伸び悩む訪日外国人旅行消費額を増やすには| 第一生命経済研究...

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1 / 6 Economic Trends / マクロ経済分析レポート 発表日:2019 年 8 月 7 日(水) 伸び悩む訪日外国人旅行消費額を増やすには ~リピーターと欧米豪からの観光客増加により、一人当たり旅行消費額は約 1.3 万円増~ 第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 副主任エコノミスト 小池 理人(℡:03-5221-4573) (要旨) ○訪日ビザ緩和等の施策により訪日外客数は順調に増加しているものの、中国での行郵税の改正 や電子商務法施行を主因として、訪日外国人旅行消費額は伸び悩んでいる。 ○訪日回数と一人当たり訪日外国人旅行消費額との間には相関関係が確認できる。初回来訪時の 訪日外国人の不満を取り除くことで、再訪を促し一人当たり旅行支出額の単価を上昇させるこ とができるだろう。 ○訪日外国人に占める欧米豪からの観光客の割合は低く、増加させる余地が大きい。欧米豪から の観光客の一人当たり旅行消費額はアジアの国と比較して高い傾向にあるため、欧米豪からの 訪日外国人を増加させることで単価上昇が可能になろう。そのためには、長期滞在を前提とし たレジャーの充実等が求められよう。 ○リピーターの獲得や欧米豪からの訪日外国人を増加させることにより、一人当たり消費額を約 1.3 万円増額する効果が見込まれるが、2020 年に年間消費額8兆円という目標達成は難しい。 リピーターの増加・訪日外国人に占める欧米豪からの観光客ウエイトの上昇が実現できたとし ても、達成時期は 2026 年頃になるだろう。 ○ 訪日外客数は順調に増加するも、外国人旅行消費額は伸び悩みが続く 訪日外客数が増加する中で、旅行収支の黒字幅が拡大している。2014 年中頃まで、旅行収支は赤字 が続いていたが、旅行収支の支払額が横ばいで推移する中で、受取額が増加を続け、2014 年度以降は 旅行収支の黒字が続いている(資料1)。豪雨や台風、地震といった自然災害の影響により、一時的 に旅行収支に下押し圧力がかかる場面もみられたものの、均してみれば旅行収支は増加傾向で推移し ている。政府は 2020 年の訪日外客数を 4,000 万人、訪日外国人旅行消費額8兆円を目標として掲げて おり、観光分野での稼ぐ力がこれまで以上に注目されている。 0 20,000 40,000 60,000 80,000 0 1,000 2,000 3,000 4,000 201020112012201320142015201620172018訪日外客数 旅行消費額(右軸) 電子商務法の施行 (億円) (万人) 出所:日本政府観光局省(JNTO)「訪日外客数・出国日本人数」、 観光庁「訪日外国人消費 動向調査」 (資料2)訪日外客数と旅行消費額の推移 行郵税の税制改正 20,000 10,000 0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 旅行収支(ネット) 旅行収支(受取) 旅行収支(支払) (資料1)旅行収支の推移 出所:財務省「国際収支統計」 (億円)

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Economic Trends / マクロ経済分析レポート

発表日:2019 年 8 月 7 日(水)

伸び悩む訪日外国人旅行消費額を増やすには

~リピーターと欧米豪からの観光客増加により、一人当たり旅行消費額は約 1.3 万円増~

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部

副主任エコノミスト 小池 理人(℡:03-5221-4573)

(要旨)

