非衝突拡散過程とランダム行列 -...

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非衝突拡散過程とランダム行列 ( 2006 7 3 7 ) 263-8522 1-33 e-mail: [email protected] Dyson , ブラ , ブラ ルミ N × N ルミ N Dyson N Dyson モデル 1 Dyson 1 N Dyson N 1 ブラ 非衝突ブラウン運動 [8]. , Dyson , . , ルミ Bru , . [4, 5]. Dyson , (0, ) N ブラ , (0, ) (0,T ] , ブラ . ブラ , ルミ , [22, 23, 24]. ブラ パフ (Pfaffian) , ブラ N . , パフ , ブラ [41, 38, 21, 42]. ブラ , . , ブラ , , ブラ , ルミ . [23, 30, 25]. 1

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  • 非衝突拡散過程とランダム行列

    ( 集中講義 京都大学  2006年 7月 3日から 7日)

    種村 秀紀

    千葉大学理学部数学・情報数理学科

    〒 263-8522 千葉県千葉市稲毛区弥生町 1-33

    e-mail: [email protected]

    Dysonは, 対角成分が実ブラウン運動に従って変動し, 非対角成分が複素ブラウン運動に従っ

    て変動する,エルミート行列に値をもつ確率過程を考案した.行列のサイズが N ×N であるとすると,エルミート行列値なので N 個の固有値は実軸上を運動することになるが,Dyson はそ

    の運動を記述する N 連立の確率微分方程式を導いた.この固有値の確率過程を Dyson モデル

    とよぶことにする.実軸上の固有値を,それぞれ 1 次元上の粒子の位置とみなすことにすると,

    Dyson モデルは 1 次元 N 粒子系を記述することになる.Dyson は,これはいかなる粒子間の

    衝突も起こらないという条件の下でのN 個の 1 次元ブラウン運動(非衝突ブラウン運動)に他

    ならないことを結論している [8]. 今回の集中講義では, これらの Dyson の結果の拡張、発展に

    ついて, この数年間の香取眞理氏(中央大学理工学部)との共同研究を中心に紹介する.

    第一日目は, エルミート行列値過程の固有値が満たす方程式はどのようなものかを調べた Bru

    の定理を証明し, この定理を適用して得られる例をいくつか紹介する. [4, 5]. Dyson モデルは,

    無限の時間区間 (0,∞) で衝突しないという条件の下での N 個のブラウン運動を表す時間的斉次な拡散過程と一致するが, 非衝突条件を無限の時間区間 (0,∞) ではなく有限の時間区間 (0, T ]で考えると, 非衝突ブラウン運動は時間的非斉次な拡散過程になる. これは1次元拡散過程にお

    いて3次元ベッセル過程が時間的に斉次でありブラウンミアンダーが時間的に非斉次であること

    に対応している.第二日目は, 時間的非斉次な拡散過程に対応するエルミート行列値過程を与え,

    その性質について説明する [22, 23, 24].

    非衝突ブラウン運動に対する相関関数はパフィアン (Pfaffian) を用いて表すことができ, こ

    の表現を用いることにより非衝突ブラウン運動での粒子数 N を無限大にしたときの相関関数の

    挙動を調べることができる. 第三日目以降では, 相関関数のパフィアン表現と相関関数の収束定

    理について講義し, 相互作用を持つ無限個のブラウン粒子系との関係を説明する [41, 38, 21, 42].

    ブラウン運動の代わりに, その他の拡散過程に対する非衝突過程を考えることができる. 最後

    に時間があれば, 反射壁ブラウン運動, ベッセル過程, ブラウンミアンダーなどに対する非衝突拡

    散過程を考え, 対応するエルミート行列値過程を与えその性質を説明する. [23, 30, 25].

    1

  • Contents

    1 エルミート行列値過程の固有値がみたす方程式 2

    1.1 Bru の定理とその応用 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2

    1.2 定理 1.1 の証明 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

    2 非衝突ブラウン運動とランダム行列 9

    2.1 Karlin-McGregor の公式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

    2.2 時間的に非斉次な非衝突ブラウン運動 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12

    2.3 非衝突ブラウン運動に対応するランダム行列 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15

    2.4 シューア関数による展開 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

    3 相関関数のパフィアン表現 20

    3.1 非衝突ブラウン運動の相関関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20

    3.2 定理 3.1 の証明 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23

    3.3 Proof of (3.21) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26

    3.4 歪直交関係の証明 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 28

    3.5 エルミート多項式による展開 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 31

    4 無限個の非衝突ブラウン運動 34

    4.1 相関関数の漸近挙動 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 34

    4.2 定理 4.1, 定理 4.2 の証明 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 37

    1 エルミート行列値過程の固有値がみたす方程式

    1.1 Bru の定理とその応用

    N ×N エルミート行列全体の集合を H(N), N ×N 実対称行列全体の集合を S(N) とおく. そして行列 A の転置行列を tA, 複素共役を A, 随伴行列を A∗ ≡ tA と書くことにする. BruはH(N)-値過程の一例であるWishart 過程について調べ, その固有値過程が満たす方程式を導いた[4, 5]. この結果は, 行列値過程の各要素 ξij(t), 1 5 i, j 5 N が複素数値連続半マルチンゲールである場合に拡張することができる [24, 25]. この節ではこの拡張の結果得られた一般化された

    Bru の定理を紹介し, その応用例を与えることにする.

    λ(t) = (λ1(t), λ2(t), . . . , λN (t)) をH(N)-値過程 Ξ(t) = (ξij(t))15i,j5N の固有値を成分にもつベクトルとする.ただし,大小関係 λ1(t) 5 λ2(t) 5 · · · 5 λN (t) を満たすものとする. このとき U(t) = (uij(t))1≤i,j≤N を

    U(t)∗Ξ(t)U(t) = Λ(t) = diag(λ1(t), λ2(t), · · · , λN (t)

    )

    というように,Ξ(t) を対角化するユニタリ行列の族とする.

    Γij,k`(t)dt =(U(t)∗dΞ(t)U(t)

    )ij

    (U(t)∗dΞ(t)U(t)

    )k`

    とおき,また (U(t)∗dΞ(t)U(t))ii の有界変動部分を dΥi(t) と書くことする. そして, 固有値

    (λ1(t), λ2(t), . . . , λN (t)) が初めて重なる正の時刻を τ とおく:

    τ = inf{t > 0 : λi(t) = λj(t) となる 1 5 i 6= j 5 N が存在する }.

    2

  • ¶ ³定理 1.1 (一般化された Bru の定理) 複素数値過程 ξij(t), 1 5 i, j 5 N を連続半マルチンゲールとする. このとき Ξ(t) の固有値 λ(t) は次の確率微分方程式を満たす.

    (1.1) dλi(t) = dMi(t) + dJi(t), t ∈ (0, τ), i = 1, 2, . . . , N

    ただし M(t) = (M1(t),M2(t), . . . , MN (t)) は dMi(t)dMj(t) = Γii,jj(t)dt であるマルチン

    ゲールであり, J(t) = (J1(t), J2(t), . . . , JN (t)) は

    dJi(t) =∑

    15j5Nj 6=i

    1λi(t)− λj(t)1{λi(t)6=λj(t)}Γij,ji(t)dt + dΥi(t)

    で与えられる有界変動過程である. ここで 1{ω} は条件 ω が成り立つときは 1, それ以外は

    0 の値を与える「条件 ω の指示関数」である.µ ´

    定理で導入された Γik(t), Υi(t) は一般にユニタリ行列過程 U(t) に依存するので確率微分方

    程式 (1.1) はマルコフ型にはならず, λ(t) は拡散過程にはならない. 次の4つの H(N)-値過程はユニタリ変換で分布が不変であるなどの条件があるために (1.1) がマルコフ型になる例である.

    【応用例】 ν ∈ N0 ≡ {0, 1, 2, . . . } とし, BRij(t), BIij(t), 1 ≤ i 5 N + ν, 1 5 j 5 N を2N(N + ν) 個の独立な 1 次元ブラウン運動とする. 1 5 i, j 5 N に対して sij(t), aij(t) を次で定義する:

    sij(t) =

    1√2BRij(t), i < j

    BRii(t), i = j1√2BRji(t), i > j

    aij(t) =

    1√2BIij(t), i < j

    0, i = j

    − 1√2BIji(t), i > j

    (i) GUE 型行列値過程

    ΞGUE(t) = (sij(t) +√−1aij(t))15i,j5N , t ∈ [0,∞) で定義されるH(N)-値過程を考える. 任

    意の固定した t ∈ [0,∞) に対して, ΞGUE(t) は H(N)-値確率変数になるが,H(N) の体積要素U(dH) に対する確率密度関数は

    µGUE(H, t) =t−N

    2/2

    c1(N)exp

    (− 1

    2tTrH2

    ), H ∈ H(N)

    で与えられる. ここで, Tr は行列のトレースをとることを表す.また,c1(N) = 2N/2πN2/2 で

    ある. N × N ユニタリ行列全体の集合を U(N) とおくと,任意の U ∈ U(N) に対して,確率 µGUE(H, t)U(dH) はユニタリ変換 H → U∗HU の下で不変である.ランダム行列理論では,このような不変性をもつ H(N)-値確率変数の統計集団をガウス型ユニタリ集団(GUE)とよぶ[36, 39]. この GUEの固有値分布の密度関数は, x1 < x2 < · · · < xN であるx = (x1, x2, · · · , xN )に対して

    (1.2) gGUE(x, t) =t−N

    2/2

    C1(N)exp

    (−|x|

    2

    2t

    )hN (x)2

    で与えられる [36, 39]. ここで hN (x) は差積で表される N ×N のヴァンデルモンドの行列式

    hN (x) = det15i,j5N

    (xi−1j

    )=

    15i

  • である. また, C1(N)は正規化定数であり, Γ(x)をガンマ関数としてC1(N) = (2π)N/2∏N

    i=1 Γ(i)

    と表せる.

    一般化された Bru の定理を ΞGUE(t) に適用するために,dξij(t)dξk`(t) の値を計算しておく

    ことにする. まず dξii(t)dξii(t) = dBRii(t)dBRii(t) = dt がすぐに分かる. また i < j のときには,

    dξij(t) = dBRij(t)/√

    2 +√−1dBIij(t)/

    √2 = dξji(t) であることに注意すると,dξij(t)dξij(t) =

    dt/2− dt/2 = 0, dξij(t)dξji(t) = dt/2 + dt/2 = dt となることも分かる.(i, j) 6= (k, `), (`, k) のときには, 独立性から dBRij(t)dB

    Rk`(t) = dB

    Iij(t)dB

    Ik`(t) = 0 が成り立つので, dξij(t)dξk`(t) = 0

    となる. 以上をまとめると dξij(t)dξk`(t) = δi`δjkdt, 1 5 i, j, k, ` 5 N となる. この結果を用いてdMi(t)dMj(t) を計算すると

    Γii,jj(t)dt =(U(t)∗dΞ(t)U(t)

    )ii

    (U(t)∗dΞ(t)U(t)

    )jj

    =∑

    k,`

    uki(t)dξk`u`i(t)∑m,n

    umj(t)dξmnunj(t)

    =∑

    k,`

    uki(t)ukj(t)u`i(t)u`j(t)dt = δijdt

    となる. ここで最後の等式は, U(t) がユニタリ行列であること(U(t)∗U(t) = U(t)U(t)∗ = IN)

    から導かれる. したがって, マルチンゲ-ル部分はN 次元ブラウン運動であることが示されたこ

    とになる. 同様な計算により Γij,ji(t) = 1, 1 5 i, j 5 N が分かる.(U(t)∗dΞ(t)U(t))ii の有界変動部分はないこと(dΥi(t) = 0)に注意すると, 一般化された Bru の定理から,λ(t) の満たすべ

    き確率微分方程式が

    (1.3) dλi(t) = dBi(t) +∑

    15j5Nj 6=i

    1λi(t)− λj(t)dt, 1 5 i 5 N

    であることが導かれる. また τ = ∞ であることを示すことができる. 本講義録の冒頭で述べたDyson モデルの確率微分方程式は

    (1.4) dYi(t) = dBi(t) +β

    2

    15j5Nj 6=i

    1Yi(t)− Yj(t)dt

    (t ∈ (0,∞), 1 5 i 5 N)の形であり,(1.3) はこの β = 2 の場合になっている.(ii) GOE 型行列値過程

    ΞGOE(t) = (sij(t))15i,j5N , t ∈ [0,∞) で定義される S(N)-値過程を考える. 任意の固定したt ∈ [0,∞) に対して ΞGOE(t) は,S(N) の体積要素 V(dS) に対する確率密度関数が

    µGOE(S, t) =t−N(N+1)/4

    c2(N)exp

    (− 1

    2tTrS2

    ), S ∈ S(N)

    であるような S(N)-値確率変数を与える. ここで c2(N) = 2N/2πN(N+1)/4 である. N ×N 実直交行列全体の集合を O(N) とおくと, 任意の V ∈ O(N) に対して, 確率 µGOE(S, t)V(dS) は直交変換 S →t V SV の下で不変である.このような S(N)-値確率変数の統計集団はガウス型直交集団(GOE)とよばれている.GOE の固有値分布の密度関数は, x1 < x2 < · · · < xN であるx = (x1, x2, · · · , xN ) に対して,

    (1.5) gGOE(x, t) =t−N(N+1)/4

    C2(N)exp

    (−|x|

    2

    2t

    )hN (x)

    4

  • で与えられる(ただし C2(N) = 2N/2∏N

    i=1 Γ(i/2))[36, 39]. GUE 型行列値過程と同様な計算に

    より,λ(t) の満たすべき確率微分方程式は

    dλi(t) = dBi(t) +12

    15j5Nj 6=i

    1λi(t)− λj(t)dt, 1 5 i 5 N

    と定まる. この場合にも τ = ∞ であることを示すことができる. これは Dyson モデルの方程式(1.4) の β = 1 の場合に等しい.

