自動運転の社会受容性醸成に向けて― 地方のモビリティ創出に...

14
Report 第一生命経済研究所 Life Design Report 2019.10 1 自動運転の社会受容性醸成に向けて 地方のモビリティ創出に向けた課題と考察 主席研究員 宮木 由貴子 目次 1.地方における自動運転への期待と課題··························································································· 2.都市規模が小さいエリアのモビリティ特性······················································································· 3.自動運転の社会受容における課題 ··································································································· 4.自動運転の効果的な活用に向けて ································································································11 要旨 自動運転の普及は、道路交通の安全性向上と交通事故の削減、交通渋滞の緩和、環境 負荷低減、タクシーや物流業界等におけるドライバー不足の解消、運転免許証返納後 の高齢者の移動手段確保といった社会課題解決の一助として期待されている。自動運 転の実用化にあたっては、技術的な課題への取組みや法・ルールの整備に加え、消費 者の理解と社会受容性の醸成が求められる。 経済産業省・国土交通省のプロジェクトとして実施した自動運転に関する調査による と、日常生活における自動車への依存は都市規模が小さくなるにつれて高く、地方に おいて自動車は生活に欠かせない移動手段となっている。また、「自家用車で家族の送 迎をする・してもらう」割合も都市規模が小さいほど高く、家族内で移動手段を補い 合っている。さらに、都市規模が小さいほど、歩かない傾向がある。 自動運転の受容に関する設問への回答をみると、都市規模が小さい地域で受容性がや や高い傾向がみられた。ただし、都市規模に加えてモビリティ課題得点(移動におけ る課題が大きいほど得点が高い)の大小別に比較すると、都市規模が小さいにもかか わらずモビリティ課題得点が低い、即ち移動に不自由を感じていない人で、自動運転 への受容性が低いことが示唆された。 自動運転の社会実装においては、利用者・非利用者にかかわらず、交通参加者全体で 自動運転のある社会をとらえていく必要がある。今後の社会受容性醸成においては、 自動運転に無関心・無理解の人に対しても情報発信と対話を重ね、その社会的意義と 活用方法について合意を形成していく必要がある。 キーワード:自動運転、社会受容性、消費者意識

Upload: others

Post on 04-Jul-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 自動運転の社会受容性醸成に向けて― 地方のモビリティ創出に ...group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/ldi/2019/rp1910.pdf · 2019-10-01 · 化、地域社会のつながりの希薄化といった、今日の日本が抱える社会課題に対し、モ

Report

第一生命経済研究所 Life Design Report 2019.10 1

自動運転の社会受容性醸成に向けて ― 地方のモビリティ創出に向けた課題と考察 ―

主席研究員 宮木 由貴子

目次

1.地方における自動運転への期待と課題··························································································· 2

2.都市規模が小さいエリアのモビリティ特性······················································································· 3

3.自動運転の社会受容における課題 ··································································································· 6

4.自動運転の効果的な活用に向けて ································································································11

要旨

① 自動運転の普及は、道路交通の安全性向上と交通事故の削減、交通渋滞の緩和、環境

負荷低減、タクシーや物流業界等におけるドライバー不足の解消、運転免許証返納後

の高齢者の移動手段確保といった社会課題解決の一助として期待されている。自動運

転の実用化にあたっては、技術的な課題への取組みや法・ルールの整備に加え、消費

者の理解と社会受容性の醸成が求められる。

② 経済産業省・国土交通省のプロジェクトとして実施した自動運転に関する調査による

と、日常生活における自動車への依存は都市規模が小さくなるにつれて高く、地方に

おいて自動車は生活に欠かせない移動手段となっている。また、「自家用車で家族の送

迎をする・してもらう」割合も都市規模が小さいほど高く、家族内で移動手段を補い

合っている。さらに、都市規模が小さいほど、歩かない傾向がある。

③ 自動運転の受容に関する設問への回答をみると、都市規模が小さい地域で受容性がや

や高い傾向がみられた。ただし、都市規模に加えてモビリティ課題得点(移動におけ

る課題が大きいほど得点が高い)の大小別に比較すると、都市規模が小さいにもかか

わらずモビリティ課題得点が低い、即ち移動に不自由を感じていない人で、自動運転

への受容性が低いことが示唆された。

④ 自動運転の社会実装においては、利用者・非利用者にかかわらず、交通参加者全体で

自動運転のある社会をとらえていく必要がある。今後の社会受容性醸成においては、

自動運転に無関心・無理解の人に対しても情報発信と対話を重ね、その社会的意義と

活用方法について合意を形成していく必要がある。

キーワード:自動運転、社会受容性、消費者意識

Page 2: 自動運転の社会受容性醸成に向けて― 地方のモビリティ創出に ...group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/ldi/2019/rp1910.pdf · 2019-10-01 · 化、地域社会のつながりの希薄化といった、今日の日本が抱える社会課題に対し、モ

