establishing blended learning...

12
59 比治山大学現代文化学部紀要,第14号,2007 Bul. Hijiyama Univ. No.14, 2007 はじめに Computer-Mediated Communication(以下CMC)を介した国際交流授業は,インターネットの発 展とともにいろいろな形態で実践が積み重ねられてきている。個人的には,ハワイ大学マウイコミュ ニティカレッジとのバイリンガル交流の2年間の経験(拙論,2001)から,以下5点の課題を見つけ ている。1)国際交流活動を促すと学習者は「積極的にコミュニケーションを図る態度」を養えると いう印象を持つが,自分の英語による表現力のなさを同時に痛感すること,2)英語による表現力を 養うために授業外で様々な英語に触れる機会を意識的に作る必要があること,3)授業外で自律学習 を促すには学習者に基本的な学習法を伝え,「コマギレ学習」の習慣を身につけさせる必要があるこ と,4)基礎的な英語の知識を学習者が整理・定着できるよう教師が適宜助ける必要があること,5) ---学習管理システムの仕立て上げとe-Learning Communityの育成--- Establishing Blended Learning Environment: ―― Tailoring Learning Management System and Fostering an e-learning Community ―― 能登原 祥 之 Yoshiyuki NOTOHARA Abstract This study examines the pedagogical effects of a Blended Learning environment on Japanese EFL learners in a Computer-Mediated CommunicationCMCclass. 59 sophomore students at a private university were required to join this eight-week class and complete two e-learning sections listening & reading, both in-class and out-of-class. Through a longitudinal study, it is clear that in a rough-tailored Blended Learning environment, 43 learners, especially intermediate-level students in this class, could not develop their own receptive skills. Therefore, it is suggested that some approaches to tailoring the Learning Management SystemLMSbe explored and described for future students. Furthermore, responses by 46 students to a questionnaire confirmed that the “Blended Learning” environment in CMC I was laborious but appropriate for the learners. They seemed to develop their own listening skills through this learning environment. It further implies that five approaches to tailoring the LMS should be considered: 1blending, 2norm-setting, 3tailoring the learning management environment, including mentoring, 4learner profile and pedagogical interventions, and 5sharing experiential knowledge and fostering an e-learning community.

Upload: others

Post on 11-Sep-2020

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

59比治山大学現代文化学部紀要,第14号,2007Bul. Hijiyama Univ. No.14, 2007

はじめに

Computer-Mediated Communication(以下CMC)を介した国際交流授業は,インターネットの発

展とともにいろいろな形態で実践が積み重ねられてきている。個人的には,ハワイ大学マウイコミュ

ニティカレッジとのバイリンガル交流の2年間の経験(拙論,2001)から,以下5点の課題を見つけ

ている。1)国際交流活動を促すと学習者は「積極的にコミュニケーションを図る態度」を養えると

いう印象を持つが,自分の英語による表現力のなさを同時に痛感すること,2)英語による表現力を

養うために授業外で様々な英語に触れる機会を意識的に作る必要があること,3)授業外で自律学習

を促すには学習者に基本的な学習法を伝え,「コマギレ学習」の習慣を身につけさせる必要があるこ

と,4)基礎的な英語の知識を学習者が整理・定着できるよう教師が適宜助ける必要があること,5)

---学習管理システムの仕立て上げとe-Learning Communityの育成---

Establishing Blended Learning Environment:―― Tailoring Learning Management System and Fostering an e-learning Community――

能登原 祥 之

Yoshiyuki NOTOHARA

Abstract

This study examines the pedagogical effects of a Blended Learning environment on Japanese

EFL learners in a Computer-Mediated Communication(CMC)class. 59 sophomore students at a

private university were required to join this eight-week class and complete two e-learning sections

(listening & reading), both in-class and out-of-class. Through a longitudinal study, it is clear that

in a rough-tailored Blended Learning environment, 43 learners, especially intermediate-level

students in this class, could not develop their own receptive skills. Therefore, it is suggested that

some approaches to tailoring the Learning Management System(LMS)be explored and described

for future students. Furthermore, responses by 46 students to a questionnaire confirmed that the

“Blended Learning” environment in CMC I was laborious but appropriate for the learners. They

seemed to develop their own listening skills through this learning environment. It further implies

that five approaches to tailoring the LMS should be considered: 1)blending, 2)norm-setting, 3)tailoring the learning management environment, including mentoring, 4)learner profile and

pedagogical interventions, and 5)sharing experiential knowledge and fostering an e-learning

community.