    (iii) Laguerre 過程

    (N + ν)×N 複素行列全体の集合をM(N + ν, N,C) と書くことにする. M(N + ν, N,C)-値過程として,L(t) = (BRij(t) +

    √−1BIij(t))15i5N+ν,15j5N を考える.これは,任意の固定したt ∈ [0,∞) に対して,確率密度関数が

    µchGUEν (L, t) =t−N(N+ν)

    c3(N)exp

    (− 1

    2tTrL∗L

    ), L ∈M(N + ν, N,C)

    であるような M(N + ν,N,C)-値確率変数を与える (c3(N) = (2π)N(N+ν)).このような確率変数の統計集団はカイラル・ガウス型ユニタリ集団 (chGUE)とよばれている [39]. これに

    対して,ΞL(t) = L(t)∗L(t), t ∈ [0,∞) によって定義される H(N)-値過程を Laguerre 過程とよぶ [31]. 行列 ΞL(t) は非負定値であるので固有値はすべて非負である. 定義より ξij(t) =∑N+ν

    k=1 (BRki(t)−

    √−1BIki(t))(BRkj(t) +√−1BIkj(t)) となるので, B(t)2 = 2

    ∫ t0

    B(s)dB(s) + t で

    あることに注意すると, dξij(t) の有界変動部分は 2(N + ν)δijdt, 1 5 i, j 5 N であることがすぐに分かる(従って dΥi(t) = 2(N + ν)dt).また,

    dξij(t)dξk`(t) = 2(ξi`(t)δjk + ξkj(t)δi`

    )dt, 1 5 i, j, k, ` 5 N

    と計算できるので, Γii,jj(t) = 4λi(t)δij , Γij,ji(t) = 2(λi(t) + λj(t)), 1 5 i, j 5 N と求められる.したがって λ(t) は確率微分方程式

    dλi(t) = 2√

    λi(t)dBi(t) + 2(N + ν)dt + 2∑

    15j5Nj 6=i

    λi(t) + λj(t)λi(t)− λj(t)dt

    (1 5 i 5 N)の解となっていることが導かれる. この場合も τ = ∞ である.(iv) Wishart 過程

    (N + ν)×N 実行列全体の集合をM(N + ν, N,R) とおく. M(N + ν, N,R)-値過程W (t) =(BRij(t))15i5N+ν,15j5N は, 任意の固定した t ∈ [0,∞) に対して,確率密度関数が

    µchGOEν (W, t) =t−N(N+ν)/2

    c4(N)exp

    (− 1

    2tTr tWW

    ), W ∈M(N + ν, N,R)

    であるようなM(N + ν, N,R)-値確率変数を与える(c4(N) = (2π)N(N+ν)/2). このような確率変数の統計集団はカイラル・ガウス型直交集団 (chGOE)とよばれている [39]. これに対して,

    ΞW(t) =t W (t)W (t), t ∈ [0,∞) によって定義される S(N)-値過程をWishart 過程とよぶ [5] .Laguerre 過程のときと同様な計算により, λ(t) は確率微分方程式

    dλi(t) = 2√

    λi(t)dBi(t) + (N + ν)dt +∑

    15j5Nj 6=i

    λi(t) + λj(t)λi(t)− λj(t)dt

    (1 5 i 5 N)の解となっていることが導かれる. ( τ = ∞ である.)

    5

  • 1.2 定理 1.1 の証明

    固有値が重ならずにすべて異なっている範囲では, 固有値過程 λ(t) はエルミート過程 Ξ(t) の滑

    らかな関数であり, さらにユニタリ行列 U(t) は λ(t) と Ξ(t) の滑らかな関数である. 定理の過

    程から Ξ(t) は半マルチンゲールであるので, λ(t), t ∈ (0, τ) と U(t), t ∈ (0, τ) がともに半マルチンゲールであることがわかる. 伊藤の公式を適用することにより次の式を得る:

    dΛ(t) = dU(t)∗Ξ(t)U(t) + U(t)∗dΞ(t)U(t) + U(t)∗Ξ(t)dU(t)(1.6)

    + dU(t)∗dΞ(t)U(t) + dU(t)∗Ξ(t)dU(t) + U(t)∗dΞ(t)dU(t).

    行列 A(t) = (aij(t))1≤i,j≤N , Φ(t) = (φij(t))1≤i,j≤N , Ψ(t) = (ψij(t))1≤i,j≤N を次で定義する:

    dA(t) = U(t)∗dU(t) +12dU(t)∗dU(t) = d(log U(t)), A(0) = 0,

    dΦ(t) = U(t)∗dΞ(t)U(t)dA(t),

    dΨ(t) = dA(t)∗Λ(t)dA(t).

    ここで Φ(t), Ψ(t) は有界変動過程であることに注意しておく.

    Claim 1. A(t) は歪エルミートであり, dA(t)dA(t) はエルミートである.

    (∵)0 = d(U(t)∗U(t)) = dU(t)∗U(t) + U(t)∗dU(t) + dU(t)∗dU(t).

    よって

    dU(t)∗U(t) +12dU(t)∗dU(t) = −U(t)∗dU(t)− 1

    2dU(t)∗dU(t).

    がなりたつ.

    Claim 2. dU(t) = U(t){dA(t) + 12dA(t)dA(t)}.(∵)

    −dA(t)dA(t) = dA(t)∗dA(t)(1.7)

    =(

    U(t)∗dU(t) +12dU(t)∗dU(t)

    )∗(U(t)∗dU(t) +

    12dU(t)∗dU(t)

    )

    = dU(t)∗U(t)U(t)∗dU(t)

    = dU(t)∗dU(t).

    したがって U(t)∗dU(t) = dA(t)− 12dU(t)∗dU(t) に注意すると

    dU(t) = U(t){

    dA(t)− 12dU(t)∗dU(t)

    }

    = U(t){

    dA(t) +12dA(t)dA(t)

    }.

    Claim 3.

    dΛ(t) = U(t)∗dΞ(t)U(t) + dA(t)∗Λ(t) + Λ(t)dA(t)

    +12dA(t)dA(t)Λ(t) +

    12Λ(t)dA(t)dA(t)

    + dΦ(t) + dΦ(t)∗ + dΨ(t).

    6

  • (∵) (1.7) より

    dA(t)∗Λ(t) + Λ(t)dA(t) +12dA(t)dA(t)Λ(t) +

    12Λ(t)dA(t)dA(t)

    =(

    U(t)∗dU(t) +12dU(t)∗dU(t)

    )∗Λ(t)

    +Λ(t)(

    U(t)∗dU(t) +12dU(t)∗dU(t)

    )

    +12dA(t)dA(t)Λ(t) +

    12Λ(t)dA(t)dA(t)

    = dU(t)∗U(t)Λ(t) + Λ(t)U(t)∗dU(t)

    = dU(t)∗Ξ(t)U(t) + U(t)∗Ξ(t)dU(t),

    となる. 最後の等式では関係式 Λ(t) = U(t)∗Ξ(t)U(t) を用いた. また

    dΦ(t) = U(t)∗dΞ(t)U(t)dA(t)

    = U(t)∗dΞ(t)U(t){

    U(t)∗dU(t) +12dU(t)∗dU(t)

    }

    = U(t)∗dΞ(t)dU(t),

    dΦ(t)∗ = dU(t)∗dΞ(t)∗U(t) = dU(t)∗dΞ(t)U(t),

    dΨ(t) = dA(t)∗Λ(t)dA(t) = dU(t)∗U(t)Λ(t)U(t)∗dU(t)

    = dU(t)∗Ξ(t)dU(t),

    が成り立つことがわかる. 上の関係式を (1.6) に代入すると Claim 3 を得る.

    12dA(t)dA(t) = (dγij(t))1≤i,j≤N とおく. A(t) は歪エルミートであるので aii(t) = 0 でとな

    りClaim 3 より

    dλi(t) =∑

    k,l

    uki(t)uli(t)dξk,l(t) + 2λi(t)dγii(t) + dφii(t) + dφii(t) + dψii(t).

    〈A〉t, Φ(t), Ψ(t) が有界変動であることから

    d〈Mi,Mj〉t =∑

    α,β

    ∑ν,ω

    uαi(t)uβi(t)uνj(t)uωj(t)dξαβ(t)dξνω(t) = Γii,jj(t)dt

    となる. したがって定理はつぎの補題から導かれる.¶ ³補題 1.2

    2λi(t)dγii(t) + dφii(t) + dφii(t) + dψii(t)(1.8)

    =∑

    k 6=i

    1λi(t)− λk(t)1(λi(t) 6= λk(t))Γik,ki(t)dt.

    µ ´【証明】Λ(t) は対角行列であるから, Claim 3 より i 6= k であれば

    0 =∑

    α,β

    uαi(t)uβk(t)dξαβ(t) + λk(t)daki(t) + λi(t)daik(t)

    + λk(t)dγik(t) + λi(t)dγik(t) + dφik(t) + dφki(t) + dψik(t).

    7

  • A(t) が歪エルミートであることから

    (λk(t)− λi(t))daik(t) =∑

    α,β

    uαi(t)uβk(t)dξαβ(t)(1.9)

    +(λi(t) + λk(t))dγik(t) + dφik(t) + dφki(t) + dψik(t)

    となる. 定義より

    dγij(t) =12

    k 6=i,jdaik(t)dakj(t),

    dφij(t) =∑

    α,β,k 6=iuαi(t)dξαβ(t)uβk(t)dakj(t) =

    k

    (λk(t)− λi(t))daik(t)dakj(t),(1.10)

    となる. (1.10) の 2番目の等号は (1.9) の右辺第 2項から 4項が有界変動であることに注意して

    計算することから得られる. また A が歪エルミートであることから

    dφij(t) =∑

    k

    (λk(t)− λi(t))daki(t)dajk(t),

    dψij(t) =∑

    k 6=i,jdaki(t)λk(t)dakj(t) = −

    k 6=i,jdaik(t)λk(t)dakj(t).

    を得る. 以上の4つの等式から

    2λi(t)dγii(t) + dφii(t) + dφii(t) + dψii(t)

    =∑

    k 6=i{λi(t) + 2(λk(t)− λi(t))− λk(t)}daik(t)daki

    =∑

    k 6=i(λk(t)− λi(t))1(λk(t) 6= λi(t))daik(t)daki(t)

    を得る. (1.9) より

    −(λk(t)− λi(t))2daikdaki = Γik,ki(t)dt

    でなるので

    2λi(t)dγii(t) + dφii(t) + dφii(t) + dψii(t) =∑

    k 6=i

    1λi(t)− λk(t)1(λk(t) 6= λi(t))Γik,ki(t)dt

    となり、補題 1.2 が示された.

    8

  • 2 非衝突ブラウン運動とランダム行列

    2.1 Karlin-McGregor の公式

    非衝突拡散過程を解析するには,行列式を用いた密度関数の表示が有効である.この行列式表示は,

    確率論では Karlin-McGregor の公式 [18], 組み合わせ論的表現論では Lindström-Gessel-

    Viennot の公式 [33, 13, 53, 32]とよばれる. またこの公式は,量子力学で自由フェルミ粒子か

    らなる多体系の波動関数を表す Slater 行列式の確率過程版とみなすこともできる [54].この節

    では,時間も空間も離散的である場合を例にしてこの行列式表示を説明し,公式の証明を与える

    ことにする.

    まず,1+1 次元の時空平面を表す正方格子上に, 頂点の集合 V と向き付けされた辺の集合 E

    V ={

    (z, k) : z は整数, k は非負整数, z + k は偶数}

    E ={(

    (z, k) → (z − 1, k + 1)),((z, k) → (z + 1, k + 1)

    ): (z, k) ∈ V

    }

    と定義して,この二つを組とする有向グラフ G = (V, E) を導入する.

    (x, 0) (x′, 0)

    (y′, n) (y, n)

    Figure 1: グラフ Gの図

    n を自然数とする. p = {vk}nk=1 が道であるとは,k = 1, 2, . . . , n − 1 に対して (vk →vk+1) ∈ E が満たされることをいう. uから v への道があるとき u → v と書き, 道 u → v 全体の集合を P(u, v) と書くことにする. N 個の始点 u = (u1, u2, . . . , uN ) ∈ V N と N 個の終点 v = (v1, v2, . . . , vN ) ∈ V N が与えられたとき, N 本の道の組 {ui → vi}Ni=1 全体の集合をP(u, v) とおく:

    P(u,v) ={

    p(N) = (p1, p2, . . . , pN ) : pi ∈ P(ui, vi), i = 1, 2, . . . , N}

    二つの道が同じ頂点をもつとき,それらは衝突するという. 以上の定義から,有向グラフG = (V,E)

    上の道が次の重要な性質をもつことは,図 2 を見ると明らかであろう.

    性質 1© x < x′, y > y′ のとき,任意の p ∈ P((x, 0), (y, n)) と p′ ∈ P((x′, 0), (y′, n)) は衝突する.

