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酸化還元反応 (改訂 2.0) 酸化・還元という言葉ではなく 酸化する,酸化される 還元する,還元される で覚える 主語,述語を見極める国語力が必要 電子を奪うことを酸化すると表現 酸化と還元 化学反応の多くは前章でやった酸,塩基の中和反応と,酸化還 元反応である。酸化還元反応は身近な所でも常時起こっている。 日常でごく普通にある金属が錆びたり,何かが燃えたりするのは 酸化還元反応であることが多い。 酸化の定義はイオンや原子などが電子を失うこと,還元の定義 はその逆で電子をもらうことである。右のイラストでは A がはに わに電子を与えている。この二者はどういう関係なのか描いた私 自身も分からないが,細かいことは気にせず見てもらいたい。単 純に酸化・還元の言葉だけ覚えても不十分なことが多い。酸化還 元では電子の他にも見分ける方法がある。 ●水素 水素を失うことを酸化,水素をもらうことを還元という。 電子と同じように扱える。 ●酸素 中学理科で習った通り,酸素と結びつくことを酸化,酸素を失うことを還元という。 酸化数 各原子において,電子の数の過不足を酸化数という。例 えばナトリウム原子 Na は原子番号 11 番なので電子は 11 個であるが,Na + では電子が 1 個足りなく,正電荷の陽子 1 個多いので酸化数は +1 となる。+I のように時計文 字を使うことも多い。 酸化数の確認の仕方は簡単である。NaOH なら,Na +1O -2H +1 である。その他,化合物中は通常,H +1,アルカリ金属は +1酸素は -2 と決まっている。過酸化水素の酸素の酸化数は -1 と例外はあるが,基本的に酸 素は -2 としてよい。以下に反応式と例を示す。 4Fe O+O 2 2Fe 2 O 3 (2 3) N 2 + 3H 2 2NH 3 (0 +1) Cu + 2H 2 S O 4 CuSO 4 +S O 2 + 2H 2 O (+6 +4) 基本的に単体元素が含まれるものは必ず酸化還元反応であるといえる。単体が化学反応式 の前後で現れるとき,前か後かどちらかでは必ず化合物になるからである。しかし,単体が なくても酸化還元反応であることもあるので気をつけてもらいたい。また下のように,酸化 数の変化する原子が 1 つもない場合は酸化還元反応ではない。 Na 2 CO 3 + 2HCl 2NaCl + H 2 O + CO 2 (中和反応・弱酸遊離) FeS + 2HCl FeCl 2 +H 2 S (弱酸遊離) 上の 2 つは姿は変わるが,中身は変わらない反応である。 c2222-1 ■新快速のページ 講義ノートシリーズ 化学■

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酸化還元反応  (改訂 2.0)

酸化・還元という言葉ではなく

  酸化する,酸化される

  還元する,還元される で覚える

主語,述語を見極める国語力が必要

電子を奪うことを酸化すると表現

酸化と還元

 化学反応の多くは前章でやった酸,塩基の中和反応と,酸化還

元反応である。酸化還元反応は身近な所でも常時起こっている。

日常でごく普通にある金属が錆びたり,何かが燃えたりするのは

酸化還元反応であることが多い。

 酸化の定義はイオンや原子などが電子を失うこと,還元の定義

はその逆で電子をもらうことである。右のイラストではAがはにわに電子を与えている。この二者はどういう関係なのか描いた私

自身も分からないが,細かいことは気にせず見てもらいたい。単

純に酸化・還元の言葉だけ覚えても不十分なことが多い。酸化還

元では電子の他にも見分ける方法がある。

●水素 水素を失うことを酸化,水素をもらうことを還元という。

電子と同じように扱える。

●酸素 中学理科で習った通り,酸素と結びつくことを酸化,酸素を失うことを還元という。

酸 化 数

 各原子において,電子の数の過不足を酸化数という。例

えばナトリウム原子 Na は原子番号 11番なので電子は 11個であるが,Na+では電子が 1個足りなく,正電荷の陽子が 1個多いので酸化数は +1となる。+Iのように時計文字を使うことも多い。

 酸化数の確認の仕方は簡単である。NaOHなら,Naが+1,Oが −2,Hが +1 である。その他,化合物中は通常,Hが +1,アルカリ金属は +1,酸素は−2 と決まっている。過酸化水素の酸素の酸化数は−1と例外はあるが,基本的に酸素は−2としてよい。以下に反応式と例を示す。

4FeO + O2 → 2Fe2O3 (2 → 3) N2 + 3H2 → 2NH3 (0 → +1)Cu + 2H2SO4 → CuSO4 + SO2 + 2H2O (+6 → +4)

 基本的に単体元素が含まれるものは必ず酸化還元反応であるといえる。単体が化学反応式

の前後で現れるとき,前か後かどちらかでは必ず化合物になるからである。しかし,単体が

なくても酸化還元反応であることもあるので気をつけてもらいたい。また下のように,酸化

数の変化する原子が 1つもない場合は酸化還元反応ではない。Na2CO3 + 2HCl → 2NaCl + H2O + CO2 (中和反応・弱酸遊離)

