殺虫剤抵抗性機構の解析と 今後の課題について -...

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殺虫剤抵抗性機構の解析と 今後の課題について 岡山大学資源植物科学研究所 園田昌司 薬剤抵抗性病害虫対策検討会 2012316日 農林水産省講堂 1

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Page 1: 殺虫剤抵抗性機構の解析と 今後の課題について - maff.go.jp...殺虫剤抵抗性の原因 1. 皮膚透過性の低下 3. 標的部位の感受性の低下 2.解毒分解酵素活性の増大

殺虫剤抵抗性機構の解析と

今後の課題について

岡山大学資源植物科学研究所

園田昌司

薬剤抵抗性病害虫対策検討会

2012年3月16日 農林水産省講堂 1

Page 2: 殺虫剤抵抗性機構の解析と 今後の課題について - maff.go.jp...殺虫剤抵抗性の原因 1. 皮膚透過性の低下 3. 標的部位の感受性の低下 2.解毒分解酵素活性の増大

昆虫の正常な集団の

大多数を殺す薬量に

対して耐え得る能力が

その系統に発達したこと

殺虫剤抵抗性の定義

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生存虫

生存虫

生存虫

A剤

A剤

A剤

抵抗性小

抵抗性なし

抵抗性大

第1段階

第2段階

第3段階

3

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世界における薬剤抵抗性

殺虫剤 500種以上 (Georghiou, 1994)

殺菌剤 150種以上 (Eckert, 1988)

除草剤 194種 (341バイオタイプ) (横山, 2010)

日本における薬剤抵抗性

殺虫剤 約50種 (浜, 1996)

殺菌剤 約84種 (植物病理学会, 1998)

除草剤 25種 (横山, 2010) 4

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殺虫剤抵抗性の原因

1.皮膚透過性の低下

3.標的部位の感受性の低下

2.解毒分解酵素活性の増大

薬剤が体内に浸透しにくくなる

薬剤の体内での分解、体外への排泄

作用点(標的分子)の構造が変化し、

薬剤との相互作用が低下 5

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標的部位の感受性の低下による抵抗性

1.有機リン剤抵抗性

有機リン剤はAChEを阻害

中枢神経系の興奮性シナプスにおける神経

伝達はアセチルコリンによって行われる

伝達終了後アセチルコリンエステラーゼ

(AChE)によって速やかに分解される

AChEの分解を受けずに残った

アセチルコリンは興奮性の

刺激を与え続ける AChEのアミノ酸変異

http://ja.wikipedia.orgより引用

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ツマグロヨコバイやコガタアカイエカのAChE

にはアミノ酸変異が存在しない?

ムギミドリアブラムシで

新たなAChEのアミノ酸

変異の関与示唆

Weblio辞書より引用

Gao et al. (2002) Insect Biochem Mol Biol 32, 765-775 7

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2.ピレスロイド剤抵抗性

outside

inside

Domain I Domain II Domain III Domain IV

NH3+ COO-

L1014F

(kdr)

★ T929I

M918T

(super-kdr)

