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2015.3 金属資源レポート 49 605ペルー鉱業の現状 はじめに ペルーの経済成長率は5.8%(世界第35位、南米第2 位、2013年)であり、南米諸国の中でも順調に経済発 展を遂げている国の一つであるが、国民1人当たりの GDPは、6,541US$ (世界第88位、南米第7位)で、今後 も発展が期待される国である。 ペルーは、我が国の非鉄金属資源確保上、豪州やチ リと並び、最も重要な国の一つであり、同国の総輸出 額の約55%を銅精鉱等の鉱産物が占める鉱業国である。 2011年7月に誕生したHumala政権は、当初左派寄り の政策を打ち出し、資源ナショナリズムの嵐が到来す ることが懸念されたが、同大統領は、ペルーの発展の 鍵を握るのが鉱業であることをよく理解し、2011年9 月の鉱業ロイヤルティ法の改正、鉱業特別税及び鉱業 特別賦課金の導入により、社会プログラムへの投資に 充てる方向性を打ち出した。 また、ペルーで頻繁に発生する社会争議への対策と して、2011年末に先住民事前協議法を公布し、さらに 2012年4月に同法施行細則を公布し、先住民の権利保 護を政策に明確に組み入れたほか、鉱業等のプロジェ クトのうち、環境に対し重大な影響を及ぼすプロジェ クトについて必要とされる、詳細環境影響評価の審査 を行う独立機関である、持続的投資環境認証サービス 局設置法が2012年12月に公布された。 2012年8月には、投資額が48億US$と言われた、北 Cajamarca州のMinas Conga金プロジェクトが反鉱業 運動により中断、2013年にはやはり北部のLambayeque 州のCañariaco銅プロジェクトで住民の反対運動によ り探鉱活動の一時中止を余儀なくされるなどしたが、 ペルー政府が2011年から取り組んでいる、近代的な鉱 業活動についての地域住民への啓蒙活動の取り組みも あり、2013年後半からは目立った大規模反鉱業運動も 発生せず、沈静化した状態が続き現在に至っている。 このように、社会発展と健全な鉱業活動の推進を図る 政策の中に置かれているペルー鉱業の現状を概観する1. ペルー鉱業の概要と位置づけ 1-1. ペルーの鉱山生産量の世界ランキング ペルーは多様な鉱物資源に恵まれた国であり、埋蔵 量では銀(世界第2位)、銅(同第3位)、亜鉛(同第3位)、 鉛(同4位)、モリブデン(同第4位)、錫及び金(それぞ れ 同 第9位 )が 世 界10指 に 入 り(Mineral Commodity Summaries 2014、USGS)、これら鉱種については、世 界でも主要な生産国となっている。 リマ事務所 所長 岨中 真洋 写真1. ペルー第1の鉱山 Antamina銅・亜鉛鉱山 (写真提供:エネルギー鉱山省)

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Page 1: レポート ペルー鉱業の現状mric.jogmec.go.jp/wp-content/old_uploads/reports/...50 (606) Antamina鉱山は、ペルー中部のAncash州に位置し、 2013年に約46万tの銅と約27万tの亜鉛を生産した(写。真提供:エネルギー鉱山省)

2015.3 金属資源レポート 49(605)

ペルー鉱業の現状

はじめに ペルーの経済成長率は5.8%(世界第35位、南米第2位、2013年)であり、南米諸国の中でも順調に経済発展を遂げている国の一つであるが、国民1人当たりのGDPは、6,541US$(世界第88位、南米第7位)で、今後も発展が期待される国である。 ペルーは、我が国の非鉄金属資源確保上、豪州やチリと並び、最も重要な国の一つであり、同国の総輸出額の約55%を銅精鉱等の鉱産物が占める鉱業国である。 2011年7月に誕生したHumala政権は、当初左派寄りの政策を打ち出し、資源ナショナリズムの嵐が到来することが懸念されたが、同大統領は、ペルーの発展の鍵を握るのが鉱業であることをよく理解し、2011年9月の鉱業ロイヤルティ法の改正、鉱業特別税及び鉱業特別賦課金の導入により、社会プログラムへの投資に充てる方向性を打ち出した。 また、ペルーで頻繁に発生する社会争議への対策として、2011年末に先住民事前協議法を公布し、さらに2012年4月に同法施行細則を公布し、先住民の権利保護を政策に明確に組み入れたほか、鉱業等のプロジェクトのうち、環境に対し重大な影響を及ぼすプロジェクトについて必要とされる、詳細環境影響評価の審査

を行う独立機関である、持続的投資環境認証サービス局設置法が2012年12月に公布された。 2012年8月には、投資額が48億US$と言われた、北部Cajamarca州のMinas Conga金プロジェクトが反鉱業運動により中断、2013年にはやはり北部のLambayeque州のCañariaco銅プロジェクトで住民の反対運動により探鉱活動の一時中止を余儀なくされるなどしたが、ペルー政府が2011年から取り組んでいる、近代的な鉱業活動についての地域住民への啓蒙活動の取り組みもあり、2013年後半からは目立った大規模反鉱業運動も発生せず、沈静化した状態が続き現在に至っている。 このように、社会発展と健全な鉱業活動の推進を図る政策の中に置かれているペルー鉱業の現状を概観する。

