電力業界の俯瞰 - deloitte us · 2020. 7. 26. · 2.1 本書の意図...

9
電力業界の俯瞰 The Frontier of Human-oriented Energy デロイト トーマツ グループ エネルギーセクター デロイト トーマツ グループは日本におけるデロイト トウシュ トーマツ リミテッド(英国の 法令に基づく保証有限責任会社)のメンバーファームであるデロイト トーマツ合同会社およ びそのグループ法人(有限責任監査法人トーマツ、デロイト トーマツ コンサルティング合同 会社、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社、デロイト トーマツ税理 士法人、 DT 弁護士法人およびデロイト トーマツ コーポレート ソリューション合同会社を含 む)の総称です。デロイト トーマツ グループは日本で最大級のビジネスプロフェッショナル グループのひとつであり、各法人がそれぞれの適用法令に従い、監査・保証業務、リスクアドバ イザリー、コンサルティング、ファイナンシャルアドバイザリー、税務、法務等を提供していま す。また、国内約 40 都市に約 11,000 名の専門家を擁し、多国籍企業や主要な日本企業をク ライアントとしています。詳細はデロイト トーマツ グループ Web サイト(www.deloitte. com/jp)をご覧ください。 Deloitte (デロイト)は、監査・保証業務、コンサルティング、ファイナンシャルアドバイザリー サービス、リスクアドバイザリー、税務およびこれらに関連するサービスを、さまざまな業種 にわたる上場・非上場のクライアントに提供しています。全世界 150 を超える国・地域のメン バーファームのネットワークを通じ、デロイトは、高度に複合化されたビジネスに取り組むク ライアントに向けて、深い洞察に基づき、世界最高水準の陣容をもって高品質なサービスを Fortune Global 500® 8 割 の 企 業 に 提 供 し て い ま す。 Making an impact that matters�を自らの使命とするデロイトの約 245,000 名の専門家については、 FacebookLinkedInTwitter もご覧ください。 Deloitte (デロイト)とは、英国の法令に基づく保証有限責任会社であるデロイト トウシュ トーマツ リミテッド(�DTTL�)ならびにそのネットワーク組織を構成するメンバーファーム およびその関係会社のひとつまたは複数を指します。 DTTL および各メンバーファームはそ れぞれ法的に独立した別個の組織体です。 DTTL (または�Deloitte Global�)はクライアント へのサービス提供を行いません。 Deloitte のメンバーファームによるグローバルネットワー クの詳細は www.deloitte.com/jp/about をご覧ください。 本資料は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個 人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本資料の 作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可 能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等 を異にする可能性があることをご留意いただき、本資料の記載のみに依拠して意思決定・行動 をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。 Member of Deloitte Touche Tohmatsu Limited © 2019. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC, Deloitte Tohmatsu Consulting LLC, Deloitte Tohmatsu Financial Advisory LLC, Deloitte Tohmatsu Tax Co.

Upload: others

Post on 23-Aug-2020

3 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 電力業界の俯瞰 - Deloitte US · 2020. 7. 26. · 2.1 本書の意図 本書は東日本大震災後の2012 年に発刊した「電力業界の俯瞰(」初版以降、2

電力業界の俯瞰The Frontier of Human-oriented Energy

デロイト トーマツ グループエネルギーセクター

デロイト トーマツ グループは日本におけるデロイト トウシュ トーマツ リミテッド(英国の法令に基づく保証有限責任会社)のメンバーファームであるデロイト トーマツ合同会社およびそのグループ法人(有限責任監査法人トーマツ、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社、デロイト トーマツ税理士法人、DT弁護士法人およびデロイト トーマツ コーポレート ソリューション合同会社を含む)の総称です。デロイト トーマツ グループは日本で最大級のビジネスプロフェッショナルグループのひとつであり、各法人がそれぞれの適用法令に従い、監査・保証業務、リスクアドバイザリー、コンサルティング、ファイナンシャルアドバイザリー、税務、法務等を提供しています。また、国内約 40都市に約 11,000名の専門家を擁し、多国籍企業や主要な日本企業をクライアントとしています。詳細はデロイト トーマツ グループWebサイト(www.deloitte.com/jp)をご覧ください。

