居住者満足感に基づく 省エネ性と快適性の最適環境制御技術の...

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平成22年度~平成24年度 住宅・建築関連先導技術開発助成事業 居住者満足感に基づく 省エネ性と快適性の最適環境制御技術の開発 慶應義塾大学 理工学部システムデザイン工学科教授 伊香賀 俊治 アズビル株式会社 技術開発本部基幹技術開発部副部長 綛田 長生

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Page 1: 居住者満足感に基づく 省エネ性と快適性の最適環境制御技術の ...VAV:Variable Air Volume 可変風量制御装置 風量を可変するダンパ機能と風量センサを一体化した装置

平成22年度~平成24年度住宅・建築関連先導技術開発助成事業

居住者満足感に基づく省エネ性と快適性の最適環境制御技術の開発

慶應義塾大学 理工学部システムデザイン工学科教授

伊香賀 俊治アズビル株式会社 技術開発本部基幹技術開発部副部長

綛田 長生

Page 2: 居住者満足感に基づく 省エネ性と快適性の最適環境制御技術の ...VAV:Variable Air Volume 可変風量制御装置 風量を可変するダンパ機能と風量センサを一体化した装置

1.背景・目的

オフィス等の業務系建物においては、

• 居住者の室内環境に対する快適性や作業のしやすさなどの心理・生理的な感覚は個人差が大きく、温度一定制御では個々人に最適な環境を提供することが困難

• 居住者の不満足感を回避するため、建物管理者は安全側での運用をしがちであり、省エネ運用に限界がある

という課題が存在している。

省エネ性・温暖化防止性と、建物使用者の快適性・知的生産性の向上には、最適な環境を実現するための広範囲な技術開発(製品・システム・運用手法・評価

手法等を含む)が必要である。本取組みでは下記の技術開発を実施した。

1)居住者満足感モデル構築に関する基本技術開発

2)居住者満足感・省エネ性向上のための室内環境制御の実用技術開発

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Page 3: 居住者満足感に基づく 省エネ性と快適性の最適環境制御技術の ...VAV:Variable Air Volume 可変風量制御装置 風量を可変するダンパ機能と風量センサを一体化した装置

2.技術開発の概要1)居住者満足感モデル構築に関する基本技術開発・アズビル(株)が試作した(居住者環境への)要望申告型システムを

用いて、室温変化・気流変化を伴う温熱環境における、居住者の満足感と作業効率の評価を行い基礎的知見を得た(H22年度、H23年度)。・上記知見をもとに、居住者満足感を考慮した変動空調環境制御を提案するとともに、省エネ性・知的生産性の評価を行った(H24年度)。

2)居住者満足感・省エネ性向上のための室内環境制御の実用技術開発・省エネと快適性を両立するVAV※連携技術の開発を行った。・居住者満足感向上のため、冷暖同時要求に対応が可能な冷暖フリーVAVシステムの実現技術を検討し、実験検証を行った。・1)の成果の実用化を視野に変動空調制御技術の開発を実施した。

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VAV:Variable Air Volume 可変風量制御装置風量を可変するダンパ機能と風量センサを一体化した装置.空調負荷(温度センサなどの信号)に応じて風量を増減させることで、冷暖房能力を調節する.

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3.技術開発成果の先導性人体の快適性については、国内外で様々なモデルが開発されているが、生理・心理感覚まで含めた満足感に関する指標は現在、存在しない。

・被験者実験により、満足感という人の心理状態の申告と用いて室内環境の関係を明らかにし、空調制御に応用するための基礎データを取得してモデルの検討を行った。・温度変動や等温気流等を用いて消費エネルギーの増加を抑制しつつ、居住者満足感の品質を維持する空調制御技術開発を進めた。

4.技術開発の効率性

・技術開発費の助成により、(居住者)要望申告システムの改良を伴う温熱実験室での被験者実験を年1回のペースで進められた。また、(居住者要望)申告型空調の製品化を見据えた課題抽出も進めることができた。・慶應義塾大学とアズビル(株)がそれぞれの得意分野を活かし、学術的な成果と、特許出願・製品化検討という事業的な活動を並行してスピーディに行うことができた。

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5.実用化・市場化の状況

アズビル(株)が提供する制御端末及び制御監視システムにおいても業務系建物の省エネ化・温暖化防止の推進に向けて、さらなる機能訴求が求められており、本技術成果は次世代機能・サービスには必要不可欠。

