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Kobe University Repository : Kernel タイトル Title 兵庫県下に於ける院内異状死並びに院外心肺停止症例の取り扱いに関 する研究調査 現状と問題点、改善策の提言(第1報) (平成17年度 社団法人神緑会事業報告3)(平成17年度社団法人神緑会事業報告3) 著者 Author(s) 上野, 易弘 / 菱田, / 長崎, 掲載誌・巻号・ページ Citation 神戸大学医学部神緑会学術誌,22:17-20 刊行日 Issue date 2006-08 資源タイプ Resource Type Departmental Bulletin Paper / 紀要論文 版区分 Resource Version publisher 権利 Rights DOI JaLCDOI 10.24546/81007912 URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81007912 PDF issue: 2021-03-25

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Page 1: Kobe University Repository : Kernel · ,改 善策の提言一(第1報) 神戸大学大学院医学系研究科環境応答医学講座法医学分野 上 野 易 弘(59年 卒) 兵庫医科大学法医学講座

Kobe University Repository : Kernel

タイトルTit le

兵庫県下に於ける院内異状死並びに院外心肺停止症例の取り扱いに関する研究調査 : 現状と問題点、改善策の提言(第1報) (平成17年度社団法人神緑会事業報告3)(平成17年度社団法人神緑会事業報告3)

著者Author(s) 上野, 易弘 / 菱田, 繁 / 長崎, 靖

掲載誌・巻号・ページCitat ion 神戸大学医学部神緑会学術誌,22:17-20

刊行日Issue date 2006-08

資源タイプResource Type Departmental Bullet in Paper / 紀要論文

版区分Resource Version publisher

権利Rights

DOI

JaLCDOI 10.24546/81007912

URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81007912

PDF issue: 2021-03-25

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神緑会学術誌 第22巻2006年

平成17年 度 社 団法人神緑 会事業報告(3)

兵庫県下 に於 ける院内異状死並びに院外心肺停止症例 の

取 り扱 いに関する研 究調査一現状 と問題点

,改 善策の提言一(第1報)

神戸大学大学院医学系研究科環境応答医学講座法医学分野 上 野 易 弘(59年 卒)

兵庫医科大学法医学講座 菱 田 繁(38年 卒)

事業協力者 兵庫県健康生活部健康局医務課主幹兼監察医務イ系長 長W7 靖

1.始 め に

近年,全 国的に異状死が増加傾向にあ

る.兵 庫県も例外ではな く,兵 庫県警の

異状死体取扱件数は一貰 して増加 し続 け

てお り,平 成17年 には6154件 に達 してい

る.(図1)

ところで,異 状死の現行法上の法的定

義はない.法 医学関係者に より作成 され

た,平 成2年 度厚生省研究班 「確実に診

断 された内因性疾患で死亡 したことが明

らか な死 体以外の 全ての死体」 との定

義P並 びに日本法医学会 「異状死」 ガイ

ドライン2)(平 成6年)に 従えば,確 実に

病死 であ ると診 断 し得た例以外の 院外

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監察医務区域内異状死体数

6154

図1

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[:]監 察区域内異状死体

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十 兵庫県下異状死体

平成13年 平成14年 平成15年 平成16年 平成17年

註1監 察医務区域内異状死体には院外心肺停止症例 を含む。

註2監 察医務区域は西区 ・北区を除 く神戸市内である。

兵庫 県に於 ける異状死体数並びに監察医務区域内異状死体数

院外心肺停止症例数(2001年 ~2005年)

(来院時)心 肺停止(CPAOA)例 を 「異状死体」とす

る事に異論はないであろう.

一方,院 内異状死(医 療行為関連死)の 範囲は,日

本法医学会の指針2)と 臨床系医学会の見解 とは必ず し

も一致 してお らず,外 科系学会は重大 な医療過誤や明

らかな医療過誤の存在す る死亡を警察への届出対象と

するとの指針 を公表 している.

院内異状死(医 療行為関連死)並 びに院外心肺停LL

症例 をどの範囲 まで異状死 とするかに関わ らず,こ れ

らの死因 を明 らか にす ること並 びに院内異状死にあっ

ては死亡原因を分析 し,死 亡 と医療行為との関連の有

無を公正且つ客観的に判断することは,医 療機関 ・患

者 双方 の人権擁護,医 療事故 再発防止 のみ ならず医

学 ・医療の質の向上 に不可欠であ り,医 療 に対する国

民の信頼性 を高める事に繋がるものである,そ の様 な

科学的 ・客観的な死因究明制度を構築する基礎資料 と

して,院 内異状死並びに院外心肺停止症例取 り扱 い実

態の把握が必要である.

