チェルノブイリ法と国家計画が果たしたベラルーシ...

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チェルノブイリ法と国家計画が果たしたベラルーシの農業復 誌名 誌名 開発学研究 ISSN ISSN 09189432 巻/号 巻/号 301 掲載ページ 掲載ページ p. 43-56 発行年月 発行年月 2019年7月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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チェルノブイリ法と国家計画が果たしたベラルーシの農業復興

誌名誌名 開発学研究

ISSNISSN 09189432

巻/号巻/号 301

掲載ページ掲載ページ p. 43-56

発行年月発行年月 2019年7月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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【調査・技術論文】

チェルノブイリ法と国家計画が果たしたベラルーシの農業復興

中村哲也*1.増田聡*2

要 旨

本稿では,ベラルーシを事例として,チェルノブイリ法と国家計画が果たした農業復輿について考察した。

43

第 1に, Lukashenko大統領はヨーロッパ最後の独裁者と椰楡されながら,ロシアと中国とは密接な関係を続け,

現在も独裁体制を維持し続けている。第 2に,ベラルーシは,酪農品と畜産物の輸出によって農業の貿易収支は黒

字化している。同国では,チェルノブイリ法に基づいて汚染地域を区分けし,汚染面積と住民数を把握した。そし

て,住民の内部被曝が年間 lmSvを超えないように食品内の放射性物質の規制値を定め,汚染穀物は家畜に摂取

させ,住民は肉類を摂取するように指導した。第 3に国家予算に占める損失額は,原発事故当初から第 1次国家

計画までは農業の割合が,第 2次国家計画では汚染地域の除染の割合が高かった。しかしながら,第 3次国家計画

では農業分野の防護措置に努めた結果,農畜産物の放射性核種濃度が激減した。第 4次国家計画では,動物用薬剤

や特別配合飼料の製造・供給体制が整ったことで,汚染地区が減少し,農業復興が果たされた。第 5次国家計画で

は,高レベル汚染地域が残っていく現状も見据えて,汚染地域の管理体制を最適化し,かつ汚染地域を自然保護区

とし,持続的発展に取り組んでいる。ベラルーシは,チェルノブイリ原発事故後,チェルノブイリ法によって汚染

地域を管理し, また放射性物質の規制値を定め,国家計画によって段階的に農業復興を果てしていった。

【キーワード】ベラルーシ,チェルノブイリ原発事故,国家計画,チェルノブイリ法,農業復興

Agricultural revival in Belarus based on the Chernobyl Law

and National Programs

Tetsuya NAKAMURA *1, Satoru MASUDA *2

Abstract

Here, we considered how the Chernobyl Law and National Programs led the agricultural revival in Belarus.

First. while President Lukashenko is being ridiculed as the last dictator in Europe, Russia and China continue

to maintain close relationships and continue to support his dictatorship.

Second, the export of dairy and livestock products by Belarus has turned the balance of trade for agriculture

to a surplus. Contaminated areas in the country were classified based on the Chernobyl Law, and the extent of

the polluted areas and the number of inhabitants were assessed. A maximum value was set for radioactive sub-

stances in the food so that the internal radiation exposure for residents did not exceed 1 mSv per year, contami-

nated grain was fed to dairy cattle and residents were encouraged to consume the meat.

Third, the decrease in the national budget related to agriculture from the time of the nuclear accident until

the First National Program, and the decontamination rate of the contaminated areas under the Second National

Program were high. However, as a result of efforts to protect the agricultural sector in the Third National Pro-

gram, the concentration of radionuclides in agricultural and livestock products has drastically decreased. Under

the Fourth National Program, the preparation and supply of animal drugs and special mixed feeds led to a de-

crease in contaminated areas and the revival of agriculture. Under the Fifth National Program, the government

is looking into the current situation regarding the continued existence of highly contaminated areas, optimizing

*l 共栄大学国際経営学部, InternationalBusiness Management, Kyoei University *2 東北大学大学院経済学研究科, GraduateSchool of Economics and Management, Faculty of Economics, Tohoku University

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44 開発学研究 (Journalof Agricultural Development Studies) Vol.30 No.l, 2019

the management system for the contaminated areas, setting aside the contaminated areas as nature reserves,

and working on sustainable development. After the Chernobyl nuclear accident, Belarus managed the contami-

nated areas based on the Chernobyl Law, set maximum values for radioactive materials, and gradually achieved

an agricultural revival based on a series of National Programs.

【Keywords】Belarus,Chernobyl disaster, National program, Chernobyl law, Agricultural revival

I.課題

白ロシア・ソビエト社会主義共和国は, 1922年の

旧ソ連結成時における 4つの共和国の 1つであった叫

ベラルーシはベラルーシ語ではビェラルースイ

(Eenapyc1,) と言い,ロシア語でもこの名称が使用さ

れている。ベラルーシの国名は『白い)レーシ(ロシ

ア)』を意味するが,ここでの「白」が何を意味する

のかについては,古来多くの説が唱えられて,決着を

見ていない(服部・越野 2017)。同国は旧ソ連崩壊

直後に正式な国号をベラルーシに定めた。同国を語る

上で,チェルノブイリ原発事故を避けることはできな

い。同国は,同原発事故以来, 32年を経過している

が国土の 7分の 1以上の汚染地域を抱え,南東部の

Gomel(ゴメリ)州のように 4割以上の汚染地域を抱

える地域も存在している。服部 (2018)は,わが国で

のベラルーシ研究が,第 1にLukashenko(ルカシェ

ンコ)大統領の奇矯な行動と独裁体制,同大統領が推

進してきた対ロシア統合に関するものと,②チェルノ

ブイリ原発事故による被害に関するものの, 2つのパ

ターンに限られると指摘している。

伊東•井内・中井 (1999) は,東欧の王朝・王国の

興亡や, ドイツやロシアとの渡り合いを丹念に描きつ

つ,ソ連の崩壊を経て今日の東欧国家の独立に至る過

程を探っている。同著ではベラルーシの独立と民主化

についても述べられ,独立後, Lukashenko大統領が

ロシアとの再統合路線を推進し,国内を強権に支配し

ていると述べている。次に,服部 (2018)はベラルー

シは国際舞台に登場することもほとんどなく,民族主

義とナショナリズムを真っ向から否定し,母語を使用

する機会も稀な国だと述べている。

今中 (2013)は同原発周辺の汚染実態と被曝状況を

克明に記録し, 4号炉の爆発事故に至る原因から過程,

その結果までを検証している。更に,ベラルーシの政

府報告書(チェルノブイリ原発事故被害対策局 (2013),

以下被害対策局 (2013))は,同事故後の汚染地域の

現状や健康リスク,被災者への社会保障,及び汚染地

域の農業を再生させる施策について報告している。

他方,同国の食文化や農業に関する先行研究は,服

部・越野 (2017)が概略的に纏めている程度であり,

詳細に整理した文献がほとんど見当たらない。同国で

は放射性物質の汚染地域を抱えながらも,農産物・食

料品の貿易収支は黒字化しているという現状をわが国

で報告する研究は数少ない。これまでの研究は,

Lukashenko大統領の独裁体制や原発事故被害に焦点

が充てられ,同大統領の外交手腕や国家計画(国家政

策)が果たした農業復興に焦点は当てられていない。

そこで本稿では,ベラルーシの政治経済を考察した上

で,チェルノブイリ法や国家計画が果たした農業復興

を考察したい。具体的な構成は以下の通りである。

第 1に,ベラルーシの政治経済と外交関係について

概略的に考察する。第 2に,ベラルーシの農業と,

チェルノブイリ法制定後の汚染地域,及び食品内の放

射性物質の規制値について考察する。第 3に,チェル

ノブイリ原発事故被害克服に向けた国家計画と農業復

興について考察する。

II.ベラルーシの政治経済と国際関係

1.ベラルーシの政治

ベラルーシは, Lukashenko大統領による独裁政権

が続いており,世界でも人権が抑圧された国家であ

る2)。同国の報道の自由度 (2017年)は 83ptであり,

ロシアやスワジランドと共に世界 197カ国中第 173位

であり,ルワンダやソマリアより低い 3)。本節では,

ベラルーシの政治について考察する。

(1)ロシア革命からベラルーシ共和国の独立

ベラルーシは, 1917年にロシア革命が起こり,第 l

次世界大戦の後にドイツ軍の占領が終わった後, 1918

年にベラルーシ人民共和国が樹立するまで,独立国で

はなかった。 1919年には白ロシア・ソビエト社会主

義共和国が成立し, 1922年にはウクライナと共に,

ソビエト社会主義共和国連邦に加盟した(中村・矢

野・丸山 2018)。ベラルーシでは, Perestroika(ペ

レストロイカ)末期の 1988年 10月,独立を標榜する

組織ベラルーシ人民戦線が結成された。その後,

1990年7月27日に独立宣言を行い,同国が非核地帯

であることが宣言された(伊東•井内・中井 1999)。

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(中村 哲也・増田 聡)チェルノブイリ法と国家計画が果たしたベラルーシの農業復興 45

