ビートルズ 1...

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1 芽瑠璃堂マガジン『ROOT』 #001 ビートルズ カバー・アルバム 第1弾

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Page 1: ビートルズ 1 カバー・アルバム今から遡ることおよそ半世紀前、1962年10月にレ コード・デビューを果たしたザ・ビートルズ。後に世界中

 今から遡ることおよそ半世紀前、1962年10月にレコード・デビューを果たしたザ・ビートルズ。後に世界中のありとあらゆる人から最高の評価を得ていることは今さら声を大にして語るまでもないでしょう。彼らの曲をカバーした作品は古今東西、それこそジャンルを問わず数知れずありますが、「ザ・ビートルズのカバー・アルバム」と聞いた時、あなたはまず何を思い浮かべるでしょうか。それは、あなたが今日まで聞いてきた音楽遍歴によると思うし、もしかしたらその様なことを特別に意識して聞いてこなかったかもしれません。それ(ザ・ビートルズのカバー・アルバム)を音楽収集の中心に置き、自分の中でプライオリティを上位に設定している人達にとっては何を今さらと思うリストかもしれないけれど、ここはひとつおさらいだと思って軽い気持ちで読んでくれたら嬉しいです。 今、軽い気持ちでと言いましたが、ここに選出した13タイトルは選者自身がどれも素晴らしい作品だと自負してリストアップしたものです。つまり内容はもちろんの事、ジャケットや選曲、録音された年代…。ジャンルに関してはそこまで幅広く選ぶことはできませんでしたが、納得のできるセレクションになったと思います。敢えて王道を外した作品もありますが、ここを入り口として、どれを選んでも外れの無いように心がけたつもりです。もちろん異論、反論、叱咤激励、大歓迎です。もっとも音楽の好みは個人の嗜好によって千差万別、まして相手が超大物ザ・ビートルズと来れば万人受けしないような作品は恐らく数えるほどでしょうし、元の楽曲がどれもこれも素晴らしいだけに一応は聴けてしまうというメリット/デメリットもあるでしょう。いずれにしてもこのリストの中からあなたのお気に入りの一枚を見つけ出して、末永く付き合っていけるような大切な一枚に出会えたとしたら、選者と

してこれ以上に嬉しい事はありません。なお、今回の13タイトルは第1弾の予定です。今後、第2号、第3号と続けていく予定なので、こちらも期待してお待ち頂ければと思います。

 チャールズ・リヴァー・ヴァレー・ボーイズは1959年にケンブリッジで結成されたブルーグラス・バンド。ビル・モンローをルーツに持つこの音楽は、現在まで根強いファンに支えられ徐々に広まっています。彼らは1962年に英国から『ブリンギン・イン・ザ・ジョージア・メール』でアルバム・デビュー。その後、自主制作盤を1,000枚限定で発売。この権利を買って『ブルーグラス・アンド・オールド・タイミー・ミュージック』として発売したのが、プレスティッジ・レーベルでした。その後、同じくプレスティッジから『ブルー・グラス・ゲット・トゥゲザー』を1962年に発売。全米のコーヒー・ハウスやフェスティバルなどで活躍をしていましたが、なかなか思う様に人気は上がらず、エレクトラのプロデューサー、ポール・ロスチャイルドにビートルズのブルーグラス・カバーを送ります。それが「夢の人」と「ワット・ゴーズ・オン」の二曲。そうして1966年に発売したのが本作『ビートル・カントリー』(Elektra / EKL4006)でした。数あるビートルズ・カバー・アルバムの中でも指折りの一作として、熱心なファンには古くから聴き継がれて来た作品として有名です。このカラフルなイラストによるジャケットの魅力もまた手元に持っていたくなる素晴らしさ。1966年という比較的早い時期にありながらも、基本的な部分ではオリジナルに忠実に、しかし無難にこなすような、つまらないアレンジでお茶を濁す事のない意欲的な作品となっています。

ギター、マンドリン、バンジョー、ベース、時にフィドルといったアコースティック楽器によるサウンドで次々に繰り広げられるビートルズ・ソングの数々はたまらない魅力に溢れています。一曲目の「夢の人 」のもの悲しいフィドルによるイントロから始まり、ブルーグラス・ビートへ展開する瞬間はいつ聞いてもワクワクします。また、「イエロー・サブマリン」でのSEを駆使して茶目っ気たっぷりにプレイされる様は本家にも負けない格別の楽しさがあります。

 カントリー・ミュージックを中心に、その神業的なギター・プレイでリスナーを楽しませてくれたギタリストの中のギタリスト、所謂ミュージシャンズ・ミュージシャンとしても沢山のプレイヤーからリスペクトされてきたギター・ヴァーチュオーゾ、チェット・アトキンス。本作『ピックス・オン・ザ・ビ ー ト ル ズ』(RCA Victor / LSM 3531 (mono) / LSP3531 (stereo)はビートルズのカバー・アルバムとして1966年という比較的早い時期に発売された傑作中の傑作。ジャケットのセンスもとても良い。ジョージ・ハリスンがチェットのギター・プレイに影響を受けたことは有名で、本作のオリジナル・ライナー・ノーツはジョージ自身がコメントを寄せています。また、演奏には後にエリア・コード615/ベアフット・ジェリーといったカントリー・ロック・バンドでハーモニカを担当する事になるチャーリー・マッコイが参加しており、彼のプレイはほとんどの曲で聞く事ができます。選曲に関しては時期的な事からも想像できる通り、初期の曲でまとめられており、その中でも「イエスタデイ」のカバーは秀逸。思わずギターをひっぱり出してコピーしたくなるような完璧なギター・プレイ。グレッチのギターから弾き出される艶があってス

ウィートでありながらもエッジの効いたトーンで奏でられるビートルズ・ソングの数々。ギターが歌っているという使い古された表現はまさにこの様なプレイの事を言うのでしょう。BGMとして聞き流すにはあまりにも勿体ない珠玉の一枚。惜しむらくは第2弾の録音をすることが出来ずに2001年6月30日に他界してしまった事だけでしょうか。特にビートルズ後期の楽曲をチェット・アトキンスのキチンと良い音で録音された演奏で聴きたかったと思うのは私だけではないでしょう。

 カウント・ベイシー・オーケストラのスウィング感は、他のどのバンドにもない魅力があります。それを体感するには何はともあれ、まずは、大音量で聴く事でしょうか。凄まじいほどに一丸となって突っ走り、まるで蒸気機関車さえも思い起こさせるようなサウンドとフォー・ビートを生かしたシンプルでありながらもグルーヴィー、かつホットなバンド・アンサンブルが目の前で展開されます。そして各人のソロ・パートの緻密に構築されたフレーズとその音色もそれに一役買っていることでしょう。本作『ベイシーズ・ビートル・バッグ』(Verve / V6-8659)は、1966年5月3日から5日にかけてロサンゼルスで録音されたものです。全曲に渡って編曲を担当しているのが、キューバのハバナ出身のチコ・オファレル。彼はクインシー・ジョーンズや、ニール・ヘフティらと共に、ベイシー・サウンドの特色を生かしたアレンジで、生前のベイシーからもその腕を高く評価していたと伝えられています。収録曲は全12曲。その全てが驚く程にジャズになっており、原曲の素晴らしさと相まってとてつもない幸福感を感じ取る事が出来ます。「イエスタデイ」でビル・ヘンダーソンがヴォーカルを務めている以外はすべてベイ

シー・オーケストラの独壇場。ビートルズ・カバー・アルバムの大傑作であり、恐らくすべてのビートルズ・カバー・アルバムを聞いたとしても5本の指に入るような金字塔と呼べる作品です。

 1976年の大ヒット作『ブリージン』で一般層にも広くその名前が知れ渡ったギタリスト/ヴォーカリスト、ジョージ・ベンソン。本作『ジ・アザー・サイド・オブ・アビー・ロード』(A&M (CTI) / SP-3028)は1969年9月に発売されたビートルズの『アビー・ロード』に収録された曲をジャジー &スムースにカバーした人気盤で、全曲が『アビー・ロード』収録作品。ジャケットはオリジナルをパロディにしていますが、ちょっと捻った感じになっており、おしゃれな雰囲気が漂います。驚くべきは録音された時期で、1969年10月から11月にかけて。ということは一ヶ月そこそこで本作を作り上げてしまったわけです。とてもそうとは思えないアレンジは流石CTI。プロデュースはもちろんクリード・テイラー。ハービー・ハンコック(p)やロン・カーター(b)、フレディ・ハバード(tp)なども参加して演奏に花を添えていますが、ジョージ・ベンソンのギター・プレイと、温かみのある渋いヴォーカルが何とも魅力的。収録曲はほとんどがメドレーで繋がれ、その組み合わせもまた面白いものがあります。中でも「ビコーズ / カム・トゥゲザー」でのファンキーなギター・プレイにはシビれること間違いなしでしょう。そして「サムシング / オクトパス・ガーデン / ジ・エンド」は曲の流れが本当に素晴らしいつなぎで、収録時間が約30分という短さもありアルバムを通して何度も繰り返し聴いてしまう様な作品です。

 現在のアメリカン・ロック・シーンを語るなら絶対に外す事のできないバンドであるPHISH。1983年からバンド活動を始め、結果的に2度の活動休止を経て、2011年現在まで活動を続けているベテランのバンドです。そんな彼らは毎年ハロウィーンの日に他のアーティストのアルバム作品をフル・カバーして披露するのが恒例行事となっています。本作『Live Phish Vol.13』(Elektra /Wea / 62806 (CD only))ではビートルズの『ホワイト・アルバム』をまるごとカバー。残念ながらアルバム最後の「グッド・ナイト」はカバーしていませんが、それでも普通のバンドならやりたくてもやらないか、出来ないのではないでしょうか。1994年10月31日にニューヨークのグレン・フォールズにあるグレン・フォールズ・シヴィック・センターで行われたショウを完全収録したもので、この日はもちろん3セット。「ホワイト・アルバム」をカバーしたのはセカンド・セット。エド・サリヴァンのイントロから「バック・イン・ザ・U.S.S.R.」に繋がる瞬間はいつだって鳥肌モノです!演奏技術だとか、ミスがあるだとかこの演奏を前にしたら無用の長物。そんな事を気にしていたら楽しめません。是非大音量で音に身を任せて、ステージ上の姿を想像して楽しんで欲しいと思っています。ちなみに他の年にはザ・フー『四重人格』(1995)、トーキング・ヘッズ『リメイン・イン・ライト』(1996)、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド『ローデッド』(1998)、ローリング・ストーンズ『メイン・ストリートのならず者』(2009)、リトル・フィート『ウェイティング・フォー・コロンバス』(2010)をカバーしています。気になったショウは是非チェックしてみる事をお勧めしたいと思います。

 日本では2002年6月8日に劇場公開された『アイ・アム・サム』。そのサントラ盤が本作(V2 Records / 27119 (CD only))全編に渡ってビートルズ・ソングを使用している事で、当時随分と話題になりました。知的障害を持つ父親と、幼い娘との純粋な愛を描いた感動作です。父親役は元マドンナの旦那であり『デッドマン・ウォーキング』や『ギター弾きの恋』でも知られるショーン・ペン。このサントラ盤に収録された楽曲はすべてがビートルズ・ソングなのですが、オリジナルの楽曲を使用してしまうと膨大な予算が生じてしまう為、カバー・バージョンという形を取ったということですが、そのお陰でこうした素晴らしいトリビュート盤とも解釈できるサントラが生まれた訳ですから結果オーライといったところでしょうか。ちなみのこのサントラは映画では使用されていないトラックも収録されています。このサントラは、是非映画をご覧になってから聴いてみることをお勧めしたいのですが、いかがでしょう。エイミー・マンによる「トゥ・オブ・アス」やシェリル・クロウの「マザー・ネイチャーズ・サン」、ブラック・クロウズの「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」など聴きごたえのあるカバーが目白押しです。映画を観てからこれらの曲を聞き返すと、その曲が流れたシーンがフラッシュバックされ、余韻に浸る事ができます。個人的に特に印象に残っているのは、ルーシーがサムに嘘を付いてバスに乗り、施設から逃げ出そうとする時に流れるベン・ハーパーによる「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」。そしてまだ映画をご覧になっていない方の為に詳しい描写は避けますが、サラ・マクラクランが歌う「ブラックバード」が流れている一連のシーンは心に残る感動的なシーンです。

 松岡計井子は、1959年に俳優座養成所を卒業し、民芸を経てジャズ・コーラス・グループであるスリー・バブルスのメンバーとして歌手デビュー。スリー・バブルスは三木鶏郎によるCMソング「ミツワ石鹸」を歌ったことで有名でしょうか。このスリー・バブルスのメンバーにはジャズ歌手のホキ徳田も在籍しており、このグループの実力は推して察するべき。ちなみにホキ徳田はあのアメリカ文学の文豪であり、当時46歳年上のヘンリー・ミラーと結婚したことでも有名で、現在もピアノを弾きながら元気に活動を続けているそうです。1970年代よりオリジナルの日本語歌詞によるビートルズのカバーを続けてきたことで有名な松岡計井子ですが、個人的にちょっとした驚きだったのは小さい頃から良く見ていた「ひょっこりひょうたん島」の登場人物、魔女リカの声を担当していたこと。知らないうちに彼女の声に触れていた訳ですね。本作『ビートルズをうたう~愛こそすべて』(東芝音楽工業 Express / EP-7785 / ETP-8169)のオリジナルは1972年に東芝より発売されました。モノクロのポートレイトに絶妙の位置にカラーでアーティスト名とタイトルが記載されたジャケットは、どことなく凄みを感じるジャケットです。本作は彼女のライフ・ワークとでも言えるビートルズを日本語でカバーした作品の第一集です。深みのある声と、抑揚のあるメロディラインにアレンジし、オリジナルのイメージを壊すことなく、松岡計井子の世界として表現されている素晴らしいシリーズとなっています。また、1989年にこれまでに発売されたレコードから厳選して収録したベスト盤CD『松岡計井子 ビートルズをうたう』(CT25-5458)がEMIより発売されました。このCDは全18曲入りでしたが、現在は残念ながら廃盤となってい

ます。これらの作品を聴くにはレコードを探すしか無いかと諦めている方がいたら朗報です!ご存知の方も多いと思いますが、なんとこの作品、iTunesストアで購入可能です(2011年9月現在)!できることならキチンとCDとしてオリジナル通りに(さらに欲を言えば紙ジャケで…)復刻して欲しいのですが、それまではコレで楽しむのもひとつの選択としてアリではないでしょうか。ちなみにこのベスト盤、「愛こそすべて」は未収録となっています…。

 1983年に『アイム・ヒップ - プリーズ・ドント・テル・マイ・ファーザー』でデビューした小粋なスウィング・ジャズ・ギタリスト、ジョン・ピザレリ。本作『ミーツ・ザ・ビートルズ』(RCA Records / BVCJ-37562 (CD only))は1998年にRCAから発売された作品。このジャケットは一見しただけでそれとわかる通り『ア・ハード・デイズ・ナイト』をパロディにしたもので、そこからはビートルズへの愛をひしひしと感じます。収録曲は、ビッグ・バンドをバックにゴージャス感たっぷりにカバーしたものもあれば、ピアノにレイ・ケネディ、ベースにマーティン・ピザレリを迎えたギター・トリオでの演奏や、そこに管楽器でのソロやサポートが入るものもあるなど、バラエティに富んでいます。どれもオリジナリティのあるアレンジが施され、ギター・プレイはもちろんのこと、ちょっと崩したメロディと、その飄々としたヴォーカルにも堪えられない魅力があります。中でも「夢の人 (アイヴ・ジャスト・シーン・ア・フェイス)」は一押しのトラック。元々カントリー /ブルーグラスっぽい曲調のこの曲を、小粋でスウィング感たっぷりのジャジーにアレンジ、それがぱっちりとハマっています。全編を通してワクワクしっぱなしの約45分間。

 超個性的なジャズ・ギタリスト、ビル・フリゼールが全曲ビートルズ・ソングを録音した2011年作品。「アクロス・ザ・ユニヴァース」から、ラストの「ギヴ・ピース・ア・チャンス」まで全16曲。ジャケットからもわかる通り、ビートルズはビートルズでも、ジョン・レノン作曲による曲をカバーしたものになっています。アルバム・タイトルはもちろんジョン・レノンの「ギヴ・ピース・ア・チャンス」の歌詞の一節から取られたもの。このアルバムは、iTunes配信限定で「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」、米Amazon配信限定で「ワーキング・クラス・ヒーロー」の録音もあります。ビートルズ時代の曲、ソロ時代の曲と、そのどれもがビル・フリゼールという強烈なフィルターを通し、全体的にオリジナルよりもグッとテンポを落とした事によって、ジョン・レノンが生み出したメロディ・ラインの美しさがより際立ち、たゆたう様な浮遊感のあるサウンドの上に艶やかなギター・トーンが乗ることによって、今まで聴いた事がなかったような新鮮かつ斬新なカバー・アルバムとなっています。そして、そこに良いアクセントを加えているのが昨今のビル・フリゼール作品には欠かせない女性ヴァイオリニストのジェニー・シェインマンです。マデリン・ペルーからノラ・ジョーンズ、アレサ・フランクリンに至るまで幅広い共演経歴を持っており、ソロ・アルバムも現在までに6枚ほど残しています。ジェニーの弾くヴァイオリンは、ここで実に周りの楽器と混ざり合い、その上しっかりと聴かせるところは聴かせる素晴らしいプレイを聴かせています。例えば「レヴォリューション」におけるサビ前の印象的なリフや、「イン・マイ・ライフ」のオリジナルでジョージ・マーティンが弾いたバロック風の有名なソロなどは個人的には新たな魅力を再

発見できたトラックです。 メンバーは、ビル・フリゼール以下、トニー・シェールのベースとケニー・ウォルセンのドラムスという鉄壁リズム隊に加えて、引く手数多のグレッグ・リーズによるスティール&アコースティック・ギターと、女性ヴァイオリニストのジェニー・シェインマン。彼らの安定感のある演奏がまた聞き手に余計なことを考えさせず、ただその音と音の絡みに身を任せているだけで十分に楽しむことができます。個人的にはこのアルバムを購入してから今日に至るまで未だ飽きることなく、聴き続けてきた愛聴盤となっており、それは今後も変わらないはずです。

 1978年に全米で公開されたビー・ジーズとピーター・フランプトンをメイン・キャストとしたミュージカル映画『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』。その サントラ盤 が 本 作(RSO Records / RS 2-4100)。プロデュースは本家ビートルズを手掛けていたジョージ・マーティンが担当しています。ビー・ジーズとピーター・フランプトンの他にもアース・ウィンド&ファイアー(EWF)、エアロスミス、ビリー・プレストン、アリス・クーパーといった名の知れたミュージシャンによるビートルズ・カバーが聞きどころでしょうか。その中でもシングル・カットされたエアロスミスの「カム・トゥゲザー」はビルボード・シングル・チャートで23位となり、ビリー・プレストンの「ゲット・バック」は同86位、EWFの「ガット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ」は同13位、R&Bチャートでは1位を獲得する大ヒット、ビー・ジーズのロビン・ギブによる「オー! ダーリン」は同15位となるヒットをそれぞれ記録しています。世間的にこの映画自体はB級という評価を甘んじて受けていますが、日本

語字幕付きのDVDにはなっておらず、まだ観た事の無い私としては是非とも観たいというのが正直な所。しかし、国内盤にならないのがその評価を物語っているのでしょうか。いずれにしてもこのサントラ盤は素晴らしいものなのでお勧めです。

 北海道札幌市出身の小山ルミは1952年に、アイルランド人の父と、日本人の母親の元に生まれました。中学生の頃にモデルの仕事を始め、「ビート・ポップス」などにカバー・ガールとして出演し、その日本人離れした美しい顔立ちとコケティッシュな魅力で、あっという間に若者世代のアイドルとなりました。その後、1968年に「はじめてのデート」で歌手デビュー、テイチクに移籍後「さすらいのギター」などがヒット。本作『ビートルズを歌う』(テイチク (UNION) / ULP-2016)は1973年にテイチクより発売されたもので、千家和也による訳詞と、馬飼野康二による編曲で、全曲がオリジナルの日本語詞により歌われています。聞き慣れたはずのビートルズ・ソングが新鮮な印象を伴ってスピーカーから流れ出します。一曲目は今も昔も日本人が大好きな永遠の「レット・イット・ビー」。一聴しただけで分かるその歌の巧さは、まさに特筆すべきもの。「イエスタデイ」や「ヘイ・ジュード」などのバラード曲とロック的な「抱きしめたい」、「プリーズ・プリーズ・ミー」などの曲がバランスよく配置され、途中で中だるみすることなく最後まで聞ける作品。一曲だけ収録されたジョージ・ハリスンの『オール・シングス・マスト・パス』からの「マイ・スウィート・ロード」もまったく違和感なく収まっています。アルバムを通して基本的なアレンジはビートルズのそれを踏襲しており、とても親しみやすく聞きやすい物となっています。

 「やさしく歌って」や「愛は面影の中に」の大ヒットで知られているソウル/ R&Bシンガー、ロバータ・フラック。デビュー作『ファースト・テイク』が発売されたのが1969年。その当時からジーン・マクダニエルズや、レナード・コーエン、イーワン・マッコールの曲を録音し、2ndアルバム『チャプター・トゥー』でもジミー・ウェッブや、ボブ・ディランのカバーを録音していたように、素晴らしいソングライターの曲を選び、それを自分の持ち歌として自然と消化できてしまう才能は、同時代の他のシンガーよりも頭ひとつ秀でていたと思います。そんなロバータですが、前作となる2003年の『ホリデイ』以来、約9年振りに発売された新作は、なんと全曲がビートルズの曲で占められたカバー・アルバムでした。もっとも、本当は2010年にリリース予定だったそうなのですが、なんとも信じがたいことにマスター・テープを入れたスーツケースをタクシーの中に置き忘れるという事件が起きてしまいます。その後そのテープは無事に戻って来るものの、2012年までお蔵入りとなっていました。先行で公開された「恋を抱きしめよう」で聴けるような、いわゆる最近の「R&B」という言葉が示すような洗練されたコンテンポラリーなサウンドに始めは少し驚かされたものの、何度も聴いていく内に、それが実に現在のロバータに似合うというか、不自然なところを感じさせないのが、これまで培ってきたロバータの魅力のひとつなのだと思います。収録曲は、「イン・マイ・ライフ」から「ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア」まで全12曲。国内盤には「君はいずこへ」「イエスタデイ」「ヒア・カムズ・ザ・サン」の3曲がボーナス・トラックとして追加収録されており、珍しい選曲としては『ハード・デイズ・ナイト』に収録されていた「恋する二人」、ジョージ・ハリスンが1970年に発売したLP3枚組の大傑作『オール・

シングス・マスト・パス』に収録されていた「イズント・イット・ア・ピティ」が挙げられるでしょうか。『アビー・ロード』に収録されていた「オー・ダーリン」も比較的珍しいかもしれません。そんな中で個人的に最も気に入っているトラックは、ラストのリフレインはないものの、アコースティック・ギターによるシンプルな音色のバッキングが心地良い「ヘイ・ジュード」です。

 井上宗孝とシャープファイブは、井上 宗孝 (dr)、三根 信 宏 (g)、古 屋 紀 (key)、秋 山 功 (b)、前 田 旭 (g)というその名の通りの5人組。デビューは1965年。シャープ・ホークスのバックバンドとして活躍していたメンバーが井上宗孝の提案により独立、結成。彼らはあのエレキ・ブームの火付け役であったフジテレビの「勝ち抜きエレキ合戦」にレギュラー出演し、寺内タケシとブルージーンズ同様、当時のエレキ・インスト・ブームの牽引役を務めました。特にリード・ギターの三根 信宏の人気は絶大であり、カリスマ的な存在感を示していたと現在まで伝えられているほど。インターネットの記事を見てみると、本作『ビートルズをかき鳴らせ』(キング / SKK243)は1966年7月1日に発売されたと記載してあります。ビートルズの来日公演が同年6月30日と7月1日、2日。つまりどんぴしゃで発売をぶつけてきたわけで、言い方を変えるなら来日記念盤といったところでしょうか。この『ビートルズをかき鳴らせ』は『ザ・サイドワインダー』と2in1の形でP-Vineより2001年にCD化 (PCD1384)され、その後もタイトルを『ロックン・ロールをかき鳴らせ』(KICS1413)として2008年にキングよりリイシューされています。全14曲入りの本作は日本のビートルズ・カバーアルバムの中でも指折りのトリビュート盤と言える作品ではないでしょうか。

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芽 瑠 璃 堂 マ ガ ジ ン 『 R O O T 』 # 0 0 1

