サービス (フォア )で空振 りする 生徒 のための 実践事例 ...-1-サービス...
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サービス(フォア)で空振りする生徒のための実践事例(バドミントン)~ 返球ゲームにおける返球方法の段階的工夫 ~
1 はじめに
バドミントンの授業を進める中で、サービス(フォア)さえ空振りしてしまう生徒がい
る。まずはラケットにシャトルを当て、ネットの向こう(コート)にシャトルを落とすこ
とを目的として様々な指導を試みた。普通に思い付く実践だが、遊びの要素を取り入れる
ことにより効果が上がった事例について紹介する。空振りを恐れず積極的にサービスし、
チームの一員として、ペアから笑顔がこぼれるようになることを願って実践した。
2 単元(種目)名
バドミントン
3 対象
初心者の内、シャトルの位置に合わせた身体動作やラケット操作ができず、サービス
において、ラケットにシャトルが当たらない(空振りする)生徒を対象とする。
4 単元指導計画における位置付け
一部の生徒を対象とした指導方法であるため、全員の生徒を対象としての学習活動に
位置付けるものでははない。ただし、段階Ⅰ(P.3) の「投げ入れ」は毎時間の導入時等
に全員で実施し、準備運動として利用できる。
5 指導のポイント
☆ポイント1 「遊び感覚で!」
・様々な方法で相手コートに入ったシャトルの数を競わせる。失敗の数よりも、相手コ
ートに入ったシャトルの数に着目させることにより、技能が不足する生徒に充実感を
もたせる。生徒には「サービスのための練習」ということは伝えずに実施するとよい。
☆ポイント2 「ラケットの使い方」
・ラケットにシャトルが当たらない理由として、グリップの握り方、ラケットのヘッド
の方向、手足・体の向き等の問題が考えられるが、ストリングス(ガット部分)にシ
ャトルを当てることだけを目標にし、その他のことは触れない。
・初めは手でシャトルを打たせ、次にラケットでシャトルを打たせていく。このとき、
ラケットを握る位置は、ストリングス部分、ネック部分、グリップの上端部と変化さ
せ段階的に指導する。ストリング部分を握ってシャトルを打つときは、シャフトをひ
じ関節から外に固定すると、腕とラケットを棒状に一体化させる感覚が分かりやすい。
このような指導を通して、ラケットが腕の一部に感じられるようにさせたい。
・本来、重要である「手首のスナップ」については、あまり意識させない。
6 返球ゲームの説明
☆全体の流れ(ルール)は次のとおりである。
①自コートに1人(シングルス)又は、2人(ダブルス)が入り、相手と対戦する。
②実施時間は30秒程度。
③自コート、相手コートの中央にシャトルを3~5球置いておく。
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④バックバウンダリーライン(エンドライン)上に立ち、スタートの合図で走り出し、
シャトルを拾って相手コートに返球する。(返球方法は段階Ⅰ~)
⑤一度に返球できるシャトルは1球のみ。複数のシャトルを手に持ってはいけない。
⑥時間終了時に自コートに落ちているシャトルの少ない方が勝ち。
☆注意すべきこと
①コートの広さや、アウト・インなどの細かいルールは生徒のレベルに応じて指導者
が設定する。
②ゲーム感覚で勝敗を競わせる。
③技能の高い生徒には不向き。
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7 返球ゲームの実践方法(方法とポイント)
段階Ⅰ 「シャトルの投げ入れ」
《方法》ラケットを使わず、素手でシャトルをつかみ相手コートに投げ入れる。空中
にあるシャトルはキャッチしないで、下に落ちたシャトルを投げ返す。立っ
たり座ったりするので、準備運動には適している。
段階Ⅱ 「手の平で打っての返球」・・・写真A
《方法》ラケットを使わず、手の平でシャトルを打って返球する。
《ポイント》飛距離も出ず、さらに直上に上がりやすくネットを越えないことが多いが、
まずは手に当てることに集中させる。ゲーム感覚で競わせるようにする。
痛がる生徒もいるため何度も繰り返してできない。