Deloitte(デロイト)は、監査・保証業務、コンサルティング、ファイナンシャルアドバイザリーサービス、リスクアドバイザリー、税務およびこれらに関連するサービスを、さまざまな業種にわたる上場・非上場のクライアントに提供しています。全世界 150を超える国・地域のメンバーファームのネットワークを通じ、デロイトは、高度に複合化されたビジネスに取り組むクライアントに向けて、深い洞察に基づき、世界最高水準の陣容をもって高品質なサービスをFortune Global 500®の 8割の企業に提供しています。�Making an impact that matters�を自らの使命とするデロイトの約 245,000名の専門家については、Facebook、LinkedIn、Twitterもご覧ください。

Deloitte(デロイト)とは、英国の法令に基づく保証有限責任会社であるデロイト トウシュ トーマツ リミテッド(�DTTL�)ならびにそのネットワーク組織を構成するメンバーファームおよびその関係会社のひとつまたは複数を指します。DTTLおよび各メンバーファームはそれぞれ法的に独立した別個の組織体です。DTTL(または�Deloitte Global�)はクライアントへのサービス提供を行いません。Deloitteのメンバーファームによるグローバルネットワークの詳細は www.deloitte.com/jp/about をご覧ください。

本資料は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本資料の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本資料の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

Member of Deloitte Touche Tohmatsu Limited

© 2019. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC,Deloitte Tohmatsu Consulting LLC, Deloitte Tohmatsu Financial Advisory LLC,Deloitte Tohmatsu Tax Co.

00_CW6_AY015A01.indd すべてのページ 2019/02/20 13:50:10

Page 2: 電力業界の俯瞰 - Deloitte US · 2020. 7. 26. · 2.1 本書の意図 本書は東日本大震災後の2012 年に発刊した「電力業界の俯瞰(」初版以降、2

第 1章 電力会社の未来ᅠ ……………………………………………………… 1第 2章 本書の概要ᅠ …………………………………………………………… 7

2.1 本書の意図ᅠ……………………………………………………………… 8 2.2 本書の構造ᅠ……………………………………………………………… 10

各章の位置づけ ………………………………………………………… 10 社会のシステミックリスクᅠ …………………………………………… 11 横断的な変革テーマ …………………………………………………… 12

第 3章 社会の変革……………………………………………………………… 15 3.1 概要ᅠ……………………………………………………………………… 16 3.2 社会のリスクと課題ᅠ …………………………………………………… 17

温暖化ᅠ …………………………………………………………………… 18 人口動態ᅠ ………………………………………………………………… 18 資源リスクᅠ ……………………………………………………………… 19 格差の拡大ᅠ ……………………………………………………………… 20 自然災害リスクᅠ ………………………………………………………… 20 科学技術のリスクᅠ ……………………………………………………… 22

3.3 持続可能な開発目標ᅠ …………………………………………………… 23 目指すべき世界像ᅠ ……………………………………………………… 23 企業にとっての重要性ᅠ ………………………………………………… 25 国内動向ᅠ ………………………………………………………………… 26

3.4 責任投資原則と ESG金融ᅠ …………………………………………… 27 責任投資原則ᅠ …………………………………………………………… 27 ESG金融ᅠ ……………………………………………………………… 28

3.5 社会のイノベーションᅠ ………………………………………………… 32 セクターカップリングᅠ ………………………………………………… 32 サーキュラーエコノミーᅠ ……………………………………………… 33 スマートシュリンク …………………………………………………… 34 モビリティ革命ᅠ ………………………………………………………… 34 重要インフラのレジリエンスᅠ ………………………………………… 35 社会のリスクガバナンスᅠ ……………………………………………… 37

3.6 第四の消費とミレニアル世代ᅠ ………………………………………… 39 第四の消費ᅠ ……………………………………………………………… 39 ミレニアル世代の意識ᅠ ………………………………………………… 40

目ᅠ次

03_CW6_AY015B02.indd 6 2019/02/20 14:40:52

Page 3: 電力業界の俯瞰 - Deloitte US · 2020. 7. 26. · 2.1 本書の意図 本書は東日本大震災後の2012 年に発刊した「電力業界の俯瞰(」初版以降、2

第 4章 デジタルトランスフォーメーションᅠ …………………………… 43 4.1 概要ᅠ……………………………………………………………………… 44 4.2 社会のデジタルトランスフォーメーションᅠ ………………………… 46 4.3 企業のデジタルトランスフォーメーションᅠ ………………………… 48

