膿胸関連リンパ腫8例の臨床的検討 -...

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186 ●原 要旨:当院で 1993 年から 2007 年までに経験した膿胸関連リンパ腫 8 例(男性 5 例,女性 3 例)の臨床像 を後ろ向きに検討した.年齢中央値は 75.6 歳で全例が肺結核症に対して気胸療法が行われており,組織型 は全例でびまん性大細胞型 B リンパ腫であった.主訴は疼痛が最も多く,次に血痰が多かった.症状出現 から診断までの期間中央値は 9 カ月で,半数の症例で確定診断のために複数回の生検を要した.診断に際 して 10 回の経皮的針生検,5 回の外科的生検が行われたが,診断率はそれぞれ 30%,60% と十分ではな かった.5 例で Ga シンチグラム,2 例で PET 検査が行われ,病変部位に高度の集積を認める一方で膿胸腔 には殆ど集積を認めず,両部位の区別に有用であった.8 例中,男性 5 例は全例腫瘍により死亡したが,女 性 3 例は全例生存している.本疾患の診断に際しては,Ga シンチグラム・PET 検査を積極的に活用すると ともに,生検診断率が十分でないことを認識することが大切である. キーワード:膿胸関連リンパ腫,PET 検査,Ga シンチグラム,生検 Pyothorax-associated lymphoma,Positron emission tomography,Ga scintigraphy,Biopsy 膿胸関連リンパ腫(PAL:pyothorax-associated lym- phoma)は,結核性胸膜炎や肺結核症に対する人工気胸 療法術後の患者が数十年を経過した後に,膿胸腔に隣接 して発症する悪性リンパ腫である .大部分はびまん性 大細胞型 B リンパ腫(diffuse large B cell lymphoma: DLBCL)であり,近年,EB ウィルスとの関連も指摘さ れている .本疾患では診断時にすでに高齢となってい る患者が多いことから,局在性の病変であっても全身状 態の悪化を来していることが多く,予後は不良とされる. また本疾患は気胸療法後に続発することから本邦に報告 例を多く認めるが,詳細な臨床像,特に診断方法の観点 から検討した報告はない.今回我々は,当院で経験した PAL 8 例の臨床的特徴を検討した. 対象と方法 1993 年から 2007 年までの 14 年間に,当院で診断・ 治療を行った膿胸関連リンパ腫の患者 8 例(男性 5 例, 女性 3 例)を対象とし,臨床記録より臨床所見,診断方 法,画像所見などを後ろ向きに検討した.診断における 生検方法としては,CT ガイド下生検を含む経皮的針生 検(以下,針生検),小切開を伴った局所麻酔下外科的 生検(外科的生検),全身麻酔による手術とし,吸引細 胞診は生検方法とは数えなかった. 1.患者背景・初発症状など(Table 1) 年齢中央値は 75.6 歳(66~86 歳)であった.初発症 状としては胸部違和感・胸背部痛が 5 例で最も多く,血 痰が次いで多かった.診断時の臨床病期分類(AnnArbor 分類)は I E 期が 6 例,III ES 期,IV ES 期がそれぞれ 1 例であり,4 例は胸腔内に限局しており,2 例は胸壁 外に進展していた. 2.病理所見・EB ウィルス感染の有無 病理所見は,全例で DLBCL であった.EB ウィルス の感染の有無の検索目的に,7 例中 4 例で virus capsid antigen(VCA) -IgG が測定され,320 倍が 1 例,640 倍 が 2 例,1,280 倍が 1 例であった.また別の 1 例では, 組織検体での EB virus encoded small RNA-1 が陽性で あった. 3.診断方法と診断までに要した期間(Table 2,3) CT ガイド下針生検を含む針生検が計 10 回,外科的 生検が計 5 回施行されたが,診断率はそれぞれ 30%, 60% であった.また症例毎にみると,半数において複 数回の生検を必要とし,4 回目で診断し得た症例が 2 例 存在した.特に女性 3 例は全例とも複数回の生検を要し ていた(平均 3 回).初発症状出現から診断に至るまで の期間中央値は約 9 カ月であり,5 例で診断に 9 カ月以 上を要していた. 膿胸関連リンパ腫 8 例の臨床的検討 関根 朗雅 萩原 恵里 橋場 容子 小倉 高志 高橋 〒2360051 横浜市金沢区富岡東 6―16―1 神奈川県立循環器呼吸器病センター呼吸器科 (受付日平成 21 年 8 月 7 日) 日呼吸会誌 48(3),2010.

