不安な時代の価値観マーケティング...

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Copyright 2010 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE 不安な時代の価値観マーケティング 旅行編 Consumer and Retail Insight 201011株式会社 富士通総研 経済研究所 流通・サービスコンサルティング事業部

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Copyright 2010 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE

不安な時代の価値観マーケティング

旅行編

Consumer and Retail Insight

2010年11月

株式会社

富士通総研

経済研究所流通・サービスコンサルティング事業部

はじめに

Copyright 2010 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE1

社会の変化

個々の企業の変化

価値観の変化

消費行動の変化

マクロ視点の経済研究の領域

ミクロ視点のマーケティングの領域

社会の変化と消費の連鎖

ミクロとマクロの視点の融合

価値観属性による消費者分類の発見

研究の結果、4つの価値観の変化を確認するとともに、この価値観のうち3つよって、生活者の

消費行動がかなり異なることを発見しました。この価値観属性による消費者分類を活用し、市場の

維持・拡大に対する戦略を立案していくことを「価値観マーケティング」と名付けました。

本レポートは、この価値観マーケティングの実践として、「旅行」を取り上げてご紹介するものです。

本レポートが多くの企業のマーケティングのヒントとなれば幸いです。

刺激よりも安らぎを求める

巣ごもり傾向の拡大

つながり志向の拡大

支出に対するメリハリ傾向

4つの価値観の変化 4つの消費者分類

不安の拡大

人見知り

他人OK

外出(刺激)志向

巣篭り(癒し)志向

タカタイプ ツバメタイプ

ふくろうタイプ

こうもりタイプ

社会の変化と消費行動のつながりを紐解く

私たちは、社会の変化と消費行動のつながりにつ

いて、次のような仮説を立てました。社会の変化が、

生活者の価値観を変化させ、消費行動に変化が起

こり、最終的に個々の企業に変化が発生する、とい

う連鎖です。

これまでは、社会の変化から消費の変化をマクロ

視点で捉える経済研究と、個々の企業の取るべき戦

略をミクロ視点で捉えるマーケティングとに、領域が

分かれていました。マクロとミクロの視点を融合させ、

一気通貫で連鎖を紐解くために、今回は、マクロ視

点を得意とする経済研究所と個別企業動向に詳し

い(ミクロ視点)コンサルタントが共同研究を行いまし

た。

社会の変化が消費に与える影響

現在、我が国では、社会構造そのものが変化してきています。少子高齢化、所得格差の広がり、

失業率の増加などの構造変化が、将来に対する不安を呼び、消費に少なからず影響を与えている、

と誰しもが想像できます。

例えば自動車業界では、若者が車を買わなくなったことが問題視されています。この変化の裏側

には、就職難などにより、若者が堅実な貯蓄傾向にシフトしたためだ、といった考え方があります。

つまり、社会の変化が、生活者の価値観、ひいては消費行動に影響していると考えられます。

これまでの消費構造の常識が通用しない、このような、個人にとっても企業にとっても不安な時代

において、どのようなマーケティングを行い(或いは環境変化を逆手にとって)市場を維持・開拓し

ていけばよいのでしょうか。この命題に対し研究を行いある一つの答えを導き出しました。

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目次

1.

社会の変化と価値観の変化

2.

4つの消費者タイプ

3.

旅行業界の現状と課題

4.

タイプ別旅行の価値観

5.

価値観マーケティングによる戦略

付録:業態別スコアカード

3

1.社会の変化と価値観の変化

不安の時代の到来

内閣府の「国民生活に関する世論調査(平成21年6月)」によると、平成3年に不安を感じている人

は46.8%だったのに対し、平成20年には70%に達しています。特に、老後の生活設計、今後の収

入・資産の見通しについての不安が拡大傾向にあります。また、「心の豊かさ」を求める人は、同様

に52.0%から62.6%に増加しています。

この意識の変化に伴い、消費行動も「モノ」から「サービス」へとシフトしています。平成20年版の

国民生活白書によると、

1984年から2007年の1世帯当たりの財・サービス支出を見てみると、サー

ビス支出の占める割合が32.6%から41.5%にまで高まっていることが明らかになっています。

市場の時系列変化のグラフ

出典:内閣府大臣官房政府広報室

世論調査報告書平成21年6月調査

日常生活での悩みや不安(時系列)

