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1 平成 30 年度 修士論文 コンプトン散乱による劣化した Li イオン2次電池における電極反応の オペランド測定 指導教員 櫻井 浩 教授 群馬大学大学院理工学府 理工学専攻 電子情報・数理教育プログラム 寺阪 歩

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平成 30 年度 修士論文

コンプトン散乱による劣化した

Li イオン2次電池における電極反応の

オペランド測定

指導教員 櫻井 浩 教授

群馬大学大学院理工学府 理工学専攻

電子情報・数理教育プログラム

寺阪 歩

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目次

第 1 章序論 ...............................................................................................................................3

1-1 背景 ................................................................................................................................3

1-2 目的 ................................................................................................................................6

第 2 章原理 ...............................................................................................................................7

2-1コンプトン散乱 ...............................................................................................................7

2-2 コンプトン散乱法の特徴 ............................................................................................ 10

2-3 コンプトンプロファイルのラインシェイプ解析法[12] ............................................. 12

第3章実験 ............................................................................................................................ 16

3-1 コンプトン散乱実験装置 ......................................................................................... 16

3-2 実験方法 ...................................................................................................................... 19

第 4 章 結果・考察 ............................................................................................................. 22

4-1 Fresh 電池の充放電における反応分布 .................................................................... 22

4-2 劣化電池の充放電における反応分布 ....................................................................... 31

4-3 劣化電池におけるエネルギースペクトル解析......................................................... 35

第 5 章 結論 ........................................................................................................................ 40

第 6 章 劣化の要因と課題 .................................................................................................. 40

参考文献 ............................................................................................................................... 41

学会発表 ............................................................................................................................... 43

謝辞 ....................................................................................................................................... 44

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第 1 章序論

1-1 背景

環境汚染が問題になっている中、自動車からの排気ガスは地球温暖化問題に

大きく関わる原因のひとつである。この排気ガスを抑制する方法のひとつとし

て積層型ラミセル、巻き型電池を搭載した電気自動車およびプラグインハイブ

リッド自動車が注目されている。プラグインハイブリッド自動車は Li イオン

二次電池を用いた電力貯蔵用電源として用いられる。

Table1-1 は電気自動車用二次電池ロードマップである。2012 年度末ではエネ

ルギー密度が 60~100 Wh/kg となっているが、将来 2030 年には 500 Wh/kg

になることが期待されている。

Table1-1 二次電池技術開発ロードマップ 2013[1]

実際にトヨタ自動車では、2050 年までにエンジンだけで走る車をゼロにし、

何らかの電動化システムを装備した車に 100%シフトすることを発表している。

そして、本田技研では 2020 年に、PHEV、EV、FCV を年間 35000 台以上、国

内で生産予定である。2030 年には 3 分の 2 以上をxEV に置き換えるとしてお

り、その比率は PHEV と HEV が 50%、FCV と EV を 15%としている。[1]

車載用として Li イオン電池を用いる場合、高い安全性を確保すると共に、電

池を長寿命化し、航続距離伸長を向上させることも重要となる。そのため、Li イ

オン電池の長寿命化には、Li イオン電池内の定量情報を含めた反応分布の把握、

および化学状態の把握が非常に重要となる。そこで、動作中の Li イオン実電池

の反応を非破壊で測定する手法が望まれている。電気自動車やハイブリット自

動車では、大型の Li イオン二次電池が用いられる。しかし、従来、とりわけ大

型 Li イオン電池において、劣化電池の把握には解体分析が用いられてきた。解

体分析では、反応が緩和した状態しか測定できないという問題がある。非破壊測

定では、交流インピーダンス測定を用いた方法が提案されている。しかし交流イ

ンピーダンス測定は電池の平均構造しか得られない。[1]

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LIB の一般的な劣化因子として、

①電池作成時・使用初期において電解質と活物質の反応による副作用で生じる

層の生成、ガス発生

②電池の使用により、電極の活物質層に使用される活物質自身の劣化と減少

③充放電の繰り返しにより、電極の膨張・収縮による劣化

④負極での Li デンドライト生成による正極負極の短絡、界面の劣化

⑤過充電や過放電による活物質の反応量の低下

⑥電解液の酸化還元反応による劣化および反応界面層の劣化

があると言われている。[3]

現在、これを解明するための手法として、X 線吸収微細構造(X-ray absorption

fine structure: XAFS)[4]、核磁気共鳴(Nuclear magnetic resonance: NMR)[5]、

X 線回折(X-ray diffraction: XRD)[6]、粒子線励起ガンマ線/X線放出(Particle

induced -ray/X-ray emission: PIGE/PIXE)元素分析法[7]、ラマン分光(Raman

spectroscopy)[8]、硬 X 線光電子分光法(Hard X-ray photoelectron spectroscopy:

HX-PES)[9]などの多くの手法が用いられている。しかしこれらの手法はせいぜ

い~数 keV の電磁波で測定しているため、実電池を測定するには透過能が足り

ないという欠点がある。一方、中性子線回折[10]は、高い透過能を持つことが特

徴であるが、ビームサイズが絞れず平均的な情報しか得られないといった問題

がある。そこで本研究ではコンプトン散乱法に着目した。

コンプトン散乱法の先行研究[11]により、コンプトン散乱 X 線強度からコイ

ン Li 一次電池の Li 分布の可視化に成功している。これは、コンプトン散乱 X

線強度が物質の電子密度に比例することを利用している。Fig.1-2 にコイン型二

酸化マンガンリチウム電池 CR2023 の透過 X 線像とコンプトン散乱実験から得

られた放電過程のコンプトン散乱強度の反応分布の様子を示す。右の分布図は x

軸に放電時間、y 軸に測定位置、色合いにコンプトン散乱 X 線強度を表してい

る。分布図は放電により、リチウムが正極(二酸化マンガン)へ拡散し、拡散に

よる正極材料の体積膨張に伴いセパレータの位置が負極方向に押し上げられて

いることが観察できる。しかし、コンプトン散乱 X 線強度を用いる方法では、

物質による X 線吸収のために Li 濃度を定量できない。そこで、鈴木らは、コン

プトンプロファイルのラインシェイプから Li 量を定量する手法(S-parameter

解析法)の開発を行っており[12]、市販のコイン型 Li イオン二次電池(VL2020)

