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28 テレコミュニケーション_August 2019 インタビュー Interview 荒木誠 Makoto Araki 情報・通信の事業統合は必然 ローカル 5G には多くの可能性 関西電力グループの「情報」事業を統合したケイ・オプティコムは、 「オプテージ」として新たなスタートを切った。経営戦略の策定などの上流工程から コンサル部隊が関わり、「情報」と「通信」を一体提供することにより、 「マストなソリューションとして横展開できる成功事例を増やしていく」と語る荒木社長。 ローカル 5G をはじめとした 5G 関連ビジネスにも意欲を燃やす。 写真:近藤宏樹 聞き手◎太田智晴 (本誌編集長) オプテージ 代表取締役社長

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Page 1: Makoto Araki 情報・通信の事業統合は必然 ローカル5Gには多く … · 2019-10-02 · インタビュー Interview 荒木誠氏 Makoto Araki 情報・通信の事業統合は必然

28 テレコミュニケーション_August 2019

インタビュー Interview

荒木誠氏Makoto Araki

情報・通信の事業統合は必然ローカル5Gには多くの可能性関西電力グループの「情報」事業を統合したケイ・オプティコムは、「オプテージ」として新たなスタートを切った。経営戦略の策定などの上流工程からコンサル部隊が関わり、「情報」と「通信」を一体提供することにより、「マストなソリューションとして横展開できる成功事例を増やしていく」と語る荒木社長。ローカル5Gをはじめとした5G関連ビジネスにも意欲を燃やす。

写真:近藤宏樹

聞き手◎太田智晴(本誌編集長)

オプテージ 代表取締役社長

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● ケイ・オプティコムは今年4月1日、「オプテージ」へと社名変更。関西電力グループのSI会社、関電システムソリューションズ(KSSOL)の情報通信インフラ事業と一般企業・自治体向けのシステム開発事業、さらに関西電力が保有する社内LANなどの通信サービス提供機能も統合し、

「情報」と「通信」を一体提供できる組織へ生まれ変わりましたね。荒木 我々は回線ビジネスを中心にやってきましたが、関西のFTTH市場はほぼ飽和し、現在は伸び率が緩やかになっている状態です。さらなる成長を目指すためには、もっと高いレイヤーへビジネスを広げていかなければならないという思いが元 あ々りました。 今回の組織再編には、2つの目的があります。1つは、グループ全体の設備コスト低減と競争力強化です。グループ全体を見渡すと、従来は各社がそれぞれ大量のサーバーファームを持っているという状態でした。ネットワークもそうです。電力保安通信といいますが、関西電力には電力設備を安定運用するため、独自仕様のネットワークがあります。この電力保安通信も独自仕様からIPへの移行が進んでおり、これも別々に保有するのは「ナンセンスだよね」と。そこでオプテージが全部引き受け、グループ全体に提供する体制に変えました。 こうすることで、関西電力からすれば資産をオフバランスでき、サーバーやネットワークなどを安く利用できるようになります。我々からしても、関西電力というユーザーが乗ることで、グループ外へ販売する際の原価を下げ

ることができ、競争力強化につながります。

● 2つめの目的は、情報通信事業のさらなる発展ですね。荒木 オプテージにとって、より重要なのがこの2つめの目的になります。 オンプレからクラウドへの移行、AIやIoTなどのデジタル技術の進展、そして企業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)ニーズの高まりといった法人市場の動きを考えると、SIとネットワークを別々に提供するというのは、時代に合っていません。今回の事業統合は必然でした。「情報」と「通信」を一体的に提供し、お客さまのDXを支援していくことで、さらなる成長を遂げられると考えています。 統合により、KSSOLからは外販のSI部隊、サーバーをはじめとする基盤系部隊、セキュリティ部隊などが来ましたが、例えばセキュリティ部隊には技術力がかなり高いメンバーが揃っています。電力会社は国から重要インフラ事業者に指定されていますが、彼らは関西電力のセキュリティをしっかり守ってきました。 従業員規模で言いますと、従来約1450名だったのが、約2600名まで増えました。KSSOLから約850名、関西電力からも約300名が加わっています。

● スローガンも一新しました。荒木 ケイ・オプティコム時代は「光をもっと、あなたのそばに。」だったコーポレートスローガンを、オプテージでは「What’s next?」へ変えました。 FTTH は「e o 光 」、MVNO は

