ロシアの原油生産と輸出動向 1インドongc および日本企業を含む6...
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平成27年9月15日
ロシアの原油生産と輸出動向(1)
ロシア エネルギー省中央輸送局の統計では、2014年
同国の原油生産量は 5 億 2,675 万トンに達し、ソ連崩壊
(1991年)後の最高記録となった。同年 ロシア国内製
油所で処理された原油が対前年比 5.2%増の 2 億 8,896
万トンに増加したため、原油輸出は同 5.6%減の 2 億
2,344万トンとなっている。
特に、2014年 中国への原油輸出は、30.2%増の2,998
万トンとなり過去最大量を記録した。ロシアは、2015年
に入っても対中国向け原油輸出の拡大を続け、同年5月
には中国に対する原油の最大供給国に躍進している。
(2015年上半期としては、サウジアラビアが対中国向け
原油供給のトップ国だが、同国は2位で対前年比26.6%
増となる1,941万トンの原油を輸出している。)
ロシアは、ウクライナ問題に伴う経済制裁(2014 年 3 月~)の影響で、欧米諸国との
関係が悪化している。同国は、その対策の一つとして「東方重視政策」を推進し、これま
で以上に中国との関係を強化する方向に動いている。前述している中国への原油輸出増加
は、両国の親密度が高まっていることの象徴的な出来事として伝えられている。
また、2014年 ロシアは原油輸出が減少した中にあっても、日本へは1,185万トン(対
前年比3.6%増)、韓国へは1,082万トン(同14.0%増)の原油を輸出した。この他、同国
は、マレーシア、タイ、シンガポール、フィリピン、台湾およびインドネシアといったア
ジア諸国へも原油を輸出している。同年の同国原油輸出は、フィリピンを除いていずれも
増加している。
本レポートでは、ロシアの原油生産、石油企業、原油性状および輸出動向を前後2回に
分けて報告する。
2015年度 第 15回
1 原油生産動向 2
1-1 原油埋蔵量 2
1-2 主要油田 2
1-3 原油生産の現状 5
1-4 大手石油企業 6
1-5 製油所 8
1-6 原油生産見通し 10
2 原油 10
2-1 原油性状 10
2-2 主要原油 11
3 まとめ 13
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1 原油生産動向
1-1 原油埋蔵量
ロシアの主な油田地域は、西シベリ
ア地域、ウラル・ヴォルガ地域、東シ
ベリア地域、極東サハリン地域および
北極圏地域に分かれている。
2015 年 BP 統計によると、ロシア
の原油埋蔵量は、1,032 億 bbl を有し
ており世界第 6 位の位置にある(図 1
参照)。しかしながら、同国の原油埋蔵
量は、漸減傾向が続いており、可採年
数も26.1年と、世界平均(52.5年)
の半分程度しかない。同国は、将来性
が見込める東シベリア、北極圏および大水深地域の探鉱を強化する必要がある。合わせて、
コンデンセートやシェールオイルなどの開発も重要である。
1-2 主要油田
EIA(米国 エネルギー情報局)レポート(2015年1月)を参考に、ロシア各地域の既
存主要油田を紹介する(図2参照)。
ベネズエラ
2,983
サウジ
2,670
カナダ
1,729
イラン
1,578
イラク
1,500
ロシア
1,032
クウェート
1,015
UAE
978
米国
485
リビア
484
その他
2,547
15%
石油
確認埋蔵量
17,001億bbl
(出所:BP統計)
図1 世界の石油確認埋蔵量(2014年)
図2 ロシアの主要油田地帯
極東サハリン地域
東シベリア地域
北極圏地域
ウラル・ヴォルガ地域
西シベリア地域
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【西シベリア地域】
西シベリア地域は、ロシア最大(原油生産の約6割を占める)の油田地帯である。特に、
Samotlor油田(Rosneft社が運営)が最大かつ最古であるが、2006年の63.5万BPDを
ピークに減少してきている。同油田では、石油増進回収技術などの投入により、生産量の
低下を抑えている。その他の大規模油田としては、Priobskoe、Prirazlomnoe、
Mamontovskoe、および Malobalykskoe 油田がある。いずれも同国では重要油田である
が、成熟油田でもある。
【ウラル・ヴォルガ地域】
ウラル・ヴォルガ地域は、西シベリア地域が開発されるまでロシア最大の油田地帯であ
った。現在は、ロシアの原油生産の約 22%を占めている。特に 1948 年に発見された
Romashkinskoye油田(Tatneft社が運営)は、2013年の生産量は約30万BPDである。
【東シベリア地域】
