シリコンナノシートの合成と...

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シリコンナノシートの合成と面内構造解析 ㈱豊田中央研究所 中野秀之 hnak an [email protected] yt labs.co.j p ナノシートは、層状化合物を構成する層をバラバラに することによって得られたナノメータスケールの厚み、ミ クロンサイズの横サイズを持ったナノ材料である。また、 ナノシートは、表面と内部の区別が無い特異な構造を持 っており、物質表面の物性を調べる上でも、興味深いナ ノ材料の一つである。今回、新規なシリコンナノシートを 合成し、シートの面内構造をin-plane回折測定により明ら かにしたので報告する。 出発原料には C a Si 2 を用い、その構造はダイヤモンド型 のSiの( 111)面の間に Ca原子層が挿入された層状結晶である(図1a )。C a Si 2 のSiサ イトを 5%程度のMgで置換したも のをプロピルアミンン・塩酸水溶液中で5日間攪拌し、脱 C a反応とアミンによる剥離を同時に進行させることによって、 シリコンナノシートが分散したコロイド溶液を得た。得られたシートの厚みは、A FM より 0.4nmと求まりシリコン一原子層 が酸素で終端された構造である事が判った.(図1b,c) 。この溶液をGe基板へ塗布した試料でin-plane回折測定を SPring-8 の B L16XUで行った。その結果、六方晶系で指数付けでき、a軸は Si(1 11)の約2倍の0.82 nmであった。構造 解析の結果、この超周期性はシート面内の対称性の低下ではなく、M g置換による 2×2の超格子であることが明らか になった。 図1 Ca Si およびシリコンナノシートの構造 シリコンナノシートの合成と 面内構造解析 ㈱豊田中央研究所 中野秀之

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  • シリコンナノシートの合成と面内構造解析

    ㈱豊田中央研究所 中野秀之

    [email protected]

    ナノシートは、層状化合物を構成する層をバラバラに

    することによって得られたナノメータスケールの厚み、ミ

    クロンサイズの横サイズを持ったナノ材料である。また、

    ナノシートは、表面と内部の区別が無い特異な構造を持

    っており、物質表面の物性を調べる上でも、興味深いナ

    ノ材料の一つである。今回、新規なシリコンナノシートを

    合成し、シートの面内構造をin-plane回折測定により明ら

    かにしたので報告する。

    出発原料には CaSi2を用い、その構造はダイヤモンド型

    の Si の(111)面の間に Ca 原子層が挿入された層状結晶である(図1a)。CaSi2の Si サイトを 5%程度の Mg で置換したも

    のをプロピルアミンン・塩酸水溶液中で5日間攪拌し、脱 Ca 反応とアミンによる剥離を同時に進行させることによって、

    シリコンナノシートが分散したコロイド溶液を得た。得られたシートの厚みは、AFMより0.4nmと求まりシリコン一原子層

    が酸素で終端された構造である事が判った.(図 1b, c)。この溶液を Ge 基板へ塗布した試料で in-plane 回折測定を

    SPring-8 の BL16XU で行った。その結果、六方晶系で指数付けでき、a 軸は Si(111)の約2 倍の 0.82nm であった。構造

    解析の結果、この超周期性はシート面内の対称性の低下ではなく、Mg 置換による 2×2 の超格子であることが明らか

    になった。

    図1 CaSi2およびシリコンナノシートの構造

    シリコンナノシートの合成と面内構造解析

    ㈱豊田中央研究所中野秀之

  • ナノシートとは?

    Ti0.91O2 MnO2 Ca2Nb3O10

     層状結晶

          コロイド

    osmotic swelling

    exfoliation

    ナノシート

    これまでに合成されてきた代表的な機能性酸化物ナノシート

    ナノシートの特徴: ナノメーターサイズの厚さ ミクロンサイズの面内 単結晶

    wireparticle tube

    従来のシリコンナノ材料

    (Adv. Mater. 2002)(Science 1998)(Chem. Commun. 2005)

    2次元のシリコンナノ材料はこれまでに報告がない

    CaSi2 (SiH)nSi6H3(OH)3

    SiCa

    Si

    Si

    H

    OH

    H

    H

    アプローチ- 二次元Si骨格を有する層状Si化合物 -

    H. Nakano et al. Angew. Chem. Int. Ed. 45, 6303 (2006) H. Nakano et al., Chem. Commun., 2945 (2005) H. Nakano et al., submitted

  • CaSi2

    PA-HCl水溶液

    攪拌(R. T.)