社会的背景

不安拡大の背景には、さまざまなことが考えられます。老後の生活設計に強く影響する年金は、

現役世代の年金受取額に対する不安に加え、平成15年の未納問題、平成19年の年金記録問題

などにより、国民は多くの不安を感じています。給与所得の低下、失業率の増加も不安拡大に

影響を与えていると考えられます。

(単位:千円)

出典:国税庁

民間給与実態統計調査の時系列データより作成

完全失業率

出典:総務省

労働力調査(平成22年6月)

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4つの価値観

私たちは、社会の変化に伴う生活者の価値観の変化として、次の4つの仮説を立て、その検証の

ために1,000人強のアンケート調査を実施しました。それぞれについて、データを示します。

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刺激から癒しへ刺激から癒しへ

巣篭り傾向の拡大巣篭り傾向の拡大

つながり志向の拡大つながり志向の拡大

支出に対するメリハリ傾向支出に対するメリハリ傾向

将来の資産の見通しに対して不安を感じているため、貯蓄意識が高まり、外出に伴う出費

を嫌い、家にいることを選ぶ傾向が高まるだろう。

将来の資産の見通しに対して不安を感じているため、貯蓄意識が高まり、外出に伴う出費

を嫌い、家にいることを選ぶ傾向が高まるだろう。

心の豊かさを求め、かつ不安を払しょくするため、コミュニティに参加し、他人とのつながり

によって安心したいという意識が高まるだろう。

心の豊かさを求め、かつ不安を払しょくするため、コミュニティに参加し、他人とのつながり

によって安心したいという意識が高まるだろう。

所得が減っても、平均的に支出を抑えるより、支出にメリハリをつけて「心の豊かさ」を演出

する意識が高まるだろう。

所得が減っても、平均的に支出を抑えるより、支出にメリハリをつけて「心の豊かさ」を演出

する意識が高まるだろう。

不安が拡大していることから、非日常的なイベントよりも、日々安心して暮らせること、毎日が

充実していることを望む傾向が高まるだろう。

不安が拡大していることから、非日常的なイベントよりも、日々安心して暮らせること、毎日が

充実していることを望む傾向が高まるだろう。

価値観の変化 仮説の背景

巣篭り傾向の拡大

巣篭り傾向を計測するために、「ゴールデン

ウィーク等の長い連休でも、遠出するより家にい

た方がいいと思うことがあるか」、「その考えは5年

前と比較して変化したか」を質問したところ、約

64%が家にいたいと回答し、そのうちの約39%

がその考えが5年前よりも増加したと回答しまし

た。巣篭り傾向が拡大していることが確かめられ

ました。

つながり志向の拡大

つながり志向の拡大については、ネットでの

コミュニケーションと、リアルのコミュニケーション

の両方について、「重視しているか」、「その考え

は5年前と比較して変化したか」を質問しました。

ネットのつながり志向については、約43%が

重視していると回答し、そのうちの44%が重視す

るようになったと回答しました。

リアルのつながり志向については、約68%が

重視していると回答し、そのうちの29%が重視す

るようになったと回答しました。

ネットとリアルの両方でつながり志向が拡大し

ていることが確かめられました。

(人数)

(人数)

(人数)

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刺激から癒しへ

癒しから刺激への変化を計測するため、「長

期休暇に求めるものは癒しかそれとも刺激か」、

「その考えは5年前と比較して変化したか」を

質問したところ、約57%が癒しを選択し、その

うちの約65%が、その考えが5年前よりも強まっ

たと回答しました。刺激よりも癒しを求める傾向

が強まったことが確かめられました。

支出に対するメリハリ傾向

支出のメリハリ傾向については、お金の使い

方について、「全体的なバランスをとりながら

平均的に支出していきたい」、「自身や家族が

こだわるものに関して重点的に使い、そうでな

いものはなるべく節約する」という考え方のどち

らに近いか、またその考えが5年前から変化し

たかを質問したところ、約56%がメリハリ支出を

選択し、そのうちの約49%がその考えが5年前

よりも強まったと回答しました。支出に対する

メリハリ傾向が強まったことが確かめられました。

(人数)

(人数)

アンケートの回答者プロフィール

アンケートは、2010年6月にインターネットを通じて実施しました。アン

ケートの回答者1,133人のプロフィールについて記載します。

右図の性別グラフにある通り、男性は582名、女性は551名でほぼ半

数となりました。年齢構成は、それぞれ左下図の通りです。女性は20

代後半が、男性は50代後半がやや多くなっていますが、どの年代もほ

ぼ50名前後となっています。

職業構成は、右下図にある通り、会社員が40%、専業主婦が20%、

次いで無職、パートアルバイト、自営業が10%弱で続いています。

(人数)

