受光量と光エネルギー変換効率からみた密植条件下 …日作紀(jpn.j. crop sci.)...

8
受光量と光エネルギー変換効率からみた密植条件下におけ るラッカセイ日中多収性品種の乾物生産特性 誌名 誌名 日本作物學會紀事 ISSN ISSN 00111848 巻/号 巻/号 771 掲載ページ 掲載ページ p. 41-47 発行年月 発行年月 2008年1月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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Page 1: 受光量と光エネルギー変換効率からみた密植条件下 …日作紀(jpn.J. Crop Sci.) 77 (l) : 41 -47 (2008) 受光量と光エネルギー変換効率からみた密植条件下における

受光量と光エネルギー変換効率からみた密植条件下におけるラッカセイ日中多収性品種の乾物生産特性

誌名誌名 日本作物學會紀事

ISSNISSN 00111848

巻/号巻/号 771

掲載ページ掲載ページ p. 41-47

発行年月発行年月 2008年1月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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日作紀(jpn.J. Crop Sci.) 77 (l) : 41 -47 (2008)

受光量と光エネルギー変換効率からみた密植条件下における

ラッカセイ日中多収性品種の乾物生産特性

曹鉄華 ・磯田昭弘

(千葉大学園芸学部)

要旨 密植栽培に適応した品種特性を解明するため,ラ ッカセイ CArachishypogaea L.)日中多収性品種(日本品種

関東 田 号,ナカテユタカ,中国品種:花育 16号,魯花 11号)を 3年間 (2002,2003, 2005年)密植条件下で栽培し,

受光量,成長パラメータ,光エネルギ一変換効率 (RUE)から乾物生産特性を検討した平均葉面積指数 (LAI)は,

2002年, 2005年で比較的高い値となり ,特に 2005年では最高で 5前後となった 2003年は 6月下旬からの低温,日

照不足により生育全般を通じ低く推移した. 3年間を通じ LAIは関東 83号が高い傾向があった 子実収量は 2003年

を除き,いずれの品種も lOa当たり 450kg以上となり,特に関東 83号,花育 16号は 500kgを越える極めて高い収

量を示した ラッカセイにおいても基本的には全乾物生産量 子実収量の年次間差異は受光量によって変動していた

が,年次ごとの乾物生産。子実収量の品種間差異および8月以降の各期間ごとの乾物生産はいずれも主に RUEによ

って変動していることが分かつた. 2002年 2005年は花育 16号の生育期間中の RUEが最も高くなり,両年での乾

物生産量および子実収量が大きくなったものと考えられた 2002年, 2005年で高収量を示した花育 16号と関東 83

号は,生育初期の葉面積の展開が早いこと RUEが高いこと ならびに爽数および子実数が多くシンク能が大きい

ことが高収の要因として挙げられた

キーワード Arachishypogaea L.,収量,受光量,成長パラメータ,光エネルギ一変換効率,葉面積指数,ラッカセイ

ラッカセイはマメ類の中でダイズに次ぐ生産量の作物で

あるが,主要イネ科作物に比べると収量水準がかなり低く

(FA02005) , 日本においてもこの 10 年間 ( 1996~2005 年)

で単収は 10a当たり 230kg前後の値でほとんど増加して

おらず,逆に作付面積は約 1万ha減少しているのが現状

である(農林水産省 2005) ラッカセイは初期生育時に葉

面積が小さいことから太陽エネルギーを効率良く 利用でき

ない(小野 1981),栄養成長と生殖成長の長い並進期に茎

葉の成長が続き,特に伏性,半立性品種で相互遮蔽がよく

起こる (Aboagye1996) ,さらに光合成産物の子実への分配

率が悪い (吉 田 ・高橋 1981, 鈴木ら 1987,Aboagyeら

1994)こと等が低収の原因として挙げられている 一般に

増収を図るためには密植栽培が必要で、あるが,栽植密度が

高まると葉面積が増加することで相互遮蔽が増し,光の群

落内への透過が悪化する(堀江 1972,池田 ・佐藤 1990)

ラッカセイにおいても,ある程度以上の栽植密度では増収

にならず,減収になる場合もあることが報告されている

(Gardner and Awna 1989) 一方,ダイズでは品種に関わら

ず密植栽培によって多収を得たという報告があり(池田 ・

佐藤 1990),ラッカセイにおいても Giayettoら (1998)は

12~56 個体 m.2 の栽植密度実験で,栽植密度の増加により

収量が増加したことを報告している 近年,中国において

密植栽培に適応した多収性品種が多く育成され, 日本での

一般栽培 (4~12 株 m勺 よ りかなり密植で栽培されている.

