創造的・論理的思考を高める文学的文章の学習指導国-0...

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創造的・論理的思考を高める文学的文章の学習指導 -「問い」の追究活動における思考方法の活用を通して- 福岡市教育センター 国語科研究室 平成 29 年度 研究報告書 (第 1024 号) G1-02 G1-03 小,中学校の新学習指導要領国語科における思考力,判断力,表現力等 は,創造的・論理的思考の側面,感性・情緒の側面,他者とのコミュニケ ーションの側面から整理されている。 そこで,国語科研究室では,昨年度から,その第一に挙げられている創 造的・論理的思考の側面に着目し,文学的文章の指導における「問い」の 追究活動を手だてとして研究を進めてきた。 本年度はそれに加えて,思考方法「比較」「分類」「関係付け」「理由 付け」「推論」「評価・批判」の活用に視点を当てて研究実践を行った。 具体的には,「問い」を作り,解決する場における思考方法の提示やそ れに基づく発問・指示,思考の視覚化,振り返りの場における振り返りシ ートの工夫といった,思考方法の活用を意識させる手だての工夫に取り組 んだ。 その結果,児童生徒が思考方法を意識して学習に取り組み,「問い」を 解決することを通して,創造的・論理的思考が高まった姿が見られた。

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国-0

創造的・論理的思考を高める文学的文章の学習指導

-「問い」の追究活動における思考方法の活用を通して-

福岡市教育センター

国語科研究室

平成 29 年度

研究報告書

(第 1024 号)

G1-02

G1-03

小,中学校の新学習指導要領国語科における思考力,判断力,表現力等

は,創造的・論理的思考の側面,感性・情緒の側面,他者とのコミュニケ

ーションの側面から整理されている。

そこで,国語科研究室では,昨年度から,その第一に挙げられている創

造的・論理的思考の側面に着目し,文学的文章の指導における「問い」の

追究活動を手だてとして研究を進めてきた。

本年度はそれに加えて,思考方法「比較」「分類」「関係付け」「理由

付け」「推論」「評価・批判」の活用に視点を当てて研究実践を行った。

具体的には,「問い」を作り,解決する場における思考方法の提示やそ

れに基づく発問・指示,思考の視覚化,振り返りの場における振り返りシ

ートの工夫といった,思考方法の活用を意識させる手だての工夫に取り組

んだ。

その結果,児童生徒が思考方法を意識して学習に取り組み,「問い」を

解決することを通して,創造的・論理的思考が高まった姿が見られた。

国-1

出題の趣旨

国語 B

目的に応じて,文章

の内容を的確に押さ

え,自分の考えを明確

にしながら読む

50.6%

(-2.3)

15.6%

(4.2)

国語 B

本や文章などから必

要な情報を読み取り,

根拠を明確にして考え

を書く

58.6%

(0.9)

22.1%

(-0.7)