    9

  • N 本の非衝突な道全体の集合

    P0(u, v) ≡{

    p(N) ∈ P(u, v) : p(N)の道は互いに非衝突}

    を考える. 重み関数 w : E → (0, 1) を導入し, 各々の道に対して重み w(p) = ∏e∈p w(e) を与え,uから vへの道のグリーン関数を

    G(u, v) =∑

    p∈P(u,v)w(p)

    で定義する.N 本の道 p(N) ∈ P(u, v) に対する重みは w(p(N)) = ∏Ni=1 w(pi) で与えることにすると,P0(u, v) のグリーン関数は

    G0(u,v) =∑

    p(N)∈P0(u,v)w(p(N))

    で与えられる. 例えば,重み関数が

    w((z, k) → (z − 1, k + 1)

    )+ w

    ((z, k) → (z + 1, k + 1)

    )= 1, (z, k) ∈ V

    を満たすときは, 上で述べた道は,時刻 k に z の状態にあったものが, 時刻 k + 1 で状態 z + 1

    になる確率が w((z, k) → (z + 1, k + 1)), 状態 z − 1 になる確率が w((z, k) → (z − 1, k + 1)) であるようなマルコフ連鎖を表すことになる. 一般に,グリーン関数 G(u, v) は時刻 0 で u から

    出発したマルコフ連鎖が時刻 n で v に到達する推移確率を与え, グリーン関数 G0(u, v) は時

    刻 0 で ui, i = 1, 2, . . . , N から出発した N 個の独立なマルコフ連鎖が互いに衝突することなく

    vi, i = 1, 2, . . . , N に到達する確率を与えることになる.

    以上の設定の下で次の定理が成り立つ. N = 2 の場合はこの定理は, 1次元ランダムウォーク

    に対する反射原理と本質的に同じであることに注意すると, 反射原理の一般化とみなすことがで

    きる.

    定理 2.1 [Karlin-McGregor の公式] ([18, 33, 13]) N 個の始点 ui = (xi, 0), i = 1, 2, . . . , N

    とN 個の終点 vi = (yi, n), i = 1, 2, . . . , N がそれぞれ x1 < x2 < . . . < xN , y1 < y2 < . . . < yNを満たすとき, 次が成り立つ.

    (2.1) G0(u, v) = det15i,j5N

    (G(ui, vj)

    ).

    【証明】 {1, 2, . . . , N}の置換全体の集合を SN とする. 行列式の定義より,

    (2.2) det15i,j5N

    (G(ui, vj)

    )=

    π∈SNsgn(π)G(u1, vπ(1)) · · · G(uN , vπ(N))

    である. π ∈ SN に対して,これと N 本の道 pi ∈ P(ui, vπ(i)), i = 1, 2, . . . , N とからなる組を(π, p1, p2, . . . , pN ) と書くことにする. まず (π, p1, p2, . . . , pN ) として,少なくとも 1箇所で衝

    突している場合を表すものを考えることにする. 図 3 に示したように,衝突が起こった最初の頂

    点を xとおく. もしも,最初の衝突が同時に 2箇所以上で起こった場合には最も左側のもの(位

    置の座標が最小のもの)を xとする. そして,この頂点 x で衝突する二つの道を pi, pj とする.

    10

  • u1 u2 u3 u4

    vπ(2)vπ(3) vπ(1) vπ(4)

    x

    Figure 2: 衝突している道の例

    道 pi のうちの始点 ui から x までの部分を pi(→ x), xから終点 vπ(i)までの部分を pi(x →)と書くことにする.同様に,道 pj のうち始点 uj から x までの部分を pj(→ x), xから終点 vπ(j)までの部分を pj(x →)と書く. そして, 図 4 に示したように,x でそれぞれの部分を入れ替えて

    p′i = pi(→ x)pj(x →) : xまでは pi, xからは pj を使った道p′j = pj(→ x)pi(x →) : xまでは pj , xからは pi を使った道

    と定めることにする. また, k 6= i, j に対しては, p′k = pk と定める.

    ui uj ui uj

    x x

    vπ(j) vπ(j)vπ(i) vπ(i)

    pipj p′jp

    ′i

    Figure 3: pi, pj と p′i, p′j の例

    i と j の互換 (i, j) と置換 π との積置換を π′ と書く. N 本の道の組

    (π′, p′1, p′2, . . . , p

    ′N ) = p

    (N)′ と (π, p1, p2, . . . , pN ) = p(N)

    とは, 同じ重みをもち, また, sgn(π) = −sgn(π′)であることから,

    sgn(π)w(p(N)) = −sgn(π′)w(p(N)′)

    となることが分かる. p(N)′に対して再び同じ変換を施すと元の p(N) に戻ることに注意すると,

    p(N) と p(N)′とは 1 対 1 に対応していることが分かる. グリーン関数 G(u, v) は,始点 u から

    終点 v までの道の重み付きの和であったので,(2.2) は,N 本の道のさまざまな配置を適当な重

    みと符号を付けて足し合わせた和と見なせるが,上の考察から,この和をとると衝突がある場合

    の寄与 sgn(π)w(p(N)) はすべて相殺されてしまうことが結論される.ところが,性質 1©より,

    11

  • 非衝突の場合には π は必ず恒等変換であるので

    π∈SNsgn(π)G(u1, vπ(1)) · · · G(uN , vπ(N))

    =∑

    π∈SN

    (π,p1,p2,...,pN )

    sgn(π)w(p1) · · · w(pN )

    =∑

    p(N)∈P0(u,v)w(p(N)) = G0(u, v)

    が成り立つ.したがって,(2.2)より定理が証明された. ¥

    定理の証明で使われている道の重みに関する重要な性質は「衝突した後の道の部分を互いに

    入れ替えても,二つの道の重みは同じ」というものである. 互いに独立で同分布である N 本の

    拡散過程について考えてみると, それらを成分とする N 次元確率過程も拡散過程となり, 異なる

    2 本が最初に衝突する時刻はマルコフ時刻になる.このことから,この性質は強マルコフ性から

    導かれることになる. また重み関数を与えるときに,時間的にも空間的にも斉次性は仮定してい

    ないので, 上の定理は時間的あるいは空間的に非斉次である拡散過程にも適用できることになる.

    2.2 時間的に非斉次な非衝突ブラウン運動

    RN の部分集合WAN をWAN = {x ∈ RN : x1 < x2 < · · · < xN}

    と定義する. これは, AN−1 型のWeyl chamberと呼ばれているものである. WAN の点 xから出発したブラウン運動が WAN から出ることなく時刻 t で WAN の点 y へ到達する確率密度をfN (t,x,y) とおく. Karlin-McGregor 公式 (Lindström-Gessel-Viennotの定理)より各成分が熱

    核 Gt(xj , yi) = (2πt)−1/2 e−(yi−xj)2/2t, (G0(xj , yi) = δxj (dyi)) である行列式を用いて

    (2.3) fN (t,x,y) = det1≤i,j≤N

    (Gt(xj , yi))

    と表すことができる ([18]). そして, 時刻 tまで xから出発したブラウン運動がWAN から出ない確率は,

    (2.4) NN (t,x) =∫

    WANdyfN (t,x,y)

    で与えられる. N 次元ブラウン運動が WAN から出ないということが N 本の 1 次元ブラウン運動が互いに衝突しないことに対応することに注意すると有限区間 (0, T ] で互いに衝突しな

    いという条件のもとでのブラウン運動 X(t) = (X1(t), X2(t), . . . , XN (t))の推移確率密度関数

    gN (s,x, t,y), 0 ≤ s < t ≤ T, x,y ∈WAN は,

    時間的非斉次な非衝突ブラウン運動 (1)

    (2.5) gTN (s,x, t,y) =fN (t− s,x,y)NN (T − t,y)

    NN (T − s,x)

    となる. また非衝突ブラウン運動は, すべて原点から出発した場合にも推移確率密度を次のよう

    に与える事ができる.

    12

  • 時間的非斉次な非衝突ブラウン運動 (2)

    (2.6) gTN (0,0, t,y) =TN(N−1)/4t−N

    2/2

    C2(N)exp

    {−|y|

    2

    2t

    }hN (y)NN (T − t,y),

    t > 0,y ∈WAN .(2.6)は次の補題から直ちに導かれる.¶ ³補題 2.2 t > 0,x,y ∈WAN に対して次の漸近式が成り立つ:

    (2.7) fN (t,x, y) =t−N(N+1)/4

    C1(N)exp

    {−|y|

    2

    2t

    }hN

    (x√t

    )hN (y) ×

    {1 +O

    ( |x|√t

    )},

    (2.8) NN (t,x) = C2(N)C1(N)

    hN

    (x√t

    {1 +O

    ( |x|√t

    )},

    |x|√t→ 0.

    µ ´【証明】行列式の性質を考えて fN (t,x,y)を計算してみると,

    fN (t,x,y) = (2πt)−N/2 exp

    {− 1

    2t

    N∑

    i=1

    (x2i + y2i )

    }det

    1≤i,j≤N(exjyi/t)

    と書き直すことができる. そこで a = x/√

    t, b = y/√

    t として,行列式 det1≤i,j≤N[eaibj

    ]を

    考えてみることにする.長さ ` (≤ N) の分割 µ = (µ1, µ2, . . . , µ`) すなわち µi ∈ Z, 1 ≤ i ≤ `,µ1 ≥ µ2 ≥ · · · ≥ µ` > 0 に対して,z ∈WAN のシューア関数 (Schur function)

    sµ(z) =det

    1≤i,j≤N

    [z

    µj+N−ji

    ]

    det1≤i,j≤N

    [zN−ji

    ]

    を定義する [11, 19, 26].これは z の |µ| = ∑`i=1 µi 次の対称斉次多項式である (例えば [11] を参照). Γ をガンマ関数として γµ = 1/

    ∏Ni=1 Γ(µi + N − i + 1) とすると,

    det1≤i,j≤N

    [eaibj

    ]

    hN (a)hN (b)=

    µ:`(µ)≤Nγµsµ(a)sµ(b)

    という展開公式が成り立つことが示せる.この展開公式の証明は 2.4節で与えることにする. た

    だし和は, 分割 µ のうち長さ ` = `(µ) が N 以下のものについてとるものとする.条件 ω が成

    り立つときは 1, それ以外は 0 の値を与える「条件 ω の指示関数」を 1{ω} と書くことにして,

    また 0 = (0, 0, . . . , 0) とすると,sµ(0) = 1{µ=0} であることから,

    det1≤i,j≤N

    [eaibj

    ]=

    hN (a)hN (b)∏Ni=1 Γ(i)

    ×{

    1 +O(|a|)}

    , |a| → 0

    であることが分かる.この結果から,漸近評価 (2.7) が得られることになる.Selberg 積分の変

    形 ([36] の p.321 (17.6.7) 式)∫

    RNe−a|u|

    2 |hN (u)|2γdu = (2π)N/2(2a)−N(γ(N−1)+1)/2N∏

    i=1

    Γ(1 + iγ)Γ(1 + γ)

    13

  • で γ = 1/2, a = 1/2t とした場合を用いると,漸近評価 (2.8) が (2.7) より導かれる.

    非衝突条件 T を無限大にすると (時間的非斉次) 非衝突ブラウン運動は推移確率密度関数が

    時間的斉次な非衝突ブラウン運動

    pN (0,0, t,y) =t−N

    2/2

    C1(N)exp

    {−|y|

    2

    2t

    }hN (y)2(2.9)

    pN (s,x, t,y) =1

    hN (x)fN (t− s,x,y)hN (y),(2.10)

    0 ≤ s < t < ∞,x,y ∈WAN

    で与えられる時間的斉次な拡散過程 Y(t) に収束する. Y(t) は次の β = 2 の場合の Dyson’s

    Brownian motion model

    (2.11) Yi(t) = Bi(t) +∑

    1≤j≤Nj 6=i

    ∫ t0

    1Yi(s)− Yj(s)ds, t ∈ (0,∞), i = 1, 2, . . . , N.

    を満足することがわかる.

    密度関数の形 (2.6), (2.5), (2.9), (2.10) によりX(t)とY(t) の分布には次の関係があること

    がわかる.

    一般化された Imhof 関係. 初期値 X(0) = Y(0) = 0 であるとき

    (2.12) P (X(·) ∈ dw) = C1(N)TN(N−1)/4

    C2(N)1

    hN (w(T ))P (Y(·) ∈ dw).

    0 x

    tT

    0 x

    t

    Figure 4: 時間的に非斉次な過程 X(t) と 斉次な過程 Y (t)

    14

  • 2.3 非衝突ブラウン運動に対応するランダム行列

    βij(t), t ∈ [0, T ], 1 ≤ i < j ≤ N を独立な1次元ブラウンブリッジでブラウン運動 BRij(t),1 ≤ i ≤ j ≤ N と独立なものとする. そして

    bij(t) =

    1√2βij(t), if i < j,

    0, if i = j,

    とおき, i > j のときは bij(t) = −bji(t) で定める. H(N)-値確率過程 ΞT (t), t ∈ [0, T ] を

    ΞT (t) = (sij(t) +√−1bij(t))1≤i,j≤N

    で定義し, λi(t), i = 1, 2, . . . , N を ΞT (t) の固有値で λ1(t) ≤ λ2(t) ≤ · · · ≤ λN (t) を満たすものとする. このとき次の定理を得る.¶ ³定理 2.3 固有値 λ(t) = (λ1(t), λ2(t), . . . , λN (t)) は時間的に非斉次な拡散過程であり, 非

    斉次な非衝突ブラウン運動 X(t) と一致する.µ ´

    Yor [57] はブラウンミアンダーが独立な2つのブラウン運動 B1(t), B2(t) と1つのブラウン

    ブリッジ β3(t) を用いて (B1(t)2 + B2(t)2 + β3(t)2)1/2 で定義された拡散過程と一致することを

    示している. N = 2 のとき時間的非斉次な非衝突ブラウン運動の間隔 X2(t) − X1(t) はブラウンミアンダーであるので, 定理 2.3 は Yor の結果を一般の N へ拡張したものとみなすことがで

    きる.