山東省では lO a 当たり 450~600 kgの収量(爽重)をとる

ため , 分校の少ない品種で 18~24 株 m-2,多い品種では

13~18 株 m,2 の栽培密度が必要であると報告されている

(郭 ・匡 1979).以上のことから,ラッカセイの増収を計る

ためには,密植栽培の確立と密植に適応した多収性品種の

選定が重要な問題であると考えられる そこで本実験は日

本と中国の多収性品種を用い,密植栽培条件下での乾物生

産特性, 受光量および光エネルギ一変換効率を比較し密

植条件下における多収性品種の特性を解明することによ

り, 日本でのラ ッカセイ増収の可能性について検討した

材料と方法

実験は 2002年, 2003年および2005年に千葉大学園芸学

部研究圃場で、行った供試品種は中国山東省で育成された

魯花 11号,花育 16号, 日本の関東 83号,ナカテユタカ

の4品手重である.

栽植密度は 2002年が 14.8株/m'2(畦問45cmx株間

15 cm), 2003年, 2005年では更に密植にし, 20.8株/m'2

(畦間 40cmx株間 12cm)とし, 1区面積はそれぞれ34.5

ITI, 28.3 rri, 36.0 ぱで、あった.栽植様式は,年次を主区,

品種を副区とした 2反復分割区法を用い, 2002年は 5月

10日, 2003年は 5月 13日, 2005年は 5月 17日に播種した

施肥量は, 3年間とも 10a当たり N:P20S : K20 = 3 kg・

10 kg : 10 kgおよび苦土石灰80kgの割合で,全量基肥とし,

播種前にすきこんだ.

生育調査は開花後約 1週間より始めた 3年間とも関東

83号,花育 16号,魯花 11号の開花期には差異はなく,播

種目から開花期までの日数は 2002,2003, 2005年でそれ

2007年 6月1日受理連絡責任者磯田昭弘 干 271-8510千葉県松戸市松戸648TEL / FAX 047-308-8814, [email protected]

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第 77巻 (2008)日本作物学会紀事42

一 口2002年一白2003年 図2005年

35

30 1 回、125担120卦15費

IOD 5

。℃

N'EE4)明お

EK引

(EE)咽LN盤殴

一『・一 関東83号

一τ企ーナカテユタカ

・""U'"花育 16号

企 魯花II号

100

80

60

40

20

(渓)己円¥日

O

5月

第 2図 2002. 2003および2005年の生育期間中の全天日射量,

平均気温および月降水量.

9月8月7月6月

5

第 1図 2005年における生育期間中の業面積指数 (LAI)と地際相

対照度(I/Io)の関係

3 4

LAI

2 O

各品種の植物体がある期間中 (t¥-tz.t¥ 三五 iくら)に受

光した単位面積当たりの受光量 (oS)は以下の式から算出

したー

企S=日射量 x(1-1/10) (5)

= ,I Sj (1-I/ 10)

ただし I/~ は 1 / 1。と LAI との聞に認められた関係(第

1図)から各品種ごとに下記の式を用いて算出した

関東部号I/~= -0 . 1881n (LAI) +0.356 (r=O . 98*料)

ナカテユタカ 1 / ~= -0 . 212 In (LAI) +0.367 (r=O . 98**ド)

花育 16号 I/~= 一 O. 1881n (LAI) +0.365 (r=O . 99***)

魯花 11号 1 / ~= -0 . 1961n (LAI) +0.360 (r=O . 98*料)

Sj. LAIjはそれぞれ 1日における全天日射量と LAIで¥

LAIjは以下の式から計算した(中世古 ・後藤 1983)

InLAIj= (JnLAIz-lnLAI¥) (j-1) / (い¥)+lnLAI¥ (t¥孟 i< tz) (7)

ある期間中の oS当たりの光エネルギ一変換効率 (RUE)

は以下の式より計算した (Sinclairand Horie 1989).