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段階Ⅲ 「ストリングスを握っての返球」・・・写真B
《方法》ラケットのストリングス部分を握り、シャトルを打って返球する。
《ポイント》握りは、ストリングスに指をからめると安定する。
写真C-1(P.5) のようにグリップエンドが体側から離れ、宙に浮いている
と、ラケット全体が回転してしまい非常に操作しにくい。したがって、写真
C-3(P.6) のように、シャフトを橈骨(とうこつ)側にクロスさせグリッ
プエンドを上腕の外側に固定すると手首も固定される。また、ひじを曲げ伸
ばししやすいため実戦的な感覚を得ることができる。
写真C-2(P.5) は、グリップエンドを脇に刺すように固定する方法だが、
ひじが大きく曲がり動かしにくいので、良い方法とはいえない。
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失敗例・・・写真 D
卓球のラケットを利用してみたがヒットしなかった。ひじが大きく曲がり腕の振りが窮屈になったためだと考えられる。ひじを伸ばすと、さらにヒットしなかった。手の平打ち、ストリングスを握っての返球の方が確実である。
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段階Ⅳ 「ネック部分を握っての返球」・・・写真E
《方法》ネック部分を握り、シャトルを打って返球する。
《ポイント》グリップの固定は写真C-3と同様にする。
手から打点までの距離を少し離し、段階を上げた。
この段階Ⅳまでのゲームを何度も行うとよい。
段階Ⅴ 「シャフト中央部分を握っての返球」・・・写真F(P.8)
《方法》シャフトの中央部分を握り、シャトルを打って返球する。
《ポイント》手から打点までの距離をさらに遠ざけるために、シャフト中央を握らせてみ
たが、支柱が円柱形のため握力の弱い生徒はラケットが横向に回転してしま
いストリングス面が一定しなかった。
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段階Ⅵ 「グリップヘッドを握っての返球」・・・写真G
《方法》グリップの上端部を握り、シャトルを打って返球する。《ポイント》この段階のゲームができれば、ほぼ難なくサービスは打てる。普通にできる
生徒の中にも意識的にこの部分を握ってプレーしている者がいる。
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8 成果の検証
《生徒の声(実践の感想)》
・投げ入れのゲームは体力を使うけど、たった30秒でウォーミングアップが十分に
できた。
・ネックを持っての返球ゲームまでは、シャトルをラケットに当てることがうまく
できたけど、グリップを持つと、慌てて振るのでなかなか当たらなかった。
・手で打つと痛い。ガットを持ってやるとシャトルがよく当たって飛んだ。
・30秒は長い。
・毎時間やっているうちに、最後は、シャトルを全部返球できるようになった。
《実践後の試合の様子》
・空振りする生徒だけを集め、その生徒の試合のない空き時間に、別コートを使っ
て、毎時間10分間ほど段階Ⅲ、Ⅳの返球ゲームを行った。その結果、明らかにシ
ャトルをラケットで打てるようになった。
・サービスを打つのを嫌がっていた生徒も、打つことをためらわないようになって
きた。
・試合の中で、一度空振りすると、次はそうならないようにネックを持ってサービ
スをしていた生徒がいた。
9 最後に
昨年度(2年生)、今年度(3年生)と同じ生徒をもち上がりその変容を見てきた。
昨年度は段階Ⅳまでの実践を集中的に行ってきたので、今年になって「サービスが入
るようになったな」と褒めてやれる場面が非常に増えたと感じている。限られた授業
時間の中で、複数の生徒同士が同時にゲーム感覚で楽しめ、運動量も確保できるとこ
ろに成果があった。普通のレベルの生徒ならば飽きてしまうことが多い内容であるが、
技能が不足する生徒でもひたすら返球することに集中し楽しむことができた。授業の
中で、生徒の笑顔が増えてきたことがなによりの成果であったと思う。