(人数)

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職業別の世帯年収、子供の数、世帯年収別金融資産残高について図を示します。世帯年収で

は、学生の70%が三百万円未満ですが、20%程度は六百万円以上九百万円未満となっていま

す。教員は他の職業に比べて、九百万円以上千二百万円未満の割合が高いです。会社役員は、

他の職業と比べて千五百万円以上の割合が40%と大きくなっています。

会社経営役員、教職以外は、50%以上が「子供なし」となりました。6割の構成を占める会社員と

専業主婦では、それぞれ30%弱で子供がいるという回答でした。

世帯年収は、三百万円以上六百万円未満が399名(35%)と最も多く、次いで六百万円以上

九百万円未満が295名(26%)でした。世帯年収が増加するほど、金融資産残高も増えることが

確かめられました。

(139) (399) (295) (180) (60) (36) (24)

(人数)

2.4つの消費者タイプ

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刺激よりも安らぎを求める

巣ごもり傾向の拡大

つながり志向の拡大

支出に対するメリハリ傾向

4つの価値観の変化 4つの消費者分類

不安の拡大

人見知り

他人OK

外出(刺激)志向

巣篭り(癒し)志向

タカタイプ ツバメタイプ

ふくろうタイプ

こうもりタイプ

2つの因子と4つの消費者タイプ

アンケートでは、4つの価値観や、個人属性のほかに、自己の性格や現状の満足度、将来への

不安についての質問を行いました。複数の項目で因子分析を行ったところ、「巣篭もり傾向」、

「つながり志向」、「刺激vs癒し」の3つの価値観項目によって2つの因子が導き出されました。

因子の一つは「つながり志向」です。つながり志向が低い人は、見知らぬ他人とのコミュニケー

ションを避ける傾向があります。反対につながり志向が強い人は、見知らぬ他人がいるコミュニ

ティでも積極的に関与しようとします。

もう一つの因子は、「巣篭もり傾向」と「刺激vs癒し」です。巣篭もり傾向が強い人は、外出する

より家にいたいと考え、刺激よりも癒しを求める傾向にあります。

私たちは、この2つを軸とする4象限に対し、翼を持つ生物の行動特性を用いてタイプ名称を

付与しました。横軸の「人見知り」か「他人OK」は、「個体で活動する」か「群れで活動する」を

当てはめ、縦軸の「外出傾向」か「巣篭もり傾向」は、「日中帯に活動する」か「夜間活動する」を

当てはめ、それぞれ「ツバメ」、「こうもり」、「タカ」、「ふくろう」の名称を選定しました。

4タイプの構成

私たちは、アンケート回答者1,133人のうち、4つのタイプに明確に分かれた対象者802名に

ついて、年代別の構成を調査しました。こうもりは219名27%、タカは214名27%、ツバメは190名

24%、ふくろうは179名22%という構成でした。年代別では、20代後半にタカとツバメが多く、50代

後半以降はこうもりが多くなるということが特徴として表れました。

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男女別の特性

4つのタイプについて、年代だけでなく男女別に見ると、男性の場合、20代後半と30代前半で

はタカが40%を、50代ではふくろうが40%を、60代ではこうもりが45%を占めることがわかりました。

女性の場合は、20代後半と30代前半はツバメが35%を、40代後半でタカが35%を、50代後半で

はこうもりが55%を占めることがわかりました。

20代後半と30代前半では、男女に大きな違いがあり、男性は一人で、女性は複数で外に出か

ける傾向が読み取れます。また、60代以降はこうもりの比率が大きくなるのは男女とも同じですが、

50代の男性がふくろうが多いのに比べ、女性は50代後半は特にこうもりが多い点で違いが明確

に現れました。

気をつけなければならないのは、このデータは、60代になったらこうもり化する、ということを証明

しているのではなく、あくまでも現時点で60代の人はこうもりタイプが多い、という事実に過ぎませ

ん。経年とともにタイプが変化するのか、または世代特性として引継がれるのかは、継続的な調査

が別途必要となります。

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タイプ別の特性

4つのタイプについて、性格的な特徴と現状に対する満足度、将来への不安・期待について

傾向を示します。タカは「中立型」、ツバメは「楽観・肯定型」、ふくろうは「慎重・不安・不満型」、

こうもりは「せっかち・満足型」といえます。