デジタルディスラプションᅠ …………………………………………… 48 既存企業の変革ᅠ ………………………………………………………… 49 顧客価値ᅠ ………………………………………………………………… 51

4.4 電気事業のデジタルトランスフォーメーションᅠ …………………… 53 デジタライゼーションᅠ ………………………………………………… 53 電気事業における価値創造の可能性ᅠ ………………………………… 54 エネルギーの変革や企業の変革との関連ᅠ …………………………… 55

4.5 デジタル化の負の側面ᅠ ………………………………………………… 57第 5章 エネルギーの変革ᅠ …………………………………………………… 59

5.1 概要ᅠ……………………………………………………………………… 60 5.2 電源の脱炭素化ᅠ ………………………………………………………… 61

将来の電源構成(世界)ᅠ ………………………………………………… 61 将来の電源構成(日本)ᅠ ………………………………………………… 64 需要家の脱炭素化ᅠ ……………………………………………………… 67

5.3 分散型エネルギー資源の統合ᅠ ………………………………………… 69 分散型エネルギー資源の課題と価値ᅠ ………………………………… 69 トランザクティブエネルギーᅠ ………………………………………… 70 ニューヨーク州の配電プラットフォーム構想ᅠ ……………………… 73 ブロックチェーンによる P2Pの電力取引ᅠ ………………………… 74

5.4 エネルギー生産・流通・利用の全体最適化ᅠ …………………………… 76 変動性再生可能エネルギーの統合ᅠ …………………………………… 76 電力流通設備の増強と更新 …………………………………………… 79 セクターカップリングと Power-to-Xᅠ ……………………………… 80 社会イノベーションの連動 …………………………………………… 84

第 6章 企業の変革ᅠ …………………………………………………………… 87 6.1 概要ᅠ……………………………………………………………………… 88 6.2 企業のレジリエンスと共通価値創造ᅠ ………………………………… 90

企業のレジリエンス …………………………………………………… 90 共通価値創造ᅠ …………………………………………………………… 93 電気事業における共通価値創造ᅠ ……………………………………… 96

03_CW6_AY015B02.indd 7 2019/02/20 14:40:52

Page 4: 電力業界の俯瞰 - Deloitte US · 2020. 7. 26. · 2.1 本書の意図 本書は東日本大震災後の2012 年に発刊した「電力業界の俯瞰(」初版以降、2

電気事業の BoP ………………………………………………………… 99 コレクティブインパクトᅠ ……………………………………………… 101 全社リスクマネジメントと ESGリスクの融合ᅠ …………………… 103

6.3 人間中心のマーケティングᅠ …………………………………………… 106 顧客体験のマーケティングᅠ …………………………………………… 106 顧客中心のマーケティングᅠ …………………………………………… 108 人間中心のマーケティングᅠ …………………………………………… 112 パーパスᅠ ………………………………………………………………… 114 デジタル時代のマーケティングᅠ ……………………………………… 116 サブスクリプションビジネスᅠ ………………………………………… 117 カスタマーサクセス …………………………………………………… 120

6.4 人間中心のイノベーションᅠ …………………………………………… 123 破壊的イノベーションᅠ ………………………………………………… 123 オープンイノベーションᅠ ……………………………………………… 126 オープンイノベーション 2.0ᅠ ………………………………………… 127 デザイン思考ᅠ …………………………………………………………… 129 意味のイノベーションᅠ ………………………………………………… 131

6.5 次世代の組織と人材ᅠ …………………………………………………… 135 次世代の組織ᅠ …………………………………………………………… 135 クリエイティブ・クラスᅠ ……………………………………………… 137

第 7章 Energy 2050への始動ᅠ …………………………………………… 141 7.1 本章の位置づけᅠ ………………………………………………………… 142 7.2 横断的な変革テーマに即した脅威の考察ᅠ …………………………… 143 7.3 Energy 2050実現のための経営戦略の検討ᅠ ……………………… 149 7.4 Energy 2050への挑戦ᅠ ……………………………………………… 155

Energy 2050の実現に向けた兆しᅠ …………………………………… 155 横断的な変革テーマの視点から見た課題ᅠ …………………………… 157 ステークホルダーとの本質的な対話の必要性ᅠ ……………………… 157 「共感」が拓く未来 ……………………………………………………… 159 「ヒト」が創り出す未来ᅠ ………………………………………………… 161

