自動車用エネルギー- 2 - 1 自動車用エネルギーの現状...

30
新エネルギーの展望 20073 財団法人 エネルギー総合工学研究所-THE INSTITUTE OF APPLIED ENERGY 自動車用エネルギー -改訂版-

Upload: others

Post on 24-Feb-2020

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 自動車用エネルギー- 2 - 1 自動車用エネルギーの現状 現状において,自動車用エネルギーとしては ほとんど石油系燃料(ガソリン,軽油,LPG

新エネルギーの展望

2007年 3 月

財団法人 エネルギー総合工学研究所-THE INSTITUTE OF APPLIED ENERGY

自動車用エネルギー-改訂版-

Page 2: 自動車用エネルギー- 2 - 1 自動車用エネルギーの現状 現状において,自動車用エネルギーとしては ほとんど石油系燃料(ガソリン,軽油,LPG

ま え が き

今日,地域規模の環境問題から地球温暖化問題,さらに石油価格の高騰化現象に見られ

る石油供給への懸念(エネルギーセキュリティー問題)が現実の問題として議論されるよ

うになり,さらなる石油消費量節減と環境影響低減の努力を前提としつつも,石油に代わ

る燃料開発の要求が従来以上に大きくなってきた。

わが国のエネルギー消費構造を,産業用,輸送用および民生用からその変遷を眺めた場

合,例えば石油危機時点から今日(2005年)を比較した時に,産業用エネルギーはほとん

ど増加していないが,輸送用と民生用の伸びはともに約2倍と大きく増加している。その

結果,現在の割合は,産業用の占める割合が低下し(約5割),輸送用と民生用は残りを

折半する程の主要分野として伸張してきた。その間の所得の向上,ライフスタイルの変化

等を勘案すると,上記傾向は当然とする見方があるにせよ,今後のわが国のエネルギー対

策としては,輸送用と民生用に従来以上に注力すべきであることが明確であり,すでにそ

れぞれの分野で積極的な対策が行われているところである。

自動車用燃料は,輸送用エネルギーの大半を占めるものであるが,上述のような状況か

ら,より一層の燃費向上と環境対応が求められている。それに応えてハイブリッド車のよ

うに従来発想を超えた新しい車も登場してきているが,現在実用化されたものは,基本的

に石油を利用したもの(ガソリン,軽油,LPG等)である。本書では,これら石油系自

動車燃料に加え,非石油系エネルギーについてもまとめ,自動車用エネルギーを検討する

際に資することを目的として,その意義,開発状況,見通し等を紹介することとした。

当所では先に本シリーズにおいて「自動車用エネルギー(1987年度版)編」(1988年3

月刊行)を取りまとめたが,その後上述の状況に見られるようにかなり状況が変わってき

たので,今般その改定として,新しく自動車用燃料を解説したものである。

なお,本編作成にあたっては,エネルギー技術情報センター下岡浩主管研究員が執筆し,

小川紀一郎専門役のレビュー協力を得て,エネルギー技術情報センターにおいて編集した

ものである。

終わりに,このシリーズの刊行は,電力中央研究所からの委託業務「エネルギー技術情

報に関する調査」の一環をなすものであり,同研究所に対して深く謝意を表する。

2007年3月

財団法人 エネルギー総合工学研究所

理事長 秋 山 守

Page 3: 自動車用エネルギー- 2 - 1 自動車用エネルギーの現状 現状において,自動車用エネルギーとしては ほとんど石油系燃料(ガソリン,軽油,LPG

新 エ ネ ル ギ ー の 展 望

自動車用エネルギー(改訂版)

目 次

はじめに ································································ 1

1 自動車用エネルギーの現状 ············································· 2

1.1 自動車の次世代化対策 ············································· 2

1.2 自動車排出ガス対策 ··············································· 4

2 自動車用エネルギーの種類と特徴 ······································· 7

2.1 ガソリン ························································ 7

2.2 軽油 ···························································· 7

2.3 LPG ·························································· 8

2.4 天然ガス ························································ 8

2.5 DME ·························································· 11

2.6 GTL ·························································· 11

2.7 バイオマス由来燃料 ··············································· 12

2.8 電気 ···························································· 13

2.9 水素 ···························································· 14

2.10 ハイブリッド自動車 ··············································· 15

3 自動車用エネルギーの課題と見通し ····································· 18

あとがき ································································ 25

Page 4: 自動車用エネルギー- 2 - 1 自動車用エネルギーの現状 現状において,自動車用エネルギーとしては ほとんど石油系燃料(ガソリン,軽油,LPG

- 1 -

は じ め に

現在,世界的に広く利用されている自動車は

も社会に影響力のある製品の一つである。特

に,わが国は世界有数の自動車生産国であり,

利用国でもある。都会でも農村でも産業活動や

生活においてもすでに自動車は欠くことのでき

ない存在になっており,まさにクルマ社会とい

っても過言ではない。

しかしながら,同時に負の面も大きく,わが

国では毎年数千人もの犠牲者が生まれている

1)。また,自動車は都市部では窒素酸化物

(NOx)等の大気汚染物質の主な発生源にもな

り,さらに,地球温暖化の原因といわれている

二酸化炭素(CO2)の主要な排出源の一つでも

ある。

今後,世界的な人口の増加や,中国をはじめ

とする途上国の近代化による自動車台数の増加

が予想されており,ますます自動車によるCO2

排出量が増加すると予測され,地球温暖化問題

に対し大きな問題になっている。

この諸刃の剣ともいえる自動車に対し,年齢

性別を問わず多くの人々は強い愛着を感じてい

ることもまた事実といえる。人々は単に移動手

段としてではなく,運転する喜び,所有する喜

びを与えてくれるものとして自動車を見ている。

特に,自家用車は実用品ではなく嗜好品として

の比重も大きいとみることもできるだろう。

このような事情にある自動車は,燃料(エネ

ルギー)の補給なしに走ることはできない。そ

して,現在,自動車用エネルギーは,ほぼ

100%石油系の燃料に依存している。

現状の石油系自動車燃料は,経済性とともに

利便性に優れたものであるが,今後,自動車が

社会に受け入れ続けられるためには,環境適合

性および供給安定性に対する要求,特に前者に

対する改善が必要とされてきている。

こうした問題に対処するため,石油系自動車

燃料(ガソリン/軽油/LPG)の改善に加え,

バイオマス由来燃料(エタノール/BDF

(Bio Diesel Fuel)),合成燃料(GTL

( Gas to Liquid ) / D M E ( Di-methyl

Ether)),あるいは電気などの新しい自動車

用エネルギーの開発が注目を集めている。

そこで,この様な時の話題ともいえる自動車

用エネルギーにつき,その現状動向の概説には

じまり,続いて種類,特徴,課題等を解説し,

後に将来見通しを述べた。

読者が,自動車エネルギーの切り口としての

現在のエネルギー問題への理解を深められる際

の一助になることを願う次第である。

Page 5: 自動車用エネルギー- 2 - 1 自動車用エネルギーの現状 現状において,自動車用エネルギーとしては ほとんど石油系燃料(ガソリン,軽油,LPG

- 2 -

1 自動車用エネルギーの現状

現状において,自動車用エネルギーとしては

ほとんど石油系燃料(ガソリン,軽油,LPG

等)が利用されている。しかしながら,地球温

暖化対策あるいは大気汚染防止の観点から,省

エネルギー(低燃費)対策や排出ガス対策のた

め,いくつかの制度が作られている。

また,上記対策に加え,「供給安定性」の向

上を図る意味からも,石油系以外の燃料の導入

も検討されている。

このような対策は当然なことながら近年わが

国だけでなく世界各国でも積極的に検討されて

いる(表1-1)。

1.1 自動車の次世代化対策

現在,わが国において運輸部門の消費エネル

ギーは全体の約1/4であり,その消費エネル

ギーの大半を自動車が占めている(図1-1,1

-2)。また,石油のみで比較すると年間石油

消費量のうち,約4割を自動車で消費しており,

これは1人当たりドラム缶4本に相当する。こ

れは,同じ陸上輸送である鉄道と比べても,単

位輸送量当たりの二酸化炭素(CO2)の排出量

は約10倍と非常に大きい。したがって,今日自

動車の省エネルギー(低燃費)対策は地球温暖

化対策およびエネルギーの供給安定性確保の面

からも, も重要な技術課題の一つといっても

過言ではない。

そこで,国も経済産業省「新・国家エネルギ

ー戦略(2006年5月)」において,戦略目標の

一つである「世界 先端のエネルギー需給構造

の確立」を目指し,「およそ50%ある石油依存

度を,2030年までに40%を下回る水準とす

る。」という目標を設定し,そのために取り組

むべき4つの計画を掲げた。それらは,「省エ

ネルギーフロントランナー計画」,「新エネル

ギーイノベーション計画」,「原子力立国計

画」,および「運輸エネルギーの次世代化」で

ある。ここでは,「運輸エネルギーの次世代

化」の概要を紹介する。

表1-1 自動車に関する各国の政策

地域・国 措 置 影 響

OECD北米 燃費基準強化

代替燃料・自動車の開発導入支援

燃費向上

CNG,LPG,FCV,HV,バイオ燃料の使用増

OECD欧州

燃費協定延長

代替燃料導入支援

モーダルシフト推進

燃費向上

バイオ燃料の使用増

モーダルシフト

OECD太平洋

燃費基準強化

代替燃料・自動車の開発導入支援

モーダルシフト推進

燃費向上

CNG,LPG,FCV,HV,バイオ燃料の使用増

モーダルシフト

ロシア 低燃費車導入促進 燃費向上

インド 低公害車

低公害燃料の導入促進

燃費向上

CNG,LPG,バイオ燃料の普及

ブラジル 代替燃料の導入促進 バイオ燃料,CNG,LPGの普及

出典:蓮池 宏,第22回エネルギー総合工学シンポジウム前刷集(2006年9月)