こうした性格的な特徴は、マーケティングにおいて重要な意味を持ちます。例えばある商品や

サービスについて、顧客満足度調査を行った場合、タイプによって評価は異なることが容易に

想像がつきます。ツバメは高評価に、ふくろうは低評価に、タカは中程度の評価になると考えられ

ます。また、消費行動についても慎重に考えるふくろうと、せっかちなこうもりでは全く異なるで

しょう。このように、消費者タイプを意識したマーケティングが重要になると考えられるのです。

価値観マーケティング

私たちは、4つの消費者タイプをベースに、様々な商品・サービス分野において、どのような

消費行動特性があるのかを調査し、その特性別にマーケティング戦略を立案することを価値観

マーケティングと呼んでいます。

本レポートでは、「旅行」商品を取り上げて、タイプ別の旅行商品購入に関するアンケートに

ついて分析した結果をまとめています。

人見知り

他人OK

外出志向

巣篭り(癒し)志向

・行動的(特に女性)・男性の場合気が長い・男女ともに楽観的・女性の場合几帳面・男女ともに現状に満足している

・行動的(特に女性)・男性の場合気が長い・男女ともに楽観的・女性の場合几帳面・男女ともに現状に満足している

ツバメツバメ

・せっかち(特に男性)・現状に満足している(特に女性)

・せっかち(特に男性)・現状に満足している(特に女性)

こうもりこうもり

・慎重(特に男性)・将来への不安を感じる・男性は将来への期待があまりない・男性は現状に満足していない

・慎重(特に男性)・将来への不安を感じる・男性は将来への期待があまりない・男性は現状に満足していない

ふくろうふくろう

・質問に対し、「どちらでもない」

と中立的な立場に立つことが多

・将来の不安を感じていないが

期待もしていない

・質問に対し、「どちらでもない」

と中立的な立場に立つことが多

い・将来の不安を感じていないが

期待もしていない

タカタカ

刺激志向

ご参考)

巣篭もり・外出志向

巣篭もり傾向については、ゴールデ

ンウィークのような長期の休暇におい

て、家にいたいと思うか、遠出したいか

を質問することによって計測しました。

各タイプの特徴としては、こうもり、

ふくろうは「遠出したい」という回答は

ゼロで、ほとんどが「家にいたい」と

回答しました。

反面、タカは「遠出したい」という回答

が「家にいたい」を大きく上回りました。

ツバメは「家にいたい」が半分を占め

ましたが、20~30%は「遠出する」を

選びました。

癒しvs刺激

癒しvs刺激傾向については、長期

旅行において求めるのは「癒し」か、

それとも「刺激」か、を質問しました。

こうもり、ふくろうはほとんどが「癒し」

を選択し、反面、ツバメは70%近くが

「刺激」を選択しました。

タカは「どちらでもない」が最も多く、

「癒し」も「刺激」もどちらも同程度に

選択されていました。

つながり志向

つながり志向については、ネットとリア

ルのコミュニケーションについて重視し

ているかどうかを質問しました。

こうもりとツバメは、リアルなコミュニ

ケーションを重視しており、ネットに

おいても70~80%が重視すると回答し

ました。

一方ふくろうはネットもリアルも重視し

ていないと回答する割合が最も高く、

タカも重視すると回答したのは少数派

となりました。

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ご参考)

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タイプ診断

4つのタイプのどれにあたるかを診断できる簡易ツールをご用意しました。問1、問2の質問から

パターンAの番号を、問3、問4の質問からパターンBの番号を算出し、2つの番号の組み合わせ

を診断表と照合することで、タイプを判別できます。(あくまで簡易診断ですので、目安です。)

問1ネット上のコミュニティやブログを通じたやり取り、あるいは友人とのメールのやり取りを楽しい

と感じたり、重視されたりしていますか?

問2友人・知人などと直接話したり、あったりする付き合いを楽しいと感じたいり、重視されたてい

たりしますか?

パターン

A

問2リアルのコミュニケーション

重視しない 重視する

問1

ネット上の

コミュニケ

ョン

重視しない

① ②

重視する

③ ④

問3ゴールデンウィークなどの長い休暇において、遠出するよりも家にいた方がいいと思うことが

ありますか?

問4ゴールデンウィークなどの長い休暇の際、「安らぎや癒し」と、「非日常的な刺激」のどちらかを

選ぶとしたら、どちらを選びますか?

