安芸地区医師会長 菅 田 巌 -...

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1 安芸地区医師会長 菅 田  巌  明日(3月11日)で東日本大震災から5年が経つ。今なお震災・原発事故等で約17万4千 人が全国47都道府県,1,139市区町村で避難生活を余儀なくされており,1日も早い復旧, 復興を願っている。 3月7日広島大学サタケメモリアルホールで2012年のノーベル生理学・医学賞を共同受賞 された京都大学 iPS 細胞研究所山中伸弥博士とケンブリッジ大学ウエルカムトラスト英国 癌研究基金ガードン研究所のジョン・ガードン博士の講演会「広島大学から世界へ~世界 のトップ研究者に聞く~」が開催され,スーパーサイエンスハイスクールの高校生や市 民,大学生ら約1,000人に両博士は再生医療の研究に懸ける熱い思いを語ったと各紙は掲 載していた。 越智学長から1962年にジョン・ガードン博士が広島大学に来たことがあると聞いてい た。当時の広島大学理学部動物学教授で両生類のカエルの核移植権威の川村智治郎教授に 会いに来て,宮島や鞆の浦などではなく日本の原風景が観たいと云っていたので帝釈峡に 連れて行ったと川村教授の記載があると。 ガードン博士はオックスフォード大学で動物学を学び,1960年学位を得て,1961年から 1962年にかけてカリフォルニア工科大学に留学している。1962年は29歳で,その留学中に 日本に広島大学の川村教授を訪ねてきた。川村教授は両生類を使って前人未踏の分野を 続々と開拓し,顕著な成果を上げて,日本動物学会賞,中国新聞社の中国文化賞,日本遺 伝学会賞を受け,1962年5月には56歳で日本学士院賞を授与されている。1962年は広島大 学による帝釈峡遺跡群の第一次帝釈馬渡岩陰発掘調査が始まった年である。石灰岩の洞 窟,岩陰を利用した数多くの石器時代の遺跡が発見されており,日本の原風景を観に行っ たのであろうと想像される。ガードン博士は1960年代から70年代にかけてアフリカツメガ エルというカエルを用いて細胞分化の研究を行い,分化した細胞の DNA を注入した受精 卵がカエルになるというクローン動物を世界で初めて確立した。この発見が山中伸弥教授 による iPS 細胞の開発につながって,共同のノーベル賞受賞になった。 週刊文春(3月3日)の福岡ハカセのパンタレイ パングロスに記載されているように, 再生医療の未来は ES細胞や iPS 細胞で万能細胞から望むべき分化細胞を作り出したとし ても,その細胞をいかにして生体に戻し,生体内の他の細胞と協調・協働させるかという 問題があり,細胞の活動には時間軸と文脈がいる。いかにして時間軸と文脈を保持した中 で細胞の分化ポテンシャルを引き出してくるかが鍵となる。ガードン博士の母校オックス フォード大学は,次世代の再生医療研究をめざした新しい研究所を設立して取り組んでい る。世界で鎬を削っている再生医療,若い人々のビジョンに期待する。 (平成28年3月10日)

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Page 1: 安芸地区医師会長 菅 田 巌 - aki.hiroshima.med.or.jpaki.hiroshima.med.or.jp/geppou/1604a.pdf · 週刊文春(3月3日)の福岡ハカセのパンタレイ パングロスに記載されているように,

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安芸地区医師会長 菅 田  巌 

 明日(3月11日)で東日本大震災から5年が経つ。今なお震災・原発事故等で約17万4千人が全国47都道府県,1,139市区町村で避難生活を余儀なくされており,1日も早い復旧,復興を願っている。 3月7日広島大学サタケメモリアルホールで2012年のノーベル生理学・医学賞を共同受賞された京都大学iPS細胞研究所山中伸弥博士とケンブリッジ大学ウエルカムトラスト英国癌研究基金ガードン研究所のジョン・ガードン博士の講演会「広島大学から世界へ~世界のトップ研究者に聞く~」が開催され,スーパーサイエンスハイスクールの高校生や市民,大学生ら約1,000人に両博士は再生医療の研究に懸ける熱い思いを語ったと各紙は掲載していた。 越智学長から1962年にジョン・ガードン博士が広島大学に来たことがあると聞いていた。当時の広島大学理学部動物学教授で両生類のカエルの核移植権威の川村智治郎教授に会いに来て,宮島や鞆の浦などではなく日本の原風景が観たいと云っていたので帝釈峡に連れて行ったと川村教授の記載があると。 ガードン博士はオックスフォード大学で動物学を学び,1960年学位を得て,1961年から1962年にかけてカリフォルニア工科大学に留学している。1962年は29歳で,その留学中に日本に広島大学の川村教授を訪ねてきた。川村教授は両生類を使って前人未踏の分野を続々と開拓し,顕著な成果を上げて,日本動物学会賞,中国新聞社の中国文化賞,日本遺伝学会賞を受け,1962年5月には56歳で日本学士院賞を授与されている。1962年は広島大学による帝釈峡遺跡群の第一次帝釈馬渡岩陰発掘調査が始まった年である。石灰岩の洞窟,岩陰を利用した数多くの石器時代の遺跡が発見されており,日本の原風景を観に行ったのであろうと想像される。ガードン博士は1960年代から70年代にかけてアフリカツメガエルというカエルを用いて細胞分化の研究を行い,分化した細胞のDNAを注入した受精卵がカエルになるというクローン動物を世界で初めて確立した。この発見が山中伸弥教授によるiPS細胞の開発につながって,共同のノーベル賞受賞になった。 週刊文春(3月3日)の福岡ハカセのパンタレイ パングロスに記載されているように,再生医療の未来はES細胞やiPS細胞で万能細胞から望むべき分化細胞を作り出したとしても,その細胞をいかにして生体に戻し,生体内の他の細胞と協調・協働させるかという問題があり,細胞の活動には時間軸と文脈がいる。いかにして時間軸と文脈を保持した中で細胞の分化ポテンシャルを引き出してくるかが鍵となる。ガードン博士の母校オックスフォード大学は,次世代の再生医療研究をめざした新しい研究所を設立して取り組んでいる。世界で鎬を削っている再生医療,若い人々のビジョンに期待する。� (平成28年3月10日)