東シベリア地域の油田は、2009年末に全線稼動したESPO Pipelineへの供給のため生
産量が増加している。2013 年 同地域の生産シェアは、約 6%となっている。特に、2009
年 8 月に稼働した Vankor 油田(Rosneft 社が運営)は、2010 年からのロシア原油生産
量拡大に貢献している。同油田は、この 25 年間で同国において発見された最大油田であ
り、2014年の生産量は約43万BPDとなり、同国第2位の油田である。
Vankor 油田は、Shell が撤退し Total も参加がかなわず、Rosneft の単独開発となっ
た。その後、原油価格低迷とウクライナ問題に伴う欧米の経済制裁を背景に、2014年後半
頃からアジア系石油会社、特に中国とインドへの権益売却の交渉が活発になった。同国は、
2014 年 11 月 CNPC(中国天然気集団)へ 10%の権益を、2015 年 9 月 インド石油・天
然ガス公社(ONGC)へ 15%の権益を売却することに合意した。CNPC と ONGC は、
数年前から同油田の権益を求めていたが、ロシア側は拒絶していたようで、上記動向から
方針を大きく転換したものとみられる。
Vankor 油田の生産は、2019 年に50 万BPD とピークに達する見込みとされている。
Rosneftは、同油田北側のSuzunskoye、南側のLodochinoye およびTagulという周辺3
油田の開発が重要になり、共同開発を選択したものとみられる。同油田からPurpeまで北
極Pipeline(別称:Vankor - Purpe Pipeline、総延長 556km)を使用して、ESPO Pipeline
(Eastern Siberia-Pacific Ocean)に輸送される。
同地域では、他にVerkhnechonskoe油・コンデンセート田、Yurubcheno-Tokhomskoye
油田および Agaleevskoye コンデンセート田などがある。
【極東サハリン地域】
サハリン島は、極東地域にあり北海道と隣接している。同島東側には、多数の国際企業
が共同で開発した大規模な石油・ガス田がある。同石油・ガス田は、生産物分与契約(PSA)
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により開発されている。2013年 同地域の生産シェアは、約3%となっている。
サハリン 1 プロジェクトは、30%の権益を持つ Exxon-Neftgas を主体とし、Rosneft、
インドONGC および日本企業を含む 6 社のコンソーシアムで運営されている。原油埋蔵
量 約23億bbl、天然ガス 約4,850億㎥を有している。2005年 Chayvo油田で生産が開
始され、2010年にはOduptu油田が、2015年にはArkutun-Dagi油田の生産開始へと発
展している。2006 年 De-Kastri 原油積出ターミナルとパイプラインが完成し、Sokol 原
油が日本、韓国およびインドなどに輸出が開始されている。
サハリン2プロジェクトは、Piltun-Astokhskoye陸上油田とLunskoye海上ガス田から
なる。同プロジェクトのコンソーシアムは、Gazprom、を主体とし、日本企業を含む4社
が「サハリン・エナジー」社を設立し運営されている。原油埋蔵量 約7.5億bbl、コンデ
ンセート 約3億bbl、天然ガス 約5,000億㎥を有している。1999年にPhase-1の生産が
開始され、同年輸出もスタートした。2003年からはPhase-2の開発に着手し、2008年末
までにLNGプラントや石油・天然ガスパイプライン、Prigodnoye輸出基地設備が完成し、
2009年に本格的な輸出が始まった。
この他サハリンでは、サハリン 3~サハリン 9 まで計 7 プロジェクトがある。2013 年
Gazpromは、サハリン3 第4鉱区のKirinskoyeガスコンデンセート田の生産を開始した。
Sakhalin Blend(サハリン・エナジーの新原油ブランド)は、Vityaz原油に、同ガスコン
デンセート田のコンデンセートをミックスしたものである。
【北極圏地域】
北極圏地域の油田は、Yamal-Nenets(ヤマロ・ネネツ)自治管区に位置しており、西
シベリア地域に隣接している。同地域は、天然ガス生産が中心の地域であり、油田は比較
的に新しく開発された。2013年の生産シェアは、約5%となっている。
インフラが不足している同地域の油田開発のため、Purpe-Samotlor Pipeline が建設さ
れた。また、Transneft社は、同Pipelineと接続するZapolyarye-Purpe Pipelineを建設
している。さらに、東側では前述したVankor- Purpe Pipelineが建設されている。これら
Pipeline により、同地域の Zapolyarye 油田、Vostochno Messoyakha 油田 Zapadno