パターン

B

問4癒しか刺激か

癒し・安らぎ 刺激

問3

遠出するより

家にいたい

思わない

⑤ ⑥

思う ⑦ ⑧

タイプ診断表

タカ ふくろう ツバメ こうもり

①×⑤

①×⑥①×⑧

②×⑤②×⑥

②×⑧③×⑤

③×⑥③×⑧

①×⑦②×⑦③×⑦

④×⑤④×⑥④×⑧

④×⑦

12

3.旅行業界の現状と課題

旅行業界の市場動向

総務省の家計調査によると、日本の消費者の旅行に対する支出は、減少傾向にあります。具体

的には1990年の支出を100とした場合、パック旅行費に関する支出は80に下がっています。反対に

伸びているのは通信費や調理食品です。

また、平成21年度の観光白書によると、国民一人当りの国内宿泊旅行回数、宿泊数ともに平成

3年をピークに減少傾向にあります。海外旅行についても、平成12年をピークに、同時多発テロや

SARS発生の影響から大きく落ち込み、そこから完全に回復していない状況です。

業界の課題

観光白書では、若年層、家族層、団塊の世代層に分けて調査を行い、今後の取り組みの方向性と

次のように示しています。

出典:総務省

家計調査の時系列データより作成

若年層若年層

家族層家族層

団塊の世代層団塊の世代層

増加した旅行に全く行かない層に対する旅行イメージの変革

「自己啓発・能力向上」ニーズに対応した、体験型旅行・知識・教養型旅行の展開

若年社会人の有給休暇取得促進の環境整備

増加した旅行に全く行かない層に対する旅行イメージの変革

「自己啓発・能力向上」ニーズに対応した、体験型旅行・知識・教養型旅行の展開

若年社会人の有給休暇取得促進の環境整備

利用しやすい価格帯の旅行商品の開発

年次有給休暇の取得の促進、学校休業の多様化・柔軟化等の取組み

家族それぞれの旅行に対するニーズにきめ細かく対応できる観光地作りと商品開発

利用しやすい価格帯の旅行商品の開発

年次有給休暇の取得の促進、学校休業の多様化・柔軟化等の取組み

家族それぞれの旅行に対するニーズにきめ細かく対応できる観光地作りと商品開発

余暇時間の増大を考慮した滞在型旅行、平日旅行等に対応した観光地作り

満足度の向上、リピート需要の喚起、夫婦旅行への対応

ユニバーサルデザインに基づく交通機関の整備や商品開発

余暇時間の増大を考慮した滞在型旅行、平日旅行等に対応した観光地作り

満足度の向上、リピート需要の喚起、夫婦旅行への対応

ユニバーサルデザインに基づく交通機関の整備や商品開発

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4.タイプ別旅行の価値観

旅行に対するニーズ

私たちは、若年層、家族層、団塊の世代層といった年代

ではなく、価値観属性による4つの消費者タイプ別に、旅行

商品の戦略について考えてみました。

巣篭もり傾向の強い、こうもり、ふくろうのタイプは旅行に対

するニーズそのものが高いとは思えません。外出志向の

強いツバメ、タカが旅行商品のターゲットになるはずです。

人見知り

他人OK

外出(刺激)志向

巣篭り(癒し)志向

タカタイプ ツバメタイプ

ふくろうタイプ

こうもりタイプ

特にツバメは刺激を求める傾向が強く、かつ見知らぬ他人とのコミュニケーションも苦ではありま

せんので、パッケージツアーでも積極的に参加して楽しめるタイプと考えられます。これまでの旅行

マーケットの中心顧客は「ツバメ」であったと推測されます。タカは、外出志向はあるものの、見知ら

ぬ他人との行動を避ける傾向にあるため、パッケージツアーではなく、個人旅行を選ぶ傾向にある

と考えられます。

パッケージ 個人

こうもり ○ ◎

タカ △ ○

ツバメ ◎ ◎

ふくろう △ ○

パッケージツアーとネットなどで提供される個人旅行のそ

れぞれについて、自己のニーズを満たしているかどうかを

質問したところ、以下のような回答を得ました。パッケージ

ツアーについては、ふくろうタイプは不満を持っている人が

多く、反対にツバメがもっとも満足していました。パッケージ

と比較して個人旅行を評価したのはタカで、パッケージに

対しては30%前後が不満だったところ、個人旅行では不満

は20%程度に抑えられています。

旅行商品への満足度

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旅行の好み

各タイプについて、どのような旅行を好むのか、

最近体験した旅行についてのアンケートから

次のような傾向があることが分かりました。

ツバメの女性は海外旅行を、ふくろうの女性は

国内旅行を好む傾向が強いことがわかりました。

タカの男性は一人旅、もしくは家族との旅を好む

傾向が強く、こうもりの女性は、二人の旅行を

好む傾向が強いことがわかりました。

種類 誰と 重視する項目

こうもり 国内 二人金銭コスト

重視

タカ 国内・日帰り家族・一

人(同行者満足)

