mgL
vmTmgT
L
vm
−+−
=−=→
−=→+=
)cos2
31(cos
2
1)cos1(2cos
2)}cos1(2{)2/( θθθθθ −=
−+−=−+−=⋅→ mgLmgLmgL
gLgLmLT
点 Cでは糸の張力 0=T より
3/2cos0cos2
310 =→=−→= θθT
よって、点 Cでは、 3/2cos =θ 。これより点 Cでの物体の速さ vは、
3/3/)3/21(22 gLvgLgLgLv =→=+−=
となる。
θ
mg
mgcosθ
T
156
例題 2の追加(重力下での 2次元の運動)
点 Cでの物体の速度を 0u とする。(この速度は、例題 2で、具体
的に求めています。混乱を避けるため、 0u とした。)この時、物体
は点 D で最高点に達する。その高さhを求めよ。その後、さらに
物体は OB上のある点 Eに来る。点 Eの、点 Cから見た高さ 'h を
求めよ。
解説と解答
点 C では物体の速度は、半径 2/L の円の接線方向である。よっ
て物体の速度の速度の、水平、垂直成分はそれぞれ θθ sin,cos 0000 uuuu yx == である。垂直方向は、重
力加速度 g− の等加速度運動なので、
=
=
−⋅=
=
→
=−=−
−⋅=−=
θθθθ
θ
θ
θ
θ
22
0
2
0
2
000
0
00
2
0
2
0
sin2
sin
2
sin
2
sinsin
sin
0sin
2/sin2/
g
u
g
ug
g
ug
g
uuh
g
ut
gtugtu
gttugttuh
y
y
ここで、例題 2で得られた値 3/2cos,3/)( 2
0
2 === θgLuv を代入すると、
( ) Lg
gL
g
u
g
uh
54
5}3/21{
2
)3/()cos1(
2sin
2
222
022
0 =−=−== θθ
を得る。
次に、点 CD間の水平方向の距離 lを求めよう。物体は、水平方向には等速運動をするので、
22
116.0~
27
52
3
2
3
5
3cossin
sincos
2
0000
LLL
g
gL
g
u
g
uutul x ⋅<=⋅==⋅== θθ
θθ 。
よって、点 Cのすぐ近くで高さが最大になるので、直線 OB上での物体の高さ(点 Eの高さ)は、点 C
の高さよりも低くなるはずである。
引き続き、高さ 'h を求める。水平方向の速度 θcos00 uux = なので、点 Eに到達する時間 't は、
θθ
cos2'2/'cos'
0
00u
LtLtutux =→=⋅= 。
よって
L
LLLgL
gLL
u
gLL
u
gLL
u
Lg
u
Lugttugttuh y
28.0~
32
2758
32
27
4
5
)3/2(
1
)3/(83/2
3/5
2cos
1
8tan
2
)cos(8tan
22/
cos2cos2sin2/sin2/'
2
2
22
0
2
2
0
22
00
0
2
0
2
0
−
−=−=−=−=
−=
−⋅=−⋅=−=
θ
θ
θθ
θθθθ
点 Eの高さは、点 Cの高さよりも低くなった。
θ
L/2
u0 D
E C h’ h
B
157
例題 3 回転運動と摩擦力
図のように、半径 rのなめらかな(摩擦のない)円柱面が、点 A
であらい(摩擦のある)水平面につながっている。
(1) 質量mの大きさの無視できる物体を、円柱面上の高さhの場所
で静止できるようにする。水平方向に力を加えて物体を静止させる
ため、必要な力の大きさを求めよ。
(2) 先ほどの円柱面上の高さ )( rhh < の所で、物体を静かに(初速度=ゼロ)離す。
(a) 物体が点 Aを通過する直前の速さと、円柱面からの抗力の大きさを求めよ。
(b) 物体と水平面との動摩擦係数を 'µ とするとき、物体が水平面上を移動する距離(点 A からの移動
距離)を求めよ。
解説と解答
(1) 物体が円柱面を 'F の大きさで垂直に押す。その反作用としての円柱面からの抗力N は、右図に示
すように、面に対して垂直方向である。抗力N 、外部から加わる力F 、および重力による力mgがつり
あって物体が静止している。図の角度をθ とすると、 θcos は、
)2(tansin,
)2()(cos
22
hrh
hr
r
hr
r
hrh
r
hrr
−
−=→
−=
−=
−−= θθθ
で与えられる。水平方向、垂直方向での力の釣り合いの式から、
hr
hrhmg
mgF
mg
F
mgN
FN
−
−==→=→
=
= )2(
tansin
cos
sin
cos
θθθ
θθ
をえる。
(2) 円柱面からの垂直抗力N は、物体の移動方向と常に垂直なので、物体に仕事をしない。よって、
力学的エネルギーの保存(物体の位置エネルギーと運動エネルギーの和が一定)から、物体の点 Aでの
速度をvとすると、物体の点 Aでの速度は、次のとおり。
ghvvm
mgh 22
2 =→=
(a) 点 Aの直前までは、速さは変化しても、物体は円運動をする。円柱面からの抗力をN とすると、抗
力N と物体に加わる重力mgが、物体の回転運動の向心力を与えるので、向心力方向(回転の中心方向)
の運動方程式から、垂直抗力は、
+=+=+=→=−r
hmg
r
ghmmg
r
vmmgN
r
vmmgN
21
222
となる。
(b) 点 Aを通過後、運動エネルギーが動摩擦力 mg'µ による仕事に全て置き換わるので、距離を xとす
れば、
''2
2
'2'
2
22
µµµµ
h
mg
ghmv
mg
mxmgxv
m=
⋅==→=
となる。
h
r
O
A
F N
mg h
O
θ
F’
158
例題 4 半円筒と水平面からなる面上における物体の運動
滑らかな水平面 XAに、半径 r (m)の滑らかな(摩擦のない)半円
筒が、図のように続いている。水平面上のある 1点にある質量m (kg)
の質点(大きさの無視できる物体)に円筒の軸に垂直な水平方向の
初速度 0v (m/s)を与えると、質点は円筒面を滑りながら上がり始める。
(1) 点 A の通過前後で、物体が面から受ける力を求める。
(2) 点 B を、その角度 AOB=θ となるような点とする。物体が点 B
を通過するとき、物体が面から受ける力の大きさを求める。
(3) 角度 AOC=90度である。物体が点 Cまで上って再び下がる(最
高点が点 C)とすれば、初速度 0v は幾らの値?
(4)物体が点 E を通過するため、初速度は幾ら以上の値でなくてはならないか?
(5)初速度 0v が、(3)(4)で求めた値の間の値を取るとする。この時、物体は点 Cと点 E の途中のある点 D
で面から離れる。そのときの角度をα とし、 αcos の値を rgv ,,0 で与えよ。
解説と解答
(1) 考え方は、次の通り。点 A の前では、水平面上での運動である。よって、点 A の直前では、重力
による力mgが物体に働く。物体は床をmgの力で押し、その反作用としての垂直抗力 mgN = である。
しかし、ひとたび点 Aを越えると、AB・・Eの半径 rの円運動になる。角加速度の時間変化の有無に
よらず、点Aを通過直後では、物体は円運動をしているので、物体が回転中心に向かって受ける力は、
rvm /2⋅ で与えられる。物体が面を押す力F の反作用として、面が垂直抗力N で物体を押しかえす。
垂直抗力N と重力mgとの差が向心力になるので、次の式が成り立つ。
r
vmmgN
r
vmmgN
2
0
2
0 +=→=− 。
よって、点 A を通過直後のほうが、面が押す抗力は rmv /2
0 だけ大きい。
(2) 点 B での物体の速さvは、力学的エネルギーの保存から求まる。
)cos1(2)cos1(22
2
0
222
0 θθ −−=→−+= grvvmgrvm
vm
点 B における、面の垂直抗力N は、円運動の回転中心に対する方向の運動
方程式から求まる。重力の垂直抗力N と平行な力成分は、外向きに θcosmg
である。(右図参照)よって運動方程式から
)2cos3()}cos1(2{coscos2
02
0
2
−+=−−⋅+=→=− θθθθ mgr
vmgrv
r
mmgN
r
vmmgN
を得る。
(3) 点 C での速度の向きは、AB・・Eの円の点 Cでの接線方向(XAに対し垂直方向)である。よって,
点 C で最高点になるという事は、点 C での速度=ゼロという事である。点 C では、速度=ゼロ、かつ
高さ= rなので、力学的エネルギー保存から初速度 0v は、
grvgrvmgrm
vm
22022
0
2
0
22
0 =→=→+⋅=
と求まる。
(4) 点 Eでの速度≠ゼロである。もし仮に点 Aから点 Eへ垂直に物体が運動している(物体の垂直方
α
θ N
F
mg
θ
α
v0
r
X A
C
D
B
E
O
159
向の運動)なら、単純に力学的エネルギーの保存から初速度が求まる。しかしここでは、曲面 AB・・E
に沿って物体が運動している。そのため、点 E に近づいている時でも、水平方向にゼロでない有限の大
きさの速度を持っている(もし水平方向の速度が点 Eの近くでゼロなら、物体は決して点Eに到着する
ことはできない。)。
物体は点 Eにおいても(等速ではないが)円運動している。円運動の回転中心に向かう向心力が、向
きも考慮した面の垂直抗力N と重力mgの和で与えられる事から求める。(2)で πθ = の場合に相当する。
mgr
vmmg
r
vmgrv
r
mmgN
r
vmmgN 5)23()}cos1(2{coscos
2
0
2
02
0
2
−=−−+=−−⋅+=→=− θθθ 。
物体は、少なくとも面から押されなくてはならない。すると 0≥N から、 grv 50 ≥ を得る。よって最
低速度は gr5 である。
(5) (4)での運動方程式において、角度α で 0=N になるとして、 αcos の値を求める。(注意: 0=N に
なるのは、物体が AB・・・Eの曲面から離れる時である。もし曲面に押されていれば、 0>N である。)
−=−=→−=→=−−+
=−−⋅+=→==−
gr
v
gr
vmvmgrmgrmgrmvmgr
grvr
mmgN
r
vmmgN
21
3
2
33
2cos2cos30)cos1(2cos
0)}cos1(2{cos)(cos
2
0
2
02
0
2
0
2
0
2
αααα
αααθθ
例題 5 円柱を滑る物体の円運動
水平面に固定された半径 rの滑らかな円柱の一番上に、大きさの無視できる質量mの物体を置く。水
平面と平行な方向に初速度 0v を与えて物体を動かすと、物体は円柱の面上を滑り始めた。
(1) この物体が、点 P(角度θ )に達した時の速さを求めよ。また、点 Pで
の物体が円柱面を押す力を求めよ。
(2) ある角度 0θ で物体は円柱面から離れる。その点を点 Qとする。その
時の 0cosθ の値を求めよ。
(3) 物体が水平面に落下した時の物体の速さ、および円柱の頂点からの水
平方向の移動距離 Lを求めよ。ただし物体は、円柱とぶつかることなく、
落下するものとする。 Lには、 00 cos,sin θθ を用いてよい。
解説と解答
(1) 物体が円柱面を滑り落ちる時、速さは一定ではないが円運動をしている。円運動における回転中心
に向かう向心力は、物体と円柱面とが互いに押し合う作用・反作用による
円柱面からの垂直抗力N 、および重力mgの回転中心に向かう成分で合成
される。(物体が円柱面を押す力は、図では省略した。)
物体の速さをvとすると、回転中心方向での運動方程式は、
r
vmmgN
r
vmNmg
22
coscos −=→=− θθ
で与えられる。しかしこれだけでは、垂直抗力は求まらず、速度の 2乗 2v を求める必要がある。物体と
円柱面との摩擦がないので、物体の速度vは、エネルギー保存から導かれる。点 Pの高さは、最初の位
置より高さ )cos1( θ−r だけ低いので、初速度 0v を考慮すると、エネルギー保存から、2v は、
θ r
N
mg
θ0
Q
P
R
θ
r
L
160
)cos1(22
)cos1(2
2
0
222
0 θθ −+=→=−+ grvvvm
mgrvm
。
となる。これより垂直抗力は、
r
vmmg
r
vmmgmg
r
vmmgN
2
0
2
0
2
)2cos3()cos1(2coscos −−=−−−=−= θθθθ
となる。
(2) 物体が斜面を離れる時、垂直抗力 0=N となる。(1)で求めた 0=N と置くと、
+=→=−→=−−=gr
v
gr
v
r
vmmgN
21
3
2cos2cos30)2cos3(
2
00
2
00
2
00 θθθ
となる。
(3) 物体が角度 0θ で円柱面を離れる時、物体の水平および垂直方向の速度は、図で右向き・上向きを
それぞれ+にとれば、
00 sin,cos θθ vvvv yx −==
で与えられる。点 Qの高さをHとすれば、
)cos1(cos 00 θθ +=+= rrrH
なので、物体が水平面に落下するまでの時間を tとすれば、
0
2
0
2cos2/)sin(2/0 θθ rrgttvHgttv y ++−−=+−=
となる。時間 tを求める。
(*)0)cos1(2)sin2(0)cos1(2)sin2(
)cos1(2/)sin(2/0
00
2
0
2
0
0
2
0
2
−−−=+−+→=++−−
++−−=+−=
θθθθ
θθ
rtvgtrgttv
rgttvHgttv y
}1)cos1){(cos1(2sin
)cos1(2)cos1)(cos1(2sin
)cos1(2sin)cos1(2sin
)cos1(2sin)]cos1(2[
)cos1(2)sin(sin
2
000
22
0
00
2
00
22
0
00
2
00
22
0
00
2
0
2
00
2
0
2
0
+−++=
++−−+=
++−+=
++−+
=++=
+
θθθ
θθθθ
θθθθ
θθθ
θθθ
rg
v
rrg
v
rrg
v
rg
grvr
g
v
g
vtg
右辺第 2項の計算
0
3
0
2
00
2
0
2
000
2
0
2
000
2
000
22
00
cossin1
cos)sin1(sin1cos1cossinsin
)cos1()cos1(sin)cos1()cos1)(cos1(}1)cos1){(cos1(
θθ
θθθθθθθ
θθθθθθθθ
++=
−++=++−=
++−=++−−=+−+
)cossin1(2sinsin
)cossin1(2sinsin
0
3
0
2
2
0
22
00
0
3
0
2
2
0
22
0
2
0
θθθθ
θθθθ
+++±−=→
+++=
+
g
r
g
v
g
vt
g
r
g
v
g
vt
θ0 r
v
θ0
161
0>t から、
)cossin1(2sinsin
0
3
0
2
2
0
22
00 θθθθ
++++−=g
r
g
v
g
vt
となる。よって、点 Qから水平方向に、
++++−⋅−+== )cossin1(
2sinsincos)cos1(2)cos( 0
3
0
2
2
0
22
0000
2
00 θθθθ
θθθg
r
g
v
g
vgrvtvtvx
だけ、右方向に移動する。「円柱の頂点と Qとの水平距離」 0sinθr を加えて、移動距離として、
++++−⋅−++=
+=
)cossin1(2sinsin
cos)cos1(2sin
sin
0
3
0
2
2
0
22
0000
2
00
0
θθθθ
θθθ
θ
g
r
g
v
g
vgrvr
tvrL x
を得る。
水平面に到達したときの物体の速さV を、力学的エネルギー保存を使って求めよう。
grvVgrvVVm
mgrvm
442
22
2
0
2
0
222
0 +=→+=→=+
となる。
一方、加速度から速度を求める方法をとった場合は、次のようになる。水平面に到達する時の垂直方
向の速度uと水平方向の速度 xv から、速度(速さ)V を求める。
( ) 22
0
22
0
2
0
222
0
sin2)cos(sin
sin
tggtvvvgtvvuV
gtvgtvu
x
y
+⋅+=+−−=+=
−−=−=
θθθ
θ
ここで、「物体が水平面に落下するまでの時間 tを求めた方程式---(*)」を変形する:
)cos1(2)sin2(0)cos1(2)sin2( 00
22
00
2 θθθθ ++−=→=+−+ rgtgvtgrtvgt
(少しでも計算を楽にする工夫)。また、(1)(2)の結果 )cos1(22
0
2 θ−+= grvv を利用し、
( )
grv
rggrv
rgvrgtgvgtvv
tggtvvvgtvvuV
gtvgtvu
x
y
4
)cos1(2)}cos1(2{
)cos1(2)}cos1(2)sin2({sin2
sin2)cos(sin
sin
2
0
00
2
0
0
2
000
2
22
0
22
0
2
0
222
0
+=
++−+=
++=++−+⋅+=
+⋅+=+−−=+=
−−=−=
θθ
θθθθ
θθθ
θ
よって以下のとおり:
grvV 42
0 += 。
当然だが、何れの方法を用いても、同じ結果を得る。
162
重力下での、回転半径が一定の円運動における、力学的エネルギー保存
重力下での、振り子や円筒での回転運動等での、回転半径が一定の円運動(角速度の大きさが一定と
は限らない)について考えよう。エネルギーの散逸を伴う動摩擦力・空気抵抗などの力は全く働かない
とする。その時、円運動の加速度を与える力は、糸の張力、円筒の垂直抗力などが
考えられる。
質量mの物体の運動方程式は、次の式で与えられる。(2次元の運動を考える。)
dt
tvdmgmtN
)()(
rrr
=+
ここで、 ),0( gmgm −=r
は質量mの物体にかかる重力による力、 )(tNr
は円筒の垂直抗力ないしは糸の
張力であり、物体の位置を )(txr
とすれば、 dttxdtv /)()(rr
= と直交( 0)()( =⋅ tvtNrr
)する。
運動方程式の両辺に )(tvr
を掛ける。正確には、 )(tvr
との内積をとって、次のような式変形を行う。
=⋅+⋅→
⋅=⋅+⋅→⋅
=+
2))((2
)()()(
)()(
)()()()()(
)(
tvm
dt
d
dt
txdgmtvtN
tvdt
tvdmtvgmtvtNtv
dt
tvdmgmtN
rr
rrr
rr
rrrrrr
rr
0)()( =⋅ tvtNrr
を利用すると、
定数 =⋅−→
=
⋅−→
=⋅+
)())((2
0)())((2
))((2
)(0
2
22
txgmtvm
txgmtvm
dt
dtv
m
dt
d
dt
txdgm
rrr
rrrrr
r
となる。これが、力学的エネルギー保存の式である。
まとめる。回転半径が一定の運動を考える。重力による力 gmrを除いて、糸の張力、円筒の垂直抗力
など、物体に加わる力 )(tNr
が常に物体の速度 )(tvr
と垂直( 0)()( =⋅ tvtNrr
)な場合、物体の運動エネル
ギーと位置エネルギーの力学低エネルギーは常に一定、すなわち力学的エネルギーは保存される。
例えば、 ),()( hdtx =r
のとき、
mghhdgmtxgm =⋅−−=⋅− ),(),0()(rr
となる。特に、 )cos1( θ−= rh とすれば、例題 4、5で用いた位置エネルギーと類似の形が得られる。
ところで、運動方程式には、円運動に特徴的な式が明確に出ていない。既に示したように、摩擦のな
い斜面上の運動や自由空間での質点の運動(ボール投げ)も、同じ形の運動方程式を用いて、全く同じ
同じ力学的エネルギー保存の式を与えた。このように見ると、力学的エネルギー保存の式は、普遍的な
式である事が認識できる。