    【定理 2.3の証明】任意の y ∈ R, 1 ≤ i, j ≤ N , ] = R, I に対して β]ij(t) = β]ij(t : y), t ∈ [0, T ], を時刻 0 で原点

    から出発し, 時刻 T で y に達するブラウンブリッジであり, 方程式

    (2.13) β]ij(t) = B]ij(t)−

    ∫ t0

    β]ij(s)− yT − s ds, t ∈ [0, T ].

    をみたすものとする. y ∈ R に対して

    ξRij(t : y) =

    1√2βRij(t :

    √2y), if i < j,

    1√2βRji(t :

    √2y), if i > j,

    βRii (t : y), if i = j,

    ξIij(t : y) =

    1√2βIij(t :

    √2y), if i < j,

    − 1√2βIji(t :

    √2y), if i > j,

    0, if i = j,

    とおき, エルミート行列 H = (yRij +√−1yIij)1≤i,j≤N ∈ H(N) にたいしてエルミート値過程

    ΞT (t : H) を

    ΞT (t : H) = (ξRij(t : yRij) +

    √−1ξIij(t : yIij))1≤i,j≤N , t ∈ [0, T ]

    で定める. (2.13) 式より

    (2.14) ΞT (t : H) = ΞGUE(t)−∫ t

    0

    ΞT (s : H)−HT − s ds, t ∈ [0, T ],

    15

  • が成り立つことがわかる. HU を µGUE(·, T )に従うエルミート行列値確率変数, AO を µGOE(·, T )に従う対称行列値確率変数とする. β]ij(t : Y ), t ∈ [0, T ] は Y が平均 0, 分散 T の正規分布に従う B]ij(t), t ∈ [0, t] と独立な確率変数であるときブラウン運動であることに注意すると, HU とAO が ΞGUE(t), t ∈ [0, T ] と独立であれば

    ΞT (t : HU ) = ΞGUE(t), t ∈ [0, T ],(2.15)ΞT (t : AO) = ΞT (t), t ∈ [0, T ],(2.16)

    が分布の意味で成り立つ. ΞGUE(t) の分布がユニタリ変換で不変であることに注意すると (2.14)

    式よりつぎの性質が導かれる.

    補題 2.4 任意のユニタリ行列 U ∈ U(N) に対して

    (2.17) U∗ΞT (t : H)U = ΞT (t : U∗HU), t ∈ [0, T ],

    が分布の意味で成り立つ.

    上の補題から H(1) と H(2) が同じ固有値をもつN ×N エルミート行列であるとき, 行列値過程 ΞT (t : H(1)), t ∈ [0, T ] と ΞT (t : H(2)), t ∈ [0, T ] も分布の意味で同じ固有値をもつことがわかる. {ai}1≤i≤N を固有値にもつ N ×N エルミート行列 H を与えたとき ΞT (t : H), t ∈ [0, T ] の固有値の分布を QT0,a(·) と書くことにする. また ΞGUE(t), t ∈ [0, T ] の固有値の分布を QGUE(·),ΞT (t), t ∈ [0, T ] の固有値の分布を QT (·) と書くことにする. 等式 (2.15), (2.16) から

    QGUE(·) =∫

    WANQT0,a(·)gGUE(a, T )da,(2.18)

    QT (·) =∫

    WANQT0,a(·)gGOE(a, T )da.(2.19)

    が成り立つことがわかる. QGUE(·) 時間的斉次な非衝突ブラウン運動の分布であるので一般化された Imhof 関係 (2.12) よりQT (·) が時間的非斉次な非衝突ブラウン運動の分布と一致することがわかる.

    Pandey and Mehta [37, 46] は GUE から GOE への転移を記述する行列モデル ( two-matrix

    model ) を GUE と GOE の合成積を用いて構成している. ブラウンブリッジの直交分解を用い

    ると任意の時刻 t で ΞT (t) を独立な GUE と GOE の和で表すことができ, Pandey-Mehata 行

    列モデルと同値のモデルであることがわかる. この同値性に着目することから定理 2.3 の系とし

    て Harish-Chandra の積分公式 [15] を導くことができる.

    ¶ ³系 2.5 dU を U(N) 上の Haar 測度で

    ∫U(N)

    dU = 1 と正規化したものとする. x =

    (x1, x2, . . . , xN ), y = (y1, y2, . . . , yN ) ∈WAN に対して∫

    U(N)

    dU exp(− 1

    2σ2Tr(Λx − U∗ΛyU)2

    )=

    C1(N)σN2

    hN (x)hN (y)det

    1≤i,j≤N

    [Gσ2(xi, yj)

    ]

    が成り立つ。ここで Λy は対角行列 diag{y1, . . . , yN} を表すものとする.µ ´

    16

  • 【証明】式 (2.6) を変形していくと

    gTN (0,0, t, y) =1

    C2(N)TN(N−1)/4t−N

    2/2 exp[− |y|

    2

    2t

    ]hN (y)

    ×∫

    WANdz det

    1≤i,j≤N

    [1√

    2π(T − t) exp{− (yj − zi)

    2

    2(T − t)}]

    =1

    C2(N)TN(N−1)/4t−N

    2/2(2π(T − t))−N/2hN (y)

    ×∫

    WANdz det

    1≤i,j≤N

    [exp

    {−y

    2j

    2t− (yj − zi)

    2

    2(T − t)

    }]

    =1

    C2(N)TN(N−1)/4t−N

    2/2(2π(T − t))−N/2hN (y)

    ×∫

    WANdz exp

    {−|z|

    2

    2T

    }det

    1≤i,j≤N

    [exp

    {− T

    2t(T − t)(

    yj − tT

    zi

    )2}]

    となる. (t/T )zi = ai, i = 1, 2, . . . , N ,t(T−t)

    T = σ2, Tt2 = α とおき代入すると

    gTN (0,0, t, y) =(2π)−N/2

    C2(N)σ−NαN(N+1)/4hN (y)(2.20)

    ×∫

    WANda exp

    {−α

    2|a|2

    }det

    1≤i,j≤N

    [exp

    {− 1

    2σ2(yj − ai)2

    }]

    となる. 行列値過程 ΞT (t)の推移確率密度関数を qTN (s,H1, t, H2), 0 ≤ s < t ≤ T , H1,H2 ∈ H(N)とおく. 定理 2.3 と U(dH) = CU (N)hN (y)2dUdy, CU (N) = c1(N)/C1(N), から

    (2.21) gTN (0,0, t,y) = CU (N)hN (y)2

    U(N)

    dU qTN (0, O, t, U∗ΛyU),

    がなりたつ. ここで O は零行列である.

    エルミート行列値過程Θ(1)(t) = (θ(1)ij (t))1≤i,j≤N と直交行列値過程Θ(2)(t) = (θ(2)ij (t))1≤i,j≤N

    を次で定義する.

    θ(1)ij (t) =

    1√2

    {BRij(t)−

    t

    TBRij(T )

    }+√−1√

    2βij(t), if i < j,

    BRij(t)−t

    TBRii(T ), if i = j,

    1√2

    {BRji(t)−

    t

    TBRji(T )

    }−√−1√

    2βji(t), if i > j,

    θ(2)ij (t) =

    t√2T

    BRij(T ), if i < j,

    t

    TBRii(T ), if i = j,

    t√2T

    BRji(T ), if i > j.

    17

  • 明らかに ΞT (t) = Θ(1)(t) + Θ(2)(t) が成り立つ. BRij(t) − tT BRij(T ) が tT BRij(T ) と独立なブラウンブリッジであることに注意すると Θ(1)(t) が GUE であり, Θ(2)(t) が Θ(1)(t) と独立である

    GOE であることがわかる. E[θ(1)ii (t)2] = σ2 であり E[θ(2)ii (t)

    2] = 1α であるので推移確率密度関

    数 qTN (0, O, t, H) は

    qTN (0, O, t, H) =∫

    S(N)V(dS) µGOE

    (A,

    )µGUE(H −A, σ2)(2.22)

    =CO(N)σ−N

    2αN(N+1)/4

    c1(N)c2(N)

    WANda

    O(N)

    dV hN (a) exp{−α

    2|a|2 − 1

    2σ2Tr(H −tV ΛaV )2

    },

    と書き換えることができる. ここで∫O(N)

    dV = 1 と正規化された O(N) 上のHaar measure dV

    を用いて

    V(dS) = CO(N)hN (a)dV da, CO(N) = c2(N)/C2(N),となることを用いた. (2.20), (2.21) (2.22) より

    C1(N)σN2−N

    (2π)N/2hN (y)

    WANda exp

    {−α

    2|a|2

    }det

    1≤i,j≤N

    (exp

    {− 1

    2σ2(yj − ai)2

    })(2.23)

    =∫

    WANdahN (a) exp

    {−α

    2|a|2

    } ∫

    U(N)

    dU exp{− 1

    2σ2Tr(U∗ΛyU − Λa)2

    },

    が成り立つ. 任意の σ > 0 に対して (2.23) が任意の α > 0 に対して成り立つので

    C1(N)σN2

    hN (y)hN (a)det

    1≤i,j≤N

    (1√

    2πσ2exp

    {− 1

    2σ2(yj − ai)2

    })(2.24)

    =∫

    U(N)

    dU exp{− 1

    2σ2Tr(U∗ΛyU − Λa)2

    }.

    が導かれ、系が証明された.

    2.4 シューア関数による展開¶ ³補題 2.6 次の展開式が成り立つ:

    (2.25)

    det1≤i

  • と置いた時

    D ≡ det1≤i,j≤N

    [exiyj/t

    ]= det

    1≤i,j≤N

    [ ∞∑

    k=0

    1k!

    xki ykj

    tk

    ]

    = det1≤i,j≤N

    [ ∞∑

    k=0

    a(k)i y

    kj

    ].

    と書き直すことができるが, これを行列式の定義に戻って展開してみると

    D =∑

    σ∈SNsgn(σ)

    N∏

    `=1

    [ ∞∑

    k`=0

    a(k`)` y

    k`σ(`)

    ]

    =∑

    k=(k1,··· ,kN )∈ZN+

    ∞∏

    `=0

    a(k`)`

    σ∈SNsgn(σ)

    N∏

    `=1

    yk`σ(`)

    =∑

    k∈ZN+

    N∏

    `=1

    a(k`)` det1≤i,j≤N

    [ykij

    ].

    となる. 異なる i, j で ki = kj となる k = (k1, k2, . . . , kN ) に対しては det1≤i,j≤N [ykij ] = 0 とな

    ることに注意すると k についての和は NN+ 6= = {k ∈ NN+ : ki 6= kj , 1 ≤ i 6= j ≤ N} でとれば十分である. さらに NN+> = {k ∈ NN+ : k1 > k2 > · · · > kN} とおき, πk = (kπ(1), kπ(2), · · · , kπ(N))と定義すると

    NN+ 6= = {πk : k ∈ NN+>, π ∈ SN},が成り立つので

    D =∑

    k∈NN+>

    π∈S(N)N

    N∏

    `=1

    a(kπ(`))

    ` det1≤i,j≤N

    [y

    kπ(i)j

    ]

    が導かれる. 行列の性質

    det1≤i,j≤N

    [y

    kπ(i)j

    ]= sgn(π) det

    1≤i,j≤N

    [ykij

    ],

    を用いると

    D =∑

    k∈N+>det

    1≤i,j≤N

    [ykij

    ] ∑

    π∈S(N)Nsgn(π)

    N∏

    `=1

    a(kπ(`))

    `

    =∑

    k∈NN+>

    det1≤i,j≤N

    [ykij

    ]det

    1≤`,m≤N

    [akm`

    ]

    となるので (2.27) 代入すると

    D =∑

    k∈NN+>

    det1≤i,j≤N

    [ykij

    ]det

    1≤`,m≤N

    [xkm`

    km!tkm

    ]

    =∑

    k∈NN+>

    N∏n=1

    1tknkn!

    det1≤i,j≤N

    [ykij ] det1≤`,m≤N

    [xkm` ]

    が成り立つ. k ∈ NN+> から µ ∈ {µ = (µ1, µ2, · · · , µN ) : µ1 ≥ µ2 ≥ · · · ≥ µN ≥ 0} への写像µi = ki −N + i, 1 ≤ i ≤ N.

    を用いると求める結果が導かれる.

    19

  • 3 相関関数のパフィアン表現

    3.1 非衝突ブラウン運動の相関関数

    X を R 内の可算個の点の集合で集積点を持たないもの全体の空間とする. 順番付けがされていない非衝突ブラウン運動 ξN (t) = {X1(t), X2(t), . . . , XN (t)} は推移確率関数が

    g̃TN (s, {x}; t, {y}) =

    gTN (s,x; t, y), if s > 0, x, y ∈WAN ,gTN (0,0; t,y), if s = 0, x = 0, y ∈WAN ,0, otherwise,

    で与えられる X-値拡散過程となる. ここで RN の要素 x = (x1, x2, . . . , xN ) に対して X の要素{x1, x2, . . . , xN} を {x} で表した. また, x(m)N ∈ RN , 1 ≤ m ≤ M + 1, N ′ ∈ {1, 2, . . . , N} に対してRN ′ の元 (x(m)1 , x

    (m)2 , . . . , x

    (m)N ′ )を x

    (m)N ′ で表すことにする. 時刻 0 < t1 < · · · < tM+1 = T ,

    N 以下の正整数列 {Nm}M+1m=1 を固定したとき, ξN (·) の (tm, {x(m)Nm})Mm=1 での (時空間)相関関数を

    ρTN

    (t1, x

    (1)N1

    ; t2, x(2)N2

    ; . . . ; tM+1, x(M+1)NM+1

    )(3.1)

    =∫

    QM+1m=1 RN−Nm

    M+1∏m=1

    1(N −Nm)!