そして,同国はウクライナ独立宣言後の翌日 1991年

8月25日に独立が承認された。同年 9月 15日に国名

はベラルーシ共和国となり, 9月 18日にベラルーシ

人民戦線派の StanislavShushkevich氏が最高会議議

長となり, 1991年 4月以来首相を務めて いた

Vyacheslav Kebich氏とともに同国の指導者となった

(伊東•井内・中井 1999及び服部・越野 2017)。

同年 12月 8日にはベロヴェーシの森で,ロシアの

Boris Yeltsin大統領とウクライナの LeonidKravchuk

大統領そして Shushkevich氏の三者の間でソ連の

解体を宣言 CIS(独立国家共同体)創設に関する協

定が締結された(伊東•井内・中井 1999) 。

Shushkevich氏は, 1992年 5月CISの集団安全保障

協定に調印することを拒否し,協定調印に積極的な最

高会議や議会と対立した(伊東•井内・中井 1999)。

また,経済運営でも,独立後の深刻な生産力の低下と

ハイパーインフレーションに見舞われ,経済危機が深

刻化し,同政権は弱体化していった(服部・越野

2017)。1994年 3月ベラルーシ最高会議は新憲法を採

択し,大統領制を導入した(伊東•井内・中井

1999)。Shushkevich氏は, 1994年 6月に行われた大

統領選挙に立候補したが. Lukashenko氏に敗れた

(伊東•井内・中井 1999)。

(2) Lukashenko大統領の独裁政治

1994年に実施された大統領選挙では,ロシアとの

統合を目指すなどの選挙公約を打ち出した

Lukashenko 氏が当選した(伊東•井内・中井

1999)。Lukashenko大統領は, 1994年の初当選以降,

5期 20年以上に渡り 2018年現在も現職である[3]。同

大統領は 1999年 12月8日,ロシアの Yeltsin大統領

と,将来の両国の政治・経済・軍事などの各分野にお

いての統合を目指すロシア・ベラルーシ連邦国家創設

条約に調印した(伊東•井内・中井 1999)。しかし

その後 Putin大統領がベラルーシのロシアヘの事実

上の吸収合併を示唆する発言を繰り返すようになる

と, Lukashenko大統領は両国の統合構想に反発する

ようになり,両国の統合は停滞した[3]。その後,

Medvedev大統領になっても,ロシアとベラルーシの

関係悪化は続いた。 Lukashenko大統領は, 2010年

12月の大統領選挙では 4選を果たしたものの,選挙

後野党の抗議デモが発生し,治安部隊による制圧が欧

米から問題視された[3]。しかしながら, Lukashenko

派以外が政権を担う力は皆無であり,欧米諸国からは

ヨーロッパ最後の独裁国家と非難を浴びながら現在に

至っている。

2.ベラルーシの経済

(1)ベラルーシの名目 GDP, 1人当たりの名目 GDP

本節では,ベラルーシの経済について考察する。旧

ソ連の崩壊後,ワルシャワ条約機構が解体する中で,

旧共産圏諸国は NATO(北大西洋条約機構)に組み

込まれ,親欧米政策に傾斜していったが,ロシアとベ

ラルーシは 1995年から関税同盟を結んでいる [4]。

ベラルーシの名目 GDP(IMF統計)は 544.4億

USD (2017年)で,世界 192カ国中 80位である。

CRS諸国と名目 GDPを比較すると,ロシア (1兆

5,274.7億 USD) を別にすれば,カザフスタン (1,608.4

億 USD)の3分の 1であるがウズベキスタン (478.8

億 USD) やアゼルバイジャン (406.7億 USD) より

経済規模が大きく,その他の CRS諸国よりも大き

ぃ4)。また, 1人当たりの名目 GDP(IMF) は5,760

USD (2017年)であり,ロシア (10,608USD),カザ

フスタン (8,841USD) を除けば,他の CRS諸国より

高い 5)。同国の失業率 (ILO統計)は僅か 0.5%(2016

年)である。ベラルーシは,ロシアとの関係を基礎と

した旧ソ連型の経済体制を維持しながらも,他の

ClS諸国と比較して高い生活水準を享受している [4]。

3.ベラルーシの国際関係

(1)ベラルーシとロシアの経済関係

本節ではベラルーシとロシアの経済関係を考察す

る。ベラルーシは 1994年の独立当時,他の CRS諸国

と同様に市場経済化を推進しており,名目 GDP(151.5

億ドル)は世界 192カ国中 69位であった。 Lukashenko

大統領就任後,同大統領は「社会主義市場経済」を開

始し,ロシアと関税同盟を結ぶ等の経済統合政策を実

行した [5]。しかしながら, 1998年 8月にアジア通貨

危機の余波を受けたロシアで金融危機が発生した [6]。

ロシア財政危機後の 1999年の消費者物価上昇率(IMF

統計) 293.73%に達し,世界 191カ国中世界第 1位で

あった。 2000年の消費者物価上昇率 (168.6%)も極

めて高水準(世界第 3位)にあったため, 2001年に

はデノミが実行された。欧州諸国に比して CRS諸国

への石油や天然ガスの輸出価格は安価であったが,

2001年以降ベラルーシは支払い能力の低下から,

石油製品輸出税をロシアに戻さず,両国の関係は緊迫

化していった [4]。しかしながら,ロシア側は 2007年

1月の原油輸送停止措置価格優遇策の縮小という強

硬手段に訴えることによりベラルーシ経済の不安定化

を誘引し,最終的にはユーラシア連合の核となる関税

同盟へのベラルーシ参加や,国営企業の買収交渉を有

利に進めている [4]。

(2)ベラルーシと中国の経済関係

本節では,ベラルーシと中国の経済関係を考察す

る。ベラルーシは 2011年の 消 費 者 物 価 上 昇率

(53.23%)が再び世界第 1位となり,国内経済が極度

に悪化した。 2013年にはロシアは国営企業の民営化

の遅れなどを理由にベラルーシヘの資金援助を打ち

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46 開発学研究 (Journalof Agricultural Development Studies) Vol.30 No.1, 2019

切った [7]。2013年に Lukashenko大統領は,欧州進

出を画策していた中国と 15億ドルの経済投資協定を

締結して,同国は財政破綻を回避した[7]。首都

Minskには,蘇州工業園区に倣った欧州最大の中国エ

業団地,「中国一ベラルーシ工業園区」も開設され

た 6)。2014年には, ウクライナ騒乱による欧米から

の経済制裁と,急激に進んだ原油安により,再びロシ

アが財政危機を迎えた [6]。2014年の 1人当たり名目

GDP (IMF統計)は世界 192カ国中 78位 (8,316USD)

であったが,ウクライナ騒乱後の 2015年には同名目

GDPは5,941USDに急落し,世界 192カ国中 78位と

なった。 2015年~2016年にかけて,実質 GDP成長

率 (IMF統計)は, 2015年には一 3.83%,2016年に

はー 2.53%に落ち込んだ。しかしながら,同国は中国

と急接近することで, 2017年の実質 GDP成長率は

2.37%にまで固復し, 1人当たり名目 GDPも5,760USD

に回復した。

皿.ベラルーシの農業,チェルノブイリ法制定後の

汚染地域及び食品内の放射性物質の規制値

本章では,ベラルーシの農業と汚染地域及び食品内

の放射性物質の規制値について考察する。

1.ベラルーシの農業

(1)ベラルーシの第一次産業と耕地

まず,ベラルーシの農業について考察する。同国の

国土面積 (2,076.0km月FAO)は,日本 (3,779.7kmり

の54.9%に過ぎないが,湿地の多くは干拓されて農地

になっている[8]。同国の耕地面積 (579.8km>

FAO) は,日本 (449.6kmりの 1.29倍に達するが,

ウクライナやロシア南部のような大穀倉地帯とは異な

り,土壌はあまり肥沃ではない(服部・越野 2017)。

産業別構成比 (ILO,2016年)をみると,現在は,第

三次産業就業人口比率が58.70%を占め,サービス業

が最も多い。

(2)ベラルーシの農産物・食料品の貿易収支

1) ベラルーシの農産物・食料品の品日別貿易収支

次に,ベラルーシの農産物・食料品の貿易収支につ

いて考察する。

表 lは,ベラルーシの農産物・食料品の品目別貿易

収支 (UNCTAD統計, 2017年)を示した。表中の

下段は,ベラルーシ全体の輸出額と輸入額,及び貿易

収支を示しているが,輸入額 (342.2億 USD)が輸出

額 (292.2億 USD) を超過しているため,貿易収支

(-50.0億 USD)は赤字である。

しかし, 2017年の農産物・食料品の輸出額 (50.2

億 USD) は,同輸入額 (46.2億 USD) を上回ってお

り,同貿易収支 (4.0億 USD)は黒字である。

表 1 ベラルーシの農産物・食料品の品目別貿易収支

品目 輸出額 i 輸入額 ! 貿易収支

乳製品・卵 23.9: 1.1: -.. 00-----•----•…~~····················+···············}~{·…···············:--—●—←….....---•....…ーー・ー・・22.8 肉類 9.6: 1.5: 8.1

--------------------------------------------•-------------------------•--------------------------

動植物性池脂類 1.0 : 1.4 : -0.5 --------------------------------------------•-------------------------•-------------------------•---------------------------

飲料• ------------...--------------------------・ • -----------• ・ • ------l:-l_ : -------------• ・ • ----2:-0_ ; ------------------:: -l :り穀物•------------------------・ •-------------------------------------0:-9.; --------------------g.ー。土-------------...-7--l』水産物•------------.. -------------------------・ • -----------• ・ • • --------2:-9. i _ ----------------―一生5.; -----------• • ・ ・ ・ーー::! : T.