○訪日ビザ緩和等の施策により訪日外客数は順調に増加しているものの、中国での行郵税の改正

や電子商務法施行を主因として、訪日外国人旅行消費額は伸び悩んでいる。

○訪日回数と一人当たり訪日外国人旅行消費額との間には相関関係が確認できる。初回来訪時の

訪日外国人の不満を取り除くことで、再訪を促し一人当たり旅行支出額の単価を上昇させるこ

とができるだろう。

○訪日外国人に占める欧米豪からの観光客の割合は低く、増加させる余地が大きい。欧米豪から

の観光客の一人当たり旅行消費額はアジアの国と比較して高い傾向にあるため、欧米豪からの

訪日外国人を増加させることで単価上昇が可能になろう。そのためには、長期滞在を前提とし

たレジャーの充実等が求められよう。

○リピーターの獲得や欧米豪からの訪日外国人を増加させることにより、一人当たり消費額を約

1.3万円増額する効果が見込まれるが、2020年に年間消費額8兆円という目標達成は難しい。

リピーターの増加・訪日外国人に占める欧米豪からの観光客ウエイトの上昇が実現できたとし

ても、達成時期は 2026年頃になるだろう。

○ 訪日外客数は順調に増加するも、外国人旅行消費額は伸び悩みが続く

訪日外客数が増加する中で、旅行収支の黒字幅が拡大している。2014年中頃まで、旅行収支は赤字

が続いていたが、旅行収支の支払額が横ばいで推移する中で、受取額が増加を続け、2014年度以降は

旅行収支の黒字が続いている(資料1)。豪雨や台風、地震といった自然災害の影響により、一時的

に旅行収支に下押し圧力がかかる場面もみられたものの、均してみれば旅行収支は増加傾向で推移し

ている。政府は 2020年の訪日外客数を 4,000万人、訪日外国人旅行消費額8兆円を目標として掲げて

おり、観光分野での稼ぐ力がこれまで以上に注目されている。

0

20,000

40,000

60,000

80,000

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3,000

4,000

2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年

訪日外客数 旅行消費額(右軸)

電子商務法の施行

(億円)(万人)

出所:日本政府観光局省(JNTO)「訪日外客数・出国日本人数」、 観光庁「訪日外国人消費

動向調査」

(資料2)訪日外客数と旅行消費額の推移

行郵税の税制改正▲ 20,000

▲ 10,000

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

旅行収支(ネット) 旅行収支(受取) 旅行収支(支払)

(資料1)旅行収支の推移

出所:財務省「国際収支統計」

(億円)

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Economic Trends / マクロ経済分析レポート

訪日外客数と訪日外国人旅行消費額のこれまでの推移を確認すると、訪日外客数は順調に増加して

いるものの、訪日外国人旅行消費額は 2015年度以降伸び悩んでいる(資料2)。訪日外客数は、2013

年にタイやマレーシアといった東南アジアの国々への訪日ビザの要件緩和を行ってから、急激な増加

がみられ、2019年1~6月で既に 1,600万人を超える水準となっている。2020年にオリンピック・パ

ラリンピックが開催されることを考慮すると、訪日外客数 4,000万人の目標達成は十分可能であると

考えられる。

一方で、訪日外国人旅行消費額は 2015年度以降伸び悩み、2018年度時点での金額は、政府目標(訪

日外国人旅行消費額8兆円)の半分程度の金額に止まっている。これは、中国における税制改正や規

制強化が主因であると考えられる。2015年4月に中国国外で購入した物品を本国に持ち帰る際に課さ

れる行郵税が改正され、実質的な増税となったことで中国人観光客による日本での物品購入が減少し

た。その後、2019年1月に中国で電子商取引法が改正されたことを受けて、中国での電子商務経営者

に行政認可の取得義務が課され、日本で購入した物品を中国国内で販売する転売活動が減少し、旅行

消費額は減少することになった。

訪日外客数 4,000万人と訪日外国人旅行消費額8兆円が同時に達成されるとするならば、2015年度

以降 15万円前後で推移している外国人旅行者一人当たり支出額を3割近く上昇させ、20万円にまで増

加させることが求められる。

外国人旅行者一人当たり支出を増加させるための施策は複数あると考えられるが、本稿ではリピー

ターの獲得と欧米豪からの訪日外国人増加の2点に対象を絞り、分析していく。

○旅行消費額を増やすリピーターの存在

日本への来訪が2回目以降となる訪日外国

人(以下、リピーター)は、初回来訪者と比

較して一人当たりの旅行消費額が高くなる傾

向がある(資料3)。これは、2回目以降の

来訪で、いわゆるコト消費(買い物をはじめ

としたモノの購入に関する消費ではなく、レ

ジャーへの参加等、経験への消費活動のこと)