    N∏

    i=Nm+1

    dx(m)i

    M∏

    `=0

    g̃TN (t`, {x(`)N }; t`+1, {x(`+1)N })

    で定義する. ここで  t0 = 0, x(0)N = 0 とおいた.

    この節では相関関数がパフィアンで表されることを示す. 準備として Pfaffian の定義と幾つ

    かの性質を紹介する. 2K × 2K 歪対称行列 A = (aij) にたいして Pfaffian は

    Pf[A] =1

    K!

    ∑σ

    sgn(σ)aσ(1)σ(2)aσ(3)σ(4) · · · aσ(2K−1)σ(2K),

    で定義する. ここで和は σ(2k − 1) < σ(2k), k = 1, 2, . . . , K を満足するすべての (1, 2, . . . , 2K)の置換 σ についてとる. 定義から分かる様に Pfaffian は基本変形に対して行列式と同様な性質

    をもつ. 2K × 2K 歪対称行列 A = (aij) から j 行, j 列および k 行, k 列 ( 1 ≤ j, k ≤ 2K, j 6= k) を除いて得られる 2(K − 1) × 2(K − 1) 歪対称行列を A[j, k] とかくことにする. このときパフィアンはつぎの展開式をみたす:

    (i) 任意の j = 1, 2, . . . , 2K にたいして

    (3.2) Pf[A] =2K∑

    k=1

    (−1)j+k−1sgn(k − j)ajkPf[A[j, k]].

    そしてパフィアンは行列式と次の関係を持つ.

    (ii) 任意の 2K × 2K 行列 X に対して

    (3.3) det X = (−1)KPf[

    O −XTX O

    ].

    (iii) 任意の 2K × 2K 行列 X に対して

    (3.4) detX = Pf[XJXT

    ],

    20

  • ここで J は

    J2k+1,2k+2 = −J2k+2,2k+1 = 1, k = 0, 1, 2, . . . , 2K − 1.でありそのほかの成分は 0 である 2K × 2K 歪対称行列である.

    Am,n(·, ·), 1 ≤ m,n < ∞を R2 上で定義された 2×2行列に値にとる関数とする. 正の整数M ,正の整数の列 {Nm}M+1m=1 と m,n = 1, 2, . . . ,M +1に対して 2Nm×2Nn 行列Am,n

    (x

    (m)Nm

    , x(n)Nn

    )

    Am,n(x

    (m)Nm

    ,x(n)Nn

    )=

    (Am,n

    (x

    (m)i , x

    (n)j

    ))1≤i≤Nm,1≤j≤Nn

    で定義し, 2∑M+1

    m=1 Nm × 2∑M+1

    m=1 Nm 行列 A(x

    (1)N1

    , x(2)N2

    , . . . , x(M+1)NM+1

    )を

    A“

    x(1)N1

    , x(2)N2

    , . . . , x(M+1)NM+1

    =

    2666666664

    A1,1“

    x(1)N1

    , x(1)N1

    ”A1,2(x

    (1)N1

    , x(2)N2

    ) · · · A1,M+1“

    x(1)N1

    , x(M+1)NM+1

    A2,1“

    x(2)N2

    , x(1)N1

    ”A2,2(x

    (2)N2

    , x(2)N2

    ) · · · A2,M+1“

    x(2)N2

    , x(M+1)NM+1

    · · · · · · · · · · · ·· · · · · · · · · · · ·

    AM+1,1“

    x(M+1)NM+1

    , x(1)N1

    ”AM+1,2(x

    (M+1)NM+1

    , x(2)N2

    ) · · · AM+1,M+1“

    x(M+1)NM+1

    , x(M+1)NM+1

    3777777775

    で定義する.

    相関関数 ρTN パフィアン表現を述べるための準備をする. 以後、 簡単のために N が偶数の

    場合についてすすめていくが, 奇数の場合も少しに変更により同様に扱うことができる ( Nagao

    [38] 参照 ).

    1 ≤ m,n ≤ M + 1 に対して

    (3.5) Fm,n(x, y) =∫ ∞−∞

    dw

    ∫ w−∞

    dz

    ∣∣∣∣∣GT−tm(x, z) GT−tm(x, w)

    GT−tn(y, z) GT−tn(y, w)

    ∣∣∣∣∣ ,

    とおき, ( 注: FM+1,M+1(x, y) = sgn(y − x) となる.) 歪内積

    〈f, g〉m =∫

    Rdx

    Rdy Fm,m(x, y)f(x)g(y),

    〈f, g〉 =∫

    Rdx

    Rdy F 1,1(x, y)Gt1(0, x)Gt1(0, y)f(x)g(y).

    を導入する. そして k = 0, 1, . . . に対して k 次の多項式 Rk を

    (3.6) Rk(x) = z−k1k∑

    j=1

    αkjHj

    (x

    c1

    )zj1,

    と定義する. ここで c1 =√

    t1(2T−t1)T , z1 =

    √2T−t1

    t1,

    (3.7) αkj =

    2−kck1δkj , k が偶数のとき,

    2−kck1{

    δkj − 2(k − 1)δ(k−2) j}

    , k が奇数のとき,

    であり Hj(x) はエルミート多項式

    Hj(x) = exp(x2)(−d

    dx

    )jexp(−x2) = j!

    [j/2]∑

    k=0

    (−1)k (2x)j−2k

    k!(j − 2k)! ,

    である. Rk は最高次数 k の係数が 1 である多項式, つまりモニック関数であり, さらに次の歪

    直交関係をもつ:

    21

  • 歪直交関係

    〈R2j , R2`+1〉 = −〈R2`+1, R2j〉 = rjδj`,〈R2j , R2`〉 = 〈R2j+1, R2`+1〉 = 0, j, ` = 0, 1, 2, · · · ,

    ここで

    rj =Γ(j + 12 )Γ(j + 1)

    π

    (t21T

    )2j+1/2.

    この関係式の証明は 3.4節で与える.

    m = 1, 2, . . . , M + 1, and k = 0, 1, . . . に対して

    (3.8) R(m)k (x) =∫

    Rdy Rk(y)Gt1(0, y)Gtm−t1(y, x).

    と定義すれば, 各 m ごとに歪直交関係

    〈R(m)2j , R(m)2`+1〉m = −〈R(m)2`+1, R(m)2j 〉m = rjδj`,〈R(m)2j , R(m)2` 〉m = 〈R(m)2j+1, R(m)2`+1〉m = 0, j, ` = 0, 1, 2, · · · ,

    が成り立つことも分かる. m = 1, 2, . . . , M + 1 に対して関数 Φ(m)k を

    (3.9) Φ(m)k (x) =∫

    Rdy R

    (m)k (y)F

    m,m(y, x), k = 0, 1, 2, . . . .

    で定義する. 1 ≤ m,n ≤ M + 1 に対して R2 上の関数

    Dm,n(x, y) =(N/2)−1∑

    k=0

    1rk

    [R

    (m)2k (x)R

    (n)2k+1(y)−R(m)2k+1(x)R(n)2k (y)

    ],(3.10)

    Im,n(x, y) = −(N/2)−1∑

    k=0

    1rk

    [Φ(m)2k (x)Φ

    (n)2k+1(y)− Φ(m)2k+1(x)Φ(n)2k (y)

    ],(3.11)

    Sm,n(x, y) =(N/2)−1∑

    k=0

    1rk

    [Φ(m)2k (x)R

    (n)2k+1(y)− Φ(m)2k+1(x)R(n)2k (y)

    ].(3.12)

    S̃m,n(x, y) = Sm,n(x, y)−Gtn−tm(x, y)1(m < n),(3.13)Ĩm,n(x, y) = Im,n(x, y) + Fm,n(x, y).(3.14)

    を導入する. Am,n(x, y), 1 ≤ m,n ≤ M + 1, x, y ∈ R を

    Am,n(x, y) =

    (Dm,n(x, y) S̃n,m(y, x)

    −S̃m,n(x, y) −Ĩm,n(x, y)

    ).

    であたえられる 2× 2 行列値関数とする. このとき

    A(x

    (1)N1

    ,x(2)N2

    , . . . , x(M+1)NM+1

    )=

    (Am,n

    (x

    (m)i , x

    (n)j

    ))1≤i≤Nm,1≤j≤Nn,1≤m,n≤M+1

    ,

    は, 2∑M+1

    m=1 Nm × 2∑M+1

    m=1 Nm 歪対称行列となる多時刻相関関数はこの歪対称行列のパフィア

    ンで表すことができる.

    22

  • ¶ ³定理 3.1 非斉次非衝突ブラウン運動の多時刻相関関数はパフィアンを用いてつぎのように

    表現される:

    ρTN

    (t1, x

    (1)N1

    ; t2,x(2)N2

    ; . . . ; tM+1,x(M+1)NM+1

    )= Pf

    [A

    (x

    (1)N1

    , x(2)N2

    , . . . , x(M+1)NM+1

    )].

    µ ´

    斉次非衝突ブラウン運動の多時刻相関関数は,

    Km,n(x, y) =

    1√2tn

    N−1∑

    k=0

    (tmtn

    )k/2ϕk

    (x√2tm

    )ϕk

    (y√2tn

    ), if n 5 m,

    − 1√2tn

    ∞∑

    k=N

    (tmtn

    )k/2ϕk

    (x√2tm

    )ϕk

    (y√2tn

    ), if n > m,

    を成分とする行列式で表される. ここで

    ϕk(x) =1√hk

    e−x2/2Hk(x), k = 0, 1, 2, . . . ,

    で定義されたエルミート直交関数と呼ばれる関数で, hk =√

    π2kk! である. この結果は定理 3.1

    の結果から T を無限大にすることからも確認することができる.

    3.2 定理 3.1の証明

    C0(R) をコンパクトの台を持つ連続関数全体の集合とする. f = (f1, f2, . . . , fM+1) ∈ C0(R)M+1と θ = (θ1, θ2, . . . , θM+1) ∈ RM+1, ξN (t) = {X(t)}, t ∈ [0, T ] の多時刻特性関数は次で与えられる:

    (3.15) ΨTN (f ;θ) = EN,T

    [exp

    {√−1

    M+1∑m=1

    θm

    N∑

    im=1

    fm(Xim(tm))

    }].

    χm(x) = e√−1θmfm(x) − 1, 1 ≤ m ≤ M + 1 とおくと, 多時刻相関関数の定義から

    ΨTN (f ; θ) =N∑

    N1=0

    · · ·N∑

    NM+1=0

    M+1∏m=1

    1Nm!

    RN1dx

    (1)N1· · ·

    RNM+1dx

    (M+1)NM+1

    (3.16)

    ×M+1∏m=1

    Nm∏

    i(m)=1

    χm

    (x

    (m)

    i(m)

    )ρTN

    (t1, {x(1)N1}; . . . ; tM+1, {x

    (M+1)NM+1

    })

    ,

    と書き直すことができる. つまり, 多時刻特性関数は多時刻相関関数 ρTN の母関数である.

    定理 3.1の証明を [20, 29] に沿って説明する. まず, 簡潔にするために以下の記号を導入する

    ことにする.

    V を{|m,x〉

    }1≤m≤M+1,x∈R

    を直交基底とするベクトル空間とする:

    (3.17) 〈m,x|n, y〉 = δmnδ(x− y), m, n = 1, 2, . . . , M + 1, x, y ∈ R,

    ここで δmn はクロネッカのデルタを δ(x− y) はディラックの δ-測度を表している. そして V 上

    23

  • の作用素 Ĵ , Ĝ, Ĝ+, Ĝ− and χ̂ を次で定義する:

    〈m,x|Ĵ |n, y〉 = 1(m=n=M+1)sgn(y − x),〈m,x|Ĝ|n, y〉 = 1(mn)Gtm−tn(y, x) + 1(m=n)δ(x− y),〈m,x|Ĝ+|n, y〉 = 1(m

  • をみたすものを PN と書くことにする. そして作用素 Â にたいして ÂN = PN ÂPN と略記する.N ×N 行列 AN = (〈i|ÂN |j〉)1≤i,j≤N が正則であるときは, (ÂN )4 は(〈i|(ÂN )4|j〉

    )1≤i,j≤N

    = (AN )−1, i ≥ N + 1 または j ≥ N + 1 のとき 〈i|(ÂN )4|j〉 = 0

    と定義することにする. このとき次の関係が成り立つ。証明は 3.3節で示すことにする.

    (3.21)

    {ΨTN (f ;θ)

    }2= Det

    (I2δmnδ(x− y) +

    (S̃m,n(x, y) Ĩm,n(x, y)

    Dm,n(x, y) S̃n,m(y, x)

    )χn(y)

    ),

    ここで Det はフレドホルム行列式 (Fredholm determinant), I2 は 2× 2 単位行列であり,

    Dm,n(x, y) = −〈m,x| ◦ (ĴN )4 ◦ |n, y〉,Sm,n(x, y) = 〈m,x|ĜĴ ◦ (ĴN )4 ◦ |n, y〉,Im,n(x, y) = −〈m,x|ĜĴ ◦ (ĴN )4 ◦ ĴĜ|n, y〉,

    であり

    S̃m,n(x, y) = Sm,n(x, y)− 〈m, x|Ĝ+|n, y〉Ĩm,n(x, y) = Im,n(x, y) + 〈m,x|ĜĴĜ|n, y〉.(3.22)

    である. この関係式は多時刻特性関数がフレドホルムのパフィアン (Fredholm Pfaffian [48]) を

    用いて表されていることを示している. つまり J2 =

    (0 1

    −1 0

    )として

    Am,n(x, y) = J2

    (S̃m,n(x, y) Ĩm,n(x, y)

    Dm,n(x, y) S̃n,m(y, x)

    )=

    (Dm,n(x, y) S̃n,m(y, x)

    −S̃m,n(x, y) −Ĩm,n(x, y)

    ).