ビートルズカバー・アルバム第1弾

第 号

Page 2: ビートルズ 1 カバー・アルバム今から遡ることおよそ半世紀前、1962年10月にレ コード・デビューを果たしたザ・ビートルズ。後に世界中

 今から遡ることおよそ半世紀前、1962年10月にレコード・デビューを果たしたザ・ビートルズ。後に世界中のありとあらゆる人から最高の評価を得ていることは今さら声を大にして語るまでもないでしょう。彼らの曲をカバーした作品は古今東西、それこそジャンルを問わず数知れずありますが、「ザ・ビートルズのカバー・アルバム」と聞いた時、あなたはまず何を思い浮かべるでしょうか。それは、あなたが今日まで聞いてきた音楽遍歴によると思うし、もしかしたらその様なことを特別に意識して聞いてこなかったかもしれません。それ(ザ・ビートルズのカバー・アルバム)を音楽収集の中心に置き、自分の中でプライオリティを上位に設定している人達にとっては何を今さらと思うリストかもしれないけれど、ここはひとつおさらいだと思って軽い気持ちで読んでくれたら嬉しいです。 今、軽い気持ちでと言いましたが、ここに選出した13タイトルは選者自身がどれも素晴らしい作品だと自負してリストアップしたものです。つまり内容はもちろんの事、ジャケットや選曲、録音された年代…。ジャンルに関してはそこまで幅広く選ぶことはできませんでしたが、納得のできるセレクションになったと思います。敢えて王道を外した作品もありますが、ここを入り口として、どれを選んでも外れの無いように心がけたつもりです。もちろん異論、反論、叱咤激励、大歓迎です。もっとも音楽の好みは個人の嗜好によって千差万別、まして相手が超大物ザ・ビートルズと来れば万人受けしないような作品は恐らく数えるほどでしょうし、元の楽曲がどれもこれも素晴らしいだけに一応は聴けてしまうというメリット/デメリットもあるでしょう。いずれにしてもこのリストの中からあなたのお気に入りの一枚を見つけ出して、末永く付き合っていけるような大切な一枚に出会えたとしたら、選者と

してこれ以上に嬉しい事はありません。なお、今回の13タイトルは第1弾の予定です。今後、第2号、第3号と続けていく予定なので、こちらも期待してお待ち頂ければと思います。

 チャールズ・リヴァー・ヴァレー・ボーイズは1959年にケンブリッジで結成されたブルーグラス・バンド。ビル・モンローをルーツに持つこの音楽は、現在まで根強いファンに支えられ徐々に広まっています。彼らは1962年に英国から『ブリンギン・イン・ザ・ジョージア・メール』でアルバム・デビュー。その後、自主制作盤を1,000枚限定で発売。この権利を買って『ブルーグラス・アンド・オールド・タイミー・ミュージック』として発売したのが、プレスティッジ・レーベルでした。その後、同じくプレスティッジから『ブルー・グラス・ゲット・トゥゲザー』を1962年に発売。全米のコーヒー・ハウスやフェスティバルなどで活躍をしていましたが、なかなか思う様に人気は上がらず、エレクトラのプロデューサー、ポール・ロスチャイルドにビートルズのブルーグラス・カバーを送ります。それが「夢の人」と「ワット・ゴーズ・オン」の二曲。そうして1966年に発売したのが本作『ビートル・カントリー』(Elektra / EKL4006)でした。数あるビートルズ・カバー・アルバムの中でも指折りの一作として、熱心なファンには古くから聴き継がれて来た作品として有名です。このカラフルなイラストによるジャケットの魅力もまた手元に持っていたくなる素晴らしさ。1966年という比較的早い時期にありながらも、基本的な部分ではオリジナルに忠実に、しかし無難にこなすような、つまらないアレンジでお茶を濁す事のない意欲的な作品となっています。

ギター、マンドリン、バンジョー、ベース、時にフィドルといったアコースティック楽器によるサウンドで次々に繰り広げられるビートルズ・ソングの数々はたまらない魅力に溢れています。一曲目の「夢の人 」のもの悲しいフィドルによるイントロから始まり、ブルーグラス・ビートへ展開する瞬間はいつ聞いてもワクワクします。また、「イエロー・サブマリン」でのSEを駆使して茶目っ気たっぷりにプレイされる様は本家にも負けない格別の楽しさがあります。

 カントリー・ミュージックを中心に、その神業的なギター・プレイでリスナーを楽しませてくれたギタリストの中のギタリスト、所謂ミュージシャンズ・ミュージシャンとしても沢山のプレイヤーからリスペクトされてきたギター・ヴァーチュオーゾ、チェット・アトキンス。本作『ピックス・オン・ザ・ビ ー ト ル ズ』(RCA Victor / LSM 3531 (mono) / LSP3531 (stereo)はビートルズのカバー・アルバムとして1966年という比較的早い時期に発売された傑作中の傑作。ジャケットのセンスもとても良い。ジョージ・ハリスンがチェットのギター・プレイに影響を受けたことは有名で、本作のオリジナル・ライナー・ノーツはジョージ自身がコメントを寄せています。また、演奏には後にエリア・コード615/ベアフット・ジェリーといったカントリー・ロック・バンドでハーモニカを担当する事になるチャーリー・マッコイが参加しており、彼のプレイはほとんどの曲で聞く事ができます。選曲に関しては時期的な事からも想像できる通り、初期の曲でまとめられており、その中でも「イエスタデイ」のカバーは秀逸。思わずギターをひっぱり出してコピーしたくなるような完璧なギター・プレイ。グレッチのギターから弾き出される艶があってス

ウィートでありながらもエッジの効いたトーンで奏でられるビートルズ・ソングの数々。ギターが歌っているという使い古された表現はまさにこの様なプレイの事を言うのでしょう。BGMとして聞き流すにはあまりにも勿体ない珠玉の一枚。惜しむらくは第2弾の録音をすることが出来ずに2001年6月30日に他界してしまった事だけでしょうか。特にビートルズ後期の楽曲をチェット・アトキンスのキチンと良い音で録音された演奏で聴きたかったと思うのは私だけではないでしょう。

 カウント・ベイシー・オーケストラのスウィング感は、他のどのバンドにもない魅力があります。それを体感するには何はともあれ、まずは、大音量で聴く事でしょうか。凄まじいほどに一丸となって突っ走り、まるで蒸気機関車さえも思い起こさせるようなサウンドとフォー・ビートを生かしたシンプルでありながらもグルーヴィー、かつホットなバンド・アンサンブルが目の前で展開されます。そして各人のソロ・パートの緻密に構築されたフレーズとその音色もそれに一役買っていることでしょう。本作『ベイシーズ・ビートル・バッグ』(Verve / V6-8659)は、1966年5月3日から5日にかけてロサンゼルスで録音されたものです。全曲に渡って編曲を担当しているのが、キューバのハバナ出身のチコ・オファレル。彼はクインシー・ジョーンズや、ニール・ヘフティらと共に、ベイシー・サウンドの特色を生かしたアレンジで、生前のベイシーからもその腕を高く評価していたと伝えられています。収録曲は全12曲。その全てが驚く程にジャズになっており、原曲の素晴らしさと相まってとてつもない幸福感を感じ取る事が出来ます。「イエスタデイ」でビル・ヘンダーソンがヴォーカルを務めている以外はすべてベイ

シー・オーケストラの独壇場。ビートルズ・カバー・アルバムの大傑作であり、恐らくすべてのビートルズ・カバー・アルバムを聞いたとしても5本の指に入るような金字塔と呼べる作品です。

 1976年の大ヒット作『ブリージン』で一般層にも広くその名前が知れ渡ったギタリスト/ヴォーカリスト、ジョージ・ベンソン。本作『ジ・アザー・サイド・オブ・アビー・ロード』(A&M (CTI) / SP-3028)は1969年9月に発売されたビートルズの『アビー・ロード』に収録された曲をジャジー &スムースにカバーした人気盤で、全曲が『アビー・ロード』収録作品。ジャケットはオリジナルをパロディにしていますが、ちょっと捻った感じになっており、おしゃれな雰囲気が漂います。驚くべきは録音された時期で、1969年10月から11月にかけて。ということは一ヶ月そこそこで本作を作り上げてしまったわけです。とてもそうとは思えないアレンジは流石CTI。プロデュースはもちろんクリード・テイラー。ハービー・ハンコック(p)やロン・カーター(b)、フレディ・ハバード(tp)なども参加して演奏に花を添えていますが、ジョージ・ベンソンのギター・プレイと、温かみのある渋いヴォーカルが何とも魅力的。収録曲はほとんどがメドレーで繋がれ、その組み合わせもまた面白いものがあります。中でも「ビコーズ / カム・トゥゲザー」でのファンキーなギター・プレイにはシビれること間違いなしでしょう。そして「サムシング / オクトパス・ガーデン / ジ・エンド」は曲の流れが本当に素晴らしいつなぎで、収録時間が約30分という短さもありアルバムを通して何度も繰り返し聴いてしまう様な作品です。

 現在のアメリカン・ロック・シーンを語るなら絶対に外す事のできないバンドであるPHISH。1983年からバンド活動を始め、結果的に2度の活動休止を経て、2011年現在まで活動を続けているベテランのバンドです。そんな彼らは毎年ハロウィーンの日に他のアーティストのアルバム作品をフル・カバーして披露するのが恒例行事となっています。本作『Live Phish Vol.13』(Elektra /Wea / 62806 (CD only))ではビートルズの『ホワイト・アルバム』をまるごとカバー。残念ながらアルバム最後の「グッド・ナイト」はカバーしていませんが、それでも普通のバンドならやりたくてもやらないか、出来ないのではないでしょうか。1994年10月31日にニューヨークのグレン・フォールズにあるグレン・フォールズ・シヴィック・センターで行われたショウを完全収録したもので、この日はもちろん3セット。「ホワイト・アルバム」をカバーしたのはセカンド・セット。エド・サリヴァンのイントロから「バック・イン・ザ・U.S.S.R.」に繋がる瞬間はいつだって鳥肌モノです!演奏技術だとか、ミスがあるだとかこの演奏を前にしたら無用の長物。そんな事を気にしていたら楽しめません。是非大音量で音に身を任せて、ステージ上の姿を想像して楽しんで欲しいと思っています。ちなみに他の年にはザ・フー『四重人格』(1995)、トーキング・ヘッズ『リメイン・イン・ライト』(1996)、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド『ローデッド』(1998)、ローリング・ストーンズ『メイン・ストリートのならず者』(2009)、リトル・フィート『ウェイティング・フォー・コロンバス』(2010)をカバーしています。気になったショウは是非チェックしてみる事をお勧めしたいと思います。

 日本では2002年6月8日に劇場公開された『アイ・アム・サム』。そのサントラ盤が本作(V2 Records / 27119 (CD only))全編に渡ってビートルズ・ソングを使用している事で、当時随分と話題になりました。知的障害を持つ父親と、幼い娘との純粋な愛を描いた感動作です。父親役は元マドンナの旦那であり『デッドマン・ウォーキング』や『ギター弾きの恋』でも知られるショーン・ペン。このサントラ盤に収録された楽曲はすべてがビートルズ・ソングなのですが、オリジナルの楽曲を使用してしまうと膨大な予算が生じてしまう為、カバー・バージョンという形を取ったということですが、そのお陰でこうした素晴らしいトリビュート盤とも解釈できるサントラが生まれた訳ですから結果オーライといったところでしょうか。ちなみのこのサントラは映画では使用されていないトラックも収録されています。このサントラは、是非映画をご覧になってから聴いてみることをお勧めしたいのですが、いかがでしょう。エイミー・マンによる「トゥ・オブ・アス」やシェリル・クロウの「マザー・ネイチャーズ・サン」、ブラック・クロウズの「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」など聴きごたえのあるカバーが目白押しです。映画を観てからこれらの曲を聞き返すと、その曲が流れたシーンがフラッシュバックされ、余韻に浸る事ができます。個人的に特に印象に残っているのは、ルーシーがサムに嘘を付いてバスに乗り、施設から逃げ出そうとする時に流れるベン・ハーパーによる「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」。そしてまだ映画をご覧になっていない方の為に詳しい描写は避けますが、サラ・マクラクランが歌う「ブラックバード」が流れている一連のシーンは心に残る感動的なシーンです。

 松岡計井子は、1959年に俳優座養成所を卒業し、民芸を経てジャズ・コーラス・グループであるスリー・バブルスのメンバーとして歌手デビュー。スリー・バブルスは三木鶏郎によるCMソング「ミツワ石鹸」を歌ったことで有名でしょうか。このスリー・バブルスのメンバーにはジャズ歌手のホキ徳田も在籍しており、このグループの実力は推して察するべき。ちなみにホキ徳田はあのアメリカ文学の文豪であり、当時46歳年上のヘンリー・ミラーと結婚したことでも有名で、現在もピアノを弾きながら元気に活動を続けているそうです。1970年代よりオリジナルの日本語歌詞によるビートルズのカバーを続けてきたことで有名な松岡計井子ですが、個人的にちょっとした驚きだったのは小さい頃から良く見ていた「ひょっこりひょうたん島」の登場人物、魔女リカの声を担当していたこと。知らないうちに彼女の声に触れていた訳ですね。本作『ビートルズをうたう~愛こそすべて』(東芝音楽工業 Express / EP-7785 / ETP-8169)のオリジナルは1972年に東芝より発売されました。モノクロのポートレイトに絶妙の位置にカラーでアーティスト名とタイトルが記載されたジャケットは、どことなく凄みを感じるジャケットです。本作は彼女のライフ・ワークとでも言えるビートルズを日本語でカバーした作品の第一集です。深みのある声と、抑揚のあるメロディラインにアレンジし、オリジナルのイメージを壊すことなく、松岡計井子の世界として表現されている素晴らしいシリーズとなっています。また、1989年にこれまでに発売されたレコードから厳選して収録したベスト盤CD『松岡計井子 ビートルズをうたう』(CT25-5458)がEMIより発売されました。このCDは全18曲入りでしたが、現在は残念ながら廃盤となってい

ます。これらの作品を聴くにはレコードを探すしか無いかと諦めている方がいたら朗報です!ご存知の方も多いと思いますが、なんとこの作品、iTunesストアで購入可能です(2011年9月現在)!できることならキチンとCDとしてオリジナル通りに(さらに欲を言えば紙ジャケで…)復刻して欲しいのですが、それまではコレで楽しむのもひとつの選択としてアリではないでしょうか。ちなみにこのベスト盤、「愛こそすべて」は未収録となっています…。

 1983年に『アイム・ヒップ - プリーズ・ドント・テル・マイ・ファーザー』でデビューした小粋なスウィング・ジャズ・ギタリスト、ジョン・ピザレリ。本作『ミーツ・ザ・ビートルズ』(RCA Records / BVCJ-37562 (CD only))は1998年にRCAから発売された作品。このジャケットは一見しただけでそれとわかる通り『ア・ハード・デイズ・ナイト』をパロディにしたもので、そこからはビートルズへの愛をひしひしと感じます。収録曲は、ビッグ・バンドをバックにゴージャス感たっぷりにカバーしたものもあれば、ピアノにレイ・ケネディ、ベースにマーティン・ピザレリを迎えたギター・トリオでの演奏や、そこに管楽器でのソロやサポートが入るものもあるなど、バラエティに富んでいます。どれもオリジナリティのあるアレンジが施され、ギター・プレイはもちろんのこと、ちょっと崩したメロディと、その飄々としたヴォーカルにも堪えられない魅力があります。中でも「夢の人 (アイヴ・ジャスト・シーン・ア・フェイス)」は一押しのトラック。元々カントリー /ブルーグラスっぽい曲調のこの曲を、小粋でスウィング感たっぷりのジャジーにアレンジ、それがぱっちりとハマっています。全編を通してワクワクしっぱなしの約45分間。

 超個性的なジャズ・ギタリスト、ビル・フリゼールが全曲ビートルズ・ソングを録音した2011年作品。「アクロス・ザ・ユニヴァース」から、ラストの「ギヴ・ピース・ア・チャンス」まで全16曲。ジャケットからもわかる通り、ビートルズはビートルズでも、ジョン・レノン作曲による曲をカバーしたものになっています。アルバム・タイトルはもちろんジョン・レノンの「ギヴ・ピース・ア・チャンス」の歌詞の一節から取られたもの。このアルバムは、iTunes配信限定で「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」、米Amazon配信限定で「ワーキング・クラス・ヒーロー」の録音もあります。ビートルズ時代の曲、ソロ時代の曲と、そのどれもがビル・フリゼールという強烈なフィルターを通し、全体的にオリジナルよりもグッとテンポを落とした事によって、ジョン・レノンが生み出したメロディ・ラインの美しさがより際立ち、たゆたう様な浮遊感のあるサウンドの上に艶やかなギター・トーンが乗ることによって、今まで聴いた事がなかったような新鮮かつ斬新なカバー・アルバムとなっています。そして、そこに良いアクセントを加えているのが昨今のビル・フリゼール作品には欠かせない女性ヴァイオリニストのジェニー・シェインマンです。マデリン・ペルーからノラ・ジョーンズ、アレサ・フランクリンに至るまで幅広い共演経歴を持っており、ソロ・アルバムも現在までに6枚ほど残しています。ジェニーの弾くヴァイオリンは、ここで実に周りの楽器と混ざり合い、その上しっかりと聴かせるところは聴かせる素晴らしいプレイを聴かせています。例えば「レヴォリューション」におけるサビ前の印象的なリフや、「イン・マイ・ライフ」のオリジナルでジョージ・マーティンが弾いたバロック風の有名なソロなどは個人的には新たな魅力を再

発見できたトラックです。 メンバーは、ビル・フリゼール以下、トニー・シェールのベースとケニー・ウォルセンのドラムスという鉄壁リズム隊に加えて、引く手数多のグレッグ・リーズによるスティール&アコースティック・ギターと、女性ヴァイオリニストのジェニー・シェインマン。彼らの安定感のある演奏がまた聞き手に余計なことを考えさせず、ただその音と音の絡みに身を任せているだけで十分に楽しむことができます。個人的にはこのアルバムを購入してから今日に至るまで未だ飽きることなく、聴き続けてきた愛聴盤となっており、それは今後も変わらないはずです。

 1978年に全米で公開されたビー・ジーズとピーター・フランプトンをメイン・キャストとしたミュージカル映画『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』。その サントラ盤 が 本 作(RSO Records / RS 2-4100)。プロデュースは本家ビートルズを手掛けていたジョージ・マーティンが担当しています。ビー・ジーズとピーター・フランプトンの他にもアース・ウィンド&ファイアー(EWF)、エアロスミス、ビリー・プレストン、アリス・クーパーといった名の知れたミュージシャンによるビートルズ・カバーが聞きどころでしょうか。その中でもシングル・カットされたエアロスミスの「カム・トゥゲザー」はビルボード・シングル・チャートで23位となり、ビリー・プレストンの「ゲット・バック」は同86位、EWFの「ガット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ」は同13位、R&Bチャートでは1位を獲得する大ヒット、ビー・ジーズのロビン・ギブによる「オー! ダーリン」は同15位となるヒットをそれぞれ記録しています。世間的にこの映画自体はB級という評価を甘んじて受けていますが、日本

語字幕付きのDVDにはなっておらず、まだ観た事の無い私としては是非とも観たいというのが正直な所。しかし、国内盤にならないのがその評価を物語っているのでしょうか。いずれにしてもこのサントラ盤は素晴らしいものなのでお勧めです。

 北海道札幌市出身の小山ルミは1952年に、アイルランド人の父と、日本人の母親の元に生まれました。中学生の頃にモデルの仕事を始め、「ビート・ポップス」などにカバー・ガールとして出演し、その日本人離れした美しい顔立ちとコケティッシュな魅力で、あっという間に若者世代のアイドルとなりました。その後、1968年に「はじめてのデート」で歌手デビュー、テイチクに移籍後「さすらいのギター」などがヒット。本作『ビートルズを歌う』(テイチク (UNION) / ULP-2016)は1973年にテイチクより発売されたもので、千家和也による訳詞と、馬飼野康二による編曲で、全曲がオリジナルの日本語詞により歌われています。聞き慣れたはずのビートルズ・ソングが新鮮な印象を伴ってスピーカーから流れ出します。一曲目は今も昔も日本人が大好きな永遠の「レット・イット・ビー」。一聴しただけで分かるその歌の巧さは、まさに特筆すべきもの。「イエスタデイ」や「ヘイ・ジュード」などのバラード曲とロック的な「抱きしめたい」、「プリーズ・プリーズ・ミー」などの曲がバランスよく配置され、途中で中だるみすることなく最後まで聞ける作品。一曲だけ収録されたジョージ・ハリスンの『オール・シングス・マスト・パス』からの「マイ・スウィート・ロード」もまったく違和感なく収まっています。アルバムを通して基本的なアレンジはビートルズのそれを踏襲しており、とても親しみやすく聞きやすい物となっています。

 「やさしく歌って」や「愛は面影の中に」の大ヒットで知られているソウル/ R&Bシンガー、ロバータ・フラック。デビュー作『ファースト・テイク』が発売されたのが1969年。その当時からジーン・マクダニエルズや、レナード・コーエン、イーワン・マッコールの曲を録音し、2ndアルバム『チャプター・トゥー』でもジミー・ウェッブや、ボブ・ディランのカバーを録音していたように、素晴らしいソングライターの曲を選び、それを自分の持ち歌として自然と消化できてしまう才能は、同時代の他のシンガーよりも頭ひとつ秀でていたと思います。そんなロバータですが、前作となる2003年の『ホリデイ』以来、約9年振りに発売された新作は、なんと全曲がビートルズの曲で占められたカバー・アルバムでした。もっとも、本当は2010年にリリース予定だったそうなのですが、なんとも信じがたいことにマスター・テープを入れたスーツケースをタクシーの中に置き忘れるという事件が起きてしまいます。その後そのテープは無事に戻って来るものの、2012年までお蔵入りとなっていました。先行で公開された「恋を抱きしめよう」で聴けるような、いわゆる最近の「R&B」という言葉が示すような洗練されたコンテンポラリーなサウンドに始めは少し驚かされたものの、何度も聴いていく内に、それが実に現在のロバータに似合うというか、不自然なところを感じさせないのが、これまで培ってきたロバータの魅力のひとつなのだと思います。収録曲は、「イン・マイ・ライフ」から「ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア」まで全12曲。国内盤には「君はいずこへ」「イエスタデイ」「ヒア・カムズ・ザ・サン」の3曲がボーナス・トラックとして追加収録されており、珍しい選曲としては『ハード・デイズ・ナイト』に収録されていた「恋する二人」、ジョージ・ハリスンが1970年に発売したLP3枚組の大傑作『オール・

シングス・マスト・パス』に収録されていた「イズント・イット・ア・ピティ」が挙げられるでしょうか。『アビー・ロード』に収録されていた「オー・ダーリン」も比較的珍しいかもしれません。そんな中で個人的に最も気に入っているトラックは、ラストのリフレインはないものの、アコースティック・ギターによるシンプルな音色のバッキングが心地良い「ヘイ・ジュード」です。

 井上宗孝とシャープファイブは、井上 宗孝 (dr)、三根 信 宏 (g)、古 屋 紀 (key)、秋 山 功 (b)、前 田 旭 (g)というその名の通りの5人組。デビューは1965年。シャープ・ホークスのバックバンドとして活躍していたメンバーが井上宗孝の提案により独立、結成。彼らはあのエレキ・ブームの火付け役であったフジテレビの「勝ち抜きエレキ合戦」にレギュラー出演し、寺内タケシとブルージーンズ同様、当時のエレキ・インスト・ブームの牽引役を務めました。特にリード・ギターの三根 信宏の人気は絶大であり、カリスマ的な存在感を示していたと現在まで伝えられているほど。インターネットの記事を見てみると、本作『ビートルズをかき鳴らせ』(キング / SKK243)は1966年7月1日に発売されたと記載してあります。ビートルズの来日公演が同年6月30日と7月1日、2日。つまりどんぴしゃで発売をぶつけてきたわけで、言い方を変えるなら来日記念盤といったところでしょうか。この『ビートルズをかき鳴らせ』は『ザ・サイドワインダー』と2in1の形でP-Vineより2001年にCD化 (PCD1384)され、その後もタイトルを『ロックン・ロールをかき鳴らせ』(KICS1413)として2008年にキングよりリイシューされています。全14曲入りの本作は日本のビートルズ・カバーアルバムの中でも指折りのトリビュート盤と言える作品ではないでしょうか。

ビートルズの楽曲を本格的なブルーグラス・アレンジで!