が増加するためであると考えられる1。訪日

外国人消費動向調査をみると、スキー・スノ

ーボードや自然体験ツアーといったコト消費

が、次回したいこととして挙げられており

(資料4)、リピーターは1回目の来訪で行

えなかったコト消費を、再来訪時に行う可能

性が高いと考えられる。コト消費は観光地散

策等に比べて支出を伴うことが多い。更に、スキーや自然体験、スポーツ観戦などのコト消費はその

特性として消費に時間を要するため、滞在期間の長期化が見込める。

1 訪日回数の増加と一人当たり消費額増加の相関はアジアの国からの訪日外国人(観光・レジャー目的)にみられるもの

の、欧米豪においては同様の関係がみられない。これは、欧米豪からの訪日外国人が長期滞在を前提としているため、

初回来日時からコト消費に費やすウエイトが高いためであると考えられる。また、観光以外の目的(ビジネス等)の訪日

外国人についても、訪日回数と消費額との相関がみられない。こちらについては、ビジネス等の主目的に大部分の滞在

時間を費やすため、訪日回数が消費行動に与える影響が小さくなるためであると考えられる。

出所:観光庁「訪日外国人消費動向調査」(2018年)より筆者作成

(資料3)訪日回数と旅行消費額(観光・レジャー目的)

7.0 7.2 7.7 9.1

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

35.0

1回目 2~5回目 6~9回目 10回以上

韓国(万円)

11.2 11.7 12.7 14.2

0

5

10

15

20

25

30

35

1回目 2~5回目 6~9回目 10回以上

(万円) 台湾

14.1 14.7 15.117.3

0

5

10

15

20

25

30

35

1回目 2~5回目 6~9回目 10回以上

(万円) 香港

21.6 22.6 22.025.7

0

5

10

15

20

25

30

35

1回目 2~5回目 6~9回目 10回以上

中国(万円)

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通常、長期滞在の場合には短期滞在と比較

して宿泊費や遊行費等が多くかかるため、平

均泊数と一人当たり訪日外国人旅行消費額

(観光・レジャー目的)との間には相関関係

が確認できる(資料5)。このため、リピー

ターの増加は、コト消費への支出増加に加え、

滞在日数の長期化に伴う宿泊費等をも増加さ

せることで一人当たり旅行支出額を高めるこ

とに繋がると考えられる。

また、リピーターを増やすためには、訪日外

国人の不満を取り除くことも必要である。日本

に来訪した外国人の満足度は高く、滞在中に日

本で行ったことに満足した人の割合は多くの項

目で9割を超えている(資料6)。一方で、日

本への不満点(旅行中に困ったこと)も多く挙

げられており、コミュニケーションの難しさや

無線LAN環境に対して不満を持った訪日外国

人も多い(資料7)。困ったことはなかったと

する回答は 36.6%であったが、コミュニケーシ

ョンや公共交通の利用といった項目についての

不満は、訪日回数が増えるほど低下している2た

め、日本に慣れていない初回来訪者(または訪

日回数の少ないリピーター)の不満は、それよ

りも高い水準にあり、そのことが日本へのリピ

ートを抑制する要因となっている可能性が高い3。そのため、訪日外国人が感じた不満(言語

の問題や通信環境等)を丁寧に取り除き、再来

訪を促すことがリピーターの獲得に繋がり、一

人当たり旅行消費額の増加に繋がると考えられ

る。

○欧米豪からの訪日外国人数を増加させることで、一人当たり旅行支出額を増やす

前述のように、平均泊数と一人当たり旅行支出額との間には相関関係がみられることから、訪日外

国人に占める欧米豪からの旅行者のウエイトを引き上げることも、一人当たり旅行消費額の増額に寄

2 「施設等のスタッフとのコミュニケーションがとれない」を困ったことと回答した割合は訪日回数 1回で 23%→2~

4回目で 20%→5回目以上で 17%と、日本に慣れることによって徐々に困る割合が減少していく。 3 株式会社日本政策投資銀行、公益財団法人日本交通公社「DBJ・JTFBアジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査