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会 長 挨 拶

安芸地区医師会長 菅 田  巌

~厚生労働大臣表彰(公衆衛生事業功労)を受賞して~

 この度,平成28年3月8日,私は東京・大手町サンケイプラザホールにおいて公衆衛生事業功労者として平成27年度厚生労働大臣表彰を受賞した。 私の表彰理由は,昭和60年開業以来,地域住民の健康保持増進に努め,姿勢検診医として児童生徒の健康管理に従事,「かかりつけ医推進モデル事業」の推進運動を展開し尽力した。平成28年度からの運動器検診義務化に当たり研修会の企画を行うなど積極的な推進を図っているということで表彰を受けた。 式典の挨拶で厚生労働大臣の代理の厚生労働省健康局長の福島靖正氏は,明治時代に衛生局の初代局長に就任しコレラなど伝染病の流行に対し衛生事業を推進,衛生思想の普及に尽力した長與專齋の事を述べ,今日少子高齢社会にあって健康寿命の延伸は重要で,健康づくり,地域づくりに尽力しておられる皆様を表彰することは誇りに思うと述べられた。今回,厚生労働大臣表彰の公衆衛生事業功労者は個人131名,そして11団体が表彰され,広島県からは県医師会から推薦を受けた私と,市町より推薦を受けた公衆衛生推進協議会委員・役員の方3名で,府中町からは公衆衛生推進協議会委員の大下芙紗子氏が受賞され,先日一緒に和多利町長に表敬訪問させていただいた。 表彰の功績概要にあるように,昭和60年8月に有床診療所を開設,平成20年には無床診療所として,31年間地域医療に従事し,平成4年からは安芸地区医師会理事として,また平成18年からは安芸地区医師会会長として務めさせていただいている。その間,府中町医師会長,府中町教育委員会教育委員,教育委員長,広島県医師会理事,広島県臨床整形外科医会会長等々,皆様の支えにより務めさせていただいた。今日あるのも皆様のおかげで,感謝しております。 4月1日からの学校検診・運動器検診では,事前に保護者に記入してもらう家庭での保健調査票を基に養護教諭,学校医がチェックし,学校医である内科小児科の先生が検診し,そこで異常が発見された場合には,保健指導や整形外科専門医への受診等,適切な事後措置が求められている。 府中町においては教育委員会が運動器マニュアルのアニメのDVDをコピーして,各学校に配布して予め練習をしていただいて検診する。そして従来の側弯症検診医に内科医,小児科医に加わって頂き,一人1分,1日1時間60人を目安に検診を組む体制となり,また

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養護教諭にアシスタントの事務スタッフ1名増員していただき調査票のチェック等していただくこととなった。 県臨床整形外科医会(HCOA)から,予め学校で予行練習する運動器マニュアルのアニメのDVDを県医師会より地区医師会に送付していただいている。県医師会では保健・医療福祉活動の推進と有機的連携において,学校保健活動の発展の項目に運動器検診の体制整備という項目が入っている。今後県医師会とHCOAそして地区医師会が連携して積極的に検診に取り組んで行き,整形外科医が検診体制をサポートし,事後処置等スムーズな体制に持っていけるよう検証して精度を上げていかなければならないと思っている。今後も「ロコモティブシンドローム予防は学校検診から」をモットーに今後も推進して行きたい。� (平成28年3月31日)

表 紙 の 題 材 募 集

 表紙を飾る題材を募集しています。旅先の写真,ご自身で作成された絵画,陶芸

作品などございましたら是非ご応募ください。お待ちしております。

送 付 先 安芸地区医師会事務局広島県安芸郡海田町栄町5番13号

(TEL:082-823-4931 FAX:082-823-7143)

E-mail: [email protected]