本調査研究では,兵 庫県下のうち監察医解剖により

死因が正確 に診断されている神戸市内に於ける院外心

肺停1L症 例の現状を調査 し,

いて考察 した.

問題点並びに改善策につ

2.対 象 及 び 方 法

兵庫県監察医の死因統計3)を 基に,平 成13年(2001

年)か ら平成17年(2005年)ま での神戸市内(西 区 ・

北区 を除 く.以 下,神 戸市とのみ記載)に 於 ける異状

死体数並びに院外(来 院時)心 肺停止症例(CPAOA)

数の推移 とその内訳を分析 した.

3.結 果

1)神 戸市における年間異状死体数 と院外心肺停止症

例数

兵庫県監察医が平成13年 か ら平成17年 までの5年 間

に検案 した,神 戸市における異状死体(原 則 として交

通事故死 を除 く)の 総数は5911例 であ り,そ の うち,

医療機 関で心肺 蘇生 が実 施 され たCPAOA症 例 は

1683例(28%)で あった.

5年 間の年次推移を図1に 示す.神 戸市内の異状死

体数は緩やかな増加傾向にあ り,平 成17年 には年間約

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1300件 に達 した,一 方,CPAOA数 は年 間320~350件

程度で推移 し,各 年の異状死体に占める割合は3割 弱

であった.

2)院 外心肺停止症例の搬送先病院

搬送先病院別CPAOA数(最 近5年 間の合計)は,

神戸市立中央市民病院700件(41.6%),神 戸大学医学

部附属病院447例(26.6%),兵 庫県災害医療センター

240件(14.3%)で,こ の3医 療機関で全体の8割 強を

占めていた.そ の他,神 戸徳州会病院(102件),神 戸

拠 斉会病院(58件)が 多かった.平 成15年8月 に開設

された兵庫 県災害医療セ ンターは,平 成16年 には104

件,17年 には105件 のCPAOA患 者を受け入れてお り,

神戸市立中央市民病院と略同数を受け入れる中核救急

医療機関 となった.

3)異 状死体 と院外心肺停止症例の詳細

異状死体総数5911例 の性別は,男 性3784人(64%),

女性2125人(36%),性 別不詳2例(白 骨)で あった.

一方,CPAOA例 の性別は,男 性1040人(62%),女 性

643人(38%)で あ り,異 状死体全体の性別比 と差異は

見 られなかった.

全異状死体 とCPAOA例 の性別年齢構 成 を図2に

示す.年 齢 は0歳 か ら102歳 まで分布 していたが,全

異状死 体,CPAOA例 共 に50歳 代か ら80歳 代迄 が多

かった、年齢構成は男性 と女性では異な り,全 異状死

体 では男性は50歳 代か ら70歳 代の中高年齢層 の割合が

高 く,計64%を 占めていたのに対 して,女 性では60歳

代 か ら80歳 代 の 高齢 者 が 計69%と 高 い.一 方,

CPAOA例 の男性では60歳 代 と70歳代 を合 わぜて全体

の46%を 占めるが,50歳 代 と80歳 代 も約15%ず つあ る.

女性 では70歳 代 と80歳 代 の高齢者 が計54%と 高かっ

た.即 ち,何 れ も男性 よりも女性 に高齢者が多い.又,

全異状死体とCPAOA例 の比較では,CPAOA例 は男

性 ・女性共に全異状死体 よ りも高齢者の比率が高 く,

特に男性では10歳 程度高齢の傾向がみられた.こ のよ

うな年齢分布の傾向はr病 死及び自然死 に限って も同

じであった,

全 異状死体並 びにCPAOA例 に於 ける死 因の種類

を図3に 示す.死 因の種類の内訳 は,全 異状死体では,

病死及び 自然死3414例(57.8%),自 殺1354例(22、9%),

溺水245例(4,1%),不 詳 の死242例(4.1%),そ の他

不詳の外 因199例(3.4%),交 通事故133例(2.3%),

窒息115例(1.9%)の 順 に多かった.CPAOA例 では,

病死及び 自然死1063例(63.2%),自 殺221例(13.1%),

交通事故99例(5.9%),溺 水72例(4.3%〉,窒 息65例

(3.9%),不 詳の死57例(3.4%)の 順に多かった.尚,

CPAOA例 の溺水は殆 どが入浴死(浴 槽内溺死),窒 息

は殆 どが食物又は嘔吐物の誤嚥である.