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Page 1: 膿胸関連リンパ腫8例の臨床的検討 - jrs.or.jp生検にてPALと診断したが,膿胸腔拡大によるII型呼 吸不全の悪化により治療出来ず,2007年1月に永眠さ

186

●原 著

要旨:当院で 1993 年から 2007 年までに経験した膿胸関連リンパ腫 8例(男性 5例,女性 3例)の臨床像を後ろ向きに検討した.年齢中央値は 75.6 歳で全例が肺結核症に対して気胸療法が行われており,組織型は全例でびまん性大細胞型Bリンパ腫であった.主訴は疼痛が最も多く,次に血痰が多かった.症状出現から診断までの期間中央値は 9カ月で,半数の症例で確定診断のために複数回の生検を要した.診断に際して 10回の経皮的針生検,5回の外科的生検が行われたが,診断率はそれぞれ 30%,60%と十分ではなかった.5例でGaシンチグラム,2例で PET検査が行われ,病変部位に高度の集積を認める一方で膿胸腔には殆ど集積を認めず,両部位の区別に有用であった.8例中,男性 5例は全例腫瘍により死亡したが,女性 3例は全例生存している.本疾患の診断に際しては,Gaシンチグラム・PET検査を積極的に活用するとともに,生検診断率が十分でないことを認識することが大切である.キーワード:膿胸関連リンパ腫,PET検査,Gaシンチグラム,生検

Pyothorax-associated lymphoma,Positron emission tomography,Ga scintigraphy,Biopsy

緒 言

膿胸関連リンパ腫(PAL:pyothorax-associated lym-phoma)は,結核性胸膜炎や肺結核症に対する人工気胸療法術後の患者が数十年を経過した後に,膿胸腔に隣接して発症する悪性リンパ腫である1).大部分はびまん性大細胞型Bリンパ腫(diffuse large B cell lymphoma:DLBCL)であり,近年,EBウィルスとの関連も指摘されている2)3).本疾患では診断時にすでに高齢となっている患者が多いことから,局在性の病変であっても全身状態の悪化を来していることが多く,予後は不良とされる.また本疾患は気胸療法後に続発することから本邦に報告例を多く認めるが,詳細な臨床像,特に診断方法の観点から検討した報告はない.今回我々は,当院で経験したPAL 8 例の臨床的特徴を検討した.

対象と方法

1993 年から 2007 年までの 14 年間に,当院で診断・治療を行った膿胸関連リンパ腫の患者 8例(男性 5例,女性 3例)を対象とし,臨床記録より臨床所見,診断方法,画像所見などを後ろ向きに検討した.診断における生検方法としては,CTガイド下生検を含む経皮的針生検(以下,針生検),小切開を伴った局所麻酔下外科的

生検(外科的生検),全身麻酔による手術とし,吸引細胞診は生検方法とは数えなかった.

結 果

1.患者背景・初発症状など(Table 1)年齢中央値は 75.6 歳(66~86 歳)であった.初発症

状としては胸部違和感・胸背部痛が 5例で最も多く,血痰が次いで多かった.診断時の臨床病期分類(Ann Arbor分類)は I E期が 6例,III ES 期,IV ES期がそれぞれ1例であり,4例は胸腔内に限局しており,2例は胸壁外に進展していた.2.病理所見・EBウィルス感染の有無病理所見は,全例でDLBCLであった.EBウィルス

の感染の有無の検索目的に,7例中 4例で virus capsidantigen(VCA)-IgG が測定され,320 倍が 1例,640 倍が 2例,1,280 倍が 1例であった.また別の 1例では,組織検体でのEB virus encoded small RNA-1 が陽性であった.3.診断方法と診断までに要した期間(Table 2,3)CTガイド下針生検を含む針生検が計 10 回,外科的

生検が計 5回施行されたが,診断率はそれぞれ 30%,60%であった.また症例毎にみると,半数において複数回の生検を必要とし,4回目で診断し得た症例が 2例存在した.特に女性 3例は全例とも複数回の生検を要していた(平均 3回).初発症状出現から診断に至るまでの期間中央値は約 9カ月であり,5例で診断に 9カ月以上を要していた.

膿胸関連リンパ腫 8例の臨床的検討

関根 朗雅 萩原 恵里 橋場 容子 小倉 高志 高橋 宏

〒236―0051 横浜市金沢区富岡東 6―16―1神奈川県立循環器呼吸器病センター呼吸器科

(受付日平成 21 年 8月 7日)

日呼吸会誌 48(3),2010.

