肝臓病教室ニュース -...

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第24回肝臓病教室が2018年11月17日(土)に、医療福祉センターで開 催されました。今回も、遠方からたくさん参加していただき、たいへん嬉 しく思っています。 今回は、 第68回市民公開講座と兼ねて「肝臓がんの予防と治療」と いうテーマで 消化器内科・池上教授の講演から始まりました。そして、 予防と早期発見の方法として画像診断の種類と見方について放射線 部の新井元先生より「肝臓がんの早期発見」 というテーマで講演してい ただきました。肝臓癌は、・・・・・健康を維持する上で予防・早期発見は とても重要であることがわかりました。また、治療においても早期発見 は治療効果も有効で再発予防にも繋がることがわかりました。 Q&Aコーナーでは、毎回好評でたくさんのご質問が寄せられました。 このコーナーは肝臓病について普段なかなか聞けないことを医療ス タッフに聞くことが出来るとても良い機会だと思います。肝臓病教室で ご理解いただけたことを今後の治療や日常生活の参考にしていただけ ればと思います。 肝疾患相談支援センター担当 會田美恵子 東京医科大学茨城医療センター 第24号 2019年3月発行 肝臓病教室ニュース 茨城県肝疾患診療連携拠点病院 東京医大茨城医療センター 肝臓病教室で取り上げたテーマについて、教室での 内容や質問に対する回答を掲載しています。 次回、第25回肝臓病教室は、 3月16日(土)開催予定です 皆様の参加をお待ちしています24回肝臓病教室を開催しました

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第24回肝臓病教室が2018年11月17日(土)に、医療福祉センターで開催されました。今回も、遠方からたくさん参加していただき、たいへん嬉しく思っています。

今回は、 第68回市民公開講座と兼ねて「肝臓がんの予防と治療」というテーマで 消化器内科・池上教授の講演から始まりました。そして、予防と早期発見の方法として画像診断の種類と見方について放射線部の新井元先生より「肝臓がんの早期発見」 というテーマで講演していただきました。肝臓癌は、・・・・・健康を維持する上で予防・早期発見はとても重要であることがわかりました。また、治療においても早期発見は治療効果も有効で再発予防にも繋がることがわかりました。

Q&Aコーナーでは、毎回好評でたくさんのご質問が寄せられました。このコーナーは肝臓病について普段なかなか聞けないことを医療スタッフに聞くことが出来るとても良い機会だと思います。肝臓病教室でご理解いただけたことを今後の治療や日常生活の参考にしていただければと思います。

肝疾患相談支援センター担当 會田美恵子

東京医科大学茨城医療センター 第24号 2019年3月発行

肝臓病教室ニュース茨城県肝疾患診療連携拠点病院 東京医大茨城医療センター

肝臓病教室で取り上げたテーマについて、教室での

内容や質問に対する回答を掲載しています。

次回、第25回肝臓病教室は、3月16 日(土) 開催予定です。皆様の参加をお待ちしています。

第24回肝臓病教室を開催しました

「肝臓がんの予防と治療」東京医大茨城医療センター消化器内科 教授 池上 正

はじめに肝がん(肝細胞がん)は慢性肝疾患を背景に発症するがんであり、慢

性肝炎や肝硬変といった病気がある場合に高率に発生します。近年徐々に患者さんの数は減少傾向にあるものの、2016年の統計でも、肝がんで亡くなった方は、男性では全がん死亡の4位、男女合わせても5位で多く、年間3万人弱に及んでいます(出典:国立がん研究センターがん情報サービス「人口動態統計によるがん死亡データ」)。再発率が高いことが知られており、難治性のがんの一つであることは変わりありませんが、近年では治療の進歩により生存率が飛躍的に向上しています。肝がんの特殊性として、慢性肝疾患である慢性肝炎、肝硬変の患者さんに多く発生すること(高リスク群が明らかであること)、慢性肝疾患の進行が治療選択を制限すること(肝疾患そのものの進行に予後が左右されること)、多中心性発がん(治療した肝がんと別の部位にまったく新しい肝がんが出現すること)や肝内転移などによる再発が非常に多いこと(治療が長期に渡ることが多いこと)があげられます。