Messoyakha 油田、Suzun 油田、 Tagul 油田および Russkoye 油田などが恩恵を受けて
いる。
特に、Zapolyarye-Purpe Pipeline が完成して、西側で Urengoy ガス田、北側で
Messoyakha油・ガス田などと繋がれば、ロシアがエネルギー部門の重要目標としている
巨大ガス田・コンデンセート田が開発可能になる。同地域の前述した開発は、同国原油生
産にかなりのインパクトを与えることになるとみられる。
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1-3 原油生産の現状
1991年のソ連邦崩壊から現在までのロシア原油生産を概観すると、1990年代前半の急
落を経て2000年代前半の急増、2008年以降の漸増傾向が明確に描かれる。
ロシアは、政治混乱および財政崩壊(ハイパーインフレ)による投資環境の悪化により、
1990~1994 年にかけて毎年 10%以上の石油生産量が失われた(以下 BP 統計による)。
1994~1999年まで同国は、5億5,000万トン(1990年)あった生産量は3億1,000万ト
ン前後という低水準での推移となった。同国は、石油などの天然資源輸出に約8割依存し
ていたため、これによる経済的影響は大きかった。
しかしながら、1999年春頃からの原油価格上昇を受け、ロシアは2000年から増進回収
法(EOR、Enhanced Oil Recovery)および水平掘削法など西側の近代的な石油生産技術
を導入した。その投資効果により、原油生産は急速に回復し、2007 年には 5 億トンにま
で近づいた(図 3 参照)。同国の原油輸出による外貨収入の大幅な増加により、同国財務
状況も劇的に改善が図られ、2005年には IMFからの融資も完済した。また同国では、通
貨ルーブルの切り下げにより、輸出競争力強化および輸入の抑制もはかられ、経済成長率
の改善が達成された。
2005年以降 ロシアでは、残存埋蔵量は漸減し、特に主力であった西シベリア産の原油
生産が減少してきた。その影響により増産のテンポが鈍り、2008年は2000年以降で初の
減産を記録した。その後は、東シベリアの新規油田開発が功を奏して、再び増産基調に乗
り生産量は5億トンを突破している。
図3 ロシアの原油生産と消費推移
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1-4 大手石油企業
2014年 ロシアの石油生産における
企業順位は、国営Rosneftが約36%を
占めており首位である。以下 Lukoil、
Surgutneftegas、Gazprom Neftおよ
び Tatneft という順序になっている
(図4、表1参照)。
なお、ロシアの大手石油企業は、原
油生産、石油精製および販売まで手掛
けているため、「垂直統合型石油企業」
でもある。
近年ロシアの石油企業は、国内製油所の近代化に取り組んでいる。また、国外製油所の
取得にも動いている。特に欧州では、複数の製油所(合計原油処理能力:約142万BPD)
を買収している。さらに、海外での石油製品の販売網も所得するなど積極的な動きをして
いる。以下にロシアの大手石油企業5社を紹介する。なお、neftは「石油」を指す。
【Rosneft(ロスネフチ)】:
ロシア最大の国営石油企業(従業員:約21万8千名)である。同社は、合併および
買収により拡大し、特に2013年TNK-BP(ロシア第3位の原油生産企業)をBPから
買収し、世界的巨大企業に成長している。同社は、石油・天然ガスの開発および生産、
石油精製、石油販売、パイプライン運営、船舶運営など多岐にわたり活動している。
2014年 同社の生産量は、石油・ガス合計で510万BOEPD、埋蔵量は1,290億BOE
で新規発見による埋蔵量置換率は158%である。生産コストは、1BOEあたり4ドルで
メジャーの 15 ドル前後を大きく下回る。同社は、石油がメインであるが、LNG など
ガス事業にも意欲を示している。2014 年 同社の天然ガス生産は、前年比 48.6%増の
567億m3となっている。
2011年 Rosneftは、ベネズエラ国営PDVSAからドイツRuhr Oel GmbH(ROG)
の株式50%を買収し、ROGを通じてドイツの4製油所に資本参加した。また、同社
は、BP の協力を得てドイツ石油製品の卸売市場へも参入した。前記のように Rosneft
は、ドイツでの石油事業を強化している。なお、ROG 社は、ドイツの石油製品市場の
リーダーであり、欧州で5系統のパイプライン、石油ターミナル(北海、バルト海、地
中海、アドリア海)も運営している大手企業である。
図4 企業別生産シェア(2014年)
Rosneft
36.2%
Lukoil
16.4%
Surgutnefte
gas 11.7%
