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ジャカルタ事務所 博志 インドネシア鉱業政策動向とその影響 令和元年11月26日 令和元年度第6JOGMEC金属資源セミナー

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ジャカルタ事務所 南 博志

インドネシア鉱業政策動向とその影響

令和元年11月26日

令和元年度第6回 JOGMEC金属資源セミナー

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1免責事項

本資料は、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下、「機構」)が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータ及び情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。

本資料は聴講者への一般的な情報提供を目的としたものであり、本資料に基づきとられた行動の帰結につき、機構及び発表者は何らの責めを負いかねます。

なお、本資料の図表類等の引用等行う場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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2目 次

1.インドネシア鉱業の概要

2.鉱業政策動向とその影響~ニッケル鉱石全面輸出禁止前倒し~

3.まとめ

(付録) インドネシア・製錬所等一覧

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1.インドネシア鉱業の概要

● 鉱石生産量推移

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鉱石生産量 (鉱石中金属量:千t) [出典:World Metal Statistics]

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2018ランク

Cu 997.4 871.2 543.0 398.1 494.0 366.0 580.1 695.9 666.3 746.2 世界第9位

Ni 190.6 216.5 226.9 622.2 811.5 145.5 128.6 172.7 358.0 647.7 世界第1位

0.0

200.0

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2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018

Cu

Ni

[年]

[千t]2014

鉱石原則禁輸 2017禁輸緩和

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1.インドネシア鉱業の概要

● 輸出量推移

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輸出量(千t) [出典:World Metal Statistics]

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018

Cu鉱石 2,330.3 2,642.1 1,471.4 1,123.5 1,453.7 715.0 1,711.4 1,912.9 1,126.8 1,597.8

Cu地金 196.9 161.4 131.8 69.2 70.9 109.8 96.9 160.4 175.7 154.0

Ni鉱石 10,437.1 17,566.0 40,792.2 48,449.4 64,802.9 4,160.1 0.0 0.0 4,882.7 19,764.5

FeNi 69.9 80.1 78.8 77.1 68.2 83.7 181.7 411.4 1,015.6 857.5

Niマット 68.3 111.6 82.2 91.0 96.6 99.6 103.8 98.5 88.0 93.9

0.0

10,000.0

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40,000.0

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3,000.0

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018

Cu鉱石

Ni鉱石

[年]

Cu鉱石[千t]

Ni鉱石[千t]

2014鉱石原則禁輸

2017禁輸緩和

2017FeNI激増

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1.インドネシア鉱業の概要

● 日本への輸出量

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日本への輸出量(千t) [出典:財務省貿易統計]

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018

Cu鉱石 983.7 1,173.2 362.9 427.3 425.3 252.0 580.4 679.3 427.0 623.2

Cu地金 1.2 0.3 3.6 0.0 0.2 4.5 0.0 2.0 4.0 3.4

Ni鉱石 2,140.0 2,390.5 1,951.4 2,060.2 2,508.8 350.9 0.0 0.0 0.0 55.0

FeNi 0.0 0.8 1.1 0.0 0.0 1.5 0.0 0.0 0.0 0.0

Niマット 85.6 92.9 88.1 88.9 95.8 93.6 91.3 98.1 96.0 95.6

0.0

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1,200.0

1,400.0

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018

Cu鉱石

Ni鉱石

Cu鉱石[千t]

Ni鉱石[千t]

[年]

2014鉱石原則禁輸

2017禁輸緩和

2018Ni鉱石、

日本へは微増

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1.インドネシア鉱業の概要

① PT Smelting (Gresik銅製錬所)に、三菱マテリアル60.5%、三菱商事9.5%、JX金属5.0%出資。 残りは、PT Freeport Indonesiaが所有。

② PT Vale Indonesia (Sorowako Ni鉱山 等)に、住友金属鉱山20.09%、ヴァーレ・ジャパン0.55%、住友商事0.14%出資。 残りは、Vale S.A.及びインドネシア国内の一般投資家及び個人株主が所有。 2019年内に国営鉱業持株会社PT Inalumへの株式20%譲渡が決定している。 なお、Pomalaa地域のHPAL技術を用いたNi製錬所建設について住友金属鉱山とDFS中(<注>現在のところ、最終決定には至っていない)。

