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展 望
富士時報 2012 Vol.85 No.1
技術成果と展望
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電気を自在に操るパワーエレクトロニクス
電気を自在に操るパワーエレクトロニクス
パワーエレクトロニクス機器パワー半導体受配電制御機器
パワーエレクトロクス機器パワーエレクトロニクス(パワエレ)機器では,ドライ
ブ分野およびパワーサプライ分野において,新たな世の中の動きに応えるためトータルソリューションの提供を目指している。
ドライブ分野は,自動車産業・鉄道車両・可変速機器の
各分野からなる。
自動車産業分野では,電気自動車関連のインフラ整備事業対応としてチャデモ(CHAdeMO)仕様の地上急速充電器を開発し,ラインアップ(25,39,44,50 kW)を充実した。特に新規開発の 25 kW 機は低圧受電契約で設置可能である。これは,富士電機が得意とする自動販売機の
量産技術を適用し,小容量ユニット(12.5 kW)の多段積み構成を採用することで,薄型・軽量化を実現したもので
ある。今後,低炭素化社会の実現に向けて,電気自動車の
普及は進んでいくと思われる。富士電機は,地上インフラ
の整備だけでなく,車載コンポーネント(駆動インバータ
や車載電源機器)事業にも積極的に取り組んでいく。
鉄道車両におけるパワエレ機器については,安全性,信頼性,経済性に対する要求はもちろんのこと,高速化,省エネルギー(省エネ)化,小型軽量化,省メンテナンス化,
乗り心地・快適性の向上,環境調和への対応といった時代の要請に応えながら,技術革新を行ってきた。
鉄道車両分野の製品開発として,新幹線車両システム,
在来線車両システム,ドアシステムの次世代技術の開発に
取り組むとともに,グローバル展開として,海外の鉄道事業会社へも製品を納入している。富士電機は,シンガポー
ルの地下鉄向けにプロパルジョンシステムおよび補助電源装置の電機品一式を,台北メトロ向けにドアシステムを納入している。また,国内では,これまでの実績を踏まえ,
北海道旅客鉄道株式会社,九州旅客鉄道株式会社向けの交流電車用補助電源装置を継続して納入している。
可変速機器分野では,空調および水処理に適した機能を
搭載したインバータ「FRENIC-HVAC/AQUA シリーズ」
を製品化した。保護構造 IP55,IP21 に対応し,EMC フィ
ルタと高調波抑制用直流リアクトルを内蔵する(90 kW 以
下)。高性能ベクトル制御形インバータ「FRENIC-VG シ
リーズ」では各種オプションを開発し,機能を拡充した。
100Mbits/s の「E-SX バス」対応や機能安全対応など新規オプションも開発した。回転機分野では,モータ効率IE4(IEC 規格における効率クラス)レベルの永久磁石形同期電動機である高効率 PM モータ「GNP1 形シリーズ」
を発売した。誘導機と取付寸法に互換性を持たせつつ,誘導機比で 5 〜 30% の軽量化を実現した。今後とも,新し
い市場要求に応える製品を提供し続ける。
パワーサプライ分野では,電力変換技術と蓄電池応用技術をコアとしたグリーンパワエレ製品を開発し拡充した。
市場の伸張が続くデータセンター向けに,空調設備用途と
して富士電機独自のデュアルプロセッシング方式を採用し
た無停電電源装置である超高効率大容量 UPS「8000ND シ
リーズ」を開発した。また,サーバ用バックアップ電源用途として,高品質・高信頼性を確保し,富士電機独自の RB-IGBT(Reverse-Blocking Insulated Gate Bipolar Transistor)を用いた 3 レベル変換方式を採用することで,
高効率を実現した常時インバータ給電方式大容量 UPS「HX シリーズ」を開発した。さらに,ラック内への UPS実装用途としてニッケル水素電池を搭載した 10 kVA ラッ
ク型 UPS を開発した。
また,急拡大しているグローバルなグリーンエネルギー
向けに大規模発電所に最適な太陽光発電用パワーコンディ
ショナ(PCS)の 1 MW 機を製品化した。さらに,産業分野のグリーン化として,エレベータの運転に伴い発生する
回生電力を再利用する,回生アシスト機能付エレベータ専用 UPS を開発した。
富士電機は,コア技術であるパワーエレクトロニクス技術をベースに,コンポーネントとシステムを組み合わせた
ソリューションで,顧客満足度の向上を追求していく。
パワー半導体REN21(21 世紀のための自然エネルギー政策ネットワー
ク)が 2011 年 7 月 12 日に公表した白書『世界自然エネル
ギー白書 2011 年版』“Renewables 2011 Global Status Re-
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port,GSR2011”によれば,再生可能エネルギー市場(水力,
風力,太陽光,地熱など)は年々拡大しており,2010 年には総電力の 2 割近くを提供していると報告している。特に太陽光発電の新規導入は,2009 年の 2 倍に達したという。
さらに 2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災による原子力発電に関わる問題は,日本だけでなく世界中に再生可能エネルギーの拡大推進に拍車を掛けている。
こうした状況の中,富士電機では,“エネルギー・環境”
事業に注力している。特に電力エネルギーの有効利用を目的とするパワエレと,その基幹部品であるパワー半導体に
対しては,CO2 削減などの地球環境保護や再生可能エネル
ギー分野の発展に貢献する重要事業として今後さらに注力する計画である。