Page 6: 自動車用エネルギー- 2 - 1 自動車用エネルギーの現状 現状において,自動車用エネルギーとしては ほとんど石油系燃料(ガソリン,軽油,LPG

- 3 -

[運輸エネルギーの次世代化]の概要

目標: 石油依存度を,2030年までに80%程度

とすることを目指す(図1-3)

対応:「自動車燃費の着実な改善」「燃料多様

化に向けた環境整備」「バイオマス由来燃料,

GTLの供給確保」,および「電気・燃料電池

自動車等の開発・普及促進」の4つの柱で目標

達成に至るアクションプランを提示した。また,

バイオ由来燃料の活用促進,蓄電池の集中的技

術開発による電気自動車,燃料電池車の早期導

入などの具体策に取り組むこととした(表1-

2)。

図1-3 運輸部門における我が国の石油依存度

と目標値

出典:経済産業省,新・国家エネルギー戦略

(2006年5月)

(http://www.meti.go.jp/press/20060531004/

20060531004.html)

この対策の一つとして,「エネルギーの使用

の合理化に関する法律(省エネ法)」の改正

(2005年8月改正)が挙げられるが,それによ

れば,輸送事業者・荷主に対する省エネ基準が

策定され,計画策定・報告の制度が確立された。

また,自動車単体の効率化のため燃費基準の

改定,レギュラーガソリンのオクタン価向上に

向けた検討などが行われている。燃費基準につ

いては,自動車メーカー及び輸入事業者は,

2015年度までに,乗用車等の平均燃費値を燃費

基準値以上にするよう,燃費性能を改善するこ

とが求められるようになる。この燃費基準が達

成された場合,目標年度である2015年度には平

図1-1 旅客部門エネルギー消費量の推移

出典:経済産業省,エネルギー白書2006年版,ぎょう

せい(平成18年7月)

(http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/

2006EnergyHTML/index.html)

図1-2 貨物部門エネルギー消費量の推移

出典:経済産業省,エネルギー白書2006年版,ぎょう

せい(平成18年7月)

(http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/

2006EnergyHTML/index.html)

Page 7: 自動車用エネルギー- 2 - 1 自動車用エネルギーの現状 現状において,自動車用エネルギーとしては ほとんど石油系燃料(ガソリン,軽油,LPG

- 4 -

均23.5%(2004年度実績値比)乗用車の燃費が

改善されることになる。

1.2 自動車排出ガス対策

自動車排出ガス対策のため,国は低燃費や低

排出ガスのクルマの自動車税を優遇するグリー

ン税制(排気ガスに含まれる有害物質の割合に

応じて減税率を決める)という制度を設け,

2001年度から2年間の特例措置として導入した。

また,国土交通省では,2000年から低公害車

を普及させるために低排出ガス車認定制度を設

け,「低公害車等排出ガス技術指針」,および

「低排出ガス車認定実施要領」を策定したが,

その中で燃料の種類を問わずNOx等の有害物質

の排出削減程度に応じた3段階の認定基準を設

けた。例えば, 新規制値より25%,50%,

75%低減している自動車をそれぞれ「良-低排

出ガス(☆)」,「優-低排出ガス(☆☆)」,

「超-低排出ガス(☆☆☆)」に認定している。

認定を受けた自動車には,それぞれのレベルに

応じたステッカーが貼られている(図1-4)。

また,国は2004年に定められた「自動車の燃

費性能の評価及び公表に関する実施要領」に基

づき,自動車の燃費性能に対する一般消費者の

関心と理解を深め,燃費性能の高い自動車の普

及を促進するため,自動車燃費性能を評価し,

これを公表するとともに,燃費性能に係る車体

表示を実施している。さらに,一定の排出ガス

低減性能に優れ,かつ燃費基準を超えて達成し

た車を対象に,自動車グリーン税制と呼ばれる

税制優遇措置(自動車税,自動車取得税の軽減

措置)があり,さらに低公害車等の導入に対す

る低利融資制度,補助制度などを講じている

(表1-3)。

また,規制面では,「環境適合性」を高める

ために,排出ガスの規制は徐々に厳しくなって

表1-2 新・国家エネルギー戦略における「運輸エネルギーの次世代化計画」

<目標>2030年に向け,運輸部門の石油依存度が80%程度となることを目指し,必要な環境

整備を行う。

<具体的取組>

① 自動車燃費の着実な改善

i) 自動車の燃費改善を促す燃費基準の策定

ii) レギュラーガソリンのオクタン価向上

② 燃料多様化に向けた環境整備

i) バイオマス由来燃料供給インフラの整備

ii) ディーゼルシフトの推進

iii) バイオマス由来燃料及びGTLの一層の活用のためのインフラ整備

③ バイオマス由来燃料,GTLの供給確保

i) バイオマス由来燃料の供給促進・経済性向上

ii) 次世代燃料に関する技術開発促進

④ 電気・燃料電池自動車等の開発・普及促進

i) 電気・燃料電池自動車等の普及促進策

ii) 「新世代自動車」向け電池に関する集中的な技術開発の実施

iii) 燃料電池自動車に関する技術開発の推進

出典:経済産業省,新・国家エネルギー戦略(2006年5月)

(http://www.meti.go.jp/press/20060531004/20060531004.html)

Page 8: 自動車用エネルギー- 2 - 1 自動車用エネルギーの現状 現状において,自動車用エネルギーとしては ほとんど石油系燃料(ガソリン,軽油,LPG

- 5 -

おり,今後もさらなる規制強化が予想されてい

る。

自動車排出ガス規制は,大気汚染防止法に基

づく「自動車排出ガスの量の許容限度の告示」

によって自動車1台あたりの排出ガス許容限度

が定められており,道路運送車両法に基づく

「道路運送車両の保安基準の細目を定める告

示」によって,これが行われている。この道路

運送車両法に基づく検査の結果,保安基準に適

合すると認められた自動車の使用者に対し自動

車検査証が公布されている。

平成15年3月に「自動車排出ガスの量の許容

限度の告示」,平成15年9月に「道路運送車両

の保安基準の細目を定める告示」が改正され,

平成17年10月からいわゆる「新長期規制」が開

始され,これにより自動車の排出ガス規制は世

界で も厳しいレベルとなっている(表1-4)。

また,平成17年4月には中央環境審議会の

「今後の自動車排出ガス低減対策のあり方につ

いて(第八次答申)」により,2009年からディ

ーゼル自動車の排出ガスを更に低減することが

答申されている。この答申に基づく規制が実施

表1-3 税制優遇措置の軽減対象・軽減率等

自動車税の軽減対象・軽減率

自動車取得税の軽減対象・軽減率

出典:国土交通省ウェブサイト

(http://www.mlit.go.jp/jidosha/green/gaiyou.pdf)

図1-4 低排出ガス車認定レベル(乗用車:NOx・NMHCの場合)

注) 各値は,平成17年排出ガス基準に係る試験モードで換算等を行っている。

そのため,低減レベルの割合による数値と,記載された数値が一致しないことがある。

出典:低公害車2005ガイドブックウェブサイト

(http://www.env.go.jp/air/car/vehicles2005/frame-1.htm

燃費基準+10%達成車

燃費基準+20%達成車

②概ね25%軽減

①概ね50%軽減

☆☆☆☆車

①30万円控除

②15万円控除

燃費基準+10%達成車

燃費基準+20%達成車

30万円控除では,自家用→15千円の減税 営業用・軽自動車→9千円の減税

15万円控除では,自家用→7.5千円の減税 営業用・軽自動車→4.5千円の減税

☆☆☆☆車

Page 9: 自動車用エネルギー- 2 - 1 自動車用エネルギーの現状 現状において,自動車用エネルギーとしては ほとんど石油系燃料(ガソリン,軽油,LPG

- 6 -

されると,ディーゼル自動車についても,ガソ

リン自動車と同水準の排出ガス規制が実施され

ることになる(図1-5)。

表1-4 日本の新車の排出ガス規制値(2005年規制:コンバインモード/平均値)

CO(g/km) NMHC(非メタン

炭化水素)(g/km)

NOx(g/km) PM(g/km)