運動方程式から、微積分を用いた力学的エネルギー保存の式の導出(別の方法)
半径が一定の円運動を想定する。その場合、物体の速度は円に沿った方向の速
度成分しかない。そこで、直交する 2つの単位ベクトルを、右図のように、
)cos,sin()sin,(cos θθθθ θ −== eerr
、r
とおく。すると、回転半径が一定である円運動を行う質量mの物体の位置ベクトル rrは、回転半径を r
θ
rr re
r
θer
)(tNr
gmr
163
として、図の極座標系を用いる事で、
))(sin),(cos( trtrr r θθ== errr
と表わせる。極座標表示で、物体の速度 )(tvr
と加速度 )(tar
は、以下の式になる(既に行った計算結果)。
θ
θθ
θθ
θθ
ee
eee
rrr
rrrr
+
−=
=+=
dt
tdr
dt
d
dt
tdrta
dt
tdtr
dt
tdtr
dt
tdrtv
r
r
)()()(
)()(
)()(
)()(
2
円運動での円の接線に沿った速度の大きさ )()( trtv θ= を用いて加速度を書き直せば、
θθθθθθ
eeeeeerrrrrrr
dt
tdv
r
tv
dt
tdv
dt
tdr
rdt
tdr
dt
d
dt
tdrta rrr
)()()()(1)()()(
222
+−=+
−=
+
−=
となる。
次に物体に加わる力を θeerr,r を用いて表わす。円筒の垂直抗力ないしは糸の張力は rtNtN e
rr)()( = で与
えられる。また重力による力 gmrは、
θθθ eeerrr
cossin)1,0( +== ry
を用いて、以下のように書ける:
}cos{sin)1,0(),0()( θθθ eeerrrr
+−=−=−=−= ry mgmggmgmgm 。
ここで、運動方程式を θeerr,r の 2つのベクトル成分に分ける。
=−−=−→
+−=+−→=+
dt
tdvmmg
r
tvmmgtN
dt
tdv
r
tvmmgtN
dt
tvdmgmtN
r
rrr
)(cos:,
)(sin)(:
)()(}cos{sin)(
)()(
2
2
θθ
θθ
θ
θθ
ee
eeeee
rr
rrrrrr
rr
θer方向の成分の式の両辺に )(tv を掛け、式変形して、力学的エネルギーに関する考察を進める。
0)(sin)(2
0)(sin
)(2
)(2
)(cos)(
)()(cos)(
)(cos
22
2
=
+→=+
→
=⋅−→=−→×
=−
tmgrtvm
dt
d
dt
tdmgrtv
m
dt
d
tvm
dt
d
dt
tdrmgtv
dt
tdvmtvmgtv
dt
tdvmmg
θθ
θθθθ
糸が垂れ下がった状態とそれから角度θ だけ右方向に回転させた状態で、上式を等しいとおく。水平方
向を出発点にとると、回転角度はそれぞれ 2/,2/ πθπ −− になるので、次式を得る。
)cos1()(2
)0(2
)cos()(2
)0(2
)2/sin()(2
)2/sin()0(2
22
22
22
θ
θ
πθπ
−+=→
−+=−→
−+=−+
mgrtvm
vm
mgrtvm
mgrvm
mgrtvm
mgrvm
よく見かける力学的エネルギー保存の式が得られた。これは、
例題 4,5(p.154~157)でもお目にかかった式である。
θ−π/2 −π/2
164
補足 1:空気抵抗などがある場合の、力学的エネルギーに関する式
重力下での、回転半径が一定の円運動について考えよう。今度は空気抵抗が無視
できない場合や、水中での単振り子の運動を思い浮かべよう。物体に加わる力には、
質量mの物体に働く重力による力 gmrと「糸の張力または円筒の垂直抗力」 )(tN
r、
空気抵抗(水の抵抗) )(tvkr
− があるとする。
質量mの物体の運動方程式は、次の式で与えられる。なお、物体の位置を )(txr
と
すれば、 dttxdtv /)()(rr
= と直交( 0)()( =⋅ tvtNrr
)する。
dt
tvdmtvkgmtN
)()()(
rrrr
=−+
運動方程式の両辺に )(tvr
を掛ける。正確には、 )(tvr
との内積をとって、次のような式変形を行う。
)()()(,)(2
)()(
)()(
)()(
)()()()()()()(
)()(
222 tvtvtvtvm
dt
dtvk
dt
txdgmtvtN
tvdt
tvdmtvtvkktvgmtvtNtv
dt
tvdmtvkgmtN
rrrrrr
rrr
rr
rrrrrrrr
rrr
⋅≡
=−⋅+⋅→
⋅=⋅−−⋅+⋅→⋅
=−+
0)()( =⋅ tvtNrr
を利用すると、 0)'( 2 >tvr
である事を考慮すれば、
0')'()}0())0((2
{)}())((2
{
')'()'())'((2'
)()())((2
))((2
)()(
0
0
222
0
2
0
2
2222
<−=⋅−−⋅−→
−=
⋅−→
−=
⋅−→
=−⋅+
∫
∫∫t
tt
dttvkxgmvm
txgmtvm
dttvktxgmtvm
dt
d
tvktxgmtvm
dt
dtv
m
dt
dtvk
dt
txdgm
rrrrrrr
rrrr
rrrrrrr
r
となる。よって、物体の力学的エネルギー(運動エネルギー+位置エネルギー)は、空気抵抗ないしは
水の抵抗(によってなされる仕事)により減少する。
補足 2:重力に抗して振り子に行う仕事の計算
質量mの質点を結んだ長さ Lの糸が垂直に垂れ下がった状態から、図のように、糸が伸び縮みするこ
となく角度θ まで、ゆっくりと質点を運ぶ(質点の速度=ゼロとみなす)としよう。その時、重力に抗
して質点を運ぶ仕事を、仕事の定義から求める。
重力加速度を grとすれば、質量mの質点に加える力 F
rと糸の張力 N
r、および重力 gm
rの間には、
0=++ gmNFrrr
となる、力のつりあい関係がある。Frの方向での力のつりあいは、
θsinmgF =
である。この力で微小な変位 θLdds = だけ仕事dW をするので、dW は、
θθθθ dmgLLdmgdsFdW sinsin =⋅=⋅=
となる。よって、角度0からθ まで質点を運ぶ時の仕事W は、
)cos1(sin00
θθθθθ
−== ∫∫ mgLdmgLdW
である。
θ
θLdds=
N
mg
F
θ
Nr
gmr
)(tvkr
−
)(tvr
165
質点系の力学の総合問題
問題 1 斜面からの質点の飛び出しと質点同士の衝突
ばね定数 kの質量の無視できるばねの一端が、水平面から高さ 0H の、斜面上の点 Bにつながってい
る。斜面は水平面と角度θ をなし、ばねと斜面
との摩擦はない。自然長では、ばねの残りの一
端は、点 Bから高さ 1h の位置Oにある。斜面
の右端の点 Pは、点 Bから見て高さ 0h の高さ
にある。( 10 hh > である。)重力加速度を gと
して、以下の問いに答えよ。
(1)ばねを質量mの質点で押し、その長さを x
だけ縮める。質点mは、その状態から、静か
に(初速度=ゼロで)斜面に沿って上方向へ運
動した。ばねの長さが自然長になった点Oで、
質点mはばねを離れて運動した。この一連の運動で、斜面と質点mとの摩擦はないとする。
質点mが点Pまで届くとし、点 Pでの質点mの速度をもとめよ。また、点Pでの質点mの速度がゼ
ロ以上であるため、 xが満足すべき条件を求めよ。
(2) 図のように、点Pから、鉛直上方向にd 、水平方向に 0L 離れた点に質量M の質点がある。質点m
が点Pを通過するその瞬間に質点M は、初速度=ゼロの自由落下を始めた。
質点mと質点M が空中で衝突するためには、d はある値でなくてはならない。その値を求めよ。ま
た、2 つの質点が衝突する位置の水平面からの高さを求めよ。さらに、空中(水平面よりも上の点)で
衝突するための、 xに関する条件を求めよ。質点に対する空気抵抗は無視できるとする。
(3) 衝突により、2つの質点は一体化した。この衝突によって失われる運動エネルギーを求めよ。
解説と解答
(1) 斜面とばね・質点との摩擦がないので、ばねおよび質点の運動では、力学的エネルギーが保存され
る。そこで、点Pでの質点の速度をvとして、力学的エネルギーの保存から、vを求める。高さの基準
を、ばねの長さが自然長である点Oにとる。ばねが長さ xだけ縮んだ状態での質点の高さは、基準点O
よりも θsinx 低い。ばねの縮んだ状態での位置と、点Pとの力学的エネルギーが等しいとすると、以下
の式がなりたつ。
)](sin[2)](sin[2
)](sin[2
1)}(0
2
1{)sin(
2
1
2
)(2
02
1)sin(0
22
1
10
2
10
22
10
2
10
222
10
2222
hhxgxm
kvhhxgx
m
kv
hhxmgkxhhmgkxmgkxvm
hhmgvm
kxmgm
kx
−+−=→−+−=→
−+−=−+⋅−−+=→
−++⋅=−+⋅+
θθ
θθ
θ
質点が点Pまで届くという事は、少なくとも点Pでの質点の速度はゼロ以上である。よって、先ほど求
めた速度vのルートの中はゼロ以上となるので、 xは次の条件を満足しなければならない。
0)](sin[20)](sin[2 10
2
10
2 ≥−+−→≥−+− hhxk
mgxhhxgx
m
kθθ
M
x
0h
θ
0H
1h
m
O
P
0L
d
B
166
)(2sin
sin)(2sin
sin 102
222
102
2222
hhk
mg
k
gm
k
mgxhh
k
mg
k
gm
k
mgx −++≥→−+≥
−→θ
θθ
θ
等号が成り立つのは、質点mが、点Pで止まる(速度=ゼロ)事を意味する。
(2) 質点mが点 Pを通過する瞬間から時間 0t 経過して、質点 Mm, が衝突するとしよう。時刻 0t での
それぞれの位置を計算し、2つの位置を同じとおけば、衝突する時間 0t と 2つの質点が衝突する高さが
求まる。さらに、質点M が自由落下を始める時の高さも求まる。
質点 Mm, は、いずれも水平方向には等速度運動であり、鉛直方向には等加速度運動である。時刻 tで
の 2つの質点の位置を、水平方向の位置が点Pと同じである水平面を原点 'O として記述する。点 'O か
ら見た質点 Mm, の水平方向、鉛直方向の座標をそれぞれ mm yx , および MM yx , とすると、以下の式が成
り立つ。
−++=
=
−⋅++=
⋅=
2
00
0
2
002
1)(
,
2
1sin)(
cos
gtdhHy
Lx
gttvhHy
tvx
M
M
m
m
θ
θ
時刻 0t でMmMm yyxx == , が成り立つので、
θθ
θθ
θθ
θ
θ
tancos
sinsin
sin
cos
2
1)(
2
1sin)()(
cos
00
0
0
00
2
000
2
00000
00
Lv
Lvtvd
dtv
v
Lt
gtdhHgttvhHty
Ltv
M
=⋅=⋅=→
=⋅
=→
−++=−⋅++=
=⋅
となり、 θtan0Ld = をえる。
2つの質点が衝突するときの高さは、
θθθ
θθθ
θθ
θ
2
10
2
2
0000
2
10
2
2
0000
22
2
0000
2
000
2
000
cos)])(sin[2(2tan
cos)](sin[22
1tan
cos2
1tan
cos2
1)(
2
1)(
hhxgmkx
mgLLhH
hhxgxm
k
LgLhH
v
LgLhH
v
LgdhHgtdhHyM
−+−−++=
−+−−++=
−++=
−++=−++=
となる。2つの質点が空中で衝突するためには、 0>My であることが必要。よって、
θθθθ
θθθ
θθθ
θθθ
θθθ
2
000
2
010
2
2222
2
000
2
0102
2
000
2
010
2
2
000
2
010
2
2
10
2
2
0000
cos)tan(2
)(2sinsin
cos)tan(2
)(2sin2
cos)tan(2)(2sin2
cos)tan(2)](sin[2
0cos)])(sin[2(2
tan
LhHk
mgL
k
hhmg
k
gm
k
mgx
LhHk
mgL
k
hhmgx
k
mgx
LhH
mgLhhmgmgxkx
LhH
mgLhhxgmkx
hhxgmkx
mgLLhHyM
+++
−+>
−→
+++
−>⋅−→
+++−>−→
++>−+−→
>−+−
−++=
167
よって、 0>x から、
θθθθ
2
000
2
010
2
222
cos)tan(2
)(2sinsin
LhHk
mgL
k
hhmg
k
gm
k
mgx
+++
−++>
が xに課せられる条件である。 xの値の下限は、(1)で求まった条件よりも、さらに大きな値である。
(3) 衝突によって失われる運動エネルギーを求めるには、衝突前後の 2つの質点の速度が求まればよい。
衝突直前の質点 Mm, の速度を、水平方向、鉛直方向に mm vu , および MM vu , とし、衝突直後の速度を VU ,
としよう。鉛直方向には、重力による力が働くが、衝突前後において、運動量の変化に対する重力の寄
与は無視できる。(重力により質点に加わる力は、2つの質点が互いに力を及ぼす、作用・反作用の力で
はない。しかし、衝突前後での質点の移動が無視出来るような、非常に短い移動距離・時間を考えると、
重力による力積は無視できる。外から加わる力の影響が無視できるので、2 つの質点の衝突の際に考慮
すべき力は、作用・反作用の力だけである。)よって、運動量保存および 0=Mu から、
++
=
+=
++
=→
+=+
+=+
Mm
MvmvV
Mm
mu
Mm
MumuU
VMmMvmv
UMmMumu
Mm
mMm
Mm
Mm
)(
)(
運動エネルギーの減少量 E∆ は、衝突前後での差をとり、
)(2
])([
])([)2(2)(}{
]}2)([)())(({)(2
1
)}2({)(22
)(2
)(2
)(2
)(2
22
22222222
22222222
222222
2
222
222222
Mm
vvumME
vvumMvvvvumMvmMvMmvvumM
vmMvvMvumvMmMvuMmmMm
vmMvvMvmumMm
Mmv
Mvu
m
VUMm
vuM
vum
E
Mmm
MmmMmMmmMmMmm
MmMmmMmm
MmMmmMmm
MMmm
+−+
=∆
−+=−++=−++=⋅⋅⋅
+++−+++++
=
+++++
−++=
++
−+++=∆
ここで以下の結果を利用する。
=−−−=−
=→
−=
=
−=
=
θθ
θθ
θ
sin)()sin(
cos
0
sin
cos
00
0
0
vgtgtvvv
vu
gtv
u
gtvv
vu
Mm
m
M
M
m
m
すると、運動エネルギーの減少量は、
)(2
)]}(sin[2{
)](sin[2)(2
)(2)(2
])sin()cos[(
)(2
])([
10
2
10
2
22222
Mm
hhxmgkxM
hhxgxm
k
Mm
mM
vMm
mM
Mm
vvmM
Mm
vvumME Mmm
+−+−
=
−+−+
=
+=
++
=+
−+=∆
θ
θ
θθ
となる。
168
例題 2 斜面、摩擦、ばねのある場合の質点の運動
摩擦のある角度θ の斜面と摩擦の
ない水平面が、点 Aで滑らかにつな
がっている。水平面の右側の壁には、
ばね定数 kの質量の無視できるばね
がついている。ばねは、自然長の長
さとなっている。
点 Aの位置には、質量mの物体(質点)があり、右方向に初速度 0v で移動し、ばねに衝突する。質
点とばねが衝突後一体となって動き、ばねの長さが縮む。ただし、ばねは縮みきる事はないとする。そ
の後ばねは伸びて、ばねの長さが自然長にまで戻ると、質点はばねからはなれ、摩擦のある斜面を登る。
斜面と質点との静止摩擦係数、動摩擦係数をそれぞれ ',µµ とし、重力加速度を gとする。また、ばね
定数を kとする。
以下の問いに答えよ。
(1)ばねと物体が衝突後、ばねの長さが x縮んだとする。その時の質点の速度の大きさをもとめよ。
また、運動方程式を書け。
(2)ばねと質点が衝突した後、ばねは最大いくらまで縮むか。その長さを求めよ。
(3)物体は、ばねから離れた後、斜面を登る。物体が斜面を登っている時の、物体の斜面に沿った加
速度を求めよ。右下向きを(+)にとる。また、物体が登ることのできる、斜面での最大の高さを求
めよ。斜面は十分長いとする。
(4)物体が斜面上で静止することなく降りてくるための、角度θ 、静止摩擦係数 µ の間の関係式を求
めよ。
(5)質点が斜面を降りるときの加速度を求めよ。右下向きを(+)にとる。また、物体が点 Aまで降り
て来た時の質点の速さを求めよ。
解説と解答
(1) ばねと物体が衝突後、ばねの長さが x縮むと、物体を押す。力学的エネルギーの保存を考える
(摩擦などのエネルギー散逸がない)と、求める物体の速度の大きさ(速さ)をvとすれば、
22
0
22
0
222
0
22
0
22
2
1
2222
1
2x
m
kvvx
m
kvvkxv
mv
mv
mkxv
m−=→−=→−=→=+
右向きを(+)にとると、ばねの力は kx− になる。よって、物体の加速度をaとすれば、運動方程式は、
makx =−
となる。
(2)ばねと物体が衝突した後、ばねが最大に縮んだ時、物体の速度=ゼロである。よって、エネルギ
ーの保存を用いると、その長さをd として、
0
2
0
22
22
10
2vk
mxv
mkx
m=→=+
となる。
(3)斜面に沿った重力による力は、斜面に沿って右向きに θsinmg である。斜面と物体との間には、
動摩擦力が働く。その大きさは、斜面が物体を押す垂直抗力をN として、 N'µ で与えられる。物体は、
θ
A B
v0 h
d
C
169
斜面に対して垂直方向には運動しない(移動しない)ので、垂直方向の力のつりあい(垂直抗力と、重
力の斜面垂直方向の成分)との釣り合いを考えると、 θcosmgN = となる。斜面に沿って右方向を(+)
にとり、物体の加速度を 'a とすると、
)cos'(sin''cos'sin θµθθµθ +=→=+ gamamgmg
となる。
物体は、ばねに跳ね返された後、摩擦などの、力学的エネルギーが失われる様な運動をしない。また、
ばねも自然長の長さに戻るので、物体が最初持っていた運動エネルギーをそのまま持っている。よって、
点 Aでの物体の速さは 0v である。向きを考慮すると、物体の速度は 0v− である。
物体が斜面上で最高の点に達した時、物体の速度=ゼロである。よって、速度=ゼロになるまでの時
間を 't とすれば、
)cos'(sin''''0 00
0 θµθ +==→+−=g
v
a
vttav
斜面上での物体の移動距離 l は、
)cos'(sin2)cos'(sin)cos'(sin
2
1
)cos'(sin''
2
1'
2
0
2
000
2
0 θµθθµθθµθ
θµθ +−=
+
+++
−=+−=g
v
g
vg
g
vvtatvl
で与えられる。マイナス符号は、右方向を(+)にとったから出た。距離)cos'(sin2
||2
0
θµθ +=g
vl である
ので、物体mが上る最大の高さhは、以下のようになる。
)cos'(sin2
sinsin||
2
0
θµθθ
θ+
==g
vlh 。
(4)物体が斜面上で静止することなく降りてくるためには、物体が斜面で静止しない条件を求めれば
よい。速度=ゼロで、物体は一瞬静止するが、この時、物体には重力の斜面に沿った成分 θsinmg と、
静止摩擦力が働く。重力の斜面に沿った成分 θsinmg が最大静止摩擦力 θµµ cosmgN = よりも大きけ