CO2 削減および再生可能エネルギー拡大の推進のために
パワー半導体が果たすべき役割は,パワエレ機器の電力利用効率を高め,機器の省電力化と利用拡大に貢献すること
である。より具体的には,パワー半導体製品の低損失化と
低ノイズ化,小型化,高信頼化,そして製品系列と用途の
拡大を進めていくことである。このような考えのもとに,
開発を進め 2011 年には次の成果を得た。
パワーモジュール分野では,産業用途製品の中では,風力・太陽光発電などの大容量化・高変換効率要求に対応し
て,PrimePACKTM 製品系列にチョッパ回路を内蔵した製品を追加した。従来の PrimePACKTM 2 in1 モジュールと
組み合わせることにより,高効率を実現できる 3 レベル回路が容易に構成できる。また,さらなる高効率化技術とし
て富士電機が提案している A-NPC(Advanced Neutral-
Point-Clamped)回路用 IGBT モジュールの系列を拡大した。独自の RB-IGBT を回路の中間点クランプに採用し,A-NPC 回路 3 相分を 1 パッケージに搭載してユーザ
の使いやすさに貢献する。新材料デバイスでは,富士電機は独立行政法人 産業技術総合研究所と炭化けい素(SiC)半導体デバイスの共同開発を実施しており,先行開発し
た SiC-SBD(Schottky Barrier Diode)と最新第 6 世代IGBT とを組み合わせた低損失ハイブリッドモジュールを
開発した。
車載分野では,ハイブリッド自動車(HEV)・電気自動車(EV)向けに高放熱,小型化を狙った直接水冷モジュー
ルを開発した。出力 50 kW クラスのシステムに対応する
650 V/400 A 6 in1 モジュールのサンプル展開を開始した。
今後,120 〜 150 kW クラスまでのモータ制御システムに
対応する製品を系列化する。
パワーディスクリート分野では,サーバ・無停電電源装置(UPS)・パワーコンディショナなどの電源用途向け
に,省エネ・高効率化,省スペース化に貢献する,超低オン損失かつ低スイッチング損失の低損失 SJ-MOSFET
(Superjunction Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)「Super J-MOS シリーズ」を開発した。また
自動車用途では,HEV や EV の DC-DC コンバータの高効率化を可能とする,低オン損失かつ低スイッチング損失の第 3 世代トレンチ MOSFET を開発した。
電源制御用パワー IC 分野では,パソコンや液晶 TV な
どの民生製品の高効率化と低待機電力化を両立した低待機電力 PWM(Pulse Width Modulation)電源制御 IC を開発した。パソコンや液晶 TV の待機電力を大幅削減可能と
し,CO2 削減に大いに貢献している。またグリーン IDC(Internet Data Center)・通信・産業用途や大型 TV など
の大電力製品の高効率化と電源システム簡略化を可能とす
る電流共振制御 IC を開発した。
このほか,富士電機の高信頼性半導体技術を応用した製品として,宇宙用 p チャネルパワー MOSFET を開発した。
既に開発済の n チャネルパワー MOSFET と組み合わせて
使うことで,放射線の影響を受けない極めて高い信頼性の
電源システムを構成できる。
富士電機は,今後もエネルギーと環境の問題に対応する
ために,高効率・高信頼性のパワー半導体の開発に取り組み,世の中に貢献していく。
受配電制御機器受配電機器・制御機器の市場は 2010 年春から順調な回
復局面に入り,東日本大震災の影響は残るものの復興投資・需要もあり堅調さを維持している。海外市場も円高に
よるマイナス要素や欧州金融不安の影響が懸念されるが,
中国・アジアの高い経済成長が続きインフラ・生産設備投資を中心に需要が拡大傾向にある。
このような市場環境の中で,富士電機は急速に変化して
いる市場要求へ敏感に対応し,顧客へのより大きな付加価値の提供に努めた。国内では震災以降,特に電気エネル
ギーを安定かつ効率的に供給する技術が注目を集めている。
工場・生産設備のみならずオフィスビルや商業施設におい
ても省スペース・省エネで信頼性の高い受配電・給電シス
テムを構成することの重要性が増している。これに応える
ために,設備・機械装置類に最適な小型化機器,省エネシ
ステム機器および設備監視機器の開発を行った。また,企業活動の急速なグローバル化が進んでいる分野に対して,
マルチ規格対応機種や中国・アジアでの専用機種を拡充し,
顧客のグローバル市場での競争優位性確保にも貢献してき
た。
受配電・開閉機器分野においては,電力供給の高信頼化と省エネが求められており,工場などの生産設備では設置される機械装置や制御盤の小型化・省電力化が課題である。
これに応えて,電磁開閉器では 2.2 kW 以下のモータ制御用途で世界最小クラスの低消費電力小型電磁開閉器「SKシリーズ」を新たに発売した。消費電力を従来比 86% に
低減し,感電保護やミラーコンタクトなどの安全機能を備え,グローバル規格にも標準で対応している。また,回路遮断器では主に機械装置や制御盤などでの小電流の回路保護を目的とする小型低圧遮断器(32 〜 63 AF)を開発中である。外形幅を従来比 70% に縮小し,グローバル規格に対応する。保護継電器では,太陽光発電システムなど
の分散型電源を高圧商用電源に系統連系させる保護継電器を開発した。地絡過電圧機能品に加え,逆潮流を監視・保
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護する逆電力継電器機能を加えた商品の 2 機種を拡充した。
絶縁監視装置では,相線式に関わらず相間対地静電容量の