家畜用飼料 4.7: -3.9 0.8 : --------------------------------------------•-------------------------•--------~.ー------.......----------·野菜・果物 5.5: 19.2: -13.7 ---------------------------•----------------•----------------•----------------· 農産物・食料品合計 50.2 : 46.2 : 4.0 Belarus合計 292.2 : 342.2 : -50.0

資料: UNCTADより作成

注:表中の単位は億USD

ベラルーシの農産物・食料品のうち,貿易収支の黒

字額が大きいのは,乳製品・卵 (22.8億 USD),肉類

(8.1億 USD)であった。

2)ベラルーシの農産物・食料品の貿易収支の推移

(1995~2017 年)

それでは,ベラルーシの農産物・食料品の貿易収支

はいつから黒字に転じたのだろうか。原発事故から

10年後の 1995年には農産物・食料品の輸入額 (6.65

億 USD)が同輸出額 (0.89億 USD) を上回り,同貿

易収支 (-5.76億 USD)は赤字であった。 2008年の貿

易収支はー7.00億 USDと過去最高の赤字幅を記録し

た。

翌 2009年の貿易収支は 0.41億 USDと僅かではあ

るが,黒字へ転じる。 2010年以降貿易収支は黒字

化し, 2013年には過去最高の 13.77億 USDに達する。

2014年のウクライナ騒乱後,ロシアが西欧諸国から

制裁され,原油価格が暴落した影響もあり, 2015年

の貿易収支 (-1.09億 USD) は再び赤字へ転じる。し

かしながら, 2016年以降同貿易収支は黒字化し,

現在に至っている。

(3)ベラルーシの主要農水産物の生産量と自給率

l)乳製品・卵,及び肉類

本節では貿易収支額が黒字で大きい乳製品・卵,及

び肉類の生産と自給率について考察する。

表 2は,ベラルーシの主要な農畜産物の国内生産量

と自給率を示した。ベラルーシの農産物・食料品のう

ちで,輸出額が多いのは乳製品・卵 (23.9億 USD)

と肉類 (9.6億 USD) である(表 l)。国内生産量

(FAOSTAT, 2017年)をみると,牛乳・乳製品

(663.3万t)が最も多く,豚肉 (46.9万t),鶏肉 (38.5

万 t).牛肉 (31.6万t),ラード (13.2万t),及び乳

製品・卵 (9.9万t) といった畜産品がこれに続く (表

1参照)。同国では放牧されている牛を至る所に見る

ことができ,寒冷な気候に加え,肉体労働を中心とす

る農業従事者が多かったため,エネルギーを蓄えられ

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(中村 哲也・増田 聡)チェルノブイリ法と国家計画が果たしたベラルーシの農業復興 47

表 2 ベラルーシの主要農畜産物の国内生産量と自給率(上位30品目)

順位 . 品目国内 :国内消費!

,自給率順位 品目国内 :国内消費!

自給率生産量!仕向量: 生産量;仕向量:

1位 牛乳 663.3: 279.4: 237.4 I 16位牛肉 31.6: 16.1 : 196.3 ----------------•-----------------------------------•--------------------•--------------------•-~------------~------~--•~--------------

2位 ジャガイモ 591.1 : 572.7: 103.2 I l 7位 リンゴ 31.1 : 38.6: 80.6 ----------------,-----------------------------------,--------------------•--------------------•------------------+---------~----------------------•-------------------~•------------------

3位 テンサイ 434.3 : 464.3 : 93.5 I 18位 アブラナ等油 25.6 : 11.5 : 222.6 ・..------------—_一---- ---------------_-----------— ―ー―・-----—------—.—一.--------——ー-一---—_ー-+-----------------—_ --ー-----------.•--―一-------—ー_-----------------—ー一 _---一一—__-—- --—ー―--一.---------------――・--.---------_--------.4位 小麦 210.1: 232.4: 90.4 I 19位豆類 22.1 : 22.2 : 99.5 ~------------,--------------------•--------------------~---------------•-----------------•---------~----~---

5位 大麦 l67.3 ; 169.9; 98.5 20位 乳製品・卵 21.6! 16.9 ! 127.8 ---------------~,--------------------•--------------~----+--------------•----------------+-----~----------•·------------------

6位 その他穀類 133.9: 140.2: 95.5 I 21位 トマト 17.8: 21.7: 82.0 --------------------------------,--------------------•--------~---•--------------+------------~--------~

7位 その他野莱 130.9: 131.0: 99.9 I 22位 アルコール飲料 17.1 : 14.4 : 118.8 -------~--------------,--------------------•---------~~-------------------------------•--•--------------------•-------------------

8位 トウモロコシ 112.0 : 121.4 : 92.3 I 23位 玉ねぎ 14.8 : 15.5 : 95.5 ~-----------------------•--------------------•--------------------•-------------------•---------------•-----------------•--------------------,-~-------------9位 アブラナ等 67.6: 77.7: 87.0 I 24位 ラード 13.2: 14.5: 91.0 ~---------------~---------------~----------•-------------------------~--------•-------------~--------

10位 砂糖 66.5 : 35.5 : 187.3 I 25位 その他果物 12.4: 21.6: 57.4 ~----------------------------,--------------------•--------------------~---------------•-----------------------------------•--------------------•----

11位 ライ麦 64.8: 75.1 : 86.3 I 26位 乳製品・卵 9.9: 3.3 : 300.0 ~-------,--------------------•-----------~~-----------------•------------------12位 豚肉 46.9: 37.9: 123.7 I 27位 その他豆類 8.7 : 8.8 : 98.9 ---------------,-----------------------------------,--------------------•------------~--+--------------,----------------------------------+-------------------•--------------------•------------------

13位 ビール 42.3 : 49.4 : 85.6 I 28位 食用の動物内臓 7.9: 7.8: 101.3 ---------------,----,---~-------~•--------------+---------------------------------+-------------------•------------~

14位 鶏肉 38.5: 29.3: 131.4 I 29位 エンドウ豆 5.8 : 6.2 : 93.5 ---------------,---------•--------------------•--------------------•-----~-----•----------------+-------------------•----------------~ 15位燕麦 35.1 : 34.0 : 103.2 I 30位 ワイン 2.8 : 8.2 : 34.1 資料: FAOSTAT注:表中の単位は万 t

3)野菜る脂ののった豚肉が好まれる(服部・越野 2017)。

乳製品・卵,肉類の自給率をみると,乳製品・卵

(300.0%)が最も高く,牛乳 (237.4%),牛肉

(196.3%),鶏肉 (131.4%),豚肉 (123.7%)も高い。

2)穀物

穀物は,輸出額 (0.9億 USD) より輸入額 (1.84億

USD) の方が多い(表 1参照)。国内生産量

(FAOSTAT, 2017年)をみると,小麦 (210.1万t)'

大麦 (167.3万t), トウモロコシ (112.0万t) の順と

なる(表 2)。しかしながら,これらの 3つの穀類の

国内i肖費仕向量は,小麦が232.4万t, 大麦が 169.9万

t, トウモロコシが 121.4万tとなっており,国内生産

量を超えている。そのため,これらの 3つの穀類は自

給できるわけではない(表2)。

ベラルーシの家庭料理に欠かせないのはジャガイモ

である(服部・越野 2017)。ベラルーシ人は,ベラ

ルーシ語でジャガイモを意味する「ブリバ」に因んで

「ブリバッシュ」と呼ばれる[9]。ジャガイモの国内生

産量 (591.1万t) は世界 159カ国中 11位である(表

2)。また,同国におけるジャガイモの 1人当たり年間

消費量 (FAO統計, 2013年)は 183.16kgであり,

世界 176カ国中第 1位である(第 2位がウクライナ

135.94kg)。生のジャガイモと小麦とを混ぜて揚げ焼

きにしたジャガイモのパンケーキ「ドラニキ」はベラ

ルーシ料理の代名詞である [10]。ジャガイモは,国内

消費仕向量 (572.7万t) が多いにも関わらず, 自給

率 (103.2%)は 100%を超えている。

また,麦類の生産に向く気象条件を利用して,ライ

麦の生産は盛んであり,その国内生産量は 64.8万t

と,世界 62カ国中第 4位である。ベラルーシのパン

はライ麦を使った黒パンであるが,小麦とライ麦を混

ぜたパンも広く普及している(服部・越野 2017)。

また,長らく同国の生活を支えていたのは,小麦や

大麦ではなく燕麦であり,燕麦のカーシャ(お粥)が

好まれる。燕麦の国内生産量は 35.1万tであり,世

界75カ国中 16位である。また,同国では,パンを焼

く際,イーストを使わなかったため,小麦大麦ソ

バなどの粉を混合して料理に使うこともある。旧ソ連

では「母は蕎麦の実のカーシャ,父はライ麦のパン」

ということわざがあり,ソバのカーシャも好まれる。

ソバの生産量 (FAOSTAT,2017年)は 1.3万tであ

り,世界28カ国中 13位である。

野莱のうちで,国内生産量が多いのは, トマト

(17.8万t)や玉ねぎ (14.8万t) であるが,完全に自

給しているわけではない。しかしながら,その他の野

菜の自給率は 99.9%であり,同国の野菜は自給できて

いるものが多い。

4) その他

①湖沼•河川の魚

ベラルーシは,内陸国で海がないため魚料理は多く

ないが,豊富な河川や湖沼に生息する淡水魚を使った

料理が多い(服部・越野 2017)。野菜や香草を詰め

て蒸し焼きにしたカワカマスや鯉はユダヤ人の料理が

ルーツであると言われるが祝い事の食卓に上る(服

部・越野 2017) 。鯉の漁獲量•生産量 (8,873 t) は

世界 89 カ国中 19 位,鮒の漁獲量•生産量 (487 t)

は世界 26カ国中 8位である (UNCTAD, 2017年)。

②亜麻

亜麻の茎繊維は,衣類などリネン製品に,種子は亜

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48 開発学研究 (Journalof Agricultural Development Studies) Vol.30 No.1, 2019

