アドレナリンα2a受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2a、 α...

91
Instructions for use Title アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用に関する研究 Author(s) 小林, 武志 Citation 北海道大学. 博士(獣医学) 甲第12616号 Issue Date 2017-03-23 DOI 10.14943/doctoral.k12616 Doc URL http://hdl.handle.net/2115/72906 Type theses (doctoral) File Information Takeshi_Kobayashi.pdf Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

Upload: others

Post on 25-Sep-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

Instructions for use

Title アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用に関する研究

Author(s) 小林, 武志

Citation 北海道大学. 博士(獣医学) 甲第12616号

Issue Date 2017-03-23

DOI 10.14943/doctoral.k12616

Doc URL http://hdl.handle.net/2115/72906

Type theses (doctoral)

File Information Takeshi_Kobayashi.pdf

Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

Page 2: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

1

アドレナリンα2A受容体サブタイプに

対するα2作動薬の作用に関する研究

小林 武志

Takeshi KOBAYASHI

Page 3: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

2

目次

序文 1

第一章 アドレナリン α2受容体作動薬のマウス脊髄に対する作用

における α2Aサブタイプの役割 3

Ⅰ 緒論 3

Ⅱ 実験方法 7

A. 実験動物 7

B. ジェノタイピング 7

C. 脊髄反射電位測定法 8

1. 摘出脊髄標本作製法 9

2. 電位変化の記録方法および刺激法 9

D. 複合活動電位測定法 12

E. 行動解析実験 14

1. 実験動物 14

2. Hot plate 試験 14

3. Tail-flick試験 16

F. 試薬 16

G. 統計処理 16

Ⅲ 実験成績 17

A. WTマウス脊髄反射電位に対する α2受容体作動薬の効果 17

1. キシラジン 17

2. デクスメデトミジン 17

B. α2A受容体変異マウス (B6.129S2-Adra2atm1Lel/J) における

α2受容体作動薬の効果 20

1. α2受容体作動薬の効果 20

a) キシラジン 20

b) デクスメデトミジン 23

2. α2受容体およびイミダゾリン受容体拮抗薬の効果 25

a) デクスメデトミジンの反射電位抑制に対する効果 25

b) キシラジンの反射電位抑制に対する効果 26

Page 4: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

3

C. マウス脊髄神経の複合活動電位に対する α2受容体作動薬の効果 30

D. 行動解析実験 33

1. キシラジン 33

2. デクスメデトミジン 36

Ⅳ 考察 39

第二章 α2Aアドレナリン受容体とキシラジン、デクスメデトミジン

とのドッキングシミュレーション 45

Ⅰ 緒論 45

Ⅱ 実験方法 47

A. α2Aアドレナリン受容体の立体構造のモデリング 47

B. ドッキングシミュレーション 47

Ⅲ 実験成績 49

A. マウス、ウシおよびブタの α2A受容体配列を用いた

ドッキングシミュレーション 49

1. ノルアドレナリンのドッキングシミュレーション 53

2. デクスメデトミジンのドッキングシミュレーション 57

3. キシラジンのドッキングシミュレーション 61

B. マウスとブタのキメラ α2A受容体とキシラジンの

ドッキングシミュレーション 65

Ⅳ 考察 70

総括および結論 74

謝辞 78

参考文献 79

英文抄録 85

Page 5: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

4

略語表

ACSF:artificial cerebrospinal fluid (人工脳脊髄液)

AR:adrenaline receptor (アドレナリン受容体)

ATI:atipamezole (アチパメゾール)

CAP:compound action potential (複合活動電位)

C3:3rd intracellular loop (第三細胞内ループ)

DEX:dexmedetomidine (デクスメデトミジン)

EFA:efaroxan (エファロキサン)

GPCR:G protein-coupled receptor (Gタンパク質共役型受容体)

IDA:idazoxan (イダゾキサン)

MSR:monosynaptic reflex potential (単シナプス反射電位)

MS:MolDock Score (モルドックスコア)

NA:noradrenaline (ノルアドレナリン)

sVRP:slow ventral root potential (遅発性前根電位)

TM:transmembrane domain (膜貫通領域)

WT:wild type (野生型)

XYL:xylazine (キシラジン)

Page 6: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

1

序文

Gタンパク質共役型受容体 (GPCR) であるアドレナリン受容体 (AR) は α1、α2、β1、β2、

β3の 5つのファミリーに大別され、これらのうち α2ファミリーはGi/oタンパク質に共役し、

細胞の活動に対して抑制的な効果を示す。アドレナリン受容体 α2ファミリーはさらに α2A、

α2B、α2Cの 3つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特に α2Aアドレナリン受容

体サブタイプ (α2A-AR) は血小板や末梢神経のほかに中枢神経組織に広く発現している

(Kurose et al., 1993; Lorenz et al., 1990)。一方、α2B-ARは主に腎臓や肝臓、動脈平滑筋に

豊富に発現し、神経系では脳幹部の視床、孤束核などに限ってわずかに存在するのみであ

り、α2C-AR は主に海馬、皮質、線条体などに分布し、末梢組織では腎臓、副腎にわずかに

存在するのみだと報告されている (Stone et al., 1998)。

α2-AR 作動薬は、鎮静、鎮痛薬として獣医療ではメデトミジン (ドミトール®) やキシラ

ジン (セラクタール®) が、ヒトの医療ではデクスメデトミジン (プレセデックス®) が利用

されている。これらの鎮静薬は α2-AR拮抗薬であるアチパメゾール (アンチセダン®) によ

り容易に覚醒できるという利点がある。

α2-AR作動薬の作用機序に関しては、遺伝子改変マウスを用いた in vivo鎮痛試験の結果

から α2A-AR サブタイプが重要な役割を果たすという報告があるものの (Hunter et al.,

1997; Stone et al., 1997)、in vivo実験だけでは詳細なメカニズムの解析が困難であること

Page 7: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

2

に加えて各 α2-AR サブタイプに特異性の高い試薬が無いことや、α2-AR 作動薬の効果には

α2-AR だけでなくイミダゾリン受容体などの他の受容体の関与も示唆されるなど (Pineda

et al., 1993)、いまだ α2-AR 作動薬の効果に関与する受容体サブタイプの詳細は明らかにさ

れていない。

また、キシラジンの鎮静作用には大きな動物種差があり、特に反芻獣に対しては局所麻

酔と併用することで外科手術が行えるほどの強力な鎮静作用が得られる一方で、ブタに対

しては効果が極めて弱いことが知られている。しかし、α2-ARの発現量やサブタイプの分布

パターン (Törneke et al., 2003)、サチュレーションバインディングアッセイにおける各サ

ブタイプとキシラジンの親和性 (Schwartz & Clark, 1998) には動物種差が見られないこ

とが報告されており、キシラジンの薬効種差の原因は分かっていない。

本研究の第一章では、α2A-ARに変異を持つマウスを用いて in vitro電気生理学的実験お

よび in vivo行動解析実験を行い、α2-AR作動薬の脊髄における侵害受容伝導抑制効果と実

際の鎮痛作用に α2A-ARサブタイプがどのような役割を果たしているのかを検討した。第二

章では、マウス、ウシおよびブタ α2A-ARと α2-AR作動薬との in silicoでのドッキングシミ

ュレーションを行い、キシラジンの薬効種差の原因を検討した。本研究の成果の一部は誌

上公開されている (Kobayashi et al., 2015)