ガソリン・LPG乗

用車 1.15 0.05 0.05 -

ディーゼル乗用車

(小型) 0.63 0.024 0.14 0.013

ディーゼル乗用車

(中型) 0.63 0.024 0.15 0.014

出典:国土交通省ウェブサイト

(http://www.mlit.go.jp/jidosha/sesaku/environment/osen/sinchoki_kisei/sinchoki_kisei.pdf)

ディーゼル重量車の排出ガス規制値の比較

図1-5 ディーゼル重量車の排出ガス規制値の比較

出典:低公害車2005ガイドブックウェブサイト

(http://www.env.go.jp/air/car/vehicles2005/frame-1.htm)

※各国ごとに走行実態を踏まえた異なる試験モードを設定している。

※米国の2010年規制については,現在も引き続き,当局と自動車メーカーが技術的目

途についてレビューを行っているところ。

Page 10: 自動車用エネルギー- 2 - 1 自動車用エネルギーの現状 現状において,自動車用エネルギーとしては ほとんど石油系燃料(ガソリン,軽油,LPG

- 7 -

2 自動車用エネルギーの種類と特徴

2.1 ガソリン

現在,自動車用エネルギーとして も多く使

われているのが,石油系燃料であり,その中で

もガソリン(炭素数4~10の炭化水素の混合

物)は も一般的な燃料である。

ガソリンを用いる動力は主にオットーサイク

ルエンジン(火花で点火するエンジン)を用い

るが,この組み合わせがあまりに主流であるの

で,このエンジンは一般的にガソリンエンジン

と呼ばれている。

ガソリンエンジンは,排気量あたりの出力が

大きく,また高速回転が容易であるにも係わら

ず振動や騒音も少ないので,主に中小型自動車

に適用されている。

従来のガソリンエンジン自動車で,より少な

い燃料で効率良く走る方法としては,エンジン

の効率化,動力の効率的伝達,車両重量の軽減

化,ボディの空気抵抗の低減などがある。また,

エンジン関係の技術としては,「燃料技術,燃

焼技術,後処理技術」があり,燃料の改善,エ

ンジン本体の改良による排出ガス量の低減や,

排出ガスの浄化という方法がとられる。

ガソリンエンジンの高度化の技術としては,

電子制御式燃料噴射装置,三元触媒システム

(排ガスに含まれるCO,HC,NOxを同時に酸化

又は還元して除去する。Pt,Rh,Pdなどの貴金

属を含む。),あるいは直接ガソリン噴射方式

(直噴技術)等がある。

ガソリンエンジンは三元触媒システムを用い

ることで優れた環境特性を有し,平成12年排出

ガス規制値の75%低減レベル「超-低排出ガス

(☆☆☆)」を達成したガソリンエンジン乗用

車が多数販売され,今や「超低公害車」時代に

なりつつあるといえる。

また,燃料も環境性能向上のため低硫黄化が

進められ,2008年には硫黄分を10ppm以下(サ

ルファーフリー)とすることが決定している。

近の排ガス規制の強化とともに,更に低NOx

化用触媒が必要とされるが,この触媒はガソリ

ン中の硫黄分で被毒し十分に機能しなくなるこ

となどのため,低硫黄化が求められている。つ

まり,低硫黄化は排出ガスのクリーン化と共に

NOx排出量の削減にも寄与するのである。

2.2 軽油

石油系燃料であり,現在,ガソリンと共に自

動車用エネルギーとして多く使われており,特

に大型の自動車用に も一般的に用いられてい

る。軽油は自己着火性に優れているので,主に

高い圧縮比で燃料を自己着火させて燃焼させる

ディーゼルサイクルエンジン用に用いられてい

る。

ディーゼルエンジンは,黒煙等の粒子状物質

(PM)やNOxといった排出ガスに問題があっ

たが,1990年代に電子制御式燃料噴射装置の登

場により,噴射装置が改善され,排出ガス対策

が可能となり,大幅に環境性能が向上した。

ディーゼルエンジンの高度化の技術としては,

噴射系の高圧化,過給,噴射形態の多様化,弁

系の改良(可変バルブタイミング),燃焼方式

の改善(HCCI(予混合圧縮自己点火:Homoge-

neous-Charge Compression-Ignition combus-

tion)技術),EGR(排気再循環)の改良等

がある。

軽油の低硫黄化や後処理技術,燃焼方式の改

善(HCCI)などにより現状のガソリン自動

車の排ガスと同程度の環境特性を達成できる可

能性があるといわれている10)。この軽油の低

硫黄化については,2007年からすべての軽油の

硫黄分を10ppm以下(サルファーフリー)にす

ることになっており,実際には2005年1月より

自主的に各製油所から出荷を開始している。

(図2-1)。

一方,ディーゼルエンジンはガソリンエンジ

ンに比べ効率が高く,二酸化炭素の排出量が相

対的に少なくなるため,環境対応を理由に,ヨ

ーロッパを中心にディーゼル車が普及している。

一方,日本では東京都において大気汚染の主原

Page 11: 自動車用エネルギー- 2 - 1 自動車用エネルギーの現状 現状において,自動車用エネルギーとしては ほとんど石油系燃料(ガソリン,軽油,LPG

- 8 -

因の一つはディーゼル自動車であるとして1999

年8月より「ディーゼル車NO作戦」を展開し,

2000年12月に都の排出基準に満たないディーゼ

ル自動車の運行禁止などの内容の「都民の健康

と安全を確保する環境に関する条例」が実施さ

れた。この例にみられるように,わが国ではデ

ィーゼル自動車に対するイメージは悪く,普及

はヨーロッパに比べ進んでいない。しかし,

近ではディーゼル自動車に対する見直しの動き

がある。

2.3 LPG

LPG(液化石油ガス)は原油や天然ガスの

採掘時の随伴ガスや石油精製時の生産物として

得られる。高オクタン価であるため,ガソリン

エンジンと同じタイプのオットーサイクルエン

ジンの燃料に適している10)。体積当たりの発

熱量が低いため,充填エネルギー量が相対的に

低い。

排出ガスは,粒子状物質(PM)は極めて少

なく,NOxもガソリンと同等まで低い。大気環

境性能は非常に優れているが,総合エネルギー

効率とCO2排出量ではディーゼル車に劣ってい

る。

本来は石油系の燃料であるため,「供給安定

性」の改善にはあまり寄与しないが,天然ガス

田からの生産もあるため,供給先の分散化に貢

献する可能性はある。

日本ではタクシー用として20万台以上使われ

ており,海外においても国によっては100万台

以上も普及している。

2.4 天然ガス

都市ガスの原料でもある天然ガスは,自動車

用エネルギーとしても用いられている。天然ガ

スはメタン(CH4)が主成分であり,高オクタ

ン価(オクタン価:自動車の耐ノッキング性を

示す指標)で,ノッキングが起きにくいためガ

ソリンエンジンと同じタイプのオットーサイク

ルエンジンの燃料に適している10)。

天然ガス自動車はいくつかの種類があるが

(図2-2),現在は,天然ガスを気体のまま圧

図2-1 わが国における燃料中の硫黄低減の推移

出典:大聖 泰弘,季報 エネルギー総合工学 Vol.29 No.4(2007.01)

(http://www.iae.or.jp/publish/kihou/bnb.html)

Page 12: 自動車用エネルギー- 2 - 1 自動車用エネルギーの現状 現状において,自動車用エネルギーとしては ほとんど石油系燃料(ガソリン,軽油,LPG

- 9 -

縮して高圧ガス容器(20MPa等)に貯蔵し,そ

れを燃料とする圧縮天然ガス(CNG :

Compressed Natural Gas)自動車が世界的に

も普及している。天然ガス自動車の構造は,基

本的にガソリン車,ディーゼル車などの従来車

と同じであり,燃料系統のみ異なる。

気体燃料であるため,ガソリン等の液体燃料

に比べ充填エネルギー量が相対的に少なく,一

充填走行距離が短くなっている。また,ガソリ

ンと比べ,大型化も可能であり,大型自動車

(例えば都市内トラック,バス)への適用実績

もある。

天然ガスは,ガソリンや軽油といった石油系

燃料と異なり,硫黄分などの不純物を含まない

クリーンなエネルギーである。排出ガスの浄化

が容易で,黒煙も出ず,粒子状物質もほとんど

排出されない。さらに,窒素酸化物(NOx)も

ガソリンと同等に大幅に少なく,CO2排出量に

ついてもガソリン車より2~3割少なく,軽油

と比べ同等か多少劣る程度であり,大気環境特

性は非常に優れている。

しかしながら,自動車用に導入されて20年近

くになるが,日本全国でトラック,軽自動車等

を中心に約3万台(2005年度)と市場は拡大し

ていない(図2-3)。ガス燃料であるため,一

充填走行距離や取り扱い性などの問題が大きい

ためと考えられている。

また,液化天然ガス自動車(LNG自動車)

については,わが国でも1996年度から開発が進

められており,2001年から公道走行試験を行っ

ている。

図2-2 天然ガス自動車の種類

出典:天然ガス自動車ウェブサイト

(http://www.gas.or.jp/ngvj/index.html)

Page 13: 自動車用エネルギー- 2 - 1 自動車用エネルギーの現状 現状において,自動車用エネルギーとしては ほとんど石油系燃料(ガソリン,軽油,LPG