FeS + 2HCl → FeCl2 + H2S (弱酸遊離) 上の 2つは姿は変わるが,中身は変わらない反応である。

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酸 化 剤

電子を受ける行為→還元される

電子をもらう物質→酸化剤

A + e− → B酸化剤は他を酸化する

  自身は還元される

自分が還元されるものが酸化剤

 酸化剤とは化学反応式において自分は還元されて相手を酸化するものである。相手を酸化

するということは,電子を奪うことである。イメージしやすくするには酸化剤は「窃盗犯」

で,還元剤はその窃盗犯の「被害者」である。酸化剤は自身が還元されるということなので,

酸化数は減る。化学反応式において,酸化数の減った物質が酸化剤ということになる。

半反応式の作り方

 過マンガン酸イオン MnO4− は酸性で強力な酸化剤としてはたらく。反応後,マンガン(II)イオンMn2+

になることを覚えておきたい。

MnO4− → Mn2+水 H2Oをたし,両辺の Oの数を調節

MnO4− → Mn2+ + 4H2O H+をたし,Hの数を調節

MnO4− + 8H+ → Mn2+ + 4H2O e−で両辺の電気量を調節MnO4− + 8H+ + 5e− → Mn2+ + 4H2O 完成

これで過マンガン酸イオンの半反応式は完成である。酸化剤は他から電子を回収する物質な

ので,必ず左辺に電子があることに気をつけたい。

最低限覚えるべきこと

 以上の方法で半反応式を作る方法をマスターすれば,怖いことはない。

過マンガン酸カリウム (硫酸酸性) MnO4− + 8H+ + 5e− → Mn2+ + 4H2O二クロム酸カリウム (硫酸酸性) Cr2O72− + 14H+ + 6e− → 2Cr3+ + 7H2O希 硝酸 HNO3 +3H+ + 3e− → NO + 2H2O濃 硝酸 HNO3 +H+ + e− → NO2 + H2O熱濃硫酸 H2SO4 +2H+ + 2e− → SO2 + 2H2O二酸化硫黄 酸化剤 SO2 +4H+ + 4e− → S + 2H2O過酸化水素 酸化剤 H2O2 +2H+ + 2e− → 2H2O塩素 Cl2 +2e− → 2Cl−オゾン O3 + 2H+ + 2e− → O2 + H2O

 網掛けをしてある部分さえ覚えておけば,半反応式は作れるはずである。練習してみてほ

しい。二酸化硫黄と過酸化水素は酸化剤,還元剤のどちらとしてもはたらく。相手の物質の

酸化力が強ければ還元剤として,相手の酸化力が弱く還元力が強ければ酸化剤としてはたら

く,融通の利く物質である。ただし二酸化硫黄はどちらかというと還元剤で,過酸化水素は

どちらかというと酸化剤である。

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還 元 剤

電子を受ける行為→還元される

電子をもらう物質→酸化剤

A → B + e−還元剤は他を還元する

  自身は酸化される

還元剤の半反応式

 酸化剤があるなら,当然還元剤もある。還元剤は自らが酸化されて電子を作って他の物質

に与える役割をもつ。イオン化傾向の高い金属や低い元素をもつ化合物に多い。 半反応式

は酸化剤と同じように作るが,比較的楽なものが多い。例として二酸化硫黄と硫化水素の半

反応式を作ってみる。二酸化硫黄は還元剤としてはたらくとき,硫酸イオンになる。まずは

SO2 → SO42−を書く。

SO2 → SO42− 水 H2Oをたし両辺のOの数を調節SO2 + 2H2O → SO42− H+

をたし両辺の Hの数を調節SO2 + 2H2O → SO42− + 4H+ e−を足し両辺の電気量を調節

SO2 + 2H2O → SO42− + 4H+ + 2e− 完成

また硫化水素を考えてみる。単体硫黄になるので,H2S → Sとする。H2S → S H2Oをたす必要なし。H+

を足す

H2S → S + 2H+ e−を足すH2S → S + 2H+ + 2e− 完成

この硫化水素の例のように,水をたす,水素イオンをたすなどのいくつかのプロセスを省け

るものがある。還元剤は我が身を犠牲にして電子を作る物質なので,必ず右辺に電子がある

ことを意識しておく必要がある。

最低限覚えるべきこと

 次の式で網掛けをしてある部分さえ覚えておけば,半反応式は作れるはずである。各自練

習をしてもらいたい。還元剤の半反応式は以下に挙げたものでは二酸化硫黄のみ水 H2Oが必要であるが,その他は必要ない。さらに水素イオン H+

すら関与しないものもあり,酸化

剤と比べると簡単なので作っているうちに自然に覚えられるかもしれない。

 特に代表的なものは硫化水素,過酸化水素,シュウ酸などである。

硫化水素 H2S → S + 2H+ + 2e−シュウ酸 (COOH)2 → 2CO2 + 2H+ + 2e−ナトリウム Na → Na+ + e−鉄 (II)イオン Fe2+ → Fe3+ + e−スズ (II)イオン Sn2+ → Sn4+ + 2e−チオ硫酸ナトリウム 2S2O32− → S4O62− + 2e−過酸化水素 還元剤 H2O2 → O2 + 2H+ + 2e−二酸化硫黄 還元剤 SO2 + 2H2O → SO42− + 4H+ + 2e−