アンバランスに影響を受けずに絶縁劣化検出が可能な Igr形絶縁監視装置を開発した。4 回路および 8 回路用の集合形計測装置をラインアップし,系統規模に応じた適用を
可能とした。電力監視システム「F-MPC シリーズ」とも
RS-485 通信を介して容易に連携可能である。給電ユニッ
ト機器では,主にデータセンターでのニーズに対応してバ
スダクトと電力監視システムを統合したバスダクトシステ
ムを発売した。回路保護と電力監視機能を持たせたプラグ
イン式の分電ユニットをバスダクトに挿入し,サーバラッ
クごとに電力供給状況の監視ができる。バスダクトシステ
ムを使用することで分電盤を削減し,省スペース化できる。
電力監視機器分野では,DIN レール取付けタイプの 1 回路形電力監視ユニット「F-MPC04E」を開発した。大規模化・多様化するエネルギー監視ニーズに対応して表示器をオプションとし,従来のパネル取付けタイプ「F-
MPC04S」に対して大幅な小型化(1/2)を実現した。RS-
485 通信を標準搭載し,電力監視システム(F-MPC シ
リーズ)標準のプロトコルに加え,Modbus/RTU プロト
コルにも対応し,システム適合性も強化した。
制御機器分野では,工場の操作現場への設置を容易にす
る「ワイヤレス押しボタンスイッチ」を発売した。生産ラ
インやコンベヤなどでの配線作業が不要となるため,設置コストやメンテナンスコストの削減に貢献できる。最長100 m の通信によるワイヤレス遠隔操作が可能であり,防じん・防水機能にも優れている。
今後,安定的な電力供給への要請の高まりを背景に受配電・開閉機器および電力監視・制御機器分野ではスマート
コミュニティが目指す高効率・最適運用を支えるシステ
ム・設備への適応や,いっそうの省エネ対応が想定される。
富士電機は,“エネルギー・環境”における技術と製品を強みとし総力を挙げて,今後も産業・社会が抱えるさま
ざまな問題をスピーディーに解決することを支援していく。
顧客の課題を共有し,従来の機器商品系列の拡充に加えて
問題解決に貢献する技術・商品の強化とソリューション・
サービスの提供を進めていく。
お客さま各位のなおいっそうのご支援,ご指導をお願い
申しあげる。
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パワーエレクトロニクス機器
図 1 中容量急速充電器(25 kW)
電気自動車(EV)用地上中容量急速充電器(25 kW)CHAdeMO 仕様の中容量急速充電器(25 kW)を発売
した。現行の大容量急速充電器(39 〜 50 kW)に加え,
低圧受電契約で設置可能な中容量器をラインアップした。 主な特徴は次のとおりである。
⑴ 自動販売機の筐体(きょうたい)製造技術を応用し,
奥行を従来の 700 mm から 480 mm に小さくすることで,
薄型・軽量構造を実現し,かつ設置作業が容易である。
⑵ ユニバーサルデザイン思想を取り入れたパネル配置と
し,誰でも簡単に利用できる。
⑶ サーバ用小型電源の技術を応用したユニット多段積方式とし,容量の拡張が容易でメンテナンス性が良い。
図 2 台北メトロ鉄道車両とドアシステム
台北メトロ信義線・松山線向けリニアモータ駆動ドアシステム富士電機は,台北メトロの信義線と松山線の鉄道車両向
けに,リニアモータ駆動ドアシステムを 138 両分(合計1,104 台)納入した。これは,初のアジア向けドアシステ
ムであり,搭載した車両は,2011 年 12 月から順次営業運転に投入されている。
このドアシステムは,高い信頼性が評価されている従来製品を継承しつつ,保守を容易にしている。主な特徴は次のとおりである。
⑴ 工場出荷時に調整することで顧客側の調整を容易化⑵ 定期交換部品を削減し,保守を容易化⑶ 故障診断機能により故障時の原因調査を容易化
鉄道網の整備が進むアジア市場における,鉄道車両への
本ドアシステムの搭載が期待される。
図 3 通勤形交流電車向け補助電源装置
北海道旅客鉄道株式会社向け補助電源装置北海道旅客鉄道株式会社は,札幌圏における輸送サービ
スの向上および環境負荷の低減などを目的に,2012 年度に車両を新製する予定である。富士電機は,試作車両 735系向け補助電源装置をベースに,新製する通勤形電車向け
補助電源装置を製作し,納入した。
本装置の主な特徴は次のとおりである。
⑴ 補助電源装置のコンバータ部へのチョッパ方式の採用,
および制御部のワンボード化により,部品点数を削減し,
保守部品を低減した。
⑵ 制御応答性を高めることで効率を向上した。
⑶ 取付け部分に防振ゴムを挿入し,基板の耐振性を高め
ることで信頼性を向上した。
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パワーエレクトロニクス機器
図 4 817系近郊形交流電車向け補助電源装置
九州旅客鉄道株式会社向け補助電源装置九州旅客鉄道株式会社は,2011 年度に都市近郊の輸送
力を増強するため,817 系近郊形交流電車の増備車の製作を計画している。富士電機は,車両に搭載されている各種制御装置や客室蛍光灯などに電力を供給するための補助電源装置を製作し,納入する。この装置は 2003 年の増備車から継続して納入しているもので,その安定稼動により,
信頼性を得ている。主な特徴は次のとおりである。
⑴ 入力瞬断によりコンバータが一時的に停止した場合で
も,バッテリから電力を供給することによって,イン
バータの運転を継続するバックアップ機能を備えている。
⑵ 冷媒を使用しないブレイジングフィンによる自然冷却方式により,メンテナンス性を向上した。
図 5 「FRENIC-VG」の本体と機能拡張オプション
「FRENIC-VG シリーズ」の機能拡充電動機制御用途として発売中の高性能ベクトル制御形イ