れば、物体は斜面上で止まることなく、滑り降りてくる。すなわち、
µθθµθ >→> tancossin mgmg
が求める関係式である。
(5)斜面に沿った重力による力は、斜面に沿って右向きに θsinmg である。斜面と物体との間には、
動摩擦力が働く。その大きさは、斜面が物体を押す垂直抗力をN として、 N'µ で与えられる。その向
きは、物体が斜面を滑っているので、斜面に沿って左向きである。物体の加速度を "a とすると、
)cos'(sin""cos'sin θµθθµθ −=→=− gamamgmg 。
点 Aまで移動するのにかかる時間を "t とする。初速度=ゼロ、移動距離= || l なので、
"
||2"||""
2
1 2
a
ltlta =→=
である。求める速度の大きさをuとすると、以下のようになる。
θµθθµθ
θµθθµθ
cos'sin
cos'sin
)cos'(sin2)cos'(sin2||"2
"
||2""" 0
2
0
+−
=+
⋅−==== vg
vgla
a
latau
170
例題 3 物体と局面の斜面での、運動量保存と力学的エネルギー保存
この問題は、斜面が一定の角度ではなく、曲面になっているので、運動方程式を使って次の設問にあ
るような答えを出す事は容易ではない。しかし運動量保存、力学的エネルギー保存を用いると、答えが
出る。
右図のように、水平な滑らかな(摩擦のない)床の上に、半径Rの滑らかな(摩擦のない)円弧状の
斜面を持った質量M の台がある。この台の AB間は水平で BC間は半径Rの円弧になっている。また、
円弧の中心 O は、点 B の真上にある。台の端の点 A には、大きさの無視できる質量mの物体があり、
初速度 0v で点 Bの方向に動く。
(A)台が床に固定されているとする。
(1) 物体が点 Bを通過する直前・直後の、台が物体を押
す力(垂直抗力)を求めよ。
(2) 物体は、点 Eの高さまで上がる。その高さHを求
めよ。ただし、点 Eの高さは点 C の高さよりも低いと
する。
(B)台は、床の上を摩擦なく、スムーズに動く事が出来るとする。
(1) 物体は、点 Dの高さまで上がる。その高さhを求めよ。
(2) 物体が曲面を降りてきて、点 Bを通過する時の、物体と台の速度を求めよ。
解説と解答
(A)台が床に固定されているとする。
(1) 点 B 通過直前は、水平運動なので、物体に重力による力mgが働き、物体が平面(AB)を力F で
押す。その反作用として、AB面が物体を垂直抗力(大きさN )で押す。よって床が物体を押す力の大
きさは、mgである。
点 B通過直後は、物体は円運動をしている。よって、物体が回転中心に向かって受ける力は、 Rvm /2⋅
で与えられる。物体が面を押す力F の反作用として面が物体を押す(垂直抗力N )。垂直抗力N と重力
mgとの差が向心力になるので、次の式が成り立つ。
R
vmmgN
R
vmmgN
2
0
2
0 +=→=− 。
(2) 力学的エネルギー保存と点 Eでの速度=ゼロから、
g
vHmgHv
m
200
2
2
02
0 =→+=+
の高さである。
(B)台は、床の上を摩擦なく動く事が出来るとする。
(1) 物体が上がる高さをhとする。物体が高さhになった瞬間には、物体と台は同じ速度になっている
(台から見れば、物体は静止)。力学的エネルギーの損失がないので、力学的エネルギー保存が成り立
つ。また、水平方向に限って言えば、物体と台との作用・反作用の力以外の力は働かないので、運動量
保存の式も成り立つ。物体と台が一体となり同じ速度になっている瞬間では、水平方向の速度のみを持
つ。
H
C
R
B
O
A
E D
h
N’ F
Mg
N
mg
F’
171
mghvMm
mMmghv
Mm
mMmmmghv
Mm
mMmv
m
vMm
mVVMmmvmghV
Mmv
m
=+
→=+
−+→+
++
=
+=→+=+
+=
2
0
2
0
22
0
2
0
00
22
0
)(2)(2
)(}{
2
)(
2
)(,2
)(
2
よって高さは、
g
v
Mm
Mh
2
2
0⋅+
= 。
補足:水平方向の運動量保存は、運動方程式を用いると、以下のように成り立つ事が示される。物体m、
台の速度をそれぞれ )(),( tVtvrr
とする。物体が台を押す力と台が物体を押し返す力をそれぞれ )(),( tNtFrr
とする。また、重力により物体mおよび台M に加わる力を、ベクトル表示で ),( 垂直成分水平成分 とし
て、 ),0( gmgm −=r
および ),0( gMgM −=r
とする。台が床を押す作用(力 )(' tFr
)に対する反作用とし
て、床が台を押す垂直抗力 )(' tNr
がある。運動方程式は、物体、台それぞれ
)(')()(
,)()(
tNgMtFdt
tVdMgmtN
dt
tvdm
rrrr
rrr
++=+=
で与えられる。物体が点 B に居る時刻を Btt = 、点 D にいる時刻を Dtt = とし、 DB tt ~ の間での時間
積分を行うと
∫∫∫∫∫∫∫ ++=+=D
B
D
B
D
B
D
B
D
B
D
B
D
B
t
t
t
t
t
t
t
t
t
t
t
t
t
tdttNdtgMdttFdt
dt
tVdMdtgmdttNdt
dt
tvdm ')(''')'('
'
)'(,'')'('
'
)'( rrrr
rrr
となる。 )()( tNtFrr
−= に注意してこの 2式を足して、
∫∫∫∫
∫∫∫∫∫∫
++=+
++++=+
D
B
D
B
D
B
D
B
D
B
D
B
D
B
D
B
D
B
D
B
t
t
t
t
t
t
t
t
t
t
t
t
t
t
t
t
t
t
t
t
dttNdtgMmdtdt
tVdMdt
dt
tvdm
dttNdtgMmdttFdttNdtdt
tVdMdt
dt
tvdm
')('')(''
)'('
'
)'(
')('')(')'(')'(''
)'('
'
)'(
rrrr
rrrrrr
を得る。左辺の積分をあらわに書くと、次のようになる。
∫
∫∫∫∫+−⋅+++=+→
++=+
D
B
D
B
D
B
D
B
D
B
t
tBDBBDD
t
t
t
t
t
t
t
t
dttNttgMmtVMtvmtVMtvm
dttNdtgMmdtdt
tVdMdt
dt
tvdm
')(')()()()()()(
')('')(''
)'('
'
)'(
rrrrrr
rrrr
重力による力積の項は、水平方向の成分がゼロである。また、垂直抗力 )(tNr
も、水平成分がゼロなの
で、その時間積分の水平成分はゼロである。よって、運動量の水平方向の成分は、運動量保存が成り立
つ。
物体が点 Bにもどる時刻を 2Btt = とし、 2~ BB tt の間でも同様の計算をすると、次のようになり、運
動量の水平方向の成分については、運動量は保存される事が示される。この結果は(2)での補足にな
っている。
∫+−⋅+++=+2
')(')()()()()()( 222
B
B
t
tBBBBBB dttNttgMmtVMtvmtVMtvm
rrrrrr
(2) 物体が点 Bを通過する時の物体の速度、台の速度をそれぞれ uv, とすると、水平方向では、外部か
らの力が働かないので、運動量保存が成り立つ。また、(摩擦がないので)力学的エネルギー保存の式
が成り立つ。
172
222
00222
, uM
vm
vm
Mumvmv +=+=
引き続いて、vを求める計算を行う。
00
00000
2
0
2
00
2
0
222
0
2
0
22
000
,
0})()){((2
0)}()(){(2
)(2
))((2
)(222
)(222
)(
vMm
Mmvv
vMmvmMvvm
vvmvvMvvm
vvm
vvvvmM
vvm
vmM
vmM
vvM
mMv
mv
mvv
M
muMumvmv
+−
=
=++−−→=−−+−→
−=−+→−+=→
−+=→−=→+=
0vv = は、物体が動き始める、最初の時の値。物体が降りてくる時は、0v
Mm
Mmv
+−
= の値である。台の
速度uは、
000000
2
)(
2
)(
)]()[(1)()( v
Mm
mv
MmM
Mmv
MmM
MmMmmv
Mm
Mm
M
mvv
M
muvvmMu
+=
+⋅
=+
−−+=
+−
−=−=→−=
となる。
問題:例題 3で、 Mm < 、および Mm > のそれぞれの時について、考えよう。物体mが台を上る時、
降りる時、物体と台は、左右どちら方向に動いている(速度の向き)か、0v
Mm
Mmv
+−
= の値から考えて
みよ。また、なぜそうなるのか、直感的な説明を試みよ。
例題 3での、ベクトルと微積分による、運動量保存とエネルギー保存の式の導出
まず、運動量保存の式の導出を行う。物体の位置ベクトルを )(txr
とし、物体と台の速度ベクトルをそ
れぞれ )(),( tVtvrr
とする。 )()( tNtFrr
−= に注意すると、
))()(()(')(
)()()}(')({)(
)(')()(
)()(
tVMtvmdt
dtNgmM
dt
tVdM
dt
tvdmtNgMtFgmtN
tNgMtFdt
tVdM
gmtNdt
tvdm
rrrr
rrrrrrr
rrrr
rrr
+=++→
+=++++→
++=
+=
ここで、
=
=
=
−=
)(
)()(,
)(
)()(,
)(
0)(',
0
tV
tVtV
tv
tvtv
tNtN
gg
y
x
y
xrrrr
とおけば(2次元の運動を想定)、
+
=
+
−+→+=++
)(
)(
)(
)(
)(
00)())()(()(')(
tV
tVM
tv
tvm
dt
d
tNgmMtVMtvm
dt
dtNgmM
y
x
y
x rrrr。
x成分のみを抜き出すと、水平方向には外力が働かないので、
173
( ) 一定=+→+= )()()()(0 tMVtmvtMVtmvdt
dxxxx
となる。この式は、外力(の水平線成分)がない場合、物体と台の運動量の水平成分の和は時間によら
ず一定であるという、運動量保存の式である。
続いて、力学的エネルギー保存の式の導出を行う。台は水平方向の運動を行うので、 )(', tNgrr
は )(tVr
と直交する:
0)()(')( =⋅=⋅ tVtNtVgrrrr
。
そこで、 )()( tNtFrr
−= に注意して、次のようにそれぞれの運動方程式と物体および台の速度ベクトルと
の内積を取り、式計算を進める。
+=⋅+−⋅→
⋅+⋅=++⋅+⋅+⋅→
⋅=⋅+⋅+⋅
⋅=⋅+⋅→
⋅
++=
⋅
+=
22 )(2
)(2
)())()(()(
)()(
)()(
00)()()()()(
)()(
)()(')()()(
)()(
)()()(
)()(')()(
)()()(
tVM
tvm
dt
dtvgmtVtvtN
tVdt
tVdMtv
dt
tvdmtVtFtvgmtvtN
tVdt
tVdMtVtNtVgMtVtF
tvdt
tvdmtvgmtvtN
tVtNgMtFdt
tVdM
tvgmtNdt
tvdm
rrrrrrr
rr
rr
rrrrrr
rr
rrrrrr
rr
rrrr
rrrrr
rrrr
物体は、常に台の曲面に沿って移動する。これは、ベクトルを用いて表わせば、物体の台に対する相対
速度 )()( tVtvrr
− は、台が物体を押す垂直抗力 )(tNr
に直交する:
0))()(()( =−⋅ tVtvtNrrr
。
(物体の台に対する相対速度 )()( tVtvrr
− は、物体が台と接触しているその接点に引いた接線と平行であ
る。よって、垂直抗力 )(tNr
と直交する。この部分の説明は、次の斜面を滑る物体の運動での、相対速
度の説明を参照する事。)
よって、最終的に
0)()(2
)(2
)(2
)(2
)()(
)(2
)(2
)(0
22
22
22
=
⋅−+→
+=⋅→
+=⋅+
txgmtVM
tvm
dt
d
tVM
tvm
dt
d
dt
txdtvgm
tVM
tvm
dt
dtvgm
rrrr
rrr
rr
rrrr
となり、次の式で表わされる力学的エネルギー保存の式が得られた。
一定=⋅−+ )()(2
)(2
22 txgmtVM
tvm rrrr
。
重力以外の力は物体と台に対して仕事をしないので、物体と台の運動エネルギー、および物体の位置エ
ネルギーの和は、時間によらず一定になる。
)()( tVtvrr
−
)(tNr
gmr
174
可動斜面上での物体の運動「水平方向に、床との摩擦なく動く斜面」の上にある物体の運動
斜面が静止している場合の物体の斜面上の運動は簡単ですが、斜面が動く場合は、斜面から見た物体
の加速度をどのようにすればよいか、正しく理解しなくては、物体と斜面の運動方程式を立てる事が出
来ません。加速度の扱いは、以下で示すように考えよう。
考え方:物体が斜面上を滑るので、斜面から
見れば、物体は斜面に添った運動をする。すな
わち、物体の移動方向(変位)も、速度も、加
速度も、全て斜面に沿った方向に平行なベクト
ルになる。
例えば、位置の移動は、斜面から見れば、垂直方向に θsin−
移動する( θsin 下がる)と、右方向へ θcos− 移動(左方向へ
θcos 移動)する。速度ベクトル、加速度ベクトルも同様であ
る。すなわち、斜面から見た物体の加速度、速度、位置の移動(変位)の 3つのベクトルは、全て斜面
と平行なベクトルになる。
物体mおよび質量M の斜面の加速度をそれぞれ水平方向、垂直方向にわけ、右向き、上向きを+に方
向にとり、それぞれ ),( ,, ymxm aa 、 ),( ,, yMxM aa とすると、この条件は、
θθθ tan)sin,cos(),(),(,,
,,
,,,, +=−
−→−−∝−
xMxm
yMym
yMxMymxmaa
aaaaaa ---(*)
と書くことが出来る。速度の場合は、 ),(),,(),(),,( ,,,, yxyxyMxMymxm VVvvaaaa → の置き換えをすればよい。
この関係式(*)について、もう少し、詳しく考えよう。
時刻が tから tt ∆+ へ経過する時の、物体mと斜面M の移動量を考えよう。時刻 tでの物体mおよび
斜面M の水平、および垂直方向の時刻 tにおける速度をそれぞれ )(),( tvtv yx および )(),( tVtV yx とする。
時間間隔 t∆ が十分小さく、速度成分 )(),( tvtv yx および )(),( tVtV yx の時間変化が無視できるとする。時
間 tから tt ∆+ へ経過する間に、物体mが水平方向、および垂直方向にそれぞれ yx ∆∆ , 移動し、斜面M
が水平方向、および垂直方向にそれぞれ YX ∆∆ , 移動したとしよう。その時 yx ∆∆ , および YX ∆∆ , は、
ttV
tV
Y
Xt
tv
tv
y
x
y
x
y
x∆
=
∆
∆∆
=
∆
∆
)(
)(,
)(
)(
で与えられる。また、図形的な考察から、
θθθ
tancos
sin=
−−
=∆−∆∆−∆Xx
Yy
が成り立つ。(物体mが斜面M を滑り降りるときの角度を考えよう。斜面M から見れば、物体mは角
度θ の斜面を滑る。物体mが斜面M を上る場合も同様である。)よって、物体mと斜面M の速度につ
いて、以下のような関係式が成り立つ。
θtan)()(
)()(
)()(
)()(=
−
−=
∆−∆
∆−∆=
∆−∆∆−∆
tVtv
tVtv
ttVttv
ttVttv
Xx
Yy
xx
yy
xx
yy 。
なお、この関係式は、加速度に時間依存性があるかどうかに関係なく成り立つ。物体の運動が等加速度
mg
θ
N
F
Mg
F’
N’
-sinθ
-cosθ
175
運動であると仮定していない。
物体mと斜面M の加速度(ここでは、等加速度運動を仮定)については、次のように考えよう。
物体mと斜面M が等加速度運動をするとしよう。物体mの水平方向、および垂直方向の加速度(時
刻 tにおける速度)の成分をそれぞれ ))(),((, ,, tvtvaa yxymxm とし、斜面M の水平方向、および垂直方向
の加速度(時刻 tにおける速度)の成分をそれぞれ ))(),((, ,, tVtVaa yxyMxM としよう。時刻 tから tt ∆+ ま
での物体mの斜面M に対する微小な相対的移動を先ほどと同様に考えると、 0→∆t の極限では、
θtan)()(
)()(
][2
1)]()([
][2
1)]()([
})(2
1)({})(
2
1)({
})(2
1)({})(
2
1)({
,,
,,
2
,
2
,
2
,
2
,
=−
−=
∆−+−
∆−+−=
∆+∆−∆+∆
∆+∆−∆+∆=
∆−∆∆−∆
tVtv
tVtv
taatVtv
taatVtv
tattVtattv
tattVtattv
Xx
Yy
xx
yy
xMxmxx
yMymyy
xMxxmx
yMyymy
が成り立つ。時刻 tの値に関係なく式が成り立つ事に注意する事。この関係式は時刻 tt ∆+ でも成り立
つ。そこで、適当な係数 Aを用いて、
θθθ cos)()(,tan)()(tan)()(
)()(AtVtvAtVtv
tVtv
tVtvxxyy
xx
yy =−=−→=−
−
とおけば、 tatvttv xmxx ∆+=∆+ ,)()( 等の関係式を用いて、
θ
θθ
θθθθ
θθ
θθ
tan
sin][cos][
sin}][cos{cos}][sin{
tan][cos
][sin
][)]()([
][)]()([tan
)()(
)()(
,,
,,
,,,,
,,,,
,,
,,
,,
,,
=−
−→
∆−=∆−→
∆−+=∆−+→
=∆−+
∆−+=
∆−+−
∆−+−→=
∆+−∆+
∆+−∆+
xMxm
yMym
xMxmyMym
xMxmyMym
xMxm
yMym
xMxmxx
yMymyy
xx
yy
aa
aa
taataa
taaAtaaA
taaA
taaA
taatVtv
taatVtv
ttVttv
ttVttv
をえる。すなわち、等加速度運動の場合、加速度でも速度と同様の関係式が成り立つ。
加速度については、次のように考える事もできる。既に求めた関係式:
θtan)()(
)()(=
−
−
tVtv
tVtv
xx
yy
は、任意の時刻 tで成り立つので、時刻 tt ∆+ でも成り立つ。そこで適当な係数をBを用いて、
θθθ cos)()(,tan)()(tan)()(
)()(BtVtvBtVtv
tVtv
tVtvxxyy
xx
yy =−=−→=−
−
とおけば、 tatvttv xmxx ∆+=∆+ ,)()( 等から、
(**)tan
sin][cos][
sin}][cos{cos}][sin{
tan][cos
][sin
][)]()([
][)]()([
)()(
)()(
,,
,,
,,,,
,,,,
,,
,,
,,
,,
−−−=−
−→
∆−=∆−→
∆−+=∆−+
=∆−+
∆−+=
∆−+−
∆−+−=
∆+−∆+
∆+−∆+
θ
θθ
θθθθ
θθ
θ
xMxm
yMym
xMxmyMym
xMxmyMym
xMxm
yMym
xMxmxx
yMymyy
xx
yy
aa
aa
taataa
taaBtaaB
taaB
taaB
taatVtv
taatVtv
ttVttv
ttVttv
。
をえる。なお、この式(**)の導出では、加速度が等加速度であるという制限は加えていない。よって、
等加速度運動でない場合(加速度に時間依存性がある場合)でも、(**)の関係式は成り立つ。
176
問題のパターンは、次の例題 4を含め、いろいろ有りうる。
1) 物体mを斜面にそっと置いた(初速度=ゼロ)後の、物体と斜面の運動は?