ツバメ 海外・国内 複数 メリット重視

ふくろう 国内・日帰り 家族時間コスト

重視

旅行の好み

旅行期間については、国内旅行では大きな差はみられませんが、海外旅行の場合、ふくろうや

ツバメは、3日以内の短期間の旅行を避けるのに対し、こうもりは20%が3日以内の短期間の旅行を

選んでいました。ただし、こうもりは、8日以上の割合も高いため、短期間か、1週間以上の長期間の

どちらかを選ぶ傾向があることがわかりました。

旅行のメリット(結果・プロセス・同伴者の満足)とコスト(金銭・時間・精神的負担)の何を重視する

かを質問したところ、ツバメは全メリットを重視するのに対し、タカはあまり重視していませんでした。

ただし、後述する考察では、潜在的に同行者満足を重視しているといえます。また、こうもりは金銭

コストを、ふくろうは時間的コストを重視する傾向がありました。

14

コスト

メリット

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15

意思決定プロセスの特徴

各タイプが、どのように旅行商品に興味を持ち、

購入の意思決定に至るのか、各プロセスについ

てのアンケート調査から、次のような特徴がある

ことがわかりました。

基本的に興味段階ではテレビや雑誌などの

マスコミの影響が大きいことは共通の特徴です

が、それ以外の情報源について、特徴がでまし

た。

ツバメは、知人のクチコミ・チラシ・自身の経験

から興味を持ち、ネットのクチコミや旅行会社の

情報を収集して購入に至ります。

興味段階 重要な役割

こうもりチラシ

人のクチコミ自身の経験

タカ 店頭説明 同伴者

ツバメチラシ

ネット・人のクチコミ自身の経験

自分自身

ふくろうチラシ

人のクチコミ

旅行商品購入までの意思決定

タカは、クチコミやネットで情報を収集するよりは、店頭で情報を入手し、その後チラシで購入を決

心するようようです。こうもりやふくろうは、店頭の利用が少ないことがわかりました。

また、旅行商品購入の意思決定において、タカ以外は65%以上が自分自身が大きな役割を果た

したと回答しましたが、タカは同伴者が大きな役割を果たしたと回答する割合が高い結果になりまし

た。タカは興味段階、購入段階のきっかけについて「わからない」と回答する率も高いため、タカが

旅行商品の購入プロセスに積極的にかかわっていないことが読み取れます。

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5.価値観マーケティングによる戦略

ツバメからタカへ

これまでの旅行の主力顧客は間違いなく「ツバメ」タイプだったと想像できます。しかしながら、

これまでと同じようにツバメだけをターゲットとしていては、これ以上の市場の開拓は望めません。

外出志向が強い「タカ」タイプをターゲットとし、旅行需要を喚起することができれば、市場の状況を

変えることができるかもしれません。それでは、「タカ」をターゲットとした時、商品企画、広告・宣伝、

販売において、どのような戦術が必要となるのでしょうか。

「タカ」の旅行商品に対する満足・不満

点について整理した上で、方向性について提言したいと思います。

「タカ」タイプとはこんな人

タカタイプは、これまでの調査結果をまとめると、20

代~30代の男性、会社員が多く、性格的には優柔不

断(中立的回答が多い)、行動特性は家にいるよりも

遊びに行く方を選ぶということが挙げられます。

旅行については、単身なら一人旅、複数で行くなら

身内だけを選び、国内旅行か日帰りを選択する傾向

にあり、クチコミなどの情報はあまり収集せず、店頭で

の説明で興味を持つ傾向があります。

20代~30代の男性・会社員中立的(優柔不断)