    とおいたとき,

    ΨTN (f ;θ) = PF(J2δmnδ(x− y) +

    √χm(x)Am,n(x, y)

    √χn(y)

    )

    =N∑

    N1=0

    · · ·N∑

    NM+1=0

    M+1∏m=1

    1Nm!

    RN1dy

    (1)N1· · ·

    RNM+1dy

    (M+1)NM+1

    ×M+1∏m=1

    Nm∏

    i(m)=1

    χm

    (y(m)

    i(m)

    )Pf

    (A

    (y

    (1)N1

    , y(2)N2

    , . . . , y(M+1)NM+1

    )),

    となる.

    b2k = b2k+1 = r−1/2k , k ∈ N0 として (3.19) 式でもちている多項式 {Mi(x)}0≤i≤N−1 を

    Mi(x) = biRi(x), i = 0, 1, . . . , N − 1

    とすると歪直交性により次の関係が成立する.

    (3.23) 〈i|ĴN |j〉 = (JN )ij , i, j = 1, 2, . . . , N,

    ここで JN = IN/2 ⊗ J2 である. J2N = −IN であるので

    (3.24) 〈i|(ĴN )4|j〉 = −(JN )ij , i, j = 1, 2, . . . , N.

    25

  • が直ちに導かれる. そして

    J ≡ limN→∞

    JN =(〈i|Ĵ |j〉

    )i,j∈N

    ,

    で定義される無限行列に対しては

    J−1 =(〈i|Ĵ4|j〉

    )i,j∈N

    = −J

    が成立する. 補題 3.5 で示される展開式

    〈m,x|Ĝ|n, y〉 = 〈m,x|ĜĴ |i〉〈i|Ĵ4|j〉〈j|n, y〉

    とこの結果から直ちに導かれる展開式

    〈m,x|ĜĴĜ|n, y〉 = 〈m,x|ĜĴ |i〉〈i|Ĵ4|j〉〈j|ĴĜ|n, y〉.

    を用いると, (3.22) は

    S̃m,n(x, y) =

    〈m, x|ĜĴ |i〉〈i|(ĴN )4|j〉〈j|n, y〉, if m ≥ n,

    −〈m,x|ĜĴ |i〉〈i|(Ĵ4 − (ĴN )4)|j〉〈j|n, y〉, if m < n,Ĩm,n(x, y) = 〈m,x|ĜĴ |i〉〈i|(Ĵ4 − (ĴN )4)|j〉〈j|ĴĜ|n, y〉.(3.25)

    と書くことができる. 従って

    R(m)i (x) =

    1bi〈m,x|i + 1〉,(3.26)

    Φ(m)i (x) = −1bi〈m,x|ĜĴ |i + 1〉,(3.27)

    i = 0, 1, . . . , N − 1,m = 1, 2, . . . , M + 1, であることから

    Dm,n(x, y) = Dm,nN (x, y) =(N/2)−1∑

    `=0

    1r`

    [R

    (m)2` (x)R

    (n)2`+1(y)−R(m)2`+1(x)R(n)2` (y)

    ],

    Ĩm,n(x, y) = Ĩm,nN (x, y) = −∞∑

    `=N/2

    1r`

    [Φ(m)2` (x)Φ

    (n)2`+1(y)− Φ(m)2`+1(x)Φ(n)2` (y)

    ],

    Sm,n(x, y) = Sm,nN (x, y) =(N/2)−1∑

    `=0

    1r`

    [Φ(m)2` (x)R

    (n)2`+1(y)− Φ(m)2`+1(x)R(n)2` (y)

    ],

    であり,

    S̃m,n(x, y) = S̃m,nN (x, y) = Sm,n(x, y)−Gtn−tm(x, y)1(m

  • 多時刻特性関数の定義 (3.15) より

    (3.28) ΨTN (f ;θ) =ZYN,T [χ]ZYN,T [0]

    ,

    となる. ここで ZYN,T [0] は χm(x) ≡ 0, m = 1, 2, . . . , M + 1 を ZYN,T [χ] を代入したときの値である.

    ハイネの公式 (Heine identity)∫

    WANdx det

    1≤i,j≤N

    [φi(xj)

    ]det

    1≤i,j≤N

    [φ̄i(xj)

    ]= det

    1≤i,j≤N

    [∫

    Rdxφi(x)φ̄j(x)

    ]

    (ここで φi, φ̄i, 1 ≤ i ≤ N は二乗可積分連続関数)を繰り返して用いると

    ZYN,T [χ] =∫

    WANdy det

    1≤i,j≤N

    [ ∫

    RM+1

    M+1∏m=1

    dx(m) δ(yj − x(M+1))

    ×{

    Mi−1(x(1))Gt1(0, x(1))(1 + χ1(x(1)))

    }

    ×M∏

    m=1

    {Gtm+1−tm(x

    (m), x(m+1))(1 + χm+1(x(m+1)))

    }].

    となる. 前述の記号を用いると 〈m,x|(Ĝ+)k|n, y〉 = 〈n, y|(Ĝ−)k|m, x〉 ≡ 0, k > n−m ≥ 0 となることに注意すると

    ZYN,T [χ] =∫

    WANdy det

    1≤i,j≤N

    [〈i|

    (1 +

    11− χ̂Ĝ+

    χ̂Ĝ

    )

    N

    |M + 1, yj〉]

    =∫

    WANdy det

    1≤i,j≤N

    [〈M + 1, yi|

    (1 + Ĝχ̂

    11− Ĝ−χ̂

    )

    N

    |j〉]

    ,

    を得る. 次にブリューインの公式 (de Bruijin’s formula [6])∫

    WANdy det

    1≤i,j≤N

    [φi(yj)

    ]= Pf1≤i,j≤N

    [∫

    Rdy

    Rdỹ sgn(ỹ − y)φi(y)φj(ỹ)

    ]

    (ここで φi, 1 ≤ i ≤ N は可積分連続関数)を使う. 偶数次元歪対称行列 Aにたいして (Pf(A))2 =detA が成り立つので

    (ZYN,T [χ]

    )2= det

    1≤i,j≤N

    [〈i|

    (1 +

    11− χ̂Ĝ+

    χ̂Ĝ

    )

    N

    (1 + Ĝχ̂

    11− Ĝ−χ̂

    )

    N

    |j〉]

    = det1≤i,j≤N

    [(A0)ij + (A1)ij + (A2)ij + (A3)ij

    ]

    を得る. ここで

    (A0)ij = 〈i|ĴN |j〉,(A1)ij = 〈i|

    ( 11− χ̂Ĝ+

    χ̂ĜĴ)

    N|j〉 = 〈i|

    (χ̂

    11− Ĝ+χ̂

    ĜĴ)

    N|j〉,

    (A2)ij = 〈i|(ĴĜχ̂

    11− Ĝ−χ̂

    )N|j〉,

    (A3)ij = 〈i|(χ̂

    11− Ĝ+χ̂

    ĜĴĜχ̂1

    1− Ĝ−χ̂)

    N|j〉.

    27

  • (ZN,T [0]

    )2= det1≤i,j≤N

    [(A0)ij

    ]であるので (3.28) から

    (3.29)

    {ΨTN (f ; θ)

    }2= det

    1≤i,j≤N

    [δij + (A−10 A1)ij + (A

    −10 A2)ij + (A

    −10 A3)ij

    ]

    となる. (A−10 )ij = 〈i|(ĴN )4|j〉, に注意すると (3.29) は次のように書き換えられる:{

    ΨTN (f ;θ)

    }2= det

    1≤i,j≤N

    [δij + 〈i|B|m,x〉〈m,x|C|j〉

    ],(3.30)

    ここで B と C は

    B =(

    (ĴN )4 ◦ χ̂ 11−Ĝ+χ̂ −(ĴN )4 ◦

    (1 + χ̂ 1

    1−Ĝ+χ̂ Ĝ)ĴĜχ̂

    ),

    C =

    ĜĴ

    − 11−Ĝ−χ̂

    .

    で与えられる作用素である. 行列式 (3.30) はフレデホルム行列式

    Det〈m, x|I2 + C ◦B|n, y〉.

    と等しいので, 作用素

    K+ =

    1− Ĝ+χ̂ 0

    0 1

    , K− =

    1 0

    0 1− Ĝ−χ̂

    , K̂ =

    1 −ĜĴĜχ̂

    0 1

    ,

    を用いると

    I2 + C ◦B = K−−1

    K−K+ +

    ĜĴJ4N ĜĴ(1− J4N Ĵ

    )Ĝ

    −J4N J4N ĴĜ

    χ̂

    K+−1K̂

    = K−−1

    I2 +

    ĜĴJ4N − Ĝ+ ĜĴĜ− ĜĴJ4N ĴĜ

    −J4N J4N ĴĜ− Ĝ−

    χ̂

    K+−1K̂,

    と表される. ここで J4N = ◦(ĴN )4◦. である. 直交性 (3.17) Ĝ+, Ĝ− の定義 (3.18) より

    Det〈m,x|K+|n, y〉 = Det〈m,x|K−|n, y〉 = Det〈m,x|K̂|n, y〉 = 1

    が成り立つので (3.21) が導かれる.

    3.4 歪直交関係の証明

    この小節では歪直交関係の証明を与える. 時刻 0 < t1 < T に対して

    (f, g) = E(0,0)[f(B(t1))g(B̂(t1))|B(T ) = B̂(T )](3.31)= E0[f(B(t1))g(B(2T − t1))|B(2T ) = 0]

    28

  • で定義された対称内積を導入する. ここで B(t), B̂(t) を独立な 1次元ブラウン運動であり, f, g

    は多項式であるとする.

    時刻 0 = t0 < t1 < · · · < tM < tM+1 = T に対して

    cn =

    √tn(2T − tn)

    T, γn = −T − tn

    T, zn =

    √2T − tn

    tn, τ (n) = − log zn,

    とおく. この内積 (·, ·) はエルミート多項式 (Hermite polynomial) Hk, k = 1, 2, . . . とつぎの関係がある.

    ¶ ³補題 3.2 Hk(x/c1), k = 1, 2, . . . は (·, ·) に関して直交性をもつ:

    (3.32)(

    Hk

    ( ·c1

    ),H`

    ( ·c1

    ))=

    hk

    2π√

    T

    (1z1

    )2kδk`.

    ここで hk =√

    π2kk! である.µ ´

    【証明】 簡単な計算により

    Gtn−tm(x, y) =e−(tm/2T )(x/cm)

    2e(tn/2T )(y/cn)

    2

    √2π(tn − tm)

    × exp

    {(y/cn)− e−(τ(n)−τ(m))(x/cm)

    }2

    1− e−2(τ(n)−τ(m)))

    ,

    1 ≤ m < n < M + 1 が示される. そして

    Mehler の公式

    exp(− (v − uw)

    2

    1− w2)

    = e−v2√

    π(1− w2)∞∑

    k=0

    wk

    hkHk(u)Hk(v)

    を用いるとつぎの様なエルミート多項式による展開をえる :

    Gt1(0, x)GT−t1(x, y) =1√

    2πt1(2T − t1)e−(x/c1)

    2e−

    12 (y/

    √T )2(3.33)

    ×∞∑

    k=0

    1zk1hk

    Hk

    (x

    c1

    )Hk

    (y√T

    ).

    エルミート多項式の直交性∫ ∞−∞

    dx e−x2Hk(x)H`(x) = hkδk`

    と展開式 (3.33) より(

    Hk

    ( ·c1

    ),H`

    ( ·c1

    ))=

    c21z−2k1

    2πt1(2T − t1)∫

    Rdw e−w

    2/T Hk

    (w√T

    )H`

    (w√T

    )

    =hk

    2π√

    Tz−2k1 δk`,

    29

  • を得る.

    つぎに対称内積と歪対称内積の関係を示す.

    ¶ ³補題 3.3 f, g を多項式とすると次の関係式が成り立つ.

    〈f, g〉 = (f, ĝ) = −(f̂ , g),(3.34)

    f̂(x) =2

    ∫∞x

    du Gt1(0, u)f(u)Gt1(0, x)

    .(3.35)

    µ ´

    【証明】

    ∂xF 1,1(x, y) = − ∂

    ∂yF 1,1(x, y)

    = 2∫ ∞−∞

    dw GT−t1(y, w)∫ w−∞

    dz∂

    ∂xGT−t1(x, z)

    = −2∫ ∞−∞

    dw GT−t1(y, w)∫ w−∞

    dz∂

    ∂zGT−t1(x, z)

    = −2∫ ∞−∞

    dw GT−t1(y, w)GT−t1(x,w)

    であるので, 部分積分の公式を用いると

    〈f, g〉 =∫ ∞−∞

    dx

    ∫ ∞−∞

    dy F 1,1(x, y)Gt1(0, x)Gt1(0, y)f(x)g(y)

    = −∫ ∞−∞

    dw

    ∫ ∞−∞

    dx

    ∫ ∞−∞

    dy Gt1(0, x)Gt1(0, y)GT−t1(y, w)GT−t1(x,w)f̂(x)g(y)

    = −(f̂ , g) = (f, ĝ)

    を得る.