の充放電過程における、正極と負極の Li 組成の変化を明らかにしている。なお、

本研究では、S-parameter 解析法を用いて研究を行った。S-parameter 解析法

については、本論文の 2 章で説明する。

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Fig.1-2 コイン型二酸化マンガンリチウム電池の放電過程[10]

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1-2 目的

本研究では、これまでに我々の研究グループで開発した S-parameter 解析法を

市販のコイン型リチウムイオン二次電池(VL2020)に適応した。新品の電池

(Fresh Battery)と劣化させた電池(Fade Battery)を用意し、2つの違いを

非破壊で測定し、電池の劣化原因を明らかにすることを確かめることを目的と

した。

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第 2 章原理

2-1コンプトン散乱12,13,14,15,16,17,18,19,20

コンプトン散乱とは、X線が物質中の電子と衝突することで、衝突後の X 線の

エネルギーが小さくなる非弾性散乱現象である。

Fig.2-1-1 コンプトン散乱概略図

Fig. 2-1-1 に、コンプトン散乱の概念図を示す。X 線光子と電子との散乱におい

て、式(2-1-1)で表されるエネルギー保存則と式(2-1-2)で表される運動量保存則

が成り立つ。

ℏ𝜔1 + 𝐸1 = ℏ𝜔2 + 𝐸2 (2-1-1)

ℏ𝒌1 + 𝒑1 = ℏ𝒌2 + 𝒑2 (2-1-2)

式(2-1-1)と式(2-1-2)において、ℏ𝜔は X 線光子のエネルギー、ℏ𝐤は X 線光子の運

動量を表す。また、E は電子のエネルギー、p は電子の運動量を表す。下付きの

1 と 2 は、散乱の前、および、散乱の後を表す。ここで、電子のエネルギーを運

動エネルギーとポテンシャルエネルギーに分けると式(2-1-3)で表すことができ

る。

𝐸𝑖 =𝒑𝑖

2

2𝑚+ 𝑈𝑖 𝑖 = 1,2 (2-1-3)

ここで、ポテンシャルエネルギー𝑈𝑖は、散乱電子以外の全電子と原子核によっ

て作られる。光子と電子の散乱が瞬時に起こり、電子群が緩和する前に散乱が

終了すると仮定すると、式(2-1-4)が成り立つ。

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𝑈1 = 𝑈2 (2-1-4)

式(2-1-4)はインパルス近似といわれている。式(2-1-1)から(2-1-4)を用いて散

乱後の光子エネルギーℏ𝜔2を導くと式(2-1-5)が得られる。

ℏ𝜔2 = ℏ𝜔1 −ℏ2|𝑲2|

2𝑚+

ℏ𝑲⋅𝑝1

2𝑚 (2-1-5)

ここで、K(=𝐤1 − 𝐤2)は X 線の散乱ベクトルである。散乱前の X 線エネルギー

ℏ𝜔1と散乱角(すなわち散乱ベクトル K)は一定値であるので、第1項と第2

項は定数になる。一方、第3項では散乱前の電子の運動量と散乱ベクトルの内積

𝐊・𝐩1が含まれているため、散乱後の X 線のエネルギーは、電子の運動量の散乱

ベクトル方向への射影に依存する。物質中にはアボガドロ数程度(~1023)の電

子が、それぞれの運動量を持って運動しているので、コンプトン散乱を繰り返し、

測定して得られた X 線エネルギースペクトル I(ℏ𝜔2)は、電子の運動量分布を

反映して、幅を持つようになる。

さて、式(2-1-5)で与えられるエネルギーを持つ散乱 X 線光子を立体角𝑑Ωで観

測できる割合は微分散乱断面積𝑑2𝜎

𝑑Ω𝑑𝜔2で与えられ、式(2-1-6)で表される。

𝑑2𝜎

𝑑Ω𝑑𝜔2= (

𝑑𝜎

𝑑Ω)

𝑇ℎ

ℏ𝜔2

ℏ𝜔1∑ ∑ |⟨𝑓|∑ exp (𝑖𝑲 ∙ 𝒓𝑗)𝑗 |𝑖⟩|

2𝛿(𝐸2 − 𝐸1 + ℏ𝜔2 − ℏ𝜔1)𝑓𝑖 (2-1-6)

ここで、(𝑑𝜎

𝑑Ω)

𝑇ℎは、トムソン散乱の断面積、𝒓𝑗は j 番目の電子の座標、⟨𝑓|は、散

乱前の電子の状態を表し、|𝑖⟩は散乱後の電子の状態を表す。さらに、トムソン散

乱における微分断面積(𝑑𝜎

𝑑Ω)

𝑇ℎは、式(2-1-7)と書き下すことができる。

(𝑑𝜎

𝑑Ω)

𝑇ℎ= 𝑟0

2(휀1̂ ∙ 휀2̂)2 (𝐸2

𝐸1) (2-1-7)

ここで、𝑟0は電子の古典半径、휀1̂、휀2̂は偏光ベクトルである。コンプトン散乱実

験はインパルス近似が成り立つ条件下で行われる。そのとき、式(2-1-6)の微分散

乱断面積は、式(2-1-8)のように単純な形式で表せる。

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𝑑2𝜎

𝑑Ω𝑑𝜔2= 𝐹(𝜔1, 𝜔2, 𝒌1, 𝒌2, 𝜃, 𝑝𝑧) ∙ 𝐽(𝑝𝑧) (2-1-8)