(平成 29年版)」のアンケートによると、「どんなもの/サービスがあれば、日本に行きたい/また行きたいです

か?」との問いに対し、「言葉」と「利便性の改善/旅行し易い環境整備」といった回答が上位に上げられている。

これらの不満が日本への渡航を妨げる要因となっているとみられる。

韓国

台湾

香港

中国

タイ

シンガポール

マレーシア

インドネシア

英国

ドイツ

フランス

イタリア

スペイン

ロシア

米国

カナダ

オーストラリア

y = 1.2995x + 5.8203R² = 0.731

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18

(資料5)平均泊数と訪日外国人旅行消費額(一般客(観光・レジャー目的))

(万円)

(日)

一人当たり訪日外国人旅行消費額(一般客)

平均泊数

出所: 観光庁「訪日外国人消費動向調査」(2018年)より筆者作成

0.0

3.0

6.0

9.0

12.0

15.0

18.0

スキー・

スノーボード

自然体験ツアー・

農漁村体験

スポーツ観戦 舞台鑑賞

今回したこと 次回したいこと

(資料4)訪日外国人が来訪時にしたいこと

出所:観光庁「訪日外国人消費動向調査」(2018年)

(%)

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

ショッピング

自然・景勝地観光

日本食を食べること

スキー・スノーボード

スポーツ観戦(相撲・サッカー等)

日本の歴史・伝統文化体験

テーマパーク

日本の日常生活体験

(資料6)滞在中に行ったことに満足した人の割合

出所:観光庁「訪日外国人消費動向調査」(2018年) (%)

順位 不満点 回答率

1 施設等のスタッフとのコミュニケーショ ンがとれない 20.6%

2 無料公衆無線LAN環境 18.7%

3 公共交通の利用 16.6%

4 多言語表示の少なさ・わかりにくさ(観光案内版・地図等) 16.4%

5 クレジット/デビットカードの利用 10.0%

出所:観光庁「訪日外国人旅行者の国内における受入環境整備に関するアンケート」

    (平成30年度調査日)より筆者作成

※「困ったことはない」との回答は36.6%

(資料7)旅行中困ったこと

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Economic Trends / マクロ経済分析レポート