Page 8: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

3

第一章 アドレナリン α2受容体作動薬のマウス脊髄に対する作用における α2Aサブタイプ

の役割

Ⅰ 緒論

α2-AR 作動薬の鎮痛効果には、脊髄の侵害受容経路に発現する α2-AR の活性化が重要な

役割を果たしていると考えられている (Pertovaara, 2006; 2013)。脊髄の α2-ARは、脳幹

の A5、A6、A7 神経核より伸びた下行性神経の終末から放出されるノルアドレナリンの作

用点であり、脊髄で痛覚伝達の調整を行っている (Millan, 2002)。脊髄侵害受容経路にお

いて、α2-ARの活性化により Gi/oタンパク質が活性化され、cAMP減少や K+チャネル活性

化、Ca2+チャネル抑制などを介して主にシナプス前膜からの神経伝達物質の放出が減少す

ることによって痛覚シグナルの伝達が抑制されると考えられている (Pertovaara, 2013)。

遺伝子改変マウスを用いた行動解析実験から、α2-AR 作動薬による鎮痛作用には α2A-ARサ

ブタイプが必要だと報告されている (Hunter et al., 1997; Stone et al., 1997)。また、α2-AR

作動薬の効果には上位中枢での作用も重要で、ラットの青斑核の α2A-AR発現をアンチセン

ス DNA で阻害すると、デクスメデトミジンの鎮痛効果が減弱すると報告されている

(Mizobe et al., 1996)。一方で α2C-AR (Philipp et al., 2002) やイミダゾリン I1および I2受

容体 (Pineda et al., 1993) なども α2-AR作動薬の脊髄での鎮痛作用に関わっているという

Page 9: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

4

報告がある。イミダゾリン骨格を持つデクスメデトミジンはイミダゾリン受容体に作用す

ることが知られている (Dahmani et al., 2008)。イミダゾリン受容体は α2-AR作動薬によ

る降圧や鎮痛に関与していると考えられているが、その分子実態やシグナル経路は分かっ

ていない (Li & Zhang, 2011)。α2C-AR も α2A-AR と同様にマウス脊髄に発現しており

(Tamagaki et al., 2010)、Gi/oタンパク質を活性化し、シナプス前膜からの神経伝達物質の

放出を減少させる。これらのことから、α2-AR作動薬の脊髄における正確な作用機序は分か

っておらず、より詳細で定量的な解析が求められる。

薬物の鎮痛作用を定量的に調べる手法として、摘出脊髄標本における反射電位測定法が

ある (Otsuka & Konishi, 1974)。摘出脊髄標本の腰髄後根を電気刺激すると、対応する前

根より数ミリ秒以内に単シナプス反射電位 (monosynaptic reflex potential; MSR) が記録

され、続いて 20~30秒間持続する遅発性前根電位 (slow ventral root potential; sVRP) が

記録される。MSR は脊髄前角において一次求心性 Aβ 線維終末から放出されたグルタミン

酸が、運動ニューロンの non-NMDA受容体を活性化することで生じる興奮性の電位であり、

運動や姿勢の制御に関与すると考えられている (Jahr & Yoshioka, 1986)。一方、sVRPは

脊髄後角において一次求心性 Aδ および C 線維終末から放出されたグルタミン酸や

substance PがNMDA受容体やNK1受容体にそれぞれ作用して複数の介在ニューロンのシ

ナプスを介して最終的に前根の運動ニューロンが興奮して起こる電位と考えられている

(Akagi et al., 1985; Brugger et al.,1990)。sVRPは以下に述べる実験的根拠から侵害受容

Page 10: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

5

の神経伝達を反映していると考えられている (Faber et al., 1997)。1) 末梢に侵害刺激を与

えると sVRPと同様の持続性の脱分極が記録される (Yanagisawa et al., 1985)。2) モルヒ

ネ (Yanagisawa et al., 1985) や α2-AR作動薬 (Kendig et al., 1991) などの鎮痛薬で選択

的に抑制される。3) sVRP の記録される閾値が、痛みを伝達する一次求心性 C 線維が活性

化する閾値と一致する (Akagi et al., 1985)。この脊髄反射電位測定法は新生ラットを用い

て行われていたが、本研究室でマウスを用いた実験手法を確立し (Kobayashi et al., 2015)、

これにより遺伝子改変マウスでの痛覚伝達の解析が可能となった。

α2A-AR の遺伝子改変マウスに、第二膜貫通領域にある 79 番目のアスパラギン酸がアス

パラギンに変異 (D79N) しているマウスがある (Surprenant et al., 1992)。第二膜貫通領

域のこの位置のアスパラギン酸残基はクラス A の GPCR で広く保存されており

(Kolakowski, 1994)、D79Nマウスは α2A-ARの機能的ノックアウトマウスとして用いられ

る (Shafaroudi et al., 2005)。D79Nマウスでは α2-AR 作動薬の鎮痛効果が有意に減弱する

ことが報告されている (Hunter et al., 1997; Stone et al., 1997)。また、マウス下垂体癌由

来細胞株AtT-20にD79N変異した α2A-ARを発現させて膜電流を測定した実験では、α2-AR

作動薬による K+チャネル活性化は消失するが Ca2+チャネル抑制効果および cAMP 減少効

果には影響を与えないことが報告されている (Surprenant et al., 1992, Lakhlani et al.,

1996)。

Page 11: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

6

本研究の第一章では、D79Nマウスを用いて脊髄反射電位測定を中心に実験を行い、マウ

スにおける α2-AR作動薬の作用における α2A-ARサブタイプの役割について検討した。

Page 12: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

7

Ⅱ 実験方法

A. 実験動物

本研究は、北海道大学大学院獣医学研究科獣医学科・獣医学部において行う動物実験に

関するガイドラインに従って行った。実験に必要な新生マウスを得るため、C57BL/6Jマウ

スと B6.129S2-Adra2atm1Lel/J (The Jackson laboratory) マウスをそれぞれ自家繁殖した

(動物実験計画書承認番号:第 13-0038号)。得られた新生マウスの 1~6 日齢のものを雌雄

の区別なく脊髄標本摘出実験に、8週齢の雄を行動解析実験に用いた。

B6.129S2-Adra2atm1Lel/J マウスは 79 番目のアスパラギン酸がアスパラギンに一塩基置

換 (D79N) することにより活性が大きく損なわれている α2A-AR を持つ系統である

(MacMillan et al., 1996; Hunter et al., 1997; Stone et al., 1997)。これ以降、この D79N

変異した α2A-AR 遺伝子をホモで持つマウスを D79N-homo、ヘテロで持つマウスを

D79N-hetero、野生型の α2A-ARをホモで持つマウスをWTと表記する。

B. ジェノタイピング

α2A-AR 変異マウス (B6.129S2-Adra2atm1Lel/J) の遺伝子型を調べるために α2A-AR の

Page 13: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

8

DNA に対するプライマーを用いて PCR を行った。自家繁殖に用いるマウスのイヤーパン

チ断片もしくは実験に用いた新生マウスの尾を材料として、Lysis buffer (100 mM NaCl,

50 mM Tris-HCl, 20 mM EDTA, 0.1% SDS) 500 µlとともにエッペンチューブに入れ、

proteinase Kを 50 µg加えて 50℃で 5時間以上振盪して組織を融解させた。その後 95℃で

10分間処理することで proteinase Kを失活させた。

PCR反応は市販のキット(KAPA 2G Robust HotStart ReadyMix, 日本ジェネティクス

株式会社) を用い、上述の組織溶解液 1 µl をテンプレートとした。サーマルサイクラー

(PC320, ANTEC) を用いて 95℃ (15秒)、55℃ (15秒)、72℃ (15秒)を 1サイクルとし、

35サイクル行った。得られたPCR産物をエチジウムブロマイド (10 µg/100 ml) を含む5%

アガロースゲルで電気泳動した後、トランスイルミネーター (Mupid Scope WD,

ADVANCE) によりバンドを確認した。156 bp 付近に増幅されたバンドの検出を確認した

後、PCR産物 5 µlにM buffer (×10) 2 µlと制限酵素 Nhe 1 (TaKaRa bio Inc.) を 3 units

加え、超純水で 20 µlにメスアップした。これを 37℃で 4 時間反応させた後、エチジウム

ブロマイド含の 5%アガロースゲルで電気泳動し、トランスイルミネーターで PCR 産物の

制限酵素による切断の有無を確認した。

C. 脊髄反射電位測定法

Page 14: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

9

1. 摘出脊髄標本作製法

新生マウスを断頭して安楽殺を行った。腹位にして背側の皮膚を切開し、肋骨を脊椎か

らやや腹側に離れた部位で吻側から尾側に向かって切断した。胸腔内と腹腔内の諸臓器を

除去した後、上部胸椎から尾椎までの脊柱を摘出した。これを人工脳脊髄液 (ACSF:

artificial cerebrospinal fluid) で満たした標本作製用シャーレにピンで背位に固定した。

標本作製は、双眼実体顕微鏡 (SZ61, OLYMPUS) 下で以下の方法で行った。なお、標本

作製は室温で行い、標本作製用シャーレ内の ACSF は 5 分毎に交換した。ACSF の組成

(mM) は NaCl 138; KCl 3.5; CaCl2 1.25; MgCl2 1.5; NaHCO3 21; NaH2PO4 0.6; グルコー

ス 10とし、95% O2 + 5% CO2 混合ガスを通気し、pHを 7.3に調節した。

角膜尖刀を用いて胸椎、腰椎および仙椎の腹側部分を切除し、脊髄腹側部を露出させた。

次に、椎弓の左側部をピンセットでつまみ、胸椎から尾椎に切り開いて脊髄左側部および

後根神経節を露出した。この時、最後肋骨 (第十三胸椎) を指標にして胸髄、腰髄および仙

髄を確認し、腰髄の前根と後根を後根神経節とともに脊髄に付着させた状態に保った。次

に、胸髄の左側先端をピンセットで持ち上げ、角膜尖刀を用いて脊髄を正中線に沿って半

裁し、左半分の脊髄を摘出した。第三から第五腰髄の前根と後根を識別し、それ以外の神

経根や神経節を除去した後、第三から第五腰髄の神経根から後根神経節を切除した。

2. 電位変化の記録方法および刺激法

Page 15: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

10

前述のようにして作製した脊髄半裁標本を、ACSFで満たした容量 1.5 mlの実験槽に移

し、頭側を手前、半裁面を下にして、脊髄が実験槽の底に沈むように両端をピンで固定し

た。ACSFを 2.5 ml/minの流速で灌流し、実験槽はヒーターで加熱して 27±2℃に保った。

反射電位は Otsuka & Konishi (1974) の方法を改良した Saito (1979) の方法に準じ、吸

引電極を用いて前根から細胞外性に記録した。記録吸引電極は、銀-塩化銀線の入ったガラ

ス管の先端にガラス細管を連結して作成し、内径の異なるガラス細管を準備して前根の太

さにあったガラス細管を用いた。記録電極内を ACSF で満たした後に前根を吸引し、電極

内の銀-塩化銀線と実験槽内の不関電極との間に生じる電位差を微小電極用増幅装置

(MEZ-8300, 日本光電) で増幅後サーマルアレイコーダー (WR7900, GRAPHTEC) 上に

サンプリング時間 40 µs で記録した。さらにデータは AD 変換器 (Power Lab 2/26, AD

Instruments) を介してサンプリング時間 25 ms でコンピューター (Windows XP,

Microsoft Inc.) 上に保存して解析した (Chart V, AD Instruments)。電極はマニュピレー

ターに取り付けて操作した。電気刺激は電気刺激装置 (SEN-7103, 日本光電) とアイソレ

ーター (SS-403J, 日本光電) を用い、刺激用吸引電極を介して後根に与えた。刺激電極の

内外にはそれぞれ銀-塩化銀線を装着した。記録電極を装着した腰髄前根に対応する後根を

刺激電極内に吸引し、電圧 40 V、持続時間 200 µsの単一矩形波を与えた。図 1A に電極の

配置と電位変化の記録法を示している。

第三から第五腰髄後根のいずれかを電気刺激すると、対応する前根から数ミリ秒以内に

Page 16: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

11

図 1. 新生マウス摘出脊髄標本と脊髄反射電位

A:脊髄標本の模式図。第三から第五腰髄 (L3~L5) 後根のいずれかに刺激電極を、対応す

る前根に記録電極をそれぞれ装着した。図は第三腰髄 (L3) に電極を装着した場合を表して

いる。

B:後根の電気刺激 (▲) により記録される単シナプス反射電位 (MSR;左) と遅発性前根

電位 (sVRP;右) の典型的な波形。MSRは最大振幅 (h) を、sVRPは反応の曲線下面積

(AUC) を測定した。

Page 17: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

12

単シナプス反射電位 (MSR) が記録され、続いて 20~30 秒間持続する遅発性前根電位

(sVRP) が記録された (図 1B)。2 分間隔で電気刺激すると、各標本より記録された反射電

位は時間とともに徐々に増大したが、1時間後にほぼ一定になり、波形に著しい変化は見ら

れなくなった。この反射電位の増大は、脊髄が標本作製中に受けた傷害から回復したため

と、前根と記録電極先端のガラス細管との接触が密になり、両者間の電気抵抗が増大した

ためであると考えられる。それゆえ、電気刺激開始から 1 時間以上経過して、安定した反

応が得られるようになってから実験を開始した。MSR は最大振幅を、sVRP は反応の曲線

下面積 (area under the curve) をそれぞれ測定し、経時変化を薬物投与直前に得られた 3

点の反応の平均値に対する割合 (%) で表した。

D. 複合活動電位測定法

脊髄反射電位測定法と同様に、新生マウスを断頭して脊髄左側部および第四腰髄後根神

経節を露出した。露出した神経根を神経節より近位端で切断し、ACSFで灌流しながら遠位

端に刺激用、近位端に記録用のガラス吸引電極を装着した (図 2A)。腰髄神経の遠位端を

40 V、200 µsで刺激することで近位端で二相の複合活動電位の波形を記録した (図 2B)。2

分間隔で電気刺激を続けながら ACSF に溶解した薬物を腰髄神経に適用した。第一相およ

び第二相のそれぞれの最大振幅 (mV) を測定し、薬物投与直前に得られた 3点の反応の平

Page 18: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

13

図 2. 新生マウス摘出脊髄神経における複合活動電位の記録法

A:複合活動電位の記録法の模式図。aは刺激電極、bは記録電極、cは接地した不関電極

である。DRGは第四腰髄の後根神経節を表し、神経の細胞体が存在する。

B:遠位端の神経に電気刺激 (▲) を与えて記録した複合活動電位の波形。AFは刺激によ

って生じたアーティファクトを表している。第一相および第二相の活動電位それぞれの最

大振幅(h1, h2)を測定した。

Page 19: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

14

均値に対する割合 (%) で表した。

E. 行動解析実験

1. 実験動物

自家繁殖したB6.129S2-Adra2atm1Lel/JのWTおよびD79N-homoマウスの 8週齢の雄を

実験に用いた。各個体は実験前の 3 日間、侵害刺激を与えずに実験環境を経験させる馴化

を行った。薬物もしくは生理食塩水 (10 ml/kg) を 26G の注射針で腹腔内投与した。薬物

投与前および投与 30、60、90分後に痛み刺激に対して侵害受容行動を起こすまでの時間を

計測し、薬物投与前を 100%として割合で示した。実験は室温 22±4℃、湿度 50±20%に

保たれている動物飼育施設内で行った。

2. Hot plate 試験

マウスを 53℃に設定したホットプレート (HOT/COLD PLATE 35100, Ugo Basile) 上

に乗せた (図 3A) 際に逃避行動を起こすまでの時間を、ストップウォッチを用いて計測し

た。後肢を舐める (licking) もしくはジャンプする (jumping) を逃避行動とし、これらの

行動が見られたらマウスを速やかにホットプレートから出した。各時間での計測は一回の

み行い、熱による組織損傷を避けるための cut-off timeは 60秒とした。

Page 20: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

15

図 3. 行動解析実験の様子

A:Hot plate試験の様子。ホットプレートは 53℃に設定されており、cut-off timeは 60秒

とした。

B:Tail-flick試験の様子。マウスは軍手で包んで保定し、尾の先端 2~3 cmの部分を熱刺激

した。cut-off timeは 30秒とし、2回測定して平均値を計測した。

Page 21: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

16

3. Tail-flick試験

マウスの尾部に熱刺激を与えた際に尾を振る回避反射までの時間を、専用の測定機器

(Tail-Flick Unit 7360, Ugo Basile) を用いて計測した。マウスの胴体を軍手でつつみ保定

し、尾部の先端 2~3 cm の部分に熱刺激を照射した (図 3B)。熱刺激から尾部を動かす

(tail-flick) までの時間は装置が自動的に計測した数値を記録し、2回の計測の平均値を用い

た。刺激強度は装置の I.R. INTENSITYを 45に設定し、熱による組織損傷を避けるための

cut-off timeを 30秒とした。

F. 試薬

実験では以下の試薬を使用した。

Idazoxan hydrochloride, efaroxan hydrochloride, JP1302 dihydrochloride (TOCRIS),

xylazine hydrochloride (SIGMA), dexmedetomidine hydrochloride (ORION PHARMA),

atipamezole hydrochloride (SIGMA, ORION PHARMA)