Report

2 Life Design Report 2019.10 第一生命経済研究所

1.地方における自動運転への期待と課題

(1)自動運転に期待される社会課題解決とは

人口減少や少子高齢化、一人暮らし世帯の増加、都市部への人口集中と地方の過疎

化、地域社会のつながりの希薄化といった、今日の日本が抱える社会課題に対し、モ

ビリティの側面からの課題解決に対する期待は大きい。特に今日、国家戦略として進

められている自動運転の社会実装に向けた環境整備においては、具体的な効果として、

道路交通の安全性向上と交通事故の削減、交通渋滞の緩和、環境負荷低減、タクシー

や物流業界等におけるドライバー不足の解消、多様な移動手段の創出などが想定され

ている。

中でも現在、運転免許証返納後の高齢者の移動手段への関心は非常に高く、自家用

車(オーナーカー)の運転支援機能を高めて安全性を向上させ、運転寿命(運転でき

る期間)を延伸したり、自動運転機能を搭載したバス路線を充実させたりすることで

自家用車に頼らなくても日常生活の移動手段を確保できるようにすることが、地方を

中心とする、高齢化や過疎化が進む地域で期待されている。

(2)交通参加者としての「消費者」の意識喚起が重要

現在、こうした社会課題を解決すべく、自動運転技術の社会実装の準備がなされて

いる。既に全国各地で実証実験が実施され、技術的な検証が行われていると同時に、

道路運送車両法や道路交通法の改正など、自動運転の実用化に向けた制度整備も着実

に進められている。

技術的・法的整備が進められる一方、利用者である消費者自身の意識・関心と理解

がそれらに伴っていない点が課題とされている。実際、筆者の過去の調査(第一生命

経済研究所「自動車・自動運転に関する意識調査」2018)をみても、自動運転に対す

る消費者の理解度は低く、関心も高くないことが確認されている。

こうした点を受け、現在、内閣府 SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)を

始めとする関連省庁において、自動運転の社会実装に向けた社会受容性醸成に向けた

意識喚起の活動や情報発信の検討が進められている。

(3)アンケート調査の実施

筆者は2016年より経済産業省・国土交通省の「高度な自動走行システムの社会実装

に向けた研究開発・実証事業(自動走行の民事上の責任及び社会受容性に関する研究)

における有識者委員会」委員として、自動運転の社会受容性醸成に向けた活動を行っ

てきた。その一環として、消費者の自動運転に対する意識と実態を把握することを目

的としたアンケート調査を受託し、2019年1月に全国の18~79歳の男女12,400人を対

象とした調査を行った*1。

Page 3: 自動運転の社会受容性醸成に向けて― 地方のモビリティ創出に ...group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/ldi/2019/rp1910.pdf · 2019-10-01 · 化、地域社会のつながりの希薄化といった、今日の日本が抱える社会課題に対し、モ

Report

第一生命経済研究所 Life Design Report 2019.10 3

本稿では、その結果から、地方における自動運転の社会受容性の醸成に向けた課題

と対策について、考察を行う。

2.都市規模が小さいエリアのモビリティ特性

(1)自動車への依存度

まず、都市規模別に自動車への依存度をみる。「日常生活を送る上で自家用車が不可

欠である」との問に対する回答をみると、最も都市規模の小さい「町、村」では 60.4%

が「あてはまる」としており、「どちらかといえばあてはまる」を加えると 84.2%が

「自動車が不可欠」(「あてはまる」と「どちらかといえばあてはまる」の合計、以下

同じ)と回答した(図表1)。

「東京都区部、政令指定都市」で「自動車が不可欠」とした割合は 33.5%と低く、

都市規模が小さくなるにつれて日常生活における自動車への依存度が高くなっている

様子がうかがえた。

図表1 日常生活を送る上で自家用車が不可欠である(都市規模別)