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消費税問題の抜本解決に向け,議論再開

―日医―

 日本医師会の「医療機関等の消費税問題に関する検討会」が3月16日,控除対象外消費税の抜本的な解決に向けて議論を再開した。「2017年度税制改正に際し,総合的に検討し,結論を得る」と書き込まれた16年度与党税制改正大綱の方針に間に合わせるため,今後,解決に向けた動きを加速させる。 会合では,16年度診療報酬改定を経た個別項目に対するこれまでの補填分の取り扱いや,日医内で検討されてきた解決案に関してやりとりがあったもよう。 控除対象外消費税問題をめぐっては,今回の大綱に「特に高額な設備投資にかかる負担が大きいとの指摘等も踏まえ,17年度税制改正に際し,総合的に検討し,結論を得る」と盛り込まれ,診療報酬上乗せで起こる問題点や解決に向けた年限が明記された。検討会では大綱の書きぶりを踏まえて検討を進める。 同検討会は三師会や四病院団体協議会の代表,財務省と厚生労働省の幹部が委員として参加し,昨年3月に発足。15年度の大綱で盛り込まれた「個々の診療報酬項目に含まれる仕入れ税額相当額分を『見える化』する」という方針に対応する検討を進めてきた。今回から再開された検討会は,6月中旬ごろをめどに検討会としての解決策案を取りまとめるという。� 【メディファクス】� 平成28年3月18日 日医FAXニュースより転載

在宅専門は医師会との連携不可欠

-松本常任理事-

 松本純一常任理事は3月13日,東京都内で開かれたじほう主催の2016年度診療報酬改定セミナーで講演し,診療報酬上で正式に位置付けられた在宅専門の医療機関に触れ,地域包括ケアシステムを推進する上で地域医師会との連携は欠かせないとの認識を示した。 在宅医療専門の医療機関は,質の高い在宅医療を確保する手だてとして16年度改定で新たに評価された。開設要件の一つに外来診療が必要な患者が訪れた場合に対応できるよう

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に,診療地域内に2カ所以上の協力医療機関を確保していること,または地域医師会から協力の同意を得ていることが示されている。松本常任理事は地域包括ケアシステムを推進させる中で地域医師会との連携は不可欠との観点から「(要件に)地域医師会と協力する,という一文を入れてもらった」と述べ,医師会との積極的な協力を呼び掛けた。 また,新設された小児かかりつけ診療料にも言及。原則として1人の患者に1カ所の医療機関が対象となる同診療料について,松本常任理事は親の職場や自宅,保育所からの利便性を踏まえると複数のかかりつけ医を持ち得るのではないかとの指摘があると明かす一方,「予防接種を含めて,全体的に子どもを診ていくことが小児のかかりつけ医の考え方だ」と述べ,同診療料の理念からすれば1人の方が望ましいのではないかとの認識を示�した。� 【メディファクス】� 平成28年3月18日 日医FAXニュースより転載

医療機関HP,「広告」扱いで検討開始

-厚労省-

 厚生労働省の「医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会」(座長=桐野髙明・東京大名誉教授)は24日,初会合を開き,医療機関のウェブサイトなどを医療法上の「広告」として取り扱うことの是非の議論を始めた。今秋をめどに取りまとめる考えだ。 現行の医療広告ガイドラインでは,医療機関のホームページ(HP)については広告とは見なさず,医療法の広告規制の対象とはしていない。HPの記載内容の適正化のため,厚労省が「医療機関ホームページガイドライン」を策定している。 内閣府消費者委員会が昨年,美容医療サービスに関する消費者トラブルが後を絶たないことを踏まえ,医療機関のホームページを広告に含めることなどを盛り込んだ建議を取りまとめた。これを受けて,厚労省は同検討会で検討を進めることにした。 初会合で,日医の石川広己常任理事は「美容医療サービスは患者の嗜好を伴うものであり,一般的な医療は別。美容医療サービスに問題があるのであれば,その点を重点的に議論することを優先すべき」と訴え,HPを広告として扱うことには同意しない姿勢を示した。� 【メディファクス】� 平成28年3月29日 日医FAXニュースより転載

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院内感染とサーベイランス

日 時 平成28年2月25日講 師 マツダ病院 外科部長    安芸地区地域感染症対策ネットワーク委員長

�   赤 木 真 治 先生

はじめに

 院内感染が起きると,別疾患で入院した患者(特に高齢者)が余計な感染症を発症することで,入院期間延長し長期入院によるADLも低下,その結果介護必要度が上がり,自宅への退院困難になる。また,耐性菌の保菌者になることで転院先が限定されるなど,患者,家族,また病院や紹介医にとっても不都合なことが多くなる。したがって,院内感染対策は大変重要となっている。

院内感染対策の診療報酬上の経緯

 厚労省の指導や病院機能評価機能などの影響で,はじめはボランティア的に行なわれていた院内感染対策も,次第に組織化されてきた。1996年に院内感染防止対策加算(5点/日)が新設され,加算認定取得のため,対策のためのマニュアル作成や,ICT(院内感染対策チーム)を立ち上げることが全国で始まった。2000年には逆に院内感染防止対策未実施減算(5点減算/日)に変更となった。2010年に感染防止対策加算(入院初日に限り100点)が新設された。これは,医療安全対策加算1(85点)の届出を行っていることが要件になっていた。また算定要件に医療感染対策に係る適切な研修を終了した専任の看護師,薬剤師その他の医療有資格者が配置されていることということと,感染症対策に3年以上の経験を有する常勤医師,感染管理に関わる6か月以上の研修を終了とした看護師のうち専従1名,専任1名以上が配置されていることが必要となり,そのため感染管理認定看護師(ICN)やICTが必須となり,またICT活動が初めて評価されるようになった。2012年には感染防止対策加算1(400点),加算2(100点),感染防止対策地域連携加算(100点)の新設が行われ,「充実が求められる分野」のひとつとして「感染症対策の推進」が挙げら