G. 統計処理

各実験で得られた値は、平均値±標準誤差 (S.E.M.; n=例数) で表した。有意差検定は二

標本 t検定もしくは Dunnett検定で行い (JMP Pro 12, SAS Institute Inc.)、有意水準を P

< 0.05とした。

Page 22: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

17

Ⅲ 実験成績

A. WTマウス脊髄反射電位に対する α2受容体作動薬の効果

1. キシラジン

キシラジン (1-300 µM) をWTマウスの摘出脊髄標本に累積適用すると、sVRPは 10

µMから濃度依存性に抑制され、100 µMでほぼ消失した (図 4)。一方、MSRは 100 µMか

ら濃度依存性に抑制された。キシラジン (300 µM) によるMSRおよび sVRP抑制は、α2-AR

拮抗薬アチパメゾール (10 µM) を適用しても回復しなかった。キシラジンによるMSRお

よび sVRP抑制作用の EC50値は、それぞれ 239±23 µM (n=6) および 24±4 µM (n=6) で

あり、sVRPのほうがMSR よりもキシラジンに対する感受性が約 10倍高かった。

2. デクスメデトミジン

デクスメデトミジン (0.1-300 nM) を累積適用すると sVRPは 10 nMから、MSR は 30

nMから濃度依存性に抑制された (図 5)。デクスメデトミジン (300 nM) によって抑制され

た sVRPはアチパメゾール (10 µM) によって薬物投与前の 86±15% (n=4) まで回復した

が、MSR の抑制は回復しなかった。デクスメデトミジンによる MSR および sVRP 抑制作

用の EC50値は、それぞれ 182±16 nM (n=4) および 15±4 nM (n=4) であり、sVRPのほ

Page 23: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

18

図 4. WTマウスにおけるキシラジンの脊髄反射電位に対する効果

キシラジン (XYL: 1-300 µM) の各濃度を 30分間累積適用した時に得られたMSR と

sVRP の典型的な波形 (上段) と経時変化 (下段)。MSRおよび sVRPはキシラジン適用前

の 3回の反応の平均値に対する割合で示している (平均値±S.E.M., n=6)。

Page 24: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

19

図 5. WTマウスにおけるデクスメデトミジンの脊髄反射電位に対する効果

デクスメデトミジン (DEX: 0.1-300 nM) の各濃度を 30分間累積適用した時に得られた

MSRと sVRP の典型的な波形 (上段) と経時変化 の典型的な一例 (下段)。MSRおよび

sVRPはデクスメデトミジン適用前の 3回の反応の平均値に対する割合で示している。

Page 25: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

20

うがMSRよりもデクスメデトミジンに対する感受性が約 10倍高かった。

また、デクスメデトミジンによるMSRおよび sVRP抑制効果は、キシラジンと比較して

約 1,300倍および 1,600倍それぞれ高い力価を示した (図 6)。

B. α2A受容体変異マウス (B6.129S2-Adra2atm1Lel/J) における α2受容体作動薬の効果

WT マウスの脊髄反射電位は α2-AR 作動薬によって抑制されることが示された。そこで

次に α2A-AR 変異マウス (D79N-homo および hetero) を用いて、α2-AR 作動薬の脊髄反射

電に対する効果をWTマウスと比較検討した。

1. α2受容体作動薬の効果

a) キシラジン

D79N-hetero マウスにおいて、WT マウスと同様にキシラジン (1-300 µM) の累積適用

は sVRPを 10 µMから、MSRを 100 µMから濃度依存性に抑制した (図 7A, B)。この抑制

作用の EC50 値は、MSR では 239±23 µM (n=6, WT) および 216±21 µM (n=5,

D79N-hetero)、sVRP に対しては 24±4 µM (n=6, WT) および 24±8 µM (n=5,

D79N-hetero) であり、両マウス群の間で有意な差はなかった。また、WTマウスと同様に、

D79N-heteroマウスにおいてキシラジン (300 µM) によるMSRおよび sVRPの抑制はア

Page 26: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

21

図 6. WTマウスにおけるキシラジンとデクスメデトミジンの脊髄反射電位抑制効果の濃度

反応関係

キシラジンとデクスメデトミジンのMSRおよび sVRP抑制効果の濃度反応曲線。縦軸は

各薬物適用直前の 3回の反応の平均値に対する、各濃度における最大抑制が見られた 3点

の平均値の割合を示している (平均値±S.E.M., n=4)。

Page 27: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

22

図 7. α2A-AR遺伝子変異マウスにおけるキシラジンの脊髄反射電位に対する効果

(A, B) キシラジン適用時のMSRの波形の変化 (A) および濃度反応曲線 (B)。

(C, D) キシラジン適用時の sVRPの波形の変化 (C) および濃度反応曲線 (D)。濃度反応

曲線の縦軸はキシラジン適用前の 3回の反応の平均値に対する、各濃度の最大抑制が見ら

れた 3点の平均値の割合で示している (平均値±S.E.M., n=5-6)。*P < 0.05 vs. WT (paired

Student's t-test)

Page 28: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

23

チパメゾール (10 µM) では回復しなかった。

D79N-homoマウスにおいても、キシラジン (1-300 µM) の累積適用はMSRを 100 µM

から濃度依存性に抑制した (図 7C, D)。一方、キシラジンの sVRP 抑制は WT マウスや

D79N-heteroマウスと比較して高濃度 (30 µM) から生じ、キシラジン (30および 100 µM)

による抑制効果も有意に小さかった。D79N-homo マウスにおける sVRP 抑制の EC50値は

45±8 µM (n=6) で、WT (24±4 µM, n=6) および D79N-hetero (24±8 µM, n=5) マウス

に比べて有意に大きかった。

また、キシラジン (300 µM) によるMSRおよび sVRPの抑制はアチパメゾール (10 µM)

の適用で回復しなかった (データは示さない)。

b) デクスメデトミジン

D79N-heteroマウスにおいて、デクスメデトミジン (1-300 nM) の累積適用はWTマウ

スにおいてと同様にMSRを 30 nMから濃度依存性に抑制した (図 8A, B)。EC50値は 158

±68 nM (n=5) で、WTマウス群の値 (182±16 nM, n=4) と有意差はなかった。また、

D79N-homoマウスにおいても、デクスメデトミジン (3 nM-10 µM) はMSRを 30 nMか

ら濃度依存性に抑制した。WT および D79N-hetero マウスと比較して、D79N-homo マウ

スにおけるデクスメデトミジンの濃度反応曲線は右方にシフトする傾向があったが、EC50

値 (688±354 nM, n=4) に有意差はなかった。

Page 29: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

24

図 8. α2A-AR遺伝子変異マウスにおけるデクスメデトミジンの脊髄反射電位に対する効果

(A, B) デクスメデトミジン適用時のMSRの波形の変化 (A) および濃度反応曲線 (B)。

(C, D) デクスメデトミジン適用時の sVRPの波形の変化 (C) および濃度反応曲線 (D)。

濃度反応曲線の縦軸はデクスメデトミジン適用前の 3回の反応の平均値に対する、各濃度

の最大抑制が見られた 3点の平均値の割合で示している (平均値±S.E.M., n=4-5)。*P <

0.05 vs. WT (paired Student's t-test)

Page 30: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

25

一方、sVRPに対して、デクスメデトミジンはWTマウスにおいてと同様に D79N-hetero

マウスにおいて 3 nMから濃度依存性に抑制した。EC50値は 40±20 nM (n=4) で、WTマ

ウス群 (15±4 nM, n=5) と有意差はなかった (図 8C, D)。一方、D79N-homoマウスにお

いては、デクスメデトミジン (3 nM-10 µM) は WT や D79N-hetero マウスよりも高濃度

(100 nM) から sVRPを濃度依存性に抑制し、WT マウスでは sVRPが消失した濃度 (300

nM) でも抑制率は 29.0±8.4% (n=4) で、さらに高濃度 (10 µM) まで適用しても抑制率は

41.1±3.8% (n=4) だった (図 8D)。

2. α2受容体およびイミダゾリン受容体拮抗薬の効果

これまでの実験で、α2-AR 作動薬の sVRP抑制効果に α2Aサブタイプが関与していること

が示唆された。一方、D79N-homo マウスにおいても α2-AR 作動薬による sVRP 抑制効果

は消失せず、MSR 抑制効果は WT マウスと比較して変化しなかった。そこで、α2C-AR サ

ブタイプやイミダゾリン受容体に対する特異性の高い拮抗薬の作用を検討することでこれ

ら α2A-AR以外の受容体が脊髄反射電位抑制効果に関与しているかどうかを調べた。

a) デクスメデトミジンの反射電位抑制に対する効果

D79N-homoマウスにおいて、デクスメデトミジン (1 µM) による sVRP抑制はアチパメ

ゾール (10 µM) でほぼ完全に回復した (図 9A) が、α2C-AR サブタイプに選択性のある拮

Page 31: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

26

抗薬の JP1302 (10 µM) では回復しなかった (図 9B)。同様の実験をそれぞれイミダゾリン

I1および I2受容体拮抗薬であるエファロキサン (10 µM) とイダゾキサン (10 µM) を用い

て行ったが、デクスメデトミジンによる sVRP抑制は回復しなかった (図 9C)。また、アチ

パメゾールを含む全ての拮抗薬でデクスメデトミジン (1 µM) による MSR 抑制は影響を

受けなかった。

b) キシラジンの反射電位抑制に対する効果

高濃度 (300 µM) キシラジンの反射電位抑制効果はアチパメゾール (10 µM) で全く回

復しなかった。以前の卒業論文 (Kobayashi, 2013) の検討でも、C57BL/6J マウスの反射

電位に対する高濃度キシラジンの効果はアチパメゾールで回復しなかった。そこでまず低

濃度 (30 µM) キシラジンの効果に対するアチパメゾールの作用を、C57BL/6Jマウスを用

いて検討した。

C57BL/6Jマウスにおいて、キシラジン (30 µM) を適用すると sVRPは顕著に抑制され

たがMSRは影響を受けなかった。アチパメゾール (1 µM) はこの sVRP抑制効果の大部分

を回復させた (図 10B)。

D79N-homoマウスの脊髄標本にキシラジン (30 µM) を適用すると sVRPはわずかに抑

制されたが、アチパメゾール (10 µM) を適用してもこの抑制は回復しなかった (図 11A)。

JP1302 (10 µM)、エファロキサン (10 µM)、イダゾキサン (10 µM) を用いて同様の実験を

Page 32: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

27

図 9. α2A-AR変異マウスにおけるデクスメデトミジンの脊髄反射電位抑制効果に対する拮

抗薬の作用

(A, B) D79N-homoマウスにデクスメデトミジン (1 µM) を 30分間適用した後にアチパ

メゾール (A) および JP1302 (B) を 10 µM 適用した際の MSR および sVRP の経時変化。

(C) アチパメゾール (ATI, 10 µM)、JP1302 (10 µM)、エファロキサン (EFA, 10 µM)、

イダゾキサン (IDA, 10 µM) を 30分間適用する前後のMSRと sVRP の大きさ。デクスメ

デトミジン適用前の 3回の反応の平均値に対する、拮抗薬適用 30分後の 3点の平均値の割

合で示している (平均値±S.E.M., n=5-6)。*P < 0.05 (paired Student's t-test)

Page 33: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

28

図 10. C57BL/6Jマウスにおけるキシラジンの脊髄反射電位抑制効果に対するアチパメゾ

ールの作用

(A) C57BL/6Jマウスマウスにキシラジン (30 µM) を 30分間適用した後にアチパメゾー

ル (ATI, 10 µM) を適用した際のMSRおよび sVRPの経時変化。

(B) アチパメゾールを 30分間適用する前後のMSRと sVRP の大きさ。キシラジン適用

前の 3回の反応の平均値に対する、アチパメゾール適用 30分後の 3点の平均値の割合で示

している (平均値±S.E.M., n=4)。*P < 0.05 (paired Student's t-test)