表-1 平成 28 年度全国学力・学習状況調査

福岡市 全国 全国比

小学校第6学年 70.9% 74.0% -3.1

中学校第3学年 63.2% 66.7% -3.5

表-2 平成 28 年度全国学力・学習状況調査

児童生徒質問紙(68)の結果

1 主題について

(1) 主題設定の理由

① 国の動向

平成28年12月中央教育審議会「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指

導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」では,国語科において育成をめざす資質・

能力について,言語能力を構成する資質・能力の整理を踏まえ,「知識及び技能」「思考力,判

断力,表現力等」「学びに向かう力,人間性等」の三つの柱に沿った整理が行われた。その中の

「思考力,判断力,表現力等」は,「創造的・論理的思考力の側面」「感性・情緒の側面」「他

者とのコミュニケーションの側面」の三つで整理されている。同答申では「これからの子供たち

には,創造的・論理的思考を高めるために,『思考力,判断力,表現力等』の『情報を多面的・

多角的に精査し構造化する力』がこれまで以上に必要とされる」とあり,「創造的・論理的思考」

を育成する重要性が強調されていることが分かる。

では,このような動向の中,本市児童生徒や教員の実態はどうだろうか。

② 福岡市の児童生徒の実態

○ 平成 28 年度全国学力・学習状況調査の結果から

表-1は,平成28年度全国学力・学習状況

調査において,正答率が低かった問題と無解

答率を表している。正答率は小・中学校とも

に50~60%であり,小学校では,6人に1人,

中学校では,5人に1人が無解答という現状

が見られる。どのように考えればよいのか,

どのように表現すればよいのか分からないた

め,自分の考えを明確にしたり,それを支え

る根拠を明確にしたりする力が十分に身に付

いていないと考えられる。

表-2は,同調査における児童生徒質問紙

の質問項目68の回答結果を表している。これ

によると,「自分の考えを書くときにその理

由が分かるように気を付けて書く」と回答し

た児童生徒は,全国と比べて3ポイント程度

低い。論理的思考では,考え,根拠,理由付

けの3点を基に筋道立てて考えることが大切

であるが,理由を明確にする意識も十分とは

言いがたい。

以上の結果から,児童生徒には,考えの根拠を明確にする力も,理由付けに対する意識も課

題があると言える。

○ 本市教員対象のアンケートより

上記の結果を基に,本研究室では,国語科

「読み」の学習に関するアンケートを作成し,

本市小学校教員129名,中学校国語科教員71名

を対象に実施した。

その中で,「児童生徒が考えを交流する際

に,思考を可視化する活動を取り入れている

か」,また「考えの根拠や理由を吟味し合う

指導をしているか」という質問に対しては,

肯定的回答は 50%程度にとどまっていた(図

-1)。これは,授業の中で筋道立てて自分

の考えをまとめたり,自分の考えと,文脈や言

葉・生活経験を関連付けることで,考えの理由

を吟味し,よりよい考えを生み出したりする図-1 本市教員対象アンケート①

国-2

ような交流活動ができていないことが一

因であると考える。創造的・論理的思考を

高めるという視点での交流活動の工夫に

取り組むことが,本市には重要であると考

えた。

また,「単元の学習を振り返る際に当該

単元で身に付けた知識や技能を確認し,次

の学習に活用できるような工夫をしてい

るか」という質問に対しての否定的な回答

は30~40%を超えており(図-2),授業

の時間や単元において,身に付けるべき知

識・技能を次の単元まで見通して活用でき

るような工夫はまだ不十分であることが

分かる。身に付けた知識や技能が,次の単元・他の学習にも生きるということを児童生徒に自覚

させるような手だてが必要である。

③ 昨年度の本研究室の成果と課題

昨年度の本研究室では,主題を「創造的・論理的思考力を育てる文学的文章の指導法」として,

「問い」を基にして交流する場の工夫を副主題に研究を行った。「問い」を,「言葉の意味や対

象のとらえ方などに対する児童生徒の内から出てくる疑問や関心であり,『なぜ,どうすれば,

どのように』などの語彙で表すことができる」と定義し,児童生徒が作った「問い」を基にして,

小集団や全体交流の場で,読みを深めることをめざしてきた。自ら問いを作ったり,それを解決

したりするための交流を行うことで成果があり,「主体的・対話的な学び」は実現できた。

一方,「問い」を作り,解決する際には,どのように考えるのかについての具体的な支援に課

題が見られた。「深い学び」の実現に向けて,「問い」を作り,解決する際の思考方法の活用につ

いて工夫が必要と言える。

④ 先行研究

福岡教育大学附属小倉小学校(2013)では,国語科の「読むこと」における「創造的に思考する」

とは,「自分の思いや願いを実現するために必要な言語活動に問題を見出し,論理的に考えたり,

豊かに想像したりしながら価値ある表現や理解をつくりだす」姿であるとしている。その姿の達

成に向けて,テキストの学習材化,読む目的意識が継続する単元展開,創造的な思考を活性化さ

せる言語活動の仕組み方を手だてとして授業づくりに取り組んでいる。「自ら問題を見出す」こ

とが創造的思考のスタートであると考え,思考方法を用いた言語活動の位置付けと手だての具体

化を基に,児童の読みを広げ深める実践と言える。

また,佐藤,有田(2017)は,論文「『創造的・論理的思考』を鍛える21世紀型教育」におい

て,中学校3年小説教材「故郷」(魯迅)における実践事例,パフォーマンス評価やメタ認知の

開発提案をしている。論理性(習得)を踏まえた創造性(活用・探究)の育成に言及しており,

学習過程に着目した実践と言える。

これらの先行研究から,「創造的・論理的思考」に関わる指導には,思考方法や学習過程に着

目することが大切と分かる。

以上の理由から,国語科における「創造的・論理的思考」を高めることは,本市児童生徒の課題

である筋道を立てて考える力や自分の知識や経験と関連付けながら考えを作る力を身に付けさせ

ることにつながるため大変意義深く,さらに,思考方法と学習過程の二つの視点から研究を行うべ

きと考え,本研究主題及び副主題を設定した。

(2) 主題及び副主題の意味

① 創造的・論理的思考とは

創造的・論理的思考とは,これまでの学習や生活経験で身に付けた知識や技能を関連付けなが

ら筋道立てて考え,言葉と言葉の間に新たな意味を見いだすことである。

② 「問い」の追究活動とは

「問い」の追究活動とは,自分の読み(解釈)を深めるために,児童生徒が主体的に「問い」

を設定し,解決していく営みである。

図-2 本市教員対象アンケート②

小学校…

中学校…

国-3

資料-1 本研究における思考方法

思考方法 具体的な内容

比較 複数の対象の共通点や相違点を明らかにすること

分類 複数の対象を共通点や相違点を観点にしてグループ分けすること

関係付け 二つの対象同士を結び付け,意味付けること

理由付け 考えの根拠を明示すること

推論 知識や経験を基に,「知らない・分からない」などの対象について,筋道立てて

推し測ること

評価・批判 対象の価値,妥当性等について吟味・検討すること

※ 思考方法の具体的な内容を基に,国語科長期研修員が図化した。図の○,△は,対象を表す。

③ 思考方法とは

思考方法とは,どのように考えるのかを具体的に示した手法である。

先行研究を見てみると,「思考スキル」(関西大学初等部),「思考のすべ」(角屋重樹 他),

「考えるすべ」(新潟大学教育学部附属新潟小学校)等,様々な思考方法がある。本研究では,

新学習指導要領における国語科の「思考力・判断力・表現力等」(C 読むこと),「創造的・論

理的思考」の定義,先行研究を踏まえ,思考方法を六つに整理した(資料-1)。

④ 思考方法の活用とは

思考方法の活用とは,児童生徒に六つの思考方法を意識させながら,効果的に位置付けて用い

ることである。

2 研究の目標

「問い」の追究活動における思考方法の活用を通して,創造的・論理的思考を高める文学的文章の

学習指導の在り方を明らかにする。

3 研究の仮説

児童生徒が「問い」を作り,解決する場,振り返りの場を設定し,思考方法の活用を意識させる手

だてを工夫すれば,創造的・論理的思考を高める文学的文章の学習指導の在り方を明らかにすること

ができるであろう。

4 研究の構想

(1) 内容

本研究では,検証単元で身に付けさせたい力と連動させた学習過程(「問い」の追究活動)を設

定し,思考方法の活用を取り入れた授業実践を行い,創造的・論理的思考を高めることをめざす。

(2) 手だて

① 「問い」を作り,解決する場

○ 本単元で活用する思考方法の提示(本時のめあて,既習カード,単元計画カード)

○ 思考方法に基づく発問や指示

○ 思考の視覚化(付箋,交流ボード,ワークシート)

② 振り返りの場

○ 毎時間の学びを1枚にまとめた振り返りシートの工夫(自己評価・教員の評価)