さらに、「普段、自家用車で家族の送迎をする・してもらうことが多い」との問で、

家族間のモビリティ依存の状況について尋ねたところ、「町、村」では 43.0%があて

はまる(「あてはまる」と「どちらかといえばあてはまる」の合計、以下同じ)とした

(図表2)。「東京都区部、政令指定都市」における「あてはまる」の割合は 23.7%で

あり、図表1の自動車への依存と同様、都市規模が小さくなるにつれて依存度が高く

なっていた。

13.6

22.8

34.6

50.9

60.4

19.9

27.2

28.7

27.5

23.8

23.6

23.3

18.6

11.7

9.4

42.8

26.7

18.1

9.9

6.4

0 20 40 60 80 100

東京都区部、政令指定都市

人口30万人以上の都市

(東京都区部、政令指定都市以外)

人口10~30万人未満の都市

人口10万人未満の市

町、村

あてはまる どちらかといえばあてはまる どちらかといえばあてはまらない あてはまらない

(%)

Page 4: 自動運転の社会受容性醸成に向けて― 地方のモビリティ創出に ...group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/ldi/2019/rp1910.pdf · 2019-10-01 · 化、地域社会のつながりの希薄化といった、今日の日本が抱える社会課題に対し、モ

Report

4 Life Design Report 2019.10 第一生命経済研究所

さらに都市規模・年代別にみると、「人口 30 万人未満の都市」より都市規模が小さ

い地域では、特に 10 代の依存度が高い(図表3)。家族に車で学校等への送迎をして

もらっているケースに加え、自分自身が運転免許を取得して家族の送迎をする側に回

っている可能性もあるなど、10 代で自動車への関与が高いことが確認された。一方で

「人口 30 万人以上の都市」「東京都区部、政令指定都市」では 10 代の自動車関与は少

なく、20 代で上昇している。これは、大学進学等で運転免許の取得時期が地方に比べ

て遅くなることなどによるものと推察される。加えて、都市規模が大きいと運転免許

を取得しない若者も地方より多いためか、20代での上昇幅は地方の 10代に及ばない。

図表2 普段、自家用車で家族の送迎をする・してもらうことが多い(都市規模別)

図表3 普段、自家用車で家族の送迎をする・してもらうことが多い

(都市規模・年代別)

24.6%29.2% 27.4%

20.8%19.6%

21.2%22.9%

36.5%33.7%

28.8% 27.5%

30.2%

45.6%

40.8%38.3% 37.1%

31.1%30.2%

54.9%

42.6%38.3% 39.9%

33.5%

36.7%

65.2%

45.0%43.3% 44.2%

35.3% 39.7%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

10代

20代

30代

40代

50代

60代

東京都区部、

政令指定都市

人口30万人以上の都市

(東京都区部、政令指定

都市以外)

人口10~30万人

未満の都市

人口10万人未満の市

町、村

7.6

9.8

14.0

16.4

18.4

16.1

21.2

21.9

22.2

24.6

21.5

24.7

24.4

25.0

22.6

54.9

44.3

39.7

36.4

34.4

0 20 40 60 80 100

東京都区部、政令指定都市

人口30万人以上の都市(東京都区

部、政令指定都市以外)

人口10~30万人未満の都市

人口10万人未満の市

町、村

あてはまる どちらかといえばあてはまる どちらかといえばあてはまらない あてはまらない

(%)

Page 5: 自動運転の社会受容性醸成に向けて― 地方のモビリティ創出に ...group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/ldi/2019/rp1910.pdf · 2019-10-01 · 化、地域社会のつながりの希薄化といった、今日の日本が抱える社会課題に対し、モ