Page 34: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

29

図 11. α2A-AR変異マウスにおけるキシラジンの脊髄反射電位抑制効果に対する拮抗薬の作

(A, B) D79N-homoマウスにキシラジン (30 µM) を30分間適用した後にアチパメゾール

(A) および JP1302 (B) を 10 µM適用した際のMSRおよび sVRPの経時変化。

(C) アチパメゾール (ATI, 10 µM)、JP1302 (10 µM)、エファロキサン (EFA, 10 µM)、

イダゾキサン (IDA, 10 µM)を 30分間適用する前後のMSRと sVRP の大きさ。キシラジ

ン適用前の 3回の反応の平均値に対する、拮抗薬適用 30分後の 3点の平均値の割合で示し

ている (平均値±S.E.M., n=4-7)。

Page 35: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

30

行ったが、いずれの拮抗薬もキシラジンの sVRP抑制効果を回復させなかった (図 11B, C)。

また、キシラジン (30 µM) は D79N-homoマウスのMSRに影響を与えなかった。

C. マウス脊髄神経の複合活動電位に対する α2受容体作動薬の効果

高濃度のキシラジンによる反射電位の抑制は、D79N-homoマウスでも見られた。この抑

制は α2-AR やイミダゾリン受容体の拮抗薬でも回復しなかったことから、受容体を介さな

い非特異的な作用である可能性が考えられた。そこで高濃度 α2-AR 作動薬の活動電位伝導

に対する効果を検討した。

C57BL/6Jマウスから摘出した L4背根脊髄神経の遠位端を電気刺激すると、近位端から

二相性の複合活動電位が記録された (図 12A)。デクスメデトミジン (1 µM) の適用は、第

一相および第二相のどちらの活動電位にも影響を与えなかった (図 12A, C)。一方、キシラ

ジン (300 µM) は第一相および第二相電位を有意に抑制した (図 12B, C)。また

D79N-homoマウスでも同様の結果が得られ、デクスメデトミジン (1 µM) は第一相および

第二相のどちらの活動電位にも影響を与えなかった (図 13A, C) のに対して、キシラジン

(300 µM) は第一相および二相電位を有意に抑制した (図 13B, C)。

Page 36: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

31

図 12. C57BL/6Jマウスの複合活動電位に対するデクスメデトミジンおよびキシラジンの

効果

C57BL/6Jマウスの L4後根脊髄神経の遠位を電気刺激した際に近位から得られる二相性

の複合活動電位のデクスメデトミジン (1 µM, A) およびキシラジン (300 µM, B) の 30分

間適用前後の波形。それぞれの反応の大きさを薬物適用前の 3回の反応の平均値に対する

割合で示している (C, 平均値±S.E.M., n=3-5)。*P < 0.05 vs. control (paired Student's

t-test)

Page 37: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

32

図13. D79N-homoマウスの複合活動電位に対するデクスメデトミジンおよびキシラジンの

効果

D79N-homoマウスの L4後根脊髄神経の遠位を電気刺激した際に近位から得られる二相

性の複合活動電位のデクスメデトミジン (1 µM, A) およびキシラジン (300 µM, B) の 30

分間適用前後の波形。それぞれの反応の大きさを薬物適用前の 3回の反応の平均値に対す

る割合で示している (C, 平均値±S.E.M., n=3-5)。*P < 0.05 vs. control (paired Student's

t-test)

Page 38: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

33

D. 行動解析実験

ここまでの in vitro反射電位測定実験から、α2-AR作動薬による脊髄侵害受容経路の抑制

効果は α2A-AR活性化以外の機構によっても生じることが示され、これらの機構は α2-AR作

動薬による鎮痛効果にも関与している可能性が示唆された。そこで次に in vivoでの α2-AR

作動薬による鎮痛効果が α2A-AR変異でどのような影響を受けるか検討した。

1. キシラジン

WTマウスにおいて、キシラジン (10-30 mg/kg, i.p.) はホットプレート試験の熱刺激に

よる回避行動までの潜時を増加させた (図 14A)。生食投与群と比較して、キシラジン (10

mg/kg) 投与群では投与 30分後には有意な潜時の増加が認められ、90分後にこの鎮痛効果

は消失した。キシラジン (30 mg/kg) 投与群では、投与 90分後まで強い鎮痛効果が観察さ

れた。一方 D79N-homoマウスでは、キシラジン (10-30 mg/kg、i.p.) はホットプレート試

験の潜時を延長しなかった (図 14B)。

また、tail-flick試験でも、キシラジン (10-30 mg/kg, i.p.) によって回避反射までの潜時

に増加傾向が見られ (図 15A)、キシラジン (30 mg/kg) 投与 90分後で生食投与群と比較し

て有意な鎮痛効果が観察された。一方D79N-homoマウスにおいてはキシラジンは tail-flick

試験で逃避行動までの潜時を延長しなかった (図 15B)。

Page 39: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

34

図 14. Hot plate試験におけるキシラジンの鎮痛効果

WTマウス (A) およびD79N-homoマウス (B) におけるキシラジン腹腔内投与前と投与

30、60、90分後の hot plate試験の結果。マウスが逃避行動 (lickingまたは jumping) す

るまでの潜時 (latency) を測定した (平均値±S.E.M., n=5-10)。*P < 0.05 vs. saline

(Dunnett's test)

Page 40: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

35

図 15. Tail-flick試験におけるキシラジンの鎮痛効果

WTマウス (A) およびD79N-homoマウス (B) におけるキシラジン腹腔内投与前と投与

30、60、90分後の tail-flick試験の結果。マウスが逃避行動 (tail-flick) するまでの潜時

(latency) を測定した (平均値±S.E.M., n=5-10)。*P < 0.05 vs. saline (Dunnett's test)

Page 41: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

36

2. デクスメデトミジン

WTマウスにおいて、デクスメデトミジン (30-300 µg/kg, i.p.) はホットプレート試験の

熱刺激による回避行動までの潜時を増加させた (図 16A)。生食投与群と比較して、デクス

メデトミジン (30 µg/kg) 投与群では投与 30分後に有意な潜時の増加が認められ、60分後

には鎮痛効果は消失した。デクスメデトミジン (100 µg/kg) 投与群では投与 30 分後から

60分後まで、デクスメデトミジン (300 µg/kg) 投与群では投与 30分後から 90分後まで有

意な鎮痛効果が観察された。一方 D79N-homo マウスでは、デクスメデトミジン (30-300

µg/kg, i.p.) はホットプレート試験における潜時を延長しなかった (図 16B)。

また、tail-flick試験では、デクスメデトミジン (30-300 µg/kg, i.p.) によってWTマウス

の回避反射までの潜時に有意な変化が見られなかった (図 17A)。D79N-homo マウスにお

いても、デクスメデトミジンは tail-flick 試験で逃避行動までの潜時を延長しなかった (図

17B)。

Page 42: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

37

図 16. Hot plate試験におけるデクスメデトミジンの鎮痛効果

WTマウス (A) およびD79N-homoマウス (B) におけるデクスメデトミジン腹腔内投与

前と投与 30、60、90分後の hot plate試験の結果。マウスが逃避行動 (lickingまたは

jumping) するまでの潜時 (latency) を測定した (平均値±S.E.M., n=5-10)。*P < 0.05 vs.

saline (Dunnett's test)