国-4

(3) 学習過程

本研究においては,単元の学習過程を次の三つの段階に設定する。

① 第一次 読みの視点をもった上で,「問い」を作る。

まず,題名や冒頭を読んで生まれた疑問や関心(読みの視点)をもたせ,単元名やリード文と

つないで単元のめあてを設定する。次に,単元のめあてを達成するために,個人で作った「問い」

を基に思考方法を活用してグループや全体で交流させ,全体で追究する「問い」を決定する。

② 第二次 「問い」の解決を基に,自分の読みを深める。

思考方法を活用して自分の読み(「問い」の答え)をつくり,グループでそれぞれの読みを交

流する。そして,グループ交流を基に全体で読みを交流し,自分の読みを深める。

③ 第三次 自分の読みを基に,単元のめあてを達成する。

振り返りシートを基に深まった自分の読みをまとめ,単元の学習を通して学んだことを確か

め,次の読みに生かす。

(4) 研究の検証

① 検証内容

「問い」の追究活動における思考方法の活用は,創造的・論理的思考の高まりに有効であったか。

② 検証方法

次の検証資料の分析を行い,創造的・論理的思考の高まりを検証する。

○ 児童生徒の発言,授業中の様相観察

○ 付箋,交流ボード,ワークシートの記述

○ 振り返りシートの記述

5 研究構想図

図-3 研究構想図

国-5

6 研究の実際と考察

(1) 小学校第2学年の指導の実践~「関係付け」の活用を中心に~

音読げきをしよう「お手紙」

① 単元の考え方

第一次では,教員が実演することで「音読げき」に出会わせる。そして,今までの「音読」よ

りもさらに登場人物の様子や気持ちが伝わりやすいということに気付かせる。そこで,「音読げ

き」を成功させるために登場人物の様子や気持ちを詳しく読んでいくという意識をもたせ,「音

読げきを成功させよう」という単元のめあてを作る。題名を読んでどんな登場人物が登場するの

か,どんな出来事が起こるのかなどを考えさせ,全文を読む。そして,人物の様子や気持ちにつ

いて全体で「問い」を作成し,学習計画を立てる。

第二次では,学習計画を基に,各場面の「問い」を解決するための思考方法を児童に提示した。

その際,場面の「問い」を解決するために必要な思考方法を考えさせながら読み進めていく。

第三次では,これまでに読んできた内容と思考方法についてまとめを行う。その後,各自で「音

読げき」をする場面を決める。単元のめあてである「音読げき」をするために,学習で明らかに

した登場人物の様子や気持ちを生かせるように「音読げき」の練習をして,「音読げき交流会」

を行う。

② 指導の実際

ア 「問い」を作る過程

はじめに,「音読げき」を成功させるためには,登場人物の様子や気持ちの変化を読む必要

があることを全体で確認した。その後,全文を読んで挿絵を並び替えて話の内容を整理し,登

場人物の様子や気持ちを中心に「よく分からないこと」を話し合い,「問い」を作った(資料

-2)。

イ 「問い」を解決する場における「関係付け」の活用

まず,「どうしてかえるくんはかたつむりくんに手紙を

渡したのかな」という「問い」を解決するために,かたつ

むりくんにお手紙を預けた(届けるようにお願いした)理

由を本文から探させた。その際,「自分がかえるくんだっ

たらかたつむりくんにお手紙を預けるか」を考えさせた(資

料-3)。「預ける」「預けない」の立場で分かれ,それ

ぞれの意見を出し合い,似ているところや違うところを全

体で整理した。どちらの立場でも「かえるくんを早く喜ば

せたい気持ちがあること」「お手紙が大事なものであるこ

と」が分かり,全体の読みとしてまとめた。

その後のがまくんの家にいるときの二人の様子や気持ち

を考える際には,かえるくんの焦る気持ちとがまくんのお

手紙を待つことに飽き飽きしている様子を叙述を基に「関

資料-2「問い」を作る場

どうして

お手紙が

来ないの

かな。

どうしてお

手紙の内容

を言ってし

まったのだ

ろう。

登場人物の様子や気持ちで分からないところ

を出し合わせる。

どうして

かたつむ

りくんに

お手紙を

渡したの

かな。

全体で「問い」を出し合い,「その場で解決でき

るもの」「読んでも分からないもの」「みんなで

読んでいくもの」に分けさせる。

「問い」の決定(全体)

資料-3 児童の学習シート

「問い」の作成(個人)

国-6

係付け」させることで,思考方法を活用して読みを作ら

せた(資料-4)。

また,お手紙のことを言ってしまったかえるくんの気

持ちを考える際には,この場面だけ読んでも答えがよく

分からないときはどうすればよいか考えさせた。そして,

「この場面を読んだだけでは分からないなら,前の場面

からも考えてみよう。」と指示した。すると,既習内容

を生かし,がまくんを喜ばせたいかえるくんの気持ちと

しつこいかえるくんにいら立つがまくんの様子を「関係

付け」ることで,我慢できなくて思わず手紙のことを言

ってしまったかえるくんの気持ちをまとめることができ

た。

最後の場面では,本時の場面を読んだだけでは分からない

と気付くと「前の場面とつなげばよい」という答えが児童か

ら出てきた。そこで,前時までにまとめた読みを基に,今ま

での場面の文章を「関係付け」ながらそれぞれが読みを作っ

た。そしてそれらを全体交流することで,二人が幸せな気持

ちになったのはいくつかの理由があることが分かり,「問い」

を解決することができた。

毎時の振り返りでは,活用した思考方法を意識させること

で,自分の読みをもつことや,登場人物の様子や気持ちが分

かったなどの有用感をもたせることができた(資料‐5)。

③ 考察

○ 単元を通して,「関係付け」る思考方法を活用させたことにより,本時の場面だけで考えるの

ではなく,既習場面や読みとつないで自分の読みを作ることで「問い」が解決できることを実感

させることができた。

○ 学習の振り返りを書かせる際には,「今日の学習で分かったこと」「どう考えたら分かったか」

の2点で書かせることで,自分が使った思考方法を自覚させることができた。

● その思考方法を使ったことによって具体的にどんなことが分かったのか,どんなよさがあった

のかまで言及している児童は見られなかった。「関係付け」ることにより, 自分の読みを作るこ

とができたことや全体の読みを作ることができたことを意識させる必要があった。そうすること

で、活用できる思考方法が増えたときに使い分けできるようになると考える。

二人が手紙が来る前に幸せな気持ちになった

理由はいろいろあり,それは,今までの考えや

文章とつなげば分かる。

「問い」の解決(個人→ペア) 「問い」の解決(全体)