1. ペルー鉱業の概要と位置づけ1-1. ペルーの鉱山生産量の世界ランキング ペルーは多様な鉱物資源に恵まれた国であり、埋蔵量では銀(世界第2位)、銅(同第3位)、亜鉛(同第3位)、鉛(同4位)、モリブデン(同第4位)、錫及び金(それぞれ同第9位)が世界10指に入り(Mineral Commodity Summaries 2014、USGS)、これら鉱種については、世界でも主要な生産国となっている。

リマ事務所 所長 岨中 真洋

写真1. ペルー第1の鉱山 Antamina銅・亜鉛鉱山(写真提供:エネルギー鉱山省)

レポート

ペルー鉱業の現状

Page 2: レポート ペルー鉱業の現状mric.jogmec.go.jp/wp-content/old_uploads/reports/...50 (606) Antamina鉱山は、ペルー中部のAncash州に位置し、 2013年に約46万tの銅と約27万tの亜鉛を生産した(写。真提供:エネルギー鉱山省)

2015.3 金属資源レポート50(606)

 Antamina鉱山は、ペルー中部のAncash州に位置し、2013年に約46万tの銅と約27万tの亜鉛を生産した。(写真提供:エネルギー鉱山省)

鉱種2012 年ペルー生産量

2013 年ペルー生産量

増減(%)

2013 年世界

生産量

2013 年ペルー

世界シェア(%)

2013 年世界順位( )は12 年順位

上位生産国(2013 年)

銅(千t) 1,298.8 1,375.6 5.9 18,293.9 7.5 3(3) 1 位:チリ(5,776)、2 位:中国(1,707)、4 位:米国(1,255)

亜鉛(千t) 1,281.3 1,351.3 5.5 13,720.4 9.8 3(3) 1 位:中国(5,392)、2 位:豪州(1,523)、4 位:インド(817)

鉛(千t) 249.2 266.5 6.9 5,598.9 4.8 4(4) 1 位:中国(3,048)、2 位:豪州(711)、3 位:米国(340)

金(t) 161.5 151.5 -6.2 2,784.6 5.4 6(6)1 位:中国(428)、2 位:豪州(265)、3 位:米国(228)、4 位:ロシア(209)、5 位:南ア(169)

銀(t) 3,480.9 3,674.3 5.6 25,925.2 14.2 3(3) 1 位:メキシコ(5,277)、2 位:中国(3,906)、4 位:豪州(1,840)

錫(千t) 26.1 23.7 -9.2 327.3 7.2 3(3) 1 位:中国(149)、2 位:インドネシア(84)、4 位:ボリビア(19)

モリブデン(千t) 16.8 18.1 7.7 266.3 6.8 4(4) 1 位:中国(111)、2 位:米国(61)、

3 位:チリ(39)

 2013年のペルーの鉱山生産量は、エネルギー鉱山省によると、銅が1,376千t(世界第3位)、亜鉛が1,351千t(同)、銀が3,674t(同)、錫が24千t(同)であり、モリブデンも18千t(世界第4位)を生産した。

1-2. ペルーの鉱山生産量の推移 ペルーでは、1990年代のFujimori政権下において推進された鉱山民営化・外資導入促進政策により鉱業は大きく成長した。 主要鉱種である銅の生産量は、この10年間で1.6倍(2003年843千 t、2013年1,376千 t)に伸び、2013年は2012年に対して5.9%生産量が伸び、2012年に引き続き過去最高の生産量を記録した。

 亜鉛は、生産量が過去最高であった2008年(1,603千t)には達しないものの、対2012年比で5.5%生産量が伸び、2013年は1,351千tを生産した。 一方、金は、ペルー最大の金鉱山であるYanacocha金鉱山(Cajamarca州)の生産量低下の影響が大きく、対2012年比で6.2%生産量が減少し、2013年は151tに留まった。

出典:エネルギー鉱山省   世界生産量及び世界順位:World Metal Statistics Yearbook 2014

出典:エネルギー鉱山省

表1. ペルーの鉱山生産量と世界ランキング(2013年)

図1. ペルーの銅、亜鉛、金の鉱山生産量の推移

レポート

ペルー鉱業の現状

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2015.3 金属資源レポート 51(607)

1-3. ペルーの鉱産物輸出額の推移 ペルーの2013年の総輸出額は418億US$で、2011年をピーク(463億US$)に減少に転じ、2012年の総輸出額(456億US$)に対して8.4%の減少となった。

 ペルーの総輸出額のうち、鉱産物が占める割合は2013年では55%を占めており、鉱業がペルー経済のけん引役であることには変わりがないものの、この比率は、2010年で61%、2011年で59%、2012年で57%と下降傾向にある。これは、わずかずつではあるが石油や天然ガスの輸出額が増加していることに加え、金属鉱業以外の輸出産業が相対的に成長してきた影響が数字として表れているものと見ることが可能である。 鉱産物の輸出額は、2011年の274億US$をピークに減少に転じ、金属価格の低下の影響から2012年には263億US$に、2013年は230億US$となった。ペルーの鉱産物の輸出額のうち重要なのは銅(2013年98億US$)及び金(同78億US$)で、この2鉱種で鉱産物輸出額の約77%を占め、この比率は、2011年以降大きな変化は無い。