Page 43: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

38

図 17. Tail-flick試験におけるデクスメデトミジンの鎮痛効果

WTマウス (A) およびD79N-homoマウス (B) におけるデクスメデトミジン腹腔内投与

前と投与 30、60、90分後の tail-flick試験の結果。マウスが逃避行動 (tail-flick) するまで

の潜時 (latency) を測定した (平均値±S.E.M., n=5-10)。

Page 44: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

39

Ⅳ 考察

デクスメデトミジンの脊髄侵害受容電位抑制効果における α2A-ARの役割

α2A-AR 遺伝子改変マウス (D79N) の脊髄反射電位に対する α2-AR 作動薬の作用を調べ

たところ、D79N-homoマウスの sVRPに対する抑制効果がデクスメデトミジンとキシラジ

ンのどちらにおいても減弱していることが示された。α2A-AR は脊髄の特に後角表層に発現

しており、下行性抑制神経路から放出されるノルアドレナリンおよび α2作動性鎮痛薬の主

な作用点である (Millan, 2002)。α2A-ARに共役している Gi/oタンパク質の活性化に伴う K

+チャネルの開口や Ca2+チャネルの阻害、cAMP 量の減少がシナプス前膜からの伝達物質

放出を抑制し、シナプス伝達の抑制が引き起こされると考えられている (Baba et al.,

2000a, b; Millan, 2002; Pertovaara, 2006; Benarroch, 2008)。sVRPは痛みを伝える侵害

受容経路の神経活動を反映しており (Faber et al., 1997)、sVRPの抑制は脊髄レベルでの

鎮痛効果の指標と考えられている。本実験においても、α2-AR 作動薬が脊髄後角表層の

α2A-ARを介してシナプス伝達を抑制し、sVRPを抑制したと考えられる。

しかし、D79N-homoマウスにおいて、デクスメデトミジンを高濃度 (10 µM) 適用する

と sVRP は約 40%抑制された。このことから、デクスメデトミジンの効果が α2A-AR 以外

の受容体も介して生じている可能性が考えられた。マウス脊髄組織では α2A-AR に加えて

Page 45: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

40

α2C-ARが発現しており (Stone et al., 1998; Huang et al., 2002)、α2-AR作動薬の脊髄にお

ける鎮痛作用に α2C-ARが関わっているという報告がある (Philipp et al., 2002)。また、デ

クスメデトミジンはイミダゾリン骨格を有しているため、イミダゾリン受容体に対して活

性を持つことが報告されている (Wikberg et al., 1991)。しかし本研究では、D79N-homo

マウスで観察されたデクスメデトミジンによる sVRP 抑制は、非選択的 α2-AR 拮抗薬のア

チパメゾールで回復したが、α2C-AR に選択性の高い拮抗薬である JP1302 やイミダゾリン

I1受容体拮抗薬のエファロキサン、I2受容体拮抗薬のイダゾキサンでは回復しなかったこと

から、これらの受容体の関与の可能性は低い。今回用いた遺伝子改変マウスは α2A-ARに一

塩基置換を起こしたものであり、この D79N変異した α2A-ARはマウス脳組織において Gα

サブユニットとの親和性が約 80%低下するものの、受容体としての活性を完全に失ってい

るわけではないと報告されている (MacMillan et al., 1996)。また、D79N変異した α2A-AR

を強制発現させた AtT-20細胞では、K+チャネル活性化が選択的に阻害されるが、Ca2+チャ

ネル抑制など他の細胞内伝達系は機能している可能性も指摘されている (Surprenant et

al., 1992; Lakhlani et al., 1996)。そのため、デクスメデトミジンが D79N変異 α2A-ARを

介して sVRP を抑制している可能性がある。以上のことを考慮すると、デクスメデトミジ

ンによる sVRP抑制は、その大部分が α2A-ARを介して引き起こされていると考えられる。

キシラジンの脊髄侵害受容電位抑制効果における α2A-ARの役割

Page 46: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

41

デクスメデトミジンと同様に、キシラジンによる sVRP 抑制効果も D79N-homo マウス

では減弱していることが示された。このことから、キシラジンの脊髄侵害受容経路の抑制

効果にも α2A-ARが関与していることが明らかになった。一方、デクスメデトミジンと異な

り、D79N-homoマウスでもキシラジンによる顕著な sVRP抑制効果が観察された。この効

果はアチパメゾールや JP1302、エファロキサン、イダゾキサンのいずれを適用しても回復

しなかったことから、α2A-AR、α2C-AR、イミダゾリン受容体のいずれも介していない反応

と考えられる。

高濃度 (約 3 mM) のキシラジンがカエルの坐骨神経で活動電位の伝導を抑制したという

報告があり (Aziz & Martin, 1978)、キシラジンが局所麻酔作用を持っている可能性がある。

そこで本研究では、後根脊髄神経線維を用い非シナプス性の活動電位伝導に対するキシラ

ジンの作用を検討した。後根神経を電気刺激すると速い波と遅い波の二相性の複合活動電

位が観察された。これは今回用いた後根神経が主に求心性の知覚神経で構成されており、

有髄で伝導速度の速い A 線維や無髄で伝導速度の遅い C 線維など伝導速度の異なる神経線

維が混在しているためである。A線維は筋の伸展などの情報を伝達するのに対して、C線維

は痛みの伝達に寄与している。デクスメデトミジンはこの 2 つの相のどちらの活動電位に

対しても抑制効果は示さなかった。それに対してキシラジンは、二相性の両波を抑制し、

特に遅い相に対してより強い抑制効果を示した。また、このキシラジンによる複合活動電

Page 47: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

42

位伝導の抑制効果は C57BL/6J マウスと D79N-homo マウスのどちらでも同様に観察され

た。このことから、デクスメデトミジンとは異なり、高濃度のキシラジンは α2-AR を介さ

ずに活動電位伝導を抑制することが明らかとなった。また、遅い相に対してより強い抑制

効果が得られたことから、伝導速度が遅く痛みの伝達に関わる C 線維を優先的に抑制して

いる可能性が示唆された。この活動電位抑制効果のメカニズムとして、電位依存性ナトリ

ウムチャネルの阻害や、カリウムチャネル開口による過分極などの可能性が考えられる。A

線維よりも C 線維に対して強い抑制効果を示した理由としては、局所麻酔薬の作用で見ら

れるように C 線維のほうが軸索の径が小さく無髄であるため、活動電位の伝導が抑制され

やすいためと考えられる。

以上の結果から、高濃度のキシラジンによる sVRP 抑制は活動電位伝導抑制効果によっ

てもたらされた可能性が高く、活動電位伝導抑制効果のないデクスメデトミジンは高濃度

でも sVRPを完全には抑制しなかったと考えられる。

α2-AR作動薬による運動反射電位の抑制効果

一方キシラジンとデクスメデトミジンによる MSR 抑制はどちらも α2-AR およびイミダ

ゾリン受容体拮抗薬で回復せず、また、D79N-homoマウスでも減弱しなかった。キシラジ

ンの MSR 抑制には高濃度で観察された活動電位伝導抑制効果が関与している可能性があ

Page 48: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

43

る。また、本研究室では以前の卒業研究 (Kobayashi, 2013) で、デクスメデトミジンの

MSR抑制がアチパメゾールでは抑制されないが、ヨヒンビンで減弱することを報告してい

る。ヨヒンビンは α2-AR 拮抗薬であるが、α2-AR に対する特異性 (α1:α2=40:1) はアチ

パメゾール (α1:α2=8300:1) より低く (Virtanen et al.,1989; Pertovaara, 2006)、5-HT

受容体に対する拮抗作用も報告されている (Millan et al., 2000)。本研究室では、ラットの

MSRが外因性および内因性の5-HTで抑制されることを以前に示している (Iwasaki et al.,

2013)。 これらのことから、デクスメデトミジンのMSR抑制に 5-HT受容体などの AR以

外の受容体が関与しているかもしれない。α2-AR作動薬のMSR抑制機構を明らかにするた

めには、今後さらなる検討が必要である。

α2-AR作動薬の鎮痛効果における α2A-ARの重要性

摘出脊髄標本を用いた実験から、キシラジンは α2A-ARを介さない痛覚抑制作用を有する

可能性が示された。しかしこの効果は高濃度のキシラジン適用時のみで見られた。そこで、

薬効量のキシラジンの効果における α2A-ARの役割を明らかにするために in vivoでの行動

解析実験を行ったところ、WTマウスでのホットプレート試験において鎮痛効果を発揮した

デクスメデトミジンとキシラジンの用量は D79N-homo マウスに対して鎮痛効果を示さな

かった。Tail-flick 試験においても、キシラジンは WT マウスで鎮痛作用を示したが、

Page 49: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

44

D79N-homoマウスでは示さなかった。これらの結果から、キシラジンとデクスメデトミジ

ンの薬効量での鎮痛効果は α2A-ARが重要な役割を担っていることが示された。一方、デク

スメデトミジンは tail-flick 試験では、ホットプレート試験で鎮痛作用を示した用量では有

意な効果を示さなかった。キシラジンの鎮痛効果もホットプレート試験に比べて tail-flick

試験で弱かった。末梢神経が侵害刺激を脊髄に伝えた際、その信号は脊髄を上行して最終

的に大脳皮質に到達することで動物は痛みを感じるが、この経路の他に脊髄後角のシナプ

スを介した反射弓回路によって組織障害を受ける前に無意識の逃避行動を引き起こす脊髄

反射が存在する。ホットプレート試験が A線維や C 線維などからの複合的な入力の結果と

しての大脳皮質での痛みの知覚に起因する逃避行動を評価しているのに対して、tail-flick

試験は Aδ線維を介した脊髄反射弓による回避反射を評価しており、一般的にホットプレー

ト試験のほうが tail-flick 試験よりも潜時の延長が観察しやすい。また、ホットプレート試

験では鎮痛作用だけでなく鎮静作用や不動化によっても潜時が延長することから、デクス

メデトミジンやキシラジンの鎮静作用も今回の実験に影響していると考えられる。

Page 50: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

45

第二章 α2Aアドレナリン受容体とキシラジン、デクスメデトミジンとのドッキングシミュ

レーション

Ⅰ 緒論

第一章で示したように、デクスメデトミジンおよびキシラジンの鎮痛作用には α2A-ARが

重要な役割を果たしていることが明らかになった。そのためキシラジンで特に顕著な α2-AR

作動薬の薬効種差に α2A-ARの構造の種差が関与している可能性が考えられる。

α2A-AR は 7 回膜貫通型の G タンパク質共役型受容体 (GPCR) であり、7 つの膜貫通領

域 (TM1-7) と 4つの細胞内/細胞外ループ (C1-4 / E1-4) で構成されている。GPCR は A

~Fの 6つのクラスに分類され、α2A-AR はクラス Aの GPCRである (Attwood & Findlay,

1994)。GPCR の立体構造解析はヒトの β2アドレナリン受容体とリガンド、G タンパク質

の複合体の X 線構造解析 (Cherezov et al., 2007) を皮切りに進められており、β2 -AR

(Rasmussen et al., 2011) やアデノシン A2A受容体 (Xu et al., 2011) はリガンドとの複合

体の立体構造まで明らかにされているが、α2A-ARの立体構造と α2-AR作動薬との結合様式

は未だに解明されていない。そのため、α2-AR の構造解析のために同じクラス A の GPCR

であるヒトの β2アドレナリン受容体の立体構造を基にヒト α2-ARの構造を推測し、内因性

リガンドのノルアドレナリンや α2-AR 拮抗薬とのドッキングシミュレーションでリガンド

Page 51: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

46

との親和性やバインディングポケットが予測されている (Ostopovici-Halip et al., 2011)。

ドッキングシミュレーションは計算機やソフトウェアの発展により近年発達した in

silico の手法であり、タンパク質の活性化メカニズムの解明や創薬などに用いられている。

本研究の第二章では、コンピューターを用いてマウス、ウシおよびブタ α2A-ARの立体構造

をモデリングした。さらにドッキングシミュレーションにより、α2-AR作動薬と α2A-ARと

の結合を検討し、薬効種差が各動物種の α2A-ARの構造の違いに起因している可能性を検証

した。

Page 52: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

47

Ⅱ 実験方法

A. α2Aアドレナリン受容体の立体構造のモデリング

各動物種の α2A-ARのアミノ酸配列は National Center for Biotechnology Information

(NCBI) のデータベース (ヒト:NP_000672, マウス:NP_031443, ウシ:NP_776924, ブ

タ:NP_999565) を参照した。Protein Data Baseよりヒト β2アドレナリン受容体の立体

構造データ (2R4R) をダウンロードし、この立体構造をテンプレートにして

SWISS-MODEL (https://swissmodel.expasy.org/) で各動物種の α2A-ARの立体構造をモデ

リングした。配列の一部を他の動物種のものと入れ替えたキメラ受容体も同様に立体構造

をモデリングした。また、リガンドであるノルアドレナリン、デクスメデトミジンおよび

キシラジンの立体構造データは Online SMILES Translator and Structure File Generator

(https://cactus.nci.nih.gov/translate/) でモデリングした。

B. ドッキングシミュレーション

各動物種のα2A-ARとリガンドの立体構造データを用いてコンピューターでドッキングシ

ミュレーションを行った。使用したシミュレーションソフトはMolegro Virtual Docker 6.0

Page 53: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

48

(CLC bio company) で、バインディングポケットの位置とMolDock Score (Yang & Chen,

2004; Thomsen & Christensen, 2006) (式 1) を評価した。

リガンドとタンパク質の相互作用エネルギー (Einter) とリガンドの内部エネルギー (Eintra)