参考文献ᅠ …………………………………………………………………………… 164執筆担当ᅠ …………………………………………………………………………… 178

03_CW6_AY015B02.indd 8 2019/02/20 14:40:52

Page 5: 電力業界の俯瞰 - Deloitte US · 2020. 7. 26. · 2.1 本書の意図 本書は東日本大震災後の2012 年に発刊した「電力業界の俯瞰(」初版以降、2

第 2章 本書の概要

06_CW6_AY015C02.indd 7 2019/02/20 14:41:49

Page 6: 電力業界の俯瞰 - Deloitte US · 2020. 7. 26. · 2.1 本書の意図 本書は東日本大震災後の2012 年に発刊した「電力業界の俯瞰(」初版以降、2

2.1 本書の意図

本書は東日本大震災後の 2012年に発刊した「電力業界の俯瞰」(初版以降、2度の改訂版を発刊)の最新改訂版との位置づけとなる。ただし、最新改訂版と銘打つものの、これまでの「電力業界の俯瞰」から、コンセプトと章立てを一新した。

前回改訂版までは、現下において正に対応途上である「電力システム改革」の制度設計検討の過程にあったため、社会の基幹システムである電気事業の本質を見極める上で認識しておくべき事柄を、事実ベースで幅広に抽出・記載することを心掛けた。

これに対して本書では、第 3弾電気事業法改正に伴う省令改正の方向性が明らかとなったタイミングであることを踏まえ、新たな電気事業制度の目指す先の絵姿のみならず、あらゆる意味で大きく変容しつつある世界において、事業者が各々の成長に向けて将来シナリオを導出する際に役立つ題材を、仮説思考で抽出・記載することとした。

なお、リニューアルの意図・経緯の詳細に関しては、刊初の「第 4版改訂にあたって」に記載したのでそちらをご参照頂きたい。

さて、第 1章に記載した「Energy 2050」は、事業の多角化を進めながら、社会的課題への取り組みと事業者としての戦略目標の統合に成功した事業者を例示的に描いたものである。これまで段階的に規制緩和が進められてきたが、実質的には規制制度下時代とほぼ同様な形で維持されてきた現状の業界横並び構造とは明瞭に一線を画している。

第 3章以降は、各事業者が独自の「Energy 2050」を構想し、将来ビジョンを早期かつ明確に導出することを試みる際、着眼すべき視座やフレームの 1つとして活用頂くことを念頭において構成している。

現下の旧一般電気事業者においては、電力システム改革への対応として、電力小売の全面自由化や送配電部門の法的分離等に、多くの経営資源を投入せざるを得ない状況が続いている。これは、戦後の電力体制発足以来堅持してきた発送配販一貫体制に終止符を打つという意味において、未曾有の大変革であることに相違はない。さらに、原子力発電事業者にあっては、これと並行して、再稼働、安全性向上、福島の廃炉、国民の信頼回復等、著しく重く、かつ非常に多くの資源と時間を要する課題にも取り組んでいる。

8

07_CW6_AY015D02.indd 8 2019/02/20 14:42:24

Page 7: 電力業界の俯瞰 - Deloitte US · 2020. 7. 26. · 2.1 本書の意図 本書は東日本大震災後の2012 年に発刊した「電力業界の俯瞰(」初版以降、2

このような状況では、ゴーイング・コンサーンを脅かし得る諸般のリスクを現時点で勘案し、これらへの対応を本格化させるよりも、第 3弾電気事業法改正(送配電部門の法的分離)に滞りなく対応するため、制度要求に対する当面の対応を優先せざるを得ない側面があったことも事実である。一方、第 1章にて提示した Energy 2050は、その名のとおり約 30年後の事業者像を象徴した姿である。法的分離直後に想定される電気事業者像と比較した場合、大きな隔たりがあると感じられるのではないだろうか。

次章以降において、旧一般電気事業者の経営に大きな影響を及ぼすことになるだろう諸情勢について記述するが、客観的かつ冷静にこれらがもたらす社会の変容を考慮するならば、Energy 2050の世界観は「変化幅」も「実現スピード」も、絵空事というよりはむしろ、相応に蓋然性の高いシナリオであると我々は考えている。