2) 物体mが斜面上で止まっているとき、どのような力を加えているか?ただし、物体と斜面との摩擦
はない。その時の物体、斜面の運動は?
3) 物体が斜面に沿って初速度 0v で上る時、物体はいくらの高さまで上がる事が出来るか?
例題 4は(1)の場合であり、物体と斜面との間に摩擦がない場合について、加速度などを求める。もし
も、斜面、物体、床との間に摩擦が全くないのなら、働く力は、重力による力、物体と斜面との作用・
反作用の力、および斜面と床(水平面)との作用・反作用の力、の以上 3種類である。
例題 4 摩擦のない斜面での質点の運動
角度θ の傾斜面を持つ質量M の斜面(これ以降、斜面M と
よぶ)が水平面上にある。斜面と水平面との摩擦はない。こ
の斜面上の水平面から見て高さ hの位置に、質量mの物体
(これ以降、物体mとよぶ)を静かに置く。(初速度=ゼロ
である。)物体mは、斜面に沿って、摩擦なしに滑らかに左下方向に滑りはじめる。と同時に、斜面も
水平面上を右方向に滑り始める。斜面が移動する右方向を水平方向の正の方向、鉛直の上方向を鉛直方
向の正の方向にとる。
物体mの水平面に対する加速度の水平成分、鉛直成分をそれぞれ、 ymxm aa ,, , とし、斜面M の水平面
に対する加速度を xMa , とする。斜面M は、水平面に乗ったままの運動であり、鉛直方向には移動しな
いので、鉛直方向の加速度=ゼロである。
物体mが斜面M を押す力を N 、物体mが斜面M か
ら受ける垂直抗力を N 、重力加速度を gとして、以下の
問いに答えよ。
(1) 物体mおよび斜面M の運動方程式を書け。
(2) ymxm aa ,, , および xMa , を、 θ,,, gMm を用いて表せ。
(3) 垂直抗力N を θ,,, gMm を用いて表せ。
解説と解答
物体m、水平面、および斜面M に働く力は右図のようになる。物体mには、まず重力による力mgが、
鉛直下方向に働く。また、斜面M と押し合っているので、作用反作用の力が働く。物体mが斜面M を
押す力の大きさを F とし、斜面M が物体mを押し返す反作用の力の大きさを N とすれば、 NF = が
成り立つ。斜面M には、重力による力Mg が鉛直下
方向に働く。最後に、斜面と平面とが互いに押し合っ
ているので、斜面M が平面を押す力の大きさ 'F は、
水平面が斜面M を押し返す力 'N と等しい。
(1) 力を考慮して、物体mおよび斜面M の運動方程
式を立てると、以下のようになる。
θ
m
M h
mg
θ
N
F
Mg
F’
N’
F
Mg Fcosθ
Fsinθ N’
mg
Ncosθ
N
Nsinθ
177
=
=−−
=
=−
=−
0
cos'
sin
,cos
sin
,
,
,
,
,
yM
yM
xM
ym
xm
a
MaMgFN
MaF
mamgN
maNθ
θ
θ
θ。
(2) 水平方向では、物体mと斜面M は互いに押し合っていて(作用・反作用の関係: NF = )、それ以
外の力が物体mと斜面M に働かないので、
xmxMxMxmxMxx aM
maMamaFNMama ,,,,,, 00sinsin)( −=→=+→=+−=+ θθ
となる。
物体mは、斜面の斜面にそって運動する(すべる)ので、斜面からみた物体の加速度(相対的な加速
度)には、次のような関係式が成り立つ。
θθθθ
tan)(tancos
sin0,,,
,,
,
xMxmym
xMxm
ymaaa
aa
a−=→=
−−
=−
−。
これれから、 yma , は次のようになる。
θθθ
tantan)(
tan)(
,,,,
,,
,,,
xmxmxmym
xmxM
xMxmym
aM
Mma
M
maa
aM
ma
aaa+
=+=→
−=
−=
以上から、加速度に関して、
θtan,,,, xmymxmxM aM
Mmaa
M
ma
+=−=
の関係式が得られた。これら関係式を運動方程式に再び代入し、加速度を求める。
+−=
−=
θ
θ
cos
sin
,
,
Nmgma
Nma
ym
xm
その際、現段階で未知数であるN を消去する。
θθθ
θθθθθ
θθθθ
θθθθθθθθ
θθθθ
θθθ
θθ
θθ
2,,
222
2
,
2
,
,,,,
,
,
,
,
sin
cossincossin]sin)sin(cos[
0cossinsin)(cos
0sinsintan)(cos0sinsin)tan(cos
sincossinsin
cossincos
sin)cos(
cos)sin(
mM
MgaMgamM
MgaMmMa
MgaMmMamgaM
Mmmma
Nmgma
Nma
Nmgma
Nma
xmxm
xmxm
xmxmxmxm
ym
xm
ym
xm
+−=→−=++→
=+++→
=+++→=++
+
=+
−=→
+−=
×−=
符号の-は、物体の加速度が左向きを意味する。なお、大した違いはないが、次の計算の仕方からも、
答えが得られる。(大抵の問題集では、このあたりの計算は、簡単に書いている。しかし、ここで書い
た程度の計算は必要である。)
θθθ
θθ
θtan
cos
sin
tancos
sin
,
,
,
,
,
,−=
−=
++
⋅=
+→
+=+
−=
N
N
mgaM
Mmm
ma
mgma
ma
Nmgma
Nma
xm
xm
ym
xm
ym
xm
残りの加速度は、
-sinθ
-cosθ
178
θθ
θθθ
θθθθθ
2
2
2,,2,,sin
sin)(
sin
cossintantan,
sin
cossin
mM
gMm
mM
Mg
M
Mma
M
Mma
mM
mga
M
ma xmymxmxM +
+−=
++
−=+
=+
=−=
となる。 yma , の-符号は、下向きの加速度を持つ事を意味する。
(3) 物体mと斜面M が互いに押し合う力の大きさN は、次のように求まる。おまけ: 'N は次式のよう。
θθ
θθ
θθθ
θθθ
222
,
,sin
)(cos',
sin
cos
sin
cossin
sinsinsin
mM
gmMMMgNN
mM
Mmg
mM
MgmmaNNma
xm
xm ++
=+=+
=+
⋅=−=→−=
例題 4の追加問題 1 上記の結果に付随した問題(物体の速度、運動エネルギーを求める)
物体mが床から高さhのところにいたとする。物体mが斜面に沿って滑り、その高さがゼロになる
(物体mが床と同じ高さになる)時、物体および斜面は、どれだけの水平距離を移動しているか求めよ。
また、その時物体mと斜面M が持つ運動エネルギーを求めよ。
解説と解答
物体mの垂直方向の加速度 yma , (<0:下向き)に対して、床に到着する時間をT とすれば、
||/22/ ,
2
, ymym ahThTa =→−=
移動距離は、床から見ると、
物体m:左へ移動 θθ
θθtan)(sin)(
cossin||/2/
2,,
2
,Mm
Mh
Mm
MhahaTa ymxmxm +
−=+
−=⋅=
斜面M :右へ移動 θθ
θθtan)(sin)(
cossin||/2/
2,,
2
,Mm
mh
Mm
mhahaTa ymxMxM +
=+
=⋅=
となる。斜面から見ると、物体mは
θθθ tantan)(tan)(
h
Mm
mh
Mm
Mh−=
+−
+−
だけ移動する。-符号は、左への移動を意味する。これは、幾何学でも求まる。
さて、物体mの高さが下がる事(位置エネルギーの減少)で、物体mおよび斜面M の運動が生じる。
物体mの高さ=ゼロの時の、物体mと斜面M の速度・運動エネルギーを求めよう。
物体mが初速度ゼロで高さhの斜面上にいるとする。すると、物体mの失う位置エネルギーはmghで
ある。一方物体mと斜面M が得る運動エネルギーは、加速度がそれぞれ
θθθ
θθ
θθθ
2,2
2
,2,sin
cossin,
sin
sin)(,
sin
cossin
mM
mga
mM
Mmga
mM
Mga xMymxm +
=+
+−=
+−=
で与えられるので、物体mの運動エネルギーは、次の通り。
( ) ( )||
2
22||/2
||/2
,
2
,
2
,
2
,
2
,
,,,,
,,,,
ym
ymxmymxm
ymymymym
ymxmxmxm
a
haa
mvv
m
ahaTav
ahaTav+=+→
==
==
179
( )
θθθ
θθθ
θθ
θθθ
θ
2
2222
2222
2
2
22222
2
2
,
2
,
2
,
sin
sin)(cos
1]sin)(cos[
sin
1
sin)(
sin]sin)(cos[
sin
sin
2
2
||
2
2
mM
MmM
Mm
mgh
MmMmM
mMmgh
Mmg
mMMmM
mMg
mh
a
haa
m
ym
ymxm
+++
⋅+
=
+⋅++⋅
+=
++
⋅++⋅
+
=+
一方斜面M の運動エネルギーは次のようになる。
θθ
θθθ
θθθ
θθθ
2
22
2
2
22
22
2
22
,
2
,
sin
cos
)(
sin
)cossin(
sin)(
1
sin)(
)sin(2
sin
cossin
222
mM
m
Mm
Mgh
mM
m
MmMgh
Mmg
mMh
mM
mg
MTa
Mv
MxMxM
+⋅
+=
++=
+
+
+
==
物体mが水平面と同じ高さになった時の、物体mと斜面M の持つ運動エネルギーの和を計算すると、
( )mgh
mMmM
mgh
mM
MmMmgh
mM
MmMmM
Mm
mgh
mM
MmMmM
Mm
mgh
mM
m
Mm
Mgh
mM
MmM
Mm
mgh
=
+++
=+
++⋅=
++++
⋅+
=+
+++⋅
+=
+⋅
++
+++
⋅+
θθθθθ
θθθ
θθθ
θθθ
θθ
θθθ
222
22
22
2
222
2
22222
2
22
2
2222
sin)sin(cossinsin
sin)(cos
sin
sin)(cos)(
sin
cos]sin)(cos[
sin
cos
)(sin
sin)(cos
となり、物体mが最初持っていた位置エネルギーに等しい。
例題 4 の類似問題 例題 4 と同じ問題設定(加速度を求める必要はない)。斜面上の高さhの所に物
体mをおき、静かに離す。物体mの高さ=ゼロでの、物体mと斜面M の運動エネルギーを求めよ。
解説と解答
この問題では、水平方向には、外部から力が加わらず、物体mと斜面M との間の作用・反作用の力
のみが働くので、水平方向では運動量が保存される。鉛直方向には重力が働くのみで、力学的エネルギ
ーの損失となる摩擦力などは働かない事に注意する。よって、力学的エネルギーが保存される。
最初に、物体と斜面の速度の、速度成分の関係を求める。その関係式を力学的エネルギー保存に代入
し、運動エネルギーを求める。
物体mおよび質量M の斜面の速度をそれぞれ水平方向、垂直方向にわけ、右向き、上向きを+に方向
にとり、 ),( yx vv 、 ),( yx VV とする。斜面は床に対し水平方向の運動をする。また、物体mに押されるの
で、図の配置では、斜面M は左方向には移動しない。よって、 0,0 => yx VV となる。さらに、物体m
は斜面M の斜面方向に沿って移動するので、斜面M に対する物体mの相対的な速度は、斜面方向に平
行である。この事を考慮すると、
θθθ tan0
)sin,cos(),(),( +=−
−=
−
−→−−∝−
xx
y
xx
yy
yxyxVv
v
Vv
VvVVvv 。
となる。引き続き計算すると、
180
θθθθ
tantantan)(tan
0 y
xx
y
xxxxy
xx
y vvV
vVvVvv
Vv
v−=→=−→−=→+=
−
−
水平方向には、物体を斜面との互いに押し合う力(内力:作用・反作用の力)以外は働かないので、
水平方向では、運動量保存が成り立つ。最初、物体mと斜面M は静止していたので、次の運動量保存
の式が成り立つ。
000 =⋅+⋅=+ MmMVmv xx
これら 2つの関係から、
−=
+=
→=+
→
−=
−=−→
=+
−=
xx
xyy
x
xx
y
xx
xx
y
xx
vM
mV
vM
Mmv
vv
M
Mm
vM
mV
vvv
M
m
MVmv
vvV
θ
θθθ
tan
tan
tan
0
tan
を得る。
物体mが高さhで持っていた位置エネルギーが、物体mと斜面M の運動エネルギーに変化する。そ
こで、物体mが斜面を滑りきって床に到達した時の、物体mと斜面M の速度をそれぞれ Vv, とすると、
力学的エネルギー保存から、 mghVM
vm
=+ 22
22が成り立つ。先ほどの関係式を代入すれば、
ghmM
MmM
Mmgh
MmM
MmM
Mm
ghMmMMm
MmM
ghMmM
M
MmM
MmM
ghMmM
M
MmM
Mmv
M
Mmvvv
ghMmM
M
Mmvghv
M
MmMMm
mghvM
MmMMmmmghv
M
MmMmMm
mghvM
mMv
M
Mmv
mmghV
Mv
m
xxyx
xx
xx
xxx
θθθ
θθθθ
θθ
θθ
θθ
θθθ
θθ
θθ
θ
2
2222
22
2222
2
2
2
222
2
2
2
222
2
22
2
2
222
2
222
2
2
2
2
222
2
2222
2
2
2
222
sin
sin)(cos2
sin)(cos
sin)(cos2
cos
cos
tan)(
2tan)(
tan)(
21tan)(
tan)(
21}tan1{tan
tan)(
21
2
tan)()(
2
tan)()(
2
}tan)({
2tan
222
+++
⋅+
=++++
⋅+
=
×+++
++=
++⋅
+++
=
++⋅
+
++=
++=+
++⋅
+=→=
+++→
=+++
→=+++
→
=
−+
++→=+
よって、物体mおよび斜面M の運動エネルギーは、例題 4の追加問題で得た値と同じとなる。
( )θ
θθθ
θθ2
2222
2
222222
sin
sin)(cos
sin
sin)(cos2
22 mM
MmM
Mm
mghgh
mM
MmM
Mm
mvv
myx +
++⋅
+=
+++
⋅+
⋅=+ 。
( )
θθ
θθθ
θ
2
22
22
22
2
222
222
sin
cos
sin)(cos
cos
tan)(
21
2222
mM
m
Mm
Mgh
MmM
m
Mm
Mghgh
MmM
M
MmM
mv
M
mMV
MVV
Mxxyx
+⋅
+=
++⋅
+=
++⋅
+⋅=
−==+
181
例題 4の追加問題 2 例題 4で、微積分を用いたエネルギー保存と運動量保存の関係式の導出
物体mおよび斜面M の運動方程式から、エネルギー保存と運動量保存の関係式を導びく。
=
+−=
−=
→
=
+−=
−=
→
=
+−=
−=
θ
θ
θ
θ
θ
θ
θ
θ
θ
sin
cos
sin
sin
cos
sin
sin
cos
sin
,
,
,
FVVdt
dVM
Nvmgvvdt
dvm
Nvvdt
dvm
Fdt
dVM
Nmgdt
dvm
Ndt
dvm
FMa
Nmgma
Nma
xxx
yyy
y
xxx
x
y
x
xM
ym
xm
3つの式を足せば、 ym vdtdy =/ とおき、
)cossin)((2
)(2
sin}cos{sin
222 θθ
θθθ
yxxm
xyx
xyyxxx
y
y
xx
vVvNdt
dymgV
Mvv
m
dt
d
FVNvmgvNvVdt
dVMv
dt
dvmv
dt
dvm
+−−+−=
++
++−+−=++。
となる。ところで、物体mが斜面M を滑り降りるので、物体mと斜面M において、以下の速度に関
する関係式がなりたつ。
θθθ cossin)()(tan yxxxxy vVvVvv =−→−= 。
この関係式を代入すれば、
02
)(2
02
)(2
222222 =
+++→⋅+−=
++ mxyxm
xyx mgyVM
vvm
dt
dN
dt
dymgV
Mvv
m
dt
d。
よって、力学的エネルギー保存の式、すなわち「物体mと斜面M の運動エネルギーと物体mの位置エ
ネルギーの和は時間によらず一定」が導かれた。さらに、水平方向における運動量保存の式も、以下の
ように導かれる。
( ) )0()0()()(:0
00sinsinsin
sin
,,,
,
xxxxxx
xxxMxmxM
xm
MVmvtMVtmvMVmvdt
d
dt
dVM
dt
dvmFNMama
NF
FMa
Nma
+=+=+→
=+→=+−=+→
=
=
−=
θθθ
θ
。
水平方向には、外部からの力が加わっていない。よって 2つの物体の水平方向の運動量の和は、時間に
よらず一定(運動量の保存則)である。
例題 4での、ベクトルと微積分による運動量保存、エネルギー保存の式の導出
この解法は、例題 3と全く同じである事を、前もって言っておく。
物体mの位置ベクトルを )(txr
とし、物体m、斜面M の速度をそれぞれ )(),( tVtvrr
とする。物体mが
斜面M を押す力と斜面M が物体mを押し返す力をそれぞれ )(),( tNtFrr
とする。また、重力により物体
mおよび斜面M に加わる力を gmrおよび gM
rとする。また、物斜面M が水平面を押す作用(力 )(' tF
r)
に対する反作用として、水平面が斜面M を押す垂直抗力を )(' tNr
とする。
運動方程式は、次式のとおりである。
182
)(')()(
,)()(
tNgMtFdt
tVdMgmtN
dt
tvdm
rrrr
rrr
++=+=
2 つの式を足し算し、 ( ) ( ) ( ) ( ))(),()(,)(),()(,)(,0)(',,0 tvtvtVtvtvtvtNtNgg yxyx ===−=rrrr
とおいて、さら
に )()( tNtFrr
−= の関係式を用いると、
( ) ( ) ( ) ( )[ ])(),()(),()(,0,0)(
))()(()(')()()(
)}(')({)(
tvtvMtvtvmdt
dtNgmM
tVMtvmdt
dtNgmM
dt
tVdM
dt
tvdmtNgMtFgmtN
yxyx +=+−+→
+=++→+=++++
rrrrrr
rrrrr
を得る。 x成分を抜き出すと、
( ) 一定=+→+= )()()()(0 tMVtmvtMVtmvdt
dyxyx
となり、水平方向に関する運動量保存の式を得る。
続いて、力学的エネルギー保存の式の導出を行う。台は水平方向の運動を行うので、 )(', tNgrr
は )(tVr
と直交( 0)()(')( =⋅=⋅ tVtNtVgrrrr
)する。 )()( tNtFrr
−= に注意して、 dttxdtv /)()(rr
= との内積をとり、
式計算を進める。
+=⋅+−⋅→
⋅=⋅+⋅+⋅
⋅=⋅+⋅→
⋅
++=
⋅
+=
22 )(2
)(2
)())()(()(
)()(
)()(')()()(
)()(
)()()(
)()(')()(
)()()(
tVM
tvm
dt
d
dt
txdgmtVtvtN
tVdt
tVdMtVtNtVgMtVtF
tvdt