の和で算出されるMolDock Scoreは値が小さいほどリガンドとタンパク質が強く結合して

いることを示す。Einterは (式 2) で算出さる。

リガンドの 1 原子 (i) とタンパク質の 1 原子 (j) で、距離 (r) を変数とする区分線形関数

(EPLP(rij)) と原子間のクーロン力を足し、それをすべての原子間の組み合わせで足し合わせ

たものである。Eintraは (式 3) で算出さる。

リガンド内の 2原子 (i, j)で、rを変数とする区分線形関数 (EPLP(rij)) とねじれエネルギー

を足し、それをすべての原子間の組み合わせで足し合わせたものである。Eclashは実現不可

能な立体配座を排除するための項である。今回のシミュレーションは、膜脂質や水分子な

どの受容体とリガンド以外の分子の影響は考慮しない条件で行った。

Page 54: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

49

Ⅲ 実験成績

A. マウス、ウシおよびブタの α2A受容体配列を用いたドッキングシミュレーション

NCBIのデータベースより参照したヒト、マウス、ウシおよびブタの α2A-ARのアミノ酸

配列からアライメントを作成した (図 18A)。その結果、7つの膜貫通領域 (TM1-7) の配列

は各動物種間で高度に保存されていた。各動物種間でもっとも違いがみられたのは TM5と

TM6 の間にある第三細胞内ループ (C3) 領域だった。また、マウス α2A-AR のアミノ酸配

列をすでに立体構造が解析されているヒト β2-AR と比較したところ、TM 領域に共通のモ

チーフが多く見られた (図 18B)。

α2A-AR は 7 回膜貫通型の GPCR であり、7 つの膜貫通領域 (TM1-7) と 4 つの細胞内/

細胞外ループ (C1-4 / E1-4) で構成されており、TMは細胞外から見ると反時計回りに配置

される (図 19A, B)。ヒト β2-ARの立体構造データをもとに、マウス α2A-ARの立体構造を

モデリングした (図 19C)。マウス α2A-AR の TM2-3 に対して TM5-7 の細胞外側が離れる

方向に傾いており、ここに空間が形成されていることが示された。同様にウシ、ブタのそ

れぞれの α2A-AR の立体構造を予測し、マウスの α2A-AR の構造 (図 20A) と比較するとウ

シ α2A-ARでは細胞内/細胞外ループにおいて幾つかの違いが認められたが、TMの位置に大

きな違いはなかった (図 20B)。一方、ブタ α2A-ARはマウスと比較して細胞内/細胞外ルー

Page 55: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

50

図 18.各動物種の α2A-ARとヒト β2-ARのアミノ酸配列

ヒト、マウス、ウシ、ブタの α2A-AR (A) およびヒト β2-ARとマウス α2A-AR (B) のアミ

ノ酸配列の比較。α2A-ARのアミノ酸配列と共通アミノ酸 (consensus) および保存性

(conservation) を示した。各動物種の膜貫通領域 (TM1-7) を水色のボックスで示している。

Page 56: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

51

図 19. GPCRの模式図とマウスの α2A-ARの立体構造モデリング

GPCRを横 (A) および細胞外 (B) から見た際の模式図。TM1-7は膜貫通領域、E1-4は

細胞ループ、C1-4は細胞内ループドメインを表す。ヒト β2-ARの立体構造データをもとに

モデリングされたマウス α2A-ARの立体構造 (C)。受容体を細胞外から見ている。

Page 57: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

52

図 20. α2A-ARの立体構造モデリングと動物種差の比較

(A) ヒト β2-ARの立体構造データをもとに予測したマウス α2A-ARの立体構造。

(B, C, D) マウス α2A-AR (青) の立体構造と比較したウシ (B)、ブタ (C)、D79Nマウス

(D) の α2A-ARの立体構造。青色の部分が構造の異なるマウス α2A-ARの部位を示している。

Page 58: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

53

プに加えて膜貫通領域に渡って全般的に相違点が認められた (図 20C)。また、D79N マウ

ス α2A-ARについても同様の解析を行ったが、野生型マウスと比較して立体構造に違いは殆

どなかった (図 20D)。また、それぞれの α2A-ARの細胞外側の空洞 (キャビティ) を比較し

たところ、マウスおよび D79Nマウス α2A-ARに比べてウシとブタ α2A-ARではキャビティ

の体積が小さく、また、ウシ α2A-ARでは特に TM3, 4および 5に囲まれた領域 (TM345) の

キャビティが小さいことが示された (図 21)。

次にドッキングシミュレーションを行うリガンドのノルアドレナリン、デクスメデトミ

ジンおよびキシラジンの立体構造を、構造式から作成した (図 22)。ノルアドレナリンはカ

テコール核 1 つとアミノ基 1 つから構成されるカテコールアミンである。デクスメデトミ

ジンはメデトミジンの D-異性体でイミダゾリン骨格と不斉炭素原子を 1 つ持つ。デクスメ

デトミジンが α2-AR に対して高い特異性を示す (α2/α1=1,600) のに対して、L-メデトミジ

ンは特異性が低い (α2/α1=23)。一方キシラジンはイミダゾリン骨格を持たず、この点が他

の α2-AR作動薬と異なっている。

1. ノルアドレナリンのドッキングシミュレーション

マウス α2A-ARとノルアドレナリンのドッキングシミュレーションを行なったところ、最

も安定性の高いバインディングポケットは TM35に存在し、TM5のチロシン残基とノルア

ドレナリンの六員環が最も強く相互作用していた (図 23A)。D79N変異を持つマウスおよ

Page 59: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

54

図 21. 各動物の α2A-ARのキャビティ

モデリングされたマウス (A)、ウシ (B)、ブタ (C) 、D79Nマウス (D) α2A-AR のキャビ

ティをそれぞれ緑色で示した。下の値はキャビティの体積 (Å3)。

Page 60: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

55

図 22. ノルアドレナリン、デクスメデトミジンおよびキシラジンの構造式と立体構造

ノルアドレナリン (A)、デクスメデトミジン (B) およびキシラジン (C) の構造式と立体

構造。炭素および水素原子は白、酸素原子は赤、窒素原子は青、硫黄原子は黄色の球で示

した。デクスメデトミジンの左に存在する 2つの窒素原子を含む五員環がイミダゾリン骨

格である。

Page 61: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

56

図 23. α2A-ARとノルアドレナリンのドッキングシミュレーション

マウス (A)、D79Nマウス (B)、ウシ (C)、ブタ (D) の α2A-ARとノルアドレナリンのド

ッキングシミュレーションの結果。バインディングポケットの位置とMolDock Score (MS)