- 10 -

2007年4月の統計によると,世界の普及状況

は約600万台であり,普及台数世界第1位の国

は,南米のアルゼンチンで,タクシーのほとん

どが天然ガス自動車である。日本は現在世界第

18位であるが,環境への意識が高まるにつれて,

さらなる普及が見込まれている。

国 名 天然ガス自動車 CNG充填 国 名 天然ガス自動車 CNG充填 台数(台) 所数(基) 台数(台) 所数(基)

アルゼンチン 1,459,236 1,400 ボリビア 57,900 87

ブラジル 1,357,239 1,416 バングラデシュ 54,715 118

パキスタン 1,300,000 1,230 ドイツ 50,000 700

イタリア 410,000 509 アルメニア 47,688 128

インド 334,658 321 ベネズエラ 44,146 149

イラン 229,607 179 ロシア 41,780 213

アメリカ 146,900 1,340 日 本 31,462 324

中 国 127,100 355 カナダ 20,505 222

コロンビア 100,000 90 マレーシア 190,000 46

エジプト 67,266 99 その他 114,380 952

ウクライナ 670,000 147 合 計 6,080,582 10,068

図2-3 世界の天然ガス自動車普及状況

出典:東京ガス 天然ガス自動車ウェブサイト

(http://eee.tokyo-gas.co.jp/ngv/index.php)

(出典)国際天然ガス自動車協会(IANGV)の

統計資料(2007/4)発表

世界の普及状況

アルメニア47,688

ウクライナ 67,000

ドイツ 50,000

イタリア 410,000

エジプト 67,266

イラン 229,607

ロシア41,780

中国127,100

日本 31,462

インド 334,658

パキスタン 1,300,000

バングラデシュ54,715

マレーシア19,000

その他114,380

カナダ20,505

アメリカ 146,900

ベネズエラ44,146

コロンビア 100,000 ブラジル

1,357,239

ボリビア 57,900

アルゼンチン1,459,236

合 計 6,080,582

Page 14: 自動車用エネルギー- 2 - 1 自動車用エネルギーの現状 現状において,自動車用エネルギーとしては ほとんど石油系燃料(ガソリン,軽油,LPG

- 11 -

2.5 DME

DME(ジメチルエーテル)は天然ガスや石

炭,バイオマスなどから合成される合成燃料で,

用途も発電用,ディーゼルエンジン用,民生用,

燃料電池用等多岐にわたり,取扱いが簡便なク

リーンな新燃料としてその実用化が期待されて

いる(図2-4)。ただし,現在ではまだ市場で

の自動車への利用としては普及していない。

DMEはセタン価(ディーゼルエンジン内で

のディーゼルノックの起こりにくさを示し,セ

タン価が高いほど着火性に優れる。オットーサ

イクルエンジンにおけるオクタン価に相当する

数値)が高く,ディーゼルサイクルエンジンに

適している。体積当たりの発熱量が低いため,

一充填走行距離に課題があり,燃料タンクの容

積増が必要になる。

コスト面では,車両価格は軽油ディーゼル車

やLPG車と同様との見方があり,燃料価格は

輸入軽油より安価で供給できる見通しもある。

排気ガスは,粒子状物質(PM)はほとんど

出さず,NOxも低く,大気環境性能は非常に優

れている。

「供給安定性」の面では,天然ガスや石炭,

バイオマスなどの多様な原料から作ることがで

きるのでエネルギー源の多様化に貢献する。た

だし,合成燃料であることから,製造時の転換

効率(天然ガスからは約71%,石炭からは約

64%)の関係上,総合エネルギー効率は軽油よ

り低いと考えられている。インフラ構築の問題

もあり,普及の可能性は不明確である。

2.6 GTL

天然ガスや石炭などから合成される合成燃料

であるFT(Fisher-Tropsch)軽油(以下,こ

れをGTL(Gas to Liquid)という)は軽油

と同じ範疇の炭化水素でありながら,硫黄分や

アロマ(芳香族系炭化水素)分がゼロという特

徴がある。セタン価が高く,容積あたりの発熱

量は軽油に比べやや低いがディーゼルサイクル

エンジンに適している。

また,GTL製造技術を応用して,天然ガス

からだけでなく,石炭,バイオマスなどの多様

図2-4 DMEの概要

出典:資源エネルギー庁ウェブサイト

(http://www.enecho.meti.go.jp/)

DMEとは… クリーン燃料 CO2排出低減 硫黄分ゼロ

PM(すす)ゼロ NOx:少

マルチ用途 発電,自動車

民生,燃料電池

ディーゼル代替 セタン価高い

PM(すす)ゼロ

マルチソース 天然ガスなど

からの合成燃料

沸点:-25℃ プロパンとブタンの

中間の物性

LPガスの インフラ活用が

可能

バイフューエル LPガスとの

切替え利用も可能

DME ジメチル エーテル

CH3OCH3

液密度 :0.67g/cm3

ガス比重 :1.59(対空気)

発熱量 :6,900kcal/kg

セタン値 :55-60(軽油と同等)

きわめて低毒性(LPGと同等)で

環境負荷が少ない

Page 15: 自動車用エネルギー- 2 - 1 自動車用エネルギーの現状 現状において,自動車用エネルギーとしては ほとんど石油系燃料(ガソリン,軽油,LPG

- 12 -

な原料から作ることができるので(それぞれ,

CTL(Coal to Liquid),BTL(Biomass

to Liquid)と呼ばれる)エネルギー源の多様

化に貢献し,「供給安定性」に資する。

GTL100%での使用(これをニートとい

う)と,GTLと軽油の混合による使用が考え

られるが,供給量の関係から短中期においては

ニートでの使用は考えにくい。軽油との混合の

場合,軽油の品質規格の適合範囲内での利用が

望ましい。低濃度の場合は軽油と同等と見なさ

れ,車両価格のコストアップ要因はなく,既存

インフラの利用が可能である。

天然ガスからGTLを製造する場合,製造プ

ロ セ ス の 効 率 が 低 く , W T W ( Well to

Wheel:燃料採掘から自動車走行までのトータ

ル)のCO2排出量はガソリンに比べ低減は期待

できない。石炭からのGTLではCO2排出量は

さらに多くなる。もし,GTL製造過程でCO2

を回収,貯蔵できることが可能になれば,その

時はCO2排出量の低減の可能性が出てくる。

石油代替という点からみれば,短中期的に

も有望な燃料であり,その利用が期待されてい

る。

2.7 バイオマス由来燃料

バイオマス由来燃料としては,エタノール

(バイオエタノール)やBDF(バイオディー

ゼル)などが考えられている。

バイオマス由来燃料は,バイオマス成長時に

CO2を大気から吸収するので,CO2排出に計上さ

れないので,温暖化対策の面で期待されている。

バイオエタノールは,サトウキビ,とうもろ

こし等のデンプン質や木質系のセルロース(廃

棄物)等を糖化し,アルコール発酵,蒸留して

製造される。自動車用としては,ガソリンに混

合又は代替として利用されるが,わが国では,

「揮発油等の品質の確保等に関する法律(品質

確保法)」により,現在,ガソリンに3%まで

混合することが認められている。

バイオエタノール等は分子中に酸素を含む含

酸素化合物であるが,ガソリンにこの含酸素化

合物が含まれると,排ガス中のNOx量や排ガス

浄化装置の耐久性に影響が出るといわれる14)。

エタノール車は,燃料の面からは,純粋なエ

タノールを燃料とするタイプ(ニート)と,エ

タノールにガソリンを混合したエタノール混合

燃料タイプの2通りがある。

エタノールはオクタン価が高く,ガソリン代

替燃料として適している。ガソリンに比べ,高

出力,高トルク,高効率というポテンシャルを

持っている。しかし,燃料の特性から寒冷地で

の使用において流動性が悪化することや燃料系

材料への悪影響のため,ニートでの利用は問題

があり,混合しての利用が有力である。低濃度

(3%以下)であれば自動車に大きな改造は必

要がなく,燃料供給インフラの利用が可能であ

るため,すぐにでも実用化が可能であるという

利点がある。実際,米国,ブラジルでは自動車

用燃料としてすでに使用されている(図2-5)。

バイオマス起源のエタノールは,国内資源量

は限られているので,供給力が十分でなく,ま

た天候等の影響を受けやすいことから,海外で

の大規模生産して輸入することが考えられるが,

現状では輸出余力のあるのはブラジルのみに限

られており,「供給安定性」の面に問題がある。

また,エタノールと同じバイオマス燃料の一

つにバイオディーゼルがある。欧州では,既に

菜種油やひまわり油にメタノールを反応させて

メチルエステル化したFAME(Fatty Acid

Methyl Ester:脂肪酸エステル)がディーゼル

燃料に混ぜられて自動車用燃料として使用され

ている。

セタン価が高く,軽油とほぼ同等の特性を持

つため,ディーゼル燃料として適した燃料であ

るが,低温で流動性が悪化するため,ニートで

の使用に問題があり,軽油と混ぜて使用する必

要がある。

現状ではコストが高く,補助金により導入さ

れている状況であるが,アジア諸国でも導入の

動きがある。

Page 16: 自動車用エネルギー- 2 - 1 自動車用エネルギーの現状 現状において,自動車用エネルギーとしては ほとんど石油系燃料(ガソリン,軽油,LPG