「mineo」とコンシューマー向けにはサービスブランドのほうを強く打ち出

してきましたから、会社名が変わっても大きな影響はありません。しかし法人向けは違います。「オプテージ」に変わったことで、お客さまにとっては何が変わるのか─。ケイ・オプティコムやKSSOLではなく、オプテージが目指すものを社員1人ひとりがお客さまにしっかり答えられるよう、企業理念等を刷新するとともに、社員の意識を変えるインナーブランディングの意味も込めて、「What’s next?」をスローガンに掲げました。 社名変更には、Webサイトのドメイン変更だったり、メールアドレスの変更だったり、結構大変なオーバーヘッドがかかります。それでも社名変更に踏み込んだのは、従来の回線ビジネスから一皮むいて、「我々は次の時代、次のステージに向け挑戦する」という意思をお客さまに示すと同時に、社員にも新たなスタート地点に立ってほしかったからです。

ベターではなくマストを

● 具体的に今、法人向けにどんな「What’s next?」が進行していますか。荒木 まず取り組んだのが「クロスセル営業」です。統合の話は昨年から検討されていましたので、昨年暮れから互いの商材を勉強して一緒に提案に行く活動をスタートしています。 中堅企業の場合、システム担当とネットワーク担当が同じというケースが多いですから、「ワンストップで話ができて、ありがたい」といった声をいただいています。 2つめに取り組んだのが、互いの商材を組み合わせた新商品の開発です。一例がセキュリティです。KSSOL

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インタビュー Interview

は、セキュリティのコンサルティングや標的型メール訓練、脆弱性診断などが得意です。一方、ケイ・オプティコムには関西2府4県のうち、3つの自治体のセキュリティクラウドをお引き受けしている実績があります。こうした互いの強みを掛け算して、企業内のセキュリティをフルサポートするソリューションの提案を始めており、すでに多くの商談が進んでいます。 このほかにもKSSOLが提供していたOffice 365やPCの運用管理と、mineoの閉域接続サービスを組み合わせたテレワークパッケージサービスだったり、互いが持っていた商材をパッケージングするだけでも「使いたい」という声をお客さまから頂戴します。「いろいろできるね」という実感を掴み始めているのが最近の状況です。

●「情報」と「通信」の一体提供という成長戦略に、確かな手応えを得ているわけですね。荒木 ええ。どんな掛け算ができるかというと要素は2つあって、1つはサービス領域です。サービス領域については本当に全部揃いました。コンサルから運用、アウトソーシング、データセンターまで、幅広いサービス領域をワンストップで提供可能になっています。もう1つは、課題抽出から戦略立案、システム構築・運用を行い、さらに改善のサイクルを一緒に回していくというお客さまとの共創です。 「この2つを掛け合わせてワンストップで提供できます」と「ONE STOP X SOLUTION」という名前を付けて、

お客さまに説明しているところです。 ビジネスコンサル部隊については、私が言うのもおかしいですが、非常に優秀なメンバーが揃っています。元 、々外資コンサルティングファームや監査法人などにいた約30名の部隊で、公認会計士の資格を持ったメンバーもいます。経営戦略や事業戦略の策定を支援する超上流から現場の運用部隊まで、すべて揃っているのが我々の強みです。

● IoTについては、どんな取り組みを行っていますか。荒木 例えば、この7月に作業員安全管理支援ソリューション「みまも

りWatch」を発表しました。現場作業員の皮膚温度、心拍、GPS位置情報を腕時計型のウェアラブル端末で取得し、周りの温湿度情報を加えてLoRaWANで送信。最新のWBGT値(暑さ指数)と熱中症危険度を判定し、危険があればGPS情報をもとに管理者が駆け付けられるソリューションです。 これは、関西電力病院の医師の監修のもと、ある会社さんの課題解決のために開発したソリューションです。熱中症対策は今、マストになってきています。こういう形でお客さまの課題を一緒に解決し、その成功事例を横展開していく─。ベター(あれば便利)というより、マスト(なくてはならない)なソリューションを作って横

展開していくことを目指しています。

5Gに3つの観点で挑む

● 成長戦略として、5G関連事業に注力する方針も打ち出しました。荒木 5Gについては、3つの観点があると思っています。1つはローカル5Gです。我々が 5Gの全国サービスを提供するわけにはいきませんから、ローカル5Gを提供しようと考えています。 ローカル5Gであれば、Wi-Fiなどとは異なり、ライセンスバンドを用いて、独立したネットワークを柔軟に作ることができます。例えば、自治体と一緒