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れ,特に加算点数の多い加算1では,算定要件にICN,ICDのほか3年以上の病院勤務経験をもつ感染防止対策に関わる専任の薬剤師と3年以上の病院勤務経験をもつ専任の臨床検査技師を含む感染防止対策チームを組織し,感染防止に係る日常業務を行うことが必要となり,ICT活動への評価が高くなった。また年4回以上,感染防止対策加算1を算定する医療機関は,感染防止対策加算2を算定する医療機関と共同カンファレンスを開催することも義務づけられ,感染防止対策地域連携加算100点(入院初日)では感染防止対策加算1を算定する医療機関同士が年1回以上,互いの医療機関に赴いて相互に感染防止に関する評価を行った場合の加算を新設し,院内感染防止対策のより一層の推進を図ることが目標となった。これらにより医療機関同士で感染防止対策を評価しあうことにより,客観的に現状の感染対策が評価されることで,より有効な感染対策へと強化されていくことが期待された。

安芸地区地域感染対策ネットワーク

 感染防止対策加算に係るカンファレンスなどとは別に,2009年から安芸地区を中心に地域の対象機関が感染対策上の共通の課題に対し,�情報交換を行い,連携・協力する。また緊急時には施設同士が相互に支援する体制を構築することを目的に,年に6回ミーティングを行っていることを紹介した。

サーベイランスについて

 サーベイランスとはデータを系統的に収集し,分析・解析した後に,その結果を迅速かつ定期的に還元したもので,その目的は疾病対策の企画・実施・評価のために使用されるものである。よくサーベイランスを行うと感染が減少するといわれるが,「見張り効果」ともされるが,実際にはデータが出るため,介入前後の感染率などを比較することにより,感染対策が有効であったかどうかを評価することができるし,感染率などを他施設やベンチマークと比較することにより,自施設の医療関連感染発生に関するレベルを評価することができる。

耐性菌サーベイランス

 実際のサーベイランス活動としてまず耐性菌サーベイランスの紹介を行った。2011年12月,新病棟設立以前は病棟内で,MRSA,ESBL産生菌,緑膿菌が蔓延。特に特定の病棟で多いことがわかり,ICTで介入していたが,感染率の低下が見られないことがあった。原因として病棟が古く,劣悪な環境が原因と考えていた。新病棟設立とともに環境整備としてベッドパンウォッシャーを全病棟に設置,自動尿量測定装置の廃止,擦式アルコール製剤のディスペンサーを全病棟・各部屋に設置などを行った。問題の病棟に関すると,ESBL産生菌,緑膿菌は順調に減少していったが,MRSAはなかなか減少しなかった。

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MRSAは人の手によって感染が広がると言われており,手指衛生を徹底することでMRSA感染症が減少することも言われていたため,現在ガイドラインで推奨されている,擦式アルコール製剤による手指衛生遵守率を,アルコール製剤使用量で評価,サーベイランスを開始した。1,000ベッド患者あたり15L/日使用料を目標に,使用量増加の運動を行った。手指衛生の重要性を,勉強会などで行い,電子カルテのスクリーンセーバーで促したりしたが,なかなか上昇せず,個人携帯のポシェット着用や控室に使用量を個別に表記するなどして10L以上を維持できるようになった。結果MRSA検出率は著明に減少(図1),結果をスタッフに還元することで,手指衛生の有効性を認識してもらった。

SSIサーベイランス

 SSI(Surgical�site�infection)は,患者への苦痛,入院延期,入院医療費の増大など術後合併症として,重大である。したがって感染対策を行う上で,サーベイランスは必須である。当院では2001年からサーベイランスソフトNISDM-SS3を用いてサーベイランスを行っている。データを活用して,改善した事例として結腸・直腸手術と虫垂切除の事例を紹介した。結腸・直腸手術では感染リスクの高い群では人工肛門造設がリスク因子になっており(図2),そういった群にはさらなる感染対策で創縁保護剤や皮下ドレーンを使用し,その後感染率は減少した。�

MRSA分離率の推移

3.1 3.3 4.7

5.3 4.9 5.8

10.4

7.4

13.5

28.6 28.622.2

50

30 28.5

10.515 11.1

0102030405060

02468

10121416(L) (%)

感染リスク高い群でのリスク因子RI2/3 SSI(+) (n=7) SSI(-) (n=7) P value手術時間

>280min310.4 166.84 (57.1%)

315.9 87.76 (85.7%)