本技術開発の成果

申告型空調システム既存空調システムに、居住者の温冷感・満足度を加味した要望申告受付け機能の搭載を検討

VAV冷暖フリー技術同空調機系統内での冷暖同時要求へのニーズは高い

6.技術開発の完成度、目標達成度

VAV連携技術一部コントローラ製品に「VAV風量総和制御」として標準搭載し、現場への導入開始。今後すべてのコントローラへの標準搭載予定。

本技術開発においては、いずれも、目標通りの成果を上げた。 4

変動空調技術室温変動環境を

現場で実現する室温変動ロジックを、実オフィスにて検証実施予定

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21.0%27.3%

8.6% 5.9% 3.3% 3.4% 1.0%

0.5%

1.0%

5.1%

2.6%3.6%

9.5%

3.1%0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%

35%

40%

8/21 8/20 8/6 8/7 8/27 8/13 8/28

28c 28v 27c 27v 26c

不満申告者率

[%]

寒い不満

暑い不満

n=10(全日程出席者)

45 63 62 66

0

20

40

60

80

100

120

140

160

8/6 8/7 8/27 8/13

27c 27v 27v 26c

ナンバープレースの正答数

[-]

・n=8(習熟の影響がない被験者)

・午後1回目の作業

74 76 80

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

8/6 8/7 8/13

27c 27v 26c

エネルギー消費量

[MJ/

h]

図 1 室温変動実験の不満申告者率 図 2 室温変動実験の作業成績 図 3 エネルギー消費量の比較

21.4%17.8%

12.4%14.4%

8.2%

1.6%0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%

28℃ 定時申告 定時・開示 任意申告 任意・開示 26℃

不満申告者率(作業平均)

[%]

-15%

-10%

-5%

0%

5%

10%

15%

10 20 30 40 50 60 70 80 90 100ナンバープレースの正答数

[%]

(0

~1

0分を

10

0%とした時の変化)

作業時間 [分]

28℃・定時申告28℃・任意申告28℃・任意申告・情報開示27℃26℃

n=16

図 4 気流変動実験における不満申告者率(H22) 図 5 気流変動実験の作業成績の推移(H23)

被験者実験により、室内環境の温冷感のみならず知的生産性と関係の深い心理・生理的な基盤データを得ることができた。特に以下の効果確認が省エネ・室内環境を両立するソリューションへの重要な成果であった。

変動環境の効果室温や気流を変動させることで、一定環境よりも省エネかつ環境品質を維持することが可能

要望申告型空調システムの効果居住者の温熱環境への要望を反映する申告型空調に

より満足度が向上(省エネ行動促進の情報開示も検討)

(1)居住者満足感モデル構築に関する基本技術開発

H23年度被験者実験の様子アズビル(株)温熱環境実験設備

7.技術開発の成果 (1)

<申告型気流変動空調>室温はすべて28℃. 要望申告に応じて被験者別のスポット(天井)ファンを制御定時:固定間隔で要望受付任意:いつでも要望受付開示:周囲不満足者率の情報開示有

スポットファン

<室温(自動)変動>・室温変化速度(上昇・下降)実験の成果に基づく室温周期変動実験・26c (26℃一定)と27v(27℃土1℃周期変動)の比較結果では、27vは5%省エネ、環境品質は同等以上(不満足者率・ストレス値・知的生産性等評価)

21.0%27.3%

8.6% 5.9% 3.3% 3.4% 1.0%

0.5%

1.0%

5.1%

2.6%3.6%

9.5%

3.1%0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%

35%

40%

8/21 8/20 8/6 8/7 8/27 8/13 8/28

28c 28v 27c 27v 26c

不満申告者率

[%]

寒い不満

暑い不満

n=10(全日程出席者)

45 63 62 66

0

20

40

60

80

100

120

140

160

8/6 8/7 8/27 8/13

27c 27v 27v 26c

ナンバープレースの正答数

[-]

・n=8(習熟の影響がない被験者)

・午後1回目の作業

74 76 80

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

8/6 8/7 8/13

27c 27v 26c

エネルギー消費量

[MJ/

h]