Report

第一生命経済研究所 Life Design Report 2019.10 5

(2)移動手段としての「徒歩」

では、移動手段としての「徒歩」については、都市規模別にどのような特徴がある

のだろうか。「交通手段があっても、歩いて移動することがよくある」とする割合を都

市規模別にみた(図表4)。その結果、「あてはまる」とする割合は「東京都区部、政

令指定都市」において 53.7%と過半数を占めたのに対し、「町、村」では4割に満た

ず、都市規模が小さいほど「歩かない」傾向があることが確認された。

実際、自動車への依存度が高い地方でヒアリングを行うと、「歩いていかれるとこ

ろにも車で行く」「家のガレージから車で出かけるので、雨が降っても傘は不要」など

といった声が聞かれることが多かった。雨天や雪、寒さや暑さといった環境的な要因

も、「歩く」という行動を避ける要因になっているようである。

仮に、自動運転バスのようなサービスカーが地方で実用化された場合、当面は家の

玄関までバスが迎えに行くという形態での普及は難しいだろう。現実的には、ある程

度の幅の道路沿いにあるバス停まで人が移動し、そこから乗車することになると考え

られる。そうだとすると、「歩く」という習慣のない地域では、たとえ高いモビリティ

ニーズに基づくサービス提供があったとしても、提供方法によってはうまく機能しな

い可能性がある。

図表4 交通手段があっても、歩いて移動することがよくある(都市規模別)

17.9

14.0

12.6

11.0

9.7

35.8

34.9

33.9

29.7

28.7

29.0

33.6

34.6

33.9

35.0

17.3

17.5

19.0

25.5

26.7

0 20 40 60 80 100

東京都区部、政令指定都市

人口30万人以上の都市

(東京都区部、

政令指定都市以外)

人口10~30万人

未満の都市

人口10万人未満の市

町、村

あてはまる どちらかといえばあてはまる どちらかといえばあてはまらない あてはまらない

(%)

Page 6: 自動運転の社会受容性醸成に向けて― 地方のモビリティ創出に ...group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/ldi/2019/rp1910.pdf · 2019-10-01 · 化、地域社会のつながりの希薄化といった、今日の日本が抱える社会課題に対し、モ

Report

6 Life Design Report 2019.10 第一生命経済研究所

実際に、自動運転バスが自分の居住地を走るとして「バス停まで行かなければなら

ないのであれば、使わない」とする割合を都市規模別にみたところ、都市規模が小さ

いほど「あてはまる」とする割合が高かった(図表5)。自動運転に対するニーズがあ

ることが示されたとしても、運用形態によっては消費者に利用されない可能性がある

ことが確認された。

図表5 バス停まで行くのなら自動運転を使わない

3.自動運転の社会受容における課題

(1)自動運転に対する意識

それでは、実際に消費者は自動運転についてどのような意識を持っているのだろう

か。これについて、自動運転全般と、「無人バス」という用語を用いた自動運転のサー

ビスカーについての意見を収集し、「人口 30 万人以上」(都市規模大区分)と「人口

30 万人未満」(都市規模小区分)に分けて比較した(図表6)。

全体的には肯定的な意見が多く、特に「都市規模小区分」では「都市規模大区分」

に比べてより若干肯定的な傾向がみられた。都市規模が小さい地域では、モビリティ

の課題も大きいため、自動運転への期待やニーズもより高いと推察される。

自動運転の社会実装においては、自動車に乗る人・乗らない人、自動運転車を利用

する人・しない人、二輪車の利用者や歩行者など、あらゆる人の理解とルール遵守が

なされる必要がある。少なくとも当面、例えば歩行者や二輪車の利用者は自動運転車

の走行を妨げないように配慮する、自動運転の作動の妨げになるような路上駐車や交

通ルール違反をしない、というような形で、交通参加者全体で自動運転の円滑な走行

を支えることが求められる。したがって、自動運転の社会実装においては、自分のモ

ビリティについて課題を感じていない人や、自動運転を「必要ない」と考える人も、

何らかの負荷を負う可能性がある。自動運転を必要としている人においてのみ、社会

受容性が醸成されても、それだけでは不十分だといえる。

7.4

8.5

8.4

10.4

10.1

27.3

26.8

30.2

31.2

32.8

0 50

東京都区部、政令指定都市

人口30万人以上の都市

(東京都区部、政令指定都市以外)

人口10~30万人未満の都市

人口10万人未満の市

町、村

あてはまる どちらかといえばあてはまる

(%)

34.7

35.3

38.6

41.6

42.9

Page 7: 自動運転の社会受容性醸成に向けて― 地方のモビリティ創出に ...group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/ldi/2019/rp1910.pdf · 2019-10-01 · 化、地域社会のつながりの希薄化といった、今日の日本が抱える社会課題に対し、モ

Report

第一生命経済研究所 Life Design Report 2019.10 7

図表6 自動運転に対する意識(都市規模別)