Cover Albums

ビートルズ・カバー・アルバム特集

文=葉月賢治

Page 3: ビートルズ 1 カバー・アルバム今から遡ることおよそ半世紀前、1962年10月にレ コード・デビューを果たしたザ・ビートルズ。後に世界中

 今から遡ることおよそ半世紀前、1962年10月にレコード・デビューを果たしたザ・ビートルズ。後に世界中のありとあらゆる人から最高の評価を得ていることは今さら声を大にして語るまでもないでしょう。彼らの曲をカバーした作品は古今東西、それこそジャンルを問わず数知れずありますが、「ザ・ビートルズのカバー・アルバム」と聞いた時、あなたはまず何を思い浮かべるでしょうか。それは、あなたが今日まで聞いてきた音楽遍歴によると思うし、もしかしたらその様なことを特別に意識して聞いてこなかったかもしれません。それ(ザ・ビートルズのカバー・アルバム)を音楽収集の中心に置き、自分の中でプライオリティを上位に設定している人達にとっては何を今さらと思うリストかもしれないけれど、ここはひとつおさらいだと思って軽い気持ちで読んでくれたら嬉しいです。 今、軽い気持ちでと言いましたが、ここに選出した13タイトルは選者自身がどれも素晴らしい作品だと自負してリストアップしたものです。つまり内容はもちろんの事、ジャケットや選曲、録音された年代…。ジャンルに関してはそこまで幅広く選ぶことはできませんでしたが、納得のできるセレクションになったと思います。敢えて王道を外した作品もありますが、ここを入り口として、どれを選んでも外れの無いように心がけたつもりです。もちろん異論、反論、叱咤激励、大歓迎です。もっとも音楽の好みは個人の嗜好によって千差万別、まして相手が超大物ザ・ビートルズと来れば万人受けしないような作品は恐らく数えるほどでしょうし、元の楽曲がどれもこれも素晴らしいだけに一応は聴けてしまうというメリット/デメリットもあるでしょう。いずれにしてもこのリストの中からあなたのお気に入りの一枚を見つけ出して、末永く付き合っていけるような大切な一枚に出会えたとしたら、選者と

してこれ以上に嬉しい事はありません。なお、今回の13タイトルは第1弾の予定です。今後、第2号、第3号と続けていく予定なので、こちらも期待してお待ち頂ければと思います。

 チャールズ・リヴァー・ヴァレー・ボーイズは1959年にケンブリッジで結成されたブルーグラス・バンド。ビル・モンローをルーツに持つこの音楽は、現在まで根強いファンに支えられ徐々に広まっています。彼らは1962年に英国から『ブリンギン・イン・ザ・ジョージア・メール』でアルバム・デビュー。その後、自主制作盤を1,000枚限定で発売。この権利を買って『ブルーグラス・アンド・オールド・タイミー・ミュージック』として発売したのが、プレスティッジ・レーベルでした。その後、同じくプレスティッジから『ブルー・グラス・ゲット・トゥゲザー』を1962年に発売。全米のコーヒー・ハウスやフェスティバルなどで活躍をしていましたが、なかなか思う様に人気は上がらず、エレクトラのプロデューサー、ポール・ロスチャイルドにビートルズのブルーグラス・カバーを送ります。それが「夢の人」と「ワット・ゴーズ・オン」の二曲。そうして1966年に発売したのが本作『ビートル・カントリー』(Elektra / EKL4006)でした。数あるビートルズ・カバー・アルバムの中でも指折りの一作として、熱心なファンには古くから聴き継がれて来た作品として有名です。このカラフルなイラストによるジャケットの魅力もまた手元に持っていたくなる素晴らしさ。1966年という比較的早い時期にありながらも、基本的な部分ではオリジナルに忠実に、しかし無難にこなすような、つまらないアレンジでお茶を濁す事のない意欲的な作品となっています。

ギター、マンドリン、バンジョー、ベース、時にフィドルといったアコースティック楽器によるサウンドで次々に繰り広げられるビートルズ・ソングの数々はたまらない魅力に溢れています。一曲目の「夢の人 」のもの悲しいフィドルによるイントロから始まり、ブルーグラス・ビートへ展開する瞬間はいつ聞いてもワクワクします。また、「イエロー・サブマリン」でのSEを駆使して茶目っ気たっぷりにプレイされる様は本家にも負けない格別の楽しさがあります。

 カントリー・ミュージックを中心に、その神業的なギター・プレイでリスナーを楽しませてくれたギタリストの中のギタリスト、所謂ミュージシャンズ・ミュージシャンとしても沢山のプレイヤーからリスペクトされてきたギター・ヴァーチュオーゾ、チェット・アトキンス。本作『ピックス・オン・ザ・ビ ー ト ル ズ』(RCA Victor / LSM 3531 (mono) / LSP3531 (stereo)はビートルズのカバー・アルバムとして1966年という比較的早い時期に発売された傑作中の傑作。ジャケットのセンスもとても良い。ジョージ・ハリスンがチェットのギター・プレイに影響を受けたことは有名で、本作のオリジナル・ライナー・ノーツはジョージ自身がコメントを寄せています。また、演奏には後にエリア・コード615/ベアフット・ジェリーといったカントリー・ロック・バンドでハーモニカを担当する事になるチャーリー・マッコイが参加しており、彼のプレイはほとんどの曲で聞く事ができます。選曲に関しては時期的な事からも想像できる通り、初期の曲でまとめられており、その中でも「イエスタデイ」のカバーは秀逸。思わずギターをひっぱり出してコピーしたくなるような完璧なギター・プレイ。グレッチのギターから弾き出される艶があってス

ウィートでありながらもエッジの効いたトーンで奏でられるビートルズ・ソングの数々。ギターが歌っているという使い古された表現はまさにこの様なプレイの事を言うのでしょう。BGMとして聞き流すにはあまりにも勿体ない珠玉の一枚。惜しむらくは第2弾の録音をすることが出来ずに2001年6月30日に他界してしまった事だけでしょうか。特にビートルズ後期の楽曲をチェット・アトキンスのキチンと良い音で録音された演奏で聴きたかったと思うのは私だけではないでしょう。

 カウント・ベイシー・オーケストラのスウィング感は、他のどのバンドにもない魅力があります。それを体感するには何はともあれ、まずは、大音量で聴く事でしょうか。凄まじいほどに一丸となって突っ走り、まるで蒸気機関車さえも思い起こさせるようなサウンドとフォー・ビートを生かしたシンプルでありながらもグルーヴィー、かつホットなバンド・アンサンブルが目の前で展開されます。そして各人のソロ・パートの緻密に構築されたフレーズとその音色もそれに一役買っていることでしょう。本作『ベイシーズ・ビートル・バッグ』(Verve / V6-8659)は、1966年5月3日から5日にかけてロサンゼルスで録音されたものです。全曲に渡って編曲を担当しているのが、キューバのハバナ出身のチコ・オファレル。彼はクインシー・ジョーンズや、ニール・ヘフティらと共に、ベイシー・サウンドの特色を生かしたアレンジで、生前のベイシーからもその腕を高く評価していたと伝えられています。収録曲は全12曲。その全てが驚く程にジャズになっており、原曲の素晴らしさと相まってとてつもない幸福感を感じ取る事が出来ます。「イエスタデイ」でビル・ヘンダーソンがヴォーカルを務めている以外はすべてベイ

シー・オーケストラの独壇場。ビートルズ・カバー・アルバムの大傑作であり、恐らくすべてのビートルズ・カバー・アルバムを聞いたとしても5本の指に入るような金字塔と呼べる作品です。

 1976年の大ヒット作『ブリージン』で一般層にも広くその名前が知れ渡ったギタリスト/ヴォーカリスト、ジョージ・ベンソン。本作『ジ・アザー・サイド・オブ・アビー・ロード』(A&M (CTI) / SP-3028)は1969年9月に発売されたビートルズの『アビー・ロード』に収録された曲をジャジー &スムースにカバーした人気盤で、全曲が『アビー・ロード』収録作品。ジャケットはオリジナルをパロディにしていますが、ちょっと捻った感じになっており、おしゃれな雰囲気が漂います。驚くべきは録音された時期で、1969年10月から11月にかけて。ということは一ヶ月そこそこで本作を作り上げてしまったわけです。とてもそうとは思えないアレンジは流石CTI。プロデュースはもちろんクリード・テイラー。ハービー・ハンコック(p)やロン・カーター(b)、フレディ・ハバード(tp)なども参加して演奏に花を添えていますが、ジョージ・ベンソンのギター・プレイと、温かみのある渋いヴォーカルが何とも魅力的。収録曲はほとんどがメドレーで繋がれ、その組み合わせもまた面白いものがあります。中でも「ビコーズ / カム・トゥゲザー」でのファンキーなギター・プレイにはシビれること間違いなしでしょう。そして「サムシング / オクトパス・ガーデン / ジ・エンド」は曲の流れが本当に素晴らしいつなぎで、収録時間が約30分という短さもありアルバムを通して何度も繰り返し聴いてしまう様な作品です。

 現在のアメリカン・ロック・シーンを語るなら絶対に外す事のできないバンドであるPHISH。1983年からバンド活動を始め、結果的に2度の活動休止を経て、2011年現在まで活動を続けているベテランのバンドです。そんな彼らは毎年ハロウィーンの日に他のアーティストのアルバム作品をフル・カバーして披露するのが恒例行事となっています。本作『Live Phish Vol.13』(Elektra /Wea / 62806 (CD only))ではビートルズの『ホワイト・アルバム』をまるごとカバー。残念ながらアルバム最後の「グッド・ナイト」はカバーしていませんが、それでも普通のバンドならやりたくてもやらないか、出来ないのではないでしょうか。1994年10月31日にニューヨークのグレン・フォールズにあるグレン・フォールズ・シヴィック・センターで行われたショウを完全収録したもので、この日はもちろん3セット。「ホワイト・アルバム」をカバーしたのはセカンド・セット。エド・サリヴァンのイントロから「バック・イン・ザ・U.S.S.R.」に繋がる瞬間はいつだって鳥肌モノです!演奏技術だとか、ミスがあるだとかこの演奏を前にしたら無用の長物。そんな事を気にしていたら楽しめません。是非大音量で音に身を任せて、ステージ上の姿を想像して楽しんで欲しいと思っています。ちなみに他の年にはザ・フー『四重人格』(1995)、トーキング・ヘッズ『リメイン・イン・ライト』(1996)、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド『ローデッド』(1998)、ローリング・ストーンズ『メイン・ストリートのならず者』(2009)、リトル・フィート『ウェイティング・フォー・コロンバス』(2010)をカバーしています。気になったショウは是非チェックしてみる事をお勧めしたいと思います。

 日本では2002年6月8日に劇場公開された『アイ・アム・サム』。そのサントラ盤が本作(V2 Records / 27119 (CD only))全編に渡ってビートルズ・ソングを使用している事で、当時随分と話題になりました。知的障害を持つ父親と、幼い娘との純粋な愛を描いた感動作です。父親役は元マドンナの旦那であり『デッドマン・ウォーキング』や『ギター弾きの恋』でも知られるショーン・ペン。このサントラ盤に収録された楽曲はすべてがビートルズ・ソングなのですが、オリジナルの楽曲を使用してしまうと膨大な予算が生じてしまう為、カバー・バージョンという形を取ったということですが、そのお陰でこうした素晴らしいトリビュート盤とも解釈できるサントラが生まれた訳ですから結果オーライといったところでしょうか。ちなみのこのサントラは映画では使用されていないトラックも収録されています。このサントラは、是非映画をご覧になってから聴いてみることをお勧めしたいのですが、いかがでしょう。エイミー・マンによる「トゥ・オブ・アス」やシェリル・クロウの「マザー・ネイチャーズ・サン」、ブラック・クロウズの「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」など聴きごたえのあるカバーが目白押しです。映画を観てからこれらの曲を聞き返すと、その曲が流れたシーンがフラッシュバックされ、余韻に浸る事ができます。個人的に特に印象に残っているのは、ルーシーがサムに嘘を付いてバスに乗り、施設から逃げ出そうとする時に流れるベン・ハーパーによる「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」。そしてまだ映画をご覧になっていない方の為に詳しい描写は避けますが、サラ・マクラクランが歌う「ブラックバード」が流れている一連のシーンは心に残る感動的なシーンです。

 松岡計井子は、1959年に俳優座養成所を卒業し、民芸を経てジャズ・コーラス・グループであるスリー・バブルスのメンバーとして歌手デビュー。スリー・バブルスは三木鶏郎によるCMソング「ミツワ石鹸」を歌ったことで有名でしょうか。このスリー・バブルスのメンバーにはジャズ歌手のホキ徳田も在籍しており、このグループの実力は推して察するべき。ちなみにホキ徳田はあのアメリカ文学の文豪であり、当時46歳年上のヘンリー・ミラーと結婚したことでも有名で、現在もピアノを弾きながら元気に活動を続けているそうです。1970年代よりオリジナルの日本語歌詞によるビートルズのカバーを続けてきたことで有名な松岡計井子ですが、個人的にちょっとした驚きだったのは小さい頃から良く見ていた「ひょっこりひょうたん島」の登場人物、魔女リカの声を担当していたこと。知らないうちに彼女の声に触れていた訳ですね。本作『ビートルズをうたう~愛こそすべて』(東芝音楽工業 Express / EP-7785 / ETP-8169)のオリジナルは1972年に東芝より発売されました。モノクロのポートレイトに絶妙の位置にカラーでアーティスト名とタイトルが記載されたジャケットは、どことなく凄みを感じるジャケットです。本作は彼女のライフ・ワークとでも言えるビートルズを日本語でカバーした作品の第一集です。深みのある声と、抑揚のあるメロディラインにアレンジし、オリジナルのイメージを壊すことなく、松岡計井子の世界として表現されている素晴らしいシリーズとなっています。また、1989年にこれまでに発売されたレコードから厳選して収録したベスト盤CD『松岡計井子 ビートルズをうたう』(CT25-5458)がEMIより発売されました。このCDは全18曲入りでしたが、現在は残念ながら廃盤となってい

ます。これらの作品を聴くにはレコードを探すしか無いかと諦めている方がいたら朗報です!ご存知の方も多いと思いますが、なんとこの作品、iTunesストアで購入可能です(2011年9月現在)!できることならキチンとCDとしてオリジナル通りに(さらに欲を言えば紙ジャケで…)復刻して欲しいのですが、それまではコレで楽しむのもひとつの選択としてアリではないでしょうか。ちなみにこのベスト盤、「愛こそすべて」は未収録となっています…。

 1983年に『アイム・ヒップ - プリーズ・ドント・テル・マイ・ファーザー』でデビューした小粋なスウィング・ジャズ・ギタリスト、ジョン・ピザレリ。本作『ミーツ・ザ・ビートルズ』(RCA Records / BVCJ-37562 (CD only))は1998年にRCAから発売された作品。このジャケットは一見しただけでそれとわかる通り『ア・ハード・デイズ・ナイト』をパロディにしたもので、そこからはビートルズへの愛をひしひしと感じます。収録曲は、ビッグ・バンドをバックにゴージャス感たっぷりにカバーしたものもあれば、ピアノにレイ・ケネディ、ベースにマーティン・ピザレリを迎えたギター・トリオでの演奏や、そこに管楽器でのソロやサポートが入るものもあるなど、バラエティに富んでいます。どれもオリジナリティのあるアレンジが施され、ギター・プレイはもちろんのこと、ちょっと崩したメロディと、その飄々としたヴォーカルにも堪えられない魅力があります。中でも「夢の人 (アイヴ・ジャスト・シーン・ア・フェイス)」は一押しのトラック。元々カントリー /ブルーグラスっぽい曲調のこの曲を、小粋でスウィング感たっぷりのジャジーにアレンジ、それがぱっちりとハマっています。全編を通してワクワクしっぱなしの約45分間。

 超個性的なジャズ・ギタリスト、ビル・フリゼールが全曲ビートルズ・ソングを録音した2011年作品。「アクロス・ザ・ユニヴァース」から、ラストの「ギヴ・ピース・ア・チャンス」まで全16曲。ジャケットからもわかる通り、ビートルズはビートルズでも、ジョン・レノン作曲による曲をカバーしたものになっています。アルバム・タイトルはもちろんジョン・レノンの「ギヴ・ピース・ア・チャンス」の歌詞の一節から取られたもの。このアルバムは、iTunes配信限定で「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」、米Amazon配信限定で「ワーキング・クラス・ヒーロー」の録音もあります。ビートルズ時代の曲、ソロ時代の曲と、そのどれもがビル・フリゼールという強烈なフィルターを通し、全体的にオリジナルよりもグッとテンポを落とした事によって、ジョン・レノンが生み出したメロディ・ラインの美しさがより際立ち、たゆたう様な浮遊感のあるサウンドの上に艶やかなギター・トーンが乗ることによって、今まで聴いた事がなかったような新鮮かつ斬新なカバー・アルバムとなっています。そして、そこに良いアクセントを加えているのが昨今のビル・フリゼール作品には欠かせない女性ヴァイオリニストのジェニー・シェインマンです。マデリン・ペルーからノラ・ジョーンズ、アレサ・フランクリンに至るまで幅広い共演経歴を持っており、ソロ・アルバムも現在までに6枚ほど残しています。ジェニーの弾くヴァイオリンは、ここで実に周りの楽器と混ざり合い、その上しっかりと聴かせるところは聴かせる素晴らしいプレイを聴かせています。例えば「レヴォリューション」におけるサビ前の印象的なリフや、「イン・マイ・ライフ」のオリジナルでジョージ・マーティンが弾いたバロック風の有名なソロなどは個人的には新たな魅力を再

発見できたトラックです。 メンバーは、ビル・フリゼール以下、トニー・シェールのベースとケニー・ウォルセンのドラムスという鉄壁リズム隊に加えて、引く手数多のグレッグ・リーズによるスティール&アコースティック・ギターと、女性ヴァイオリニストのジェニー・シェインマン。彼らの安定感のある演奏がまた聞き手に余計なことを考えさせず、ただその音と音の絡みに身を任せているだけで十分に楽しむことができます。個人的にはこのアルバムを購入してから今日に至るまで未だ飽きることなく、聴き続けてきた愛聴盤となっており、それは今後も変わらないはずです。

 1978年に全米で公開されたビー・ジーズとピーター・フランプトンをメイン・キャストとしたミュージカル映画『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』。その サントラ盤 が 本 作(RSO Records / RS 2-4100)。プロデュースは本家ビートルズを手掛けていたジョージ・マーティンが担当しています。ビー・ジーズとピーター・フランプトンの他にもアース・ウィンド&ファイアー(EWF)、エアロスミス、ビリー・プレストン、アリス・クーパーといった名の知れたミュージシャンによるビートルズ・カバーが聞きどころでしょうか。その中でもシングル・カットされたエアロスミスの「カム・トゥゲザー」はビルボード・シングル・チャートで23位となり、ビリー・プレストンの「ゲット・バック」は同86位、EWFの「ガット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ」は同13位、R&Bチャートでは1位を獲得する大ヒット、ビー・ジーズのロビン・ギブによる「オー! ダーリン」は同15位となるヒットをそれぞれ記録しています。世間的にこの映画自体はB級という評価を甘んじて受けていますが、日本

語字幕付きのDVDにはなっておらず、まだ観た事の無い私としては是非とも観たいというのが正直な所。しかし、国内盤にならないのがその評価を物語っているのでしょうか。いずれにしてもこのサントラ盤は素晴らしいものなのでお勧めです。

 北海道札幌市出身の小山ルミは1952年に、アイルランド人の父と、日本人の母親の元に生まれました。中学生の頃にモデルの仕事を始め、「ビート・ポップス」などにカバー・ガールとして出演し、その日本人離れした美しい顔立ちとコケティッシュな魅力で、あっという間に若者世代のアイドルとなりました。その後、1968年に「はじめてのデート」で歌手デビュー、テイチクに移籍後「さすらいのギター」などがヒット。本作『ビートルズを歌う』(テイチク (UNION) / ULP-2016)は1973年にテイチクより発売されたもので、千家和也による訳詞と、馬飼野康二による編曲で、全曲がオリジナルの日本語詞により歌われています。聞き慣れたはずのビートルズ・ソングが新鮮な印象を伴ってスピーカーから流れ出します。一曲目は今も昔も日本人が大好きな永遠の「レット・イット・ビー」。一聴しただけで分かるその歌の巧さは、まさに特筆すべきもの。「イエスタデイ」や「ヘイ・ジュード」などのバラード曲とロック的な「抱きしめたい」、「プリーズ・プリーズ・ミー」などの曲がバランスよく配置され、途中で中だるみすることなく最後まで聞ける作品。一曲だけ収録されたジョージ・ハリスンの『オール・シングス・マスト・パス』からの「マイ・スウィート・ロード」もまったく違和感なく収まっています。アルバムを通して基本的なアレンジはビートルズのそれを踏襲しており、とても親しみやすく聞きやすい物となっています。

 「やさしく歌って」や「愛は面影の中に」の大ヒットで知られているソウル/ R&Bシンガー、ロバータ・フラック。デビュー作『ファースト・テイク』が発売されたのが1969年。その当時からジーン・マクダニエルズや、レナード・コーエン、イーワン・マッコールの曲を録音し、2ndアルバム『チャプター・トゥー』でもジミー・ウェッブや、ボブ・ディランのカバーを録音していたように、素晴らしいソングライターの曲を選び、それを自分の持ち歌として自然と消化できてしまう才能は、同時代の他のシンガーよりも頭ひとつ秀でていたと思います。そんなロバータですが、前作となる2003年の『ホリデイ』以来、約9年振りに発売された新作は、なんと全曲がビートルズの曲で占められたカバー・アルバムでした。もっとも、本当は2010年にリリース予定だったそうなのですが、なんとも信じがたいことにマスター・テープを入れたスーツケースをタクシーの中に置き忘れるという事件が起きてしまいます。その後そのテープは無事に戻って来るものの、2012年までお蔵入りとなっていました。先行で公開された「恋を抱きしめよう」で聴けるような、いわゆる最近の「R&B」という言葉が示すような洗練されたコンテンポラリーなサウンドに始めは少し驚かされたものの、何度も聴いていく内に、それが実に現在のロバータに似合うというか、不自然なところを感じさせないのが、これまで培ってきたロバータの魅力のひとつなのだと思います。収録曲は、「イン・マイ・ライフ」から「ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア」まで全12曲。国内盤には「君はいずこへ」「イエスタデイ」「ヒア・カムズ・ザ・サン」の3曲がボーナス・トラックとして追加収録されており、珍しい選曲としては『ハード・デイズ・ナイト』に収録されていた「恋する二人」、ジョージ・ハリスンが1970年に発売したLP3枚組の大傑作『オール・

シングス・マスト・パス』に収録されていた「イズント・イット・ア・ピティ」が挙げられるでしょうか。『アビー・ロード』に収録されていた「オー・ダーリン」も比較的珍しいかもしれません。そんな中で個人的に最も気に入っているトラックは、ラストのリフレインはないものの、アコースティック・ギターによるシンプルな音色のバッキングが心地良い「ヘイ・ジュード」です。

 井上宗孝とシャープファイブは、井上 宗孝 (dr)、三根 信 宏 (g)、古 屋 紀 (key)、秋 山 功 (b)、前 田 旭 (g)というその名の通りの5人組。デビューは1965年。シャープ・ホークスのバックバンドとして活躍していたメンバーが井上宗孝の提案により独立、結成。彼らはあのエレキ・ブームの火付け役であったフジテレビの「勝ち抜きエレキ合戦」にレギュラー出演し、寺内タケシとブルージーンズ同様、当時のエレキ・インスト・ブームの牽引役を務めました。特にリード・ギターの三根 信宏の人気は絶大であり、カリスマ的な存在感を示していたと現在まで伝えられているほど。インターネットの記事を見てみると、本作『ビートルズをかき鳴らせ』(キング / SKK243)は1966年7月1日に発売されたと記載してあります。ビートルズの来日公演が同年6月30日と7月1日、2日。つまりどんぴしゃで発売をぶつけてきたわけで、言い方を変えるなら来日記念盤といったところでしょうか。この『ビートルズをかき鳴らせ』は『ザ・サイドワインダー』と2in1の形でP-Vineより2001年にCD化 (PCD1384)され、その後もタイトルを『ロックン・ロールをかき鳴らせ』(KICS1413)として2008年にキングよりリイシューされています。全14曲入りの本作は日本のビートルズ・カバーアルバムの中でも指折りのトリビュート盤と言える作品ではないでしょうか。

ギター・ヴァーチュオーゾによるビートルズ・カバー!

ビートルズの楽曲をスウィンギーにカバーした名作!