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酸化還元滴定  (改訂 2.5)

還元剤が放出する電子と

酸化剤が吸い込む電子は同じ数

酸化剤 x[mol] 価数が n還元剤 y[mol] 価数がmなら   x× n = y ×m

モル数を求める

 酸化還元滴定も中和滴定と同じくモル数に注目する。今回考えるお

題は次のとおり。濃度未知の酸性状態の二クロム酸カリウム水溶液を

50m�とり,1�に希釈する。この溶液 20m�を 0.10[mol/�]の過酸化水素水で滴定したら 42m�を要した。では反応式を考える。酸化剤としての二クロム酸カリウム水溶液と還元剤としての過酸化水素水の半反応式は

{Cr2O72− + 14H+ + 6e− → 2Cr3+ + 7H2OH2O2 → O2 + 2H+ + 2e−

 今回はここまででよい。別に 1本の式にまとめずに半反応式のみでよい。この式から二クロム酸カリウムは 1molあたり 6molの電子をとり込む 6価の酸化剤,過酸化水素は 1molあたり 2molの電子を放出する 2価の還元剤ということが分かる。

計算方法

 まず二クロム酸カリウム水溶液であるが,濃度未知なので,

c[mol/�] とする。50m� をとり,それに水を加えて 1�,つまり1000m�にするということは,1000 ÷ 50から 20倍に希釈していることになる。だから,この薄めた液 (希釈液)の濃度は元の1/20であり, c

20 [mol/�] の二クロム酸カリウム水溶液を使うことになる。そしてその中から 20m�を利用するので,二クロム酸イオンのモル数は

c20 × 20

1000 [mol]となる。受け取る電子はこの 6倍の

c20 × 20

1000 × 6[mol]となる。これが二クロム酸カリウム水溶液が回収する電子のモル数である。

 次に過酸化水素水を考える。滴定に必要であった過酸化水素水は 0.10mol/� の濃度で42m� なので存在する過酸化水素のモル数は 0.10 × 42

1000,出てくる電子はこの 2 倍なので,0.10× 42

1000 × 2。これが過酸化水素水の放出する電子のモル数である。先ほどの回収される電子と放出される電子のモル数が同じであれば酸化還元の滴定が終了するので,c

20 × 201000 × 6 = 0.10 × 42

1000 × 2 c = 1.4[mol/�] □

 このように,電子のモル数に注目して方程式を立てていけば難しいことはない。出入りす

る電子の数を価数として計算すれば,中和滴定の問題と同じような扱いができる。二クロム

酸カリウムと過酸化水素水のイオン反応式は

Cr2O72− + 3H2O2 + 8H+ → 2Cr3+ + 3O2 + 7H2Oとなるが,反応式の係数をかけないように注意。あくまで価数をかける。

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酸化還元での逆滴定  (改定 2.5)

入れすぎた酸化剤 (還元剤)から減った酸化剤 (還元剤)を引く酸化剤のモル数と価数の積

還元剤のモル数と価数の積

出入りした電子のモル数が一定

逆滴定の立式方法

 入試問題において酸化還元の計算といえばほとんどが逆滴定

である。次の例題で説明する。

 硫化水素を含むガス 3.0gを 0.10mol/�のヨウ素水溶液 300m�に通し,その溶液 30m�を 0.15mol/�チオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定したところ,20m�を要した。硫化水素の質量%を求めよ。ガスの中には硫化水素以外の還元剤はないものとする。

 まず硫化水素H2Sとヨウ素 I2の半反応式は次のようになる。{H2S → S + 2H+ + 2e−

I2 + 2e− → 2I−この 2式から,H2S + I2 → S + 2HI。つまり,硫化水素が 1molでヨウ素が 1mol減るということになる。ガス内の x[g]が硫化水素とすればH2S = 34なので,硫化水素は x

34[mol]となる。

H2S + I2 → S + 2HI反応前

x34 0.10 × 300

1000反応量 − x

34 − x34 (略)

反応後 0 0.10 × 3001000 − x

34よって残ったヨウ素は

301000 − x

34 [mol]となる。さらに 300m�のうちの30m�だけを使うので,この 1/10だけが滴定に使ったヨウ素,つまりチオ硫酸ナトリウムと反応するために使われるヨウ素である。チオ硫酸ナ