F は Ribberfors によって与えられる関数である[21]。J(pz)は、コンプトンプロ

ファイルである。𝑝𝑧は z 方向の電子の運動量であり、z 方向は散乱ベクトルと平

行にとる。このとき𝑝𝑧は、式(2-1-9)で表される。

𝑝𝑧 =𝐸2−𝐸1+(

𝐸1𝐸2𝑚𝑐2 )(1−cos 𝜃)

√𝐸12+𝐸2

2−2𝐸1𝐸2𝑐𝑜𝑠𝜃

×1

𝑎 (2-1-9)

ここで、mc2は、電子の静止質量エネルギー(511 keV)であり、1/は、微細構

造定数(137.04)である。

式(2-1-8)における J(pz)は、コンプトンプロファイルと呼ばれ、結晶内電子の

運動量分布 n(p)の散乱ベクトルを一次元に投影したものとして式(2-1-10)で定

義される。

𝐽(𝑝𝑧) = ∬ 𝑛(𝐩)𝑑𝑝𝑥𝑑𝑝𝑦 (2-1-10)

ここで、p=(px, py, pz)は、電子の運動量である。n(p)は、式(2-1-11)、および、式

(2-1-12)で表される。

𝑛(𝐩) = |𝜌(𝐩)|2 (2-1-11)

𝜌(𝐩) = ∑ 𝑛𝑗|∫ Ψ𝑗(𝐫)𝑒𝑥𝑝(𝑖𝐩 ∙ 𝐫) 𝑑𝐫|𝑗 (2-1-12)

ここで、(r)は、実空間での電子の波動関数であり、(p)は、運動量空間におけ

る電子の波動関数である。n は電子の占有数、添え字の j は j 番目の電子を表す。

式(2-1-11)、(2-1-12)より、コンプトンプロファイルは電子の波動関数と直結した

物理量であり、コンプトンプロファイルのラインシェイプは、電子軌道を散乱ベ

クトル方向に射影したラインシェイプとなる。そのため、コンプトンプロファイ

ルは、元素によってそれぞれ異なったラインシェイプをもち、ラインシェイプを

解析することで元素の定量が行える。

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2-2 コンプトン散乱法の特徴

コンプトン散乱法の特徴は、主に以下の二点がある。

(1) 入射 X 線に 100 keV 以上の高エネルギーの X 線を使用する。

高エネルギーX 線は、高い物質透過能を持つ。Fig. 2-2-1 に National Institute

of Standards and Technology (NIST)のデータベース[22]より得られた X 線エ

ネルギーに対するステンレス(SUS)の質量吸収係数を示す。今回、SUS として

Fe0.74Cr0.18Ni0.08合金を仮定した。

Fig. 2-2-1. X 線のエネルギーに対する SUS の質量吸収係数

Fig. 2-2-1 より、X 線のエネルギーが 20 keV のときの質量吸収係数は 25.3 cm2/g

であるのに対し、100 keV の X 線を用いると、質量吸収係数は 0.368 cm2/g と

なり、2 桁小さな値となる。ここで、X 線の物質への侵入深さ t は、吸収係数の

逆数となる。Fe0.74Cr0.18Ni0.08合金の密度を 8 g/cm3と仮定すると 100 keV の X

線で、t = 3.4mm となり、十分に電池ケースとして用いられる SUS を透過し内

部の状態を測定することが可能となる。

(2) コンプトンプロファイルの形状が物質により異なる。

Fig. 2-2-2 に原子モデル計算[23]から得られた Li 原子、Mn 原子、O 原子のコン

プトンプロファイルを示す。Li 原子は小さな半値幅をもつプロファイルである

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のに対し、Mn 原子は大きな半値幅をもつプロファイルとなる。そのため、この

プロファイルの形状の違いを数値化することで原理的に物質を定量することが

可能となる。

Fig.2-2-2 原子モデル計算[文献]から得られた Li 原子(青線)、Mn 原子(緑

線)、O 原子(赤線)のコンプトンプロファイル

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2-3 コンプトンプロファイルのラインシェイプ解析法[12]

(S パラメータ解析法)

コンプトンプロファイルのラインシェイプから、元素を定量する方法について

説明する。本手法を S パラメータ解析法と呼ぶ。Fig. 2-2-2 に示すように、コン

プトンプロファイルは運動量 pz = 0 atomic unit (原子単位, a.u.) のところにピ

ークを持ち、pz = 0 a.u を中心に左右対称となる。また、同一物質中において Li

量のみが変化した場合のコンプトンプロファイルを Fig. 2-3-1 に示す。

Fig. 2-3-1. 原子モデル計算から得られた LixMnO2 (x=0, 0.2, 0.4, 0.6, 0.8, 1)の

コンプトンプロファイル

Fig. 2-3-1 は、原子モデル計算により得られた LixMnO2 (x = 0, 0.2, 0.4, 0.6, 0.8,

1)のコンプトンプロファイルで pz > 0 a.u.の部分である。Li 量の違いは、pz = 0

a.u.付近に顕著に表れることがわかる。そこで、S-parameter を式(2-2-1)で定義

する。

S =𝐻

𝑊 (2-2-1)

ここで、H は、コンプトンプロファイルの中央の面積であり、W はコンプトン

プロファイルの裾野面積である(Fig. 2-3-2)。H と W はさらに式(2-2-2)と式(2-

2-3)のように書き表すことができる。

H=∫ 𝐽(𝑝𝑧)𝑝𝑧𝑑3

𝑑2 (2-2-2)

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

0 2 4 6 8 10

J(p

z)(a

.u.-1

)

pz(a.u.)MnO2 Li0.2MnO2 Li0.4MnO2Li0.6MnO2 Li0.8MnO2 LiMnO2

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W = ∫ 𝐽(𝑝𝑧)𝑝𝑧𝑑2

𝑑1+ ∫ 𝐽(𝑝𝑧)𝑝𝑧

𝑑4

𝑑3 (2-2-3)