Gazprom
Neft 6.4%
Tatneft
5.0%
その他
24.3%
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【Lukoil(ルクオイル)】:
1993年設立のロシア第2位の石油企業である。同社は、石油・天然ガスの開発およ
び生産、石油精製(国内 4 製油所、4,590 万トン/年)、石油販売などを手掛けている。
2014 年末 同社の石油・ガス合計確認埋蔵量は、約 179 億BOE(石油:約 136 億 bbl,
天然ガス:約24兆 cf)である。
Lukoilは、1990年代からカスピ海諸国(アゼルバイジャン、カザフスタン)で大型
プロジェクトに参画しているが、最も注力してきたのがイラクWest Qurana油田であ
る。フセイン政権崩壊後も諦めることはなく、2009年 West Qurna 2油田(120万BPD
規模)を落札し、同油田から2015年上半期に15億ドル以上の収益を上げている。
2000年 Lukoilは、米国の旧Getty Oilを買収しており、米国で石油販売も手掛けて
いる。同社ブルガリアの子会社 Lukoil Neftohim Burgas AD は、ブルガリア唯一の
Bourgas製油所(19万BPD)を運営している。また、イタリアの ISAB社からシチリ
ア島の製油所買収し、Lukoil Italia社が販売を手掛けている。さらに、ルーマニアでは
Ploiesti製油所を、オランダではZeeland製油所を保有している。
【Surgutneftegas(スルグトネフチェガス)】:
1993 年に設立された大手石油・ガス企業(従業員:約 9 万 3 千名)である。同社
は、グループ企業を含め石油・天然ガスの開発および生産、石油精製、石油販売など
を手掛けている。
【Gazprom Neft(ガスプロムネフチ)】:
2005 年 同社は、Gazprom(天然ガス生産の世界最大企業、株式の約 96%保有)
の傘下になった国営の石油・ガス企業(従業員:約 6 万 5 千名)である。旧社名は、
Sibneft である。同社は、石油・天然ガスの開発および生産、石油精製、石油販売な
どを手掛けている。
【Tatneft(タトネフチ)】:
1994年に設立されたロシア・タタルスタン共和国の大手石油・ガス企業(従業員:
約8万1千名)である。同社は、石油・天然ガスの開発および生産、石油精製、石油
化学、石油販売などを手掛けている。
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1-5 製油所
2015年1月 Oil & Gas Journal によると、ロシアの製油所は40ケ所あり、常圧蒸留
装置能力は約550万BPDである。同国は、米国、中国に次いで世界3位の位置にある。
しかしながら、同国の製油所は、稼動から四半世紀以上経過した古い設備が多くなってい
る(表2参照)。同国の大手石油精製企業3社を下記紹介する。
・Rosneftは、9ケ所の製油所(88.8万BPD)を有し、ロシア最大の石油精製能力を有し
ている。なお、同社製油所は、比較的小規模の製油所が多い特徴がある。
・Lukoil は、4 ケ所の製油所(45.6 万BPD)を有し、ロシア第 2 位の石油精製能力を有
している。なお、同社製油所は、単純な装置構成になっている。
・Gazprom Neftは、2ケ所の製油所(33.4万BPD)を有し、ロシア第3位の石油精製能
力を有している。
表1 ロシア石油企業別 原油生産量の推移
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表2 ロシアの主要製油所一覧
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1-6 原油生産見通し
ロシアでは、東シベリア油田の増産も近く頭打ちになるとみられている。これに原油価
格の低迷、ルーブルの下落、ウクライナ問題に伴う欧米諸国の経済制裁が加わり、原油生産
の動静は不透明である。しかしながら同国政府は、当面シェア確保の観点から減産の意志
はなく、2015年の原油生産も増産基調(上半期で1.2%増)で推移している。
ロシアでは、主力の西シベリア油田の生産量が減少し続けているなか、東シベリア油田
が減産に転じれば、経済制裁によるタイトオイル(シェールオイル)、大水深開発および北
極圏開発の停滞につながり、今後の原油生産に影響を与える可能性がある。少なくとも、
西シベリア油田の減少分を東シベリア油田の増産で補填することは不可能になっている。
例えば、2014 年 Rosneft の生産推移をみても、Vankor 油田などの東シベリア油田の生
産は拡大しているが、全体としては前年比0.9%の減少となっている。
また、原油生産の5%程度を占めるコンデンセートの増産があったとしても、2016年以