Page 4: ビートルズ 1 カバー・アルバム今から遡ることおよそ半世紀前、1962年10月にレ コード・デビューを果たしたザ・ビートルズ。後に世界中

 今から遡ることおよそ半世紀前、1962年10月にレコード・デビューを果たしたザ・ビートルズ。後に世界中のありとあらゆる人から最高の評価を得ていることは今さら声を大にして語るまでもないでしょう。彼らの曲をカバーした作品は古今東西、それこそジャンルを問わず数知れずありますが、「ザ・ビートルズのカバー・アルバム」と聞いた時、あなたはまず何を思い浮かべるでしょうか。それは、あなたが今日まで聞いてきた音楽遍歴によると思うし、もしかしたらその様なことを特別に意識して聞いてこなかったかもしれません。それ(ザ・ビートルズのカバー・アルバム)を音楽収集の中心に置き、自分の中でプライオリティを上位に設定している人達にとっては何を今さらと思うリストかもしれないけれど、ここはひとつおさらいだと思って軽い気持ちで読んでくれたら嬉しいです。 今、軽い気持ちでと言いましたが、ここに選出した13タイトルは選者自身がどれも素晴らしい作品だと自負してリストアップしたものです。つまり内容はもちろんの事、ジャケットや選曲、録音された年代…。ジャンルに関してはそこまで幅広く選ぶことはできませんでしたが、納得のできるセレクションになったと思います。敢えて王道を外した作品もありますが、ここを入り口として、どれを選んでも外れの無いように心がけたつもりです。もちろん異論、反論、叱咤激励、大歓迎です。もっとも音楽の好みは個人の嗜好によって千差万別、まして相手が超大物ザ・ビートルズと来れば万人受けしないような作品は恐らく数えるほどでしょうし、元の楽曲がどれもこれも素晴らしいだけに一応は聴けてしまうというメリット/デメリットもあるでしょう。いずれにしてもこのリストの中からあなたのお気に入りの一枚を見つけ出して、末永く付き合っていけるような大切な一枚に出会えたとしたら、選者と

してこれ以上に嬉しい事はありません。なお、今回の13タイトルは第1弾の予定です。今後、第2号、第3号と続けていく予定なので、こちらも期待してお待ち頂ければと思います。

 チャールズ・リヴァー・ヴァレー・ボーイズは1959年にケンブリッジで結成されたブルーグラス・バンド。ビル・モンローをルーツに持つこの音楽は、現在まで根強いファンに支えられ徐々に広まっています。彼らは1962年に英国から『ブリンギン・イン・ザ・ジョージア・メール』でアルバム・デビュー。その後、自主制作盤を1,000枚限定で発売。この権利を買って『ブルーグラス・アンド・オールド・タイミー・ミュージック』として発売したのが、プレスティッジ・レーベルでした。その後、同じくプレスティッジから『ブルー・グラス・ゲット・トゥゲザー』を1962年に発売。全米のコーヒー・ハウスやフェスティバルなどで活躍をしていましたが、なかなか思う様に人気は上がらず、エレクトラのプロデューサー、ポール・ロスチャイルドにビートルズのブルーグラス・カバーを送ります。それが「夢の人」と「ワット・ゴーズ・オン」の二曲。そうして1966年に発売したのが本作『ビートル・カントリー』(Elektra / EKL4006)でした。数あるビートルズ・カバー・アルバムの中でも指折りの一作として、熱心なファンには古くから聴き継がれて来た作品として有名です。このカラフルなイラストによるジャケットの魅力もまた手元に持っていたくなる素晴らしさ。1966年という比較的早い時期にありながらも、基本的な部分ではオリジナルに忠実に、しかし無難にこなすような、つまらないアレンジでお茶を濁す事のない意欲的な作品となっています。

ギター、マンドリン、バンジョー、ベース、時にフィドルといったアコースティック楽器によるサウンドで次々に繰り広げられるビートルズ・ソングの数々はたまらない魅力に溢れています。一曲目の「夢の人 」のもの悲しいフィドルによるイントロから始まり、ブルーグラス・ビートへ展開する瞬間はいつ聞いてもワクワクします。また、「イエロー・サブマリン」でのSEを駆使して茶目っ気たっぷりにプレイされる様は本家にも負けない格別の楽しさがあります。

 カントリー・ミュージックを中心に、その神業的なギター・プレイでリスナーを楽しませてくれたギタリストの中のギタリスト、所謂ミュージシャンズ・ミュージシャンとしても沢山のプレイヤーからリスペクトされてきたギター・ヴァーチュオーゾ、チェット・アトキンス。本作『ピックス・オン・ザ・ビ ー ト ル ズ』(RCA Victor / LSM 3531 (mono) / LSP3531 (stereo)はビートルズのカバー・アルバムとして1966年という比較的早い時期に発売された傑作中の傑作。ジャケットのセンスもとても良い。ジョージ・ハリスンがチェットのギター・プレイに影響を受けたことは有名で、本作のオリジナル・ライナー・ノーツはジョージ自身がコメントを寄せています。また、演奏には後にエリア・コード615/ベアフット・ジェリーといったカントリー・ロック・バンドでハーモニカを担当する事になるチャーリー・マッコイが参加しており、彼のプレイはほとんどの曲で聞く事ができます。選曲に関しては時期的な事からも想像できる通り、初期の曲でまとめられており、その中でも「イエスタデイ」のカバーは秀逸。思わずギターをひっぱり出してコピーしたくなるような完璧なギター・プレイ。グレッチのギターから弾き出される艶があってス

ウィートでありながらもエッジの効いたトーンで奏でられるビートルズ・ソングの数々。ギターが歌っているという使い古された表現はまさにこの様なプレイの事を言うのでしょう。BGMとして聞き流すにはあまりにも勿体ない珠玉の一枚。惜しむらくは第2弾の録音をすることが出来ずに2001年6月30日に他界してしまった事だけでしょうか。特にビートルズ後期の楽曲をチェット・アトキンスのキチンと良い音で録音された演奏で聴きたかったと思うのは私だけではないでしょう。

 カウント・ベイシー・オーケストラのスウィング感は、他のどのバンドにもない魅力があります。それを体感するには何はともあれ、まずは、大音量で聴く事でしょうか。凄まじいほどに一丸となって突っ走り、まるで蒸気機関車さえも思い起こさせるようなサウンドとフォー・ビートを生かしたシンプルでありながらもグルーヴィー、かつホットなバンド・アンサンブルが目の前で展開されます。そして各人のソロ・パートの緻密に構築されたフレーズとその音色もそれに一役買っていることでしょう。本作『ベイシーズ・ビートル・バッグ』(Verve / V6-8659)は、1966年5月3日から5日にかけてロサンゼルスで録音されたものです。全曲に渡って編曲を担当しているのが、キューバのハバナ出身のチコ・オファレル。彼はクインシー・ジョーンズや、ニール・ヘフティらと共に、ベイシー・サウンドの特色を生かしたアレンジで、生前のベイシーからもその腕を高く評価していたと伝えられています。収録曲は全12曲。その全てが驚く程にジャズになっており、原曲の素晴らしさと相まってとてつもない幸福感を感じ取る事が出来ます。「イエスタデイ」でビル・ヘンダーソンがヴォーカルを務めている以外はすべてベイ

シー・オーケストラの独壇場。ビートルズ・カバー・アルバムの大傑作であり、恐らくすべてのビートルズ・カバー・アルバムを聞いたとしても5本の指に入るような金字塔と呼べる作品です。

 1976年の大ヒット作『ブリージン』で一般層にも広くその名前が知れ渡ったギタリスト/ヴォーカリスト、ジョージ・ベンソン。本作『ジ・アザー・サイド・オブ・アビー・ロード』(A&M (CTI) / SP-3028)は1969年9月に発売されたビートルズの『アビー・ロード』に収録された曲をジャジー &スムースにカバーした人気盤で、全曲が『アビー・ロード』収録作品。ジャケットはオリジナルをパロディにしていますが、ちょっと捻った感じになっており、おしゃれな雰囲気が漂います。驚くべきは録音された時期で、1969年10月から11月にかけて。ということは一ヶ月そこそこで本作を作り上げてしまったわけです。とてもそうとは思えないアレンジは流石CTI。プロデュースはもちろんクリード・テイラー。ハービー・ハンコック(p)やロン・カーター(b)、フレディ・ハバード(tp)なども参加して演奏に花を添えていますが、ジョージ・ベンソンのギター・プレイと、温かみのある渋いヴォーカルが何とも魅力的。収録曲はほとんどがメドレーで繋がれ、その組み合わせもまた面白いものがあります。中でも「ビコーズ / カム・トゥゲザー」でのファンキーなギター・プレイにはシビれること間違いなしでしょう。そして「サムシング / オクトパス・ガーデン / ジ・エンド」は曲の流れが本当に素晴らしいつなぎで、収録時間が約30分という短さもありアルバムを通して何度も繰り返し聴いてしまう様な作品です。

 現在のアメリカン・ロック・シーンを語るなら絶対に外す事のできないバンドであるPHISH。1983年からバンド活動を始め、結果的に2度の活動休止を経て、2011年現在まで活動を続けているベテランのバンドです。そんな彼らは毎年ハロウィーンの日に他のアーティストのアルバム作品をフル・カバーして披露するのが恒例行事となっています。本作『Live Phish Vol.13』(Elektra /Wea / 62806 (CD only))ではビートルズの『ホワイト・アルバム』をまるごとカバー。残念ながらアルバム最後の「グッド・ナイト」はカバーしていませんが、それでも普通のバンドならやりたくてもやらないか、出来ないのではないでしょうか。1994年10月31日にニューヨークのグレン・フォールズにあるグレン・フォールズ・シヴィック・センターで行われたショウを完全収録したもので、この日はもちろん3セット。「ホワイト・アルバム」をカバーしたのはセカンド・セット。エド・サリヴァンのイントロから「バック・イン・ザ・U.S.S.R.」に繋がる瞬間はいつだって鳥肌モノです!演奏技術だとか、ミスがあるだとかこの演奏を前にしたら無用の長物。そんな事を気にしていたら楽しめません。是非大音量で音に身を任せて、ステージ上の姿を想像して楽しんで欲しいと思っています。ちなみに他の年にはザ・フー『四重人格』(1995)、トーキング・ヘッズ『リメイン・イン・ライト』(1996)、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド『ローデッド』(1998)、ローリング・ストーンズ『メイン・ストリートのならず者』(2009)、リトル・フィート『ウェイティング・フォー・コロンバス』(2010)をカバーしています。気になったショウは是非チェックしてみる事をお勧めしたいと思います。

 日本では2002年6月8日に劇場公開された『アイ・アム・サム』。そのサントラ盤が本作(V2 Records / 27119 (CD only))全編に渡ってビートルズ・ソングを使用している事で、当時随分と話題になりました。知的障害を持つ父親と、幼い娘との純粋な愛を描いた感動作です。父親役は元マドンナの旦那であり『デッドマン・ウォーキング』や『ギター弾きの恋』でも知られるショーン・ペン。このサントラ盤に収録された楽曲はすべてがビートルズ・ソングなのですが、オリジナルの楽曲を使用してしまうと膨大な予算が生じてしまう為、カバー・バージョンという形を取ったということですが、そのお陰でこうした素晴らしいトリビュート盤とも解釈できるサントラが生まれた訳ですから結果オーライといったところでしょうか。ちなみのこのサントラは映画では使用されていないトラックも収録されています。このサントラは、是非映画をご覧になってから聴いてみることをお勧めしたいのですが、いかがでしょう。エイミー・マンによる「トゥ・オブ・アス」やシェリル・クロウの「マザー・ネイチャーズ・サン」、ブラック・クロウズの「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」など聴きごたえのあるカバーが目白押しです。映画を観てからこれらの曲を聞き返すと、その曲が流れたシーンがフラッシュバックされ、余韻に浸る事ができます。個人的に特に印象に残っているのは、ルーシーがサムに嘘を付いてバスに乗り、施設から逃げ出そうとする時に流れるベン・ハーパーによる「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」。そしてまだ映画をご覧になっていない方の為に詳しい描写は避けますが、サラ・マクラクランが歌う「ブラックバード」が流れている一連のシーンは心に残る感動的なシーンです。

 松岡計井子は、1959年に俳優座養成所を卒業し、民芸を経てジャズ・コーラス・グループであるスリー・バブルスのメンバーとして歌手デビュー。スリー・バブルスは三木鶏郎によるCMソング「ミツワ石鹸」を歌ったことで有名でしょうか。このスリー・バブルスのメンバーにはジャズ歌手のホキ徳田も在籍しており、このグループの実力は推して察するべき。ちなみにホキ徳田はあのアメリカ文学の文豪であり、当時46歳年上のヘンリー・ミラーと結婚したことでも有名で、現在もピアノを弾きながら元気に活動を続けているそうです。1970年代よりオリジナルの日本語歌詞によるビートルズのカバーを続けてきたことで有名な松岡計井子ですが、個人的にちょっとした驚きだったのは小さい頃から良く見ていた「ひょっこりひょうたん島」の登場人物、魔女リカの声を担当していたこと。知らないうちに彼女の声に触れていた訳ですね。本作『ビートルズをうたう~愛こそすべて』(東芝音楽工業 Express / EP-7785 / ETP-8169)のオリジナルは1972年に東芝より発売されました。モノクロのポートレイトに絶妙の位置にカラーでアーティスト名とタイトルが記載されたジャケットは、どことなく凄みを感じるジャケットです。本作は彼女のライフ・ワークとでも言えるビートルズを日本語でカバーした作品の第一集です。深みのある声と、抑揚のあるメロディラインにアレンジし、オリジナルのイメージを壊すことなく、松岡計井子の世界として表現されている素晴らしいシリーズとなっています。また、1989年にこれまでに発売されたレコードから厳選して収録したベスト盤CD『松岡計井子 ビートルズをうたう』(CT25-5458)がEMIより発売されました。このCDは全18曲入りでしたが、現在は残念ながら廃盤となってい

ます。これらの作品を聴くにはレコードを探すしか無いかと諦めている方がいたら朗報です!ご存知の方も多いと思いますが、なんとこの作品、iTunesストアで購入可能です(2011年9月現在)!できることならキチンとCDとしてオリジナル通りに(さらに欲を言えば紙ジャケで…)復刻して欲しいのですが、それまではコレで楽しむのもひとつの選択としてアリではないでしょうか。ちなみにこのベスト盤、「愛こそすべて」は未収録となっています…。

 1983年に『アイム・ヒップ - プリーズ・ドント・テル・マイ・ファーザー』でデビューした小粋なスウィング・ジャズ・ギタリスト、ジョン・ピザレリ。本作『ミーツ・ザ・ビートルズ』(RCA Records / BVCJ-37562 (CD only))は1998年にRCAから発売された作品。このジャケットは一見しただけでそれとわかる通り『ア・ハード・デイズ・ナイト』をパロディにしたもので、そこからはビートルズへの愛をひしひしと感じます。収録曲は、ビッグ・バンドをバックにゴージャス感たっぷりにカバーしたものもあれば、ピアノにレイ・ケネディ、ベースにマーティン・ピザレリを迎えたギター・トリオでの演奏や、そこに管楽器でのソロやサポートが入るものもあるなど、バラエティに富んでいます。どれもオリジナリティのあるアレンジが施され、ギター・プレイはもちろんのこと、ちょっと崩したメロディと、その飄々としたヴォーカルにも堪えられない魅力があります。中でも「夢の人 (アイヴ・ジャスト・シーン・ア・フェイス)」は一押しのトラック。元々カントリー /ブルーグラスっぽい曲調のこの曲を、小粋でスウィング感たっぷりのジャジーにアレンジ、それがぱっちりとハマっています。全編を通してワクワクしっぱなしの約45分間。

 超個性的なジャズ・ギタリスト、ビル・フリゼールが全曲ビートルズ・ソングを録音した2011年作品。「アクロス・ザ・ユニヴァース」から、ラストの「ギヴ・ピース・ア・チャンス」まで全16曲。ジャケットからもわかる通り、ビートルズはビートルズでも、ジョン・レノン作曲による曲をカバーしたものになっています。アルバム・タイトルはもちろんジョン・レノンの「ギヴ・ピース・ア・チャンス」の歌詞の一節から取られたもの。このアルバムは、iTunes配信限定で「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」、米Amazon配信限定で「ワーキング・クラス・ヒーロー」の録音もあります。ビートルズ時代の曲、ソロ時代の曲と、そのどれもがビル・フリゼールという強烈なフィルターを通し、全体的にオリジナルよりもグッとテンポを落とした事によって、ジョン・レノンが生み出したメロディ・ラインの美しさがより際立ち、たゆたう様な浮遊感のあるサウンドの上に艶やかなギター・トーンが乗ることによって、今まで聴いた事がなかったような新鮮かつ斬新なカバー・アルバムとなっています。そして、そこに良いアクセントを加えているのが昨今のビル・フリゼール作品には欠かせない女性ヴァイオリニストのジェニー・シェインマンです。マデリン・ペルーからノラ・ジョーンズ、アレサ・フランクリンに至るまで幅広い共演経歴を持っており、ソロ・アルバムも現在までに6枚ほど残しています。ジェニーの弾くヴァイオリンは、ここで実に周りの楽器と混ざり合い、その上しっかりと聴かせるところは聴かせる素晴らしいプレイを聴かせています。例えば「レヴォリューション」におけるサビ前の印象的なリフや、「イン・マイ・ライフ」のオリジナルでジョージ・マーティンが弾いたバロック風の有名なソロなどは個人的には新たな魅力を再

発見できたトラックです。 メンバーは、ビル・フリゼール以下、トニー・シェールのベースとケニー・ウォルセンのドラムスという鉄壁リズム隊に加えて、引く手数多のグレッグ・リーズによるスティール&アコースティック・ギターと、女性ヴァイオリニストのジェニー・シェインマン。彼らの安定感のある演奏がまた聞き手に余計なことを考えさせず、ただその音と音の絡みに身を任せているだけで十分に楽しむことができます。個人的にはこのアルバムを購入してから今日に至るまで未だ飽きることなく、聴き続けてきた愛聴盤となっており、それは今後も変わらないはずです。

 1978年に全米で公開されたビー・ジーズとピーター・フランプトンをメイン・キャストとしたミュージカル映画『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』。その サントラ盤 が 本 作(RSO Records / RS 2-4100)。プロデュースは本家ビートルズを手掛けていたジョージ・マーティンが担当しています。ビー・ジーズとピーター・フランプトンの他にもアース・ウィンド&ファイアー(EWF)、エアロスミス、ビリー・プレストン、アリス・クーパーといった名の知れたミュージシャンによるビートルズ・カバーが聞きどころでしょうか。その中でもシングル・カットされたエアロスミスの「カム・トゥゲザー」はビルボード・シングル・チャートで23位となり、ビリー・プレストンの「ゲット・バック」は同86位、EWFの「ガット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ」は同13位、R&Bチャートでは1位を獲得する大ヒット、ビー・ジーズのロビン・ギブによる「オー! ダーリン」は同15位となるヒットをそれぞれ記録しています。世間的にこの映画自体はB級という評価を甘んじて受けていますが、日本

語字幕付きのDVDにはなっておらず、まだ観た事の無い私としては是非とも観たいというのが正直な所。しかし、国内盤にならないのがその評価を物語っているのでしょうか。いずれにしてもこのサントラ盤は素晴らしいものなのでお勧めです。

 北海道札幌市出身の小山ルミは1952年に、アイルランド人の父と、日本人の母親の元に生まれました。中学生の頃にモデルの仕事を始め、「ビート・ポップス」などにカバー・ガールとして出演し、その日本人離れした美しい顔立ちとコケティッシュな魅力で、あっという間に若者世代のアイドルとなりました。その後、1968年に「はじめてのデート」で歌手デビュー、テイチクに移籍後「さすらいのギター」などがヒット。本作『ビートルズを歌う』(テイチク (UNION) / ULP-2016)は1973年にテイチクより発売されたもので、千家和也による訳詞と、馬飼野康二による編曲で、全曲がオリジナルの日本語詞により歌われています。聞き慣れたはずのビートルズ・ソングが新鮮な印象を伴ってスピーカーから流れ出します。一曲目は今も昔も日本人が大好きな永遠の「レット・イット・ビー」。一聴しただけで分かるその歌の巧さは、まさに特筆すべきもの。「イエスタデイ」や「ヘイ・ジュード」などのバラード曲とロック的な「抱きしめたい」、「プリーズ・プリーズ・ミー」などの曲がバランスよく配置され、途中で中だるみすることなく最後まで聞ける作品。一曲だけ収録されたジョージ・ハリスンの『オール・シングス・マスト・パス』からの「マイ・スウィート・ロード」もまったく違和感なく収まっています。アルバムを通して基本的なアレンジはビートルズのそれを踏襲しており、とても親しみやすく聞きやすい物となっています。

 「やさしく歌って」や「愛は面影の中に」の大ヒットで知られているソウル/ R&Bシンガー、ロバータ・フラック。デビュー作『ファースト・テイク』が発売されたのが1969年。その当時からジーン・マクダニエルズや、レナード・コーエン、イーワン・マッコールの曲を録音し、2ndアルバム『チャプター・トゥー』でもジミー・ウェッブや、ボブ・ディランのカバーを録音していたように、素晴らしいソングライターの曲を選び、それを自分の持ち歌として自然と消化できてしまう才能は、同時代の他のシンガーよりも頭ひとつ秀でていたと思います。そんなロバータですが、前作となる2003年の『ホリデイ』以来、約9年振りに発売された新作は、なんと全曲がビートルズの曲で占められたカバー・アルバムでした。もっとも、本当は2010年にリリース予定だったそうなのですが、なんとも信じがたいことにマスター・テープを入れたスーツケースをタクシーの中に置き忘れるという事件が起きてしまいます。その後そのテープは無事に戻って来るものの、2012年までお蔵入りとなっていました。先行で公開された「恋を抱きしめよう」で聴けるような、いわゆる最近の「R&B」という言葉が示すような洗練されたコンテンポラリーなサウンドに始めは少し驚かされたものの、何度も聴いていく内に、それが実に現在のロバータに似合うというか、不自然なところを感じさせないのが、これまで培ってきたロバータの魅力のひとつなのだと思います。収録曲は、「イン・マイ・ライフ」から「ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア」まで全12曲。国内盤には「君はいずこへ」「イエスタデイ」「ヒア・カムズ・ザ・サン」の3曲がボーナス・トラックとして追加収録されており、珍しい選曲としては『ハード・デイズ・ナイト』に収録されていた「恋する二人」、ジョージ・ハリスンが1970年に発売したLP3枚組の大傑作『オール・

シングス・マスト・パス』に収録されていた「イズント・イット・ア・ピティ」が挙げられるでしょうか。『アビー・ロード』に収録されていた「オー・ダーリン」も比較的珍しいかもしれません。そんな中で個人的に最も気に入っているトラックは、ラストのリフレインはないものの、アコースティック・ギターによるシンプルな音色のバッキングが心地良い「ヘイ・ジュード」です。

 井上宗孝とシャープファイブは、井上 宗孝 (dr)、三根 信 宏 (g)、古 屋 紀 (key)、秋 山 功 (b)、前 田 旭 (g)というその名の通りの5人組。デビューは1965年。シャープ・ホークスのバックバンドとして活躍していたメンバーが井上宗孝の提案により独立、結成。彼らはあのエレキ・ブームの火付け役であったフジテレビの「勝ち抜きエレキ合戦」にレギュラー出演し、寺内タケシとブルージーンズ同様、当時のエレキ・インスト・ブームの牽引役を務めました。特にリード・ギターの三根 信宏の人気は絶大であり、カリスマ的な存在感を示していたと現在まで伝えられているほど。インターネットの記事を見てみると、本作『ビートルズをかき鳴らせ』(キング / SKK243)は1966年7月1日に発売されたと記載してあります。ビートルズの来日公演が同年6月30日と7月1日、2日。つまりどんぴしゃで発売をぶつけてきたわけで、言い方を変えるなら来日記念盤といったところでしょうか。この『ビートルズをかき鳴らせ』は『ザ・サイドワインダー』と2in1の形でP-Vineより2001年にCD化 (PCD1384)され、その後もタイトルを『ロックン・ロールをかき鳴らせ』(KICS1413)として2008年にキングよりリイシューされています。全14曲入りの本作は日本のビートルズ・カバーアルバムの中でも指折りのトリビュート盤と言える作品ではないでしょうか。

全曲が『アビー・ロード』のビートルズ・カバー!

まさにサプライズ!『ホワイト・アルバム』をまるごとカバー!