L1014F

M918T

L1014F

T929I

Weblio辞書より引用

T929I 主にドメインIIのアミノ酸

変異が関与

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3.ビフェナゼート抵抗性

ナミハダニにおける抵抗性は

母系遺伝

チトクロームbのアミノ酸変異が

抵抗性に関与

4.シクロジエン化合物抵抗性

シクロジエン化合物はGABA

受容体を阻害

GABA受容体における

アミノ酸変異が抵抗性に関与 http://ja.wikipedia.orgより引用

http://www.jppn.ne.jpより引用

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感受性の低下に基づく抵抗性では

標的部位のアミノ酸変異が関与

抵抗性個体と感受性個体の遺伝子

配列は一部異なる

塩基配列の違いを利用すれば抵抗性

個体を識別できる

モニタリング法の開発が可能 10

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解毒分解酵素活性の増大による抵抗性

1.カルボキシルエステラーゼ

有機リン剤、カーバメート剤、ピレスロイド剤

抵抗性に関与

エステル化合物の加水分解を触媒

・遺伝子重複による遺伝子数の増加

・酵素遺伝子に生じた変異による

高活性化

・殺虫剤に結合して作用点への到達を

妨げる(sequestration) 11

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2.グルタチオン転移酵素

親油性化合物のグルタチオン抱合を触媒

・遺伝子重複による遺伝子数の増加

昆虫には6つのクラス存在するが、抵抗性には

deltaおよびepsilonクラスが重要

イエバエの有機リン剤抵抗性やトビイロウンカの

ピレスロイド剤抵抗性

グルタチオン抱合体は昆虫体内で分解、排泄

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3.チトクロームP450

様々な基質を酸化、代謝

抵抗性個体では主にCYP6ファミリー遺伝子の

発現が高まっている

カーバメート剤、ピレスロイド剤、ベンゾイルフェ

ニルウレア剤、ネオニコチノイド剤抵抗性に関与

・シス制御因子の変異

・トランス制御因子の変異

・P450酵素遺伝子内の変異 13

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標的部位の感受性の低下による抵抗性と

解毒分解酵素活性の増大による抵抗性の

関係

1.ミナミキイロアザミウマのピレスロイド剤抵抗性

ミナミキイロアザミウマのピレスロイド剤

抵抗性にはナトリウムチャネルのアミノ酸

変異(T929I)による感受性の低下と

チトクロームP450による解毒分解酵素

活性の増大の両方が関与している

(Bao and Sonoda, submitted)。

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2.トビイロウンカのイミダクロプリド抵抗性

Liu et al. (2005) Proc Natl Acad Sci USA 102, 8420-8425

5つのnAChRサブユニットを感受性系統(S)と

抵抗性系統(R)で比較

抵抗性系統の2つのαサブユニットに

アミノ酸変異Y151Sを検出

Table. Frequencies of Y151S in Nilaparvata lugens

Population n

% homozygous

wild type % heterozygous

% homozygous

mutant

S

R (T25)

R (T35)

60

70

79

100

0

0

0

84

0

0

16

100

松村博士(九州沖縄

農技研)より提供

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Bass et al. (2011) Insect Mol Biol 20, 763-773

野外ではY151Sを持った個体が見つからない

以前よりCYP450の関与示すデータあり

2つのゲノムプロジェクトの成果(Noda et al.,

2008; Bass et al., 2012)および縮重プライマー利用して

33のCYP450遺伝子獲得し発現解析

Table. The LC50 values of Nilaparvata lugens

Strain n LC50 95% CL RR

NL9 232 97 3.4-434 248

NL15 118 20.1 1.14-2440 51.5

NL16 235 29.8 5.98-64.5 76.4

NLS 244 0.39 0.172-0.55 1

松村博士(九州沖縄

農技研)より提供

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抵抗性3系統と感受性

系統におけるCYP450

遺伝子の発現比較

CYP6ER1は抵抗性

3系統全てで発現

レベルが高い

野外におけるトビイロ

ウンカのイミダクロプリド

抵抗性にはCYP6ER1

による解毒分解酵素

活性の増大が関与して

いる

Bass et al. (2011) Insect Mol Biol 20, 763-773 17

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諌山ら(2005) 応動昆 48, 337-343

回復する場合も回復しない場合もある

殺虫剤に対する感受性は殺虫剤の使用を

やめると回復するのか?

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2.作用機構の異なる殺虫剤の

ローテーション散布が重要である

3.ローテーション散布で抵抗性の発達を

遅らすこと(延命)はできるが、回避できる

わけではない

1.殺虫剤抵抗性は発生さすべきではないが、

使う以上発生リスクは常に伴う

4.殺虫剤抵抗性機構を解明することが

殺虫剤の延命につながる可能性がある

結論

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6.殺虫剤抵抗性は国際問題である

7.殺虫剤抵抗性に関わる多国間共同研究を

進めるべきである

8.今後使用できる殺虫剤の種類が少なくなる

可能性があり、殺虫剤以外の資材の活用に

よる真の意味でのIPMを実践すべきである

5.殺虫剤抵抗性機構を解明するためには

異分野の研究者の連携が必要である

結論(続き)

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