- 13 -

なお,エタノールと同じアルコール類である

メタノールについては,平成13年7月に策定さ

れた経済産業省,国土交通省,環境省の関係3

省が協力して「低公害車開発普及アクションプ

ラン」においてメタノール自動車が検討されて

いる14)。

2.8 電気

現在の多くの自動車はガソリンエンジンやデ

ィーゼルエンジンを動力とするものであるが,

古くから検討され普及はしなかったが電気を動

力源とする電気自動車もある。一般に,電気を

自動車に利用する方法としては,(1)電気を蓄

電池に蓄え,その電気をエネルギー源とする方

法,(2)後述する燃料電池車の様に水素等の燃

料を積み,自動車内部で発電を行いその電気で

モータを回す方法,さらに(3)ガソリン自動車

をベースとして電気と組み合わせたハイブリッ

ド自動車等がある。ここでは, 初に取り上げ

た電気自動車について述べ,他の2つの方法に

ついては後章にて述べる。

電気自動車は「環境適合性」「供給安定性」

の面で高い将来性を持ち, 新の電気自動車の

走行時における走行性能も向上している。どの

様なエネルギー源でも発電さえ行えればその電

力をエネルギーとして使えるので,エネルギー

源の多様化が図れ,CO2をほとんど排出しない

原子力,再生可能エネルギー発電や,火力発電

においてもCO2回収貯蔵が可能になれば温室効

果ガスの低減にもなる。現状の日本の電力構成

で,もし電気自動車が実用化されたとしたら,

走行距離あたりのCO2排出量はガソリン自動車

の約1/3となる。もし,フランス並みに非化

石燃料による発電割合が増えたら,CO2排出量

はガソリン自動車の1/20以下となる。逆に,

ほとんどの発電を石炭火力で行うデンマークの

ような国では電気自動車の方がCO2排出量は増

えることになる。

電気自動車は,ガソリンなどの石油系燃料を

使う従来の自動車と比べ構造が簡単になり,小

図2-5 世界のバイオマス由来燃料の普及状況

出典:上田 建仁,季報 エネルギー総合工学 Vol.29 No.4(2007.01)

(http://www.iae.or.jp/publish/kihou/bnb.html)

バイオ燃料導入決定済み バイオ燃料導入予定・検討

バイオディーゼル

サトウキビ

キャッサバ

トウモロコシ

サトウキビ

廃食油 大豆

大豆

供給量予測(対ガソリン消費量比) 供給量予測(対軽油消費量比)

2005年 2020年 2005年 2020年

約1.8% 10%未満 約0.3% 5%未満

出典:IEA,Biofuels for Transport 2004

1260パーム

ジャトロハ

40

64

230

穀類

ビート

60

130

菜の花

ひまわり

1440

バイオエタノール

:各地域での導入量(万kl)

穀類

Page 17: 自動車用エネルギー- 2 - 1 自動車用エネルギーの現状 現状において,自動車用エネルギーとしては ほとんど石油系燃料(ガソリン,軽油,LPG

- 14 -

型自動車を作るのに適している。自動車からの

排出ガスは全くなく,走行騒音も大幅に減少す

る。また,電気をつくる際の発電所から排出さ

れる分を考慮に入れても,窒素酸化物(NOx)

や二酸化炭素(CO2)は従来の自動車より大幅

に少なくなる。

燃料電池自動車と比べての利点は,既に十分

なインフラが構築されている電力を使えること

である。燃料電池車の場合は,水素等の燃料の

供給インフラを構築する必要があり,膨大なコ

ストを必要とする。

欠点は搭載する電池そのものにある。まず,

充電に時間がかかることである。供給システム

の開発など欠点を補う努力が必要になる。また,

蓄電池のエネルギー貯蔵密度が低いため,長距

離移動を確保するためには,電池をその分多く

積む必要があり,電池が重くなるのも欠点であ

る。

また,現状ではコストが従来の自動車に比べ

高いのも課題の一つであり,普及のためには大

幅な技術革新が必要である。

2.9 水素

水素は現在主に工業用に用いられており,そ

の価格は熱量換算でガソリンの3倍以上と高価

である。したがって,エネルギー源として使う

ためには効率よく安価に製造する技術開発が必

要である。しかし,技術的に開発すべき課題は

多い。当面は副生ガス(食塩電解,コークス炉

ガス)を利用していくことになるが,本格的な

利用を行うにはブレークスルーが必要である。

水素は再生可能エネルギーや原子力などさま

ざまな一次エネルギー源を用いて製造すること

が特徴であり,そのことは一次エネルギーの存

在が不可欠で,そのための制約があると同時に,

一方では資源制約が少なく「供給安定性」の面

で望ましいエネルギーともいえる。また,燃料

中に炭素を含まないことから燃焼後排出される

のは水のみであり,二酸化炭素を排出しないの

で,「環境適合性」も優れている。ただし,製

造方法によっては水素製造時に二酸化炭素等を

排出する場合もあることに注意が必要である。

水素を自動車燃料として用いる際の大きな問

題の一つが自動車への搭載技術である。常温常

圧ではガス状の物質である水素は体積当たりの

エネルギー密度はガソリンの3000分の1程度で

ある。そのため,高圧水素ガス方式,液体水素

方式,水素吸着材方式などの貯蔵方法が考えら

れているが,現在は35MPa(350気圧)まで充填

可能な高圧タンク方式が主流となっているが,

一回充填当たりの走行距離はガソリン自動車に

比べ短い。航続距離を伸ばすため,次のステッ

プとして,現在の高圧ガス保安法では使用が禁

止されている70MPaタンク(35MPaタンクに比べ

約30%水素量増加)の開発が進められている。

一般に気体の圧力と体積の関係は反比例(つま

り充填容量は比例)の関係であるが,高圧にな

ると圧力を上げても充填容量は比例関係から外

れ,同容量が増える率が下がるため,これ以上

の圧力増加はメリットにはならない。ガソリン

自動車と同程度の体積・重量のタンクで同等の

走行距離を持ち,貯蔵のためのエネルギーの小

さい技術の目処はまだ立っていない。

また,充填のための圧縮に水素の燃焼エネル

ギーの10%程度(35MPaの場合)を必要とする。

さらに,普及のためには水素供給のための水素

ステーションが必要になり,この普及にはコス

トと時間がかかることになる。また,普及が進

めば,どうやって大量の水素を製造するのかと

いう問題も生じてくる。水素はエネルギーを使

って作り出す二次エネルギーであるため,少な

いエネルギーで効率良く,CO2などの廃棄物が

少ない方法で大量に製造する必要がある。現在

のところ,化石燃料を改質する方法やコークス

炉ガスから抽出する方法が主であるが,将来的

には再生可能エネルギーや原子力を使った水電

解などの方法が考えられる。

水素を自動車の燃料として用いる方法には,

燃料電池の燃料として用いる方法と内燃機関の

燃料として用いる方法がある。

Page 18: 自動車用エネルギー- 2 - 1 自動車用エネルギーの現状 現状において,自動車用エネルギーとしては ほとんど石油系燃料(ガソリン,軽油,LPG

- 15 -

1)燃料電池自動車

燃料電池自動車は,車に載せた水素と空気中

の酸素を反応させる燃料電池で発電し,その電

気でモータを回転させて走る自動車である。水

素と酸素との化学反応であるから水蒸気が唯一

の排気ガスとなる(直接水素燃料タイプの場

合)。したがって,非化石エネルギーなどによ

り水素を製造できれば,地球温暖化防止に貢献

することもできる。

燃料電池自動車のWTW(Well-to-Wheel)

効率は現状のガソリン自動車の約3倍を目標に

しており,内燃機関を利用したハイブリッド自

動車と比較しても約10%高くなることが期待さ

れている。

燃料としては,水素を直接高圧タンクに充填

して自動車に搭載する方法の他に,メタノール

やガソリンを車上で改質して水素を作り出す改

質方式が考えられていたが,さまざまな問題が

あり,現在では開発は打ち切られている15)。

水素エネルギー社会に向けたシナリオの一つ

として燃料電池自動車に期待が寄せられている

が,現時点では,製造コストが非常に高く,普

及のための も大きな障害となっている。普及

のためには,水素の製造コストや配送コスト,

水素貯蔵技術,燃料電池のコスト,寿命などの

問題を克服し,一層のコスト削減が必要である。

2)内燃機関自動車

水素を直接内燃機関の燃料として用いる方法

も開発が行われている10)。この方法の利点は,

既存のエンジン技術を応用できることである。

このことから,高価な材料を使用する燃料電池

を搭載しなければならない燃料電池タイプに対

し,低コストの製造が容易であり,また内燃機

関独特の走行感が得られるという利点もある。

一方,オットーサイクルエンジンへの利用に

は,出力向上対策と高負荷域での安定燃焼が課

題となっている。ディーゼルサイクルエンジン

への利用には,わが国ではWE-NETプログ

ラムで研究が行われていたが,安定着火,熱効

率の向上等が課題として挙げられている。

水素を内燃機関に利用する方法は熱効率が燃

料電池に劣るという問題がある。また,燃料電

池では発生しないNOxが発生するという問題が

ある。

2.10 ハイブリッド自動車

この項目はエネルギー源ではなく,自動車技

術に関するものであるが,エネルギー源の新し

い有力な使い方であるので,紹介することにし

た。

自動車は低速から高速まで幅広いエンジン出

力で運転されるので,効率の低い領域での運転

もせざるを得ず,乗用車などでは都市部の低速

度運転時では,その効率は15%前後でしかない

(図2-6)。

ハイブリッド自動車とは2つのエネルギー源

または動力源を搭載し,双方の利点を生かす自

動車である。内燃機関は部分負荷時には効率が

低下するので,その時に電動モータを使い,高

負荷時に内燃機関を主体的に利用する内燃機関

とモータのハイブリッド自動車として開発が進

図2-6 エンジンと燃料電池システムの効率

出典:大聖 泰弘,季報 エネルギー総合工学 Vol.29

No.4(2007. 01)