がまくんが幸せな気持ち

になった理由,かえるくん

が幸せな気持ちになった

理由をそれぞれの立場で

考えさせる。

C1: お手紙をもらったことがないのに,書いて

くれたからだと思います。

C2: がまくんのために大急ぎで書いていたね。

「問い」

資料-6 「問い」を解決する場

資料-5 児童の振り返りシート

資料-4 全体でまとめた読み

この場面を詳しく読ん

でも分かりそうにない

ときには,前の場面の

文章とつないで読めば

いい。

どうしてお手紙

をもらっていな

いのに二人は幸

せな気持ちなの

だろう。

「問い」を解決するためには,本時の場面のどこを読めばい

いのか考えさせることで,活用する思考方法を確認し,本時

のめあてを提示する。

国―7

(2) 小学校第5学年の実践~「分類」「評価・批判」の活用を中心に~

すぐれた表現に着目して,物語のみりょくを伝え合おう「大造じいさんとガン」

① 単元の考え方

第一次では,全文を読んで,情景描写,ガンの様子や大造じいさんの心情が,豊かな表現で描

いてある教材であることをつかませる。その後,すぐれた表現に着目しながら読み深め,自分が

感じた物語のみりょくをまとめるという単元のめあてを作らせる。そして,「問い」を作り学習

計画を立てる。

第二次では,それぞれの「問い」を解決する際に,3~4人程度のグル-プをつくり,ボード

で読みを「分類」させる。その後,お互いの読みを「評価・批判」させたことを取り入れて,自

分の読みをまとめさせる。

第三次では,自分の感じた物語のみりょくをまとめさせた後に,友達との共通点や違いを交流

させ最後に,並行読書してきた椋鳩十作品のみりょくをカ-ドにまとめさせる。

② 指導の実際

ア 「問い」を作る場

はじめに,題名と冒頭の文を「関係付け」ることで「語り手は,こ

の話の何が心に残ったのだろう。」という読みの視点をもたせた。そ

して,全文を読んで,語り手が心に残ったことを豊かな表現で描いて

いることをとらえさせ,「すぐれた表現に目をつけて読み,私が見つ

けた物語のみりょく交流会をしよう。」という単元のめあてを作った。

次に,個人で作った「問い」を,グループや全体の場で整理させた。

児童は,交流ボードを使って,付箋に書いた「問い」を,類似点や相

違点に目をつけて「分類」した。さらに,全体交流では「読んでも分

からない」「少し読めば分かる」「みんなで深めたい」という三つの

観点で,問いを「評価・批判」させた。その後,クラス全体で交流し

ながら三つの「問い」に集約した。「問い」を作る際は,既習の「ご

んぎつね」の学習を例として挙げ,本単元で使う思考方法を提示した

(資料-7)。

イ 問いを解決する場における「分類」「評価・批判」の活用

まず,学習計画で立てていた「問い」3を,

前時に交流したことと比較させ,もう一度練

り直した。児童は,前時の読みとつないで,

初めに作った「問い」より,質の高い「問い」

を作ることができていた(資料-3)。

次に,「問い」に対する自分の読みを付箋

に書き込ませ,4の場面の全文が載ったプリ

ントに貼らせ,根拠となる叙述に書き込みを

させた。

資料-8「問い」を作る場

読んでも 分からない

資料-7 既習とつないだ 思考方法の提示資料の例

つかまえられなか

ったのに晴れ晴れ

ぜ?

なぜいつまでも

見守っていたの?

大造じいさんは、

なぜたくさんつり

ばりをまいたの?

1 自分を困らせるガンに対して,な

ぜ「ううむ。」「ううん。」と感嘆の

声をもらすようになったのか。

2 なぜ,大造じいさんは残雪の姿に

強く心を打たれたのか。

3 なぜ晴れ晴れとした顔で,いつま

でも見守っていたのか。

少し読めば分かる

「問い」の交流(グループ) 「問い」の決定(全体)

「分類」した考えを,観点を与えて「評

価・批判」させ,全体で追究する「問

い」を決める。

○ 「問い」の決定のとき ・残雪のことをいまいましいと思っていたはずな

に,そんな鳥をなぜ見守るのだろう。 ○ 本時 ・残雪をうてなくて,狩人としてくやしいはずなの に,なぜ逃がして晴れ晴れするのだろう。

・心を打たれるくらいすごい存在の残雪を逃がした のに,なぜ晴れ晴れとした顔になるのだろう。

「問い」の作成(個人)

みんなで

深めたい

資料-9「問い」3の変化

「問い」を「比較」させ,類似点

や相違点に目をつけて「分類」さ

せる。

自分の経験や叙述と「関係付

け」ることで,自分の読みたい

「問い」を付箋に書く。

A班の交流ボ-ド

国―8

そして,4人程度の班でグル-プ交流を行った。その際,交流ボ-ドに自分の読みを書いた

付箋を貼りながら,グル-プで,読みを「分類」しながら整理させるようにした。A班では,

読み同士を①ひきょうなやり方では戦いたくない,②また一緒に戦えるのが楽しみ,③残雪の

ことが心配という,主に三つの読みに分けていた(資料-10)。

その後,すべてグル-プの中か

ら比較的多様な読みが出ているグ

ル-プに一度提案として発表をさ

せた後で,グル-プごとにもう一

度相談する時間を取り,全体交流

を行った。全体交流では,上記の

①・②の読みに集中した交流にな

ったので,「いつまでも見守って

いたのはなぜだろう。」と問いかけ,最初は少数意見だった③の読みの

よさも,全体に広げることをねらった。その際,大造じいさんの心情を

スモモの花の様子に例えている一文に目を向けさせることで,児童は様

様な読みを作ることができていた(資料-11)。

最後に,交流を基に広がったり深まったりした読みを振り返りシート

に書きまとめさせた。本時は最後の場面であり,「分類」したそれぞれ

の読みを「評価・批判」しながら書かせた。分類した交流ボードや板書

を手がかりにして,読みと,その根拠に目を向けさせることで,7割以

上の児童が最初の自分の考えより深まった読みを書いていた(資料-12)。

③ 考察

○ 交流ボードを用いて考えを「分類」したことで,一人一人が読みの相

違点や共通点に気付くことができ,グループ交流を通して,児童主体で

読みを深めることができたと考える。

○ 「評価・批判」の例を,既習カードを使ってあらかじめ提示して具体

化することで,学習が進むにつれて自発的に「評価・批判」しながら,

どの考えがよりよいか考えようとする児童が増え,振り返りシートで読

みの深まりが見られた。

● 本時は,最後の場面であり,受けとめ方を読み手に委ねている部分が

あった。「評価・批判」という思考方法を用いても,正解と言える読み

はなく,書きまとめに戸惑う児童もいた。読みの広がりが大きい場面で

の「評価・批判」の思考方法の活用とはどういう姿なのかを明確にする

ことで,さらに読みを深めるための手だての工夫が必要であると考える。

C1 また堂々と戦おうという意見に付け加えて,「らんまんと咲いたスモモの花が…」には大造じいさんの気持ちが込められていて,きれいだなとか気持ちがいいなという気持ちが分かると思います。

T その続きの「雪のように清らかにはらはらと散りました。」というところからは,どんな気持ちが分かりますか。

C2 はらはらと散りましたは,さみしい感じがして,本当は行ってほしくないとかさみしいと思っていると思います。

C3 心配とか不安という気持ちがあると思います。

資料-11 交流の様子

残雪の姿に心を

うたれたから

また戦えるのが

楽しみだから

残雪のことが

心配だから

自分の考え(個人) 交流(グループ→提案→グループ) 「問い」の解決(全体)

