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JPMA NEWS LETTER 2015 No. 167 Topicsトピックス リスクに基づくモニタリング(RBM)の導入上の課題と留意点 第2回(最終回) 1/5 製薬協 医薬品評価委員会は、「リスクに基づくモニタリング(Risk Based Approach to Monitoring、RBM)」の概念の 理解を促すための活動を行ってきました。前号に引き続き、RBMの実装に際して寄せられたさまざまな疑問について、 トピックスごとに回答を試みたいと思います。みなさまがRBM実装を考える際の参考となれば幸いです。 中央モニタリング Q. 誰が、いつ、何をモニタリングするのですか? Q. 中央モニタリングが不得意なものはありますか? A モニタリング手法は、中央モニタリングとサイトモニタリングに大別されます(図1)。サイトモニタリングが個々の施 設を対象に行われるのに対し、中央モニタリングは、施設横断的にスポンサーの担当者によって行われる評価です。 中央モニタリングは、症例報告書で報告された臨床試験データ、EDC監査証跡、そのほか利用可能なあらゆる情報を用い て、治験参加国間や施設間の比較を行うことにより、さまざまなリスクを定期的に評価して、リスクマネジメント/コントロー ルする手法です。治験ではさまざまなリスクが考えられますが、RBMでは、被験者の安全性確保、臨床試験の信頼性、 GCPや治験実施計画書の遵守の観点から、特定されるリスクにフォーカスします。 中央モニタリングをより効果的かつ効率的に実施するための考慮事項を示します。 治験の早い段階でリスクを把握することが不可欠です。ここで重要な点は、リスクの重みも決定することです。特定され たリスクと、その重みに応じて、リスク評価指標(Quality Risk Indicators)と閾値(Thresholds)を設定します。中央モニタ リングで評価するリスクは、施設外でアクセス可能なデータや情報で検出可能なものが対象になることは考慮すべきポイ ントです。 リスク評価指標および閾値の設定、検出可能性の評価に基づき、中央モニタリングで使用するレポートを作成します。治 験実施環境、特に電子化インフラ導入状況により、作成可能なレポートや指標は異なりますので、現状に見合ったレポー モニタリング サイトモニタリング オンサイトモニタリング オフサイトモニタリング 個々の施設に対するレビュー 中央モニタリング 施設/試験横断的なレビュー CRA etcStat QC Physician Monitoring leader DM 1 モニタリングとは 導入上の課題と留意点 第2回 〈最終回〉 Topics |トピックス 2015年5月号 No.167 J P M A N E W S L E T T E R

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JPMA NEWS LETTER 2015 No. 167 Topics|トピックス リスクに基づくモニタリング(RBM)の導入上の課題と留意点 第2回(最終回) 1/5

製薬協 医薬品評価委員会は、「リスクに基づくモニタリング(Risk Based Approach to Monitoring、RBM)」の概念の理解を促すための活動を行ってきました。前号に引き続き、RBMの実装に際して寄せられたさまざまな疑問について、トピックスごとに回答を試みたいと思います。みなさまがRBM実装を考える際の参考となれば幸いです。

中央モニタリング

Q. 誰が、いつ、何をモニタリングするのですか?Q. 中央モニタリングが不得意なものはありますか?

A モニタリング手法は、中央モニタリングとサイトモニタリングに大別されます(図1)。サイトモニタリングが個々の施設を対象に行われるのに対し、中央モニタリングは、施設横断的にスポンサーの担当者によって行われる評価です。

中央モニタリングは、症例報告書で報告された臨床試験データ、EDC監査証跡、そのほか利用可能なあらゆる情報を用いて、治験参加国間や施設間の比較を行うことにより、さまざまなリスクを定期的に評価して、リスクマネジメント/コントロールする手法です。治験ではさまざまなリスクが考えられますが、RBMでは、被験者の安全性確保、臨床試験の信頼性、GCPや治験実施計画書の遵守の観点から、特定されるリスクにフォーカスします。

 中央モニタリングをより効果的かつ効率的に実施するための考慮事項を示します。● 治験の早い段階でリスクを把握することが不可欠です。ここで重要な点は、リスクの重みも決定することです。特定されたリスクと、その重みに応じて、リスク評価指標(Quality Risk Indicators)と閾値(Thresholds)を設定します。中央モニタリングで評価するリスクは、施設外でアクセス可能なデータや情報で検出可能なものが対象になることは考慮すべきポイントです。

● リスク評価指標および閾値の設定、検出可能性の評価に基づき、中央モニタリングで使用するレポートを作成します。治験実施環境、特に電子化インフラ導入状況により、作成可能なレポートや指標は異なりますので、現状に見合ったレポー