(http://www.iae.or.jp/publish/kihou/bnb.html)

Page 19: 自動車用エネルギー- 2 - 1 自動車用エネルギーの現状 現状において,自動車用エネルギーとしては ほとんど石油系燃料(ガソリン,軽油,LPG

- 16 -

められ今や市販車として販売されている(図2

-7)。

ハイブリッド自動車は通常の走行時にはガソ

リン自動車と変らないが,ブレーキ時の制動エ

ネルギーでモータを発電機として利用して,電

気に変えて電池に保存し,発進や加速,登坂時

にはそのエネルギーを使って,エンジンの力を

補助する(図2-8)。これにより,発進や加速,

登坂時のNOx,CO2,黒煙等が減少し,燃費も向

上する。近年では乗用車クラスでの開発・市場

投入が急速に進んでいる。

一方,2種の動力を搭載するので,車の重量

とコストが大きくなるので,これらの低減が課

題となる。

さらに,電池への充電を外部電源(家庭用電

源など)からも可能とするプラグインハイブリ

シリーズ方式

パラレル方式

トルクスプリット方式

図2-7 ハイブリッド自動車の構造

出典:日本自動車研究所(JARI)ウェブサイト

(http://www.jari.or.jp/ja/kuruma/denki_nenryo/denki-01.html)

発進

主にモータに

よ り 走 り ま

す。

加速

エンジンとバ

ッテリの両方

を 使 用 し ま

す。

低速

エンジンで走

行し,余った

トルクで発電

を行います。

減速

エンジンを停

止し,回生ブ

レーキを使用

します。

停止

エンジンを停

止し,燃料を

節約します。

図2-8 ハイブリッド自動車の走行方法

出典:日本自動車研究所(JARI)ウェブサイト

(http://www.jari.or.jp/ja/kuruma/denki_nenryo/denki-01.html)

モータ

バッテリ

発電機

エンジン

燃料

バッテリ

燃料

エンジン

モータ兼

発電機 モ

ータ

発電機

燃料

バッテリ

トルクスプリット 装置

エンジン

エンジン

燃料

バッテリ

モータ兼

発電機

エンジン

燃料

燃料

燃料

燃料

バッテリ

バッテリ

バッテリ

バッテリ

モータ兼

発電機

モータ兼

発電機

モータ兼

発電機

モータ兼

発電機

エンジン

エンジン

エンジン

Page 20: 自動車用エネルギー- 2 - 1 自動車用エネルギーの現状 現状において,自動車用エネルギーとしては ほとんど石油系燃料(ガソリン,軽油,LPG

- 17 -

ッド自動車が開発されれば,自動車分野におけ

る化石燃料(ガソリン,軽油等)の削減が可能

となり,大幅に「環境適合性」を向上させるこ

とが可能である。ただし,そのためには電池性

能向上やコスト削減等の課題を解決する必要が

ある。

以上述べた自動車用エネルギーとこれらに主

に対応する自動車の関係を図2-9に,またその

評価を表2-1に示す

2次エネルギ1次エネルギ 2次エネルギ モビリティ 背景

・エネルギー 安定供給 ・地球温暖化 対策 (⇒脱化石燃料)

化石エネルギ

再生可能エネルギ

原子力

石炭

石油

天然ガス

バイオ

自然エネルギー

液体燃料

内燃機関

電 気

水 素

Plug-in HV

E V

FCHV

・石油資源枯渇・原油価格高騰 エネルギー安定供給=多様化 自動車燃料の

・地球温暖化対策 再生可能エネルギーの活用 多様化

図2-9 エネルギーの多様化と適用車種

出典:上田 建仁,季報 エネルギー総合工学 Vol.29 No.4(2007.01)

(http://www.iae.or.jp/publish/kihou/bnb.html)

表2-1 各種代替燃料・自動車の評価

技術的・経済的ハードル エネルギー問題への貢献

燃料製造 燃料インフラ 自動車 セキュリティ CO2削減

ハイブリッド車 ▲ * ○

ディーゼル乗用車 ▲ * ○

CNG ▲ ○ ○

エタノール ▲ ○ ◎ ~ ○**

植物油 ▲ ○ ◎ ~ ○**

GTL ▲ ○

CTL ▲ ○

BTL ▲ ○ ◎ ~ ○**

水素+FC ▲ ▲ ▲ ◎ ◎ ~ ○***

電気 ▲ ◎ ◎ ~ ○***

* ハイブリッド車・ディーゼル乗用車は,石油消費削減に寄与するが,石油依存度低減には直接は寄与しない。

** バイオマス由来燃料を輸入する場合,国内のCO2排出のみか,国外でのCO2排出も考慮するかにより評価が異なる。

*** 水素・電気のCO2削減への寄与は,一次エネルギー源による。

出典:蓮池 宏,第22回エネルギー総合工学シンポジウム前刷集(2006年9月)

Page 21: 自動車用エネルギー- 2 - 1 自動車用エネルギーの現状 現状において,自動車用エネルギーとしては ほとんど石油系燃料(ガソリン,軽油,LPG

- 18 -

3 自動車用エネルギーの課題と見通し

近年,自動車単体での燃費は改善しており,

消費総量は減少傾向を示しているものの(図1

-1,1-2),自動車台数や走行距離の増加

(輸送量の増加),渋滞等の走行形態の変化

(エネルギー原単位の悪化)などの問題もある

(図3-1,3-2)。

現在,ほぼ100%を石油に依存している自動

車は,「供給安定性」の面が懸念され,将来に

向け早急な対応が課題となっている。さらに,

「環境適合性」の向上のためにも,石油系燃料

の使用をできるだけ抑えることが求められてい

る。

そのため,石油系燃料に代わる自動車用エネ

ルギーの導入が試みられている。しかし,例え

ばエネルギー密度など(図3-3),移動体であ

る自動車用に求められる性能が厳しく,当面は

利便性に優れ,既に燃料供給インフラも整って

いる石油系燃料に依存せざるを得ず,発電など

の定置用に比べ代替エネルギーの導入は困難に

なっている。

しかし,今後石油の価格や供給安定性への懸

念や温室効果ガス削減への要求がさらに大きく

なれば,自動車用エネルギーとしての石油代替

エネルギーへの期待が大きくなっている。

エネルギー消費量 = 輸送量 × エネルギー原単位[Energy/輸送量]

× ×

活動水準要因 -旅客:人キロ -貨物:トンキロ

ライフスタイル&使用状況要因

-保有台数,保有車種構成 -使用形態(平均乗車人数, 荷物積載等)

対策要因 -燃費向上(トップランナー), 鉄道・船舶の高効率化 -クリーンエネルギー自動車(ハイ ブリッド,天然ガス自動車等) -交通対策(交通流対策,公共交 通機関,モーダルシフト等)

図3-1 運輸部門の基本構造

出典:総合資源エネルギー調査会 需給部会,2030年のエネルギー需給展望(平成17年3月)

(http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g50328b01j.pdf)

図3-2 自動車保有台数の見込み

出典:総合資源エネルギー調査会 需給部会,2030年のエネルギー需給展望(平成17年3月)

(http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g50328b01j.pdf)

Page 22: 自動車用エネルギー- 2 - 1 自動車用エネルギーの現状 現状において,自動車用エネルギーとしては ほとんど石油系燃料(ガソリン,軽油,LPG

- 19 -

そのため,経済産業省の新・国家エネルギー

戦略(2006年5月)では,エネルギー需給構造

改善(2030年に運輸部門の石油依存度を80%)

目標達成のため,燃費改善の取組とともに,バ

イオマス由来燃料やGTL(Gas to Liquid)