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膿胸関連リンパ腫の 8例 187

Table 1 Clinical characteristics of our eight cases

PathologyTumor progressionClinical stage*Initial symptomSexAgePatient

Number

DLBCL**progression to chest wallIEchest and dorsal painF661

DLBCLdiaphragm・spleenI I IEShemosputum, coughM672

DLBCLlocalized in thoracic cavityIEchest and dorsal painM753

DLBCLlocalized in thoracic cavityIEchest painF764

DLBCLdiaphragm・spleen・liverI VESchest and dorsal painM775

DLBCLlocalized in thoracic cavityIEuncomfortable feeling of chestF786

DLBCLlocalized in thoracic cavityIEhemosputumM807

DLBCLprogression to chest wallIEchest wall massM868*Ann Arbor Staging **Diffuse large B cell lymphoma

Table 2 Diagnostic method and rate

Diagnostic rate (%)

Diagnosed Patients

Number of biopsies

30310Needle biopsy

603 5Surgical biopsy under local anesthesia

1001 1Extrapleural pneumonectomy

1001* 1Biopsy with bronchoscopy from the fenestrated cavity*This patient was diagnosed at first as exacerbation of chronic empyema and the fenestration was performed.

Table 3 Clinical features, diagnosing process, treatment and outcome

Cause of death

Survival time (month)

Period(B) (month) Therapy

Number of

biopsies(A) SexPatient

Number

>60 10radiation 40Gy→CHOP(c) 10 course3F1

tumor18 1CHOP 7 course→CEPP(D) 3 course→DeVIC(E) 2 course (radiation 54 Gy)1M2

typeII respiratory failure 1 9palliative therapy1M3

>60 21extrapleural pneumonectomy→Radiation 45Gy4F4

brainmetastasis 8 1R-THP-COP(F) 8 course1M5

>21 7R-THP-COP4 course→radiation 40Gy2F6

brainmetastasis 6 9radiation 40Gy→40Gy1M7

tumor 833radiation 40Gy4M8

(A) number of biopsies needed for diagnosis (B) period from initial symptom to diagnosis(C) cyclophosphamide, doxorubicin, vincristine, and prednisone(D) cyclophosphamide, etoposide, procarbazine, and prednisone(E) carboplatin, ifosfamide, etoposide, and dexamethasone(F) rituximab, pirarubicin, cyclophosphamide, vincristine, and prednisone

4.画像所見5例で 67Ga シンチグラムが,2例で 18FDG-PET検査

が施行された.両検査とも腫瘍性病変に集積を認めたが,膿胸部位への集積は殆ど認められなかった.特に 18FDG-

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日呼吸会誌 48(3),2010.188

Fig. 1 (a) Chronic empyema was present in the right thoracic cavity in June 2004. (b) A mass in the right apex area appeared in November 2006. (c) The mass in the right apex area became larger and invaded the ribs. In additon, a protruded lesion appeared at the right chest wall.

Fig. 2 High 18FDG uptake was found at the mass of the right apex area. On the other hand, no uptake was observed on the chronic empyema. In the protruded lesion of the chest wall, 18FDG uptake was poor compared to the mass of the right apex area.

PET検査が行われた 2例では,病変部位に高度の集積を認め,Standardized uptake value 最大値(SUV max)はそれぞれ 19.1,23.6 であった.膿胸部位と腫瘍性病変との区別は容易であった.

5.治療(Table 3)1 例で全身状態不良のため緩和治療のみを行った.そ

の他の 7例では放射線療法,抗癌剤治療,手術療法のいずれかが行われたが,長期生存例では放射線療法に加え,

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膿胸関連リンパ腫の 8例 189

Fig. 3 (a) In June 1998, there was a chronic empyema in the left thoracic cavity. (b) In December 2000, the mass-like lesion appeared in the left apex area. (c) In May 2002, the contrast-enhanced mass appeared in the left thoracic cavity.

Fig. 4 The mass-like lesion at the left apex area showed no uptake on Ga scintigraphy. However, high up-take was observed in the middle lung field (short arrow).

抗癌剤治療もしくは胸膜肺全摘術が施行されていた.リツキシマブ使用例は 2例(患者 5,6)であり,うち 1例では寛解を得ている.長期生存例は全例女性であった.