ンバータ「FRENIC-VG シリーズ」への高機能化のニー
ズに応えるため,次のオプションを開発し機能を拡充した。
⑴ 「E-SX バス」インタフェース:PLC「MICREX-SX」
の高速高精度機種「SPH3000MM」と通信が可能である。
制御周期は最小 0.25 ms であり,同期精度 +-1 µs を実現した。
⑵ ユーザプログラミング:オリジナルシステムをユーザ
が作成可能である。プログラムは,MICREX-SX と同じ IEC 61131-3 規格に準じた記述で作成できる。
⑶ 機能安全:IEC 61800-5-2 で規定される安全トルク
オフ(STO)に加え,SS1,SLS,SBC など多彩な停止シーケンスを実現する。
機能安全カード
E-SXバスインタフェースカード
ユーザプログラミングカード
(UPAC)
図 6 システム構成例
高性能・多機能形インバータ「FRENIC-MEGA」位置制御タイプ搬送および印刷機などの位置決め用途において,サーボ
システムに比べて低価格かつ容量範囲の広い駆動システム
として,「FRENIC-MEGA」の位置制御タイプを開発した。
主な特徴は次のとおりである。
⑴ 誘導モータと永久磁石形同期電動機(PM モータ)に
対応した,速度センサ付きベクトル制御方式⑵ セミクローズドだけでなくフルクローズドにも対応し
た位置制御⑶ 剛性の弱い搬送系を考慮した,振れを抑制する制振制御⑷ IEC 61800-5-2 で規定した安全トルクオフ機能を内蔵⑸ フルクローズドの位置センサとして,レーザ距離セン
サが適用可能⑹ 耐振性に強いレゾルバに適用可能なオプションを用意
レーザ距離センサ
モータ
速度センサ
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図 7 280 kW/690 Vインバータ
「FRENIC5000 VG7 シリーズ」690 V インバータの容量拡充近年,フローティングクレーン用途を中心に 690 V 電源
用インバータの容量拡充に対するニーズが高まっている。
今回,既存の 500 kW と 630 kW に加え,160 〜 400 kWの 6 容量をラインアップに追加した。主な特徴は次のとお
りである。
⑴ 3 相一括のユニット型構造の採用により小型化した。
⑵ 交流入力と直流入力のいずれのオーダにも対応可能で
あり,用途が広い。
⑶ 直流入力端子を天井側に配置し,直流並列システムへ
の対応や盤の配線作業を簡素化できる。
今後,市場ニーズに応じて,さらなる容量拡充を行う予定である。
図 8 電源回生コンバータ内蔵インバータ(22 kW)
電源回生コンバータ内蔵インバータ(22 kW)省エネルギー気運の高まりを受けて,エレベータおよ
びエスカレータ分野では電源回生機能を付加したシステ
ムが増加している。富士電機は,これらの分野に PWMコンバータを搭載したインバータとして,7.5 kW および
45 kW を販売している。今回 22 kW を加え,シリーズを
拡充した。主な特徴は次のとおりである。
⑴ 電源回生により省エネルギー化に貢献できる。
⑵ 電源力率≒1,入力電流高調波≒0 を実現している。
⑶ 誘導電動機駆動,同期電動機駆動に適用できる。
⑷ コンパクト化と省配線を実現している。
⑸ エレベータ用インバータ「FRENIC-Lift シリーズ」と
機能,性能,オプション面で互換性がある。PWM コン
バータを意識する必要がなく,設定が容易である。
図 9 高効率PMモータ「GNP1形」
高効率 PM モータ「GNP1 形シリーズ」エネルギー使用量の削減を目指し,永久磁石形同期電動
機として新たに高効率 PM モータ「GNP1 形シリーズ」を
開発した。主な特徴は次のとおりである。
⑴ 高効率・省エネルギー
業界最高峰であるモータ効率 IE4(IEC 規格における効率クラス)と同等レベルの効率を達成した。
⑵ 取付互換性・軽量化誘導機と取付寸法に互換性を持たせつつ,部品構造を見
直し,誘導機比 5 〜 30% の軽量化を実現した。
⑶ 即納対応200/400 V 多重定格仕様であり,5.5 〜 90 kW までを標
準品とすることで即納で対応できる。
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図 11 エレベータ専用UPSの設置例
回生アシスト機能付エレベータ専用 UPSエレベータに無停電電源装置(UPS)を搭載すると,停
電の際にも運転を継続できるため,利用者の閉じ込めを防止できる。
エレベータの運転に伴い発生する回生電力は,従来は熱として捨てられていた。これを UPS のバッテリに充電し,
モータ駆動に再利用する“回生アシスト機能”を開発した。
これにより,停電時の安全運転に加え,消費電力の削減が
可能になる。主な特徴は次のとおりである。
⑴ 回生エネルギーの再利用により,年間 1,000 kWh の電力量削減を実現
⑵ ニッケル水素電池の採用により,バッテリの長寿命化と環境負荷の軽減を実現
⑶ 薄型設計により,狭いエレベータルームに設置可能
巻上機
受電制御室
つり合いおもり用ガイドレール
つり合いおもり
かご
ロープ
かご用ガイドレール
図 12 UPS「HXシリーズ」
新 3 レベル IGBT モジュール搭載 UPS「HX シリーズ」データセンターのサーバ用バックアップ電源には,高品
質で信頼性の高い常時インバータ給電方式の無停電電源装置(UPS)が適用されている。富士電機独自の RB-IGBTを用いた 3 レベル変換方式を採用することで,従来の装置より効率を 2 ポイント向上させた常時インバータ給電方式大容量 UPS「HX シリーズ」を開発した。
主な特徴は次のとおりである。