麻仁油となるのだが,亜麻の生産量 (4.14万t) は世

界 22カ国中第 3位である (UNCTAD, 2017年)。

2.チェルノブイリ原発事故の汚染地域

(1)チェルノブイリ法の制定

本節では汚染地域の区分けと,事故当時及び現在の

汚染状況について考察する。チェルノブイリ原発事故

後ベラルーシの国土が放射性物質によって高度に汚

染された。しかし,事故当時は,事故の情報が公開さ

れず,旧ソ連の民主化運動後の 1989年春にセシウム

137の汚染地図が公開された(服部・越野 2017及び

中村ら 2019)。その後, 1991年にソ連が崩壊してし

まったため,放射能汚染対策と被災者保障の問題は,

ベラ)レーシ,ウクライナ,ロシアの 3か国はそれぞれ

にチェルノブイリ法を制定した(服部・越野 2017)。

同法の正式名称は,ロシア連邦法「チェルノブイリ

原発事故の結呆放射線被害を受けた市民の社会的保護

について」という(尾松 2011)。同法ができる以前

にも,当時のソ連では放射線安全基準や法規に基づい

て,避難の決定や被災者支援は行われていた(尾松

2011)。事故の数年間で,避難者や事故収束作業者向

けの支援プログラムがいくつも実施されていたが「法

律」がなかった(尾松 2011)。

1991年2月ベラルーシでも「チェルノブイリ原

発事故被災者に対する社会的保護について」という

チェルノブイリ法を採択した [II] [12]。法の目的は,

同事故の処理作業に従事した人々(リクビダートル),

汚染地域から避難・移住した人々,及び汚染地域に居

住している人々の権利と利益を守ることである [12]0

同法は『ベラルーシにおいて居住または労働し,チェ

ルノブイリ事故により健康または財産の被害をうけた

人々に対し国家が特典と補償を保証する』と定めてい

る [12]。そして同法では被災地(汚染地)が定義され,

被災者は誰か,また補償や支援内容も定義された [12]0

1991年 11月には,法律「チェルノブイリ原発事故に

よる放射能汚染地域の法的扱いについて」も採択さ

れ, 1992年には,汚染地域居住区の住民被曝線量台

帳が作成された [13]0

(2)チェルノブイリ法に基づいた汚染地域の区分け

チェルノブイリ法が制定し,汚染地域居住区の住民

被ばく線量台帳が作成されたことで,汚染地域を区分

けすることが可能になった。

表 3は,チェルノブイリ原発事故により放射能汚染

されたベラルーシ国土の区域分けを示した。同国で放

射性物質による汚染地域とみなされているのは,放射

性核種の土壌汚染が,セシウム 137は37kBq/m2, ス

トロンチウム 90は5.55kBq/m2, プルトニウム 238・

239 ・ 240は0.37kBq/m2以上の場所である(対策局

他 2013)。汚染地域は,放射性核種による土壌汚染

や住民への放射線影響レベルに応じて, 5つに区域分

けされている(対策局他 2013)。

①避難区域は,チェルノブイリ原発から半径 30km

圏の原発周辺地域である。

②第 1次移住対象地域は,土壌汚染濃度について,

セシウム 137が 1,480kBq/m2以上,ストロンチウム

90が 111kBq/m2以上,プルトニウム 238-240が

3.7 kBq/m2以上を超える地域である。

③第 2次移住対象地域は,セシウム 137が 555~

1480 kBq/吋等の範囲内で,住民の年間平均実行線量

が5mSvを超える可能性がある地域である。

④移住権利区域は,セシウム 137が 185-555kBq/

吋等の範囲内で,住民の年間平均実行線量が 1mSv

を超える可能性がある地域である。

⑤定期放射線管理対象居住区域は,セシウム 137が

37-185kBq/吋等の範囲内で,住民の年間平均実行

線量が lmSvを超えない地域である。

表 3 チェルノブイリ原発事故により放射能汚染されたベラルーシ国土の区域分け

土壌汚染濃度 (kBq/m尺Ci/kmら)

区域の名称実行線量

ストロンチウム プルトニウム(mSv/y) セシウム 13790 238 ・ 239 ・ 240

避難区域 1986年に住民が避難した原発周辺地域

第 1次移住対象地域l,480 lll 3.7 (40)超 (3.0)超 (0.1)超

第 2次移住対象地域 5超555-1,480 74~1ll 185-37 (15-40) (2.0-3.0) (0.05-0.1)

移住権利区域 1~5 185-555 18.5-74 0.74-1.85 (5-15) (0.5-2.0) (0.02-0.05)

定期放射線管理対象1未満

37-185 5.55-18.5 0.37-0.74 居住区域 (1~5) (0.15-0.5) (0.01-0.02)

資料:ベラルーシ共和国非常事態省チェルノプイリ原発事故被害対策局 (2013)『チェルノブイリ原発事故ベ

ラルーシ政府報告書』より作成。

注: Ciは放射能の古い単位であり,国際単位系では放射能の単位にはベクレル (Bq)を用いる。 1Ciは厳

密に 3.7x 1010 Bq (37 GBq, 370億 Bq)に等しい(表4~6も同様)。

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(中村 哲也・増田 聡)チェルノブイリ法と国家計画が果たしたベラルーシの農業復興 49

(3)チェルノブイリ事故被災 3カ国のセシウム 137汚染面

積 (1990年時点)

l)チェルノブイリ事故被災3カ国のセシウム 137

の汚染面積

表 4の上段は,チェルノブイリ事故被災 3カ国のセ

シウム 137汚染面積を示した。表中より,同事故に

よって 37kBq/吋以上,汚染した面積は 145,320km2

である。 37-185kBq/面の汚染面積が最も大きいの

はロシア (56,920kmりである。しかし,ロシアは国

土面積 (1,709.8万 kmりが大きいため,国土に占め

る汚染割合は 0.3%に過ぎず, 37-185kBq/m2の定期

放射線管理対象居住区域 (48,800km2)が最も多い。

次に,ウクライナの国土に占める汚染割合は 6.9%

である。ただし,ウクライナでも定期放射線管理対象

居住区域 (37,200kmりが最も多い。

他方,ベラルーシは, 3か国のうちで国土面積 (20.8

万 kmりが最も小さいが,同国の 37-185kBq/m2以

上の汚染面積 (46,500kmりは,ウクライナの同面積

(41,900 kmりより広い。同国において, 37kBq/m2

以上の被害を受けた国土面積は,国土の 22.4%に達し

ていた。また,同国では,移住権利区域 (10,200kmり,

第 2次移住対象地域 (4,200kmり,第 1次移住対象地

域 (2,200kmりが3カ国中で最も広い。

2)チェルノブイリ事故被災 3カ国のセシウム 137

の汚染地域の住民数

放射性物質による汚染地域の面積が把握できると,

汚染地域の住民数も把握できるようになった。

表 4の下段は,チェルノブイリ事故被災 3カ国のセ

シウム 137の汚染地域の住民数を示した。表中より,

1990年当時の人口は,ロシア (1億 4,862万人)が最

も多く,次いでウクライナ (4,483万人),そしてベラ

ルーシ (951万人)が最も少ない。 1990年当時,

37kBq/面以上の被害を受けた 3か国の汚染地域の住

民数を合計すると, 591.5万人が汚染地域での生活を

余儀なくされていた。汚染地域の住民の割合は,汚染

面積の割合に比して,ベラルーシ (22.1%)が最も多

<, 210.5万人が放射性降下物の影響を受けた。 1日ソ

連政府は当初, 1,480kBq/m2以上の汚染地域の住民

を移住させる方針をとっていたが, 1990年 7月,事

故対策の強化を求めていたベラルーシ最高会議は

555 kBq/面以上の汚染地域に住む住民約 10.4万人を

移住させる決議を採択した叫 555kBq/m2以上の汚

染地域住民は 3ヶ国合わせると 26.8万人となる見

3.ベラルーシにおける放射性物質の汚染状況(1987

年と 2010年)

(1) 1987年時点の放射性物質の汚染状況

国土面積が最も狭く,人口も最も少ないベラルーシ

で,汚染面積と汚染住民数の割合が最も高いことが明

らかにされたが,以下ではセシウム 137の汚染状況を

考察する。まずは,原発事故当時 (1987年)の汚染

状況から考察しよう。

図lは,ベラルーシにおけるセシウム 137の汚染状

況 (1987年)を示した。同原発事故当初,第 1次移

住対象地域や第 2次移住対象地域が多い州は,原発か

ら近い Gomel州や Mogilev(モギリョフ)州である

ことが読み取れる。

また,移住権利区域や定期放射線管理対象居住区域

表4 チェルノブイリ事故被災3カ国のセシウム 137の汚染面積と住民数 (1990年時点)

国名

定期放射線管理 i対象居住区域!

移住権利区域

汚染レベルごとの面積(単位: 1.000kmり

第 2次移住 : 第 1次移住 ; 汚染地域対象地域 ! 対象地域 : 合計 国土

37~185 : 185~555 i 555~1,480 i l,480 ! 37KBq/両 国土面積 汚染kBq/m2 i kBq/m2 i kBq/m2 i kBq/m2 i 以上 割合

l-5Ci/km2 ! 5-15Ci/km2 ! 15-40.Ci/km2 ! 40Ci/k~2 以上; 合計

二三豆;b;1 点芸 桑! 汚染地]皇住民数(単位旦旦) 旦廷I:言圭I呈旦圭定期放射線管理: 移住権利 i 第 2次移住 ! 第 1次移住 ! 汚染地域

! 対象地域 : 対象居住区域 i 区域 , 対象地域 :

37~185 : 185~555 ! 555~1,480 ; 1,480 ; 37:::m2 1 い 言国名

kBq/m2 i kBq/m2 ! kBq/m2 i kBq/m2 i (1990年)' ,以上 割合

l-5Ci/km2 : 5-15Ci/km2 : 15-40Ci/km2 : 40Ci/km2以上! 合計

:]:二:I 豆芸 旦芸 造旦 芸翌迂I二芸lI2芸呈資料:今中哲二『チェルノブイリ事故によるセシウム汚染』 (http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/Chernobyl/JHT /JH 9606 A.html)を

もとに国土面積はFAOSTAT(2015),人口は世界銀行 (1991)より作成。

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50 開発学研究 (Journalof Agricultural Development Studies) Vol.30 Noふ2019

が多い州は,ウクライナと国境を接する Brest(ブレ

スト)州である。原発事故の際,北西の風が吹き,原

発から離れた Grodno (フロドナ)州にも汚染地域が

広がっていた。

他方中央部に位置する Minsk州や,ロシアやラ

トビア, リトアニアと国境を接する北部の Vitebsk

(ヴィーツェプスク)、)・l・Iは,ほとんど汚染されていな

し‘o

(2) 2010年時点の放射性物質の汚染状況

表 5は,チェルノプイリ原発事故によってセシウム

137に汚染されたベラルーシの国土 (2010年 1月 1日

時点)を示した。合わせて,表6は,放射能汚染区域

別の居住区数を示した。

ベラルーシでは, 1986-2010年までの間,セシウ

ム 137の土壌汚染が 37kBq/m2以上を超える面積

9 ヽ 10 Z 0 1●,““̀ .. l || l ...幽“―a.'°”°”"・ 99 5 15 90

u ...