1-4. 我が国のペルーからの銅、亜鉛精鉱輸入量 ペルーは、我が国の精鉱輸入相手国として重要な位置を占める。 2013年において、日本は4,992千tの銅精鉱を輸入したが、第1位チリの2,408千tに次いでペルーは第2位の銅精鉱輸入相手国であり、735千t(対前年比7.6%減)

(t)

ペルー

米国

ボリビア

豪州

994.3千t

155.2千t

174.5千t

245.9千t

294.9千t

がペルーから輸入されており、第3位に豪州、第4位にカナダが続いた。 一方、2013年における日本の亜鉛精鉱輸入量は994千tであったが、第1位の豪州(295千t)、第2位のボリビア(246千t)、第3位の米国(175千t)に次ぎペルーは第4位の亜鉛精鉱輸入相手国で、155千t(対前年比20%減)がペルーから輸入されており、第5位にメキシコ、第6カナダが続いた。2011年以降、我が国はペルーからの亜鉛精鉱輸入量が減少傾向にある(2010年284千t、2011年226千t、2012年195千t、2013年155千t)。

2. ペルーの主要鉱山の生産量2-1. 銅鉱山生産量 2013年のペルーの銅生産量は1,376千tであり、対前年比6%増で、2012年に引き続き、過去最高を記録した。 2013年の世界の銅生産量は、2012年比で9.4%増加して18,307千tとなり、ペルーの世界順位は、チリ、中国に次いで世界第3位を保っている。ペルーの銅生産量は、世界の生産量の伸びほどではないが、2009年から2011年にかけての銅生産量減少傾向は増加に転じたと言えるであろう。 2013年の銅の生産量を鉱山別にみると、ペルー最大

出典:国税庁(SUNAT)

出典:財務省貿易統計

出典:国税庁(SUNAT)

出典:財務省貿易統計

図2. ペルーの総輸出額の推移

図4. 日本の銅精鉱輸入量

図3. 鉱産物輸出額の内訳

図5. 日本の亜鉛精鉱輸入量

レポート

ペルー鉱業の現状

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2015.3 金属資源レポート52(608)

のAntamina銅・亜鉛鉱山は、拡張工事を完了、2012年3月からフル生産を開始し、2013年も2012年に横並びの合計461千tを生産し、ペルーの銅の全生産量の1/3を占めている。 次いで、第2位で現在拡張工事中のCerro Verde銅鉱山(Arequipa州)が261千 t、第3位のCuajone銅鉱山(Moquegua州)が169千tを生産した。 Antapaccay銅鉱山(Cisco州)はGlencoreの新規鉱山

順位 鉱山名 権益所有企業 2012 年

生産量(t)

2013 年生産量(t)増減

合計精鉱 Sx-Ew

1 AntaminaBHP Billiton:33.75%、Glencore Xstrata:33.75%、Teck Resources:22.5%、三菱商事 :10%

462,832 461,058 461,058 0 -0.4%

2 Cerro VerdeFreeport McMoRan:53.6%、Buenaventura:18.2%、住友金属鉱山 :16.8%、住友商事 :4.2%

278,813 261,348 214,037 47,311 -6.3%

3 Cuajone Southern Copper (Grupo Mexico:80.9%) 161,732 168,585 168,585 0 4.2%4 Antapaccay Glencore Xstrata 5,027 151,187 138,999 12,188 2,907.5%5 Toquepala Southern Copper (Grupo Mexico:80.9%) 149,379 139,095 110,695 28,400 -6.9%6 Cerro Lindo Milpo (Votorantim:50.02%) 29,929 36,970 36,970 0 23.5%7 Cerro Corona Gold Fields:98.5% 37,673 31,443 31,443 0 -16.5%8 Colquijirca El Brocal (Bueneventura:53.24%) 24,000 27,894 27,894 0 16.2%9 Cobriza Doe Run 20,258 19,578 19,578 0 -3.4%10 Condestable Iberian Minerals 20,887 18,431 18,431 0 -11.8%

計 1,190,530 1,315,589 1,227,690 87,899 10.5%その他 108,231 60,052 58,293 1,759 -44.5%総計 1,298,761 1,375,641 1,285,983 89,658 5.9%

で、2012年11月に生産を開始し、2013年は、順調に生産量を伸ばして151千tを生産し、ペルー第4位の銅鉱山に成長した。そして、第5位にはToquepala銅鉱山が139千tを生産した。 ペルーにおける銅の生産は、外資が操業する上記の上位5鉱山が全体の86%を占めており、今後のペルーの銅の生産推移は、これら5鉱山の生産動向と、新規開発プロジェクトの進捗が鍵を握っている。

2-2. 亜鉛鉱山生産量 2013年のペルーの亜鉛の鉱山生産量は1,351千tとなり、2012年比で70千t(5.5%)の増加で、世界順位も中国、オーストラリアに次ぎ、世界第3位と変化がなかった。ペルーにおける亜鉛の生産量は、2008年の1,603千tをピークに2011年まで減少傾向が続いてきたが、2012年、2013年と2年連続して増加した。 生産量を鉱山別にみると、ペルーの亜鉛生産量の23%を占めるAntamina銅・亜鉛鉱山は、2012年は銅生産に力点がおかれていたが、2013年は亜鉛生産量を46千t(17%)伸ばした。ペルーの亜鉛生産量は、同鉱山の生産動向に大きく左右される状況は変わらない。 2012年に引き続きペルー第2位の亜鉛生産量のCerro Lindo鉱山は、2013年の前半の選鉱場拡張工事により亜鉛生産量を48千t(41.8%)と大きく伸ばした。 また、2012年にペルーの亜鉛鉱山のベスト10入りを果たしたCatalina Huanca鉱山も2012年比で10%を超える生産量の増加で国内第8位の亜鉛鉱山となっている。 亜鉛価格低迷のため一時休止していたIscaycruz亜鉛