週1回の教師中心の一斉授業だけで基礎的な知識を指導するだけでは不十分で授業外で個別に指導が

必要なこと。

このような課題に対処するため,学習者個人が量的に英語に触れることができ,授業外で教師が個

別指導可能な学習管理システムGyuto-e(広島市立大学開発)に注目した1。その導入法と運用法に

ついて現在経験知を積み重ねて効果的な方法を模索している。過去2年間の経験では,ただ導入した

だけでは,遠隔学習(distance learning)の悪い面が出てしまい,学習者と教師が人間的に触れ合う

時間が不足しがちとなることが分かっている(香取,2001:76,先進学習基盤協議会,2003: 17)。そ

の結果,学習者は目的意識が希薄になり,教材にアクセスしないため,教育効果も期待できないこと

が分かってきた。学習者の現状を把握しながら,その利点を生かし学習管理環境を仕立て上げ

(tailor),運営維持(manage)することに「教育的配慮」が必要となる(Garrison & Anderson,

2003:24)。そこで,本論では,e-learning を導入する際のこの「教育的配慮」に注目し,縦断的に構

築してきた1私立大学における実践例を踏まえ,Blended Learning 環境2の構築とその授業運営に潜

む原理原則を模索することを目的とする。そして,学習管理システムの仕立て上げやe-learningを効

果的に利用する学習共同体の育成法への一助とするものである。

1.学習環境の設定

1.1.導入目的

上記の国際交流授業の問題点を踏まえて以下のような目標を立て,e-mail の授業に e-learning 環

境をモジュール的に導入した。

1)CMCの授業3との連携

a)英語に量的に触れる環境を整備し,高校までの基礎力をしっかりとさせること。

b)CMC能力(特にe-mail)の基礎力を自学自習の形で少しでも補っていくこと。

2)e-learning 独自の目標

a)クラス全員がTOEICを受験する体制を整え,期間限定で計画的に地道に努力し,ある目

標を達成する学習過程を経験させること。

b)単純で機械的な練習の大切さとそれを学校で行う教育的意義を伝えること。

1.2.学習環境の設定と授業展開

先行研究(Beatty, 2003:62-72; Chapelle, 2001:44-94; Fotos & Browne, 2004:3-14; Garrison &

Anderson, 2003; Hubbard, 2004:45-67; Kern & Warschauer, 2000:1-19, Levy, 1997:76-117; Levy &

Stockwell, 2006:10-39; McCornell, 2006:81-89; Philips, 1986:2-10; van Lier, 1996:40-66;White, 2003)

を参考に学習環境をデザインし,以下のような環境を構築するよう心がけた。

能登原 祥 之60

図1.CMCの授業における e-learning 環境の位置づけ

まず,授業の最初に e-learning の時間を20分程度設ける。この時,学習者は自分の進度に応じて,

教材を消化することが許される。この個人作業時に教師は机間巡視をし,英語や英語の勉強法につい

て随時質問を受ける。20分経過した頃,学習を切り上げさせ,学習上の留意点を伝えながら,5分程

度各自の学習を反省するように学習者に促す。残りの60分は,今までの授業通り英字新聞を使った口

慣らし練習(catenizing),そして,最後の30分で毎週テーマを変えて e-mail 課題を与える形とした。

1)Gyuto-e(L/R 中級1) (20分) e-learning → 遠隔学習(8週間期間限定)

2)1週間の反省と解説 (5分)

3)英字新聞口慣らし練習 (20分)

4)e-mail 文体チェック (5分)