⑴ 世界最高レベルの装置効率 97% を実現し,消費電力削減とランニングコスト削減に貢献
⑵ 小型軽量化(従来比 30% 削減)を実現し,IDC にお
けるファシリティスペースの削減に貢献⑶ 出力容量 500 kVA/500 kW を実現し,高力率負荷(力
率 1.0)に適用可能
パワーエレクトロニクス機器
図 10 密閉化に対応した盤内熱交換構造設計の例
大容量水冷インバータの冷却技術大容量パワーエレクトロニクス装置では,装置容量の増
加に伴い小型・軽量化が強く求められている。富士電機で
は,産業用変換装置で培った水冷技術をベースに,プラン
ト用および風力発電装置向けインバータの水冷機種拡張を
進めている。水冷方式の採用により,従来の空冷方式に対して大幅な小型化が実現でき,設置スペースや質量の制約への対応が可能となった。主な特徴は次のとおりである。
⑴ 小型・低コストの高性能ヒートシンク設計⑵ 水流バランスが良く,低圧力損失の配管設計⑶ 密閉化に対応したシンプルな盤内熱交換構造設計
今後,さらなる小型・軽量化に向けて,ヒートシンクお
よび盤内熱交換器の性能向上と高信頼化を図り,市場ニー
ズへの的確で迅速な対応を進める。
変換装置盤
入出力盤
盤内熱交換器
気流分布
温度分布盤内構成
パワースタック
リアクトル
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図 14 大規模太陽光発電用パワーコンディショナ(1 MW機)
大規模太陽光発電用パワーコンディショナ世界中で積極的に導入されている太陽光発電設備は,発
電コストを低減するために,kW 単価が低い数 MW クラ
ス以上の大規模化が進んでいる。この大規模発電所に最適な太陽光発電用パワーコンディショナ(PCS)の 1 MW 機を製品化した。主な特徴は次のとおりである。
⑴ 高効率:富士電機の RB-IGBT を適用した 3 レベルモ
ジュールを使用することで,変換器と交流フィルタ損失を従来機に対して半減し,最高効率 98.5% を実現した。
⑵ 高信頼:1 MW を四つのユニットで構成し,一部のユ
ニットが故障しても正常なユニットで運転を継続するこ
とにより信頼性を向上した。
⑶ 屋外設置構造:盤内の構造を気密エリアと外気エリア
に分離することで効率的に冷却する屋外盤を実現した。
図 13 ニッケル水素電池搭載UPS
ニッケル水素電池搭載 10 kVA ラック型 UPS省エネルギー化が進むデータセンターでは,設備全体
の信頼性構築のために高効率な大型 UPS が導入されてい
る。一方,急速な増強などに合わせて要所への配置のため,
ラック内への実装のニーズがある。富士電機は,ニッケル
水素電池を搭載し,回路技術を向上したサーバラック搭載型 UPS を開発した。主な特徴は次のとおりである。
⑴ メンテナンスフリー:25 ℃で 8 年経過後でも 5 分間のバックアップが可能なため,システムのメンテナンス
削減に貢献⑵ 省スペース:9 kW/5 分を 5U サイズで実現し,ラッ
クの有効利用や大容量サーバへの対応などに貢献⑶ 高効率:安定供給と変換効率 96% の両立により,シ
ステム運用の安定化と消費電力削減に貢献
パワー半導体
図 15 大容量 2 in1 1,700 V/1,400A IGBTモジュール
大容量 2 in1 1,700 V/1,400 A IGBT モジュール風力・太陽光発電といった再生可能エネルギーの有効活
用と省エネルギー社会の実現のため,産業インフラに適用する電力変換システムは,大容量化と高効率化が進んでい
る。これらの電力変換装置に適用されるパワーデバイスに
対しても,高耐圧・大容量化が求められており,富士電機は並列接続に適した IGBT モジュールの製品ラインアップ
を拡充している。
本製品は,業界最高水準の低オン電圧化と低スイッチ
ング損失化を達成した第 6 世代 IGBT チップを適用した
IGBT モジュール PrimePACKTM である。本製品の最大定格は 1,700 V/1,400 A(2 in1)であり,高パワー密度かつ
高信頼性を実現した。
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パワー半導体
図 16 大容量「Vシリーズ」IPM
大容量「V シリーズ」IPM の系列化 関連論文:富士時報 2011, vol.84, no.0, p.0005 322
モータ駆動装置や電源装置などに使用される IPM は,
小型化・高効率化・高信頼性化が求められている。高性能最新世代 IGBT チップと新制御 IC を搭載した大容量「Vシリーズ」IPM を系列化した。特徴は次のとおりである。
⑴ トータル発生損失を既存品比 23.3% 低減(条件:
600V/300A 品,Ed=300V,Io(実測値)=100A,fc=10kHz)⑵ 電流容量拡大(600 V:300 A から 400 A へ,1,200 V:
150 A から 200 A へ)
⑶ デッドタイム期間の短縮(最小 2.4 µs / 1.0 µs)⑷ アラーム要因識別機能(OC,UV,TjOH)
⑸ ΔTc パワーサイクル耐量を既存品比 2 倍に改善(ΔTc=80 K 時)
⑹ 既存品とねじ穴位置,ガイドピンの互換性を維持
P631 パッケージ
図 17 A-NPC3レベル回路用IGBTモジュール
A-NPC3 レベル回路用 IGBT モジュールの系列拡大 関連論文:富士時報 2011, vol.84, no.0, p.0005 299
UPS などの電源装置では高い電力変換効率が求められ
ている。富士電機は独自の技術である RB-IGBT を適用し,
従来の NPC3 レベルよりも低損失な A-NPC3 レベル回路用 IGBT モジュールを開発し,系列化した。特徴を次に示す。