鉱山(Lima県)は2010年4月から生産を再開し、2011年にはペルー第2位の亜鉛鉱山に返り咲いたが、鉱量の減少により2013年も生産量は減少し、2008年レベルの生産量(175千t/年)の約半分(84千t/年)であった。 亜鉛は、上位5鉱山が全体の生産量に占める割合は55%と、中小鉱山が占める割合が銅と比較して高い。また、近年は、新規で大規模な亜鉛鉱山の操業開始のニュースが無い状況が続いている。

出典:エネルギー鉱山省

出典:エネルギー鉱山省

表2. ペルー・上位10銅鉱山の生産量(2013年)

図6. 銅鉱山の供給構造(上位5鉱山が占める割合)

レポート

ペルー鉱業の現状

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2015.3 金属資源レポート 53(609)

順位 鉱山名 権益所有企業 2012 年

生産量(t)2013 年

生産量(t) 増減

1 Antamina BHP Billiton:33.75%、Glencore Xstrata:33.75%、Teck Resources:22.5%、三菱商事 :10% 269,989 315,802 17.0%

2 Cerro Lindo Milpo (Votorantim:50.06%) 114,038 161,740 41.8%3 Chungar Volcan 99,217 104,634 5.5%4 San Cristobal Volcan 87,848 83,682 -4.7%5 Iscaycruz Glencore Xstrata:97% 87,617 81,539 -6.9%6 El Porvenir Milpo (Votorantim:50.06%) 71,956 63,317 -12.0%7 Atacocha Milpo (Votorantim:50.06%) 45,461 45,177 -0.6%8 Catalina Huanca Iberian Minerals (98.73%) 38,670 42,732 10.5%9 Andaychagua Volcan 37,463 36,538 -2.5%10 Americana Casapalca 32,831 31,960 -2.7%

計 885,090 967,121 9.3%その他 396,192 384,152 -3.0%総計 1,281,282 1,351,273 5.5%

2-3. 金鉱山生産量 2013年の金の生産量は2012年と比較し、約10t減少の151tとなり、過去最多の2005年(208t)の73%まで減少している。 2013年の金生産量を鉱山別にみると、2005年には104tの金を生産したペルー最大のYanacocha金鉱山(Cajamarca州)は、2012年比で10.2t(24.4%)減少の31.6tにとどまった。Yanacocha鉱山は、2012年8月に反対運動によって中断したMinas Conga金プロジェクトと同一州、同一操業者(Yanacocha社:Newmont51.35%、Buenaventura社43.65%、IFC5%)による鉱山で、2013年も反対運動の影響を受け、操業の中断があったとされている。 また、第2位の生産量のLagunas Norte鉱山(La Libertad州)、生産量第8位のOrcopampa鉱山(Arequipa州)も生産量をそれぞれ2割、3割落としており、Orcopampa鉱山では生産体制の再編に着手している。 エネルギー鉱山省のデータで第3位の生産量のM.D.D.は、小規模事業者や零細規模事業者の集合である。その生産量は、2011年には22.5tであったが、翌2012年にはインフォーマル鉱業(鉱業活動が認められる地域内における、正規手続きを踏まずに行われる鉱業活動)の合法化の過程での強制的な操業中断と、違法鉱業(鉱業活動禁止地域内での鉱業活動)の取り締まりによる影響で、2012年には生産量を11.4tまで落としたが、2013年は、合法化された鉱業事業者の増加により、前年比35%増の15,4tまで生産量は回復した。

2-4. 地金生産量 ペルーにはIlo(Moquegua州、銅)、Cajamarquilla(Lima州、銅・亜鉛)、La Oroya(Junín州、銅・鉛・亜鉛)、Funsur(Ica州、錫)の4か所の製錬所が存在する。 Soutern Copper社のIlo製錬所は前年比で30.6%生産量を伸ばしているが、生産量拡張工事中で、年間生産量を82万tに拡張するとしている。 米国Doe Run社が所有するLa Oroya製錬所は、2008年には銅地金を54千t、亜鉛地金を43千t、鉛地金を114千t生産していたが、資金繰りの悪化によって2009年半ばから操業を停止していた。2010年末には債権者会議で一旦会社清算を決定したが、ピークを過ぎたとは言え依然金属価格が高く、環境対策プログラムを進めるとして、2012年7月末に銅、亜鉛の製錬再開を発表、2012年9月に銅と亜鉛の製錬を再開した。その後2013年4月には債権者会議において清算手続きを中止し、会社更生後にHuancavelica県のCobriza銅鉱山とともに売却することが決定された。2013年は断続的な生産にとどまった。

出典:エネルギー鉱山省

出典:エネルギー鉱山省

表3. ペルー・上位10亜鉛鉱山の生産量(2013年)

図7. 亜鉛鉱山の供給構造(上位5鉱山が占める割合)

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ペルー鉱業の現状

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2015.3 金属資源レポート54(610)