6.患者呈示患者 3(Fig. 1,2):75 歳男性.18 歳時に肺結核症に

対して気胸療法が施行された.以前より僧帽弁閉鎖不全

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症にて当院循環器内科に通院中であったが,2006 年 3月より右胸背部痛を自覚するようになった.2006 年 10月には右肩から背部にかけての疼痛が増強し,翌 11 月には全身性の浮腫と労作時呼吸困難が出現した.胸部CTでは膿胸腔拡大と共に,右肺尖部に腫瘤性病変が疑われた(Fig. 1-b).当初,心不全,肺炎合併の診断にて抗菌薬を投与されたが改善なく,当科転科となった.翌12 月の胸部CTでは右胸壁外に隆起性病変が出現しており(Fig. 1-c),同部位の試験穿刺を行ったが悪性細胞は認められず,穿刺液の細胞分画は好中球が 87%であった.同月の 18FDG-PET検査では,右肺尖部の腫瘤性病変に高度の集積(SUV max 19.1)を認めた(Fig. 2).一方で右胸壁外の隆起性病変の集積は,SUV max で 3.9から 6.5 と肺尖部腫瘤性病変に比して軽度であり,同部位は腫瘍性病変よりも慢性膿胸悪化による胸壁穿破病変の可能性が高いと考えられた.その後,CTガイド下針生検にて PALと診断したが,膿胸腔拡大による II 型呼吸不全の悪化により治療出来ず,2007 年 1 月に永眠された.患者 4(Fig. 3,4):76 歳女性.25 歳時に肺結核症に

対して気胸療法を施行された.2000 年 10 月に左胸痛が出現し,12 月には胸部CTにて左膿胸腔上部に腫瘤性病変が出現した(Fig. 3-b).同部位に対して,CTガイド下生検を施行したが確定診断がつかず,2001 年 1 月に行った外科的生検でも異型細胞は認められなかった.しかし,同時期に施行した 67Ga シンチグラムでは,生検を行った膿胸腔上部には集積を認めず,強い集積を呈していたのは中肺野の膿胸壁であることが判明した(Fig. 4).その後,中肺野の病変が増大傾向を呈したことから 2002 年 2 月に再度CTガイド下針生検を行ったが,結果は同様であった(Fig. 3-c).このため,確定診断と治療を目的に,2002 年 7 月,胸膜肺全摘術を施行し PALと診断した.その後,放射線 45Gy を照射し,2008年 10 月の時点で再発を認めていない.

考 察

今回の検討により,本疾患は,一回の生検では診断に至らない可能性が高く,診断に時間を要す診断困難な疾患であることが明らかとなった.PALの初発症状としては,Nakatsuka らの報告では

57%に胸背部痛,43%に発熱,40%に胸壁腫瘍や胸壁隆起が認められたとしている4).我々の検討でも同様であったが,血痰が 2例(25%)に認められ,非特異的所見であることからも注意が必要と思われる.また,本疾患は患者 3・患者 4で呈示したように,経過中に膿胸腔の拡大を呈することが多い.このため慢性膿胸の患者において,胸背部痛に加え,膿胸腔拡大所見や血痰などの

症状を認めた場合には,PALの可能性を考慮することが大切と考えられる.PALの診断においては,生検標本による病理診断が

必須である.病理標本では,CD20 陽性のDLBCLが大部分を占め,近年,EBウィルスとの関連も報告されている2)~4).当院でも全例DLBCLであり,血清学的・病理学的に検索された 5例全例でEBウィルスの慢性持続感染が強く疑われた.生検方法としては,CTガイド下を含めた針生検が最も多く施行され,次いで外科的生検が行われたが,診断率はそれぞれ 30%,60%に過ぎず,必ずしも十分ではなかった.PALは慢性膿胸部位より発生することから壊死組織を採取し易いためと考えられる.このため,PALの生検においては,必ずしも診断率が高くはないということを認識することが大切である.また当院での検討では初発症状出現から診断までに平均 9カ月もの期間を要し,さらに半数の症例で 2回以上の生検を必要としており,PALが診断困難な疾患であることを示しているものと思われる.PALの画像診断においては,今回の検討で,67Ga シ

ンチグラム,18FDG-PETの有用性が改めて再認識された.PALの一部の症例では,胸部CT画像のみの評価では,膿胸腔の拡大所見などから時に慢性膿胸の悪化との区別が困難なことがある.今までに PALにおける 67Gaシンチグラムの有用性が報告されているが,そこでは膿胸部位には集積が乏しいことに言及している5)6).当院でも 5例で 67Ga シンチグラム,2例で 18FDG-PET検査を施行しているが,いずれの検査においても腫瘍性病変に集積を認め,慢性膿胸部位への集積は殆ど認められなかった.生検として,CTガイド下生検を行う場合には基本的には胸部CT画像を参考に行うが,呈示した症例4のように,病変部位と考えて生検を行った腫瘤性病変に集積を認めないこともあり,生検時には必ず 18FDG-PET検査もしくは 67Ga シンチグラムにて最も集積の高度の場所で行う必要がある.特に 18FDG-PET検査を行った 2例では,腫瘤性病変に極めて高度の集積を呈し,PALと考えられる部位と膿胸部位との区別は容易であった.さらに 18FDG-PET検査は,治療効果判定や再発の有無の確認に有用であるとも報告されており7),今後,積極的に活用していくべき検査と思われる.PALに対する治療に関しては,現時点で確立したも