9

07_CW6_AY015D02.indd 9 2019/02/20 14:42:24

Page 8: 電力業界の俯瞰 - Deloitte US · 2020. 7. 26. · 2.1 本書の意図 本書は東日本大震災後の2012 年に発刊した「電力業界の俯瞰(」初版以降、2

2.2 本書の構造

各章の位置づけ本書の世界観を象徴する例示的ビジョンとして「Energy 2050」の姿を提示する上で、我々は現在と 2050年の「社会と企業の距離感」に着目した。世界金融危機や激甚災害等、幾つかのビッグトリガーを経て、社会構造そのものの変容が加速している。その一方で電気事業経営の側は、温暖化やデジタル化等、社会のメガトレンドに起因する重要経営課題に対して、未だ明確なビジョンを見出せずにいるのではないだろうか。

本書では、以上の課題認識に基づき、旧一般電気事業者が社会的課題と経営課題との間にある隔たりを大きくすることなく、社会と経営の双方の課題解決を併せて実現する戦略を描き出せるような事業者を目指すべきとの基本認識から、社会的課題と経営課題の関係性を体系的に整理し、下記の構成としている。

まず、章立てとしては、社会から旧一般電気事業者までを四つのレイヤーに分解し、第 3章「社会」⇒第 5章「エネルギー」⇒第 6章「企業」⇒第 7章「旧一般電気事業者」の順序で、各レイヤーにおける変革の様相を掘り下げていく。

このうち、第 3・5・6章には、図 1に示すように、「社会のシステミックリスク」と「横断的な変革テーマ」という共通の要素が存在している。「横断的な変革テーマ」は、「持続可能性とレジリエンス」、「顧客中心と人間中心」、「デジタルトランスフォーメーション」、「ホリスティックな変革」より構成されている。このうち、「デジタルトランスフォーメーション」は、その重要性に鑑み、第 4章として独立させている。

締め括りの第 7章では、第 3~6章で抽出された「社会のシステミックリスク」と「横断的な変革テーマ」の視点から、旧一般電気事業者が今後直面し得る脅威のいくつかを仮説として例示した上で、それらの脅威に打ち勝ち、未来に向けて成長を継続し得る、「レジリエントな企業」となるための経営戦略を提案している。

10

07_CW6_AY015D02.indd 10 2019/02/20 14:42:25

Page 9: 電力業界の俯瞰 - Deloitte US · 2020. 7. 26. · 2.1 本書の意図 本書は東日本大震災後の2012 年に発刊した「電力業界の俯瞰(」初版以降、2

以下、本書全体に関わる重要な視点として、「社会のシステミックリスク」と四つの「横断的な変革テーマ」の概略を解説する。

社会のシステミックリスク現代社会の変革における最大の駆動力は、社会自体の抱えているリスクと課題である。その中には、急速なデジタル化がもたらす負の側面も含まれている。また、エネルギー変革の最も重要な駆動力の一つは温暖化という社会・環境上の課題であり、他の社会的リスク・課題(例えば資源リスク)の影響も受けている。

さらに、社会的なリスクと課題の一部は企業のリスクと課題に波及し、一方では事業機会ともなっている。以上のように、社会・経済を構成する様々な要素と、それらに係るリスクは相互に影響を及ぼし合っており、社会という複雑なシステム全体に係る「システミックリスク」の様相を示している。そして、デジタル化がもたらす過剰な接続性(hyperconnectivity)による相互依存性増大は、システミックリスクを膨張させ、さらに扱いづらいものにしている。このため、社会・エネルギー・企業のいずれの変革においても、社会のシステミックリスクを俯瞰的に捉えることが戦略策定の前提となる(図 1参照)。

なお、我が国では金融システムの連鎖的機能不全を指してシステミックリスクと呼ぶことが多いが、本書では多様な要素の相互作用に基づく社会システム全体のリスクを指している。

図 1 本書の章立てと横断的な変革テーマの関係

旧一般電気事業者

将来の脅威(仮説)

社会 企業エネルギー

第3章社会の変革

第5章エネルギーの変革

第6章企業の変革

第7章Energy 2050への始動

社会のシステミックリスク

持続可能性とレジリエンス

顧客中心と人間中心

デジタルトランスフォーメーション(第4章)

ホリスティックな変革

Energy 2050への挑戦

変革を駆動 戦略の検討

横断的な変革テーマ

11

07_CW6_AY015D02.indd 11 2019/02/20 14:42:25