与すると考えられる。欧米豪からの訪日外国

人の平均泊数は、アジアからの訪日外国人の

平均泊数と比較して長く、その平均日数は 10

日を超えている。そのため、欧米豪からの訪

日外国人を増加させることは、一人当たり旅

行消費額の増額に繋がる可能性が高い。

しかし、2018年の訪日外国人の国別割合

(図表8外円)をみると、85%以上がアジア

からの外国人で占められており、欧米豪から

の旅行者の割合は低い。観光客の誘致におい

ては地理的条件を考慮する必要がある4ため、

アジアからの訪日割合が高くなるが、同じくアジア圏に位置するタイ(図表8内円)と比較しても訪

日外国人全体に占める欧米豪の割合は合わせて 13.8%と低く、一人当たり消費額の高い欧米豪の需要

を十分に取り込めていない可能性がある。

欧米豪からの訪日外国人を増やすための施策としては、レジャーの充実が挙げられる。日本の観光

業の多くは、日本人向けの一泊二日の滞在やアジアからの観光客を対象とした短期滞在を前提とした

ビジネスモデルを取っていることが多い。欧米豪からの観光客を増加させるにあたっては、長期滞在

を前提とした、訪日外国人を飽きさせないレジャーを用意することなどが急務であろう。具体的な施

策としては、ナイトタイムエコノミーの活用が考えられる。ナイトタイムエコノミーとは、18時から

翌日朝6時までの活動を指す5。日本では、深夜に営業し

ている施設が少ないため、実際、欧米豪からの訪日外国人

の中で、日本の夜を楽しみたいとの声が多く、街歩きや飲

食、芸能鑑賞などに関心が持たれている(資料9)。特に、

地方の観光地でのナイトタイムエコノミーは乏しい。例え

ば、旅館に宿泊した際、19時に夕食を食べ始め、21時に

食事を終えた後、することが無くなったという状況は多く

の人が経験したことがあるだろう。東京や大阪といった都

市部においても、飲食店の営業は深夜まで行われているも

のの、ショービジネス等の営業終了時刻は海外に比べて早

く、訪日外国人による需要を取り逃していることから、夜

間に活動を提供できる場が求められるだろう。

○一人当たり旅行消費額を約 1.3万円押し上げ

以上のように、リピーターの増加と欧米豪からの訪日外国人の増加は、一人当たり訪日外国人旅行

消費額の増加に寄与する可能性が高いと考えられるが、どの程度の増額が期待できるだろうか。アジ

アでのリピート率増加と訪日外国人に占める欧米豪割合の増加を前提に試算6すると、リピーターの増

加と欧米豪からの訪日外国人の増加は、一人当たり訪日外国人旅行消費額を約 15.3万円から約 16.6

4 国連世界観光機関(UNWTO)によると、観光客の5人中4人は居住地域内を旅行する。地理的な距離は観光客の

欧米の観光客をアジアに呼び込むことは、アジアの観光客をアジアに呼び込むことよりも困難である。 5国土交通省 観光庁 観光資源課「ナイトタイムエコノミー推進に向けたナレッジ集」

6 試算方法については次ページの【試算方法】に記載

順位 不満点 回答率

1 繁華街の街歩き 54%

1 日本の伝統的な料亭での飲食 54%

3 ラ イ トアップされた季節の庭園・風物の見物 45%

4 カ ジュアルでおしゃれなカ フェ やレストラ ンでの飲食 44%

5 高層ビル・高台等からの夜景鑑賞 37%

6 日本の伝統芸能鑑賞 36%

7 ラ イ トアップされた建築物の鑑賞 35%

7 イ ベント・祭りの見物 35%

9 カ ラ オケやバー、クラ ブなど 33%

10 エンターテイ メントが楽しめるレストラ ン 31%

(資料9)訪日旅行で特に夜体験したいこと

出所:株式会社日本政策投資銀行、公益財団法人日本交通公社

「DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査(2018年度版)」

より筆者作成

出所:日本政府観光局省(JNTO)「訪日外客数・出国日本人数」(2018年)

Ministry of Tourism & Sports「Tourism receipts from international tourist」 (2016年)

   ※日本の国別割合は2018年、タイの国別割合は2016年

アジア 北アメリカ ヨーロッパ オセアニア その他

(資料8)訪日・訪タイ外客数の国別割合

(ヨーロッパ18.5%)

北アメリカ6.2%

外円:訪日外客数の国別割合

内円:訪タイ外客数の国別割合アジア85.8%

(アジア71.5%)

(北アメリカ4.1%)

北アメリカ6.2%

ヨーロッパ5.5%

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万円に上昇させるという結果になった(リピーターの増加は 4,522円、欧米豪からの訪日外国人の増