トリウムの半反応式は

2S2O32− → 2e− + S4O62−(四チオン酸)のように,S2O3 と e−の係数が同じなので,チオ硫酸イオン 1molで 1molの電子を出す 1価の還元剤ということがわかる。電子の係数が 2だが価数は 1であることに気をつけたい。対するヨウ素は 1molで電子 2molを奪う 2価の酸化剤である。つまり,チオ硫酸ナトリウムのモル数とヨウ素のモル数の 2倍が等しくなったときに滴定が終了するので,

( 301000 − x

34)

× 110 × 2 = 0.15 × 20

1000 × 1 x = 0.51gガス 3.0gの中に含まれていた硫化水素は 0.51g。問題は「何%か」なので,0.51

3.0 × 100より,17% と答えられる。 分からないものを文字でおいて問題文の流れどおりに立式していくと,問題の誘導に乗り

にくい場合もあるが比較的短時間で求めることができる。

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ファラデー定数  (改訂 2.0)

電池・電気分解でよく使う値

   96500C/mol電子は 1molで 96500Cの電気量電気量というのは

  電流と秒数の積

電 気 量

 電池や電気分解において電流が関係する場合,電気量を考える

ことがある。電子や陽子やイオンは電荷というものを持つ。この

電気的な量を電気量といい,単位を [C](クーロン)として表す。この電気量は 1Aの電流を 1秒流したとき,1Cとして定義される。つまり,電流 I[A]と時間t[s]と電気量Q[C]の関係は次のようになる。

Q = It または I = Qt

  2.0Aの電流を 5分間流したとき,2.0 × 5 × 60 = 600Cとなる。●ファラデー定数 電子 1molあたりの電気量は 96500Cとなる。96500C/molをファラデー定数という。普通は問題文や問題冊子の表紙や冒頭に「ファラデー定数は 9.65 × 104C/molを用いよ」などと述べられているので覚えておく必要はないが,自然に覚えてしまうはずで

ある。それくらい電気分解や電池の問題を演習してほしい。

 また,電流とは電子の移動である。電子が 1mol移動したときの電気量は 96500Cとなる。電流の向きは電子の移動の向きと反対向きである。間違えないようにしたい。

物質量の考え方

 化学反応式は原子分子等の物質量 (モル数)に注目して計算することはもう慣れただろうか? 電子が入ってきても同じである。

2Cl− → Cl2 + 2e−この反応式の場合,電子 1molにつき発生する塩素は 1/2molである。逆に塩素 1molを発生するのに必要な電子は 2molである。例題  5.00Aの電流で塩素を 1.12�(標準状態換算)だけ発生させるのに必要な時間は何分か。有効数字 3桁で答えよ。■解答■ 発生する塩素は

1.1222.4molである。まず,t[分]とすれば流す電気量は 60t × 5[C]

となる。これを 96500で割ると流れた電子のモル数が求まる。その電子のモル数の 1/2が発生する塩素なので,

60t× 5 ↑電気量

96500 ↑電子のモル

×12 ↑

塩素のモル

= 1.1222.4 t 32.2分 □

求めたいものを未知数でおいてモル数に着目すると簡単に式を立てられて速い。

 計算中,自分が何をしているか見失わないためにも↑を書いてそこまでで何の式なのかメ

モしておくと良い。電池や電気分解の計算問題では電流と電子のモル数を定数 96500C/molで結びつけ,なおかつモル数に着目することである。電気分解,電池の計算問題では電子の

係数がポイントとなるので必ず反応式を書いてから問題を考えるようにしたい。

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ボルタ電池  (改訂 1.0)