にスマートシティに活用したり、工場内に導入してスマートファクトリーを実現したり、いろいろな使い方ができると思っています。配

線が難しいマンション向けブロードバンドサービスのラストアクセスとして、ローカル5Gを活用することも考えられます。

● 4月に開催した事業説明会では、ローカル 5G の開始時期について

「2020年頃」と説明されました。ローカル5Gの免許申請は、まず年内に28GHz帯から始まる予定ですが、来年の4.5GHz帯の解禁を待って開始する計画ですか。また、自営BWA等のプライベートLTEと組み合わせたノンスタンドアロンではなく、ローカル5Gのみのスタンドアロンでの開始を考えているのですか。荒木 それらについては今、検討中です。まずは近 、々ローカル5Gの実証実験を行いたいと考えています。

“回線ビジネスから一皮むき次のステージに挑戦する

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 具体的には言えませんが、工場、防災、エネルギーなどのお客さまと、すでにローカル5Gに関する商談が始まっており、ローカル5Gにはいろいろな可能性があると期待しています。

● 5G関連の2つめの取り組みは何でしょうか。荒木 5Gインフラの構築支援です。大手キャリアにインフラシェアリングの提案をしているところです。 我々は関西に約33万kmの光ファイバーを持っていますが、局舎設備についても、かなりの局数を有しており、24時間365日の保守運用体制もあります。さらに、オプテージの無線鉄塔に加えて、電柱や送電鉄塔などのロケーションについても関西電力と協力して提供できます。

● ミリ波を利用する5Gでは、従来と比べて大量の基地局が必要になると言われていますから、大きなビジネスになりそうですね。荒木 「5Gが登場すると、FTTHは不要になるのでは」とおっしゃる方がいますが、「FTTHは存在し続ける」ともちろん私は考えています。世の中にモバイル5Gが広がっても、データ容量は無制限だけど料金的にハイグレードとなれば、家でWi-Fiのオフロードを利用する人など、光の需要はまだまだあると思っています。また、5Gの普及・整備には光ファイバーが欠かせず、モバイルのバックホールを支える存在として引き続き有効活用できます。いずれにせよ光のインフラが絶対に必要ということに関しては確信していますから、関西では負けずに光インフラを提供していこうと考えています。

 5Gの3つめの観点は、mineoでの5Gサービスの提供です。ただ、これに関しては、MNOからの提供形態が決まっていませんので今後の話ですね。

法人ソリューションを7倍に

● MNOの料金値下げ、楽天のMNO参入と、MVNOにとって厳しい競争環境に突入しますが、mineoはどう勝負しますか。荒木 “乗り換え合戦”とは違う土俵で勝負していきます。ユーザーと一緒になって、「mineoが一番だよね」という方を増やしていく作戦です。mineoは、2018 年度のMMD 研究所の「格安SIMサービスの満足度調査」で、顧客総合満足度に加えて、NPS(Net Promoter Score)でも1位を獲得しています。NPSとは「他の人に勧めたいですか」という尺度での評価指標です。 mineoは、ユーザーの方との仲間意識づくりを重視し、ファンサイトの「マイネ王」やオフ会、アンバサダー制度などに熱心に取り組んでいます。競争は厳しいですが、良いサービスをユー

ザーと一緒に共創していきたいと考えています。

● 2016〜2018年に平均250億円だった経常利益を、2019〜2021年に平均 300 億円以上、2028 年に350 億円以上にする経営目標を掲げました。目標達成のカギを握るのは、やはり法人ソリューションですか。荒木 2018年度の売上高2240 億円のうちBtoBは640 億円で、このうちインフラ事業が580億円、SIやクラウドなどのソリューション事業は60 億円でした。この60 億円の売上を、コンサルからアプリケーション、セキュリティなどを組み合わせたONE STOP X SOLUTIONを軸に、2028年までに約7倍の400 億円超に増やすことが最大の注力ポイントです。 前述の通り、「情報」と「通信」が一緒のチームになって、すでに手応えは感じています。あとは、いかにして成功事例をどんどん増やしていくか。上流からお話ししながら、お客さまとも一緒になって、ベターではなくマストなソリューションを作り上げていきます。

p r o f i l e

荒木誠氏(あらき・まこと)

1963 年 2 月生まれ。87 年3月 京都大学大学院 工学研究科情報工学専攻を修了後、同年4月に関西電力入社。2011年12月 関電システムソリューションズ 経営改革推進本部 企画経理部長、12年6月 同社 取締役 経営改革推進本部 副本部長、13年6月 関西電力 経営改革・IT本部 副本部長、15年6月 同社 グループ経営推進本部 副本部長 併任 ケイ・オプティコム 取締役(非常勤)、16年6月 関西電力 執行役員 IT戦略室長、17年6月 ケイ・オプティコム 代表取締役副社長執行役員などを経て、18年6月から現職