    シリコンナノシート

    合成 (1)- 二次元Si骨格の抽出スキーム -

    Thickness: ca. 0.2 nm

    Ca2+(Si-)2

    0 10 20 30 40 50 60

    2θ/degree

    0 10 20 30 40 50 60

    2θ/degree

    2 4 6 8 10

    2θ/degree

    0 10 20 30 40 50 60

    2θ/degree

    Mg-doped CaSi2

    1.98

    nm0.

    98nm

    0.66

    nm0.

    49nm

    0.40

    nm 0.33

    nm0.

    28nm

    : CaSi2

    実験(2)- シリコンナノシートの合成 -

    インターカレーション化合物+ナノシート

    PA-HCl水溶液-攪拌

    遠心

    分離

    コロイド溶液

    乾燥ナノシートのSEM像

    200nm

    a [111]

    22Si

    b

    ?

    200nm

    a [111]

    22Si

    b

    ?

    ED pattern

    得られた材料:・結晶質

     ・バルクSiの(111)面の2倍の超周期 ・構成成分は、Si、O、Mg

    TEM image

    分析(1)- TEM & EDX -

    0.00 0.80 1.60 2.40 3.20 4.00 4.80 5.60 6.40

    keV

    0

    80

    160

    240

    320

    400

    480

    560

    Coun

    ts

    C

    O

    Mg

    Si

    Cl

    ClCa

    CaCu

    Cu

    EDX

    Si

    Mg

    O

    (Hexagonal set)a = 0.82nm (This study)a = 0.38nm (Bulk Si)

  • 分析(2)- 超格子の起源は? -

    Delamination

    or

    Superlattice structure(Mg or O doped structure)

    In-plane XRD 測定

    Si

    Mg or O

    分析(3)- In-plane & conventional XRD -

    0.2

    ω

    60.1

    2

    46

    1

    2

    46

    10

    10-510-410-310-210-1100101

    in plane conventional

    in p

    lane

    (cou

    nts)

    008,

    204

    220 10

    4

    004,

    202

    403,

    320

    , 216

    500

    110

    (0.4

    216n

    m)

    Con

    vent

    iona

    l (co

    unts

    )

    d (nm)0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6

    in-planeconventional

    60.1

    2

    46

    1

    2

    46

    10

    10-510-410-310-210-1100101

    in plane conventional

    in p

    lane

    (cou

    nts)

    008,

    204

    220 10

    4

    004,

    202

    403,

    320

    , 216

    500

    110

    (0.4

    216n

    m)

    Con

    vent

    iona

    l (co

    unts

    )

    d (nm)0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6

    in-planeconventional

    ダイヤモンド型構造のSiに禁制の(110)面反射が観察

    110

    SPring-8 BL16XU

    30

    20

    10

    0

    x103

    0.60.50.40.30.20.1

    structureC

    50403020100

    x103

    structureB(20)

    806040200

    x103

    structureB(19)

    30

    20

    10

    0

    x103

    structureA

    543210

    x103

    Si-Mg super-lattice

    6

    0.1

    2

    46

    1

    2

    46

    10

    10-5

    10-4

    10-3

    10-2

    10-1

    100

    101

    面内回折 通常θ−2θ

    Inte

    nsity

    (cou

    nts)

    008,

    204

    220 10

    4

    004,

    202

    403,

    320

    , 216

    500

    110

    111

    d (nm)

    Intensity (counts)

    In-planeθ-2θ

    30

    20

    10

    0

    x103

    0.60.50.40.30.20.1

    structureC

    50403020100

    x103

    structureB(20)

