〈形態論〉から《形態素論〉へ - osaka city...

34
人文研究大阪市立大学丈学部 -1 〈形態論〉から 《形態素論〉へ ルイ イェルムスレウの用語法の語会論的アプローチ 0) L l st / 古典的二-語学, およびそれにつづく批判的言語学は, 専門用語 (tern1es t echniq u es)を一一それも ,多くのばか、それを創出したとたんに一一歪曲し て,その結果,精密理論においては使用不能の代物にしてしまった。伝統的な 用調にとだわるというととは,理解を J [iみつつ、けるととを宏、味する。だからこ • • そ,われわれは言理素論 (glossemalique) という用語を提唱して,経験的であ ると同時に演綜的な言語学をさししめすととにしたのである。 (Hjelmslev 1939 p. 133) 1) o. 研究の目的と方法 ζ の 論 文 の 目 的 は , デンマークの言語学者ノレイ ・イェノレムスレウ (Louis Hjelmslev 1899-1965) の言語理命において, r 形態論 J (morphologie) いう用誌が「形態素論J (morphematique) という用語にいかにして置きか えられたか,そのプロセスを切らかにする乙とにある。ただし,われわれは, それを「形態命的構造J ((Lastructuremorphologique)) と題された 1939 年のーテクス卜に限定しておこなう乙とにした。なぜなら,乙の問題にエピ ステモロジックな観点からアプローチすることは,乙乙でのわれわれの目的 ではないからである。乙の研究は,あくまでも用語法 (terminologie) の分 析をつうじて理論の理解にせまろうという,語設論的アプロ ーチの誠みであ る。つまり,それは,問題となる用誌の働き (fonctionnement) とそれを めぐる若者の手続き (demarche) を, 限定されたひとつのディスクーノレの 内部において茶摘する乙とだけを眼 IJ としているのである 2) もし人がわれわれの試みをイェノレムス レウ自身の理論体系(=グロセマテ ィック〉との関述で位置づけようとするならば,それを一種の「メタ記号学 J 的実践として規定する乙とも可能かもしれない (C f. Hjelmslev 1943b (313 )

Upload: others

Post on 21-Feb-2021

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

人文研究大阪市立大学丈学部第 41 巻第 6 分間1989年 1~34

- 1ー

〈形態論〉から 《形態素論〉へ

ルイ ・イ ェ ル ム ス レ ウ の用語法の語会論的アプローチ0)

ムL 健 一l

st』/

古典的二-語学, およびそれにつづく批判的言語学は, 専門用語 (tern1es

t echniq u es)を一一それも,多くのばか、それを創出したとたんに一一歪曲し

て,その結果,精密理論においては使用不能の代物にしてしまった。伝統的な

用調にとだわるというととは,理解をJ[iみつつ、けるととを宏、味する。だからこ• • • •

そ,われわれは言理素論 (glossemalique)という用語を提唱して,経験的であ

ると同時に演綜的な言語学をさししめすととにしたのである。

(Hjelmslev 1939, p. 133) 1)

o. 研究の目的と方法

ζ の論文の目的は,デンマークの言語学者ノレイ ・イェノレムスレウ (Louis

Hjelmslev, 1899-1965)の言語理命において, r形態論J(morphologie) と

いう用誌が「形態素論J(morphematique) という用語にいかにして置きか

えられたか,そのプロセスを切らかにする乙とにある。ただし ,われわれは,

それを「形態命的構造J(((La structure morphologique))) と題された1939

年のーテクス卜に限定しておこなう乙とにした。なぜなら, 乙の問題にエピ

ステモロジックな観点からアプローチすることは, 乙乙でのわれわれの目的

ではないからである。乙の研究は,あくまでも用語法 (terminologie) の分• • • • • • • • •

析をつうじて理論の理解にせまろうという,語設論的アプロ ーチの誠みであ

る。つまり,それは,問題となる用誌の働き (fonctionnement) とそれを

めぐる若者の手続き (demarche) を,限定されたひとつのディスクーノレの

内部において茶摘する乙とだけを眼IJとしているのである2)。

もし人がわれわれの試みをイェノレムス レウ自身の理論体系(=グロセマテ

ィック〉との関述で位置づけようとするならば,それを一種の「メタ記号学J的実践として規定する乙とも可能かもしれない (Cf.Hjelmslev 1943b,

(313 )

Page 2: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

-2-

Ch.22)。しかしながら ,乙乙ではグロセマティックの方法が忠実に応用され

るわけではないし,そもそもわれわれが乙乙で用いる用語法自体, Iテクス

ト」といい「用語法Jといい 「メタ言語」といい「語象論」と いい,イェ

ノレムスレウのそれから完全に独立しているわけではないものの,それとまっ

たく同一であるわけでもない。乙のあたりのずれをなん とか調整しようとす

れば, 自己言及のやっかいな民におちいる乙とは避けえないだろうから,と

りあえずはポジティヴな態度で分桁lζ向かったほうがはるかに生産的ではな

いか,とわれわれは考える。

では,なぜイェノレムスレウという著者をとりあげるのか。第ーには, w構

造言語学』にかんするすぐれた解説舎の著者も明言しているように, 下強固

な怠定、をもって形式を特権化し,理論の内的整合性と明示的性格が線源的な

科学的要請である乙とを執劫なまでに主張する 乙とによって,かれは,その

極端なと乙ろまでふくめて構造主義の運動を体現しているように思われる」

(Corneil1e 1976, p. 14)からである。 乙の意味で,イ ェノレムスレウは,20世

紀の言語学史,とりわけソシューノレ以降の構造言語学の歴史に興味をもつわ

れわれにとって,もっとも関心をひく言語学者のひとりであり,ほかのと乙

ろでも認識論的 ・思想史的研究を乙乙ろみている3)。第こには,イェノレムス

レウが,科学的用語法の研究という観点からみても,と りわけ興味深い,い

わば特権的な対象であるように思われるからだ。 というのも,かれはほかの

言語理論家にもまして臼分自身の手続き,と くに用語法の体系性 ・整合性に

たいして怠識的 ・自覚的だからであり,乙の乙とは冒頭に引用したエピグラ

フからもうかがい知ることのできるとおりである。また,かれは,根本的に

新しい理論を創設する という芯,志にもとづいて,言語学にもっ とも多くの新

詑 (neologismes)をも たらしたひとりでもある。だから,科学的用語法や

新訟の形成過程に興味をもっ訟政治学者に とって,イェノレムスレウのテクス

トはきわめて刺激的なフィーノレドであるはずだ。

では,なぜ「形態論的椛造」 という冶文をコーパスとして選択したのかと

いえば,第ーに,乙のテクストは比較的短く (26ページ), そのディスクー

ノレ全体を詳細にわたって分析する乙とがそう困難ではない,という乙とがあ

る。第二に,と のテクストは,1939作という時j切における イェルムスレウの言。

拓郎論のもっとも体系的でfi11r{)な械的を しめしている,という乙ともあげら

れる。われわれがとの年代の問題を無視できないのは,それがまさに月j務訟

の!日Hillとも無関係ではないからである。 とのテクストは, 1935年頃のグロセ

( 314)

...

-・

...

Page 3: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

〈形態論〉からく形態素論〉へ - 3ー

マティックの誕生.1)と1943年におけるその一一イェノレムス レウ自身にとっ て

はあくまでも瞥定的なものにすぎない とはいえ一一集大成 (W.一品理論序説』

および『i3諾理論の レ ジュメ~) とのちょうど中間段階に位置している。 し

たがっ・し「形態論的構造」において, われわれは, 新理論としてのグロセ

マティックが,それ以前の言語・学 ・文法学の}lJ語法=概念、体系の全市i的λitiし

をつうじて,まさに構築され,絞りあげられつつある現以に立ち会うことに

なるのであるの。

われわれは,イェノレムスレウとグロセマティックの理論的発展を23識しつ

つも,それをとりあえず括弧にいれて,特定のデ ィスク ーノレ内部での用語訟

の働き, とりわけがf語法 (neologie) の創込-フロセスを t記述することをここ

での眼目とする。ょうするに,われわれのとっ た方法は,<ディスク ーノレの

uE説諭>とでも名づけうるものである。 r:rrr訂.i は , まず発話行,fbの顕~~とし

てあらわれるJ(Guilbert 1975, p.47)以上,また「新訟の創造は,あるj必

iliiにおいてそれを作りだす請者の人絡,およ「それが生みだす発話と切り離

しえないJ(Ibid., p.59)以上, このようなわれわれの万むとはじゅうふんに

正当化されるのではなかろうか。

ところで,フランス認で告かれたテクス トの用語法をあつかうのに,なぜ

JH訴にいちいち日本話の訳認をあたえ,それをも考察の対裂にするのか, と

疑問をもつむきもあるかもしれない。後にもみるように,イェノレムスレウの

ud331論は,純粋に仮説演緯的 (hypothetico-deductif)であることを志向

し,そのために用話法も先限lζ整合的で,個々の別語が完全に明示的 ・一義

的であることをめざしている。だとすれば, か~1の 'lJ語法は-1~1 然言52J4の f!ilj-・・

約をまぬがれ,あらゆる三穏に翻訳可能といういー的な科学的メタ言認-の性

怖を必然、的にもたなければなるまい6)。だから,イェノレムスレウの用語は,

かれがメ夕立;??として使用したヨーロッパの諸言語(フランス認,デンマー

ク話,英活など)とは構造的にも伝統的にも異なる日 仏 jにも原理的には翻

訳されうるはずだし,それに耐えうるかどうかということが,グロセマティ

ックのお価を決定するうえでのひ とつの尺皮になるのではないだろうか。乙

乙で確認しておきたいのは,われわれの研究対象が,ある特定言活(フラン-・

スi活〉のl活設 (lexique)のなかで練りあげられつつも,その制約をこえて普-・・

i函的たろうとする用語法 (tern1I1701ogie) にほかならない, という 乙とであ

ぷ (C:f..Rey 1979, pp.42-51)。

(引5)

Page 4: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

- 4ー

1. 分析の手順

新しい言語理論,とりわけ乙乙で問題になっている「形態系J(morpheme)

の理論の創設は, イェノレムスレウをして, かれ自身もテクストの前半で使

用しタイトノレにまでっかっている 「形態論〈的)J (morphologie, morpho-

logique)という伝統的用語を放棄させ,新用語「形態素治(的)J (morphe-

matique)を創造させることになる。われわれは以下において, 乙の用語法

の再編成プロセスとその必然性を具体的iζ分析していくことにするが,その

際つぎのふたつの観点を考慮にいれる必要がある。

1) ます,イェノレムスレウの研究対安の中心である f形態系jがテクスト

のなかでしだいに明確に定義されていく,そのプロセスを追跡すること。な

せなら,I形態紫論Jという新用語は, あきらかに「形態系Jからi京生して

いるからだ。

l morthenle

,J.l'northenlatiquc

,J. morthcuzatiqlle

( Jち性名詞,r形態ぷJ,初出 p.116)

(形2容等L1"仏t

(女性名詞,I形態紫論J,初出 p.133)

この派生プロセスは, 「形態紫」がしだいに明確に定義されていくにつれ

て, それを対象とする言57Jcy-の新郎p~ としーとの「形態恥il~J かそのはっきり

とした姿をあらわしてくる,現愉構築のプロセス!こ対応している。したがっ

て,われわれの分析のfs一段階でllail自になるのは,いずれ命ぶされることに

なる新]TILiOu( =形態紫愉)仏吋lt,¥tる"lgm対曳( :形態44)0限定プロセス

をあらかじめ詳細!と見ておく乙と-cあり,それはイェJレムスドウハEdY述の順

J35 . すなわちテクストの総(I~JI岡崎5を足立ffiしつつおこなわれるだろう(以下

2.)。2) 乙のあと, われわれは, r形態愉 (rlt~)Jという用時から「形態紫論

((Ij) Jというj:11115への務行プロセ λι〉分析をお乙なう。テタえトの b.2.