*注:「都市規模大区分」は人口 30 万以上、「都市規模小区分」は人口 30 万人未満の地域

74.1

72.0

70.3

70.3

68.4

67.4

63.9

39.6

72.4

70.8

70.5

68.4

67.2

77.4

73.6

72.6

72.2

71.5

68.7

67.1

40.3

75.4

74.9

73.6

71.4

69.8

0 20 40 60 80 100

多少不便でも、交通手段がないよりはいい

公共交通機関の運転手不足問題を解消できる

高齢者などが自分で運転しなくて済むようになり、

安全性が高まる

交通手段が確保されることで、高齢者など、

移動が難しかった人の外出が増える

交通手段がない・少ない地域において、交通の便がよくなる

人の移動が活発になることで、地域の活性化につながる

人の移動が活発になることで、

人と人との交流の機会が増える

人の不注意による事故が大幅に減るならば、

自動運転車の誤作動による事故が一定程度あるとしても仕方ない

無人バスの走行ルートやルールについては、地域の住民も積極的に

検討に関わるべきだ

無人バスを走行させるにあたっては、乗客同士も助け合う必要がある

無人バスの安全な走行のために、路上駐車や割り込みを禁止するなど、

新たなルールを設けるのは仕方ない

無人バスの安全な走行のために、歩行者・自転車・他の車が

これまで以上に交通ルールに配慮するのは当然である

無人バスの安全な走行のために、運転手のいるバスよりスピードが

遅かったりセンサーによってしばしば停止して安全確認をするのは仕方ない

都市規模大区分

都市規模小区分

(%)

自動運転全般について

自動運転サービスカーついて

Page 8: 自動運転の社会受容性醸成に向けて― 地方のモビリティ創出に ...group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/ldi/2019/rp1910.pdf · 2019-10-01 · 化、地域社会のつながりの希薄化といった、今日の日本が抱える社会課題に対し、モ

Report

8 Life Design Report 2019.10 第一生命経済研究所

(2)都市規模別・モビリティ課題得点別にみた自動運転への意識

そこで、都市規模での比較だけでなく、個人がモビリティにおいてどの程度の課題

を抱えているかを数値化し、日常的なモビリティにおける課題の大きさによって、自

動運転に対する意識に違いがあるかについて分析した。

まずは、モビリティ課題得点として、「日常生活を送る上で自家用車が不可欠であ

る」「バスや鉄道などの公共の交通機関が少ない」「バス停や駅までの道のりが遠い」

「普段、自家用車で家族の送迎をする・してもらうことが多い」「最寄の交通機関ま

での道がよくない(道が狭い、整備されていない、暗いなど)」「山道や雪道など、

道路や交通機関の利用に制約が生じることが多い」の6項目を用いて、尺度を作成し

た*2。

これによって得られた得点を、等配分に近くなるような形で高・中・低位の3つに

区分し、モビリティ課題得点が大きいグループ・中くらいのグループ・小さいグルー

プに分けた。都市規模別にみたモビリティ課題得点の分布は図表7のとおりである*3。

図表7 モビリティ課題得点の都市規模別分布

これを元に、図表6の自動運転に対する意識のうち、特に交通参加者全体で関与・

合意すべきと思われる項目についての回答結果を、都市規模別・モビリティ課題得点

別に比較した(図表8~11)。

その結果、モビリティ得点の高低で回答結果に大きな差が生じていることがわかっ

た。いずれも、モビリティ課題が大きい人、即ち現在のモビリティに不便や不都合が

多い人において、自動運転の社会実装における負荷の負担に理解がある傾向がみられ

た。

57.0%

41.5%

27.9%

16.4%

9.9%

26.7%

33.0%

33.1%

28.7%

25.7%

16.4%

25.5%

39.0%

54.9%

64.4%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

東京都区部、政令指定都市

人口30万人以上の都市

人口10~30万人未満の都市

人口10万人未満の市

町、村

課題小 課題中 課題大

Page 9: 自動運転の社会受容性醸成に向けて― 地方のモビリティ創出に ...group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/ldi/2019/rp1910.pdf · 2019-10-01 · 化、地域社会のつながりの希薄化といった、今日の日本が抱える社会課題に対し、モ