酸化と還元で起こる電子のやり取りを

応用したものが電池

ボルタ電池は  (−)Zn|H2SO4|Cu(+)正極  2H+ + 2e− → H2 ↑負極 Zn → Zn2+ + 2e−

電池とは

 市販されている乾電池を想像してもらいたい。日立でも東

芝でも三菱でもよい。平らな方が負極,凸の方が正極である。

負極から電子が発射され,回路を 1周して正極に回収されるというのが電池である。しかし,電流の向きは正極から出て

負極に入ると定義されている。このあたりは一般常識である

が,万一知らなければ今すぐに覚えておくべきである。

 原始的な電池がボルタ電池である。単体の銅と亜鉛を導線

でつないで硫酸の中に入れただけの電池である。亜鉛が溶け

出すと電子は水溶液中に流れるのではなく,電導性の高い導

線を通る。電子が正極である銅板まで達すると,水溶液中の

水素イオンに回収され,水素イオンが還元される。

正極  2H+ + 2e− → H2 ↑負極  Zn → Zn2+ + 2e−

正極で還元,負極で酸化している。これは理論を組み立てれ

ば難なく答えられるとは思うが,とっさに聞かれた時にも答えられるようにしておいた方が

いい。

分極と減極剤

 ボルタ電池には弱点がある。陽極で発生する水素の泡が,電子の往

来を妨害することである。この状態を分極という。この分極を防ぐた

めには,減極剤とよばれる酸化剤を加える。つまり,発生した水素気

体を酸化して水素イオンに戻してやればよい。よく使われる減極剤に

は過酸化水素 H2O2などがある。

簡単な計算

 ではここで,負極の質量が 1.30g軽くなったときに取り出された電気量を求めてみる。Zn = 65である。1.30

65 molの亜鉛が消費されたことになる。すると,発生した電子はこの 2倍なので,1.30

65 × 2molである。これにファラデー定数をかければ電気量になるので,1.30

65 × 2 × 96500 = 3860 3.9 × 103[C] □

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ダニエル電池

負極は 亜鉛と硫酸銅

正極は 銅と硫酸銅

(−)Zn|ZnSO4aq|CuSO4aq|Cu(+)正極 Cu2+ + 2e− → Cu負極 Zn → Zn2+ + 2e−

こうなると,起電力

が下がる

水溶液を仕切る電池

 ボルタ電池の次に大切なのがダニエル電池である。亜鉛と銅の硫酸

塩水溶液であり,ボルタ電池と同じようにイオン化傾向の高い亜鉛が

溶け出し,銅が還元される。ボルタ電池とは違い,水素は発生しない。

水素イオンの代わりに銅イオンが還元されるのである。

正極 Cu2+ + 2e− → Cu負極 Zn → Zn2+ + 2e−

 そこで両電極槽のイオン濃度が極端に変化しないようにするための

ものが中央に入れる素焼き板である。ただ仕切るだけでは正極側で銅

イオンが減って相対的に負に帯電し,負極側では亜鉛イオンが増えて

正に帯電する。素焼き板はイオンを通すため,左右の槽の正負のバラ

ンスが取れる。

起 電 力

 ダニエル電池の起電力を上げる場合を考える。ダニエル電池の仕組みは亜鉛が溶けて銅が

析出する酸化還元反応によって電子を移動させるものなので,亜鉛イオンの濃度を下げて銅

イオンの濃度を上げてやれば起電力が上がる。また,ダニエル電池はボルタ電池のように水

素を発生して外に出すということがないので,理論上は充電して再利用できる電池である。

計算方法

 ダニエル電池ではそれほど計算力を要求される問題は多くない。むしろダニエル電池で

発電し,その電流で電気分解するものが出題されることがある。今回はダニエル電池だけで

の計算を考えてみる。Cu = 64として,正極の質量が 1.28g増加したとき,2.0Aの電流を何分流したか求めよ,というときはどう考えればよいだろうか。ちなみにファラデー定数を

9.65 × 104C/molとする。

銅が1mol反応するため

の電子は 2mol。Cu2+ + 2e− → Cu

 時間を t[分]とすれば,60t[秒]となり,この間に流れた電気量は60t×2.0[C]。これを電子のモル数に直すと,60t× 2.0

96500 [mol]となる。次に銅は 1.28gが析出している。銅のモル数の 2倍の電子が流れるので,今回流れる電子は

1.2864 × 2となる。これを=で結べば

60t× 2.096500 = 1.28

64 × 2 t = 32.1 · · · 32[分] □

  2をかけたり割ったりすることを忘れると悲惨なので十分に注意してもらいたい。

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鉛 蓄 電 池  (改訂 1.0)

鉛と酸化鉛を使う電池

(−)Pb|H2SO4|PbO2(+)正:PbO2 + SO4

2− + 4H+ + 2e−→ PbSO4 + 2H2O

負:Pb + SO42− → PbSO4 + 2e−鉛を使う充電地

 ボルタ電池,ダニエル電池と続いて必要なのが鉛蓄電池である。正

極が酸化鉛 PbO2で鉛の酸化数は +4である。負極は単体の鉛で酸化数は 0となる。どちらも水溶液中の硫酸イオンを取り込んで硫酸鉛 (II)になる。だから,電解液中の硫酸モル数は減り,電極の質量はどちら

も増えることを意識してもらいたい。鉛蓄電池では,水素などの気体

は発生しない。また,電極が電解液中に溶け出すこともない。このよ

うな理由から,鉛蓄電池は充電をして再利用できる二次電池である。正極で還元が起こり,

負極で酸化が起こるのはどの電池も同じである。

鉛蓄電池の計算

 では計算問題を 1つ。正極の質量が 1.28g増加したとき,流れた電気量を有効数字 2桁で答えよ。ファラデー定数は 96500C/mol。

PbO2 + SO42− + 4H+ + 2e− → PbSO4 + 2H2Oこのとき,正極は PbO2から PbSO4になったので,式量は SO2(といっても二酸化硫黄ではなく,S原子 1個分とO原子 2個分という意味の略形式)の分の 64増加となったことがいえる。つまり,1.28g増加したので,