③ Morowali工業団地内のNPI製錬や電池材料製造の計3社に阪和興業が一部出資。中国・青山集団(Tsingshan Group)関連企業等との合弁事業。

④ 近年は、2016年のBatu Hijau鉱山からの住友商事・住友金属鉱山等、同じく2016年のWeda Bay Niプロジェクトからの三菱商事・大平洋金属、2017年のTayanケミカルアルミナ製錬所からの昭和電工、と日本企業の撤退が相次いでいる。

⇒ 鉱業政策も撤退の原因の一つ

● 日本企業の投資状況

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・ ポイントは「鉱業権の鉱業事業許可制度への一本化」等・ 加えて、外資優遇(利益収奪)への世論の批判、資源ナショナリズムの高揚等を背景に、、、

→ 具体的な関連政省令に関しては、1年以内に制定するとされていたが、現実には遅延したものもあるなど、順次制定されてきた。

・ 2010年政令では「生産開始5年後までに一括20%譲渡」・ 2012年政令では「生産開始後6年目から10年目まで段階的に譲渡比率義務を設定。最終の10年目以降は51%以上譲渡」

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● 経緯 -1

2. 鉱業政策動向とその影響

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・ 2012年に高付加価値化に伴う国内での製精錬義務規定が制定、施行は2014年とされた。 (※2012年には銅精鉱は輸出禁止と規定)

・ 新鉱業法規定の高付加価値化期限の2014年1月に、見直し等を行い、新しい政省令を公布・施行。2017年までの3年間の措置。

・ 条件付きで2017年1月から2022年1月まで

に。 。・ 条件とは、国内製錬所建設義務 等。

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● 経緯 -2

2. 鉱業政策動向とその影響

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● 影響<主要外資の動向> -1

2. 鉱業政策動向とその影響

・ 2017年からCoW(従来の鉱業事業契約)からIUPK(新しい特別鉱業事業許可)への、親会社・外資Freeport McMoRan社と国との移行(許可延長)交渉が本格化。・ 1年半以上もの交渉を経て、2018年7月に合意、12月に資本譲渡完了及びIUPK正式付与。・ 国との合意内容は、 IUPKは2041年まで付与の確約、 5年以内の新規国内製錬所建設を遵守、 国営PT Inalum等が株式譲渡を受け51%以上所有、 鉱山オペレーターは引続きFreeport McMoRan社 等。・ 付与されたIUPKはひとまず2031年まで。国内製錬所建設は2023年までに建設完了予定(場所は東Java州Gresik)で、建設完了を条件に2041年までのIUPKが付与されるとのこと。・ 合意後譲渡成立までに、鉱業会社に適用する税率(固定化)の改定、譲渡価格決定の仕組みの改正を国が行い、国側も配慮を示した形。

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・ 当初CoWにて外資(米Newmont、住友商事・住友金属鉱山他日本企業)から国内への生産開始11年目までの段階的資本譲渡義務51%明記。・ 譲渡初年度から譲渡価格等の交渉が難航、国連仲裁を経て解決。結果としては11年目(2010年)以降、形式的に51%譲渡済、外資側は経営権把握。・ 2012年から銅精鉱輸出には輸出許可取得が必要になり、2014年からの25%を超える高率輸出税賦課、(輸出税は交渉の末引き下げとなったが)交渉に伴う操業一時休止、銅価格下落等の要因により、外資は撤退、100%国内資本となった。・ 現在の社名はPT Amman Mineral Nusa Tenggara (国内エネルギー大手PT Medco傘下)。

(日本企業出資中)

・ 当初より株式20%を国内の一般投資家及び個人株主が所有、2014年10月の修正CoWにより、5年以内に追加で20%の国内資本譲渡が義務付け。・ 2019年10月に国営PT Inalumへの株式20%譲渡に合意。現在契約交渉中。・ 同社生産のニッケルマットは、2014年(2012年)当初より輸出可能。

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● 影響<主要外資の動向> -2

2. 鉱業政策動向とその影響

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● トピックス<ニッケル鉱石全面輸出禁止前倒し> -1

2. 鉱業政策動向とその影響

2019年8月30日、政府は、2017年の改正政省令において2022年1月まで可能とされていた低品位ニッケル鉱石の輸出(条件付き緩和措置)を、2年間前倒しして、2020年1月から再びニッケル鉱石を全面輸出禁止とする改正令(大臣規則)を制定。