等の新燃料を既存の石油系燃料に混合すること

により運輸部門の燃料多様化を図り,中長期的

には,燃料電池自動車,電気自動車等の実用

化・普及により,自動車用エネルギーを電力,

水素等に多様化していくことも必要である,と

している(図3-4)。

燃費向上対策として,技術面ではエンジンの

高度化,車両の軽量化,低抵抗タイヤの導入な

どの取り組みが行われている。また,前述のよ

うにハイブリッド技術の導入により大幅な燃費

向上が図られ,その開発,普及が進んでいる。

これらの技術革新は今後とも積極的に進められ

ることが望ましい。

これらの技術について,自動車1台のエネル

ギー効率は既存のガソリン車を1とすると下記

の様なものになるとの評価がある10)。

ガソリン車 1

ガソリンハイブリッド車 約1.6~2.0

ディーゼル車 約1.1~1.25

ディーゼルハイブリッド車 約1.8~2.5程度

一方,燃料面においては,軽油の利用促進,

すなわちディーゼル自動車の利用拡大が検討に

値する。ディーゼル自動車は前にも述べたよう

にエネルギー利用効率がガソリン自動車に比べ

高いため二酸化炭素の排出量が少なく,特にヨ

ーロッパでは高性能のディーゼル自動車の普及

が進んでいる。わが国では,厳しい排出ガス規

制や,消費者のイメージ等の面から普及が進ん

でいないが,今後ガソリン自動車に比べそれら

の問題が同等程度になれば普及が進む可能性が

ある。

図3-3 自動車用エネルギーのエネルギー密度の比較

出典:上田 建仁,季報 エネルギー総合工学 Vol.29 No.4(2007.01)

(http://www.iae.or.jp/publish/kihou/bnb.html)

Page 23: 自動車用エネルギー- 2 - 1 自動車用エネルギーの現状 現状において,自動車用エネルギーとしては ほとんど石油系燃料(ガソリン,軽油,LPG

- 20 -

図3-4 運輸エネルギーの次世代化に向けた動向と課題

出典:経済産業省,新・国家エネルギー戦略(2006年5月)

(http://www.meti.go.jp/press/20060531004/20060531004.html)

Page 24: 自動車用エネルギー- 2 - 1 自動車用エネルギーの現状 現状において,自動車用エネルギーとしては ほとんど石油系燃料(ガソリン,軽油,LPG

- 21 -

自動車に求められているエネルギー効率向上

やCO2排出量低減の評価の一つとして一次エネ

ルギー資源採掘から自動車でその資源を使い切

るまでの評価であるWTW(Well to Wheel)

の尺度が多く使われている。多くのWTWの調

査結果が報告されているが,調査結果の一つを

紹介する(図3-5)。

交通需要の頭打ちや燃費改善の進展により,

自動車用エネルギー量の減少がある中,国はク

リーンエネルギー自動車の導入促進を考えてお

り,さらなる利用拡大を想定している。現時点

でほぼ100%石油系燃料が使用されている自動

車燃料について,省エネルギーや燃料の多様化

はエネルギー供給全体を通じた多様化に大きく

寄与するとしている。

石油系燃料においても,環境対応の観点から,

燃費効率を高める効果を持つサルファーフリー

(硫黄分10ppm以下)燃料と,効率面で優れた

特性を持つディーゼル乗用車について普及が期

待されている。

また,将来的に有望な燃料として,例えばバ

イオマス由来の燃料(エタノールなど)をガソ

リンや軽油に混ぜて利用することが検討されて

いる(2006年の環境省 エコ燃料利用推進会議

において2010年度導入目標として原油換算50万

kL)。その導入は既に海外でも実績があり,こ

れらの新たな自動車用燃料は,わが国において

も,経済性及び安定供給上の課題が克服されれ

ば,エネルギー供給への対応力を向上する上で

大きな意義を持つ。バイオマス起源の燃料は

CO2排出に計上されないことを考えると,これ

が,継続的に供給されるのであれば十分自動車

燃料として利用価値のあるものになる。

普及のためには,腐食等の技術面での対応や

国産バイオエタノール生産拡大等の供給促進へ

の支援等が必要となる。

図3-5 Well-to-Wheelでの温室効果ガス排出量の試算例

出典:トヨタ自動車株式会社,みずほ情報総研株式会社,輸送用燃料のWell-to-Wheel評価

日本における輸送用燃料製造(Well-to-Tank)を中心とした温室効果ガス排出量に関する研究報告書

(平成16年11月)

-1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5

GHG排出量[ガソリン車を1.0とした場合の相対値]

※LPG,CNG,エタノール車の車両効果はガソリン車と同等,FT軽油,DME,BDFの車両効果はディーゼル(軽油)と同等として計算。

Well-to-Tank Tank-to-Wheel

ガソリン[ICE]

ガソリン[ICEハイブリッド]

LPG[ICE]

LNG→CNG[ICE]

軽油[ICE]

軽油[ICEハイブリッド]

天然ガス→FT軽油[ICE]

天然ガス→DME[ICE]

石炭→FT軽油[ICE]

石炭→DME[ICE]

バイオマス→FT軽油[ICE]

菜種BDF[ICE]

廃食用油BDF[ICE]

廃木材→エタノール[ICE]

ガソリン→ (on)CGH2[燃料電池]

灯油→ (on)CGH2[燃料電池]

ナフサ→ (on)CGH2[燃料電池]

LPG→ (on)CGH2[燃料電池]

天然ガス→ (on)CGH2[燃料電池]

天然ガス→ (off)CGH2[燃料電池]

天然ガス→MeOH→ (on)CGH2[燃料電池]

COG→ (off)CGH2[燃料電池]

アルカリ水電解→ (on)CGH2[燃料電池]

Page 25: 自動車用エネルギー- 2 - 1 自動車用エネルギーの現状 現状において,自動車用エネルギーとしては ほとんど石油系燃料(ガソリン,軽油,LPG

- 22 -

さらに,燃料電池自動車も既に試験的な導入

が行われており,技術開発や規制の見直し,イ

ンフラ整備を促進することにより,2030年には

路線バスや大型乗用車を中心に導入が進むこと

が期待されている。DMEについては,わが国

独自の技術であることに加え,自動車燃料以外

に発電用等さまざまな分野で用いることも可能

であり,多様な一次エネルギーから製造可能な

ことなどから,その利用を進めることには意義

がある(図3-6)。

今後,エネルギー毎の適性や,環境適合性,

経済性を考慮し,技術開発を進め,自動車燃料

の多様化を図っていくことが求められる(図3

-7)。

ただし,従来のガソリンあるいは軽油は「燃

焼技術」「後処理技術」「燃料技術(燃料の高

度化)」の進展により,今後とも当分の間(例

えば20~30年)は主役の座を占めると思われる。

ガソリンと軽油間では,ガソリン車のディーゼ

ル車へのシフトがCO2対策として有用である。

サルファーフリー化によりディーゼルシフトへ

の条件が整備されたといえる。将来予測の一例

を図3-8に示す。

長期的な「環境適合性」「供給安定性」実現

には,水素燃料電池自動車と電気自動車に対す

る期待が大きいが,両者とも技術開発課題が多

く,より一層の努力が必要になる。

クリーンエネルギー自動車の導入促進に向け

て産官学挙げての取り組みが行われているが,

わが国だけでなく,世界全体での対応も視野に

入れる必要があろう。

図3-6 水素エネルギー社会に向けたシナリオ(燃料電池自動車)

出典:総合資源エネルギー調査会 需給部会,2030年のエネルギー需給展望(平成17年3月)

(http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g50328b01j.pdf)

2005 2010 2020 2030 導入期 普及期 本格普及期

期待される導入台数 5万台 500万台 1,500万台

約4万t 約58万t 約151万t

約500箇所 約3,500箇所 約8,500箇所

導入される

車種

想定される水素の需要

想定される 水素ステーション数

想定される

水素の供給

公用車,バス

小型貨物,業務用自動車

一般乗用車

副生水素,化石燃料改質,水の電気分解

バイオマス発酵,水の熱分解

Page 26: 自動車用エネルギー- 2 - 1 自動車用エネルギーの現状 現状において,自動車用エネルギーとしては ほとんど石油系燃料(ガソリン,軽油,LPG

- 23 -

図3-7 代替燃料の自動車への活用イメージ

出典:上田 建仁,季報 エネルギー総合工学 Vol.29 No.4(2007.01)

(http://www.iae.or.jp/publish/kihou/bnb.html)

Page 27: 自動車用エネルギー- 2 - 1 自動車用エネルギーの現状 現状において,自動車用エネルギーとしては ほとんど石油系燃料(ガソリン,軽油,LPG

- 24 -

図3-8 自動車の車種別のシェアと二次エネルギー消費構成の想定イメージ

(IAE超長期エネルギー技術ロードマップ)

出典:蓮池 宏,季報 エネルギー総合工学 Vol.29 No.4(2007.01)

(http://www.iae.or.jp/publish/kihou/bnb.html

Page 28: 自動車用エネルギー- 2 - 1 自動車用エネルギーの現状 現状において,自動車用エネルギーとしては ほとんど石油系燃料(ガソリン,軽油,LPG