1.2864 [mol]の PbO2が反応したといえる。では,流れた電子を考える。反応式を見ると

PbO2に対し,2e−となっているので,PbO2の 2倍のモル数の電子が流れたことになる。つまり,流れた電子は

1.2864 × 2[mol]の電子なので,

1.2864 × 2 ↑

電子のモル

×96500 = 3860 3.9 × 103[C] □

 また,負極の質量増加分は次のようになる。負極は 2molの電子で 1molの鉛が反応し,SO4分,式量にして 96増加する。例によって「四酸化硫黄」のようなブキミなものは想像しないように。反応した電子のモル数は

1.2864 × 2molなので,鉛はその半分で×2を除去し

たものである。

1.2864 × 96 = 1.92 1.9g増加ということになる。

充  電

 鉛蓄電池は充電もできる。外部電源から電圧をかけてやればよい。逆の反応が起こり,電

源の正極につないだ極は硫酸鉛が酸化されて酸化鉛になる。また,負極につないだ極は硫酸

鉛が還元されて鉛になる。反応式は右辺と左辺を入れ換えるだけでよい。

PbSO4 + 2H2O → PbO2 + SO42− + 4H+ + 2e−PbSO4 + 2e− → Pb + SO42−

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燃 料 電 池

水素,メタンなどの燃料を

  燃やすことで発電する電池

正極はO2を使い,e−を回収負極はH2を使い,e−を放出化学反応式は作ることができる

反応式の作り方

 近年,注目され始めているのがこの燃料電池である。入試での代

表的なものが水素を使うもので,酸型と塩基型がある。負極には燃

料となる水素を,正極には酸素を反応させる。そして電解液で両極

を介するというのは,他の電池と同じである。反応式の作り方は以

下のようになる。

 まず全電池で共通だが,負極は電子を作るので,右辺に e−,正極は電子を回収するので,左辺に e−がある。●酸型 燃料電池は正極に酸素,負極に水素を使うので,それぞれ

左辺に酸素,水素を書けばよい。反応式の骨格は次のようになる。

正極  O2 + e− →    負極  H2 → e−次に酸性溶液は水溶液中に H+

が多いということを思い出す。すると,左辺か右辺に H+を

書き込むことになるが,左右の電荷を合わせるため,e−と同じ辺に同じ数ずつ書けばよい。正極 O2 + nH+ + ne− →     負極  H2 → nH+ + ne−

そして正極の空欄である右辺には Hと Oでできた化合物を書く。常識的に考えれば水である。過酸化水素のわけはない。負極は n = 2で仕上げ。

正極  O2 + 4H+ + 4e− → 2H2O 負極  H2 → 2H+ + 2e−●塩基型 水酸化ナトリウムを使う塩基型燃料電池も同じである。しかしH+

ではなく,OH−

が多い。e−と OH−の係数を同じにし,反対側の辺に同じ数ずつ書くといい。

正極 O2 + ne− → nOH− 負極  H2 + nOH− → ne−あとは水 H2Oを加え,係数合わせをすればよい。

正極 O2 + 4e− + 2H2O → 4OH− 負極  H2 + 2OH− → 2H2O + 2e− この燃料電池は水素と酸素によって発電している。また,酸

性か塩基性かによってちょっと変えれば反応式を作ることがで

きる。無理に覚えなくてもよいのである。

例題 水素が標準状態で 1.12�消費された。このとき (1)流れた電気量と,(2)消費された酸素の質量 [g]を求めよ。有効数字は 2桁,ファラデー定数 96500C/mol,O = 16とする。(1) 1.12�は 0.050molである。電子はその 2倍の 0.10molとなる。電気量は 0.10 × 96500 = 9650    9.7 × 103C(2) 正極の反応式を見ると,電子のモル数の 1/4だけの酸素が消費されているので,0.025molとなる。もしくは正極と負極の反応式を合成してしまい,

2H2 + O2 → 2H2O より,酸素のモル数は水素のモル数の 1/2としても 0.025molと分かる。0.025 × 32 = 0.80  0.80g

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電 気 分 解  (改訂 1.0)