全異状死体 ・CPAOA例 の何れに於 いて も病死及び

自然死の割合が約6割 を占めて最 も高 く,次 いで 自殺

の割合が高い ことが共通 している.CPAOA例 では病

死 の他,交 通事故と窒息の割合が全異状死体での割合

より高 く,結 果 として交通事故と窒息が含 まれる不慮

3784人

全 異 状 死 体

2125人

1040人

院外 心肺 停 止 症例

643人

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註1監 察医務区域は西区・北区を除く神戸市内である0

註2全 異状死体は性別不詳2例 を除く。

図2監 察医務区域内の全異状死体 と院外心肺停止症例の年齢分布(2001年 ~2005年 の合計)

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神緑会学術誌 第22巻2006年

図3監 察医務区域内の全異状死体 と院外心肺停止症例の死因の種類(2001年 ~2005年 の合計)

の外 因死 の割合 が高かった(全 異状死 体で11.9%,

CPAOA例 で18.5%).一 方,自 殺 の割合 はCPAOA

例では全異状死体での割合 の半分強であった.

4.考 察

1)院 外(来 院時)心 肺停止症例の現状

神戸市(西 区 ・北区を除 く)に おける院外(来 院時)

心肺停止症例数は,毎 年全異状死体の約3割 であった、

一方 ,兵 庫県内の 院外心肺 停止症例数 は平成15年 は

3924件,平 成16年 は3882件(兵 庫県企画管理部防災局

消防課調べ)で あ り,県 下異状死体の7割 以上 に相当

す る.従 って,神 戸市以外では院外心肺停止症例の少

な くとも半数以上は異状死体 として届け出られていな

いと推測 される。

全異状死体 ・院外心肺停止症例に共通 して,自 殺の

割合が病死 に次いで高いが,院 外心肺停止症例での 自

殺の割合(13%)は 全異状死体 での割合(23%)よ り

もかな り低い.自 殺では,死 体発見時に明らかに救命

不能 と容易 に判断出来ることが多 く,救 急隊が死体 を

病院へ搬送 しない為,院 外心肺停止症例には自殺が少

な くなると考えられる.

年齢分布 についても,院 外心肺停止症例では,高 齢

者 よりも中年齢層が多い 自殺者 の占める割合 が全異状

死体での割合 よりもかな り低い為,年 齢分布 が全異状

死体 よりも高齢 に偏 っていると考え られる.

死因の種類では,院 外心肺停止症例では交通事故の

割合が全異状死体に於 ける交通事故の割合の約2倍 で

あった.神 戸市内の主要救急病 院は,交 通事故に よる

患者が来院時心肺停止であ り死 因不明の場合,死 亡診

断書を発行 しない為,監 察医の検案に委ね られる場合

が少な くない.そ の為,監 察医検案の院外心肺停止症

例 に於いて交通事故の割合が全異状死体 よ りも高 くな

ると考えられる.

院外心肺停止症例に於いて窒息の割合が高いのは,

食物 ・嘔吐物誤嚥事故の際に周 りに居 た家族等が救急

通報する為 と推測 される,

この様 に,院 外心肺停止症例には,一 般の異状死体

とは異なる傾向が認められた.救 急医 には死因の判断

が困難な事例 も,監 察医制度が存在す る神戸市では異

状死体 として届け出ることにより,監 察医解剖による

正確 な死因診断が可能となっている.一 方.監 察医制

度のない地域では,死 因不明の異状死体 として届け出

られた として も,警 察の検視 によ り事件性がない と判

断 された例の大半は剖検 されずに,死 因が不正確 なま

ま死体検案書が発行 されてい ると考えられる.

兵庫県下で発生 した院内異状死(医 療行為関連死)

の総数は公表されていない為,実 態は不明である.司

法解剖や行政解剖が行 われた事例は当該の法医学機関

で把握可能であるが,病 理解剖 された事例や遺族が解

剖 を拒んだ事例等 は,情 報を得 る手段が無い,法 医解

剖 された事例のみの印象に基づ くと,や は り手術や麻

酔関連の医療事故が多 く,侵 襲の大 きい医療行為は生

命への危険度 も高 く,医 療行為 関連死 とな り易いと考

えられる.