学習計画で立てた「問

い」を,前時に深まっ

た考えと「比較」させ,

「問い」をもう一度練

り直した。

根拠となる叙述や

言葉を「関係付け」

ながら考えをつく

るよう指示をし,

自分の読みを付箋

に書かせた。

読みの類似点や相違点に着目

しながら「分類」して視覚化さ

せた交流ボードを用いて,グル

ープ交流を行ったり,代表グル

-プの提案と自分たちの読み

を「比較」させたりした。

教師の発問を基に,自分の経験

から「推論」したり,いくつか

出た考えを「評価・批判」した

りしながら,本時の「問い」に

ついて深まった自分の考えを

書きまとめさせる(資料-11)。

A班の交流ボ-ド

資料-10 「問い」を解決する場

全体交流の様子

「問い」

② ③

資料-12 本時の学び

なぜ、晴れ晴れと

した顔でいつま

でも見守ったの

か。

「問い」3

国-9

資料-13「問い」を作る場

(3) 小学校5学年の実践~「分類」「関係付け」の活用を中心に~ 特色をとらえながら読み,物語をめぐって話し合おう「わらぐつの中の神様」

① 単元の考え方 第一次では,「『わらぐつの中の神様における物語の特色とは何か』について考えて読む」と

いう単元のめあてをもたせ,初読の感想を基に「分類」「関係付け」という思考方法を活用して追究していくという学習計画を立て,単元計画カードとして掲示する。

第二次では,まず,読みの視点として「マサエの変容」「おみつさんと大工さんの考え方や生

き方」を確認し,登場人物の人柄やものの見方・考え方について読みをまとめさせる。次に,物

語の特色のとらえ方について「人物」「構成」「方言の効果」の三つの観点で「分類」し,それぞれについて読み確かめさせる。最後に,読後感につながる特色は何かについて「関係付け」て読みを深めさせる。

第三次では,同一作者の物語の並行読書を基に「わらぐつの中の神様」との類似点や相違点に

ついて考えさせ,登場人物の相互関係や心情,場面の描写等とらえた特色について話し合いを通

して自分の読みとしてまとめる。そして,思考方法の活用や,物語をめぐって話し合う活動のよ

さについて価値付けをし,学習のまとめとする。

② 指導の実際

ア 「問い」を作る場

はじめに,「わらぐつの中の神様」の全文を読み,初読の感想文を書かせた。感想文を読み

合うことで,感想の違いに気付かせ,それぞれの「読後感」は物語のどこからくるのかについ

て考えさせ,『わらぐつの中の神様における物語の特色とは何か,物語をめぐって話し合おう』

という単元のめあてをもたせた。

読みの視点を基に作った「問い」を付箋に書き出し,視覚化を図り分類することで,特色に

関係するものとして,①登場人物の魅力(人柄やものの見方・考え方),②構成の工夫,③方

言の効果(会話文や表現)という三つにまとめることができた。そこで,思考方法を提示する

ことで,「問い」を解決し,思考方法を使って物語の特色について読み確かめていくという学

習計画を立てた(資料-13)。

「問い」の作成(個人)

初読の感想「読後感」の違い

を交流することで「ずれ」に

ついて意識させ,感想をもっ

た理由や根拠となった叙述を

基に読みの視点をもつ。

「問い」の交流(グループ) 「問い」の決定(全体)

付箋を使って根拠となっている叙

述から「問い」を出し合い,分類す

る。物語の特色に関係しているもの

として「人物」「構成」「方言」の

三つにまとめる。

学習計画を基に読み確かめる

「問い」を解決するため「単

元学習カード」を基に思考方

法を使って読み確かめてい

くという学習計画を立てる。

登場人物

について

「問い」を付箋に書き,「分類」する

物語の構成

について

会話文

方言

について

読み確めることを思考方法と合わせて計画する

不思議だ

温かい感じがする

初読の感想をもつ

「比較」

してみよう

「関係付け」

てみよう

「問い」を作る(個人)

国-10

資料-14 「問い」を解決する場

イ 「問い」を解決する場における「分類」「関係付け」の活用

前時までに読み確かめた特色(①登場人物の魅力,②構成の工夫,③方言の効果)を根拠に,それぞれの読みを「関係付け」,読みを深めさせる展開とした(資料-14)。 まず,特色ごとの同質グループをつくり,付箋を使って根拠となる叙述を「分類」し,理

由を交流する場を設定した。 次に,全体での交流を通して特色ごとに「分類」して整理した自分の読みを出し合い,解

釈を吟味しながら物語の特色について「関係付け」てまとめさせた。 最後に,読後感につながる特色は何かについて交流をすることで,「関係付け」たことを

「理由付け」ながら,この物語の構成に付随した様々な表現の工夫と効果について,読みを深めさせることができた。

③ 考察

○ 「問い」を解決するために,一人一人の読みを付箋に書かせたことで,「分類」という思考

方法を活用することができ,叙述を根拠として整理し,再構成させることができた。それを「関

係付け」ることで,物語そのものを味わいながらも特色を分析的にとらえ,作品のおもしろさ

がどのようなところにあるのかについて読みを深めさせることができた。

● 追究活動において,さらに論理的な思考を働かせる姿をめざすためには,なぜそれがよいか

というような「評価・批判」する思考方法を活動後に位置付けることで,主体的に読みを再構

成させることができると考える。

「関係付け」ながら読みをまとめた板書

「問い」の解決(全体) 「問い」の解決(個人→グループ)