Report

第一生命経済研究所 Life Design Report 2019.10 9

さらに、都市規模が最も小さく、モビリティ課題が大きいケースが多い「町、村」

において、モビリティ課題が小さい、即ち現在のモビリティに課題があまりない人で

は、自動運転の社会実装において負荷を担う意識が低い傾向がある。例えば、「無人バ

スの安全な走行のために、路上駐車や割り込みを禁止するなど、新たなルールを設け

るのは仕方ない」「無人バスの安全な走行のために、歩行者・自転車・他の車がこれま

で以上に交通ルールに配慮するのは当然である」「無人バスの安全な走行のために、運

転手のいるバスよりスピードが遅かったり、センサーによってしばしば停止して安全

確認をするのは仕方ない」といった点について、都市規模が大きい地域ではモビリテ

ィ課題の大きさに関わらず、一定の理解を示している。図表6にもあるように、一般

的に都市規模が小さいほうがモビリティの不足から自動運転に対する期待は高くなる。

しかし、都市規模が大きいと、自分自身がモビリティにおいて困っていなくても、自

動運転の限界を理解し、周囲の配慮の必要性をある程度受容しているのに対し、都市

規模が小さい地域では、自分自身がモビリティに困っていなければ自動運転に対する

理解や受容が低い可能性が示された。

都市規模が小さい地域に居住しつつ、モビリティに課題がないとした人は、18~29

歳の若い世代で多い。29 歳以下という若い世代では、将来的なモビリティ課題の認識

をしていないことに加え、当該地域に住み続けることを想定していないなどの背景が

あることが推察される。

自動運転を地方で実用化するにあたっては、このような自動運転への受容度の低い

人たちとも交通参加者として道路を共有することになる。この点に鑑み、こうした人

たちの理解と協力を得るべく、彼らに届く適切な形で情報提供を行っていく必要があ

るといえよう。

図表8 人の不注意による事故が大幅に減るならば、

自動運転車の誤作動による事故が一定程度あるとしても仕方ない

(都市規模・モビリティ課題得点別)

36.8%

32.7%

37.6%

33.7%

29.5%

39.7%

37.9%

39.8%

38.6%

38.7%

52.5%

53.8%

47.8%

41.8%

41.2%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

東京都区部、

政令指定都市

人口30万人以上の都市

人口10~30万人

未満の都市

人口10万人未満の市

町、村

課題小

課題中

課題大

Page 10: 自動運転の社会受容性醸成に向けて― 地方のモビリティ創出に ...group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/ldi/2019/rp1910.pdf · 2019-10-01 · 化、地域社会のつながりの希薄化といった、今日の日本が抱える社会課題に対し、モ

Report

10 Life Design Report 2019.10 第一生命経済研究所

図表9 無人バスの安全な走行のために、路上駐車や割り込みを禁止するなど、

新たなルールを設けるのは仕方ない

(都市規模・モビリティ課題得点別)

図表 10 無人バスの安全な走行のために、歩行者・自転車・他の車が

これまで以上に交通ルールに配慮するのは当然である

(都市規模・モビリティ課題得点別)

74.9%

70.9%

73.2%

69.7%

53.7%

69.4%

70.4%

76.0%

73.3%

71.0%

76.4%

74.7%

78.9%

78.3%

77.3%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

東京都区部、

政令指定都市

人口30万人以上の都市

人口10~30万人

未満の都市

人口10万人未満の市

町、村

課題小

課題中

課題大

72.5%

68.0%

68.3%

66.9%

49.5%

67.0%

69.6%

73.5%

70.2%

67.3%

74.4%

72.8%

79.0%

76.8%

75.5%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

東京都区部、

政令指定都市

人口30万人以上の都市

人口10~30万人

未満の都市

人口10万人未満の市

町、村

課題小

課題中

課題大

Page 11: 自動運転の社会受容性醸成に向けて― 地方のモビリティ創出に ...group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/ldi/2019/rp1910.pdf · 2019-10-01 · 化、地域社会のつながりの希薄化といった、今日の日本が抱える社会課題に対し、モ

Report

第一生命経済研究所 Life Design Report 2019.10 11

図表 11 無人バスの安全な走行のために、運転手のいるバスよりスピードが

遅かったり、センサーによってしばしば停止して安全確認をするのは仕方ない

(都市規模・モビリティ課題得点別)