のはない.中島らは本疾患患者 11 人に対し胸膜肺全摘術を施行し,5年生存率 85.7%であったと報告している8).また,近年,CD20 陽性の悪性リンパ腫においてリツキシマブの効果が報告され,当院でも 2例にリツキシマブを含んだ化学療法を行い,1例において寛解が得られている.しかし,PAL患者の高齢化に伴い,全身状態が不良な患者も多いことから,当初より緩和治療を

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膿胸関連リンパ腫の 8例 191

選択せざるを得ない事も多い.このため,年齢や全身状態,病変部位などを総合的に判断し,治療法の選択をすることが必要とされる.当院での生存例 3例では,放射線療法に加え,化学療法もしくは手術療法のいずれかが併用されており,集学的治療が重要と考えられる.また,Narimatsu らは,PALにおいては女性であることが予後良好因子であることを報告し,性ホルモンが重要な役割をしていると推測しているが2),当院でも生存例は全例女性であった.最後に,人工気胸療法術後の患者の高齢化に伴い,本

疾患患者の減少が今後推測される.しかし,今後は結核性胸膜炎の既往のある患者から,本疾患が起こってくる可能性は否定し得ない.本疾患は比較的稀な疾患ではあるが,診断には本疾患を念頭に置く事が何よりも重要で,67Ga シンチグラムや PET検査で高度の集積を認め,PALの可能性が高いと判断した場合には,積極的な生検が必要であることを認識することが大切である.

引用文献

1)Iuchi K, Ichimiya A, Akashi A, et al. Non-Hodgkin’slymphoma of the pleural cavity developing fromlong-standing pyothorax. Cancer 1987 ; 60 : 1771―

1775.2)Narimatsu H, Ota Y, Kami M, et al. Clinicopathologi-cal features of pyothorax-associated lymphoma ; aretrospective survey involving 98 patients. Ann On-col 2007 ; 18 : 122―128.

3)Aozasa K. Pyothorax-associated lymphoma. J ClinExp Hematop 2006 ; 46 : 5―10.

4)Nakatsuka S, Yao M, Hoshida Y, et al. Pyothorax-associated lymphoma : a review of 106 cases. J ClinOncol 2002 ; 20 : 4255―4260.

5)斎藤一浩,藤井博史,菅原章友,他.ガリウムシンチグラフィーが有用であった慢性膿胸に発生した悪性リンパ腫の 2例.臨床放射線 1998 ; 43 : 855―858.

6)白山裕士,小泉 満,山下 孝.ガリウムシンチグラフィーが有用であった膿胸関連リンパ腫の 2例.核医学 2001 ; 38 : 223―228.

7)Asakura H, Togami T, Mitani M, et al. Usefulness ofFDG-PET imaging for the radiotherapy treatmentplanning of pyothorax-associated lymphoma. AnnNucl Med 2005 ; 19 : 725―728.

8)中島由槻,和久宗明,小島 玲,他.慢性結核性膿胸壁由来の悪性リンパ腫に対する胸膜肺全摘術の11 例の治療成績.日胸外会誌 1996 ; 44 : 484―492.

Abstract

Clinical analysis of eight cases with pyothorax-associated lymphoma

Akimasa Sekine, Eri Hagiwara, Yoko Hashiba, Takashi Ogura and Hiroshi TakahashiDepartment of Respiratory Medicine, Kanagawa Cardiovascular and Respiratory Center

We retrospectively reviewed the medical records of eight patients (five males and three females, median age :75.6) with pyothorax-associated lymphoma (PAL) from 1993 to 2007. All cases were histopathologically identifiedas diffuse large-B-cell lymphoma and had a history of artificial pneumothorax for the treatment of pulmonary tu-berculosis. Chest and�or dorsal pain was the most common symptom followed by bloody sputum. Ten needle biop-sies and five surgical biopsies were performed, and diagnostic rates were 30% and 60% respectively. More thantwo biopsies were needed in four out of eight patients. Nine months in median were necessary to confirm a diag-nosis of PAL. We evaluated gallium scintigraphy in five and 18FDG-PET in two patients. High uptake was ob-served only at the tumor site, not in the pleural cavities of all examined patients. While all five male patients diedof their tumors, the three female patients were all alive after intensive therapy. We conclude that gallium scintig-raphy, and 18FDG-PET are useful for discriminating tumor from pyothorax. It is also necessary to further under-stand the uncertainty of biopsy results and the need for repeat examinations for early diagnosis of PAL.