京都大学yhal.oj/mori/mori1q/box020/im… · created date: 11/1/2013 3:54:36 pm

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原子核 岡ぶ 5 1980■ rぇ ¨ α ¨

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Page 1: 京都大学yhal.oj/Mori/Mori1Q/Box020/IM… · Created Date: 11/1/2013 3:54:36 PM

原 子 核 の 歌

岡ぶ

井い

隆5

1980■「

こrぇら

焦ヶ九え蒔

わたしには原子核ェネルギ

ーに関する歌がたくさんあっ

て、二十代から七十代までそ

れを巡ることができる。広島

に原爆が投下された

日だ

った

と思う

が、愛知県刈谷市の

製鋼工場に学徒動員

で行

っていたとき、

旧制高校の物理の教

官がこの「新型爆弾」

が原子核物理に由来

していることに、ほ

んのりと触れた解説をした。

工場の広場で、わたしたちに

説明する教官の額の汗まで記

憶にのこっている。その程度

には、理系の人達には予想が

ついていたのだろう。戦後に

ってから、今度は正式に教

強度議時議¨締勲雄″】ない

ギトについて習

つて、それを

解き明かした人間の理知とい

うものに驚異を抱いた。しか

しわたしには、わからないと

ころの多い学問だと思い、理

工学系へ進学することをあき

らめたのであ

った。

わたしには、このテーマに

関しては世の中の振核

・反原

子力の考えには、与しがたい

気持ちがあり、しばしば反世

論的な作品を作

って来た。

亡ぶなら核のもとにてわれ

死なむ人智はそこに暗くこ

ごれば    『αの星』

という

一首は

一九八三年ごろ

の歌だが、核エネルギーの発

見には

「人智」

(人間の知の

人智の凝縮に驚異抱く

皮肉込めつつ平和利用願う

力)が暗鬱な形ではあるが凝

縮している。自分は、もし亡

びるならその力のもとに亡び

てもよいと思い、あのすばら

しい科学技術を平和的に利用

け(養蒙衆¨酔離わ“』“訂

い放

ったのである。

日本が核兵器もて立

つ時の

近からむとし遠からむとす

日本が核を保有しゆらゆら

と立ちくらむらむ日を空想

す      

この国に女宰相生るる日と

核兵器持つ時代といづれ

とい

った歌もそ

の頃

に作

た。わたしは政治家ではない

し、予想屋でもないが、やは

り日本という国のあり方につ

いては、常に憂いを抱いて来

た。これらの歌は、反語的な

もの言いであ

ってヽそのまま

そう思

っているわけではな

い。以来四半世紀たつが核兵

器所有も女性の首相も現実の

ものとならず、今後もしばら

くはこの状況は続くだろう。

しかし、このすぐれた「人智」

の凝集した技術を放置する必

要はなく、現に平和利用はす

すめられてもいる。

自鳥のねむれる沼を抱きな

がら夜もすがら濃くなりゆ

くウラン

『ウランと自鳥』

という歌を含む三十首ほどの

連作は、九六年十

一月十五日

青森県六ケ所村原子燃料サイ

クル施設を視察に行

ったとき

に作

った。わたしはそのすこ

し前から、東京電力の主催す

る研究会に参加して、各界の

専門家の話をきいたりしてい

たので、その

一環としてこの

工場を見学

できたのであ

た。ウラン濃縮施設のすぐそ

ばに湖があり、自鳥がそこに

っているさまを歌の中

へと

り入れたのである。

学生のころから、わたしは

割と素直に科学理論の美しさ

を信じ、それを切り開いて来

た人間の知力には敬意をも

て来た。学徒動員の工場で休

憩時間に愛読したファラデー

『ロウソクの科学』などには

じまり、医学を学ぶ過程で人

体生理や病理の機微をつぶさ

に解明して行く先人たちの学

理や実験にも、ふかく学んだ

と思

っている。他面で、その

知力には限界があることもよ

く知

っているつもりである。

わたしの歌には、そうした人

人智さびしき

(歌人)