物語の特色について叙述を根拠とした

読みを付箋に書き込み,分類しながらさ

らに読みを深めていった。

〈「構成」グループの交流〉

C 「おみつさんは,特別

美しいというわけでは

~」は,一緒に昔話を

聞いているような感じ

になる構成の工夫だ。

C 「おみつさんって,お

ばあちゃんのことだ

ったの」という文は,

後からマサエと一緒

に登場人物が分かる

ようになっている。

C 一緒に読み手もおば

あちゃんの話に驚き

がある面白い工夫だ。

「構成の工夫」が特色と考

え,交流の中で根拠となる

叙述を基に付箋に書き込み

ながら読みを作った。

〈読後感についての全体交流〉

T 特色を基に関係付けて考えると,読

後感はどのように見直せますか。

C 会話文や人物の魅力から温かくて

気持ちが伝わるお話です。

C 方言の話し方も大工さんの人柄も

魅力が伝わるいい話です。

T 初めに感想でいい話と言っていた

のは,何のことだったのかな。

C 「神様」というのは,人のがんばる

思いのことだと思います。大工さんの

優しさやおみつさんの思いのことだ

と思います。昔話や,後から分かるお

ばあちゃんの語りやその構成がさら

に思いを感じさせるのでいい話と感

じるのだと思います。

グループごとの読みを交流し物語の

特色を「関係付け」て,読後感につい

て読みをまとめた。

叙述を付箋に書き出し,「分類」する

国-11

(4) 中学校第2学年の実践~「比較」「推論」の活用を中心に~

物語に表れているものの見方や考え方を読み取り,自分の考えを深めよう「扇の的」平家物語から

➀ 単元の考え方

第一次では, 初読の読みを書かせ,古典の特徴(歴史的仮名遣い,助詞の省略)や物語の設

定をとらえ,文中の語句を根拠に「問い」を作らせる。そして,「比較」「推論」という思考方法

を活用して追究していくという計画を立てる。

第二次では,文章と文章を「比較」したり,「関係付け」たりして,文章構成や論理の展開,

表現の効果について考えた上で,登場人物の心情から,当時の人々のものの見方や考え方を読み

取るために,「問い」の解決に入る。

第三次では,物語に表れている当時の人々のものの見方や考え方について,根拠を明確にして,

自分の読みをもたせ,他者の読みと比較させる。読み取った叙述を自分の体験と「関係付け」な

がら意欲的に読み深める。その後,自分の読みを既習の知識や自分の体験を基に,読みを広げた

り深めたりさせる。

② 指導の実際

ア 読みの視点をもち,「問い」を作る

題名と本文を通読させ,初読の読みを全体で交流させた。その後,ジャンル,成立時代,物

語の日時,登場人物,主人公である那須与一,与一の困難な状況,文章構成を読み取った。

そして,個人で作った「問い」をグループで分類し,全体で共通した人物像に迫る「問い」

に絞り,クラス全体の「問い」に決定した。

個人の「問い」を出し合う生徒 グループのホワイトボード

資料-15 クラスで決めた「問い」

資料-16 「問い」を作る場

1 与一は義経から命令された時,なぜ,断ったのか。

2 海に馬を乗り入れたときの与一の心情はどのようなものだったか。

3 扇の的を見事に射たときの周りの武士たちの心情はどのようなものだったか。

4 「年五十ばかりなる男」は,なぜ舞を舞ったのか。その心情はどのようなものだったか。

5 義経はなぜ,舞を舞っていた男を殺すよう命じたのか。

6 与一が「年五十ばかりなる男」を射倒した場面で「あ、射たり。」と言った人と「情けなし。」

と言った人,それぞれの心情はどのようなものだったか。

「問い」の作成(個人) 「問い」の交流(グループ) 「問い」の決定(全体)

登場人物の言動の理

由,行動の「比較」,

文と文の「関係付け」

から「問い」を作る。

「問い」同士を「比較」させ,

本文の叙述を基に,互いに意

見を出し合って「分類」し,

登場人物の心情や考え方に関

わる「問い」に絞る。

グループの「問い」を再度「比較」し,人物像に視

点をあて,共通したもの,少数の「問い」から,登

場人物の人物像に迫るものを挙げさせ,全体の「問

い」として決定する。

国-12

イ 「問い」を解決する場における「比較」「推論」の活用

「問い」について,自分の読みを基に,グループ交流を行った。その際,全体で本文に根拠と

なる叙述があるか確認していった。

また,那須与一,源義経,舞を舞った平家方の老臣といった登場人物の置かれた立場や心情を

比較させるために,「問い」の根拠になる文と文との関係を全体で共有した。源氏か平家かの違

い,大将として戦の流れや軍の士気を考え行動している義経など,人は立場によって心情が異な

ることを理解させた(資料―17)。

年五十ばかりなる男(平家) 義経(源氏)

ウ 「推論」を活用した追究活動~主題に迫り,学んだ内容を生かして読むことを中心に~

作者がこの物語を通して読者に「何」を伝えたかったのかをワークシートに自分の読みを書か

せた。その後,「扇の的」の次にある「弓流し」を読ませた。その際,作品に共通して描かれてい

る「誇りを大切にして生きる武士たちの物語」であることを読み取らせた。自分の知識や経験を

基に「平家と源氏の裏方での出来事を,武士を主人公としながら,人間のありのままの姿を表現

している」など,知らない・分からないなどの事象について筋道立てて推し測る「推論」の思考

方法を使って自分の読みを作り出す生徒も見られた。ものの見方や考え方に関しては「高きプラ

イドで,平家を追いつめ滅亡させるまでの人間一人一人の心情が武士らしく描かれている作品」

には,「他の人の意見を聞いて,教科書に書いてあることだけでなく,自分で考えて書いていたの

がすごいな,と思った。」と記入しており,グループ交流の効果が見られた。

③ 考察

〇 教材の特質に合った思考方法を意図的に仕組んだ結果,「問い」の追究活動において,生徒が

自ら主体的に「自分はこう思う」と書くことができた。

○ 登場人物の心情や考え,立場を比較させることで,解釈を基に自分の読みを書かせることがで

きた。

● 思考方法を次の単元や他の教科に活用できる手だての工夫を考える必要がある。

資料-17 「問い」を解決する場

年五十ばかりなる男(平家) 義経(源氏)

「問い」の解釈(個人→グループ) 「問い」の解決(全体)

【心情の「比較」】

老臣の心情

・与一の技のすばら

しさに感激し,褒

めたたえたい。

那須与一の心情

・義経の命令に従う

のが武士である。

・戦をしている時だ

から,一人でも早

く殺したかった。

【立場の「比較」】

平家の武士達

・舞を舞っただけで

そこまでしなく

ても・・・。心がな

い。

源氏の武士達

・平家の男を見事に

射倒して,誇らし

い。

・この戦に勝てる。

【生徒の「推論」】

・ 義経は大将として源氏の

武士達の士気を上げよう

としたのではないか。

・私が義経だったら老臣を殺

し,源氏の力を見せつけた

いと思う。

・老臣は興奮し,戦中である

ことを忘れていたか,もし

くは,まさか殺されまいと

油断していたのではない

か。

【文と文との「関係付け」と根拠】

平家の武士達(P137 下 L13,)

・静まり返って音もしない。

→目の前で自分の仲間が射殺さ

れた恐怖であぜんとして声が

出ない。

源氏の武士達(P137下L14,L15)