tvdmtvgmtvtN
tVtNgMtFdt
tVdM
tvgmtNdt
tvdm
rrr
rrrr
rr
rrrrrr
rr
rrrr
rrrrr
rrrr
物体mが斜面を滑るので、物体mの斜面M に対する相対速度
)()( tVtvrr
− は、斜面M が物体mを押す垂直抗力 )(tNr
に直交する。
よって、次の式が成り立つ。
0))()(()( =−⋅ tVtvtNrrr
。
これから最終的に
0)()(2
)(2
)(2
)(2
)(0 2222 =
⋅−+→
+=⋅+ txgmtVM
tvm
dt
dtV
Mtv
m
dt
d
dt
txdgm
rrrrrrr
r
となり、
一定=⋅−+ )()(2
)(2
22 txgmtVM
tvm rrrr
、
すなわち、力学的エネルギー保存の式が得られた。曲がった斜面(例題 3)や角度が一定の斜面(例題
4)など、どのような面を滑る問題でも、動摩擦力が働かないなら、複数の物体が同じ形の運動方程式
に従う。よって、必然的に同じ形の力学的エネルギー保存の式が得られる。
)()( tVtvrr
−
)(tNr
gmr
183
例題 5 物体と斜面との間に摩擦がある場合の運動(例題 4で、物体と斜面の間に摩擦あり)
今度は、斜面と物体の間に摩擦力が働く場合を考えよう。斜面と水平面との間には摩擦はないとする。
(静止摩擦により物体が斜面上で止まっている場合は、一体化した物体の運動なので、興味なし。)物
体が斜面上で滑っている場合を考える。動摩擦係数を 'µ とし、動摩擦力を 'f とする。(それ以外の力は、
物体と斜面との間に摩擦がない場合と同じである。ただし、大きさは違うかもしれない。)この時、3
つの加速度 xMymxm aaa ,,, ,, および斜面M が物体mを押す垂直抗力N を求めよ。
解説と解答
上方向、右方向を加速度その他 の+の方向にとる。右下の
2つの図を参照して、運動方程式は、次のようになる。実際は、
摩擦力なしの場合に、動摩擦力を追加して書くだけである。
yM
xM
ym
xm
MaMgfFN
MafF
mamgfN
mafN
,
,
,
,
sin'cos'
cos'sin
sin'cos
cos'sin
=−−−
=−
=−+
=+−
θθ
θθ
θθ
θθ
また、作用・反作用の関係で FN = である。
物体が斜面上を滑る条件から、
θ
θθ
tan
)sin,cos(),(),(
,,
,,
,,,,
+=−
−→
−−∝−
xMxm
yMym
yMxMymxm
aa
aa
aaaa
を得る。なお、斜面は上下運動をしないとして、 0, =yMa とした。
上式を見ると、未知数として、3 つの加速度( 0, =yMa 以外に 3 つ)および垂直抗力N の、3+1=4
がある(注意: Nf '' µ= である。)。式は 4つあるので、全ての未知数が求まるはずである。
まず、加速度どうしの関係から次式を得る。注意: 0,0 ,, => yMxM aa 。
)(tan0)(tantan ,,,,,,,
,,
,,
xMxmymxMxmyMym
xMxm
yMymaaaaaaa
aa
aa−=−→−=−→=
−
−θθθ
続いて、物体と斜面の、水平方向の運動方程式から、次の関係式を得る。(注意: FN = )水平方向で
は、物体と斜面との間に力が働くだけであり、それら力は、作用・反作用の関係にあることに注意。
0cos'sincos'sin
cos'sin,,
,
,=+→
=−=−
=+−xMxm
xM
xmMama
MafNfF
mafN
θθθθ
θθ
よって、3つの加速度の間に、次の関係式を得る。
−=
+=
→
−=−
−=
xmxM
xmym
xMxmym
xmxM
aMma
aM
Mma
aaa
aMma
,,
,,
,,,
,,
)/(
tan
)(tan0
)/( θθ
最後に、物体mの運動方程式から、以下に示すような関係式を得る。計算方法として、(I)、(II)の
2つを示す。ただし動摩擦力: Nf '' µ= である。この計算は、未知数N を消去する方針で行なった。
(I) この計算が、後の計算(II)よりも簡単である。方針は、式をN でくくって、N を消去する。
mg
θ
N
F
Mg F’
N’
f’
f’
Nsinθ
mg
Ncosθ N
f’
f’cosθ
f’sinθ
θ
F
Mg
f’ N’
Fsinθ
Fcosθ
f’cosθ
f’sinθ
184
0)sin'(cos)()cos'(sin
)sin'(cos)()cos'sin(
)()sin'(cos
)cos'sin(
)(sin'cos
cos'sin
sin'cos
cos'sin
,,
,,
,
,
,
,
,
,
=+⋅++⋅−→
+⋅=+⋅+−→
+=+
=+−→
+=+
=+−→
=−+
=+−
θµθθµθ
θµθθµθ
θµθ
θµθ
θµθ
θµθ
θθ
θθ
xmym
xmym
ym
xm
ym
xm
ym
xm
aag
NmaagmN
agmN
maN
agmNN
maNN
mamgfN
mafN
(II)この計算は、正しいけれども、(I)よりも面倒である。
(i) N'µ を消去(N を残す)する方針で計算:
++−=→
++−=+→
+=+
=+−→
+=+
=+−→
=−+
=+−
θθ
θθθθ
θθθµθ
θθθµθ
θµθ
θµθ
θθ
θθ
cos)(sin
cos)(sin)sin(cos
cos)(cossin'cos
sinsincos'sin
)(sin'cos
cos'sin
sin'cos
cos'sin
,,
,,
22
,
2
,
2
,
,
,
,
ymxm
ymxm
ym
xm
ym
xm
ym
xm
agmmaN
agmmaN
agmNN
maNN
agmNN
maNN
mamgfN
mafN
(ii) N'µ を残す方針で計算
++=→
++=+→
+=+
=+−→
+=+
=+−→
=−+
=+−
θθµ
θθθθµ
θθµθθ
θθµθθ
θµθ
θµθ
θθ
θθ
sin)(cos'
sin)(cos)sin(cos'
sin)(sin'sincos
coscos'cossin
)(sin'cos
cos'sin
sin'cos
cos'sin
,,
,,
22
,
2
,
2
,
,
,
,
ymxm
ymxm
ym
xm
ym
xm
ym
xm
agmmaN
agmmaN
agmNN
maNN
agmNN
maNN
mamgfN
mafN
(i)(ii)の計算で得られた 2つの関係式を用いると、次のような加速度の間の関係式が求まる。
0)cos')(sin()sin'(cos
}cos)(sin{'sin)(cos''
,,
,,,,
=−+++→
++−×=++→×=
θµθθµθ
θθµθθµµ
ymxm
ymxmymxm
aga
agmmaagmmaNN
こうして、(I)、(II)いずれの計算でも、同じ関係式が得られた。その式に加速度に関する関係式
θtan,, xmym aM
Mma
+=
を代入すると、
0)cos'(sincos
)cos'(sinsin)(cos)sin'(cos
0)cos'(sin)cos'(sintan)sin'(cos
0)cos')(sintan()sin'(cos
0)cos')(sin()sin'(cos
,
,
,,
,,
=−+−+++
=−+
−+
++
=−+
+++
=−+++
θµθθ
θµθθθθµθ
θµθθµθθθµθ
θµθθθµθ
θµθθµθ
gaM
MmM
gaM
Mm
aM
Mmga
aga
xm
xm
xmxm
ymxm
左辺第 1項の分子の計算:
)cos'(sinsin
)cos'(sinsin}cossin'cossin')sin{(cos
)cos'(sinsin)}cos'(sinsincos)sin'{(cos
)cos'(sinsin)(cos)sin'(cos
22
θµθθθµθθθθµθθµθθ
θµθθθµθθθθµθθµθθθθµθ
−+=
−+−++=
−+−++=
−+++
mM
mM
mM
MmM
185
0)cos'(sincos
)cos'(sinsin
0)cos'(sincos
)cos'(sinsin)(cos)sin'(cos
,
,
=−+−+
=−+−+++
θµθθ
θµθθ
θµθθ
θµθθθθµθ
gaM
mM
gaM
MmM
xm
xm
0)cos'(sinsin >−+ θµθθmM と仮定して( 2/0,1'0, πθµ <<<<> mM なら成り立つ。確かめよ)、
)cos'(sinsin
)cos'(sincos, θµθθ
θµθθ−+
−−=
mM
Mga xm
を得る。 gの左の-符号は、物体mが左側に運動する事を示す。さらに
xmxMxmym aM
maa
M
Mma ,,,, ,tan −=
+= θ
より、以下のように、物体mと斜面M の加速度を得る。
)cos'(sinsin
)cos'(sincos
)cos'(sinsin
)cos'(sinsin)(})cos'(sinsin
)cos'(sincos{tantan
,,
,,
θµθθθµθθ
θµθθθµθθ
θµθθθµθθ
θθ
−+−
=−=
−+−+
−=−+
−−⋅
+=
+=
mM
mga
M
ma
mM
Mmg
mM
Mg
M
Mma
M
Mma
xmxM
xmym
垂直抗力N は、
)cos'(sinsin
cos
)cos'(sinsin
)cos'(sincos
cos'sincos'sin
)cos'(sincos'sin
,
,,
θµθθθ
θµθθθµθθ
θµθθµθ
θµθθµθ
−+=
−+−
⋅−
=−
−=
−=−→=+−
mM
Mmg
mM
Mg
mmaN
maNmaNN
xm
xmxm
注意:物体mが滑らないなら、 )'( µµ > を静止摩擦係数として、 0)cos(sin ≤− θµθmg になる(なぜ?)。
その場合、物体も斜面も動かない。また、得られた加速度の式において 0'=µ とおけば、摩擦無しの加
速度の式(例題 4参照)に一致する。
もし 0)cos'(sin <− θµθmg なら、 xMa , の式から 0, <xMa となる。しかし、最初静止していた斜面M
が左方向へ移動すると考えてはいけない。物体mとの間に動摩擦力が働く事を前提として、運動方程式
を解いた。この前提が満足されないなら、物体mは斜面をすべらず、物体mと斜面M は静止したまま
である。一般に 'µµ > なので、 0)cos'(sin <− θµθmg なら 0)cos(sin <− θµθmg となり、物体mに働く
力は、重力の斜面に沿った力の大きさよりも最大静止摩擦力のほうが大きく、物体mは斜面を下ること
がない。斜面の形状から考えても、斜面M は物体mに押されるので、 0, <xMa は起こりえない。
なお、物体と斜面との間の摩擦の有無にかかわらず、以下の式が成立する。つまり、
00 ,,,,,, =∆⋅+∆⋅→=+→−= tamtaMmaMaaM
ma xmxMxmxMxmxM
となる。 )(),( ,, tamtaM xmxM ∆⋅∆⋅ は、それぞれ物体 mM , の、時間 t∆ 経過後の運動量を表す。よってこ
の式は、斜面と物体の水平方向の運動量保存(最初、物体と斜面は静止していた。)を示す。動摩擦力
は物体と斜面との間に発生し、その向きが互いに逆向き(2 つの物体間の動摩擦力は作用・反作用の関
係にある)なので、運動量が保存される。
例題 5の追加問題(例題 5の結果を利用する)
例題 5において、問題を追加(物体の速度、運動エネルギーを求める)する。物体mが床から高さh
の高さの斜面にいたとする。物体mが斜面に沿って滑り、その高さがゼロになる時、物体と斜面の移動
186
距離を求めよ。さらに、物体、および斜面の持つ運動エネルギーを求めよ。すでに求まった結果(例題
5で得た加速度の値)を利用してよい。
解説と解答
物体の垂直方向の加速度 yma , (<0:下向き)に対して、床に到着する時間をT とすれば、
||/22/ ,
2
, ymym ahThTa =→−=
移動距離は、床から見ると、
物体は左へ移動し、移動距離は以下のようになる。(-)符号は、左への移動を意味する。
)cos'(sinsin)(
)cos'(sincos
)cos'(sinsin)(
)cos'(sincos
||2
1
,
,
2
, θµθθθµθθ
θµθθθµθθ
−+−
−=−+
−−⋅=⋅=
Mm
Mh
Mm
Mh
a
haTa
ym
xmxm
斜面は、右へ移動する。その距離は、以下の式で与えられる。
)cos'(sinsin)(
)cos'(sincos
)cos'(sinsin)(
)cos'(sincos
||2
1
2
1
,
,
2
, θµθθθµθθ
θµθθθµθθ
−+−
=−+
−⋅=⋅=
Mm
mh
Mm
mh
a
haTa
ym
xMxM
以下は、運動エネルギーの計算である。物体の高さが下がる事(位置エネルギーの減少)で、物体お
よび斜面の運動が生じる。物体の高さ=ゼロの時の、物体と斜面の速度・運動エネルギーを求めよう。
物体と斜面が得る運動エネルギーを求めると、例題 5の結果から、加速度はそれぞれ
)cos'(sinsin
)cos'(sincos
)cos'(sinsin
)cos'(sinsin)(,
)cos'(sinsin
)cos'(sincos
,
,,
θµθθθµθθ
θµθθθµθθ
θµθθθµθθ
−+−
=
−+−+
−=−+
−−=
mM
mga
mM
Mmga
mM
Mga
xM
ymxm
で与えられるので、物体mの運動エネルギーは、次の通り。
( ) ( )||
2
22||/2
||/2
,
2
,
2
,
2
,
2
,
,,,,
,,,,
ym
ymxmymxm
ymymymym
ymxmxmxm
a
haa
mvv
m
ahaTav
ahaTav+=+→
==
==
( ) ( ) ( )
( ) ( )
( ) ( )
)]cos'(sinsin][sin)[(
)cos'](sinsin)2([
sin)2(sin)2()sin(cossin)(cos
)]cos'(sinsin][sin)[(
sin)(cos)cos'(sin
)]cos'(sinsin)][cos'(sinsin)[(
)cos'(sinsin)()cos'(sincos
||
2
2
22
222222222
22
22
,
2
,
2
,
θµθθθθµθθ
θθθθθθ
θµθθθθθ
θµθ
θµθθθµθθθµθθθµθθ
−++−++
=
++=+++=++
−++++
−=
−+−+−++−
=+
mMMm
MmmMmgh
MmmMmMmMMmM
mMMm
MmMmgh
mMMm
MmMmgh
a
haa
m
ym
ymxm
一方斜面M の運動エネルギーは次のようになる。
( )
( ))]cos'(sinsin][sin)[(
)cos'(sincos
)]cos'(sinsin)][cos'(sinsin)[(
)cos'(sincos
||
2
222
2
2
,
2
,
22
,
2
,
θµθθθθµθθ
θµθθθµθθθµθθ
−++−
=
−+−+−
=⋅==
mMMm
mMgh
mMMm
mMgh
a
ha
MTa
Mv
M
ym
xMxMxM
すなわち、
)]cos'(sinsin[sin)(
)cos'(sincos
2
222
, θµθθθθµθθ
−++−
=mMMm
ghMmv
MxM
187
以上で、問題に対する解答が終わった。
以下では、上の結果の検算を行う。質量mの物体が最初持っていた位置エネルギーが、物体mと斜
面M の持つ運動エネルギーと動摩擦力による仕事量の 3つの和に等しい事を確認する。
物体が水平面と同じ高さになった時に、物体と斜面の持つ運動エネルギーの和は、
( )
)]cos'(sinsin[sin
)cos')(sinsin(
)]cos'(sinsin][sin)[(
)cos')(sinsin)((
}sin){(}sin)()({}sin)({
)}cos(sinsin)({}cos]sin)2([{
}cos]sin)2([{)]cos'(sinsin][sin)[(
)cos'(sin
)]cos'(sinsin][sin)[(
)cos'(sincos
)]cos'(sinsin][sin)[(
)cos'](sinsin)2([
2
2
2222
22222222
2222
222
θµθθθθµθθ
θµθθθθµθθ
θθθ
θθθθθ
θθθµθθθ
θµθθµθθθ
θµθθθµθθθ
θµθθ
−+−+
=
−++−++
=
++=+++=+++=
++++=+++
+++−++
−=
−++−
+−++
−++
mM
mMmgh
mMMm
mMMmmgh
mMMmmMmmMmMmMmMmmMm
MmMmmMmMmMmmMm
MmMmmMmmMMm
gh
mMMm
mMgh
mMMm
MmmMmgh
続いて、大きさ N'µ の動摩擦力による仕事量を求める。高さh、角度θ の斜面を物体が滑るので、物
体が滑る長さは θsin/h となり、動摩擦力による仕事量は、
θθµθθθ
µθ
µsin)cos'(sinsin
cos'
sin'
h
mM
MmghN ⋅
−+=⋅
で与えられる。この考え方の妥当性は、「例題 5で、微積分を用いた保存量の計算」、または「例題 5で
の、ベクトルと微積分による、運動量保存、エネルギー保存の式の導出」を参照のこと。直感的にはこ
れでよいと考えるだろうが、厳密に考えると、納得のいく説明は難しいだろう。
物体が水平面に到達した時点での、物体と斜面がもつ運動エネルギーと動摩擦力の仕事を足せば、物
体が最初持っていた位置エネルギーmghに等しくなるはずである。以下で、確認をする。
mgh
mM
mMmgh
mMmM
mMM
MmM
MmMmM
mgh
h
mM
Mmg
mM
mMmgh
=
−+−+
=
−+=−+=
−++−=
+−+
+−+−+
=
⋅−+
+−+−+
)]cos'(sinsin[sin
)}cos'(sinsin{sin
)}cos'(sinsin{sin)cos'(sinsinsin
)cos'(sinsincos')cos'(sin
cos')cos')(sinsin(
}cos')cos')(sinsin{()]cos'(sinsin[sin
sin)cos'(sinsin
cos'
)]cos'(sinsin[sin
)cos')(sinsin(
2
2
2
2
2
θµθθθθµθθθ
θµθθθθµθθθ
θµθθθµθµθ
θµθµθθ
θµθµθθθµθθθ
θθµθθθ
µθµθθθθµθθ
となり、物体と斜面の持つ運動エネルギーに動摩擦力による仕事を加えた量は、物体mが最初持ってい
た位置エネルギーに等しい。結果から判断すると、動摩擦力による仕事の値は正しかった事になる。
例題 5で、微積分を用いた運動量、力学的エネルギーの計算
微積分を用いて、「物体mと斜面M の持つ力学的エネルギー」と「摩擦による仕事」の和が、時間に
188
よらず一定の値を持つ保存量である事を、以下に示す。
=−−−
=−