において最終的な定訟をうけるまでは, とれらのj有限が砂Hi(uなf"-l iJも定品

なしに使j刊されている乙とがI~] らかにされる ζ とだろう け、17い r形態論的

~,Willi.J (7) 1川氏を怠ml)orJ彩服愉Jというのがイェル人ベいワけ,・タえトにお

い tい↓)~~tníBm愉I'I~JH flh心あるのにたいして.亡;・1Jiγtメ、J'Rと方法にたい-J-

るmQ¥腎な;;:(;終のすえに,かれは最終1')りにはこの用料を';¥li~ して , r形態紫愉J

t'l広1m愉 I')~) lJ nn. (科学的川町りを剣11¥するにいたるのであるη。したカ •

( 31G )

Page 5: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

〈形態論〉から〈形態宗論〉へー 5一

分析の第二段階で問題にな るのは,イェノレムスレウのディスクーノレの内部で,

新しい理論ないしは研究部門である「形態ぷロ削の命名プロセス,およびそ

の新用語・の働きをぷ描する乙とにほかならない (3.以下)。

2. 用語 「形態素J:その位置づけと定義のプロセス

冒頭から,イェノレムスレウは,かれの言語理論の一次的対象である「構造J(structure)の定義をあたえている。「杭造とは,体系lζぞくする諸事主問

の(すなわち,体系の諸部分間の,およびそれらがとり結ぶ諸依存関係間の)• • • • 依存関係(dePendance)にほかならないJ(p.113)。かれによれば,二種類の

依存関係を区別する必要がある。ひとつは「関数関係J(fonctions),すなわ

ちたんに依存的なだけではない依存関係,もうひとつは「関連J(rapports),

すなわちたんに依存的でしかない依存関係である。乙の区別の基準は,乙の

定義だけを見てもま った く判然としないが8〉, イェノレムスレウのあげるつぎ

の例をつ うじて理解する 乙とができるだろう。 Iフラン ス語の直説法半過去

と, 未完了過去および仮定された 『非現実』というその二つの怠味のあいだ

にあるのは,ひとつの関数関数である。それにたいして,乙 の二つの意味の

あいだにあるのはひとつの関速にすぎず,そのまえに確認された関数関係か

ら機械的に生じたものであるJ(p. 114)。 乙れを図式化すればつぎのように

なるだろう。

文法的形式

直説法半過去 令今

関数関係

コケ:. n4・起、 l床

末完了過去

関連一

仮定された非現実

したがって,I構造Jの記述は「関数関係」の記述に帰着し,イ ュノレムス

レウのいう「経験的方法J(methode empirique) とは「関数関係的方法」

(methode fonctionnelle)と別のものではない,という乙とになる。

さきに進むまえに,乙乙でつぎの乙とだけ指摘しておきたい。 イェノレムス

レウにおける fonction という用語の価値は,伝統的文法学やほかの構造言

( 317 )

Page 6: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

とり 的 -ーコプソン ,一v』

-95-

もが

ての「

自分

"

an ,.

iEJ と

fonction と

つ九 .,( 。 -・陶.

. F』

ー同副静 .圃... ‘-つ画ー-、

いにおけ

、ー

‘扇調・ -・・

HjをInlS.lev 3. • .園面町

b t l' .", .

• • ‘ー. -ー・・

、ー

同.

• •

• ‘ー

• l1nu

Page 7: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

〈形態論〉からく形態素論〉へ - 7一

(morpheme) にほかならない。乙乙で,われたれの研究対象である「形態

系Jが出てきたわけだが,しかしテクス トの乙の段階 (a.1. 1.2)では,i形

態系」 と 「怠味ぷ」とい うふたつの用語の定義はまだ与えられておらず,読

者にたいしては既成の言語学における用法にもとづいた理解11〉,および文脈

による理解,とくにテクス 卜にあげられた例にもとづく直観的理解が求めら

れていると考えられる。用語「形態系J(および 「意味素J)は,いまだ<理

論的用語>の地位を獲得していないという乙とである。

と乙ろで, i告訴ζかんするもっとも大きくもっとも単純なふたつの記

(p. 121)は, さきの記号的関数関係から帰結する。「内容面J(plan du

contenu)一一シニフィ エーーと「友現面J (plan de l'expression)一一

シニフィアンーーのことである。 乙乙で、われわれの研究にとって丞要なの

は,i形態論的構造J(structure morphologiq ue)が「言語構造J(structure

linguistiq ue )の一部分をなすにすぎないということだ。つまり, 言語構造

というのは, 内容面における「形態論的機造Jと表現面における 〈音凱論

的?一一イェノレムス レウは命名していない)構造のふたつから構成されてい

るのである (p.121)。

「形態ぷ」の正確な位置を決定するために,さきに関数関係/関述を区別

したのとは別の観点から,イェノレムスレウは,いまなお二種類の依存関係の

区別をしてお乙うとする。「すなわち,範列的依存関係 (dependancepara-

digmatique) (それは交替的な辞項のあいだの i""'かまたは""'Jの依存関係,

あるいは命理学でいう選言 ( disjonction) のこと〉と, 述辞的依存関係、

(dependance syntagmatique) (共存的な辞項のあいだの i""'も~も」の

依存関係,あるいは論理学でいう述言(conjonction)の乙と)である。 乙

の二種類の依存関係、のあいだの依存関係乙そが,メカ ニズムを偶成し,その

働きを条件づけ,限定するのであるJ(p. 127)。たんなる関連 (rapports)

は間組にする必要がないので,イ ェノレムスレウは範列的関数関係を「相関関

係J(correlation),述辞的関数関係を「述関関係J(relation)と名づけてい

る。

われわれはようやく 「形態ぷ」の定義の時に近づいてきた。 i範略J

(ca tegorie)を「範列構造J(la paradigma tiq ue )の基本的類,i単位J(unite)

をf述辞構造J(la syn tagma tiq ue )の基本的類と定義したのちに,イ ェノレ

ムスレウは 「形態ぷJと「芯味ぷ」の範磁を定義するためにp まずは述辞構

造の故小単位から出発する。

(319 )

Page 8: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

。。公小速辞(乙れは語と一致する乙とが多い)は,意味素的な基礎部

(une base semantematique) (テーマ (theme)によって表現される〉

と形態素的な特性部(unecaracteristique morphematique) (屈折語尾

によって表現される乙とが多い〉からなっている。 意味素(sるmanteme)

と形態素 (morpheme)をそれぞれ定義づけるのは,基礎部と特性部が

たがいに関数関係をなしているという事実であり,また特性部が基礎部

を限定する働きをもっているという事実にほかならない。

(p.127.ゴチックによる強調は引用者による〉

乙乙で初めて,用語「形態系J,よ, 「12味ぷ」とともに明確な定義をうけ

る乙とになる。

意味素 (semanternes)の純附は, その成員がたがいに『結合しあい,

特性部によって限定をうけるよお単位を形成する ζ とのできる能力によっ

て, いいかえれば蕊礎部を形成しうる能力によって定義される。これ~ζ

たいして, 形態素 (rnorphemes)の範隠は, その成員がたがいに結合

しあい,基礎部を限定しうる諸単位を形成できる能力,いいかえれば特

性部を形成しうる能力によって定哉されるのである。

(Ibid.)

乙のように,r形態紫Jの定義は, いきなり即自的に与・えられたのではな

く,mg!?=概念体系の梢築を利つてはじめて定式化されえたとい弓ことがわ

かる。乙うしたイェ Jレムスレウによる定義の休示的性格そ理解するためには,

法泌郎/特性郎の対と恕味黙/形態誌の対のあいだにある関係のじゅうぶん

なj巴括iが fく IIT欠である。つまり , 法礎}唱と特性部は述辞~\~mlι~~す「単位J

であるが,それにたいして芯It依然と形態京のほうは,縦列413込!と属す「簡略Jだという乙と。そして,さlさにみたように,iili古学構造と絡列椛巡・がたがL、に

|刻数関係をなし 1・乙いるからこそ,ζれら11t仇と簡略のふたつの対も,たがい

のIt)1 ux I英!ねによっ乙~~持されるのである 1230

ここで,ソシ品ーノレ (Fcrdin~nd dC' S~\tSStllで〕 ο パ紫を必ぶしてお〈 L

も 1ml~A. eはあ 3μ、。「て均一(・は劇問、ンステ人であり .そけTilt命もまた,if婦

と町織に般的なシステムでなければならないJ(cit6 in GodC'} 195i, p. ~9)。

「形態愉I't~ 1',\~:ii1 J におけるイ ι;1〆ムスレ少のmlii命デ、ィ -ζ ・'ーJ¥Iは, とり

JFJ nn.訟の lノベルでこのような「般僚なシ〈 7」ムJ'を志向し -ιいるといへ ζ と

'.

(320 )

Page 9: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

〈形態論〉からく形態素論〉へ ー 9ー

ができるだろう13)。

相関関係をなす用語群における「形態ぷJの位置をはっき りとさせるため

こ,つぎのような図式化を乙乙ろみてみよう 14)。

?