加は 8,373円、それぞれ一人当たり訪日外国人旅行消費額を増額)。リピーター増加については中国

に、欧米豪からの訪日外国人の増加については欧州に、それぞれ改善の余地が大きいことが分かる。

しかし、本試算の前提条件のもとでは、一人当たり消費額は、政府の掲げる目標である一人当たり

消費額 20万円(訪日外客数を 4,000万人、訪日外国人旅行消費額8兆円)には達していない。では、

目標達成の時期はいつになるのか。2020年に訪日外客数 4,000万人を達成、その後訪日外客数を年

200万人ずつ増加し、2030年に 6,000万人を達成することを前提とするならば、達成時期は 2026年頃

にまで後ずれすることになるだろう(資料 10)。

【試算方法】

試算には訪日外国人消費動向調査、訪日外客数・出国日本人数を使用した。まず、リピーター増加

後の単価を試算する。リピーターの増加による一人当たり旅行消費額の増額は、アジアからの訪日外

国人(観光・レジャー目的)によって生じると仮定し、アジア各国のリピーター増加後の一人当たり

旅行消費額を試算した(資料 11)。

出所:日本政府観光局省(JNTO)「訪日外客数・出国日本人数」より筆者作成

※2018年の旅行消費額は一般客とクルーズ客の合算

※2018年の旅行消費額は一般客とクルーズ客の合算2019年以降は一般客とクルーズ客の割合が2018年と変わらないことを前提とし、旅行消費額の

単価は今回の試算値である16.3万円、クルーズ客の単価は2018年の4.4万円で据え置きとした

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

70,000

80,000

0

2,000

4,000

6,000

8,000

訪日外客数 旅行消費額(右軸)

(予測)

(資料10)旅行消費額の見通し (億円)(万人)

リピーターの増加・欧米豪からの

訪日外国人の増加による単価上

昇の影響幅

②/① ③×④ ⑥×(1+⑤)① ② ③ ④ ⑤ ⑥

1回目 59.1% 216,449 14.9%2~5回目 33.0% 225,556 43.6%6~9回目 3.7% 220,482 15.7%10回以上 4.1% 257,194 25.8%1回目 32.7% 69,524 14.9%2~5回目 50.1% 72,429 43.6%6~9回目 7.1% 77,384 15.7%10回以上 10.1% 91,375 25.8%1回目 14.9% 140,695 14.9%2~5回目 43.6% 147,091 43.6%6~9回目 15.7% 150,969 15.7%10回以上 25.8% 173,194 25.8%1回目 18.5% 111,691 14.9%2~5回目 49.3% 116,905 43.6%6~9回目 14.7% 126,761 15.7%10回以上 17.5% 142,030 25.8%1回目 50.8% 131,732 14.9%2~5回目 37.7% 141,967 43.6%6~9回目 5.8% 170,275 15.7%10回以上 5.7% 202,393 25.8%

一般客(観光・レジャー目的)

実際の単価

※訪日回数が影響を与える対象を、アジアの一般客(観光・レジャー目的)とし、リピーター増加後のウエイトのもとでの一人当たり旅行消費額を試算※リピーター増加後のウエイトには最も日本へのリピート率が高い香港のウエイト(2018年)に他国がなったと仮定※実際の単価には、訪日外国人消費動向調査の1人1回当たり旅行消費単価(パッケージツアー参加費内訳含む)【観光・レジャー目的】を使用し、それぞれの国の回答者数を用いて加重平均

※単価上昇率(観光・レジャー目的)に一般客(全体)に占める一般客(観光・レジャー目的)の割合を乗じることで、単価上昇率(一般客全体)を試算※単価上昇率(一般客全体)を実際のウエイトのもとでの一人当たり旅行消費額に乗じることで、目標ウエイトのもとでの一人当たり旅行消費額(一般客全体)を試算

出所:観光庁「訪日外国人消費動向調査」より筆者作成

※実際のウエイトは、訪日外国人消費動向調査の回答者属性【観光・レジャー目的】による、日本への来訪回数ごとの回答者数の各国別ウエイトを使用

※リピーター増加後のウエイトのもとでの一般客(観光・レジャー目的)の一人当たり旅行消費額を、実際のウエイトでの一般客(観光・レジャー目的)の一人当たり旅行消費額で除することで単価上昇率

8.5% 149,146 161,876

台湾 121,681 124,168 2.0% 88.1% 1.8%

その他アジア

141,873 160,503 13.1% 65.0%

0.0% 154,581 154,581

127,579 129,876

香港 153,501 153,490 0.0% 92.9%

224,870 233,363

韓国 73,647 77,669 5.5% 83.2% 4.5% 78,084

中国 221,256 231,573 4.7% 81.0%

81,632

 (観光・レジャー目的)を試算

※試算の前提:リピーター増加による一人当たり旅行消費額の増額は、アジアからの一般客(観光・レジャー目的)にのみ生じる

(資料11)リピーター増加による一人当たり旅行消費額の増加

国名 訪日頻度

一般客(全体)