順位 鉱山名 権益所有企業 2012 年

生産量(t)2013 年

生産量(t) 増減

1 Yanacocha Newmont:51.35%、Buenaventura:43.65%、IFC:5% 41,865 31,640 -24.4%2 Lagunas Norte Barrick Gold 23,456 18,843 -19.7%3 M.D.D Madre de Dios 11,412 15,398 34.9%4 La Arena Rio Alto 6,214 6,564 5.6%5 Horizonte-Curaubamba Consorcio Minero Horizonte 5,727 6,202 8.3%6 Retamas Minera Aurifera Retamas 5,465 5,499 0.6%7 Carolina Gold Fields 5,508 5,167 -6.2%8 Orcopampa Buenaventura 7,417 5,024 -32.3%9 Tucari Aruntani 5,531 4,915 -11.1%10 Tantahuatai Coimolache 3,800 4,439 16.8%

計 116,395 103,691 -10.9%その他 45,150 47,795 5.9%総計 161,545 151,486 -6.2%

製錬所名 権益所有企業2012 年ペルー

生産量(t)

2013 年ペルー

生産量(t)増減

2013 年世界

生産量(t)

ペルー比率

(%)2013 年

主要生産国(千t)

Ilo Southern Copper(Grupo Mexico) 203,865 266,260 30.6%

16,947,900 1.6

1 位:中国(5,675.0)2 位:日本(1,563.0)3 位:チリ(1,358.3)注)Sx-Ew 生産除く

La Oroya Doe Run 1,934 493 -74.5%Cajamarquilla Votorantim 4,320 5,039 16.6%

合計 210,119 271,792 29.4%

亜鉛

Cajamarquilla Votorantim 315,893 326,171 3.3%

12,891,000 2.7

1 位:中国(5,100.0)2 位:韓国(886.0)3 位:インド(788.0)

La Oroya Doe Run 3,387 20,191 496.1%合計 319,280 346,362 8.5%

La Oroya Doe Run 0 467 -

11,224,000 0.0

1 位:中国(5,100.0)2 位:米国(1,248.0)3 位:インド・韓国   (各 473.0)

合計 0 467 -

Funsur Minsur 24,811 24,181 -2.5%

353,400 6.8

1 位:中国(158.5)2 位:インドネシア   (63.0)3 位:マレーシア(32.7)

合計 24,811 24,181 -2.5%

表4. ペルー・上位10金鉱山の生産量(2013年)

表5. ペルーの地金生産量(2013年)

図8. 金鉱山の供給構造(上位5鉱山が占める割合)

 一方、Cajamarquilla製錬所では生産設備の拡張工事の結果、亜鉛地金の生産量が2009年の140千tから2011年の313千tへとおよそ2.2倍の増産を達成し、2012年に引き続き2013年も順調に操業は推移した。

出典:エネルギー鉱山省

出典:エネルギー鉱山省

出典:エネルギー鉱山省、ICSG Copper Bulletin April 2014、ILZSG Lead and Zinc Statistics April 2014、World Metal Statistics Yearbook 2014

注)①La Oroya製錬所は2009年半ばから生産停止、2012年一部生産再開  ②銅地金世界生産量は、Sx-Ew生産分(3,808.5千t)を除く

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2015.3 金属資源レポート 55(611)

図9. 年間鉱業投資額の推移

3. 今後の鉱山開発プロジェクト エネルギー鉱山省によると、ペルーの鉱業投資額は過去最高を更新し続け、2013年は97.2億US$に達し、2012年の85.0億US$に比べ14.4%の伸びを示し、2009 年から2013 年までの5 年間では3.4倍に増加している。 2013年に最も鉱業投資額が多かったのはApurimac州(17.5億US$)で、以下Junín州(15.1億US$)、Arequipa州(13.9億US$)、Cusco州(11.7億US$)、Ancash州(7.4億

US$)と続いた。

 鉱業投資額を企業毎に見ると、2013年に最も鉱業投資額が多かったのはXstrata Las Bambas社(17.1億US$)で、以下、Chinalco Perú社(11.9億US$)、Cerro Verde社(10.7億US$)、Antapaccay社(6.3億US$)、Antamina社(5.4億US$)と続いた。 2013年の鉱業投資額97.2億US$のうち、探鉱費は7.74億US$(8.0%)であり、近年は探鉱費の伸びは頭打ち傾向にあったが、2013年は減少(前年比-14.5%)に転じた。

出典:エネルギー鉱山省

 一方、鉱業投資額の中で近年、特に2010 年以前と比較して大きな比重を占めるのが、プラント設備・鉱業機器、インフラ整備費、準備費及びその他の費用である。2011年付近の鉱業を取り巻く環境の変化としては、銅価格高騰(2011年2月最高値10,148US$/t)、反鉱業運動の激化がある。探鉱費の伸びの鈍化・減少と合わせてみると、資源ブームに乗じて探鉱活動が活発化、鉱山開発のステージが全体的に進んだものの、反鉱業運動や鉱山労働者の要求の高まり、環境対策費の増加などの影響がここにも現れているように見える。 なお、準備費及びその他に含まれる費用の内訳は、エネルギー鉱山省に対するヒアリングでも明瞭な回答は得られなかったが、地元対策(水道、学校・教育、

