~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ...

33
患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授 和田仁孝

Upload: others

Post on 11-Jul-2020

3 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~

2017.02.15. 東京都研修会

早稲田大学大学院法務研究科教授 和田仁孝

Page 2: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

対話とは何か

Page 3: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

自己循環としての対話

相手と自分の対話?

自分の中での認知の変容過程でもある

・相手の語り

・事故の語り

⇒いずれも自己の認知変容の契機・素材

Page 4: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

理論基盤としての社会構成主義

社会構成主義

Narrative based Medicine

Narrative Therapy

Narrative Mediation

=現実(Reality)は、認知的

に構成される。

=媒介としてのナラティヴ

Page 5: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

ナラティヴと「ものの見方」

言葉

出来事

ナラティヴを通して解釈された「現実」

社会構成主義

ナラテイヴ

世界

認知フレーム

Page 6: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授
Page 7: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

範型的ナラティヴと「現実」

医療

の物語

法律の物語

被害の物語

喪失の

物語 範型的ナラティヴ

Page 8: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

病院職員の

親切な対応

点滴注射の針入れミス

いいですよ

大丈夫

何でこんな

ミスするの!

病院職員の

乱暴な対応

この病院は

信頼できる

この病院は

信頼できない

認知フレームの構築による問題予防

Page 9: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

コンフリクトはなぜ起こるか

験 経

言葉

出来事

事故

ナラティヴを通して解釈された「現実」

社会構成主義

患者のナラティヴ世界

医療者のナラティヴ世界

認知フレーム 認知フレーム

Page 10: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

難しい言葉を分かりやすく?

難しい言葉を分かりやすく

わかりやすい言葉は分かりやすいか?

数字(%)は客観的か?

Page 11: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

コンフリクトの生成(フレームの選択)

問題の認知 (ネーミング)

帰 責 (ブレーミング)

対立の表出 (クレーミング)

潜在

顕在化

表面化した対立

隠れた対立

非日常

混乱

感情

Page 12: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

コンフリクトの重層構造

争い

不満・怒り

違和感・疑問

遍在的認知差異

顕在

潜在 医療メディエーション

賠償・示談交渉

メディエーションの範囲外

医療メディエーション

医療メディエーション

医療メディエーション

Page 13: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

IPI分析

Page 14: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

Harvard Law School

Program on Negotiation

交渉と紛争解決についての実践モデル開発

Getting to Yes (『ハーバード流交渉術』)

紛争のIPI分析手法 ⇒心理学、社会学、ゲーム理論、文化論

様々な紛争領域(外交、ビジネス、民事紛争)

に適用可能なモデル

Page 15: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

IPI分析モデル

表面化した多様な対立点

(事実主張//要求主張//感情)

潜在した不可視の欲求

Harvard Law School

Program on Negotiation

Getting to Yes by Fisher & Ury

ポジション

インタレスト

ポジション

インタレスト

イシュー

争 点

患者側 医療側

イシュー

イシュー

Page 16: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

対話の技法

Page 17: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

コンフリクト状況の特徴

1.怒りは二次的感情である。

2.表面の言葉に反応するのでなく、心情を

受け止め、ケアの問いを返す。

3.トラブル時には情報が貧困

⇒疑念、人格攻撃

※情報共有の促進

Page 18: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

紛争時の応答パターン:AEIOU

Attacking (攻撃)

Evading (回避)

Informing (情報伝達)

Opening (相手の心を開く)

Uniting (共通基盤の形成)

ex. 薬の効果はすぐには表れませよ。

©早稲田大学紛争交渉研究所和田仁孝&中西

Page 19: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

アタッキングにならないために

不安・不満⇒患者はガードを上げている =informing が attacking に解釈される

まずガードを下げてもらう ・感情の受止め

・問いによる関心の表示

・説明への導入

その上で説明

=informingとして受止められる

Page 20: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

質問技法

「開かれた質問」

答えがひとまとまりのストーリーになる

例:「どんな状況ですか?」

「何があったか詳しく聞かせていただけますか?