RUE=oW / oS

ただし. oWはある期間中 (t¥-tz)

乾物生産量を示す

データの解析は,収量および収量構成要素について分散

分析を行い,品種間の有意性は Tukey法により検定を行

なった.相関については Pearson法により解析した.

(6)

(8)

の単位面積当たりの

ぞれ48. 45. 42日間であった また,ナカテユタカの開

花期は 3年とも他の3品種より 2日程度遅くなった. 2002

年. 2003年は 7月3日から. 2005年は 7月 1日から 2週

間ごとに各区 9個体掘り取り中庸なもの 5個体 (2002年

は12個体より 8個体)について,葉面積および部位別乾

物重(根,茎,葉,爽)を調査した 葉面積,部位別乾物

重のデータに基づき,平均葉面積指数 (LAI).個体群成長

速度 (CGR).純同化率 (NAR).爽乾物重増加速度 (PGR)

を以下の式より算出した.

平均 LAI(LAI) = (LAIγLAI) / (JnLAI2-lnLAI¥) (1)

CGR = (W2-W¥) / (らーし (2)

NAR = CGR / LAI (3)

PGR = (WP2-Wp¥) / (らーt¥) (4)

ただし. W¥. LAI¥. Wp¥およびW2.LAI2. WP2はそれぞ

れ tlo t2における単位面積当りの乾物重,葉面積,爽乾物

重を示す

2002年. 2005年は 10月5日にすべての品種を収穫し

2003年は 9月 18日に花育 16号を. 9月23日に他の3品

種を収穫した 2002年は各区 10個体. 2003年. 2005年は

各区 20個体掘り取引収量および収量構成要素について

調査した 2003年は 8月の降水量が多く気温が低いことか

ら. 9月中旬以降土壌の湿度が高くなり各品種とも土中で

爽が発芽したため,他の2年にくらべてかなり早く収穫し

1. 天候条件

2002年は 6月が低温であったが それ以外では気温は高

く推移し特に 7.8月の気温は高くなった(第 2図).日

射量も 6月が他の年に比べ少なかったが,他の期間は高く

なった また,降水量は全般的に少ない年であった. 2003

年は. 6月下旬以降気温は低く推移し,日射量も他の年次

に比べかなり少なく推移したまた. 8月の降水量が多く

結2005年6月24日から 9月2日までの期間受光量の測

定のため感応波長域がほぼ光合成有効放射量 (PAR)域で

あるフォトダイオード (S1087.浜松フォトニクス)を 10

個並列に接続したセンサーを群落上部と地際に水平に設置

しパーソナルコンピュータに接続したデーダロガー(サー

モダック E 江藤電機)で 1分間隔に記録し群落の地際

相対照度 (1/10)を計算した なお,フォ トダイオートは

事前に PARセンサ一 (LI-190SB. LI-COR)を標準として

キャリプレーションを行った

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曹 ・磯田一一ラッカセイ日中多収性品種の乾物生産特性 43

2002年 2003年

5

|ヨ 43

2

1

O

30

てコN E 2O

~

EにEコt」 I O

O

ー10

寸 25てコ

ミ20~

E〈Z t15

5

O

-5 20

p 、16てコ

三12) 巴。

口t己出コ咽 8

4

O 3 17 31 14 28 11 25 3 17 31 14 28 1 1 15 29 12 26 9 23

7月 8月 9月 7月 8月 9月 7月 8月 9月

第3図 2002, 2003および2005年の平均葉面積指数 (LAI)。個体群成長速度 (CGR) 純同化率 (NAR)および爽成長

速度 (PGR)の推移

・関東 83号 ...ナカテユタカ。 0花育 16号,ム魯花 11号

なり ,400mmに近い値となった 2005年は全般的に 2002

年, 2003年の中間的な値となり ,降水量は比較的多い年で

あった

2. 成長パラメータ

平均葉面積指数 (LAI)は, 2003年に比べ 2002年, 2005

年で高くなった (第3図) 特に 2005年では花育 16号を

除き最大 LAIが5を越える値となった 2003年は 6月下

旬からの低温,日照不足により生育全般を通じ低く推移し

最大値もすべての品種で4以下となった 2002,2005年は

関東 83号が高い傾向があり, 2002年の生育後半では花育

16号.魯花 11号が, 2005年の生育後期には花育 16号が

低かった 個体群成長速度 (CGR)は全般に 2003年が

2002年, 2005年に比べ低く推移した 2002年は 8月中旬

に急速に低下したが,いずれの品種も比較的高い値で推移

した関東部号は 7月前半および9月上旬高い値となった.