・今度もえびらをたたいてどっ

と歓声を上げた。

→扇よりも難しい人間も射抜い

てしまうなんて見事。

A 班のグループ交流 グループの読み(仮説)を全体で検証

国-13

使った考え方には○

比べる( ) 理由付ける( )

分類する( ) すい論する( )

関係付ける( ) 評価する( )

7 研究のまとめ

(1) 研究の成果

以下の成果から,「問い」の追究活動を取り入れた学習過程とその学習過程における思考方法の

活用を意識させる手だては,創造的・論理的思考の高まりに有効だったと言える。

① 「問い」を作り,解決する場における思考方法の活用

①-1 本単元で活用する思考方法の提示

○ 読みの視点をもたせた上で,「問い」を作り追究していく学習過程を展開することで,児

童生徒が必然的に思考方法を活用して読み進める姿が見られた。

○ 本時のめあてで活用する思考方法を意識させたことで,着目する叙述だけでなく,その叙

述をどのように考えて読みを作っていくのかを,児童生徒が意識することができた。

○ 思考方法の言葉だけでなく,前学年や前単元での具体的な叙述やその読みまでを記載した

既習カードで思考方法を提示したことで,児童生徒に,思考方法を活用して読みを深める姿

を具体的に想像させることができた。

○ 学習計画を立てる段階において,単元計画カードを基に活用する思考方法について提示す

ることで,追究活動の見通しをもたせやすくなり,児童生徒に「問い」の解決をしながらの

主体的な学習を促すことができた。

①-2 思考方法に基づく発問や指示

○ 必ずわけを書いたり発言したりするようにして「理由付け」をさせ,本単元で活用する思

考方法に基づいて発問したり指示したり提示し解決を促すことで,主体的に読みを深めさせ

ることができた。

○ 思考方法の活用を意識させる発問や指示を行ったことで,本時の場面で活用した思考方法

を次時以降に児童生徒自ら活用しようとする姿が見られた。

①-3 思考の視覚化

○ 「問い」を作り解決する場として,付箋や交流ボードを用いて読みの視覚化を図ることで,

「比較」「分類」「関係付け」の思考方法を活用しながら,自分の読みの具体化や多様化,

深化を図ることにつながった。

② 振り返りの場における思考方法の活用

②-1 毎時間の学びを1枚にまとめた振り返りシートの工夫

○ 毎時間の振り返りを1枚のシートに書かせていくことで,自分の学びと活用した思考方法

を振り返りながら学習を進めることができた。さらに,研究を進める中で,「問い」に対す

るめあてと思考方法に対するめあてをシート上に位置付けることで,思考方法の活用を自覚

させると共に,学びの変容も振り返らせることができた(資料-18)。

資料-18 振り返りシート

国-14

(2) 研究の課題

● 単元や発達段階に合わせた「問い」のもたせ方や思考方法の活用のさせ方が異なってくると考

えられる。さらに実践を行い,系統性を検証する必要がある。

● 「理由付け」「推論」「評価・批判」の思考方法の視覚化に取り組む必要がある。

● 振り返りの場において,振り返りシートを用いたが,思考方法の活用と読みの深まりを合わせ

て価値付けることが十分でなかった。自己評価における手だての工夫の必要がある。

8 研究の意義と課題 (研究指導員 河野 智文)