図1 ベラルーシにおけるセシウム 137の汚染状況 (1987年)

査科: YuriBandashevsky (2011) : Non cancer illnesses and condi-tions in areas of Belarus contaminated by radioactivity from the Chernobyl Accident (http: //harmonicslife.net/Blog/ 2011/GensBlog/20111004/lesvos_ Vl.2 s_E.pdf)

(30,100 kmりは同各種の自然崩壊により事故当初

の 62.5%にまで減少し, 2010年時点では国 土の

14.5%になっている。土壌汚染面積は年々 小さくなっ

ているが同国では現在も岩手県 (15,275kmりの 2

倍の汚染地域が広がっている。

1987年時点で,汚染が最も激しかった Gomel州に

は 142.54万人 (2014年 1月)が居住しているが,汚

染面積は州全体の 45.37%に及んでいる。2010年時点

でも, Gomel州 の 37Bq/m2以 上の汚染地 域は

18,330 km2に及んでおり , 同州だけで も岩手県

(15,275 kmり より大きな汚染地域が広がっている。

Gomel州は第 2次移住対象区域 (555~1,480 kBq/

mり が 13地区移住権利区域 (185~555kBq/mり

が 352地区定期放射線管理対象居住区域 (37~

185 kBq/mり が 950地区と, 37kBq/m2以上の汚染

区域は 1,315地区に及んでいる。

Gomel州に次いで汚染が激しかったMogilev州に

は 107.25万人が居住しているが,汚染面積は州全体

の 27.08%を占めている。Mogilev州の 37kBq/面以

上の汚染地域 (7,880kmり は静岡県 (7,777kmり

表 6 放射能汚染区域別の居住区数 (2010年2月1日時点)

定期放射線管理; 移住権利 ;第2次移住 汚染地域対象居住区域 ; 区域 : 対象区域 合計

州名 1~185 -[ 185-555 : 555-1,480 I 37kBq/m' kBq/m2 : kBq/m2 : kBq/m2 以上

l~5CI/km'!5~15CI/km外15-40.Ci/km' 合計

Brest I 114: 5: I 119 •• ・ ・ ・ • ・ ・ ・ ・ • ・ •................................ 9 • -.....................** • 9. . ...............................................

¥/itebsk I 1: 1 **・ • ・ •• ・ • ・ ・ •........ ・ • ・ • ・ ・................... 9 -----• ---------...........,........................・ ・.......................

Gome! I 950: 352: 13 I 1,315 ............ ・・ • ・ ***..........................,.............----------...,..・ • -.....................................・ ・ ・ •...

Grodno I 106: 106 ................ ...........................・・ • ・・ •^^^^^^^^^^^.....----...,.· • --............................................

Minsk I 117 : 1 : I 118 ・ •-• -------..................................,........................・ • 9 • • ---...--....--・ • • --............................

Mogilev I 616: 122: 5 I 743

Belarus I 1,904: 480 : 18 I 2,402

査科・ベラルーシ共和国非常事態省チェルノプイリ原発事故被害対策局 (2013)「チェルノプイリ原発事故ベラルーシ政府報告瞥」

表 5 チェルノブイ リ原発事故のセシウム 137に汚染されたベラルーシの国土 (2010年1月 1日時点)

人口 I面秘 汚染面積 汚染レベルごとの面和 (単位 1000km')

: 定期放射線管理: 移住権利 i 第2次移住 : 第1次移住

州名 (英語及び日本語) 1万人 密度 1,000 I 1.000 i ' 96 対象居住区域; 区域 ! 対象地域 ; 対象地域

(2014 人/km2 km2 I km2 : (国土 37~185 : 185~555 i 555~1,480 i l,480 年 1月) (2014年) !割合) kBq/m2 j kBq/m2 j kBq/m'. j kBq/m

i I l-5Ci/km2 i 5-15Ci/km2: 15-40.Ci/km2 i40Ci/k.m2以上

Brest :プレスト 13886 I 42 I 32.7 I 237: 723 I 23: 0.07: ···················•················· ····················•··············•·················•·············•·············•··············•································•·······························•·······························•·················· ·············

itebsk :ヴィーツェプスク 120.221 29 I 40.1 I 0.01 : o.03 I 001 : Vitebsk ···················•··························· ··········•··············•·················•·········· ···•·············•·············· •································•·······························•·······························•·············· ·················

Go.mel -iホメリ..(ゴメリ) ・14254..35...404 1S3翌..iiH)::::::::::::::::::::::Jftt::::::::::::::::::::::~)t::::::::::::::::::::::x~<::::::::::::::::::::§3.i Grodno :フロドナ 105.49 I 42 I 25 I 0.61: 2.41 I 0.6: -001: ........................................................................ ..........................................................................................................................................................................................

Minsk :ミンスク 140.26 I 29 I 40.1 I 0.90: 2.25 I o.9: -001: ····················•·····································•··············•·················•·············•·············•··········································· ····•············· ··················•·······························•···················· ···········

Minsk市:ミンスク市 192.19 I 6.291 I 0.3 .11!1i11.~.k..:rlf..L~..:.::.~.t:rlf...............1..1.~~}~.l....... ~:~~.1.1.... ... ~}.l...... -:-......L.... ::......I.............. ::...............1............... -:-............. L......... -:-...............L............. -:-............... Mogilev :マヒリヨウ 107.25 I 36 I 29 I 7.88: 27.08 I 5.35: 1.8: o.68: o.o5

Belarus :ベラルーシ 946.81 I 45 I 207.7 I 30.1: 14.5 I 20.86: 6.6: 2.22: 0.42

資料 ベラルーシ共和国非常事態省チェルノプイリ原発事故被害対策局 (2013)「チェルノプイリ原発事故ベラルーシ政府報告書」をもとに,statoids「Regionsof Belarus」(http://www.statoids.com/uby.html)より作成。

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(中村 哲也・増田 聡)チェルノブイリ法と国家計画が果たしたベラルーシの農業復興 51

より大きい。 Mogilev1+1は,第 2次移住対象区域が 5

地区あるが,同区域が 2010年に残っているのは,

Gomel州と同朴1のみである。他にも Mogilev州は,

移住権利区域が 122地区定期放射線管理対象居住区

域が 616地区と, 37kBq/m2以上の汚染区域は 743地

区に及ぶ。

同法に基づいて, 1990年 8月 1日から食品と飲料

水の許容濃度に関する共和国管理レベル (RCL-90)

を施行した 9)。同国では, 1992年 10月21日ベラルー

シ国家衛生総監が承認した共和国許容レベル (RAL-

92)が,食品と飲料水中のセシウム 137とストロンチ

ウム 90の規制のために用いられている。

ウクライナと国境を接する Brest州には 138.86万

人が居住しており,汚染面積は州全体の 7.23%を占め

ている。 Brest州の 37kBq/面以上の汚染地 域

(2,370 kmりであり, Gomel州の 8分の 1.Mogilev

州の 3分の 1程度の汚染面積ではあるが,同州の汚染

面積は沖縄県 (2,281kmりより広い。 Brest州の

37kBq/吋以上の汚染区域は 119地区である。

Grodno州と Minsk州における汚染面積の国土面積

に対する割合は,それぞれ 2.41%. 2.25 %と小さい。

しかしながら,両州における 37kBq/m2以上の汚染

地域は,それぞれ 106地区, 118地区に及び, Brest

州の地区数と大差はない。 Grodno州と Minsk州は,

Gome! 1'1・1や Mogilev州のように汚染面積の割合が広

いわけではないが,汚染地区数は少なくない。

4.チェルノブイリ法に基づく食品内の放射性物質の

規制値の施行

前節では,ベラルーシの汚染面積と汚染地域を考察

してきたが同国ではチェルノブイリ法に基づいて,

食品内の放射性物質の規制値も施行している。

表 7は,食品中のセシウム 137とストロンチウム

90の共和国管理レベル (RCL) と共和国許容レベル

(RAL) を示した。

RCL-90は,緊急措置として設定された被曝限度

(1990年 5mSv) に基づいて,ベラルーシ政府が食品

と飲料水中のセシウム 137に関する共和国管理レベル

(RCL-90) を設定した 10)。RAL-92の値も,改正さ

れた RAL-99の値も,そのレベルの放射能の取り込

みに伴う内部被曝が年間 lmSvを越えないように設

定されている 11)。ベラルーシ人の食料消費構成を見

た場合ジャガイモや牛乳及びパンで 50%を占めて

いるため,これらを基本として RALは構成されてい

る [14]。そして, RCL-90から RAL-99に至るまで,

内部被曝が年間 5mSvから lmSvに引き下がる過程

で,豚肉等や牛肉以外の規制値も引き下がっている。

汚染穀物を直接摂取するより,牛,豚,ブロイラーの

飼料として利用し,それらの肉類を消費した方が,住

民の被曝量が20分の 1から 30分の 1ほどに低減され

る(対策局他 2013)。同国では 2020年までに,肉類

のセシウム 137の濃度基準をロシアの 160Bq/kgに

表 7 食品中のセシウム 137とストロンチウム 90の共利国管理レベル (RCL) と共和国許容レベル (RAL)