電流を流して液体を分解

陽極では酸化・陰極では還元

硝酸・硫酸イオンは酸化されず,酸素発生

イオン化傾向が高い金属は還元されず水素発生

Pt,Au,C以外の陽極は溶け出す外部電源からの作用

 水溶液に対して電圧をかけ電流を流すと酸化還元反応

が起こり,水溶液または電極が化学反応を起こす。この

ように電流によって強制的に酸化還元反応を起こすこと

を電気分解という。電源の負極側を陰極,電源の正極側

を陽極とよぶ。陰極では電源の負極からの電子の供給に

より,還元反応,陽極では電源の正極に電子が吸い上げ

られるので酸化反応がおこる。電気分解によって化合物

から単体を得るなどのことができる。

具体的な反応

 電極極板を炭素か白金にしたとき,水溶液の溶質または水が

反応する。電気分解は陰極から考えると分かりやすい。

●陰極 陰極では何かが電子を受け取るが,優先順位がある。

銀イオンや銅イオンは電子を受け取りやすい。

銀  Ag+ + e− → Ag  銅  Cu2+ + 2e− → Cuでよい。また,イオン化傾向の高い金属のイオンが含まれてい

るとき,酸性ならば水素イオン,水素イオンの少ない中性や塩

基性の場合は水が電子を受け取って水素を発生する。

酸性のとき 2H+ + 2e− → H2中性・塩基性のとき 2H2O + 2e− → H2 + 2OH−

K,Ca,Na,Mg,Alのイオンは,水溶液の電気分解では水または水素イオンが電子を「横取り」してしまうので,これらの金属イオンを還元することは容易ではない。

●陽極 電子が電源の正極に引っ張られるため,陽極では何かが電子を失う。当然ながら陰

イオンが電子を提供することが多い。ハロゲンイオンの Cl−や I−は他の何よりも先に電子を失う。塩化ナトリウム水溶液やヨウ化カリウム水溶液の電気分解では

2Cl− → Cl2 + 2e− 2I− → I2 + 2e−などの反応が起こる。それらの次に電子を失いやすいのは水酸化物イオンであり,その次は

水である。陰イオンといっても,SO42−,NO3−はなかなか強情で,電子を手放さない。塩基性のとき 4OH− → O2 + 2H2O + 4e− 中性・酸性のとき 2H2O → O2 + 4H+ + 4e−

 なお,陽極に白金・金・炭素以外の金属を用いた場合,その金属が直接電子を失って電源

に提供する形になる。すなわち,銅板や銀板の電極なら次のようになる。

銅板  Cu → Cu2+ + 2e− 銀板  Ag → Ag+ + e−

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電気分解演習

各極板における反応式を書く

e−の係数に注目し   96500C/molを利用する電子が何molなのかを明確にし物質が何molか計算する

問題の解き方

 電気分解はセンターをはじめ,よく出る。解法をしっかり学んでもらいたい。大切なのは

e−を含んだ反応式を書き,電子のモル数中心に考えていくことである。以下,ファラデー定数 96500C/mol,Cu = 64,有効数字 2桁とする。例題1 塩化銅 (II)水溶液を白金電極を用いて電気分解する。直流電流 5.0Aを 3時間 13分流した。(1) このとき,陰極で析出する金属は何 gか。(2) 陽極で発生する気体は標準状態で何m�か。■解答■ 反応式を立てる。CuCl2なので陰極では Cu2+

が電

子を受け取り,陽極ではハロゲンイオンの Cl−が電子を失う。陽 2Cl− → Cl2 + 2e− 陰 Cu2+ + 2e− → Cu

3時間 13分という中途半端な数字は 193秒。うまく割り切れるように設定した。流れた電子は

193 × 5.096500 mol。これを中心に考える。

(1) 銅である。2e− → Cuのように,2molの電子で 1molの Cuが析出するのでまず電子のモルに 1/2倍をしたら銅のモルになる。193 × 5.0

96500 × 12 ↑

銅のモル

×64 ↑銅のグラム

= 64200 = 32

100 = 0.32g(2) 塩素である。Cl2 + 2e−より,電子 2molで塩素 1mol発生。同じように193 × 5.0

96500 × 12 ↑

塩素のモル

×22.4 ↑塩素の � ×1000 ↑m�= 112 1.1 × 102m�

例題の解法のように,式で数値をかける毎に○○の××と書いておくといいかもしれない。

例題2 水酸化ナトリウム水溶液を白金電極で電気分解したとき,

陽極で発生した気体の量と時間の関係が図 1の破線のグラフになった。このとき,陽極で発生した気体と時間の関係をグラフに実線

で書き込め。

■解答■ まず陰極から考える。Na+は容易に還元されないので,H+が還元されると言いたいところだが,アルカリ性なのでH+

少ない。だから水が還元され,水素が発生する。陽極は電子を失

う場所だが,ここでは水溶液中に多量にある水酸化物イオンが電

子を失う。酸素が発生する。

陽 2H2O + 2e− → H2 + 2OH− 陰 4OH− → O2 + 2H2O + 4e−

 陽極は電子の 1/4,陰極は電子の 1/2の気体が発生する。ということは陰極では陽極での 2倍の気体を発生するので,右下のグラフのようになる。

 このような問題はセンターを始め,過去に多く出題されている。

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電 解 精 錬  (改訂 2.5)