説明等)や環境影響評価等の費用が含まれるものとみられる。また、今後、ペルー鉱業が成熟の度合いを深めていくに従い、鉱山プロジェクトの奥地化等により、インフラ整備費も増大していくことが予想される。 また、エネルギー鉱山省によると、非金属鉱業も含め2014年10月現在で54件の鉱業プロジェクトが実施中あるいは計画中であり、合計投資額は609億US$に上る。 鉱業投資額の鉱種別では、銅プロジェクトが全体の64%、金プロジェクトが13%、鉄プロジェクトが12%を占め、また国別では中国が全体の23%、米国が17%、カナダが15%、ペルーが10%、スイスが10%を占める。

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2015.3 金属資源レポート56(612)

表6. 今後の鉱山開発プロジェクトと投資額

鉱種 企業名 プロジェクト名 調査ステージ(生産開始予定年)

投資額(百万 US$)

Glencore Xstrata(2014 年 4 月、中国コンソーシアム買収決定) Las Bambas EIA承認済 (2016 or 2017) 6,031

Soc. Mra. Cerro Verde(Freeport McMoran/ Sumitomo) Cerro Verde 拡張工事中(2016) 4,600

CHINALCO Toromocho EIA 承認済 (2014) 3,500

CHINALCO Toromocho 拡張計画 (2016) 1,320

Anglo American/ Mitsubishi Quellaveco EIA 承認済 (2019) 3,300

Antares Haquira 探鉱中 (2019) 2,800

Lumina Copper (Minmetals/ Jiangxi) Galeno 探鉱中 (2017) 2,500

Hudbay Minerals/ Hudbay Peru Constancia EIA 承認済 (2014) 1,800

Candente Resources Cañariaco 探鉱 (2018) 1,599

Southern Copper Los Chancas 探鉱中 (2019) 1,560

AQM Copper (AQM/ Teck Resources) Zafranal 探鉱中 (2018) 1,122

Rio Blanco Copper (Zijin Group) Rio Blanco 探鉱中 (2019) 1,500

Minera Hampton (Metminco) Los Calatos 探鉱中 (2018) 1,320

Rio Tinto La Granja 探鉱中 (2017) 1,000

Southern Copper Tia Maria EIA(2 回目)実施中 (2016) 1,400

Brescia/ Korea Resources/ LS Nikko Copper Marcobre(Mina Justa) 探鉱中 (2016) 744

Anglo American Michiquillay 探鉱(2018) 700

Milpo (Votorantim Metais) Pukaqaqa EIA 審査中 (2016) 630

Southern CopperToquepara 拡張計画(2014) 1,100

Ilo 拡張計画(未定) 未定

Milpo (Votorantim Metais) Magistral 探鉱中 (2016) 750

Junefield Don Javier 探鉱中 (未定) 600

Pan Pacific Copper Quechua 探鉱中 (2015) 490

Vichaycocha (Volcan) Rondoni 探鉱中 (2016) 350

Shouxin Peru  廃さい回収プロジェクト EIA 承認済 (2015) 239

ANABI Anubia 探鉱中 (2015) 90

出典:エネルギー鉱山省

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2015.3 金属資源レポート 57(613)

鉱種 企業名 プロジェクト名 調査ステージ(生産開始予定年)

投資額(百万 US$)

Newmont/ Buenaventura/IFC Minas Conga EIA 承認済 (2017) 4,800

Quincay II Centauro 探鉱中 (未定) 3,000

Canteras de Hallazgo Chucapaca 探鉱中 (2016) 1,200

Minera Suyamarca (Hochschild60%、IMZ40%) Inmaculada EIA 承認済 (2014) 373

Buenaventura Tambomayo EIA 審査中 (2016) 256

Minera Kuri Kullu (IRL Ltd) Ollachea EIA 承認済 (2015) 170

Sulliden Shauindo (Sulliden Gold) Shauindo EIA 承認済 (2016) 132

Ares (Hochschild) Crespo EIA 承認済 (2015) 110

Reliant Venture (Silver Standard) San Luis EIA 承認済 (未定) 未定

Anabi Anama EIA 承認済 (2014) 40

銀 Bear Creek MiningCorani EIA 承認済 (2015) 600

Santa Ana EIA 審査中 (未定) 71

亜鉛

Milpo Hilarion 探鉱中 (2016) 470

El Brocal (Buenaventura) Colquijirca 拡張工事中(2014) 432

Collasuyo Accha 探鉱中 (2017) 346

鉄鉱石

Apurimac Ferrum (Strike Resources) Hierro Apurimac 探鉱中 (2020) 2,300

Jinzhao Mining Peru(Nanjinxhao Group/ ZiboHongda Mining) Pampa de Pongo 探鉱中 (2016) 1,700

Shougang Marcona 拡張工事中(2015) 1,500

Minera Cuervo(Cuerco Resources/ Strike Resources) Cerro Ccopane 探鉱中 (未定) 未定

錫 Bofedal II 廃さい回収 Minsur 探鉱中 (2016) 165

多鉱種

Buenaventura Uchucchacua 拡張工事中 (2014) 100

Invicta Mining (Andean American Mining) Invicta EIA 承認済 (2015) 93

Milpo Cerro Lindo 拡張工事中 (2014) 40

リン

Mantaro Peru Fosfatos Mantaro 探鉱中 (未定) 850

Miski Mayo/ Vale Bayovar 拡張工事中 (2014) 520

Fosfatos del Pacifico(Cemento Pacasmayo70%、Mitsubishi Zuari Industries30%)