⑴ 4 in1 パッケージ:A-NPC 回路 1 相
™600 V/400 A(メインスイッチ・中間スイッチ)*™1,200 V/300 A(メインスイッチ)
600 V/300 A(中間スイッチ)
⑵ 12 in1 パッケージ:A-NPC 回路 3 相+サーミスタ *
™1,200 V/100 A(メインスイッチ)
600 V/100 A(中間スイッチ)
*:新系列
4 in1 パッケージ
12 in1 パッケージ
図 18 大容量「Vシリーズ」 IGBTモジュール
大容量「V シリーズ」 IGBT モジュール 関連論文:富士時報 2011, vol.84, no.0, p.0005 317
近年,大容量 IGBT モジュールの需要は,産業分野や
太陽光・風力発電分野で急速に拡大している。富士電機は,これまでに第 5 世代「U4 シリーズ」IGBT を搭載し
た IGBT モジュールの製品展開をしてきた。今回,新た
に第 6 世代「V シリーズ」IGBT を搭載した 1.7 kV 耐圧の IGBT モジュールを製品化した。本製品は,第 5 世代のチップ技術を進化させ,0.25 V の飽和電圧低減と,連続運転時の接合温度 Tjop を従来製品より 25 ℃高め 150 ℃で
の動作保障を実現した。パッケージサイズは,130×140(mm),190×140(mm)の 2 種類で,1 in1 と 2 in1 を構成する。1 in1 は 1,200 〜 3,600 A,2 in1 は 600 〜 1,200 Aの定格電流をカバーする。さらに,車両分野向けに AlSiCベースを適用した高信頼性モジュールも開発中である。
M256(2 in1)
M152(1 in1)
M151(1in1)
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電気を自在に操るパワーエレクトロニクス
図 20 宇宙用pチャネルパワー MOSFET
宇宙用 p チャネルパワー MOSFET 関連論文:富士時報 2011, vol.84, no.0, p.0005 344
宇宙用パワー MOSFET の製品群に新たに p チャネルパ
ワー MOSFET 系列を追加した。既に製品化されている nチャネルパワー MOSFET と用途に合わせて使い分けるこ
とで部品点数を削減でき,システム全体としての信頼性の
向上が可能である。富士電機の一般用パワー MOSFET に
採用している低オン抵抗化技術である QPJ を p チャネル
型としては初めて採用し,オン抵抗を低減させた。かつ,
従来の宇宙用パワー MOSFET と同等レベルの電離放射線耐量が 1,000 Gy,SEE 耐量は LET が 37MeV/(mg/cm2)
を確保した。次に示す仕様で,計 12 型式をラインアップ
している。
⑴ VDS:-100 V,-200 V⑵ パッケージ:TO-254,SMD-2,SMD-1,SMD-0.5
TO-254
SMD-2
SMD-1
SMD-0.5
図 19 第3世代トレンチMOSFET
第 3 世代トレンチ MOSFET近年,需要が急増しているハイブリッド車や電気自動車
において,電子システムのさらなる高効率化が求められて
いる。富士電機では,低オン損失かつ低スイッチング損失に優れた 60 〜 150 V の第 3 世代トレンチ MOSFET の製品を系列化した。主な特徴は次のとおりである。
⑴ 製品仕様 定格電圧 オン抵抗 パッケージ
60 V 3.0 mΩ,5.5 mΩ TO-247,D2-Pack
100 V 6.7 mΩ,10.8 mΩ,13.2 mΩ TO-247,D2-Pack
150 V 14.4 mΩ,22.8 mΩ,25.2 mΩ TO-247,D2-Pack
⑵ 特徴高信頼性:AECQ-101 規格準拠
低損失化:損失 10% 低減(第 2 世代品との比較)
TO-247
D2-Pack
150 V 100 V 60 V
図 21 二輪用イグナイタIGBT
二輪用イグナイタ IGBT四輪車や二輪車への排ガス規制,燃費規制を背景に,エ
ンジン制御システムに対する燃料制御や点火制御などの最適化,搭載部品の電子化が進んでいる。
富士電機は,二輪車の点火制御システムに用いられる
小型面実装タイプのイグナイタ IGBT を開発した。本製品は,IGBT に微細プロセスを用いることでチップの小型化を図り,小型面実装パッケージ(D-Pack,SC-63)へ
の搭載を可能にした。イグナイタ特有の各種サージに対して,C-G 間および G-E 間にツェナーダイオードを内蔵することで高いサージ耐量を確保している。25 ℃にお
ける主な定格および電気的特性は,①電流定格 6 A,②VCEs>370 V,③ VCE(sat)<2 V,④ Esb>150 mJ である。
パワー半導体
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パワー半導体
図 22 低待機電力PWM電源制御IC「FA5680シリーズ」
低待機電力 PWM 電源制御 IC「FA5680 シリーズ」近年,ノートパソコンをはじめとする民生機器用電源で
は高効率および低待機電力の要求が一層厳しくなっている。
富士電機は,この市場要求に対応するため低待機電力と
高効率を両立し,待機時低消費電力化プログラム Energy Star 規格 EPA5.0 に対応可能な PWM 電源制御 IC を開発し,65 W 電源で平均効率 89% 以上,無負荷時入力電力100 mW 以下を達成した。主な特徴は次のとおりである。
⑴ 700 V 耐圧の起動回路を内蔵⑵ 負荷に応じた動作周波数低減機能の内蔵⑶ 電流検出抵抗の損失低減⑷ 低待機電力と音鳴り防止の両立⑸ 周波数拡散機能による低 EMI ノイズ化⑹ 自動復帰版またはラッチ版を系列化した過負荷保護