Page 5: ビートルズ 1 カバー・アルバム今から遡ることおよそ半世紀前、1962年10月にレ コード・デビューを果たしたザ・ビートルズ。後に世界中

 今から遡ることおよそ半世紀前、1962年10月にレコード・デビューを果たしたザ・ビートルズ。後に世界中のありとあらゆる人から最高の評価を得ていることは今さら声を大にして語るまでもないでしょう。彼らの曲をカバーした作品は古今東西、それこそジャンルを問わず数知れずありますが、「ザ・ビートルズのカバー・アルバム」と聞いた時、あなたはまず何を思い浮かべるでしょうか。それは、あなたが今日まで聞いてきた音楽遍歴によると思うし、もしかしたらその様なことを特別に意識して聞いてこなかったかもしれません。それ(ザ・ビートルズのカバー・アルバム)を音楽収集の中心に置き、自分の中でプライオリティを上位に設定している人達にとっては何を今さらと思うリストかもしれないけれど、ここはひとつおさらいだと思って軽い気持ちで読んでくれたら嬉しいです。 今、軽い気持ちでと言いましたが、ここに選出した13タイトルは選者自身がどれも素晴らしい作品だと自負してリストアップしたものです。つまり内容はもちろんの事、ジャケットや選曲、録音された年代…。ジャンルに関してはそこまで幅広く選ぶことはできませんでしたが、納得のできるセレクションになったと思います。敢えて王道を外した作品もありますが、ここを入り口として、どれを選んでも外れの無いように心がけたつもりです。もちろん異論、反論、叱咤激励、大歓迎です。もっとも音楽の好みは個人の嗜好によって千差万別、まして相手が超大物ザ・ビートルズと来れば万人受けしないような作品は恐らく数えるほどでしょうし、元の楽曲がどれもこれも素晴らしいだけに一応は聴けてしまうというメリット/デメリットもあるでしょう。いずれにしてもこのリストの中からあなたのお気に入りの一枚を見つけ出して、末永く付き合っていけるような大切な一枚に出会えたとしたら、選者と

してこれ以上に嬉しい事はありません。なお、今回の13タイトルは第1弾の予定です。今後、第2号、第3号と続けていく予定なので、こちらも期待してお待ち頂ければと思います。

 チャールズ・リヴァー・ヴァレー・ボーイズは1959年にケンブリッジで結成されたブルーグラス・バンド。ビル・モンローをルーツに持つこの音楽は、現在まで根強いファンに支えられ徐々に広まっています。彼らは1962年に英国から『ブリンギン・イン・ザ・ジョージア・メール』でアルバム・デビュー。その後、自主制作盤を1,000枚限定で発売。この権利を買って『ブルーグラス・アンド・オールド・タイミー・ミュージック』として発売したのが、プレスティッジ・レーベルでした。その後、同じくプレスティッジから『ブルー・グラス・ゲット・トゥゲザー』を1962年に発売。全米のコーヒー・ハウスやフェスティバルなどで活躍をしていましたが、なかなか思う様に人気は上がらず、エレクトラのプロデューサー、ポール・ロスチャイルドにビートルズのブルーグラス・カバーを送ります。それが「夢の人」と「ワット・ゴーズ・オン」の二曲。そうして1966年に発売したのが本作『ビートル・カントリー』(Elektra / EKL4006)でした。数あるビートルズ・カバー・アルバムの中でも指折りの一作として、熱心なファンには古くから聴き継がれて来た作品として有名です。このカラフルなイラストによるジャケットの魅力もまた手元に持っていたくなる素晴らしさ。1966年という比較的早い時期にありながらも、基本的な部分ではオリジナルに忠実に、しかし無難にこなすような、つまらないアレンジでお茶を濁す事のない意欲的な作品となっています。

ギター、マンドリン、バンジョー、ベース、時にフィドルといったアコースティック楽器によるサウンドで次々に繰り広げられるビートルズ・ソングの数々はたまらない魅力に溢れています。一曲目の「夢の人 」のもの悲しいフィドルによるイントロから始まり、ブルーグラス・ビートへ展開する瞬間はいつ聞いてもワクワクします。また、「イエロー・サブマリン」でのSEを駆使して茶目っ気たっぷりにプレイされる様は本家にも負けない格別の楽しさがあります。

 カントリー・ミュージックを中心に、その神業的なギター・プレイでリスナーを楽しませてくれたギタリストの中のギタリスト、所謂ミュージシャンズ・ミュージシャンとしても沢山のプレイヤーからリスペクトされてきたギター・ヴァーチュオーゾ、チェット・アトキンス。本作『ピックス・オン・ザ・ビ ー ト ル ズ』(RCA Victor / LSM 3531 (mono) / LSP3531 (stereo)はビートルズのカバー・アルバムとして1966年という比較的早い時期に発売された傑作中の傑作。ジャケットのセンスもとても良い。ジョージ・ハリスンがチェットのギター・プレイに影響を受けたことは有名で、本作のオリジナル・ライナー・ノーツはジョージ自身がコメントを寄せています。また、演奏には後にエリア・コード615/ベアフット・ジェリーといったカントリー・ロック・バンドでハーモニカを担当する事になるチャーリー・マッコイが参加しており、彼のプレイはほとんどの曲で聞く事ができます。選曲に関しては時期的な事からも想像できる通り、初期の曲でまとめられており、その中でも「イエスタデイ」のカバーは秀逸。思わずギターをひっぱり出してコピーしたくなるような完璧なギター・プレイ。グレッチのギターから弾き出される艶があってス

ウィートでありながらもエッジの効いたトーンで奏でられるビートルズ・ソングの数々。ギターが歌っているという使い古された表現はまさにこの様なプレイの事を言うのでしょう。BGMとして聞き流すにはあまりにも勿体ない珠玉の一枚。惜しむらくは第2弾の録音をすることが出来ずに2001年6月30日に他界してしまった事だけでしょうか。特にビートルズ後期の楽曲をチェット・アトキンスのキチンと良い音で録音された演奏で聴きたかったと思うのは私だけではないでしょう。

 カウント・ベイシー・オーケストラのスウィング感は、他のどのバンドにもない魅力があります。それを体感するには何はともあれ、まずは、大音量で聴く事でしょうか。凄まじいほどに一丸となって突っ走り、まるで蒸気機関車さえも思い起こさせるようなサウンドとフォー・ビートを生かしたシンプルでありながらもグルーヴィー、かつホットなバンド・アンサンブルが目の前で展開されます。そして各人のソロ・パートの緻密に構築されたフレーズとその音色もそれに一役買っていることでしょう。本作『ベイシーズ・ビートル・バッグ』(Verve / V6-8659)は、1966年5月3日から5日にかけてロサンゼルスで録音されたものです。全曲に渡って編曲を担当しているのが、キューバのハバナ出身のチコ・オファレル。彼はクインシー・ジョーンズや、ニール・ヘフティらと共に、ベイシー・サウンドの特色を生かしたアレンジで、生前のベイシーからもその腕を高く評価していたと伝えられています。収録曲は全12曲。その全てが驚く程にジャズになっており、原曲の素晴らしさと相まってとてつもない幸福感を感じ取る事が出来ます。「イエスタデイ」でビル・ヘンダーソンがヴォーカルを務めている以外はすべてベイ

シー・オーケストラの独壇場。ビートルズ・カバー・アルバムの大傑作であり、恐らくすべてのビートルズ・カバー・アルバムを聞いたとしても5本の指に入るような金字塔と呼べる作品です。

 1976年の大ヒット作『ブリージン』で一般層にも広くその名前が知れ渡ったギタリスト/ヴォーカリスト、ジョージ・ベンソン。本作『ジ・アザー・サイド・オブ・アビー・ロード』(A&M (CTI) / SP-3028)は1969年9月に発売されたビートルズの『アビー・ロード』に収録された曲をジャジー &スムースにカバーした人気盤で、全曲が『アビー・ロード』収録作品。ジャケットはオリジナルをパロディにしていますが、ちょっと捻った感じになっており、おしゃれな雰囲気が漂います。驚くべきは録音された時期で、1969年10月から11月にかけて。ということは一ヶ月そこそこで本作を作り上げてしまったわけです。とてもそうとは思えないアレンジは流石CTI。プロデュースはもちろんクリード・テイラー。ハービー・ハンコック(p)やロン・カーター(b)、フレディ・ハバード(tp)なども参加して演奏に花を添えていますが、ジョージ・ベンソンのギター・プレイと、温かみのある渋いヴォーカルが何とも魅力的。収録曲はほとんどがメドレーで繋がれ、その組み合わせもまた面白いものがあります。中でも「ビコーズ / カム・トゥゲザー」でのファンキーなギター・プレイにはシビれること間違いなしでしょう。そして「サムシング / オクトパス・ガーデン / ジ・エンド」は曲の流れが本当に素晴らしいつなぎで、収録時間が約30分という短さもありアルバムを通して何度も繰り返し聴いてしまう様な作品です。

 現在のアメリカン・ロック・シーンを語るなら絶対に外す事のできないバンドであるPHISH。1983年からバンド活動を始め、結果的に2度の活動休止を経て、2011年現在まで活動を続けているベテランのバンドです。そんな彼らは毎年ハロウィーンの日に他のアーティストのアルバム作品をフル・カバーして披露するのが恒例行事となっています。本作『Live Phish Vol.13』(Elektra /Wea / 62806 (CD only))ではビートルズの『ホワイト・アルバム』をまるごとカバー。残念ながらアルバム最後の「グッド・ナイト」はカバーしていませんが、それでも普通のバンドならやりたくてもやらないか、出来ないのではないでしょうか。1994年10月31日にニューヨークのグレン・フォールズにあるグレン・フォールズ・シヴィック・センターで行われたショウを完全収録したもので、この日はもちろん3セット。「ホワイト・アルバム」をカバーしたのはセカンド・セット。エド・サリヴァンのイントロから「バック・イン・ザ・U.S.S.R.」に繋がる瞬間はいつだって鳥肌モノです!演奏技術だとか、ミスがあるだとかこの演奏を前にしたら無用の長物。そんな事を気にしていたら楽しめません。是非大音量で音に身を任せて、ステージ上の姿を想像して楽しんで欲しいと思っています。ちなみに他の年にはザ・フー『四重人格』(1995)、トーキング・ヘッズ『リメイン・イン・ライト』(1996)、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド『ローデッド』(1998)、ローリング・ストーンズ『メイン・ストリートのならず者』(2009)、リトル・フィート『ウェイティング・フォー・コロンバス』(2010)をカバーしています。気になったショウは是非チェックしてみる事をお勧めしたいと思います。

 日本では2002年6月8日に劇場公開された『アイ・アム・サム』。そのサントラ盤が本作(V2 Records / 27119 (CD only))全編に渡ってビートルズ・ソングを使用している事で、当時随分と話題になりました。知的障害を持つ父親と、幼い娘との純粋な愛を描いた感動作です。父親役は元マドンナの旦那であり『デッドマン・ウォーキング』や『ギター弾きの恋』でも知られるショーン・ペン。このサントラ盤に収録された楽曲はすべてがビートルズ・ソングなのですが、オリジナルの楽曲を使用してしまうと膨大な予算が生じてしまう為、カバー・バージョンという形を取ったということですが、そのお陰でこうした素晴らしいトリビュート盤とも解釈できるサントラが生まれた訳ですから結果オーライといったところでしょうか。ちなみのこのサントラは映画では使用されていないトラックも収録されています。このサントラは、是非映画をご覧になってから聴いてみることをお勧めしたいのですが、いかがでしょう。エイミー・マンによる「トゥ・オブ・アス」やシェリル・クロウの「マザー・ネイチャーズ・サン」、ブラック・クロウズの「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」など聴きごたえのあるカバーが目白押しです。映画を観てからこれらの曲を聞き返すと、その曲が流れたシーンがフラッシュバックされ、余韻に浸る事ができます。個人的に特に印象に残っているのは、ルーシーがサムに嘘を付いてバスに乗り、施設から逃げ出そうとする時に流れるベン・ハーパーによる「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」。そしてまだ映画をご覧になっていない方の為に詳しい描写は避けますが、サラ・マクラクランが歌う「ブラックバード」が流れている一連のシーンは心に残る感動的なシーンです。

 松岡計井子は、1959年に俳優座養成所を卒業し、民芸を経てジャズ・コーラス・グループであるスリー・バブルスのメンバーとして歌手デビュー。スリー・バブルスは三木鶏郎によるCMソング「ミツワ石鹸」を歌ったことで有名でしょうか。このスリー・バブルスのメンバーにはジャズ歌手のホキ徳田も在籍しており、このグループの実力は推して察するべき。ちなみにホキ徳田はあのアメリカ文学の文豪であり、当時46歳年上のヘンリー・ミラーと結婚したことでも有名で、現在もピアノを弾きながら元気に活動を続けているそうです。1970年代よりオリジナルの日本語歌詞によるビートルズのカバーを続けてきたことで有名な松岡計井子ですが、個人的にちょっとした驚きだったのは小さい頃から良く見ていた「ひょっこりひょうたん島」の登場人物、魔女リカの声を担当していたこと。知らないうちに彼女の声に触れていた訳ですね。本作『ビートルズをうたう~愛こそすべて』(東芝音楽工業 Express / EP-7785 / ETP-8169)のオリジナルは1972年に東芝より発売されました。モノクロのポートレイトに絶妙の位置にカラーでアーティスト名とタイトルが記載されたジャケットは、どことなく凄みを感じるジャケットです。本作は彼女のライフ・ワークとでも言えるビートルズを日本語でカバーした作品の第一集です。深みのある声と、抑揚のあるメロディラインにアレンジし、オリジナルのイメージを壊すことなく、松岡計井子の世界として表現されている素晴らしいシリーズとなっています。また、1989年にこれまでに発売されたレコードから厳選して収録したベスト盤CD『松岡計井子 ビートルズをうたう』(CT25-5458)がEMIより発売されました。このCDは全18曲入りでしたが、現在は残念ながら廃盤となってい

ます。これらの作品を聴くにはレコードを探すしか無いかと諦めている方がいたら朗報です!ご存知の方も多いと思いますが、なんとこの作品、iTunesストアで購入可能です(2011年9月現在)!できることならキチンとCDとしてオリジナル通りに(さらに欲を言えば紙ジャケで…)復刻して欲しいのですが、それまではコレで楽しむのもひとつの選択としてアリではないでしょうか。ちなみにこのベスト盤、「愛こそすべて」は未収録となっています…。

 1983年に『アイム・ヒップ - プリーズ・ドント・テル・マイ・ファーザー』でデビューした小粋なスウィング・ジャズ・ギタリスト、ジョン・ピザレリ。本作『ミーツ・ザ・ビートルズ』(RCA Records / BVCJ-37562 (CD only))は1998年にRCAから発売された作品。このジャケットは一見しただけでそれとわかる通り『ア・ハード・デイズ・ナイト』をパロディにしたもので、そこからはビートルズへの愛をひしひしと感じます。収録曲は、ビッグ・バンドをバックにゴージャス感たっぷりにカバーしたものもあれば、ピアノにレイ・ケネディ、ベースにマーティン・ピザレリを迎えたギター・トリオでの演奏や、そこに管楽器でのソロやサポートが入るものもあるなど、バラエティに富んでいます。どれもオリジナリティのあるアレンジが施され、ギター・プレイはもちろんのこと、ちょっと崩したメロディと、その飄々としたヴォーカルにも堪えられない魅力があります。中でも「夢の人 (アイヴ・ジャスト・シーン・ア・フェイス)」は一押しのトラック。元々カントリー /ブルーグラスっぽい曲調のこの曲を、小粋でスウィング感たっぷりのジャジーにアレンジ、それがぱっちりとハマっています。全編を通してワクワクしっぱなしの約45分間。

 超個性的なジャズ・ギタリスト、ビル・フリゼールが全曲ビートルズ・ソングを録音した2011年作品。「アクロス・ザ・ユニヴァース」から、ラストの「ギヴ・ピース・ア・チャンス」まで全16曲。ジャケットからもわかる通り、ビートルズはビートルズでも、ジョン・レノン作曲による曲をカバーしたものになっています。アルバム・タイトルはもちろんジョン・レノンの「ギヴ・ピース・ア・チャンス」の歌詞の一節から取られたもの。このアルバムは、iTunes配信限定で「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」、米Amazon配信限定で「ワーキング・クラス・ヒーロー」の録音もあります。ビートルズ時代の曲、ソロ時代の曲と、そのどれもがビル・フリゼールという強烈なフィルターを通し、全体的にオリジナルよりもグッとテンポを落とした事によって、ジョン・レノンが生み出したメロディ・ラインの美しさがより際立ち、たゆたう様な浮遊感のあるサウンドの上に艶やかなギター・トーンが乗ることによって、今まで聴いた事がなかったような新鮮かつ斬新なカバー・アルバムとなっています。そして、そこに良いアクセントを加えているのが昨今のビル・フリゼール作品には欠かせない女性ヴァイオリニストのジェニー・シェインマンです。マデリン・ペルーからノラ・ジョーンズ、アレサ・フランクリンに至るまで幅広い共演経歴を持っており、ソロ・アルバムも現在までに6枚ほど残しています。ジェニーの弾くヴァイオリンは、ここで実に周りの楽器と混ざり合い、その上しっかりと聴かせるところは聴かせる素晴らしいプレイを聴かせています。例えば「レヴォリューション」におけるサビ前の印象的なリフや、「イン・マイ・ライフ」のオリジナルでジョージ・マーティンが弾いたバロック風の有名なソロなどは個人的には新たな魅力を再

発見できたトラックです。 メンバーは、ビル・フリゼール以下、トニー・シェールのベースとケニー・ウォルセンのドラムスという鉄壁リズム隊に加えて、引く手数多のグレッグ・リーズによるスティール&アコースティック・ギターと、女性ヴァイオリニストのジェニー・シェインマン。彼らの安定感のある演奏がまた聞き手に余計なことを考えさせず、ただその音と音の絡みに身を任せているだけで十分に楽しむことができます。個人的にはこのアルバムを購入してから今日に至るまで未だ飽きることなく、聴き続けてきた愛聴盤となっており、それは今後も変わらないはずです。

 1978年に全米で公開されたビー・ジーズとピーター・フランプトンをメイン・キャストとしたミュージカル映画『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』。その サントラ盤 が 本 作(RSO Records / RS 2-4100)。プロデュースは本家ビートルズを手掛けていたジョージ・マーティンが担当しています。ビー・ジーズとピーター・フランプトンの他にもアース・ウィンド&ファイアー(EWF)、エアロスミス、ビリー・プレストン、アリス・クーパーといった名の知れたミュージシャンによるビートルズ・カバーが聞きどころでしょうか。その中でもシングル・カットされたエアロスミスの「カム・トゥゲザー」はビルボード・シングル・チャートで23位となり、ビリー・プレストンの「ゲット・バック」は同86位、EWFの「ガット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ」は同13位、R&Bチャートでは1位を獲得する大ヒット、ビー・ジーズのロビン・ギブによる「オー! ダーリン」は同15位となるヒットをそれぞれ記録しています。世間的にこの映画自体はB級という評価を甘んじて受けていますが、日本

語字幕付きのDVDにはなっておらず、まだ観た事の無い私としては是非とも観たいというのが正直な所。しかし、国内盤にならないのがその評価を物語っているのでしょうか。いずれにしてもこのサントラ盤は素晴らしいものなのでお勧めです。

 北海道札幌市出身の小山ルミは1952年に、アイルランド人の父と、日本人の母親の元に生まれました。中学生の頃にモデルの仕事を始め、「ビート・ポップス」などにカバー・ガールとして出演し、その日本人離れした美しい顔立ちとコケティッシュな魅力で、あっという間に若者世代のアイドルとなりました。その後、1968年に「はじめてのデート」で歌手デビュー、テイチクに移籍後「さすらいのギター」などがヒット。本作『ビートルズを歌う』(テイチク (UNION) / ULP-2016)は1973年にテイチクより発売されたもので、千家和也による訳詞と、馬飼野康二による編曲で、全曲がオリジナルの日本語詞により歌われています。聞き慣れたはずのビートルズ・ソングが新鮮な印象を伴ってスピーカーから流れ出します。一曲目は今も昔も日本人が大好きな永遠の「レット・イット・ビー」。一聴しただけで分かるその歌の巧さは、まさに特筆すべきもの。「イエスタデイ」や「ヘイ・ジュード」などのバラード曲とロック的な「抱きしめたい」、「プリーズ・プリーズ・ミー」などの曲がバランスよく配置され、途中で中だるみすることなく最後まで聞ける作品。一曲だけ収録されたジョージ・ハリスンの『オール・シングス・マスト・パス』からの「マイ・スウィート・ロード」もまったく違和感なく収まっています。アルバムを通して基本的なアレンジはビートルズのそれを踏襲しており、とても親しみやすく聞きやすい物となっています。

 「やさしく歌って」や「愛は面影の中に」の大ヒットで知られているソウル/ R&Bシンガー、ロバータ・フラック。デビュー作『ファースト・テイク』が発売されたのが1969年。その当時からジーン・マクダニエルズや、レナード・コーエン、イーワン・マッコールの曲を録音し、2ndアルバム『チャプター・トゥー』でもジミー・ウェッブや、ボブ・ディランのカバーを録音していたように、素晴らしいソングライターの曲を選び、それを自分の持ち歌として自然と消化できてしまう才能は、同時代の他のシンガーよりも頭ひとつ秀でていたと思います。そんなロバータですが、前作となる2003年の『ホリデイ』以来、約9年振りに発売された新作は、なんと全曲がビートルズの曲で占められたカバー・アルバムでした。もっとも、本当は2010年にリリース予定だったそうなのですが、なんとも信じがたいことにマスター・テープを入れたスーツケースをタクシーの中に置き忘れるという事件が起きてしまいます。その後そのテープは無事に戻って来るものの、2012年までお蔵入りとなっていました。先行で公開された「恋を抱きしめよう」で聴けるような、いわゆる最近の「R&B」という言葉が示すような洗練されたコンテンポラリーなサウンドに始めは少し驚かされたものの、何度も聴いていく内に、それが実に現在のロバータに似合うというか、不自然なところを感じさせないのが、これまで培ってきたロバータの魅力のひとつなのだと思います。収録曲は、「イン・マイ・ライフ」から「ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア」まで全12曲。国内盤には「君はいずこへ」「イエスタデイ」「ヒア・カムズ・ザ・サン」の3曲がボーナス・トラックとして追加収録されており、珍しい選曲としては『ハード・デイズ・ナイト』に収録されていた「恋する二人」、ジョージ・ハリスンが1970年に発売したLP3枚組の大傑作『オール・

シングス・マスト・パス』に収録されていた「イズント・イット・ア・ピティ」が挙げられるでしょうか。『アビー・ロード』に収録されていた「オー・ダーリン」も比較的珍しいかもしれません。そんな中で個人的に最も気に入っているトラックは、ラストのリフレインはないものの、アコースティック・ギターによるシンプルな音色のバッキングが心地良い「ヘイ・ジュード」です。

 井上宗孝とシャープファイブは、井上 宗孝 (dr)、三根 信 宏 (g)、古 屋 紀 (key)、秋 山 功 (b)、前 田 旭 (g)というその名の通りの5人組。デビューは1965年。シャープ・ホークスのバックバンドとして活躍していたメンバーが井上宗孝の提案により独立、結成。彼らはあのエレキ・ブームの火付け役であったフジテレビの「勝ち抜きエレキ合戦」にレギュラー出演し、寺内タケシとブルージーンズ同様、当時のエレキ・インスト・ブームの牽引役を務めました。特にリード・ギターの三根 信宏の人気は絶大であり、カリスマ的な存在感を示していたと現在まで伝えられているほど。インターネットの記事を見てみると、本作『ビートルズをかき鳴らせ』(キング / SKK243)は1966年7月1日に発売されたと記載してあります。ビートルズの来日公演が同年6月30日と7月1日、2日。つまりどんぴしゃで発売をぶつけてきたわけで、言い方を変えるなら来日記念盤といったところでしょうか。この『ビートルズをかき鳴らせ』は『ザ・サイドワインダー』と2in1の形でP-Vineより2001年にCD化 (PCD1384)され、その後もタイトルを『ロックン・ロールをかき鳴らせ』(KICS1413)として2008年にキングよりリイシューされています。全14曲入りの本作は日本のビートルズ・カバーアルバムの中でも指折りのトリビュート盤と言える作品ではないでしょうか。

ビートルズの楽曲を全編で使用した感動作のサントラ!

ライフ・ワークとしてオリジナルの日本語詞でカバー!