モニタリング

サイトモニタリングオンサイトモニタリング

オフサイトモニタリング

個々の施設に対するレビュー

中央モニタリング

施設/試験横断的なレビュー CRA

etc…

Stat

QC Physician

Monitoringleader

DM

図1 モニタリングとは

リスクに基づくモニタリング(RBM)の導入上の課題と留意点 第2回〈最終回〉

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ト作成、指標設定をすることが求められます。また、治験参加国間や施設間の比較を容易にするための工夫、たとえば、閾値を越えた指標をハイライトする、グラフを多用するなど、視覚的に比較可能なレポートを作成することも中央モニタリングを効率的に行うためのサポートになります。

● リスクマネジメント/コントロールを実施するのに適切な実施時期を考慮し、中央モニタリングの実施時期を決定します。 中央モニタリングは、データマネジメント(DM)担当者による、個別症例を対象に実施するデータレビュー、データクリーニングと異なり、治験参加国間や施設間、さらには治験間の施設の実施状況(成果)、各指標の外れ値や傾向を多角的に比較、評価し、治験全体の質をマネジメントすることが目的の1つです。したがって、評価結果の影響範囲は、その内容により、施設、国、試験全体と異なります。サイトモニタリングのみならず、ほかの関連部門とのコミュニケーションや適切な問題点の共有も中央モニタリングを導入するときに考慮すべきポイントです。

サイトモニタリング

Q. 原資料との照合・検証(Source Data Verification、SDV) が減ると、モニタリング担当者(Clinical Research   Associate、CRA)の役割はどうなるのでしょうか?Q. 本当に中央モニタリングで現行のサイトモニタリングに代替できるでしょうか?Q. オンサイトモニタリングを行わないなんて心配です。

A 米国食品医薬品局(Food and Drug Administration、FDA) ガイダンスによれば、モニタリングとは、「臨床試験の実施やデータの報告を監視するために、スポンサーや、試験の実施責任を委託された医薬品開発業務受託機関

(Contract Research Organization、CRO)が用いる方法を指す。この監視対象には、医師が施設のスタッフや契約職員を適切に監督しているかも含まれる。モニタリングには、試験に参加する医師や施設のスタッフとのコミュニケーション、施設の業務プロセス、手順、記録のレビュー、スポンサーに提出されるデータの正確性の確認が含まれる」とされています。すなわち治験スタッフ間のコミュニケーションや施設におけるプロセス、手順、記録の確認がモニタリング活動に含まれ、データの正確性の確認のためのSDVだけがCRAの役割ではありません(図2)。

SAE 報告

CRF

検体管理 各種機器

必須文書

治験薬管理

同意説明文書

治験スタッフ原資料

(診療録、ワークシート等)● 適格性●プロトコール遵守状況●プロセスの記録

転記/入力の精度

CRF上に報告されたデータと、原データが正しいことを確認するだけではありません。医療機関で治験が適切に行われ、その結果得られたデータであることを保証するため、 プロセスを確認することも、モニタリング活動です。

実施医療機関治験依頼者 ●説明責任/収支

●保管温度

●プロセス●版数

●プロトコールの理解●コミュニケーション

図2 そもそも、モニタリングとは?

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リスクに基づくモニタリング(RBM)の導入上の課題と留意点 第2回(最終回)

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2015年5月号 No.167 2015年5月号 No.167J P M A N E W S L E T T E R

 RBMは、単に施設訪問を減らすことを意味していません。 個々の施設レベルでモニタリングするよりも、施設横断的に確認するほうがリスク発生を察知しやすい場合には、中央モニタリングに移行すべきでしょう。 実地でなくても確認できる内容、たとえば電子的情報収集(Electronic Data Capture、EDC)の入力内容の確認(ページ間の矛盾を含む)や治験スタッフの変更有無の確認などは、電話などによるオフサイトモニタリングで実施すべきでしょう。 また、施設でのプロセスが信頼し得るものであり、いずれにおいても品質を満たしていれば、施設を訪問したところで、その施設が「適切にできていること」を確認するだけとなります。このような場合は、「適切に実施できる施設」として、訪問頻度を減らせば、依頼者・施設ともに、サイトモニタリングにかかる時間や労力を減らせるのではないでしょうか。 RBMを導入した場合、オンサイトモニタリングでの活動内容は、現在実施しているよりも、さらに重要性を増すでしょう。特に下記のケースでは、力を発揮します。