0.940.24

ASA 2 (28.6%) 1 (14.3%) 0.51

汚染度 3 (42.9%) 1 (14.3%) 0.24

緊急手術 3 (42.9%) 2 (28.6%) 0.57

人工肛門 6 (85.7%) 2 (28.6%) 0.03

※1

※2

図1

MRSA分離率の推移

3.1 3.3 4.7

5.3 4.9 5.8

10.4

7.4

13.5

28.6 28.622.2

50

30 28.5

10.515 11.1

0102030405060

02468

10121416(L) (%)

感染リスク高い群でのリスク因子RI2/3 SSI(+) (n=7) SSI(-) (n=7) P value手術時間

>280min310.4 166.84 (57.1%)

315.9 87.76 (85.7%)

0.940.24

ASA 2 (28.6%) 1 (14.3%) 0.51

汚染度 3 (42.9%) 1 (14.3%) 0.24

緊急手術 3 (42.9%) 2 (28.6%) 0.57

人工肛門 6 (85.7%) 2 (28.6%) 0.03

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図2

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虫垂手術では感染を起こしていたのは,手術リスクの高い群で,検出菌も,クリティカルパスで使用している抗菌薬に耐性であった。そのためハイリスク群には治療的抗菌薬としてカルバペネム系抗菌薬使用で有効であった。

※1 �RI2/3 は,Risk�Indexの略で,手術時間,ASA,手術創の汚染度,腹腔鏡使用の有無で-1,0,1,2と4段階に手術を層別し,感染率を比較することで,施設間の比較ができるようにしたもので,特にRI2以上で感染率が上がることが言われています。

※2 ASA はAmerican�Society�of�Anesthesiologists米国麻酔学会術前状態分類で   class�1:(手術となる原因以外は)健康な患者   class�2:軽度の全身疾患をもつ患者   class�3:重度の全身疾患をもつ患者   class�4:生命を脅かすような重度の全身疾患をもつ患者   class�5:手術なしでは生存不可能な瀕死状態の患者   class�6:脳死患者   となっており,class3以上をRIに+1と加算します。

最後に

 SSIサーベイランスを継続し,問題点を分析検証,感染対策を講じることは,やはり有用であると考える。今後はICN,リンクナースへの展開をして行きたい。

Page 10: 安芸地区医師会長 菅 田 巌 - aki.hiroshima.med.or.jpaki.hiroshima.med.or.jp/geppou/1604a.pdf · 週刊文春(3月3日)の福岡ハカセのパンタレイ パングロスに記載されているように,

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会長賞受賞演題

突然の呼吸困難で発症した肺血栓塞栓症により 搬送中CPAとなった症例について

広島市安芸消防署 矢野救急隊 角 田  浩 

【概要】 概要は平成25年12月20日寒い朝の7時24分に覚知した救急要請で出動。指令内容は64歳女性が一過性の意識消失により倒れた後,呼吸困難を訴えているもの。なお,口腔内より出血ありとの指令内容で出動。 現場到着時の状況は,自宅台所の床上に左側臥位で倒れており呼吸が苦しいと訴えていた。本人によると食事の支度中急に意識を失って倒れたとのことで,指令内容にあった口腔内からの出血はほぼ止血状態で,倒れた時床に顔面を打ち付け負傷したものであると本人が述べ,既往症にあっては慢性糸球体腎炎があると聴取。

【観察結果及び処置内容】 現場到着時意識清明で会話可能,顔面蒼白で冷汗及び末梢冷感が認められた。胸痛,背部痛の訴え無し,呼吸は浅く早く26回/分,呼吸苦の訴えはあるものの聴診上の呼吸音は正常,喘鳴音無し,循環にあっては橈骨動脈触知せず,総頸動脈で触知120回/分とショック状態であった。 現場で酸素10リットル投与し7時40分に車内収容,モニターでの観察を実施したが,ショックであること及び体動等で測定できず。またこのとき起坐位で収容していたが,頸静脈の怒張が認められた。 症状から心原性のショック状態を強く疑い,直近の循環器内科のある病院へ連絡,7時50分に搬送を開始する。搬送開始から4分後意識レベルが低下,CPA状態となったため,

第32回 安 芸 医 学 会

観察結果・処置内容7:32

(患者接触時)7:40

(車内収容時)7:53

(容態急変前)8:00病院到着

意識レベル 清明 清明 Ⅰ-3R Ⅲ-300

呼吸(回/分) 26 26 17 0

脈拍(回/分) 橈骨動脈触知不可 123 70 0

血 圧 ― 測定不可 測定不可 測定不可

SPO2(%) ― 測定不可 測定不可 測定不可

その他

顔面蒼白冷汗末梢冷感顔面に血痕酸素10L投与

頸静脈怒張

7:50現場発

7:54CPR開始

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直ちにCPRを開始し2分間実施したところ体動及び自発呼吸が出現したが,1分後再び心停止となったためCPRを再開,3分後に病院へ収容となった。その後の病院内での処置及び転帰については,ALSを継続しCT検査。肺血栓塞栓症確定診断後PCPS装着。その後心拍再開し9時15分には自発呼吸も出現。意識レベルもJCSⅡ-10となり,同日三次医療機関へ転院し肺動脈血栓除去術を施術され順調に改善,現在は退院され後遺症なく運動も可能となっておられると聞いている。