Fosfatos プロジェクト EIA 承認済 (2015) 500

カリウム Americas Potash Salmuera de Sechura 探鉱中 (未定) 125

合      計 60,938

出典:エネルギー鉱山省

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2015.3 金属資源レポート58(614)

図10. 主な鉱山・製錬所と鉱山開発プロジェクト位置図

図11. 確認されたペルー全国の争議件数の推移

4. 最近のトピックス4-1. ペルーの鉱業関係争議 2012年は、Newmont(米国)とBuenaventura社(ペルー)がJVで進めていたCajamarca州のMinas Conga金プロジェクトが中断するなど、大規模な鉱業関係争議のニュースが多かったが、2013年は前期にCañariaco銅プロジェクトで地元コミュニティーの反対運動があり、プロジェクトオペレーターのCandente Copper社が探鉱活動を中断する事態が発生した。 2014年7月現在、確認されていた社会争議は合計208

件で、2013年7月時点の225件と比較すると、幾分減少傾向にある。この208件の争議の内、社会・環境争議は133件であり、さらにその内の95件が鉱業関連の争議である。95件の鉱業関連争議の内、84件が環境汚染や環境汚染による社会への影響に関するものである。2013年下期以後は、地元報道においても大規模な反鉱業運動が報道されることはほとんど見られなくなったが、鉱業関連争議の件数自体は、1年前と比較しても減少しておらず、依然、鉱業関連争議は多いと言わざるを得ない状況が続いている。

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2015.3 金属資源レポート 59(615)

4-2. Minas Conga金プロジェクトのその後と全国統一地方選挙の鉱業に対する影響

 前述のMinas Conga金プロジェクトに関し、Santos・Cajamarca州知事が主導する反対運動の激化は、プロジェクトが位置するCajamarca州内に留まらず、首都Limaにおいても抗議行動が発生するなどし、2012年8月末にはNewmontは、プロジェクトの中断を決定するに至った。 2013年9月には、オペレーターのNewmontは、Santos知事の任期が満了するのを待ち、2014年の統一地方選挙を待ち、新たな州知事の鉱業活動への対応を見極めた2015年以降に同プロジェクトの実施の決定を行うとコメントした。 2014年5月、Buenaventura社は、金の価格が低下し、またMinas Conga金プロジェクトと同じJVで操業しているペルー第1のYanacocha金鉱山の資源量が減少していく中、Minas Conga金プロジェクトで開発を進め、早期の生産開始を実現するため、同プロジェクトの規模を縮小することを検討していると発表、鉱山開発を開始するには地域住民の賛同が前提であるとした。 このような折、2014年6月、Minas Conga金プロジェクトの反対運動の急先鋒であったSantos知事が、公共事業の入札に係る収賄容疑で逮捕され、14か月の拘禁命令により、リマ市内の刑務所に収監された。Santos知事がペルー中央政界への進出の野望を持つことは、国内で広く認知されており、地元票固めと、鉱業投資を促進させたい中央政府との対峙の構図を強固にするため、大規模な反鉱業運動を展開したと見られているが、2014年10月の統一地方選挙へのCajamarca州知事への出馬の意向を示していた。 そして2014年10月5日に行われた統一地方選挙の結果、Santos知事は収監中であるにも関わらず有効票の44.2%を獲得し当選した。2015年1月から新知事の任期が始まったが、Santos知事は収監中であるため知事業務は副知事の代行となり、また有罪が確定した場合は、解任の可能性があると伝えられた。 この状況に対し、2014年10月の統一地方選挙終了後、Minas Conga金プロジェクトのJV企業体であり、Yanacocha金鉱山を操業するYanacocha社は、Cajamarca州における鉱業投資は今後も継続するが、同社がCajamarca州内で実施する鉱業プロジェクトが社会的に受け入れられるよう、責任ある活動を継続していくとコメントを発表している。また、業界団体であるペルー・鉱業石油エネルギー協会(SNMPE)は、Santos知事がCajamarca州の発展を望むのであれば対話に応じるべきであるが、一筋縄にはいかないだろうとコメントを発している。Cajamarca州以外では、Arequipa州Islay郡の郡知事に、Southern Copper社のTia María銅プロジェクトに反対を表明したいたAle氏が当選している。 エネルギー鉱山省は、鉱山開発許可のための地元と

の合意を、許可の際の最も重要な要件と位置付けており、統一地方選挙の結果が鉱業プロジェクトの進展に大きく影響するが、鉱業活動による環境負荷のコントロールと環境修復、そして何よりも、環境保全と地域住民の幸福を目指す高い意識による取組が求められている。