【治験開始前/開始時】 オンサイトモニタリングは治験の準備・開始段階で重点的に行われるべきと考えます。特に施設調査や選定、施設での立ち上げの段階で、依頼者と施設スタッフは十分にコミュニケーションを取り、その「治験実施計画書」レベルのリスクおよび施設におけるリスクの特定と、そのリスクに対する軽減/防止策を作り、治験開始に備えます。 治験開始時のいわゆるスタートアップミーティングでは、その施設における準備が整っているか確認することが一番の目的です。設備や資材だけではなく、治験関係者の治験実施計画書の理解度や、その施設におけるプロセスが周知されているかを確認します。 治験開始直後、なるべく早い段階でオンサイトモニタリングを行います。この段階では、施設レベルおよび試験レベルで予測したリスクおよびそれに対するアクションがうまく機能しているかを、施設で確認することが主要な目的となります。

【中央モニタリングをきっかけにしたTargeted visit】 中央モニタリングでのリスク察知によるTargeted visitでは、その項目によってモニタリング内容を選択すべきでしょう。 たとえば、有害事象(Adverse Event、AE)発生率で他施設と違う傾向を示した場合、その原因を重点的に確認することが重要です。そもそもAEの定義に誤解がないか、報告手順に間違いがないか、適切な被験者が登録されているのか、根本原因(Root Cause)によって取るべきアクションが変わってくるでしょう。 サイトモニタリングでは、施設で実施されたCAPA(Corrective Action/Preventive Action)が適切だったかを評価し、適切でなかった場合は現行のプロセスや考え方を軌道修正する必要があります。 また、施設固有の問題にみえて、実は潜在的な「治験実施計画書」レベルの問題としてスタディーチームで共有すべき内容かもしれません。問題のレベルについて判断することも重要な業務です。

 「オンサイトモニタリングを行わないなんて心配!」と思う前に、心配する必要がなくなるほどに、実施施設との信頼関係を築きましょう。最初のうちは定期的なサイトモニタリングで状況を確認し、心配のいらない実施施設から順にオンサイトモニタリングの頻度を減らしていくアプローチもあります。最終的にどれだけオンサイトモニタリングだけでなくサイトモニタリングのいらない施設が増えたかが、CRAの腕のみせどころではないでしょうか。

Reduced SDV

Q. 100% SDVを実施しなくて症例報告書(Case Report Form、CRF)の質は大丈夫なのでしょうか?Q. Reduced SDVを適用できる施設とはどのような施設ですか?Q. SDVすべき項目をどのようにして特定すれば良いのでしょうか?Q. CRFの中で特定の項目だけを照合するというのは非効率に思えますが、どれくらいの割合で原資料との確認を   すれば良いですか?

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リスクに基づくモニタリング(RBM)の導入上の課題と留意点 第2回(最終回)

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A RBMの目指すところは、プロセスによる質の作り込みであり、究極的には質を担保できるプロセスが機能していれば、CRFのエラーが許容レベル以下に収まる状態が継続している、つまりSDVをしなくてもCRFが一定の品質を保持して

いるという状態が得られます。しかし現実的には、各施設の品質管理プロセスが最適化されるまでにはPDCAのサイクルが何度か回転する必要があると考えます。その間PDCAのCheck段階としてのSDVが有効でしょう。中央モニタリングで引き金を引かれて行うSDV(Targeted SDV)もありますが、PDCAのCheck段階としてのSDVは、リスク・アセスメントをもとにモニタリング計画で計画された頻度で実施されるものになります。 そもそも、100%SDVはなんのために実施しているのでしょうか。エラーを完全に排除したいからでしょうか、それともCRFの記載に漠然とした不安を抱いているからでしょうか。たとえ100%SDVを行ったとしても前者の目的を達するのは不可能です。いたずらに完璧を目指すのはリソースの「浪費」にほかなりません。一方、後者のようにCRFの記載事項全般に不安を感じるようであれば、まず施設の品質管理プロセスを見直す必要があります。 施設内の品質管理プロセスが確立しているとは、CRFデータに限っていえば、施設内の情報の流れが再現できるような記録が残されているということです。たとえば、有害事象では、治験コーディネイター(Clinical Research Coordinator、CRC)が被験者から聴取した自覚症状の記録や臨床検査の結果が判断材料の1つになりますが、医師がCRCの記録や検査伝票を確認したことが記録に残っていれば、自覚症状+臨床検査値+医師の所見→病名の診断→有害事象という情報の流れを追うことができます。 こうしたプロセスが確立されておらず、医師の確認記録がない場合、自覚症状や検査結果とCRFに記載されている有害事象との関連がつかめません。こうした施設では有害事象のCRFへの記載漏れが生じているかもしれません。また、同日の血圧値の記載が2つあっても、片方は通常測定者になっている看護師の記録であり、片方はたまたま看護師の測定値に疑念を抱いた医師の測定値であることが記録されていれば、CRFに記載されたデータの妥当性判断が容易になります。このような原データからCRFデータへの流れを再現できるプロセスが確立していることが重要です。 SDVすべき項目の特定はSDVの効率ともかかわってきますが、あまり区分けを細かくしすぎないのがポイントです。たとえば、バイタルサインの中で、血圧は100%SDVだが脈拍はみなくて良いというのはかえって煩雑になってしまいます。このように関連する項目間ではSDVの割合を同じにしたほうが良いでしょう。ただし、同じ併用薬の中でもハイリスクのものとローリスクのものがあるのであれば、ハイリスクのものは併用の有無をYes/No Questionの形でCRFに記載してもらうといった違いをつけることでSDV時の区別が容易になると思います。 リスクに基づいたReduced SDVが単なるSampling SDVと混同されることがありますが、RBMの場合、治験中は常にPDCAのサイクルが回っています。たとえば、ハイリスクということで100%SDVの対象になった項目(Plan)だが、試験を開始してみたら(Do)、エラーが発生しないことがSDVによりわかった(Check)、つまりリスクがそれほど高くないことが再評価されたので、SDVの割合を20%に変更する(Action)というように、その時点のリスクに応じてモニタリング計画で規定された頻度に変更します。最初に設定したSDVの割合を最後まで変更しないというものではありません。SDVの割合を変化させるとはいえ、5%刻みでというような運用は現実的ではありませんので、中位リスク項目のSDV割合の段階は少数に絞り込んだほうが良いでしょう。ただし、割合をどう設定するかはスポンサーが決定すべきです。