【経過時間】 経過時間は,現場到着から現場出発まで19分,覚知から30分後,現場出発から4分後の7時54分にCPAとなっている。

【考察】 1.急性肺血栓塞栓症は症状把握が難しい � 急性肺血栓塞栓症に特有的な症状はなく,診断されたものも90パーセントは症状から疑われているとされる。代表的な自覚症状としては,呼吸困難,胸痛が主要症状であり,同様の症状を訴える肺疾患,心疾患との鑑別が必要である。また,失神も重要な症候で中枢肺動脈閉塞による重症例もあるため急性肺血栓塞栓症は失神の鑑別疾患として忘れないよう心掛けるべきであると考える。 2.救急現場での対応について � このたび経験した肺血栓塞栓症は失神に続いて呼吸困難が発症,ショック状態となり搬送中CPAとなったものであるが,心疾患に比べ致死率が高く,死亡例は発症早期に多いといわれている。今回の場合覚知から30分でCPAとなったが,搬送中のCPAであったため直後からCPRを開始でき,数分後には病院に到着。その後PCPSによる循環動態維持を始めとした高度医療へと移行できた。

【まとめ】 このたび急性肺血栓塞栓症の症例を経験した。急性肺血栓塞栓症は重症の場合,早期にショック,心停止になりうるため,病院前救護の現場においては,病態から疑われる生命危機の高い疾患を広く推定し,それらを念頭においた観察や処置及び搬送する医療機関の選定が必要とされる。呼吸困難及び胸痛等の症状が認められれば肺疾患や心疾患だけでなく急性肺血栓塞栓症等の可能性も考慮し,早い搬送及び迅速なCPRが開始できる体制をとることが重要であると考える。

 

経過時間経過時間

覚知時間 7:24出勤 7:25 (0:01)現場着 7:31 (0:07)現場発 7:50 (0:26)CPA 7:54 (0:30)病院着 8:00 (0:36)

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名     前

瀬野川 加 藤 晶 子

 診察室に患者さんをお呼びするときに親の子を思う気持ちとは有り難いものなのだなとつくづく思うことがあります。患者さんのお名前を拝見していると子供が生まれた時の親の喜びがひしひしと伝わってくることがあるからです。中でも毎回思わず顔がほころぶのは寿久男さん,寿久男さんが生まれたとき親御さん方は本当に嬉しかったのだろうなといつも思います。こんなに大事に思われて生まれてきた方々をおろそかに診てはいけないと気を引き締め直します。 3月10日の産経新聞に掲載された83歳の男性のオレのヨイトマケの唄と題された詩は「身体が丈夫ではなかった母さんが現場で懸命に働いても,おかゆをさらに水で薄めたものでさえ3度は食べられなかったけれど,今は白いご飯を日に3度毎日お腹いっぱい食べているよ」とお母さんへ呼びかけておられる内容でした。 話は少し変わりますが,先日母が「BSのニュースの欄に今後数年間で年金生活の高齢の浮浪者が2倍に増えるという文言を見たが,なんと失礼な話であるか」と怒り心頭に発すとばかりに憤慨していました。「税金を払い,保険料をきちんと納入し懸命に働いてきた自分たち世代にあまりに失礼ではないか,年金を受け取るということは働いてきたからこそでしょう,自分の母親は食べるものも食べずに育ててくれたのに,このような扱いを受けるとは親に申し訳ない」とも言っており,83歳の男性のお母さんへの思いと通じるものがあるように思いました。 “年金生活の浮浪者”とは変な話で結びつかないと思い,母を疑うわけではなかったのですがネットで調べてみました。BSニュースでは問題の題名では検索できませんでしたが,高齢者と浮浪者を関連付ける話題は結構あり吃驚しました。ネットの検索内容もそうでしたが,最近のテレビや新聞等も,年配の方々を疎ましく思わせるような論調がありとても気になります。川崎市で起きた介護施設の事件の際にも,被害者のお一人が“とても手のかかる人であったらしい”と民放各社が報道していましたが,介護の現場が大変であることと今回のような事件を関連付け,言語道断の犯罪行為に対して少しでも理由を与えるような報道の仕方はとても危険であるように思います。年金や医療費の現役世代の負担増が,あたかも高齢者の医療・介護への財源に充てるためばかりであるかのように印象付け,若い世代がお年寄りを厄介者と感じる雰囲気を作り出しているように感じます。皆さん税金を払い,保険料を納めてきており責任はきちんと果たしてきています。もし今後,

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年金生活の高齢者の方々が浮浪者のような生活をしなくてはならなくなればそれは国の責任です。“日本死ね”等と乱暴な言葉でつづられた意見を国会で取り上げ持ち上げるような最近の日本の風潮にはとても違和感があります。 私たちの祖父母の世代は自分の命を削るようにして私たちの父母の世代を育て上げ,父母達は戦中戦後の困難な時代を懸命に働き現在の日本の礎を作り上げ貢献してきた世代です。生まれてきたときに喜びにあふれた名前を付けてもらい大事に育ててこられてきた方達です。研修医のころよく指導医より患者さんを自分の親と思って診察するようにと言われていました。加えてその方のお父さん,お母さんはさぞかし心配だろうなと考えることも大事だなと,患者さん方のお名前を拝見したとき時々思うことです。 最後にネットで検索した際に,ある質問に対する回答に賛同者が多数いたことに日本もまだ大丈夫か?と少し安心したので添付します。