=−+
=+−
yM
xM
ym
xm
MaMgfFN
MafF
mamgfN
mafN
,
,
,
,
sin'cos'
cos'sin,
sin'cos
cos'sin
θθ
θθ
θθ
θθ
ここで、dt
dXV
dt
dyv
dt
dxv
dt
dVa
dt
dva
dt
dva m
xm
mm
xx
xMx
ymx
xm ====== ,,,, ,,, および とおけば、
(*)
sincos'
cossin'
sincos'
sincos'
cossin'
sincos'
cos'sin
sin'cos
cos'sin
,
,
,
−−−
=+
=−+
−=−
→
=+
+−=−
−=−
→
=
=−
=−+
=+−
θθµ
θθµ
θθµ
θθµ
θθµ
θθµ
θθ
θθ
θθ
NVNVVdt
dVM
NvNvmgvvdt
dvm
NvNvvdt
dvm
NNdt
dVM
NmgNdt
dvm
NNdt
dvm
NF
MafF
mamgfN
mafN
xxxx
yyyy
y
xxxx
x
y
x
xM
ym
xm
物体mが斜面M を滑り降りるので、物体mと斜面M において、以下の速度の関係式がなりたつ。
)**(---cos)(sin)(tan yxxxxy vVvVvv θθθ =−→−=
(*)の 3つの式を足し合わせて、(**)の関係式(例題 4で、既に説明済み)を右辺に代入すれば、
0)]sin'(cossin[
cos'sin'cos'
=++−=
+−−+++
θµθθ
θµθµθµ
yx
Mmmx
xyy
y
xx
vvN
dt
dXN
dt
dyN
dt
dxNV
dt
dVMmgvv
dt
dvmv
dt
dvm
となる。この式を、さらに変形する。次のような式変形ができる事に注意しよう。
( ) ( ) ( ) ( )dt
XdN
dt
yxdN
dt
dXN
dt
dyN
dt
dxN MmmMmm ,0
sin,cos',
sin,cos)'(cos'sin'cos' ⋅+⋅−=+−− θθµθθµθµθµθµ
この式で ][ ⋅ はベクトルの内積を表わす。 右辺 1 項は、「物体mに加わる動摩擦力と物体mの単位時
間当たりの移動距離との内積」なので、「物体mに対してなされる動摩擦力による単位時間当たりの仕
事」である。力に(-)符号がつくのは、動摩擦力の向きが、物体mの移動方向と逆になっているから
である。右辺 2項は、「斜面M に加わる力と物斜面M の単位時間当たりの移動距離との内積」なので、
「斜面M に対してなされる動摩擦力による単位時間当たりの仕事」である。よって、(*)の 3 つの式
の足し算は、最終的に次のようになる。
( ) ( ) ( ) ( )0
0,sin,cos'
,sin,cos)'(
2)(
2
0cos'sin'cos'
222 =⋅+⋅−+
+++→
=+−−+++
dt
XdN
dt
yxdNmgyV
Mvv
m
dt
d
dt
dXN
dt
dyN
dt
dxNV
dt
dVMmgvv
dt
dvmv
dt
dvm
Mmmmxyx
Mmmx
xyy
y
xx
θθµθθµ
θµθµθµ
すなわち、「物体mと斜面M の持つ力学的エネルギー」と「摩擦による仕事」の和は、時間によらず一
定の値を持つ保存量である。なお、垂直抗力N が時間依存性を持っている場合でも、この関係式は成り
立つ。なぜなら、この一連の式変形では、 N を微分または積分する操作を行っていないからである。
189
ところで、摩擦による仕事は、次のように書き換える事が出来る。
( ) ( ) ( ) ( )
( ) ( ) ( ) ( ) ( )dt
yXxdN
dt
Xd
dt
yxdN
dt
XdN
dt
yxdN
mMmMmm
Mmm
,sin,cos)'(
0,,sin,cos)'(
,0sin,cos'
,sin,cos)'(
−⋅−=
−⋅−=
⋅+⋅−
θθµθθµ
θθµθθµ
ここで( )
dt
yXxd mMm ,− は物体mの斜面M に対する相対速度である。この式の意味は、次の説明を見よ。
例題 5での、ベクトルと微積分による運動量保存と力学的エネルギーの式の導出
運動方程式をベクトルで書くと、次のようになる。なお、垂直抗力N の大きさに一般性を持たせるた
め、 )(tN とおいたが、例題 5ですでに計算したように、 )(tN は定数である。
)()(')()(
),()()(
tftNgMtFdt
tVdMtfgmtN
dt
tvdm Mm
rrrrr
rrrr
+++=++=
ここで )(),( tNtFrr
は、物体mが斜面M を押す力および斜面M が物体mを押す力である。 )(' tNr
は水平
面が斜面M を押す力である。 )(),( tftf Mm
rrは、物体mおよび斜面M に加わる動摩擦力である。2 つの
式を足し算し、例題 4のベクトル・微積分の解法のように、 )(),(),(', tVtvtNgrrrr
をベクトル成分表示する。
作用・反作用の関係から、 0)()(,0)()( =+=+ tftftFtN Mm
rrrrが成り立つので、
( ) ( ) ( ) ( )[ ]
( ) 一定成分:
=+→+=→
+=+−+→+=+→
+=++++++
)()()()(0
)(),()(),()(,0,0)())()(()(
)()()}()(')({)}()({
tMVtmvtMVtmvdt
dx
tvtvMtvtvmdt
dtNgmMtVMtvm
dt
dgmM
dt
tVdM
dt
tvdmtftNgMtFtfgmtN
yxyx
yxyx
Mm
rrr
rrrrrrrrr
となり、物体mと斜面M の間に動摩擦力が働く場合でも、水平方向に関する運動量保存の式を得る。
続いて、力学的エネルギー保存の式の導出を行う。斜面M は水平方向の運動のみを行うので、 )(', tNgrr
は )(tVr
と直交する。 0)()( =+ tNtFrr
に注意して式計算を進める。
+=⋅+⋅+⋅+−⋅→
⋅=⋅+⋅+⋅+⋅
⋅=⋅+⋅+⋅→
==
⋅
+++=
⋅
++=
22 )(2
)(2
)()()()()(
))()(()(
)()(
)()()()(')()()(
)()(
)()()()()(
)()(,
)()(
)()()(')()(
)()()()(
tVM
tvm
dt
dtVtftvtf
dt
txdgmtVtvtN
tVdt
tVdMtVtftVtNtVgMtVtF
tvdt
tvdmtvtftvgmtvtN
dt
tXdtV
dt
txdtv
tVtftNgMtFdt
tVdM
tvtfgmtNdt
tvdm
Mm
M
m
M
m
rrrrrrr
rrrr
rr
rrrrrrrr
rr
rrrrrr
rr
rr
rrrrrr
rrrrr
物体mが斜面を滑るので、相対速度 )()( tVtvrr
− は、斜面M が物体mを押す垂直抗力 )(tNr
に直交する:
0))()(()( =−⋅ tVtvtNrrr
。また、 )()(),()( tVtftvtf Mm
rrrr⋅⋅ は、動摩擦力がそれぞれ物体mおよび斜面M に
対して行う、単位時間当たりの仕事(仕事率)である。この仕事の項を書き換える。そのため、単位ベ
190
クトル )(te Vv−
rを次のように定義する。
=−
≠−−
−
=−
0)()(,0
0)()(,)()(
)()(
)(rrrr
rrrrr
rr
r
tVtv
tVtvtVtv
tVtv
te Vv
この単位ベクトル )(te Vv−
rを用いると、物体mと斜面M の動摩擦力をそれぞれ )(),( tftf Mm
rrとすれば、
)()(')(),()(')( tetNtftetNtf VvMVvm −− +=−=rrrr
µµ
で与えられる。この関係式を用いて、動摩擦力による 2つの仕事率の和 )()()()( tVtftvtf Mm
rrrr⋅+⋅ を式変
形すると、物体mと斜面M との相対速度 )()( tVtvrr
− に関する式になる。
))()(()()(')()()(')()()(')()()()( tVtvtetNtVtetNtvtetNtVtftvtf VvVvVvMm
rrrrrrrrrrr−⋅−=⋅+⋅−=⋅+⋅ −−− µµµ
さて、 ))()(()( tVtvte Vv
rrr−⋅− は、次のように書ける。
dt
tXtxdtVtvtVtv
tVtv
tVtvtVtvte Vv
))()(()()())()((
)()(
)()())()(()(
rrrrrr
rr
rrrrr −
=−=−⋅−
−=−⋅−
これを用いて、さらに式変形すると、動摩擦力による仕事率は、以下のようになる。
dt
tXtxdtNtVtvtNtVtftvtf Mm
))()(()(')()()(')()()()(
rrrrrrrr −
−=−−=⋅+⋅ µµ
この結果を用いると、力学的エネルギーに関する式は、次のようになる。 0))()(()( =−⋅ tVtvtNrrr
に注意。
⋅−+=−
−→
+=−
−⋅+→
+=⋅+⋅+⋅+−⋅
)()(2
)(2
))()(()('
)(2
)(2
))()(()('
)(0
)(2
)(2
)()()()()(
))()(()(
22
22
22
txgmtVM
tvm
dt
d
dt
tXtxdtN
tVM
tvm
dt
d
dt
tXtxdtN
dt
txdgm
tVM
tvm
dt
dtVtftvtf
dt
txdgmtVtvtN Mm
rrrrrr
rrrrr
r
rrrrrrrrrrr
µ
µ
この式が、力学的エネルギーと動摩擦力による仕事との関係を示した式であり、「動摩擦力による仕事
により、物体mと斜面M の力学的エネルギーが減少する」事
を表わす。
さて、 dttXtxd /))()((rr
− は、斜面M から見た物体mの、単
位時間当たりの位置の相対的な変化量、すなわち相対速度を表
わす。物体mは斜面に沿って運動するので、物体mの、単位
時間当たりの斜面上での移動距離を表わす。よって、
dt
tXtxdtN
))()(()('
rr−
µ
は、単位時間あたりの動摩擦力の行う仕事である。注意すべき事は、ここでの垂直抗力 N は、例題 5
で既に計算したように、動かない斜面での垂直抗力 θµ cos'mg と、その大きさが異なる事である。その
違いはあるものの、動摩擦力による仕事は、 N'µ と斜面上での物体mの移動距離との積で与えられる。
なお、 )()( tvtfmrr
⋅ と )()( tVtfMrr
⋅ を独立に計算し、仕事の大きさを求める計算は大変だろう。
)0()0( Xx
rr−
)()( tXtxrr
−
dt
tXtxd ))()((rr
−
191
例題 6 例題 4で、水平面と斜面との間に摩擦がある場合
物体mと斜面M との間には摩擦がないが、斜面M と水平面との間には摩擦が働く。斜面M と水平
面との静止摩擦係数および動摩擦係数を ',µµ とする。この時、斜面をすべる物体mの運動を考える。
(1) 斜面M が動かない条件を求める。(この時は、動かな
い斜面での物体mの運動になる。)
(2) 斜面M が動く場合、物体mと斜面M の、それぞれの加
速度成分と垂直抗力 ',NN を求める。
解説と解答
例題 4、5と同様、きちんと運動方程式を立てて考える事が重要である。
物体m、水平面、および斜面M に働く力は右図のようにな
る。物体mには、重力による力mgが鉛直下方向に働く。また、
斜面M と押し合っているので、作用反作用の力(物体mが斜
面M を押す力と、その反作用としての斜面が物体mを押し返
す垂直抗力 N )が働く。ここで、 NF = である。
斜面M には、重力による力Mg が鉛直下方向に働く。斜面
と平面とが互いに押し合っているので、斜面M が平面を押す
力の大きさ 'F は、水平面が斜面M を押し返す力 'N と等しい。
斜面M が物体mにより力F で押されるので、斜面は右方向に
動こうとする。その時、斜面M と水平面との間に摩擦が生じ
るので、水平面は摩擦力 f により右方向に力を受ける。一方斜
面M は、摩擦力により、左方向に摩擦力 f を受ける。摩擦力
は、状況により、静止摩擦力として、あるいは動摩擦力として
斜面M に力を及ぼす。斜面M が静止するか動くかは、これか
ら考えるべき事である。以上の力を考慮して、物体mおよび斜
面M の運動方程式を立てると、以下のようになる。
=−−
=−
=−
=−
yM
xM
ym
xm
MaMgFN
MafF
mamgN
maN
,
,
,
,
cos'
sin,
cos
sin
θ
θ
θ
θ
(1) ここでは、最初に、斜面M が動かない場合での、力 NF = および 'N の大きさを求める。斜面M が
静止するのは、斜面M に水平方向に加わる力 θsinF と、斜面M に加わる静止摩擦力 f がつりあって
いる場合である。 θsinF が最大静止摩擦力 'Nµ を超えなければ、斜面M は静止したままである。よっ
て斜面M が静止する条件は、 'sin NF µθ ≤ である。これから、静止摩擦係数に関する条件が求まる。
最初に、物体mの運動方程式において、未知数 N を消去し、以下のような加速度間の関係式を得る。
)sincos(sinsin)cos(
cos)sin(
cos
sin,,
,
,
,
,θθθ
θθ
θθ
θ
θymxm
ym
xm
ym
xmaammg
mamgN
maN
mamgN
maN+=−→
×=−
×=−→
=−
=−。
物体mの斜面M に対する相対的な運動の考察から、
)(tan0tan)(tan ,,,,,,,
,,
,,
xMxmymxMxmyMym
xMxm
yMymaaaaaaa
aa
aa−=−→−=−→=
−
−θθθ 。
mg
θ
N
F
Mg F’
N’
f f
F
Mg Fcosθ
Fsinθ N’
mg
Ncosθ
N
Nsinθ
θ
m
M
h
192
を既に得た(可動斜面上での物体の運動と例題 4での解説参照)。これに、斜面M が静止する場合での
加速度の大きさ: 0,, == yMxM aa を代入すると、
θθθ tantan)0(0tan)( ,,,,,,,, xmymxmymxMxmyMym aaaaaaaa =→−=−→−=−
すなわち、 θtan,, xmym aa = をえる。これら 2つの関係式を用いると、
−=
−=→
+⋅=+=−→
+=−→
=
+=−
θ
θθ
θθθ
θθ
θθ
θθθθθ
θθθ
2
,
,22
,
2
,,
,,
,,
,,
sin
cossin
cos
cossin)
cos
sincos(sin
)sintancos(sintan
)sincos(sin
ga
gaaaag
aammgaa
aammg
ym
xm
xmxmxm
xmxm
xmym
ymxm
この結果は、書き直すと以下のようになる。すなわち、滑らかな角度θ の斜面を滑る物体の、斜面に沿
っての加速度 θsing を、水平および鉛直方向に分解している事に他ならない。
−=
θθ
θsin
cossin
,
,g
a
a
ym
xm。
この結果を、物体mの運動方程式に代入すると、以下のように、垂直抗力 )( FN = が求まる。
θθ
θθθ
θ cossin
}cossin{
sinsin ,
, mggmma
NmaN xm
xm =−
−=−=→=− 。
斜面M に加わる垂直抗力 'N は、斜面M の鉛直方向の運動方程式で、 0, =yMa とおいて得られる。
MgmgMgmgMgFNaMaMgFN yMyM +=+=+=→==−− θθθθθ 2
,, coscoscoscos'0:cos' 。
最大静止摩擦力が物体mの押される力の水平成分より大きい条件: θµ sin' FN ≥ から、静止摩擦係
数は、次の条件を満足すればよい。
θθθ
µθθθµθµ2
2
cos
cossinsincos)cos(sin'
mM
mmgMgmgFN
+≥→⋅≥+→≥ 。
(2) 今度は斜面M が動くので、運動方程式において、 ''Nf µ= とおいて計算を実行する。
運動方程式はそれぞれ、
=−−
=−
=−
=−
yM
xM
ym
xm
MaMgFN
MaNF
mamgN
maN
,
,
,
,
cos'
''sin,
cos
sin
θ
µθ
θ
θ
である。最初は、物体mの運動方程式でN を消去し、加速度の間に成り立つ関係式を求める。(1)で行
った計算結果を利用する。
)sincos(sinsin)cos(
cos)sin(
cos
sin,,
,
,
,
,θθθ
θθ
θθ
θ
θymxm
ym
xm
ym
xmaammg
mamgN
maN
mamgN
maN+=−→
×=−
×=−→
=−
=−
物体mの斜面M に対する相対的な運動の考察から、
θθθ tan)(0tan)(tan ,,,,,,,
,,
,,
xMxmymxMxmyMym
xMxm
yMymaaaaaaa
aa
aa−=−→−=−→=
−
−。
の関係式を既に得た。加速度の間の 2つの関係式から、xMym aa ,, , を
xma ,で表わす。
193
θθ
θθθ
θθθ
θθ
θθ
θθ
θθ
θ
θθ
θθθ
θθθθθθ
sin
cos
sin
1
sin
cos
sin
cossin
sin
cos}
sin
cos{
sin
cos
sin
cos)(tan
sin
coscossinsin
0)sincos(sin)sincos(sin
,2,2
22
,
,,,,,,,,,,,
,,,,
,,,,
gagaa
agaaaaaaaaaa
agaaga
aagaammg
xmxmxM
xmxmymxmxMxMxmymxMxmym
xmymxmym
ymxmymxm
+=++
=→
−−−=−=→−=→−=
−−=→−−=→
=++→+=−
すなわち、
θθ
θθθ
sin
cos
sin
1,
sin
cos,2,,, gaaaga xmxMxmym +=−−=
を得る。
次に、 FN = および 'N を xma , を用いて書き表す。 FN = および 'N は、物体mの水平方向および斜
面M の鉛直方向の運動方程式を利用して計算する。
Mgam
MgFNMaMgFN
maNmaN
xmyM
xm
xm
+−=+=→==−−
−=→=−
,,
,
,
sin
coscos'0cos'
sinsin
θθ
θθ
θθ
これらの結果を、斜面M の鉛直方向の運動方程式に代入し、 xma , を求める。
)cos'(sinsin
)sin'(cossin
sin
sin'cos
sin
)cos'(sinsin
sin
1
sin
cos'
sin
cos'
sinsin
cos
sin'
sin
cos'
sin
cos
sin
1
sin
cos'sin
sin''sin
,
,
,2,2,,
,2,
,
,
θµθθθµθθ
θθµθ
θθµθθ
θ
θθ
µθ
θµ
θθθ
θµ
θθ
µ
θθ
θθθ
µθθ
µθ
−++
−=
+−=
−+→
+−=
−+→+=−+−→
+=
+−−⋅−→=−
mM
Mga
MgamM
Mgam
mM
MgaM
Mgam
ma
gaMMgamma
MaNF
xm
xm
xmxmxmxm
xmxm
xm