5)e-mail (20分~30分)

このような授業を進めていくことで,学習者はe-learningによる勉強法を次第に身に付け,自律学

習(self-access language learning)を始めるようになる。学習者が一人一人 e-learner として自律し

自分で学習するようになると,e-learningを効果的に利用する学習共同体(e-learning community)

が教室外に次第に出来上がってくる。図2に示しているように,学習共同体が授業外で次第に確立さ

れてくると,双方の形態の利点を生かし欠点を補完できる二重形態(dual mode)の学習環境を確立

できる。そして通例とは違う形の Blended Learning 環境4を構築するよう努めた。また,Gyuto-e を

導入する際,教材に対する姿勢,資格勉強への心構え,反復練習の重要性を伝えて自習を行うように

促した。これは,いくら教材や学習管理システム(LMS)が優れていても,それを利用する学習者

側が「精神面における技の習得の基本」5をしっかりと認識していないと,効果的に学習を進めるこ

とができないと考えているからだ。自習中は,教材を消化することに集中させ,教師は机間巡視をし,

Blended Learning 環境の構築 61

� � � � � � � � � � Teacher

Language / Learning Counseling � � Language / Learning Counseling

Spoken Communication � � � Written Communication

Classroom Management � � � Learning Management

e-learning� � � � � � � � Distance Learning

� Catenizing� � � � � � Self-Access Language Learning (SALL)

� � � � � � � � � � � � � � � � � � � � e-learning Community

� CMC(e-mail)

� � � � � TOEIC

In-Class � Out-of-Class

� � ������ ���

� � �� � � � � � �� ����� �������

� � � ������ ����

図2.CMCの授業と連携させたBlended Learningの環境

図3.CMCの授業と連携させたBlended Learningの授業展開

学習者の方から質問があれば,個別に対応するようにした。自習後は,その日の学習の反省を促すよ

うに留意点やノルマを改めて確認するようにした。

2.実践Ⅰ(2005)の場合

2.1.学習環境と教師の役割

学習者の学習状況を見て3週目からリスニング200問をノルマとし,その消化状況を全体の評価の

10%と位置づけた。また,「Contact us 機能」を通してコメントや質問を受け,それに対して,励ま

しや回答をメールで随時行った。時に,こちらからメールを一方的に送ることもあった。e-learning

は,基本的に個別作業が中心だが,教師が適度に介入して学習者の精神面をケアしつつリードしてい

く必要がある。また,学習者から「創発される勉強法」を共有させたり,語法に関する疑問などに対

して個々に教師が対応したりする必要も出てくる。教師は,授業を運営すると同時に,授業外でe-

learningを効果的に進めるため「学習過程に関するメタ認知的知識」を管理運営し,どのように学ぶ

べきかを学習者に徹底させるという役割も担うようになる(渡辺,2001:97-98)。

2.2.教材の消化状況

学習期間は2005年5月8日から7月2日までの8週間で,対象は大学2年生 CMCⅠ(必修)の

受講者59名であった。授業者の経験不足が響き,環境設定に問題があった。そのため,消化率は,リ

スニング 37.2%,リーディング 1.69%とそれぞれかなり低い形に終わった。このことから,e-

learningをただ導入するだけでは,学習者は自分の学習管理も十分できず,教材も未消化に終わるこ

とが経験的に分った形となっている。

2.3.学習結果

受講者59名のうち,e-learningを消化し,さらに,TOEICを2回受験した学生を抽出したところ,

43名となった。この受講者の学習結果をまとめると表1の通りである。

特に総合点に関して,SPSS 12.0を用いて,対応のある t 検定を行った結果(両側検定),有意差は

認められなかった( t (42)=. 206, p<.001 n.s.)。このことから,全体としては,学習成果は上がって

いないことが確認され,学習管理環境の仕立て上げに工夫が必要であることが分かった。

能登原 祥 之62

表1 TOEIC IPテストの平均(N=43)

事前(4月) 事後(7月)