肝がんの予防先にも述べたように、肝がんの多くは慢性肝疾患を背景に発症します。

慢性肝疾患の原因として我が国で多いのはC型やB型などのウイルス性肝炎です。ウイルス肝炎の治療はこの5年で劇的に変化し、C型肝炎ウイルスについては内服薬のみで、副作用も少なくほぼ100%近い割合で排除が可能になりました。また、B型肝炎ウイルスはウイルスの性質からまだ完全に除去できる治療法はありませんが、核酸アナログという薬を内服することでコントロールが可能です。これらの薬剤で肝炎ウイルスを治療することで、肝がん発生を予防できることが知られています。また、近年ではアルコールの飲みすぎや過食による脂肪性肝疾患からの肝炎、肝硬変発症が増加しており、この状態を背景にした肝がん発生が多く見られます。現在脂肪性肝疾患に対する治療法の開発が急がれていますが、一方、適切な栄養・運動をとることで病気の進行を遅らせることができることがわかっています。

肝がんの早期発見ウイルスがコントロールされた状態でも、肝発がんが100%予防できるわ

けでは残念ながらありません。最近のデータのまとめでは、C型肝炎排除後でも、男性、高齢者(65歳以上)、ウイルス治療時にすでに肝硬変の状態であること、などの要素をもつ方は他のグループに比べると肝発がんのリスクが高いことがわかっています。肝臓がんは症状がない場合が多く、がんが大きくなってからや、多発した状態になると治療方法の選択肢が狭まり、根治的(完全にがんを除去する)な治療ができる確率が低下してしまいますので、できるだけ早期のうちに肝がんを発見することが必要になります。AFP(アルファフェトプロテイン)やPIVKA-II(ピヴカ・ツー)などの腫瘍マーカーの測定は有用ですが、全ての肝がんの患者さんでこれらの腫瘍マーカーの値が増加するわけではありません。早期発見のためには、定められたスケジュールで画像検査(腹部超音波、造影CT、造影MRIなど)をチェックすることが大切です。画像診断の詳細は新井さんの講義を聞いてください。

肝がんの治療肝臓がんは最初は症状がないことが多いのですが、放置すると、大きく

なって腹腔内に出血したり、肝臓の中の血管を圧迫・閉塞したりすることで、肝臓全体の働きに影響を及ぼし、最終的には致命的な結果に至るため、治療すべきです。慢性肝疾患に合併するがんであることから、まず肝臓の働き(肝予備能)がどの程度なのかが治療内容決定のために重要です。その上で、腫瘍の大きさや個数、全身への広がり方などを考慮して、外科的に肝切除を行う、内科で経皮的ラジオ波凝固や動脈塞栓術を行う(局所療法)、などの治療法を決定していきます(図1)。

(図1)

局所療法が困難(肝臓の右葉、左葉いずれにも複数の腫瘍がある場合など)は、血管内カテーテルを用いた塞栓療法が行われます。当科ではマイクロビーズと呼ばれる塞栓物質を用いた治療を行っており、従来のものに比べると術後の合併症の頻度が減るなどのメリットがあります。いずれの方法も難しい場合に、放射線照射が選択されることもあります。また、局所療法が困難である場合は、近年では分子標的薬と呼ばれる内服薬が使用されています。最近になって分子標的薬の選択肢が増えつつあり、他のがん種と同じように、副作用の性質による使い分けや、薬物を使用する順序などの工夫が可能になってきています(図2)。分子標的薬の使用により肝機能が悪化する場合があり、肝臓の働きが保たれていることが使用の条件となりますので、近年では肝臓にダメージを与えうる治療を繰り返すのではなく、早期に分子標的薬を導入する傾向が強くなってきています。肝がんの治療に当たっては、外科、内科、放射線科といった複数の診療科にまたがった治療(集学的治療といいます)が必要であり、肝がん診療に精通した医師の揃った医療機関での治療をお勧めします。

(図2)

おわりに

肝炎ウイルスの治療は、肝がんの予防に最も有効な方法です。治療を受けた人とそうでない人では明らかに肝がんの発生、寿命に違いが出ています。一方、肥満やアルコール、糖尿病のある方は肝がんが発生しやすいことが知られていますし、また肝炎ウイルスの治療をした後でも、肝がん発生が完全に0(ゼロ)になるわけではないので、定期的な検査をお勧めしています。もし肝がんができてしまっても、様々な治療法がありますので、肝臓の機能をできるだけ温存し、治療の選択肢を広げましょう。