図 23 電流共振制御IC「FA5760」
電流共振制御 IC「FA5760 シリーズ」大電力用途に用いられる電流共振方式の電源回路は,ト
ランスの薄型化にも有利なため幅広い機器への適用が期待されている。しかし,一般的に入力安定化電源と待機用電源を別途設けた 3 コンバータによる電源システムを採って
おり,回路規模が大きくなる欠点がある。
富士電機は,適用用途拡大のため,電流共振システムを
1 コンバータで実現した電流共振制御 IC「FA5760 シリー
ズ」を開発した。主な特徴は次のとおりである。
⑴ 600 V 起動素子内蔵⑵ 630 V ハイサイド駆動回路内蔵⑶ 共振はずれ防止回路を内蔵,広入力電圧に対応⑷ 低待機動作可能,無負荷時電力80 mW(AC100 V入力)
⑸ 過電流,過負荷,過電圧,ブラウンアウトなどの保護機能
図 24 SiCパワーモジュールパッケージ
SiC パワーモジュールパッケージ 関連論文:富士時報 2011, vol.84, no.0, p.0005 336
SiC デバイスの高耐圧,低損失,高周波・高温動作可能という特長を生かしたパワーモジュールを実現するため,
従来よりも小型高密度実装が可能で高信頼性なパッケージ
を開発した。このパッケージは,従来のアルミワイヤボン
ディング構造に替わり銅ピン接続構造を用いることで小型・高パワー密度を実現し,パワー密度上昇によるチップ
温度 Tj の上昇を厚銅ブロック接合 DCB 基板を用いた低熱抵抗化技術により低減している。さらに,シリコーンゲル
に代わるエポキシ樹脂封止構造を取ることで,チップ周辺の接合部に発生するひずみを緩和し高信頼性を確保した。
これらの技術の適用により,パッケージフットプリントサ
イズは従来の 2 分の 1,パワーサイクル耐量(ΔTj150 ℃比較)で 30 倍以上の新構造パッケージを開発した。
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パワー半導体
図 25 チップ端部の断面構造模式図
1,200 V RB-IGBT 関連論文:富士時報 2011, vol.84, no.0, p.0005 304
富士電機は,1,200 V 耐圧の新構造 RB-IGBT を開発した。
RB-IGBT は,高効率電力変換回路の中間点クランプに使用されるなど需要が高まってきている。逆方向耐圧(エ
ミッタ基準でコレクタに負電圧印加)は素子側面に形成さ
れる p 形分離層により実現されるが,従来,分離層は熱拡散のみで形成しており高耐圧化が難しかった。
分離層の形成方法を熱拡散とエッチングによる新構造と
することにより,1,200 V 耐圧クラスの RB-IGBT を安定して製造できるようになった。
本素子を適用した A-NPC3 レベル変換回路では,従来型の 2 レベル回路方式に対し,30% 以上の損失低減を達成した。 (b)新構造
(a)従来構造
活性領域
活性領域
分離層
ダイシング面
ダイシング面
n-p+
p+
コレクタp+
分離層n-
p+p+
コレクタp+
図 26 宇宙用POL電源制御ICのチップ
宇宙用 POL 電源制御 IC人工衛星の分散型電源システムで使用されるPOL(Point
of Load)電源向けに降圧型 DC-DC コンバータ制御 IC を
開発した。
宇宙環境で重要な耐放射線性を強化するデバイス・回路技術を開発することで,総照射線量が 1 kGy でも動作でき,
重粒子線照射による破壊耐量は 64 MeV・cm2/mg の高信頼性を実現している。入力電圧は 4.5 〜 30 V,出力電圧は
1.2 〜 3.3 V,スイッチング周波数は 100 〜 300 kHz である。
チップ外形は 2.6×2.3(mm)である。ハイサイドおよび
ローサイド n チャネル MOSFET ドライバ内蔵により高効率の同期整流方式を構成できる。同時に開発した宇宙用ト
レンチ型パワー MOSFET と最適な組合せを実現し,入出力電圧比 5V/3.3V において最大効率 90% 以上を達成した。
図 27 IGBTモジュールの絶縁基板端部における電界強度解析結果
IGBT モジュールにおける絶縁・極低温動作技術スマートグリッドや車両向け IGBT モジュールは,小
型・高効率化のため,高耐電圧による動作が求められてい
る。また,極寒地での使用には,極低温(-55 ℃)での
製品始動保証が要求される。
電界解析により得られた電界強度と実機の部分放電開始電圧,絶縁破壊耐圧との整合を行い,電界解析を用いた
IGBT モジュール構造の高耐圧設計を可能とした。
また,一般の IGBT モジュールに用いられる絶縁封止材であるシリコーンゲルは極低温時に物性が変化するた
め,裂けが発生し絶縁を確保することが難しい。そこで材料組成を最適化することで極低温で IGBT モジュール構造の絶縁を確保し,従来と比較して,より低温で始動できる
IGBT モジュールを製品化した。
電界強度
低
高
セラミックス
銅回路
銅回路
最大電界強度
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パワー半導体
図 28 シリコーンゲルの絶縁破壊電圧の温度依存性
IGBT モジュールにおける高耐圧絶縁封止技術地球環境保護や省エネルギーに対する意識の高まりを背
景に,風力発電をはじめとする電力変換装置に用いられる
IGBT モジュールは,送電効率の向上を目的に高耐圧化が求められている。また,今後の自動車ではエンジンルームに
搭載されるため,従来と比べ高温での使用が求められる。
一般に,絶縁材料は温度上昇に伴い絶縁破壊耐圧が低下する。そこで,IGBT モジュールに用いられる絶縁封止材のシリコーンゲルを開発した。シリコーンゲルの材料組成を最適化することで,温度変化に伴う絶縁耐圧の変化を抑制し,従来品に対し動作温度域で約 23% 絶縁耐圧の向上を実現した。また,シリコーンゲルの温度劣化メカニズム