平均 標準偏差 平均 標準偏差

総 合  点 310.2 73.35 308.4 92.51

リスニング 198.4 47.64 194.1 63.56

リーディング 111.9 38.13 114.3 40.08

次に,学習者の個性をより詳細に把握するため,総合点および各セクションで事前事後のプロット

を作成した。

総合点に関しては,図4から判断すると,TOEIC 2回(事前・事後)のスコアは,比較的安定し

ていた(r=0.769,p<.001)。ただし,中間層(±1SD)では,個人差が見られ,相対的に伸び悩ん

でいる傾向が読み取れた。

Blended Learning 環境の構築 63

図4 総合点の場合の学習者の分布

図5 リスニングの場合の学習者の分布

また,リスニングとリーディングの2つのセクションをプロットで比較した場合,リスニングの方

が,平均点が約80点高く,事前事後の相関もやや高めであった(リスニング r=0.672,p<.001; リー

ディング r=0.544,p<.001)。このことから,このたびの受講生の場合,リスニングの方が,リーデ

ィングより相対的に能力は高めで能力差が小さく,テストを2回受けても相対的に安定していること

が分かった。また,リスニングの方が,教材の消化率も良かったことから,上位(+1SD以上)と

下位(-1SD以下)で学習効果がやや見られている。しかしながら,どちらのセクションにおいて

も,総合点と同様,中間層(±1SD)に個人差が見られ,相対的に伸び悩んでいる学生が多い傾向

が読み取れた。

このことから,e-learning をただ導入しただけでは,教材の消化状況も悪く,練習効果も期待でき

ないことが分かる。ただし,ノルマ設定をしたリスニングの方で教材消化率が良く,学習効果もやや

確認されたことから,学習管理環境の仕立て上げにさらなる工夫が必要であることが分かった。また,

これら事前事後の結果は,当然ながら e-learning のみの結果とは言えない。学習者個人の日々の努

力や他の授業での学習成果も含まれていると解釈する必要がある。その上で,成果が上がらなかった

理由をさらに貪欲に探究し,e-learning が補うべき問題を探っていく必要があり,教師の側としては,

その学習を支援するより適切な環境を探っていく必要がある。

2.4.学習者の受け止め方

実施日は,2005年7月24日で,有効回答数は46(無効7)であった。調査方法として,5件法のリ

ッカートスケールを用い,学習者の e-learning に対する印象を事前・時中・事後で振り返り回答し

てもらった。主たる回答結果は,以下の通りである。

能登原 祥 之64

図6 リーディングの場合の学習者の分布

番 号 質 問 項 目 平 均 標準偏差

9 Gyuto-eをやった後にすぐにTOEICを受験できる体制がいいと思う。 4.07 0.74

10 TOEICを2回受験することで,前期での伸びを確認できる体制がいいと思う。 4.02 0.93

6 TOEICを授業で受ける体制がいいと思う。 3.83 1.04

8 TOEICの対策を休みの期間ではなく,授業期間中にやる体制がいいと思う。 3.80 0.91

表2 事前環境に対する主な学習者の反応(N=46)