図 1 室温変動実験の不満申告者率 図 2 室温変動実験の作業成績 図 3 エネルギー消費量の比較

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(2)居住者満足感・省エネ性向上のための室内環境制御に関する実用化技術開発(H24年度)

7.技術開発の成果 (2)

(居住者)要望申告型システムの開発被験者実験の実現環境を構築するとともに、開発・改良を経て次世代空調システムとしての可能性・課題検討を行うことができた(試作サーバは実現場での試運用可能)

また、省エネ・CO2削減と、環境満足感・生産性向上の両立に向けた①~③の技術を開発した

① VAV連携技術最小給気量の管理を、VAV単位(従来)から、空調機空間全体(VAV連携)とする制御ロジックを独自開発。これにより、空間内給気量が維持される環境であれば、風量を大きく絞る事が可能となり、冷やし過ぎ/暖め過ぎを低減させて、省エネ・制御性・快適性が向上する。実証実験において、風量削減率約6.2%、推定電力消費削減率 約17.5%の効果を確認した。また、関連製品をリリースした。

WEB申告

システム

イントラネット

BACnet

DDC

NC-bus

SCSMIS

中央監視

WEB申告による居住者快適性センシング

“操作”によるフィードフォワード制御

即効性のある気流空調

申告集計・BACnetイン

ターフェース

“操作”と空調制御の連動

順応性を考慮した操作リセット

投票時 順応性考慮

風量

WEB申告

システム

イントラネット

BACnet

DDC

NC-bus

SCSMIS

中央監視

WEB申告による居住者快適性センシング

“操作”によるフィードフォワード制御

即効性のある気流空調

申告集計・BACnetイン

ターフェース

“操作”と空調制御の連動

順応性を考慮した操作リセット

投票時 順応性考慮

風量

BACnet

中央監視中央監視

DDC

申告制御サーバ申告制御サーバ・申告処理(申告・位置情報受付、申告集計等演算..)

・制御演算・BACNet通信

(データ読込、制御指示)

WEB申告I/FWEB申告I/FWEB申告I/F

EtherNet人の温冷感申告(環境不満)に対応する気流変動

「暑い」「暑い」

気流ファン

風量風量

申告に応じた気流制御の例

VAV

申告型空調システム概要

VAV連携技術開発

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7.技術開発の成果 (2)続き

②冷暖フリーVAV制御技術

③変動空調制御技術;室温変動ロジック開発

VAVシステムにおいては、同空間における冷暖同時要求(暑い・寒いが同時に発生)への対応が、居住者満足度向上の課題となっている。これを解決する技術開発(S/W、

H/Wの2種類の技術開発)を行った。冷暖フリーロジック開発 (S/W)既存システムに追加適応可能なロジックを独自考案し、基本検証完了FANパワードVAV開発 (H/W)ヒータとファンを内蔵するVAVを設計・試作して基本性能検証を完了

暑い寒い

19℃ 23℃

被験者実験の経験・成果を受け、室温変動環境を実現する室温変動制御ロジック(アクチュエータゲイン連動制御ロジック)を独自に考案し、実現場にて基本性能の確認を完了した。

開発ロジックは、室温の変動に給気温度も連動させて変更することで、室温の制御性を向上(特許出願済)。

室温の遅れ時間を補正することで室内に供給する冷熱の最小および最大点の同期もはかっている。

冷熱供給を冷熱供給を最小とする最適点最小とする最適点

供給冷熱を供給冷熱を最大とする最適点最大とする最適点

風量最小風量最小VAV風量

給気温度最大給気温度最大給気温度

風量最大風量最大

給気温度最小給気温度最小

風量最小風量最小VAV風量

給気温度最大給気温度最大給気温度

風量最大風量最大

給気温度最小給気温度最小

冷暖フリーロジック給気温度を周期的に変動(検証実験イメージ)

FANパワードVAV

室温変動制御ロジック(風量と給気温度イメージ)

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8.技術開発に関する結果(残された課題)

9.今後の見通し

本技術開発で得られた成果の製品化を検討するにあたり、実オフィス適用時の課題抽出を進める必要がある。

・室温変動ロジックの開発(技術開発(5)2)③)を継続中であり、平成25年度より、

実オフィスでの実証実験を通してのロジック改良や、製品実装を視野に入れた開発を進めている。・居住者の要望申告を用いた申告型空調システムの開発にも着手しており、次世代空調システムへの搭載を目指している。

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