xM
xma , の値を用いて ',,, ,, NNaa xMymを計算して、以下の結果を得る。
)cos'(sinsin
)cos'(sinsin)(
)cos'(sinsin)(
)cos'(sinsin)cos'(sinsin
)cos'(sinsin)cossin'sin(
)cos'(sinsin]1)sin'(cos[cos
)cos'(sinsin)sin'(coscos
)cos'(sinsin
)cos'(sinsin)sin'(coscos
)cos'(sinsin
)sin'(coscos
)cos'(sinsin
)sin'(cossin
sin
cos
sin
cos
,
2
,,
θµθθθµθθ
θµθθθµθθθµθθ
θµθθθθµθ
θµθθθµθθθµθθθµθθ
θµθθθµθθθµθθ
θµθθθµθθ
θµθθθµθθ
θθ
θθ
−+−+
−=
−+−=
−−−−=
−−+−=
−−−+=
−−−+
−+−−−+
=
−++
+−=−+
+⋅+−=−−=
mM
gmMa
mM
mM
mM
mM
mMM
mM
mMMg
mM
Mgg
mM
Mggaga
ym
xmym
これから、物体mが、静止状態から床に到着するまでの時間 0t は、
))cos'(sinsin)(
)]cos'(sinsin[220
2
1
,
2
0
2
0, θµθθθµθθ
−+−+
=−=→=+gmM
mMh
a
httah
ym
ym
である。
194
)cos'(sinsin
}')cos'(sincos{
)cos'(sinsin
)}cos('cossin{
)cos'(sinsin
)}cos('cossin{sin
sin
)}cos('cossin{sin
}')cos'(sincos{sin
sin')cos'(sinsincos
)sin'(cos)]cos'(sinsin[cos
)cos'(sinsin
)sin'(cos)]cos'(sinsin[cos
sin
sin
cos
)cos'(sinsin
)sin'(cos
sin
1
sin
cos
)cos'(sinsin
)sin'(cossin
sin
1
sin
cos
sin
1
22
,
2
2,2,
θµθθµθµθθ
θµθθθµθθ
θµθθθµθθθ
θ
θµθθθ
µθµθθθθµθµθθθ
θµθθµθθθθµθθ
θµθθµθθθθ
θθ
θµθθθµθ
θ
θθ
θµθθθµθθ
θθθ
θ
−+−−
=
−++−
=−+
+−=
+−=
−−=
−−=
+−−+
−++−−+
=
+−+
+−=
+−+
+−=+=
mM
Mmg
mM
mMmg
mM
mMmga
mMm
Mm
Mm
MmM
mM
MmMg
gmM
Mg
gmM
Mggaa
xM
xmxM
)cos'(sinsin
)sin'(cos
)cos'(sinsin
)sin'(cossin
sinsin
,
θµθθθµθ
θµθθθµθθ
θθ −++
=−+
+=−=
mM
Mmg
mM
MgmmaN
xm
)cos'(sinsin
)('
)cossin'sincos'sin(cos
)}cos'(sinsin{)sin'(coscos
)cos'(sinsin
)sin'(coscos
)cos'(sinsin
)sin'(coscos
)cos'(sinsin
)sin'(cossin
sin
cos
sin
cos'
22
,
θµθθ
θθµθθµθθ
θµθθθµθθθµθθ
θµθθθµθθθµθθ
θµθθθµθθ
θθ
θθ
−++
=
+=−+++=
−+++
+−+
+=+
−++
=
+−+
+=+−=
mM
gmMMN
mMmM
mMm
MgmM
mMgMg
mM
Mmg
MgmM
MgmMga
mN xm
例題 6の補足 1:例題 6で、水平方向の運動量の和が、摩擦力に起因する力積で変化する事を確認する。
運動方程式の水平方向の成分をたすと、 FN = に注意して、
xMxm
xM
xmMamaf
MafF
maN,,
,
,
sin
sin+=−→
=−
=−
θ
θ
となる。摩擦力により、全体の運動量が変化する事がわかる。以下は、計算結果のチェック。
''
'')cos'(sinsin
)('
)cos'(sinsin
)('
)(']}')cos(sin'{
]}')cos'(sincos[)sin'(cossin{
}')cos'(sincos{)sin'(cossin
)cos'(sinsin
}')cos'(sincos{
)cos'(sinsin
)sin'(cossin
,,
,,
22
,,
NMama
NmM
gmMM
mM
MmMmgMama
MmMmgMmMg
MmmMg
MmMgmMg
mM
MmgM
mM
MgmMama
xMxm
xMxm
xMxm
µ
µθµθθ
µθµθθ
µµµθθµ
µθµθθθµθθµθµθθθµθθ
θµθθµθµθθ
θµθθθµθθ
−=+→
−=−+
+⋅−=
−++
−+
+−=−+−=
−−++−=
−−++−
−+−−
+−+
+−=+
=
195
xMx
xmx a
dt
dVa
dt
dv,, , == とおくと、
( ) '''''',, NMVmvdt
dN
dt
dVM
dt
dvmNMama xx
xxxMxm µµµ −=+→−=+→−=+
となり、全体の運動量の水平方向の成分が、水平面との摩擦により変化する事がわかる。
例題 6の補足 2:例題 6での、力学的エネルギーと摩擦による仕事の関係式の導出
補足 1での確認したエネルギーに関する関係式の、等加速度運動での確認を行う。すなわち、物体m
が斜面台M を滑る直前に持っている位置エネルギーmghが、物体mと斜面台M の持つ運動エネルギ
ーと摩擦による仕事に、エネルギーの形を変える事、すなわち以下の式が成り立つ事を示す。
)(2
1
2
1'')(
2
1])()[(
2
1 2
0,
2
0,
2
0,
2
0,
2
0, tamgmghtaNtaMtatam ymxMxMymxm −==⋅+++ µ
もしこの式が成り立てば、次のように変形できる。
0}''{2
1
)(2
1}'')({
2
)(2
1
2
1'')(
2
1])()[(
2
1
,,,,,,,,
2
0
2
0,,
2
,
2
,
2
,
2
0
2
0,
2
0,
2
0,
2
0,
2
0,
=+⋅+⋅+⋅+⋅↔
−=⋅+++↔
−==⋅+++
xMymxMxMymymyxmxm
ymxMxMymxm
ymxMxMymxm
aNamgaMaaamvamat
tamgaNMaaamt
tamgmghtaNtaMtatam
µ
µ
µ
ところで、最後の式が成り立つ事は、補足 2で既に確認した。すなわち、等加速度運動でのエネルギー
に関する関係式は、示された。
物体mの持つ運動エネルギー
( ))cos'(sinsin)cos')(sin(
])cos'(sin)()sin'(cos[sin])()[(
2
1 22222
0,
2
0, θµθθθµθθµθθµθθ
−+−+−+++
=+mMmM
mMMmghtatam ymxm
斜面台M の持つ運動エネルギー
( ))cos'(sinsin)cos'(sinsin)(
}')cos'(sincos{)(
2
1 22
0, θµθθθµθθµθµθθ
−+−+−−
=mMmM
MmMghtaM xM
摩擦による仕事
)]cos'(sinsin)[cos'(sinsin
]')cos'(sincos['
)cos'(sinsin)(
)]cos'(sinsin[2
)cos'(sinsin
}')cos'(sincos{
)cos'(sinsin
)(
2
'
2
1'' 2
0,
θµθθθµθθµθµθθµ
θµθθθµθθ
θµθθµθµθθ
θµθθµ
µ
−+−−−
=
−+−+
⋅−+
−−⋅
−++
=
⋅=
mM
MmMgh
gmM
mMh
mM
Mmg
mM
gmMM
taNW xM
物体mが床に到着した時、物体mと斜面台M が持つ運動エネルギーと摩擦による仕事が、最初物体
mがもっていた位置エネルギーmghに等しい事の、計算による確認。(最初持っていた力学的エネルギ
ーが、幾つかのエネルギーに分かれている事を、計算により確認する。)
}'')({2
}'')(])()[({2
1,
2
,
2
,
2
,
2
0,
2
,
2
,
2
,
2
0 xMxMymxmxMxMymxm aNMaaamt
aNaMaamt ⋅+++=⋅+++ µµ
196
計算を簡単にするため、加速度など既に計算で得られた値から、次の等式が成り立つ事を確認する。
0)''(
0
)('))('()('')'(
)('')}cos(sin')sincoscossin{(
)('}')cos'(sincos{)}sin'(cossin{
)cos'(sinsin
)cos'(sinsin
)('
)cos'(sinsin
}')cos'(sincos{})cos'(sinsin
)sin'(cossin{)''(
:)''(
,,
22
222
,,
,,
=++→
=
+++−=++−−=
++−+−+−=
++−−++−→
−+×
−++
+
−+−−
+−+
+−=++
+=−
NMama
gmMMgMmMgmMMgMmMg
gmMMgMmMg
gmMMMmMgMgm
mM
mM
gmMM
mM
MmgM
mM
MgmNMama
NMama
xMxm
xMxm
xMxm
µ
µµµµµ
µµθθµθθθθ
µµθµθθθµθθθµθθ
θµθθµ
θµθθµθµθθ
θµθθθµθθ
µ
µ
よって、
)sin
cos(
)sin
cos(
sin
cos1sin
)sin
cos(}
sin
cos
sin
cos
sin
1{(
)sin
cos(}
sin
cos
sin
cos
sin
cos)
sin
cos
sin
1{(
)sin
cos()
sin
cos)(
sin
cos()
sin
cos
sin
1(
)sin
cos)(
sin
cos()
sin
cos
sin
1(
)sin
cos)(
sin
cos()
sin
cos
sin
1(
sin
cos
sin
1,
sin
cos
)(
)''(''
)''(
''
}''{2
1}'')({
2
,
,,2
22
,
,,,2,,
,,,2,,
,,,,2,,
,,,2,,
,,,2,,
,2,,,
,,,,,,,,,,,
,,,,
,,,,,,
,,,,,,,
,,,,,,,
2
0,
2
,
2
,
2
,
2
0
θθ
θθ
θθθ
θθ
θθ
θθ
θ
θθ
θθ
θθ
θθ
θθ
θ
θθ
θθ
θθ
θθ
θ
θθ
θθ
θθ
θ
θθ
θθ
θθ
θ
θθ
θθθ
µµ
µ
µ
µµ
xm
xmxmxm
xmxmxmxmxm
xmxmxmxmxm
xmxmxmxmxmxm
xmxmxmxmxm
xmxmxmxmxm
xmxMxmym
ymymxMxmxmxMxmymymxmxm
xMxmxMxm
xMxMymymxmxm
xMxMxMymymxmxm
xMxMxMymymxmxmxMxMymxm
agmg
agmgama
agmgaaama
agmgaggaama
agmgagamgaama
agagmgaama
agagmgaama
gaaaga
amaaamaamaamaama
NMamaNMama
aNMaamaama
aNaMaamaama
aNaMaamaamataNMaaamt
+=
+++−
=
+++−=
++++−−=
++++−−=
−−−−+−−=
−−−−+−−=
+=−−=
+−=−⋅+⋅=
+=−→−=+
++⋅+⋅=
+⋅+⋅+⋅
+⋅+⋅+⋅=⋅+++
これより、運動エネルギーと摩擦による仕事の和は、
)cos'(sinsin)(
)sin'(coscos)]cos'(sinsin[
))cos'(sinsin
)sin'(coscos)]cos'(sinsin[(
)cos'(sinsin)(
)cos'(sinsin
))cos'(sinsin
)sin'(coscos(
)cos'(sinsin)(
)cos'(sinsin
)sin
cos
)cos'(sinsin
)sin'(cossin(
)cos'(sinsin)(
)]cos'(sinsin[2
2
1)
sin
cos(
2
1,
2
0
θµθθθµθθθµθθ
θµθθθµθθθµθθ
θµθθθµθθ
θµθθθµθθ
θµθθθµθθ
θθ
θµθθθµθθ
θµθθθµθθ
θθ
−++−−+
=
−++−−+
⋅−+
−+=
−++
−⋅−+
−+=
−++
−⋅−+−+
=+⋅
mM
MmMmgh
mM
MmMg
gmM
mMmgh
mM
Mgg
gmM
mMmgh
mM
Mggmg
gmM
mMhagmgt xm
197
mgh
mM
mMmMmgh
mM
MmmMmgh
mM
MmMmghagmgt xm
=
−++−+
=
−+−−+−
=
−++−−+
=+⋅
)cos'(sinsin)(
cossin)('sin)(
)cos'(sinsin)(
cossin'cossin'sin)cos1([
)cos'(sinsin)(
)sin'(coscos)]cos'(sinsin[)
sin
cos(
2
1
2
22
,
2
0
θµθθθθµθ
θµθθθθµθθµθθ
θµθθθµθθθµθθ
θθ
となり、物体mが滑り出す前に持っていた位置エネルギーに等しい。
例題 6の補足 3:微積分による、力学的エネルギーと動摩擦力による仕事に成り立つ関係式の導出
==−⋅
=−
=−
→
=−
=−
=−
NFVdt
dVMVNVF
vdt
dvmmgvvN
vdt
dvmvN
MaNF
mamgN
maN
y
y
yy
xx
x
xM
ym
xm
,''sin
cos
sin
''sin
cos
sin
,
,
,
µθ
θ
θ
µθ
θ
θ
これら 3つの式の足し算を行う:
NFVM
vvm
dt
dvVvNVNmgv
VM
vvm
dt
dVNVFvNvNmgv
Vdt
dVMv
dt
dvmv
dt
dvmVNVFmgvvNvN
yxyxy
yxyxy
y
y
xx
yyx
=
++=−−−−−
++=−⋅++−−
++=−⋅+−+−
,2
)(2
]cos)([sin}''{
2)(
2''sincossin
}''sin{}cos{sin
222
222
θθµ
µθθθ
µθθθ
。
ところで、物体mが斜面M を滑り降りるので、物体mと斜面M において、以下のような速度に関す
る関係式がなりたつ。(斜面M に沿った物体mの微小変位やその時間変化(速度)を考えればよい。)
θθθ cossin)(tan)( yxxxxy vVvVvv =−→−= 。
この関係式を代入し、x
My
m Vdt
dXv
dt
dy== , とおけば(常に 0=yV に注意)、
0''2
)(22
)(2
0'' 222222 =++
++→
++=⋅−−−dt
dXN
dt
dymgV
Mvv
m
dt
dV
Mvv
m
dt
dNVNmgv Mm
xyxxyxxy µµ 、
すなわち、
0''2
)(2
222 =+
+++dt
dXNmgyV
Mvv
m
dt
d Mmxyx µ
をえる。この式は、「物体mと斜面M の持つ運動エネルギーと物体mの持つ位置エネルギー」の単位
時間当たりの変化量と、「動摩擦力が斜面M にする仕事」の単位時間当たりの量の、2 つの量の和が時
間的に一定である事を示す。動摩擦力による仕事で、力学的エネルギーが失われると理解してもよい。
さて、力学的エネルギーの関係式を導出する際に得られた、以下の式に注目する。
198
NFVdt
dVMv
dt
dvmv
dt
dvmVNVFmgvvNvN y
y
xx
yyx =++=−⋅+−+− ,}''sin{}cos{sin µθθθ
ここで、 θθθ cossin)(tan)( yxxxxy vVvVvv =−→−= を代入し、
0''
00}''{
=++++→
=++=⋅−−−
VNmgvVdt
dVMv
dt
dvmv
dt
dvm
Vdt
dVMv
dt
dvmv
dt
dvmNVNmgv
yy
y
xx
y
y
xx
y
µ
µ
を得る。
補足:等加速度運動では、以下のようになるはずである。
0''
0''
0,0,0,,0,,0,, =+⋅+⋅+⋅+⋅→
=++++
taNtamgtaMataamvtama
VNmgvVdt
dVMv
dt
dvmv
dt
dvm
xMymxMxMymymyxmxm
yy
y
xx
µ
µ
計算により確認しよう。
}''{
''
,,,,,,,,0
0,0,0,,0,,0,,
xMymxMxMymymyxmxm
xMymxMxMymymyxmxm
aNamgaMaaamvamat
taNtamgtaMataamvtama
µ
µ
+⋅+⋅+⋅+⋅=
+⋅+⋅+⋅+⋅
さらに }{ ⋅⋅⋅ の中の計算。既に得られた関係式を代入し、計算を楽にする。
0
sin
cos1sin}
sin
cos
sin
cos
sin
1{(
}sin
cos
sin
cos
sin
cos)
sin
cos
sin
1{(
)sin
cos)(
sin
cos()
sin
cos
sin
1(
)sin
cos)(
sin
cos()
sin
cos
sin
1(
sin
cos
sin
1,
sin
cos
)()(
)''(''
)''(
''
,2
22
,,,2,,
,,2,,
,,,2,,
,,,2,,
,2,,,
,,,,,,,,,,,,
,,,,
,,,,,,,
,,,,,,,,
=
+−=+−=
++−−=
−−−+−−=
−−+−−+−−=
+=−−=
++−=−⋅+⋅+⋅=
+=−→−=+
++⋅+⋅+⋅=
+⋅+⋅+⋅+⋅
xmxmxmxmxmxm
xmxmxmxm
xmxmxmxmxm
xmxmxmxmxm
xmxMxmym
ymymxMxmxmxMxmymymymxmxm
xMxmxMxm
xMxMymymymxmxm
xMymxMxMymymxmxm
amaaaama
aggaama
agamgaama
aggagmgaama
gaaaga
agamaamaamaamgamaama
NMamaNMama
aNMaamgamaama
aNamgaMaamaama
θθθ
θθ
θθ
θ
θθ
θθ
θθ
θθ
θ
θθ
θθ
θθ
θ
θθ
θθ
θθ
θ
θθ
θθθ
µµ
µ
µ
よって、ゼロになっている事が確認できた。これより、等加速度運動の場合、
0''
0''
0,0,0,,0,,0,, =+⋅+⋅+⋅+⋅→
=++++
taNtamgtaMataamvtama
VNmgvVdt
dVMv
dt
dvmv
dt
dvm
xMymxMxMymymyxmxm
yy
y
xx
µ
µ
が成立する。
199
例題 7 「水平面上を摩擦なく動くばねと連結した斜面」上での物体の運動
図のように、角度θ の傾斜面を持つ質量M の斜面(これ
以降、斜面M とよぶ)が水平面上にある。斜面と水平面と
の間に摩擦はない。斜面M は、重さの無視できるばね定数