単位一……………-連辞構造 (司〉

基礎部 | 特性部

ー+

;意味系 形態系

範 鴫 -一一-…-……… 範列繕造 (t )

3. 前理論的段階における用語 「形態論Jの三つの意味

以上で概観した「形態系Jの定義 ・位置づけの段階にあって,それを対象

とする理論の名称、である「形態論j(morphologie)は,いかに機能している

たろうか。乙乙で問題なのは ,乙の用語の明示的分析の段階 (b.2.)以前lζ,

乙の伝統的用語に付与されている複数の価値をイェノレムスレウのテクストの

なかから洗いだす乙とである。イェノレムスレウのディスクーノレのなかで〈冒

頭から b.1.まで),前理論的用語 「形態論Jは,つぎの三つの異質な怠味

をになっている。

1) 伝統的;怠味における形態論 (P.126)0i形態j (formes) の理論とい

う芯味で,用語「形態論Jの19世紀以来の伝統的かっ一般的用法である。 そ

れは「統辞論j(syntaxe), すなわち「形態論で確認された形態の関数関係

的効率仁機能効率](rendement fonctionnel)j (Ibid.)の理論に対置される

(Cf. Greimas et Courtes 1979, pp.235-236)。 むろん,イェノレムスレウ

は乙の伝統的用語法を批判の対象として引きあいにだしているのであって,

形態論/統辞論という文法学の二分法n体をしりぞける 乙とになる(以下5.

を参照の乙 と〉。

2) イェノレムスレウ固有の窓味における形態論。 乙の意味では 「内容面」

の梢造に対応し,i表現面Jの機造と区別される (p.121)0 i形態論的構造」

( 321 )

Page 10: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

- 10ー

が言語桃迭の半分をしめるということは, すでにみたとおりである。「形態

論(的)J のζ の第二の用訟は, ζ の用語の明示的分析がお乙なわれるとき

にも越本的には捨てさられる ζ とはなく ,ただあらたiζ打ち立てられる用語=

紙念体系のなかで,より粉笹?に定義しなおされる乙と!ζなる。いずれにしー

も,乙の核となる窓味が完全"ζ放棄される乙とはない。-・・・・. . . . . . . . .

3) 拡大された,g味lζおける形態論 (b.1.)0 r形態論jはまた』グロセー

ティック固有の意味での「形式J(fOrlne)の理論という価値をもち(実質j

substance)の狸論lζ対置されている15》。 「形式JICは内容の形式もあれ‘叫

表現の形式もあるはずだからs 論理的必然としてs言語学の全体が「形態論j

とみなされ,r形態論的椛造Jは2・語構造・の全体と同一視されてしま当。

形態論的構造 (lastructure morphologique の問題はp 端的(clli

(forl1W)の問題である。

(P.132) ランゲ

dlEにおいてはすべてが形式である。あらゆる言語学は形態論 (mor-

phologie)なのだ。

(Ibid. )

形式/尖質というグロセマアィ

づいているのだから>> r形態論」のこのm訟もまたイェルムスレウに特有

のである ζ とにはかわりがない。しかしながらF それがささにみた rj一品Jの節ニ艇と矛JlI"していること

のか,それとも全体なのか1630 乙の恥

あるな!床では節ーの伝統的JTJtl~ とおなじ

忍といわざるをえない。しかしなか山

1守の}j・~としてテクストむなかで低能し, 批判の対&としザ

タの根幹をなすζ とになる二分法にもと

• • • • -・・かわれているのにたいして,日

してb'lt Jijltなしに発せられているとい J

このテタ A トにおb

tzfiiを乱しているJ

か、

ェJl,J. 。b、

1にせ

しカ

{ζおb

j~I!~寸

{ェ)1.1.L

サ九えないの?

H'~ 0 1'1 ~ 'c 3m ¥if;J化されてい主いう共示IIJ~11

かかわらず. 守¥'l..c '. . . • .... )1, .1

た b、 も、1.、tH

u

s・む

Page 11: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

〈形態論〉から<:形態紫論〉へー 11ー

不足j格でが, しかし理論の根底にあって,理論の行き先をさししめすかれの-・・ -・言UEfaを表現するdl伎としては,きわめて喚起力にとんでいる,という ζ と

ができるのである 17)。

4. 伝統的用語 「形態論」の分析と 「形態素論」の命名

「形態系論とそのさまざまな側部Jと題された b.2.で,イェノレムスレウ

は伝統的用語「形態論」の批判的分析に若J手し , その結~, (凌献で多義的で

あることが判明した乙の用語をより明確で一義的な新用語「形態系論」に置

きかえる乙とになる。乙の用語法の転換を可能にするのはなにかといえば,

それは「グロセマティック (言理業論)J という新しい名称の導入による言

語理論全体の再杭造化にほかならない。

記号形式 (formesemiologique)にかんする研究は,必然的に経験的カ

つ演線的たらざるをえないが, 乙うした研究を一般的にさししめすため• • • •

{乙言理索前という用語(termeglossematique)を導入した乙とによって,

われわれは,いかなる誤解のおそれもなしに,伝統的な芯昧での形態n命

の概念 (lanotion de morPhologie dans l'acception traditionnelle)の

分析にたちかえる乙とができる。われわれとしては,乙の概念を,言理

系論的方法iζてらして明確にする必要がある。

(p. 133)

まさに,理論の変革が用語法の変革を呼び,用語-法の再編成が理論にあら

たな展開をもたらす。理論の進化というのは,理論言語の進化と別のととで

はない。 イェノレムスレウのテクストは,乙うした迩勤,すなわち旧言語の解

体と新言語-の生成の運動によって織りなされていくのである。

伝統的芯味での「形態論」は,つぎのふたつの理論と区別されるという。

1. I怠味ぷの理論」あ るいは「非形態系の理論Jo 2. I表現の理論」あるい

は 「空理系論J(cenematique)。以下,J順番にみてい乙う。

1) 伝統的lζ,I形態論」は特性部を形成する「形態素」の範磁をとりあ

っかうので, I~む味京の理論J つまり 「述辞の法礎部にふくまれる非形態系

の理論」とは区別されているという (P.134)。伝統的用語法でいえば,I形

態論」は 「語1言論J(lexicologie )と区別されている,という乙とである。

しかしながら,イェノレムスレウは,つぎの三つの理由から語染論/形態論と

(323 )

Page 12: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

- 12-

いう境界区分を否定している。第ーに,かれのとる演緯的方法にしたがえば,

実際にはひとつの全体をなしているふたつの範隠を切り離す乙とは禁じられ

ているという乙と。第二に,語象論が乙れから構造的科学たろう とするなら

ば,形態論にその構造的原理を借りなければならないという乙と。そして第

三に,前E詞 ・接続詞 ・代名詞のように,意味素と形態素のとちらか一方iζ

判然と分類されえない単位があるので,形態論もまた基礎部の分析を必要と

するという乙と 18)。

いくつもの新語が導入され,新しい用語法が提出されるのは,まさに乙の

ような既成の言語研究の布置にたいする批判の直後である。

実際にわれわれは,内容にかんする言理素論的理論をひとつの包括的な

学科,すなわち充理素論 (ρlerematique)として構成する。そして,充

理ぷ;命的要素(これをわれわれは充理素 (plerernaternes)と名づける)

は,二種類からなる。基礎部を形成するこ とになる充素 (ρleremes)と-・・形態素 (mor.ρhemes)である。だが,形態系は特性部にのみあらわれる

• • • • • (基本形態素 (moゆhemesf ondat1zent aux ) )のではなく ,基礎部にもあ

らわれうる(転換形態素 (moゆhetnescOtzvertis))乙とが予想される。

(p.134)

乙の新しいHJ ~吾体系においてまず注目すべきなのは, それまで分自性されて

いたぶ梨論と形態論とを包括する「内容面J全体の理論として「充理ぷ論J

が設定された乙とにより , ふO~ぷと形態ふというふたつの範時を統一的原理

にもとづいて写察する観点かもたらされた,とい うことである。乙れにとも

なって, r-~bî ~未来J (semanteme)というJTJ1iliが,f充ぷJ(plereme)という

新用語Ki泣きかえられている乙とに九がつく。この変更にかんして,イェノレ

ムスレウはなんの品切もしぐいないし,新J:日訟を導入したという44尖iこかん

してさえ I; bえしていない。それは暗黙惚におこなわれている。ここでひとつ

だけ考えられるのは,あらたに日交え:された「光忠紫論Jの--部PIJの交すまとし

て位iむつけられた「怒味紫J(=f充訴えJ)は, 従来の孤立した跨梁拾の対決-・

であった f~êlt~紫J とはすでにその(ソシューノレ的忠Okでの)価値を奥にし

ているから,その名目¥(シニフィアン)も恒真されなければならない,とい

うこと ιあろ。新しいνス片ムは,新しい11己号を生みだすのだ。しかしなが

ら,i形態採JというjF15!?は,なぜかあいかいらず保持されている。「芯S未来」

がj克楽されても,r形態来」は出来さ オしない。

(324,)

‘・.

Page 13: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

く形態論〉からく形態素論〉へ - 13一

名称ではなく ,その理論の名称 (r形態論J)のほうなのである。

グロセマティックの体系のなかでの「形態紫」の乙のあらたな位置づけか

ら,イェノレムスレウが「用語法上の帰結Jと呼ぶものが生じる。

• • • われわれが興味をもっ議論の対象は,充5t;にたいする形態ぷであるとい

うことを1確認するだけにしておこう。そ乙から, 用語法上の角川8(une

conseq ucncc terminologiq ue)をひ合だすことができる。今後は形態論

という!援隊な用語をやめて,形態素論というもっと町政な用語に置きか

えることができるという乙とである (onpeut abandonner des mainte・

nant le termc ambigu de Jnorρhologie et lui substituer le terme

plus precis de nlorρIlernatique)。(p.134)

• • • •

乙れこそまさに,J:H結の変IIIと命名行為を切示するメタ発話にほかならな

い。乙の発市!;が,科学的新語 (neologismcscientifique)創出の際に一般的

に制終される諸条件を満たしている ζ とはりjらかである (Cf. Ivlortureux

1984, p. 105)0 1.命名行為が発活者によって意識的に引きうけられている

乙と(“onpeut en tirer une conseqllence terminologique", “on peut

nbandonner(.....)et lui substituer (....)"という表現)。ただし, 乙乙におい

て発活者イェ Jレムスレウは,on (ひと)という非人称としておのオ丸、工てて

いる。それは, r主観性j を排して「客観的Jであろうとする科学ディスク

ールに特桁の修静であるといってよい。 2.別活のもつ新語としての価他,お

よび叫P'JJll~q;~ としての価値の指示(おなじく “on peut abandonner(.…)et

lui substituer(…)" , “le ter.mc plus precis de" という表現,および

'Hlorthenzaliqueのイタリック〉。 以上ふたつの一般的条件を, ζ のイェノレム

スレウの発芯・は明示的に尚=たしているといえる。

では, ~ガ新T野f しい命名の正当化, つまり有緑化 (1nηotiωvatωn吟2) (に乙かんして(は!ままど

うだろうか。 r~形彰態来;論命J (lnorphe凶6如m引i同quω1児e) という用語を明示的;にζ正当化 .