    注意 B(t), B̂(t) を独立な 1次元ブラウン運動としたとき

    Fm,n(x, y) = E(x,y)[sgn(B̂(T − tn)−B(T − tm))],(3.36)〈f, g〉 = E(0,0)[f(B(t1))g(B̂(t1))sgn(B̂(T − t1)−B(T − t1))](3.37)

    と歪対称内積を表すことができる. したがって上の補題は

    E(0,0)[f(B(t1))g(B̂(t1))sgn(B̂(T − t1)−B(T − t1))]= E(0,0)[f(B(t1))ĝ(B̂(t1))|B(T ) = B̂(T )]

    と書き直すことができる.

    次に f̂(x) = Hk(x/c1) に対する f(x), つまり

    ∂x

    {Hk

    (x

    c1

    )Gt1(0, x)

    }= −2Gt1(0, x)f(x),

    を満たす f(x) を求める. エルミート多項式の性質

    30

  • Differentiation

    d

    dxHj(x) = 2jHj−1(x)

    Recurrence Relation

    Hj+1(x) = 2xHj(x)− 2jHj−1(x)を用いると

    f(x) =x

    2t1Hk

    (x

    c1

    )− k

    c1Hk−1

    (x

    c1

    )

    =c14t1

    {Hk+1

    (x

    c1

    )+ 2kHk−1

    (x

    c1

    )}− k

    c1Hk−1

    (x

    c1

    )

    =c14t1

    {Hk+1

    (x

    c1

    )− 2k

    z21Hk−1

    (x

    c1

    )}

    が得られ,

    (3.38) Ĥk+1(y) =c14t1

    {Hk+1 (y)− 2k

    z21Hk−1 (y)

    }

    と置くこと 2つの補題から次の関係がただちに分かる.

    ¶ ³補題 3.4 k, ` を 0 以上の整数とする.

    (3.39)〈

    Hk

    ( ·c1

    ), Ĥ`+1

    ( ·c1

    )〉=

    hk

    2π√

    T

    (1z1

    )2kδk`.

    µ ´

    ` = 0, 1, . . . , に対して

    R2`(x) = 2−2`ck1Hk

    (x

    c1

    ), R2`+1(x) = 2−(2`−1)ck1t1Ĥk

    (x

    c1

    ).

    という関係であるから, 歪直交関係 が成り立つことがわかる.

    3.5 エルミート多項式による展開

    この節では Gtn−tm , R(m)k and Φ

    (m)k のエルミート多項式 (Hermite polynomial) による展開を論

    じる. 前節で示したようにMehler の公式 [3] を用いるとつぎの様なエルミート多項式による展

    開をえる :

    Gtn−tm(x, y) =√

    Te−12 (1+γm)(x/cm)

    2e−

    12 (1−γn)(y/cn)2√

    tn(2T − tm)(3.40)

    ×∞∑

    k=0

    e−k(τ(n)−τ(m))

    hkHk

    (x

    cm

    )Hk

    (y

    cn

    ), 1 ≤ m < n ≤ M + 1

    Gt1(0, x)Gtm−t1(x, y) =√

    Te−(x/c1)2e−

    12 (1−γm)(y/cm)2√

    2πt1tm(2T − t1)(3.41)

    ×∞∑

    k=0

    e−k(τ(m)−τ(1))

    hkHk

    (x

    c1

    )Hk

    (y

    cm

    ), 1 < m ≤ M + 1.

    31

  • 定義式 (3.6), (3.8) とエルミート多項式の直交性より

    (3.42) R(m)k (x) =e−

    12 (1−γm)(x/cm)2ekτ

    (1)

    √2πtm

    k∑

    j=0

    αkje−jτ(m)Hj

    (x

    cm

    ).

    をえる. Fm,n の定義 (3.5) と 展開式 (3.40) より

    Fm,n(x, y) =e−

    12 (1+γm)(x/cm)

    2e−

    12 (1+γn)(y/cn)

    2

    √(2T − tm)(2T − tn)

    (3.43)

    ×∞∑

    k=0

    ∞∑

    `=0

    ekτ(m)

    e`τ(n)

    hkh`Hk

    (x

    cm

    )H`

    (y

    cn

    )〈Hk

    ( ·√T

    ),H`

    ( ·√T

    )〉

    ∗,

    をえる. ここで 〈·, ·〉∗ は

    〈f, g〉∗ =∫ ∞−∞

    dw

    ∫ w−∞

    dz e−(z2+w2)/2T

    [f(z)g(w)− f(w)g(z)

    ].

    で定義された歪内積である. 4.3節での歪内積 〈·, ·〉 に対する Rk の歪直交関係の証明と同様にして

    R∗k(x) =k∑

    j=0

    αkjHj

    (x

    cM+1

    ),

    が歪直交関係

    〈R∗2j , R∗2`+1〉∗ = −〈R∗2`+1, R∗2j〉∗ = r∗j δj`,(3.44)〈R∗2j , R∗2`〉∗ = 0, 〈R∗2j+1, R∗2`+1〉∗ = 0, for j, ` = 0, 1, 2, . . . ,

    r∗` = 4h2`T (c1/2)4`+1 を満たすことが証明できる. 非負整数 k, j にたいして

    (3.45) βk j =

    2kc−k1 δj k, k が偶数のとき,

    2k(

    k−12

    )!{

    cj1(j−12 )!

    }−1, k, j が奇数で k ≥ j のとき,

    0, その他,

    とおくと 0 ≤ s ≤ k のとき

    (3.46)k∑

    j=s

    βkjαjs = δks,

    が成り立ち, したがって

    (3.47) Hk

    (x√T

    )=

    k∑

    j=0

    βkjR∗j (x),

    となる. 定義式 (3.9) と展開式 (3.42), (3.43) より

    Φ(m)k (x) =cm√

    2πtm (2T − tm)e−

    12 (1+γm)(x/cm)

    2ekτ

    (1)

    ×∞∑

    `=0

    k∑

    j=0

    e`τ(m)

    h`H`

    (x

    cm

    )αkj

    〈Hj

    ( ·√T

    ),H`

    ( ·√T

    )〉

    =e−

    12 (1+γm)(x/cm)

    2

    √2πT (2T − tm)

    ekτ(1)

    ∞∑

    j=0

    〈R∗k, R∗j 〉∗∞∑

    `=j

    e`τ(m)

    h`H`

    (x

    cm

    )β`j .

    32

  • となり, さらに歪直交関係 (3.44) を用いると, k = 0, 1, 2, . . . にたいして

    Φ(m)2k (x) =e−

    12 (1+γm)(x/cm)

    2r∗k√

    2πT (2T − tm)e2kτ

    (1)∞∑

    `=2k+1

    e`τ(m)

    h`β`2k+1H`

    (x

    cm

    ),(3.48)

    Φ(m)2k+1(x) = −e−

    12 (1+γm)(x/cm)

    2r∗k√

    2πT (2T − tm)e(2k+1)τ

    (1)∞∑

    `=2k

    e`τ(m)

    h`β`2kH`

    (x

    cm

    ).(3.49)

    が成り立つ. 得られた展開式を用いて次の補題が導かれる.

    ¶ ³補題 3.5 1 ≤ m,n ≤ M + 1 にたいして次の関係式が成り立つ:

    (3.50) Gtn−tm(x, y) =∞∑

    k=0

    1rk

    [Φ(m)2k (x)R

    (n)2k+1(y)− Φ(m)2k+1(x)R(n)2k (y)

    ].

    µ ´

    【証明】(3.48), (3.49) と関係式 rk = 12πT

    (t1

    2T−t1

    )2k+1/2r∗k より

    ∞∑

    k=0

    1rk

    [Φ(m)2k (x)R

    (n)2k+1(y)− Φ(m)2k+1(x)R(n)2k (y)

    ]

    =√

    Te−12 (1+γm)(x/cm)

    2e−

    12 (1−γn)(y/cn)2√

    tn(2T − tm)

    ×∞∑

    k=0

    ∞∑

    j=2k+1

    ejτ(m)

    hjβj 2k+1Hj

    (x

    cm

    2k+1∑

    `=0

    e−`τ(n)

    α2k+1 `H`

    (y

    cn

    )

    +∞∑

    j=2k

    ejτ(m)

    hjβj 2kHj

    (x

    cm

    ∞∑

    `=2k

    e−`τ(n)

    α2k `H`

    (y

    cn

    ) .

    =√

    Te−12 (1+γm)(x/cm)

    2e−

    12 (1−γn)(y/cn)2√

    tn(2T − tm)

    ×∞∑

    q=0

    ∞∑

    j=q

    q∑

    `=0

    e−j(τ(n)−τ(m))

    hjβj qαq `Hj

    (x

    cm

    )H`

    (y

    cn

    )

    =√

    Te−12 (1+γm)(x/cm)

    2e−

    12 (1−γn)(y/cn)2√

    tn(2T − tm)∞∑

    j=0

    e−j(τ(n)−τ(m))

    hjHj

    (x

    cm

    )Hj

    (y

    cn

    )

    = Gtn−tm(x, y)

    が導かれる.

    33

  • 4 無限個の非衝突ブラウン運動

    前節までに N 個の非衝突ブラウン運動を考えてきたが, この節では N を無限大にしたときにど

    のようになるかを議論する. これは, 行列値過程において行列のサイズを無限大にすることに対

    応している. 観測する時刻 t を固定すると, その時刻の粒子密度は N を大きくしていくとともに√N のオーダーで発散し, 適当にスケーリングすると経験分布は Wigner の半円分布に収束する.

    [56]. また観測する位置が原点からどの程度離れているかによっても粒子密度は変化していくの

    で, 密度を零または無限大にならないようにするために観測する時刻と位置を N の関数として

    適当に選ぶ必要がある.

    ここでは非斉次非衝突ブラウン運動の終点 T = TN と 観測する位置の中心 aN がつぎの関係

    である場合を考えことにする.

    (i) TN = 2N , aN = 0 (バルクと呼ばれている場合).

    (ii) TN = 2N1/3, aN = 2N2/3 (ソフトエッジと呼ばれている場合).

    そして終点から時刻を逆行させた確率過程について調べてみる. 定理 2.3 から分かるように時刻

    を逆行させた非斉次非衝突過程は, 実部分が正規分布を初期分布にもち時刻 T で原点に到達す

    るピン止めされたブラウン運動, 虚数部分がブラウン橋である行列値過程の固有値となっている.

    したがって時刻 0 での分布は GOE であり, 時刻 T では原点に収束する非衝突過程である.

    番号付けがされていない時間的非斉次な非衝突ブラウン運動の多時刻特性関数

    ΨTN (f ; θ) = E

    exp{√−1

    M+1∑

    k=1

    θk∑

    x∈ξN (tk)fk(x)}

    ,

    θ = (θ1, θ2, . . . , θM+1) ∈ RM+1, f = (f1, f2, . . . , fM+1) ∈ C0(R)M+1 ( C0(R) はコンパクトな台を持つ連続関数 ) は前節のパフィアン表現を用いて

    ΨTN (f ; θ) =N∑

    n0=0

    N∑n1=0

    · · ·N∑

    nM=0

    Rn0dx(0)n0

    Rn1dx(1)n1 · · ·

    RnMdx(M)nM

    ×M∏

    k=0

    nk∏

    i=1

    (e√−1θkfk(x(k)i ) − 1

    )Pf

    [A(x(0)n0 , x

    (1)n1 , . . . , x

    (M)nM )

    ],

    となる. したがって, 相関関数の収束から確率過程の有限次元分布の収束が導かれることがわかる.

    緊密性は相関関数からモーメントの計算をすることにより示すことができる.(例えば Johansson

    [17] 参照)

    4.1 相関関数の漸近挙動

    この節では非衝突条件の終点 T がブラウン粒子 N の関数 TN であるとき相関関数 ρTNN が

    N → ∞ としたときにどのような漸近挙動をし, どのような関数に収束するかを調べる. 最初の定理は, TN = 2N としたときの時刻 ti が TN の周辺で位置 x

    (m)Mmが原点の周辺であるときの相

    関関数の収束定理である.

    34

  • ¶ ³定理 4.1 TN = 2N とする. 任意の正の整数 M , 正の整数列 {Nm}Mm=0, 非負の増加列{sm}Mm=0 で s0 = 0 となるものに対して

    limN→∞

    ρTNN

    (TN − sM , x(M)NM ; . . . TN − s1,x

    (1)N1

    ; TN , x(0)N0

    )

    = Pf[A

    (x

    (0)N0

    ,x(1)N1

    , . . . , x(M)NM

    )](4.1)

    ≡ ρ(0, x(0)N0 ; s1,x

    (1)N1

    ; . . . ; sM , x(M)NM

    ).