「肝臓がんの早期発見」

放射線部 新井 元

はじめに

肝臓がんは症状がない場合が多く、がんが大きくなってからや、多発した状態になると治療方法の選択肢が狭まり、根治的な治療ができる確率が低下してしまいます。そのため、できるだけ早期のうちに肝がんを発見することが必要となります。早期発見のためには、定められたスケジュールで画像検査(腹部超音波、造影CT、造影MRI(EOB・プリモビスト)など)や腫瘍マーカーをチェックすることが大切です。ここでは画像検査についてお話させていただきます。

腹部超音波超音波の特徴は、耳には聞こえない音の反射を利用していて、反射の強弱を画像の白や黒で描出しています。痛みなどなく被ばくも無いので、安全に検査を行えます。超音波の利点は、安全なので繰り返し検査ができます。また、お腹の状態をリアルタイムに見る事ができ、小さな病変を見つけることが可能です。超音波の欠点として、体格によっては、体の深い場所が見難い場合があり、ガスや骨の影響を受けると何も見えません。また、視野が狭く客観性に乏しいことや、検査する者が異常を発見出来なければ、記録に残らないなどが挙げられます。

腹部造影CTCT検査は、X線を用いて撮影を行い、コンピュータで処理することで輪切り画像(断

層画像)を得られます。連続して画像の収集ができるため病変の見落としが少ない検査です。また、撮影時間が非常に短く済みます。しかし、X線を用いるため、被ばくが伴います。造影CT検査では、ヨードを主成分とする造影剤という薬剤を静脈より注射をして検

査を行います。造影剤は流れ込んだ血管や臓器が白く写ることにより、特定の組織を強調して、より詳しく調べる目的で使用する薬剤です。肝臓の造影CT検査では造影剤の注入開始後から一定時間をおいて動脈相(40秒後)  門脈相(70秒後)  平衡相(3分~4分後)の撮影を行うダイナミック撮影を行います。ダイナミック撮影では血液

と混ざった造影剤が腫瘍への流入、染まり、流出などを観察することで、経時的な腫瘍の血流情報が得られます。ダイナミック撮影を行うことにより、存在診断のみならず腫瘍がどのような性質か、悪性か、良性かなどの質的診断を行うことができます。

腹部MRI(EOB・プリモビスト)MRI検査は強い磁場と電波を利用して、体内から返ってくる信号をコンピュータで処理することで断面像を得られます。放射線を使用しないため、被ばくがありません。しかし、検査時間がCTに比べて長く20~30分かかってしまいます。肝臓のMRI検査では・ EOB・プリモビストという肝臓専用の造影剤を使用します。CT用造影剤とは成分が異なり、正常な肝細胞に取り込まれる性質を持ちます。肝細胞に取り込まれるまでに静脈注射後15分から20分ほどかかります。肝細胞癌のなかには血流動態が著明な変化を示さない段階でも肝細胞機能は変化している場合があります。そのため、血流動態を見ているCTでは同定困難な病変をEOB・プリモビスト検査では描出できる場合があります。

最後に、肝がんを見つける画像検査は、色々な特徴を持ち合わせており長所や短所があります。それぞれの得意な分野を最大限に活かしながら種々の検査を組み合わせることによって肝がんの早期発見につなげています。

