ジュラシック・トーク 「展覧会の絵」のさまざまな...
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ジュラシック・トーク 「展覧会の絵」のさまざまなスコア
20 年前に末廣さんの指揮で「展覧会の絵」を演奏した時には、この曲のスコアといえばまず Boosey &
Hawks のポケットスコア(左端)でした。しかし、今回は、手元にはこのように3種類ものスコアが集まっ
ていました。左からその B&H旧版スタディ・スコア(1942年)、Eulenburg版(1994年/2004年国内版)、
B&H新版(2002年)です。さらにネットでは、IMSLPから B&H旧版でも、このスタディ・スコアとは全く
別の版下によるフル・スコア(1953年)が PDFで入手できます。B&H新版ではそのフル・スコアの版下を
そのまま使い部分的に改訂されているという、ブルックナーの楽譜のようなことが行われています。
その4種の楽譜は、それぞれ細かいところで違いがあるのですが、それがよく分かるのが「リモージュ」の
この練習番号 68の部分です。
■B&H旧版スタディ・スコア ■B&H旧版フル・スコア
■B&H新版 ■Eulenburg版
オーボエとクラリネットのスラーの場所が、みんな違っていますね。
実は、7ページの「おやぢの部屋」の譜例④のように、ラヴェル版のスコアには、リムスキー・コルサコフ
版のピアノの楽譜が出版された時のミスプリントがそのまま継承されている部分があります。それがこの譜例、
「キエフ」での練習番号 119 の直前です。本来はこの Eulenburg 版のように「A♭→A♭♭→G♭→F」とい
う、とてもカッコいい半音下降の進行が聴こえるはずなのですが、★印の部分の実音 A♭♭の音(+1番クラ
リネット)が、B&H旧版では A♭になっています。ですから、ここが「A♭→A♭→G♭→F」というとても中
途半端な下降になっているのです。
ちなみに、B&H 新版には、音はそのままですが、注釈で「ムソルグスキーのオリジナルピアノ版では実音
A♭♭である」という記載があります。
もう一つ、「キエフ」の大詰めでは、B&H旧版(スタディ・スコア)での曖昧な表記が、不思議な演
奏を生んでいました。練習番号 120からです。まず、その「不思議な演奏」を聴いてみてください
これは、この楽譜通りに演奏したものです。赤枠のバスドラムのパートは、この楽譜だと 2/2 になってい
ますから、金管や弦楽器が 3/2 で演奏している中で「リズム通り」に叩くと、この音源のように間違えたよ
うに聴こえてしまいます。普通の指揮者は、ここはバスドラムも 3/2 に変わっていると判断して、他の楽器
と合わせています。
ですから、Eulenburg版()では、そこをきちんと表記しています。
さらに、B&Hでも、新版()ではきちんとこのようになっていますよ。実は旧版()でもフル・スコア
では二分休符だけは入っているんですけどね。
ということは、さっきの音源のような演奏は、「楽譜通り」でも
なんでもない、ただ印刷のミスを真に受けただけのなんとも間抜け
なものでしかなかったということになりますね。これは、ゲルギエ
フとウィーンフィルによる 2000 年の録音(PHILIPS→DECCA)
でした。
そのあと、2008 年には、ヤンソンス指揮のロイヤル・コンセルトヘボウ管
(RCO)が、同じようなことをやっていましたね。
スマートフォン
などでこのQRコ
ードを読み取る
と、サンプル音源
が聴けます。