Fig. 2-3-2 S-parameter の原理図

この時の d2、d3 の値は Li の寄与の有無についての境界で決まる。d2 と d3 の

決め方について述べる。Fig. 2-3-1 において、運動量 pz = 2 a.u. に着目すると、

pz = 2 a.u. を境界に pz < 2 ではコンプトンプロファイル J(pz)の値が異なる

が、pz ≧ 2 では値が等しくなっていることがわかる。また、コンプトンプロフ

ァイル J(pz)の値が大きく変化しているのは pz ≦ 1 であることがわかる。こ

こから、リチウムの寄与の有無についての境界を決める d2、d3 の値は 2 以下で

あればよいと考えられる。

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Fig. 2-3-3.原子モデルのコンプトンプロファイル

Fig.2-3-3 はリチウムの原子モデルのコンプトンプロファイルである。このコン

プトンプロファイルの運動量 pz に着目すると、およそ pz = -1 ~ +1 a.u. の範囲

でコンプトンプロファイルの値が大きく変化していることがわかる。また、リチ

ウムのコンプトンプロファイルがおよそ pz = -5 ~ +5 a.u. の範囲に存在してい

ることがわかる。ここで、化学結合に伴うリチウムの運動量変化を考慮して S-

parameter の d2、d3 の値を d2 = d3 = 1 a.u.に、d1、d4 の値を d1 = d4 = 5a.u.

に設定する。

Fig.2-1-4 に実験から得られた LixMnO2 (x=0.5,1.1,12)のコンプトンプロファ

イルを示す。Li 量が多くなるにつれてコンプトンプロファイルのピークが高く

なることがわかる。さらに、Fig.2-3-4 に化学的に Li 量を変えた LixMn2O4を使

用して S-parameter 解析法から求めた S-parameter と LixMn2O4のリチウム濃

度の関係を示した。青点は Hartree-Fock 法による理論計算、緑点は KKR-CPA

法(バンド計算)による理論計算、黄点は DFT(密度汎関数法)による理論計算、赤

点が実験から得られた S-parameter である。ここから、実験結果の S-parameter

とリチウム濃度は線形関係にあるということが確認できた。また、理論計算から

求めた S-parameter とリチウム濃度も線形関係を再現することがわかった。よ

って、以後 S-parameter 解析を使用していく。

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Fig. 2-3-4 .S-parameter と LixMnO2のリチウム濃度の関係

Fig.2-3-5 実験から得られた LixMn2O4(x=0.5,1.1,12)の

コンプトンプロファイル

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第3章実験

3-1 コンプトン散乱実験装置

コンプトン散乱実験は、兵庫県の播磨科学公園都市内にある大型放射光施設

SPring-8 の BL08W のステーション A にて行った。BL08W は 100 ~ 120 keV

および 180 ~ 300 keV のエネルギー範囲の直線偏光あるいは楕円偏光された

X 線を利用でき、コンプトン散乱法、および、磁気コンプトン散乱法を行うこと

ができる。コンプトン散乱法は、物質のフェルミ面に関する研究に広く適用され、

磁気コンプトン散乱は、磁性体の磁気特性に関する研究に広く利用されている。

Fig.3-1-1 に実験装置配置図、Fig.3-1-2 に実験装置概略図を示した。115.56

keV の直線偏光 X 線を試料に入射した。スリットの大きさは、縦 20μm×横 500

μm である。散乱角を 90 度とし、散乱 X 線はコリメータを通り、9 素子の Ge

半導体検出器で検出した。コリメータの径は 500μm である。測定局所領域は、

「入射 X 線ビームサイズ」と「X 線検出器がピンホールを通して見込む領域」

の交差部分となる。測定場所は、試料の後方に配置された X 線カメラを用いて、

電池の内部構造の X 線透過像からおおよその位置を決め、その後、入射 X 線に

対し試料を走査しながらコンプトン散乱強度を測定することで定めた。

Fig.3-1-1 実験装置図

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Fig.3-1-2 実験装置概略図

試料は Fig.3-1-3 に示したコイン型リチウムイオン二次電池(VL2020 パナソ

ニック製)を使用した。Table3-1-1 に VL2020 の仕様を示す。正極材料は

𝑉2𝑂5(0.7~0.8𝑚𝑚),負極材料は LiAl(0.3~0.4mm)、電解液は、ジメトキシエタン

である。電池の直径は 20mm、厚さは 2mm である。公称容量は 20mAh であ

り、これをもとに充放電を行った。Fig.3-1-4 に VL2020 の内部構造を示す。(a)

に X 線透過像、(b)模式図(c)電池分解図である。

Fig.3-1-3 コイン型リチウムイオン二次電池 VL2020(Panasonic 製)

Table3-1-1 コイン型リチウムイオン二次電池 VL2020 仕様

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(a)

(b)

(c)

Fig.3-1-4 コイン型リチウムイオン二次電池 VL2020 の内部構造

(a)X 線透過像,(b)断面模式図,(c)電池分解後

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3-2 実験方法

●充放電中のリチウムイオン二次電池測定

Fig.3-2-1 に実験で行った SOC-Time グラフを示した。SOC とは State Of

Charge の略で、電池の充電状態を表している。SOC0 が完全放電、SOC100 が

満充電を意味している。1 回目は Fresh 電池で充放電を行ない、2回目では Fade

電池で充放電を行った。Fade 電池は 1C レートで 70 回充放電を繰り返し劣化

させた。ここで C とは充放電の速さのことである。1C レートとは 1 時間で満充

電になる充電である。今回使用したコイン型リチウムイオン2次電池(VL2020)