kの十分長いばねを介して、動かない壁とつながっている。
ばねは、最初は自然長の長さの状態である。
水平面から見て高さhの斜面上に、質量mの物体(これ
以降、物体mとよぶ)を静かに置く(初速度=ゼロである。)。物体mと斜面M の間には、摩擦力は働
かないとする。以後の運動では、物体mと斜面M は、互いに接触したままとしよう。物体mは、斜面
に沿って、摩擦なしに滑らかに左下方向に滑りはじめる。と同時に、斜面も水平面上を右方向に滑り始
めるだろう。ただし、斜面M はばねとつながっているため、その後のそれらの運動は、単純ではない。
斜面が移動する右方向を水平方向の正の方向、鉛直の上方向を鉛直方向の正の方向にとる。また、あ
る時刻においてばねが縮んだ長さ(斜面の、右方向への移動量)を )(tX とする。この定義から、 0)( <tX
なら、ばねは伸びている。
物体mの水平面に対する加速度の水平成分、鉛直成分をそれぞれ、 ymxm aa ,, , とし、斜面M の水平面
に対する加速度を xMa , とする。斜面M は、水平面に乗ったままの運動であり、鉛直方向には移動しな
いので、鉛直方向の加速度=ゼロである。物体mが斜面M を押す力をF 、物体mが斜面M から受け
る垂直抗力をN 、斜面M が水平面を押す力を 'F 、斜面M が水平面から受ける垂直抗力を 'N 、重力加
速度を gとして、以下の問いに答えよ。( 2/0 πθ << とする。) ただし、物体mが水平面の高さにな
るまで、物体mと斜面M は接触したままで運動するとする。
(1) 物体mおよび斜面M の運動方程式を書け。
(2) ymxm aa ,, , および xMa , を、 )(,,,, tXgMm θ を用いて表せ。
(3) 垂直抗力N を θ,,, gMm を用いて表せ。
解説と解答
物体m、水平面、および斜面M に働く力は右図のように
なる。
物体mには、まず重力による力mgが、鉛直下方向に働く。
また、斜面M と押し合っているので、作用反作用の力が働
く。物体mが斜面M を押す力の大きさをF とし、斜面M が
物体 m を押し返す反作用の力の大きさを N とすれば、
NF = が成り立つ。
斜面M には、重力による力Mg が鉛直下方向に働く。ば
ねが長さ X だけ縮んでいるとすれば、ばねに押し返されて左
方向に )(tkXf = の大きさの力を受ける。最後に、斜面と平
面とが互いに押し合っているので、斜面M が平面を押す力
の大きさ 'F は、水平面が斜面M を押し返す力 'N と等しい。
(1) 以上の力を考慮して、物体mおよび斜面M の運動方程式を立てると、以下のようになる。(今回は
動摩擦力が働かないので、水平面が斜面M を押し返す垂直抗力の大きさ 'N を計算する必要がない。)
θ
m
M h
mg
θ
N
F
Mg
F’
N’
f
F
Mg Fcosθ
Fsinθ
N’ f
mg
Ncosθ
N
Nsinθ
200
==−−
−=
+−=
−=
)0(,cos'
)(sin,
cos
sin
,,
,
,
,
yMyM
xM
ym
xm
aMaMgFN
tkXFMa
Nmgma
Nma
θ
θ
θ
θ
(2) 水平方向では、物体mと斜面M の運動方程式を足す事で、
)(
)()(0)(sinsin)(
,,
,,,,
tXM
ka
M
ma
tkXMamatkXtkXFNMama
xmxM
xMxmxMxx
−−=→
−=+→−=−+−=+ θθ
となる。物体mは、斜面の斜面にそって運動するので、斜面からみ
た物体の相対的な加速度は、
θθθθ
tan)(tancos
sin0,,,
,,
,
xMxmym
xMxm
ymaaa
aa
a−=→=
−−
=−
−。
これから、 yma , は次のようになる。
θθθθ
tan)(tantan))(()(
tan)(
,,,,
,,
,,,
tXM
ka
M
MmtX
M
ka
M
maa
tXM
ka
M
ma
aaa
xmxmxmym
xmxM
xMxmym
++
=++=→
−−=
−=
次に、物体mの運動方程式で NF = を消去し、 ymxm aa ,, , の間の関係式を得る。
0sin)(cos
0sincoscossinsin)(cos
sincossin)(
cossincos
cos
sin
cos
sin
,,
,,
,
,
,
,
,
,
=++→
=+−=++→
=+
−=→
=+
−=→
+−=
−=
θθ
θθθθθθ
θθθ
θθθ
θ
θ
θ
θ
gaa
NNmgmama
Nmgma
Nma
Nmgma
Nma
Nmgma
Nma
ymxm
ymxm
ym
xm
ym
xm
ym
xm
以上から、以下のような加速度に関する関係式を得る。
0sin)(cos,tan)(tan),( ,,,,,, =++++
=−−= θθθθ gaatXM
ka
M
MmatX
M
ka
M
ma ymxmxmymxmxM
。
これから、3つの加速度 ymxMxm aaa ,,, ,, を求める。
θθ
θθθ
θθθθ
θθθ
θθ
θθ
θθθ
θθ
θθθθθ
θθθθ
sinsin
sin)(cos
)(sin
sin
sin
cossinsintan)(
sin
cossin
sin
cos
sin)tan)((cos
sin)(cos
0sin)tan)((sintancos
0sin)tan)(tan(cos
2
2
2
222,
,
22
,
,,
mM
tkXMg
tXmM
k
mM
MgtX
M
k
mM
Mg
mM
Ma
tXM
kga
M
MmM
gtXM
ka
M
Mm
gtXM
ka
M
Mma
xm
xm
xm
xmxm
++
−=
+−
+−=⋅
+−⋅
+−=
+−=++
→
=+++
++→
=+++
+
)(sinsin
cossin
)(sinsin
cossin)(
sin
)sin(sinsin
)sin(
sin]cos[
)()sin(
sin]sin)(cos[)(
22
222
2
2
2,,
tXmM
k
mM
mg
tXmM
M
M
k
mM
mgtX
mM
mMm
M
k
mMM
Mgm
tXM
k
mMM
tkXMgmtX
M
ka
M
ma xmxM
θθθθ
θθθθ
θθθθ
θθθ
θθθθ
+−
+=
+−
++
=+
+−+
+=
−+
+=−−=
-sinθ
-cosθ
201
すなわち、以下のような式をえる。これは、単振動の式である。(例題 7の補足 1を参照)
−+
−==k
mgtX
mM
k
dt
tXda xM
θθθ
cossin)(
sin
)(22
2
,
注意:k
mgtXtQ
θθ cossin)()( −≡ とおけば、 )(
sin
)(22
2
tQmM
k
dt
tQd
θ+−= (単振動の式)になる。
θθθθ
θθθ
θθ
θθ
θθ
θ
θθ
θθθθ
θ
θθ
θθθ
θ
θθθ
θθ
θθθ
θθθθ
θθ
θθθθ
θθθ
2
2
22
2
2
2
2
2
2
222
2
2
2
22
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
,,,
sin
cossin)(sin)(
)(sin
cossin
sin
sin)()(tan
sin
cos
sin
sin)(
)(tansin
sinsin)sin1(
sin
sin)(
tan)(sin
sin)(sin
sin
sin)(
tan)(]1sin
sin)([
sin
sin)(
tan)(])sin(
sin)([tan
sin
cossin
tan)()](sin
sin
sin
cossin[
tan)(tan)(tan
mM
tkXgmM
tXmM
k
mM
gmMtX
mM
M
M
k
mM
gmM
tXmM
mmM
M
k
mM
gmM
tXmM
mMmM
M
k
mM
gmM
tXmM
mM
M
k
mM
gmM
tXM
k
mMM
kmM
mM
Mg
M
Mm
tXM
ktX
mM
k
mM
Mg
M
Mm
tXM
ka
M
MmtX
M
ka
M
Mma xmxmym
+++−
=
++
++
−=⋅+
++
+−=
⋅+
−+−+
++
−=
++−+
++
+−=
+++
−++
+−=
++
+−+
++
−=
+
++
++
−=
++
=++
=
(3) 垂直抗力N (ついでに 'N も)を求める。
θθθ
θθθθθθθθθθ
θθθθ
θθ
θθθ
θθ
θθθθ
θ
2
222
2
22
,
,
sin
cossin)('
cossin)(
cossin)()sin(cos)sin(]sin)(cos[cos
sin
]sin)(cos[coscos'0cos'
sin
]sin)(cos[sin
sin
sin)(cos
sinsin
sin
mM
tmkXMmgN
tmkXMmg
tmkXMmgmMMgtkXMgm
MgmM
tkXMgmMgFNMgFN
mM
tkXMgm
mM
tkXMgmmaN
Nma
xm
xm
++
=
+=
++=+++
++
+=+=→=−−
++
=+
+=−=
−=
以上で、問題に対する解答は終わりである。
例題 7の補足 1:以下では、物体mが斜面M から離れずに運動する時の、運動の詳細を議論する。
最初に、物体mが斜面M から離れずに運動する条件を求める。 0>N であれば、物体mと斜面M が
離れない(互いに押し合う。)。 0>N となるために )(tX が満足すべき条件は、以下のように求まる。
θθ
θθθ
θθsin
cos)(0sin)(cos0
sin
]sin)(cos[2 k
MgtXtkXMg
mM
tkXMgmN −>→>+→>
++
=
よって、条件 )sin/(cos)( θθ kMgtX −> が満足されれば、物体mは斜面M と離れることはない。
そこで、本問題の設定(ばねの長さが自然長で、物体mが初速度=ゼロで滑り出す)で、物体mと
202
斜面M が離れる事なく単振動をするかどうか、調べる。具体的には、斜面M の運動( )(tX のとる値)
を調べる。単振動をした場合に )(tX がとる値が上の条件式( 0>N を満足する )(tX )内に収まれば、
物体mと斜面M が離れる事なく単振動を行う。なお、物体mが斜面M とくっついて運動をすると仮
定(運動方程式は、その仮定の元に得られた。)した場合、斜面M が単振動の運動方程式を満足する事
は確認済み。
斜面M の座標の水平成分 )(tX の運動方程式に対して次の式変形を行えば、斜面M の水平方向の運
動は単振動の式になる。
)(sin
)(
cossin)()(
cossin)(
sin
)(
22
22,2
2
tQmM
k
dt
tQd
k
mgtXtQ
k
mgtX
mM
ka
dt
tXdxM
θθθ
θθθ
+−=→
−≡
−+
−==
さて、初期条件: 0=t で 0)0( =X なので、物体mと斜面M が接したままで単振動を伴う運動をす
る(注意:運動方程式は、物体mと斜面M が接しているとして導いた。これが成立しないなら、上の
運動方程式は、物体の運動を正しく表わしていない事になる。)のなら、単振動の振幅を 0A として、
k
mgA
θθ cossin0 =
である。(斜面M の振動の中心位置から振幅 0A だけ離れ、その時の速度=ゼロということ。)
くどいようだが、ここで得られた単振動の振幅の大きさは、「物体mと斜面M が接したまま運動する」
という条件(仮定)で得られた振幅の大きさである。斜面M が単振動をする場合、 )(tX の取る値の範
囲は、斜面M が振動の中心から 0A± まで移動する事から、
02cossin2
)(0cossincossin
)(cossin
Ak
mgtX
k
mg
k
mgtX
k
mg≡≤≤→≤−≤−
θθθθθθθθ
である。これで斜面M の水平方向に運動する範囲( )(tX がとる値の範囲)が求まった。
さて、「物体mが斜面M から離れることなく運動を行う」ための条件(垂直抗力 0>N )から、われ
われは )(tX が満足すべき範囲として、
θθ
sin
cos)(
k
MgtX −>
を既に導いた。一方で斜面M が初速度=ゼロの単振動をする場合、斜面M が取りうる位置の範囲とし
て 02)(0 AtX ≤≤ が先ほど得られた。この範囲: 02)(0 AtX ≤≤ は、 )sin/(cos)( θθ kMgtX −> を満足
する。よって、「物体mは斜面M から離れることなく運動を行う」事が示せた。
例題 7 の補足 2:以下では、 )(tX の形が具体的に求め、微積分を用いて、さらに )(),( tytx を求める
手順を示す。
斜面M の水平方向の運動は、 0)0(
,0)0(;cossin
,sin
02
2 ===+
=dt
dXX
k
mgX
mM
kMm
θθθ
ω とおけば、
+−=→−=−→
−−=
−+
−==
tmM
k
k
mgtXtXXtX
XtXk
mgtX
mM
ka
dt
tXd
Mm
MmxM
θθθ
ω
ωθθ
θ
200
0
2
2,2
2
sincos1
cossin)()cos()(
))((cossin
)(sin
)(
203
で与えられる。
物体mの位置座標を ))(),(( tytx とすれば、
∫ ∫∫
∫∫
+−
+−=+=
+−
+−=
+−
+−=→
+−
+−==
t tt
tt
xm
dtdttXmM
kt
mM
Mgdt
dt
tdxxtx
dttXmM
kt
mM
MgdttX
mM
kt
mM
Mg
dt
dx
dt
tdx
tXmM
k
mM
Mga
dt
txd
0
'
0
2
22
2
0
0
2
2
2
0
2
2
2
2
2
2,2
2
']")"([sin
sin
)sin(2
cossin0'
)'()0()(
')'(sin
sin
sin
cossin0')'(
sin
sin
sin
cossin)0()(
)(sin
sin
sin
cossin)(
θθ
θθθ
θθ
θθθ
θθ
θθθ
θθ
θθθ
。
この式を最後まで時間積分すれば分かるように、 )(tx 方向の運動は、等加速度運動と単振動との合成(足
し算)された運動である。同様にして )(ty は、
∫ ∫∫
∫
++
++
−=+=→
++
++
−=→
++
++
−==
t tt
t
ym
dtdttXmM
kt
mM
gmMydt
dt
tdyyty
dttXmM
kt
mM
gmM
dt
dy
dt
tdy
tXmM
k
mM
gmMa
dt
tyd
0
'
0
2
2
2
2
0
0
22
2
22
2
,2
2
']")"([sin
cossin
)sin(2
sin)()0('
)'()0()(
')'(sin
cossin
sin
sin)()0()(
)(sin
cossin
sin
sin)()(
θθθ
θθ
θθθ
θθ
θθθ
θθ
となる。よって )(ty 方向の運動も、等加速度運動と単振動との合成(足し算)された運動である。
最後に、 )(tX の積分は、以下の式で与えられる。
]1)cos(
2
1[']")"([],
)sin([')]'cos(1[')'(
2
2
0
0
'
0
0
0
0
0 Mm
Mm
t t
Mm
Mm
t
Mm
tt
tXdtdttXt
tXdttXdttXωω
ωω
ω−
+=−=−= ∫ ∫∫∫
このように、 )(tX を 2 階時間積分した式の時間依存性は、等加速度運動と単振動との合成(足し算)
である。
例題 7の補足 3 例題 7での、微積分を用いた力学的エネルギーおよび運動量の保存式の導出
以下の力学的エネルギー保存の式は、物体mと斜面M が接触していると仮定して導いた。
−=−=−=
+−=
−=
→
=→=
−=
+−=
−=
→−=
−=
+−=
−=
2
2
2
,
,
,
)(2
sin)(
)(sin)(sin
cos
sin
)()()()(
)(sin
cos
sin
)(,
sin
cos
sin
tXk
dt
dFV
dt
tdXtkXFVVtkXFVV
dt
dVM
Nvmgvvdt
dvm
Nvvdt
dvm
dt
tXd
dt
tdV
dt
tdXtV
tkXFdt
dVM
Nmgdt
dvm
Ndt
dvm
tkXf
fFMa
Nmgma
Nma
xxxxxx
yyy
y
xxx
xx
x
y
x
xM
ym
xm
θθθ
θ
θ
θ
θ
θ
θ
θ
θ
204
3つの式を足せば、 ym vdt
dy= とおき、
]cossin)([)(22
)(2
)(2
sin}cos{sin
2222
2
θθ
θθθ
yxxm
xyx
xyyxxx
y
y
xx
vVvNdt
dymgtX
kV
Mvv
m
dt
d
tXk
dt
dFVNvmgvNvV
dt
dVMv
dt
dvmv
dt
dvm
+−−+−=
+++
−++−+−=++
。
ところで、物体mが斜面M を滑り降りるので、以下のような速度に関する関係式がなりたつ。
θθθ cossin)(tan0
yxx
xx
yvVv
Vv
v=−→=
−
−。
この関係式を代入すれば、
0)(2
)(2
)(2
0)(22
)(2
22222222 =
++++→+−=
+++ tXk
tmgyVM
vvm
dt
d
dt
dymgtX
kV
Mvv
m
dt
dmxyx
mxyx
。
よって、「物体mと斜面M の運動エネルギーと物体mの位置エネルギー、およびばねの持つ弾性エネ
ルギーの和」は時間によらず一定であるという、力学的エネルギー保存の式が導かれた。
水平方向の運動量は、 NF = に注意すれば、物体mと斜面M の水平方向の運動方程式を足す事で、
( ) dttkXtMVtmvdtkXMVmvdt
dxkX
dt
dVM
dt
dvm
tkXtkXFNMamatkXFMa
Nma
xxxxxx
xMxm
xM
xm
)())()((:)()(
)()}(sin{sin)(sin
sin,,
,
,
−=+−=+→−=+→
−=−+−=+→
−=
−=
θθθ
θ
となる。斜面台M に水平方向に働く力積 dttkX )(− (ばねによる力に起因する)によって、物体mと
斜面台M の水平方向の運動量の和が変化する事が分かる。つまり、
dttkXtMVtmvd xx )())()(( −=+
において、左辺は「運動量の和の微小な変化」であり、右辺は「ばねによる力 )(tkX− と微少な時間 dt
との積=力積」である。運動量の和の微小な変化が、微小な時間dtでの力積により生じる事を示す。
鉛直方向の運動量は、斜面M が水平面と接触したままなので、物体mのみを考慮すればよい。運動
方程式は、以下のとおり。
θθθ
θθ
θθ
θθθ
sin
cossin)(
sin
cos
cossin
]sin)(cos[cos
)(
22
2
22
2
,
mM
tmkX
mM
Mmgmg
mM
tkXMgmmgNmg
dt
tydmma ym
++
++−=
++
+−=+−==
鉛直方向には、重力加速度による力以外に、斜面との作用・反作用の力である垂直抗力の鉛直成分(右
辺第 2項)が加わる。さらにばねの振動によって垂直抗力が変化するので、その寄与が右辺最後の項で
表わされる。