 「政府は少子高齢化というような発言をしていますが,少子化と高齢化は別問題です。

長年にわたり自民党は,多額の年金基金の資産運用をせずそれらの財源を使い果たし今に

なって少子高齢化というフレーズを使い,まるで高齢者が多いがために若者の負担が増え

るような印象をすりつけ,責任の追及が及ばないようにしているだけです。先進国はどこ

の国も少子高齢化ですが,政府がきちんと年金の運用をしてきているので,日本のような

発言をする若者はいませんし年寄りを大事にしています。この国が敗戦後,GDP3位の先

進国になったのも,現在の若者世代があらゆる産業を開発してくれたからですか?全ては

今の年配の方のおかげです。また人数が多いのも,第二次世界大戦中は兵士を量産するた

めに政府から産めや育てやと国民はせまられ,16歳位で死を覚悟して戦地に赴かれ,国

民はいつ戦争が終わるのかもわからず,子供の数も増やさなければなら一方,食糧難で

散々生きていくのが精いっぱいの時代。戦後も10年はそのような状況。浮浪者があふれ

餓死する人も沢山いた。たった69年前の話です。そこから戦後復興のために尽力された

方達です。今は健康保険制度,年金,失業手当,障害者年金,生活保護等あらゆる制度を

国民が当たり前のように享受できるのも,高齢者の方たちは当初は何の保証もないなか働

かれており,日本製品など売れるわけもなく赤字続きでリストラはしょっちゅうおこなわ

れており,失業手当などないのですからリストラされたら一家心中です。欧米に追い付け

追い越せで二位本のために尽力され,先進国になり豊かになったおかげでこのような制度

が確立できたのです。感謝こそすれ生かし方ってあまりにも失礼すぎる発言です。若者な

ら,先代が築いてくれた礎をもとに,さらに日本を発展させる産業をおこしていこうとい

う前向きな発想にならないのですかね。誰が年金基金を乱用したのか。高齢者の方ではあ

りません。国を変えていくのは政治家ではなく若者です。年金の負担ばかり言っているわ

りには,なぜ若者の投票率はここ10年,20%にみたないのですか。先人の苦労も知らず,

被害者意識ばかりでこの国はもう発展しないでしょうね。」

� (YAHOO!JAPAN�知恵袋 投稿者hassen0214より引用)

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新 任 の ご 挨 拶

マツダ病院 脳神経外科 露 口  冴

 平成28年1月1日より県立広島病院からマツダ病院脳神経外科に赴任して参りました露口

冴と申します。諸先生方には平素よりご指導賜りまして誠にありがとうございます。

 平成21年に広島大学を卒業し,臨床研修の4年間は県外に所属しておりましたが,卒後�

5年目より広島大学脳神経外科に入局させていただいております。

 脳神経外科医修行中の身におきましては,マツダ病院脳神経外科は開頭術も血管内治療

もご指導いただける大変貴重な環境であり,3人と少人数だからこそ,エキスパートの上

級医の先生を厚かましく独占できる幸運にも恵まれております。また,マツダ病院では医

師間だけでなくコメディカルスタッフも含めた連携がとてもスムーズで,お互いが非常に

協力的であることを強く印象に受けました。ひいては提供する医療の質,患者様の満足度

にもつながっているように感じられます。

 自身はまだまだ未熟者ではございますが,微力ながらも安芸地区の医療のお役に立てる

よう日々精進してまいりたいと存じます。

 今後ともご指導ご鞭撻のほど何卒よろしくお願い申し上げます。

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府中町中ブロックだより

府中町 溝 口 信 行

 昨年度,当ブロックでは2つの悲しい出来事がありました。それは平岡耳鼻科の平岡郁

子先生,藤東クリニックの藤東淳朗先生の両先生がご逝去されたことです。平岡郁子先生

は私よりもお若く,今後ブロックの耳鼻科を担っていかれるだろうと思われていただけに

とても残念なことでした。平岡耳鼻科は私の診療所から2番目に近い医療機関であり,休

診中はたくさんの患者さんから困っているという声を聞いていました。藤東淳朗先生のク

リニックは,現在ではご子息の藤東淳也先生と猶也先生がご活躍中で,府中町の分娩を一

手に引き受けてがんばっておられます。

 府中町中ブロックは,現在21医療機関27名の会員数となっています。

 府中町は人員構成などより日本の縮小版といったエリアとみなされており,規模の大き

さからも各種モデル事業を行いやすい地区だそうです。確かに各医療機関もバランスよく

配置されております。各医療機関の連携を深め,日本の医療の良いモデルとなるような体

制が府中町に構築されることを願っております。

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総合介護センターだより

第43回安芸地区在宅緩和ケア 事例検討会報告

訪問看護ステーション やすらぎ 中 原 有為子

 平成28年2月23日安芸市民病院にて,第43回安芸地区緩和ケア事例検討会が開催されました。 オブザーバーに県立広島病院緩和ケア部長 岡崎正典先生,YMCA訪問看護ステーション・ピース所長 濱本千春先生,広島西医療センター 心理療法士 藤原美聡先生をお迎えし,72名(医師9名,看護師・保健師39名,ケアマネ10名,薬剤