を示す。それぞれMolDock Scoreが最も低い結果を示した。

Page 62: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

57

びウシ α2A-AR でもバインディングポケットの位置や MolDock Score に野生型マウス

α2A-ARとの大きな違いは見られなかった (図 23B, C)。一方ブタ α2A-ARのシミュレーショ

ンではノルアドレナリンは TM35ではなく TM34に存在するバインディングポケットに最

も安定的に結合し、TM4のロイシンやリジン残基と強く相互作用していた (図 23D)。各動

物種で最も安定的に結合したバインディングポケットの位置を比較したところ (図 24)、マ

ウス、D79Nマウス、ウシでは TM35内でのバインディングポケットの位置は同じだった。

2. デクスメデトミジンのドッキングシミュレーション

次にマウス α2A-ARとデクスメデトミジンのドッキングシミュレーションを行なった。最

もMolDock Scoreが低く、安定性の高いと考えられるデクスメデトミジンのバインディン

グポケットは TM356に存在し、ノルアドレナリンに対してと同様に TM5のチロシン残基

とデクスメデトミジンの六員環が最も強く相互作用していた (図 25A)。D79N マウスとウ

シ α2A-ARにおいてもマウス α2A-ARと同様のシミュレーション結果が得られた (図 25B, C)。

一方ブタ α2A-ARのシミュレーションではデクスメデトミジンは TM356ではなく TM56に

存在するバインディングポケットに最も安定的に結合し、TM6 のイソロイシン残基やマウ

スやウシと同じく TM5 のチロシン残基と強く相互作用していた (図 25D)。各動物種の

α2A-ARで最も安定的に結合したバインディングポケットの位置を比較したところ (図 26)、

マウス、D79Nマウスおよびウシではバインディングポケットの位置は同じだったが、ブタ

Page 63: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

58

図 24. α2A-ARとノルアドレナリンのバインディングポケットの比較

マウス (青)、D79Nマウス (赤)、ウシ (緑)、ブタ (黄) の α2A-ARとノルアドレナリンのバ

インディングポケットの位置。それぞれMolDock Scoreが最も低い結果を示した。マウス

α2A-ARを水色で示している。

Page 64: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

59

図 25. α2A-ARとデクスメデトミジンのドッキングシミュレーション

マウス (A)、D79Nマウス (B)、ウシ (C)、ブタ (D) の α2A-ARとデクスメデトミジンの

ドッキングシミュレーションの結果。バインディングポケットの位置とMolDock Score

(MS) を示す。それぞれMolDock Scoreが最も低い結果を示した。

Page 65: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

60

図 26. α2A-ARとデクスメデトミジンのバインディングポケットの比較

マウス (青)、D79Nマウス (赤)、ウシ (緑)、ブタ (黄) の α2A-ARとデクスメデトミジン

のバインディングポケットの位置。それぞれMolDock Scoreが最も低い結果を示した。マ

ウス α2A-ARを水色で示している。

Page 66: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

61

ではより TM6に近い位置に存在した。

3. キシラジンのドッキングシミュレーション

マウス α2A-ARとキシラジンのドッキングシミュレーションを行なったところ、最も安定

性の高いバインディングポケットは TM56 に存在し、ノルアドレナリン、デクスメデトミ

ジンに対してと同様にTM5のチロシン残基とキシラジンの六員環が最も強く相互作用して

いた (図 27A)。D79N マウスおよびウシ α2A-AR でもバインディングポケットの位置や

MolDock Scoreに野生型マウス α2A-ARとの大きな違いは見られなかった (図 27B, C)。一

方ブタ α2A-ARのシミュレーションではキシラジンは TM56ではなく TM345に存在するバ

インディングポケットに最も安定的に結合し、TM4 のロイシン残基とキシラジン分子全体

が強く相互作用しており、MolDock Scoreはマウスやウシ α2A-ARの最も安定したバインデ

ィングポケットの値に比べても低い値だった (図 27D)。各動物種で最も安定的に結合した

バインディングポケットの位置を比較したところ (図 28)、マウス、D79Nマウスおよびウ

シでは TM56内でのバインディングポケットの位置は同じだった。

ブタ α2A-ARにおけるノルアドレナリン、デクスメデトミジン、キシラジンのバインディ

ングポケットの位置を比較したところ、ノルアドレナリンとキシラジンは比較的近い位置

にバインディングポケットが存在したが、3つのリガンドのバインディングポケットは異な

る位置に存在した (図 29)。

Page 67: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

62

図 27. α2A-ARとキシラジンのドッキングシミュレーション

マウス (A)、D79Nマウス (B)、ウシ (C)、ブタ (D) の α2A-ARとキシラジンのドッキン

グシミュレーションの結果。バインディングポケットの位置とMolDock Score (MS) を示

す。それぞれMolDock Scoreが最も低い結果を示した。

Page 68: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

63

図 28. α2A-ARとキシラジンのバインディングポケットの比較

マウス (青)、D79Nマウス (赤)、ウシ (緑)、ブタ (黄) の α2A-ARとキシラジンのバイン

ディングポケットの位置。それぞれMolDock Scoreが最も低い結果を示した。マウスα2A-AR

を水色で示している。

Page 69: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

64

図 29. ブタ α2A-ARと各リガンドのバインディングポケットの比較

ノルアドレナリン (青)、デクスメデトミジン (赤)、キシラジン (緑) のブタ α2A-ARにお

けるバインディングポケットの位置。それぞれMolDock Scoreが最も低い結果を示した。

ブタ α2A-ARを黄色で示している。

Page 70: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

65

B. マウスとブタのキメラ α2A受容体とキシラジンのドッキングシミュレーション

ブタα2A-ARに対してキシラジンが最も安定的に結合するバインディングポケットの位置

はマウスやウシとは異なることが示された。これらの動物種の α2A-ARの配列で最も差が見

られたのは C3 ループ領域である。そこでマウスとブタの α2A-AR で C3 を交換したキメラ

受容体配列を作成し、キシラジンとドッキングシミュレーションを行った。キメラ受容体

の立体構造はベースとなったマウスおよびブタ α2A-ARと TMの位置に違いが見られた (図

30)。

その結果、野生型マウス α2A-AR での結果と異なり、ブタの C3 をもつマウス α2A-AR で

は最も安定性の高いバインディングポケットが TM56ではなく TM34に存在し、TM4のプ

ロリンおよびロイシン残基とキシラジン分子全体が強く相互作用していた (図 31A, B)。一

方、マウスの C3を持つブタ α2A-ARではキシラジンは TM345の野生型ブタ α2A-ARとは異

なる場所に存在するバインディングポケットに最も安定的に結合し、TM4 のリジンおよび

TM5のリジン残基とキシラジン分子全体が強く相互作用していおり、MolDock Scoreは野

生型ブタ α2A-ARの TM345 のバインディングポケットよりも大きくなり、安定性が下がっ

たことが示された (図 31C, D)。各動物種で最も安定的に結合したバインディングポケット

の位置を比較したところ、すべての α2A-AR でバインディングポケットの位置は TM4、5

に近い場所にあったが、詳細な位置はすべての α2A-AR で異なっていた (図 32)。

Page 71: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

66

図 30. マウス-ブタのキメラ α2A-ARと野生型 α2A-AR の構造の比較

(A) 野生型 (青) および C3をブタ α2A-ARと交換した (赤) マウス α2A-ARの立体構造の

比較。

(B) 野生型 (黄) および C3をマウス α2A-ARと交換した (緑) ブタ α2A-ARの立体構造の

比較。

Page 72: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

67

図 31. マウス-ブタのキメラ α2A-ARとキシラジンのドッキングシミュレーション

(A, B) 野生型 (A) および C3をブタ α2A-ARと交換した (B) マウス α2A-ARとキシラジ

ンのドッキングシミュレーション結果。

(C, D) 野生型 (C) および C3をマウス α2A-ARと交換した (B) ブタ α2A-ARとキシラジ

ンのドッキングシミュレーション結果。それぞれMolDock Scoreが最も低い結果を示した。

Page 73: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

68

図 32. キメラ α2A-ARとキシラジンのバインディングポケットの比較

野生型マウス (青)、ブタC3-マウス (赤)、野生型ブタ (黄)、マウスC3-ブタ (緑) のα2A-AR

とキシラジンのバインディングポケットの位置。それぞれMolDock Scoreが最も低い結果

を示した。野生型マウス α2A-ARを水色で示している。

Page 74: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

69

また、E3および E4ループ領域を交換したマウス-ブタキメラ受容体でも同様のシミュレ

ーションを行ったが、いずれのキメラ受容体でもキシラジンのバインディングポケットの

位置およびMolDock Scoreはそれぞれの野生型α2A-ARと同様の結果が得られた (データ示

さず)。

Page 75: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

70

Ⅳ 考察

α2-AR作動薬による α2A-ARの活性化部位

ドッキングシミュレーションの結果から、マウスとウシの α2A-ARでは、ノルアドレナリ

ン、デクスメデトミジンおよびキシラジンの六員環と TM5のチロシン残基が強く相互作用

することが示された。以前のヒト α2A-AR のバインディングシミュレーションの報告

(Ostopovici-Halip et al., 2011) でも、同じ領域にノルアドレナリンのバインディングポケ

ットが存在することが示されており、この部分が α2A-ARの活性化に重要と考えられる。さ

らに、ブタ α2A-ARとデクスメデトミジンのシミュレーションでも、バインディングポケッ

トの位置はマウスとウシ α2A-AR と異なるものの、TM5 のチロシンとの強い相互作用が示

された。これらの結果から、α2-AR 作動薬が α2A-AR のこの TM5 のチロシンを含むバイン

ディングポケットに結合することで α2A-ARを活性化し、鎮痛効果を引き起こしている可能

性が示唆された。また、マウス α2A-ARの D79N変異はデクスメデトミジンとのドッキング

シミュレーションの結果に影響を与えなかった。このことは、D79N 変異は α2-AR 作動薬

との結合ではなく、受容体と共役する G タンパク質との結合を減少させるという以前の報

告 (Surprenant et al., 1992) と一致する。

一方ブタ α2A-AR では内因性の α2A-AR アゴニストであるノルアドレナリンはマウスやウ

Page 76: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

71

シ α2A-AR とは異なり、TM34にバインディングポケットが存在した。以上のことから、ブ

タ α2A-ARではデクスメデトミジンとノルアドレナリンのそれぞれに対する 2つのバインデ

ィングポケットが受容体の活性化をになっている可能性が考えられる。

さらにブタ α2A-AR のキシラジンに対するバインディングポケットはマウスおよびウシ

α2A-AR とは異なる TM345 に存在し、ブタ α2A-AR のデクスメデトミジンとノルアドレナ

リンに対するバインディングポケットとも異なった。このバインディングポケットの

MolDock Scoreが低い値だったことから、非常に安定した結合であることが示された。

キシラジンはブタに対する鎮痛効果が弱いことはよく知られているが、ブタ α2A-ARの活

性化を引き起こすノルアドレナリンやデクスメデトミジンのバインディングポケットには

存在しない TM4 のプロリンやロイシン残基と優先的に結合することで、α2A-AR の活性化

が十分に起きない、あるいは α2A-ARが活性化しない可能性が考えられる (図 33)。

細胞内第三ループ領域がバインディングポケットの位置に与える影響

今回検討したすべての各動物種のα2A-ARでTM領域のアミノ酸配列が高度に保存されて

いた事から、動物種間の違いは細胞内もしくは細胞外ループの配列の違いによるものだと

考えられた。そこでキメラ受容体配列を作成してドッキングシミュレーションしたところ、

ブタ C3ループを持つマウス α2A-ARではキシラジンに対して最も安定したバインディング

Page 77: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

72

図 33. ノルアドレナリン、デクスメデトミジンおよびキシラジンの α2A-ARにおけるバイン

ディングポケットの相違の仮説

マウスおよびウシ α2A-ARにおいては、ノルアドレナリン、デクスメデトミジン、キシラ

ジンはすべてTM5のチロシン残基に最も安定的に結合する (A)。ブタ α2A-ARにおいては、

デクスメデトミジンは TM5のチロシン残基に、ノルアドレナリンは TM4のリジンとロイ

シン残基に、キシラジンは TM4のロイシンとプロリン残基に最も安定的に結合する (B)。

Page 78: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

73

ポケットが存在する位置が TM56 から TM34 に変化することが示された。逆にマウス C3

ループを持つブタ α2A-ARでは TM345のバインディングポケットにおけるMolDock Score

が上昇し、キシラジンとの結合が弱くなることが明らかになった。また、バインディング

ポケットの位置も変化した。これらの結果から、ブタとそれ以外の動物種でキシラジンの

バインディングポケットの位置を決定づけているのは C3 ループの配列の違いであること

が示唆された。

C3ループは細胞内に存在するため、受容体とリガンドの結合に直接かかわる部位ではな

い。今回のドッキングシミュレーションでは、C3の配列の違いが TMの配置を変化させた

結果、バインディングポケットに影響を与えた可能性が考えられる。C3ループは α2A-AR で

は G タンパク質との共役に重要な役割を果たしていると考えられているため、実際の受容

体に G タンパク質が共役している状態ではリガンドと受容体の関係がさらに変化する可能

性がある。

今回のシミュレーションから、キシラジンの薬効の動物種差の原因の候補として α2A-AR

の C3ループの配列の違いが挙げられた。この仮説を検証するためにはさらなる研究が必要

である。

Page 79: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

74

総括および結論

鎮静鎮痛薬であるα2-アドレナリン受容体 (AR) 作動薬の詳細な作用機序やキシラジンの

薬効種差の原因は未だ不明である。本研究では α2-AR 作動薬の作用とキシラジンの薬効種

差における α2A-AR サブタイプの役割について検討した。まず、α2A-AR の機能的ノックア

ウトマウスである D79N マウスを用いて、摘出脊髄標本における反射電位および複合活動

電位に対する α2-AR 作動薬の影響を検討した。次に in vivo の行動解析実験で α2-AR 作動

薬の鎮痛作用における α2A-ARの役割を評価した。さらに、in silicoでのドッキングシミュ

レーションを行い、マウス・ウシ・ブタの α2A-ARにおけるノルアドレナリン、デクスメデ

トミジンおよびキシラジンのバインディングポケットの位置と安定性を検討した。

1. 新生マウス摘出脊髄において、キシラジンとデクスメデトミジンは、侵害受容経路の神

経伝達を反映している遅発性前根電位 (sVRP) および運動や姿勢の制御を反映する単

シナプス反射電位 (MSR) を濃度依存性に抑制した。デクスメデトミジンはキシラジン

より力価が高く、sVRPはMSRよりも α2-AR作動薬に対する感受性が高かった。

2. D79Nマウスの脊髄において、デクスメデトミジンとキシラジンの sVRP抑制効果は野

生型マウスと比べて有意に減弱したが消失はしなかった。α2-AR作動薬によるMSR抑

Page 80: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

75

制は D79N変異の影響を受けなかった。

3. D79Nマウスにおけるデクスメデトミジンの sVRP抑制は、α2-AR拮抗薬のアチパメゾ

ールで回復したが、α2C-AR拮抗薬の JP1302やイミダゾリン I1受容体拮抗薬のエファ

ロキサン、I2受容体拮抗薬のイダゾキサンで回復しなかった。一方、D79Nマウスにお

けるキシラジンの sVRP抑制はいずれの拮抗薬でも回復しなかった。

4. 野生型および D79N マウスのどちらにおいても、デクスメデトミジンは脊髄神経線維

の複合活動電位伝導に影響を与えなかった。一方で高濃度のキシラジンは複合活動電

位を抑制した。

5. In vivoホットプレート試験および tail-flick試験において、デクスメデトミジンおよび

キシラジンの鎮痛効果は D79Nマウスでは観察されなかった。

6. In silicoドッキングシミュレーションの結果、マウスおよびウシ α2A-ARの膜貫通領域

(TM) 35 に囲まれた領域にノルアドレナリンのバインディングポケットが存在するこ

とが示された。ブタ α2A-ARにおけるノルアドレナリンのバインディングポケットの位

置はマウスとウシ α2A-ARと異なり、TM34に存在した。

Page 81: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

76

7. デクスメデトミジンのバインディングポケットはマウスおよびウシ α2A-AR では

TM356領域の同じ位置に、ブタ α2A-ARでは TM56に存在し、どちらにおいても TM5

のチロシン残基との結合が強いことが示された。

8. キシラジンのバインディングポケットはマウスおよびウシ α2A-AR では TM356 領域の

同じ位置に存在した。一方ブタ α2A-AR では TM345 に存在し、マウスとウシ α2A-AR

とキシラジンの結合よりも安定性が高かった。

9. マウスとブタの第三細胞内ループドメインの配列を交換したキメラ受容体でシミュレ

ーションを行なったところ、マウス α2A-ARにおけるキシラジンのバインディングポケ

ットの位置が変化し、ブタ α2A-ARとキシラジンの結合の安定性低下した。

以上の結果から、デクスメデトミジンとキシラジンの脊髄反射電位抑制効果および鎮痛

効果に α2A-ARが重要な役割を果たしていることが示された。また、高濃度のキシラジンが

活動電位の伝導を抑制することが示され、この作用が D79N マウスにおける sVRP 抑制を

引き起こした可能性が考えられる。また、ドッキングシミュレーションの結果から、ブタ

α2A-AR におけるキシラジンのバインディングポケットの位置がデクスメデトミジンや他の

Page 82: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

77

動物の α2A-ARと異なっていることが示され、第三細胞内ループドメインの配列の違いに起

因するものであることが示唆された。このバインディングポケットの違いがキシラジンの

薬効種差につながっている可能性が考えられる。

Page 83: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

78

謝辞

稿の終わりに臨み、終始ご指導とご高配を賜り本論文をご校閲頂きました北海道大学獣

医学研究科比較形態機能学講座薬理学教室、乙黒兼一准教授に深く感謝申し上げます。

本研究のご指導およびご校閲頂きました北海道大学獣医学研究科比較形態機能学講座薬

理学教室、伊藤茂雄名誉教授、本論文をご校閲頂きました北海道大学獣医学研究科比較形

態機能学講座生化学教室、木村和弘教授、同環境獣医学講座毒性学教室、石塚真由美教授

に厚く御礼申し上げます。

新海秀史氏をはじめとする技官の方々には、実験動物や実験機器を安全かつ適正に管理

して頂き、より良い研究環境を提供して頂きました。北海道大学獣医学研究科の教員の方々

には、公私に渡り多くの有益なご指導を賜りました。研究生活を送るにあたり、北海道大

学獣医学部の事務、特にリーディング担当の方々にもひとかたならぬご協力を頂きました。

皆様にこの場を借りて御礼申し上げます。

また、本研究のために尊い命を提供してくれた数多の実験動物の御霊に心より感謝の念

を捧げ、安らかな眠りにつくことを願って慰霊の言葉とさせていただきます。

最後に、山口総一郎助教をはじめとする薬理学教室の教室員の方々や友人、先輩、後輩

の皆様のおかげで充実した博士課程を過ごさせて頂きました。皆様に深く感謝いたします。

Page 84: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

79

参考文献

Akagi H, Konishi S, Otsuka M, Yanagisawa M (1985). The role of substance P as a

neurotransmitter in the reflexes of slow time courses in the neonatal rat spinal cord. Br

J Pharmacol 84: 663-673.

Attwood TK, Findlay JB (1994). Fingerprinting G-protein-coupled receptors. Protein

Eng 7: 195-203.

Aziz MA, Martin RJ (1978). α agonist and local anaesthetic properties of xylazine.

Zentralbl Veterinarmed A 25: 181-188.

Baba H, Shimoji K, Yoshimura M (2000a). Norepinephrine facilitates inhibitory

transmission in substantia gelatinosa of adult rat spinal cord (part 1): effects on axon

terminals of GABAergic and glycinergic neurons. Anesthesiology 92: 473-484.

Baba H, Goldstein PA, Okamoto M, Kohno T, Ataka T, Yoshimura M, Shimoji K (2000b).

Norepinephrine facilitates inhibitory transmission in substantia gelatinosa of adult rat

spinal cord (part 2): effects on somatodendritic sites of GABAergic neurons.

Anesthesiology 92: 485-492.

Benarroch EE (2008). Descending monoaminergic pain modulation: bidirectional

control and clinical relevance. Neurology 71:217-221.

Brugger F, Evans RH, Hawkins NS (1990). Effects of N-methyl-D-aspartate antagonists

and spantide on spinal reflexes and responses to substance P and capsaicin in isolated

spinal cord preparations from mouse and rat. Neuroscience 36: 611-622.

Bylund DB, Eikenberg DC, Hieble JP, Langer SZ, Lefkowitz RJ, Minneman KP,

Molinoff PB, Ruffolo Jr. RR (1994). International Union of Pharmacology nomenclature

of adrenoceptors. Pharmacol Rev 46: 121-136.