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施設から寄せられる質問

Q. 施設のメリットは何かありますか?Q. 治験責任医師、CRCの役割は変わるのでしょうか?

 治験実施計画書で規定している手順が実施可能か否かは、治験実施施設を選定する際の調査で確認しています。しかし、試験が開始されると施設の普段の業務や診療の手順・習慣と異なる手順に危うく間違えてしまいそうになったという経験をされた方は多いのではないでしょうか。依頼者によって異なる対応が求められ、また、治験実施計画書に特化した複雑な手順や煩雑な手順、未然に問題を防ぐことができたものの、ヒヤリとした経験は誰にでもあるかと思います。  治験で規定された手順をすべて、普段の業務や診療の手順・習慣に則した手順にすることや、すべての依頼者に共通した評価方法や検査手順で実施することはできません。しかしながら、先に挙げたような問題が生じやすい手順を提示されるとともに、問題を未然に防ぐ方法はないかと事前に検討すれば、施設全体として対応を講じることができるようになり、データの質が現場の担当者のスキルに大きく左右されるというリスクを回避することができます。 RBMを実践する最大の利点は、治験実施計画書の要求事項やリスクを熟知しているCRAとの質の作り込み活動の機会を得ることができることです。施設において各個人が経験したヒヤリ・ハットの情報を共有することによって、重大な過失を未然に防止する活動が行われているように、RBMによって依頼者が組織横断的に情報を蓄積・共有することで、問題の発生を未然に防止するシステムを構築することができるようになります。 試験を開始するまでに、各施設の治験環境に適合した、問題が起きることのないシステムの構築が行われ、また、治験責任医師やCRCなどの治験スタッフ、CRA間で重要なデータについての明確な共通認識をもつことができれば、不必要な問い合わせに時間を費やすこともなく、施設におけるリソースを有効に活用することにもつながっていきます。 システムの構築のために治験を行ううえでのリスクの特定、問題が起こらない手順の提案、そして実行は、施設における通常業務や診療の手順・習慣を熟知した治験責任医師やCRCなど、施設スタッフ以外にはできません。つまり、RBMを実践する、しないにかかわらず、治験責任医師、CRCの役割はこれまでと変わることなく、被験者の安全性を守ったうえで、信頼性の高いデータを作っていくことだと思います。

(医薬品評価委員会 データサイエンス部会 根岸 孝博、古野 和城、黒瀬 陽子、篠田 光孝、 杉浦 友雅、高橋 寛明、高橋 博子、村岡 了一)

CRCの面談記録

多院からの情報

医師による医学的判断 (症状あるいは事象名の特定)

(症状あるいは事象名の特定)

医学的判断のカルテへの記録

検査

治療あるいは対処療法

経過観察

Dataentry

Dataentry

医師による医学的判断

医学的判断のカルテへの記録

他科カルテ

PRO

有害事象が起きたら・・・

図3 工程の理解:データはどのように収集されるのか?

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