2003年は他の年に比べ変動が小さく推移した 関東 83号

は7月中旬以降低い値で推移し 魯花 11号は 9月上旬に

再上昇した 2005年は関東 83号が7月上旬高い値をとり,

8月下旬から 9月上旬にかけて花育16号が高い値となった.

純同化率 (NAR)はいずれの年も生育に伴って低下する傾

向を示した 2002年は全般的に他の年に比べ低く推移し

品種問差異は小さかった 2003年は7月中旬急激に低下し

その後はほぼ一定の値で推移し関東 83号は低い値をとっ

た 2005年は 7月上旬花育 16号が高い値をとったが,そ

の後急速に低下した 関東 83号は全般的に低い値で推移

した 爽乾物重増加速度 (PGR)は2002年, 2005年は生

育に伴い上昇し生育後半低下する傾向があったが, 2003年

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きくなった有意差はないものの 3年間を通じ関東 83号

と花育 16号が大きくなり,ナカテユタカ,魯花 11号が小

さい傾向であった.

RUEは,2002年では 9月下旬を除き品種間差異は小さ

く推移したが, 2003年,2005年は品種間の値の時期的変

動が大きくなった 2002年は 9月下旬には花育 16号が高

い値となった. 2003年は関東 83号が低く推移する傾向が

あり,値の変動は他の年より小さかった. 2005年では 7月

上旬と 9月上旬から下旬にかけて関東 83号と花育 16号が

高い値を取り, 9月にナカテユタカは急速に低下した. 3

年間の各品種の平均値は,花育 16号が 1.30gMJIと最も

高く ,魯花 11号の 1.17gMJ1,関東 83号の 1.10g MJ'I,

ナカテユタカの 1.05gMtの順であった 子実生産量の

大きかった 2002年と 2005年の値はそれぞれ花育 16号の

1 .09 g MJ'I, 1.56 g Mt,関東 83号の o. 96 g MJI, l. 45

491 ab

302 a 514 ab

2005

274 a 456 b

298 a 533 a

子実収量(g m,2)

2003

.... ・E・-ーー‘9 23 9月

287 a

***

ns

ns

530a

458 a

525 a

494a

2002

2005年

第 4図 2002, 2003 および 2005 年の受光量(,~S) と光エネルギ一変換効率 (RUE) の推移

.関東 83号,企ナカテユタカ, 0花育 16号,ム魯花 11号

Fhd

nu AU

qL

重)一

3mm

十窃ず

σb一H1

爽(一;

694a

645 a

754a

716 a

29

404 a

401 a

458 a

432 a

***

ns

ns

&5月

一一円,,

673 a

586 a

675 a

637 a

2002

第 77巻 (2008)

0.80 a

0.81a

0.83 a

0.78 a

..... ・E・--'--・E・..... 14 28 11 8月 9月

2005

収量および収量構成要素

同列内の同一アルファベッ トは百lkeyi去により 5%水準で有意差なし,

**村 nsはそれぞれ 5%.1%.0.1%水準で効果の有意性あか有意性なし .

o . 90 a O. 70 ab

o . 75 b O. 75 ab

一一ω一肌

1

i

q

L

0.75 b 0.69 b

0.81 b 0.76 a

ns

**

**

2003年

日本作物学会紀事

31

2002

ι-・E・-ー晶3 17

7月

3. dSとRUEの推移

企Sは,2002年では他の 2年に比べ 7月前半が小さかっ

たが, 7月下旬から8月の値が大きくなり, 3年間で生育

期間中の δSは最も大きくなった(第 4図).2003年は 7,

8月の 日射量が少なくなり dSも小さかった 2005年は 7

月下旬から 9月下旬までほぼ一定の値で推移し, d.Sは大

では生育後半まで増加を続けた 2002年はナカテユタカを

除く 3品種の爽形成期初期の値が高くなり,ナカテユタカ

は7月下旬と 9月中匂に低い値であった 2003年は 8月

上旬から下旬にかけナカテユタカが高くなり,魯花 11号

は7月低かったが, 9月に高い値となった 2005年はナカ

テユタカが8月中旬一時的に高い値となったが,全般的に

低い値で推移した 花育 16号ならびに関東 83号は爽形成

期初期に高い値であった.