セシウム 137 ストロンチウム 90

食品名 RCL-90 i RAL-92 i RAL-99 I RAL-92 i RAL-99 Bq/kg,l : Bq/kg,l : Bq/kg,l I Bq/kg,l : Bq/kg,l

飲料水 18.5 : 18.5 : 10 I o.37 : o.37 ・ -••-........-•-----------------------------------------------..............----------------------------...........---------• ----------------.......--•••------------------------ --------.......-•-•-------•-----------------------••-ミルク 185: lll : 100 I 3.7: 3.7

.........-------------------------------------•--•---................------------------------------...........--•------------•-------------.......-••--•-------------------------- --............------------•----------------------•-.. 豚肉羊肉,鶏肉,魚,卵とそれらの製品 592: 600: 180 I - : -........-------------------------------•-......................--••••--------------------------•-.............---------------•-----•-•-...........-•---•-------------------------...................--------•----------------------.... 牛肉と牛肉製品 592 : 600 : 500 •------------------------------•-.....---..........--.....-----------------------------------...........---------------------•-----.......-•••---------•-------------------------- -..................-------•---------------------..... 植物池動物脂肪,マーガリン 185: 185: 40 -----------------------------..........._....-•--------------------------------------.............-••-----------------------•-............-••---------•-------------------------- -•-----•--..........._____i_------------------....... ジャガイモ 592: 370: 801 3.7: 3.7

•--------------------------••-............-••-----------------------------------------..........--- -----------------------.............-•-•------------•-------------------------- ----------..........------•-------------........-----野菜,果物イチゴ 185 : 185 : 100 I -......---------------------------...........-••------------------------------------•-..............--------------------------•--...................----•-------------------------- -------•-..........-------i_--------..........-------パンとパン製品,穀類,カラス麦,小麦粉,砂糖 370: 185: 401 3.7: 3.7 -----------------------------------.............----------------------------------------..............-----------------------•----------••--............-------------------------- --------........----------•------........------------

幼児食品 37: 37: 371 --------------------------------------........--••-•••-••••-•-------------------------------............----------------------•-----------...........--••-------------------------- --.........-------------」.......-------------------生のイチゴ(栽培) 185: 185: 70 -----------------------------------•-..........---...........-•-------------------------------•--.. ...........---------------:------------...........ー・:-----------------------...........--------------....;...-----------------•-.... 生のイチゴ(野生) 185 --.......---....................................--.........--------------------------------•-...............-•-::------------•-----•--•••-:.....-------i----------------.........- --------------........----;—-----------•-....----••--生のキノコ 370: - : 370 - : -•-.....---------------------------••-••-••-••-•-•----------------------------------------------............------------------•----.........------------•------------........------ ---------.........--------•----------......... ---乾燥した,果物キノコ,イチゴ 3,700: 3,700: 2,500 -----------------------------------------------------------------------------------......--........-------------------------•-••-•••------------------:—........._....----------- ---........---------------: 他の食品および添加物 592: 370 ・-----------------------------------------------------------------------••-...............---.....- ------------------.........•--------------------....;....-------------------..........-•-----------------! (調理済みの)幼児用食品 1.85: 1.85

資料: MatskoVladimir P.・今中哲二『ベラルーシにおける法的取り組みと影響研究の概要』 (http: //www.rri.kyoto-u.ac.jp/ NSRG/Chernobyl/saigai/Mtk 95-].html) 及び MATSKOand Tetsuji IMANAKA『Contentof Radionuclides of Chernobyl Origin in Food Products for the Belarusian Population』(http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/reports/ kr 79 /kr 79 pdf/Matsko.pdf)

注: l)共和国管理レベル (RCL)とはRepublicanControl Levelsを,共和国許容レベル (RAL)とは RepublicanAcceptable Levelsを示し, RCL,RALはその略語を示す。

2) RCL-90, RCL-92. RCL-99とは, 1990年, 1992年, 1999年の共和国管理レベルを示す。3) RAL-92, RAL-99とは, 1992年, 1999年の共和国許容レベルを示す。

Page 11: チェルノブイリ法と国家計画が果たしたベラルーシ …チェルノブイリ法と国家計画が果たしたベラルーシの農業復 興 誌名 開発学研究

52 開発学研究 (Journalof Agricultural Development Studies) Vol.30 No.l. 2019

移行し,国内外の衛生基準を満たす商品生産を確保す

ることを課題としている(対策局他 2013)。

M チェルノブイリ原発事故被害克服に向け

た国家計画と農業復興

前章では,チェルノブイリ原発事故後,現在でも放

射性物質に由来する汚染地域や汚染地区が広がってい

ることが明らかにされた。同国は汚染地域が広がる中

で, どのようにして農業は復興していったのだろう

か。本章では,チェルノブイリ原発事故からの農業復

興に焦点を当ててみたい。

1.チェルノブイリ原発事故によるベラルーシの社

会・経済的損失と国家計画の関係

チェルノブイリ原発事故によるベラルーシの社会・

経済的損失(事故被害に対する国家予算)を見ると,

同原発事故後, 1986-2015年までの損失額は 2,350億

USDに達している。 1986-2015年までの損失額の内

訳をみると,保険 (932.7億 USD)が最も多い。保険

はチェルノブイリ法が採択された 1991年以降に急増

し, 2001-2015年には 543.2億 USDに達している。

次いで損失額が大きいのは農業 (720億 USD) で

あり, 1986-1995年の損失額は農業が最も大きかっ

た。 2001-2015年にかけて,農業の損失額は 181.0億

USDに達しており,今なお農業の損失額が大きい。

更に,保険と農業に次いで,汚染地域の除染 (368.3

億 USD),社会 (177.0億 USD),林業 (4.11億 USD)

等が続く。

2.チェルノブイリ原発事故被害克服に向けた国家計

画の変遷と損失額の配分

(1)旧ソ連の連邦,共和国国家計画 (1990~1992年)

本節では,チェルノブイリ事故被害克服に向けた国

家計画の変遷と損失額の配分について考察する。

表8は,事故被害克服に向けた国家計画の変遷を示

したものである。

チェルノブイリ原発事故後のベラルーシでは, 1990

~1992年の旧ソ連の連邦・共和国国家計画を踏襲し,

1993年から事故被害克服に向けた国家計画を開始し

ている(対策局他 2013)。ベラルーシは国家計画に

基づき,科学的かつ体系的に事故被害対応を行ってき

た(対策局他 2013)。旧ソ連では 1988-92年に

「チェルノブイリ事故影響克服のため総合計画」を立

案し,ベラルーシ科学アカデミー・放射線生物学研究

所及び放射線医学研究所 (Minsk市),農業放射能学

研究所 (Gome!州)等,新たな研究所を設立した [13]。

1986-1990年までの農業の損失額は 183.0億 USD

であるが,同国が独立宣言した 1990年の農業生産額

(国連統計)は 43.13億である。つまり, 1986-1990

表 8 事故被害克服に向けた国家計画の変遷

時期 内容

1990-1992年 1 (ソ連)連邦・共和国国家計画

1993-1995年 第一次国家計画:ベラルーシ独自取り組み開始

1996~2000_翌_:I箪二次国家計画狂丞杞プローチ ー:::2001-2005年 第三次国家計画:汚染地域社会・経済環境改善・------------------------------------------------------------------------------

第四次国家計画:復興2006-2010年 ----------------------------------------------------------

Gomel州に国家計画研究資源と資金を集約-----------------------------------------------・

2011~2015年 1第五次国家計画:持続的発展

資料:吉田明子 (2015)『ベラルーシにおける被害影響と対応』

(http: //www.foejapan.org/energy/evt/pdf/Belarus_ chernobyl_ 150711.pdf)より作成。

年までの 5年間の農業損失額は, 1990年の農業生産

額に比して, 4.24倍に達している。

(2)第1次国家計画 (1993~1995年)

ベラルーシは独立後に国家計画を立案した [13]。ベ

ラルーシ『独自の取り組み』は第 1次国家計画

(1993~ 1995年)から開始された(対策局他 2013)。

1992年からベラルーシ科学アカデミー・放射線生物

学研究所が所轄して,被曝線量台帳を作成した。

第 1次国家計画立案当時から 1995年までの農業の

損失額は 200.0億 USDに達した。原発事故後, 1995

年の農業生産額(国連統計, 21.82億 USD) は1991

年 (43.13億 USD)に比して半減した。 1991~1995年

までの 5年間の農業損失額は, 1995年の農業生産額

に比して, 9.17倍に達している。他方,名目 GDP

(IMF統計)を見ると, 1992年には 123.64億 USDで

あったが, 1995年には 101.79億 USDへ急落してい

る。旧ソ連時代から第 1次国家計画中の農業は,生産

額より損失額が大きかった。

(3)第2次国家計画 (1996~2000年)

第2次国家計画 (1996~2000年)では科学的アプ

ローチが実行され(対策局他 2013),放射線防護と

住民の健康維持を重点化している [13]。第 2次国家計

画中に,損失額が最も大きかったのは汚染地域の除染

(224.8億 USD)である。また,原発事故から 10年を

経て,国家の負担が大きくなったのは,保険 (181.3

億 USD)である。第 2次国家計画中では放射線防護

と住民の健康維持を重点化したため,汚染地域除染と

保険に国家予算が投じられた。

(4)第3次国家計画 (2001~2005年)