Page 6: ビートルズ 1 カバー・アルバム今から遡ることおよそ半世紀前、1962年10月にレ コード・デビューを果たしたザ・ビートルズ。後に世界中

 今から遡ることおよそ半世紀前、1962年10月にレコード・デビューを果たしたザ・ビートルズ。後に世界中のありとあらゆる人から最高の評価を得ていることは今さら声を大にして語るまでもないでしょう。彼らの曲をカバーした作品は古今東西、それこそジャンルを問わず数知れずありますが、「ザ・ビートルズのカバー・アルバム」と聞いた時、あなたはまず何を思い浮かべるでしょうか。それは、あなたが今日まで聞いてきた音楽遍歴によると思うし、もしかしたらその様なことを特別に意識して聞いてこなかったかもしれません。それ(ザ・ビートルズのカバー・アルバム)を音楽収集の中心に置き、自分の中でプライオリティを上位に設定している人達にとっては何を今さらと思うリストかもしれないけれど、ここはひとつおさらいだと思って軽い気持ちで読んでくれたら嬉しいです。 今、軽い気持ちでと言いましたが、ここに選出した13タイトルは選者自身がどれも素晴らしい作品だと自負してリストアップしたものです。つまり内容はもちろんの事、ジャケットや選曲、録音された年代…。ジャンルに関してはそこまで幅広く選ぶことはできませんでしたが、納得のできるセレクションになったと思います。敢えて王道を外した作品もありますが、ここを入り口として、どれを選んでも外れの無いように心がけたつもりです。もちろん異論、反論、叱咤激励、大歓迎です。もっとも音楽の好みは個人の嗜好によって千差万別、まして相手が超大物ザ・ビートルズと来れば万人受けしないような作品は恐らく数えるほどでしょうし、元の楽曲がどれもこれも素晴らしいだけに一応は聴けてしまうというメリット/デメリットもあるでしょう。いずれにしてもこのリストの中からあなたのお気に入りの一枚を見つけ出して、末永く付き合っていけるような大切な一枚に出会えたとしたら、選者と

してこれ以上に嬉しい事はありません。なお、今回の13タイトルは第1弾の予定です。今後、第2号、第3号と続けていく予定なので、こちらも期待してお待ち頂ければと思います。

 チャールズ・リヴァー・ヴァレー・ボーイズは1959年にケンブリッジで結成されたブルーグラス・バンド。ビル・モンローをルーツに持つこの音楽は、現在まで根強いファンに支えられ徐々に広まっています。彼らは1962年に英国から『ブリンギン・イン・ザ・ジョージア・メール』でアルバム・デビュー。その後、自主制作盤を1,000枚限定で発売。この権利を買って『ブルーグラス・アンド・オールド・タイミー・ミュージック』として発売したのが、プレスティッジ・レーベルでした。その後、同じくプレスティッジから『ブルー・グラス・ゲット・トゥゲザー』を1962年に発売。全米のコーヒー・ハウスやフェスティバルなどで活躍をしていましたが、なかなか思う様に人気は上がらず、エレクトラのプロデューサー、ポール・ロスチャイルドにビートルズのブルーグラス・カバーを送ります。それが「夢の人」と「ワット・ゴーズ・オン」の二曲。そうして1966年に発売したのが本作『ビートル・カントリー』(Elektra / EKL4006)でした。数あるビートルズ・カバー・アルバムの中でも指折りの一作として、熱心なファンには古くから聴き継がれて来た作品として有名です。このカラフルなイラストによるジャケットの魅力もまた手元に持っていたくなる素晴らしさ。1966年という比較的早い時期にありながらも、基本的な部分ではオリジナルに忠実に、しかし無難にこなすような、つまらないアレンジでお茶を濁す事のない意欲的な作品となっています。

ギター、マンドリン、バンジョー、ベース、時にフィドルといったアコースティック楽器によるサウンドで次々に繰り広げられるビートルズ・ソングの数々はたまらない魅力に溢れています。一曲目の「夢の人 」のもの悲しいフィドルによるイントロから始まり、ブルーグラス・ビートへ展開する瞬間はいつ聞いてもワクワクします。また、「イエロー・サブマリン」でのSEを駆使して茶目っ気たっぷりにプレイされる様は本家にも負けない格別の楽しさがあります。

 カントリー・ミュージックを中心に、その神業的なギター・プレイでリスナーを楽しませてくれたギタリストの中のギタリスト、所謂ミュージシャンズ・ミュージシャンとしても沢山のプレイヤーからリスペクトされてきたギター・ヴァーチュオーゾ、チェット・アトキンス。本作『ピックス・オン・ザ・ビ ー ト ル ズ』(RCA Victor / LSM 3531 (mono) / LSP3531 (stereo)はビートルズのカバー・アルバムとして1966年という比較的早い時期に発売された傑作中の傑作。ジャケットのセンスもとても良い。ジョージ・ハリスンがチェットのギター・プレイに影響を受けたことは有名で、本作のオリジナル・ライナー・ノーツはジョージ自身がコメントを寄せています。また、演奏には後にエリア・コード615/ベアフット・ジェリーといったカントリー・ロック・バンドでハーモニカを担当する事になるチャーリー・マッコイが参加しており、彼のプレイはほとんどの曲で聞く事ができます。選曲に関しては時期的な事からも想像できる通り、初期の曲でまとめられており、その中でも「イエスタデイ」のカバーは秀逸。思わずギターをひっぱり出してコピーしたくなるような完璧なギター・プレイ。グレッチのギターから弾き出される艶があってス

ウィートでありながらもエッジの効いたトーンで奏でられるビートルズ・ソングの数々。ギターが歌っているという使い古された表現はまさにこの様なプレイの事を言うのでしょう。BGMとして聞き流すにはあまりにも勿体ない珠玉の一枚。惜しむらくは第2弾の録音をすることが出来ずに2001年6月30日に他界してしまった事だけでしょうか。特にビートルズ後期の楽曲をチェット・アトキンスのキチンと良い音で録音された演奏で聴きたかったと思うのは私だけではないでしょう。

 カウント・ベイシー・オーケストラのスウィング感は、他のどのバンドにもない魅力があります。それを体感するには何はともあれ、まずは、大音量で聴く事でしょうか。凄まじいほどに一丸となって突っ走り、まるで蒸気機関車さえも思い起こさせるようなサウンドとフォー・ビートを生かしたシンプルでありながらもグルーヴィー、かつホットなバンド・アンサンブルが目の前で展開されます。そして各人のソロ・パートの緻密に構築されたフレーズとその音色もそれに一役買っていることでしょう。本作『ベイシーズ・ビートル・バッグ』(Verve / V6-8659)は、1966年5月3日から5日にかけてロサンゼルスで録音されたものです。全曲に渡って編曲を担当しているのが、キューバのハバナ出身のチコ・オファレル。彼はクインシー・ジョーンズや、ニール・ヘフティらと共に、ベイシー・サウンドの特色を生かしたアレンジで、生前のベイシーからもその腕を高く評価していたと伝えられています。収録曲は全12曲。その全てが驚く程にジャズになっており、原曲の素晴らしさと相まってとてつもない幸福感を感じ取る事が出来ます。「イエスタデイ」でビル・ヘンダーソンがヴォーカルを務めている以外はすべてベイ

シー・オーケストラの独壇場。ビートルズ・カバー・アルバムの大傑作であり、恐らくすべてのビートルズ・カバー・アルバムを聞いたとしても5本の指に入るような金字塔と呼べる作品です。

 1976年の大ヒット作『ブリージン』で一般層にも広くその名前が知れ渡ったギタリスト/ヴォーカリスト、ジョージ・ベンソン。本作『ジ・アザー・サイド・オブ・アビー・ロード』(A&M (CTI) / SP-3028)は1969年9月に発売されたビートルズの『アビー・ロード』に収録された曲をジャジー &スムースにカバーした人気盤で、全曲が『アビー・ロード』収録作品。ジャケットはオリジナルをパロディにしていますが、ちょっと捻った感じになっており、おしゃれな雰囲気が漂います。驚くべきは録音された時期で、1969年10月から11月にかけて。ということは一ヶ月そこそこで本作を作り上げてしまったわけです。とてもそうとは思えないアレンジは流石CTI。プロデュースはもちろんクリード・テイラー。ハービー・ハンコック(p)やロン・カーター(b)、フレディ・ハバード(tp)なども参加して演奏に花を添えていますが、ジョージ・ベンソンのギター・プレイと、温かみのある渋いヴォーカルが何とも魅力的。収録曲はほとんどがメドレーで繋がれ、その組み合わせもまた面白いものがあります。中でも「ビコーズ / カム・トゥゲザー」でのファンキーなギター・プレイにはシビれること間違いなしでしょう。そして「サムシング / オクトパス・ガーデン / ジ・エンド」は曲の流れが本当に素晴らしいつなぎで、収録時間が約30分という短さもありアルバムを通して何度も繰り返し聴いてしまう様な作品です。

 現在のアメリカン・ロック・シーンを語るなら絶対に外す事のできないバンドであるPHISH。1983年からバンド活動を始め、結果的に2度の活動休止を経て、2011年現在まで活動を続けているベテランのバンドです。そんな彼らは毎年ハロウィーンの日に他のアーティストのアルバム作品をフル・カバーして披露するのが恒例行事となっています。本作『Live Phish Vol.13』(Elektra /Wea / 62806 (CD only))ではビートルズの『ホワイト・アルバム』をまるごとカバー。残念ながらアルバム最後の「グッド・ナイト」はカバーしていませんが、それでも普通のバンドならやりたくてもやらないか、出来ないのではないでしょうか。1994年10月31日にニューヨークのグレン・フォールズにあるグレン・フォールズ・シヴィック・センターで行われたショウを完全収録したもので、この日はもちろん3セット。「ホワイト・アルバム」をカバーしたのはセカンド・セット。エド・サリヴァンのイントロから「バック・イン・ザ・U.S.S.R.」に繋がる瞬間はいつだって鳥肌モノです!演奏技術だとか、ミスがあるだとかこの演奏を前にしたら無用の長物。そんな事を気にしていたら楽しめません。是非大音量で音に身を任せて、ステージ上の姿を想像して楽しんで欲しいと思っています。ちなみに他の年にはザ・フー『四重人格』(1995)、トーキング・ヘッズ『リメイン・イン・ライト』(1996)、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド『ローデッド』(1998)、ローリング・ストーンズ『メイン・ストリートのならず者』(2009)、リトル・フィート『ウェイティング・フォー・コロンバス』(2010)をカバーしています。気になったショウは是非チェックしてみる事をお勧めしたいと思います。

 日本では2002年6月8日に劇場公開された『アイ・アム・サム』。そのサントラ盤が本作(V2 Records / 27119 (CD only))全編に渡ってビートルズ・ソングを使用している事で、当時随分と話題になりました。知的障害を持つ父親と、幼い娘との純粋な愛を描いた感動作です。父親役は元マドンナの旦那であり『デッドマン・ウォーキング』や『ギター弾きの恋』でも知られるショーン・ペン。このサントラ盤に収録された楽曲はすべてがビートルズ・ソングなのですが、オリジナルの楽曲を使用してしまうと膨大な予算が生じてしまう為、カバー・バージョンという形を取ったということですが、そのお陰でこうした素晴らしいトリビュート盤とも解釈できるサントラが生まれた訳ですから結果オーライといったところでしょうか。ちなみのこのサントラは映画では使用されていないトラックも収録されています。このサントラは、是非映画をご覧になってから聴いてみることをお勧めしたいのですが、いかがでしょう。エイミー・マンによる「トゥ・オブ・アス」やシェリル・クロウの「マザー・ネイチャーズ・サン」、ブラック・クロウズの「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」など聴きごたえのあるカバーが目白押しです。映画を観てからこれらの曲を聞き返すと、その曲が流れたシーンがフラッシュバックされ、余韻に浸る事ができます。個人的に特に印象に残っているのは、ルーシーがサムに嘘を付いてバスに乗り、施設から逃げ出そうとする時に流れるベン・ハーパーによる「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」。そしてまだ映画をご覧になっていない方の為に詳しい描写は避けますが、サラ・マクラクランが歌う「ブラックバード」が流れている一連のシーンは心に残る感動的なシーンです。

 松岡計井子は、1959年に俳優座養成所を卒業し、民芸を経てジャズ・コーラス・グループであるスリー・バブルスのメンバーとして歌手デビュー。スリー・バブルスは三木鶏郎によるCMソング「ミツワ石鹸」を歌ったことで有名でしょうか。このスリー・バブルスのメンバーにはジャズ歌手のホキ徳田も在籍しており、このグループの実力は推して察するべき。ちなみにホキ徳田はあのアメリカ文学の文豪であり、当時46歳年上のヘンリー・ミラーと結婚したことでも有名で、現在もピアノを弾きながら元気に活動を続けているそうです。1970年代よりオリジナルの日本語歌詞によるビートルズのカバーを続けてきたことで有名な松岡計井子ですが、個人的にちょっとした驚きだったのは小さい頃から良く見ていた「ひょっこりひょうたん島」の登場人物、魔女リカの声を担当していたこと。知らないうちに彼女の声に触れていた訳ですね。本作『ビートルズをうたう~愛こそすべて』(東芝音楽工業 Express / EP-7785 / ETP-8169)のオリジナルは1972年に東芝より発売されました。モノクロのポートレイトに絶妙の位置にカラーでアーティスト名とタイトルが記載されたジャケットは、どことなく凄みを感じるジャケットです。本作は彼女のライフ・ワークとでも言えるビートルズを日本語でカバーした作品の第一集です。深みのある声と、抑揚のあるメロディラインにアレンジし、オリジナルのイメージを壊すことなく、松岡計井子の世界として表現されている素晴らしいシリーズとなっています。また、1989年にこれまでに発売されたレコードから厳選して収録したベスト盤CD『松岡計井子 ビートルズをうたう』(CT25-5458)がEMIより発売されました。このCDは全18曲入りでしたが、現在は残念ながら廃盤となってい

ます。これらの作品を聴くにはレコードを探すしか無いかと諦めている方がいたら朗報です!ご存知の方も多いと思いますが、なんとこの作品、iTunesストアで購入可能です(2011年9月現在)!できることならキチンとCDとしてオリジナル通りに(さらに欲を言えば紙ジャケで…)復刻して欲しいのですが、それまではコレで楽しむのもひとつの選択としてアリではないでしょうか。ちなみにこのベスト盤、「愛こそすべて」は未収録となっています…。

 1983年に『アイム・ヒップ - プリーズ・ドント・テル・マイ・ファーザー』でデビューした小粋なスウィング・ジャズ・ギタリスト、ジョン・ピザレリ。本作『ミーツ・ザ・ビートルズ』(RCA Records / BVCJ-37562 (CD only))は1998年にRCAから発売された作品。このジャケットは一見しただけでそれとわかる通り『ア・ハード・デイズ・ナイト』をパロディにしたもので、そこからはビートルズへの愛をひしひしと感じます。収録曲は、ビッグ・バンドをバックにゴージャス感たっぷりにカバーしたものもあれば、ピアノにレイ・ケネディ、ベースにマーティン・ピザレリを迎えたギター・トリオでの演奏や、そこに管楽器でのソロやサポートが入るものもあるなど、バラエティに富んでいます。どれもオリジナリティのあるアレンジが施され、ギター・プレイはもちろんのこと、ちょっと崩したメロディと、その飄々としたヴォーカルにも堪えられない魅力があります。中でも「夢の人 (アイヴ・ジャスト・シーン・ア・フェイス)」は一押しのトラック。元々カントリー /ブルーグラスっぽい曲調のこの曲を、小粋でスウィング感たっぷりのジャジーにアレンジ、それがぱっちりとハマっています。全編を通してワクワクしっぱなしの約45分間。

 超個性的なジャズ・ギタリスト、ビル・フリゼールが全曲ビートルズ・ソングを録音した2011年作品。「アクロス・ザ・ユニヴァース」から、ラストの「ギヴ・ピース・ア・チャンス」まで全16曲。ジャケットからもわかる通り、ビートルズはビートルズでも、ジョン・レノン作曲による曲をカバーしたものになっています。アルバム・タイトルはもちろんジョン・レノンの「ギヴ・ピース・ア・チャンス」の歌詞の一節から取られたもの。このアルバムは、iTunes配信限定で「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」、米Amazon配信限定で「ワーキング・クラス・ヒーロー」の録音もあります。ビートルズ時代の曲、ソロ時代の曲と、そのどれもがビル・フリゼールという強烈なフィルターを通し、全体的にオリジナルよりもグッとテンポを落とした事によって、ジョン・レノンが生み出したメロディ・ラインの美しさがより際立ち、たゆたう様な浮遊感のあるサウンドの上に艶やかなギター・トーンが乗ることによって、今まで聴いた事がなかったような新鮮かつ斬新なカバー・アルバムとなっています。そして、そこに良いアクセントを加えているのが昨今のビル・フリゼール作品には欠かせない女性ヴァイオリニストのジェニー・シェインマンです。マデリン・ペルーからノラ・ジョーンズ、アレサ・フランクリンに至るまで幅広い共演経歴を持っており、ソロ・アルバムも現在までに6枚ほど残しています。ジェニーの弾くヴァイオリンは、ここで実に周りの楽器と混ざり合い、その上しっかりと聴かせるところは聴かせる素晴らしいプレイを聴かせています。例えば「レヴォリューション」におけるサビ前の印象的なリフや、「イン・マイ・ライフ」のオリジナルでジョージ・マーティンが弾いたバロック風の有名なソロなどは個人的には新たな魅力を再

発見できたトラックです。 メンバーは、ビル・フリゼール以下、トニー・シェールのベースとケニー・ウォルセンのドラムスという鉄壁リズム隊に加えて、引く手数多のグレッグ・リーズによるスティール&アコースティック・ギターと、女性ヴァイオリニストのジェニー・シェインマン。彼らの安定感のある演奏がまた聞き手に余計なことを考えさせず、ただその音と音の絡みに身を任せているだけで十分に楽しむことができます。個人的にはこのアルバムを購入してから今日に至るまで未だ飽きることなく、聴き続けてきた愛聴盤となっており、それは今後も変わらないはずです。

 1978年に全米で公開されたビー・ジーズとピーター・フランプトンをメイン・キャストとしたミュージカル映画『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』。その サントラ盤 が 本 作(RSO Records / RS 2-4100)。プロデュースは本家ビートルズを手掛けていたジョージ・マーティンが担当しています。ビー・ジーズとピーター・フランプトンの他にもアース・ウィンド&ファイアー(EWF)、エアロスミス、ビリー・プレストン、アリス・クーパーといった名の知れたミュージシャンによるビートルズ・カバーが聞きどころでしょうか。その中でもシングル・カットされたエアロスミスの「カム・トゥゲザー」はビルボード・シングル・チャートで23位となり、ビリー・プレストンの「ゲット・バック」は同86位、EWFの「ガット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ」は同13位、R&Bチャートでは1位を獲得する大ヒット、ビー・ジーズのロビン・ギブによる「オー! ダーリン」は同15位となるヒットをそれぞれ記録しています。世間的にこの映画自体はB級という評価を甘んじて受けていますが、日本

語字幕付きのDVDにはなっておらず、まだ観た事の無い私としては是非とも観たいというのが正直な所。しかし、国内盤にならないのがその評価を物語っているのでしょうか。いずれにしてもこのサントラ盤は素晴らしいものなのでお勧めです。

 北海道札幌市出身の小山ルミは1952年に、アイルランド人の父と、日本人の母親の元に生まれました。中学生の頃にモデルの仕事を始め、「ビート・ポップス」などにカバー・ガールとして出演し、その日本人離れした美しい顔立ちとコケティッシュな魅力で、あっという間に若者世代のアイドルとなりました。その後、1968年に「はじめてのデート」で歌手デビュー、テイチクに移籍後「さすらいのギター」などがヒット。本作『ビートルズを歌う』(テイチク (UNION) / ULP-2016)は1973年にテイチクより発売されたもので、千家和也による訳詞と、馬飼野康二による編曲で、全曲がオリジナルの日本語詞により歌われています。聞き慣れたはずのビートルズ・ソングが新鮮な印象を伴ってスピーカーから流れ出します。一曲目は今も昔も日本人が大好きな永遠の「レット・イット・ビー」。一聴しただけで分かるその歌の巧さは、まさに特筆すべきもの。「イエスタデイ」や「ヘイ・ジュード」などのバラード曲とロック的な「抱きしめたい」、「プリーズ・プリーズ・ミー」などの曲がバランスよく配置され、途中で中だるみすることなく最後まで聞ける作品。一曲だけ収録されたジョージ・ハリスンの『オール・シングス・マスト・パス』からの「マイ・スウィート・ロード」もまったく違和感なく収まっています。アルバムを通して基本的なアレンジはビートルズのそれを踏襲しており、とても親しみやすく聞きやすい物となっています。

 「やさしく歌って」や「愛は面影の中に」の大ヒットで知られているソウル/ R&Bシンガー、ロバータ・フラック。デビュー作『ファースト・テイク』が発売されたのが1969年。その当時からジーン・マクダニエルズや、レナード・コーエン、イーワン・マッコールの曲を録音し、2ndアルバム『チャプター・トゥー』でもジミー・ウェッブや、ボブ・ディランのカバーを録音していたように、素晴らしいソングライターの曲を選び、それを自分の持ち歌として自然と消化できてしまう才能は、同時代の他のシンガーよりも頭ひとつ秀でていたと思います。そんなロバータですが、前作となる2003年の『ホリデイ』以来、約9年振りに発売された新作は、なんと全曲がビートルズの曲で占められたカバー・アルバムでした。もっとも、本当は2010年にリリース予定だったそうなのですが、なんとも信じがたいことにマスター・テープを入れたスーツケースをタクシーの中に置き忘れるという事件が起きてしまいます。その後そのテープは無事に戻って来るものの、2012年までお蔵入りとなっていました。先行で公開された「恋を抱きしめよう」で聴けるような、いわゆる最近の「R&B」という言葉が示すような洗練されたコンテンポラリーなサウンドに始めは少し驚かされたものの、何度も聴いていく内に、それが実に現在のロバータに似合うというか、不自然なところを感じさせないのが、これまで培ってきたロバータの魅力のひとつなのだと思います。収録曲は、「イン・マイ・ライフ」から「ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア」まで全12曲。国内盤には「君はいずこへ」「イエスタデイ」「ヒア・カムズ・ザ・サン」の3曲がボーナス・トラックとして追加収録されており、珍しい選曲としては『ハード・デイズ・ナイト』に収録されていた「恋する二人」、ジョージ・ハリスンが1970年に発売したLP3枚組の大傑作『オール・

シングス・マスト・パス』に収録されていた「イズント・イット・ア・ピティ」が挙げられるでしょうか。『アビー・ロード』に収録されていた「オー・ダーリン」も比較的珍しいかもしれません。そんな中で個人的に最も気に入っているトラックは、ラストのリフレインはないものの、アコースティック・ギターによるシンプルな音色のバッキングが心地良い「ヘイ・ジュード」です。

 井上宗孝とシャープファイブは、井上 宗孝 (dr)、三根 信 宏 (g)、古 屋 紀 (key)、秋 山 功 (b)、前 田 旭 (g)というその名の通りの5人組。デビューは1965年。シャープ・ホークスのバックバンドとして活躍していたメンバーが井上宗孝の提案により独立、結成。彼らはあのエレキ・ブームの火付け役であったフジテレビの「勝ち抜きエレキ合戦」にレギュラー出演し、寺内タケシとブルージーンズ同様、当時のエレキ・インスト・ブームの牽引役を務めました。特にリード・ギターの三根 信宏の人気は絶大であり、カリスマ的な存在感を示していたと現在まで伝えられているほど。インターネットの記事を見てみると、本作『ビートルズをかき鳴らせ』(キング / SKK243)は1966年7月1日に発売されたと記載してあります。ビートルズの来日公演が同年6月30日と7月1日、2日。つまりどんぴしゃで発売をぶつけてきたわけで、言い方を変えるなら来日記念盤といったところでしょうか。この『ビートルズをかき鳴らせ』は『ザ・サイドワインダー』と2in1の形でP-Vineより2001年にCD化 (PCD1384)され、その後もタイトルを『ロックン・ロールをかき鳴らせ』(KICS1413)として2008年にキングよりリイシューされています。全14曲入りの本作は日本のビートルズ・カバーアルバムの中でも指折りのトリビュート盤と言える作品ではないでしょうか。

粋なヴォーカル&ギターでビートルズをヒップにカバー!

超個性的なジャズ・ギタリスト、ビル・フリゼールのジョン・レノン!