    806040200

    x103

    structureB(19)

    30

    20

    10

    0

    x103

    structureA

    543210

    x103

    Si-Mg super-lattice

    6

    0.1

    2

    46

    1

    2

    46

    10

    10-5

    10-4

    10-3

    10-2

    10-1

    100

    101

    面内回折 通常θ−2θ

    Inte

    nsity

    (cou

    nts)

    008,

    204

    220 10

    4

    004,

    202

    403,

    320

    , 216

    500

    110

    111

    d (nm)

    Intensity (counts)

    In-planeθ-2θ

    structure AP3, a=3.83Å, c=5.90Å

    structure BP212121 or C2221, a=8.95Å, b=3.63Å , c=5.90Å

    structure CP3, a=7.90Å, c=5.90Å

    報告されている様々なsiloxeneの構造シュミレーションと実測値の比較

    二次元シリコン骨格中に酸素は介在しない

    分析(4)- シュミレーション -

    Si

    O

    This work

    Siloxene

    H

  • Delamination

    or

    Superlattice structure

    分析(5)- シリコンナノシートのモデル -

    Si(111)面の2倍の超周期の起源はMgの規則配列

    Si

    Mg

    XPS data: Si:Mg:O=7.0:1.3:7.5Cal. : Si:Mg=7:1

    1μm

    0.000.240.48

    (nm

    )

    40 120 200 280 360(nm)

    0.37nm

    0.00nm

    1.29nm

    2.58nm

    3.58nm

    5.17nm

    6.46nm

    分析(6)- AFMによる形状観察 -

    Mg Si

    0.16nm

    0.37nm

    O

    酸素による終端

    Si

    Si

    O

    5 nmシリコンナノシートの面内構造モデル

                シリコンナノシートの

       面内  単結晶厚さ  単層

    分析(7)- 高分解AFM -

    0.41 nm

  • 反応機構

    Ca 脱離 酸素終端 & 剥離

    Mg-doped CaSi2 Mg-doped SiHnSi-nanosheet

    Ca

    Si

    Si,MgSi,Mg

    H

    H

    HCl PA

    CaSi2 (SiH)nSi6H3(OH)3

    SiCa

    Si

    Si

    H

    OH

    H

    H

    アプローチ(2)- 有機化Siナノシートの検討 -

    H. Nakano et al. Angew. Chem. Int. Ed. 45, 6303 (2006) H. Nakano et al., Chem. Commun., 2945 (2005) H. Nakano et al., submitted

    ヒドロシリル化反応を利用したSiの表面修飾

    (Langmuir, 2000) (Langmuir, 1998)

    Si

    H

    Si

    CH2

    (CH2)4

    CH3

    反応スキーム

    Pt cat.

  • nanosheet2µm 2µm

    110

    [001]

    220

    Si nanosheet2µm 2µm

    110

    [001]

    220

    Si nanosheet

    有機化Siナノシートの構造

    0.E+00

    5.E+04

    1.E+05

    2.E+05

    2.E+05

    5 10 15 20 25 30 35 40 45 50

    2theta/deg (E=10keV)

    Inte

    nsi

    ty/co

    unt

    In-plane

    out-plane

    d=0.22 nm(130)

    d=0.47 nm(100)

    SPring-8 BL16XU

    50

    60

    70

    80

    90

    100

    500150025003500Wavenumber (cm-1)

    Tran

    smitt

    ance

    -CH2

    -CH22917cm-1

    Si(111)面の2倍周期

    配列構造に乱れが少ない

    アルキル基は面内で結晶化している

    0.80nm

    a

    a

    b

    Si

    C6H13

    C6H13

    有機化Siナノシートのモデル

    有機基がSi(111)面の上下にポリエチレン構造を構成

    まとめ

      シリコンナノシートの合成に始めて成功し  面内構造回折の結果

      二次元Si層が保持されていることを確認した。

    そして 今後…..室温でのシリコン多結晶膜の作製

     Si-nanosheetWaterWater Polyion

    Substrate

    Image of LBL self assembly method( G. Decher, Science 1997)