    ここでA(x

    (1)N1

    , x(2)N2

    , . . . , x(M+1)NM+1

    )は

    Am,n(x, y) =

    (D(sm, x; sn, y) S̃(sn, y; sm, x)

    −S̃(sm, x; sn, y) −Ĩ(sm, x; sn, y)

    ),

    S̃(s, x; t, y) =

    ∫ 10

    dλ cos(λ(x− y))e−λ2(t−s)/2, if s > t,sin(x− y)π(x− y) , if s = t,

    − 1π

    ∫ ∞1

    dλ cos(λ(x− y))e−λ2(t−s)/2, if s < t,

    D(s, x; t, y) = − 1π

    ∫ 10

    dλ λ sin(λ(x− y))e(s+t)λ2/2,

    Ĩ(s, x; t, y) = − 1π

    ∫ ∞1

    dλ1λ

    sin(λ(x− y))e−(s+t)λ2/2

    で定まる 2∑M+1

    m=1 Nm × 2∑M+1

    m=1 Nm 歪対称行列である.µ ´定理 4.1は,粒子数を無限大にしたときに時間的非斉次な非衝突ブラウン運動の有限次元分布が

    時間的非斉次,空間的斉次である無限粒子系に収束することを示している. sn−sm, 1 ≤ m,n ≤ M ,を固定したまま sm → ∞ となるように極限をとると D(sm, x; sn, y) → ∞, Ĩ(sm, x; sn, y) →0, D(sm, x; sn, y)̃I(sm, x; sn, y) → 0 となる. したがって, この極限無限粒子系の相関関数は

    Ãm,n(x, y) ≡(

    0 S̃(sn, y; sm, x)

    −S̃(sm, x; sn, y) 0

    ),

    であるパフィアンであらわされるが, これは m,n 成分が S̃(sm, x(m)i ; sn, x

    (n)j ) である実行列式と

    一致する. 実は, この無限粒子系は斉次非衝突ブラウン運動 Y(t) において粒子数を無限大にした

    ときに得られる時間的にも空間的にも斉次な無限粒子系と一致しており, Spohn [52], Osada [44]

    等により研究されている無限次元 Dyson model と同じものである.

    次の定理は TN = 2N1/3としたときの時刻 tiが TN の周辺で位置 x(m)Mmが 2N2/3−(TN−ti)2/4

    の周辺であるときの相関関数の収束定理である. 2N2/3 − (TN − ti)2/4 の周辺の配置を記述するために

    aN (s) = 2N2/3 − s2/4, x(s) = (x1 + aN (s), x2 + aN (s), . . . , xN + aN (s)),

    を導入しておく. 前定理では, 極限の相関関数が sin, cos を用いて表されたが, 次の定理は Airy

    関数:

    (4.2) Ai(z) =12π

    ∫ ∞−∞

    e√−1(zt+t3/3)dt

    35

  • を用いて表される.

    ¶ ³定理 4.2 TN = 2N1/3 とおく. 任意の正の整数 M , 正の整数列 {Nm}Mm=0 と非負の増加列 {sm}Mm=0 で s0 = 0 を満たすものに対して,

    limN→∞

    ρTNN

    (TN − sM , x(M)NM (sM ); . . . ; TN − s1, x

    (1)N1

    (s1); TN , x(0)N0

    (0))

    = Pf[A

    (x

    (0)N0

    , x(1)N1

    , . . . , x(M)NM

    )]

    ≡ ρ̂(0, x(0)N0 ; s1, x

    (1)N1

    ; . . . ; sM , x(M)NM

    )

    が成り立つ. ここで A(x

    (0)N0

    ,x(1)N1

    , . . . , x(M)NM

    )は 2× 2 行列

    Am,n(x, y)) =(

    D(sm, x; sn, y) S̃(sn, y; sm, x)−S̃(sm, x; sn, y) −Ĩ(sm, x; sn, y)

    )

    で定まる 2∑M+1

    m=1 Nm × 2∑M+1

    m=1 Nm 歪対称行列であり,

    S(s, x; t, y) =∫ ∞

    0

    dλ e(t−s)λ/2Ai(x + λ)Ai(y + λ)

    +12Ai(y)

    ∫ ∞0

    dλ e−tλ/2Ai(x− λ),

    G(s, x; t, y) =∫ ∞−∞

    dλ e(t−s)λ/2Ai(x + λ)Ai(y + λ)

    とおいたとき, 各成分はつぎのように表すことができる.

    S̃(s, x; t, y) = S(s, x; t, y)− G(s, x; t, y)1(s < t),D(s, x; t, y) = 1

    4

    [∫ ∞0

    dλ e−tλ/2Ai(x + λ)d

    {e−sλ/2Ai(y + λ)

    }

    −∫ ∞

    0

    dλ e−sλ/2Ai(y + λ)d

    {e−tλ/2Ai(x + λ)

    }],

    Ĩ(s, x; t, y) =∫ ∞

    0

    dλ e−sλ/2Ai(y − λ)∫ ∞

    λ

    dλ′ e−tλ′/2Ai(x− λ′)

    −∫ ∞

    0

    dλ e−tλ/2Ai(x− λ)∫ ∞

    λ

    dλ′ e−sλ′/2Ai(y − λ′).

    µ ´

    定理 4.2 で得られた極限無限粒子系は, 時間的にも空間的にも非斉次的である. この系におい

    て x(m)i − x(n)j を固定したまま x(m)i → −∞ となるように極限をとると, Airy 関数 (4.2) の漸近挙動

    Ai(−x) ∼ 1π1/2x1/4

    cos(

    23x3/2 − π

    4

    ), as x →∞

    から定理 4.1 で得られた無限粒子系に収束することがわかる. 一方, sn − sm, 1 ≤ m,n ≤ M を固定したまま sm →∞ となるように極限をとると, D(sm, x; sn, y) → 0, Ĩ(sm, x; sn, y) → 0, と

    36

  • なり, さらに S̃(sm, x; sn, y) が

    am,n(x, y) =

    ∫ ∞0

    dλ e(sn−sm)λ/2Ai(x + λ)Ai(y + λ) if m ≥ n,

    −∫ 0−∞

    dλ e(sn−sm)λ/2Ai(x + λ)Ai(y + λ) if m < n,

    に収束するので, 極限で得られる無限粒子系の相関関数は各成分が am,n(x

    (m)i , x

    (n)j

    )である (実

    数) 行列式で表すことができる. この時間的斉次, 空間的非斉次な無限粒子系は Prähofer and

    Spohn [47], Johansson[17] により研究されている Airy process と一致している. (Osada [45],

    Shirai and Takahashi [50] 参照.)

    4.2 定理 4.1, 定理 4.2 の証明

    定理の証明には次に示すエルミート直交関数

    ϕ`(x) =1√h`

    e−x2/2H`(x), h` =

    √π2``!

    の漸近挙動に関する公式が重要である.

    エルミート多項式に関する漸近挙動 [3, 55]. 任意の u ∈ R にたいして次が成り立つ:

    lim`→∞

    (−1)``1/4ϕ2`(

    u

    2√

    `

    )=

    1√π

    cosu,(4.3)

    lim`→∞

    (−1)``1/4ϕ2`+1(

    u

    2√

    `

    )=

    1√π

    sin u,(4.4)

    lim`→∞

    2−14 `

    112 ϕ`

    (√2`− u√

    2 `1/6

    )= Ai(−u).(4.5)

    ζm(x) を

    ζm(x) =

    1/bm(x) 0

    0 bm(x)

    .

    で定義された 2× 2 行列とする. ここで bm は実数値関数でありそれぞれの定理の証明で適当に定める. そして

    Am,n(x, y) = ζm(x)Am,n(x, y)ζn(y).

    とおき, 2∑M+1

    m=1 Nm × 2∑M+1

    m=1 Nm 歪対称行列 A(x

    (1)N1

    , x(2)N2

    , . . . , x(M+1)NM+1

    )を

    (Am,n

    (x

    (m)i , x

    (n)j

    ))1≤i≤Nm,1≤j≤Nn,1≤m,n≤M+1

    で定めると

    (4.6) Pf[A

    (x

    (1)N1

    ,x(2)N2

    , . . . , x(M+1)NNM+1

    )]= Pf

    [A

    (x

    (1)N1

    , x(m)N2

    , . . . , x(M+1)NNM+1

    )].

    が成り立つ. 1 ≤ m < n ≤ M + 1 に対して Am,n の成分をそれぞれ S̃m,n, Ĩm,n, Dm,n と書くことにする:

    S̃m,n

    (x, y) = bm(x)S̃m,nbn(y)−1 = Sm,n(x, y)−Gm,n(x, y)1(sm < sn),Sm,n(x, y) = bm(x)Sm,nbn(y)−1, Gm,n(x, y) = bm(x)Gm,nbn(y)−1,

    Ĩm,n

    (x, y) = bm(x)Ĩm,nbn(y), Dm,n(x, y) = bm(x)−1Dm,n(x, y)bn(y)−1.

    37

  • 【定理 4.2の証明】実数値関数 bm を

    (4.7) bm(x) =√

    2T − tm exp{1

    2γm(x/cm)2 −Nτ (m)

    }

    で定める.(4.6) より定理 4.2 は次の補題から導かれる.

    ¶ ³補題 4.3 TN = 2N1/3, tm = TN + sm, 1 ≤ m,n ≤ M + 1 とする. 任意の x, y ∈ R に対して次の等式が成り立つ :

    limN→∞

    S̃m,n

    (aN (sm) + x, aN (sn) + y) = S̃(sn, y; sm, x),(4.8)

    limN→∞

    Ĩm,n

    (aN (sm) + x, aN (sn) + y) = Ĩ(sn, y; sm, x),(4.9)lim

    N→∞Dm,n(aN (sm) + x, aN (sn) + y) = D(sn, y; sm, x).(4.10)

    µ ´

    【証明】展開式 (3.40), (3.42), (3.48), (3.49) と定義式  (3.12), (3.10), より次の展開式をえる.

    Gtn−tm(x, y) =1cn

    ∞∑

    k=0

    e(N−k)(τ(n)−τ(m))ϕk

    (x

    cm

    )ϕk

    (y

    cn

    ),(4.11)

    Sm,n(x, y) =1cn

    N−1∑

    `=0

    e(N−`)(τ(n)−τ(m))ϕ`

    (x

    cm

    )ϕ`

    (y

    cn

    ),(4.12)

    +1

    cnznϕN−1 (y/cn)

    ∞∑

    k=0

    ω(N/2 + k)ω(N/2− 1) e

    (2k+1)τ(m)ϕN+2k+1

    (x

    cm

    ),

    Ĩm,n

    (x, y) = −∞∑

    p=0

    23/2T√

    N + 2p + 1

    ∞∑

    k=p

    ω(N/2 + k)ω(N/2 + p)

    (4.13)

    ×{

    e2pτ(n)

    ϕN+2p

    (y

    cn

    )e(2k+1)τ

    (m)ϕN+2k+1

    (x

    cm

    )

    −e2pτ (m)ϕN+2p(

    x

    cm

    )e(2k+1)τ

    (n)ϕN+2k+1

    (y

    cn

    )}.

    Dm,n(x, y) = − 12Tcmcn

    (N/2)−1∑

    k=0

    e(N−2k)(τ(m)+τ(n))(4.14)

    ×[ϕ2k

    (x

    cm

    )eτ

    (n){

    ϕ′2k

    (y

    cn

    )+√

    k(1− e−2τ(n)

    )ϕ2k−1

    (y

    cn

    )}

    −ϕ2k(

    y

    cn

    )eτ

    (m){

    ϕ′2k

    (x

    cm

    )+√

    k(1− e−2τ(m)

    )ϕ2k−1

    (x

    cm

    )}].

    ここで ω(k) = 2kk!√

    (2k+1)!である.

    計算についての注意

    (4.11) は, (4.7), (4.3) から簡単に計算できる. (4.12) は, (3.46) などの  αk,j , β`,k の性質を

    使って三重和を1つの和にまとめたあと

    r∗krk

    e(4k+1)τ(1)

    = 2πT, ω(k) = 22k+1k!√

    h2k+1,

    38

  • などを使って整理するこのにより得られる. (4.13) は, (4.7) を用いて三重和を二重和にまとめ,

    整理すると得られる. (4.14) は, αj,k の定義式 (3.7) を用いて三重和を1つの和にして, 関係式

    e−y2/2H`+1(y) = −2 d

    dy

    (e−y

    2/2H`(y))

    + 2`e−y2/2H`−1(y),

    用いて整理すると得られる.

    まず次の関係式を示す:

    (4.15) limN→∞

    Gtn−tm(aN (sm) + x, aN (sn) + y) = G(sm, x; sn, y).

    (4.5) を用いると

    ϕn−p

    (√2N +

    x√TN

    )∼ 21/4N−1/12Ai

    (x,

    (N − p)1/6√N

    p

    )(4.16)

    ∼ 21/4(N − p)−1/12Ai(x,

    p

    N1/3

    ), N →∞,

    が |p| = O(N1/3) なる p で成り立つ. 展開式 (4.11) とaN (sm) + x

    cm=√

    2N +x√TN

    +O(T−1N ),

    τ (n) =snTN

    +O(T−2N ), N →∞,

    という関係, および (4.16) を用いると

    limN→∞

    Gtn−tm(aN (sm) + x, aN (sn) + y)

    = limN→∞

    √1

    TN

    N∑p=−∞

    ep

    2N1/3(sn−sm)ϕN−p

    (√2N +

    x√2N1/6

    )

    ×ϕN−p(√

    2N +y√

    2N1/6

    )

    = limN→∞

    1N1/3

    N∑p=−∞

    ep

    2N1/3(sn−sm)Ai

    (x +

    p

    N1/3

    )Ai

    (y +

    p

    N1/3

    ),

    となるので (4.15) をえる.

    展開式 (4.12) をω(k)ω(`)

    =(

    k

    `

    )1/4 (1 +O

    (1|k| +

    1|`|

    )),

    に注意して, (4.16) を用いて計算をすると, 実は主要項は k = O(N1/3) をみたす k の和でありω(N/2+k)ω(N/2−1) → 1 となることがわかるので (4.15) と同様にして

    (4.17) limN→∞

    Sm,n(aN (sm) + x, aN (sn) + y) = S(sm, x; sn, y)

    を示すことができる. 従って (4.8) は (4.15) と (4.17) から得る.

    展開式 (4.13) を (4.16) に注意して計算すると |p|, |k| = O(N1/3) である和のみ