降の増産はハードルが高くなったとみられる。
2 原油
2-1 原油性状
ロシアには、現在8種の主要輸出原油がある。以下に主要原油の性状などを記載する(表
3 参照)。なお、同国産原油価格は、Brent 原油または Dubai 原油が指標価格となってい
る。
なお、ロシア極東地域の輸出基地からの同国産原油輸入は、日本を含む東アジア諸国に
とって中東原油を輸入するのに対し、海上チョークポイント(ホルムズ海峡、マラッカ海
峡)の通行不要、タンカー運航距離大幅削減(日本の場合:中東から片道約 20 日、ロシ
アから片道約3日)および仕向地条項規制がないことなどの特徴を有している。
表3 ロシアの輸出原油
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同国産原油の輸入は、経済性、製油所技術対応および政治問題などがクリアされれば、
中東依存度低減によるエネルギー安全保障に寄与が期待できる。
2-2 主要原油
【Urals Blend原油】
ロシア原油の代表ともいえる原油である。同原油は、ヴォルガ・ウラル地域産の重
質・高硫黄原油に西シベリア産の軽質原油をブレンドしており、硫黄分が高いなど品
質面で劣るため、Brent原油より低い価格で取引される。
同原油は、Baku-Novorossiysk Pipelineと Druzhba Pipelineで輸送されている。
同原油の積出は、Novorossiysk港(ノヴォロシースク、黒海沿岸)やPrimorsk港(プ
リモルスク、バルト海沿岸)、Ust-Luga 港(ウスチ・ルガ、バルト海沿岸)などが使
用される。
【REBCO原油(Russia Export Blend Crude Oil)】
世界最大の商品先物取引所であるニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)
では、Urals FOB Primorskとして知られている。同原油は、ヴォルガ地域産の重質・
高硫黄原油に西シベリア産の軽質原油をブレンドしている。同原油は、ロシア産原油
の指標価格となっている。同原油の積出は、Primorsk港が使用される。
【Siberian Light原油】
西シベリアの軽質原油である。同原油の積出は、Tuapse港(トゥアプセ、黒海沿岸)
が利用される。同原油は、Urals Blend原油より軽質・低硫黄分の原油である。
【Y-K Blend原油(正式名:Yuzhno Khylchuyu Brend)】
ネヤマロ・ネツ自治管区Timan Pechora地域のYuzhno Khylchuyu油田で生産さ
れる原油で、Arctic Lightとも呼ばれる。同原油は、Urals Blend原油より軽質・低硫
黄分の原油である。同原油は、Varandey港(ヴァランディ、バレンツ海)から出荷さ
れる。
【ARCO(Arctic Oil)原油】
北極海のPrirazlomnaya海上油田で生産される新しい原油である。同原油は、油田
のプラットフォームから出荷されている。同原油は、Urals Blend 原油より重質・高
硫黄分の原油である。なお、ロシアは、ウクライナ問題の影響により、経済制裁を受
けているため、海外からの投資が減少している。特に、高い掘削技術力および資金を
要する北極海海上油田の開発に影響が出ている。
【ESPO原油】
ESPOパイプライン建設に伴って誕生した原油である。東シベリアのVankor 油田、
Verkhnechon 油田および Talakan 油田を中心にしているが、一部 西シベリア各地
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の原油もブレンドされた中質・低硫黄原油である(表4参照)。同原油の積出は、日本
海沿岸のKozmino港(コズミノ、ナホトカ市)から出荷され、日本や中国を始めとす
るアジア・太平洋諸国に輸出されている。
ESPO 原油は、日本がロシアから輸入する原油の中で一番多い原油になっている。
2014 年 日本の輸入量は約 1,090 万 kℓであり、同国産 原油輸入量の約 67%を占めて
いる。
【Vityaz(ヴィチャーズ)原油】
サハリン-2によって生産されている軽質・低硫黄原油である。同原油の積出は、サ
ハリン南部の Prigorodnoye 港(プリゴロドノエ、サハリン州)から出荷されている。
同原油もESPO原油同様に、アジア諸国にとって重要な原油になる。
なお、日本がロシアから輸入する原油の中で三番目に多い原油である。2014 年 日
本の輸入量は、約200万kℓであり、同国産 原油輸入量の約12%を占めている。
【Sakhalin Blend原油】
サハリン-2 によって生産されている Vityaz 原油に、サハリン島 北東大陸棚にある
Kirinskoye(キリンスコエ)ガス田のコンデンセートを加えた新原油である。