表2にあるように,好意的な回答結果を示していたのは,上記の4つの項目であった。このことか

ら,e-learningと資格テスト(ここではTOEIC)を有機的に関連付けること(項目9・項目10),そ

して,休みの期間ではなく,授業に関連付ける体制(項目6・項目8)に学習者は好意的であること

が分かった。

時中環境に関しては,e-learningに取り組む際,表3にあるように,授業における e-learning の時

間配分に関しては,20分は適当(項目1)とする印象を持っていることも分かっている。そして,基

本的には学校(項目16)で個人で取組むこと(項目14)が分かっている。しかしながら,短時間で一

挙に問題をこなしており(項目12),毎日継続して勉強していない状況が伺えた(項目13)。教師との

交流(項目4)やメッセージボード(項目5)を利用できる環境については好意的に感じている。

事後環境に関しては,表4にあるように,e-learningに対して概ね好意的な気持ち(項目1・項目

2・項目20)を持っていることが分かった。特に,リスニングのPartⅠに慣れたという気持ちになる

ようだ(項目10)。しかしながら,リーディングに関しては,学習者にとって問題が難しく(項目4),

充実感も薄い(項目16)。また,今回の学習をきっかけに,自分で資格対策の勉強をさらにするよう

になったわけではない(項目7)。

3.学習管理システムの仕立て上げの原理

上記の結果を踏まえ,学習管理環境の仕立て上げに潜む原理原則を考察した。それを探究すること

Blended Learning 環境の構築 65

番 号 質 問 項 目 平 均 標準偏差

14 Gyuto-eは一人でやる方だ。 4.09 0.81

5 Gyuto-eを通して,メッセージボードで情報共有ができるのは,いいと思う。 4.04 0.67

4 Gyuto-eを通して,メールで個人的に質問ができるのはいいと思う。 4.02 0.65

1 Gyuto-eを授業中に20分程度時間をとったのは適当だったと思う。 3.96 0.79

16 Gyuto-eは,学校でやる方だ。 3.93 0.98

9 Gyuto-eをやるときに,難しいと思った問題は,訳もしっかりと確認する方だ。 3.91 0.86

12 Gyuto-eは,短時間で一挙にやってしまう方だ。 3.91 0.96

13 Gyuto-eは,毎日少しづつやる方だ。 2.57 1.19

表3 時中環境に対する主な学習者の反応(N=46)

番 号 質 問 項 目 平 均 標準偏差

1 市販の問題集よりGyuto-eの方が勉強しやすいと思う。 4.09 0.91

2 授業中で教科書を使って全員で一斉に問題をこなしていくスタイルより,コンピュータを使って自習スタイルの方が,資格対策としては,能率がいい思う。

3.91 0.91

10 Gyuto-eで,特にリスニングの Part Ⅰに慣れたと思う。 3.91 0.81

4 Gyuto-eのリーディングの問題はレベルが高かったと思う。 3.74 1.00

20 後期もGyuto-eで勉強したいと思う。 3.74 1.08

7 Gyuto-eで,TOEICの勉強をさらに自分でするようになった。 2.93 0.93

16 Gyuto-eでリーディング能力がついたと思う。 2.91 0.98

表4 事後環境に対する主な学習者の反応(N=46)

で,学習管理システムの仕立て上げへの一助とする。ここでは,実際に授業を管理運営していく上で

大切な事前と時中環境に焦点をあてて整理することとする。

3.1.事前環境

3.1.1.ブレンディング

Philips(1986:10)は,以下のように述べ,教育工学を援用する際,創り上げた学習環境の性質を

明確に説明できなければならないとしている。

We have to be clear about the nature of the learning environments we are creating by the use of

educational technology because the answer we give reveals our view of man and of what we

deem proper for man to delegate to machines.

(Philips, 1986:10)