不訂f緑化する〆タ:2ユ3.5話否的発話は'テクストのなかにはにキセらない。語る主体

としてのイェ Jレムスレウは, 乙のとき聴く主体の前走、日臥.,~うち lζ潜在的に存

在する「相関関係」と「述関関係Jのネットワークによる直観的理解をあて

ζしている,と考えるほかはないだろう (Cf. 立川1986,第 1部第 3,第 4

主;lVlortur加 x1984 ~ p.96)。発諸行為〈旬onciation) の次元を考慮にい

(325 )

Page 14: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

.. ‘-・ と -画・・ー 3

2

-、.圃. -凶.

Jレ ‘乙

里 と -‘・・

• -嗣咽画 • F

司画面・ , l・

b

--aJ z二 信圃・ ~ ・・ーーー-・・“画面・・・h司ー. 司陰F 司t司ー~耳l 、-

乙とでもある。 つまりI!

句副・・a・、頑町固

• • 1・ 1・ • • ー '~

"-iL.ー

-ー酬・・•

桶画面・

3‘ .. ー画面ー

• ‘'

'. ー画扇面・

‘ー

3‘ It '. 1. ・・ 1・ i.. .,・ '. .

明.

• 1¥

.・ ・ .

‘ 1‘ 接、

一血

-E--JHK

aa-----尼

-圃圃E

・、,‘,圃圃・圃冊

忌冒・・-

‘圃理

邑曹圃・咽哩

電亘畢

‘ ‘

Page 15: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

〈形態論〉から〈形態素論〉へー 15一

式にしたがえば,i充素論Jを窓味しなければならないのである。 したがっ

て, i形態素論J(morphematique) という新語の乙のテクストのなかでの

有縁化は,厳密な意味では成功していない,といわざるをえない19)。

2) 伝統的な意味での 「形態論」は,また「空理索論J( cenema tiq ue ),

すなわち 「充理索論J,ζ対置される表現面の理論とも区別されているとい

う。 乙とでわれわれは,さ きにみた 「形態論Jの第二義をふたたび見いだし

ている 乙と に気づく (3.を参照〉。

乙乙で, 従来の言語学(A)と新しい言理系論(B)を構成する諸-部門,およ

びそれらが対象とする範隠聞の関係を表にしてみよう20)。

(A)よ語学

(linguistique) ? ーー争 •

(B)言理家 論

( glossematique)

→ J理ぷ?

(glossるme)

文法学 一」

(grammaire)t ーー参 ?

空理栄論

(cenematique)

充理家論

(plerematique)

→充理素

( pleremれるme)

も: .~! l I;~ rr iiH li問 ーー+ 音索

(phonologie) (phor吟me)

ロ守系正T升ヂ・ミ12‘tH1kt官』r 一+ 意味請、

(lexicologie) (semantるme).

形態翁 ー闘争 形態素

(morphologie) (morphきme)

統 計 諭 一→ 辞項?(21

(syntaxe) ( terme

→空理ぷ?

(cenematらme)

充索理論?

(theorie des pleremes)

→充ぷ

(plereme)

形態系論 → ぷ及員長

(morphematique) (morphきme)

(327 )

Page 16: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

- 16ー

「言語学Jの組織(A)と「言理ぷ論Jの組織(B)を比較して気がつく乙 と

は, 第一lζ, 用語=概念の放棄 ・'if'i"倹 ・創造による言語学の布置のこのおお

はばな再編成をつうじて,唯一生き残ったのが「形態素J(morpheme) の

用語だという乙とである。イェノレムスレウの論文とわれわれの研究の双方の

共通の標的である 「形態系論J(lnorphen1a tiq ue )がまさにこの用語から派

生したという事実は,けっして偶然ではないだろう。新用語の創出は,乙の

ようなテクストの運動と切り離せないのではないだろうか。そして第二H=,

言理ぷ論(グロセマティック〉のなかに「統辞論Jの場所はない, という乙

と。つまり,さきにみた「形態論」の第一義,伝統的な定義は新しい言語理

論のシステムのなかになんの痕跡ものこしてはいない,という乙とである。

5. 命名 された概念、の分析,あるいは 「形態素論」の境界画定

伝統的用語「形態論」と同様に,あらたに命名された概念「形態ぷ論」の• • • • •

分析もまた,ネガティヴなやり)Jでお乙なわれる。イェノレムスレウにとって

問題なのは, 1形態素論Jの特性をボジティヴなものとして取りだすことで

はなく ,グロセマティックを構成するほかの北部門と関述において,その境

界画定 (1区別J)をお ζ なう乙となのである (Cf.Rey 1979, p.40)o 1古

典的文法学がなおざりにしたいくつかの直要な区別をおこなうとともに,そ

れが保持してきたその他の不安な反別を削除するという仕事がまだ絞ってい

るJ(p. 134)。 前者にかんしては,つぎのふたつがあげられている。

1) 1形態系命」と Ib~n~ 1I命J (sen1an tiq ue )の区別。なぜなら,たとえ

ともに「形態系」を研究対匁にするとしても,両者はその制点において実質

だからである。前者が形態諜の関数関係を記述するのにたいして,i全省は形

態采のもつ組以のぷOk(significations)と窓味的価値(valeursseman tiq ues)

を記述する。つまり ,形態紫愉が内総の「形式Jを研究する「規制J(nOrn1e)

の科学であるのにたいして,滋味Aは内315の「実質Jを研究する Itr!mJ (usagc)の科学なのである22〉。したがって,芯nt:; li命は形態示品iζfAtf-する,

ということになる。

2) 1形態諜fffiiiJ と「形成紫~n!愉J (theori(¥ des formants)の以別。「形

成業J( formants) とは,イ ェノレムスレウの~~&では , 1形態紫論的1l1.{立を茨

却するのにつかわれる笠宮n紫愉(I~llf. (u Jの乙とである23)。 こ乙℃かれは,

「形Jl比探知!愉Jをつぎの三つの学科と出向しないように抗訟をうなが し-ζい

(328 )

'.

Page 17: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

〈形態論〉から〈形態紫論〉へ - 17ー

る。 1.充理系論の一部門である「形態紫論Jo 2.内容515質の理論である「怠

味論Jo3.友現形式の理論である「空理系論J。イェノレムスレウは,ラテン誌

の前位詞 siF16を例にあげて, これらのあいだの差異を説明している。

ラテンロ吾の前置詞 szne[-.;なしに3の形態素論的研究 (1'etude morphe-

matique)は, それが属している光型木論的相凶関係(correlations

plerenla tiq ues)を識別することからなりたつ。つまり, siMがiiiji白J;i]

であること, siMが奪格を限定すること, siJ163Jhそれと同じ述関関係

をもつほかの前置詞 と相関関係を給ぶこともある乙と, 乙の三つを述べ

れば,記述は原則として完了する。(・…)形態素論的研究とそれから派

生する意味論的研究は,問題の前町詞がふ ん ?I,oをひとつずつ合み,

乙れらの量のあいだの一定の述関関係(一定の「順序J) を呈するひと

つの単位によって表現されているという事よとは,無関係になされる。

乙ういうことを確認するのは,われわれが関心をもっ 形態素論的単位

(l'unite morphematipue)の形成系 (formant)を指定することにすぎ

ないのである。

(p. 135)24)

と乙ろで, 乙んどは伝統的なよ必学が保持してきた不要な区別,すなわち

削除すへき区別としてイェノレムスレウがあげているのは, さきにもふれた

「形態論」と「統辞論Jの区別だけである。乙の区分を廃棄しなければなり

ないのは,なぜなのか。イェノレムスレウによれば,屈折的類型{ζ属する iii代

ギリシア語 ・ラテン活を例外とすれば,すべての戸高において相関関係、とえさ

関関係、は相互に依存しあっており,人為的に切り離すことができなし1からで

ある。したがって,用語「形態ぷ冶Jの創出にともなう言語科学の再布目化

は, 乙れまで占代ギリシア語 ・ラテン品という特殊な 言語類型のみをモデノレ

にして言語を心述しようとしてきたために,形態論/統辞論という区別の自

明性を疑う乙とのなかった言語学省 ・文法学者たちの研究に疑問符をっきつ

けるという結果をもたらす乙とにもなったのである。

S. 放棄された用語の分析,あるいは 「形態論」の多義性

乙れまでくわしく検討してきたテクス トb.2.の木尾で,イェノレムスレウ

は, 用語~ i形態論Jの批判的分析をより簡潔な形でふたたび提出している。

( 329)

Page 18: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

- 18-

「形態素論的構造 (lastructure morphematique)とその類型誇を有効に

研究するためには, まず第-~r , 伝統的学説の根本的な見直しからとりかか

る必要があるJ(p. 135)。伝統的用語「形態論jがつぎのように三つの異質

な芯味をになっている以上,それがグロセマティックの体系的な用語法のな

かに生き残るととができないのは,明白である。

1) i形態系の関数関係の研究J,すなわち「語業論j と対立するところ

の「形態論」。イェノレムスレウの新しい用語訟では,乙れが「形態業論JJC

置きかえられたわけである。

2) i形態紫のもつ価値ともろもろの窓味の研究J。乙れは.形態ボ-οf窓

味論J的研究といえるだろう。

3) i形成紫 (formants) の研究ー すなわち形態長をム 1すへく慣用に

よって探月jされる路単位の研究J。さきにみた「形成ぷ理論Jのことである。

ζ の伝統的用路訟の批判的分析の要約をもとに,もういちどグロセマティ

ックのJT]持法=331論的布泣の図式化をこころみてみよう。波罫をつけたのは,

従来「形態論」によってカハーされていた領域である。

形 式〈鋭陀〉 決 質〈慣用〉

充理紫論〈PLtRtMATIQUE、!付 i3't:紫君n愉

(1 heoriC' dcs 川érèn1 (,~)