- 25 -

あ と が き

近年の世界的経済成長に伴い,モータリゼー

ションの動向は顕著なものが見られる。特にア

ジアにおいて,その傾向が著しい。2005年デー

タによれば,現在世界の車(乗用車および商用

車計)の保有台数は,8億9,700万台であるが,

現状はアメリカの2億4,700万台(世界の約

28%)を筆頭に先進国での保有台数が多く,ア

ジアでは,日本が7,600万台(同約8%)と

も多いが,中国は3,100万台(同約3%),イ

ンドは1,700万台(同2%)と人口の割合から

すると未だ少ない6)。したがって,これらの

国々において将来の経済発展と人口増加を勘案

すると,膨大な数にのぼることが想像に難くな

い。

例えば世界の1次エネルギー消費量は,現在

から2030年に向けて1.6倍と予想され,またア

ジアの消費量の伸びはその間2倍と予想され,

さらに中国とインドはそのレベルより更に高い

増加(それぞれ2.3倍,2.1倍)という予想もさ

れているが25),いずれにしても今後大きな増

加になることは間違いない。その結果,CO2発

生量が増加し,都市の大気汚染が深刻となるこ

とも想像に難くない。

日本で先進的に石油代替燃料を検討すること

は,その成果を海外,特に上述のような成長著

しくまた問題発生も懸念されるアジアでの利用

に資することになるものと考える。

そのような意味からも,世界に先駆けて自動車

の燃料問題へ対案を整えておくことは,重要で

あり,また喫緊の課題であるといっても過言で

はない。本書は,その問題を広く考える意味か

ら自動車用エネルギーを取り上げ,解説を試み

た。

具体的には,サルファーフリー化など従来の

石油系自動車燃料の改善に加え,バイオマス由

来燃料(エタノール,バイオディーゼル),合

成燃料(DME,GTL),電気,水素などの

新しい自動車用エネルギーの動向を述べた。ま

た,燃料と電気の混合利用によるハイブリッド

技術,更に将来的にはプラグインハイブリッド

自動車への期待も述べた。

後に,図表類で本文中での使用を承諾して

頂いた機関あるいは関係先に心より感謝いたし

ます。

また,所内ではあるがプロジェクト試験研究

部蓮池宏部長には, 新の動向等の情報に関し

協力頂いた。紙面を借りて報告と謝意を表しま

す。

Page 29: 自動車用エネルギー- 2 - 1 自動車用エネルギーの現状 現状において,自動車用エネルギーとしては ほとんど石油系燃料(ガソリン,軽油,LPG

- 26 -

参 考 文 献

1 総務省統計局ウェブサイト>日本の統計

(http://www.stat.go.jp/data/nihon/

index.htm)

2 第22回エネルギー総合工学シンポジウム前

刷集,日本のエネルギーの未来を拓く

-次世代の自動車用エネルギーを探る-

(2006年9月)

3 経済産業省,エネルギー白書2006年版,ぎ

ょうせい(平成18年7月)

(http://www.enecho.meti.go.jp/topics/

hakusho/2006EnergyHTML/index.html)

4 経済産業省,新・国家エネルギー戦略

(2006年5月)

(http://www.meti.go.jp/press/

20060531004/20060531004.html)

5 低公害車2005ガイドブックウェブサイト

(http://www.env.go.jp/air/car/

vehicles2005/frame-1.htm)

6 日本自動車工業会(JAMA)ウェブサイ

ト(http://www.jama.or.jp/)

7 国土交通省ウェブサイト

(http://www.mlit.go.jp/)

8 財団法人 エネルギー総合工学研究所,

季報 エネルギー総合工学 Vol.29 No.4

(2007.01)

(http://www.iae.or.jp/publish/kihou/

bnb.html)

9 総合資源エネルギー調査会 需給部会,

2030年のエネルギー需給展望(平成17年3

月)(http://www.meti.go.jp/report/

downloadfiles/g50328b01j.pdf)

10 次世代低公害車の燃料及び技術の方向性に

関する検討会,次世代低公害車の燃料及び技

術の方向性に関する検討会報告書(平成15年

8月)

11 the Gas Vehicle Report(2006/2)

12 天然ガス自動車ウェブサイト

(http://www.gas.or.jp/ngvj/index.html)

13 資源エネルギー庁ウェブサイト

(http://www.enecho.meti.go.jp/)

14 総合資源エネルギー調査会 石油分科会石

油部会石油製品品質小委員会,今後の自動車

用燃料品質のあり方について(第二次答申)

(平成15年8月)

(http://www.meti.go.jp/report/data/

g60323aj.html)

15 大聖泰弘他,燃料電池自動車のすべて 世

界の潮流,山海堂(2005年7月)

16 日本自動車研究所(JARI)ウェブサイ

ト(http://www.jari.or.jp/ja/kuruma/

denki_nenryo/denki-01.html)

17 トヨタ自動車株式会社,みずほ情報総研株

式会社,輸送用燃料のWell-to-Wheel評価

日本における輸送用燃料製造(Well-to-

Tank)を中心とした温室効果ガス排出量に関

する研究報告書(平成16年11月)

18 石油学会,もうクルマは空気を汚さない

サルファーフリー時代の自動車燃料,化学工

業日報社(2004年11月)

19 山田 興一,佐藤 登,新エネルギー自動

車の開発,シーエムシー出版(2001年7月)

20 飯塚昭三,燃料電池車・電気自動車の可能

性,グランプリ出版(2006年6月)

21 (財)エネルギー総合工学研究所,季報エネ

ルギー総合工学,Vol.27,No.1(2004.04)

(http://www.iae.or.jp/publish/kihou/

bnb.html)

22 資源エネルギー庁ウェブサイト

(http://www.enecho.meti.go.jp/)

23 財団法人 運輸低公害車普及機構ウェブサ

イト

(http://www.levo.or.jp/index.html)

24 東京ガス 天然ガス自動車ウェブサイト

(http://eee.tokyo-gas.co.jp/ngv/

index.php)

25 エネルギー経済研究所研究報告会(2006年

9月)

Page 30: 自動車用エネルギー- 2 - 1 自動車用エネルギーの現状 現状において,自動車用エネルギーとしては ほとんど石油系燃料(ガソリン,軽油,LPG

新エネルギーの展望

既刊一覧

燃 料 メ タ ノ ー ル 編 1987年1月発行

太 陽 光 発 電 編 1987年2月発行

燃 料 電 池 編 1987年3月発行

風 力 発 電 編 1988年1月発行

石 炭 ガ ス 化 編 1988年3月発行

自動車用エネルギー編 1988年3月発行

地 球 温 暖 化 編 1989年2月発行

二 次 電 池 編 1989年3月発行

高 温 超 電 導 編 1989年3月発行

地 熱 発 電 編 1990年2月発行

燃 料 電 池 (改訂版) 1990年3月発行

燃料用メタノール(改訂版) 1990年3月発行

太 陽 光 発 電 (改訂版) 1991年3月発行

地 球 温 暖 化 (改訂版) 1991年3月発行

エ ネ ル ギ ー 有 効 利 用 1991年3月発行

水 素 エ ネ ル ギ ー 1992年3月発行

風 力 発 電 (改訂版) 1992年3月発行

電 気 自 動 車 1992年3月発行

非 在 来 型 天 然 ガ ス 1993年3月発行

地 球 温 暖 化 対 応 1993年3月発行

石 炭 の 高 度 利 用 1993年3月発行

水素エネルギー(改訂版) 1995年3月発行

廃 棄 物 発 電 1995年3月発行

石 炭 灰 の 有 効 利 用 1996年3月発行

廃 棄 物 発 電 (その2) 1996年3月発行

低 品 位 炭 の 改 質 技 術 1997年3月発行

メ タ ノ ー ル 発 電 技 術 1997年3月発行

電 力 負 荷 平 準 化 1998年3月発行

非 在 来 型 天 然 ガ ス 1998年3月発行

(メタンハイドレート編)

石炭ガス化複合発電技術 1999年3月発行

廃 棄 物 発 電 (その3) 1999年3月発行

原 子 力 発 電 技 術 2000年3月発行

原子燃料サイクル技術 2000年3月発行

固体高分子形燃料電池 2001年3月発行

マイクロガスタービン 2001年3月発行

コージェネレーション技術 2002年3月発行

循 環 型 社 会 の 構 築 2002年3月発行

バ イ オ マ ス 発 電 2003年3月発行

廃 棄 物 発 電 (その4) 2003年3月発行

地 球 温 暖 化(再改訂版) 2004年3月発行

風 力 発 電(再改訂版) 2004年3月発行

省 エ ネ ル ギ ー 技 術 2005年3月発行

太 陽 光 発 電(再改訂版) 2005年3月発行

バイオマスエネルギー 2006年3月発行

燃 料 電 池(再改訂版) 2006年3月発行

ガ ス タ ー ビ ン 技 術 2007年3月発行

自動車用エネルギー(改訂版) 2007年3月発行

2007年3月発行

編集発行 財団法人 エネルギー総合工学研究所

(担当部門:エネルギー技術情報センター)

〒105-0003 東京都港区西新橋1-14-2(新橋SYビル8F)

電話 東京(03)3508-8894(代表)

http://www.iae.or.jp/

備考:上記の各編は,当所のホームページの「定期刊行物」の欄でも御覧

頂けます。

印 刷 ㈱ 日 新 社