実際の訪問頻度ウエイト

リピーター増加後の訪問頻度ウエイト

単価(実際)

単価(リピーター増加後)

単価上昇率(観光・レジャー目的)

レジャー割合単価上昇率

(一般客全体)単価

(実際のウエイト)単価

(リピーター増加後)

3.8%

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本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所調査研究本部経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

Economic Trends / マクロ経済分析レポート

次に、リピーターの増加や欧米豪からの訪日外国人の増加が、一般客全体の一人当たり旅行消費額

にどの程度影響を与えるのかを試算した(資料 12)。その結果、リピーターの増加による影響は

4,522円(資料 12④157,551円-①153,029円)欧米豪からの訪日外国人増加による影響は 8,373円

(資料 12⑥165,924円-④157,551円)であり、一般客全体の一人当たり旅行消費額を約 1.3万円押し

上げることが分かった。

②×③ ②×⑤① ② ③ ④ ⑤ ⑥

総数 153,029 157,551 総数:100% 100.0% 157,551 総数:100%   165,924

韓国 78,084 81,632 26.1% 21,292 22.3% 18,231

中国 224,870 233,363 22.4% 52,382 19.2% 44,853台湾 127,579 129,876 15.6% 20,199 13.3% 17,295香港 154,581 154,581 7.5% 11,600 6.4% 9,933タイ 124,421 135,041 3.9% 5,286 3.4% 4,526シンガポール 172,821 187,572 1.5% 2,828 1.3% 2,422マレーシア 137,612 149,358 1.6% 2,399 1.4% 2,054インドネシア 141,419 153,489 1.4% 2,095 1.2% 1,794フィリピン 121,921 132,327 1.6% 2,170 1.4% 1,858ベトナム 188,376 204,454 1.3% 2,744 1.1% 2,349インド 161,423 175,201 0.5% 926 0.5% 793英国 220,929 220,929 1.1% 2,486 5.0% 11,014フランス 191,736 191,736 1.1% 2,020 4.7% 8,949ドイツ 215,786 215,786 0.7% 1,592 3.3% 7,054イタリア 223,555 223,555 0.5% 1,157 2.3% 5,124ロシア 237,234 237,234 0.3% 770 1.4% 3,410スペイン 188,256 188,256 0.4% 772 1.8% 3,422米国 191,539 191,539 5.2% 10,006 3.4% 6,535カナダ 183,218 183,218 1.1% 2,048 0.7% 1,337豪州 242,041 242,041 オセアニア:1.9% 1.9% 4,545 オセアニア:2.8% 2.8% 6,777その他 199,728 199,728 その他:4.1% 4.1% 8,236 その他:3.1% 3.1% 6,195出所:観光庁「訪日外国人消費動向調査」、日本政府観光局省(JNTO)、「訪日外客数・出国日本人数」より筆者作成※実際の単価には、訪日外国人消費動向調査の1人1回当たり旅行消費単価(一般客(全目的))を使用※欧米豪増加後のウエイトにはインバウンド客における欧米豪割合の高いタイの国別インバウンド客のウエイトを設定※欧米豪増加後のウエイトでの各国ごでのとウエイトの内訳は、目標ウエイトでの各エリアのウエイトを、実際のウエイトでの各エリアでの各国のウエイトに応じて按分する※リピーター増加後の単価には、上述の試算によって算出された金額を使用※訪日外国人消費動向調査の国籍・地域に記載されている国をそれぞれのエリアに分類

単価(総数)への寄与

単価(総数)への寄与

欧米豪増加後のウエイト

アジア:71.5%

ヨーロッパ:18.5%

北アメリカ:4.1%

実際の単価 実際のウエイト

アジア:83.5%

ヨーロッパ:4.2%

北アメリカ:6.3%

リピーター増加後の単価

(資料12)リピーター増加・欧米豪増加後の単価リピーター増加・欧米豪からの訪日外国人増加リピーター増加・国別ウエイト不変