'ifF |形帆紫倫肉、,‘・

(11101'・phelll:1t:ique). ..y ... ..,.13‘¥?缶、,.;、ー・

空理5結論(C.ÉNÉl\1ATIQlJ1~) 6? [

決 | r.? (

m Uh~Olil' d代 fo~.n~~ntiS)

〈GLosstMAUQUInt?、II~リ川m 悶問I' rJ形隠f郎品邸1ft愉命」 を析j川|自1貯悶陪'I.f3形隠郎封涼ミ愉Jfにζf慣f白;きぷか、 :L.るζ と!にζ

こさ;れl'れ仇ラ'l,た lJ1!月汎n叩í;命2吋JT日川H賠日R招一ii.?担~,去.之ふ:与.刊~ ~ :i枇i官ti正i治i也冶t位、わ4イ札{

をつうじて'イ ι )11ムス l〆'I(,

巴川.,e司

-ー• • • • •

i3 (1りなlm愉(I~)1]間体系をf|:i 」古島 rjf

33l) )

Page 19: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

形態簡〉から〈形態紫治〉へ - 19ー

から「形態ぷ治Jへの転換が,孤立した操作ではなく ,形式/実質と内容/

tの区別というグロセマティックの基本原理を前提としたうえで,一述の

f似合、からなるシステム全体の再編成をともなっている, という乙と

~はおとしてはなるまし,。• • • • • •

19391f.のテクストにおけるイェルムスレウの斑;命的手続き,すなわち3・話

1fhの対虫lの的鍛とその記述方法の繰りあげという作栄は,用時法のJL直し

という作業をつ うじて巡行された,という乙とが明かになったと思う。いし

かえれば,乙乙では班治的レベルでの駈念体系の椛築と周話法レベルでのメ

したかっ

内.

'

!の創造が;,同ーの手続きを椛成している,という乙とである。

がイェノレムスレウのテクストにおいて迦過するの Eふ

る仮説tiii*率的立叫にもとづいた国論ディスクーノレの

と閥抗l[131的子純さとの同時性のみごとな一例だといっ

7. 周回法のゆれ ::「形 Jか 「形 jか

-"

|的

'

ζ'. イェJレムスレウのテクスト

,tH 。 ζ区別されたはずの

」と,., ~ :, である。

た乙とは"個別別 18 :nlorphemat:ique I)arti,c日liar吋

moriEBhGmaltiqtIe z&目erale)にもあてド合

ょくのと たものに

〆neJrale)と山"

:r,e :nlo:rl):ne:m

(S31)

P.136

.137

J 1IこF

>

Page 20: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

- 20一

値を付与してしまっているのではないだろ うか。という のも,乙乙で問題に

なっている一般言語類型論としての「一般形態素論」なるものが,I充ぷ」

を無視して「形態素」だけ しか扱わないという のは,少々ありえない乙との

ように思われるからである。その証拠に,それは,引用した発話のなかでた

だちにもはや廃棄されたはずの不明確な用語に置きかえられている。 乙の

「一般形態論」なるも のは,グロセマティックそのものとはいわないまでも

〈ぷ現面はおそらく問題になっていないから),テクス トの a.1. 3. (pp. 130

-131)で問題になっていた「一般文法学J(grammaire generale)と同一視

しうるような,かなり漠然とした性絡しかもっていないように恩われる27)。

それにしても,あたうかぎり整合的たろうとするイェノレムスレウの理論デ• • •

ィスクーノレのなかに, 乙のような裂け目が生じてしまったのは,いったいな

ぜだろうか。われわれが想像でき るのは,1939年当時,かれは自分が締築し

たばかりの理論=用語体系を十二分に活用するだけの余裕をもつにいたって

いなかったのではないか,という乙とである。おそらく乙のような歴史的理

由によって,あくまでもおのれの公理論的 ・形式的手続きに怠識的であるは• •

ずの乙の優れた言語理論家の用語法のなかにも,ある種のゆれが生じてしま

ったのにちがいない。冒頭でも指摘しておいたように,乙の「形態論的構造」

という論文は,グロセマティックの理論体系がいまだ生成しつつあるさなか

に古かれており 28〉,イェルムスレウがそのいちおうの決定版を『言語理論序

説~ CHjelmslev 1943b) および『言語理論のレジュメ~ (Hjelmslev 1943

c)において完成するには,なお数年を待たなければならないだろう。

8. I形態素論」のゆくえとゲロセマティ ''}クの 「不幸」

イェノレムスレウの言語理論の進化およびグロセマティックの歴火をたどる

乙とか, とこでのわれわれの目的を越えている乙とは,すでに冒頭で述べた。

とはいえ, I形態系論J(morphematique)という用語が,イェノレムスレウの

ほかのテクストのなかでどのような巡命をたどったかという乙とにかんし

て,一言・ふれておかないわけにもいくまし、。

まず, I形態来論」というHl誌が 1939J.Fのこの論文ではじめて却人された

乙とは, 確災である。もっとも morphematiqueという周知そのものは,

じつは1933年から似われているのだが (I-Ijelmslcv1933, 979),それは形容

filiJとして「形態紫(ljJ という芯味をもっているにすぎない。 乙のことは,

(332 )

. i

目.. •

...

,.

‘h

.

Page 21: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

〈形態論〉から〈形態禁論〉へ - 21ー

「形態論的構造j 以前のすべてのテクストの場合にあてはまる (Hjelrnslev

1937 p.193, 194, 198; Hjelmslev 1938a, p. 161; Hjelmslev 1938b,

p.157, 158)。つまり,1939年以前のイェノレムスレウのテクストにおいては,

morphelna tiq ueという用語は,r形態紫的施時J(categories lnorphernati-

ques), r形態来的内容J(contenu nlorphenle1tique), r形態来的性絡」

( caractel・emorphenlatique), r形態系的転換J(conversion lnorphema・

tique), r形態系的単位J(unite lnorphenlatique) というように,もっぱり

nlorpheme から派生した形容詞として機能しているのである。 しかし,唯

一 morphenlatiqueの名詞化した例が, 1 935年の若谷町名の範陥~ ~ζみり

れる。ただし,この場合,形容詞の名詞化の第一段階として,定冠制 leの

ついた lenzortJzenzatiqueという形であらわれている。

Cギリシア語とラテン認という 1ふたつの言語においては,認d阪は l~I 山で

あり,形態素的なものの欲求ではなく ,文体論の欲求に応えるものであ

る (servantles besoins de la stylistique et non ceux du morphe・

matique)。(Hjelnls1ev 1935, p. 18)

ここでは,女性名詞の「入休論J(la stylistique) と対をなしているのに

もかかわらず,la morphξmatiqueではなく ,le morphematiqueという形

が生起するだけにとどまっている。これは,やはり来たるべき「形態系論J

の創設以前だからだ,というべきだろう。

では,19391:1三以降のテクストではどうかといえば,不思議な乙とに「形態

系論」というJTj訴はほとんど生起していないのだ。イェノレムスレウの主若と

される lii言語理論序説~ (Hjelmslev 1943b)は, 理論の「序説」であるゆ

え飽時の理論をテーマにしておらず,乙こに「形態系論」があらわれわいの

は河然ともいえる29)。だが,理論の「本論」である遺著の『言活理論のレジ

ュメ~ (Hjelrnslev 1943c) においても, r形態系;Jは明確に定義されなが

り, i形態系論」という用語が定義されていないのは奇妙な乙とである。さ

らに , グロセマティックの理論的発展として晩年に発表された「言語-の鬼:~

性J(I"Ijelnls1ev 1954) でも, li Jj7: '3~ ~で展開されなかっナ理論の内実が考

察の対象にはなっているものの,用語「形態系論」は「形態ぷJ とともに姿

を消している。

1939年以後, r形態論的構造J以外のテクストで「形態系論」という用活

(333 )

Page 22: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

- 22-

があらわれるのi

iζ :r'~かれ7こ

...J: _ ,-1,-一一

lζおいーーー

1,1ζお恕を

!選 (la m 0 :rp'h ,es18 t:.:i日u

乙とし

る。

合七もやメイエの

)と

だろう。

(Hjehlls],e\~ 1956, p. '227

ぷ・;),ro I マ"ι ,J,, 11 4"\~1""t J:Jt市主事前 Bこした「形態論的構造J というテ ,... -

トのなかであれほどまでに岐路な子むきをへて導入された『応態宗治jと

. それ以後わずかに一回しか用いられていないという υ1~ ',岨 帽 l・ J・

吋置い乙とでも lある。乙ー

」から「応態系出Jへのm日法的支還にかんするわt・1..... _ ., .._,-パ iOC'"

セマアイザクにかんする出品目的研史という恒点からみると ;色合

っιという乙とになるのだろうか。村山 よ合~1": , '..J.~ ..too. 守 .J..、 必‘ 量、J..、守'句 会串守遣さ~-み.

んなんらかの純点である。 miE訟の再編成が担注のなかで関与• • • •

ということは了プリオリに正しいのだが.しかし「形態系詰Jfiiと消失にかんしてそれをイェルムスレウの苫作全体,およびグロセ -

J.1民のlRtt1tJ全体のたかで認何寸ら ζ と.‘ 』良 .......... .. . ー |‘ ι - 畠 .~ 幅・ 4・ー

聖 一ー- -•

• I "、月 ?持派J・ .. l. G rehnos)の記uaグループがイ品川r ムス t

いる こよ(,'1J、、何ー リ司 L 、 v ・ ~J W !