398 a 624 ab

2005

392 a 582 b

417a 584b

393 a 664 a

第 l表

子実数

(m")

2003

*キキ

ns

513 b

656 a

697 a

659a

2002

2002年

438 b

464 b

2005

542 a

539 a

31

2003

361 a

413 a

375 a

422 a

ま有数

(m")

***

*

*

504 a b

年次

関東 83号 463 a b

ナカテユタカ 396b

花育 16号

魯花 11号

有意差

年次

品種

年次x品種

2002

534a

20

15

10

25

5

(一ー℃

N15「冨)∞司

。『吉凶)回口出

品種

44

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45

年では花育 16号が, 2005年では花育 16号と関東 83号が

大きな値となった 1粒重は 2002年でナカテユタカが大き

く, 2003年で関東 83号が大きく魯花 11号が小さくなった

が,大きな品種間差異はみられなかった

曹 ・磯田一一ラッカセイ日中多収性品種の乾物生産特性

ナカテユタgMJ1,魯花 11号の 0,95gMJ1,1.40gMJ

1,

カの 0.79g MJ1, 1.23 g Mtの順となった

5. d.S, RUEと全乾物重および子実収量の関係

第5図は生育期間中の d.S,平均 RUEと全乾物重および

子実収量の相関関係を示したものである. d.Sは全乾物重,

子実収量との聞にそれぞれ r=0.67ネ,0.97***の有意な正

の相関関係が認められたが,年次ごとにみると,いずれも

有意ではなかったしたがって 全乾物生産および子実収

量の年次間差異は主に受光量の違いに よっているが,各年

次での品種間差異は受光量の差異が反映されていないこと

がわかった 一方平均 RUEは全乾物重および子実収量

との聞には年次品種込みでは有意な相関はなかった年次

ごとにみると, 2003年の子実収量を除色平均 RUEは全

乾物重および子実収量との問に正の相関関係を示し,各年

次の品種間差異はお概ね平均 RUEの差によることが認め

られた

4. 収量および収量構成要素

2002年, 2005年には 4品種の子実収量はすべて 10a当

たり 450kg以上となり,特に両年とも花育 16号と関東 83

号は 500kg以上の 高収となった(第 1表).2003年は

2002, 2005年に比べ4品種とも爽乾物重,子実収量が大き

く減少し,子実収量は両年の 6割程度となった爽数,子

実数, 1粒重とも 2003年が有意に小さい値となった 爽数,

子実数には品種間で有意な差異があり ,両形質とも 2002

Efo

…。~f 6. 成長パラメータ ,d.Sおよび RUEの相関関係

第2表は各生育期間の CGRとLAI,NAR. d.S, RUEの,

およびRUEとNAR,PGRとの相関関係を示したものであ

る CGRは生育初期および8月上旬の LAIと有意な正の

相関を示し,全期間で NARと有意な正の相関を示した

一方 CGRは, d.Sと生育初期および7月下旬から 8月上旬

までの期間, RUEとは生育初期および7月下旬を除く全

期間で有意な正の相関関係があった生育初期を除く全期

間, NARはRUEと高い有意な正の相関を示した 7月中

旬を除く全期間, PGRはRUEと有意な正の相聞を示し,

RUEと爽の成長が密接に関連していることが認められた

ググm 昂穏と年持込み0.97'"

900 1100 13000.4 .1S (MJ m'2)

瓜3

E 500 OJJ

g 400 ~ 仲

300}JIEJ

0.49 200L-

700

第 5図 2002. 2003および2005年の全乾物重,子実収量と受光量

(I1S) ,光エネルギ一変換効率 (RUE)の相関関係 .

.関東 83号 ....ナカテユタカ O花育 16号, ム魯花 11号

一一ー2002年 ー2003年 一一一2005年

図の中の数字は相関係数を示す

***はそれぞれ 5%.0.1%水準で効果の有意性あり .

第 2表 各生育期間の個体群成長速度 (CGR)と平均業面積指数 (LAI)ι純同化率 (NAR),受'光量 (I1S) 光エネルギ一変換

効率 (RUE)の相関,およびRUEとNAR 爽乾物重増加速度 (PGR)の相関関係 .