第3次国家計画 (2001-2005年)では汚染地域の

社会・経済環境改善が施行され(対策局他 2013),

長期的影響への移行,及び農産物作目の転換を計画し

た [13]。2001年以降放射線量が減少したため,汚染

地域除染の損失額 (101.2億 USD)は半減する。 2001

年以降放射線量が減少した理由の 1つに,農業分野

Page 12: チェルノブイリ法と国家計画が果たしたベラルーシ …チェルノブイリ法と国家計画が果たしたベラルーシの農業復 興 誌名 開発学研究

(中村 哲也・増田 聡)チェルノプイリ法と国家計画が果たしたベラルーシの農業復興 53

における防護措置が拡大したことにも一因がある。

表 9は,農業分野における防護措置の規模を示し

た。2008年 8月6日付で同国の非常事態省決定 86号

において承認された「放射能汚染地域における農業の

防護措置実施のための設備及び財政支出需要計画手順

書」は,酸性土壌の石灰処理, リン・カリ肥料の供

給資料用牧草地の整備配合飼料の供給について定

めている(対策局他 2013)。

表中より, 2001年にセシウム吸着剤配合飼料は

1,700 tが投じられ, 2005年にも 1,400t, 2006年にも

1,500 tが投じられている。酸性土壌の中和や牧草地,

放牧地の整備,及びリン ・カリウム系肥料の施肥量が

盛んであったのは 2002~2004年である。

土壌の石灰処理によって,農産物の放射性核種濃度

が 3分の 1から 3分の 2に減少した。 また,牧草地,

放牧地の完全更新によって牛肉や食肉の放射性核種濃

度が 2分の 1から 3分の 1に,簡易更新によって同濃

度が 34~66%に減少した。更に, リン肥料の使用に

より,農産物のセシウム 137の濃度は 2分の 1に,ス

トロンチウム 90は28~83%に減少した。加えて,カ

リウム肥料の使用により ,農産物のセシウム 137の濃

度は 2分の 1に,ストロンチウム 90は3分の 2に減

少した。以上のような農業分野における防護措置は第

4次国家計画中にも継続されているが,第 3次国家計

画中の規模が最も大きかった。

(5)第4次国家計画 (2006~2010年)

第 4次国家計画は, Gome!州に国家計画の研究資

源と資金を集約し,放射性核種汚染地域における国の

政策は『復興』 と位置付けられた(対策局他 2013)。

被災地域の復興に向けた独自の取り組みは,国際的に

も評価された(対策局他 2013)。

ベラルーシでは牛乳の消費が多いが,牛乳から被曝

する者が多かった。 しかしながら,動物性食品(牛

乳・肉)への放射性セシウムの移行量は,胃腸内で放

射性核種を選択的に吸収するセシウム吸着剤を動物の

飼料に混ぜることで, 2分の 1に減少した(対策局他

2013)。この目的のために, フェロシアン化物を添加

した動物用薬剤や特別配合飼料の製造・供給体制が整

えられ,2001~2009年の 82,000頭の乳牛に同化物が

投与された(対策局他 2013)。第4次国家計画以降,

牛乳の生産量が増加し, 2016年には 712.3万 t

(FAOSTAT) にまで達した。牛乳がベラルーシ最大

の輸出品目となった背景には,放射性核種汚染地域で

実施された対策によって,汚染地区が減少したことが

大きい。

l)牛乳の生産量 とセシウム 137の基準値超過が確

認された居住区数の関係

図2は,牛乳の生産量とセシウム 137の基準値超過

が確認された居住区数の関係 (2001~2010年)を見

ると, 2001年において,セシウム 137の基準値超過

が確認された牛乳産地の居住区数は 325地区牛乳の

生産量は 480.93万 tであった。第 4次国家計画中の

2010年 (144万頭)まで一貰して減少していることが

読み取れる。2003年の同居住区は 214地区に減少し

たが同生産量は 465.73万 tに減少してしまう 。 し

かしながら, 2004年には,同居住区数が 165地区に

減少しながら,牛乳の生産量は 512.42万 tへと増加

に転じる。2004年以降は同居住区数が減少しつつ,

牛乳の生産量は増加に転じる。そして,第 4次国家計

画が終了する 2010年には同居住区数は 25地区にま

で減少し,同生産量は 659.45万 tにまで増加する。

同居住区数の減少と同生産量の増加との間には高い相

関 (R2=0.9364)がある。

表9 ベラルーシの農業分野における防護措器の規模

年次酸性土壌の中和

採草地,放牧地

(1.000 ha) の整備(1.000 ha)

リン・カリウム系肥料の施肥飛(単位:l.OOOt ・有効成分)

2001年..............

2002年..............

2003年..............

2004年

35.61 10.4 ......,....................................,....................................,....

52.11 7.9 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 48.9

::};~:i::::. 8.1

48.7 13.8

リン酸 (P2伍)

24.5 • -......

17.9 .......

1 3. 6 .........

27.3

カリ (K心)

セシウム吸着剤配合飼料(l,OOOt)

84.1 ・-------58.6 ・-------64. 3 ・-------92.5

2005年 44.0I 15.6 I 30.3 ~~i·=·······+·------........ ·······!6:~+................... ・rn{¥・.............. -~~}\·.......l~i:~ 109.4

2006年 40.6I 13.4 ...............

2 6. 7 | 87. 8

2007年 1 291 51 243 839 2008年 311I 5.6 I 24.1 I 86.2 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・----・・・・・・・・・----------・・--・・・・・・・・・・・・・・・------・・・--------・・・・・・・--------・・・------------・------------------------・・----------------------------------・・

2009年 29.5I 5.11 24.6 I 83.9 ..................^^ ^^^ ー^・

:認年 1 ぶ[] ぷ〗 孟〗: I :::

17口

1213M1507040607-06

賓料 ベラルーシ共和国非常事態省チェルノプイリ原発事故被害対策局 (2013)「チェルノプイリ原発事故ベラルーシ政府報告魯Jより作成。

注網掛けのセルは上位 3位の値を表す。

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54 開発学研究 (Journalof Agricultural Development Studies) Vol.30 No.l, 2019

セシウム 137の基準値超過

350 r が確認された居住区数

● 2001年

300

250

200

150

100

50

2002年

● 2003年

●翠4年

● 2005年

009年● 2010年

゜4.5

牛乳の生産批 (100万 r)

図2 牛乳の生産量とセシウム 137の基準値超過が確認 された牛乳産地の居住区数の関係

5

5.5 6

6. 5

出所:ペラルーシ共和国非常事態省事故被害対策局 (2013)「ペラルーシ政府報告魯」 及びFAOSTATから作成

2)農業生産額と農業分野への防護措置への財政支

出との関係

汚染対策の効果によ って,汚染地区が減少し,生産

量が増加したのは牛乳だけではない。

農業生産額と農業分野への防設措置への財政支出と

の関係を見ると第 3次国家計画が開始され,経済環境

の改善が始ま った2001年において農業分野への防

護措置への財政支出 25.1億 BYN, 農業生産額は 12.8

億 USDであった。第4次国家計画が開始され,復興

が位置付けられた 2006年の農業生産額は 31.7億

USD, リーマンショック前の 2008年には 52.6億

USDに達した。農業生産額と農業分野への防護措置

への財政支出との間には高い相関 (R2=0.9095)があ

り,同国の防護措置が生産額の向上に貢献したことが

分かる。

(6)第5次復興計画 (2011~2015年)

第 5次復興計画は, 『持続的発展』に取り組む段階

にある (対策局他 2013)。今後,ベラルーシはどの

ように持続的発展に取り組んでいくのか,また放射能

汚染はどのように推移していくのだろうか。

表 10は,ベラルーシ政府が,放射能汚染地域内の

居住区数の変動を予測したものを示したものである。

表中より,セシウム 137による第 2次移住対象区域

(555-1,480 kBq/mりは 2006年には 25地区あるが,

2030年には 2地区にまで減少し, 2040年までに消滅

する。ストロンチウム 90による第 2次移住対象区域

は2090年までに消滅する。

しかしながら,セシウム 137による汚染地域内の居

住区数だけを見ても,住民の年間平均実行線量が

1 mSvを超える 37kBq/而以上の居住区数は 2090年

でも 429地区に及ぶ。ストロンチウム 90による同居

住区をみても, 5.55kBq/面 以上の居住区数は 2090

年でも 36地区に及ぶ。今後の高レベル汚染地域の利

用に関する長期戦略としては国家計画と関連して,

汚染地域の管理体制を最適化することや, 自然保護区

として,または研究試験場としての役割を果たすこと

等が検討されている。

JV.結論

本稿では,チェルノブイ リ法と国家計画が果たした

農業復興について考察した。その結果,下記の諸点が

明らかにされた。

第 1に,ベラルーシの政治経済と外交関係について

考察した結果, Lukashenko大統領はヨーロッパ最後

の独裁者と椰楡されながら,ロシアとは一方では反発

し,他方では協力し,かつ中国とは密接な関係を続

け,現在も独裁体制を維持し続けている。

第 2に,同国の農業を考察した結果,農地は肥沃と

は言えないが国全体の貿易収支が赤字化 している中

で,酪農品と畜産物の輸出によって農業の貿易収支は

黒字化 している。同国では,チェルノブイリ法に基づ

いて汚染地域を区分けし,汚染面積と住民数を把握し

Page 14: チェルノブイリ法と国家計画が果たしたベラルーシ …チェルノブイリ法と国家計画が果たしたベラルーシの農業復 興 誌名 開発学研究

(中村 哲也・増田 聡)チェルノブイリ法と国家計画が果たしたベラルーシの農業復興 55

表 10 放射能汚染地域内の居住区数の変動予測

土壌汚染濃度 (kBq/m尺Ci/km2>)

セシウム 137 ストロンチウム 90

定期放射線管理: 移住権利 :第 2次移住! 汚染地域 定期放射線管理: 移住権利 !第 2次移住! 汚染地域

年次 対象居住区域; 区域 :対象区域 i 合計 対象居住区域; 区域 ;対象区域 i 合計

37-185 : 185-555 : 555-1,480 : 37 I 5.55-18.5 : 18.5-74 : 74 : 5.55 kBq/m2 ! kBq/m2 ! kBq/m2 ! kBq/m2 I kBq/m2 ! kBq/m2 ! kBq/m2 ! kBq/m2 l~5 : 5~15 : 15~40 : 以上 : o.5~2.0 : 2.0 : 以上0.15-0.5