4.自動運転の効果的な活用に向けて

(1)都市規模・地域特性・個人のモビリティ環境ごとに異なる実態

モビリティは地域の「血管」であり、人やモノが円滑に移動することでコミュニテ

ィは活性化する。都市部には都市部の、地方には地方のモビリティ課題があるが、各

都市において共通していえるのは、モビリティありきではなく、そこに暮らす人・訪

れる人・流通するモノなどを十分理解した上で、サービスのあり方を考えていく必要

があるという点である。

「必要であろうと期待される」モビリティを投入しても、それが当該地のニーズや

モビリティの文化・風土に則していなければ、期待されたとおりには活用されない可

能性が高い。例えば、バス停まで歩くことを拒む地域で、停留所を用いた自動運転バ

スをたくさん走らせても、期待通りには活用されないだろう。

実際に、今回の調査結果からは、生活における自動車の位置づけが都市規模で差が

あることに加え、自動運転の社会実装における負荷受容について、個人のモビリティ

環境が大きく影響する可能性が示唆された。したがって、自動運転の社会受容性の醸

成においては、都市規模ごとの大きな特性の把握に加え、地域ごとのモビリティ実態

の把握が必要であり、さらにはそこに住む個人のモビリティ環境に応じた情報提供や

理解促進が必要であると考えられる。

地域ごとのモビリティ実態については、個々の地域の公共交通事情や自動車利用の

状況、「行く場所」としての施設や病院、ショッピングセンター等と居住地との位置関

71.4%

68.0%

68.7%

67.7%

53.7%

65.9%

67.0%

71.5%

70.8%

65.7%

72.6%

72.6%

75.3%

75.5%

72.0%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

東京都区部、

政令指定都市

人口30万人以上の都市

人口10~30万人

未満の都市

人口10万人未満の市

町、村

課題小

課題中

課題大

Page 12: 自動運転の社会受容性醸成に向けて― 地方のモビリティ創出に ...group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/ldi/2019/rp1910.pdf · 2019-10-01 · 化、地域社会のつながりの希薄化といった、今日の日本が抱える社会課題に対し、モ

Report

12 Life Design Report 2019.10 第一生命経済研究所

係、1年を通じた気候の状況等で把握するものと思われる。さらに、そこに住む人た

ちの特性や習慣もある程度把握する必要がある。こうした点については、地元の自治

体や事業者、当該地域にネットワークを持つ業界等との連携により、効率的に実施し

ていくことも考えられる。また、近年、自社業務の派生的な活動として、宅配業界や

生命保険業界が高齢者の見守りサービス等を展開しているが、このように全国を俯瞰

しつつ地域の事情にも精通した事業者との連携を図り、より地域の事情に沿った形で

のモビリティ展開を試みたり、新たなサービスを共創するといったことも、今後期待

される。

(2)多様な消費者とのコミュニケーションを通じた理解促進

他方、個人のモビリティ環境や意識については、アンケート調査等である程度取得

できる。しかし、実態は把握できても、自動運転に関心や理解がなく、協力体制をと

る意識がない人に対し、どのように情報を伝え、理解を促進するかは大きな課題であ

る。

例えば、市民への情報発信としてのシンポジウムや、対話の場を設けたとしても、

自動運転やモビリティに興味のある人ばかりが集まり、自分に無関係だと思っている

人に情報が届かないのでは、自動運転の社会実装に向けた風土は形成されない。

また、図表 12 にあるように、自動運転の認知度が上がれば自動運転に対する社会

受容性も必ず高まるということではない点にも留意が必要である。自動運転について

「理解していないので非受容」の人のうち、情報提供やコミュニケーションによって

「理解した上で受容」する人は一定数見込めるものの、「理解した上で非受容」との立

場をとる人もいると想定されるからである。また、「理解していないけど受容」として

いた人、すなわち「なんとなく自動運転は必要だろう」と考えていた人が、自動運転

の実情や課題・限界を理解することによって非受容に転じる可能性もある。これらの

点を踏まえ、自動運転について「理解した上で非受容」の人と共に、自動運転にかか

わる課題や対策を検討し、様々な交通参加者による協調体制や課題解決に向けた取組

みを講じることによって、自動運転の社会受容性は形成されると考えられる。

交通環境は多様な人々によって形成され、活用される。よって、自動運転に対して

ポジティブな見解を持つ人・ネガティブな見解を持つ人を含め、いかにして多様な人

に様々な視点から自動運転の社会実装に向けた議論をしてもらうかが、今後の社会受

容性醸成において重要となる。自動運転のメリットや限界・課題、地域のモビリティ

ニーズや特性については、消費者に対する自治体や事業者からの一方的な情報提供で

はなく、双方向的なコミュニケーションによるやりとりを通じて互いの理解を深めて

いく必要がある。

Page 13: 自動運転の社会受容性醸成に向けて― 地方のモビリティ創出に ...group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/ldi/2019/rp1910.pdf · 2019-10-01 · 化、地域社会のつながりの希薄化といった、今日の日本が抱える社会課題に対し、モ