Cuなどのイオン化傾向の低い金属陽極に粗銅 Cu → Cu2+ + 2e−陰極に純銅 Cu2+ + 2e− → Cuイオン化傾向の低いものは陽極泥に

イオン化傾向の高いものは還元されない

溶ける陽極

 電気分解において,銅極板を用いて銅 (II)イオンを含む水溶液を電気分解すると銅が溶け出す。その銅は陰極に析出する。その性質を利用

し,純粋な銅を作ろうとするのが電解精錬である。漢字には気をつけて

もらいたい。銅の電解精錬には硫酸銅 (II)水溶液を使うことが多い。●陽極での反応 粗銅 (他の金属を含む純度 98%程度の銅)を用いるため,イオン化傾向が銅以上のものは溶け出し,銀や金などは溶け出さずにそのままの形で底に落ちて陽極泥とな

る。銀や金は溶けずに踏ん張っていても,銅などが溶けることで「足場」がなくなるからそ

のまま墜落するのである。

●陰極での反応 極板には純銅を用いる。電源から送られてきた電

子をキャッチし,銅は単体銅となり極板に析出する。イオン化傾向

の高い鉄イオンや亜鉛イオンなどは「電子争奪戦」で銅に負けてし

まうため析出できずに水溶液中をさまようことになる。

計算問題

 電解精錬はどのようなものか分かっていただけたと思うので簡単

な問題を出題する。

例題 硫酸銅 (II)水溶液と銅板を用いて電解精錬をする。9.65Aの直流電流を 10分間流したとき,陽極が 2.00g減少した。このとき硫酸銅 (II)水溶液の濃度変化はなく,陰極では銅原子以外のものは析出しないとして粗銅の純度を有効数字2桁で求めよ。ただし,ファ

ラデー定数は 96500C/mol,Cu = 64とする。■解答■ 陰極の反応式は Cu2+ + 2e− → Cuのように銅が析出する。銅 (II)イオンの濃度変化がないということは,陽極で溶けた銅すべてが陰極で析出することになる。陰極で析出した銅の質量は簡

単に求められる。9.65 × 60096500 ↑

電子のモル

×12 ↑

銅のモル

×64 ↑銅のグラム

= 1.92また,陽極は 2.00g軽くなったが,前述の通りこの中の 1.92gが銅であり,残り 0.08gは不純物である。しかし,水溶液中の銅 (II)イオンの濃度が変わらないので,溶け出した金属はすべて銅である。もし亜鉛などのイオン化傾向が高いものが含まれて

いれば,それが一部の銅の代わりに酸化されるが析出するのは銅だけなのでので,水溶液中

の銅 (II)イオン濃度が下がる。実際の問題ではこのように電解液を考慮するものが多い。純度は

1.922.00 × 100 = 96%

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融解塩電解  (改訂 2.0)

イオン結晶を融点まで加熱して

状態変化により液体にする

水を使わない電気分解

イオン化傾向の高い金属を析出

陰極:Na+ + e− → Naナトリウム金属単体を得る方法

 塩化ナトリウム水溶液を電気分解しても,陰極では

2H2O + 2e− → H2 + 2OH−

のように水素が出てしまい,ナトリウムイオンは還元されない。水

が電子をインターセプトしてしまうのである。ナトリウムを還元

するためには水が邪魔なのでいっそのこと塩化ナトリウムを融点

まで加熱し液化し,その液体を電解しようとする方法が融解塩電

解 (融解電解・溶融塩電解・溶融電解などともいう) である。 融解塩電解は水溶液ではなく,塩を融解したものなので,水や

水素イオンなどは含まれないので心置きなくナトリウムやカルシウムなどを還元できる。

反応のしかた

 具体的に覚えておいてもらいたいのは塩化ナトリウムからナト

リウムを得る方法と酸化アルミニウムからアルミニウムを得る方

法である。

●塩化ナトリウムの場合  Na+と Cl−が直接還元,酸化される反応である。水のようなジャマ者はいないので Na+ は安心して陰極に引かれ,電子を受け取って還元される。

陰極:Na+ + e− → Na陽極:2Cl− → Cl2 + 2e−

●酸化アルミニウムの場合 酸化アルミニウムAl2O3からアルミニウムを得る場合でもこの融解塩電解が用いられる。この際,氷

晶石とよばれるモノを加える。氷晶石は酸化アルミニウムの融点を下げる役割がある。

 酸化アルミニウムを融解させるとAl3+とO2−という見慣れないイオンに分かれる。アル

ミニウムイオンは陰極付近でそのまま還元されて回収され冷却される。この融解塩電解では

陽極に使われる炭素棒が酸化され,次のような反応となる。

陰極:Al3+ + 3e− → Al陽極:2O2− + C → CO2 + 4e− or O2− + C → CO + 2e−

例題 アルミニウムを 5.4g得るのには 15Aの電流を何分流せばよいか。ただし,クーロンの比例定数は 96500C/mol,Al = 27,有効数字 2桁とする。■解答■ アルミニウムの 3倍の電子が必要ということは反応式から分かる。必要な電子のモル数は

5.427 × 3であり,流した時間を t分とすれば流れた電子は 15 × 60t× 1

96500 なので5.427 ↑

アルミのモル

×3 ↑電子のモル

= 15 × 60t× 196500 t 64分 □

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