2019年7月初、国会にて2022年からの鉱石輸出禁止再開に改めて言及され前倒しが噂されるようになり、さらに、その後8月に入り関係閣僚等からニッケル鉱石全面輸出禁止前倒しを検討しているとの発言が出るようになっていた。結局、8月30日に正式に制定されることとなった。

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● トピックス<ニッケル鉱石全面輸出禁止前倒し> -2

2. 鉱業政策動向とその影響

国内製錬所(現在建設中のものも含む)の鉱石需要により生産鉱石の全消費は可能、と政府は説明。

政府は理由に挙げていないが、思うように進捗していない国内製錬所建設促進のための全面輸出禁止前倒しではないかとの見方も。

国内ニッケル埋蔵量に限りがあり、当初定めていた2022年まで高付加価値化の実現を待てない状況にあることも理由の一つ、と政府は説明。

政府は新たな探鉱開発を促進し埋蔵量を増加させたいという意図と思料。一方、国内製錬所建設への投資意欲減退に繋がるのではないかとの見方も。

政府は、国産電気自動車(EV)構成部品の最低現地調達率を定めた大統領令を8月に施行。ニッケル原料確保及びEV産業への投資増加を企図。

さらなるニッケル高付加価値化による外貨獲得・経済発展の意図か。

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● トピックス<ニッケル鉱石全面輸出禁止前倒し> -3

2. 鉱業政策動向とその影響

LMEニッケル価格高騰

報道、関係閣僚発言等により7月から8月にかけて高騰。

8月30日に輸出禁止前倒しが正式決定し、世界的な供給減少懸念によりさらに高騰。

9月2日に約5年ぶり高値の18,625US$/tに。

LME(ロンドン金属取引所)ニッケル価格推移 (2019年6月3日~11月15日)

(その後やや下落したものの高水準は維持)

10,00011,00012,00013,00014,00015,00016,00017,00018,00019,000

6/3

6/11

6/19

6/27 7/5

7/15

7/23

7/31 8/8

8/16

8/27 9/4

9/12

9/20

9/30

10/8

10/1

610

/24

11/1

11/1

1

LME価格(US$/t)

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● トピックス<ニッケル鉱石全面輸出禁止前倒し> -4

2. 鉱業政策動向とその影響

全面輸出禁止前倒し前の違法輸出の疑い

2019年9月は中国への低品位ニッケル鉱石の輸出量が急増。

政府は違法輸出(輸出許可量超過、1.7%超品位鉱石輸出)を疑い10月29日から約10日間輸出を禁止して検査を実施。

11月15日現在、2社が依然として輸出停止措置を受けているとの報道。

インドネシアに次ぐニッケル産出国、フィリピンの動向

政府は、市場を活用する好機であり、また、いかにより高品位のニッケル鉱石を供給できるかどうかが鍵となる、との見方。 一方、現時点で、政策に変更は無く、探鉱開発の規制緩和等は検討していないとのこと。

ニッケル企業からは鉱石増産や新規鉱山開発計画の動き。

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153. まとめ

今般のニッケル鉱石全面輸出禁止前倒し、このような方針の変更は、業界の混乱とさらなるインドネシアの信用低下を招いている。既に、対外投資を呼び込む上でネガティブに働いていると思料。

ただし、経常収支赤字縮小及びこの高付加価値化政策は、第2次ジョコウィ政権の大命題。これら鉱業政策は順調との自己評価には変化無し。資源ナショナリズム政策は引き続き国民受けが良いという背景も。

エネルギ-鉱物資源省は否定しているが、報道では、洗浄工程後ボーキサイトや、さらには銅精鉱についても、全面輸出禁止前倒しを検討している、との報道もあり。その場合、今回と同様、まず関係閣僚等(特に鉱業に影響を強めているルフット海事投資調整大臣)の発言があると思われ、そのような報道が出たら軽視できないであろう。

この前倒しがニッケル市場にどのように響いてくるのか。政府の動向、中国の需要、フィリピンからの供給等も含めて、引き続き要注視。

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16付 録

インドネシア・製錬所等一覧<1>

(出典:報道資料、Indonesian Minerals Book 2019/2020、各社アニュアルレポート、ホームページよりJOGMECが作成)

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17付 録

インドネシア・製錬所等一覧<2>

(出典:報道資料、Indonesian Minerals Book 2019/2020、各社アニュアルレポート、ホームページよりJOGMECが作成)