Ci/km' : Ci/km2 : Ci/km2 : 合計 Ci/km 2 : Ci/km 2 : Ci/k吋超: 合計

2006年 2,484: 552 : 25 : 3,061 [ 863 : 125 : , 988 -----------------•--------------------------------~~----------+--------~----------------· 2010年 1,915: 506: 22: 2,443 I 554: 116: - : 670 -----------------•--------------------------------令--------------------------―↑---------------------------を-----------------------------------------------------------9 ---------------------------9---------------------------令---------------------------2015年 1,817: 361: 13: 2,191 [ 526: 96: , 622 ·----------------•--------------------------------•---------------------------`―--------------------------,---------------------------•--------------------------------•--------------------------―ヤー―-------------------------*---------------------------2020年 1.748: 294: 8: 2,050 I 462: 66: , 528 ·----------------•-----------------------~-----------—令―----------------------------------------------------------~---~-----2025年 1,664: 228: 6: 1,898 I 414: 51: ; 465 ---------------+----------~-~-----------+--------------------------,--------------------------------~-•---~-------

2030年 1,593: 174: 2: 1,769 351: 36: ; 387 ·----------------•-------------—令―-------------------------—令―--------------------------•--------,--------------------------------~-------+-------------------------+-------------------------· 2040年 1,312: 95: - : 1,407 I 259 : 15 : - : 27 4 -~~=~---.:----1----------------------:'.::~::―ヤー―-------------------------i------------i--~-------------------------:~=:+-------:=+---i-------= 2050年 1,161: 57: : 1,218 I 212: 5: 217 -----------------•-------------------------------+-------~----------------------~------~-----~--2090年 428: 1: : 429 36 : - 36

資料:ベラルーシ共和国非常事態省チェルノプイリ原発事故被害対策局 (2013)「チェルノプイリ原発事故ベラルーシ政府報告書』より

作成。

た。そして,住民の内部被曝が年間 lmSvを超えな

いように食品内の放射性物質の規制値を定め,汚染穀

物は家畜に摂取させ,住民は肉類を摂取するように指

導し,国内外の衛生基準を満たすように努めた。

第3に,国家予算に占める損失額を考察した結果,

チェルノブイリ原発事故当初から第 1次国家計画まで

は農業に占める割合が,第 2次国家計画では汚染地域

の除染に占める損失額の割合が高かった。しかしなが

ら,第 3次国家計画では農業分野の防護措置に努めた

結果,農畜産物の放射性核種濃度が激減した。第 4次

国家計画では,フェロシアン化物を添加した動物用薬

剤やセシウムを吸着する特別配合飼料の製造・供給体

制が整ったことで,牛乳の汚染地区が減少し,生産量

が増加し,農業復輿が果たされた。第 5次国家計画で

は,汚染地区が減少していくとはいえ,高レベル汚染

地域が残っていく現状も見据えている。ベラルーシは

長期的に汚染地域の管理体制を最適化し,かつ汚染地

域を自然保護区とし,持続的発展に取り組んでいる。

ベラルーシは,チェルノブイリ原発事故後,チェルノ

ブイリ法によって汚染地域を管理し, また放射性物質

の規制値を定め,国家計画によって段階的に農業復興

を果てしていった。

(注)

l) 白ロシア・ソビエト社会主義共和国は,ロシア社会主義連邦

ソビエト共和国ウクライナ社会主義ソビエト共和国ザカ

フカース社会主義連邦ソビエト共和国と共に, 4つの共和国の

1つとして,ソビエト社会主義共和国連邦を構成していた。

2) 高齢者,未成年,障害者以外が職に就かず半年以上税金が未

納の場合,平掏月収程の罰金が課せられ,また失業者は社会

奉仕が義務付けられる[]]。公の場でのデモ,集会は厳しく規

制され,政治的な意見の表明や政権批判,大統領批判をすれ

ば,逮捕・拘束される [2]0

3)報道の自由度とは, FreedomHouseが各国の報道の自由度

を法的環境,政治的環境,経済的環境の 3分野で, 20以上の

設問と 100以上の指標によって 1-100でスコア化し,評価し

ている。スコアの低い方が報道の自由度が高い。

4) その他の CIS諸国の名目 GDPは,アルメニア (115.5億

USD),モルドバ (80.9億 USD), タジキスタン (72.8億

USD)キルギス (71.6億 USD)の順である。

5)他の CIS諸国の 1人当たりの名目 GDP(2017年)は,アゼ

ルバイジャン (4,141USD),アルメニア (3,861USD),モル

ドバ (2,280USD), ウズベキスタン (1,491USD),キルギス

(1,144 USD), タジキスタン (824USD)の順である。

6) 大統領の訪中時,両国が調印した協定は 30に及び,旧ソ連

の遺産で辛うじて維持している軍事,宇宙開発分野にまで及

んだ。総額 56億 USDをかけて建設する約 80km2の工業団地

には中国企業を誘致し,将来的には 15万人が居住する [7]0

7) ソ連最高会議もソ連崩壊の約半年前の 1991年 5月, 15Ci/

km2以上の汚染地域住民全員を移住させる決定をした [12]。

8) チェルノブイリ事故によって,避難区域から強制的に避難さ

せられた 13.5万人を合計すると, 3カ国で 40.3万人が自宅及

び故郷を失っている。

9) RCL-90の基本は,そのレベルの食品を日常的に摂取し続け

ても,最も被曝が大きいグループでも年間の内部被曝量が

1.7 mSvを越えない, という考え方である [12]。Matsko・ 今

中 [12]では remで記述されているが,本稿では 1remを

lOmSvに変換して標記した [14]。

10)わが国でも福島の事故当時の規制値も,内部被曝量が年間

5mSvを超えないように設定されていた。

11)わが国の新規制値 (2012年 4月)も年間 1mSvを超えない

ように設定されている。

Page 15: チェルノブイリ法と国家計画が果たしたベラルーシ …チェルノブイリ法と国家計画が果たしたベラルーシの農業復 興 誌名 開発学研究

56 開発学研究 (Journalof Agricultural Development Studies) Vol.30 No.1, 2019

〈引用文献〉

伊東孝之•井内敏夫・中井和夫 (1999) :新版世界各国史 20 巻

ポーランド・ウクライナ・バルト史,山川出版社. pp.420-

423

今中哲二 (2013):放射能汚染と災厄ー終わりなきチェルノブイ

リ原発事故の記録.明石書店. p.475.

尾松亮 (2011):チェルノブイリ法とは何か, 3.11とチェルノブ

イリ法東洋書店新社 pp.69-101.

中村哲也・矢野佑樹・丸山敦史 (2018):放射性物質の知識と安

全対策に関する市民評価ーミンスク合意後のウクライナを事

例として一,開発学研究. 29(2). pp.27-43.

中村哲也・増田聡・丸山敦史・矢野佑樹 (2019):原発事故被害

からの克服政策に関する市民評価ーベラルーシを事例として

-.開発学研究, 30(1),pp. 1-16.

服部倫卓 (2018):不思議の国ベラルーシーナショナリズムから

遠く離れて, p.224.

服部倫卓・越野剛 (2017):ベラルーシを知るための 50章.

p.348.

ベラルーシ共和国非常事態省チェルノブイリ原発事故被害対策

局(絹)・日本ベラルーシ友好協会(監訳) (2013):チェルノ

ブイリ原発事故ベラルーシ政府報告書[最新版].産学社.

p.189

[l] reuters, ベラルーシで「社会的寄生虫税J撤回求め抗議,

大統領辞任要求も, https://jp.reuters.com/article/parasites-

idJPKBN16LOH4, 2018.10.18.

[2] AFP BB news, ベラルーシの「拍手デモ」を警官隊が鎮圧

「蜂起を夢想するなJと大統領, http://www.afpbb.com/artic

les/-/2810243, 2018.10.18.

[3]外務省,ベラルーシ共和国 https: //www.mofa.go.jp/mof

aj/ area/belarus/ data.html, 2018.10.18.

[4]ベラルーシの原子力事情, http://www.rist.or.jp/atomica/

data/ dat_detail.php?Title_Key= 14-06-13-01, 2018.10.18.

[5] 日経ビジネス,ベラルーシ:‘‘欧州最後の独裁国家”の選択

iま, http: //business.nikkeibp.co.jp/article/money / 2008

0910/170169/, 2018.10.18.

[6] ifinance, ロシア危機 https: / /www.ifinance.ne.jp/ g!ossa

ry /world/wor021.html, 2018.10.18

[7]産経ニュース,中国に急接近の独裁国家ベラルーシ, htt

ps: //www.sankei.com/world/news/130730/worl307300004

-nl.html, 2018.10.18

[8] ベラル ンの風, http://www.belarus.jp/Belarus/Econo

my.htm, 2018.10.18.

[9] ベラルーシな時間, http://blog.livedoor.jp/akiravich/,

2018.10.18

[10] ミンスクの台所, http://restaurant-minsk.tokyo/, 2018.

10.18.

[11] The United Nations and Chernobyl, The Republic of Belar

us, http:/ /www.un.org/ha/chernobyl/belarus.html, 2018.

10.18.

[12] Matsko Vladimir P. ・今中哲二,ベラルーシにおける法的

取り組みと影響研究の概要, http: / /www.rri.kyoto-u.ac.jp/

NSRG/Chernobyl/saigai/Mtk 95-J.html, 2018.10.18.

[13] FoE Japan, ベラルーシにおける被害影響と対応,ベラ

ルーシ訪問報告会, http://www.foejapan.org/energy/evt/

pdf/Belarus_chernobyl_l5071 l.pdf, 2018.10.18.

[14] endmemo, Millisievert⇔ Rem Conversion, http : //www.

endmemo.com/sconvert/msvrem.php, 2018.10.18.

(2018.10.22 受付, 2019.2.15 受理)