Page 7: ビートルズ 1 カバー・アルバム今から遡ることおよそ半世紀前、1962年10月にレ コード・デビューを果たしたザ・ビートルズ。後に世界中

 今から遡ることおよそ半世紀前、1962年10月にレコード・デビューを果たしたザ・ビートルズ。後に世界中のありとあらゆる人から最高の評価を得ていることは今さら声を大にして語るまでもないでしょう。彼らの曲をカバーした作品は古今東西、それこそジャンルを問わず数知れずありますが、「ザ・ビートルズのカバー・アルバム」と聞いた時、あなたはまず何を思い浮かべるでしょうか。それは、あなたが今日まで聞いてきた音楽遍歴によると思うし、もしかしたらその様なことを特別に意識して聞いてこなかったかもしれません。それ(ザ・ビートルズのカバー・アルバム)を音楽収集の中心に置き、自分の中でプライオリティを上位に設定している人達にとっては何を今さらと思うリストかもしれないけれど、ここはひとつおさらいだと思って軽い気持ちで読んでくれたら嬉しいです。 今、軽い気持ちでと言いましたが、ここに選出した13タイトルは選者自身がどれも素晴らしい作品だと自負してリストアップしたものです。つまり内容はもちろんの事、ジャケットや選曲、録音された年代…。ジャンルに関してはそこまで幅広く選ぶことはできませんでしたが、納得のできるセレクションになったと思います。敢えて王道を外した作品もありますが、ここを入り口として、どれを選んでも外れの無いように心がけたつもりです。もちろん異論、反論、叱咤激励、大歓迎です。もっとも音楽の好みは個人の嗜好によって千差万別、まして相手が超大物ザ・ビートルズと来れば万人受けしないような作品は恐らく数えるほどでしょうし、元の楽曲がどれもこれも素晴らしいだけに一応は聴けてしまうというメリット/デメリットもあるでしょう。いずれにしてもこのリストの中からあなたのお気に入りの一枚を見つけ出して、末永く付き合っていけるような大切な一枚に出会えたとしたら、選者と

してこれ以上に嬉しい事はありません。なお、今回の13タイトルは第1弾の予定です。今後、第2号、第3号と続けていく予定なので、こちらも期待してお待ち頂ければと思います。

 チャールズ・リヴァー・ヴァレー・ボーイズは1959年にケンブリッジで結成されたブルーグラス・バンド。ビル・モンローをルーツに持つこの音楽は、現在まで根強いファンに支えられ徐々に広まっています。彼らは1962年に英国から『ブリンギン・イン・ザ・ジョージア・メール』でアルバム・デビュー。その後、自主制作盤を1,000枚限定で発売。この権利を買って『ブルーグラス・アンド・オールド・タイミー・ミュージック』として発売したのが、プレスティッジ・レーベルでした。その後、同じくプレスティッジから『ブルー・グラス・ゲット・トゥゲザー』を1962年に発売。全米のコーヒー・ハウスやフェスティバルなどで活躍をしていましたが、なかなか思う様に人気は上がらず、エレクトラのプロデューサー、ポール・ロスチャイルドにビートルズのブルーグラス・カバーを送ります。それが「夢の人」と「ワット・ゴーズ・オン」の二曲。そうして1966年に発売したのが本作『ビートル・カントリー』(Elektra / EKL4006)でした。数あるビートルズ・カバー・アルバムの中でも指折りの一作として、熱心なファンには古くから聴き継がれて来た作品として有名です。このカラフルなイラストによるジャケットの魅力もまた手元に持っていたくなる素晴らしさ。1966年という比較的早い時期にありながらも、基本的な部分ではオリジナルに忠実に、しかし無難にこなすような、つまらないアレンジでお茶を濁す事のない意欲的な作品となっています。

ギター、マンドリン、バンジョー、ベース、時にフィドルといったアコースティック楽器によるサウンドで次々に繰り広げられるビートルズ・ソングの数々はたまらない魅力に溢れています。一曲目の「夢の人 」のもの悲しいフィドルによるイントロから始まり、ブルーグラス・ビートへ展開する瞬間はいつ聞いてもワクワクします。また、「イエロー・サブマリン」でのSEを駆使して茶目っ気たっぷりにプレイされる様は本家にも負けない格別の楽しさがあります。

 カントリー・ミュージックを中心に、その神業的なギター・プレイでリスナーを楽しませてくれたギタリストの中のギタリスト、所謂ミュージシャンズ・ミュージシャンとしても沢山のプレイヤーからリスペクトされてきたギター・ヴァーチュオーゾ、チェット・アトキンス。本作『ピックス・オン・ザ・ビ ー ト ル ズ』(RCA Victor / LSM 3531 (mono) / LSP3531 (stereo)はビートルズのカバー・アルバムとして1966年という比較的早い時期に発売された傑作中の傑作。ジャケットのセンスもとても良い。ジョージ・ハリスンがチェットのギター・プレイに影響を受けたことは有名で、本作のオリジナル・ライナー・ノーツはジョージ自身がコメントを寄せています。また、演奏には後にエリア・コード615/ベアフット・ジェリーといったカントリー・ロック・バンドでハーモニカを担当する事になるチャーリー・マッコイが参加しており、彼のプレイはほとんどの曲で聞く事ができます。選曲に関しては時期的な事からも想像できる通り、初期の曲でまとめられており、その中でも「イエスタデイ」のカバーは秀逸。思わずギターをひっぱり出してコピーしたくなるような完璧なギター・プレイ。グレッチのギターから弾き出される艶があってス

ウィートでありながらもエッジの効いたトーンで奏でられるビートルズ・ソングの数々。ギターが歌っているという使い古された表現はまさにこの様なプレイの事を言うのでしょう。BGMとして聞き流すにはあまりにも勿体ない珠玉の一枚。惜しむらくは第2弾の録音をすることが出来ずに2001年6月30日に他界してしまった事だけでしょうか。特にビートルズ後期の楽曲をチェット・アトキンスのキチンと良い音で録音された演奏で聴きたかったと思うのは私だけではないでしょう。

 カウント・ベイシー・オーケストラのスウィング感は、他のどのバンドにもない魅力があります。それを体感するには何はともあれ、まずは、大音量で聴く事でしょうか。凄まじいほどに一丸となって突っ走り、まるで蒸気機関車さえも思い起こさせるようなサウンドとフォー・ビートを生かしたシンプルでありながらもグルーヴィー、かつホットなバンド・アンサンブルが目の前で展開されます。そして各人のソロ・パートの緻密に構築されたフレーズとその音色もそれに一役買っていることでしょう。本作『ベイシーズ・ビートル・バッグ』(Verve / V6-8659)は、1966年5月3日から5日にかけてロサンゼルスで録音されたものです。全曲に渡って編曲を担当しているのが、キューバのハバナ出身のチコ・オファレル。彼はクインシー・ジョーンズや、ニール・ヘフティらと共に、ベイシー・サウンドの特色を生かしたアレンジで、生前のベイシーからもその腕を高く評価していたと伝えられています。収録曲は全12曲。その全てが驚く程にジャズになっており、原曲の素晴らしさと相まってとてつもない幸福感を感じ取る事が出来ます。「イエスタデイ」でビル・ヘンダーソンがヴォーカルを務めている以外はすべてベイ

シー・オーケストラの独壇場。ビートルズ・カバー・アルバムの大傑作であり、恐らくすべてのビートルズ・カバー・アルバムを聞いたとしても5本の指に入るような金字塔と呼べる作品です。

 1976年の大ヒット作『ブリージン』で一般層にも広くその名前が知れ渡ったギタリスト/ヴォーカリスト、ジョージ・ベンソン。本作『ジ・アザー・サイド・オブ・アビー・ロード』(A&M (CTI) / SP-3028)は1969年9月に発売されたビートルズの『アビー・ロード』に収録された曲をジャジー &スムースにカバーした人気盤で、全曲が『アビー・ロード』収録作品。ジャケットはオリジナルをパロディにしていますが、ちょっと捻った感じになっており、おしゃれな雰囲気が漂います。驚くべきは録音された時期で、1969年10月から11月にかけて。ということは一ヶ月そこそこで本作を作り上げてしまったわけです。とてもそうとは思えないアレンジは流石CTI。プロデュースはもちろんクリード・テイラー。ハービー・ハンコック(p)やロン・カーター(b)、フレディ・ハバード(tp)なども参加して演奏に花を添えていますが、ジョージ・ベンソンのギター・プレイと、温かみのある渋いヴォーカルが何とも魅力的。収録曲はほとんどがメドレーで繋がれ、その組み合わせもまた面白いものがあります。中でも「ビコーズ / カム・トゥゲザー」でのファンキーなギター・プレイにはシビれること間違いなしでしょう。そして「サムシング / オクトパス・ガーデン / ジ・エンド」は曲の流れが本当に素晴らしいつなぎで、収録時間が約30分という短さもありアルバムを通して何度も繰り返し聴いてしまう様な作品です。

 現在のアメリカン・ロック・シーンを語るなら絶対に外す事のできないバンドであるPHISH。1983年からバンド活動を始め、結果的に2度の活動休止を経て、2011年現在まで活動を続けているベテランのバンドです。そんな彼らは毎年ハロウィーンの日に他のアーティストのアルバム作品をフル・カバーして披露するのが恒例行事となっています。本作『Live Phish Vol.13』(Elektra /Wea / 62806 (CD only))ではビートルズの『ホワイト・アルバム』をまるごとカバー。残念ながらアルバム最後の「グッド・ナイト」はカバーしていませんが、それでも普通のバンドならやりたくてもやらないか、出来ないのではないでしょうか。1994年10月31日にニューヨークのグレン・フォールズにあるグレン・フォールズ・シヴィック・センターで行われたショウを完全収録したもので、この日はもちろん3セット。「ホワイト・アルバム」をカバーしたのはセカンド・セット。エド・サリヴァンのイントロから「バック・イン・ザ・U.S.S.R.」に繋がる瞬間はいつだって鳥肌モノです!演奏技術だとか、ミスがあるだとかこの演奏を前にしたら無用の長物。そんな事を気にしていたら楽しめません。是非大音量で音に身を任せて、ステージ上の姿を想像して楽しんで欲しいと思っています。ちなみに他の年にはザ・フー『四重人格』(1995)、トーキング・ヘッズ『リメイン・イン・ライト』(1996)、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド『ローデッド』(1998)、ローリング・ストーンズ『メイン・ストリートのならず者』(2009)、リトル・フィート『ウェイティング・フォー・コロンバス』(2010)をカバーしています。気になったショウは是非チェックしてみる事をお勧めしたいと思います。

 日本では2002年6月8日に劇場公開された『アイ・アム・サム』。そのサントラ盤が本作(V2 Records / 27119 (CD only))全編に渡ってビートルズ・ソングを使用している事で、当時随分と話題になりました。知的障害を持つ父親と、幼い娘との純粋な愛を描いた感動作です。父親役は元マドンナの旦那であり『デッドマン・ウォーキング』や『ギター弾きの恋』でも知られるショーン・ペン。このサントラ盤に収録された楽曲はすべてがビートルズ・ソングなのですが、オリジナルの楽曲を使用してしまうと膨大な予算が生じてしまう為、カバー・バージョンという形を取ったということですが、そのお陰でこうした素晴らしいトリビュート盤とも解釈できるサントラが生まれた訳ですから結果オーライといったところでしょうか。ちなみのこのサントラは映画では使用されていないトラックも収録されています。このサントラは、是非映画をご覧になってから聴いてみることをお勧めしたいのですが、いかがでしょう。エイミー・マンによる「トゥ・オブ・アス」やシェリル・クロウの「マザー・ネイチャーズ・サン」、ブラック・クロウズの「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」など聴きごたえのあるカバーが目白押しです。映画を観てからこれらの曲を聞き返すと、その曲が流れたシーンがフラッシュバックされ、余韻に浸る事ができます。個人的に特に印象に残っているのは、ルーシーがサムに嘘を付いてバスに乗り、施設から逃げ出そうとする時に流れるベン・ハーパーによる「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」。そしてまだ映画をご覧になっていない方の為に詳しい描写は避けますが、サラ・マクラクランが歌う「ブラックバード」が流れている一連のシーンは心に残る感動的なシーンです。

 松岡計井子は、1959年に俳優座養成所を卒業し、民芸を経てジャズ・コーラス・グループであるスリー・バブルスのメンバーとして歌手デビュー。スリー・バブルスは三木鶏郎によるCMソング「ミツワ石鹸」を歌ったことで有名でしょうか。このスリー・バブルスのメンバーにはジャズ歌手のホキ徳田も在籍しており、このグループの実力は推して察するべき。ちなみにホキ徳田はあのアメリカ文学の文豪であり、当時46歳年上のヘンリー・ミラーと結婚したことでも有名で、現在もピアノを弾きながら元気に活動を続けているそうです。1970年代よりオリジナルの日本語歌詞によるビートルズのカバーを続けてきたことで有名な松岡計井子ですが、個人的にちょっとした驚きだったのは小さい頃から良く見ていた「ひょっこりひょうたん島」の登場人物、魔女リカの声を担当していたこと。知らないうちに彼女の声に触れていた訳ですね。本作『ビートルズをうたう~愛こそすべて』(東芝音楽工業 Express / EP-7785 / ETP-8169)のオリジナルは1972年に東芝より発売されました。モノクロのポートレイトに絶妙の位置にカラーでアーティスト名とタイトルが記載されたジャケットは、どことなく凄みを感じるジャケットです。本作は彼女のライフ・ワークとでも言えるビートルズを日本語でカバーした作品の第一集です。深みのある声と、抑揚のあるメロディラインにアレンジし、オリジナルのイメージを壊すことなく、松岡計井子の世界として表現されている素晴らしいシリーズとなっています。また、1989年にこれまでに発売されたレコードから厳選して収録したベスト盤CD『松岡計井子 ビートルズをうたう』(CT25-5458)がEMIより発売されました。このCDは全18曲入りでしたが、現在は残念ながら廃盤となってい

ます。これらの作品を聴くにはレコードを探すしか無いかと諦めている方がいたら朗報です!ご存知の方も多いと思いますが、なんとこの作品、iTunesストアで購入可能です(2011年9月現在)!できることならキチンとCDとしてオリジナル通りに(さらに欲を言えば紙ジャケで…)復刻して欲しいのですが、それまではコレで楽しむのもひとつの選択としてアリではないでしょうか。ちなみにこのベスト盤、「愛こそすべて」は未収録となっています…。

 1983年に『アイム・ヒップ - プリーズ・ドント・テル・マイ・ファーザー』でデビューした小粋なスウィング・ジャズ・ギタリスト、ジョン・ピザレリ。本作『ミーツ・ザ・ビートルズ』(RCA Records / BVCJ-37562 (CD only))は1998年にRCAから発売された作品。このジャケットは一見しただけでそれとわかる通り『ア・ハード・デイズ・ナイト』をパロディにしたもので、そこからはビートルズへの愛をひしひしと感じます。収録曲は、ビッグ・バンドをバックにゴージャス感たっぷりにカバーしたものもあれば、ピアノにレイ・ケネディ、ベースにマーティン・ピザレリを迎えたギター・トリオでの演奏や、そこに管楽器でのソロやサポートが入るものもあるなど、バラエティに富んでいます。どれもオリジナリティのあるアレンジが施され、ギター・プレイはもちろんのこと、ちょっと崩したメロディと、その飄々としたヴォーカルにも堪えられない魅力があります。中でも「夢の人 (アイヴ・ジャスト・シーン・ア・フェイス)」は一押しのトラック。元々カントリー /ブルーグラスっぽい曲調のこの曲を、小粋でスウィング感たっぷりのジャジーにアレンジ、それがぱっちりとハマっています。全編を通してワクワクしっぱなしの約45分間。

 超個性的なジャズ・ギタリスト、ビル・フリゼールが全曲ビートルズ・ソングを録音した2011年作品。「アクロス・ザ・ユニヴァース」から、ラストの「ギヴ・ピース・ア・チャンス」まで全16曲。ジャケットからもわかる通り、ビートルズはビートルズでも、ジョン・レノン作曲による曲をカバーしたものになっています。アルバム・タイトルはもちろんジョン・レノンの「ギヴ・ピース・ア・チャンス」の歌詞の一節から取られたもの。このアルバムは、iTunes配信限定で「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」、米Amazon配信限定で「ワーキング・クラス・ヒーロー」の録音もあります。ビートルズ時代の曲、ソロ時代の曲と、そのどれもがビル・フリゼールという強烈なフィルターを通し、全体的にオリジナルよりもグッとテンポを落とした事によって、ジョン・レノンが生み出したメロディ・ラインの美しさがより際立ち、たゆたう様な浮遊感のあるサウンドの上に艶やかなギター・トーンが乗ることによって、今まで聴いた事がなかったような新鮮かつ斬新なカバー・アルバムとなっています。そして、そこに良いアクセントを加えているのが昨今のビル・フリゼール作品には欠かせない女性ヴァイオリニストのジェニー・シェインマンです。マデリン・ペルーからノラ・ジョーンズ、アレサ・フランクリンに至るまで幅広い共演経歴を持っており、ソロ・アルバムも現在までに6枚ほど残しています。ジェニーの弾くヴァイオリンは、ここで実に周りの楽器と混ざり合い、その上しっかりと聴かせるところは聴かせる素晴らしいプレイを聴かせています。例えば「レヴォリューション」におけるサビ前の印象的なリフや、「イン・マイ・ライフ」のオリジナルでジョージ・マーティンが弾いたバロック風の有名なソロなどは個人的には新たな魅力を再

発見できたトラックです。 メンバーは、ビル・フリゼール以下、トニー・シェールのベースとケニー・ウォルセンのドラムスという鉄壁リズム隊に加えて、引く手数多のグレッグ・リーズによるスティール&アコースティック・ギターと、女性ヴァイオリニストのジェニー・シェインマン。彼らの安定感のある演奏がまた聞き手に余計なことを考えさせず、ただその音と音の絡みに身を任せているだけで十分に楽しむことができます。個人的にはこのアルバムを購入してから今日に至るまで未だ飽きることなく、聴き続けてきた愛聴盤となっており、それは今後も変わらないはずです。

 1978年に全米で公開されたビー・ジーズとピーター・フランプトンをメイン・キャストとしたミュージカル映画『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』。その サントラ盤 が 本 作(RSO Records / RS 2-4100)。プロデュースは本家ビートルズを手掛けていたジョージ・マーティンが担当しています。ビー・ジーズとピーター・フランプトンの他にもアース・ウィンド&ファイアー(EWF)、エアロスミス、ビリー・プレストン、アリス・クーパーといった名の知れたミュージシャンによるビートルズ・カバーが聞きどころでしょうか。その中でもシングル・カットされたエアロスミスの「カム・トゥゲザー」はビルボード・シングル・チャートで23位となり、ビリー・プレストンの「ゲット・バック」は同86位、EWFの「ガット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ」は同13位、R&Bチャートでは1位を獲得する大ヒット、ビー・ジーズのロビン・ギブによる「オー! ダーリン」は同15位となるヒットをそれぞれ記録しています。世間的にこの映画自体はB級という評価を甘んじて受けていますが、日本

語字幕付きのDVDにはなっておらず、まだ観た事の無い私としては是非とも観たいというのが正直な所。しかし、国内盤にならないのがその評価を物語っているのでしょうか。いずれにしてもこのサントラ盤は素晴らしいものなのでお勧めです。

 北海道札幌市出身の小山ルミは1952年に、アイルランド人の父と、日本人の母親の元に生まれました。中学生の頃にモデルの仕事を始め、「ビート・ポップス」などにカバー・ガールとして出演し、その日本人離れした美しい顔立ちとコケティッシュな魅力で、あっという間に若者世代のアイドルとなりました。その後、1968年に「はじめてのデート」で歌手デビュー、テイチクに移籍後「さすらいのギター」などがヒット。本作『ビートルズを歌う』(テイチク (UNION) / ULP-2016)は1973年にテイチクより発売されたもので、千家和也による訳詞と、馬飼野康二による編曲で、全曲がオリジナルの日本語詞により歌われています。聞き慣れたはずのビートルズ・ソングが新鮮な印象を伴ってスピーカーから流れ出します。一曲目は今も昔も日本人が大好きな永遠の「レット・イット・ビー」。一聴しただけで分かるその歌の巧さは、まさに特筆すべきもの。「イエスタデイ」や「ヘイ・ジュード」などのバラード曲とロック的な「抱きしめたい」、「プリーズ・プリーズ・ミー」などの曲がバランスよく配置され、途中で中だるみすることなく最後まで聞ける作品。一曲だけ収録されたジョージ・ハリスンの『オール・シングス・マスト・パス』からの「マイ・スウィート・ロード」もまったく違和感なく収まっています。アルバムを通して基本的なアレンジはビートルズのそれを踏襲しており、とても親しみやすく聞きやすい物となっています。

 「やさしく歌って」や「愛は面影の中に」の大ヒットで知られているソウル/ R&Bシンガー、ロバータ・フラック。デビュー作『ファースト・テイク』が発売されたのが1969年。その当時からジーン・マクダニエルズや、レナード・コーエン、イーワン・マッコールの曲を録音し、2ndアルバム『チャプター・トゥー』でもジミー・ウェッブや、ボブ・ディランのカバーを録音していたように、素晴らしいソングライターの曲を選び、それを自分の持ち歌として自然と消化できてしまう才能は、同時代の他のシンガーよりも頭ひとつ秀でていたと思います。そんなロバータですが、前作となる2003年の『ホリデイ』以来、約9年振りに発売された新作は、なんと全曲がビートルズの曲で占められたカバー・アルバムでした。もっとも、本当は2010年にリリース予定だったそうなのですが、なんとも信じがたいことにマスター・テープを入れたスーツケースをタクシーの中に置き忘れるという事件が起きてしまいます。その後そのテープは無事に戻って来るものの、2012年までお蔵入りとなっていました。先行で公開された「恋を抱きしめよう」で聴けるような、いわゆる最近の「R&B」という言葉が示すような洗練されたコンテンポラリーなサウンドに始めは少し驚かされたものの、何度も聴いていく内に、それが実に現在のロバータに似合うというか、不自然なところを感じさせないのが、これまで培ってきたロバータの魅力のひとつなのだと思います。収録曲は、「イン・マイ・ライフ」から「ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア」まで全12曲。国内盤には「君はいずこへ」「イエスタデイ」「ヒア・カムズ・ザ・サン」の3曲がボーナス・トラックとして追加収録されており、珍しい選曲としては『ハード・デイズ・ナイト』に収録されていた「恋する二人」、ジョージ・ハリスンが1970年に発売したLP3枚組の大傑作『オール・

シングス・マスト・パス』に収録されていた「イズント・イット・ア・ピティ」が挙げられるでしょうか。『アビー・ロード』に収録されていた「オー・ダーリン」も比較的珍しいかもしれません。そんな中で個人的に最も気に入っているトラックは、ラストのリフレインはないものの、アコースティック・ギターによるシンプルな音色のバッキングが心地良い「ヘイ・ジュード」です。

 井上宗孝とシャープファイブは、井上 宗孝 (dr)、三根 信 宏 (g)、古 屋 紀 (key)、秋 山 功 (b)、前 田 旭 (g)というその名の通りの5人組。デビューは1965年。シャープ・ホークスのバックバンドとして活躍していたメンバーが井上宗孝の提案により独立、結成。彼らはあのエレキ・ブームの火付け役であったフジテレビの「勝ち抜きエレキ合戦」にレギュラー出演し、寺内タケシとブルージーンズ同様、当時のエレキ・インスト・ブームの牽引役を務めました。特にリード・ギターの三根 信宏の人気は絶大であり、カリスマ的な存在感を示していたと現在まで伝えられているほど。インターネットの記事を見てみると、本作『ビートルズをかき鳴らせ』(キング / SKK243)は1966年7月1日に発売されたと記載してあります。ビートルズの来日公演が同年6月30日と7月1日、2日。つまりどんぴしゃで発売をぶつけてきたわけで、言い方を変えるなら来日記念盤といったところでしょうか。この『ビートルズをかき鳴らせ』は『ザ・サイドワインダー』と2in1の形でP-Vineより2001年にCD化 (PCD1384)され、その後もタイトルを『ロックン・ロールをかき鳴らせ』(KICS1413)として2008年にキングよりリイシューされています。全14曲入りの本作は日本のビートルズ・カバーアルバムの中でも指折りのトリビュート盤と言える作品ではないでしょうか。

映画はB級(?)でも、サントラは特A級の名作!

カルト歌謡の最高峰!ビートルズの曲をモンドにカバー!