e-learning を考える際にもこの考え方を肝に銘じておく必要がある。e-learning の特に遠隔教育が

生み出す教師と学習者との心理的距離の性質を良く把握し,教師による対面教育の利点を生かしたブ

レンディング法を探究していく必要がある。その上で,どの授業と e-learning を連携させるべきか

といった連携の意義や親和性を吟味する必要があり,e-learning 独自の目標についても探究していく

必要がある。

3.1.2.ノルマ設定

学習者の学習状況を把握し実践経験を積み重ねることで,8週間無理なく達成できるノルマを設定

していく必要がある。最新の Gyuto-e では,「Plan 機能」が付き,1週間のノルマとして「リスニン

グ100問・リーディング5問・グラマー50問」が視覚的に棒グラフで表示されるようになっている。

これは,開発者側の研究に基づいたノルマ設定だが,本学の学生にとって適切なノルマを実践を通し

て確認する必要がある。

3.2.時中環境

3.2.1.学習管理環境の仕立て上げとメンタリング

アクセスログの結果から,8週間における学習者の心理や行動状況が浮かび上がってきた。そして,

8週間をいろいろな時期に区分できることも分かってきた。それらを以下の図7にまとめることがで

きる。

能登原 祥 之66

!���

� ��"#���$%&'(�)*+,*-

AN� � � � � � �� � � � 2� � � � 3� � � � 4� � � � 5� � � � 6� � � � 7� � � � 8

� � �N� � � � � � � � l�C�OI���� � � � � �v���� � � P Q��

����3N � � � � � � f�D����i��=1 � � R � f��.�STi� R � � U�#

� � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � ��51 � � � � �

�"�VWN � � � � � � � ����n|kn=� R� %'��n|kn=� R� ����n|kn=

�Xn�N� � � � TOEIC � � � � � � � ��� � � � TOEIC

� � � ./01234'56&7 ��"#���$%&'(�)*+,*-

!���

� ��"#���$%&'(�)*+,*-

P Q��

� � � ./01234'56&7 ��"#���$%&'(�)*+,*-

!���

� ��"#���$%&'(�)*+,*-

TOEIC

� � � ./01234'56&7 ��"#���$%&'(�)*+,*-図7 実践Ⅰで浮かび上がってきた学習管理環境の仕立て上げとメンタリング

例えば,最初の3週間は「スタートダッシュ期間」と整理でき,自分の生活スタイルを変え,英語

学習用の時間をしっかりと確保できるかどうかがカギとなる時期と言える。学習者のアクセスログの

状況を見ると,この最初の時期に「コマギレ学習」の習慣付けを学習者がうまく行えれば,学習者も

リズム良く学習していけている。4週目から6週目にかけては「中だるみ期間」で,概して,学習者

は単純なドリルに飽きてくる。また,ノルマを達成できるかどうかがこの頃になると実感できるため,

気を抜く学習者も散見される。ペース良く学習している学習者の場合は,この辺りで2回目の学習に

入る。7週目からは「駆け込み期間」で,特に「スタートダッシュ」で遅れた学習者はノルマを達成

することに躍起になり,学習状況も雑になっている。

このような期間の特徴を踏まえると,以下3つの時期ごとの教師の役割が見えてくる。1)「スタ

ートダッシュ期間」には「コマギレ学習」の習慣付けに専念させること,2)「中だるみ期間」には

「先取りの精神」の大切さを伝え,気を抜かずコンスタントに学習するよう指導する必要があること,

そして,3)「駆け込み期間」は,雑な学習にならないように指導しつつ,成就感を味あわせるため

に消化することに専念するよう励ますこと。このように,8週間の学習者の心理や行動の特徴を把握

すると,教師が介入すべき時期や時期ごとの役割が次第に明確になってくる。当然,学習者に個人差

はあるので,当面の学習者の状況をよく見て,この「期間に関する知識」を修正していくことは必要

だろう。また,学習者と対面する際にメタ認知的知識としてこの「期間に関する知識」を共通の経験

知として共有し,自分の学習へと活かすよう指導する必要があるだろう。

今回浮かび上がってきた8週間の学習者の心理や行動状況は,イベントを設定することで変化させ

ることは可能だ。効果的なe-learningを学習者が行える環境作りとしてイベントの設定法をさらに探

究する必要があり,また,各イベントの設定時期や設定意義についても明確にしておく必要があるだ

ろう。

3.2.2.学習データと教師の介入法

教師はネット環境を通して授業外でも学生と対話できるため,通常の授業に比べ,学習者といろい

ろな形で交流できるようになる。Gardner & Miller(1999:181)は,以下のように述べ,学内のいろ

いろな場面で教師が学習者に対し相談にのるケースが考えられるとしている。

Counselling may take place in a variety of settings: the classroom, the SAC, the cafeteria, or a

walk around campus, and may occur at different times and for different durations.