「閉ざされた質問」

答えが、yes/no や単純な言葉になる

例:「点滴はいやだったんですね」

「それはいつのことですか?」

Page 21: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

質問の特徴と効果

開かれた質問

・苦情者に言い分を自由にいうことの満足感

・話すことで苦情者自身が見方を整理、気づき

・十分な情報が入手できる

閉ざされた質問 ・聞き手の枠組みの押しつけになる(尋問型)

・苦情者に話を聞いてくれないとの不満感

・ただし正確な情報の入手が可能

*初期段階では開かれた質問が有効

*状況に応じた使い分けが必要

Page 22: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

言い換えフィードバック

語り手の言ったフレーズや重要な言葉を反復し

たり内容を変えずに言い換えて返し、受け止め

ていることを示す

*内容の「受け止め」であって、同意でないことに注意

効果

語り手には聴いてもらった充足感を与え

ながら、中立性を維持できる

Page 23: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

言い換えフィードバックの例

さっと部屋へ来て、「どうですか?」と聞いて、私が「いいですけど・・・」と次を言おうとしたら、もう先生は出て行っちゃったんです。

(話し手の言葉をそのまま使用)

「いいですけど・・・」と言っただけで、先生は出ていってしまったんですね。

(話し手の意図に沿いつつ自分の言葉で言い換え)

まだ言おうとしているのに、先生は出ていってしまったの

ですね。

Page 24: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

感情フィードバック 語り手の言葉の中に、あるいは語り方の中に潜んでいる感情を受け止め、これを言葉にして返す

表層の感情をそのまま返す場合:直接的感情反映

深層の感情を見いだし返す場合:深層感情反映

効果 感情を傾聴、受容しているというメッセージ

尊重・共感の支えによる昇華

Cf. 「言い換えフィードバック」は語りの事実内容の受け止め

「感情フィードバック」は語りに含まれる感情の受け止め

Page 25: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

リフレイミング

リフレイミング

語り手のフレーズの中に含まれるネガティブな言葉を肯定的な表現に変換したり、中立的な概念で置き変えることで、問題のフレイムの変換を促す。

効果

・「人」と「問題」の切り離し

・回顧的・過去志向的問題設定から将来志向的問題設定へ

・Position から Interest への焦点移行

Page 26: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

リフレイミングの例

語り手の語り

あの先生は無責任で、毎日きちんと決まった時間に診

に来てくれたことがないんです」

反転

「毎日きちんと回診してくれたら 納得がいくのですね」

中立化

「毎日きちんと回診があることが、あなたにとって大切

なんですね」

cf. 「言い換えフィードバック」の場合

「毎日決まった時間に来てくれないんですね」

Page 27: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

事故と当事者の想い

Page 28: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

(医療過誤で息子さんを亡くし 本人訴訟で勝訴した佐々木孝子さんの手記) もし、医療側が真摯に対応してくれていたら きちんと向き合ってくれていたら だれも訴訟に訴えたいとは思っていませんでした 私たちが求めているのは 法による解決や賠償金ではなく 事故にかかわった医療者が、人間として ごく自然に対応してくれることなのです

それが満たされないとき、私たちがそうであったように訴訟に訴えるしかないのです しかしそこで得られるものは少なく 満たされないまま、さらに多くを喪うのです

Page 29: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

Copy Right: Y. WADA

Grief としての事故体験

医療事故紛争

人身被害=根源にある感情的問題

⇒受苦体験の克服過程としての事故後行動

⇒「怒り=表層の主張」による支え

⇒「真相を知る」ことの意義

⇒グリーフ・ケアとしての事故対応

被害者とは誰か?

Page 30: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

医療事故当事者の心理 原因帰属・・・外的帰属と内的帰属

他者行為の原因帰属⇒通常は内的帰属優位

自己行為の原因帰属⇒通常は外的帰属優位

but…医療事故の場合:内的帰属>外的帰属(行為の非対称性)

罪悪感=自罰意識

自己攻撃⇒投影(他者からの攻撃予期)⇒他者への攻撃感情

逃避

自罰 補償行為=謝罪から自殺まで

自己効力感の喪失:離職

Page 31: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

事故当事者救済の要件

認知レベルの変容:内的帰属から外的帰属へ

事故という現象の理解と受容れ

情動レベルの変容:罪悪感からの解放

同僚:支援欲求への応答(投影の反転)⇒自己支援

患者側:許し=「謝罪される側」から「謝罪する側」への共感

自己効力感の回復

言語的説得、代理経験、創造的体験、達成経験

Page 32: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

患者(被害者)からの支援

謝罪と許しの実効化

加害者から被害者への共感=自罰意識へ

被害者から加害者への共感=許しの実現

⇒被害者からの共感提供の場の設定

そのために、被害者へのケアと対話(メディエーション)

許しとケア

被害者への共感と救いは、医療者をも救う

被害者支援と医療者支援の円環的構造

Page 33: ~円滑なコミュニケーション~ · 患者家族とのトラブルを防ぐ ~円滑なコミュニケーション~ 2017.02.15. 東京都研修会 早稲田大学大学院法務研究科教授

患者側

家族側

メディエーター 中立的介入

医療者側

対立する紛争当事者たちに対し、中立第三者としての メディエーターが当事者をエンパワーすることで対話 を促進し自分たちの手で合意形成へと至らせるしくみ

対話

援助

信頼 信頼

援助