RUE

NAR

0.53

0.88キキ

0.77*キ

0.96***

0.98***

0.82**

0.99***

PGR

0.66*

-0.23

0.64*

0.73**

0.61*

0.88**

CGR

LAI

0.20

0.97*料:

0.53

0.93*判:

0.91 *本*

0.91料*

0.98***

RUE L¥S

0.80**

0.36

0.65本

0.82料

-0.21

NAR

o . 91 ***

0.90料

0.82料

O. 91 ***

0.96***

0.83***

0.98*キキ

0.85*ホ

0.50

0.01

0.78材

0.31

n

12

12

12

12

12

生育期間

萌芽 7月 2日'

7月 3日一 7月 17日

7月 18日ー 7月31日

8月 1日-8月 14日

8月 15日-8月28日

8月29日 9月 11日

9月 12日-9月 25日

0.10 0.25 12

0.19

#2005年は各期間とも 2日早い暦日

キ**判*はそれぞれ 5%. 1%, 0.1%水準で効果の有意性あり

nは萌芽から 9月 11日までの期間は3年間のデータを.9月 12白から 9月25日までの期間は 2002年。2005年のデータを使用

0.02 8

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46 日本作物学会紀事第 77巻 (2008)

考 察

本実験で 2002年と 2005年に,関東 83号と花育 16号は

10 a当たり 500kg以上の高い子実収量を示した(第 1表)

この値は,中国の 1120kg (Sun and Wang 1990),インドの

950 kg (ICRISAT 1997;いずれも爽重)には及ばないものの,

イスラエルでの 514kg (Cahaner and Ashri 1974), 日本での

Awal and Ikeda (2003)の495kgに匹敵する高い収量であっ

た このことは Giayettら(1998)や中国山東省での事例(郭・

匡 1979)と同様,日本の関東地方においても多収性品種を

用いた密植栽培によって収量を大幅に増加させ得る可能性

を示している.小野 (1981)はラッカセイ は生育初期に葉

面積が小さいこ とから太陽エネルギーを効率良く 利用でき

ないことを指摘している 本実験では,生育初期に 企Sが

大きいほど CGRが大きくなったことから(第2表),密植

にする ことによって初期の葉面積を拡大しエネルギー受光

量を増やした結果,乾物生産量が大きくなったものと思わ

れる また品種間でみると, 2002年, 2005年の関東 83号,

花育 16号が生育初期に他の2品種より大きな LAIを持つ

傾向があり(第 3図),有利な初期成長を示したこともこ

れらの品種の子実収量が大きくなった要因の 1っと考えら

れる

年次聞でみると, 2003年は他の年に比べ 7月, 8月の日

射量が少なく,気温も低く推移した(第 2図)結果,いず

れの品種の最大 LAIも4以下で受光量も小さくなり(第 4

図),乾物生産量(第3図),子実収量も小さくなった(第

1表).Monteith (1977), Gallagher and Biscoe (1978), Bell

ら (1993)が示したように,本実験のラッカセイにおいて

も基本的には全乾物生産量 子実収量の年次間差異は受光

量によって変動していたが,年次ごとの乾物生産,子実収

量の品種間差異および8月以降の各期間ごとの乾物生産は

いずれもお概ね RUEによって変動していることが分かっ

た(第 5図,第2表).2002年,2005年では花育 16号お

よび関東 83号の RUEが高くなり,これらの品種の乾物生

産量も大きくなった RUEは単一の要因で決定されるの

ではなく ,様々な形質(個葉光合成速度,呼吸速度,受光

態勢,乾物分配割合等)がその影響程度を時間的に変化さ

せ複雑に関係しあって出てくる値と考えられ (Monteith

1977,中世古 ・後藤 1983,堀江 ・桜谷 1985,Sinclairら

1992, Bellら1993,白岩 ・橋JII1993),さらにシンクの要

因も影響を及ぼすことが報告されている(犠田ら 1985,西

部ら 1989) 本実験では PGRとRUEの聞には有意な関係

がみられ,早い爽形成と大きい英肥大速度が大きい RUE

の値に関係していることが示唆された(第 2表).2003年

を除j 花育 16号および関東 83号は爽数ならびに子実数

とも多くシンクが大きいこと(第 1表),花育 16号は英形

成期初期の PGRが大きいこと(第3図)から RUEが高く

なったものと考えられた 2003年は他の年に比べナカテユ

タカを除く 3品種で爽数,子実数が小さいことからシンク

が小さくなり,かっ品種間差異も小さくなった Senooand

Isoda (2003)は同様の栽培条件で ほとんどの花が7月中

に咲き.収量を構成している爽になることを示している.