師8名,MSW4名,心理療法士1名,他1名)の参加があり,積極的な意見交換やアドバイスが頂けました。 今回は「本人の意向を重視し,在宅で看取られた事例」と題し訪問看護ステーション中野の前野氏より事例提供して頂きました。 家族は在宅療養に不安が強く,訪問看護やその他のサポートを希望されているが,本人の強い拒否があり,なかなか関係構築に苦慮されながらも家族の思いに寄り添って,地道な訪問を継続され,最期は在宅で看取りが出来たと言う事例でした。

<事例の要約>

事例:80歳台の女性,大腸癌術後の多発肝転移状態:要介護2,日常生活自立度A2,認知度Ⅲa家族の関わり:�夫(心配性で気になるが,本人のそばに行くと機嫌が悪くなる為,訪問時

は別室にいる)       �同居の次女:主介護者で働いていたが,終末期には介護休暇を取り介護する。経過:X-1年  5月 大腸癌手術   X年   8月 肝転移,抗癌剤治療開始。

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       10月 �家族の不安が強いとの事で訪問看護開始となるが,本人の受け入れ拒否があり,夫より度々訪問中止の電話があった。

       12月 �抗がん剤の副作用が出現し,家族の不安も増大したため週1回の訪問となった。

   X+1年  6月 �夫の入院をきっかけに訪問を増やして欲しいとの希望があったが,本人の相変わらずの拒否があり,回数は増やせず,状態観察のみで身体ケアなどは拒否されていた。

        9月 痛みが出現し,NSAIDS・オピオイドの内服開始。       10月 �家族より,「積極的な治療は望まない,本人の希望通り自宅で看取

りたい」との希望。          �本人の主張も勢いがなくなり,介護休暇を取った次女が意思決定す

る様になり,訪問回数も増えた。       11月 �状態悪化と共に毎日訪問となり,次女の見守りのもと,自宅にて永眠。

事例提供者の考える検討テーマ: � 不安を抱え訪問希望のある家族と,認知症を背景とした訪問拒否がある本人との間にギャップがあり,どのようにサポートしていけばよかったのか。 � 事例発表のあと,関わりのあった入院病院の医師,往診クリニックの医師,ケアマネ等の追加コメントがあり,会場からの活発な質問やご意見等のあと,グループワークとなりました。 � これと言った答えがある議題ではありません。私の参加したグループでも,自分たちはこうしているとか,色々な見方が出来るなど自分たちのこれまでの経験や体験の中から思いを語りました。総じて多かったのは家族のサポートも訪問看護の役割なので良い訪問が出来ていたのではないか。何よりグリーフケア時に「いい思い出になった(次女)」「最後までお母さんらしかった(長女)」「家族の時間が持ててよかった(夫)」等の言葉が聞かれたと言うことは十分役割を果たせたのではないかと言う意見でした。 グループ発表でも ・家族ケアも訪問看護の役割である。 ・ケア会議はできた方が良かった。 ・本人が受診可能な時期から訪問に入っていて素晴らしい。 ・本人拒否は本人がこまっていないと言うこと,家族ケアができればよいと考える。 ・ICを繰り返すことが人として尊重している事にもなる。 ・�出来ることとできないことの限界線を引く必要はある。(何でもしているとサービス提供者側にも嫌悪感が出てきて,相手にも伝わると信頼関係は壊れる)

 等の様々なご意見が出て,参加者の熱気も感じられる程でした。

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<オブザーバーの先生方のコメント>

岡崎先生より:不安を抱えている家族の家族ケアができれば良いと考える。       �そこから家族との信頼関係ができれば,本人へのケアも出来るようになる

のでは。       何より最期に家族の満足感が得られてよかった。       「家族も第2の患者」と考える。濱本先生より:訪問看護は何のために入っているのか,目的を見失わないようにする。       �メールでのやり取りには細心の注意が必要。目に見えないし言葉とは違う

こともある。直接確認できた方が良い。藤原先生より:本人が信頼している人の仲間として介入すると入りやすい。       家族サポートはしっかり出来ていたと思われる。       不安の裏側,心配ごとのとらえ方が大事。       家族は良い別れが出来たと思っている。素晴らしい。

<今回の事例のキーワード>(反省会にて)

「家族は第2の患者」「本人の拒否」「ニーズの所在」 � 今回は自分たちもいつこのような事例にあたるかわからない中で,そうなった時にはいろいろな考え方があるし,こうすれば上手くいくかもしれないというような,今後のサービス提供に関して大変参考になることが多くありました。 � 人それぞれの中,同じ訪問看護師として,日々頑張っている訪問看護師の葛藤も感じて共感しましたし,家族ケアの大切さも再認識しながら,明日からの自分を見つめ直します。 � 事例提供の皆様ありがとうございました。お疲れ様でした。この会のますますの発展を楽しみにしています。