は公称容量 20 mAh なので、1C レートでは 20mA を 1 時間定電流充放電した。

0.2 C レートでは 4mA を 5 時間で定電流充放電をした。測定は各充電、放電後

に行い、合計4回測定をした。測定したデータを測定した順に①FreshSOC0、

②FreshSOC100、③FadeSOC0、④FadeSOC100 と仮称した。測定位置を Fig.3-

2-1 に示す。Fig.3-2-2 は、試料を真上から見た図であり、試料上の奥行き 10 mm、

横方向 10 mm の赤点の位置を x=0,y=0 と置いた。負極の端を z=0 とおいた。

0.2C レートで定電流・定電圧充電した後、測定した。①,②においては、x 方向

には+x 方向に 0.5mm 刻みで 5 点を測定、-x 方向にも同様に 5 点、x=0 の点と

合計して 11 点測定した。また、そのそれぞれ点から z 方向に 0.02mm 刻みで

41 点、計 451 点測定した。また、1 点あたりの測定時間 30 (sec/point)とした。

次に③,④においては、x 方向には+x 方向に 0.5mm 刻みで 5 点を測定、-x 方

向にも同様に 5 点、x=0 の点と合計して 11 点測定した。また、そのそれぞれ点

から z 方向に 0.02mm 刻みで 51 点、計 561 点測定した。Fig.3-2-3 は、試料を

真横から見た断面図であり、赤い範囲は X 線を照射した部分を表している。尚、

充放電をする際にはすべて Electrochemical Measurement System HZ-7000

(Fig3-2-4 北斗電工製)を用いた。

Page 20: コンプトン散乱による劣化した...HX-PES)[9]などの多くの手法が用いられている。しかしこれらの手法はせいぜ い~数keV の電磁波で測定しているため、実電池を測定するには透過能が足り

20

Fig3-2-1 測定位置(トップビュー)

Fig3-2-2 測定位置(サイドビュー)

Fig3-2-3.全体部分測定

Page 21: コンプトン散乱による劣化した...HX-PES)[9]などの多くの手法が用いられている。しかしこれらの手法はせいぜ い~数keV の電磁波で測定しているため、実電池を測定するには透過能が足り

21

Fig.3-2-4 Electrochemical Measurement System HZ-7000(北斗電工製)

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22

第 4 章 結果・考察

4-1 Fresh 電池の充放電における反応分布

Fresh 電池について S パラメータ解析法を適用し、SOC0・SOC100 の状態で

内部の反応分布を調べた。その結果が Fig4-1-1 である。

Fig4-1-1 Fresh 電池の S パラメータ分布

充放電により、正極は放電時、電極内部で S パラメータが大きくなる。

負極は、充電時、表面付近で S パラメータが大きくなり、セパレータが上昇す

る。

次に、Xposition=0 ㎜の縦軸:S パラメータ 横軸:Zposition(mm)のグラフ

を Fig4-1-2 に示す。

Fig4-1-2 X=0 ㎜の SOC0 と SOC100 比較

0.8

0.6

0.4

0.2

0.0-2.5 -1.5 -0.5 0.5 1.5 -2.5

Horizontal position, x, (mm)

Ve

rtic

alp

ositio

n, z, (m

m)

完全放電状態(SOC0)

0.8

0.6

0.4

0.2

0.0-2.5 -1.5 -0.5 0.5 1.5 -2.5

Horizontal position, x, (mm)

Ve

rtic

alp

ositio

n, z, (m

m) 2.05

1.98

1.91

1.83

1.76

1.69

1.61

1.54

1.47

1.39

1.32

1.25

1.17

1.10

2.20

2.13

S パラメ

ータの大

きさ

完全充電状態(SOC100)

正極

セパレータ

負極

0 0.2 0.4 0.6 0.81

2

3

Zposition(mm)

Sparameter

セパレータ

正極

負極

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Fig4-2-2 より、断面的にもセパレータが充放電によってずれていることがわか

る。Zposition=0.2 ㎜付近の S パラメータの高い部分はすきまであり、中央の

赤い部分はセパレータだと考えられるが、実際にコンプトンプロファイルの形

を比較することで、正極・負極と異なることを確かめるために X 線強度とエネ

ルギーによるグラフを作成し、Fig4-1-3 に示す。

Fig4-1-3 各エネルギースペクトルの形の違い

Fig4-2-3 から、セパレータのスペクトルは正極・負極比べてやや細くとがった

形をしている。すきま(スペース)は X 線強度が低く、やや細い形をしている。

このことから、物質そのものが異なることが確認できる。

Fresh 電池の SOC0 と SOC100 のセパレータの位置がずれている。正極・負

極・セパレータを直接比較するため、位置補正を行った。

90 95 100

0

0.1

0.2

0.3

0.4セパレータ

正極

負極

スペース

エネルギー(KeV)

X 線強度

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24

新品のリチウム電池における完全充電時(SOC100)および完全放電時(SOC0)

の Sパラメータ分布図より、充放電に伴う電極の膨張・収縮により、セパレータ

の位置が変化することがわかった。そこで、正極ならびに負極の充放電によるリ

チウム量の変化を明らかにするために、セパレータの位置を補正した。セパレー

タ位置の補正方法は、以前の鈴木らの論文[26]を参考とした。ここでは、新品電

池の x = 2.5 mmにおける補正方法について説明する。

Fig4-1-4にセパレータ位置を補正する前の新品電池の x = 2.5 mm位置にお

ける完全充電状態(SOC100)と完全放電状態(SOC0)の Sパラメータを示す。

Fig4-1-4において、青色の丸は SOC100 の S パラメータの結果であり、赤色の丸

は SOC0の Sパラメータの結果である。横軸はリチウム電池の高さ方向の位置(z)

である。ここで、SOC100の結果において、z > 0.7 mmが正極、0.38 mm < z <

0.68 mm がセパレータ、0.16 mm < z < 0.34 mmが負極に対応する。Fig4-1-4よ

り、SOC0から SOC100にすることで負極が膨張し、セパレータ位置が正極側に移

動することがわかる。実際に、正極材料の体積膨張率は V2O5 から Li0.5V2O5 で

2.2%[27]であり、負極材料の体積膨張率は Al から LiAlで 95%[28]である。そこ

で、SOC0 の負極部分のみが z 方向に伸長することを考慮し、以下の補正式を用

いた。

𝑧𝑐 = 𝑙𝑧𝑖2 (1)