Page 85: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

80

Cherezov V, Rosenbaum DM, Hanson MA, Rasmussen SG, Thian FS, Kobilka TS, Choi

HJ, Kuhn P, Weis WI, Kobilka BK, Stevens RC (2007). High-resolution crystal structure

of an engineered human β2-adrenergic G protein-coupled receptor. Science 318:

1258-1265.

Dahmani S, Paris A, Jannier V, Hein L, Rouelle D, Scholz J, Gressens P, Mantz J (2008).

Dexmedetomidine increases hippocampal phosphorylated extracellular signal-regulated

protein kinase 1 and 2 content by an α2-adrenoceptor-independent mechanism:

evidence for the involvement of imidazoline I1 receptors. Anesthesiology 108: 457-466.

Faber ES, Chambers JP, Brugger F, Evans RH (1997). Depression of A and C

fibre-evoked segmental reflexes by morphine and clonidine in the in vitro spinal cord of

the neonatal rat. Br J Pharmacol 120: 1390-1396.

Huang Y, Stamer WD, Anthony TL, Kumar DV, St John PA, Regan JW (2002).

Expression of α2-adrenergic receptor subtypes in prenatal rat spinal cord. Brain Res

Dev Brain Res 133: 93-104.

Hunter JC, Fontana DJ, Hedley LR, Jasper JR, Lewis R, Link RE, Secchi R, Sutton J,

Eglen RM (1997). Assessment of the role of α2-adrenoceptor subtypes in the

antinociceptive, sedative and hypothermic action of dexmedetomidine in transgenic

mice. Br J Pharmacol 122: 1339-1344.

Iwasaki T, Otsuguro K, Kobayashi T, Ohta T, Ito S (2013). Endogenously released 5-HT

inhibits A and C fiber-evoked synaptic transmission in the rat spinal cord by the

facilitation of GABA/glycine and 5-HT release via 5-HT2A and 5-HT3 receptors. Eur J

Pharmacol 702: 149-157.

Jahr CE, Yoshioka K (1986). Ia afferent excitation of motoneurones in the in vitro

new-born rat spinal cord is selectively antagonized by kynurenate. J Physiol 370:

Page 86: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

81

515-530.

Kendig JJ, Savola MK, Woodley SJ, Maze M (1991). α2-adrenoceptors inhibit a

nociceptive response in neonatal rat spinal cord. Eur J Pharmacol 192: 293-300.

Kobayashi T (2013). Inhibitory effect of adrenaline α2 receptor agonists on reflex

potentials in mouse spinal cord. Japanese Journal of Veterinary Research 61: 45-46.

Kobayashi T, Otsuguro K, Yamaguchi S, Ito S (2015). Contribution of α2A-adrenoceptor

subtype to effect of dexmedetomidine and xylazine on spinal synaptic transmission of

mice. Eur J Pharmacol 761: 321-329.

Kolakowski LF Jr (1994). GCRDb: a G-protein-coupled receptor database. Receptors

Channels 2:1-7.

Kurose H, Arriza JL, Lefkowitz RJ (1993). Characterization of α2-adrenergic receptor

subtype-specific antibodies. Mol Pharmacol 43: 444-450.

Lakhlani PP, Lovinger DM, Limbird LE (1996). Genetic evidence for involvement of

multiple effector systems in α2A-adrenergic receptor inhibition of stimulus-secretion

coupling. Mol Pharmacol 50: 96-103.

Li JX, Zhang Y (2011). Imidazoline I2 receptors: target for new analgesics? Eur J

Pharmacol 658: 49-56.

Lorenz W, Lomasney JW, Collins S, Regan JW, Caron MG, Lefkowitz RJ (1990).

Expression of three α2-adrenergic receptor subtypes in rat tissues: implications for α2

receptor classification. Mol Pharmacol 38: 599-603.

MacMillan LB, Hein L, Smith MS, Piascik MT, Limbird LE (1996). Central hypotensive

effects of the α2a-adrenergic receptor subtype. Science 273: 801-803.

Page 87: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

82

Millan MJ, Newman-Tancredi A, Audinot V, Cussac D, Lejeune F, Nicolas JP, Cogé F,

Galizzi JP, Boutin JA, Rivet JM, Dekeyne A, Gobert A (2000). Agonist and antagonist

actions of yohimbine as compared to fluparoxan at α2-adrenergic receptors (AR)s,

serotonin (5-HT)1A, 5-HT1B, 5-HT1D and dopamine D2 and D3 receptors. Significance for

the modulation of frontocortical monoaminergic transmission and depressive states.

Synapse 35: 79-95.

Millan MJ (2002). Descending control of pain. Prog Neurobiol 66: 355-474.

Mizobe T, Maghsoudi K, Sitwala K, Tianzhi G, Ou J, Maze M (1996). Antisense

technology reveals the α2A adrenoceptor to be the subtype mediating the hypnotic

response to the highly selective agonist, dexmedetomidine, in the locus coeruleus of the

rat. J Clin Invest 98: 1076-1080.

Ostopovici-Halip L, Curpăn R, Mracec M, Bologa CG (2011). Structural determinants of

the alpha2 adrenoceptor subtype selectivity. J Mol Graph Model 29: 1030-1038.

Otsuka M, Konishi S (1974). Electrophysiology of mammalian spinal cord in vitro.

Nature 252: 733-734.

Pertovaara A (2006). Noradrenergic pain modulation. Prog Neurobiol 80: 53-83.

Pertovaara A (2013). The noradrenergic pain regulation system: a potential target for

pain therapy. Eur J Pharmacol 716: 2-7.

Philipp M, Brede M, Hein L (2002). Physiological significance of α2-adrenergic receptor

subtype diversity: one receptor is not enough. Am J Physiol 283: R287-R295.

Pineda J, Ugedo L, García-Sevilla JA (1993). Stimulatory effects of clonidine, cirazoline

and rilmenidine on locus coeruleus noradrenergic neurones: possible involvement of

Page 88: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

83

imidazoline-preferring receptors. Naunyn Schmiedebergs Arch Pharmacol 348: 134-140.

Rasmussen SG, DeVree BT, Zou Y, Kruse AC, Chung KY, Kobilka TS, Thian FS, Chae

PS, Pardon E, Calinski D, Mathiesen JM, Shah ST, Lyons JA, Caffrey M, Gellman SH,

Steyaert J, Skiniotis G, Weis WI, Sunahara RK, Kobilka BK (2011). Crystal structure of

the β2 adrenergic receptor-Gs protein complex. Nature 477: 549-555.

Saito K (1979). Development of spinal reflexes in the rat fetus studied in vitro. J Physiol

294: 581-594.

Schwartz DD, Clark TP (1998). Affinity of detomidine, medetomidine and xylazine for

alpha-2 adrenergic receptor subtypes. J Vet Pharmacol Ther 21: 107-111.

Shafaroudi MM, McBride M, Deighan C, Wokoma A, Macmillan J, Daly CJ, McGrath

JC (2005). Two "knockout" mouse models demonstrate that aortic vasodilatation is

mediated via α2A-adrenoceptors located on the endothelium. J Pharmacol Exp Ther 314:

804-810.

Stone LS, MacMillan LB, Kitto KF, Limbird LE, Wilcox GL (1997). The α2a adrenergic

receptor subtype mediates spinal analgesia evoked by α2 agonists and is necessary for

spinal adrenergic–opioid synergy. J neurosci 17: 7157-7165.

Stone LS, Broberger C, Vulchanova L, Wilcox GL, Hökfelt T, Riedl MS, Elde R (1998).

Differential distribution of α2A and α2C adrenergic receptor immunoreactivity in the rat

spinal cord. J Neurosci 18: 5928-5937.

Surprenant A, Horstman DA, Akbarali H, Limbird LE (1992). A point mutation of the

α2-adrenoceptor that blocks coupling to potassium but not calcium currents. Science

257: 977-980.

Tamagaki S, Suzuki T, Hagihira S, Hayashi Y, Mashimo T (2010). Systemic daily

Page 89: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

84

morphine enhances the analgesic effect of intrathecal dexmedetomidine via

up-regulation of alpha 2 adrenergic receptor subtypes A, B and C in dorsal root ganglion

and dorsal horn. J Pharm Pharmacol 62: 1760-1767.

Thomsen R, Christensen MH (2006). MolDock: a new technique for high-accuracy

molecular docking. J Med Chem 49: 3315-3321.

Törneke K, Bergström U, Neil A (2003). Interactions of xylazine and detomidine with

α2-adrenoceptors in brain tissue from cattle, swine and rats. J Vet Pharmacol Ther 26:

205-211.

Virtanen R, Savola JM, Saano V (1989). Highly selective and specific antagonism of

central and peripheral α2-adrenoceptors by atipamezole. Arch Int Pharmacodyn Ther

297: 190-204.

Wikberg JE, Uhlén S, Chhajlani V (1991). Medetomidine stereoisomers delineate two

closely related subtypes of idazoxan (imidazoline) I-receptors in the guinea pig. Eur J

Pharmacol 193: 335-340.

Xu F, Wu H, Katritch V, Han GW, Jacobson KA, Gao ZG, Cherezov V, Stevens RC (2011).

Structure of an agonist-bound human A2A adenosine receptor. Science 332: 322-327.

Yanagisawa M, Murakoshi T, Tamai S, Otsuka M (1985). Tail-pinch method in vitro and

the effects of some antinociceptive compounds. Eur J Pharmacol 106: 231-239.

Yang JM, Chen CC (2004). GEMDOCK: a generic evolutionary method for molecular

docking. Proteins 55: 288-304.

Page 90: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

85

英文抄録

Potential actions of α2 adrenoceptor agonists

on α2A adrenoceptor subtype.

Takeshi Kobayashi

Laboratory of Pharmacology

Department of Biochemical Sciences

Graduate School of Veterinary Medicine

Hokkaido University, Sapporo 060-0818, Japan

α2-Adrenoceptor (AR) agonists, dexmedetomidine (DEX) and xylazine (XYL),

are clinically used for sedation and analgesia in humans and animals. The effect of

xylazine shows marked species difference. α2A-AR subtype is reported to be important

for the effect of α2-AR agonist, but precise mechanism of action of α2-AR agonists is still

unclear.

In the chapter I, the effect of DEX and XYL by using functional α2A-AR KO

mice (D79N) was estimated. In the isolated spinal cord preparation of mice, DEX and

XYL inhibited both slow ventral root potential (sVRP), which is thought to reflect a

nociceptive pathway, and monosynaptic reflex potential (MSR). sVRP was more

sensitive to these agonists than MSR. sVRP inhibitions by DEX and XYL were

attenuated in D79N mice. sVRP inhibition by DEX in D79N mice was reversed by

atipamezole (α2-AR antagonist), but not by JP1302 (α2C-AR antagonist), efaroxan

Page 91: アドレナリンα2A受容体サブタイプに対するα2作動薬の作用 …...2A、 α 2B、α 2C の3 つのサブタイプに分類され (Bylund et al., 1994)、特にα

86

(imidazoline I1 receptor antagonist) nor idazoxan (I2 antagonist). sVRP inhibition by

XYL in D79N mice was not reversed by atipamezole, JP1302, efaroxan nor idazoxan.

XYL but not DEX suppressed the conduction of compound action potential in the spinal

nerves. In vivo analgesic effect of DEX and XYL were not observed in D79N mice.

In the chapter II, in silico docking of α2A-AR and DEX or XYL was simulated.

The binding pocket of DEX was located in transmembrane (TM) 356 region of mouse,

bovine α2A-AR and in TM56 region of swine α2A-AR. In both cases, DEX potently bound

with Tyr residue of TM5. In mouse and bovine α2A-AR, the binding pocket of XYL was

located in TM56 region, while, in swine α2A-AR, the binding pocket was located in

TM345 region. Exchange of 3rd intracellular loop domain between mouse and swine

α2A-AR altered the region and stability of binding pocket of XYL.

These results indicate that α2A-AR plays an important role in sVRP inhibition

and analgesic effects by DEX and XYL. XYL also inhibits conduction of action potential

at its high concentrations, which is not mediated by α2A-AR. Swine α2A-AR has a unique

binding pocket for XYL, which may be determined by the 3rd intracellular loop domain.

The species difference in the analgesic effect of XYL could be due to the variation in the

binding pocket in α2A-AR.