を究明し,耐熱性を向上することで動作温度における絶縁寿命を大幅に向上させることができた。
15
100温度(℃)
2000
30
開発品
従来品
絶縁破壊耐圧(kV/mm)
受配電制御機器
図 29 63AF小型低圧遮断器
32 〜 63 AF の小型低圧遮断器主に機械装置や制御盤などにおける比較的小電流の回
路保護を目的として小型低圧遮断器(MCCB・ELCB)を
開発中である。従来品より外形幅を従来比 70% に縮小し,
設置面積縮小のニーズに対応する。主な仕様は次のとおり
である。
⑴ 外形サイズ(3 極品):W54×H100×D68(mm)
⑵ フレームサイズ:32, 50, 63 AF⑶ 定格電流範囲:3 〜 63 A⑷ 定格遮断容量:AC230 V/7.5 〜 15 kA AC440 V/2.5 〜 7.5 kA⑸ 適合規格:IEC,JIS,CCC,UL489⑹ 用途:一般配線用,電動機保護用,直流回路用⑺ 取付け方式:ねじ取付け,DIN レール取付け共用
図 30 高圧系統連系用保護継電器
高圧系統連系用保護継電器太陽光発電システムなどの分散型電源を高圧商用電源に
系統連系させる場合に使用する保護継電器を開発した。主な特徴は次のとおりである。
⑴ 地絡過電圧継電器(OVGR)単独および逆潮流を
監視・保護する逆電力継電器(RPR)機能を加えた
(OVGR+RPR)の 2 機種を用意⑵ ディジタル演算による安定した保護特性⑶ 制御電源は AC/DC110 V 共用⑷ 停電補償電源を内蔵したことにより外部電源が不要と
なり,停電時にも整定時間で動作可能⑸ 常時監視と自動点検により内部回路を診断し,信頼性を向上
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図 31 Igr形絶縁監視装置
Igr 形絶縁監視装置絶縁状態の常時監視により電気設備を安全かつ継続的に
使用するための Igr 形絶縁監視装置を開発した。本装置は,
自家用電気工作物保安管理規程に準拠した活線状態での絶縁監視が可能である。主な特徴は次のとおりである。
⑴ Igr 方式のため,相線式に関わらず相間対地静電容量のアンバランスに影響を受けない絶縁劣化検出が可能
⑵ 集合形計測装置として 4 回路および 8 回路用をライン
アップし,適用系統規模にフレキシブルに対応可能⑶ 計測表示に LCD を採用し,全回路の絶縁状態を同時
に確認可能⑷ RS-485 通信機能(含 Modbus/RTU)を搭載し,電
力監視システム「F-MPC シリーズ」とも容易に連携可能
図 32 データセンター配電用バスダクトシステム
データセンター配電用バスダクトシステム大規模化,モジュール化,集中化,分散化など多様化す
るデータセンターのニーズに応えるため,電力監視システ
ムを統合した配電用バスダクトシステムを発売した。サー
バ室の床下や天井空間にバスダクトを敷設し,それに回路保護と電力監視機能を持たせたプラグイン式の分電ユニッ
トを挿入することで,サーバラックごとに電力供給と監視ができる。主な特徴は次のとおりである。
⑴ バスダクト配電容量 300 〜 600 A⑵ サーバラック単位で分電ユニットを装着するためサー
バ増設ごとに拡張が可能⑶ 分電盤を不要としサーバスペースとして最大利用化⑷ 通信型電力計測ユニットと監視 HMI によるサーバ
ラック情報のリアルタイム表示
配電盤
中央監視室 プラグイン式分電ユニット
施設監視室 バスダクト 天井施工
バスダクト床下施工
ローカル監視ユニット
図 33 DINレール取付け1回路形電力監視ユニット
DIN レール取付け 1 回路形電力監視ユニットDIN レール取付けタイプの 1 回路形電力監視ユニット
「F-MPC04E」を開発した。従来のパネル取付けタイプの
「F-MPC04S」に対して大幅な小型化と設置容易化を実現した。主な特徴は次のとおりである。
⑴ 小型・省エネルギー(対 F-MPC04S)大きさ 1/2,質量 1/3,消費電力 30% 低減
⑵ RS-485 通信を標準搭載従来の F-MPC-Net プロトコルに加え,Modbus/RTUプロトコルを搭載
⑶ ロータリスイッチとディップスイッチによる容易な設定
⑷ オプションの専用表示器によるパネルへの計測値表示 (a)1回路形電力監視ユニット本体 (DINレール取付け)
(b)オプションの専用表示器 (パネル取付け)
受配電制御機器
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電気を自在に操るパワーエレクトロニクス
受配電制御機器
図 34 押しボタンスイッチ(送信器)と受信器
「ワイヤレス押しボタンスイッチ」設置コストやメンテナンスコストの削減が可能な省配線
機器の需要が高まっていることから,工場などの一般産業分野に適した「ワイヤレス押しボタンスイッチ」を発売し
た。ワイヤレス押しボタンスイッチは,発電機付き送信器を内蔵した押しボタンスイッチ本体と,受信器を介したワ
イヤレス遠隔操作が可能なため,生産ラインやコンベヤな
どでの配線作業の煩わしさを解消できる。特徴を次に示す。
⑴ 動作距離:最長 100 m〔受信器が金属筐体(きょうた
い)内に設置される場合は最長 25 m〕
⑵ 押しボタンスイッチ:防じん・防水保護等級 IP65 を
持っており工業生産環境でも使用可能⑶ 受信器:リレー出力品(2c 接点)とトランジスタ出
力品(PNP×4)の 2 種類を用意(a)押しボタンスイッチ(送信器) (b)受信器
* 本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。