家にいるより遊びにいきたい遊びに行くなら一人か身内だけ知らない他人がいるツアーはNG海外は面倒なので国内か日帰りメリットもコストもこだわりはない

タカタイプの人物像

満足している点・不満な点

旅行に対して「満足している・していない」、「20代後半の単身者・30代の子持ち・それ以外」の6

パターンに分けて調査を行いました。結果、満足しているタカは、コストや旅行のプロセス・結果を

重視しているのに対し、不満をもったタカは重視していないという違いがありました。しかし、重視し

ていないにもかかわらず、同じ項目の旅行後の評価が低いことがわかりました。例として金銭コスト

について掲載します。

また、どのような情報と比較して評価したかを質問したところ、満足しているタカは「過去の経験と

比較」しているのに対し、満足していないタカは「家族、友人、知人の情報と比較」していることがわ

かりました。

つまり、満足していないタカは、旅行についての目的意識があまり強くないため、メリットもコストも

軽視しているものの、同伴者等からネガティブな情報を聞いて後悔する傾向があると解釈できます。

Copyright 2010 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE16

17

タカが満足する旅行とは

これまでの調査結果から、タカが満足する旅行の条件を整理しました。

マーケティング戦略

上記条件を踏まえると、つぎのような戦略が有効と考えられます。

見知らぬ他人と一緒に行動する必要がない

情報収集の手間の必要がない

同伴者からあとで文句を言われない

見知らぬ他人と一緒に行動する必要がない

情報収集の手間の必要がない

同伴者からあとで文句を言われない

商品企画

商品企画

お気軽・満足一人旅パック

団体行動が苦手なタカには、移動手段+宿泊+旅程(地図や見所、散策ルート付)+各種クーポン(ランチ、

ディナー、観光施設)をセットにした商品を提供することが有効と思われます。旅程(どこを見て回るか、どこ

で食事するかなど)を設定しておくことで、独自で個人旅行をコーディネートする場合と比較して、情報収集

の手間を省く点が異なります。ふと思い立って遠出したものの、何も準備しておらず、結局日帰りで戻ってき

た、などの経験をしたタカにとっては、まさにニーズにぴったりと言えるでしょう。

お気軽・満足一人旅パック

団体行動が苦手なタカには、移動手段+宿泊+旅程(地図や見所、散策ルート付)+各種クーポン(ランチ、

ディナー、観光施設)をセットにした商品を提供することが有効と思われます。旅程(どこを見て回るか、どこ

で食事するかなど)を設定しておくことで、独自で個人旅行をコーディネートする場合と比較して、情報収集

の手間を省く点が異なります。ふと思い立って遠出したものの、何も準備しておらず、結局日帰りで戻ってき

た、などの経験をしたタカにとっては、まさにニーズにぴったりと言えるでしょう。

同伴者満足パック

同伴者からの文句を最も嫌うタカのためには、同伴者へのヒアリングを前提とした旅行商品選定ツールが

必要になります。その上で、一人旅パックと同様に、細かな旅程をセットにすることで、情報収集を行わない

タカでも、スマートに同伴者をエスコートできるようにすると、同伴者も、タカも満足すると考えられます。

同伴者満足パック

同伴者からの文句を最も嫌うタカのためには、同伴者へのヒアリングを前提とした旅行商品選定ツールが

必要になります。その上で、一人旅パックと同様に、細かな旅程をセットにすることで、情報収集を行わない

タカでも、スマートに同伴者をエスコートできるようにすると、同伴者も、タカも満足すると考えられます。

販売促進・販売

販売促進・販売

マスメディアの活用

タカはネットによる情報収集をあまり行わないため、商品を認知してもらうには、マスメディアの活用が有効

と考えられます。タカの趣味としては、旅行の他に、ドライブ、食べ歩きが挙げられるため、そのような雑誌

への広告掲載などが有効と考えられます。

(タカを取り込むにあたっての旅行企業の業態別の考察はP20を参照)

マスメディアの活用

タカはネットによる情報収集をあまり行わないため、商品を認知してもらうには、マスメディアの活用が有効

と考えられます。タカの趣味としては、旅行の他に、ドライブ、食べ歩きが挙げられるため、そのような雑誌

への広告掲載などが有効と考えられます。

(タカを取り込むにあたっての旅行企業の業態別の考察はP20を参照)