(Gardner & Miller, 1999:181)

ただし,これは,学習者の側から自発的に質問する場合に成り立つ環境である。そのため,学習者

が自発的に質問出来るよう雰囲気作りを進めるとともに,「質問型コミュニケーション力」を授業を

通して学習者に指導する必要が出てくる。

また,指導の際に,個々の学生の学習状況を把握できなければならない。大勢の学生の状況を教師

の側で記憶することはできないため,ポートフォリオやカルテなどを利用して,個々の学習データを

蓄積管理し指導に活かしていく必要がある。ただし,Gardner & Miller(1999:94)は以下のように指

摘し,このような学習データは「指導目的」というよりは,学習者が「自省」のために利用すべきも

のであるとしている。

Blended Learning 環境の構築 67

Learner profiles can provide useful information to teachers and administrators about learners

and their behaviour. However, the main function of a profile is to provide learners with

opportunities for reflection and record-keeping. Therefore it is important that they can believe

in the confidentiality of the contents of their profile. This is crucial to developing the learner-

counsellor relationship that we discuss elsewhere.

(Gardner & Miller, 1999:94)

最近のGyuto-eには,「Folio機能」がついており,学習者自身が自分の学習状況を振り返ることが

できるようになっている。これをいかに効果的に利用していくかが今後の課題となる。

3.2.3.経験知の収集と共有

学習が進むにつれて,語法に関する質問と学習法に関する質問が出てくる。教師の側としては,複

数の学習者が学習を同時に行っているので,その学習経験を適宜聞き,創発された経験知を抽出し

(渡辺 2001: 97-99),共有知にしていく必要がある。そして,「学習する組織」(ガービン,2002:12)

へと仕立て上げていく必要がある。「e-learning を行う意義」や「e-learning に接する姿勢」といっ

た精神面から,具体的に学習する際のコンピュータの操作法を含めた学習技術まで,「学習する組織」

独特の経験知を蓄積し共有できれば,e-learningを効果的に利用する学習共同体(e-learning

community)を育むことができる。近年,e-learning skillsについての吟味は始まっており(Clarke,

2004:2-6),その技能のトレーニングの必要性も語られ始めている(Hubbard,2004:45-67)が,斉

藤(2007)の示すように,技能習得に必要とされる精神面の鍛錬も含めて学習者をトレーニングして

いく必要があると考える。

4.結 語

実践Ⅰを通してe-learningを授業に単純に位置付けてもその効果は得られないことが分かった。e-

learningを導入する際,教師中心の人間味あふれる教育(face-to face teaching)に慣れている学習者

に対し,まず「学習文化」が違うことを意識させることが必要となる。その上で,e-learnerとして

自律させる訓練を授業内で行う必要がある。また,遠隔教育の側面を利用して,学習者の学習状況を

観察したり,適度に介入してコミュニケーション(励まし・学習カウンセリング・語法カウンセリン

グ)をとりながら,授業外でも学習を支援していく必要が出てくる。適切な学習管理環境に仕立て上

げる中で,「学習する組織」に育て上げる役割を果たす必要も出てくる(Garrison & Anderson,

2003:69)。その結果,通常の授業に加え,教師の負担は増えることとなる。経験的には期間を限定し

目標を明確にした上で,授業期間中に「1プロジェクト」として導入する形が効果的だと感じている。

また,期間を限定することでe-learningを自分の学習方法の中でどのように位置付けるべきかを学習

者に考えさせることも大切である。今後の課題としては,学習管理環境を仕立て上げ,学習者が量的

に教材を消化することにこだわった実践を試み,その特徴を記述していくことが挙げられる。

付 記

本論文は,2006年12月16日 広島CALL研究会(広島市立大学)で発表した一部を加筆修正したも

のである。また,本研究は,平成18年~平成20年度文部科学省科学研究費補助金(基盤研究(B))