0 0.2 0.4 0.6 0.81

1.5

2

2.5

3

3.5

SOC100SOC0

Fig4-1-4 補正前 X=2.5mm

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25

ここで、zcは補正後の電池の z 位置であり、ziは補正前の電池の z 位置を表す。

lは電極の z方向への伸び率に対応する変数である。新品電池の x = 2.5 mmで

は、0.24 mm < zi < 0.3 mmの範囲とした。l を 3.36から 3.41まで変化させ、

SOC100の負極とセパレータの界面(0.34 mm < z < 0.4 mm)に SOC0の負極とセ

パレータの界面が最も合うような l を、Fig4-1-5 に示すように残差の二乗和を

とった。

Fig4-1-5 において、点線は二次関数によるフィッティングであり y=5.8131l2-

39.352 l +66.605となった。これより残差の二乗和が最小となる lは 3.385で

あることがわかった。そこで、l=3.385 を用いて(1)式により補正した結果を

Fig4-1-6に示す。

3.35 3.36 3.37 3.38 3.39 3.4 3.41 3.42

l

5

6

7

8

910

-3

y = 5.8131*l2 - 39.352*l + 66.605

Fig4-1-5 残差の二乗和

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Fig4-1-6 より SOC100 と SCO0 のセパレータ位置が概ね一致しており補正が出来

ていることがわかる。上記の方法を用いて-2.5 mm < x < 2.0 mmについても同

様にセパレータ位置の補正を行なった。

Fresh 電池の SOC0 と SOC100 の正極・負極の S パラメータの変化を見るた

め、セパレータの位置を補正した結果を Fig4-1-7 に示す。

0 0.2 0.4 0.6 0.81

1.5

2

2.5

3

3.5

SOC100SOC0

Fig4-1-6 補正後の結果

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Fig4-1-7 セパレータの位置補正後

次に Fade 電池の SOC100-SOC0 の結果を Fig4-1-8 に示す。

Fig4-1-8 Fresh 電池 SOC100-SOC0

正極

セパレータ

負極

0.22

0.18

0.14

0.10

0.06

0.02

-0.02

-0.06

-0.10

-0.14

-0.18

-0.22

-0.26

-0.30

0.30

0.26

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28

表 4-1 正極・負極の S パラメータ平均値の SOC0 と SOC100 の変化量

完全充電状態 完全放電状態 変化量(%)

正極 1.784 1.806 -1.229

負極 1.548 1.501 3.150

Fresh 電池 SOC0 と SOC100 の正極・負極における S パラメータの平均値を

とり、変化量を上表にまとめる。

充放電に対応した S パラメータの変化を観測することができた。

鈴木らの先行研究により電極材料と S-parameter から Li の濃度が割り出せ

る。Li 濃度を比較することでより詳しく変化を調べることができる。Biggs の

データベースを用いて、正極 V2O5・Li0.25V2O5・Li0.5V2O5・Li0.75V2O5・

LiV2O5のコンプトンプロファイルを計算し、S パラメータを逆算した。実験と

合わせるために、以前 ICP 測定で得られた、SOC100 の正極の Li 量と今回実

験で得られた SOC100 の正極の S パラメータで規格化した。

その検量線を Fig4-1-9 に示す。

Fig4-1-9 正極の Sparameter 変換式

y = 26.49802 x - 47.18645

-0.2

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.77 1.78 1.79 1.8 1.81 1.82 1.83

Con

cen

trate

Sparameter

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29

Biggs のデータベースを用いて、負極 Al・Li0.25Al・Li0.5Al・Li0.75Al・LiAl の

コンプトンプロファイルを計算し、S パラメータを逆算した。実験と合わせる

ために、以前 ICP 測定で得られた、SOC0 の負極の Li 量と今回実験で得られ

た SOC0 の負極の S パラメータで規格化した。

その検量線を Fig4-1-10 に示す。

Fig4-1-10 負極の Sparameter 変換式

y = 4.67140 x - 6.96723

-0.2

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.45 1.5 1.55 1.6 1.65 1.7 1.75

Co

nce

ntr

ate

Sparameter

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Fresh 電池の正極・負極の各 SOC0/SOC100 の S パラメータをリチウム濃度に

変換した値を下図にまとめる。

表 4-2 FreshSOC0・SOC100 の正極 リチウム濃度変換後

正極 Sparameter Li Concentrate

FreshSOC0 1.8065 0.682

FreshSOC100 1.7843 0.124

表 4-3 FreshSOC0・SOC100 の負極 リチウム濃度変換後

負極 Sparameter Li Concentrate

FreshSOC0 1.5015 0.046

FreshSOC100 1.5483 0.2657

Fresh 電池は、変換後の Li 濃度の値を正極は SOC100 で規格化を行い、負極

は SOC0 で規格化を行い、補正した。その結果が以下の通りである。

表 4-4 FreshSOC0/SOC100 規格化後 正極 負極

Li 濃度 規格化後 Li 濃度 規格後

FreshSOC0 0.682 5.5 0.046 1

FreshSOC100 0.124 1 0.2657 5.7

充放電において、補正後の値が正極で 5.5 から 1 に減少 負極で 1 から 5.7 に

増加したことから、Li 濃度からも充放電の様子を確かめられた。

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4-2 劣化電池の充放電における反応分布

劣化電池(Fade 電池)について S パラメータ解析法を適用し、SOC0・SOC100

の状態で内部の反応分布を調べた。その結果が Fig4-2-1 である。

Fig4-2-1 Fade 電池の反応分布

Fig4-2-1 から、SOC0・SOC100 ともに S パラメータの変化がないようにみえ

る。

次に Fade 電池の S パラメータの変化量を詳しくみるために、SOC100-SOC0

をした結果を Fig4-2-2 に示す。

Fig4-2-2 Fade 電池 SOC100-SOC0

1.0

0.8

0.6

0.2

0.0Ve

rtic

alp

ositio

n, z, (m

m)