Page 8: ビートルズ 1 カバー・アルバム今から遡ることおよそ半世紀前、1962年10月にレ コード・デビューを果たしたザ・ビートルズ。後に世界中

 今から遡ることおよそ半世紀前、1962年10月にレコード・デビューを果たしたザ・ビートルズ。後に世界中のありとあらゆる人から最高の評価を得ていることは今さら声を大にして語るまでもないでしょう。彼らの曲をカバーした作品は古今東西、それこそジャンルを問わず数知れずありますが、「ザ・ビートルズのカバー・アルバム」と聞いた時、あなたはまず何を思い浮かべるでしょうか。それは、あなたが今日まで聞いてきた音楽遍歴によると思うし、もしかしたらその様なことを特別に意識して聞いてこなかったかもしれません。それ(ザ・ビートルズのカバー・アルバム)を音楽収集の中心に置き、自分の中でプライオリティを上位に設定している人達にとっては何を今さらと思うリストかもしれないけれど、ここはひとつおさらいだと思って軽い気持ちで読んでくれたら嬉しいです。 今、軽い気持ちでと言いましたが、ここに選出した13タイトルは選者自身がどれも素晴らしい作品だと自負してリストアップしたものです。つまり内容はもちろんの事、ジャケットや選曲、録音された年代…。ジャンルに関してはそこまで幅広く選ぶことはできませんでしたが、納得のできるセレクションになったと思います。敢えて王道を外した作品もありますが、ここを入り口として、どれを選んでも外れの無いように心がけたつもりです。もちろん異論、反論、叱咤激励、大歓迎です。もっとも音楽の好みは個人の嗜好によって千差万別、まして相手が超大物ザ・ビートルズと来れば万人受けしないような作品は恐らく数えるほどでしょうし、元の楽曲がどれもこれも素晴らしいだけに一応は聴けてしまうというメリット/デメリットもあるでしょう。いずれにしてもこのリストの中からあなたのお気に入りの一枚を見つけ出して、末永く付き合っていけるような大切な一枚に出会えたとしたら、選者と

してこれ以上に嬉しい事はありません。なお、今回の13タイトルは第1弾の予定です。今後、第2号、第3号と続けていく予定なので、こちらも期待してお待ち頂ければと思います。

 チャールズ・リヴァー・ヴァレー・ボーイズは1959年にケンブリッジで結成されたブルーグラス・バンド。ビル・モンローをルーツに持つこの音楽は、現在まで根強いファンに支えられ徐々に広まっています。彼らは1962年に英国から『ブリンギン・イン・ザ・ジョージア・メール』でアルバム・デビュー。その後、自主制作盤を1,000枚限定で発売。この権利を買って『ブルーグラス・アンド・オールド・タイミー・ミュージック』として発売したのが、プレスティッジ・レーベルでした。その後、同じくプレスティッジから『ブルー・グラス・ゲット・トゥゲザー』を1962年に発売。全米のコーヒー・ハウスやフェスティバルなどで活躍をしていましたが、なかなか思う様に人気は上がらず、エレクトラのプロデューサー、ポール・ロスチャイルドにビートルズのブルーグラス・カバーを送ります。それが「夢の人」と「ワット・ゴーズ・オン」の二曲。そうして1966年に発売したのが本作『ビートル・カントリー』(Elektra / EKL4006)でした。数あるビートルズ・カバー・アルバムの中でも指折りの一作として、熱心なファンには古くから聴き継がれて来た作品として有名です。このカラフルなイラストによるジャケットの魅力もまた手元に持っていたくなる素晴らしさ。1966年という比較的早い時期にありながらも、基本的な部分ではオリジナルに忠実に、しかし無難にこなすような、つまらないアレンジでお茶を濁す事のない意欲的な作品となっています。

ギター、マンドリン、バンジョー、ベース、時にフィドルといったアコースティック楽器によるサウンドで次々に繰り広げられるビートルズ・ソングの数々はたまらない魅力に溢れています。一曲目の「夢の人 」のもの悲しいフィドルによるイントロから始まり、ブルーグラス・ビートへ展開する瞬間はいつ聞いてもワクワクします。また、「イエロー・サブマリン」でのSEを駆使して茶目っ気たっぷりにプレイされる様は本家にも負けない格別の楽しさがあります。

 カントリー・ミュージックを中心に、その神業的なギター・プレイでリスナーを楽しませてくれたギタリストの中のギタリスト、所謂ミュージシャンズ・ミュージシャンとしても沢山のプレイヤーからリスペクトされてきたギター・ヴァーチュオーゾ、チェット・アトキンス。本作『ピックス・オン・ザ・ビ ー ト ル ズ』(RCA Victor / LSM 3531 (mono) / LSP3531 (stereo)はビートルズのカバー・アルバムとして1966年という比較的早い時期に発売された傑作中の傑作。ジャケットのセンスもとても良い。ジョージ・ハリスンがチェットのギター・プレイに影響を受けたことは有名で、本作のオリジナル・ライナー・ノーツはジョージ自身がコメントを寄せています。また、演奏には後にエリア・コード615/ベアフット・ジェリーといったカントリー・ロック・バンドでハーモニカを担当する事になるチャーリー・マッコイが参加しており、彼のプレイはほとんどの曲で聞く事ができます。選曲に関しては時期的な事からも想像できる通り、初期の曲でまとめられており、その中でも「イエスタデイ」のカバーは秀逸。思わずギターをひっぱり出してコピーしたくなるような完璧なギター・プレイ。グレッチのギターから弾き出される艶があってス

ウィートでありながらもエッジの効いたトーンで奏でられるビートルズ・ソングの数々。ギターが歌っているという使い古された表現はまさにこの様なプレイの事を言うのでしょう。BGMとして聞き流すにはあまりにも勿体ない珠玉の一枚。惜しむらくは第2弾の録音をすることが出来ずに2001年6月30日に他界してしまった事だけでしょうか。特にビートルズ後期の楽曲をチェット・アトキンスのキチンと良い音で録音された演奏で聴きたかったと思うのは私だけではないでしょう。

 カウント・ベイシー・オーケストラのスウィング感は、他のどのバンドにもない魅力があります。それを体感するには何はともあれ、まずは、大音量で聴く事でしょうか。凄まじいほどに一丸となって突っ走り、まるで蒸気機関車さえも思い起こさせるようなサウンドとフォー・ビートを生かしたシンプルでありながらもグルーヴィー、かつホットなバンド・アンサンブルが目の前で展開されます。そして各人のソロ・パートの緻密に構築されたフレーズとその音色もそれに一役買っていることでしょう。本作『ベイシーズ・ビートル・バッグ』(Verve / V6-8659)は、1966年5月3日から5日にかけてロサンゼルスで録音されたものです。全曲に渡って編曲を担当しているのが、キューバのハバナ出身のチコ・オファレル。彼はクインシー・ジョーンズや、ニール・ヘフティらと共に、ベイシー・サウンドの特色を生かしたアレンジで、生前のベイシーからもその腕を高く評価していたと伝えられています。収録曲は全12曲。その全てが驚く程にジャズになっており、原曲の素晴らしさと相まってとてつもない幸福感を感じ取る事が出来ます。「イエスタデイ」でビル・ヘンダーソンがヴォーカルを務めている以外はすべてベイ

シー・オーケストラの独壇場。ビートルズ・カバー・アルバムの大傑作であり、恐らくすべてのビートルズ・カバー・アルバムを聞いたとしても5本の指に入るような金字塔と呼べる作品です。

 1976年の大ヒット作『ブリージン』で一般層にも広くその名前が知れ渡ったギタリスト/ヴォーカリスト、ジョージ・ベンソン。本作『ジ・アザー・サイド・オブ・アビー・ロード』(A&M (CTI) / SP-3028)は1969年9月に発売されたビートルズの『アビー・ロード』に収録された曲をジャジー &スムースにカバーした人気盤で、全曲が『アビー・ロード』収録作品。ジャケットはオリジナルをパロディにしていますが、ちょっと捻った感じになっており、おしゃれな雰囲気が漂います。驚くべきは録音された時期で、1969年10月から11月にかけて。ということは一ヶ月そこそこで本作を作り上げてしまったわけです。とてもそうとは思えないアレンジは流石CTI。プロデュースはもちろんクリード・テイラー。ハービー・ハンコック(p)やロン・カーター(b)、フレディ・ハバード(tp)なども参加して演奏に花を添えていますが、ジョージ・ベンソンのギター・プレイと、温かみのある渋いヴォーカルが何とも魅力的。収録曲はほとんどがメドレーで繋がれ、その組み合わせもまた面白いものがあります。中でも「ビコーズ / カム・トゥゲザー」でのファンキーなギター・プレイにはシビれること間違いなしでしょう。そして「サムシング / オクトパス・ガーデン / ジ・エンド」は曲の流れが本当に素晴らしいつなぎで、収録時間が約30分という短さもありアルバムを通して何度も繰り返し聴いてしまう様な作品です。

 現在のアメリカン・ロック・シーンを語るなら絶対に外す事のできないバンドであるPHISH。1983年からバンド活動を始め、結果的に2度の活動休止を経て、2011年現在まで活動を続けているベテランのバンドです。そんな彼らは毎年ハロウィーンの日に他のアーティストのアルバム作品をフル・カバーして披露するのが恒例行事となっています。本作『Live Phish Vol.13』(Elektra /Wea / 62806 (CD only))ではビートルズの『ホワイト・アルバム』をまるごとカバー。残念ながらアルバム最後の「グッド・ナイト」はカバーしていませんが、それでも普通のバンドならやりたくてもやらないか、出来ないのではないでしょうか。1994年10月31日にニューヨークのグレン・フォールズにあるグレン・フォールズ・シヴィック・センターで行われたショウを完全収録したもので、この日はもちろん3セット。「ホワイト・アルバム」をカバーしたのはセカンド・セット。エド・サリヴァンのイントロから「バック・イン・ザ・U.S.S.R.」に繋がる瞬間はいつだって鳥肌モノです!演奏技術だとか、ミスがあるだとかこの演奏を前にしたら無用の長物。そんな事を気にしていたら楽しめません。是非大音量で音に身を任せて、ステージ上の姿を想像して楽しんで欲しいと思っています。ちなみに他の年にはザ・フー『四重人格』(1995)、トーキング・ヘッズ『リメイン・イン・ライト』(1996)、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド『ローデッド』(1998)、ローリング・ストーンズ『メイン・ストリートのならず者』(2009)、リトル・フィート『ウェイティング・フォー・コロンバス』(2010)をカバーしています。気になったショウは是非チェックしてみる事をお勧めしたいと思います。

 日本では2002年6月8日に劇場公開された『アイ・アム・サム』。そのサントラ盤が本作(V2 Records / 27119 (CD only))全編に渡ってビートルズ・ソングを使用している事で、当時随分と話題になりました。知的障害を持つ父親と、幼い娘との純粋な愛を描いた感動作です。父親役は元マドンナの旦那であり『デッドマン・ウォーキング』や『ギター弾きの恋』でも知られるショーン・ペン。このサントラ盤に収録された楽曲はすべてがビートルズ・ソングなのですが、オリジナルの楽曲を使用してしまうと膨大な予算が生じてしまう為、カバー・バージョンという形を取ったということですが、そのお陰でこうした素晴らしいトリビュート盤とも解釈できるサントラが生まれた訳ですから結果オーライといったところでしょうか。ちなみのこのサントラは映画では使用されていないトラックも収録されています。このサントラは、是非映画をご覧になってから聴いてみることをお勧めしたいのですが、いかがでしょう。エイミー・マンによる「トゥ・オブ・アス」やシェリル・クロウの「マザー・ネイチャーズ・サン」、ブラック・クロウズの「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」など聴きごたえのあるカバーが目白押しです。映画を観てからこれらの曲を聞き返すと、その曲が流れたシーンがフラッシュバックされ、余韻に浸る事ができます。個人的に特に印象に残っているのは、ルーシーがサムに嘘を付いてバスに乗り、施設から逃げ出そうとする時に流れるベン・ハーパーによる「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」。そしてまだ映画をご覧になっていない方の為に詳しい描写は避けますが、サラ・マクラクランが歌う「ブラックバード」が流れている一連のシーンは心に残る感動的なシーンです。

 松岡計井子は、1959年に俳優座養成所を卒業し、民芸を経てジャズ・コーラス・グループであるスリー・バブルスのメンバーとして歌手デビュー。スリー・バブルスは三木鶏郎によるCMソング「ミツワ石鹸」を歌ったことで有名でしょうか。このスリー・バブルスのメンバーにはジャズ歌手のホキ徳田も在籍しており、このグループの実力は推して察するべき。ちなみにホキ徳田はあのアメリカ文学の文豪であり、当時46歳年上のヘンリー・ミラーと結婚したことでも有名で、現在もピアノを弾きながら元気に活動を続けているそうです。1970年代よりオリジナルの日本語歌詞によるビートルズのカバーを続けてきたことで有名な松岡計井子ですが、個人的にちょっとした驚きだったのは小さい頃から良く見ていた「ひょっこりひょうたん島」の登場人物、魔女リカの声を担当していたこと。知らないうちに彼女の声に触れていた訳ですね。本作『ビートルズをうたう~愛こそすべて』(東芝音楽工業 Express / EP-7785 / ETP-8169)のオリジナルは1972年に東芝より発売されました。モノクロのポートレイトに絶妙の位置にカラーでアーティスト名とタイトルが記載されたジャケットは、どことなく凄みを感じるジャケットです。本作は彼女のライフ・ワークとでも言えるビートルズを日本語でカバーした作品の第一集です。深みのある声と、抑揚のあるメロディラインにアレンジし、オリジナルのイメージを壊すことなく、松岡計井子の世界として表現されている素晴らしいシリーズとなっています。また、1989年にこれまでに発売されたレコードから厳選して収録したベスト盤CD『松岡計井子 ビートルズをうたう』(CT25-5458)がEMIより発売されました。このCDは全18曲入りでしたが、現在は残念ながら廃盤となってい

ます。これらの作品を聴くにはレコードを探すしか無いかと諦めている方がいたら朗報です!ご存知の方も多いと思いますが、なんとこの作品、iTunesストアで購入可能です(2011年9月現在)!できることならキチンとCDとしてオリジナル通りに(さらに欲を言えば紙ジャケで…)復刻して欲しいのですが、それまではコレで楽しむのもひとつの選択としてアリではないでしょうか。ちなみにこのベスト盤、「愛こそすべて」は未収録となっています…。

 1983年に『アイム・ヒップ - プリーズ・ドント・テル・マイ・ファーザー』でデビューした小粋なスウィング・ジャズ・ギタリスト、ジョン・ピザレリ。本作『ミーツ・ザ・ビートルズ』(RCA Records / BVCJ-37562 (CD only))は1998年にRCAから発売された作品。このジャケットは一見しただけでそれとわかる通り『ア・ハード・デイズ・ナイト』をパロディにしたもので、そこからはビートルズへの愛をひしひしと感じます。収録曲は、ビッグ・バンドをバックにゴージャス感たっぷりにカバーしたものもあれば、ピアノにレイ・ケネディ、ベースにマーティン・ピザレリを迎えたギター・トリオでの演奏や、そこに管楽器でのソロやサポートが入るものもあるなど、バラエティに富んでいます。どれもオリジナリティのあるアレンジが施され、ギター・プレイはもちろんのこと、ちょっと崩したメロディと、その飄々としたヴォーカルにも堪えられない魅力があります。中でも「夢の人 (アイヴ・ジャスト・シーン・ア・フェイス)」は一押しのトラック。元々カントリー /ブルーグラスっぽい曲調のこの曲を、小粋でスウィング感たっぷりのジャジーにアレンジ、それがぱっちりとハマっています。全編を通してワクワクしっぱなしの約45分間。

 超個性的なジャズ・ギタリスト、ビル・フリゼールが全曲ビートルズ・ソングを録音した2011年作品。「アクロス・ザ・ユニヴァース」から、ラストの「ギヴ・ピース・ア・チャンス」まで全16曲。ジャケットからもわかる通り、ビートルズはビートルズでも、ジョン・レノン作曲による曲をカバーしたものになっています。アルバム・タイトルはもちろんジョン・レノンの「ギヴ・ピース・ア・チャンス」の歌詞の一節から取られたもの。このアルバムは、iTunes配信限定で「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」、米Amazon配信限定で「ワーキング・クラス・ヒーロー」の録音もあります。ビートルズ時代の曲、ソロ時代の曲と、そのどれもがビル・フリゼールという強烈なフィルターを通し、全体的にオリジナルよりもグッとテンポを落とした事によって、ジョン・レノンが生み出したメロディ・ラインの美しさがより際立ち、たゆたう様な浮遊感のあるサウンドの上に艶やかなギター・トーンが乗ることによって、今まで聴いた事がなかったような新鮮かつ斬新なカバー・アルバムとなっています。そして、そこに良いアクセントを加えているのが昨今のビル・フリゼール作品には欠かせない女性ヴァイオリニストのジェニー・シェインマンです。マデリン・ペルーからノラ・ジョーンズ、アレサ・フランクリンに至るまで幅広い共演経歴を持っており、ソロ・アルバムも現在までに6枚ほど残しています。ジェニーの弾くヴァイオリンは、ここで実に周りの楽器と混ざり合い、その上しっかりと聴かせるところは聴かせる素晴らしいプレイを聴かせています。例えば「レヴォリューション」におけるサビ前の印象的なリフや、「イン・マイ・ライフ」のオリジナルでジョージ・マーティンが弾いたバロック風の有名なソロなどは個人的には新たな魅力を再

発見できたトラックです。 メンバーは、ビル・フリゼール以下、トニー・シェールのベースとケニー・ウォルセンのドラムスという鉄壁リズム隊に加えて、引く手数多のグレッグ・リーズによるスティール&アコースティック・ギターと、女性ヴァイオリニストのジェニー・シェインマン。彼らの安定感のある演奏がまた聞き手に余計なことを考えさせず、ただその音と音の絡みに身を任せているだけで十分に楽しむことができます。個人的にはこのアルバムを購入してから今日に至るまで未だ飽きることなく、聴き続けてきた愛聴盤となっており、それは今後も変わらないはずです。

 1978年に全米で公開されたビー・ジーズとピーター・フランプトンをメイン・キャストとしたミュージカル映画『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』。その サントラ盤 が 本 作(RSO Records / RS 2-4100)。プロデュースは本家ビートルズを手掛けていたジョージ・マーティンが担当しています。ビー・ジーズとピーター・フランプトンの他にもアース・ウィンド&ファイアー(EWF)、エアロスミス、ビリー・プレストン、アリス・クーパーといった名の知れたミュージシャンによるビートルズ・カバーが聞きどころでしょうか。その中でもシングル・カットされたエアロスミスの「カム・トゥゲザー」はビルボード・シングル・チャートで23位となり、ビリー・プレストンの「ゲット・バック」は同86位、EWFの「ガット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ」は同13位、R&Bチャートでは1位を獲得する大ヒット、ビー・ジーズのロビン・ギブによる「オー! ダーリン」は同15位となるヒットをそれぞれ記録しています。世間的にこの映画自体はB級という評価を甘んじて受けていますが、日本

語字幕付きのDVDにはなっておらず、まだ観た事の無い私としては是非とも観たいというのが正直な所。しかし、国内盤にならないのがその評価を物語っているのでしょうか。いずれにしてもこのサントラ盤は素晴らしいものなのでお勧めです。

 北海道札幌市出身の小山ルミは1952年に、アイルランド人の父と、日本人の母親の元に生まれました。中学生の頃にモデルの仕事を始め、「ビート・ポップス」などにカバー・ガールとして出演し、その日本人離れした美しい顔立ちとコケティッシュな魅力で、あっという間に若者世代のアイドルとなりました。その後、1968年に「はじめてのデート」で歌手デビュー、テイチクに移籍後「さすらいのギター」などがヒット。本作『ビートルズを歌う』(テイチク (UNION) / ULP-2016)は1973年にテイチクより発売されたもので、千家和也による訳詞と、馬飼野康二による編曲で、全曲がオリジナルの日本語詞により歌われています。聞き慣れたはずのビートルズ・ソングが新鮮な印象を伴ってスピーカーから流れ出します。一曲目は今も昔も日本人が大好きな永遠の「レット・イット・ビー」。一聴しただけで分かるその歌の巧さは、まさに特筆すべきもの。「イエスタデイ」や「ヘイ・ジュード」などのバラード曲とロック的な「抱きしめたい」、「プリーズ・プリーズ・ミー」などの曲がバランスよく配置され、途中で中だるみすることなく最後まで聞ける作品。一曲だけ収録されたジョージ・ハリスンの『オール・シングス・マスト・パス』からの「マイ・スウィート・ロード」もまったく違和感なく収まっています。アルバムを通して基本的なアレンジはビートルズのそれを踏襲しており、とても親しみやすく聞きやすい物となっています。

 「やさしく歌って」や「愛は面影の中に」の大ヒットで知られているソウル/ R&Bシンガー、ロバータ・フラック。デビュー作『ファースト・テイク』が発売されたのが1969年。その当時からジーン・マクダニエルズや、レナード・コーエン、イーワン・マッコールの曲を録音し、2ndアルバム『チャプター・トゥー』でもジミー・ウェッブや、ボブ・ディランのカバーを録音していたように、素晴らしいソングライターの曲を選び、それを自分の持ち歌として自然と消化できてしまう才能は、同時代の他のシンガーよりも頭ひとつ秀でていたと思います。そんなロバータですが、前作となる2003年の『ホリデイ』以来、約9年振りに発売された新作は、なんと全曲がビートルズの曲で占められたカバー・アルバムでした。もっとも、本当は2010年にリリース予定だったそうなのですが、なんとも信じがたいことにマスター・テープを入れたスーツケースをタクシーの中に置き忘れるという事件が起きてしまいます。その後そのテープは無事に戻って来るものの、2012年までお蔵入りとなっていました。先行で公開された「恋を抱きしめよう」で聴けるような、いわゆる最近の「R&B」という言葉が示すような洗練されたコンテンポラリーなサウンドに始めは少し驚かされたものの、何度も聴いていく内に、それが実に現在のロバータに似合うというか、不自然なところを感じさせないのが、これまで培ってきたロバータの魅力のひとつなのだと思います。収録曲は、「イン・マイ・ライフ」から「ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア」まで全12曲。国内盤には「君はいずこへ」「イエスタデイ」「ヒア・カムズ・ザ・サン」の3曲がボーナス・トラックとして追加収録されており、珍しい選曲としては『ハード・デイズ・ナイト』に収録されていた「恋する二人」、ジョージ・ハリスンが1970年に発売したLP3枚組の大傑作『オール・

シングス・マスト・パス』に収録されていた「イズント・イット・ア・ピティ」が挙げられるでしょうか。『アビー・ロード』に収録されていた「オー・ダーリン」も比較的珍しいかもしれません。そんな中で個人的に最も気に入っているトラックは、ラストのリフレインはないものの、アコースティック・ギターによるシンプルな音色のバッキングが心地良い「ヘイ・ジュード」です。

 井上宗孝とシャープファイブは、井上 宗孝 (dr)、三根 信 宏 (g)、古 屋 紀 (key)、秋 山 功 (b)、前 田 旭 (g)というその名の通りの5人組。デビューは1965年。シャープ・ホークスのバックバンドとして活躍していたメンバーが井上宗孝の提案により独立、結成。彼らはあのエレキ・ブームの火付け役であったフジテレビの「勝ち抜きエレキ合戦」にレギュラー出演し、寺内タケシとブルージーンズ同様、当時のエレキ・インスト・ブームの牽引役を務めました。特にリード・ギターの三根 信宏の人気は絶大であり、カリスマ的な存在感を示していたと現在まで伝えられているほど。インターネットの記事を見てみると、本作『ビートルズをかき鳴らせ』(キング / SKK243)は1966年7月1日に発売されたと記載してあります。ビートルズの来日公演が同年6月30日と7月1日、2日。つまりどんぴしゃで発売をぶつけてきたわけで、言い方を変えるなら来日記念盤といったところでしょうか。この『ビートルズをかき鳴らせ』は『ザ・サイドワインダー』と2in1の形でP-Vineより2001年にCD化 (PCD1384)され、その後もタイトルを『ロックン・ロールをかき鳴らせ』(KICS1413)として2008年にキングよりリイシューされています。全14曲入りの本作は日本のビートルズ・カバーアルバムの中でも指折りのトリビュート盤と言える作品ではないでしょうか。

洗練されたサウンドに乗せてロバータ・フラックが唄うビートルズ!

日本が誇る指折りGSバンドによるビートルズ・カバー!

Page 9: ビートルズ 1 カバー・アルバム今から遡ることおよそ半世紀前、1962年10月にレ コード・デビューを果たしたザ・ビートルズ。後に世界中

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芽瑠璃道M E R U R I R O A D

 芽瑠璃堂のルーツを考える。それを端的に語るなら、吉祥寺の中道商店街に借りた小さな小さな三畳間程度の広さで、お客さんが3人も入れば一杯になるような店を始めたのが起源であることに間違いはない。 最近、さらにその先のルーツは何だろうと考えていて、ふと、思い浮かんだことがある。それは、僕が21歳の頃、高校卒業後に組んだバンドの連中と、憧れであったアメリカへ音楽探究の旅に出て、そこに半年以上滞在したことでないだろうかと思い当たった。それは今から38年前のことで、1973年の夏だった。 それはそれは昔の話しで恐縮だが、僕は高校3年の時からアメリカ音楽、特にブルースの魅力にはまり、どうしても自分の目と耳で本場の音楽を体験したくなった。そうして、アメリカに渡る計画を立て始めたのがすべての始まりだ。計画してから資金が貯まるまで2年、遂に計画は実行へ移された。今でこそ、飛行機という安くて便利なものがあるが、その当時は船が一番安かったので船旅であった。当初の予定ではハワイを経由して行く予定であったのだが、ハリケーンの影響でそれは中止となった。2週間かかって、ようやくサンフランシスコに着いた。初めてのアメリカは僕にとってとにかく驚くべき事の連続で、できる事なら寝る間も惜しんで半年居たいとまで思った事をよく覚えている。ロサンゼルスで中古車を買い、夢の街シカゴへと出発した。つまり、ルート66こそがまさに我々の目指す

夢の都市への道のりだ。今ではインターネットがあり、旅するのに必要な最低限の情報を掲載したガイドブックを手に入れる事は容易であり、事前に調べる事は楽になったが、38年前は情報が全然ない。アメリカは未知の世界だ。日本と違って車がないとどこへも行けない。地図を買って、国道(ROUTE)をチェックしながら町から町へ。アメリカに行ったことのある人なら「ルートXX」の看板をみると、あの何とも言えない“アメリカの空気感"を呼び起こされるのではないだろうか。そう、僕にとってルーツのルーツは21歳の頃に身を持って体験したアメリカ音楽探究の旅だった気がするのだ。

 掲載した写真は僕がアメリカを旅した時に記録していたノート。残念なことに一番重要な1冊目が見つからない。しかし現在進行中で探しているので、見つかり次第この場をお借りしてご報告したいと思っている。 次号からは、このノートにそって、ロサンゼルスからシカゴまでの道中記をここの見開きページに掲載していく予定で進めていこうと思っているので、是非楽しみにしていて欲しい。また、僕が吉祥寺で『芽瑠璃堂』をやっていたころのアーカイブ的な資料も掲載していきたいと思っているので、こちらもお楽しみに。

(文=芽瑠璃堂店長)

66ROUTE

芽瑠璃堂の原点を辿って~その1