2)問 題点

院外心肺停止症例の取 り扱いに於ける問題点は,我

が国では実質的な監察医制度施行地域四都市(東 京 ・

大阪 ・神戸 ・横浜)を 除いて,法 医解剖等の剖検 によ

る異状死体の死因究明は積極 的には行われておらず,

司法解剖の対象にならない異状死体の殆 どは剖検 され

ず,死 因が不明確 なまま処理 されてい ることである。

院内異状死に於いても,明 らかな医療過誤や医療過

誤の疑いがある事例 は司法解剖が行われるが,そ うで

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ない事例は,医 療機関或いは遺族が解剖による死因解

明 を求めない限 り,剖検 されずに処理される.し か し,

その様 な曖昧な決着は,医 事紛争の火種を残す ことに

繋が りかねない,入 院患者の急死 に際 し,剖 検 によ り

死 因を明 らかに しなかった為,治 療の妥当性を巡って

民事訴訟 となった事件では,条 件附なが ら死因解明義

務の存在 を認めた高裁判決(東 京高裁,平 成10年2月

25日 判決)が 出されている,今 後,遺 族の権利意識の

更 なる高 まりに伴 い,院 内異状死並 びに院外1し・肺停止

症例について解剖 による死 因究明の必要性が高 まるこ

とは疑いの余地がない、

幸い,神 戸市は監察医制度が施行 されている為,異

状死体 として届け られた院内異状死 ・院外心肺停止症

例は,司 法解剖 となる例以外 で も,検 案で死因が判断

出来ない例には行政解剖が行われてお り,現 行死体検

案制度下で死因究明制度が有効に機能 している と言え

る.換 言すれば,我 が国では,医 療機関が 日常診療に

於いて対面す る異状死は,監 察医制度を維持 している

四都市でのみ正確 な死因究明が行 われているに過 ぎな

い.

3)改 善策

我が国の異状死体検案制度の現状 と問題点を指摘 し

た多数の調査報告4)5)で繰 り返 し指摘 された通 り,院

外心肺停止症例等の異状死体の死因解明は精度の高い

解剖 によってのみ可能であ り,代替可能な方法はない,

現行死体検案制度下では,監 察医制度のある地域 では

人員 と検査態勢の充実を図ること,監 察医制度の無い

地域では,承 諾解剖制度の充実や,画 像診断等 を活用

する死体検案制度 を実現 させ ることが必要である.と

院内異状死(医 療行為関連死)に ついても,そ の中

の予期 しない死亡は異状死 として警察に届け出,法 医

解剖 を実施することが,死 因究明 ・因果 関係の判断並

びに遺族の疑念解消 について中立性 を確保出来る,現

在最 も適切 な対応 である6)が,先 進性 ・専門性が高い

医療行為の場合,法 医学者単独では,医 療行為に伴 う

危険や予見可否判断の妥当性や過誤 ・死 因との因果関

係の有無等の判断が困難な事例があることも事実であ

る.

医療関連死 に関 しては,刑事責任追及とは無関係に,

医療事故の原 因究明と再発防止策の検討,更 には中立

的第三者機 関創設の可能性の検討を 目的 として,平 成

17年 度 よ り厚生労働 省補助金事業 「診療行為に関連 し

た死亡の調査分析モデル事業」が開始 された.当 初 は,

警察 ではな く第三者機関に届け出ることによって死亡

と診療行為 との関係 を調査 しようとした事業であった

が,実 際には,現 行 法令下で実施される事業であ り,

これまでの実施事例は,異 状死体 として届け出られ,

警察による検視の後に本事業による解剖が行われてお

り,警 察 との関係 を断ち切ることが出来ない状態であ

る.

兵庫県では,現 在 の所,西 区と北区を除いた神戸市

内のみをモデル事業 の対象地域 としている,事 業開始

後,病 院や警察から毎月2件 程度の相談があるものの,

条件等が整わず,そ の多 くは監察医による行政解剖が

行われてお り,平 成18年5月 末時点で本事業での実施

例は1件 のみである.

本モデル事業の成否は,医 療機関 ・遺族の双方が是

認出来る,医 学的妥 当性 と客観性,公 平性 を備 えた調

査結果 を示 せるか否 かに掛 かっている.そ れは更に

は,第 三者機関創設 と医師法第21条 「異状死の警察へ

の届け出」制度改正の重要な鍵 となるであろう.

文 献

1>若 杉長英他(1991):異 状死体の定義 と我が国の検

案体制,厚 生省平成2年 度事業報告書

2)日 本法医学会(1994):日 本法医学会 「異状死」ガ

イ ドライン 日本法医学雑誌48(5),357-358

3)兵 庫県健康生活部健康局医務課(2001~2005):兵

庫県監察医務死因調査統計年報,各 年次版,神 戸

4)福 永龍繁 ・上野易弘 ・中川加奈子他(1988):兵 庫

県下における異状死体の検案結果(1986年)一 監察

医業務区域 とその他の区域 との比較一 日本法医学

P志,42,431-442

5)溝 井泰彦 ・柳田純一 ・佐藤喜宣他(1994):日 本の

死因調 査の現状 と問題 点 日本 医事新報,3639,

28-34

6)菱 田繁(2005):臨 床医のための法医学を目指 して

一医療機関が関与 した異状死の取扱い一 兵庫医科

大学医学会雑誌,30(3),213-229

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