0.4

-2.5 -1.5 -0.5 0.5 1.5 -2.5

Horizontal position, x, (mm)

0.22

0.18

0.14

0.10

0.06

0.02

-0.02

-0.06

-0.10

-0.14

-0.18

-0.22

-0.26

-0.30

0.30

0.26

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表 4-5 劣化電池の正極・負極の S パラメータ平均値の変化量

完全充電状態 完全放電状態 変化量(%)

正極 1.8075 1.8070 0.027

負極 1.5392 1.5405 -0.084

表 4-5 と Fig4-2-2 から正極・負極にほとんど変化がないことから、充放電にお

ける S パラメータの変化はないといえる。

Fresh 電池と同様に検量線を用いて、Fade 電池の S パラメータの平均値を Li

濃度に変換した。

そして、変換後の Li 濃度の値を正極は SOC100 で規格化を行い、負極は

SOC0 で規格化を行い、補正した。その結果を表 4-6 に示す。

表 4-6 劣化電池 Li 濃度と規格化後

正極 負極

Li 濃度 規格化後 Li 濃度 規格化後

FadeSOC0 0.708 1.12 0.041 1.00

FadeSOC100 0.695 1.00 0.046 1.12

Fade 電池の場合、リチウム濃度変化が微量、ほぼ 0 に近い値になることか

ら、充放電は行われていなく、電池として機能を失っていた。

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次に電池の内部構造を検証するため、Fade 電池の反応分布の変化と Fresh 電

池の反応分布の変化を比較し、Fig4-2-3 に示す。

Fig4-2-3 Fresh 電池と Fade 電池反応分布の変化比較

負極では、劣化電池で電極が z 方向に 2 倍膨張しセパレータが 2 倍収縮したこ

とがわかる。これは、電極の膨張が劣化につながったと考えられる。

正極では、劣化電池のセパレータ-正極界面に S パラメータが高い領域があ

る。

セパレータ-正極界面の S パラメータが高い領域がどの程度 S パラメータが高

いのか Xposition=0mm を基準に S パラメータと Zposition(mm)のグラフを

Fig4-2-4 に示す。

Fig4-2-4 X=0 での Fade 電池

1.0

0.8

0.6

0.2

0.0Ve

rtic

alp

ositio

n, z, (m

m)

0.4

-2.5 -1.5 -0.5 0.5 1.5 -2.5

Horizontal position, x, (mm)

Fresh電池 劣化電池

セパレータ

正極

負極

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

2

3

4

Zposition(mm)

Sparam

eter

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Fig4-2-4 から、FadeSOC0 と SOC100 の S パラメータが重なっていることか

ら、ほとんど充放電における変化はないことがわかる。

Zposition=0.75mm 近傍の S パラメータが極端に高い部分に注目した。S パラ

メータの値が正極に比べて約 2 倍、セパレータに比べて約 1.5 倍高く、電池の

劣化によって新たな構造が形成された可能性がある。

そこで、エネルギースペクトル解析を行うことでラインシェイプの形や高さの

違いから元素を定量化することにした。

理論値に関しては CRYSTAL14 というソフトを用いて計算した。

CRYSTAL14 とは、バンド計算ソフトであり、Hartree-Fock 法、密度汎関数法

を用いることでコンプトンプロファイル、状態密度、電子密度などを求めること

が可能である。

今回は劣化電池の正極や LiV2O5 のコンプトンプロファイルの理論値と実験値

を比較した。

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4-3 劣化電池におけるエネルギースペクトル解析

Fade 電池の S パラメータ値が極端に高い部分の解明のために、エネルギースペ

クトル解析を行った。Fade 電池の実験値と CRYSTAL14 を用いた理論値との

比較,そして new structure と Fade 電池の正極・負極との比較をした。

実験値の S パラメータの高い部分を new structure と呼ぶ。

第一原理計算コード CRYSTAL14 により、V2O5 と LiV2O5 のコンプトンプロフ

ァイルを計算し、未劣化電池のリチウム量におけるコンプトンプロファイルを

推定した。

その式は以下のとおりである。

まず、Fresh 電池の SOC100 での正極のコンプトンプロファイルと

CRYSTAL14 で求めた Li0.124V2O5の理論値を Fig4-3-1 に示す。

Fig4-3-1 SOC100 の正極と理論値のコンプトンプロファイル

正極の Li 濃度 0.124 と CRYSTAL14 で求めた Li0.124V2O5の理論値が重なるこ

とがわかる。

x: リチウム組成/ JVO

(pz): V

2O

5のコンプトンプロファイル /J

LVO(pz): LiV

2O

5のコンプトンプロファイル

1.06 は J(Pz)を導出するための係数である。

Jxpz( )= 1- x( )× JVO pz( )+ x × JLVO pz( )é

ëùû´1.06

-6 -4 -2 0 2 4 6

pz (a.u.)

0

0.05

0.15

0.25

0.35

Norm

ari

zed

inte

nsity

Exp.: SOC100

Theo.

Li0.124

V2O

5

(式 4-3-1)

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次に Fresh 電池の SOC0 での正極のコンプトンプロファイルと CRYSTAL14

で求めた Li0.682V2O5の理論値を Fig4-3-2 に示す。

Fig4-3-2 SOC0 の正極と理論値のコンプトンプロファイル

正極の Li 濃度 0.682 と CRYSTAL14 で求めた Li0.682V2O5の理論値が重なるこ

とがわかる。

Fig4-3-1 と Fig4-3-2 から、実験のコンプトン散乱エネルギースペクトルを再

現することを確認した。

続いて、劣化電池のエネルギースペクトル解析を行った。

正極とセパレータが高い部分に着目して、解析を行った。

-6 -4 -2 0 2 4 6

pz (a.u.)

0

0.05

0.15

0.25

0.35N

orm

ari

ze

d inte

nsity

Exp.: SOC0Theo.