l〆ウIC'(l~ ~ Il, 司ーー τ...."..-- '.哩・曹司曹一一耳"11~曹哩国 司 ιF 司".、 一一 ー ~一一一一 ーー

p. ]Ibl)o ~た~ .nlf~ ~1 弓 ν 呂、例代お的世CR43R :へ《や丹手点 Z17 ラン ~ l:*" f;'\ '~nì

Page 23: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

〈形態論〉からく形態素論〉へー 23-

Rey) が,その者f!?においてイェノレムスレウ的視座にたつとみずから公言し

ている ζ ともつけくわえてお乙う (Rey1977, p.6)31)。

また,言話学:および記号学の用語法にかんしても,イ ェノレムスレウに由米

する「形式」と「災質J,r換入j,r範ヂIJj,rメタ言活j,rデノテーション」

と「コノテーションj,rテクストJといった霊長な用語が3 流派をこえて広

く普及し,定者しているということは p あらためて指摘するまでもあるま

し、。

しかし ,と人はいうかもしれなし、。イェノレムスレウのグロセマティックは,

自然言活の具体的記述への理論の応用という言活学本来の目的にかんして,

あまり生産的ではなかったではないか,と(Cf.l¥rrive 1981, pp.311-312)。

たしかに,イェノレムスレウ自身によって,あるいはほかの言語学者によって,

グロセマティックがI渚言語の経験的分析に適用された例は, これまでそれほ

ど多いとはいえない32)。また,今日の言話学者のなかに,イェノレムスレウの

理論をよ占体的な13語呪象の分析に適用しようとする者は,ほとんど存在しな

いことだろう。との現象をまえにして,それは理;命的かつ汗j話論的次元にお

けるあの極端なまでの公理論化 ・形式化に起因するのだ,という説明に人が

しばしば芯きつけられるのは無理もないことかもしれなし、。たしかに,イェ

ノレムスレウの朋認法のシステムを理解する乙とは容易ではないし(われわれ

がこ乙でJAたものは,ごく一部分!とすぎないのだ !),ましてそれをじゅうぶ

んに習得・したうえで使いどなすというのは ,途方もなく困難なことだろう33)。

人文諸科学のなかにいまだに根強い人文主義や経験主義は,このような抽象

的な理論と用話法にたいして多くの学者ーたちに感情的な拒絶反応を生じ δ

せ,グロセマティックへのいわれのない非難へと向かわせることだろう (Cf.}'Ijelmslev 1943b, Ch. 2)。

だが,理論の公理論的 ・形式的性格ゆえに,とりわけその用語法ゆえにグ• •

ロセマティックが自然言語の分桁!ζ適していないという評判,またそれゆえ

ζグロセマティックは言話学の歴史のなかで「不幸」な運命を生きたという

評判は,あくまでもアプリオリな仮説にすぎないのであって,さまざまな要

因を考i訟にいれたうえで検証されなければ,にわかに信じる乙とはできない

だろう (Cf. Corneille 1976, p.19)0 i手話学を対象とする「メタ三語学」

の仮説も,科学的仮却である以上は,正当な手続きをへて検証される必要が• •

ある。いずれにしても, それはもはや理論だけの問題ではない。それは,P ロセマテイシアン

「内在論者」である言理系論者にとっては,とりあえず関心の外にある「超

(335 )

Page 24: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

- 24-

越論的J次元にかかわる問題なのだ,というべきである。

ζ 乙で「言語学の社会史J(Chevalier et Encreve 1984) の詳細にたち

いる危険をおかす気のないわれわれとしては,乙の問題にかんしては沈黙す

るほかあるまい。

(336 )

Page 25: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

〈形態論〉から〈形態紫論〉へ - 25ー

0)本5dJふま,パリ第10大学言語科学科のマリ ー=フランソワーズ ・モルチュノレー

(~vlarie-Françoise l¥;Iortureux)教授のセミネール「32史論とディスクーノレ分析J#

1986-87年度において212者がおこなった発茨をもとにしている。

1)以下,特別の指示j.)-/'¥:い場令は,I-Ijehnslev" 1939からの引用と解されたい。

2)イェルムスレウの著作全体lζコーパスを広げ,われわれのζ こでの関心に近い対

魚に理論的〈記号論的〉観点からアプローチした研究に,Zinna 1986がある。

3)立川1988#および立川1989を参照。また.われわれはイェルムスレウの1ff要な論

考を集めた fエッセ ・ランギュイスティックJtnl巻と釘2巻 (Hjelnlslcv1959,

1973)の翻訳も計図している。

1) LOU1S Hjelms1ev and H. J. Uldall,“Synopsis of l¥n Outlinc oi Glos-

sematics", IlumanIstisk Samfund, Aarhus, Scrifter 1は, 1935年12月18日に発

表されたという (Hje1ms1evet Uldall 1935)。

5)同時期のイェノレムスレウの理論構成をしめし, r:形態論的出造J と相~1Iìう論文と

して「形態素理論の試み. (Hjelmslev 1938b)がある。

6)ブレンダノレの f品詞論J~L よれば, 専門用語というのは普通名詞の下位クラスを

なしてはいるが,間有名詞iζ近い性格をもっているというc なせなら,専門用語と

いうものは,ある科学の専門家集団にとっては「記述」の妥紫であり,したがって

常通名詞の一種としてあっかわれるけれど, その外部の「一般大衆J(vulgaire)

にとっては,r非記述的 である点において間有名詞と異なると ζ ろがないからで

ある。 それゆえ,専門用語は個々人によって異なった理院をされる点て,固有名詞

的であるという (Br仰da11948,pp.93-94)。

また,柄谷行人は,固有名詞の特性はそれが翻Jt不可能であることだ,といって

いる〈柄谷1988,p.66)。

両者の考察をあわせて考えてみると,専門用語なる125のクラスは,間有名詞と同

様にラングを越!1iしていく「普遍性Jをもっているが,それと同時に普通名詞の下

位クラ スとして外国語に翻訳可能である,というととになるだろう。

7) rラノレース ・フランス語大辞典j ぐ1975)によると,morphematique (形態素

の〉という形容討は,morphemeから作られた学后派生♂ (derivesavant)であ

り, 1968年に初出とある。 名詞としての用法は, あかっていない。イェノレムスレ

ウの論文は1939年に発表されているから, 名詞 ・形容詞両方の用法をふくめて,

morphematiq ueはイェノレムスレウによって創造された新認と見なしてよいだろう 0

.辞むの記述そのものが活きあらためられなければならない。

8)のちのより完成されたグロセマテ ィックの体系のなかでは,関数関係は「分析の

ための諸条件を満たす依存関係」と定義される (Hje1mslev 1943c, p.4)。 とζ

(337 )

Page 26: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

- 26ー

でいう「分析jとは I rある対象にたいする他の諸対象の, そして ζれらのあいだ

の等質的依存関釘による対象の記述」のことであるぐIbid.p.3)。なお,!:r依存関

係」は,却論によっては定殺されえない周話=概念に属するとされる (Hjelmslev 19 13b,仏,沢 p.44)。

9〉 『257i理論序説jでは,fonctionは「論理数学的定;味Jと「語源的怠味J,いい

かえれば「形式的定義Jと「尖在的定義uのあいだの「中間概念」であるとされて

いる (Hjelmslcv1943b.仏訳 pp.49-50)。ょうするに,fonctionは「役割jと

「関数Jの中山jであるということだ。ここでイェ Jレムスレウは以前よりも後退した

ように見えるけれど, かれが理論のなかで震後するのが r形式的定義j である乙

とにはかわりがなし、。事実 r序説Jの定義茨でも ,また ri--語理論のレジュメj

(Hjchnslcv 1943c)でも,設8)で引用し lた rm式的定接J,すなわち論遅弘子的

解釈が拠示されている。 Greitnaset Courtses p. 152も参照。

10)イェノレムスレウにおける COnlt11utaUonという摂念の変遷を研究する必要がある。

というのも,それはしだいに操作〈換入テ λ ト〉としての意味あいを 'tい,はっき

りと関係として.内務而と表現商を結びつける関係として定義されるようにたるか

らである (Hjc1tnslev19118, p.33; IIJ(\hn~lc\ 195tJ. p.46; Voir .ArL¥e 1979,

pp.3S-39)。つまり,それは「換入関係Jと訳されなければならない。ということ

は, r換入関係」は,r:換入テストJという操作からより一般化して.われわれの対

tとする 「形態論的的治J(1・ljcltnslcv1939) ていわれる 「記号的関係関

(fonct.ion Setlliologique)の内等まで包合するようにむるの、Jないだろうか。

11)イェノレムス l〆少が「窓味京J・「形態涼Jという用!廷をつかうのは ζれが初めず明

はなく ,r一般文法の似JlliJ(1 Tjchnslc¥ 1928)かもすでに使用している。そもそ

これはかれがfjlJ11:¥した)IJ 1罰法ではな¥・ ヅアンドリエ ζ~Joscph VUlldrちcs)

を附脱したものである (Vcnctrycs1921. ,l>. 9,2)。イェルム, 1 '1) III t1・, 円骸1m~ミ」

という jljmのj民法:を Hjclln~l(\\ 1933. ~ ,)8. J).3で概説している。また,'zinna

1986. pp.92-93もち問。

Ji虫110b学者ジャタリー ッシュによれ,ば¥ こ

カン ト の~~i'学iζ E1:1~ミするという。あらゆる隠般行為は仏

柄拘1 1そのものに EI] ~f~する形式的部分ぐn~IHJ ・ 空間 ・ :1tt •

からなっており.日iをjmjJtするふたつの部分のうち怒川・

1は後者ぐ~rø~りに刻略するというのである。つまり , 氾:l味京/1f~.J

カン ト の惚般協をそのまま反映していると い-、わけである にPiod\(.~ 1977! p.21、

s(nnnntelHe (ζたbγh

j自ioではないように出

瓜して,「:む1球協J• r1fl

Hjcl1l1S 1~、\ 1 92~)

「13b古河U,llH)l'pherllC fζたい

1,る。 ~7)~ <l,~' ,~'t f.i ! r.CY~'iぬ'

りとしたし、。「制りとい • し,

'

Page 27: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

形態論〉から〈形態紫論〉へー 27ー

• • 一・ii位の部分をなす「基礎部J(base)と「特性部J(caracteristique) に乙そふ

さわしいといえるだろう。

なお,小林英夫は別のと ζろでかれの訳語の正当化をおとなおうとしているか.

乙れも説得的ではないく小林1934, pp. 426-427)0 i索は原則としていくつあって

もかまわない。けれども部はニつしかありえないJ。また, i芯;義部J• i形態部JはI iT7索J(phonenle) との平行性ももたないという。 しかし, われわれの考え

では,イェJレムスレウにおいてはとの平行性が想定されている。 phonemeが表現

面の範列構造の要素であるとすれば,semantemeと nlorphelneは内容面におけ

る範列構造の要索なのである。だとすれば,とれらに「紫」という共通の2却さをあ

たえるのは正当ではないだろうか。

13)乙れをイェノレムスレウ自身の2い方でいいかえるならば, :Ji諸理論は概念の定義

のシステム,しかも「実在的定義」ではなく「形式的定義Jのシステムを構成する,

ということである。「形式的窓義」とは,まさにソシューノレのシステムのように,

ある対象をほかの対象との関係において,相対的に回定することである(Hjelnls1ev

1943b, Ch. 8)。 乙のような形式的定義のシステムとしての言語理論を提出したの

が,遺,igの rz語理論のレジュメJ(Hjebns1ev 1943c )にほかならない。

14)イェノレムスレウのテクストには,乙の図を例証する具体的な例があげられていな

い。 Zinna1986, p.l 02にある適切な例を参照。

15) Formeをどう沢すかは,いつも問題になる。われわれとしては, 芯:味 ・内容に

たいする外形を君、味するときは「形態J, 関係のネット ・ワークを意味するときは

「形式」と訳す乙とを原則dこしたい。したがって, ソシューノレにおける formeも,

イェノレムスレウにおける fornleも, 従来の沢とは異なるが「形式」 である (cf.