したがって,本実験の 2003年の 7月以降の低温が特に開

花数の多い品種の開花結実に影響を及ぼした結果,シンク

の減少, RUEの低下となり 小さい葉面積指数と受光量

によるソース不足が加わり,子実収量減少につながったも

のと考えられる.

本実験において, 2002年, 2005年で高収量を示した花

育 16号と関東 83号は,生育初期の葉面積の展開が早いこ

と, RUEが高いこと,ならびに爽数および子実数が多く

シンク能が大きいことが高収の要因として挙げられたこ

のような特質を持った品種を密植栽培することにより日本

においても高収を得ることは充分可能であると考えられ

た.また,この高収要因の 1っと考えられる RUEには,

受光態勢も大きく関連する要因として指摘されている

(Monteith 1977,堀江 ・桜谷 1985,Bellら1993,白岩 ・橋

川 1993) 中国品種は日本品種に比べ小葉面積が大きいが,

草高が高く,分校数,特に 2次分枝数が極めて少ないこと

から,密植条件下で、群落内部への光の浸透が良く,受光態

勢が良好なことが推察できる.さらに,上述したように爽

形成期以降, RUEと英の成長に密接な関係がみられた

このことはシンク能が群落全体の乾物生産効率に大きく影

響しているものと考えられるが,逆に爽形成期以降のソー

ス能の減退程度が RUEに反映し,乾物生産,特に爽生産

に影響を及ぼしていることを示唆しているとも考えられ

る.光合成能力も光エネルギ一利用効率と密接な関係があ

り (Murata1981),特にダイズにおいては登熟期間中の光

エネルギ一変換効率に影響する可能性が示唆されている

(Sinclairら1992,白岩 ・橋JII1993)ことからも,次報(曹 ・

犠田2008)において生育後半の受光態勢と光合成能力につ

いて詳細に検討する.

謝辞 本実験に用いた関東 83号は千葉県農業総合研究

センター,育種研究所落花生試験地より割譲いただいた.

ここに記して感謝します

引用文 献

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Dry Matter Production of japanese and Chine哩e回 gh羽 eld.ingPeanut Cultivars under Dense Planting in Terrns of Intercepted

Radiation姐 dits Use E伍 ciency:Teihua CAo and Ak.ihiro ISODA向倒的ofHarticult問 Ch伽 Universi今 648Mat.sudo, Mat.sudo-ciり,

Ch伽 271-851O,Japan)Abs回 ct:]apanese and Chinese high引eldingcultivars Qapanese cultivars; Kanto 83, Nakateyutaka, Chinese cultivars; Hu叩 116,

Luhua 11) ofpeanut (Arachis仰向'gaeaL.) were grown under dense planting over three years (2002,2003 and 2005) to analyze i凶

向Idabilities in terms of growth parameters, intercepted radiation and radiation use efficiency (RUE). AlI cultivars showed a

high leaf area index in 2002 and 2005, and it was around 5 in 2005. In 2003 with a low air temperature and less radiation丘om

late ]une to August, all cultivars showed a smallleaf area index as compared wi白山atin 2002 and 2005. Except 2003, all cultivars

had seed yields of more than 450 g m'2. In particulaじKanto83 and Huaiku 16 showed a yield of more than 500 g m'2. Variation

in total dry matter production depended on both amount of intercepted radiation and RUE. Crop growth rates during all

growing periods but the ear片growingperiods were mainly a丘町民dby RUE. Huayu 16 had the highest RUE values in 2002 and

2005 when higher seed yields were obtained, resulting in a high dry matter production and seed yields. The factors,出atcaused

high seed yields ofHuayu 16 and Kanto 83 in 2002 and 2005, were suggested to be rapid leafarea extension in the early grow出

stage, high RUE values, and large pod and seed numbers as a sink.

Keywords : A rachis hypoga耳切L., Growth parameters, Intercepted radiation, Leaf area index, Radiation use efficiency, Yield.