同伴者を意識した接客

タカは情報収集をせず、旅行に対して強い意志や目的もないまま、店頭に来店することが多いと考えられま

す。そのため、接客担当者はどのように接客すれば良いか、どのような商品を推奨すべきか、その対応が

難しいと推測されます。その解決策としては、タカは同伴者を重視するため、タカが来店した際には、同伴

者がいるかどうかで方針を変えることが考えられます。同伴者がいる場合には、同伴者の希望を確認でき

る調査票などを基に、具体的な旅行のラインアップを提供することが有効となります。反対に一人旅の場合

には、希望を確認するよりもラインナップを示して選んでもらう方がよいでしょう。

同伴者を意識した接客

タカは情報収集をせず、旅行に対して強い意志や目的もないまま、店頭に来店することが多いと考えられま

す。そのため、接客担当者はどのように接客すれば良いか、どのような商品を推奨すべきか、その対応が

難しいと推測されます。その解決策としては、タカは同伴者を重視するため、タカが来店した際には、同伴

者がいるかどうかで方針を変えることが考えられます。同伴者がいる場合には、同伴者の希望を確認でき

る調査票などを基に、具体的な旅行のラインアップを提供することが有効となります。反対に一人旅の場合

には、希望を確認するよりもラインナップを示して選んでもらう方がよいでしょう。

まとめ

価値観マーケティングを活用すると、ターゲット客層の人物像が浮かび上がり、効果的・具体的な

施策立案が可能であることがお分かりいただけたかと思います。今回は旅行商品を題材に、実践

内容をご紹介してまいりました。今後も他の商材を取り上げて、価値観マーケティングの活用領域

についてご紹介したいと考えています。

方面以外のラインナップ

これまでは旅行商品の選定はまず方面を選ぶことから始めますが、目的・期間・予算で決める「3日間旬の

食材食べ放題」、「4日間の鉄道の旅」、「期間限定

紅葉・温泉ドライブ」などラインナップを提供することで、

商品選定の面倒さを軽減することができます。

方面以外のラインナップ

これまでは旅行商品の選定はまず方面を選ぶことから始めますが、目的・期間・予算で決める「3日間旬の

食材食べ放題」、「4日間の鉄道の旅」、「期間限定

紅葉・温泉ドライブ」などラインナップを提供することで、

商品選定の面倒さを軽減することができます。

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付録業態別スコアカード

業態別スコアカード

19

旅行企業の業態別評価

私たちは、国内で旅行事業を展開する企業について、業態別にわけて、変化対応力を評価した

「スコアカード」を作成しました。業態及び評価軸と、スコアカードを掲載します。

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20

総合旅行系

既に幅広いターゲットに、多くの商品を提供しています。タカを取り込みよりも、さらなる満足度向上のため

に、店頭での接客の工夫が望まれるところです。

運輸・交通企画系

タカは鉄道系を趣味にしている人もいるため、そうした趣味に絡めた一人旅パックの商品企画によって、タ

カのさらなる取り込みが期待できます。

運輸・交通販売系

能動的に情報収集を行わないタカに対しては、通勤途中などでの商品情報の気づきが有効と考えられます。

ポスターではなくチラシなどで店頭まで引き込むことが重要と考えられます。

独立/SIT系

タカは旅行目的が明確でないため、旅行のコンセプトよりも、同伴者のメリット(例:小さい子供にぴったりな

ど)をキーワードに惹きつけることが有効と思われます。

メディア・通信販売系

商品情報を目にする機会が多い、という点では有利ですが、購入を決心させるには、店頭での説明と同等

のフォローが必要になります。コールセンターや店頭チャネルとの連携が必要です。

ネット専売系

メディア・通信販売系と同様に、店頭での説明と同等のフォローをどのように行うかが工夫のポイントになりま

す。もしくは、一人旅をメインターゲットにすれば、不満は起きないと思われます。

タカを取り込むにあたって:業態別の考察

変化対応力の評価を踏まえて、消費者タイプ「タカ」を取り込むことを前提にした際のポイントを

記載します。

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執筆者

今村

株式会社富士通総研

第一コンサルティング本部

流通・サービスコンサルティング事業部

事業部長代理

長島

直樹

株式会社富士通総研

経済研究所

上席主任研究員

安藤

美紀

株式会社富士通総研

シニアコンサルタント

古平

株式会社富士通総研

シニアコンサルタント

石川

康久

株式会社富士通総研

アシスタントコンサルタント

協 力

平野

株式会社富士通総研

マネージングコンサルタント

富士通総研について

富士通総研は、お客様の経営課題を解決するために、新しいビジネスモデル、業務改革、経営とITの一体

化を提案する「コンサルティング」、社会科学・自然科学とITを融合した課題解決手法を提供する「研究開

発」、社会・経済・産業の動向を鳥瞰し、未来に向けた政策提言を行う「経済研究」の3分野を備え、これら

のシナジーを最大限に発揮してお客様の課題解決に取り組む、わが国でも数少ないシンクタンク/コンサル

ティング会社です。

今回のレポートでご紹介した「価値観マーケティング」についてのお問合せは、下記までご連絡くださいま

すようお願い申し上げます。

株式会社富士通総研

流通・サービスコンサルティング事業部

Tel : 03(5401)8405

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