(1) 創造的・論理的思考」の内実

「創造的」の語が多くみられるのは,図画工作科・美術科の学習指導要領である。例えば,「『創

造的に発想や構想をし』とは,自分にとって新しいものやことをつくりだすように発想や構想をす

ることである(『小学校学習指導要領解説図画工作編』平成 29 年 6 月,P14。下線は引用者)」と

ある。「自分にとって新しい」ことが,「創造的」と言える条件の一つになる。つまり,他者(特

に教師)からみて新しい(斬新な)ものでなくても本人にとって新たな読みであれば,それは創造

的なものだと言ってよい,ということになる。また,創造の対義語として「模倣」を置いてみれば,

他から与えられたものをそのままなぞるのではなく,自分で工夫して考える,というところに,創

造的であることの条件を見いだすこともできるだろう。

同様に,「論理的」の対義語として(諸説あるが)「直感的」を置いてみれば,論理的であると

は,じっくりと時間をかけることを前提にして,第一に根拠や理由を備えた主張(考え,読み)で

あり,第二に,根拠・理由・主張の間に妥当性があること(筋道,つじつまが整っていること)で

あると言えよう。また,論理は複数要素間の関係を説明したものであると考えれば,その基礎には

各要素を「比較」することがあり,比較によって見いだされた共通点や相違点によって「関係付け」

るところへと進むと考えられる。「分類」は,共通点によって括る作業でもあるし,相違点によっ

て分ける作業でもある。本研究で挙げられた思考方法のうち,「比較」と「関係付け」は特別の位

置をもつものとして考えるべきであろうし,「理由付け」や「推論」は明示されている要素だけを

対象にするものではないという点で,他とは区別されよう。「評価・批判」は,評価主体の主観が

関わってくるという点で,これも他の方法とは異質な面がある。

「論理的思考」と「創造的思考」とを明確に区別することはできないが,本研究で挙げられた思

考方法は,その多くが「関係」を問題にしている点において一義的には「論理的」思考方法であり,

ここに示された(論理的)思考方法を駆使して読みを深めていくことによって,「創造的思考」(「創

造的」な読み)に至る,と考えることができる。

(2) 「考える」とは

概括的な述べ方になってしまうが,学力(読解力)調査の問題は,「理解できているか」ではな

く,「読んで考えているか」,「考えて読んでいるか」を問うているようだ。書かれている事柄を

理解しただけでは解答できず,読んで考える,すなわち,文章中の諸要素(人物,行動,主張と根

拠,文章と図表など)を関係付けたり,自分の考えをもったりしてそれを表現しなければ,読解力

があるとは認められない。つまり,読解力調査の成績が振るわないからといって,狭い意味での理

解の仕方(情報の取り出し方)のみを育てようとしても,結果の向上にはつながらない,というこ

とである。「読んで考える」ことを主眼に置く研究の意義が,ここにあると言える。

「よく考えて読みましょう」と指示されたとき,どのように読めば「考えて」読むことになるのか

を,学習者は具体的に想起できるだろうか。考えて読むとは,単に何度も繰り返して読むことでも

なければ,国語辞典を丹念に引きながら読むことでもない。

「考えるとはどうすることか」を具体的に示したのが本研究の「思考方法」であり,これからも不

断に見直される必要があるものの,読み方・分かり方ではなく「考え方」を「読むこと」の授業に

持ち込んだところに意義を認めることができる。これまで「読み方」としてまとめられてきた諸技

能とここで提示した「考え方」とが,どのように関係付けられていくのかが,今後の課題でもある。

(3) 立ち止まりと振り返り

ところで,問いが提示されたとき,この考え方を使ってみよう,と決めてから問題解決を始める

ものなのだろうか。「よく考えられる」人は,そうはしていないように思われる。考え方はあまり

意識せず,瞬間的,無意識的に考え,答えに到達するのではないだろうか。

国-15

ここから示唆されることの第一は,考え方(思考方法)とは,「よく考えられる人」が無意識に

行っていることを,あえて意識的に取りし出たものだということである。それは,「どのように考

えればよいか分からない」と,問題を前にして立ち止まっている学習者には効果的な助言となるで

あろう。また,方法など意識せずに,あれこれと考えてみたら答えにたどり着けた,という学習者

には,その後の振り返り,つまり,「なぜ,解決できたのか」を考えることが,解決することその

ものや出された答えよりも重要になるということも意味している。分かったことがゴールなのでは

なく,なぜ分かったのかが分かることがゴールなのである。

第二に,「考え方」を意識するとは,「どのように考えればよいのか」を意識するということで

あるならば,それは行き詰まったときにこそ起きる,ということである。すらすらと解けてしまう

容易な問題では,その解決過程で方法を意識することはほとんどない。それゆえ,思考方法を意識

させようとするときには,学習者がそこで一度立ち止まる「壁」になるような難度の問いを設定す

る必要がある,ということである。そしてその「壁」を乗り越えられたとき,「はじめは難しいと

思っていた問題が,どうして解けたのだろう」と振り返る必然性も生まれることになる。もちろん,

手も足も出ないような壁,つまり学習者の実態からかけ離れた難度の問いでは,その解決に挑もう

とする意欲は生じない。

(4) 方法の価値

「思考方法」は「方法」であるから,その価値が意識されるのは「目的」が達成されたとき,と

いうことになる。学習者の意欲は,問題を解決したい(目標を達成したい)というところにあり,

分かった・できた,というところで達成感が生じることになる。読むことの学習で言えば,読みが

深まった,広がったということを実感する場面になるだろう。基本的には,学習の面白さは,読み

そのものによって実現される。それゆえ,学習のめあてや課題は,教材内容に寄り添ったものにな

る。

もちろん,「思考方法」をむき出しの形で取り立てて教える,という方法も考えられる。「分類

とは」「分類の仕方」のような短時間の学習を設定し,そこで汎用性の高い技能として思考方法を

教えておいてから,読むことの教材・学習へ活用,応用していくという順序である。一方,教材の

学習を通して,問題解決や読み深めといった必然的な文脈に乗せながら,思考方法を習得させてい

くという考え方もあろう。これは二者択一ということではなく,発達段階や実態,学習内容によっ

て使い分けられていくべきであろう。

(5) 交流における関係付け

当然のことながら,学習過程における問題解決は仲間との協働によるものである。比較,関係付

け,分類といった思考や,評価・批判のような吟味・価値付けは,学習者相互の考えの交流や練り

上げのときにこそ効果的に活用されるのかもしれない。ここでも振り返りが重要になる。そのため

の記録や可視化の方法を追究することも,さらに追究していかねばならない。詳述の余裕がないが,

文章を読んでいくときの思考と,読みを交流するときの思考とは分けて考えなければならない面も

あるが,共通する点も多く,また,他教科での交流への活用の可能性も,多くもち合わせている。

(6) 個別具体の価値と学習の実感

「習得・活用・探究」の学習サイクルが提起された辺りからだろうか,個別の教材で習得した力

の活用,汎用化への要求が強くなっているように感じられる。確かに,特定の教材や文脈でしか使

えない知識や技能には意味がない,と言われても仕方がない。学校で学んだことは,児童生徒が将

来直面する多様な問題の解決のために活用できることが必要であり,個別の状況に閉じたままでは

いけない。そのことは確かに踏まえつつ,汎用化の方向性によって,個別の学習内容がもつ独自の

価値がその輝きを失わないように,そして,汎用化を誤解した,単なる画一的な学習方法が,個別

の教材がもつ鮮やかさを台無しにするルーティーンに陥ることのないよう,汎用性と個別独自性の

両面から,教材を研究し,学習者の実態を見極めながら,学習価値を見いだしていきたい。学習者

にとっての学びの実感はやはり,個別具体の文脈での「分かった」から得られるものだろう。

国-16

引用文献

1 文部科学省 「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善

及び必要な方策等について(答申)」 P125 (平成28年)

2 福岡教育大学附属小倉小学校

「創造的に思考する子どもを育てる」 P24 明治図書 (平成25年)

参考文献・参考資料

1 文部科学省 小学校学習指導要領解説 国語編 東洋館出版社 (平成20年)

2 文部科学省 小学校学習指導要領解説 国語編 (平成29年)

3 文部科学省 中学校学習指導要領解説 国語編 東洋館出版社 (平成20年)

4 文部科学省 中学校学習指導要領解説 国語編 (平成29年)

5 関西大学初等部 関大初等部式思考力育成法 さくら社 (平成24年)

6 田村 学 他 「考えるってこういうことか! 思考ツールの授業」小学館 (平成25年)

7 角屋 重樹 他「新学習指導要領における資質・能力と思考力・判断力・表現力」

文溪堂 (平成29年)

8 勝見 健史 「『活用』の授業で鍛える国語学力~単元・本時デザインの具体的方法~」

文溪堂 (平成26年)

9 勝見 健史 「ビフォー・アフターで取り組む国語科授業デザイン

-『主体的・対話的で深い学び』へのアプローチ-」 文溪堂 (平成29年)

10 教育科学国語教育 12 月号 創造的・論理的思考力を育てる学習・指導の改善・充実 明治図書 (平成28年)

研究指導員

河野 智文 (福岡教育大学 教授)

長期研修員

楢﨑 公美子 (愛宕浜小学校 教諭)

非常勤研修員

出原 知子 (田島小学校 教諭) 船津 吉統 (東光小学校 教諭)

江藤 駿 (当仁小学校 教諭) 橋村 佳揚子 (老司中学校 教諭)

担当主事

井浦 寿美 (研修・研究課 主任指導主事)

大田 隆志 (研修・研究課 主任指導主事)