立)111986,p.263; Arrive, Gadet et Gahniche 1986. p.2iO)。

16) r形態論Jの拡大用法は,すでに「音声学とな語学の関係についてJ(Hjeltnslev

1938めにも凡られる。そ乙では,光理紫論を「内務の形態論J,空理紫論を「友引

の形態論」といいかえている。イェノレムスレウは,もし「形態論」というのが伝統

的に文法学の一部を窓味するのでなければ,i純粋31古形式の科学」そのものを「形

態論」と呼んでもよい,といっている。しかし,かれは誤解を避けるために,これ

を「グロセマティックJと呼びかえるのである (Hjelnls1ev1938a. p. 159)。乙の

点にかんしては,との論文での記述のほうが「形態論的構造」での記述よりも正磁

だといえるだろう。

17) <三活観>(conception du langage)と<-i_{活理論>(theorie du langage)

の相違については,立)111986,p.ll13以下を参照。この区別と完全には一致しない

が,イェノレムスレウ自身は「言語哲学者」と「百-iZiZi!論家J(および「専門家J)を

18:7]IJしている (Hjchnslev19111, p.l 03)。

18)乙の認染論/形態論の区分にたいする批判は,あまり説得的ではない。なぜなら,

( 339)

Page 28: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

- 28-

活実論を「15;味素の理論」と定義するならば,語業論/形態論の区分は,名称を変

えてイェノレムスレウの新しい理論体系のなかに統合される ζ とになるのだから。つ

まり,光来 (p1ereme)の理論/形態素論の区別である。 イェノレムスレウのディス

クーノレのなかでは, 現実の語~論研究にたいする批判が, 原理的区分の批判と混同

されてはいるのではないだろうか。

19)イェノレムスレウとグロセマティックにおける用語法の有縁化への配慮という問題

は,íJlJのいくつかの用語にかんする語~論的研究をつうじて明らかにされるべきで

ある。たとえば.もっとも重要な g10ssematiqueとg10ssemeK:かんして。 110r-

phematiq ue ,Cかんする研究だけで結論をだす乙とはできない。

20)イェノレムスレウの著作全体を考応、にいれて作成された表は, Zinna 1986. p. 98

に見られる。

21) r辞項J(terme),すなわち主辞 ・述辞 ・対象辞などの言語学的価値の吟味は,

Hje1ms1ev 1928, ~ 8 ~ζ見られる。

22)乙とで‘の規範/慣用の区別は,のちに「ラングとパローノレJ(Hje1mslev 1943a)

で提出された有名な図式 (schema)/規範/慣用/行為 (acte)の四分法とは,完

全には一致しない。ととでいう「規範Jは,のちの「図式」にほぼ対応すると考え

てよいだろう。

23)とこでイ;r.)レムスレウは触れていないけれど,もともとブノレークマン (K.Brug-

nlann) によって創出されたjHJEである formant (独 Formans)が「形態索J

(morpheme)と混同されたことには,翻Jてにかかわるフランスι語学の歴史上の

j以内かあるくVoirMeillet 1905, p. v; Zinna 1986, p. 92)。なお,これに「形

成ぷ」というJむIRをあてるに際しては, ト15・川島 ・日位1985,P.40を参照した。

2~) イェノレムスレウの理t倫全体における「形成ぷ理論J の位位づけとその現代的評価

にかんしては,Zinna 1986をtt.ft{i。

25) Dr~J~ :MJ1ll , i命」は, 形態ふi乙刈応する茨Dt'"j.:nを対象とする以しそれだけでJ

J.Jl!1!ftの研究全体をおおいつくよことはぐさない。それにくわえて,r充紫Jに対

応する弘;cDL災民を研究するJlI~11命が ~{i=Yf. してしかるへきである。r.怖の純時j 精 1 部

にしたがえば (IIjeltnslcv1935, p. XlI), 充取iと対応するムJll':lllは fOl・lnatif

とIIfばれるはず<..ある (¥'oirZinnλ1986. p. 101)0 Fonnantも fonnatifも1・h

メLtR日常の川tJ;を防艇し ζいるが,のちのゲロセマティック独自のJll郎訟でい,

i ,11j ~出-をあわせてしIG り・決mJ (cxpn...ssion dc slgnr) あるいは「セネマシーJ

( c(.~néln日l:i (' ) <.1 Il:f-~まれること iζなふ くYoirSL)II 1989. pp.lω・150)。しfこがっ

て,kltOL災民の;11|!"命令:体は,rセネマ、ンーJll'",fuJという乙とになるだみう。

26) ただし,つぎのW{('止が必。犯である。泌をS~ればわかーように . こと.~f持5認され山

J IJ nn= .1'1' llfu' (il~系(.:L I )~', ~f JI' )にの側だけが前!j燃でおり,その1111愉の総ぬ(『b溜!紫ii心.

およびそのこfH~I"μ) f,称(/f..説明H愉と形態紫iXLただし前fz-はテタ・ζ トに顕現して

(. 3~1O )

Page 29: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

〈形態論〉から〈形態紫論〉へ - 29ー

いなしつが与えられてい lる。と ζろが,その他の欄lとかんしては,10総称しかない

〈表現形式と内容実質の欄〉か,20二部門のうち一方しか2及されておらず,総称

もない〈表現実質の:側〉という状態である。したがって,との用活=理論体系は,

「形態論的:構造Jという論文のタイトノレも示唆するように,あくまでも内容形式の

理論をrf:'心に,それとの関連のもとに:出築されたのであって,宮前理論〈グロセマ

ティック〉全体を完全にカバーしつくすものではないのである。これを Hjchnslev1938b, 195,1等の論文で補足しつつ作成された炎 (Zinna1986, p.98) と比較し

てみるとよい。

27)乙のイェノレムスレウの用語法の不盤合を好芯;的に解釈するには,かれの処女作

r一般文法の原理J(Hje1ms1e¥T 1928)にまでさかのぼってみる必要がある。 その

際, つぎの小林英夫の指摘が参考になる。「文法の単位は定;援部と形態部である。

詳言すれば怠毅部K応じての形態管f~である。相関紙念たるととを忘れないでいるか

ぎり,いっそう簡単に,文法の単位は形態部であるJ(小:外1932,p. 110)0 r形態

系論」から「形態論Jへの償滑りの背後には,このような陥黙の論理が働いていた,

と考えられなくもなし、。つまり,内容形式の狸論としての鉱大されたぷ味における

「形態論Jの核心は, 形態素論であるという論浬が。

28)ζの論文には,前ク、、ロセマテ ィック期, とくに 『一般よ法の原理jの用訟法がと

乙ろどζ ろに残存している。たとえは I r一般文法学Jという用語。乙れが「形態

論」 ないしは「形態系論Jといかなる関係にあるのか,またそもそ もζの名祢が必

要なのかなど,かならずし も明確ではなし、。グロセマティック独自の用語法は,い

まだ完成されていないとい.うべきである。

29) n子説Jでは,イ ェノレムス レウ理論の綴心である;随時 (calegories)の理論が股

関されていないのである。 乙の点にかんしては, 立)111989,pp.129-130を参照。

30)なお,イェ ノレムスレウ以後のグロセマティ ックの現伝の展開の集大成と もい うべ

きクレマス派の 『砕典J(Greimas et Courtes 1979, 1986)にも,r形態紫11命Jの

見出しはあかつていない。

31)乙ζ数年来, ヨーロッパを中心lζ 「イ ェノレムスレウ ・ノレネサンスJの動きがある

ということをつけ加えておこう。1985年にフランスでは,フラン ソワ・ラーミチエ

(Francois Rastier)によりイ ェノレムスレウの新しい論文集が出版された (Hjel-

ms1ev 1985)。イタリアのイェ ノレムスレウ研究は乙のところもっと も進んでおり,

ふたつの雑誌かイェノレムスレウ特広号を:1リiJしているし (Ilρrotagora, N 7-8,

decembre 1985; lrersus, 43, 1986), イヱノレムスレウの皆作のイタリアIT8-.Rもオ

絡的な解説を付したものが出ている。また,1987年に刊行されたフランスのtJ!?学

-誌 Langages,86 rブレンダノレの現代性」の特集でも, その論15・の)(gH分がイェノレ

ムスレウとフレンダノレの比l佼を小心に展開されている。この動きは国際的である。

スペインでは,1969年からイェノレムスレウの片作のほとんどすべてが翻訳されてい

(341 )

Page 30: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

- 30-

るし (Madrid,Editorial Gredos),日本でも,1985年に竹内孝次による 『言語理

論序説jのデンマーク語原典からの邦訳が刊行された。われわれのささやかな仕事

もまた,とのような国際的な動きのなかに数られる ζ とだろう。 Cf.Zi1 ber berg

1986, p.129.

32)クロセマティックの自然言語の分析への適用にかんしては,Arri ve : 981を参照。

しかしながら,グロセマティ ックの創始者であるイェノレムスレウ自身も「現代フラ

ンス語の表現体系Jのような白然、吾-語の具体的分析を残しているし (Voir 立)11

1989),またヤーコブ ・マイ (JacobMey)のように,イェノレムスレウの理論的関心

〈形態泌範鴎の研究〉を継承してそれを自然言語の分析に適用している言語学者も

デンマークにはいる (VoirMey 1960)。

33)コペンハーゲン言語学サークノレにおけるイェノレムスレウの「論敵」であったブレ

ンダノレは,1936年10月23日付けのルーマニアのロマンス語学者ロゼッティあての私

的な占簡のなかで,すでにグロセマティックの用語法にたいする不快感を表明して

いる。 rわたしたちはイェノレムスレウとウノレダノレの 『グロセマティックj刊行を待

っていますが,それは空疎なものでしょうし,たんに余計な用語法に満ちただけの

ものになる ζ とでしょうJ (V. BrtJmdal' s breve til A.l. Rosetti, Det konge1ige

bibliotek, Ivls. micro 2925 neg)。 たしかに,ブレンダノレの用語法は,その理論

の革新性のわりには,イェノレムスレウのものにくらべてはるかに伝統的な用語法に

近いというべきである。

付録 :r形態論的機造J(Hjelmslev 1939)の機成

日) )J71~ (METIIODE)

1. 先験的)j法と経験的プJ払〈ルIetllOdeapriorique ef cmpirique)

1.1. r綿入部]

1.1.1. [依存関係の概念1

1.1.2. II民j放I則係の慨念]

1 . 1 .3 . U~JTJするカムの2i:総1

1 .2. [i!了典的文法学の批判]

2 . #i~~';I~(I'~刀法とれiiW的万世、 (11 1átlloda indllcliuc ct deduclit'c)

3. 一般文決三;とよれ1凪文口、'7・((;1・ammaircganaralc cf gl・0JJIJnoirO1tJIitJm・salhう

b) ~~,W Itllj)i'(D色111111'λ'TION)

lし. j形|隊妥1餓}限段i論:冶命J,11官3才.1R郎ll目.沿(

2. )r ':1!.~~ , i'l命 JtL のぶまざまれ側lill (la mortltdmnfiquc 01 s門 diurrsast山 f.'¥)

c) 乎1lI日 (PROC氏。め

.1 . 川はjのRii側i百iとそ() ~/t JJU 111日丹 (Iesns如、山内 tl'oNom(l at l~ ord,'c dc I c,"'

( 3 . 1 ~ )

'

.