同原油は、2014 年から輸出が開始され、翌 2015 年から本格的に輸出されている。
主な、輸出先は、日本、中国および韓国である。同原油の積出は、サハリン南部の
Prigorodnoye 港から出荷されている。2014 年 日本の輸入量は、約 15 万 kℓであり、
同国産原油輸入量の約1%とわずかである。
表4 ESPO原油 性状一覧
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【Sokol原油】
サハリン-1によって生産されている軽
質・低硫黄原油として高い評価を得た原油
である(表 5 参照)。同原油の積出は、
De-Kastri港(デカストリ、沿海州)に運ば
れて輸出される。同原油もESPO原油同様
に、アジア諸国にとって重要な原油になる。
なお、日本がロシアから輸入する原油の
中で二番目に多い原油である。2014年の輸
入量は、約300万kℓであり、同国産原油輸
入量の約19%を占めている。
3 まとめ
ロシアは、資源輸出が国家収入の50%以上を依存する資源大国である。同国の石油資源
は、石油埋蔵量世界6位、石油生産量世界3位のOPEC非加盟でもある。しかしながら、
同国の石油埋蔵量は、漸減傾向が続いている。この原因は、同国の主要油田である西シベ
リアおよびウラル・ヴォルガ地域の油田の成熟にある。それを補うため、同国では、東シ
ベリア、極東サハリンおよび北極海地域の油田開発を実施している。
ロシアは、さらなる石油増産を実行したいが、最近の原油価格低迷およびウクライナ問
題による欧米諸国からの経済制裁により、その速度が低下する可能性がある。しかし、同
国石油企業の生産コストは非常に低く、原油価格下落に対する抵抗力がある。また、ルー
ブル安に乗じて投資を増やす動きもある。さらに、同国は、経済制裁の対抗手段の一つと
して「東方重視政策」を推進している。
特に、ロシアは、中国への石油輸出の増大の動きが認められる。同国大手石油企業は、
中国の大手石油企業と共同で油田開発を進める動きもあり、中国から巨額の開発資金を獲
得している。日本および韓国を含むアジア諸国でも、同国産原油(ESPO原油ならびにサ
ハリン産原油)の輸入量が増加しており、中東依存度低減の意味からも、この動きはさら
に強まるとみられている。
また、ロシアの大手石油企業は、下流部門でも製油所の近代化、海外製油所および海外
石油製品販売網の買収などにも取り組んでいる。
表5 Sokol原油 性状一覧
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<参考資料>
Rosneft:
http://www.rosneft.com/Investors/results_and_presentations/annual_reports/
LUKoil:http://www.lukoil.com/static_6_5id_218_.html
Surgutneftegaz:http://www.surgutneftegas.ru/en/investors/reports/annual/
Gazprom Neft:http://ir.gazprom-neft.com/news-and-reports/annual-reports/
Gazprom:
http://www.gazprom.com/f/posts/55/477129/gazprom-annual-report-2014-en.pdf
Tatneft :
http://www.tatneft.ru/for-shareholders/information-disclosure/annual-report/?lan
g=en
Slavneft:http://www.slavneft.ru/eng/shareholder/annualreport/
Russneft:http://eng.russneft.ru/geologus/
Novatek:http://www.novatek.com.tw/ir/AnnualReport.asp
Transneft:http://en.transneft.ru/pipelines/
Statistical Review of World Energy June 2015(BP)
中国海関統計(中国海関総署)
中国の石油産業と石油化学工業 2014年版(東西貿易通信社)
East & West Report各号(東西貿易通信社)
本資料は、一般財団法人 石油エネルギー技術センターの情報探査で得られた情報を、整理、分析
したものです。無断転載、複製を禁止します。本資料に関するお問い合わせは[email protected]
までお願いします。
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次回のJPECレポート(2015年度 第16回)は、「ロシアの原油生産と輸出動向(2)」を予
定しています。