4-3. エネルギー鉱山省による社会啓蒙活動 鉱業国ペルーで大きな社会問題となっている、地域住民の鉱業に対する反対運動を、近代的な鉱業に対する住民の理解促進により解消・鉱業投資を促進させるため、エネルギー鉱山省は地域住民に対する啓蒙活動を実施している。 この啓蒙活動は、Pasantía(インターンシップ)と呼ばれる研修で、鉱業影響下地域の自治体やコミュニティ代表者を2週間に亘ってリマに招聘し、参加者に鉱業に対する正しい知識を付け、理解を深めることを目的とし、2011年10月から、エネルギー鉱山省が大学の協力を得て、現在のスタイルで開始された。また、Pasantía参加者は地元に戻り、同様の啓蒙活動(Réplica:レプリカ)を地域住民に対して行う(2012年8月開始)。 Pasantía参加者は、エネルギー鉱山省による周到な準備により、村長、村会議員、村役場職員、地元コミュニティ、青年組合、女性協会の代表者や書記、その他コミュニティの有力者や調整役等から選定されている。選定される参加者は、大部分が高卒、技師、専門職と称される人々で、これまでに地域内での合意形成、交渉・調整の経験を持つ。また、反鉱業運動の指導者も含まれる。 Pasantíaの内容は、 ・社会・コミュニケーション能力開発   リーダーシップ、チームワーク、コミュニケーシ

ョン能力、争議対応能力の向上 等 ・鉱業に関する基礎知識習得  地質学、探鉱、採掘、選鉱、製錬、環境保全 等 ・鉱業・環境関連法規の理解   労働者や地元住民の権利義務、鉱業関連法規、政

府機関 等 ・鉱業や環境の社会側面の理解   鉱業関連の社会・環境政策、環境調査、労働安全

衛生 等 ・鉱業プロジェクト形成過程の理解   プロジェクト形成プロセス、プロジェクトの評価

等 ・鉱山見学   近代的な鉱山の見学、鉱山の環境保全や社会貢献

への取り組みの理解 ・閉会式であり、閉会式では、参加者に対しエネルギー鉱山省からPasantía終了認定証とメダルが公布される。また、合間ではレクリエーション等も行われている。

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Page 12: レポート ペルー鉱業の現状mric.jogmec.go.jp/wp-content/old_uploads/reports/...50 (606) Antamina鉱山は、ペルー中部のAncash州に位置し、 2013年に約46万tの銅と約27万tの亜鉛を生産した(写。真提供:エネルギー鉱山省)

2015.3 金属資源レポート60(616)

写真2. Pasantíaの一コマ(写真提供:エネルギー鉱山省)

写真3. Pasantía参加者による鉱山見学(写真提供:エネルギー鉱山省)

 PasantíaとRéplicaの開催実績は、 ・ Pasantía:2011年10月~2014年10月で22回、延べ

586人が参加    Cajamarca州11回参加、Ancash州9回、Puno州9回、

Apurimac州・Ayacucho州各8回など ・ Réplica:2012年8月~2014年10月で27回、延べ

1,617人が参加    Puno州 5 回 開 催、Amazonas州・Ancash州・

Apurimac州各3回、La Libertad州・Lambayeque州各2回など

である。 エネルギー鉱山省は、このPasantíaとRéplicaの実施により、Tia María 銅プロジェクトでは、「Réplicaで150人が研修を受け、環境影響評価書の修正を進めさせたところ、公聴会でも理解が得られた」、「Cañariaco銅プロジェクトにおいても反鉱業運動指導者に研修を受けてもらい、正しい知識の下で鉱山に対する議論を行う場を持てたため、反対派の考えも変わり、反鉱業運動は無くなったと認識している」としている。

5. おわりに 鉱物資源開発の話題で、「チリの次はペルー」という声を聞くことがしばしばある。前述のようにペルーは資源ポテンシャルに恵まれ、鉱産物生産量も世界屈指の資源国である。 一方で、本稿では触れなかったが、スペイン統治時代に遡る、劣悪な環境下での先住民による鉱山労働や搾取のイメージと、かつての鉱業活動における環境保全への意識の欠如がペルーにおける反鉱業運動の深層に根差している。このため、環境破壊を危惧する地域

住民からの鉱山開発反対の声以外にも探査実施時の現場アクセス料(通行料)で法外な額を要求されたり、鉱山操業開始後も労働条件改善に関して違法な抗議行動が行われたりする話を耳にすることがある。このため、ペルーにおける資源開発は、必ずしも順風満帆で進んでいるとはいい難い。 現Humala政権は、鉱業がペルー発展の鍵を握っていることを承知で、2011年の鉱業税制刷新、2012年の先住民事前協議法制定、同じく2012年の持続的投資環境認証サービス局(SENACE)設立、2013年~2014年の違法鉱業取り締まり強化等により、ペルーでの健全な鉱業の発展のための手を打ってきたが、前述のとおり、エネルギー鉱山省による社会啓蒙活動が行われてはいるが、鉱業影響下にある地域住民の鉱業活動に対する理解を得るのは容易ではない。 ペルーにおける現在の鉱業の状況は、大規模な反鉱業運動は2012年当時に比べると発生していないが、元より地域住民の間では鉱業への不信感があることに加えて金属価格の低下もあり、鉱山企業は選択と集中により、慎重に事業を進めている状況である。 経済が停滞傾向を見せ始めたペルー(2013年の経済成長率は5.79%、2014年は2%台であると見られる)では、2016年の第2四半期には大統領選挙が控えており、2015年が現Humala政権にとって実質的に最後の年となっている。今後、大統領選に向け、様々な政治的な動きが出てくることが予想されるが、健全な鉱業の発展がペルーの発展と同国民の幸福に寄与することを期待しつつ、日本との関係の点でも今後のペルーの鉱業の動向を注視していく必要がある。

(2015.2.22)

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