「多様な大学環境における英語 eラーニングの効果とラーニングマネージメントの研究」(課題番号

能登原 祥 之68

18320090)の一部である。

1.e-learningは,社会人を対象とした企業内教育や大学教育のいろいろな分野で近年導入され発展

している。そのプラットフォームもさまざまなものが開発されている。Blackboard, WebCT,

Moodle, eXe, Xoops などがある。本校では,直面している現場の実情を考慮し,リメディアル教

育とキャリア教育(特にTOEIC対策)の双方を行うことが可能な広島市立大学開発のGyuto-eを

採用し,CMCの授業に部分的に導入している。

2.集合教育または伝統的な教育とe-learningを融合させる形態で,教育目的に合わせて,双方の利

点を生かそうとする形態(Clarke, 2004: 117, Holmes & Gardner, 2006:110-112)。

3.CMCは,国際交流を念頭に置き,e-mail(letter writing),blog(comment writing& reporting),

video blog(speech writing)の力を養成することを目標としている。

4.通例は,初任者研修なら初任者研修,資格教育なら資格教育に徹する形だが,本論の場合,既存

のCMCという別の目的で行われている授業とモジュール的に融合させた形態のことを言う。

5.斉藤(2007)は,先人の努力の例を分析し,その努力に潜む「精神面における技の習得の基本」

をまとめている。それによると,努力家は,高い目標を持ち(立志),修行に打ち込み(精進),

それを夢中で取り組む(三昧)。そして,ときに大きな壁にぶつかっても(艱難),乗り越えて素

晴らしい業績を残す(成就),としている。

参考文献

ガービン・デービッド A.(著)・沢崎冬日(訳)(2002)『アクションラーニング』ダイヤモンド社

香取一昭(2001)『e ラーニング経営 ナレッジ・エコノミー時代の人材戦略』エルコ

斉藤兆史(2007)『努力論』ちくま新書

先進学習基盤協議会(2003)『eラーニングが創る近未来教育最新eラーニング実践事例集』オーム社

能登原祥之・石井淳二・川尻武信・周藤剛士・岡中正三・谷岡憲三・長町三生(2001)「Computer-

Mediated Communication 活動を通した国際交流授業の運営-E-mail Writing活動の場合の記述

研究」『論文集 高専教育』24,271-276.

渡辺浩行(2001)「教育メディアの活用と学習環境の変化」町田隆哉・山本涼一・渡辺浩行・柳善和

(2001)『新しい世代の英語教育 第3世代のCALLと「総合的な学習の時間」』松柏社 79-124.

Beatty, K.(2003)Teaching and Researching Computer-assisted Language Learning. Longman.

Chapelle, C.A.(2001)Computer Applications in Second Language Acquisition. Cambridge University

Press.

Clarke, A.(2004)e-Learning Skills. Palgrave.

Fotos, S & Browne, C.(2004)The development of CALL and current options. In Fotos, S & Browne,

C.(ed.)(2004)New Perspectives on CALL for Second Language Classrooms. Lawrence Erlbaum

Associates. 3-26.

Gardner, D. & Miller, L.(1999)Establishing Self-Access From theory to practice. Cambridge

University Press.

Garrison, D.R. & Anderson, T.(2003)E-Learning in the 21st Century. Routledge Falmer.

Holmes, B. & Gardner, J.(2006)e-Learning. Sage Publications.

Blended Learning 環境の構築 69

Hubbard, P.(2004) Learner training for effective use of CALL. In Fotos, S & Browne, C.(ed.)(2004)

New Perspectives on CALL for Second Language Classrooms. Lawrence Erlbaum Associates. 45-

67.

Kern, R. & Warschauer, M.(2000)Introduction. In Warschauer, M. & Kern, R.(ed.)(2000)

Network-based Language Teaching: Concepts and practice. Cambridge University Press. 1-19

Levy, M.(1997)Computer-Assisted Language Learning. Clarendon.

Levy, M & Stockwell, G.(2006)CALL Dimensions. Lawrence Erlbaum Associates.

McConnell, D.(2006)E-Learning Groups and Communities. Open University Press.

Philips, M.(1986)CALL in its educational context. In Leech, G. & Candlin, C.(ed.)(1986)Computers

in English Language Teaching and Research. Longman.

van Lier, L.(1996)Interaction in the Language Curriculum. Longman.

White, C.(2003)Language Learning in Distance Education. Cambridge University Press.

能登原祥之(言語文化学科国際コミュニケーションコース)

(2007. 10. 31 受理)

能登原 祥 之70