Li0.682

V2O

5

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Fig4-3-3 X=0 劣化電池

赤く囲った部分(正極)のエネルギースペクトルを積算し、フィッティングに

よりリチウム量を決めた。その結果を Fig4-3-4 に示す。

Fig4-3-4 劣化電池の正極と理論値の比較

フィッティングを行った結果、X=0.68 のコンプトンプロファイルと一致し

た。

S パラメータから決めた Li 量 X=0.708 とおおむね一致した。

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

Vertical position, z, (mm)

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

S-p

ara

me

ter

-6 -4 -2 0 2 4 6

pz (a.u.)

0

0.05

0.15

0.25

0.35

Norm

ari

zed

inte

nsity Theo.

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次に S パラメータの高い部分に対してエネルギースペクトル解析を行った。

Fig4-3-5 X=0 劣化電池

赤い部分で囲った劣化電池の新たな構造のスペクトルを積算し、LiV2O5 のコ

ンプトンプロファイルと比較した。

結果を Fig4-3-6 に示す。

Fig4-3-6 新しい構造と LiV2O5 の比較

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

Vertical position, z, (mm)

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

S-p

ara

me

ter

-6 -4 -2 0 2 4 6

pz (a.u.)

0

0.05

0.15

0.25

0.35

0.45

No

rmarize

d in

ten

sity

EXP.Theo.:x=1

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Fig4-3-6 から新たな構造と LiV2O5 のコンプトンプロファイルを比較した結

果、スペクトルの形が合わなかった。

LiV2O5のコンプトンプロファイルでも再現できず、リチウム過剰な化合物であ

ることが示唆される。

これは、正極-セパレータ界面の活物質自身の変化が原因ではないかと考えられ

る。

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40

第 5 章 結論

Fresh 電池と Fade 電池、どちらも SOC100-SOC0 をし、S-パラメータの差を

求めた。

〇Fresh 電池では、SOC100 から SOC0 を引いた結果から、負極に S パラメー

タが高いところがみられ、Sパラメータから充放電に伴う Li 量の変化を観測

した。一方、Fade 電池では、充放電に伴う Li 量の変化は見られなかった。

(Fade 電池では、負極が膨張し、セパレータが薄くなることが分かった。)

〇Fade 電池の正極-セパレータ界面の S パラメータが高い部分を明らかにする

ため、エネルギースペクトル解析を行った結果、Li 過剰な化合物ができている

ことがわかった。

第 6 章 劣化の要因と課題

②電池の使用により、電極の活物質層に使用される活物質自身の劣化と減少

③充放電の繰り返しにより、電極の膨張・収縮による劣化

⑥電解液の酸化還元反応による劣化および反応界面層の劣化

に今回の電池の劣化の原因は当てはまると考えられる。

劣化の原因は 1 つからはなっておらず、複数の要因からなることも分かった。

今後は、Fade 電池の正極-セパレータ界面にある S パラメータの高い部分が何

であるのか、解体分析を行う。

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41

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Chem., 39, 1808-1813 (1994).

[28]J. Morales, R. Trocoli, S. Franger and J. Santos-Pena, Electrochem.

Acta., 55, 3075-3082 (2010).

Page 43: コンプトン散乱による劣化した...HX-PES)[9]などの多くの手法が用いられている。しかしこれらの手法はせいぜ い~数keV の電磁波で測定しているため、実電池を測定するには透過能が足り

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学会発表

Operand measurement of reaction distribution in degraded battery by using

Compton scattering imaging

A.Terasaka ,K.Suzuki ,D.Hiramoto ,N.Tsuji ,Y.Orikasa ,Y.Uchimoto ,Y.Sakur

ai and H.Sakurai

Department of Electronics and Informatics, Gunma University, Japan

Japan Synchrotron Radiation Research Institute, SPring-8, Japan

Ritumeikan University ,Japan / Kyoto University ,Japan

2018 GUMI&MADE

寺阪 歩 1、鈴木 宏輔 1、(平本☆大輔 1)、 辻 成希 2、折笠有基 3、内本

喜晴 4、櫻井 吉晴2、櫻井 浩 1 1群馬大学院理工、2JASRI、3京都大学院人・環、4立命館大生命科学

コンプトン散乱イメージングによる劣化リチウムイオン実電池の非破壊反応分

布解析

第 32 回日本放射光学会年会・放射光科学合同シンポジウム

福岡県福岡市 福岡国際会議場

講演番号 11P075S

2019 年 1 月 11 日発表

Page 44: コンプトン散乱による劣化した...HX-PES)[9]などの多くの手法が用いられている。しかしこれらの手法はせいぜ い~数keV の電磁波で測定しているため、実電池を測定するには透過能が足り

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謝辞

本研究の実験、解析を進める上で大変多くの御指導と御鞭撻を賜り、また、本

論文において始終適切なご指導を頂きました、群馬大学理工学府櫻井浩教授に

心より感謝の意を表し、厚く御礼申し上げます。

本研究において、始終適切な御指導と御鞭撻を賜りました、群馬大学理工学府

鈴木宏輔助教授に心より感謝の意を表し、厚く御礼申し上げます。

本研究において、多くの御指導と御鞭撻を賜りました群馬大学理工学府伊藤正

久教授、古澤伸一准教授、後藤民浩准教授に心より感謝の意を表し、厚く御礼

申し上げます。

本研究について、多くの有益な助言と御指導を頂きました、星和志研究員に深

く感謝いたします。

実験を行った SPring-8 BL08W の担当者である辻成希先生と櫻井吉晴先生には

大変多くの御協力と御助言を賜りました。ここに厚く御礼申し上げます。

最後に、日頃より多くの御協力と激励を頂きました群馬大学理工学府櫻井浩研

究室、伊藤正久研究室、古澤伸一研究室、後藤民浩研究室の皆様に心から御礼

申し上げます。

平成 31 年 3 月 4 日

群馬大学 理工学府 理工学専攻

電子情報・数理教育プログラム

櫻井研究室

修士 2 年 寺阪 歩