Q1:ウイルスがいなくなって肝臓が元に戻るのはどの位の期間が必要ですか。A1:残念ながら完全に元に戻ることはありません。どの位やられたかにもよると思いま

すが、ウイルスに感染して肝臓病があまり進んでいないうちに治療をすればそれ以上進まないので、肝臓の旺盛な再生力によって、正常に近いところまで戻ってくる可能性があります。ただ、線維化が進んで肝硬変までいってしまった場合は厄介です。肝臓の組織を採取して顕微鏡で覗いて、線維化の程度でF0からF4まで分類します。F4というのが肝硬変ですが、一般的に1段階改善するのに5年位かかると言われていますので、理屈でいうと20年位でツルツル・ピカピカになるはずなのですが、なかなかそううまくはいかないようです。線維化の進んでいる方だと、血小板の数が少ないことが多いですよね。一つの大きな理由は、肝臓が硬くて門脈という腸から肝臓に血液を運ぶ血管が肝臓にうまく血液を流せないため、側副血行路(バイパスですね)として脾臓に向かって血液を流し、脾臓で血小板が破壊されて低下する、という仕組みのためです。肝線維化の原因であるウイルスがいなくなって肝臓の線維化が改善し始めると、門脈の血流が徐々に肝臓に戻ってきますが、一旦できたバイパスはなかなか塞がることはなく利用され続けます。一部の施設では、血管内治療を行なって積極的に血行を変更し、肝再生を促進する、といった取り組みを行なっているところもあるようです。また、健康な方の肝臓でも老化があります。ウイルスがなくなった、のは不死身の肝臓を取り戻したわけではなく、普通の人と同じ程度に老化する肝臓に戻った、という話です。それを加味するとツルツル・ピカピカはない。どうやったら少しでも肝臓を少しでも柔らかく回復できるのかは今後の課題だと思いますが、すでに今まで散々いじめられてきた肝臓に余計な負担をかけるのはやめておきましょう。

Q2:肝癌発見のための定期的な検査はエコーで十分なのではないでしょうか。CTやMRI より値段が安いです。

A2: CTやMRIは造影剤という薬を使います。造影剤を使わない検査もありますが、使うとなるとその薬剤の値段もありますので、超音波の方が値段でいうとリーズナブルになるかと思います。ただ、超音波だと死角があったり、見えないところがあったりとかありますので、色々とモダリティを駆使しながら検査を行っていくというのがベターかなと考えております。(新井)基本はエコーで良いと思います。CTやMRIにもメリットがあるので上手に使って頂いた方がと良いと思います。エコーは残念ながら機械の性能やそれを使用する術者の腕によってかなり見え方、判断に違いがありますので、その辺のばらつきをどう考えるのかということと、新井さんが指摘したような見えにくい場所をどうするのか、ということでCTやMRIを使って補完する、という考えで良いと思います。一方、一度肝臓がんの治療をしたことのある方では、以前の治療効果の判断などのために、エコーでは不十分なことが多く、CTやMRIをした方が良いと思います。

≪教室で寄せられた質問≫

第25回肝臓病教室

次回の肝臓病教室は、3月16日(土)、13時30分よ

り、医療福祉センター(2階)にて開催します。

事前登録の必要や入場料は不要です。

第25回目の教室のテーマは「C型肝炎治療~す

べての患者さんに」消化器内科教授 池上 正先

生と「肝疾患相談支援センターから」 総合相談支

援センター 會田 美恵子です。好評のQ&Aコー

ナーもありますので、活発なご質問、ご討議をお待

ちしています。ご不明な点については、下記までご

連絡ください。

東京医科大学茨城医療センター

総務課 担当 宮本

電話:代表(029)—887-1161

肝臓病教室は、患者さんやそのご家族に、肝臓病についての理解を深めていただくことを目的として開催しています。また、肝臓病診療に関わるさまざまな医療スタッフや地域肝炎医療コーディネーターとのコミュニケーションの場と考えています。みなさんお誘い合わせてご参加ください。

≪教室で寄せられた質問≫Q3:肝硬変や肝がんの治療に対する治療費助成制度を教えて下さい。A3:ウイルス肝炎の治療に対しては非常に手厚い助成制度があり、また、進行し

た肝硬変の患者さんに対しても肝臓機能障害という身体障害者としての認定制度があります。一方、肝硬変や肝臓癌になって入院治療をしたときに、新たな治療費助成制度が設けられました。受給対象は、①年収の上限を下回り、(年収が370万円以下の世帯)②肝硬変・肝臓癌になった理由がC型肝炎・B型肝炎であること、③肝がん・肝硬変治療の研究(データの提供など)について同意が得られた方で、肝硬変・肝臓がんに対する入院治療で高額療養費制度を使う月が3か月以上を超えた時、4か月目から助成する、というものです。利用に際しては、1回の入院ごとに「入院記録票」と呼ばれる書類に病院で記入をしてもらい、直近の1年間において3ヶ月を超える入院の可能性がある場合に、医師に「臨床個人調査票」を作成してもらい、保健所に提出します。認定がおりた場合に、「参加者証」が発行されます。4ヶ月目の入院治療から助成が受けられます(図3)。やや仕組みが複雑ですので、詳しいことは肝疾患相談センターやソーシャルワーカーにご相談ください。

(図3)