Page 31: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

〈形態論〉から〈形態紫論〉へー 31ー

trai的 nent)

2. 共時論的観点と進化論的観点 (Pointsde vue syl1cJl'Yonique at evolullf)

d) 結論 (CONCLUSIOX)

テーゼ (Theses)

引用 文 献

ARRIVE, i¥1iche1 (1979) “L'epouvantai1 du structura1isme: Hjelmslev

aujourd'hui", Dialectiques, N026, Hiver 1979, Bruxelles.

ARRIV企, 1¥1iche1(1981)“La glossematiqueヘTrelldsi n Roman Linguisi.ics and

Philology, Vol. 2, Ed. by R. Posner and J. X. Green, The Haguc,

Mouton Publishers.

ARRIVE, 1¥lichel, GADET, Francoise et G人LI¥IICHE, 1¥liche1(1986) La

grammaire d' aujourd' hui, Guide altlzabetique de linguistique jrancaisc,

Paris, F1ammarion.

BRφNDA.L, Viggo (1948) Les tarties du discours, Etudes sur les calegorias

linguistiques, • Traduction francaise par Pierre Naert, Copenhague,

i¥1unksgaard.

CHEV.ALIER, Jean-C1aude et ENCREVE, Pierre (ed.) (1984) Langue

francaise 63,ぺ,Tersune histoire socia1e de 1a linguistique", Paris,

Larousse.

CORNEILLE, Jean-Pierre (1976) La linguislique structurale, Paris, Larousse.

GODEL, Robert (1957) Les sources 1nanuscrUes du Cours de ltnguistique generale

de F. de Saussure, Geneve, Droz.

GREIl¥11¥ S, A1girdas Julien et COURTES, Joseph (1979) Stmiotique,

Dlclzonnaire raisonne de la theorie du langage, Tome 1, Paris, Hachette.

GRAIl¥11¥S, A1girdas Ju1ien et COURTES, Joseph (1986) Semiotiqua,

Dictionnazre raisonne de la theorie du langage, Tome 2, Paris, I-Iachette.

GUILBERT, Louis (1975) La crealivite lexicale, Paris, Larousse.

GUILBERT, L., LAGANE, R. et NIOBEY, G, (dir.)ぐ1975)Grand Larollssa

de la la langue francaise, Tome 4, Paris, Larousse.

HJELMSLEV, Louis (1928) PrinciPes de gram1nire generale, Kゅbenhavn,Bianco

Lunos Bogtrykkeri; r一般文法の原理J,小林英夫訳,東京,三省堂,1958.

HJELMSLEV, Louis(1933)“Structure genera1e des corre1ations 1inguistiquesヘin HJELMSLEV 1973 et HJELMSLEV 1985.

(313 )

Page 32: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

- 32-

HJELlV[SL'EV, Louis (1935) IA cot句。,.,;Cdωcos,tftitsdes dc gra ιerale,

Prem.ie:re pa:rue, Universitets:forlaget i Aarhus:; :r民d. ?¥i伽lchen,

¥Vilhclnl Fink Verlag, 1972.

HJ:ELNiSLEV, Louis (193i)“La nature du pronolll!!! in HJELNISLEV 1'959.

HJELiV1SLEV, Louis (1'9認の “Sur:Ies :rapports entr,e Ja 凶onetique ,et la

linguist iqueぺinHjELNISL'EV 1985.

HJ:ELt¥1SLEV" Louis (:1 938b) “E誌3.id'u:ne theo:rie des 'Olorphenlesヘ in

1959・

'(SL'EV, Lou is (1939) uI..c"l st:ructure nlorphologiqueヘRapport.:presen

au V'C Congres lnl.,e:rnational de linguistes, in HjELNfSLEV 1959・

I .. ouis (1'941) tiA userie on l..i uistic Th :ryRPin

1973.

HJELNfSLEV" LO¥l,is (19~13a) 軒L.aU2U

HJI~Lt\ ~(Sl,,'EV, :Louis (.1943b) 011凶'.UI

t I~"lr,ol cヘinHJEL

~,.ogt,CO"ÙjlIS ,G,..lIldl LEV 195山

nh,¥¥:rn,

dui Akad,cn1 isk Forl昭, 197,6; J

u dano,is pal・

てJ"竹

' 。uis(1‘

angcr,

'

。"

!(i,I日luHII

' 自

廿nnslal.'cdby Francis J. ¥VhiUield, u Li ,li'st内U

dc Copenhngue." Vol. XVI, Copenhngu町 ~ultur

HJI・ l.ouis(l、 tructur,o,l J¥nnhTsi uage" t in HJEL?\lfSI~I

11 ..1 1~L恥ISLEV. bouis 。9(3) lis却 is liu..truistiours Ili ~l~:問、:-f\UX au

l-"Il¥su'isliQuc dc Copenhngue, Vol. Xl¥ー

Ku'l tU'I'Corlng.

EV1! bOll,¥S e 1 t185) JVÔUl~CJU.X cssais, 'I~ 'c~\陀UUs el n:l培SQn'

P.U.F.

L811isetULPALL, l l.J. t 1935】訂Etud'C:stl

Page 33: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

〈形態論〉か ら〈形態紫論〉へ ー 33一

structurale organisees au sein du Cercle Ljnguistique de Copenhague"

B1ωdletμin dzμi Cercle Lingz川4diS訂ti勾quede Copenhague,トi¥ 2, 1935; Reprintcd by

S\vet民~ & Zei tlinge灯rN. V., J¥msterdam, 1971.

柄谷 行人 (1988)rライプニッツと現実性J, r現代思想、J,Vo1. 16-12, ;llEC ~f土社.

小林 英夫 (1932)r批判的解説 ・一般文法のj京耳PJ,小林英夫著作集4,]~京, みす

ずfl;房,1977,

小林 英夫 (1934)i文法の原理J,r言話学論集 1J,小林英夫著作集 1,JI!1JC みす

ずiS房,1976.

~IEILLET, Antoine (1905)“Avertissementぺ1nK. Brugmann, /-lbrege de

Grammaiγe comρaree, Traductton franca1se, Pans, Klincksieck.

l¥1EY, Jacob Louis (1960) La categorie du nfJmbre en finnois moderne, Travaux

du Cercle Linguistique de Copenhague, Vo1. XIII, Kordisk Sprog-og

KulturfoI・lag,Copenhague.

MORTUREUX, Marie-Francoise (1984) “La denomination: approche

sociolinguistiqueぺLangages76, Paris, Larousse.

PIOCHE, Jacqueline (1977) Precis de lexlcologle francaise, Paris, :t'¥athan.

REY, Alain (1977) Le lexlque, i mages et modeles, Paris, Armand Colin.

REY, Alain (1979) La lermznologie, noms et notzons, Coll.“Que saiぬs-寸jeθ?"

Paris, P. U. F.

下宮忠雄 ・)11 {;Jj淳夫 ・日置孝次郎 (1985)r官話学小辞典J,東京,同学社.

立川 健二 (1986)r<力〉の思怨家ソシューJレJ,東京,占態風の笛破。

立川 健二 (1988)rキノレケゴーノレ,ブレンダル,イ ェノレムスレウ一一〈デンマーク

構造主義〉にかんする覚えdJ,r現代J忠怨J,Vo.16-5,東京, 白土社。

立川 健二 (1989)íノレ イ ・ イ ェノレムスレウ〈現代フランス諮の表現体系〉一一期jrJ~

と解IJlJ,r仏dE仏文学研究J,第 3号,東JR大学仏語仏文学研究会。

V ACHEK, Josef (1960) Dictionnaire de lzngωsitqM de rtcole de PMgM,

Utrechtj Anvers, Spectrum editeurs.

VENDRYES, J oseph (1921) Le langage, Inlroduclzon lingulstique a l' hislol re,

reed. Paris, Albin !vIichel, 1968.

ZILBERBERG, Claude (1986)“A propos de l' edition francaise des .LVozweaux

Essals", 1 rersus 43, BolognajMilano, Bompiani,

ZINN.A, Alessandro (1986)“La theorie des formants. Essai sur la pensee

morphematique de Loujs Hjelmslev", Fersus 43, BolognajMilano,

Bompiani.

(345 )

Page 34: 〈形態論〉から《形態素論〉へ - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBd...(Hjelmslev 1939, p. 133) 1) o. 研究の目的と方法

- 34ー

DE LA“MORPHOLOGIE" A LA

“MORPHEMATIQUE" :

Une approche lexicologique de la terminologie

de Louis Hjelmslev

Kenji T A TSUKA W A

RESUME:

Approche non pas epistemologique, mais lexicologique de la

terminologie de la glossematiq ue, cette etude a pour objectif de mettre

en evidence le processus par lequelle terme traditionnel de morthologie

est remplace par le nouveau terme theorique de moゆhematiquedans

un texte de Louis Hjelmslev: ttLa structure morphologique" (1939).

Apres l'analyse des etapes de la mise en place de cette neologie,

on comprend que la coherence de la demarche hjelmslevienne est due

au fait que la restructuration de la theorie implique pour lui celle de

la terminologie en vue d'un systeme axiomatique de termes-concepts.

A la fin de l'article, la question se pose de savoir s'il est legitime de

parler de l'勺nfortune"de la glossematique, qui est souvent consideree

comme la consequence de sa demarche axiomatique, en particulier au

niveau de la terminologie.

(346 )

• 由

‘ 、•

-

• 、

..

..... 'J •

司炉