Report

第一生命経済研究所 Life Design Report 2019.10 13

図表 12 自動運転の認知度と受容

(3)消費者のモビリティ・ライフデザインと地域モビリティ創出への関与

対話に向けて消費者から積極的に情報が発信されるようになるためには、まずは消

費者自身が自分の日常生活における移動について考える「モビリティ・ライフデザイ

ン」を行うことが求められる。双方向のコミュニケーションを行うにあたり、消費者

が自分のモビリティ状況を客観視した上で、自分の課題が何かを考えることがなけれ

ば、何が必要か・何が課題かという点がわからず、議論に参加できないからである。

まずは、モビリティ・ライフデザインによって、個人が自らのモビリティについて

将来的な課題を含めて考えることで、これからのモビリティにとって必要なこと、対

応すべき課題や検討すべきルールについて自分事としてとらえ、ニーズを発信してい

くことが期待される。それらが自動運転の社会実装に向けた建設的な議論をもたらし、

その結果として社会受容性が醸成され、消費者自身が積極的に新しいテクノロジーを

有効に活用する土壌を培うことにつながると考える。

地方では自動車への依存度が高く、歩いていかれるところにも自動車を利用するな

ど、移動手段の選択肢に「徒歩」が入ることが都市部に比べて少ないと既述した。例

えば運転免許証返納後の自家用車の代替手段として、バスやタクシーなどの交通機関

が運営コストやドライバー不足といった理由で十分な機能が期待できないのであれば、

今後、自動運転という交通手段を地域で活用していく可能性は高い。しかし、将来的

には自動運転で自宅前から行きたい場所に行かれるようになるとしても、当初は停留

所などまで自ら移動する形での活用が現実的であるといわざるをえない。その場合に、

「歩かない」モビリティスタイルを変えなければ、自動運転技術を用いた地域のモビ

リティ発展は膠着し、進展しないだろう。消費者が、移動手段としての「徒歩」とい

う選択肢をもって歩み寄ることも、サステナブル(持続的)なモビリティ環境を構築

65

自動運転の認知度 低

自動運転の認知度 高

肯定的=受容

否定的=非受容

理解した上で非受容

理解した上で受容

理解していないので非受容

理解していないけど受容

課題検討・対策・協調・解決

Page 14: 自動運転の社会受容性醸成に向けて― 地方のモビリティ創出に ...group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/ldi/2019/rp1910.pdf · 2019-10-01 · 化、地域社会のつながりの希薄化といった、今日の日本が抱える社会課題に対し、モ

Report

14 Life Design Report 2019.10 第一生命経済研究所

する上で重要になる。こうした気づきや備えも、モビリティ・ライフデザインによっ

て喚起できるのではないだろうか。

このように、消費者自身が自分の居住地域や将来の生活において、どのようなモビ

リティがどのような形で自分の地域にあれば、快適に住み続けることができるのかに

ついて考え、地域モビリティの創出に積極的に関与していくことが求められる。住民

自身が作り上げたモビリティ・システムであれば、社会受容性も十分に高く、そこに

付帯するルールや生活の変化も大きな混乱なく受け入れられ、発展させていくことが

できるのではないだろうか。

(ライフデザイン研究部 みやき ゆきこ)

【謝辞】

本研究にあたっては、経済産業省・国土交通省の「自動走行の民事上の責任及び社会受容性

に関する研究」(筆者も有識者委員として参加)の関係者の皆様ならびに事務局の株式会社テ

クノバの皆様に大変お世話になりました。この場をお借りして御礼申し上げます。

【注釈】

*1 自動車・自動運転に関するアンケート調査・調査概要

・調査実施:経済産業省の受託を受けて(株)第一生命経済研究所にて実施

・調査対象:全国の18-79歳の男女12,400名

・調査時期:2019年 1月 7-10日

・調査方法:インターネット調査(株式会社クロス・マーケティング)

*本稿の分析については、18-69歳のサンプルで実施

*2 尺度の信頼性を示す Cronbach のα係数は0.835

*3 図表7~11についてはサンプル数の関係で79歳までを含めて分析